しかしながら、特許文献1の太陽光発電量予測システムでは、地域毎の気象と電力系統の電力量とに纏わる情報を収集するのに多大な手間や大掛かりな仕組みが必要とされるという問題があり、このため、汎用性が高いとは言い難い。特許文献1の太陽光発電量予測システムでは、また、再生可能エネルギーを利用する発電設備では太陽光発電設備を始めとして気象状況が僅かに違うだけでも発電出力が大きく異なることがあり、気象状況の予報値が正確でなければ精度の高い予測はそもそも行われ得ないという問題があり、しかも、気象状況の予報値と実際の気象状況とのずれがたとえ僅かでも発電出力が大きく異なることになってしまう可能性があるという点において信頼性が高いとは言い難いという問題がある。
そこで、本発明は、配電系統に連系している分散型電源の発電出力を多大な手間を掛けることなく且つ大掛かりな仕組みが必要とされることなく簡便に、しかも良好な精度で推定することができる発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムを提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本発明の発電出力の推定方法は、配電線において計測された電圧,電流,及び力率が用いられて有効電力と無効電力とが算出されると共に所定の時間間隔だけ前の有効電力と無効電力との差分である有効電力変動及び無効電力変動が算出され、これら有効電力変動と無効電力変動とに基づいて算出される潮流の皮相電力変動及び潮流変動ベクトル角並びに予め設定された配電線における負荷変動の力率の値及び配電線に連系している分散型電源から出力される電力の力率の値が用いられて所定の時間間隔における分散型電源の発電出力変動が算定され、当該分散型電源の発電出力変動から分散型電源の発電出力が推定されるようにしている。
また、本発明の発電出力の推定装置は、配電線において計測された電圧,電流,及び力率を用いて有効電力と無効電力とを算出する手段と、所定の時間間隔だけ前の有効電力と無効電力との差分である有効電力変動及び無効電力変動を算出する手段と、有効電力変動と無効電力変動とに基づいて潮流の皮相電力変動及び潮流変動ベクトル角を算出する手段と、潮流の皮相電力変動及び潮流変動ベクトル角並びに予め設定された配電線における負荷変動の力率の値及び配電線に連系している分散型電源から出力される電力の力率の値を用いて所定の時間間隔における分散型電源の発電出力変動を算定する手段と、分散型電源の発電出力変動から分散型電源の発電出力を推定する手段とを有するようにしている。
また、本発明の発電出力の推定プログラムは、配電線において計測された電圧,電流,及び力率を用いて有効電力と無効電力とを算出する処理と、所定の時間間隔だけ前の有効電力と無効電力との差分である有効電力変動及び無効電力変動を算出する処理と、有効電力変動と無効電力変動とに基づいて潮流の皮相電力変動及び潮流変動ベクトル角を算出する処理と、潮流の皮相電力変動及び潮流変動ベクトル角並びに予め設定された配電線における負荷変動の力率の値及び配電線に連系している分散型電源から出力される電力の力率の値を用いて所定の時間間隔における分散型電源の発電出力変動を算定する処理と、分散型電源の発電出力変動から分散型電源の発電出力を推定する処理とをコンピュータに行わせるようにしている。
これらの発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムによると、配電系統に連系している分散型電源の発電出力を下記に説明する原理によって推定することができる。
ここでは、図3に示す模式化された配電系統を用いて本発明の原理を説明する。なお、本発明の説明においては、配電線について、配電用変電所の側を上流側とする。
図3に示す模式化された配電系統は、配電用変電所1Aからの電力を供給する配電線2にセンサー3及び当該センサー3よりも下流側位置にスイッチ5Aが設置されていると共に、配電線2からみたときに電力融通配電系統になる配電線6Aがスイッチ5Aよりも下流側位置において融通制御スイッチ5Bを介して配電線2に接続されている。なお、配電線6Aの上流には配電用変電所1Bがあり、配電線6Aは配電用変電所1Bからの電力を供給する。また、符号6Bは、センサー3とスイッチ5Aとの間の位置において配電線2に接続されているフィーダーである。
なお、配電線2において供給支障事故が発生していない通常時においては、配電線2に設置されているスイッチ5Aは「入」(即ち、接続)の状態であり、配電線6Aに設置されている融通制御スイッチ5Bは「切」(即ち、遮断)の状態である。
センサー3は、配電線2の少なくとも電圧及び電流並びに配電系統の力率を計測可能な機器である。
センサー3によって計測された計測データ(具体的には、電圧,電流,及び力率)が用いられて有効電力及び無効電力が算出される。
図3において、符号4は、配電線6Aが接続されている位置よりも下流側において配電線2に連系している分散型電源である。分散型電源4は、特定の種類に限定されるものではなく、例えば太陽光発電,風力発電,または波力・潮力発電などのように時々刻々と変化する再生可能エネルギーを利用する発電設備を始めとして種々の発電設備が想定され得る。
ここで、本発明の発電出力の推定方法の適用にあたっては、分散型電源4から出力される電力の力率が予め設定されて分散型電源4において前記予め設定された力率での力率一定運転が行われるように無効電力が注入されていることが好ましい。
配電線2に設置されたセンサー3によって計測された計測データが用いられて算出される有効電力(計測潮流;図中の符号9の矢印で表す)は、当該センサー3以下の負荷、言い換えると、センサー3よりも下流側の負荷による末端側に向かう潮流(負荷潮流;図中の符号7の矢印で表す)と、末端側から配電用変電所1A側に向かう逆方向の潮流(発電潮流;図中の符号8の矢印で表す)とが合計された値となる。
つまり、配電線2において、負荷潮流7が実際の需要であり、発電潮流8が分散型電源4の発電出力であり、計測潮流9がセンサー3によって計測される需要、言ってみれば見かけの需要である。
なお、負荷潮流7と発電潮流8とが図3に示す例のように向きが逆である場合には符号が逆になるので、この場合には、計測潮流9は負荷潮流7の絶対値と発電潮流8の絶対値との差分であるとも言える。
ここで、図4に示すように、配電線2のフィーダー6Bで供給支障事故Siが発生した場合には、配電線2に設置されているスイッチ5Aが「切」(即ち、遮断)の状態に切り替わると共に配電線6Aに設置されている融通制御スイッチ5Bが「入」(即ち、接続)の状態に切り替わる。これにより、配電用変電所1Bからの電力が配電線6Aを介して配電線2へと供給即ち融通される。
また、配電線2のフィーダー6Bで供給支障事故Siが発生した場合には、配電線2に連系している分散型電源4は配電線2への電力の供給を停止する。したがって、図4に示す状態における発電潮流8はゼロ(0)になる。
このとき、供給支障事故が発生していない図3に示す状態でセンサー3によって計測されているのは、実際の需要(即ち、負荷潮流7)ではなく、見かけの需要(即ち、計測潮流9)である。したがって、供給支障事故Siが発生して図4の状態に切り替わったときに電力融通配電系統としての配電線6Aから供給される融通電力だけで下流側の需要に十分に対応し得るか否か不明である。
このため、供給支障事故などが発生した際の配電線融通計算を適切に行うためには、図3に示す状態における実際の需要(即ち、負荷潮流7)を正確に把握することに必要とされる、分散型電源4の発電出力(即ち、発電潮流8)を把握することが重要である。
ここで、無効電力にも着目すると、負荷が増加、つまり有効電力が増加すると、産業用負荷などの影響によって無効電力も増加(系統側からみて遅れ:遅相)となる。
一方で、負荷が減少、つまり有効電力が減少すると、無効電力も減少(系統側からみて進み:進相)となる。
上述の関係を図示したのが、図5の、横軸が有効電力Pであると共に縦軸が無効電力QであるPQ平面における「負荷」である。ただし、無効電力の変動を伴わない家庭用負荷などが存在、即ち連系している場合もある。
これに対し、例えば太陽光発電については、太陽光が当たって発電すると潮流の有効電力が減少するが、電圧上昇対策で導入されている力率一定制御機能により、無効電力が増加(系統側からみて遅れ:遅相)となる。逆に雲がかかるなどして発電量が減少すると、有効電力が減少し、無効電力も減少(系統側からみて進み:進相)となる。
上述の関係を図示したのが、図5のPQ平面における「発電出力」である。
図5のPQ平面において表される関係から、本発明者は、横軸を有効電力Pとすると共に縦軸を無効電力QとしたPQ平面上で、負荷と発電出力とは独立のベクトルとなる傾向にあると考えられるという知見を得た。
或る時刻においてセンサー3の計測データが用いられて算出された有効電力潮流をP(t)とすると共に無効電力潮流をQ(t)とすると、これら有効電力潮流P(t)と無効電力潮流Q(t)とは、負荷による有効電力Pl及び無効電力Ql並びに分散型電源4の発電による有効電力Pv及び無効電力Qvを用いてそれぞれ数式1−1,数式1−2のように表される。ただし、時刻をtの値によって表すものとし、分散型電源の発電出力については発電すると増加する方向を正とした。
(数1−1) P(t)=Pl(t)−Pv(t)
(数1−2) Q(t)=Ql(t)+Qv(t)
ここで、或る時刻tから時間間隔Δtだけ前の有効電力P(t−Δt)と無効電力Q(t−Δt)とは、それぞれ数式2−1,数式2−2のように表される。
(数2−1) P(t−Δt)=Pl(t−Δt)−Pv(t−Δt)
(数2−2) Q(t−Δt)=Ql(t−Δt)+Qv(t−Δt)
したがって、或る時刻tから遡る時間間隔Δtの間における有効電力変動ΔP(t)は、数式3−1で表され、当該数式3−1に数式1−1及び数式2−1を代入することによって数式3−2のように変形され、当該数式3−2は数式3−3のように変形され、結果的に数式3−4のように表される。
(数3−1) ΔP(t)=P(t)−P(t−Δt)
(数3−2) ΔP(t)={Pl(t)−Pv(t)}−{Pl(t−Δt)−Pv(t−Δt)}
(数3−3) ΔP(t)={Pl(t)−Pl(t−Δt)}−{Pv(t)−Pv(t−Δt)}
(数3−4) ΔP(t)=ΔPl(t)−ΔPv(t)
また、或る時刻tから遡る時間間隔Δtの間における無効電力変動ΔQ(t)は、数式4−1で表され、当該数式4−1に数式1−2及び数式2−2を代入することによって数式4−2のように変形され、当該数式4−2は数式4−3のように変形され、結果的に数式4−4のように表される。
(数4−1) ΔQ(t)=Q(t)−Q(t−Δt)
(数4−2) ΔQ(t)={Ql(t)+Qv(t)}−{Ql(t−Δt)+Qv(t−Δt)}
(数4−3) ΔQ(t)={Ql(t)−Ql(t−Δt)}+{Qv(t)−Qv(t−Δt)}
(数4−4) ΔQ(t)=ΔQl(t)+ΔQv(t)
ここで、有効電力変動ΔP(t)と無効電力変動ΔQ(t)とを用いて時刻t毎に表1を基準に判定することにより、潮流の変動において、負荷による変動が支配的であるのか、或いは、分散型電源の発電出力による変動が支配的であるのかを仕分ける。
表1は、数式3−4によって算出される有効電力変動ΔPの値が、正(+)であるときは消費増加の局面であり、負(−)であるときは発電増加の局面であることを表す。
表1は、また、数式4−4によって算出される無効電力変動ΔQの値が、正(+)であるときは無効電力増加(系統側からみて遅れ:遅相)の局面であり、負(−)であるときは無効電力減少(系統側からみて進み:進相)の局面であることを表す。
そして、表中の記号Lは負荷による変動が支配的であることを表し、記号Gは分散型電源の発電出力による変動が支配的であることを表す。
つまり、表1により、数式3−4によって算出される有効電力変動ΔPの値が負であり且つ数式4−4によって算出される無効電力変動ΔQの値が正であるとき、または、有効電力変動ΔPの値が正であり且つ無効電力変動ΔQの値が負であるときは、これらの組み合わせに該当する記号はGであるので、潮流の変動において分散型電源の発電出力による変動が支配的であると判定される。すなわち、言い換えると、有効電力変動ΔPの変動方向と無効電力変動ΔQの変動方向とが逆であるときは分散型電源の発電出力による変動が支配的であると判定される。
表1により、また、上記以外の組み合わせであるときは、これら組み合わせに該当する記号はLであるので、潮流の変動において負荷による変動が支配的であると判定される。すなわち、言い換えると、有効電力変動ΔPの変動方向と無効電力変動ΔQの変動方向とが同じであるとき、或いは、有効電力変動ΔPと無効電力変動ΔQとのうちの少なくとも一方がゼロ(0)であるときは、負荷による変動が支配的であると判定される。
表1の判定基準を、横軸を時刻とすると共に縦軸を電力(具体的には、有効電力P,無効電力Q)とするグラフによって表すと図6のようになる。図6の電力変動は、表1を説明するための単なる想定例であり、分散型電源4が太陽光発電設備であると仮定した場合の想定例である。
具体的には、早朝に負荷(有効電力P)が増加してくると無効電力Qは増加(遅相)に向かい、昼間に太陽光発電の発電出力が支配的になって有効電力Pが減少すると無効電力Qは更に増加(遅相)に向かい、日没後は負荷(有効電力P)が減少すると無効電力Qは減少(進相)に向かう。
上述のように判定して、時刻Tまでの、潮流の変動において分散型電源の発電出力による変動が支配的であると判定された時刻tの有効電力変動ΔP(t)のみを数式5によって積算することにより、時刻Tにおける分散型電源4の発電出力Pt(T)が推定される。
(数5) Pt(T)=ΣΔP(t)
なお、数式5による分散型電源4の発電出力Pt(T)の推定は、潮流の変動において分散型電源の発電出力による変動が支配的であるときは数式3−4におけるΔPl(t)は無視し得るのでΔP(t)=−ΔPv(t)であると評価し得ることに基づく。
上述の知見及び検討内容も踏まえ、負荷変動と分散型電源の発電出力変動との特性に纏わる視点を更に追加した本発明の原理を以下に説明する。
図7,図8に示すように、或る時刻の潮流変動をPQ平面上で描いたとき、潮流変動は負荷変動と分散型電源の発電出力変動とにベクトル分解される。
例えば負荷が増加すると、有効電力Pと無効電力Qとが共に増加し、同時に分散型電源の発電出力が増加すると、有効電力Pが減少に向かう。すると、負荷変動と分散型電源の発電出力変動とを合成した潮流変動(言い換えると、潮流変動を表すベクトル)は、分散型電源の発電出力変動と比べて負荷変動が大きい場合は図7のように第1象限に入り、負荷変動と比べて分散型電源の発電出力変動が大きい場合は図8のように第2象限に入る。
ここで、潮流変動,負荷変動,及び分散型電源の発電出力変動について、矢印の大きさがそれぞれ潮流の皮相電力S,負荷の皮相電力Sl,及び分散型電源から出力される皮相電力Svを表すとすると、余弦cosχ,cosθ,及びcosφが各々の力率となる。
ここで、本発明においては、以下の数式6によって表されるcosθを「負荷変動の力率」と呼ぶ。なお、ΔPl(t)=Pl(t)−Pl(t−Δt),ΔQl(t)=Ql(t)−Ql(t−Δt)であり、また、数式6では時刻の識別子である (t) を省略している。
なお、χは潮流変動を表すベクトルが横軸(即ち、有効電力Pを表す軸)となす角(以下、潮流変動ベクトル角という)の大きさであり、θは負荷変動を表すベクトルが横軸となす角(以下、負荷変動ベクトル角という)の大きさであり、φは発電出力変動を表すベクトルが横軸となす角(以下、出力変動ベクトル角という)の大きさである。
したがって、潮流変動ベクトル角χ=tan−1[|ΔQ/ΔP|]であり、負荷変動ベクトル角θ=tan−1[|ΔQl/ΔPl|]であり、出力変動ベクトル角φ=tan−1[|ΔQv/ΔPv|]である。
これらの値を用いると、θ<χの場合は、図7の例のように潮流変動(潮流変動を表すベクトル)が第1象限に入るときは数式7によって、また、図8の例のように潮流変動(潮流変動を表すベクトル)が第2象限に入るときは数式8によって、分散型電源の発電出力変動ΔPvがそれぞれ求められる。
θ<χの場合について潮流変動が第3象限,第4象限に存在する場合を含む算定式の全ては表2のように整理され、また、θ>χの場合の算定式の全ては表3のように整理される。
上述によって算定される時刻Tまでの分散型電源の発電出力変動ΔPvを数式9によって積算することにより、時刻Tにおける分散型電源4の発電出力Pt(T)が推定される。
(数9) Pt(T)=ΣΔPv(t)
なお、表2及び表3の算定式を用いる方法では負荷の変動方向と分散型電源の発電出力の変動方向とが平行でない必要があるため、負荷変動の力率が100%(即ち、cosθ=1)であると共に分散型電源から出力される電力の力率が100%(即ち、cosφ=1)である場合には表2及び表3の算定式を用いる方法は適用され得ない。したがって、負荷変動の力率が100%である場合には分散型電源から出力される電力の力率は100%ではない値に設定される。
以上の原理を踏まえると、本発明の発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムによると、配電線における有効電力及び無効電力の時間変動を用いることにより、配電線に連系している分散型電源の発電出力が推定され、言い換えると、負荷と分離されたそれのみとしての分散型電源の発電出力が推定される。
本発明の発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムによると、しかも、配電線の電圧,電流,及び力率を計測することにより、配電線に連系している分散型電源の発電出力が推定される。
これらの発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムによると、また、配電線において計測される電力状況が用いられて配電線に連系している分散型電源の発電出力が推定されるので、例えば気象状況の予報値などの精度に影響されること無く推定精度が確保されると共に、配電線における電力状況の僅かな変化でも発電出力の推定に反映される。
ここで、通信技術の発展に伴い、電力会社の配電部門でも系統運用の自動化が進んでおり、配電線搬送や配電用の通信ケーブル、更には光ネットワークの構築もなされてきている。同時に、潮流計測や配電線事故検出の機能を持った配電線センサーの導入も進んできており、事業所にいながら電圧,電流,及び力率といった情報の入手が容易になっている。このような背景のもと、本発明では、既設の配電線センサーにより計測されるデータを利用することによって発電出力が推定されるようにしても良く、新たに必要とされる費用が抑制される。また、推定対象の配電線の区間やフィーダーに配電線センサーが設置されていないために計測機器を新たに設置する必要があるとしても、配電線センサーによって計測されるデータには種々の用途があるので、本発明のために限定されない配電線センサーを設置することによって本発明は実施され得る。
上述のことも踏まえ、本発明の発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムは、配電線に設置された配電線センサーによって電圧,電流,及び力率が計測されるようにしても良い。この場合には、既設の配電線センサーによって計測されるデータを利用して発電出力の推定が行われたり、配電線センサーを新たに設置する場合でも本発明のために限定されない配電線センサーを設置して発電出力の推定が行われたりする。
また、本発明の発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムは、分散型電源から出力される電力の力率が設定され、分散型電源において前記力率での力率一定制御が行われるようにしても良い。この場合には、分散型電源から出力される電力について設定された力率が用いられて分散型電源の発電出力の推定が行われる。
本発明の発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムによれば、配電線における有効電力及び無効電力の時間変動を用いることによって配電線に連系している分散型電源の発電出力を推定する、言い換えると、負荷と分離されたそれのみとしての分散型電源の発電出力を推定することができるので、配電線において供給支障事故などが発生した際の配電線融通計算を適確に行うことを可能にして配電系統の運用を適切に行うことが可能になる。
本発明の発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムによれば、しかも、配電線の電圧,電流,及び力率を計測することによって配電線に連系している分散型電源の発電出力を推定することができるので、多大な手間や大掛かりな仕組みが必要とされることなく分散型電源の発電出力の推定が可能であり、発電出力の推定技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
本発明の発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムによれば、また、例えば気象状況の予報値などの精度に影響されること無く推定精度を確保することができると共に、配電線における電力状況の僅かな変化でも発電出力の推定に反映させることができるので、良好な推定精度を実現して発電出力の推定技術としての信頼性の向上を図ることが可能になる。
また、本発明の発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムは、電圧,電流,及び力率が配電線センサーによって計測されるようにした場合には、既設の配電線センサーによって計測されるデータを利用して発電出力の推定を行うことができるので、コストを低減させることが可能になる。また、配電線センサーを新たに設置する場合でも本発明のために限定されない配電線センサーを設置して発電出力の推定を行うことができるので、機器の多様な有効活用の可能性を確保して配電系統の監視・運用全体としてのコストを低減させることが可能になる。
また、本発明の発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムは、分散型電源において所与の力率での力率一定制御が行われるようにした場合には、所与の力率が用いられて分散型電源の発電出力の推定が行われるので、推定精度のより一層の向上を図ることが可能になる。
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
図1から図3に、本発明の発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムの実施形態の一例を示す。
本実施形態では、図3に模式的に示す配電系統の配電線2に連系している分散型電源4の発電出力を推定する場合を例に挙げて説明する。図3に模式的に示す配電系統の構成に関する説明は、上記[課題を解決するための手段]における説明と同様である。
本実施形態の発電出力の推定方法は、配電線2において計測された或る時刻tにおける電圧,電流,及び力率が用いられて有効電力P(t)と無効電力Q(t)とが算出される(S1,S2)と共に所定の時間間隔Δtだけ前の有効電力P(t−Δt)と無効電力Q(t−Δt)との差分である有効電力変動ΔP(t)及び無効電力変動ΔQ(t)が算出され(S3)、これら有効電力変動ΔP(t)と無効電力変動ΔQ(t)とに基づいて算出される潮流の皮相電力変動ΔS(t)及び潮流変動ベクトル角χ(t)並びに予め設定された配電線2における負荷変動の力率cosθの値及び配電線2に連系している分散型電源4から出力される電力の力率cosφの値が用いられて所定の時間間隔Δtにおける分散型電源4の発電出力変動ΔPv(t)が算定され(S4,S5)、当該分散型電源4の発電出力変動ΔPv(t)から分散型電源4の発電出力Pt(t)が推定される(S6)ようにしている。
上記発電出力の推定方法は、発電出力の推定装置によって実施され得る。本実施形態の発電出力の推定装置10は、配電線2において計測された或る時刻tにおける電圧,電流,及び力率を用いて有効電力P(t)と無効電力Q(t)とを算出する手段としてのデータ受部11a及び電力算出部11bと、所定の時間間隔Δtだけ前の有効電力P(t−Δt)と無効電力Q(t−Δt)との差分である有効電力変動ΔP(t)及び無効電力変動ΔQ(t)を算出する手段としての電力変動算出部11cと、有効電力変動ΔP(t)と無効電力変動ΔQ(t)とに基づいて潮流の皮相電力変動ΔS(t)及び潮流変動ベクトル角χ(t)を算出する手段としての潮流変動算出部11dと、潮流の皮相電力変動ΔS(t)及び潮流変動ベクトル角χ(t)並びに予め設定された配電線2における負荷変動の力率cosθの値及び配電線2に連系している分散型電源4から出力される電力の力率cosφの値を用いて所定の時間間隔Δtにおける分散型電源4の発電出力変動ΔPv(t)を算定する手段としての発電出力変動算定部11eと、分散型電源4の発電出力変動ΔPv(t)から分散型電源4の発電出力Pt(t)を推定する手段としての発電出力推定部11fとを備える。
また、上記発電出力の推定方法及び発電出力の推定装置は、発電出力の推定プログラムがコンピュータ上で実行されることによっても実施・実現され得る。ここでは、発電出力の推定プログラムがコンピュータ上で実行されることによって発電出力の推定装置が実現されると共に発電出力の推定方法が実施される場合を説明する。
本実施形態の発電出力の推定プログラム17を実行するためのコンピュータ10(本実施形態では、発電出力の推定装置10でもある)の全体構成を図2に示す。このコンピュータ10(発電出力の推定装置10)は制御部11,記憶部12,入力部13,表示部14,及びメモリ15を備え、これらが相互にバス等の信号回線によって接続されている。
制御部11は、記憶部12に記憶されている発電出力の推定プログラム17によってコンピュータ10全体の制御並びに発電出力の推定に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
記憶部12は、少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
入力部13は、少なくとも作業者の命令や種々の情報を制御部11に与えるためのインターフェイス(即ち、情報入力の仕組み)であり、例えばキーボードやマウスである。なお、例えばキーボードとマウスとの両方のように複数種類のインターフェイスを入力部13として有するようにしても良い。
表示部14は、制御部11の制御によって文字や図形或いは画像等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
メモリ15は、制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
そして、コンピュータ10(本実施形態では、発電出力の推定装置10でもある)の制御部11には、発電出力の推定プログラム17が実行されることにより、配電線2において計測された或る時刻tにおける電圧,電流,及び力率を用いて有効電力P(t)と無効電力Q(t)とを算出する処理を行うデータ受部11a及び電力算出部11bと、所定の時間間隔Δtだけ前の有効電力P(t−Δt)と無効電力Q(t−Δt)との差分である有効電力変動ΔP(t)及び無効電力変動ΔQ(t)を算出する処理を行う電力変動算出部11cと、有効電力変動ΔP(t)と無効電力変動ΔQ(t)とに基づいて潮流の皮相電力変動ΔS(t)及び潮流変動ベクトル角χ(t)を算出する処理を行う潮流変動算出部11dと、潮流の皮相電力変動ΔS(t)及び潮流変動ベクトル角χ(t)並びに予め設定された配電線2における負荷変動の力率cosθの値及び配電線2に連系している分散型電源4から出力される電力の力率cosφの値を用いて所定の時間間隔Δtにおける分散型電源4の発電出力変動ΔPv(t)を算定する処理を行う発電出力変動算定部11eと、分散型電源4の発電出力変動ΔPv(t)から分散型電源4の発電出力Pt(t)を推定する処理を行う発電出力推定部11fとが構成される。
また、コンピュータ10(以下、発電出力の推定装置10と表記する)に、データや制御指令等の信号の送受信(即ち、出入力)が可能であるように、センサー3が電気的に接続される。
なお、本発明におけるセンサー3は、配電線2の少なくとも電圧及び電流並びに力率を計測可能であれば特定の機器に限定されるものではなく、配電線における電圧及び電流並びに力率の計測に適当な機器が適宜選択され得る。具体的には例えば、センサー3として、既設の若しくは新設の配電線センサーが利用され得る。
また、発電出力の推定装置10とセンサー3とは、各々に接続されて敷設されたケーブル等が用いられる有線による信号送受の仕組みを介して信号の送受信が可能であるように電気的に接続されても良いし、各々に接続された無線信号送受信機が用いられる無線による信号送受の仕組みを介して信号の送受信が可能であるように電気的に接続されるようにしても良い。
ここで、本発明の発電出力の推定方法の適用にあたっては、分散型電源4から出力される電力の力率cosφの値が設定される(S0)。
なお、本発明の適用にあたっては、分散型電源4において、予め設定された力率での力率一定制御が行われて無効電力が注入されていることが好ましい。そして、力率一定制御が行われている場合には、当該制御用に設定されている力率の値が分散型電源4から出力される電力の力率cosφの値として設定される。これに対し、力率一定制御が行われていない場合には、力率の変動として想定される範囲において平均的な水準として仮定される値が分散型電源4から出力される電力の力率cosφの値として設定されたり、配電線2に実際に連系している分散型電源4において実測された力率や実際に連系している分散型電源4と同種の機器・設備において実測された力率の事例に基づく値が分散型電源4から出力される電力の力率cosφの値として設定されたりなどすることにより、適当な値に適宜設定される。
また、本発明の実行にあたっては、配電線2における負荷変動の力率cosθの値が設定される(S0)。
具体的には例えば、まず、分散型電源4からの発電出力が配電線2に供給されていない若しくは殆ど供給されていない状態で、配電線2において複数時点で計測された電圧,電流,及び力率が用いられて計測時点毎の有効電力Pl及び無効電力Qlが算出される。次に、異なる時点間の差分として負荷変動に関する有効電力変動ΔPl及び無効電力変動ΔQlが算出される。なお、三時点以上で計測が行われて二つ以上の差分が算出された場合にはそれらの平均値が負荷変動に関する有効電力変動ΔPl及び無効電力変動ΔQlとされても良い。
続いて、数式10によって負荷変動の力率cosθが算出される。
ここで、分散型電源4からの発電出力が配電線2に供給されていない若しくは殆ど供給されていない状態としては、具体的には例えば、分散型電源4が配電線2に連系される前の状態,分散型電源4がメンテナンスなどによって発電出力を行っていない状態,又は例えば太陽光発電であれば夜間や雨天であったり風力発電であれば無風や微風であったり波力・潮力発電であれば凪であったりして発電出力がゼロ(0)である若しくは非常に小さい状態などが挙げられる。
なお、負荷変動の力率の算定方法は、上述の方法に限定されるものではなく、数式10に相当する値を算出などすることができる方法が適宜選択され得る。
また、配電線2における負荷変動の力率cosθの値は、或いは、事例などに基づいて適当な値に適宜設定されるようにしても良い。
そして、分散型電源4から出力される電力の力率cosφの値及び配電線2における負荷変動の力率cosθの値が、本実施形態では、基本値データファイル18として記憶部12に格納(保存)される。ただし、これら力率cosφ,cosθの値は、発電出力の推定プログラム17の中に直接規定されるようにしても良い。
また、以下の説明においては、S1からS6までの一続き(言い換えると、一回り)の処理のことをサイクルと呼ぶと共に或る時刻tに関するサイクルを当該サイクルとして取り上げて当該サイクルにおける処理について説明する。また、前後連続するサイクルにおけるサイクル開始の時間間隔をΔtとして当該サイクルの一つ前のサイクルの時刻を[t−Δt]とする。
また、本発明の発電出力の推定方法による処理の始まりとしての最初のサイクルの開始時刻を基準時刻toと呼ぶ。そして、基準時刻toに関する最初のサイクルでは以下のS3乃至S6の処理を行わないと共に、基準時刻toにおける分散型電源4の発電出力Pt(to)が既知であるものとする。この基準時刻toにおける分散型電源4の発電出力Pt(to)の値は、メモリ15に記憶されたり、基本値データファイル18に記録されたりする。
なお、基準時刻toにおける分散型電源4の発電出力Pt(to)は、具体的には例えば、太陽光発電であれば夜間や雨天であったり風力発電であれば無風や微風であったり波力・潮力発電であれば凪であったりして発電出力がゼロ(0)である若しくは非常に小さいと考えられる時刻を基準時刻toとしてその時刻における発電出力Pt(to)をゼロとするようにしても良い。
上述の場合は、例えば一日に一回、基準時刻toになるたびに発電出力Pt(to)=0としたうえで処理をリセットして再開するようにしても良い。
基準時刻toにおける分散型電源4の発電出力Pt(to)は、または、分散型電源4がメンテナンスなどによって発電出力を行っていない時を基準時刻toとしてその時の発電出力Pt(to)をゼロとするようにしても良い。
上述の場合は、分散型電源4のメンテナンス等のたびに発電出力Pt(to)=0としたうえで処理をリセットして再開するようにしても良い。
基準時刻toにおける分散型電源4の発電出力Pt(to)は、或いは、仮に計測されるなどして実際の値が把握された場合には当該計測時点を基準時刻toとすると共に実測値を発電出力Pt(to)とするようにしても良い。
上述の場合は、計測のたびに発電出力Pt(to)を実測値としたうえで処理をリセットして再開するようにしても良い。
そして、発電出力の推定方法の実行として、まず、配電線2の電力状況に関する計測がセンサー3によって行われて計測データの取得が行われる(S1)。
具体的には、配電線2に設置されたセンサー3によって或る時刻tにおける電圧,電流,及び力率が計測される。
そして、センサー3によって計測された時刻tにおける電圧,電流,及び力率の計測値が、センサー3から出力されてデータ受部11aを介して発電出力の推定装置10に入力される。
なお、S1の処理及びそれに続くS6までの処理は、制御部11によって制御されるタイミング(言い換えると、時間間隔Δt)で、発電出力の推定装置10がセンサー3によって計測されている計測データを取得することをトリガーとして開始されて実行されるようにしても良いし、または、センサー3によって制御されるタイミング(時間間隔Δt)で、センサー3から出力された計測データがデータ受部11aを介して発電出力の推定装置10に入力されることをトリガーとして開始されて実行されるようにしても良い。
また、制御部11若しくはセンサー3によって制御されるタイミング、即ちS1の処理を開始する時間間隔Δtは、特定の時間〔秒,分〕に限定されるものではなく、分散型電源4の発電出力に関して想定される変動ピッチや必要とされる推定精度などが考慮されて適当な値に適宜設定され得る。具体的には例えば、30秒から15分程度の範囲で適当な値に設定されることが考えられる。
そして、データ受部11aにより、入力された計測データ(具体的には、電圧,電流,及び力率)が、当該サイクルの時刻tにおけるものとして時刻tと関連づけられて(言い換えると、時刻tと共に)メモリ15に記憶される。
次に、制御部11の電力算出部11bにより、S1の処理によって入力された計測データが用いられて有効電力及び無効電力の算出が行われる(S2)。
具体的には、電力算出部11bにより、S1の処理においてメモリ15に記憶された時刻tにおける計測データ(電圧,電流,及び力率)が読み込まれ、有効電力P(t)及び無効電力Q(t)が算出される。なお、有効電力及び無効電力の算出の仕方は周知の技術であるのでここでは詳細については省略する。
そして、電力算出部11bにより、算出された有効電力P(t)及び無効電力Q(t)の値が、当該サイクルの時刻tにおけるものとして時刻tと関連づけられてメモリ15に記憶される。
次に、制御部11の電力変動算出部11cにより、当該サイクルでのS2の処理によって算出された有効電力及び無効電力と一つ前のサイクルでのS2の処理によって算出された有効電力及び無効電力とのそれぞれの差分の算出が行われる(S3)。
具体的には、電力変動算出部11cにより、当該サイクルのS2の処理においてメモリ15に記憶された時刻tにおける有効電力P(t)及び無効電力Q(t)の値が読み込まれると共に、一つ前のサイクルのS2の処理においてメモリ15に記憶された時刻[t−Δt]における有効電力P(t−Δt)及び無効電力Q(t−Δt)の値が読み込まれる。
続いて、数式11Aによって有効電力変動ΔP(t)が算出されると共に、数式11Bによって無効電力変動ΔQ(t)が算出される。
(数11A) ΔP(t)=P(t)−P(t−Δt)
(数11B) ΔQ(t)=Q(t)−Q(t−Δt)
そして、電力変動算出部11cにより、算出された有効電力変動ΔP(t)及び無効電力変動ΔQ(t)の値が、当該サイクルの時刻tにおけるものとして時刻tと関連づけられてメモリ15に記憶される。
次に、制御部11の潮流変動算出部11dにより、S3の処理によって算出された有効電力変動及び無効電力変動が用いられて潮流変動の算出が行われる(S4)。
具体的には、潮流変動算出部11dにより、S3の処理においてメモリ15に記憶された時刻tにおける有効電力変動ΔP(t)及び無効電力変動ΔQ(t)の値が読み込まれ、数式12によって潮流の皮相電力変動ΔS(t)が算出され、さらに、数式13によって潮流変動ベクトル角χ(t)が算出される。
(数12) ΔS(t)=√[ΔP(t)2+ΔQ(t)2]
(数13) χ(t)=tan−1[|ΔQ(t)/ΔP(t)|]
そして、潮流変動算出部11dにより、算出された潮流の皮相電力変動ΔS(t)の値及び潮流変動ベクトル角χ(t)の値が、当該サイクルの時刻tにおけるものとして時刻tと関連づけられてメモリ15に記憶される。
次に、制御部11の発電出力変動算定部11eにより、S4の処理によって算出された潮流の皮相電力変動及び潮流変動ベクトル角が用いられて分散型電源4の発電出力変動の算定が行われる(S5)。
具体的には、発電出力変動算定部11eにより、S4の処理においてメモリ15に記憶された時刻tにおける潮流の皮相電力変動ΔS(t)の値及び潮流変動ベクトル角χ(t)の値が読み込まれると共に、分散型電源4から出力される電力の力率cosφの値及び配電線2における負荷変動の力率cosθの値が記憶部12内の基本値データファイル18から読み込まれる。
続いて、θ<χ(t)の場合には表4に整理された式のうち、また、θ>χ(t)の場合には表5に整理された式のうち、潮流変動ベクトル角χ(t)の大きさ、或いは、ΔQ(t)とΔP(t)との値の組み合わせに基づいて判断される潮流変動(言い換えると、潮流変動を表すベクトル)が存在する象限に合わせて選択される式(以下、選択算定式という)の中辺と右辺とが用いられて分散型電源4の皮相電力変動ΔSv(t)が算定される。
さらに、発電出力変動算定部11eにより、選択算定式の左辺と右辺とが用いられて分散型電源4の発電出力変動ΔPv(t)が算定される。
そして、発電出力変動算定部11eにより、算定された分散型電源4の発電出力変動ΔPv(t)の値が、当該サイクルの時刻tにおけるものとして時刻tと関連づけられてメモリ15に記憶される。
なお、分散型電源4の発電出力変動ΔPv(t)は、実際には、時刻[t−Δt]から時刻tまでの間における発電出力の変動値である。
次に、制御部11の発電出力推定部11fにより、S5の処理によって算定された分散型電源4の発電出力変動が用いられて分散型電源4の発電出力の推定が行われる(S6)。
具体的には、発電出力推定部11fにより、当該サイクルのS5の処理においてメモリ15に記憶された時刻tにおける分散型電源4の発電出力変動ΔPv(t)の値が読み込まれると共に、一つ前のサイクルのS6の処理においてメモリ15に記憶された時刻[t−Δt]における分散型電源4の発電出力Pt(t−Δt)の値が読み込まれる。ただし、時刻[t−Δt]が基準時刻toに該当する場合には、メモリ15又は基本値データファイル18から基準時刻toにおける分散型電源4の発電出力Pt(to)の値が読み込まれる。
続いて、数式14によって分散型電源4の発電出力Pt(t)が算定される。
(数14) Pt(t)=Pt(t−Δt)+ΔPv(t)
なお、数式15のように、基準時刻toから時刻tまでの、分散型電源4の発電出力変動ΔPv(t)が積算されたうえで、当該変動積算値ΣΔPv(t)が基準時刻toにおける分散型電源4の発電出力Pt(to)に加えられるようにしても良い。この場合には、変動積算値ΣΔPv(t)の値が、数式16によって算出されると共にメモリ15に記憶され、必要に応じて読み込まれる。また、基準時刻toにおける分散型電源4の発電出力Pt(to)の値がメモリ15又は基本値データファイル18から読み込まれる。
(数15) Pt(t)=Pt(to)+ΣΔPv(t)
(数16) ΣΔPv(t)=ΣΔPv(t−Δt)+ΔPv(t)
そして、発電出力推定部11fにより、算定された分散型電源4の発電出力Pt(t)の値が、当該サイクルの時刻tにおけるものとして時刻tと関連づけられてメモリ15に記憶される。
そして、制御部11は、処理ステップをS1の処理に戻し、トリガーに呼応してS1からS6までの処理を繰り返す。
以上のように構成された発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムによれば、配電線2における有効電力P(t)及び無効電力Q(t)の時間変動ΔP(t),ΔQ(t)を用いることにより、配電線2に連系している分散型電源4の発電出力Pt(t)を推定する、言い換えると、負荷と分離されたそれのみとしての分散型電源4の発電出力Pt(t)を推定することができるので、配電線2において供給支障事故などが発生した際の配電線融通計算を適確に行うことを可能にして配電系統の運用を適切に行うことが可能になる。
そして、発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムによれば、上述のS1からS6までの処理を繰り返して行うことによって配電線2に連系している分散型電源4の発電出力が常時推定され、言い換えると、負荷と分離されたそれのみとしての分散型電源4の発電出力が常時推定され、配電線2において計測される見かけの需要と組み合わせることによって配電線2における実際の需要をリアルタイムで把握することができる。このため、配電線2において例えば供給支障事故が発生した際に、実際の需要に適確に対応する配電線融通計算を行うことが可能になる。
以上のように構成された発電出力の推定方法、推定装置、及び推定プログラムによれば、しかも、配電線2の電圧,電流,及び力率を計測することによって配電線2に連系している分散型電源4の発電出力Pt(t)を推定することができるので、多大な手間や大掛かりな仕組みが必要とされることなく分散型電源4の発電出力Pt(t)の推定が可能であり、発電出力の推定技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
なお、上述の形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態においては図3に模式的に示す配電系統の配電線2に連系している分散型電源4の発電出力を推定する場合を例に挙げて主に説明したが、本発明が適用され得る配電系統は図3に示す態様に限られるものではなく、配電線に分散型電源が連系しているために下流側から上流側に向かう逆方向の潮流が生じて実際の需要が不明であるような配電系統に広く適用が可能である。
本発明の発電出力の推定方法による発電出力の推定精度の検証例を図9及び図10を用いて説明する。
本実施例では、配電線末端(即ち、配電用変電所と反対側)に高圧連系している、分散型電源としての太陽光発電設備の発電出力の推定が行われた。
本実施例では、実際の配電線に設置された計測機器によって計測されたデータが使用された。具体的には、配電用変電所の直近に設置された計測機器によって計測された変電所送り出し直後の計測データが発電出力の推定用の情報として使用され、また、太陽光発電設備の直近に設置された計測機器によって計測された太陽光発電設備の発電出力のみに係る計測データが発電出力の推定値の比較対象として使用された。なお、本実施例では、計測機器によって計測されたデータから1分間平均値が算出され、1分単位で、言い換えると、前後連続するサイクルの開始の時間間隔Δtを1分としてS1からS6までの処理が行われて、推定値と計測値(実測値)とが比較された。
本実施例では、また、太陽光発電設備から出力される電力の力率cosφ=0.90とされ、実測された有効電力から以下の数式17を用いて無効電力が演算された。
数式17において、Qv:太陽光発電設備の発電による無効電力,Pv:太陽光発電設備の発電による有効電力,cosφ:太陽光発電設備から出力される電力の力率をそれぞれ表す。
まず、太陽光発電出力の変動が大きい或る一日について、太陽光発電出力の推定値Ptと実測値Pvとが時刻毎(1分単位)に比較されて図9に示す結果が得られた。
また、数式18によって誤差率εが1分毎に算出されたうえで一日に亙って平均され、一日平均誤差率が13%であることが確認された。なお、数式18における定格容量Pcは連系している太陽光発電の定格容量である。
図9に示す結果及び一日平均誤差率の算出結果から、太陽光発電出力の変動が大きい場合について、太陽光発電出力が良好に推定されていることが確認された。
次に、太陽光発電出力の変動が小さい或る一日について、太陽光発電出力の推定値Ptと実測値Pvとが時刻毎(1分単位)に比較されて図10に示す結果が得られた。
また、数式18によって誤差率εが1分毎に算出されたうえで一日に亙って平均され、一日平均誤差率が8%であることが確認された。
図10に示す結果及び一日平均誤差率の算出結果から、太陽光発電出力の変動が小さい場合について、太陽光発電出力が良好に推定されていることが確認された。
以上の結果から、本発明によれば、分散型電源の発電出力の変動の大きさに拘わらず、分散型電源の発電出力が高い精度で推定可能であることが確認された。
本発明の発電出力の推定方法における分散型電源から出力される電力の力率の大きさが、言い換えると、分散型電源から出力される電力の力率の仮定の仕方が、発電出力の推定精度に与える影響の検証例を図11を用いて説明する。
本実施例では、上述の実施例1と同様の推定が、分散型電源から出力される電力の力率が92%から100%まで2%ピッチで変更されながら行われた。
そして、1分毎に算出された誤差率が十日に亙って平均されて十日平均誤差率が算出された。
分散型電源から出力される電力の力率の値の変化に伴う十日平均誤差率の変化として図11に示す結果が得られた。
図11に示す結果から、分散型電源から出力される電力の力率の値が大きくなるに従って誤差率が増加する傾向にあるものの、力率98%以下では平均誤差率が15%以下であることが確認された。
以上の結果から、本発明では、分散型電源から出力される電力の力率の値に拘わらず、すなわち、力率の値の仮定によらず(少なくとも力率の仮定が大凡90%から98%程度の範囲においては)、分散型電源の発電出力が高い精度で推定可能であることが確認された。