以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
(1)構成及び動作概要
図1は、本実施形態における磁気共鳴イメージング装置1の全体構成を示すブロック図である。実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、磁石架台100、寝台200、制御キャビネット300、コンソール400等を備えて構成される。
磁石架台100は、静磁場磁石10、傾斜磁場コイル11、WB(Whole Body)コイル12等を有しており、これらの構成品は円筒状の筐体に収納されている。寝台200は、寝台本体20と天板21を有している。また、被検体に近接して配設されるアレイコイル13を有している。
制御キャビネット300は、静磁場用電源30、傾斜磁場電源31(X軸用31x、Y軸用31y、Z軸用31z)、RF受信器32、RF送信器33、シーケンスコントローラ34等を備えている。また、コンソール400は、プロセッサ40、記憶部41、入力部42、表示部43等を有するコンピュータとして構成されている。
磁石架台100の静磁場磁石10は、概略円筒形状をなしており、被検体(患者)の撮像領域であるボア(静磁場磁石10の円筒内部の空間)内に静磁場を発生させる。静磁場磁石10は超電導コイルを内蔵し、液体ヘリウムによって超電導コイルが極低温に冷却されている。静磁場磁石10は、励磁モードにおいて静磁場用電源30から供給される電流を超電導コイルに印加することで静磁場を発生し、その後、永久電流モードに移行すると、静磁場用電源30は切り離される。一旦永久電流モードに移行すると、静磁場磁石10は長時間、例えば1年以上に亘って、大きな静磁場を発生し続ける。なお、静磁場磁石10を永久磁石として構成しても良い。
傾斜磁場コイル11も概略円筒形状をなし、静磁場磁石10の内側に固定されている。この傾斜磁場コイル11は、傾斜磁場電源(31x、31y、31z)から供給される電流によりX軸,Y軸,Z軸の方向に傾斜磁場を被検体に印加する。
寝台200の寝台本体20は天板21を上下方向に移動可能であり、撮像前に天板21に載った被検体を所定の高さまで移動させる。その後、撮影時には天板21を水平方向に移動させて被検体をボア内に移動させる。
WBコイル12は、傾斜磁場コイル11の内側に被検体を取り囲むように概略円筒形状に固定されている。WBコイル12は、RF送信器33から伝送されるRFパルスを被検体に向けて送信する一方、また、水素原子核の励起によって被検体から放出される磁気共鳴信号を受信する。
アレイコイル13はRFコイルであり、被検体から放出される磁気共鳴信号を被検体に近い位置で受信する。アレイコイル13は、例えば、複数の要素コイルから構成される。アレイコイル13は、被検体の撮像部位に応じて、頭部用、胸部用、脊椎用、下肢用、或いは全身用など種々のタイプがあるが、図1では頭部用のアレイコイル13を例示している。
RF送信器33は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいて、WBコイル12にRFパルスを送信する。一方、RF受信器32は、WBコイル12やアレイコイル13によって受信された磁気共鳴信号を検出し、検出した磁気共鳴信号をデジタル化して得られる生データをシーケンスコントローラ34に対して送信する。
シーケンスコントローラ34は、コンソール400による制御のもと、傾斜磁場電源31、RF送信器33およびRF受信器32をそれぞれ駆動することによって被検体のスキャンを行う。そして、シーケンスコントローラ34は、スキャンを行ってRF受信器32から生データを受信すると、その生データをコンソール400に送信する。
コンソール400は、磁気共鳴イメージング装置1全体を制御する。具体的には、検査技師等のマウスやキーボード等(入力部42)の操作によって撮像条件その他の各種情報や指示を受け付ける。そして、プロセッサ40は、入力された撮像条件に基づいてシーケンスコントローラ34にスキャンを実行させる一方、シーケンスコントローラ34から送信された生データに基づいて画像を再構成する。再構成された画像は表示部43に表示され、或いは記憶部41に保存される。
磁気共鳴イメージング装置1を用いた高速撮像法として、パラレルイメージングが良く知られている。前述したように、パラレルイメージングでは、複数の異なる感度パタンをもった受信コイル用いて同時並行的に被検体の撮像を行う。
上述したように、アレイコイル13は複数の要素コイルから構成されており、これら複数の要素コイルの感度パタンはそれぞれ異なっている。そこで、複数の要素コイルからそれぞれ独立に出力される複数のチャネル信号を用いてパラレルイメージングを行うことができる。一方、アレイコイル13の複数の要素コイルの出力を分配合成して、互いに異なる感度パタンをもつ複数のチャネル信号をアレイコイル13から出力することもできる。この場合、分配合成によって生成された複数のチャネル信号を用いてパラレルイメージングを行う。
上記のいずれの場合にも、異なる感度パタン毎にそれぞれ感度マップを生成し、生成した感度マップを用いて、パラレルイメージングの展開処理を行う。そして、パラレルイメージングを用いた本撮像とは別に、感度マップを生成するための撮像、即ち、マップ撮像が行われる。
図2は、マップ撮像、及びパラレルイメージングに関する構成を含んだ磁気共鳴イメージング装置1のブロック図である。図2に示すように、磁気共鳴イメージング装置1は、撮像条件設定部(1)401、撮像条件設定部(2)402、パラメータ記憶部403、パラメータ調整部404、再構成部(1)406及び再構成部(2)407からなる再構成部405、感度マップ生成部408、及びパラレルイメージング展開処理部409等のユニットを有している。
これらの各ユニットの機能は、所定のプログラムコードを、コンソール400のプロセッサ40が実行することによって実現されるが、このようなソフトウェア処理に限らず、例えば、ASIC(application specific integrated circuit)やFPGA(field programmable gate array)等を用いたハードウェア処理で実現しても良いし、ソフトウェア処理とハードウェア処理とを組み合わせて実現しても良い。
なお、図2において、図1に示す磁気共鳴イメージング装置1の構成のうち、コンソール400を除いた構成の総称を撮像部500としている。また、図2における入力部42及び表示部43は、図1に示すものと同じであるため、同じ符号を付している。
上記各構成のうち、パラメータ調整部404は、マップ撮像に使用するパルスシーケンス(以下、マップ用パルスシーケンスと呼ぶ)のパラメータを調整する。そして、このパラメータを調節することによって、感度マップ、或いは感度マップの元となる画像(以下、マップ画像と呼ぶ)のコントラストを調整する。マップ用パルスシーケンスのパラメータ、及びその調整については後述する。
パラメータ記憶部403は、パラメータ調整部404で調整されたパラメータの値をパラメータの種別と関連付けて保存する。パラメータ記憶部403は不揮発性のメモリとして構成されており、パラメータの調整、及びその保存は、マップ撮像及び本撮像の前に行われる。
撮像条件設定部(1)401は、マップ撮像時において、パラメータ記憶部403に保存されているパラメータを読み出し、マップ撮像の撮像条件として撮像部500のシーケンスコントローラ34に設定する。シーケンスコントローラ34は、設定された撮像条件にしたがってマップ撮像を実行する。
再構成部(1)は、マップ撮像で収集された磁気共鳴信号(MR信号)を、逆フーリエ変換等の処理によって再構成してマップ画像を生成する。撮像部500からは、アレイコイル13の異なる感度パタンにそれぞれ対応する複数チャネルのMR信号が出力される。再構成部(1)は、これらの複数チャネルのMR信号から、それぞれの感度パタンに対応した複数のマップ画像をアレイコイルのマップ画像として生成する。一方、撮像部500からは、WBコイル12の感度パタンに対応するMR信号も出力される。再構成部(1)は、WBコイルのMR信号から、WBコイルのマップ画像もさらに生成する。
感度マップ生成部408は、アレイコイルの複数のマップ画像とWBコイルのマップ画像とから、アレイコイルの感度パタンに対応する複数の感度マップを生成する。例えば、アレイコイルの各マップ画像をWBコイルのマップ画像で除算する等の処理によって感度マップを生成する。
感度マップは、本撮像の撮像領域の全体をカバーするように、3次元の感度マップとして生成される。このため、マップ撮像では、2次元画像(スライス画像)を複数のスライス位置に対して取得する。或いはこれに換えて、3次元フーリエ変換によって3次元のボリューム画像を再構成してもよい。一方、マップ画像の解像度は、診断用に用いられる本撮像の画像の解像度よりも低くてもよく、例えば、2次元マップ画像のマトリクスサイズ(解像度)として、64×64程度が用いられる。
撮像条件設定部(2)は、本撮像で使用するパラレルイメージングの撮像条件をシーケンスコントローラ34に設定する。本撮像用のパルスシーケンスは、マップ用パルスシーケンスの種類によらず独立に設定することができ、SE(Spin Echo)型、高速SE(Fast Spin Echo)型、GRE(Gradient Echo)型、高速GRE(Fast Gradient Echo)型、SSFP(Steady State Free Precision)型、EPI(Echo Planer Imaging)型等、本撮像の目的に応じた種々のタイプのパルスシーケンスを設定することができる。また、撮像条件設定部(2)では、パラレルイメージングに固有の撮像条件として、縮小係数R(reduction factor)等も設定する。
再構成部(2)は、本撮像で収集されたMR信号を再構成して、縮小画像を生成する。縮小画像は、位相エンコード方向の大きさが、本来のFOV(Field of View)に対して縮小係数Rに応じて縮小された画像であり、折り返し(エリアシング)を有する画像である。縮小画像は、アレイコイル13の要素コイル毎、或いは、異なる感度パタンに対応して出力されるチャネル毎に生成される。
パラレルイメージング処理部409は、再構成部(2)407から出力される複数の縮小画像を、感度マップ生成部408で生成された感度マップを用いて展開し、エリアシングがなく、かつ、本来のFOVの大きさをもつ診断用の画像を生成する。生成された診断用の画像は表示部41に出力され、表示部41はこの画像を表示する。
表示部41には、感度マップ、或いは感度マップの元となるマップ画像を表示することもできる。
図3は、マップ用パルスシーケンスのパラメータを調整し、調整が終了したパラメータをパラメータ記憶部403に保存するまでの処理例を示すフローチャートである。
ステップST100で、マップ用パルスシーケンスのパラメータを、オペレータが入力部42を介してパラメータ調整部404に入力する。
本実施形態の磁気共鳴イメージング装置1では、マップ用パルスシーケンスとして、フリップ角が90°未満のプリパルスと、このプリパルスの後に続く複数の励起パルスを含む高速GREシーケンスを用いる(以下、プリパルス付き高速GREシーケンスと呼ぶ)。プリパルスを除く高速GREシーケンスのパラメータとしては、各励起パルスのフリップ角FA、励起パルスの間隔TR、エコー時間TE(echo time)、マトリクスサイズ、スライス数等がある。また、プリパルスに関連するパラメータとしては、プリパルスのフリップ角、プリパルスの印加領域、遅延時間TD等がある。ここで、本明細書における遅延時間TDとは、プリパルスの印加時刻から、高速GREシーケンス中のk空間中心のエコー収集時刻までの時間のことである。ステップST100では、これらのパラメータを入力する。
ステップST101では、入力したパラメータに従うマップ用パルスシーケンスでマップ撮像を行い、MR信号を収集する。
ステップST102では収集したMR信号からマップ画像を再構成し、ステップST103でマップ画像を表示部43に表示する。
ステップST104において、表示されたマップ画像をオペレータが評価し、所望のコントラストであるか否かを判断する。
所望のコントラストでないと判断された場合は、ステップST106にてパラメータを調整し、再度マップ撮像を行い、所望のコントラストのマップ画像が得られるまで、ステップST101からステップST104、ステップST106の処理を繰り返す。一方、所望のコントラストであると判断された場合は、そのマップ撮像に用いたマップ用パルスシーケンスの各パラメータをパラメータ記憶部403に保存する。
(2)マップ用パルスシーケンス
次に、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置1で用いるマップ用パルスシーケンスを、従来のマップ撮像パルスシーケンスと比較しつつ説明する。
図4は、従来のマップ撮像パルスシーケンス(以下、このパルスシーケンスを「シーケンスA」と呼ぶ)として多く用いられている、GRE(グラディエントエコー)シーケンスの一例を示す図である。
図4の上部の4段は、スライス1(1つ目のスライス)に印加するシーケンスであり、上から順に、RF(RFパルスとエコー信号)、スライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Gp、リードアウト用傾斜磁場Grとなっている。
図4の最上段に示す励起パルスEP11のサフィックス「11」は、1番目のスライスの、1番目の位相エンコードであることを示している。例えば、各スライスのマトリクスサイズをM×Mとし、従って、位相エンコード数がMである場合(Mは、例えば64)には、1つのスライスに対して、励起パルスEP11から励起パルスEP1Mの、M個の励起パルスが印加される。
励起パルスの間隔TRは、例えば120msに設定されており、後述する高速GREシーケンスに比べて、TRは長い値に設定されている。TRが長いと、ある1つの励起パルスEPαで倒された縦磁化が、その次の励起パルスEPβの印加直前までにある程度回復するため、この励起パルスEPβによって生じる横磁化の大きさもある程度大きな値を示す。このため、シーケンスAでは、比較的大きなSNR(Signal to Noise Ratio)を得ることができる。
一方、感度マップを生成する観点からは、体内の組織間のコントラストはできるだけ小さい方が好ましい。この意味では、組織間の縦緩和時間や横緩和時間の相違を強調するT1強調やT2強調よりも、プロトン密度強調(PDW)の方が好ましい。そこで、従来のシーケンスAにおいても、エコー時間TEを短くした(例えば図4の例では、TE=2.3ms)設定となっている。また、プロトン密度強調とするために、各励起パルスのフリップ角FAも小さな値(例えば、FA=20°)に設定している。
従来のシーケンスAでは、TRを長く設定しているため、エコーを収集してから次の励起パルスまでの時間が長い。そこでこの時間を利用したインターリーブ型マルチスライス撮像が通常行われている。例えば、図4に例示したように、スライス1の励起パルスEP11と励起パルスEP12の間に、スライス2の励起パルスEP11からスライスnの励起パルスEP1nを、順次異なるスライスに印加している。このようなインターリーブ型のマルチスライスGRE撮像により、3次元領域全体の撮像時間は短縮される。
しかしながら、上記の従来のシーケンスAでは、1枚のスライスの撮像に要する時間自体は短縮されず長いままである。例えば、マップ画像のマトリクスサイズを64×64として、本撮像の診断用画像のマトリクスサイズよりも小さく設定したとしても、TRが120msの場合、スライス当たりの撮像時間は、WBコイル12とアレイコイル13の撮像によって、約15.4秒(=2×64×120ms)と長くなる。この間、患者の個人差はあるものの、体の動きを完全に止めることは難しく、また、呼吸性の体動や心拍性の体動も発生する。このため、GRE法による従来のシーケンスAでは、体動アーチファクトを十分に抑制するのが難しかった。
上記の課題を解決する方法として、TRを短くしたシーケンス、即ち、高速GREシーケンスを採用する方法が考えられる。高速GREシーケンスでは、通常、TRを体内組織の縦緩和時間T1よりも小さく設定する。図5は、この高速GREシーケンス(以下、「シーケンスB」と呼ぶ)を例示する図である。
図5に例示するシーケンスBでは、TRを6msに設定し、シーケンスAのTR(=120ms)に対して1/20に短縮している。その他のパラメータはシーケンスAと同じである。ただし、エコーと次の励起パルスとの間の時間が短くなっているため、インターリーブ型のマルチスライスではなく、シーケンシャル型のマルチスライスとしている。
シーケンスBでは、TRが1/20と大幅に短縮されているため、スライス当たりの撮像時間もそれに比例して短縮される。マトリクスサイズをシーケンスAと同じ(64×64)とし、WBコイル12とアレイコイル13でそれぞれ撮像するとすると、スライス当たりの撮像時間は、わずか約0.8秒(=2×64×6ms)となり、1秒もかからない。このため、この間における患者の体の動きや、呼吸性の体動や心拍性の体動は大幅に低減され、体動アーチファクトの発生を大幅に抑制することが可能となる。
しかしながら、シーケンスBには、マップ画像のコントラストという点から観た場合、従来のシーケンスAで得られていたようなコントラストを容易に実現できないという問題がある。
図6は、従来のマップ撮像シーケンスであるシーケンスAを用いて撮像したマップ画像と、上記のシーケンスBを用いて撮像したマップ画像とを比較した図である。上段に示す「画像A」がシーケンスAに対応する画像であり、下段に示す「画像B」、「画像C」及び「画像D」がシーケンスBに対応する画像である。いずれの画像も一人のボランティアの頭部を撮像したスライス画像であり、本明細書への記載に関してはボランティアの了解を得ている。各シーケンスのパラメータは、それぞれ図4及び図5に例示したものと同じであり、シーケンスAでは、TRを120ms、TEを2.3ms、励起パルスのフリップ角を20°、マトリクスサイズを64×64としている。また、シーケンスBでは、TRを6msとしており、それ以外のパラメータはシーケンスAと同じである。
図6からわかるように、シーケンスBで撮像した「画像B」では、従来のシーケンスAの「画像A」と比べると、水成分が支配的となる脳中央部のCSF、及び眼球の信号強度が、それ以外の組織に比べて高くなっており、画像上は光って見える。つまり、CSF及び眼球と、それ以外の組織との間のコントラストが、「画像A」に対して大きくなっている。また、「画像A」では血液のコントラストも高くなっている。
水(CSF及び眼球)のコントラストが高くなる現象は、水の横緩和時間T2が脳内の他の組織に比べて長いことに起因している。TRの長い従来のシーケンスAでは、ある1つの励起パルスで発生する横磁化成分は、その横緩和時間T2が長い水(CSF、眼球)であっても、次の励起パルスの印加時刻までには消滅、或いはかなりの程度低減している。これに対してTRの短いシーケンスBでは、横緩和時間T2の長い水(CSF、眼球)の横磁化は次の励起パルスの印加時においても残留するため、後段のTR内に漏れ込み、この結果、水のコントラストが大きくなってしまう。
このような、残留横磁化を消滅させる技術として「スポイリング」と呼ばれる技術があり、その1つに「RFスポイル」がある。RFスポイルは、励起パルスのRF信号の位相を、励起パルス毎に変化させることにより、残留横磁化を消滅或いは低減する技術である。図6の「画像C」及び「画像D」は、シーケンスBにおいてRFスポイルを適用して撮像した画像である。
「画像C」では、RFスポイルの適用によって、脳中央部のCSFと眼球の信号が抑制されているのがわかる。その一方、CSFと眼球の信号が抑制されたことに伴って、「画像C」では、脳周辺部の脂肪の信号が相対的に高くなっている。また、「画像C」の下部位置で小さく光っているのは、頭部の中を頭足方向に走る血管であり、血液の信号も相対的に高くなっている。この理由として、以下が考えられる。
図7は、TRが6ms以下程度に短い場合における、励起パルスのフリップ角と信号強度の関係を定性的に示す図である。一般に、GREのシーケンスでは、フリップ角が大きくなるにつれて組織間の縦緩和時間T1の相違が顕著に現れ、T1強調の画像となることが知られている。「画像C」に対応するシーケンスBにおける励起パルスのフリップ角は20°でありそれ程大きな値ではないが、それでもT1強調の傾向があり、図7のグラフのフリップ角20°の位置に示すように脂肪や血液の信号強度が水や脳実質部に比べて大きくなっている。このことが、「画像C」において、脂肪や血液の信号が相対的に高くなっている理由と考えられる。
また、「画像C」において血液の信号が高くなっている他の理由として、撮像対象のスライスの外から流入してくる血液の影響が考えられる。撮像対象のスライスに励起パルスが繰り返し印加されると、スライス内の血液の縦磁化は徐々に低下して定常状態に至る。これに対して、スライスの外からスライス内に流入してくる血液はまだ定常状態に至っておらず、大きな縦磁化を有している。このため、スライス外からスライス内に流入してくる血液の信号が高くなると考えられる。
図7から類推されるように、励起パルスのフリップ角を20°からさらに小さくすれば、T1強調の傾向は弱まり、脂肪や血液の信号強度が低下すると考えられる。
「画像D」は、このような考えに基づいて、励起パルスのフリップ角を10°に設定して撮像した画像である。フリップ角を10°と低く設定したことにより、「画像C」で脳外周部に見られた脂肪の信号強度が低下したことが「画像D」からわかる。しかしながら、「画像C」と「画像D」を見比べると判るように、「画像D」では、今度は水(CSF、眼球)や脳実質部の信号強度が相対的に強くなってきている。
上述したように、従来のGREシーケンス(シーケンスA)のTRを単に短くした高速GREシーケンス(シーケンスB)では、マップ画像のコントラストを調整のするのが容易ではなく、従来のマップ画像(「画像A」)と同等のコントラストを得るのは難しい。この理由は、高速GREシーケンス(シーケンスB)において、コントラストを調整するためのパラメータの数が少ない点にある。
シーケンスBのTRを変化させることによってコントラストも変化するが、そもそもシーケンスBの目的はスライス当たりの撮像時間を短縮することにあり、TRは10ms以下に設定するのが好ましい。この意味では、TRの調整幅は狭く、TRを10ms以下の範囲で変化させてもコントラストの調整幅は少ない。
また、シーケンスBのエコー時間TEを見かけ上の横緩和時間T2*に対して相対的に変化させてもコントラストは変化しうるが、TEは例えば2.3msであり、通常の横緩和時間T2*と比べても十分に小さいため、コントラスト調整のためにはあまり寄与しない。
したがって、シーケンスBにおいて、実質的にコントラストを調整できるパラメータは励起パルスのフリップ角だけであり、この1つのパラメータを調整しても、マップ画像のコントラストを所望の程度にまで低減するのには限界がある。
また、前述したように、マップ画像は、B1不均一性の補正処理にも利用されており、この補正処理では、マップ画像にわずかに残ったコントラストを加味して補正アルゴリズムを最適化している場合がある。従来のマップ画像に基づいて最適化されたこの補正アルゴリズムを有効に活用するには、従来の長いTRを用いて生成したマップ画像(「画像A」)と同程度のコントラストを確保するのが好ましい。この観点から、高速GREシーケンス(シーケンスB)で得られたマップ画像のコントラストが、マップ画像(「画像A」)と同等のコントラストとなるように制御できるようになっていることが好ましい。しかしながら、シーケンスBでは、コントラストを調整するためのパラメータが少ないため、この要望を満たすのも難しい。
そこで、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置1では、シーケンスAにおける体動アーチファクト発生の問題と、シーケンスBにおける上記のコントラスト調整の困難さを解決すべく、以下に述べる、「プリパルス付き高速GREシーケンス」(以下、シーケンスCと呼ぶ)を採用する構成としている。
図8は、本実施形態で採用するプリパルス付き高速GREシーケンス(シーケンスC)を示す図である。
シーケンスCは、フリップ角が90°未満のプリパルスと、このプリパルスの後に続く複数の励起パルスを含む高速GREシーケンスとを具備して構成されている。シーケンスBのうちプリパルスを除く高速GREシーケンスの部分は、基本的にはシーケンスBと同じものであり、スライス毎にこの高速GREシーケンスが繰り返される。
ただし、シーケンスCでは前述したRFスポイルが適用されている。横磁化をより一層スポイリングするために、RFスポイルに加えて傾斜磁場スポイルを行っても良い。即ち、高速GREシーケンス中の各TR内において、エコーを収集してから次の励起パルスまでの間に、スライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Gp、及びリードアウト用傾斜磁場Grの少なくとも1つを印加して横磁化をさらにスポイルするようにしても良い。
プリパルスは、各スライスに対する高速GREシーケンスの前にそれぞれ印加される。また、プリパルスの印加領域は、撮像対象のスライスの領域よりも大きく設定される。或いは、プリパルスは、領域非選択として印加される。図8では、プリパルスの印加時に、スライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Gp、及びリードアウト用傾斜磁場Grのいずれもが印加されておらず、プリパルスが領域非選択として印加されている例を示している。
プリパルスの無いシーケンスBにおいては、図9(a)に示すように、スライスの外から流入する血液によって、血液の信号強度が高くなっていた。これに対して、シーケンスCでは、プリパルスの付加と共に、プリパルスの印加領域を撮像対象のスライスの領域よりも大きく設定し、或いは、プリパルスを領域非選択として印加しているため、スライスに流入してくる血液の信号強度を抑制することができる(図9(b))。
図8に戻り、プリパルスと、高速GREシーケンスの最初の励起パルスとの間には、プリパルスで発生する横磁化を消失するための傾斜磁場(スポイラー)が設けられている。スポイラーとして印加する傾斜磁場は、図8のようにGs、Gp、及びGrの総てでもよいが、これらのうちの任意の2つ、或いは任意の1つでもよい。
また、プリパルスの印加時刻から、高速GREシーケンス中のk空間中心のエコー収集時刻までの時間を遅延時間TDとしている。
このようなシーケンスCにより、マップ画像のコントラストを、シーケンスBに比べてより自在に調整することが可能となる。何故なら、コントラストを有効に調整しうるパラメータの数が、シーケンスBよりもシーケンスCの方が多くなっているからである。換言すれば、コントラストを調整する自由度が、シーケンスCの方がシーケンスBよりも高い。シーケンスBにおいては、コントラストを有効に調整しうるパラメータは実質的に励起パルスのフリップ角に限定されていた。これに対して、シーケンスCでは、励起パルスのフリップ角の他、少なくともプリパルスのフリップ角及び遅延時間TDを調整することにより、マップ画像のコントラストを調整することができる。図10はこのことを定性的に説明する図である。
図10(a)は、シーケンスB(高速GREシーケンス)の定常時における各組織の信号強度と時間との関係を模式的に示す図である。定常時では各組織の縦磁化は一定となるため、信号強度も時間に対して変化しない。図10(a)は、図6の「画像D」の撮像パラメータ(励起パルスのフリップ角を10°、RFスポイルあり)に対応する信号強度の相対値(コントラスト)を模式的に示したものである。このとき、脳実質部と、水(CSF、眼球)の信号強度が高くなっている。
一方、図10(b)は、シーケンスC(プリパルス付き高速GREシーケンス)における縦磁化の時間変化を模式的に示したものである。図10(b)では、説明の便宜上、プリパルス印加前の各組織の縦磁化の大きさ(M0)を同じと仮定している。また同様に説明の便宜上、高速GREシーケンスの開始直後の過渡状態は省略し、高速GREシーケンスの開始と共に定常状態になるものと仮定している。
プリパルスの印加により、印加直後の縦磁化の大きさはM0からM1に低下する。その後、縦磁化は回復していくが、各組織の縦緩和時間T1の違いにより回復の速度が異なる。縦緩和時間T1が最も小さい脂肪は最も早く立ち上がり、縦緩和時間T1の大きな脳実質部や水(CSF、眼球)はゆっくりと立ち上がる。プリパルスにより、k空間中心までの遅延時間TDの中で組織の縦磁化に差が付き、組織間の信号強度、即ち画像コントラストがつく。
図10(b)から理解できるように、遅延時間TDを調整することにより、高速GREシーケンス中の各組織の縦磁化の相対的な大きさを調整することができる。この結果、遅延時間TDを調整することにより、各組織の相対的な信号強度、或いは、組織間のコントラストを調整することができる。
また、プリパルス印加後は、縦緩和時間T1の大きな脳実質部や水(CSF、眼球)は脂肪よりもゆっくり立ち上がるため、脳実質部や水(CSF、眼球)の信号強度を、相対的に抑制することができる。この結果、図6の「画像D」において高かった脳実質部や水(CSF、眼球)の信号強度(図8(a)も参照)を低減することができる。
また、遅延時間TDだけでなく、プリパルスのフリップ角を変えることによっても、各組織の信号強度を変化させることができる。プリパルスのフリップ角に依存して、プリパルス印加直後の縦磁化の大きさが変化するからである。
図11は、従来のマップ撮像シーケンスであるGREシーケンス(シーケンスA)で撮像した「画像A」と、本実施形態で採用するプリパルス付き高速GREシーケンス(シーケンスC)で撮像した「画像E」とを対比した図である。シーケンスCは、TRを短くしているため、スライス当たりの撮像時間をシーケンスAの約15.4秒から約0.8秒へと大幅に短縮されている。この結果、体動アーチファクトの発生を抑制することが可能となっている。加えて、シーケンスCにおけるパラメータとして、励起パルスのフリップ角、プリパルスのフリップ角、及び遅延時間TDを調整して、それぞれ10°、30°、及び200msに設定することによって、従来のマップ画像(「画像A」)と同等のコントラストが得られている。
なお、図8、図11等に示したシーケンスCの各パラメータの数値はあくまでも一例であり、本発明がこれらの数値に限定されるわけではない。
図12は、これまで説明してきたシーケンスA、B,及びCの長所及び短所をまとめた表である。
従来のマップ撮像シーケンスであるシーケンスAは、組織間のコントラストが小さく、SNRが高いという利点があるが、スライス当たりの撮像時間が長く、体動アーチファクトが発生しやすい。
シーケンスAのTRを単純に短縮したシーケンスBは、スライス当たりの撮像時間が短く体動アーチファクトが少ないが、組織間のコントラストが着きやすいという欠点をもつ。また、TRが短いことに起因して定常時の縦磁化がシーケンスAに比べて小さくなり、シーケンスAに比べてSNRが低めとなる。
これらに対して、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置1で採用するシーケンスCは、シーケンスAに比べてSNRは低めとなるものの、1)スライス当たりの撮像時間が短く体動アーチファクトが少ない、かつ、2)組織間のコントラストを小さくするためのパラメータ調整が可能である、という利点を有する。
シーケンスCにおける上記の利点は、パラレルイメージングで利用する感度マップのコントラストを低く抑えることができるだけでなく、従来のRF磁場(B1)不均一性の補正処理を有効に活用する上でも有用である。
図3で説明したように、シーケンスCのパラメータ調整によって所望のコントラストをもつマップ画像が得られると、調整後のパラメータはパラメータ記憶部403に保存されることになる。パラメータの調整と保存のタイミングは特に限定するものではなく、例えば、磁気共鳴イメージング装置1の出荷前に工場内でパラメータの調整と保存を行っても良いし、病院等に据え付けるときにパラメータの調整と保存を行ってもよい。また、一旦パラメータ記憶部403に保存したパラメータをオペレータが随時変更可能なように、パラメータ調整部404やパラメータ記憶部403を構成してもよい。
図13は、パラメータ記憶部403に保存されたパラメータを利用して、パラレルイメージング撮像を行う処理の概略の流れを示すフローチャートである。ステップST200からステップST204までがマップ撮像の処理であり、ステップST205からステップST207がパラレルイメージングによる本撮像の処理である。
ステップST200で、マップ用パルスシーケンス(プリパルス付き高速GREシーケンス)の、コントラスト調整済みのパラメータをパラメータ記憶部403から読み出す。
そして、ステップST201で、読み出したパラメータを、撮像条件設定部(1)401を介してシーケンスコントローラ34に設定してマップ撮像を実行する。
ステップST202で、WBコイル12から収集されたマップ撮像のMR信号を用いて、WBコイル12のマップ画像を生成する。
同様に、ステップST203で、アレイコイル13の各チャネルから収集されたマップ撮像のMR信号を用いて、アレイコイル13の各マップ画像を生成する。
ステップST204で、アレイコイルの各マップ画像をWBコイルのマップ画像で除算して、アレイコイルのチャネルごとの感度マップを生成する。
ステップST205で、本撮像(パラレルイメージング)の撮像条件を、撮像条件設定部(2)402を介してシーケンスコントローラ34に設定して、本撮像を実行する。
ステップST206で、本撮像で得られた各縮小画像を、ステップST204で生成された感度マップを用いて展開する。
最後に、ステップST207で、展開処理後の画像(最終画像)を表示、或いは保存する。
図14は、パラメータ記憶部403に保存されたパラメータを利用して、RF磁場(B1)不均一性補正処理を伴う撮像を行う処理の概略の流れを示すフローチャートである。ステップST200からステップST203までの処理は図13と同じであり、説明を省略する。
ステップST300では、WBコイルのマップ画像とアレイコイルの各マップ画像を適宜のメモリに保存する。ステップST301で本撮像を実行する。ステップST302で、保存されたマップ画像(WBコイル、アレイコイル)を用いてB1不均一性の補正処理を行う。最後に、ステップST303で、補正処理後の画像(最終画像)を表示、或いは保存する。
以上説明してきたように、実施形態の磁気共鳴イメージング装置1によれば、スライス当たりの撮像時間が短縮されたマップ撮像によって体動アーチファクトの少ない感度マップを生成することができ、かつ、感度マップ、或いはその元となるマップ画像のコントラストを抑制或いは制御することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。