本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
(実施形態1)
まず、図1を参照して、本発明の実施形態1に係る農作業支援装置1の構成ならびに処理動作について説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る農作業支援装置を示すブロック図である。農作業支援装置1は、ハードウェア的にはコンピュータのCPU(Central Processing Unit)をはじめとする装置で実現でき、ソフトウェア的にはデータ送受信機能のあるプログラム等によって実現されるが、以下に説明する図1等ではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組み合わせによって様々なかたちで実現できる。ここでは、各機能ブロックの構成を中心として説明する。具体的な処理内容については、構成の説明後に詳述する。
農作業支援装置1は、図1に示すように、通信部1aと、記憶部1bと、演算部1cと、収穫日入力部1dと、表示部1eと、を備えている。農作業支援装置1が対象とする農作物としては、米、野菜、果物などが挙げられる。本実施形態に係る農作業支援装置は、農作業の支援を行うことを主目的としている。
通信部1aは、ネットワークを介して、データベースと相互に通信可能に構成される。具体的には、農作業を支援するために後述する演算部1cの要求に応じて、第一の回帰式、第二の回帰式、測定データ、食味値−食味成分量対応表、食味成分量−測定データ変換表、実施作業一覧表などをデータベースから読み出して取得し、後述する記憶部1bに保存する機能を担っている。ネットワークは、インターネット網でもよく、あるいはLAN(Local Area Network)等の私設通信網、携帯電話網、電話回線網、ISDN(Integrated Services Digital Network)、専用線等の公衆通信網であってもよい。
ここで、図2を参照して、データベースに保存されているデータについて詳細に説明する。図2は、データベースに保存されているデータを示すイメージ図である。データベースは、農作物を取り巻く環境情報である測定データのうち、土中成分情報、気象情報を保存する第1の領域と、農作物を取り巻く環境情報である測定データのうち、生育状況情報を保存する第2の領域と、農作物の各味要素の係数を保存する第3の領域と、農作物の各味要素の食味成分量を算出する第1の回帰式を保存する第4の領域と、農作物の各味要素の食味値を算出する第2の回帰式を保存する第5の領域の、大きく5つの領域に分かれている。本実施形態では図示しないが、後述する、各味要素の食味値−食味成分量対応表、食味成分量−測定データ変換表、実施作業一覧表も、データベースに保存されている。このデータベースを構成するハードウェアとしては、データを記録保存できるものであれば特に制限されず、例えば、ハードディスク等の記録媒体が挙げられる。なお、データベースの設置場所としては、例えば、クラウドネットワーク上やネットワークサーバ上、コンピュータ内等であってもよい。また、場所の表現としては、図2に示したA,Bのような田畑を区別できる識別子であってもよく、緯度や経度であってもよい。さらに、データベースは、1つに集約しなくてもよく、例えば、土中成分情報は畑のセンサ値を保存している自らのデータベースから取得し、気象情報は気象庁のデータベースや畑のセンサ値を保存している自らのデータベースから取得するようにしてもよい。またさらには、データの保存日時の単位としては、1日ごとでもよく、12時間ごとであってもよい。
まず、データベースの第1の領域について詳細に説明する。第1の領域は、図2に示すように、農作業支援を受けたい農作物の場所における、現在に至るまでの測定データを保存している。測定データは、各味要素の食味成分量に影響する環境要因を示すデータであれば特に制限されない。本実施形態では、土中成分情報、気象情報のデータを保存している。土中成分情報としては、カリウム量〔mg/乾土100g〕、アミノ酸量〔mg/乾土100g〕、窒素量〔mg/乾土100g〕、塩分量〔mg/乾土100g〕、水分量〔%〕の計測値が挙げられる。気象情報としては、日照時間〔h〕、夜の平均気温〔℃〕、日中の平均気温〔℃〕、光量〔lx〕、平均気温〔℃〕の計測値が挙げられる。これらのデータは、田畑に設置したセンサや測定器から得た値を保存している。例えば、夜の平均気温は、日没から日の出までの間に1時間ごとに温度計で計測した気温の平均値を保存して得る。これらのデータを積算値として利用するときは、あらかじめ決めておいた積算の起点時から食味成分量推測時までのデータの和を計算する。積算の起点時としては、播種日、発芽日、田植え日などが挙げられる。例えば、図2に示す9/15にAの場所で生育している米の食味成分量を推測したい場合を考える。田植え日の5/10を計算の起点日とすると、田植え日の5/10から食味成分量を推測する当日の9/15までの場所Aの土中成分情報と気象情報を取得する。積算値は、5/10から9/15までの各測定値の和をそれぞれ計算することで求まる。
続いて、データベースの第2の領域について、詳細に説明する。第2の領域は、図2に示すように、場所毎に、植わっている作物の名称と品種に対応した生育状況情報を保存している。本実施形態では、生育状況情報としては、開花日時、結実日時が挙げられる。開花後経過時間を食味成分量の推測に利用するときは、取得した開花日時から食味成分量推測時までの経過時間を計算する。結実後経過時間を食味成分量の推測に利用するときは、取得した結実日時から食味成分量推測時までの経過時間を計算する。この生育状況情報は、画像認識を用いて取得してもよく、計測者が目視で確認した情報から取得してもよい。なお、生育状況情報として、例えば苗をどの程度密集させて生育するか、1平方メートルあたり何本果樹を植えるかといった農作物の密度情報を保存しておくと好ましい。この場合、さらに精度よく食味成分量の推測が可能になる。この密度情報は、手動で入力してもよく、画像判定などで自動計測してもよい。
続いて、データベースの第3の領域について詳細に説明する。第3の領域は、図2に示すように、植わっている作物の名称と品種に対応した各味要素の係数の基本値と、係数の補正値を保存している。ここで、各味要素の係数の基本値とは、農作物の味に対する各味要素の寄与度に応じた係数のことである。係数の補正値とは、ある場所のある作物の係数を、好みや目標とする味にあわせて独自に変更できるようにするための値である。係数の変更時は、係数の基本値に係数の補正値を加算あるいは減算して利用する。
続いて、データベースの第4の領域について詳細に説明する。第4の領域は、図2に示すように、植わっている作物の名称と品種に対応した第1の回帰式を保存している。第1の回帰式は、各味要素の食味成分量を推測するための回帰式で、甘味、苦味、酸味、塩味、うま味の基本味要素から選択される少なくとも1種及び食感、水分、香りの副次的味要素から選択される少なくとも1種の各味要素の質を示す食味成分量である第1の参照値と、各味要素の食味成分量に影響する測定データである第2の参照値との関係を回帰分析して求められる式のことである。言い換えれば、各味要素の食味成分量を目的変数、測定データを説明変数とした式のことである。なお、第1の回帰式は、農作物の密度情報に対応して保存されていると好ましい。この場合、さらに精度よく食味成分量の推測が可能になる。
続いて、データベースの第5の領域について詳細に説明する。第5の領域は、図2に示すように、植わっている作物の名称と品種に対応した第2の回帰式を保存している。第2の回帰式は、各味要素の食味値を推測するための回帰式で、各味要素の食味成分量であって第1の参照値とは異なる第3の参照値と、第3の参照値が目標値にどれだけ近いかを示す各味要素の食味値である第4の参照値との関係を回帰分析して求められる式のことである。言い換えれば、各味要素の食味値を目的変数、各味要素の食味成分量を説明変数とした式のことである。ここで、第1〜第4の参照値は、過去の値である。具体的には、第1の参照値は、周辺環境の変化に伴い変化する生育中の農作物の各味要素の食味成分量を示す値である。但し、第1の参照値は、推測対象である生育中の農作物ではなく、生育中の農作物の各味要素の食味成分量を過去に実測した値である。第3の参照値は、過去に収穫した農作物の各味要素の食味成分量を実測した値であり、食味値がある値の時の食味成分量を示す値である。つまり、第1の参照値と第3の参照値は、ともに農作物の各味要素の食味成分量を表す値であるが異なる値を意味している。この場合、過去の値を用いて回帰分析した第1および第2の回帰式により、各味要素の食味成分量の値と各味要素の食味値を推測しているため、食味成分量と食味値の値を精度よく推測することができ、ひいては後述する農作業判定部13cが、食味値を向上するのに必要な作業と、作業の作業量を算出する精度が向上する。なお、各味要素の食味成分量、測定データ、各味要素の食味値の詳細については後述する。
記憶部1bは、各種データを保持するための記憶領域である。具体的には、通信部1aがデータベースより取得したデータを保存する役割や後述する演算部1cによって計算された値のデータを保存する役割を担っている。記憶部1bとしては、フラッシュメモリ等を用いるとよい。
収穫日入力部1dは、ユーザーの収穫希望日を入力するための機能を有する。つまり、収穫日入力部1dは、収穫希望日が入力可能な収穫日入力手段として機能することとなる。この収穫日入力部1dは、ユーザーの操作により入力された収穫希望日のデータを受け付け、入力された収穫希望日のデータを記憶部1bに保存させる。具体的には、タッチパネルやキーボード、音声入力システム等で構成される。
演算部1cは、通信部1aに農作物の作業支援に必要なデータをデータベースから読み出すように指示するとともに、記憶部1bに保存されているデータベースから読み出したデータを用いて、作業支援に必要なデータを算出する機能を担っている。この演算部1cは、食味成分量推測部11cと、食味値推測部12cと、農作業判定部13cと、味推測部14cを備えている。演算部1cとしては、CPUやDSP(Digital Signal Processor)などが挙げられる。なお、記憶部1bと演算部1cは一体的に構成されていてもよい。
食味成分量推測部11cは、通信部1aがデータベースから読み出した第1の回帰式を用いて、食味成分量を推測したい時点における、各味要素の食味成分量に影響する環境要因である測定データの値に対応する各味要素の食味成分量の値を推測する食味成分量推測手段としての機能を有している。ここで、食味成分量推測部11cは、測定データを用いて各味要素の食味成分量を推測する構成となっているため、測定データを利用して、測定者が食味成分量を推測したい時点における各味要素の食味成分量の値を推測できる。例えば、各味要素の食味成分量の過去の値を推測する場合は、測定データの過去の値を第1の回帰式に代入して、測定データの過去の値に対応する各味要素の食味成分量の値を推測することとなる。また、各味要素の食味成分量の現在の値を推測する場合は、測定データの現在の値を第1の回帰式に代入して、測定データの現在の値に対応する各味要素の食味成分量を推測することとなる。さらに、各味要素の食味成分量の未来の値を推測する場合は、各味要素の食味成分量の測定データの未来の値を第1の回帰式に代入して、対応する各味要素の食味成分量を推測することとなる。ここで、過去あるいは現在の各味要素の食味成分量を推測するときは、センサや測定器の実測値を用いればよいが、未来の各味要素の食味成分量を推測するときは、実測した値が存在しない。そのため、未来の食味成分量を推測するときは、各味要素の食味成分量の測定データの値を推測する必要がある。さらに、判定した作業を実施して、現在と未来の測定データを変化させる場合、その変化した測定データを第1の回帰式に代入すれば、判定した作業を行った場合の食味成分量を予測することも可能である。各味要素の食味成分量を推測するための、測定データの未来の値は、食味成分量推測部11cが推測し、記憶部1bに保存しておき、未来の食味成分量を推測するときに用いる。この食味成分量推測部11cによって推測された各味要素の食味成分量の値は、記憶部1cに保存される。ここで、農作物の味は、苦味、酸味、塩味、うま味の基本味要素から選択される少なくとも1種、及び、食感、水分、香りの副次的味要素から選択される少なくとも1種の各味要素から構成されており、これら各味要素の質を示すのが、食味成分量である。この食味成分量推測部11cは、支援対象である農作物に応じて推測する味要素の食味成分を選択すればよい。食味成分量推測部11cは、各味要素の質を示す食味成分量である第1の参照値と、測定データである第2の参照値との関係を回帰分析した第1の回帰式を用いて食味成分量の値を推測している。この場合、回帰式を用いて食味成分量を推測しているため、食味成分量の値を精度よく推測することができる。これにより、食味成分量により算出される食味値の値を精度よく推測することが可能となる。ひいては、後述する農作業判定部13cが、食味値を向上するのに必要な作業と、作業の作業量を算出する精度が向上する。
ここで、各味要素の食味成分量と各味要素の食味成分量に影響する測定データとの関係について詳細に説明する。各味要素の食味成分量としては、農作物の種類を問わず、精度よく食味成分量を推測できる汎用性の高い成分を用いるとよい。
まず、甘味の質を示す食味成分量としては、糖分量を用いる。糖分量は、農作物の光合成によって生成されるとともに、農作物の呼吸量に影響することから、糖分量に影響する測定データとしては、積算日照時間〔h〕、土中積算カリウム量〔mg/乾土100g〕、夜の平均気温の積算値〔℃〕、及び日中の平均気温の積算値〔℃〕を用いるとよい。つまり、食味成分量推測部11cは、第1の回帰式に積算日照時間〔h〕、土中積算カリウム量〔mg/乾土100g〕、夜の平均気温の積算値〔℃〕、及び日中の平均気温の積算値〔℃〕のデータを代入して糖分量を推測することとなる。
次に、苦味の質を示す食味成分量としては、硝酸態窒素量及びポリフェノール量を用いる。農作物は、硝酸態窒素として、窒素を体内に吸収するが、土壌が窒素過多となり、農作物が必要以上に窒素を吸収してしまうと、農作物内に窒素が残ってしまう。このことから、硝酸態窒素量に影響する測定データとしては、土中積算窒素量〔mg/乾土100g〕を用いるとよい。つまり、食味成分量推測部11cは、第1の回帰式に土中積算窒素量〔mg/乾土100g〕のデータを代入して硝酸態窒素量を推測することとなる。また、ポリフェノール量は、気温、光量により変化することから、ポリフェノール量に影響する測定データとしては、積算光量〔lx〕、平均気温の積算値〔℃〕を用いるとよい。つまり、食味成分量推測部11cは、第1の回帰式に積算光量〔lx〕、平均気温の積算値〔℃〕のデータを代入し、ポリフェノール量を推測することとなる。そして、この硝酸態窒素量とポリフェノール量の和を苦味の総食味成分量として、後述する苦味値の推測に利用する。
次に、酸味の質を示す食味成分量としては、クエン酸量を用いる。クエン酸量は、クエン酸回路の働きにより、エネルギー生成に伴って徐々に減少していくことから、クエン酸量に影響する測定データとしては、開花後経過時間〔h〕を用いるとよい。つまり、食味成分量推測部11cは、第1の回帰式に開花後経過時間〔h〕のデータを代入し、クエン酸量を推測することとなる。
次に、塩味の質を示す食味成分量としては、塩分量を用いる。外部環境から吸収した塩分を内部に蓄え、この塩分が塩味を呈する農作物があることから、塩分量に影響する測定データとしては、土中積算塩分量〔mg/乾土100g〕を用いるとよい。つまり、食味成分量推測部11cは、第1の回帰式に土中積算塩分量〔mg/乾土100g〕のデータを代入し、塩分量を推測することとなる。
次に、うま味の質を示す食味成分量としては、アミノ酸量を用いる。アミノ酸は、光合成のうち窒素同化という作用により生成されるとともに、農作物が土壌のアミノ酸を直接吸収する。このことから、アミノ酸量に影響する測定データとしては、土中積算窒素量〔mg/乾土100g〕、土中積算アミノ酸量〔mg/乾土100g〕、積算日照時間〔h〕、土中積算カリウム量〔mg/乾土100g〕、及び日中平均気温の積算値〔℃〕を用いるとよい。つまり、食味成分量推測部11cは、第1の回帰式に、土中積算窒素量〔mg/乾土100g〕、土中積算アミノ酸量〔mg/乾土100g〕、積算日照時間〔h〕、土中積算カリウム量〔mg/乾土100g〕、及び日中平均気温の積算値〔℃〕のデータを代入し、アミノ酸量を推測することとなる。
次に、食感の質を示す食味成分量としては、分解されたペクチン量、アミロース・アミロペクチン量、又はタンパク質量を用いる。まず、農作物は、ペクチンという細胞間物質が時間経過に伴い分解されることにより、柔らかさが増すことから、分解されたペクチン量に影響する測定データとしては、結実後経過時間〔h〕を用いるとよい。つまり、食味成分量推測部11cは、第1の回帰式に結実後経過時間〔h〕のデータを代入して分解されたペクチン量を推測することとなる。また、澱粉であるアミロース・アミロペクチンは、光合成によって生成されることから、アミロース・アミロペクチン量に影響する測定データとしては、積算日照時間〔h〕、夜の平均気温の積算値〔℃〕、土中積算カリウム量〔mg/乾土100g〕、及び日中平均気温の積算値〔℃〕を用いるとよい。つまり、食味成分量推測部11cは、第1の回帰式に積算日照時間〔h〕、夜の平均気温の積算値〔℃〕、土中積算カリウム量〔mg/乾土100g〕、及び日中平均気温の積算値〔℃〕のデータを代入して、アミロース・アミロペクチン量を推測することとなる。また、タンパク質はアミノ酸から生成され、その生成器官の活性調節にカリウムが関与していることから、タンパク質量に影響する測定データとしては、土中積算窒素量〔mg/乾土100g〕、土中積算アミノ酸量〔mg/乾土100g〕、土中積算カリウム量〔mg/乾土100g〕、日中平均気温の積算値〔℃〕、及び積算日照時間〔℃〕を用いるとよい。つまり、食味成分量推測部11cは、第1の回帰式に土中積算窒素量〔mg/乾土100g〕、土中積算アミノ酸量〔mg/乾土100g〕、土中積算カリウム量〔mg/乾土100g〕、日中平均気温の積算値〔℃〕、及び積算日照時間〔℃〕のデータを代入して、タンパク質量を推測することとなる。そして、この分解されたペクチン量、アミロース・アミロペクチン量、タンパク質量と各成分の農作物への影響度合いに応じた係数との積を加算して食感の総食味成分量として、後述する食感値の推測に利用する。
次に、水分の質を示す食味成分量としては、水分量を用いる。農作物は、ストレスを与えることで水分の吸収が活性化することから、水分量に影響する測定データとしては、土中積算水分量〔%〕、土中積算塩分量〔mg/乾土100g〕を用いるとよい。つまり、食味成分量推測部11cは、第1の回帰式に土中積算水分量〔%〕、土中積算塩分量〔mg/乾土100g〕のデータを代入して、水分量を推測することとなる。
次に、香りの質を示す食味成分量としては、モノテルペン量又はエステル量を用いる。モノテルペンは、柑橘系の香りを呈する成分であり、時間経過に伴い減少することから、モノテルペン量に影響する測定データとしては、結実後経過時間〔h〕を用いる。つまり、食味成分量推測部11cは、第1の回帰式に結実後経過時間〔h〕のデータを代入して、モノテルペン量を推測することとなる。また、エステルは、果物全般や松茸の香りを呈する成分である。農作物が成熟すると、時間経過とともに呼吸が不完全となってアルコールが生じ、それが農作物中の有機酸と結合することで生成される。このことから、エステル量に影響する測定データとしては、結実後経過時間〔h〕を用いるとよい。つまり、食味成分量推測部11cは、第1の回帰式に結実後経過時間〔h〕のデータを代入して、エステル量を推測することとなる。これらモノテルペン量又はエステル量は、食味成分量を推測したい農作物に応じて、適宜使い分けるとよい。
以上のように、食味成分量として汎用性の高い成分を用いることで、農作物の種類を問わず、精度よく食味成分量が推測できる。その結果、食味値が推測可能な農作物の適用範囲が拡大することから、農作業支援対象となる農作物の範囲も拡大し、利便性を大幅に向上することができる。また、各味要素の食味成分量の生成に影響の大きい測定データを用いているため、食味成分量を精度よく推測することが可能となり、農作物の食味値をより一層精度よく推測することができる。これにより、後述する農作業判定部13cの、食味値向上に必要な作業の選択するときと、作業の作業量を算出するときの精度が向上し、より精度のよい作業と作業量をユーザーに提供できる。
次に、食味成分量推測部11cによって推測される環境要因を示す測定データの未来の値について、詳細に説明する。この測定データの未来の値には、収穫希望日の測定データの未来の値も含まれている。そのため、食味成分量推測部11cは、収穫希望日の食味成分量の推測が可能となっている。環境要因を示す測定データの未来の値は、気象情報と、過去や現在の土中成分情報から推測する。気象情報としては、夜の平均気温〔℃〕、日中の平均気温〔℃〕、平均気温〔℃〕、雨量〔mm〕、日照時間〔h〕、光量〔lx〕が挙げられる。土中成分情報としては、窒素量〔mg/乾土100g〕、塩分量〔mg/乾土100g〕、アミノ酸量〔mg/乾土100g〕、カリウム量〔mg/乾土100g〕、水分〔%〕が挙げられる。ここで、夜の平均気温〔℃〕、日中の平均気温〔℃〕、平均気温〔℃〕、日照時間〔h〕、光量〔lx〕、窒素量〔mg/乾土100g〕、塩分量〔mg/乾土100g〕、アミノ酸量〔mg/乾土100g〕、カリウム量〔mg/乾土100g〕、水分量〔%〕の値あるいは積算値は、各味要素の食味成分量の推測に必要な値であり、雨量〔mm〕は、土中成分情報の未来の値の算出に必要な値である。なお、気象情報のうち、雨量〔mm〕、夜の平均気温〔℃〕、日中の平均気温〔℃〕、及び平均気温〔℃〕の未来の値の算出は、過去の気温のデータや過去の雨量のデータを過去の気象情報が蓄積されたデータベースにアクセスしてデータを取得し、それを基に計算することによって行う。この過去の気象情報が蓄積されたデータベースは、例えば気象庁のデータベースでもよく、独自に気象情報を蓄積しておいたデータベースでもよい。また、気象情報のうち、日照時間〔h〕と光量〔lx〕の未来の値の算出は、食味成分量を推測したい時期に応じた標準的な地域別日射量を格納したデータベースにアクセスし、その値を取得することによって行う。データベースは、公的機関により公開されているものを利用してもよく、独自に日射情報を蓄積しておいたデータベースでもよい。一方、土中成分情報の未来の値の算出は、土中成分関連のデータを保存したデータベースにアクセスしてデータを取得し、それを基に計算することによって行う。土中成分関連のデータとしては、時期に応じた肥料、水の推奨散布量の標準値、時期に応じた作物の養分の吸収量の標準値、及び時期に応じた土質ごとの水の蒸発量の標準値などが挙げられる。具体的には、土中成分情報の未来の値は、直前に実測した測定データあるいは推測したい時点の直前の未来の値に、土中成分関連のデータから土中成分を増加させる増加要因及び土中成分を減少させる減少要因を選択して加減算することにより求まる。
食味値推測部12cは、通信部1aがデータベースから読み出した第2の回帰式を用いて、食味成分量推測部11cにより推測した各味要素の食味成分量の値に対応する各味要素の食味値を推測する食味値推測手段としての機能を有している。具体的には、食味値推測部12cは、第2の回帰式に、記憶部1bに保存されている食味成分量推測部11cによって求められた各味要素の食味成分量のデータを代入して、各味要素の食味値を推測し、求められた値を記憶部1bに保存する。食味値推測部12cは、各味要素の質を示す食味成分量であって第1の参照値とは異なる第3の参照値と、第3の参照値が目標値にどれだけ近いかを示す各味要素の食味値である第4の参照値との関係を回帰分析した第2の回帰式を用いて食味値を推測している。この場合、回帰式を用いて食味値を推測しているため、食味値の値を精度よく推測することができ、ひいては後述する農作業判定部13cが、食味値を向上するのに必要な作業と、作業の作業量を算出する精度が向上する。つまり、食味値推測部12cが甘味の食味値を推測する場合は、食味値推測部12cは、第2の回帰式に食味成分量推測部11cによって求められた糖分量のデータを代入して、甘味の食味値(甘味値)を推測する。食味値推測部12cが苦味の食味値を推測する場合は、食味値推測部12cは、第2の回帰式に食味成分量推測部11cによって求められた総苦味食味成分量のデータを代入して、苦味の食味値(苦味値)を推測する。食味値推測部12cが酸味の食味値を推測する場合は、食味値推測部12cは、第2の回帰式に食味成分量推測部11cによって求められたクエン酸量のデータを代入して、酸味の食味値(酸味値)を推測する。食味値推測部12cが塩味の食味値を推測する場合は、食味値推測部12cは、第2の回帰式に食味成分量推測部11cによって求められた塩分量のデータを代入して、塩味の食味値(塩味値)を推測する。食味値推測部12cがうま味の食味値を推測する場合は、食味値推測部12cは、第2の回帰式に食味成分量推測部11cによって求められたアミノ酸量のデータを代入して、うま味の食味値(うま味値)を推測する。食味値推測部12cが食感の食味値を推測する場合は、食味値推測部12cは、第2の回帰式に食味成分量推測部11cによって求められた総食感食味成分量のデータを代入して、食感の食味値(食感値)を推測する。食味値推測部12cが水分の食味値を推測する場合は、食味値推測部12cは、第2の回帰式に食味成分量推測部11cによって求められた水分量のデータを代入して、水分の食味値(水分値)を推測する。食味値推測部12cが香りの食味値を推測する場合は、食味値推測部12cは、第2の回帰式に食味成分量推測部11cによって求められたモノテルペン量又はエステル量のデータを代入して、香りの食味値(香り値)を推測する。なお、各味要素の食味値は、各味要素の食味成分量の値が目標値にどれだけ近いかを示す値である。ここで、各味要素の食味成分量の目標値は、農作業支援をする農作物に応じて適宜設定される。例えば、農作業支援をする農作物が米で、品評会で優勝した「最高品質」の米を生産することをユーザーが希望する場合、品評会で優勝した「最高品質」の米の各味要素の食味成分量の値を目標値とすればよい。また、過去に売れ行きの良かった米の各味要素の食味成分量の値や、自分が実際に食べてみて特に美味であると感じた米を生産することをユーザーが希望する場合、それらの米の各味要素の食味成分量の値を目標値としてもよい。その他の農作物に対しても、同様に過去に売れ行きが良かったり、品評会で優勝したり、自分で食べてみて美味であると感じた農作物を生産することを希望する場合、それらの各味要素の食味成分量の値を目標値としてもよい。また、「もう少し甘い米をつくりたい」とユーザーが希望する場合、糖分量を少し多めに目標値を設定するなど、カスタマイズしても良い。本実施形態では、収穫日入力部1dにより入力された収穫希望日の食味値の推測は、本食味値推測部12cが行っている。具体的には、食味成分量推測部11cにより推測された、収穫希望日の食味成分量と第二の回帰式を用いて、収穫希望日における各味要素の食味値を算出する。
農作業判定部13cは、食味値推測部12cにより推測された、収穫希望日における各味要素の食味値に基づいて行うべき農作業を判定する農作業判定手段としての機能を有している。具体的には、食味値推測部12cにより推測した収穫希望日の各味要素の食味値が、各味要素の食味成分量の値が目標値と一致したことを示す食味値最大値と差がある場合、差がなくなるように、食味値向上に必要な作業を選択し、作業の作業量を算出する。ここで、図3〜図5を参照して、農作業判定部13cによる農作業の判定手順について詳細に説明する。図3は、食味値と食味成分量との対応関係を示す対応表のイメージ図である。図4は、食味成分量と測定データとの対応関係を示す変換表のイメージ図である。図5は、変化させるべき測定データと実施作業との対応関係を示す実施作業一覧表のイメージ図である。なお、図3および図4においては、味要素として甘味の場合を例に示している。すなわち、食味値が甘味値、食味成分量が糖分量の場合を挙げている。
まず、食味値推測部12cにより、味要素毎に、収穫希望日における各味要素の食味値が推測される。次に、農作業判定部13cは、図3に示す、ある食味成分量の値のとき、食味値がどのくらいになるかを示した食味値−食味成分量対応表を参照する。そして、食味値最大値のときの食味成分量Aの値と、収穫希望日における食味値のときの食味成分量Bを取得し、記憶部1bに保存しておく。ここでは、甘味値の場合を例に挙げる。図3に示す例においては、食味値最大値である1のときの食味成分量Aは100[mg]であって、収穫希望日における食味値が0.6のときの食味成分量Bは25[mg]であり、収穫希望日における食味値と食味値最大値の差分は75[mg]となり、収穫希望日における食味値と食味値最大値との間に差があると判定する。なお、図3に示す例においては、収穫希望日における食味値が0.6の場合を示したが、収穫希望日における食味値が0.9のように、食味値−食味成分量対応表において一致する食味値が複数存在するときは、食味値推測部12cにより食味値を推測する際に用いた食味成分量の値に近い値を参照する。参照時、食味値−食味成分量対応表に、収穫希望日における食味値がない場合、一番近い食味値の食味成分量を参照する。例えば、収穫希望日における食味値が0.75のとき、甘味値0.8のときの食味成分量50[mg]が参照される。また、収穫希望日における食味値が0.7で、一番近い食味値が0.6と0.8のように、一番近い食味値が2つ存在する場合がある。この場合、予め「少ない方の食味値を参照する」というように任意に設定しておくとよい。この設定の場合、収穫希望日における食味値が0.7のとき、0.6の場合の食味成分量が参照される。
次に、農作業判定部13cは、図4のような食味成分量−測定データ変換表を参照して、食味値最大の時の食味成分量Aのときと収穫希望日における食味成分量Bのときの、各測定データの値を取得し、記憶部1bに保存する。図4は、甘味値の食味成分量である糖分量と、糖分量の生成に影響する各測定データの値を取得するときのものである。例えば、食味値最大のときの食味成分量Aを100[mg]にするには、積算日照時間は300[時間]、夜の平均気温の積算値は350[℃]、土中積算カリウム量は35[mg]、日中の平均気温の積算値は400[℃]であり、この値が取得され、記憶部1bに保存される。収穫希望日における食味値のときの食味成分量Bが25[mg]のときは、積算日照時間は50[時間]、夜の平均気温の積算値は104[℃]、土中積算カリウム量は4[mg]、日中の平均気温の積算値は125[℃]であり、この値が取得され、記憶部1bに保存される。
次に、農作業判定部13cは、記憶部1bから、食味成分量−測定データ変換表から取得・保存した食味成分量Aのときと食味成分量Bのときの測定データの値を読み出し、各味要素の各食味成分の測定データごとに、食味値最大のときの測定データの値と希望収穫日の測定データの値との差分を取る。各味要素の食味値は、各味要素の食味成分量の値が目標値にどれだけ近いかを示す値である。食味成分量の目標値は、個々のユーザーの希望に応じて定められているため、食味値最大になる食味成分量を実現することにより、ユーザーの希望の味を実現することができる。食味値最大にするための食味成分量は、自分が実現したい味や、目指す味のデータを利用する。食味値最大にするための食味成分量のデータは、ユーザーの入力や通信などにより、取得・保存しておく。食味値最大のときの測定データの値と希望収穫日の測定データの値との差分は、収穫希望日に食味値最大とするために加えるべき作業の合計量に当たる。例えば、食味成分量Aのときの積算日照時間は300[時間]、食味成分量Bのときの積算日照時間は49.1[時間]である場合の差分は、
積算日照時間の差分=300−50=250[時間]
と計算され、250時間が、農作業判定日から希望収穫日までに追加であてるべき日照であるとわかる。本例においては、食味値が甘味値である場合を例に説明したが、実際には、農作業判定部13cは、上記手順を各味要素の食味値ごとに行う。
次に、農作業判定部13cは、日毎に行う作業と作業量を判定する。具体的に、作業量の決定には、食味値最大のときの測定データの値と希望収穫日の測定データの値との差分を、作業判定実施日から収穫希望日までの日数で割り算して、作業量を判定するなどするとよい。例えば、食味値最大値のときの食味成分量Aに対応する測定データの1つである積算日照時間と、収穫希望日における食味値のときの食味成分量Bに対応する測定データの1つである積算日照時間との差分が250[時間]であって、作業判定実施日から収穫希望日までの日数が100日ある場合、
一日追加するべき日照時間=250÷100=2.5[時間]
となる。ここでは、作業量を日割りする例を示したが、施肥など、必ずしも毎日行う必要がない作業は、一週間に一度行うときに必要な作業量、三日に一度行うときに必要な作業量を計算するなどしてもよい。農作業判定部13cにより算出した農作業の作業量は、記憶部1bに保存しておく。一方、具体的な作業の選択には、農作業判定部13cが、図5に示すような実施作業一覧表を参照して行う。例えば、日照時間を増加する場合、補助ライトを利用することを読み出し、記憶部1bに保存しておく。以上の手順を行うことにより、農作業判定部13cは、食味値推測部12cにより推測した収穫希望日の各味要素の食味値が、各味要素の食味成分量の値が目標値と一致したことを示す食味値最大値と差がある場合、差がなくなるように、食味値向上に必要な作業を選択し、作業の作業量を算出している。そのため、収穫希望日に合わせて食味値が最大となるのに必要な作業と作業量を逆算することが可能となる。したがって、ユーザーの収穫希望日に、希望通りの味を実現するための作業支援をすることができる。
味推測部14cは、農作物の味の推測値を求める味推測手段としての機能を有している。具体的には、通信部1aがデータベースから読み出した農作物の味に対する各味要素の寄与度に応じた係数と、食味値推測部12cによって求められた各味要素の食味値との積を求め、この積を加算して農作物の味の総合的な推測値を得る。例えば、各食味値の甘味値をM、苦味値をN、酸味値をP、塩味値をQ、うま味値をR、食感値をS、水分値をT、香り値をU、甘味の係数をa、苦味の係数をb、酸味の係数をc、塩味の係数をd、うま味の係数をe、食感の係数をf、水分の係数をg、香りの係数をhとすると、農作物の味の推測値Vtasteは以下の式(1)で表される関係を示すこととなる。
aM+bN+cP+dQ+eR+fS+gT+hU=Vtaste・・・式(1)
各食味値M〜Uの推測に未来の食味成分量の値を用いれば、未来の農作物の味を推測することが可能となり、各食味値M〜Uの推測に過去の食味成分量の値を用いれば、過去の農作物の味を推測することが可能となる。また、農作業判定部13cが選択した作業を行ったときの食味成分量の値を用いれば、選択した作業を行った後の農作物の味を推測することが可能となる。推測した農作物の味の推測値は、記憶部1bに保存しておく。これにより、播種日から収穫希望日までの各日の農作物の総合的な味の推測値を連続的に知ることが可能となる。また、選択した作業を行った後の農作物の総合的な味の推測も行えるため、選択した作業を行わなかったときと行ったときの、農作物の総合的な味の変化の比較が可能となる。
表示部1eは、農作業判定部13cが選択した作業と算出した作業量を表示し、ユーザーに知らせる役割と、農作業判定部13cにより選択した作業が行われた後の農作物の味の変化の予測を表示する役割を担っている。表示部1eは、例えば、液晶ディスプレイ等を用いると良い。ここで、図6および図7を参照して、表示部1eによる表示方法について詳細に説明する。図6は、農作業判定部より選択した作業と算出した作業量を文字で表示する一例である。図7は、農作業判定部により選択した作業を行わなかった場合と行った場合の農作物の味の変化の予測をグラフで表示する一例である。農作業判定部13cにより選択した作業と算出した作業量を表示する場合、演算部1cが、記憶部1bに保存されている農作業判定部13cにより選択した作業と算出した作業量を読み出し、図6に示すように文字などで表示部1eに表示させる。この場合、選択した作業と作業量をユーザーに簡便に知らせることが可能となるため、利便性を向上させることができる。農作業判定部13cにより選択した作業が行われた後の農作物の味の変化の予測を表示する場合、具体的には、演算部1cが、記憶部1bに保存されていた味の推測値を読み出し、表示部1eに表示させる。表示方法としては、例えば、図7のようにグラフを用いると良い。この場合、食味値推測部12cにより推測した各味要素の食味値を用いて、農作物の味の推測値を得る味推測部14cを備え、表示部1eは、農作業判定部13cにより選択した作業が行われた後の農作物の味の変化の予測を表示させている。これにより、選択した農作業による作業結果である味の変化の予測をユーザーに知らせることが可能となるため、ユーザーが農作業に取り組む意欲を向上する一助となる。
ここで、本実施形態に係る農作業支援装置1の処理動作を、図8のフローチャートを用いて詳細に説明する。図8は、本発明の実施形態1に係る農作業支援装置の処理動作を示すフローチャートである。まず、収穫日入力部1dが、ユーザーの農作物の収穫希望日の入力を受け付け、記憶部1bに保存する。(ステップS01)
次に、演算部1cが通信部1aに、農作物の味に対する各味要素の寄与度に応じた係数を読み出すように指示する。そして、通信部1aが演算部1cの要求に応じて、データベースの第2の領域より、その農作物の味の推測に必要なすべての係数を読み出して取得し、記憶部1bに保存する。(ステップS02)
続いて、演算部1cが通信部1aに甘味、苦味、酸味、塩味、うま味の基本味要素から選択される少なくとも1種及び食感、水分、香りの副次的味要素から選択される少なくとも1種の各味要素の質を示す食味成分量である第1の参照値と、各味要素の食味成分量に影響する測定データである第2の参照値との関係を回帰分析した第1の回帰式を読み出すように指示する。そして、通信部1aが演算部1cの要求に応じて、データベースの第4の領域より、その農作物の食味成分量推測に必要なすべての第1の回帰式を読み出して取得し、記憶部1bに保存する。(ステップS03)
続いて、演算部1cが通信部1aに各味要素の食味成分量であって第1の参照値とは異なる第3の参照値と、各味要素の食味成分量の値が目標値にどれだけ近いかを示す各味要素の食味値である第4の参照値との関係を回帰分析した第2の回帰式を読み出すように指示する。そして、通信部1aが演算部1cの要求に応じて、データベースの第5の領域より、その農作物の食味値を推測するのに必要なすべての第2の回帰式を読み出して取得し、記憶部1bに保存する。(ステップS04)
続いて、演算部1cが通信部1aに食味成分量を推測したい農作物の場所における測定データと、各味要素の食味成分量に影響する環境要因を示す測定データの推測値である未来の値を推測するためのデータを読み出すように指示する。そして、通信部1aが演算部1cの要求に応じて、データベースの第1の領域から測定データを読み出して取得し、記憶部1bに保存する。(ステップS05)
続いて、食味成分量推測部11cがステップS03で取得した第1の回帰式と、ステップS05で取得した測定データの中から推測に必要な日の測定データと各味要素の食味成分量に影響する環境要因を示すデータの推測値である未来の値の推測に必要なデータを記憶部1bから読み出して、経過時間、あるいは、積算の起点日から推測したい日までのデータの積算値、あるいは、未来の値を求める。求めた経過時間、あるいは、積算の起点日から推測したい日までのデータの積算値、あるいは、未来の値と、第1の回帰式を用いて、食味成分量を推測したい時点における各味要素の食味成分量の値を推測し、この推測値を記憶部1bに保存する。(ステップS06)
続いて、食味値推測部12cがステップS04で取得した第2の回帰式と、ステップS06で食味成分量推測部11cにより求められた各味要素の食味成分量の推測値を記憶部1bから読み出して、この第2の回帰式を用いて各味要素の食味成分量の値に対応する各味要素の食味値を推測し、この推測値を記憶部1bに保存する。(ステップS07)このとき、農作業支援装置1は、食味値を推測したい農作物に応じて、必要な味要素の数だけステップS06とステップS07の処理動作を繰り返す。
続いて、味推測部14cが、ステップS02で取得した農作物の味に対する各味要素の寄与度に応じた係数とステップS07で食味値推測部12cにより求められた各味要素の食味値との積を求める。味を推測したい農作物に応じて、必要な味要素の数だけこの計算を繰り返す。そして、算出した各味要素の積を加算して農作物の味の推測値を算出し、算出した農作物の味の推測値を記憶部1bに保存する。(ステップS08)このとき、農作業支援装置1は、ステップS01で入力を受けた、ユーザーの収穫希望日に至るまでの日数分、ステップS06からステップS08の処理動作を繰り返す。
続いて、農作業判定部13cが、ステップS07で食味値推測部12cにより求められた収穫希望日の各味要素の食味値と、食味値−食味成分量対応表に掲載された食味値最大値との食味値の大きさの差分を求める。次に、その差分から、食味成分量−測定データ変換表に基づいた測定データの差分を基に、実施作業一覧表を参照して測定データの差分を埋めるために、一日ごとに行うべき作業と作業量を求め、求めた作業と作業量を記憶部1bに保存しておく。(ステップS09)
続いて、食味成分量推測部11cが、ステップS09で求めた、食味値最大値にするために行うべき作業の作業量を、ステップS05で求めた各測定データ値に足し算し、農作業判定部13cにより選択した作業を行った後の測定データを求める。(ステップS10)続いて、食味成分量推測部11cが、ステップS10で求めた農作業判定部13cにより選択した作業を行った後の測定データを、ステップS03で取得した第1の回帰式に代入し、農作業判定部13cにより選択した作業を行った後の食味成分量を求める。(ステップS11)続いて、食味値推測部12cが、ステップS11で求めた農作業判定部13cにより選択した作業を行った後の食味成分量をステップS04で取得した第2の回帰式に代入し、農作業判定部13cにより選択した作業を行った後の食味値を求める。(ステップS12)ステップS10〜ステップS12の処理動作を、収穫希望日までの各日の必要な味要素の数だけ繰り返す。
続いて、ステップS10〜ステップS12で求めた食味値を基に、味推測部14cが、その日の農作業判定部13cにより選択した作業を行った後の農作物の味をステップS08と同様の手段で求め、記憶部1bに保存する。(ステップS13)ステップS10〜ステップS13を、収穫希望日までの日数分繰り返す。
続いて、演算部1cが、記憶部1bに保存された、ステップS08で求めた、農作物の味の遷移を読み出し、表示部1eに表示するよう指示する。(ステップS14)続いて、演算部1cが、記憶部1bに保存された、ステップS09で求めた、行うべき農作業を読み出し、表示部1eに表示するよう指示する。(ステップS15)続いて、演算部1cが、記憶部1bに保存された、ステップS13で求めた、農作業判定部13cにより選択した作業を行った後の農作物の味の遷移を読み出し、ステップS14で表示させた味の遷移に重ね合わせて表示するよう、表示部1eに指示する。(ステップS16)
以上のように、本実施形態に係る農作業支援装置1は、農作物を取りまく環境情報である測定データを用いて、甘味、苦味、酸味、塩味、うま味の基本味要素から選択される少なくとも1種、及び、食感、水分、香りの副次的味要素から選択される少なくとも1種の各味要素の質を示す食味成分量の値を推測する食味成分量推測手段(食味成分量推測部11c)、食味成分量推測手段により推測した食味成分量を用いて、各味要素の食味成分量の値が目標値にどれだけ近いかを示す各味要素の食味値を推測する食味値推測手段(食味値推測部12c)、収穫希望日が入力可能な収穫日入力手段(収穫日入力部1d)、食味値推測手段により推測した収穫希望日の各味要素の食味値が、各味要素の食味成分量の値が目標値と一致したことを示す食味値最大値と差がある場合、差がなくなるように、食味値向上に必要な作業を選択し、当該作業の作業量を算出する農作業判定手段(農作業判定部13c)、を備えている。そのため、収穫希望日に合わせて食味値が最大となるのに必要な作業と作業量を逆算することが可能となる。したがって、ユーザーの収穫希望日に、希望通りの味を実現するための作業支援をすることができる。
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係る農作業支援装置10の構成について、図9を用いて説明する。図9は、本発明の実施形態2に係る農作業支援装置を示すブロック図である。農作業支援装置10は、作業実施部1fをさらに備えている点で、農作業支援装置1と相違している。
作業実施部1fは、農作業判定部13cが選択した作業を自動で実施する作業実施手段としての機能を有する。具体的には、演算部1cが、記憶部1bに保存されていた作業と作業量を読み出し、実施するよう作業実施部1fに指示する。指示を受けた作業実施部1fは、指示された作業量の作業を自動で実施する。作業実施部1fとしては、例えば、スプリンクラー、自動点灯ライト、エアコン、自動開閉屋根、自走式肥料散布機などが挙げられる。これらの機器は、適切な時間にスイッチが入り、作業量にあたる時間が経過すると、自動でスイッチがオフになり、動作を終了する。例えば、自動点灯ライトは、日の入り後に自動で点灯し、日照時間がその日の作業量に達するまで点灯しており、その日の作業量に達したところで消灯する。この場合、農作業判定部13cにより選択した作業を自動で実施する作業実施部1fをさらに備えており、選択した農作業を自動実施することが可能となるため、利便性を大幅に向上させることができる。
(実施形態3)
次に、本発明の実施形態3に係る農作業支援装置100の構成について、図10を用いて説明する。図10は、本発明の実施形態3に係る農作業支援装置を示すブロック図である。農作業支援装置100は、農作物を取り巻く環境変化の情報を自動で取得する環境変化情報取得部1gと、環境変化情報取得部1gが取得した情報に基づいて、適切な収穫日を提案する収穫日提案部1hをさらに備えている点で、農作業支援装置1と相違している。
環境変化情報取得部1gは、農作物を取り巻く環境変化の情報を自動で取得する役割を担っている。環境変化情報取得部1gは、インターネット網でもよく、あるいはLAN(Local Area Network)等の私設通信網、携帯電話網、電話回線網、ISDN(Integrated Services Digital Network)、専用線等の公衆通信網であってもよい。また、通信部1aと一体に構成されていても良い。環境変化情報取得部1gは、演算部1aの指示により、例えば台風情報、突風情報、虫害情報、雹の情報等を取得し、記憶部1bに保存しておく。収穫日提案部1hは、環境変化情報取得部1gが取得した情報に基づいて、より適切な収穫日を提案する役割を担っている。収穫日提案部1hによる具体的な適切な収穫日の提案手段としては、次のようになる。まず、収穫日提案部1hが、演算部1cに指示されて、記憶部1bに保存されている台風情報を読み出す。例えば台風の来る日が希望収穫日であった場合、台風の来る前日などに収穫日を変更し、表示部1eに表示してユーザーに知らせる。ここで、収穫日提案部1hにより提案する適切な収穫日は、環境変化が起こる日の前であって、農作物の味の推測値が最大となる日を算出するように設定されているとよい。この場合、環境変化の情報を取得する環境変化情報取得部1g、環境変化情報取得部1gが取得した情報に基づいて、適切な収穫日を提案する、収穫日提案部1hをさらに備えている。従って、台風襲来などの突発的な環境変化により、収穫希望日に食味値最大とすることが困難になる場合にも、味質が良好になる収穫日を知ることができるため、高品質の作物が確実に生産できるようになり、利便性が向上する。
(実施形態4)
次に、本発明の実施形態4に係る農作業支援装置1000の構成について、図11を用いて説明する。図11は、本発明の実施形態4に係る農作業支援装置を示すブロック図である。農作業支援装置1000は、農作物の位置情報を取得する位置情報取得部1iをさらに備えている点で、農作業支援装置1と相違している。
位置情報取得部1iは、農作業支援の対象である農作物の位置情報を取得し、演算部1cに位置情報を伝達する位置情報取得手段としての機能を担っている。演算部1cは、この位置情報に基づいて、どの場所の測定データを取得するか判断し、演算部1c(食味成分量推測部11c)が通信部1aに判断した場所の測定データを読み出すように指示する。通信部1aは、演算部1c(食味成分量推測部11c)の要求に応じて、データベースより位置情報取得部1dが測定した位置情報に基づく場所の測定データを読み出して取得し、記憶部1bに保存する。そして、演算部1c(食味成分量推測部11c)は、位置情報取得部1iが測定した位置情報に基づいた測定データに対応する各味要素の食味成分量を推測する。この位置情報取得部1iは、例えばGPS(Global Positioning System)などの機器が挙げられる。この場合、専門知識が必要である機器分析のような測定を行わなくとも、農作物の位置情報に基づいた測定データを用いることで、食味成分量の推測の精度が向上し、それに伴って食味値の推測の精度も向上する。これにより、農作業判定部13cの、食味値向上に必要な作業の選択するときと、作業の作業量を算出するときの精度が向上し、より精度のよい作業指示と作業量を提供することも可能となる。なお、本実施形態の農作業支援装置1000が多機能携帯電話(スマートフォン)などのGPS機能を搭載した機器に搭載された場合、測定者が測定したい農作物の場所に赴くことで、位置情報取得部11iが測定したい農作物の位置情報を簡便に取得することが可能となる。