JP6429306B2 - Cfc症候群モデルマウスの作製とその治療法の確立 - Google Patents

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Description

本発明は、例えばCFC症候群モデルマウス及び当該モデルマウスを使用したCFC症候群治療剤のスクリーニング方法、並びにCFC症候群治療剤に関する。
先天性奇形症候群であるCardio-facio-cutaneous(CFC)症候群、Noonan(ヌーナン)症候群及びCostello(コステロ)症候群は、心疾患・特異的顔貌・精神発達遅滞を示す常染色体優性遺伝性疾患である。
2001年にヌーナン症候群の原因としてSHP2タンパク質をコードするPTPN11遺伝子の変異が同定された(非特許文献1)。その後、2005年に、本発明者等は、コステロ症候群の原因遺伝子としてHRAS遺伝子を同定した(非特許文献2)。
また、2006年に、本発明者等は、CFC症候群の原因が生殖細胞系列における癌原遺伝子BRAF遺伝子及びKRAS遺伝子の変異であることを報告した(非特許文献3)。
これら症候群の原因遺伝子は、細胞内シグナル伝達経路であるRAS/MAPKシグナル伝達経路に認められることから「RAS/MAPK症候群」又は「RASopathies」と呼ばれている。
一方、CFC症候群原因遺伝子の同定により、CFC症候群の治療法の開発が望まれているが、CFC症候群の病因を解析するモデルが存在しないため、研究は進んでいない。既存のCFC症候群モデル動物として、ゼブラフィッシュのCFC症候群モデルが報告されている(非特許文献4)ものの、魚類であるため、その異常がヒトのCFC症候群と同一であるか否かは不明瞭であった。
ところで、CFC症候群の類縁疾患であるヌーナン症候群のモデルマウスにおいて、MEK阻害剤(PD0325901、U0126)がヌーナン症候群の治療に有効であることが示されている(非特許文献5〜8)。しかしながら、これらMEK阻害剤がCFC症候群の治療に有効であることは知られていなかった。
また、非特許文献9は、CFC症候群モデルのゼブラフィッシュにMEK阻害剤PD0325901を投与すると、顔貌異常及び心臓異常が改善したことを開示する。しかしながら、上述のように、当該知見は、魚類における結果であるため、哺乳動物であるヒトのCFC症候群にMEK阻害剤PD0325901が有効であるか否かは不明瞭であった。
Tartaglia M. et al., Nature Genetics, 2001年, Vol. 29, pp. 465-468 Aoki Y. et al., Nature Genetics, 2005年, Vol. 37, pp. 1038-1040 Niihori T. et al., Nature Genetics, 2006年, Vol. 38, pp. 294-296 Anastasaki C. et al., Human Molecular Genetics, 2009年, Vol. 18, No. 14, pp. 2543-2554 Chen P.C. et al., The Journal of Clinical Investigation, 2010年, Vol. 120, No. 12, pp. 4353-4365 Wu X. et al., The Journal of Clinical Investigation, 2011年, Vol. 121, No. 3, pp. 1009-1025 Serra-Nedelec A.D.R. et al., PNAS, 2012年, Vol. 109, No. 11, pp. 4257-4262 Deng Y. et al., The Journal of Clinical Investigation, 2013年, Vol. 123, No. 3, pp. 1202-1215 Anastasaki C. et al., Disease Models & Mechanisms 2012年, Vol. 5, pp. 546-552
上述したように、CFC症候群の治療法の開発が望まれているものの、CFC症候群の病因を解析する有用なモデル動物が存在しないため、当該治療法の開発が進んでいない。
そこで、本発明は、このような実情に鑑み、CFC症候群の病因を解析する有用なモデル動物、並びに当該モデル動物を利用してCFC症候群治療剤を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、CFC症候群原因遺伝子BRAFに特定の変異を有するマウス胎児を作製したところ、当該マウス胎児はCFC症候群患者で認められる心疾患(肥大型心筋症、肺動脈弁狭窄)、骨格異常及びリンパ管異常を示すことから、CFC症候群のモデルマウスとして有用であることを見出した。さらに、当該CFC症候群モデルマウスを使用して、CFC症候群治療剤のスクリーニングを行ったところ、MEK阻害剤及びヒストン脱メチル化阻害剤がCFC症候群の治療に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)ヘテロ接合型で野生型BRAF遺伝子と変異型BRAF遺伝子とを有するCFC症候群モデルマウス胎児。
(2)変異型BRAF遺伝子が、配列番号2に記載のアミノ酸配列において、241番目のグルタミンがアルギニンに置換されたアミノ酸配列を有するBRAFタンパク質をコードする遺伝子である、(1)記載のCFC症候群モデルマウス胎児。
(3)(1)又は(2)記載のCFC症候群モデルマウス胎児を妊娠するマウス。
(4)(1)若しくは(2)記載のCFC症候群モデルマウス胎児又は(3)記載の該胎児を妊娠するマウスを用いてCFC症候群治療剤をスクリーニングする方法。
(5)MEK阻害剤及び/又はヒストン脱メチル化阻害剤を有効成分として含有するCFC症候群治療剤。
(6)MEK阻害剤がPD0325901又はMEK162である、(5)記載のCFC症候群治療剤。
(7)ヒストン脱メチル化阻害剤がGSK-J4又はNCDM-32bである、(5)又は(6)記載のCFC症候群治療剤。
(8)MEK阻害剤とヒストン脱メチル化阻害剤とを有効成分として含有する、(5)〜(7)のいずれか1記載のCFC症候群治療剤。
本発明によれば、CFC症候群の特徴を示すモデルマウスが提供される。また、本発明に係るモデルマウスを用いて、CFC症候群に有効な治療剤をスクリーニングすることができる。さらに、本発明によれば、CFC症候群の治療に有効な治療剤が提供される。
ヒトBRAFタンパク質とマウスBRAFタンパク質とのアミノ酸配列の比較を示す。 CFC症候群モデルマウスの作製方法を示す。図中の5、6、7、8は、それぞれBraf遺伝子の各エキソン5、6、7、8を示す。 CFC症候群モデルマウスの作製においてターゲットベクターが導入されたES細胞クローンのサザンブロティングの結果を示す。 各遺伝子型を有する仔マウスのジェノタイピング結果を示す。C:Braf遺伝子のジェノタイピング、D:Cre遺伝子のジェノタイピング、E:Neo遺伝子のジェノタイピング。 CFC症候群モデルマウス(BrafQ241R/+; Cre)におけるBrafQ241Rの発現を示すシークエンス結果を示す。 CFC症候群モデルマウス胎児を示す写真である。A及びB:E16.5におけるCFC症候群モデルマウス胎児の写真、C:E19.5におけるCFC症候群モデルマウス胎児の写真、D:E19.5におけるCFC症候群モデルマウス胎児のアルシアンブルー・アリザリンレッド染色像、E及びF:E19.5におけるCFC症候群モデルマウス胎児の肝臓及び肺のHE染色像。 CFC症候群モデルマウス胎児における心臓発生異常を示す。A:心臓を正面から後方まで連続的に観察した像、B:肺動脈弁肥大を示す拡大像、C:心外膜異常を示す拡大像、D:肉柱形成異常を示す拡大像、E:心室径及び弁の最大径の測定結果を示すグラフ。 CFC症候群モデルマウス胎児におけるリンパ管形成異常を示す。A:E12.5における頸部リンパ管を示すHE染色像(下段の写真は上段の写真における点線枠内の拡大像である)、B:E16.5における頸部リンパ管を示すHE染色像、C:E12.5における頸部リンパ管のLYVE-1免疫染色像、D:E12.5における頸部リンパ管のCD31免疫染色像、E:E16.5における頸部のLYVE-1免疫染色像、F:E16.5における皮膚のLYVE-1免疫染色像。 MEK阻害剤、ヒストン脱メチル化阻害剤併用によるCFC症候群モデルマウスの心疾患の改善を示す。A:PD0325901とGSK-J4との併用投与による肺動脈弁肥大の改善を示す写真、B:PD0325901とGSK-J4との併用投与後の心室径及び弁の厚みの測定結果を示すグラフ。
本発明に係るCFC症候群モデルマウスは、ヘテロ接合型で野生型BRAF遺伝子と変異型BRAF遺伝子とを有するCFC症候群モデルマウス胎児である。当該マウス胎児は、ヒトCFC症候群患者で認められる心疾患(肥大型心筋症、肺動脈弁狭窄)、骨格異常及びリンパ管異常を発症する。また、当該変異型BRAF遺伝子をヘテロ接合型で有することで、本発明に係るCFC症候群モデルマウスは胎性期及び新生児期早期に致死となるため、例えば胎生期並びに生後1日までのマウス胎児を、CFC症候群モデルマウスとして使用することができる。又は、当該マウス胎児を妊娠した状態の母親マウスを、CFC症候群モデルマウスとして使用することができる。
ここで、野生型BRAF遺伝子としては、マウスBRAF遺伝子(塩基配列:配列番号1)、マウスBRAFタンパク質(アミノ酸配列:配列番号2)をコードする遺伝子等が挙げられる。
一方、変異型BRAF遺伝子とは、野生型マウスBRAFタンパク質のアミノ酸配列において1以上(例えば、1〜10個、1〜5個、特に好ましくは1又は2個)のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸の欠失、置換、付加及び/又は挿入)を有するアミノ酸配列から成るBRAFタンパク質をコードする遺伝子を意味する。
図1に、ヒトBRAFタンパク質(塩基配列:配列番号3、アミノ酸配列:配列番号4)とマウスBRAFタンパク質とのアミノ酸配列の比較を示す。
多くのヒトCFC症候群患者においては、ヒトBRAF遺伝子(配列番号3)における第769番目〜第771番目のコドンCAGからCGGへの塩基置換が認められ、コードされるヒトBRAFタンパク質(配列番号4)の257番目のアミノ酸がグルタミン(Q)からアルギニン(R)へ変化している。図1に示すように、当該ヒトBRAFタンパク質における257番目のアミノ酸は、マウスBRAFタンパク質(配列番号2)における241番目のアミノ酸に相当する。従って、本発明における変異型BRAF遺伝子としては、例えばマウスBRAFタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)において241番目のグルタミンがアルギニンに置換された(以下、当該置換を「Q241R」と称する場合がある)アミノ酸配列を有するマウスBRAFタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。下記の実施例に示すように、当該変異型BRAF遺伝子をヘテロ接合型で有するマウス胎児は、ヒトCFC症候群で観察される症状を示す。
本発明に係るCFC症候群モデルマウスの作製方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、上記の変異型BRAF遺伝子を含むDNA断片、あるいは変異型BRAF遺伝子を導入したベクターを、マウスの全能性細胞に導入する。全能性細胞としては、例えば受精卵、初期胚の他、ES細胞(胚性幹細胞)等の多能性細胞が挙げられる。DNA断片又はベクターの細胞への導入の方法は、限定されないが、例えばエレクトロポレーション法等により行うことができる。
次いで、変異型BRAF遺伝子を導入した細胞を、レシピエントマウスの胚盤胞に移植する。発生した個体から、体細胞及び生殖細胞中に導入遺伝子が組み込まれた個体を選別することによって、目的とする変異型BRAF遺伝子がノックインされたトランスジェニックマウスを得ることができる。トランスジェニックマウスに変異型BRAF遺伝子が導入されていることを確認し、該マウスを正常マウスと交配し、F1マウスを得る。ヘテロ接合体は、選択された生殖系列キメラを同種の野生型と交雑することによって得られる、いわゆるF1動物から選択できる。ヘテロ接合体の選択は、例えば、F1動物より分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーション又はPCR法によりスクリーニングすることにより検定できる。
以上に説明した本発明に係るCFC症候群モデルマウス胎児は、CFC症候群患者で認められる心疾患(肥大型心筋症、肺動脈弁狭窄)、骨格異常及びリンパ管異常を発症することから、CFC症候群の病態モデルマウスとして利用することができる。例えば、CFC症候群の発症メカニズム又は病態の解明、CFC症候群の治療剤のスクリーニングに用いることができる。
例えば、スクリーニングは、妊娠する母親マウスから取り出した本発明に係るCFC症候群モデルマウス胎児、又は当該胎児を妊娠する母親マウスに治療剤候補化合物である被験物質を適当な投与経路により投与し、当該CFC症候群モデルマウス胎児におけるCFC症候群の臨床症状(例えば、心疾患(肥大型心筋症、肺動脈弁狭窄)、骨格異常及びリンパ管異常)の改善、胚性致死の改善(すなわち、出産後生存)等を観察することにより被験物質の効果を判定することができる。
また、本発明者等は、上述した本発明に係るCFC症候群モデルマウス胎児を用いたCFC症候群治療剤のスクリーニングにより、MEK阻害剤及び/又はヒストン脱メチル化阻害剤がCFC症候群の治療に有効であることを見出した。従って、本発明は、また、ヒト等の動物に投与するための、MEK阻害剤及び/又はヒストン脱メチル化阻害剤を有効成分として含有するCFC症候群治療剤に関する。
ここで、MEK阻害剤とは、RAS/MAPKシグナル伝達経路におけるMAPK/ERK kinase-1/2(MEK1/2)の活性を阻害する阻害剤を意味する。本発明において、MEK阻害剤としては、例えばPD0325901(N-[(2R)-2,3-Dihydroxypropoxy]-3,4-difluoro-2-[(2-fluoro-4-iodophenyl)amino]benzamide)、MEK162(5-[(4-Bromo-2-fluorophenyl)amino]-4-fluoro-N-(2-hydroxyethoxy)-1-methyl-1H-benzimidazole-6-carboxamide)等が挙げられる。
一方、ヒストン脱メチル化阻害剤とは、メチル化されたヒストンのリシン残基を脱メチル化するヒストン脱メチル化酵素の活性を阻害する阻害剤を意味する。ヒストン脱メチル化阻害剤としては、例えばGSK-J4(Ethyl 3-((6-(4,5-dihydro-1H-benzo[d]azepin-3(2H)-yl)-2-(pyridin-2-yl)pyrimidin-4-yl)amino)propanoate, monohydrochloride)等のヒストンH3K27脱メチル化阻害剤、NCDM-32b (Methyl 3-[9-(dimethylamino)nonanoyl-hydroxy-amino]propanoate)等のヒストンH3K9脱メチル化阻害剤等が挙げられる。
特に、本発明に係るCFC症候群治療剤は、MEK阻害剤(PD0325901等)とヒストン脱メチル化阻害剤(GSK-J4、NCDM-32b等)との双方を含有することで、各薬剤単独よりも有意にCFC症候群を治療することができる。
本発明に係るCFC症候群治療剤には、MEK阻害剤及び/又はヒストン脱メチル化阻害剤以外に、製薬上許容可能な担体(賦形剤、希釈剤等)並びに結合剤、増量剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝剤、懸濁化剤、保存剤、着色剤、風味剤及び甘味剤等から適宜選択される添加剤を含有させることができる。担体及び添加剤は、製剤化のために一般的に使用されるものを、本発明に係るCFC症候群治療剤の製造に使用することができる。
また、本発明に係るCFC症候群治療剤は、医薬品として、例えば経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、腹腔内、経直腸内、皮下、筋肉内、舌下、経鼻腔内、経膣内等)用に製剤化することができる。製剤の形態としては、特に限定されないが、例えば溶液剤、錠剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤、座剤、噴霧剤、制御放出剤、懸濁剤、ドリンク剤等が挙げられる。
本発明に係るCFC症候群治療剤に含まれるMEK阻害剤及び/又はヒストン脱メチル化阻害剤の用量は、患者の年齢、体重、性別、状態、重篤度等の要因によって変化する。例えば、ヒト患者に投与される1日用量は、MEK阻害剤及び/又はヒストン脱メチル化阻害剤換算で例えばPD0325901については推奨容量30 mg (Haura E. B. et al., Clinical Cancer Research, 2010年, Vol. 16, No. 8, pp. 2450-2457)、MEK162については推奨容量120 mg(石井暢也, 日薬理誌, 2013年, Vol. 141, pp. 15-21)であるが、この範囲に限定されない。必要に応じて、用量を数回、例えば2〜3回に分けて分割投与してもよい。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実験材料及び実験方法〕
1. CFC症候群モデルマウス(BrafQ241R/+; Cre)の作製
1-1. CAG-Creトランスジェニックマウス(Braf+/+; Cre):
CAG-Creトランスジェニックマウス(B6.Cg-Tg(CAG-Cre)CZ-MO2Osb mice)は理化学研究所バイオリソースセンターより譲渡された。
1-2. CFC症候群モデルマウス(BrafQ241R/+; Cre)作製方法(図2A):
CFC症候群モデルマウスにおけるターゲットベクターを作製するために、Braf遺伝子のエクソン5及び6を含む領域(short arm: NotI-SacII DNAフラグメント)、エクソン7及び8を含む領域(long arm: XmaI-BamHI DNAフラグメント)、そしてエクソン8の下流の領域(long arm: BamHI-SacI DNAフラグメント)を、BACクローン(Roswell Park Cancer Institute; ID: RP23-218B13、RP23-444M20及びRP23-140J8)を元にPCRにより増幅した。
次いで、増幅したDNAフラグメントをpBSIISK+ベクターにライゲーションした。また、Loxp、FRTサイトによって囲まれたPGK-Neo-STOPカセットはPsp0MI-XhoIサイトを利用して導入した。
構築したターゲットベクターを、制限酵素SalIにより直線化し、ES細胞(C57BL/6J系統)にエレクトロポレーションした。ターゲットベクターが導入されたES細胞クローンを確認するために、ジェノタイピング、シークエンス及びCreリコンビナーゼを介した組換え試験により確認した。さらに、相同組換えを確認するためにサザンブロティングを行った。サザンブロティングではDNAを制限酵素SacI、NcoI、AflIIで切断し、5’、3'及びNeoプローブにてそれぞれ検出した。プローブシークエンスを、下記の表1に示す。
Figure 0006429306
これらの試験によってスクリーニングしたES細胞クローンを、BALB/cマウスの胚盤胞に入れ、キメラマウスを得た。その後、1世代目のBrafQ241R Neo/+マウスは、キメラマウスとC57BL/6Jマウスと掛け合わせ獲得した。
CFC症候群モデルマウス(BrafQ241R/+; Cre)は、BrafQ241R Neo/+マウスとBraf+/+; Creマウスとを交配させ、loxpサイトによって囲まれたPGK-Neo-STOPカセットを除去することで獲得した。
1-3. ジェノタイピング:
ゲノムDNAを、DNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN)又はMaxwell 16 Mouse tail DNA purification Kit(Promega)を使用して抽出した。Braf+/+、Braf+/+; Cre、BrafQ241R Neo/+、BrafQ241R/+; Creの各マウスのジェノタイピングを、KOD FX Neo(東洋紡)又はTaKaRa Taq(タカラバイオ)及び下記の表2に示すプライマーを用いて行った。
Figure 0006429306
1-4. サンガーシークエンス:
RNAを、TRIzol試薬(Invitogen)を用いて抽出し、cDNAをHigh-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)を用いて合成した。
Braf遺伝子を、TaKaRa Taq及びM13プライマー: (5'-GTAAAACGACGGCCAGTGAAGTACTGGAGAATGTCCC-3'(配列番号19)、5'-AGGAAACAGCTATGACCCCACATGTTTGACAACGGAAACCC-3'(配列番号20))を用いて増幅した。
その後、PCR産物をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)で精製し、ABI 3500xl automated DNA sequencer(Applied Biosystems)によってシークエンスを行った。
2. 試薬
MAZ-51及びLovastatinは、Calbiochemより購入した。PD0325901、アルシアンブルー8GX及びアリザリンレッドは、Sigma-Aldrichより購入した。MEK162、Sorafenib、Everolimus、NCDM-32b、GSK-J4は、Active Biochem、Toronto Research Chemicals、Selleckchem、和光純薬工業、Cayman Chemicalからそれぞれ購入した。
3. アルシアンブルー・アリザリンレッド染色(硬骨をアリザリンレッドで赤く、軟骨をアルシアンブルーで薄い青に染める染色)
マウス胎児は蒸留水に1日つけた後、丁寧に皮膚、内臓、筋肉を取り除いた。内臓を取り除いた胎児は少なくとも3日間、95%エタノールで固定し、その後、アルシアンブルー8GX(150 mg/l)/80%エタノール/20%酢酸溶液で16〜24時間染色した。
染色した胎児は、95%エタノールで洗い、2%KOH溶液で16〜24時間放置した後、アリザリンレッド溶液(50 mg/l)で染色した。さらに、染色した胎児は1%KOH溶液で3時間、2%KOH溶液で12〜48時間、組織を融解し、20%グリセロール/1%KOH溶液でさらに透明になるまで少なくとも5日間融解した後、最終的に50%グリセロール溶液で保存した。
4. 組織学的検査
胎児の心臓は、胎盤からリン酸緩衝生理食塩水及び10%中性緩衝ホルマリン液で潅流した後、10%中性緩衝ホルマリン液で保存した。また、心臓の摘出を行わない胎児は直接10%中性緩衝ホルマリン液に保存した。摘出した心臓又は胎児はエタノールで脱水、キシレンで透徹後、パラフィンに包埋した。パラフィン包埋した心臓は6μmで連続切片を作製し、一方、胎児は3μmで切り出し、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った。
5. 実験動物への薬剤投与
5-1. 試薬の調製と保存:
PD0325901はエタノールに溶解し、他の全ての薬剤はdimethylsulfoxide(DMSO)に溶解し-80℃で保存した。ただし、併用投与時はPD0325901もDMSOに溶解し調製した。
5-2. 薬剤投与:
溶解したPD0325901は再度、生理食塩水にエタノールの最終濃度が1%になるよう溶解した。その他全ての薬剤は0.5%ヒドロキシメチルセルロース/0.2%Tween80溶液にDMSOの最終濃度が10%になるように溶解した。
薬剤は、BrafQ241R Neo/+雄マウスとの交配により妊娠したBraf+/+;Cre雌マウスにおいて妊娠10.5日目(E10.5)から腹腔内投与を開始し、妊娠18.5日目まで毎日投与を行った。
〔結果〕
1. CFC症候群モデルマウス(BrafQ241R/+; Cre)の作製
CFC症候群モデルマウス(BrafQ241R/+; Cre)を得るために、ターゲットベクターをES細胞にエレクトロポレーションし、適切にターゲットベクターが導入されたクローンをサザンブロティングにより同定した(図2B)。
サザンブロティングにより確認したES細胞を、BALB/cマウスの胚盤胞に入れ、6つの独立したES細胞クローンからそれぞれキメラマウスを獲得し、その後F1マウスを得た(BrafQ241R Neo/+)。生殖細胞系列でBrafQ241R変異を全身性に発現するため、BrafQ241R Neo/+マウスをCAG-Creトランスジェニックマウス(Braf+/+; Cre)と掛け合わせ、その仔マウスの表現型をジェノタイピングにより確認した(図2C-E)。さらにBrafQ241Rの発現をシークエンスによって確認した(図2F)。図2Fのシークエンス結果は、片側のアレルにおいてCAGからCGGへの塩基置換が認められ、アミノ酸がグルタミン(Q)からアルギニン(R)へ変化した(Q241R)ことを示す。
2. CFC症候群モデルマウスは子宮内及び出産後死亡する
結果を下記の表3及び図3に示す。
Figure 0006429306
CFC症候群モデルマウス(BrafQ241R/+; Cre)を得るため、BrafQ241R Neo/+雄マウスとBraf+/+; Cre雌マウスを交配させたところ、21日目の離乳時に生存しているCFC症候群モデルマウス(BrafQ241R/+; Cre)はいなかった(表3)。
出生前の死亡が疑われたため胎生期(embryonic day: E)を調べたところ、E14.5まではメンデル比で観察されたが、E16.5からCFC症候群モデルマウス胎児(BrafQ241R/+; Cre)の減少が認められ(表3)、これらの胎児の約9.8%で皮下出血班及び後頸部浮腫のような浮腫病変が認められた(図3A及びB:矢印箇所が浮腫である)。
続いて、帝王切開でE18.5、E19.5に胎児を取り出したところ、多くのマウスが蒼白、チアノーゼ、つまったような呼吸を示し数時間後に死亡した。また胎児に脊柱後弯症及び下顎形成不全(2/39匹、約5.1%)が認められた(図3C及びD:C及びDにおいて矢印箇所が下顎形成不全であり、また、Dにおいて白抜き矢頭箇所が頭部の骨格形成不全であり、且つ黒塗り矢頭箇所が脊柱後弯症である)。
また、組織学的検査を行ったところ、CFC症候群モデルマウス(BrafQ241R/+; Cre)胎児の心臓の肥大がE16.5で認められ、E18.5で肝壊死、肝重量の減少が認められた(図3E:矢印箇所が肝臓の壊死(ネクローシス)である)。
続いて、肺の成熟不全による呼吸不全は新生児における死亡原因となることから、E18.5、E19.5の胎児の肺への酸素の取り込みそして肺の成熟度を解析した。その結果、肺への酸素の取り込みは正常であった。また肺の成熟を肺胞上皮細胞マーカーthyroid transcription factor-1(TTF-1)、サーファクトタンパクCを免疫染色によって、またグリコーゲンをPAS染色によって評価したところ、これらの所見に異常は認められなかった。しかしながら、約11.1%の胎児(1/9匹)で肺胞内出血が認められた(図3F:矢印箇所が肺胞内出血である)。
3. CFC症候群モデルマウスは心疾患を示す
CFC症候群モデルマウスは、心肥大、肝壊死(図3E)を示すことから、心疾患をもつことが疑われた。そこで、各妊娠ステージで胎児を取り出し心臓の解析を行った。
結果を下記の表4及び5並びに図4に示す。
Figure 0006429306
Figure 0006429306
Figure 0006429306
図4Aにおいて、略号は、以下の通りである;RA:右房、RV:右室、LV:左室、LA:左房、PV:肺動脈弁、AV:大動脈弁、TV:三尖弁、MV:僧帽弁。また、中段の写真において、矢印箇所は肉柱異常増殖であり、黒塗り矢頭箇所は、それぞれ肺動脈弁肥大(中段左から1番目の写真)、大動脈弁肥大(中段左から2番目の写真)である。さらに、星印箇所(中段左から4番目の写真)は心内膜クッション異常であり、四角で囲んだ箇所(中段左から4番目の写真)は心外膜異常である。下段の写真において、黒塗り矢頭箇所(下段左から3番目の写真)は三尖弁肥大であり、白抜き矢頭箇所(下段左から3番目の写真)は心室中隔欠損である。なお、肉柱異常増殖は致死性である。
図4Cにおいて、星印箇所は、心外膜異常である。
図4Dにおいて、CLは緻密化層であり、TLは肉柱層である。
E12.5でCFC症候群モデルマウスの心臓に異常は認められなかった。しかしながら、E14.5では、肺動脈弁の肥大や肉柱形成異常が認められた。さらに、E16.5で14匹の胎児の心臓について詳細に解析を行ったところ、肺動脈弁肥大(7/14匹)、三尖弁肥大(8/14匹)、僧帽弁肥大(9/14匹)が認められ、特に肺動脈弁の肥大はひどく弁の葉の肥厚が顕著であった(図4A及びB並びに表4及び5)。
また特徴的に所見として心室中隔欠損(VSD、2/14匹;図4A)、心内膜クッション異常(2/14匹;図4A)、肉柱形成異常(3/14匹;図4A)、心外膜異常(2/14匹;図4A及びC)、心室緻密化障害(4/14匹;図4D)、冠動脈の低形成(3/14匹)が認められた(表4及び5)。
続いて、心室径、弁の最大径を評価したところ有意的に心室径の拡大と肺動脈弁、三尖弁の厚みの増加が認められた(図4E)。これらの結果から、CFC症候群モデルマウスは様々な先天性の心臓異常を示すことが明らかになった。
4. CFC症候群モデルマウスはリンパ管形成異常を示す
CFC症候群、ヌーナン症候群のようなRASopathiesの患者は胎児期に後頸部浮腫が超音波検査で認められる。後頸部浮腫はリンパ管内皮細胞の分化異常によって生じる、頸部リンパ管の拡張が原因とされている。そこで、CFC症候群モデルマウスが示す皮下出血や後頸部浮腫を含む浮腫(図3A)はリンパ管の形成不全によるものであると仮説を立てた。
リンパ管に関する組織学的な解析の結果を図5に示す。図5Aにおいて、矢印箇所は頸部リンパ管内出血である。図5Bにおいて、矢頭箇所は頸部リンパ管に類似した詳細不明な内腔である。
組織学的な解析から、E12.5及びE16.5のCFC症候群モデルマウスは頸部リンパ管の拡張、頸部リンパ管内に血球が認められた(図5A及びB)。マウスのリンパ管はE9.5〜E10.5ごろ頸静脈より発生し頸部リンパ管を形作る。その後、リンパ管が全身へ広がるにつれて頸部リンパ管はやがて消失することがわかっている。E16.5ステージの胎児では、頸部リンパ管は一般的には観察されないが、CFC症候群モデルマウスでは、E12.5〜E14.5で認められるような頸部リンパ管構造が認められた(図5B)。
これらの結果から、CFC症候群モデルマウスでは静脈からリンパ管への分化異常そしてリンパ管の発生異常が考えられた。そこで、リンパ管形成に異常が生じていないか調べるために、リンパ管をlymphatic vessel endothelial hyaluronan receptor 1(LYVE-1)、平滑筋をα-smooth muscle actin(α-SMA)、血管内皮細胞をplatelet-endothelial cell adhesion molecule-1(PECAM-1; CD31)で免疫染色を行った。
E12.5でCFC症候群モデルマウス、コントロールマウスの頸部リンパ管はともにLYVE-1は陽性だった(図5C)。一方で、CD31は頸部リンパ管、頸静脈に弱く発現していた(図5D)。α-SMAの発現は頸部リンパ管、頸静脈ともに認められなかった。
またE16.5でCFC症候群モデルマウスの頸部リンパ管のような内腔はLYVE-1、CD31、α-SMA全てにネガティブだった(図5E)。さらに皮下組織におけるリンパ管形成を調べたところ、皮下のリンパ管は著しくLYVE-1ポジティブだった(図5F)。
これらの結果からCFC症候群モデルマウスは頸静脈から頸部リンパ管への発生異常をきたし、頸部リンパ管拡張、後頸部浮腫を示しているものと考えられた。
5. MEK阻害剤、ヒストン脱メチル化阻害剤又はその併用はCFC症候群モデルマウスの胚性致死を改善する
MEK阻害剤であるPD0325901投与は、ヌーナン症候群モデルマウスの胚性致死を改善することが報告されている。そこで、MEK阻害剤をはじめとする、様々な薬剤がCFC症候群モデルマウスの胚性致死を回復するかどうかスクリーニングを行った。
結果を下記の表6及び図6に示す。
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BrafQ241R Neo/+雄マウスと交配し妊娠したBraf+/+; Cre雌マウスにPD0325901を体重1 kgあたり0.5 mg投与(0.5 mg/kg)したところ、CFC症候群モデルマウスの胚性致死は改善し、30匹中、2匹の生存が確認された(表6)。さらに1.0 mg/kgのPD0325901を投与したところ37匹中、7匹の生存が認められ有意的な改善が認められた(P = 0.3155;表6)。さらに浮腫、下顎形成不全がこれらの投与マウスでは認められなかった(E16.5からP0までで0/31匹)。しかしながら、PD0325901投与により、CFC症候群モデルマウス以外の他のマウス(コントロールマウス)では催奇形性が認められた。
近年、肥大型心筋症を示すヌーナン症候群の患者において次世代型のMEK阻害剤であるMEK162が臨床研究されている。そこでMEK162においてもPD0325901のような有益な効果が得られるかどうか検討した。その結果、MEK162投与はCFC症候群モデルマウスの胚性致死の改善を示した(3/29匹;表6)。
一方、MAZ51(VEGFR3阻害剤)、ソラフェニブ(BRAF、VEGFR、PDGFR複合阻害剤)、ロバスタチン(HMG-CoA還元酵素、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤)、エベロリムス(mTOR阻害剤)投与では、CFC症候群モデルマウスを獲得することができなかった(表6)。
ヒストンアセチル化、メチル化のようなヒストン修飾は遺伝子の発現調節に関わっており、細胞分化、発生、炎症応答、癌などに重要な働きをもつことがわかってきている。近年、ヒストン脱アセチル化阻害剤であるSAHAは癌治療において使用されている。そこで、これらのヒストン修飾に影響を与える阻害剤がCFC症候群モデルマウスの胚性致死を改善するかどうか検討したところ、SAHA投与による効果は全くなかった。しかしながら、驚くべきことに、ヒストンH3K27脱メチル化阻害剤(GSK-J4; 5.0 mg/kg)あるいはヒストンH3K9脱メチル化阻害剤(NCDM-32b; 5.0 mg/kg)の投与は胚性致死を改善し、離乳時に1匹ずつのCFC症候群モデルマウスを獲得することができた(表6)。さらに、GSK-J4とPD0325901の併用投与及びNCDM-32bとPD0325901の併用投与は、それぞれ単独の投与と比べ有意的にCFC症候群モデルマウスを獲得することができた(5/31匹; P = 0.1377、10/38匹; P = 0.0928、表6)。また興味深いことに、これらの併用療法ではPD0325901単独投与によって認められる、催奇形性は認められなくなった。GSK-J4及びNCDM-32bとの併用療法を異なるMEK阻害剤、MEK162、で試したところ残念ながら有意な併用効果は得られなかった(表6)。
近年、ヒストンH3K27脱メチル化酵素UTX及びJMJD3は心臓の発生に重要な役割をもつことがわかってきている。そこで、GSK-J4とPD0325901の併用投与がCFC症候群モデルマウスの心臓異常を改善するかどうか解析した。その結果、PD0325901単独投与は心臓異常に対して、効果を示さなかった。しかしながら、GSK-J4とPD0325901併用投与では有意的に肺動脈弁、三尖弁、僧帽弁の肥大を緩和した(図6A及びB)。

Claims (6)

  1. ヘテロ接合型で野生型BRAF遺伝子と変異型BRAF遺伝子とを有するCFC症候群モデルマウス胎児又は該胎児を妊娠するマウスであって、前記変異型BRAF遺伝子が、配列番号2に記載のアミノ酸配列において、241番目のグルタミンがアルギニンに置換されたアミノ酸配列を有するBRAFタンパク質をコードする遺伝子である、前記CFC症候群モデルマウス胎児又は該胎児を妊娠するマウス
  2. 請求項1記載のCFC症候群モデルマウス胎児又は該胎児を妊娠するマウスを用いてCFC症候群治療剤をスクリーニングする方法。
  3. ヒストン脱メチル化阻害剤を有効成分として含有するCFC症候群治療剤。
  4. MEK阻害剤とヒストン脱メチル化阻害剤とを有効成分として含有するCFC症候群治療剤。
  5. MEK阻害剤がPD0325901又はMEK162である、請求項4記載のCFC症候群治療剤。
  6. ヒストン脱メチル化阻害剤がGSK-J4又はNCDM-32bである、請求項3〜5のいずれか1項記載のCFC症候群治療剤。
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