JP6371063B2 - 悪性腫瘍の検査方法および抗腫瘍剤 - Google Patents

悪性腫瘍の検査方法および抗腫瘍剤 Download PDF

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本発明は、生体検体中の抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価を測定することを特徴とする悪性腫瘍の検査方法、およびAMPA型グルタミン酸受容体を阻害する物質を有効成分として含有する抗腫瘍剤、より具体的には肝癌治療剤に関する。
臨床において悪性腫瘍の診断方法として用いられている手段には、血液など生体中から採取した検体を用いた検査や画像検査が含まれる。特に、血液中に存在する物質をマーカーとする検査は、簡便であり汎用性が高い。悪性腫瘍の診断方法として血液を用いて行われる検査には、血液中に存在する悪性腫瘍自体を検出するものと悪性腫瘍細胞が分泌するタンパク及び糖タンパクを測定するもの、血液中に存在する腫瘍関連遺伝子を検出するものがある。悪性腫瘍細胞が分泌するタンパク及び糖タンパクの代表としては、前立腺癌のPSA、乳癌のHER2タンパク、肝細胞癌のAFPやPIVKA-II、膵癌のDupan-2やCA19-9があげられる。腫瘍関連遺伝子を検出するものの代表としては、慢性骨髄性白血病のAML1-EVI1キメラmRNA、急性骨膵性白血病のAML1-MTG8キメラmRNAやDEK-CANキメラmRNAなどがあげられる。
悪性腫瘍細胞が分泌するタンパク及び糖タンパクや、腫瘍関連遺伝子は悪性腫瘍のマーカーとして知られている。悪性腫瘍のマーカーにおいては、診断マーカー、予後予測マーカー、治療奏効性予測マーカーなどの種類がある。ヒト生体内には腫瘍免疫機構が存在し、この腫瘍免疫機構が生体内における悪性腫瘍細胞の排除や増殖抑制に関与していることが明らかになっている。個々の腫瘍免疫状態を測定することは、悪性腫瘍患者の予後や治療方針を決定するうえで大変有用である。しかしながら、悪性腫瘍細胞自体または悪性腫瘍細胞が産生する物質を測定する従来技術では、腫瘍免疫状態を評価することは出来ない。
例えば、現在悪性腫瘍の予後は、患者から生検等により得られた検体について、悪性腫瘍細胞の分化の程度、リンパ節、血管侵襲の有無などの病理学的所見に応じて判断するのが一般的であるが、悪性腫瘍細胞の分化程度を判断するのは必ずしも容易ではない。悪性腫瘍に関し、血液にて検出し得る予後予測マーカーがあれば、例えば外科的療法の切除方法の選択や、外科的療法後の経過観察の方針の選択を行うことができ、患者にとって肉体的、精神的負担を軽減化することができる。このように、予後予測マーカーは、悪性腫瘍診断後の治療方法を選択する上の重要な判断基準となるため、強く望まれている。
また現在、肺癌、胃癌、大腸癌に続いて肝癌が癌死の原因として挙げられる。肝癌には、肝細胞癌、胆管細胞癌、肝細胞芽腫等があるが、90%が肝細胞癌である。過去20年間、肝癌に対して行われた治療としては外科的切除術・エタノール注入療法・マイクロ波凝固療法・ラジオ波焼灼療法・肝動脈塞栓術がある。これらの治療でコントロールの出来なくなった進行肝癌症例には、肝動注化学療法や分子標的薬による治療が行われている。現在日本では毎年3万人、世界では毎年70万人が肝癌で死亡しており、新しい作用機序を有する肝癌治療薬の開発が切望されている。
肝癌に対する分子標的薬の開発は盛んであり、ソラフェニブ(マルチキナーゼ阻害剤)、スニチニブ(マルチキナーゼ阻害剤)、ブリバニブ(チロシンキナーゼ阻害剤)、リニファニブ(チロシンキナーゼ阻害剤)、エベロリムス(mTOR阻害剤で)、ラムシルマブ(VEGF阻害剤)、アキシチニブ(VEGF阻害剤)が開発され、一部は一般臨床でも使用されている。しかし、これら分子標的薬の治療効果は一時的であり、奏効率も十分ではない(古瀬純司 医学のあゆみ 236(7): 726-729, 2011)。 現在日本で肝細胞癌に適応のある分子標的薬ソラフェニブによる治療成績については、全生存期間10.7ヶ月、無増悪期間5.5ヶ月と報告されており、十分に肝細胞癌をコントロールできているとは言い難い。他の薬剤についても、奏効率がいずれも10%以下であり、ソラフェニブの成績を大きく凌駕する薬剤は開発されていない。また、現在開発されている分子標的薬では、手足皮膚反応、骨髄抑制、出血症状、高血圧、下痢、肝不全、消化管穿孔、間質性肺炎などの副作用が報告されており、副作用による死亡例も少なくない。従って、安全性の高い、肝癌の分子標的薬の開発が急務である。
グルタミン酸受容体(Glutamate receptor; GluR)は、イオンチャネル共役型受容体(ionotropic receptors; iGluRs)とGタンパク質共役型受容体(metabotropic receptors; mGluRs)に分類される。iGluRsはNMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体と非NMDA受容体に分類される。非NMDA受容体はAMPA(α-Amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionate)型グルタミン酸受容体とカイニン(2-Carboxy-3-arboxymethyl-4-isopropenylpyrrolidine(kainate, KA))型グルタミン酸受容体に分類される。AMPA型グルタミン酸受容体はGluR1からGluR4までのサブユニットが同定されており、ホモ、もしくはヘテロテトラマーとして存在することが知られている。
傍腫瘍性神経症候群において、抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体が陽性であることが報告されており、主にGluR1およびGluR2サブユニットを標的とする抗体が辺縁系脳炎、認知症を呈する患者の海馬に確認されたことが報告されている(非特許文献1)。また、mGluR阻害(非特許文献2)やNMDA受容体阻害(非特許文献3)により肝細胞癌の細胞増殖抑制が認められることが報告されている。NMDA受容体阻害による肝癌細胞増殖抑制は、アポトーシスによるものである。AMPA型グルタミン酸受容体阻害により星状細胞腫、横紋筋肉腫、髄芽腫、神経芽腫、甲状腺癌、大腸癌、乳癌、肺癌、膵癌、神経膠腫の細胞増殖が抑制されることが報告されている(非特許文献4〜6)。しかしながら、抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体が腫瘍免疫に関連し、悪性腫瘍の予後に影響を与えることは報告がない。また、AMPA型グルタミン酸受容体と肝癌に関する報告はなく、肝癌細胞にAMPA型グルタミン酸受容体が発現しているか否かすら検討されていない。AMPA型受容体は、中枢神経系に広く分布し、記憶や学習に大きく関与することが知られている。最近、医薬として世界で初めてAMPA型グルタミン酸受容体拮抗薬が開発され、抗てんかん剤として2012年7月に欧州、10月に米国で承認され、てんかんを対象に日本でも治験が進行中である。
臨床神経2011;51:834-837 Biochimie 2012;94(11):2366-75 日本栄養・食糧学会誌 62巻2号 Page61-74 Proc Natl Axad Sci U S A 2001;98(11):6372-7 Neoplasia 2010;12(8):659-67 J Neurooncol 2008;88(2):121-33
本発明は、腫瘍免疫状態の評価に着目して悪性腫瘍を検査する方法、および安全性の高い、肝癌を予防又は治療するための肝癌治療剤を提供することを課題とする。
本願発明者らは、健常者においても毎日数千個の癌細胞ができるといわれているにもかかわらず、必ずしも全員が癌を発病するわけではないことや、自己免疫性肝炎(AIH)における肝発癌率は0.7%/年程度と報告されており、C型慢性肝炎の3%/年に比べて明らかに低率であることに着目した。そして、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、自己免疫性疾患の患者血清中に、肝癌細胞の増殖を抑制しうる免疫グロブリン(IgG)が存在すること、免疫グロブリンの対応抗原にAMPA型グルタミン酸受容体があることを確認し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.被検者の生体検体中の抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価を測定することを特徴とする、悪性腫瘍の検査方法。
2.悪性腫瘍の予後予測のための、前項1に記載の検査方法。
3.生体検体が、血液である、前項1又は2に記載の検査方法。
4.抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価が、抗GluR4抗体価である、前項1〜3のいずれか1に記載の検査方法。
5.悪性腫瘍が、非小細胞肺癌である、前項1〜4のいずれか1に記載の検査方法。
6.抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価を測定するための抗原を含む、悪性腫瘍検査用試薬。
7.抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価を測定するための抗原および免疫学的手法に必要な試薬を含む、悪性腫瘍検査用試薬キット。
8.AMPA型グルタミン酸受容体を阻害する物質を有効成分として含有する、肝癌治療剤。
9.AMPA型グルタミン酸受容体を阻害する物質が、細胞周期を停止させることにより、肝癌細胞の増殖を抑制する、前項8に記載の肝癌治療剤。
10.細胞周期の停止が、Aktシグナル伝達カスケード、MAPK/Erkシグナル伝達カスケード、SAPK/JNKシグナル伝達カスケード、及びAMPKシグナル伝達カスケードの少なくともいずれか1つを阻害することによるものである、前項9に記載の肝癌治療剤。
11.肝癌細胞において、少なくともサブユニットGluR4を含むAMPA型グルタミン酸受容体が発現している、前項8〜10のいずれか1に記載の肝癌治療剤。
本発明の検査方法では悪性腫瘍細胞において発現の亢進している抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価を測定することで、癌患者の予後を予測することができ、その結果に応じて癌患者に最適な治療方法を提供可能な点で、非常に有用である。
また本発明の肝癌治療剤は、AMPA型グルタミン酸受容体を阻害する物質を有効成分として含有するものであり、肝癌の新規分子標的薬を提供し得る。AMPA型グルタミン酸受容体を阻害することによる肝癌細胞の増殖抑制は、本来生体内に備わっていると考えられる生体防御機構に基づくものであることから、本発明の肝癌治療剤は生体にとって安全性が高い薬剤であり、有用である。
AIH患者由来血清中IgGによる肝癌細胞株Huh7の増殖抑制効果を示す図である。(参考例1) 各種肝癌細胞株におけるAMPA型グルタミン酸受容体の発現を確認した結果を示す図である。(参考例3) AMPA型グルタミン酸受容体アンタゴニストGYKI 52466(GYKI)による肝癌細胞株Huh-7の増殖抑制効果を確認した結果である。(実施例1) AMPA型グルタミン酸受容体アンタゴニストCFM-2による肝癌細胞株Huh-7の増殖抑制効果を確認した結果である。(実施例1) AMPA型グルタミン酸受容体アンタゴニストGYKI 52466(GYKI)による肝癌細胞株PLC/PRF/5(PLC)の増殖抑制効果を確認した結果である。(実施例1) AMPA型グルタミン酸受容体アンタゴニストCFM-2による肝癌細胞株PLC/PRF/5(PLC)の増殖抑制効果を確認した結果である。(実施例1) AMPA型グルタミン酸受容体アンタゴニストGYKI 52466(GYKI)による肝癌細胞株HepG2の増殖抑制効果を確認した結果である。(実施例1) AMPA型グルタミン酸受容体アンタゴニストCFM-2による肝癌細胞株HepG2の増殖抑制効果を確認した結果である。(実施例1) AMPA型グルタミン酸受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の細胞内シグナル伝達カスケードへの影響を抗体アレイにより確認した結果を示す図である。(実施例2) AMPA型グルタミン酸受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の細胞内シグナル伝達カスケードへの影響をWestern blotにより確認した結果を示す図である。(実施例3) AMPA型グルタミン酸受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株のアポトーシスへの影響をHoechst33342染色を用いて確認した結果を示す図である。(比較例1) AMPA型グルタミン酸受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株のアポトーシスへの影響をAnnexin V/PI染色してフロサイトメトリーを用いて確認した結果を示す図である。(比較例1) AIH患者由来血清と健常人由来血清について、抗GluR4抗体を測定した結果を示す図である。(参考例4) AIH患者由来血清中における抗GluR4抗体価と、血清IgG値の相関関係を確認した結果を示す図である。(参考例4) AIH患者由来血清中における抗GluR4抗体価と、プロトロンビン活性の相関を示す図である。(参考例4) AIH患者由来血清中IgGによる肝癌細胞株Huh7の増殖抑制効果を示す図である。(実施例4) AIH患者由来血清中IgGによる肝癌細胞株Huh7の増殖抑制効果と、プロトロンビン活性の相関を示す図である。(実施例4) 非小細胞肺癌患者のステージ別の術前血漿中抗GluR4抗体価を示す図である。(実施例5) 非小細胞肺癌患者における術後再発率と術前血漿中抗GluR4抗体価との関係を、2群に分けて示す図である。(実施例5) 非小細胞肺癌患者における術後再発率と術前血漿中抗GluR4抗体価との関係を、3群に分けて示す図である。(実施例5) 非小細胞肺癌患者における術後生存率と術前血漿中抗GluR4抗体価との関係を、2群に分けて示す図である。(実施例5) 非小細胞肺癌患者における術後生存率と術前血漿中抗GluR4抗体価との関係を、3群に分けて示す図である。(実施例5)
本発明は、悪性腫瘍の検査方法および抗腫瘍剤に関し、AMPA型グルタミン酸受容体に着目したことを特徴とするものである。
AMPA(α-Amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionate)型グルタミン酸受容体(以下単に「AMPA型受容体」とも称する。)は、グルタミン酸受容体の一種であり、人工アミノ酸であるAMPA(α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メソオキサゾール-4-プロピオン酸)を選択的に受容することができる。グルタミン酸受容体は、イオンチャネル共役型受容体(ionotropic receptors; iGluRs)とGタンパク質共役型受容体(metabotropic receptors; mGluRs)に分類される。iGluRsはNMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体と非NMDA受容体に分類される。非NMDA受容体はAMPA型受容体とカイニン型受容体に分類される。AMPA型受容体はGluR1からGluR4までのサブユニットが同定されており、これらサブユニットが集まり、ホモテトラマーもしくはヘテロテトラマーとして4量体で存在する。AMPA型受容体は、中枢神経系に広く分布し、記憶や学習に大きく関与することが知られているが、肝臓においてAMPA型受容体が発現しているかは本発明以前には確認されておらず、着目すらされていなかった。
癌細胞は、健常者においても毎日数千個発生するといわれているが、必ずしも全員が癌を発病するわけではない。このことから悪性腫瘍細胞ができたとしても、発病に至らない生体防御機構が、本来生体内に備わっているものと考えられる。例えば自己免疫性肝炎(AIH)における肝発癌率は0.7%/年程度 (Aliment Pharmacol Ther 2006;24:1197)と報告されており、C型慢性肝炎の3%/年(Ann Intern Med 1999;131:174)に比べて明らかに低率である。このことから自己免疫性肝炎(AIH)においては、肝癌発症に至らないよう何らかの防御機構が存在し、有効に作用していると考えることができる。
そこで、本発明者らは、倫理委員会の承認を得、自己免疫性疾患患者の血清中に存在する自己抗体の対応抗原を同定する解析を行った。まず、自己免疫性肝炎(AIH)患者血清中から免疫グロブリン(以下、単に「IgG」ともいう。)を精製し、精製したIgG含有溶液(以下、「精製IgG溶液」という。)をin vitro培養系にて悪性腫瘍細胞株のin vitro培養系に加えたところ、悪性腫瘍細胞株の増殖抑制が認められた。そこで、悪性腫瘍細胞膜タンパク質を抽出し、免疫沈降法により自己免疫疾患患者血清由来IgGの標的タンパク質を解析したところ、AMPA型受容体のサブユニットのGluR1とGluR4が同定された。さらなる研究により、AMPA型受容体のGluR4サブユニットが悪性腫瘍細胞において発現が亢進していることが確認された。また、AMPA型受容体のGluR1からGluR4の全サブユニットが肝癌細胞において発現していることが確認された。すなわち本発明により初めて、悪性腫瘍細胞の検査におけるマーカーとして、抗AMPA型受容体抗体価が着目され、肝癌の予防または治療の標的としてAMPA型受容体が着目されることとなった。
悪性腫瘍細胞において発現の亢進しているAMPA型受容体に対する抗体は、本来生体内に存在するべきものである。悪性腫瘍細胞において発現の亢進しているAMPA型受容体に対す抗体は、悪性腫瘍細胞ができたとしても、発病に至らない生体防御機構のひとつとして考えられ、AMPA型受容体に対する抗体は腫瘍免疫として機能していると予測され、毎日数千個の悪性腫瘍(癌)細胞ができていたとしても癌を発症しにくい状態が維持できているものと考えられる。
本発明は、被検者の生体検体中の抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価を測定することを特徴とする、悪性腫瘍の検査方法に関する。
本発明は、生体内の抗AMPA型受容体抗体を測定することで、悪性腫瘍の発症予測や、発症後の予後予測が可能であると考えられる。当該抗体の検査は、定量的に行うのが好ましい。具体的には、生体検体中の抗AMPA型受容体抗体を測定することによる。本発明は、生体検体中の抗AMPA型受容体抗体を指標することを特徴とする悪性腫瘍の検査方法にも及ぶ。本発明の検査方法における抗AMPA型受容体抗体は、好ましくは、抗GluR4抗体である。
本発明において生体検体とは、上記抗体を含有する可能性のある生体検体であればよく、特に制限されない。例えば血漿、血清等の血液、脊髄液、リンパ液、尿、涙、乳等が広く例示される。好適な生体検体は、血漿、血清等の血液成分が挙げられる。
抗体価の測定方法は、免疫学的手法により行うことができ、自体公知の方法あるいは今後開発される方法を用いればよい。例えば生体検体が血清である場合は、段階血清希釈法や一定濃度血清希釈法などを適用することができる。また免疫学的手法としては具体的には、酵素免疫法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、ラテックス凝集比濁法(LA)などの方法を適用することができる。免疫学的手法により抗AMPA型受容体抗体価を測定するための抗原としては、生体検体中の抗AMPA型受容体抗体を検出可能なものであればいかなるものであってもよく、AMPA型受容体またはその断片などが挙げられる。抗AMPA型受容体抗体価を測定するための抗原は、より好ましくはGluR4またはその断片であり、具体的にはリコンビナントGluR4 protein(H00002893-P01, Abnova)が例示される。被検者の生体検体中の抗AMPA型受容体抗体価の測定は、生体検体と抗原を接触させて、抗原に結合した生体検体中の抗体の量を測定することにより行えばよい。抗体の量は、後述する本実施例の方法に従ってELISA法で測定した場合に、波長405nmの吸光度として測定することができる。
本発明の悪性腫瘍の検査は、特に好適には悪性腫瘍の予後予測のために行うことができる。本発明の検査方法は、被検者の生体検体中の抗AMPA型受容体抗体価を測定した後、得られた抗AMPA型受容体抗体価をカットオフ値と比較する工程を含むことが好ましい。抗AMPA型受容体抗体価がカットオフ値より高い患者は、予後が良好であり、再発率が低く、生存率が高いと考えられる。抗体価のカットオフ値は、検査手技、検査機器等により定めることができる。例えば、後述する本実施例の方法に従ってELISA法で測定した場合に、波長405nmの吸光度として0.200〜0.345 OD405nm、好ましくは 0.237〜0.270 OD405nmとすることができ、より好ましくは0.237 OD405nmとすることができる。なお、特定の波長の吸光度は、測定条件、測定機器によっても変動があるため、検査方法を一般化する場合には、適切なカットオフ値を定めることが必要である。
検査方法に適用可能な悪性腫瘍の種類としては、肝癌、膵癌、乳癌、大腸癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、前立腺癌、胃癌、甲状腺癌、卵巣癌、唾液腺腺様嚢胞癌、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、悪性リンパ腫、粘液性脂肪肉腫、膠芽腫、胞巣状横紋筋肉腫、ウィルムス腫瘍、乏突起膠細胞腫、副腎皮質癌、多発性骨髄腫、髄芽腫、子宮内膜癌、食道癌及びユーイング肉腫から選択される一種又は複数種の癌について行うことができる。好ましくは、肝癌、膵癌、乳癌、大腸癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、前立腺癌であり、特に好ましくは、非小細胞肺癌、小細胞肺癌である。
本発明は、抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価を測定するための抗原を含む、悪性腫瘍検査用試薬および、抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価を測定するための抗原を含む、悪性腫瘍検査用試薬キットに関する。悪性腫瘍検査用試薬キットは、抗原の他に、免疫学的手法に必要な試薬であるブロッキング剤(例えばBovine serum albumin等)、標識された二次抗体(例えばHorse radish peroxidase標識抗ヒトIgG等)などの他の試薬を含んでいてもよい。
本発明は、AMPA型グルタミン酸受容体を阻害する物質を有効成分として含有する、肝癌治療剤に関する。
本発明において「AMPA型グルタミン酸受容体を阻害する物質」とは、当該物質自体がAMPA型受容体の機能を直接阻害し得る機能を有する物質であってもよいし、生体内に既に存在するAMPA型受容体の機能を阻害する物質(例えば、AMPA型受容体の機能を阻害し得る抗AMPA型受容体抗体)を活性化もしくは増強し得る物質であってもよい。AMPA型受容体の機能を直接阻害し得る機能を有する物質は、AMPA型受容体に結合するAMPA型受容体アンタゴニストであってもよいし、AMPA型受容体に結合はしないがAMPA型受容体の機能を阻害する物質であってもよい。AMPA型受容体アンタゴニストは非競合的アンタゴニストであってもよいし、競合的アンタゴニストであってもよい。AMPA型グルタミン酸受容体は、グルタミン酸による細胞内シグナル伝達を司り、リガンドであるグルタミン酸を受容することにより、ナトリウムイオン、カルシウムイオンといった陽イオンを透過させる機能を有する。AMPA型グルタミン酸受容体を阻害する物質は、グルタミン酸の細胞内シグナル伝達を阻害するものである。
AMPA型グルタミン酸受容体を阻害する物質としては、低分子化合物、抗AMPA型受容体抗体を含む種々のタンパク質、当該抗体の部分ペプチドを含む種々のペプチド、核酸等のいかなるものであってもよい。抗AMPA型受容体抗体は、AMPA型受容体と結合してAMPA型受容体の機能を阻害する抗体であればよく、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。また、生体内に既に存在するAMPA型受容体を阻害する物質を活性化もしくは増強し得る物質としては、例えば生体内の抗体産生細胞の活性化剤や、AMPA型受容体分子自体そのもの、あるいはAMPA型受容体分子の部分ペプチドなどが挙げられる。AMPA型グルタミン酸受容体を阻害する物質としては低分子化合物を用いることが好ましく、低分子化合物としては、例えば4-(8-メチル-9H-1,3-ジオキソロ[4,5-h][2.3]ベンソジアゼピン-5-イル)-ベンゼンアミン ジヒドロクロライド(4-(8-Methyl-9H-1,3-dioxolo[4,5-h][2.3]benzodiazepin-5-yl)-benzenamine dihydrochloride)(GYKI 52466 ジヒドロクロライド)(Tocris Bioscience, Bristol, UK)、1-(4'-アミノフェニル)-3,5-ジヒドロ-7,8-ジメトキシ-4H-2,d3-ベンゾジアゼピン-4-オン(1-(4'-Aminophenyl)-3,5-dihydro-7,8-dimethoxy-4H-2,d3-benzodiazepin-4-one)(CFM-2)(Tocris Bioscience, Bristol, UK)、1-(4-アミノフェニル)-3-メチルカルバニル-4-メチル-3,4-ジヒドロ-7,8-メチレンジオキシ-5H-2,3-ベンゾジアゼピン ヒドロクロライド (1-(4-Aminophenyl)-3-methylcarbamyl-4-methyl-3,4-dihydro-7,8-methylenedioxy-5H-2,3-benzodiazepine hydrochloride)(GYKI53655)(Tocris Bioscience, Bristol, UK)、(8R)-7-アセチル-5-(4-アミノフェニル)-8,9-ジヒドロ-8-メチル-7H-1,3-ジオキソロ[4,5-h] [2,3]ベンゾジアゼピン ((8R)-7-Acetyl-5-(4-aminophenyl)-8,9-dihydro-8-methyl-7H-1,3-dioxolo[4,5-h] [2,3]benzodiazepine)(GYKI-53773 ;Talampanel)、(3S,4aR,6R,8aR)-6-[2-(1H-テトラゾール-5-イル)エチル]デカハイドロイソキノリン-3-カルボキシリックアシッド ((3S,4aR,6R,8aR)-6-[2-(1H-tetrazol-5-yl)ethyl]decahydroisoquinoline-3-carboxylic acid)(Tezampanel)(Eli Lilly, Indianapolis, USA)、 1,4-ジヒドロ-6-(1H-イミダゾール-1-イル)-7-ニトロ-2,3-キノキサキエジオネ ヒドロキロライド(1,4-Dihydro-6-(1H-imidazol-1-yl)-7-nitro-2,3-quinoxalinedione hydrochloride)(YM90-K)(Tocris Bioscience, Bristol, UK)、3-ジオキソ-7-(IH-イミダゾール-1-イル)-6-ニトロ-1,2,3,4-テトラハイドロキノキサリン-1-イル) アセティックアシッドモノハイドレート(3-Dioxo-7-(IH-imidazol-1-yl)-6-nitro-1,2,3,4-tetrahydroquinoxaline-1-yl) acetic acid monohydrate) (YM872)、2,3-ジヒドロキシ-6-ニトロ-7-スルファモイル-ベンゾ(F) キノキサリン (2,3-dihydroxy-6-nitro-7-sulfamoyl-benzo(F) quinoxaline )(NBQX)、6,7-ジニトロ-キノキサリン-2,3-ジオーネ (6,7-dinitro-quinoxaline-2,3-dione) (DNQX)、 6-ニトロ-7-チアノ-キノキサリン-2,3-ジオーネ (6-nitro-7-cyano-quinoxaline-2,3-dione) (CNQX)、 ジメチル-2-2-(3-フェニル-1,2,4オキサヂアゾール-5-イル)-フェノキシエチル-アミン ヒドロクロライド (dimethyl-2-2-(3-phenyl-1,2,4oxadiazol-5-yl)-phenoxyethyl-amine hydrochloride) (BIIR 561)、5'-(2-シアノフェニル)-1'-フェニル-2,3'-ビピリジニル-6'(1'H)-オン(5'-(2-cyanophenyl)-1'-phenyl-2,3'-bipyridinyl-6'(1'H)-one)(perampanel)等が例示される。
本発明の肝癌治療剤は肝癌細胞に対する抗腫瘍効果を発揮するものであり、肝癌の予防または治療に用いることができる。本発明の肝癌治療剤は肝癌由来細胞の増殖を抑制する機能を有する薬剤であり、肝癌細胞増殖抑制剤としても使用し得る。本発明の肝癌治療剤による肝癌細胞の増殖抑制は、アポトーシスによるものではなく、細胞周期の停止によるものが主である。細胞周期は、M期、G1期、S期、G2期に分けられるが、本発明の肝癌治療剤は特に、G1期からS期への移行及びG2期からM期への移行の少なくともいずれか1つを停止するものであり、G1/SチェックポイントおよびG2/Mチェックポイントの少なくともいずれか1つにおけるシグナル伝達に影響するものと考えられる。本発明の肝癌治療剤によれば、細胞周期に関連するAktシグナル伝達カスケード、MAPK/Erkシグナル伝達カスケード、SAPK/JNKシグナル伝達カスケード、AMPKシグナル伝達カスケードの少なくともいずれか1つを阻害するものと考えられる。肝癌細胞にAMPA型受容体アンタゴニストを作用させることにより、Aktシグナル伝達カスケードにおけるリン酸化Akt、リン酸化GSK3β(Ser9)(p-GSK3β(Ser9))、Cyclin D1、MAPK/Erkシグナル伝達カスケードにおけるリン酸化MSK1/2、リン酸化Erk1/2、c-Myc、SAPK/JNKシグナル伝達カスケードにおけるリン酸化SAPK/JNK、AMPKシグナル伝達カスケードにおけるリン酸化AMPKの少なくともいずれか1つの量が低減する。すなわち、肝癌細胞にAMPA型受容体アンタゴニストを作用させることにより、Akt、GSK3β、Cyclin D1、MSK1/2、c-Myc、SAPK/JNK、AMPKの少なくともいずれか1つの活性が低下するものと考えられる。AMPK阻害により膵癌細胞(Int J Oncol 2012;41:2227)や大腸癌細胞(J Surg Oncol 2012;106:680)、前立腺癌細胞(Mol Cancer Ther 2009;8:733)で増殖抑制が認められると報告されているが、グルタミン酸受容体に対するアンタゴニスト投与による細胞内AMPKの活性低下についての報告はなされていない。
本発明における肝癌とは、肝臓に発生する悪性腫瘍であり、原発性癌、転移性癌のいずれであってもよい。また肝癌には、肝細胞癌、胆管細胞癌、肝細胞芽腫などが含まれるが、本発明における肝癌は好ましくは肝細胞癌である。肝細胞癌は、肝臓の実質である肝細胞から発生する癌であり、日本では原発性肝癌の約90%を占める。肝細胞癌の原因は、C型肝炎、B型肝炎、NASH、アルコール性肝炎等が挙げられる。本願発明の肝癌治療剤は、少なくともサブユニットGluR4を含むAMPA型受容体が発現している肝癌細胞に対して抗腫瘍効果を発揮するものであり、当該肝癌細胞の増殖を抑制し得るものである。
本発明は、本発明の肝癌治療剤は、肝癌を治療し得る抗悪性腫瘍剤である。本発明の肝癌治療剤は、免疫不活化剤やワクチンとしての作用を有するものであってもよい。また本発明の肝癌治療剤は、肝癌を予防又は治療可能な医薬組成物であってもよく、他の薬剤と併用して投与することも可能である。
本発明の肝癌治療剤を含む医薬組成物には、薬理学的に許容しうる担体を含ませることができる。薬理学的に許容しうる担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤若しくは崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤若しくは溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができる。
本発明の肝癌治療剤の投与形態としては、局所的に投与しても全身的に投与してもよい。非経口投与用の製剤は、滅菌した水性の、又は非水性の溶液、懸濁液及び乳濁液を含んでいてもよい。非水性希釈剤の例として、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えば、オリーブ油及び有機エステル組成物、例えば、エチルオレエートであり、これらは注射用に適している。水性担体には、水、アルコール性水性溶液、乳濁液、懸濁液、食塩水及び緩衝化媒体が含まれていてもよい。非経口的担体には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、リンゲル乳酸及び結合油が含まれていてもよい。静脈内担体には、例えば、液体用補充物、栄養及び電解質(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)が含まれていてもよい。本発明の肝癌治療剤はさらに、保存剤及び他の添加剤、例えば,抗微生物化合物、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスなどを含むことができる。
本発明は、本発明の肝癌治療剤もしくは肝癌治療剤を含有する医薬組成物を含む、肝癌治療キットにも及ぶ。本発明の肝癌治療キットは、肝癌の治療に必要な他の薬剤を含んでいてもよい。本発明の肝癌治療剤と当該他の薬剤とは、同時に投与されてもよいし、時間を空けて別個に投与されてもよい。
本発明の理解を深めるために、参考例、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではないことは、いうまでもない。参考例では、本発明を完成するに至った研究経緯を示す。以下の臨床検体を用いた本研究は、岡山大学内の倫理委員会により承認されている。
(参考例1) 血清中IgGによる肝癌培養細胞の増殖抑制効果の検討
本参考例では血清中IgGによる肝癌細胞株Huh7の増殖抑制効果を検討した。
倫理委員会の承認を得、自己免疫性疾患患者の血清中に存在する自己抗体について解析を行った。まず、自己免疫性肝炎(AIH)患者から得た血清試料について、抗体精製用アフィニティー担体であるプロテインG(Invitrogen Dynal AS, Oslo, Norway)を添加し、血清中のIgGを非特異的に吸着させた。常法に従いプロテインGを洗浄液(0.1M Na-Phosphate Buffer, pH 7.4)で洗浄し、溶出液(50 mM Glycine Buffer, pH 2.8)でプロテインGに非特異的に吸着したIgGを溶出させ、自己免疫性肝炎(AIH)のヒト血清中から抽出したIgG含有溶液を得た。
肝癌細胞株Huh7を5.0x104 cell/ml に調整後、細胞培養用96 wellプレートに100 μl/wellで播種。なお、培養液はDMEM (Invitrogen Co., Carlsbad, CA) + 10% heat-inactivated FBS (Vitromex, Vilshofen, Germany) + 1% non-essential amino acid (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% sodium pyruvate (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% penicillin/streptomycin solution (Sigma-Aldrich Co., MO)とし、37℃で5% CO2下に培養した。
培養開始12時間後に、前述のAIH患者血清中から抽出したIgG含有溶液(IgG含量として0.5 μg)を各wellに添加(5 μg/ml)。コントロールには、IgGを含有していない溶出液のみを同量添加した。
培養開始60時間後に、 3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromide (MTT:5 mg/ml in phosphate buffered saline) 溶液10 μlを各wellに添加した。MTT添加4時間後に培養液を除去し、DMSO 100 μlを各wellに添加した。ELISAリーダー (Model 680 Microplate Reader: Bio-Rad Laboratories Ltd., Tokyo, Japan) で、570 nmの吸光度を測定した。細胞増殖率を各条件における吸光度をコントロールに対する比率で表した。
その結果、AIH患者血清から抽出したIgG含有溶液による、肝癌細胞株Huh7の増殖抑制が認められた(図1)。上記の結果により、血清中に、肝癌細胞株Huh7の増殖を抑制するIgGを有するAIH患者が存在することがわかった。
(参考例2)肝癌細胞株Huh7の増殖を抑制するIgGの対応抗原の同定
本参考例では、参考例1で確認された肝癌細胞株Huh7の増殖を抑制するIgGの対応抗原について、解析を行った。
ProteoJETTM Membrane Protein Extraction Kit (Thermo Fischer Scientific Inc., IL, USA)を使用して、肝癌細胞株Huh7より膜タンパク質を抽出した。
AIH患者から得た血清試料について、抗体精製用アフィニティー担体であるプロテインG(Invitrogen Dynal AS, Oslo, Norway)を添加し、血清中のIgGを非特異的に吸着させた。
プロテインGを洗浄液により洗浄後、抗原として肝癌細胞株Huh7の膜タンパク質抽出物を含む溶液に加えて1時間処理し、プロテインGに非特異的に吸着された血清中IgGと抗原とを反応させた。血清中に膜タンパク質に対する抗体が存在する場合に抗原との間で抗原抗体反応が生じ、抗原抗体複合体が形成される。
洗浄液にて洗浄後、溶出液(50 mM Glycine Buffer, pH 2.8)でプロテインGに吸着したタンパク質を溶出させた。溶出したタンパク質をProteoExtractTM All-in-One Trypsin Digestion Kit (Calbiochem, Darmstadt, Germany)を使用し、トリプシン消化し、質量分析計(LC/MS)で測定した。測定結果をデータベースSwiss-Protで検索した。
その結果、AIH患者血清に存在し、肝癌細胞株Huh7の増殖抑制効果を示すIgGの対応抗原がAMPA型グルタミン酸受容体のサブユニットである、GluR1及びGluR4である可能性が示された。
(参考例3) ヒト肝癌由来細胞株におけるAMPA型グルタミン酸受容体の発現の確認
ヒト肝癌細胞株(Huh7, PLC/PRF/5, Hep3B, HepG2, HLE, HLF, SK-Hep-1)を10cm dishに播種した。なお、培養液はDMEM (Invitrogen Co., Carlsbad, CA) + 10% heat-inactivated FBS (Vitromex, Vilshofen, Germany) + 1% L-Glutamine solution (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% non-essential amino acid (Sigma chemical, MO) + 1% sodium pyruvate (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% penicillin/streptomycin solution (Sigma-Aldrich Co., MO)とし、37℃で5% CO2下に培養した。
各種細胞が80%コンフルエントになった時点で、培養液を除去し、cold DPBS, Ca(-), Mg(-)(Invitrogen Co., Carlsbad, CA)にて洗浄後、 Pierce IP Lysis Buffer (Thermo Fisher Scientific Inc., IL) 1mlをdishに添加した。 5分間氷上攪拌した後、セルスクレイパーで回収し、ビーズ破砕機(TAITEC, Saitama、Japan)で細胞を破砕。その後、13,000gで10分間遠沈し、上澄を回収した。上澄を2×サンプルバッファー(20% Glycerol, 4% SDS, 125mM Tris-HCl / pH6.8, 10% メルカプトエタノール, 0.004%BPB)と1:1で混合した後、5分間煮沸し、各種肝癌細胞株より抽出したタンパク質溶液を作製した。なお、コントロールとしてHuman Whole Normal Brain tissue lysate(Novus-Biologicals, LLC)を用いた。
各種肝癌細胞株、およびHuman Whole Normal Brain tissueから抽出したタンパク質溶液を用いて、常法に従ってSDS-PAGEにより電気泳動を行った。
泳動したタンパク質を常法に従ってPVDFメンブレンにブロッティングした。PVDF Blocking Reagent for Can Get Signal (TOYOBO, Osaka, Japan)で1時間のブロッキング処理後、一次抗体としてラビット抗AMPA受容体(GluR1, GluR2, GluR3, GluR4)抗体(#8850, #5306, #4676, #8070 : Cell Signaling Technology, Inc., MA)、マウス抗β-actin抗体 (Sigma-Aldrich Co., MO)で1時間処理した。
メンブレンを洗浄後、HRP標識抗IgG抗体(RPN2124: GE Healthcare社、UK)を二次抗体として1時間反応させた。
メンブレンを洗浄後、ECL Prime Western Blotting Detection System (RPN2232: GE Healthcare, UK)で発色させ、ルミノメーターで検出した。
その結果、7種類の肝癌細胞株の全てにおいて、AMPA型受容体の4つのサブユニットが検出された(図2)。
(実施例1)AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の増殖抑制効果の確認
肝癌細胞株(Huh7, PLC/PRF/5, HepG2)を5.0x104 cells/ml に調整後、細胞培養用96 wellプレートに100 μl/wellで播種した。なお、培養液はDMEM (Invitrogen Co., Carlsbad, CA) + 10% heat-inactivated FBS (Vitromex, Vilshofen, Germany) + 1% L-Glutamine solution (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% non-essential amino acid (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% sodium pyruvate (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% penicillin/streptomycin solution (Sigma-Aldrich Co., MO)とし、37℃で 5% CO2下に培養した。
培養開始12時間後に、非競合的AMPAアンタゴニストである4-(8-Methyl-9H-1,3-dioxolo[4,5-h][2.3]benzodiazepin-5-yl)-benzenamine dihydrochloride(GYKI 52466 dihydrochloride) (Tocris Bioscience, Bristol, UK)または、1-(4'-Aminophenyl)-3,5-dihydro-7,8-dimethoxy-4H-2,d3-benzodiazepin-4-one (CFM-2) (Tocris Bioscience, Bristol, UK)をDMSO(Sigma-Aldrich Co., MO)で50,000 μMに調整した後に、上記の培養液で希釈し、50 μl/wellで添加し結果に示す濃度になるよう薬剤暴露した。
薬剤を注入したwellに対するコントロールは、DMSOを同量溶解した培養液を添加したものとした。また、DMSOを注入したwellに対するコントロールは、薬剤・DMSOともに溶解していない培養液のみを添加したものとした。
薬剤を注入した24時間後、48時間後、72時間後に、 3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromide (MTT:5 mg/ml in phosphate buffered saline) 溶液15 μlを各wellに添加した。MTT溶液を添加した3時間後に培養液を除去し、DMSO 100 μlを各wellに添加した。ELISAリーダー (Model 680 Microplate Reader: Bio-Rad Laboratories Ltd., Tokyo, Japan) で、570 nmの吸光度を測定した。細胞増殖率は各条件における吸光度をコントロールに対する比率で表した。
AMPA型受容体アンタゴニストにより、濃度及び時間依存性に肝癌細胞の増殖が抑制されたことが確認された(図3〜8)。なお、図3〜8中、GYKI 52466 dihydrochlorideはGYKIと表す。
(実施例2)AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の増殖抑制機構の検討1
AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株Huh7の細胞内シグナルの影響を、リン酸化抗体アレイを用いて確認した。
ヒト肝癌細胞株 (Huh7)を10cm dishに播種した。培養液は実施例1と同様であり、37℃で5% CO2下に培養した。
16時間後、細胞が60%〜70%コンフルエントになった時点で培養液を除去し、GYKI 52466、CFM-2を以下の表1のとおりに注入した。なお、薬剤コントロールは薬剤と同量のDMSOを注入したものとした(表1のDMSO)。また、薬剤・DMSOともに注入していないdish(表1のnegative control)を作製し、DMSO注入に対するコントロールとした。
薬剤注入 24時間後に、Proteome Profiler Human Phospho-Kinase Array(R&D Sytems Inc., Minneapolis, MN)を用いて、以下の如くリン酸化抗体アレイを行った。
dishをDPBSで洗浄後、付属のlysis bufferにて1.0×107cells/mlに調整、4℃にて30分間 incubateし、14,000×g 5分間遠心、上清を回収した。
メンブレンを1時間ブロッキング処理した後、サンプル溶液を滴下し、室温にて1時間一次抗体を反応させた。
洗浄後、室温で2時間ビオチン標識二次抗体と反応させた後、HRP標識ストレプトアビジン溶液にて30分間 incubateした。
洗浄後、付属のChemi Reagent1, 2で発色させ、ルミノメーターで検出した。
薬剤注入したものと、DMSOのみのものを比較した結果、CREB、p38α、JNKpan、Erk1/2においてリン酸化抗体のシグナルが低くなっていることが確認された(図9)。
(実施例3)AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の増殖抑制機構の検討2
各種リン酸化抗体を用いて、Western blotにより、AMPA受容体阻害による細胞内シグナル伝達への影響を確認した。
ヒト肝癌細胞株 (Huh7)を10cm dishに播種した。なお、培養液は実施例2と同様にし、37℃で5% CO2下に培養した。
70%コンフルエントになった時点で培養液を除去し、上記表1の濃度となるよう培養液にて調整したGYKI 52466、CFM-2を注入した。
薬剤注入 6時間後に、2×サンプルバッファー(20% Glycerol , 4%SDS , 125mM Tris-HCl / pH6.8 , 10% メルカプトエタノール, 0.004%BPB)を添加し、セルスクレイパーで回収し5分間煮沸した。なお、薬剤コントロールは薬剤と同量のDMSOを注入したものとした(表1のDMSO)。また、薬剤・DMSOともに注入していないdish(表1のnegative control)を作製し、DMSO注入に対するコントロールとした。
各条件の細胞から常法に従ってタンパク質を抽出し、抽出したタンパク質を、常法に従ってSDS-PAGEにより電気泳動を行った。
泳動したタンパク質をPVDFメンブレンにブロッティングした。PVDF Blocking Reagent for Can Get Signal (TOYOBO, Osaka, Japan)で1時間のブロッキング処理後、各一次抗体 (#4060:p-Akt(Ser473)、#9101:p-p44/42MAPK(p-ERK1/2)(Thr202/Tyr204)、#9121:p-MEK1/2(Ser217/221)、#9255:p-SAPK/JNK(Thr183/Tyr185)、#9315:pGSK3β(ser9)、#2922:cyclinD1、#5605:c-Myc、#2535:p-AMPK (Cell Signaling Technology, Inc., MA)、または抗β-actin抗体 (Sigma-Aldrich Co., MO)で1時間処理した。
メンブレンを洗浄後、HRP標識抗IgG抗体(RPN2124: GE Healthcare社、UK)を二次抗体として1時間反応させた
洗浄後、ECL Prime Western Blotting Detection System (RPN2232: GE Healthcare, UK)で発色させ、ルミノメーターで検出した。
結果を図10に示す。薬剤コントロール(DMSO)に比較して薬剤を添加した場合は、リン酸化Akt(p-Akt)、リン酸化ERK1/2(p-ERK1/2)、リン酸化MEK1/2(p-MEK1/2)、リン酸化SAPK/JNK(p-SAPK/JNK)、リン酸化GSK3β(ser9)(p-GSK3β(ser9))、cyclin D1、c-Myc、リン酸化AMPK(p-AMPK)の量が低下していた。肝癌細胞株における、AMPA型受容体の阻害による細胞増殖抑制の機序として、セリン/スレオニンキナーゼのAktシグナル伝達カスケードの抑制、MAPK/Erkシグナル伝達カスケードのMEK1/2, Erkの抑制、SAPK/JNKシグナル伝達カスケードのSAPK/JNKの抑制、AMPKシグナル伝達カスケードのAMPKの抑制が同定された。
(比較例1)AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の増殖抑制機構の検討3
(1)AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の増殖抑制機構として、アポトーシスの関連を、Hoechst 33342染色により確認した。
肝癌細胞株(Huh7)を1.0x105 cells/ml に調整後、細胞培養用6wellプレートに2 ml/wellで播種した。なお、培養液は実施例1と同様であり、37℃で 5% CO2下に培養した。
培養開始12時間後に培養液を吸引した。培養液にDMSOで溶解した非競合的AMPAアンタゴニストであるGYKI 52466、CFM-2を表2に示す濃度で溶解させたものを2 ml/well注入した。
なお、DMSOを薬剤と同量注入したものを薬剤コントロールとし、薬剤・DMSOともに注入していないものをネガティブコントロールとした。ポジティブコントロールは、培養開始12時間後に培養液交換のみ行い、観察6時間前に1mM H2O2(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Japan)培養液を注入したものとした。
アンタゴニストを注入した48時間後にHoechst 33342, trichloride, trihydrate (Lonza Walkersville, Inc., MD)を5μlずつ各wellに注入した。
Hoechst 33342を注入した10分後に、倒立蛍光顕微鏡 (OLYMPUS 971 :Olympus Optical Co. Ltd, Japan)を使用しUV励起し観察を行い、顕微鏡デジタルカメラ (DP70 :Olympus Optical Co. Ltd, Japan)にて写真撮影をし、各々の条件で3視野あたりの陽性細胞数(%)を評価し比較した。
結果を、図11に示す。陽性細胞数(%)の値は各々の条件の写真部分に記載のとおりである。各薬剤処理群(CFM-2、GYKI 52466)と薬剤コントロール(CFM con.、GYKI con.)との間、および、薬剤コントロール(CFM con.、GYKI con.)とネガティブコントロール(Nega. con.)の間には、有意差が認められなかった。
(2)AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の増殖抑制機構として、アポトーシスの関連を、Annexin V/PI染色により確認した。
肝癌細胞株(Huh7)を1.0x105 cells/ml に調整後、細胞培養用6wellプレートに2 ml/wellで播種した。なお培養液は上述の(1)と同様とし、37℃で 5% CO2下に培養した。
培養開始12時間後に培養液を吸引した。培養液にDMSOで溶解した非競合的AMPAアンタゴニストであるGYKI 52466を以下の表3に示す濃度で溶解させたものを2ml/well注入した。
なお、薬剤コントロールはDMSOを薬剤と同量注入したもの、ネガティブコントロールは薬剤・DMSOともに注入していないものとした。ポジティブコントロールは、培養開始12時間後に培養液交換のみ行い、FACS処置6時間前にH2O2を1 mMとなるように注入したものとした。
アンタゴニストGYKI 52466を注入した48時間後にflow cytometryによるapoptosis細胞の測定を行った。
薬剤注入し、各時間培養後、それぞれのwellより培養液を採取。wellをDPBSにて2回洗浄後、0.05% Trypsin-EDTA (Invitrogen Co., Carlsbad, CA) にて3分間 37℃、5% CO2下で処理し、wellに培養液を添加し細胞を採取した。1500rpm、10分間遠心後、DBPS + 1% heat-inactivated FBSにて洗浄し1500rpm、10分間遠心した。
以下の処置にはFITC Annexin V Apoptosis Detection Kit (BD pharmingen, San Jose, Calif)を使用した。Binding buffer(10mM Hepes/NaOH(pH7.4), 0.14M NaCl, 2.5mM CaCl2)にてペレットを溶解し、1.0×106 cells/mlに調整した。
100μl(1.0×105 cells)の細胞溶解液に対し、fluorescein 5(6)-isothiocyanate(FITC) / annexin V 5μl、propidium iodide(PI) 5μl注入した。
注入後、暗所にて15分間 incubateした。
測定はFACS Calibur Flow Cytometer (BD Biosciences, San Jose, Calif)を使用し、解析はFlowJo software (Tree Star Inc., Ashland, Ore)にて行った。
結果を図12と表4に示す。
薬剤処理群と薬剤コントロールとの間、薬剤コントロールとネガティブコントロールとの間ともに、アポトーシス、ネクローシス、アポトーシスとネクローシスの合計のいずれも、有意差が認められなかった。
以上の結果から、AMPA受容体アンタゴニストは、肝癌細胞におけるアポトーシスを誘導しないことが示された。
(参考例4)AIH患者血清中における抗GluR4抗体の測定
本参考例では、健常者群28例、及びAIH患者群39例の血清について、血清中の抗GluR4抗体価を測定し、各群における抗GluR4抗体価の傾向を確認した。
Protein Detector ELISA Kit (Kirkegaartd & Perry Laboratories)を使用し、下記の如く、間接ELISA法にて血清中anti-GluR IgGを測定した。
96-well C-bottom microtiter plates (Thermo Scientific)を使用し、1μg/μlのリコンビナントGluR4 (H00002893-P01, Abnova) proteinを各wellそれぞれ100μlずつ注入し、室温で1.5時間インキュベーションしてコーティングを行った。
1% bovine-serum albumin (BSA)のPBSを300μlずつ注入し、室温で30分間ブロッキングした。PBS (1% BSA)にて100倍希釈したAIH患者血清を100μl注入し、室温で1時間インキュベーションした。
洗浄後、PBS (1% BSA)にて1μg/mlに希釈したHRP標識anti-Human IgGを100μlずつ注入し、室温で、1時間インキュベーションした。
さらに洗浄後に、発色基質 (ABTS: 2, 2’-azino-di-(3-ethylbenzthiazoline-6-sulfonate))を使用して反応させて発色させ、ELISAリーダー (Model 680 Microplate Reader: Bio-Rad Laboratories Ltd., Tokyo, Japan) で、405 nmの吸光度を測定した。
AIH患者の血清中抗GluR4抗体価は、健常者に比し有意に高いことがわかった(図13)。また、AIH患者血清中抗GluR4抗体価と血清中IgG値に相関は認められず、本参考例のELISAで測定された抗GluR4抗体価に関して、IgGによる非特異的な反応の可能性は否定された(図14)。
またAIH患者についてプロトロンビン活性(PT)を測定し、抗GluR4抗体価との相関を確認した。プロトロンビン活性はQuick一段法(ACL TOP:三菱化学ヤトロン社)を使用し測定した。
その結果、AIH患者39例において、抗GluR4抗体価が高い症例ほどPTが低下していた。なお、IgG値とPT値に相関は認めなかった。
(実施例4)血清中IgGによる肝癌培養細胞の増殖抑制効果の検討
肝癌培養細胞株Huh7を5.0x104 cell/ml に調整後、細胞培養用96 wellプレートに100 μl/wellで播種した。なお、培養液はDMEM (Invitrogen Co., Carlsbad, CA) + 10% heat-inactivated FBS (Vitromex, Vilshofen, Germany) + 1% non-essential amino acid (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% sodium pyruvate (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% penicillin/streptomycin solution (Sigma-Aldrich Co., MO)とし、37℃で5% CO2下に培養した。
培養開始12時間後に、自己免疫性肝炎患者15例において参考例1と同様の方法で血清中から抽出したIgG 0.5 μgを各wellに添加した(5 μg/ml)。コントロールには、IgGの溶出液のみを同量添加した。
培養開始60時間後に、 3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromide (MTT:5 mg/ml in phosphate buffered saline) 溶液10 μlを各wellに添加した。MTT添加4時間後に培養液を除去し、DMSO 100 μlを各wellに添加した。ELISAリーダー (Model 680 Microplate Reader: Bio-Rad Laboratories Ltd., Tokyo, Japan) で、570 nmの吸光度を測定し、各条件における吸光度をコントロールに対する比で表した。
GluR4に対する抗体価の高い症例の血清中から抽出したIgGには、抗GluR4抗体がより多く含まれていると考えられる。抗GluR4抗体価の高い症例の血清から抽出したIgGほど、肝癌細胞株Huh7に対する増殖抑制効果が強いことがわかった(図16)。よって、抗GluR4抗体が生体内で腫瘍免疫機構に関係していると考えられた。
また血清IgGによる細胞増殖抑制効果が高い症例ほど、有意にPTが低下しており、抗体価が高い症例ほど有意にPTが低下していた。PTは自己免疫性肝炎の重症度を反映している。よって、自己免疫性肝炎では、血清中に存在する抗GluR4抗体が肝細胞増殖、つまり肝再生を抑制することで重症度を悪化させていると考えられる(図17)。
(実施例5) 肺癌患者における血漿中抗GluR4抗体と予後の関連の検討
外科的切除術を施行された非小細胞肺癌92例において、血漿中抗GluR4抗体価と予後との関連を検討した。なお、88例で根治的切除が行われ、4例では非根治的切除であった。よって、術後再発については88例、患者死亡については92例で検討した。
1 μg/mlのGluR4(GRIA4)(Human) Recombinant Protein (H00002893-P01: Avnova, Taipei, Taiwan) を96穴マイクロプレートの各wellに100 μl加えて1時間静置し抗原固相化した。1% bovine serum albuminを300 μl加えてブロッキングした。100倍に希釈した血漿100 μlを添加し1時間反応させた。洗浄後、1 μg/mlのHRP標識抗ヒトIgG抗体を100 μl 添加し1時間反応させた。洗浄後、 2,2‘-azino-bis[3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonateを100 μl 添加し十分反応させた。ELISAリーダー (Model 680 Microplate Reader: Bio-Rad Laboratories Ltd., Tokyo, Japan) で、405 nmの吸光度を測定した。
手術時のステージ別における術前血漿中抗GluR4抗体値を、図18に示す。
88例において術後再発率と血漿中抗GluR4抗体価の関連を検討した。血漿中抗GluR4抗体価により、中央値(OD405nm:0.270)で低、高の2群に分けて検討した結果を、図19に示し、血漿中抗GluR4抗体価により、低(OD405nm < 0.237)、中(0.237 ≦ OD405nm < 0.345)、高値群(0.345 ≦ OD405nm)の3群に分けて検討した結果を、図20に示す。
92例において術後生存率と血漿中抗GluR4抗体価の関連を検討した。血漿中抗GluR4抗体価により、中央値(OD405nm:0.270)で低、高の2群に分けて検討した結果を、図21に示し、血漿中抗GluR4抗体価により、低(OD405nm < 0.237)、中(0.237 ≦ OD405nm < 0.345)、高値群(0.345 ≦ OD405nm)の3群に分けて検討した結果を図22に示す。
88例における再発率の検討では、2群間比較において高値群と低値群でそれぞれ、1年再発率が9%と34%、2年再発率は23%と51%であった。また3群間の検討では、高値群、中値群、低値群でそれぞれ1年再発率が7%、37%、22%であり、2年再発率は19%、48%、46%であった。同様に、92例における累積生存率の2群間(高値群、低値群)の検討では、1年で100%と96%、2年で100%と75%であり、3群間(高値群、中値群、低値群)検討で1年累積生存率が100%、94%、100%、2年累積生存率が100%、72%、89%であった。以上より、血漿中抗GluR4抗体価が高い症例では、術後再発率が低く、患者死亡数も少なかった。よって、血中抗GluR4抗体価は、非小細胞肺癌を代表とする悪性腫瘍の予後予測マーカーとして有用であると考えられる。
以上詳述したように、本発明の検査方法により確認された血中抗GluR4抗体価が高い症例では、術後再発率が低く、患者死亡数が少なかった。本発明の検査方法は、非小細胞肺癌を代表とする悪性腫瘍の予後予測において、有用である。
また本発明の肝癌治療剤は、AMPA型グルタミン酸受容体を阻害する物質を有効成分として含有するものであり、肝癌の新規分子標的薬を提供し得る。AMPA型グルタミン酸受容体を阻害することによる肝癌細胞の増殖抑制は、本来生体内に備わっていると考えられる生体防御機構に基づくものであることから、本発明の肝癌治療剤は生体にとって安全性が高い薬剤であり、有用である。医薬として世界で初めてAMPA型グルタミン酸受容体拮抗薬が開発され、抗てんかん剤として2012年7月に欧州、10月に米国で承認され、現在てんかんを対象に日本でも治験が進行中である。本発明によれば、AMPA型受容体拮抗薬を含むAMPA型受容体を阻害する物質を肝癌治療剤として適用し得ることとなる。

Claims (7)

  1. 被検者の生体検体中の抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価を測定することを特徴とする、悪性腫瘍の検査方法。
  2. 悪性腫瘍の予後予測のための、請求項1に記載の検査方法。
  3. 生体検体が、血液である、請求項1又は2に記載の検査方法。
  4. 抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価が、抗GluR4抗体価である、請求項1〜3のいずれか1に記載の検査方法。
  5. 悪性腫瘍が、非小細胞肺癌である、請求項1〜4のいずれか1に記載の検査方法。
  6. 抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価を測定するための抗原を含む、悪性腫瘍検査用試薬。
  7. 抗AMPA型グルタミン酸受容体抗体価を測定するための抗原および免疫学的手法に必要な試薬を含む、悪性腫瘍検査用試薬キット。
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