以下、複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。そして、複数の実施形態及び変形例に記述された構成同士の明示されていない組み合わせも、以下の説明によって開示されているものとする。
(第一実施形態)
図1に示す第一実施形態による排気浄化システム100は、内燃機関ICE等と共に車両に搭載されている。内燃機関ICEは、圧縮自着火式のディーゼルエンジンであり、車両を走行させるための動力源である。内燃機関ICEは、軽油を燃焼させることにより、動力を発生させる。
内燃機関ICEの過給器11には、吸気管12及び排気管13が接続されている。吸気管12は、過給器11のコンプレッサ部に空気を流通させる吸気通路を形成している。排気管13は、過給器11のタービン部から排気浄化システム100に排気ガスを流通させる排気通路を形成している。
尚、以下の説明では、空気及び排気ガスの流れ方向に基づいて、上流側及び下流側が規定される。即ち、吸気管12における上流側は、コンプレッサ部に近い側を示しており、排気管13における下流側は、タービン部に近い側を示している。
排気浄化システム100は、内燃機関ICEの排気系90に設けられている。排気浄化システム100は、内燃機関ICEにおける軽油の燃焼によって生じた物質を浄化する後処理システムである。排気浄化システム100は、内燃機関ICEから排出される排気ガスに含有される物質の中で、特に窒素酸化物(NOx)を窒素(N2)に分解することによって浄化する。排気浄化システム100は、燃料改質装置20、NOx浄化装置30、及び機関制御装置(Engine Control Unit 以下、ECU)50を備えている。
燃料改質装置20は、排気管13の中間に設けられている。排気管13において、過給器11と燃料改質装置20との間には、酸化触媒及びディーゼル微粒子捕集フィルタ等の後処理装置がさらに設けられている。
燃料改質装置20は、燃料(軽油)を改質することによって改質燃料を生成する。改質燃料は、含酸素物質であり、NOx浄化装置30にてNOxの還元に用いられる還元剤である。燃料改質装置20にて還元剤の生成に用いられる燃料は、内燃機関ICEにて動力の発生に用いられる燃料と共有されている。燃料改質装置20は、排気通路を通じてNOx浄化装置30に還元剤を供給する。燃料改質装置20は、燃料噴射弁21、ハウジング24、昇温器22、及び改質触媒23を有している。
燃料噴射弁21は、改質触媒23の上流側に位置し、排気管13又はハウジング24に取り付けられている。燃料噴射弁21は、燃料ポンプ72と接続されている。燃料噴射弁21には、燃料ポンプ72の作動により、燃料タンク71に貯留されている燃料が供給される。燃料噴射弁21は、電磁ソレノイドに電磁力を発生させることにより、排気通路に臨む複数の噴孔から燃料を噴射する。燃料噴射弁21は、噴孔を通過することによって微粒化された燃料を改質触媒23に供給する。
ハウジング24は、金属の薄い板材によって容器状に形成されている。ハウジング24は、昇温器22及び改質触媒23を収容している。ハウジング24は、排気管13と接続されており、排気通路の一部を形成している。
昇温器22は、通電によって発熱する発熱体である。昇温器22は、改質触媒23と一体的に配置されている。昇温器22が発生させた熱量は、改質触媒23に伝達され、改質触媒23を昇温させる。昇温器22は、燃料噴射弁21によって噴射された燃料を間接的に昇温させ、活性化し易い状態にする。
改質触媒23は、例えばハニカム状に形成されたコージェライトに、ゼオライト又は酸化アルミニウム(Al2O3,以下、アルミナ)等をコーティングしたモノリス触媒である。改質触媒23の触媒作用により、燃料の主成分である炭化水素は、部分的に酸化する。その結果、例えばアルデヒド基(CHO)に酸化された状態の部分酸化物(例えばアルデヒド)、或いは一酸化炭素(CO)及び水素(H2)等が還元剤として機能する改質燃料として、燃料改質装置20から供給される。
NOx浄化装置30は、NOx触媒31、及びNOx触媒31を収容する金属製のハウジング35等によって構成されている。NOx触媒31は、担体32及び触媒金属33を有し、ハニカム状に形成されたモノリス触媒である。担体32は、例えばアルミナ等である。担体32は、触媒金属33を担持する基材となる。触媒金属33は、例えば銀(Ag)である。触媒金属33は、担体32の表面に位置し、NOxの還元反応を促進させる。
尚、担体32には、上述のアルミナに加え、ゼオライト、シリカ、チタニア、セリア、及びジルコニアのうちの一つ又は複数を用いることが可能である。また、触媒金属33には、上述の銀に加え、銅(Cu)、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)、ラジウム(Rh)等を用いることが可能である。さらに、コバルト(Co)、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、レニウム(Re)、テクネチウム(Tc)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)等が触媒金属33に用いられてもよい。加えて上記の金属は、酸化物の状態で担体32に担持されていてもよい。また、複数種類の上記金属が単体又は酸化物として、担体32に担持されていてもよい。
NOx触媒31は、触媒温度が低温(約200℃未満)である場合、NOx浄化装置30に流入する排気ガス中のNOxを吸着する。NOx触媒31は、複数の吸着状態でNOxを吸着する。NOx触媒31は、担体32及び触媒金属33に吸着されているNOxの総量に応じて、吸着状態を順に遷移させる。
詳記すると、図2に示すように、NOx触媒31に吸着されているNOxが少量である場合、新たにNOx触媒31に流入するNOxは、触媒金属33及び担体32のうちで、主に触媒金属33にのみ、まず吸着される。そして、触媒金属33へのNOxの吸着量が増加すると、図3に示すように、新たなNOxは、触媒金属33及び担体32のうちで主に担体32に吸着され始める。この状態からNOxの吸着量がさらに増加すると、図4に示すように、新たなNOxは、触媒金属33及び担体32の両方に吸着されるようになる。
NOx触媒31は、触媒温度が高温(約200℃以上)となった場合に、吸着していたNOxを脱離させる。脱離されたNOxは、NOx触媒31の触媒作用により、燃料改質装置20から供給される改質燃料と反応する。改質燃料が還元剤として機能することにより、NOxは、窒素に還元される。排気ガス中にはNOxの他に酸素(O2)も含まれているが、改質燃料は、酸素の存在下においても、NOxと選択的に反応する。
NOx触媒31からのNOxの脱離量は、図5の脱離特性データに示すように、触媒温度が高くなるに従って増加する。加えて、NOxの脱離特性は、担体32と触媒金属33とで互いに異なっている。触媒金属33からの脱離は、担体32からの脱離よりも低い触媒温度で開始される。さらに、触媒金属33からの脱離速度は、担体32からの脱離速度よりも高くなる。
ECU50は、内燃機関ICEに係る制御を統合的に実施する制御装置である。ECU50は、プロセッサ51、RAM52、記憶媒体53、並びに計測信号及び制御信号の入出力インターフェース54を有するマイクロコンピュータを主体に構成されている。ECU50は、複数の車載センサ40と接続されている。車載センサ40には、アクセルペダル及びステアリング等へ入力された運転者の操作情報を検出するセンサ、並びに回転速度及び吸気温度等の内燃機関ICEに係る稼働情報を検出するセンサが含まれている。さらにECU50には、後処理に係る構成として、燃料噴射弁21、昇温器22、及び燃料ポンプ72に加えて、排気ガスセンサ41,42、排気温度センサ43、触媒温度センサ44、NOxセンサ45、及びエアフロメータ46等が接続されている。
排気ガスセンサ41,42はそれぞれ、排気ガス中の酸素濃度に応じた信号を出力するO2センサと、排気ガス中のNOx濃度に応じた計測信号を出力するNOxセンサとを組み合わせた構成である。排気ガスセンサ41は、改質触媒23の上流側に配置され、改質触媒23に流入する排気ガスの酸素濃度及びNOx濃度を検出する。排気ガスセンサ42は、改質触媒23の下流側に配置され、NOx触媒31に流入する排気ガスの酸素濃度及びNOx濃度を検出する。
排気温度センサ43及び触媒温度センサ44は、熱電対又はサーミスタ等である。排気温度センサ43は、NOx触媒31の上流側に配置され、NOx触媒31に流入する排気ガスの温度に応じた計測信号を出力する。触媒温度センサ44は、ハウジング35に取り付けられており、NOx触媒31の触媒温度に応じた計測信号を出力する。NOxセンサ45は、NOx触媒の下流側に配置され、NOx触媒31を通過した排気ガスのNOx濃度に応じた計測信号を出力する。
エアフロメータ46は、吸気管12に設けられている。エアフロメータ46は、白金熱線等を有するセンサであり、吸気通路を流れる空気の流速に応じた計測信号を出力する。エアフロメータ46の計測信号に基づき、内燃機関ICEに供給される吸入空気の流量がECU50に取得される。
ECU50は、プロセッサ51による排気浄化処理プログラムの実行により、図6に示す吸着量推定部61、脱離量推定部62、及び還元制御部63を、NOxの後処理に係る機能ブロックとして構築する。以下、ECU50に構築される各機能ブロックの詳細を、図6及び図1に基づき説明する。
吸着量推定部61は、後述する吸着量推定処理(図10参照)により、NOx触媒31の各吸着状態に対応した方法により、NOx触媒31に吸着されているNOxの吸着量を推定する。上述したように、NOx触媒31は、吸着しているNOxの総量に応じて、換言すれば、触媒金属33及び担体32それぞれに吸着されたNOxの吸着量に応じて、吸着状態を切り替える。故に吸着量推定部61は、NOx触媒31の触媒金属33及び担体32それぞれに吸着されているNOxの量を個別に算定し、算定した量に応じて、想定する吸着状態を順に切り替える。
具体的に、吸着量推定部61には、第一閾値a1及び第二閾値a2が予め設定されている。第一閾値a1は、新たなNOxの吸着先が触媒金属33から担体32に切り替わる臨界点を示す閾値である。第二閾値a2は、新たなNOxの吸着先が担体32から触媒金属33及び担体32の両方に切り替わる臨界点を示す閾値である。
吸着量推定部61は、最初、触媒金属33に吸着されているNOxの量が第一閾値a1未満である場合には、新たにNOx触媒31に流入するNOxが実質全て触媒金属33に吸着される吸着状態を想定して、吸着量を推定する(図2参照)。この場合、触媒金属33のNOx吸着量は、NOx触媒31におけるNOxの総吸着量と実質同一の値となる。
さらに吸着量推定部61は、触媒金属33のNOx吸着量が第一閾値a1以上である場合に、新たにNOx触媒31に流入するNOxが全て担体32に吸着される吸着状態を想定して、吸着量を推定する(図3参照)。吸着量推定部61は、担体32のNOx吸着量が第二閾値a2以上となるまで、NOxが担体32に吸着される吸着状態の想定を継続する。
そして吸着量推定部61は、担体32のNOx吸着量が第二閾値a2以上である場合に、新たにNOx触媒31に流入するNOxが触媒金属33及び担体32の両方に吸着される吸着状態を想定して、吸着量を算定する(図4参照)。この場合、触媒金属33及び担体32のそれぞれにNOxが吸着される割合(以下、吸着割合)は、吸着量推定部61により、NOx触媒31の状態に応じて調整される。吸着割合の決定に用いられる検出パラメータは、NOx触媒31の触媒温度、NOx触媒31に流入する排気ガス(以下、触媒流入ガス)の流量、酸素濃度、及びNOx濃度、並びに触媒金属33及び担体32に既に吸着されているNOx量等である。
脱離量推定部62は、後述する脱離量推定処理(図9参照)の実施により、NOx触媒31から脱離されるNOxの脱離量を推定する。脱離量推定部62による脱離量の推定は、吸着量推定部61によって推定された触媒金属33及び担体32それぞれのNOx吸着量に基づいて行われる。詳記すると、NOx触媒31からのNOxの脱離特性は、上述したように触媒金属33と担体32とで互いに異なっている。触媒金属33及び担体32のそれぞれからのNOxの脱離速度は、以下の数式1,2に基づいて算出可能である。
以上の式では、αが適合パラメータであり、[NOx]がNOxの吸着量であり、Eが活性化エネルギーであり、Rが気体定数であり、Tが触媒温度である。[NOx]には吸着量推定部61によって推定された個別の推定値が用いられ、Tには触媒温度センサ44によって計測された値が用いられる。そして、NOx触媒31からのNOxの脱離量は、以下の数式3のようになる。
還元制御部63は、後述する還元制御処理(図8参照)の実施により、脱離量推定部62によって推定されたNOxの脱離量を用いて、燃料改質装置20からNOx触媒31に供給される改質燃料の供給量を設定する。そのために、還元制御部63は、触媒温度と、触媒流入ガスの情報を取得する。触媒流入ガス情報には、例えばガス流量、酸素濃度、及びNOx濃度が含まれる。尚、ガス流量には、エアフロメータ46の計測に基づく吸気流量の値が流用される。
還元制御部63は、記憶媒体53に記憶された供給量設定マップ(図7参照)に基づき、改質燃料の供給量を設定する。供給量設定マップは、排気ガス中のNOx濃度と、その排気ガスに含まれるNOxの還元に必要な還元剤量との相関を示す制御マップである。供給量設定マップは、触媒温度、ガス流量、及び酸素濃度毎に予め複数作成されており、記憶媒体53に記憶されている。
還元制御部63は、還元剤の供給量を設定するに際して、最新の触媒温度、ガス流量、及び酸素濃度に対応じた供給量設定マップを選択する。加えて還元制御部63は、推定されたNOxの脱離量と、触媒流入ガスのガス流量及びNOx濃度とを用いて、NOx浄化装置30内のNOx濃度を推定する。そして還元制御部63は、選択した供給量設定マップに基づき、推定したNOx濃度に対応する還元剤量を決定する。
還元制御部63は、決定した還元剤量がNOx触媒31に供給されるように、燃料改質装置20による改質燃料の供給を制御する。還元制御部63は、燃料噴射弁21及び燃料ポンプ72へ向けて出力する制御信号により、排気通路に投入される燃料量を増減させる。さらに還元制御部63は、昇温器22へ向けて出力する制御信号により、改質触媒23を昇温させる。こうした昇温器22の制御により、改質触媒23を通過した改質燃料の活性度の高さが調整される。
さらに還元制御部63は、NOx触媒31の下流側に位置するNOxセンサ45により、NOx濃度の異常値を検出した場合に、緊急の強制脱離制御を開始する。異常値は、予め設定されたNOx濃度の値であり、例えば内燃機関ICEの異常動作によって多量のNOxが排出されたシーンを想定した値である。以上のように、多量のNOxが排出された場合、吸着量推定部61にて算定されるNOx吸着量の累積値に大きな狂いが生じ易い。故に、還元制御部63は、排気ガス中のNOxを還元させるだけでなく、NOx触媒31に吸着されたNOxが実質的に全て脱離するよう、燃料改質装置20によって供給される還元剤の供給量を増加させる。以上により、吸着量推定部61は、NOxの吸着量の推定を一旦リセットすることができる。
次に、ここまで説明した吸着量推定部61、脱離量推定部62、及び還元制御部63にて実施される各処理を整理し、図8〜図10,図12のフローチャートに基づき、図1及び図6を参照しつつ説明する。まず図8のフローチャートに基づいて、還元制御処理の詳細を説明する。還元制御処理は、内燃機関ICEの稼動の開始に伴い、還元制御部63によって開始され、内燃機関ICEが停止されるまで繰り返される。
S101では、触媒温度及び触媒流入ガス情報を取得し、S102に進む。S102では、後述する脱離量推定処理(図9参照)によって推定されたNOx脱離量の推定値を脱離量推定部62から取得し、S103に進む。S103では、供給量設定マップ(図7参照)を用いて必要な還元剤の供給量を決定する。そして、決定した供給量の還元剤がNOx触媒31に供給されるような燃料噴射を燃料噴射弁21に実行させて、S101に戻る。
次に、還元制御処理のS102にて取得される推定値を算出する脱離量推定処理の詳細を、図9のフローチャートに基づいて説明する。脱離量推定処理は、内燃機関ICEの稼動開始に伴って脱離量推定部62により開始され、内燃機関ICEが停止されるまで繰り返される。
S111では、S101と同様に、触媒温度及び触媒流入ガス情報を取得し、S112に進む。S112では、後述する吸着量推定処理(図10参照)によって推定されたNOxの吸着状態及びNOx吸着量の推定値を吸着量推定部61から取得し、S113に進む。S113では、上述の数式1〜3に基づき、NOx触媒31から脱離するNOxの脱離量を推定し、S111に戻る。S113による脱離量の推定値が、S102にて脱離量推定部62に取得される。
次に、脱離量推定処理のS112にて取得される推定値を算出する吸着量推定処理の詳細を、図10のフローチャートに基づいて説明する。吸着量推定処理は、内燃機関ICEの稼動開始に伴って吸着量推定部61により開始され、内燃機関ICEが停止されるまで繰り返される。
S121では、S101と同様に、触媒温度及び触媒流入ガス情報を取得し、S122に進む。S122では、前回までの吸着量推定処理によって推定されたNOxの総吸着量を取得し、S123に進む。
S123では、新たに吸着されるNOxの吸着量を算出し、S124に進む。S123では、図11に示す吸着率算定マップが用いられる。吸着率算定マップには、NOx触媒31に吸着されているNOxの総量と、そのときのNOx触媒31のNOx吸着率との相関が示されている。吸着率算定マップは、触媒流入ガスのガス流量、NOx濃度、及び酸素濃度毎に、予め複数作成されており、記憶媒体53に記憶されている。S123では、S121にて取得された触媒流入ガス情報に基づき、現在のNOx触媒31の状態に対応する吸着率算定マップを選択する。そして、選択された吸着率算定マップに基づき、S122にて取得された総NOx吸着量から、NOxの吸着率が決定される。さらに、S121にて取得された排気ガスの流量及びNOx濃度に基づき、今回分として新たにNOx触媒31に吸着されるであろうNOxの吸着量を算出する。
S124及びS125では、NOx触媒31の吸着状態が判定される。具体的に、S124では、触媒金属33のNOx吸着量が第一閾値a1未満か否かを判定する。S124にて、触媒金属33のNOx吸着量が第一閾値a1以上であると判定した場合、S125に進む。一方、S124にて、触媒金属33のNOx吸着量が第一閾値a1未満であると判定した場合、S126に進む。S126では、触媒金属33について推定されるNOx吸着量を、S123にて算出されたNOxの吸着量分だけ増加させて、S121に戻る。
S125では、触媒金属33のNOx吸着量に担体32のNOx吸着量を加えた値が第二閾値a2未満か否かを判定する。S125にて、担体32のNOx吸着量が第二閾値a2未満となるような値であった場合、S127に進む。S127では、担体32について推定されるNOx吸着量を、S123にて算出されたNOxの吸着量分だけ増加させて、S121に戻る。
一方、S125にて、担体32のNOx吸着量が第二閾値a2以上となるような値であった場合、S128に進む。S128では、NOx触媒31の状態に応じて設定された吸着割合に基づき、S122にて算出されたNOxの吸着量分を触媒金属33及び担体32に割り振り、これらについて推定されるNOx吸着量を増加させる。以上のS126〜S127の処理によれば、触媒金属33及び担体32それぞれのNOx吸着量が累積値として個別にカウントされる。
尚、S125にて用いられる第二閾値a2は、NOx触媒31の総NOx吸着量と比較される閾値として設定されていた。しかし、第二閾値a2は、触媒金属33に第一閾値a1相当のNOxが吸着していることを前提とし、担体32のNOx吸着量と比較される閾値として設定されてもよい。
次に、強制脱離処理の詳細を、図12のフローチャートに基づいて説明する。この強制脱離処理は、内燃機関ICEの稼働中において、還元制御部63により、還元制御処理(図9参照)と並行処理される。
S141では、NOx触媒31を通過した排気ガス中のNOx濃度を、NOxセンサ45から取得し、S142に進む。S142では、S141にて取得されたNOx濃度が異常値を超えているか否かを判定する。S142にて、NOx濃度が異常値を超えていないと判定した場合、S143〜S146をスキップして、S141に戻る。一方、S142にて、NOx濃度が異常値を超えていると判定した場合、S143に進む。
S143では、強制脱離のための燃料噴射を燃料噴射弁21に開始させ、S144に進む。S143によって供給される改質燃料は、内燃機関ICEから多量に排出されたNOxを還元させると共に、NOx触媒31から実質全てのNOxを脱離させる。S144では、S141と同様に、NOx触媒31から排出される排気ガス中のNOx濃度を、NOxセンサ45から取得し、S145に進む。
S145では、S144にて取得したNOx濃度が正常値に戻っているか否かを判定する。正常値は、異常値よりも大幅に低いNOx濃度を示す値である。S145にて、NOx濃度が依然として正常値以上であると判定した場合、S144及びS145の繰り返しによってNOx濃度の低下を待つ。そして、NOx濃度が正常値未満となった場合に、S146に進み、S143にて開始した強制脱離のための燃料噴射を終了し、通常の後処理の制御に戻す。このとき、S122にて取得されるNOxの総吸着量、及びS126〜S126にてカウントされる触媒金属33及び担体32の累積吸着量は、全てリセットされ、ゼロに戻される。
ここまで説明した第一実施形態では、NOx触媒31が複数の吸着状態を有していても、吸着量推定部61は、NOx触媒31の吸着状態毎にNOxの吸着量を推定できる。こうして推定された吸着量の推定値に基づくことにより、脱離量推定部62にて推定されるNOxの脱離量は、実際のNOx触媒31の吸着状態を反映した値となる。したがって、排気浄化システム100は、NOxの脱離量を精度良く推定できる。
加えて第一実施形態の吸着量推定部61は、総NOx吸着量の増加に伴って吸着状態を遷移させるNOx触媒31の特性に合わせて、想定する吸着状態を切り替え、触媒金属33及び担体32それぞれのNOx吸着量をカウントできる。このように、実際のNOx触媒31に生じている吸着現象を忠実に推定へ反映させることで、吸着量推定部61は、さらに正確なNOx吸着量を取得可能になる。
また第一実施形態の吸着量推定部61は、NOxの総吸着量が第一閾値a1を超えた場合に、新たに流入したNOxの吸着先を触媒金属33から担体32へと切り替える。さらに吸着量推定部61は、NOxの総吸着量が第二閾値a2を超えた場合に、新たに流入したNOxの吸着先を触媒金属33及び担体32の両方に切り替える。以上のように、実際のNOx触媒31の吸着状態を忠実に再現した推定手法を用いることで、吸着量推定部61は、触媒金属33及び担体32それぞれのNOx吸着量をさらに精度良く推定できる。
さらに第一実施形態の吸着量推定部61は、触媒金属33及び担体32の吸着割合を、NOx触媒31の温度等の条件によって変化させる。故に、吸着量推定部61は、触媒金属33及び担体32の両方にNOxが吸着される吸着状態においても、触媒金属33及び担体32それぞれのNOx吸着量を精度良く推定できる。
加えて第一実施形態では、高精度に推定されたNOxの脱離量を用いて、NOx触媒31に供給される改質燃料の供給量が設定される。故に、NOx触媒31には、ハウジング35に流入する排気ガス中のNOxを還元するのに適量の改質燃料が還元剤として届けられる。以上によれば、還元剤の不足によって多くのNOxがNOx触媒31を通過してしまう事態、及び余分な還元剤の供給によって燃費が悪化する事態は、共に防止される。
さらに第一実施形態では、内燃機関ICEに生じた不測の事態により、多量のNOxが内燃機関ICEから排出された場合でも、還元制御部63は、還元剤の供給量を増加させて、NOx触媒31を通過するNOxを低減させることができる。故に、排気浄化システム100は、不測の事態に伴う排気の悪化を最小限に抑制できる。
加えて第一実施形態では、内燃機関ICEから多量のNOxが排出された場合、NOx触媒31に吸着されたNOxを実質全て脱離させたうえで、吸着量推定部61にて積算されていたNOx吸着量の値が全てリセットされる。以上の処理によれば、実際の値と乖離したNOx吸着量の推定値に基づき、還元剤の供給制御が継続されてしまう事態は、防がれる。したがって、排気浄化システム100は、内燃機関ICEの異常が偶発的に生じたとしても、NOx浄化機能を正常な状態に回復させることができる。
尚、第一実施形態において、第一閾値a1が「触媒金属閾値」に相当し、第二閾値a2が「担体閾値」に相当し、内燃機関ICEが「機関」に相当する。また、燃料改質装置20が「還元剤供給器」に相当し、NOx触媒31が「触媒」に相当し、NOxセンサ45が「検出部」に相当し、ECU50が「浄化制御装置」に相当し、記憶媒体53が「記憶部」に相当する。
(第二実施形態)
第二実施形態では、図6に示すECU50にて実施される処理の一部が第一実施形態と異なっている。脱離量推定部62は、脱離量推定処理のS113(図9参照)において、第一実施形態の数式1,2を用いることなく、予め作成された脱離速度マップを用いて、NOx触媒31(図1参照)からのNOx脱離量を推定する。
脱離速度マップは、単位NOx吸着量あたりにおいて、触媒温度とNOx脱離速度との相関を示す脱離特性データである(図5参照)。一つの脱離速度マップには、触媒金属33(図2参照)の脱離速度を示す相関線と、担体32(図2参照)の脱離速度を示す相関線が個別に設定されている。脱離速度マップは、触媒流入ガスのガス流量、NOx濃度、及び酸素濃度毎に、予め複数作成されている。ECU50の記憶媒体53(図1参照)には、触媒流入ガスの状態毎に作成された複数の脱離速度マップが記憶されている。
脱離量推定部62は、図9に示す脱離量推定処理のS113において、S111にて取得した触媒流入ガス情報に基づき、複数の脱離速度マップの中から、現在の触媒流入ガスの状態に対応した一つを選択する。次に脱離量推定部62は、選択した脱離速度マップを用いて、触媒金属33及び担体32(図2参照)のそれぞれについて、S111にて取得した触媒温度に基づき、単位NOx吸着量あたりにおけるNOx脱離速度を導出する。そして脱離量推定部62は、導出したNOx脱離速度と、S112にて取得したNOx吸着量とを掛け合わせることにより、触媒金属33及び担体32それぞれから脱離されるNOxの脱離量を算定する。
次に、第二実施形態の吸着量推定部61による吸着量推定処理の詳細を、図13に示すフローチャートに基づき、図4及び図6を参照しつつ説明する。尚、第二実施形態の吸着量推定処理におけるS221〜S227は、第一実施形態のS121〜S127(図10参照)と実質同一である。
吸着量推定部61は、吸着量推定処理のS228において、想定するNOx触媒31の吸着状態を、担体32のみにNOxが吸着される吸着状態から、触媒金属33及び担体32の両方にNOxが吸着される吸着状態に切り替える。このとき吸着量推定部61は、NOx吸着量の積算を行うことなく、NOx触媒31からNOxを脱離及び還元させる制御の開始を設定する。
S228にて、脱離及び還元制御の開始が設定されると、脱離量推定部62は、脱離量推定処理のS113(図9参照)にて、NOx脱離量の推定を行わない。そして還元制御部63は、還元制御処理のS103(図8参照)にて、NOx触媒31に吸着されている全てのNOxが脱離及び還元されるように、還元剤の供給量を設定し、燃料噴射を開始させる。還元剤の供給量は、第一実施形態の供給量設定マップとは異なる制御マップに基づいて設定される。以上の処理により、触媒金属33及び担体32の両方にNOxを吸着させる吸着状態でのNOx触媒31の利用が制限される。
ここまで説明した第二実施形態でも、NOx脱離量の推定に、実際のNOx触媒31の吸着状態が反映される。故に、推定されるNOx脱離量は、高い精度を獲得できる。
加えて第二実施形態の脱離量推定部62は、予め記憶された脱離速度マップに基づいて、NOx脱離量を推定する。このように、制御マップを用いた処理は、複雑な数式を用いた処理よりも、プロセッサ51(図1参照)の演算処理の負荷軽減に寄与し得る。加えて、実際の使用条件にて不可避的に生じる誤差を鑑みて脱離速度マップを作成しておけば、吸着量推定部61は、さらに精度良くNOx脱離量を推定可能になる。
さらに第二実施形態のNOx触媒31は、触媒金属33及び担体32の両方にNOxを吸着させる吸着状態での利用を制限される。触媒金属33及び担体32の両方にNOxを吸着させる吸着状態で吸着されたNOxは、NOx触媒31から脱離し難い傾向にある。故に、NOxを脱離させる際に、多くのエネルギーが消費されてしまう。そのため、担体32のNOx吸着量が第二閾値a2を超えた場合に脱離制御を開始させることで、NOxの効率的な浄化が実現できる。
(第三実施形態)
第三実施形態は、第二実施形態の変形例である。第三実施形態では、第二実施形態とは異なる吸着量推定処理が実施される。以下、図14に示すフローチャートに基づき、図3及び図6を参照しつつ、第三実施形態の吸着量推処理を説明する。尚、図14のS321〜S325は、第二実施形態のS221〜S224,S226(図13参照)と実質同一である。
吸着量推定部61は、S326において、想定するNOx触媒31の吸着状態を、触媒金属33のみにNOxが吸着される吸着状態から、担体32のみにNOxが吸着される吸着状態へ切り替える。このとき吸着量推定部61は、第二実施形態のS228(図13参照)と同様に、NOx吸着量の積算を行うことなく、NOx触媒31からNOxを脱離及び還元させる制御の開始を設定する。
その結果、還元制御部63は、還元制御処理のS103(図8参照)において、燃料改質装置20による還元剤の供給により、NOx触媒31に吸着されている全てのNOxを脱離及び還元させる制御を開始する。以上の処理により、担体32のみにNOxを吸着させる吸着状態でのNOx触媒31の利用が制限される。
ここまで説明した第三実施形態でも、触媒金属33のみにNOxが吸着される吸着状態を想定したNOxの脱離量の推定が行われる。その結果、NOxの脱離量は、高精度に推定されるようになる。
加えて第三実施形態のNOx触媒31は、担体32にNOxを吸着させる吸着状態での使用を制限され、触媒金属33のみにNOxを吸着させる吸着状態で主に使用される。触媒金属33からNOxを脱離させるエネルギーは、担体32からNOxを脱離させるエネルギーよりも低いため、効率的なNOxの浄化が可能になる。
(他の実施形態)
以上、複数の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
上記実施形態における吸着量推定処理では、触媒金属33及び担体32の各NOx吸着量を第一閾値a1及び第二閾値a2と比較することで、想定される吸着状態が切り替えられていた。しかし、第一閾値及び第二閾値は、総NOx吸着量と比較される閾値として設定されてもよい。
上記第一実施形態では、触媒金属33及び担体32の各表面にNOxが吸着される図2〜図4のイメージに基づき、NOx触媒31における吸着状態の遷移が説明されていた。しかし、図2〜図4は、吸着状態の遷移の理解を容易にするための模式図の一例であって、実際のNOx触媒がNOxをトラップする現象の忠実な図示をしていない。NOx触媒によるNOxのトラップは、例えばNOx吸着量が増加するに従って、担体32の深い位置にNOxが吸着されるイメージで解釈されてもよい。
上記実施形態の燃料改質装置20は、排気管13の途中に設けられていた。しかし、燃料改質装置は、例えば排気管と並列に設置されており、改質燃料を供給する供給管の先端を排気管に合流させた構成であってもよい。こうした構成であれば、排気ガスの含有成分に起因した燃料噴射弁、昇温器、及び改質触媒等の性能低下は、防がれる。
また、上記実施形態の燃料改質装置20は、還元剤として改質燃料を供給する構成であった。しかし、例えば燃料改質装置は、改質燃料と共にオゾンを供給する構成であってもよい。さらに、尿素から生成したアンモニアを還元剤として供給可能な「還元剤供給器」が排気浄化システムに設けられていてもよい。
上記第一実施形態の吸着量推定部は、触媒温度等に応じて、触媒金属33及び担体32に吸着されるNOxの吸着割合を調整していた。しかし、吸着量推定部は、予め設定された一定の吸着割合で、触媒金属及び担体のそれぞれに吸着されるNOx吸着量を積算していってもよい。
上記実施形態では、NOx触媒の下流側に設けたNOxセンサにて検出されるNOx濃度が異常値を超えた場合に、フェールセーフとして、多量の還元剤を供給する制御が開始されていた。しかし、こうしたフェールセーフのための制御は、省略されてもよい。また上記実施形態では、NOx触媒から全てのNOxが脱離するまで、緊急用の還元剤の投入が継続された。しかし、排気浄化システムは、NOx濃度が正常に回復した時点で、通常の浄化制御に戻すことができる。
上記実施形態において、ECU50のプロセッサ51等によって提供されていた機能は、上述のものとは異なるハードウェア及びソフトウェア、或いはこれらの組み合わせによって提供可能である。例えば、内燃機関ICEの稼動を統合制御するECU50とは別に設けられた後処理専用の制御回路が、「浄化制御装置」として、還元制御処理、脱離量制御処理、吸着量推定処理、及び強制脱離処理の一部又は全部を実行してもよい。さらに、プロセッサ51にて実行されるプログラム及び各制御マップ等を記憶する記憶媒体53には、フラッシュメモリ及びハードディスク等の種々の非遷移的実体的記憶媒体が採用可能である。
上記実施形態では、車両に搭載された内燃機関から排出される排気ガスを浄化する排気浄化システムに、本発明を適用した例を説明した。しかし、車載された内燃機関に限らず、船舶、鉄道車両、及び航空機等に搭載された内燃機関又は外燃機関の排気ガスを浄化する排気浄化システムにも、本発明は適用可能である。さらに、発電用の内燃機関又は外燃機関の排気ガスを浄化する排気浄化システムにも、本発明は適用可能である。