以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、「上流」「下流」の語は、出射する荷電粒子線の上流(加速器側)、下流(患者側)をそれぞれ意味している。
図1に示すように、荷電粒子線治療装置1は、放射線療法によるがん治療等に利用される装置であり、荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器11と、荷電粒子線を被照射体へ照射する照射ノズル12(照射部)と、加速器11から出射された荷電粒子線を照射ノズル12へ輸送するビーム輸送ライン13(輸送ライン)と、ビーム輸送ライン13に設けられ、荷電粒子線のエネルギーを低下させて荷電粒子線の飛程を調整するデグレーダ(エネルギー調整部)18と、ビーム輸送ライン13に設けられた複数の電磁石25と、複数の電磁石25のそれぞれに対応して設けられた電磁石電源27と、荷電粒子線治療装置1全体を制御する制御部30と、を備えている。本実施形態では、加速器11としてサイクロトロンを採用するが、これに限定されず、荷電粒子線を発生させるその他の発生源、例えば、シンクロトン、シンクロサイクロトン、ライナック等であってもよい。
荷電粒子線治療装置1では、治療台22上の患者Pの腫瘍(被照射体)に対して加速器11から出射された荷電粒子線の照射が行われる。荷電粒子線は電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線等がある。本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1は、いわゆるスキャニング法により荷電粒子線の照射を行うものであり、被照射体を深さ方向に仮想的に分割(スライス)し、スライス平面(層)毎に、層上の照射範囲に対して、荷電粒子線の照射を行う(例えば図5参照)。
なお、スキャニング法による照射方式として、例えばスポット式スキャニング照射、及び、ラスター式スキャニング照射がある。スポット式スキャニング照射は、照射範囲である、一のスポットへの照射が完了すると、一度ビーム(荷電粒子線)照射を止め、次のスポットへの照射準備が整った後に次のスポットへの照射を行う方式である。これに対し、ラスター式スキャニング照射は、同一層の照射範囲については、照射を途中で止めることなく、連続的にビーム照射を行う方式である。このように、ラスター式スキャニング照射は、同一層の照射範囲については連続的にビーム照射が行われるものであるため、スポット式スキャニング照射と異なり、照射範囲は複数のスポットから構成されるものではない。以下では、スポット式スキャニング照射により照射を行う例を説明することとし、同一層上の照射範囲は複数のスポットからなることとして説明するが、これに限定されず、ラスター式スキャニング照射により照射を行う場合には、上述したように照射範囲はスポットから構成されるものではなくてもよい。
照射ノズル12は、治療台22の周りを360度回転可能な回転ガントリ23の内側に取り付けられており、回転ガントリ23によって任意の回転位置に移動可能とされている。照射ノズル12には、収束電磁石19(詳細は後述)、スキャニング電磁石21、真空ダクト28が含まれている。スキャニング電磁石21は、照射ノズル12の中に設けられている。スキャニング電磁石21は、荷電粒子線の照射方向と交差する面においてX方向へ荷電粒子線を走査するX方向走査電磁石と、荷電粒子線の照射方向と交差する面においてX方向と交差するY方向へ荷電粒子線を走査するY方向走査電磁石と、を有している。また、スキャニング電磁石21により走査された荷電粒子線はX方向及び/又はY方向へ偏向されるため、スキャニング電磁石よりも下流側の真空ダクト28は、その径が下流側ほど拡大されている。
ビーム輸送ライン13は、荷電粒子線が通る真空ダクト14を有している。真空ダクト14の内部は真空状態に維持されており、輸送中の荷電粒子線を構成する荷電粒子が空気等により散乱することを抑制している。
また、ビーム輸送ライン13は、加速器11から出射された所定のエネルギー幅を有する荷電粒子線から所定のエネルギー幅よりも狭いエネルギー幅の荷電粒子線を選択的に取り出すESS(Energy Selection System)15と、ESS15によって選択されたエネルギー幅を有する荷電粒子線を、エネルギーが維持された状態で輸送するBTS(Beam Transport System)16と、BTS16から回転ガントリ23に向けて荷電粒子線を輸送するGTS(Gantry Transport System)17と、を有している。
デグレーダ18は、通過する荷電粒子線のエネルギーを低下させて当該荷電粒子線の飛程を調整する。患者の体表から被照射体である腫瘍までの深さは患者ごとに異なるため、荷電粒子線を患者に照射する際には、荷電粒子線の到達深さである飛程を調整する必要がある。デグレーダ18は、加速器11から一定のエネルギーで出射された荷電粒子線のエネルギーを調整することにより、患者体内の所定の深さにある被照射体に荷電粒子線が適切に到達するように調整する。このようなデグレーダ18による荷電粒子線のエネルギー調整は、被照射体をスライスした層毎に行われる。
電磁石25は、ビーム輸送ライン13に複数設けられるものであり、磁場によってビーム輸送ライン13で荷電粒子線を輸送することができるように、当該荷電粒子線の調整を行うものである。電磁石25として、輸送中の荷電粒子線のビーム径を収束させる収束電磁石19、及び荷電粒子線を偏向させる偏向電磁石20が採用される。なお、以下では収束電磁石19及び偏向電磁石20を区別せずに電磁石25と記載する場合がある。また、電磁石25は、少なくともビーム輸送ライン13のうちデグレーダ18よりも下流側に複数設けられる。ただし、本実施形態では、電磁石25は、デグレーダ18よりも上流側にも設けられる。ここでは、電磁石25として収束電磁石19が、デグレーダ18によるエネルギー調整前の荷電粒子線のビーム径を収束させるために、デグレーダ18の上流側にも設けられている。電磁石25の総数は、ビーム輸送ライン13の長さ等により柔軟に変更が可能であり、例えば、10〜40程度の数とされる。なお、図1中には電磁石電源27が一部のみ記載されているが、実際には、電磁石25の数と同数、設けられている。
デグレーダ18及び電磁石25のビーム輸送ライン13中における位置は特に限定されないが、本実施形態では、ESS15には、デグレーダ18、収束電磁石19、及び偏向電磁石20が設けられている。また、BTS16には収束電磁石19が設けられており、GTS17には収束電磁石19及び偏向電磁石20が設けられている。なお、デグレーダ18は、上述したように加速器11と回転ガントリ23との間であるESS15に設けられており、より詳細には、ESS15のうち回転ガントリ23よりも加速器11側(上流側)に設けられている。
電磁石電源27は、対応する電磁石25に電流を供給することによって電磁石25の磁界を生じさせる。電磁石電源27は、対応する電磁石25に供給する電流を調整することにより、対応する電磁石25の磁場の強さを設定可能である。電磁石電源27は、制御部30からの信号に応じて電磁石25に供給する電流を調整している(詳細は後述)。電磁石電源27は、各電磁石25それぞれに一対一で対応するように設けられている。すなわち、電磁石電源27は、電磁石25の数と同数、設けられている。
被照射体の各層の深さと電磁石25に供給される電流との関係は以下のとおりである。すなわち、各層の深さから、各層に荷電粒子線を照射するために必要な荷電粒子線のエネルギーが決まり、デグレーダ18によるエネルギー調整量が決まる。ここで、荷電粒子線のエネルギーが変わると、当該荷電粒子線を偏向・収束するために必要な磁場の強さも変わることとなる。従って、電磁石25の磁場の強さがデグレーダ18によるエネルギー調整量に応じた強さとなるように、電磁石25に供給される電流が決まる。
次に、図2も参照しながら制御部30及び電磁石電源27の詳細について説明する。なお、図2中では電磁石電源27は3個のみ記載されているが、実際には荷電粒子線治療装置1に設けられた電磁石25の数だけ、対応する電磁石電源27が設けられている。また、図2中には電磁石25が記載されていないが、実際には電磁石電源27と電気的に接続された電磁石25が設けられている。
制御部30は、加速器11から出射された荷電粒子線の被照射体への照射を制御する。制御部30は、メイン制御部31と、ビーム制御部32と、ESS制御部33と、BTS制御部34と、GTS制御部35と、スキャニング制御部36と、レイヤ制御部37と、を有している。
メイン制御部31は、ビーム制御部32及びスキャニング制御部36を制御する。具体的には、メイン制御部31は、ビーム制御部32及びスキャニング制御部36に対して処理開始信号を送信することにより処理を開始させ、処理終了信号を送信することにより処理を終了させる。
ビーム制御部32は、荷電粒子線が被照射体へ照射可能となるよう、各機能を制御するものである。具体的には、ビーム制御部32は、メイン制御部31からの処理開始信号に応じて、サイクロトン制御部(図示せず)に対して処理開始信号を送信し、加速器11に荷電粒子線の出射を行わせる。また、ビーム制御部32は、メイン制御部31からの処理開始信号に応じて、ESS制御部33、BTS制御部34、及びGTS制御部35に対して処理開始信号を送信する。
ESS制御部33は、ビーム制御部32からの処理開始信号に応じて、ESS15に設けられた電磁石25に対応する電磁石電源27の電源を入れる。同様に、BTS制御部34は、ビーム制御部32からの処理開始信号に応じて、BTS16に設けられた電磁石25に対応する電磁石電源27の電源を入れる。同様にGTS制御部35は、ビーム制御部32からの処理開始信号に応じて、GTS17に設けられた電磁石25に対応する電磁石電源27の電源を入れる。このような、ビーム制御部32による加速器11の制御、及び、ESS制御部33、BTS制御部34、及びGTS制御部35による電磁石電源27の制御によって、加速器11から出射された荷電粒子線を被照射体へ照射することが可能な状態となり、その後に、スキャニング制御部36による制御が行われる。
スキャニング制御部36は、被照射体への荷電粒子線のスキャニング(走査)を制御するものである。スキャニング制御部36は、メイン制御部31からの処理開始信号に応じて、スキャニング電磁石21に対して照射開始信号を送信し、スキャニング電磁石21に同一層上の複数の照射スポットへの照射を行わせる。各層における照射スポットに関する情報は、予めスキャニング制御部36に記憶されている。また、スキャニング制御部36は、スキャニング電磁石21による、一の層の全スポットへの照射が完了すると、レイヤ制御部37に対して層切り替え信号を送信する。該層切り替え信号には切り替え後の層を特定する情報(例えば2層目、等)が含まれている。
スキャニング制御部36の制御に応じたスキャニング電磁石21の荷電粒子線照射イメージについて、図5(b)及び(c)を参照して説明する。図5(b)は、深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされた被照射体を、図5(c)は、荷電粒子線の照射方向から見た一の層における荷電粒子線の走査イメージを、それぞれ示している。
図5(b)に示すように、被照射体は深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされており、本例では、深い(荷電粒子線の照射ビームBの飛程が長い)層から順に、層L1、層L2、…層Ln−1、層Ln、層Ln+1、…層LN−1、層LNとN層に仮想的にスライスされている。また、図5(c)に示すように、照射ビームBは、ビーム軌道TLを描きながら層Lnの複数の照射スポットに対して照射される。すなわち、スキャニング制御部36に制御された照射ノズル12は、ビーム軌道TL上を移動する。
図2に戻り、レイヤ制御部37は、スキャニング制御部36からの層切り替え信号に応じて、層切り替え関連処理を行う。層切り替え関連処理とは、デグレーダ18のエネルギー調整量を変更するデグレーダ設定処理、及び、電磁石25のパラメータをデグレーダ設定処理後のデグレーダ18のエネルギー調整量に応じたものとする電磁石設定処理である。電磁石25のパラメータとは、電磁石25に供給する電流の目標値である。
ここで、荷電粒子線治療では、ある患者の治療を行うにあたり、その患者へどのように荷電粒子線を照射するかが計画される(治療計画)。当該治療計画時に決定した治療計画データは、治療が行われる前に治療計画装置(図示せず)から制御部30のレイヤ制御部37に送信され、レイヤ制御部37において記憶される。当該治療計画データには、被照射体の各層に荷電粒子線を照射するためのデグレーダ18のエネルギー調整量、及び、デグレーダ18のエネルギー調整量に応じた全ての層に照射するための電磁石25のパラメータ等が含まれている。
レイヤ制御部37は、層切り替え関連処理として、まずデグレーダ設定処理を行う。レイヤ制御部37には、上述したように、予め、被照射体の各層に荷電粒子線を照射するための、デグレーダ18のエネルギー調整量が記憶されている。そして、レイヤ制御部37は、スキャニング制御部36からの層切り替え信号に応じて、デグレーダ18のエネルギー調整量を、切り替え後の層に応じた値に設定する。
レイヤ制御部37は、デグレーダ設定処理後に電磁石設定処理を行う。具体的には、レイヤ制御部37は、各電磁石電源27に対して層切り替え信号を一斉に送信することにより、電磁石25のパラメータをデグレーダ設定処理後のデグレーダ18のエネルギー調整量に応じたものとする。ここで、レイヤ制御部37が電磁石電源27に送信する層切り替え信号は、単に、切り替え後の層を特定する情報が含まれたものであり、切り替え後の層に対応する電磁石25のパラメータ(デグレーダ設定処理後のデグレーダ18のエネルギー調整量に応じた電磁石25のパラメータ)が含まれるものではない。電磁石25のパラメータ変更は、電磁石電源27により行われる。その前提として、レイヤ制御部37は、上述した治療計画データのうち、デグレーダ18のエネルギー調整量に応じた全ての層に照射するための電磁石25のパラメータを、照射が開始される前(層への照射(切り替え)直前ではなく、治療が開始される前)に電磁石電源27に送信している。
電磁石電源27は、レイヤ制御部37から受信した層切り替え信号に応じて、切り替え後の層に対応する電磁石25のパラメータ(デグレーダ設定処理後のデグレーダ18のエネルギー調整量に応じた電磁石25のパラメータ)を設定する。具体的には、電磁石電源27は、各層に対応する電磁石25のパラメータを記憶する記憶部27aを有しており、レイヤ制御部37から層切り替え信号を受信した際に、該層切り替え信号に含まれる切り替え後の層に対応するパラメータを設定する。これにより、切り替え後の層に対応した電流が電磁石25に供給される。
電磁石電源27によるパラメータ設定について、図5(a)を参照して説明する。図5(a)に示すように、すべての電磁石電源27には、被照射体の各層、具体的には層L1〜層LN(図5(b)参照)に対応する電磁石25のパラメータD1〜DNが記憶されている。そして、電磁石電源27は、レイヤ制御部37から送信された層切り替え信号SGに含まれる切り替え後の層を特定する情報(L=n)に応じて、パラメータDnを設定する。
なお、レイヤ制御部37は、層切り替え信号を電磁石電源27に送信した後所定の時間(例えば50msec〜200msec)経過後に、電磁石電源27のパラメータ設定が完了したと判断し、スキャニング制御部36に切り替え完了信号を送信する。そして、スキャニング制御部36は、該切り替え完了信号に応じて、スキャニング電磁石21に対して照射開始信号を送信する。
次に、図3を参照して、電磁石電源27の記憶部27aに電磁石25のパラメータを準備(格納)する処理について説明する。
まず、レイヤ制御部37により、治療計画装置からスキャニングデータテーブルが読み込まれる(S101)。層毎の電磁石25のパラメータは、被照射体に応じた荷電粒子線のエネルギーが考慮され、事前に設定されたものである。
つづいて、レイヤ制御部37により、電磁石25のパラメータについて、電磁石電源27に対する送信情報として選択される(S102)。なお、電磁石25のパラメータは、層毎に管理されている。
つづいて、レイヤ制御部37により、電磁石25のパラメータが電磁石電源27に送信される(S103)。パラメータは、例えば、全層の電磁石25のパラメータがひとまとめにされ、各電磁石電源27に対して順次送信される。
最後に、電磁石電源27の記憶部27aに、レイヤ制御部37から送信された全層の電磁石25のパラメータが格納され、記憶される。以上が、記憶部27aに電磁石25のパラメータを格納する処理である。当該格納処理が完了すると、層切り替え時において、レイヤ制御部37と電磁石電源27とが連携した電磁石25のパラメータ設定処理が可能となる。
次に、図4及び図5を参照して、層切り替え時におけるパラメータ設定処理について説明する。なお、当該処理を行う前提として、電磁石電源27の記憶部27aに電磁石25のパラメータが準備(格納)されるとともに、ビーム制御部32による加速器11の制御、及び、ESS制御部33、BTS制御部34、及びGTS制御部35による電磁石電源27の制御によって、加速器11から出射された荷電粒子線を被照射体へ照射可能となっている必要がある。
図5(b)に示す被照射体の層L1〜層LNに対して、荷電粒子線を照射する例で説明する。以下に示す処理の前提として、被照射体の最も深い層である層L1に荷電粒子線を照射するための設定が行われている。具体的には、電磁石電源27により、層L1に対応する電磁石25のパラメータD1が設定されている。
まず、スキャニング制御部36からの照射開始信号に基づいて、スキャニング電磁石21により、被照射体の層L1の全照射スポットへ荷電粒子線が照射される(S201)。当該層L1の全照射スポットへの照射が完了すると、スキャニング制御部36により、レイヤ制御部37に対して層切り替え信号SGが送信される(S202)。なお、該層切り替え信号SGには切り替え後の層L2を特定する情報(L=2)が含まれている。
つづいて、レイヤ制御部37により、スキャニング制御部36からの層切り替え信号SGに基づいて、デグレーダ18のエネルギー調整量変更が行われる(S203)。具体的には、レイヤ制御部37により、層切り替え信号SGに含まれる切り替え後の層L2を特定する情報(L=2)と、予め記憶された、被照射体の各層に荷電粒子線を照射するためのデグレーダ18のエネルギー調整量に関する情報とに基づいて、デグレーダ18のエネルギー調整量が、切り替え後の層L2に応じた値に変更される。
つづいて、レイヤ制御部37により、各電磁石電源27に対して層切り替え信号SGが送信される(S204)。なお、レイヤ制御部37が電磁石電源27に送信する層切り替え信号SGは、単に、切り替え後の層L2を特定する情報(L=2)が含まれたものであり、切り替え後の層L2に対応する電磁石25のパラメータD2(デグレーダ設定処理後のデグレーダ18のエネルギー調整量に応じた電磁石25のパラメータD2)が含まれるものではない。
つづいて、電磁石電源27により、レイヤ制御部37からの層切り替え信号SGに基づいて、切り替え後の層L2に対応する電磁石25のパラメータD2(デグレーダ設定処理後のデグレーダ18のエネルギー調整量に応じた電磁石25のパラメータD2)が設定される(S205)。これにより、切り替え後の層L2に対応した電流が電磁石25に供給され、切り替え後の層L2に対して、荷電粒子線の適切な照射が可能となる。
最後に、レイヤ制御部37によりスキャニング制御部36に対して切り替え完了信号が送信される(S206)。以上が、層切り替え時におけるパラメータ設定処理である。レイヤ制御部37による切り替え完了信号の送信を契機として、スキャニング制御部36はスキャニング電磁石21に対して照射開始信号を送信する。このようなS201〜S206の処理が繰り替えされることにより、各層へ切り替える際のパラメータ設定処理が行われる。すなわち、例えば、層Ln−1から層Lnに切り替える際にも上述したS201〜S206の処理が行われることにより切り替え後の層Lnのパラメータ設定が行われる。そして、最後に、層LNに対するS201の処理(全スポットへ照射)が完了すると、スキャニング制御部36により、被照射体の全層への照射が完了した旨の照射完了信号がメイン制御部31に送信され、該当の患者に対する放射線治療が完了する。
次に、本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1では、荷電粒子線を照射する被照射体の層の切り替え時において、レイヤ制御部37から電磁石電源27に対して、切り替え後の層を特定する情報が含まれた層切り替え信号が送信される。
荷電粒子線治療装置において被照射体の層を切り替える際には、荷電粒子線のエネルギーを切り替え後の層に応じたものに変更するとともに、当該エネルギー変更後の荷電粒子線を切り替え後の層に適切に照射すべく、電磁石のパラメータ(電磁石に供給される電流等)を変更する必要がある。従来、被照射体の層を切り替える際には、電磁石電源を制御する装置から各電磁石電源に対して、対応する電磁石の切り替え後の層に関するパラメータを都度送信していた。電磁石のパラメータは電磁石毎にそれぞれ異なる値であり、また、パラメータには電磁石に供給する電流等の複数の情報が含まれているため、電磁石電源を制御する装置と各電磁石電源とのデータ通信には時間を要していた(例えば1秒程度)。これにより層の切り替えに時間がかかっていた。
この点、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1では、電磁石電源27が、被照射体における層毎の電磁石25のパラメータを記憶する記憶部27aを有している。そして、上述したように、層の切り替え時においては、レイヤ制御部37が、電磁石電源27に対して切り替え後の層を特定する情報が含まれた層切り替え信号を送信する。そのため、電磁石電源27では、レイヤ制御部37から送信された層切り替え信号に基づいて、記憶部27aが記憶する切り替え後の層の電磁石25のパラメータを設定することができる。このように、電磁石電源27の記憶部27aに各層の電磁石25のパラメータを記憶させておくことで、層の切り替え時において、電磁石電源を制御する装置(レイヤ制御部37)から電磁石電源27に対して各層のパラメータ自体を送信する必要がなく、単に切り替えのタイミングを知らせる信号(切り替え後の層を特定する情報が含まれた層切り替え信号)を送信すればよい。このことで、レイヤ制御部37と各電磁石電源27とのデータ通信時間を大幅に短縮(例えば10msec)できる。これによって、層の切り替え時間を短縮し照射時間を短縮することができる。
また、上述したように、レイヤ制御部37から電磁石電源27に対して送信される層切り替え信号には層を特定する情報が含まれている。そして、電磁石電源27は、層切り替え信号に含まれる層を特定する情報と、記憶部27aが記憶する各層に対応する電磁石25のパラメータとから、特定された層に対応する電磁石25のパラメータを設定する。このように、層切り替え信号に層を特定する情報が含まれていることにより、電磁石電源27は切り替え後に設定する層のパラメータを一意に特定することができ、層の切り替え処理が容易になる。
また、被照射体の周りを回転可能な回転ガントリ23に照射ノズル12が取り付けられていることにより、被照射体に対して、荷電粒子線を多方向から照射できる。これにより、被照射体への荷電粒子線の照射をより効果的に行うことができる。
また、デグレーダ18が、加速器11と回転ガントリ23との間に設けられていることにより、加速器11から出射された荷電粒子線を、被照射体への照射前に確実にエネルギー調整することができる。
ここで、デグレーダ18は、荷電粒子線を受けて当該荷電粒子線のエネルギ―を低下させるものであり、高度に放射化してガンマ線や中性子線を発するものであるところ、仮にデグレーダ18が回転ガントリ23側(すなわち被照射体側)に近づけて配置された場合には、被照射体側において照射に係る構成内の放射線量が高くなるおそれがある。この点、デグレーダ18は、回転ガントリ23よりも加速器11に近い位置に設けられ、被照射体から十分に離間した位置においてエネルギーの調整を行うものであるため、被照射体側において照射に係る構成内の放射線量が高くなることを抑制できる。
なお、荷電粒子線治療装置の構成は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
例えば、スキャニング制御部36及びレイヤ制御部37は別々の構成として説明したが、それぞれの機能を具備する一の構成であってもよい。同様に、ビーム制御部32とスキャニング制御部36は別々の構成として説明したが、それぞれの機能を具備する一の構成であってもよい。また、レイヤ制御部37から電磁石電源27に送信される層切り替え信号は、層を特定する情報を含んでいるとして説明したが、必ずしも層を特定する情報が含まれている必要はなく、単に層の切り替えのタイミングを知らせる信号であってもよい。この場合には、電磁石電源の記憶部において各層の照射順序が記憶されているとともに、電磁石電源が設定しているパラメータが常に管理されている必要がある。これにより、層切り替え信号が単に層の切り替えのタイミングを知らせる信号であっても、切り替え後の層に対応する電磁石のパラメータを特定し、設定することができる。
また、回転ガントリ23を用いず照射ノズルを固定して固定照射するものであってもよい。また、デグレーダ18に替えて、別のデグレーダを、サイクロトンよりも回転ガントリに近い位置に設けてもよい。
次に、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1の制御方法について説明する。荷電粒子線治療装置1の制御部30は、一回の治療における装置の制御パターンを記憶している。なお、「一回の治療」とは、被照射体の全ての層L1〜LNに対して荷電粒子線を照射することである。一回の治療は、層L1に対してスキャニングを開始し、最後の層LNに対するスキャニングが終了することによって完了する。制御パターンは、前述の治療計画装置(不図示)が作成する治療計画データに含まれる情報である。従って、制御部30は、治療計画装置から送信される治療計画データを受信することによって、荷電粒子線治療装置による治療の制御パターンを記憶する。
図6(a)は、実施形態に係る荷電粒子線治療装置1における制御パターンを示す概念図である。制御部30は、被照射体に設定される一の層Lnに対して荷電粒子線を照射する照射工程と、照射対象を次の層Ln+1へ切り替える切り替え工程と、を交互に繰り返し実行する。また、制御パターンでは、それぞれの照射工程に対して照射時間t1が設定されると共に、それぞれの切り替え工程に対して照射中断時間t2が設定される。また、制御パターンでは、それぞれの照射工程に対する照射時間t1と、それぞれの切り替え工程に対する照射中断時間t2とは連続して設定されている。照射時間t1と照射中断時間t2とが連続して設定されているとは、一の照射工程と一の切り替え工程との間に他の工程が介在しないことである。すなわち、照射時間t1が経過して一の照射工程が完了した後は、直ちに切り替え工程が開始され、照射中断時間t2が経過して一の切り替え工程が完了した後は、直ちに次の照射工程が開始される。
また、制御パターンでは、一の切り替え工程に対する照射中断時間t2が、一の照射工程に対する照射時間t1よりも短く設定されている。例えば、照射中断時間t2は100ミリ秒程度に設定されている。また、本実施形態の制御パターンでは、照射工程と切り替え工程が交互に繰り返し実行されて、患者の息止め調整工程は含まれていない。従って、制御パターン全体における照射中断時間は、切り替え工程の時間(照射中断時間t2)のみによって構成される。従って、図7に示すように、一回の治療中における照射中断時間の合計は、一回の治療中における照射時間の合計よりも短く設定されている。図7に示すように、照射ノズル12は、被照射体に設定される全ての層に対する照射を10秒以内に完了可能である。すなわち、一回の治療が10秒以内に完了するため、患者が一回息止めをしている最中に治療を完了させることができる。本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1を用いて治療を行う場合、患者が息止め調整を行う工程を省略することができる。なお、図7のグラフにおいて「スキャニング時間」は、個々の照射時間t1の合計値を示しており、「レイヤ切り替え時間」は、個々の照射中断時間t2の合計値を示している。
ここで、比較例として従来の荷電粒子線治療装置の制御パターンについて、図6(b)を参照して説明する。比較例に係る荷電粒子線治療装置の制御パターンでは、一の切り替え工程に対する照射中断時間t2が、一の照射工程に対する照射時間t1よりも長く設定されている。例えば、照射中断時間t2は2秒程度に設定されている。また、比較例に係る制御パターンでは、所定回数だけ照射工程と切り替え工程が交互に繰り返し実行されて、一定時間が経過したタイミングで、息止め調整工程が介在する。息止め調整工程では、息を止めている患者が呼吸をして、再び息止めを行うための姿勢等の調整が行われる。息止め調整工程に対しては照射中断時間t3が設定される。従って、制御パターン全体における照射中断時間は、切り替え工程の時間(照射中断時間t2)及び息止め調整時間(照射中断時間t3)によって構成される。従って、図7に示すように、一回の治療中における照射中断時間の合計は、一回の治療中における照射時間の合計よりも長く設定されている。比較例に係る荷電粒子線治療装置では、特に切り替え工程に要する時間が長いため、患者が一回息止めをしている間に全ての層への照射を完了することができない。従って、治療中に息止め調整時間を確保する必要性が生じ、更に治療時間が長くなる。図7に示すように、複数回息止め調整を行う必要があり、一回の治療に110秒以上要していた。なお、図7に示す比較例のグラフは概念図である。
以上のように、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1では、制御部30が記憶している一回の治療における制御パターンでは、照射ノズル12による荷電粒子線を中断する照射中断時間の合計(ここでは、切り替え工程に対する照射中断時間t2の合計)が、照射ノズル12によって荷電粒子線が照射される照射時間の合計(照射時間t1の合計)よりも短く設定されている。このように、一回の治療中の照射中断時間の合計を照射時間の合計よりも短く設定することによって、一回の治療全体に要する時間を短縮することができる。従って、荷電粒子線治療装置1は、患者が一回息止めをしている間に治療を完了することができ、治療中の患者の負担を低減することができる。
また、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1において制御部30は、被照射体に設定される一の層に対して荷電粒子線を照射する照射工程と、照射対象を次の層へ切り替える切り替え工程と、を交互に繰り返し実行する。また、制御パターンでは、それぞれの照射工程に対して照射時間t1が設定されると共に、それぞれの切り替え工程に対して照射中断時間t2が設定され、それぞれの照射工程に対する照射時間t1と、それぞれの切り替え工程に対する照射中断時間t2とは連続して設定されている。このように、制御パターンでは、照射工程に対して設定された照射時間t1と、切り替え工程に対して設定された照射中断時間t2とが、交互に連続して設定されている。すなわち、各工程の途中に患者が呼吸を整えるための時間を確保しなくともよく、層の切り替えが完了したら直ちに次の層への照射を行うことにより、治療時間を短縮することができる。
また、本発明に係る荷電粒子線治療装置1において、照射ノズル12は、被照射体に設定される全ての層に対する照射を10秒以内に完了可能である。これによって、患者が一回息止めをしている間に治療を完了することができ、治療中の患者の負担を低減することができる。
一回の治療中の照射中断時間の合計を照射時間の合計よりも短く設定するための技術は、上述の荷電粒子線治療装置1のように電磁石への信号送付時間を短縮するものに限定されない。例えば、電磁石内のエネルギーが消費されるまでの時間を短縮する技術を採用してもよい。具体的な例としては、図8に示すように、荷電粒子線治療装置100は、放射線療法によるがん治療等に利用される装置であり、荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器11と、荷電粒子線を被照射体へ照射する照射ノズル12(照射部)と、加速器11から出射された荷電粒子線を照射ノズル12へ輸送するビーム輸送ライン13(輸送ライン)と、ビーム輸送ライン13に設けられ、荷電粒子線のエネルギーを低下させて荷電粒子線の飛程を調整するデグレーダ(エネルギー調整部)18と、照射ノズル12及びビーム輸送ライン13に設けられた複数の電磁石25と、複数の電磁石25のそれぞれに対応して設けられた電磁石電源27と、荷電粒子線治療装置100全体を制御する制御部130と、を備えている。本実施形態では、加速器11としてサイクロトロンを採用するが、これに限定されず、荷電粒子線を発生させるその他の発生源、例えば、シンクロトン、シンクロサイクロトン、ライナック等であってもよい。なお、図8に示す荷電粒子線治療装置100の構成は、制御部130を除き、図1に示す荷電粒子線治療装置100と同様であるため、説明を省略する。
次に、図9も参照しながら制御部130及び電磁石電源27の詳細について説明する。なお、図9中では電磁石電源27は一部のみ記載されているが、実際には荷電粒子線治療装置100に設けられた電磁石25の数だけ、対応する電磁石電源27が設けられている。
制御部130は、加速器11から出射された荷電粒子線の被照射体への照射を制御する。制御部130は、スキャニング電磁石21を制御することによって被照射体に設定された層に対して所定のスキャニングパターンに従って荷電粒子線を照射する。また、制御部130は、デグレーダ18を制御することによって荷電粒子線のエネルギーを調整し、荷電粒子線の飛程を調整する。これによって、制御部130は、荷電粒子線を照射する層を切り替えることができる。
電磁石電源27と電磁石25との間には半導体(トランジスタ)50が直列に接続されている。制御部130は、半導体50に入力される電流を制御することによって、半導体50での抵抗を制御することができる。ここで、荷電粒子線を照射する層を切り替えるとき、制御部130は、デグレーダ18を制御して、飛程を短くするために荷電粒子線のエネルギーを低下させる。このとき、荷電粒子線のエネルギーの低下に対応させて電磁石25への励磁量も低下させるために、制御部130は、電磁石電源27から電磁石25へ入力する電流を低下させる。このとき、電磁石25に残ったエネルギーを吸収するために、制御部130は、半導体50の抵抗を上げる。
次に、図10を参照して電磁石電源27及び半導体50周辺の回路構成について詳細に説明する。図10に示すように、電磁石電源27では、電流設定値I.setに設定された電流がラインL1を通過し、電流フィードバック部51、ラインL2及び半導体52を介してラインL4を流れる。ラインL4には抵抗としての半導体50が設けられており、電流は半導体50を介して電磁石25へ流れる。ラインL4には電流モニタ53が設けられており、電流モニタ53は、電流を検出してラインL3を介して電流フィードバック部51に信号を送信することで電流フィードバックを行う。一方、ラインL1からはラインL5が分岐しており、ラインL5には信号生成回路54及びゲート回路55が設けられている。ラインL5は、半導体50に接続されている。このような回路構成においては、電流設定値I.setに設定された電流がラインL1を流れると、信号生成回路54は、当該電流設定値I.setに対応した抵抗設定値Tr.setを設定し信号を生成する。また、ゲート回路55は、抵抗設定値Tr.setに対応した電流を半導体50に入力する。
次に、荷電粒子線の飛程調整方法について、図11及び図12を参照して説明する。図11は、電磁石25へ流す電流と半導体50の抵抗の関係を示す概念図である。図12は、荷電粒子線治療装置100の制御部130で実行される処理内容を示すフローチャートである。図12に示すように、制御部130は、照射ノズル12を制御して、層Lnに対して荷電粒子線をスキャニングパターンに従って照射する(ステップS10)。このとき、制御部130は、電磁石電源27を制御して電磁石25に一定の電流(すなわち、電流設定値I.setが一定)を流すと共に、半導体50が低い抵抗となるように抵抗設定値Tr.setをONに設定する(図11参照)。次に、制御部130は、全ての層L1〜LNに対する照射が完了していないかどうかの判定を行う(ステップS20)。完了していないと判定された場合、制御部130は、照射を行う層の切り替え処理を行う。
具体的には、制御部130は、デグレーダ18を制御することによって荷電粒子線のエネルギーを低下させる(ステップS30)。また、制御部130は、電磁石電源27を制御することによって、電流設定値I.setを下げて電磁石25へ流す電流を低下させる(ステップS40)。このとき、制御部130は、抵抗設定値Tr.setをOFFに設定して、半導体50の抵抗を上げる(ステップS50)。これによって、半導体50が、電磁石25に残ったエネルギーを吸収する。このように、照射する層の切り替えを繰り返すことで、電流設定値I.setは、階段状に低下するような波形を描く。また、抵抗設定値Tr.setは、電流設定値I.setが一定の値に設定されているときはONに設定され、電流設定値I.setが低下するときにのみ、局所的にOFFに設定される。全ての層L1〜LNに対する荷電粒子線の照射が完了したら、S20においてNOと判定され、図12に示す処理が終了する。
次に、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置100の作用効果について説明する。
荷電粒子線治療装置100では、荷電粒子線を照射する被照射体の層を切り替えるときに、制御部130は、デグレーダ18を制御することによって荷電粒子線のエネルギーを低下させて、荷電粒子線の飛程を短くする。このとき、荷電粒子線のエネルギーが低下するため、それに伴って電磁石電源27が電磁石25へ流す電流も低下させる必要がある。電磁石25の電流減少の速度を速くするためには負荷時定数を大きくする必要がある。ここで、電磁石電源27と電磁石25との間に直列に抵抗器を設け、当該抵抗器で負荷(電磁石25)のエネルギーを消費させる構成が考えられる。しかしながら、このような構成では、抵抗器の抵抗が極めて大きくなり、必要のない時(荷電粒子線の照射時)にも大きな抵抗が作用するため、大きな電力が必要になるという問題がある。また、電磁石電源27と電磁石25との間にコンデンサを並列に設けることで電磁石25のエネルギーを回生する場合、電磁石25のインダクタンスが大きいため、非常に大きなコンデンサを設ける必要があるという問題がある。
一方、本実施形態では、制御部130は、荷電粒子線を照射する被照射体の層を切り替えるときに、デグレーダ18を制御することによって荷電粒子線のエネルギーを低下させると共に、電磁石電源27と電磁石25との間に直列に接続された半導体50の抵抗を上げる。半導体50は、電磁石25への電流を減少させるときに必要なタイミングで抵抗を高くして負荷時定数を大きくできるため、電流の低下に要する時間を短縮することができる。すなわち、荷電粒子線を照射する層を切り替えるときの切り替え時間を短縮し、荷電粒子線治療の時間を短縮することができる。例えば、従来の荷電粒子線治療装置では層の切り替えに2秒程度要していたのに対し、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置100では、100ミリ秒程度で層を切り替えることができる。通常、層は数十層設定されるため、層の切り替え時間の合計時間を大幅に短縮することできる。その結果、荷電粒子線治療の時間を大幅に短縮することができる。また、制御部130は、抵抗を大きくする必要のないタイミングでは、半導体50の抵抗を小さくしておくことができるので、抵抗器やコンデンサを配置する際の問題が生じない。
本実施形態に係る荷電粒子線治療装置100において、デグレーダ18は、加速器11と照射ノズル12との間に設けられ、電磁石25には、少なくともビーム輸送ライン13に配置される収束電磁石19又は偏向電磁石20が含まれている。これによって、層を切り替えるときに収束電磁石19又は偏向電磁石20に対する電流の低下に要する時間を短縮できる。
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、電磁石電源周辺の回路構成は図10に示すものに限定されない。また、回転ガントリ23を用いず照射ノズルを固定して固定照射するものであってもよい。また、デグレーダ18に替えて、別のデグレーダを、サイクロトンよりも回転ガントリに近い位置に設けてもよい。また、加速器11がシンクロトロンであり、デグレーダ18が、加速器11内に設けられてもよい。
また、半導体50の抵抗のパターンは図11に示すものに限定されない。例えば、図13に示すような抵抗のパターンを採用してもよい。図13に示すように、電磁石25に流す電流が高い状態では、半導体50の抵抗を低くしておき、数段階電流が下がったときのタイミングで半導体50の抵抗を中間の値に設定しておき、更に数段階電流が下がったときのタイミングで半導体50の抵抗を高く設定してよい。
図8に示す荷電粒子線治療装置100は、図1に示す荷電粒子線治療装置1と同様の作用・効果を奏することができる。すなわち、制御部130が記憶している一回の治療における制御パターンでは、照射ノズル12による荷電粒子線を中断する照射中断時間の合計(ここでは、切り替え工程に対する照射中断時間t2の合計)が、照射ノズル12によって荷電粒子線が照射される照射時間の合計(照射時間t1の合計)よりも短く設定されている。このように、一回の治療中の照射中断時間の合計を照射時間の合計よりも短く設定することによって、一回の治療全体に要する時間を短縮することができる。従って、荷電粒子線治療装置1は、患者が一回息止めをしている間に治療を完了することができ、治療中の患者の負担を低減することができる。
また、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置100において制御部130は、被照射体に設定される一の層に対して荷電粒子線を照射する照射工程と、照射対象を次の層へ切り替える切り替え工程と、を交互に繰り返し実行する。また、制御パターンでは、それぞれの照射工程に対して照射時間t1が設定されると共に、それぞれの切り替え工程に対して照射中断時間t2が設定され、それぞれの照射工程に対する照射時間t1と、それぞれの切り替え工程に対する照射中断時間t2とは連続して設定されている。このように、制御パターンでは、照射工程に対して設定された照射時間t1と、切り替え工程に対して設定された照射中断時間t2とが、交互に連続して設定されている。すなわち、各工程の途中に患者が呼吸を整えるための時間を確保しなくともよく、層の切り替えが完了したら直ちに次の層への照射を行うことにより、治療時間を短縮することができる。
また、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置100において、照射ノズル12は、被照射体に設定される全ての層に対する照射を10秒以内に完了可能である。これによって、患者が一回息止めをしている間に治療を完了することができ、治療中の患者の負担を低減することができる。
なお、本発明において、一回の治療に要する時間を短くするための方法は、上述の図1や図8に記載されたものに限定されない。例えば、被照射体の層の切り替工程において、デグレーダの切り替え速度を速くすることにより(デグレーダの移動に用いるモータの回転速度を速くすることで高速移動させる)、照射中断時間を短くしてもよい。