JP6368576B2 - 糖鎖構造によるイネの品質評価 - Google Patents
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Description
本発明は、イネの生育状態、健康状態、品種等を評価する方法に関する。
イネは我が国の農業および食品関連産業の根幹をなす作物であり、イネ(イネから収穫されるコメを含む)の生産過程および流通過程においてその品質を監視し、維持し、改善することはきわめて重要な課題である。
例えば新品種のイネを開発する際に、得られた新品種を識別し評価するにあたっては、過去にどのような作柄や生育特性を示してきた品種を、どのような組合せで掛け合わせたかという、過去の経験的観察と交配履歴に依存するところが大きい。しかしながらこのような手法では、科学的な根拠に基づいて客観的かつ迅速にイネないしコメのサンプルを識別し評価することはできない。
イネないしコメを客観的に識別・評価する科学的な手段として、DNAにコードされた遺伝情報を利用することが知られている。例えばWO2003/104491(特許文献1)および特開2004−65251(特許文献2)には、それぞれ一塩基多型マーカーおよびマイクロサテライト多型マーカーを解析してイネの品種を識別する方法が記載されている。また、特開2007−6711(特許文献3)および特開平11−206376(特許文献4)には、遺伝情報を利用して、それぞれ特定の疾患および害虫に対するイネの耐性を評価する方法が記載されている。これらのDNAに基づく方法は、そのイネの育種履歴を関知しない第三者がイネ組織そのものを分析することにより客観的にイネを同定し品質を評価することを可能とする。
しかしながら、例えば、遺伝的に同一の個体間で生育能力に差異が生じているときにその差異を検出しようとする場合や、同一品種のコメが異なる栽培条件や貯蔵条件を経ているときにそれらを見分けようとする場合、あるいは比較するサンプル間で適切なDNA配列多型が見出されない場合には、識別・評価手段としての遺伝情報の有用性にも限度がある。
Chromatography, Vol. 29, No. 2 (2008) pp. 17-27
本発明は、遺伝情報に置き換わる、または遺伝情報を補足する、イネの品質についての新たな識別・評価手段を提供する。
ここでいう「品質」とは、イネの生育状態(例えば、種子の発芽誘導から所定の時間経過後に、その時点において期待される標準的な成熟度を達成しているか否か、あるいは、良好な栽培条件下で生育してきたイネであるか否か等)、イネの健康状態(疾患を有しているか否か、害虫に侵されているか否か等)、種子もしくはコメの属性(例えば、適切な時期に収穫されたものであるか否か、適切な貯蔵条件で貯蔵されてきたものであるか否か等)、さらにはイネの品種なども含むものとする。
本発明者らは、イネ組織に存在する糖タンパク質の糖鎖の構造および量比が、その組成の複雑さにも関わらず高い再現性をもって検出されること、従ってイネを同定するための基盤情報として利用できることを発見した。本発明者らはさらに、これらの糖鎖の構造および量比が、イネの生育段階または生育条件に応じて再現性のあるパターンにおいて変化すること、従って生育状態を評価する指標として利用できることを発見した。本発明はこれらの発見に基づいてなされたものである。
従って、本発明の一実施態様は以下の側面を含む。
[1]
(1)イネの組織の糖タンパク質から切り出された糖鎖を、クロマトグラフィーにより分離し、糖鎖構造分布プロファイルを得る工程、および
(2)前記糖鎖構造分布プロファイルにおける所定のピークの相対的な強度を、基準プロファイルにおける対応するピークの相対的な強度と比較する工程
を含む、イネの品質を調べる方法。
[2]
前記クロマトグラフィーがサイズ分画クロマトグラフィーであり、前記糖鎖構造分布プロファイルは糖鎖サイズ分布プロファイルである、[1]に記載の方法。
[3]
前記サイズ分画クロマトグラフィーが、サイズ分画HPLCである、[2]に記載の方法。
[4]
前記工程(2)の比較は、DP5〜13の範囲内におけるピークについての比較である、[2]または[3]に記載の方法。
[5]
前記基準プロファイルは、正常な生育状態にあるイネの前記組織について前記工程(1)を行って得られる糖鎖構造分布プロファイルである、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記基準プロファイルは、既知のイネ品種の前記組織について前記工程(1)を行って得られる糖鎖構造分布プロファイルである、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[7]
前記糖鎖の切り出しはヒドラジン処理によるものである、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
前記切り出された糖鎖は、クロマトグラフィーに付される前に2−アミノピリジンで標識される、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[1]
(1)イネの組織の糖タンパク質から切り出された糖鎖を、クロマトグラフィーにより分離し、糖鎖構造分布プロファイルを得る工程、および
(2)前記糖鎖構造分布プロファイルにおける所定のピークの相対的な強度を、基準プロファイルにおける対応するピークの相対的な強度と比較する工程
を含む、イネの品質を調べる方法。
[2]
前記クロマトグラフィーがサイズ分画クロマトグラフィーであり、前記糖鎖構造分布プロファイルは糖鎖サイズ分布プロファイルである、[1]に記載の方法。
[3]
前記サイズ分画クロマトグラフィーが、サイズ分画HPLCである、[2]に記載の方法。
[4]
前記工程(2)の比較は、DP5〜13の範囲内におけるピークについての比較である、[2]または[3]に記載の方法。
[5]
前記基準プロファイルは、正常な生育状態にあるイネの前記組織について前記工程(1)を行って得られる糖鎖構造分布プロファイルである、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記基準プロファイルは、既知のイネ品種の前記組織について前記工程(1)を行って得られる糖鎖構造分布プロファイルである、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[7]
前記糖鎖の切り出しはヒドラジン処理によるものである、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
前記切り出された糖鎖は、クロマトグラフィーに付される前に2−アミノピリジンで標識される、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
本発明において開示されるイネの糖タンパク質糖鎖の構造および量比という基盤情報は、全く新しい視点による、作物の品質評価のためのツールを提供するものであり、
イネの品質管理、品種判別、品種改良、作柄評価、作柄予測など、イネの生産および流通のあらゆる過程において活用され得る。
イネの品質管理、品種判別、品種改良、作柄評価、作柄予測など、イネの生産および流通のあらゆる過程において活用され得る。
本発明の第1の側面では、イネの組織における糖タンパク質の糖鎖の構造および量比の情報を利用して、イネの生育状態を評価する方法が提供される。糖鎖分析の対象となるイネの組織は、分析可能な糖タンパク質を含有している組織である限り特に限定されないが、種子の胚部分が特に好ましい。発芽後のイネ試料については、例えば胚に由来する芽または根を糖鎖解析の対象とすることができる。糖鎖試料を調製するために使用すべき組織の量の下限は、検出機器の感度等に依存するほかは特に限定されない。例えば約20粒〜約1000粒の種子から胚を分離して糖鎖解析を行うことができる。
本明細書では、糖タンパク質由来の糖鎖を分析しそれらの構造および量比を決定することを糖鎖分析または糖鎖解析という。ここでいう糖鎖の「構造」とは、必ずしも正確に分子構造が決定されていることは必要としない。従って、糖鎖がある「構造」を有しているという場合、例えば他の糖鎖と区別され得る特定のサイズであること、あるいは他の糖鎖と区別され得る特定の単糖ユニットの組合せであること、あるいは所定のクロマトグラフィーにおいて他の糖鎖と区別され得る特定の溶出パターンを示すことを意味し得る。また、糖鎖の「サイズ」も、必ずしも正確な分子量が決定されていることは必要とせず、例えばサイズ分画クロマトグラフィーにおいてサイズマーカーとの関係において決定されるサイズを意味し得る。「量比を決定すること」とは、これら異なる構造の相対的な量を決定することを意味する。量比は通常はクロマトグラフィーにおける溶出ピークの相対的な強度に基づいて決定される。ピークの「強度」とは、そのピーク位置と対応する構造を有する糖鎖の検出量を表すものであり、ピークの高さ、またはピークの面積に基づいて常法により測定することができる。
本明細書において、糖鎖の切り出しとは、糖タンパク質のタンパク質本体から糖鎖部分を分離することを意味する。一般的に、生物学的試料から糖鎖を切り出す複数の方法が当業者に知られている。糖鎖の切り出しは組織試料をヒドラジン処理することによって行うことが最も好ましいが、当業者に知られるほかの方法、例えば酵素処理法によって糖鎖の切り出しを行ってもよい。ヒドラジン分解により遊離した糖鎖は、もともと糖鎖構造に含まれているアセチル基も脱離するため、通常はヒドラジン分解後に再N−アセチル化処理を行う。
切り出した糖鎖は、通常は、クロマトグラフフィーにおける検出感度や分離を高めるために標識する。標識法は特に限定されないが、2-アミノピリジンと反応させてピリジルアミノ化することによって蛍光標識することが最も好ましい。糖鎖切り出しからピリジルアミノ化に至るまでの一般的な手順、および試料をHPLC(High Performance Liquid Chromatography)分析に適した状態にするための諸操作は当業者に知られているか、または、当業者が適宜調節することができる。
糖タンパク質の糖鎖構造は複雑であり、多様な単糖類ユニットが多様な配置で連結されたものが混在している(例えば表2を参照のこと)。本明細書において、「糖鎖構造分布プロファイル」を得るとは、糖鎖をその構造に基づく特性に基づいて互いに分離して、その分離された各構造間の相対量を決定することを意味する。つまり、糖鎖構造分布プロファイルは、試料中にいかなる糖鎖構造がいかなる相対量において存在するかを表す。一例として、糖鎖をサイズに基づいて分離して、異なるサイズの糖鎖間の相対量を決定することが挙げられるが、この場合の糖鎖構造分布プロファイルは特に「糖鎖サイズ分布プロファイル」ともいう。
糖鎖構造分布プロファイルは、通常はグラフや表にして可視化される。しかしながら、可視化することなく、コンピュータ内の情報処理のみによって糖鎖構造分布プロファイルを作成ないし保存することも可能であることは当業者に理解される。糖鎖構造分布プロファイルを「プロファイル」と略す場合もある。
当業者には理解されるように、糖鎖構造分布プロファイルは、糖鎖をその構造に基づく各種特性に基づいて互いに分離することができる各種クロマトグラフィーにより、簡便に得ることができる。具体例を挙げると、サイズ分画HPLCから得られるクロマトグラムに基づくものであって、1つの軸(例えば横軸)に糖鎖のサイズ(後述のように、これは溶出時間に対応する)、もう1つの軸(例えば縦軸)に糖鎖の相対量(ピリジルアミノ化標識した場合は、蛍光強度に対応する)を表したグラフは、糖鎖サイズ分布プロファイルを表す。HPLCとは、カラムクロマトグラフィーのうち、移動相をポンプで強制的に送液することにより、高速・高性能な分析を可能とするものである。
以下、試料中の糖鎖構造をそのサイズによって分離・区別する場合、すなわちサイズ分画クロマトグラフィーにより得られる糖鎖サイズ分布プロファイルに基づいて試料を評価する場合について説明する。しかしながら、本発明は、試料間の糖鎖構造の組成の違いを検出するという基本的原理に基づくものである。従って、糖鎖構造をサイズ以外の他のあるいは追加の属性(例えば、親水性、疎水性、極性、親和性、吸着性、およびこれらの組合せ等)によって分離・区別する別種のクロマトグラフィーを利用して糖鎖構造分布プロファイルを得る態様も可能であることは当業者に理解される。クロマトグラフィーの原理が異なれば、ピークの溶出順序等は異なってくるであろうが、所定の糖鎖の相対量の増減は異なる種類のクロマトグラフィーであっても検出され得るからである。例えば、非特許文献1には、ヒトIgG由来の糖鎖を逆相クロマトグラフィーおよび両イオン性-親水性相互作用クロマトグラフィー(ZIC-HILIC)でそれぞれ分離した例が記載されている。
標識した糖鎖を、サイズ分画クロマトグラフィー、例えばサイズ分画HPLCにより分析することにより、試料中に存在する多様な糖鎖構造の存在をサイズごとに分画して検出し、それらの相対的な量を決定することができる。サイズ分画クロマトグラフィーの原理は当業者にはよく知られている。サイズ分画の用途に適したHPLC用カラムも各種知られており、所望のサイズ分画範囲等に応じて当業者が適宜選択することができる。好ましいサイズ分画用カラムとしては、例えば全多孔性シリカゲルの担体に化学結合基としてアミノ基を有するものが挙げられる。最も好ましいサイズ分画用カラムの例はナカライテスク社のCOSMOSIL(登録商標) Packed Column 5NH2−MS(4.6 ID×150 mm)であり、これは全多孔性シリカゲルの担体に化学結合基としてアミノプロピル基を有するものであるが、他にも、例えばCOSMOSIL(登録商標) Packed Column Sugar-D(4.6ID x 150 mm)などを使用し得る。後述する基準プロファイルとの比較を容易にするため、基準プロファイルの作成に使用するものと同一種類のカラムを同一条件で使用して試料の糖鎖分析を行うことが好ましい。
サイズ分画HPLCにより分離される各糖鎖のサイズを決定するために、通常は、試料分析に使用するものと同一のカラムに試料分析時と同一条件で分子量既知のサイズマーカーを適用する。サイズマーカーとしては、ピリジルアミノ化されたグルコースオリゴマー(α-1,6結合)を使用することが最も好ましく、この場合、糖鎖のサイズはグルコースオリゴマーの長さを表す「グルコース単位」あるいは「重合度(DP:Degree of Polymerization)」により表わされる(Anal. Biochem. 1988, 171, 73-90)。すなわち、例えばグルコースの5マー、6マー、7マー(それぞれ、DP=5、6、7のサイズを有する)等々をカラムに適用してこれらの溶出時間を記録しておく。このようにして、試料由来の糖鎖を分析する際に各ピークの溶出時間を見ることによって、これらグルコースオリゴマーとの関係において、そのピークに含まれる糖鎖のサイズを決定することができる。なお、1つのピークに、サイズは近似しているが化学構造が異なる複数の糖鎖が含まれていることもあり得る。
糖鎖構造分布プロファイルには通常は複数のピークが現れ、これはその試料に複数の異なる糖鎖構造が含まれていることを意味する。DP5〜13の範囲内における糖鎖サイズ分布プロファイルが本発明において特に有用となり得る。
糖鎖構造分布プロファイルの変化は様々な態様で検出され得るが、最も典型的には、各ピークの相対的な高さまたは面積の変化として検出される。例として、第1試料(例えば基準試料)ではピークAの方がピークBよりも高く、第2試料(例えば試験試料)ではピークBの方がピークAよりも高くなっていれば、両試料間でプロファイルが変化していると言える。別の例では、第1試料ではピークAの面積がピークBの面積より大きく、第2試料ではピークBの面積がピークAの面積よりも大きくなっていれば、両試料間でプロファイルが変化していると言える。さらに別の例では、第1試料ではピークAの高さ(または面積)がピークBの高さ(または面積)の80〜100%であり、第2試料ではピークAの高さ(または面積)がピークBの高さ(または面積)の40〜60%となっていれば、両試料間でプロファイルが変化していると言える。さらに別の例では、第1試料ではピークAの面積がDP5〜13の範囲にある全ピークの合計面積の30%以上を占め、第2試料ではピークAの面積がDP5〜13の範囲にある全ピークの合計面積の25%以下を占めるのであれば、両試料間でプロファイルが変化していると言える。最も極端な例として、第1試料には見られないピークが第2試料において出現していたり、逆に、第1試料に存在していたピークが第2試料では消失している場合なども考えられる。
試験試料から得られる糖鎖構造分布プロファイルを、1つ以上の任意の基準試料から得られる糖鎖構造分布プロファイルと比較し、上記のいずれかのような変化(差異)が検出されれば、試験試料は基準状態から逸脱していると判断することができる。例えば、発芽誘導後x時間の試験試料のプロファイルを、発芽誘導後x時間の正常生育試料のプロファイルと比較して差異が検出されれば、その試験試料は生育状態に異常があると判断され得る。その試験試料のプロファイルがむしろ発芽誘導後(x−48)時間の正常生育試料のプロファイルと一致するのであれば、その試験試料の生育が遅れていることがさらに確認され得る。同様に、正常な試料ではなく生育異常の試料を基準試料としてもよく、その場合は、基準試料とプロファイルが一致する場合に、試験試料に生育異常があると判断される。
本明細書において、基準試料から得られる糖鎖構造分布プロファイルを「基準プロファイル」という。基準プロファイルは、試験試料の糖鎖分析と並行して調製されてもよいが、事前に準備されたもの、もしくは既知のもの、または試料分析後に調製されたものであってもよい。基準プロファイルの調製と試験試料の分析とは、同一種類のカラムを同一条件で使用して行うことが好ましい。
サイズ分画HPLCに続いて、任意で、各ピークに含まれる糖鎖をさらに詳細な構造解析に付し、糖鎖の具体的な分子構造(糖単位の組成・結合状態)をより正確に決定することもできる。このように糖鎖の分子構造を決定する手法は当業者に知られており、例えば逆相HPLC、MALDI−TOF/MS、酵素消化法等を組み合わせて実施することができる(例えばJ. Biochem. 2007, 142(2) 213-27、およびBiosci. Biotechnol. Biochem. 2000, 64(10) 2109-20を参照のこと)。このようにして、個々の具体的な糖鎖構造の相対量の変化を検出することにより、イネ試料のより高精度な品質評価を行うことが可能となり得る。
以上、イネの生育状態を評価する方法の実施態様について記述してきたが、糖タンパク質の糖鎖の構造および量比という、各イネ試料に固有の基盤情報は、他の実施態様にも応用することができる。従って本発明の別の側面では、イネ組織における糖タンパク質の糖鎖の構造および量比の情報を利用して、イネの品種を識別する方法が提供される。この方法は、1つまたは複数のイネ品種の糖鎖構造分布プロファイル(対応する組織から得られたもの)を基準プロファイルとする他は、本発明の上記第1の側面の方法と同様の手順で実施され得る。すなわち、試験試料のプロファイルが基準プロファイルと異なれば、異なる品種であると判定され、プロファイルが一致するのであれば、同一もしくは近似の品種であると判定される。
本発明のさらに別の側面では、イネの組織における糖タンパク質の糖鎖の構造および量比の情報を利用して、イネの疾患の有無を判定する方法が提供される。この方法では、例えば、既知の疾患を有するイネ組織からの基準プロファイルを使用する。試験試料のプロファイルが基準プロファイルと一致すれば、その試験試料が採られたイネはその特定の疾患を有していると判定され得る。
以下、実施例を示して本発明のいくつかの実施態様を説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
[実施例1]
1)催芽開始後0時間のコメ胚部の調製
茨城県つくば市産のコシヒカリ(2010年産)を用いた。まず、種子を脱穀機と精米機に通して殻や糠を除去した後、胚部のみを回収した。回収したコメ胚部は全て凍結乾燥機にかけた後、乳棒と乳鉢で細かくすり潰した。その後、再度凍結乾燥機にかけ、乾燥後、−30℃にて密封保存した。なお、催芽開始後0時間とは、下記催芽手順を行う前の試料を意味する。
1)催芽開始後0時間のコメ胚部の調製
茨城県つくば市産のコシヒカリ(2010年産)を用いた。まず、種子を脱穀機と精米機に通して殻や糠を除去した後、胚部のみを回収した。回収したコメ胚部は全て凍結乾燥機にかけた後、乳棒と乳鉢で細かくすり潰した。その後、再度凍結乾燥機にかけ、乾燥後、−30℃にて密封保存した。なお、催芽開始後0時間とは、下記催芽手順を行う前の試料を意味する。
2)催芽開始後48時間のコメ胚部の調製
上記のものと同様の種子を用いて、以下の催芽手順を行った。まず、種子約1000粒を50ml容量のチューブに入れ、水道水で5〜6回洗った。次に、洗った種子をシャーレに並べ、水深7mmとなるように脱塩水を加えた。その後、30℃のインキュベーター内で48時間静置して催芽を行った。48時間静置後、はと胸状態になった種子の胚部をピンセットでくり抜いて回収した。回収後、全て凍結乾燥機にて乾燥させ、乳棒と乳鉢で細かくすり潰した。その後、再度凍結乾燥機にかけ、乾燥後、−30℃にて密封保存した。
上記のものと同様の種子を用いて、以下の催芽手順を行った。まず、種子約1000粒を50ml容量のチューブに入れ、水道水で5〜6回洗った。次に、洗った種子をシャーレに並べ、水深7mmとなるように脱塩水を加えた。その後、30℃のインキュベーター内で48時間静置して催芽を行った。48時間静置後、はと胸状態になった種子の胚部をピンセットでくり抜いて回収した。回収後、全て凍結乾燥機にて乾燥させ、乳棒と乳鉢で細かくすり潰した。その後、再度凍結乾燥機にかけ、乾燥後、−30℃にて密封保存した。
3)ヒドラジン分解
試料10mgをねじ口式試験管に入れ、凍結乾燥機を用いて十分に乾燥させた。ねじ口式試験管に無水ヒドラジン1mlを加え、ふたを閉め密封した。100℃で10時間反応させることにより、N結合型糖鎖を切り出した。トルエン200μlを加え、ヒドラジンを減圧留去した。試験管内の液体が留去したことを確認した後、再びトルエンを200μl加え減圧留去した。この操作を5回繰り返した。
試料10mgをねじ口式試験管に入れ、凍結乾燥機を用いて十分に乾燥させた。ねじ口式試験管に無水ヒドラジン1mlを加え、ふたを閉め密封した。100℃で10時間反応させることにより、N結合型糖鎖を切り出した。トルエン200μlを加え、ヒドラジンを減圧留去した。試験管内の液体が留去したことを確認した後、再びトルエンを200μl加え減圧留去した。この操作を5回繰り返した。
4)N−アセチル化
ヒドラジンを減圧留去した残渣に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 (0.5gの炭酸水素ナトリウムに4mlの水を加え、よく混合し、この上清を使用した)1mlを加え、よく混合した。その後、迅速に無水酢酸40μlを加え、混合し、氷上で5分間放置した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液1mlと無水酢酸40μlを再度加え、混合し、氷上で25分間放置した。この反応によって生成したナトリウムイオンを除去するために、Dowex 50W−x8 (H+型)約5gを用いて脱塩を行った。このとき、溶液のpHが3であることをpH試験紙にて確認した。試料をイオン交換樹脂と混合し、十分に反応させた後、カラムに詰め、樹脂体積の5倍量の水で洗浄した。回収した素通り画分と洗液を遠心濃縮し、グライコタッグ用サンプルバイアルに移し、凍結乾燥した。
ヒドラジンを減圧留去した残渣に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 (0.5gの炭酸水素ナトリウムに4mlの水を加え、よく混合し、この上清を使用した)1mlを加え、よく混合した。その後、迅速に無水酢酸40μlを加え、混合し、氷上で5分間放置した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液1mlと無水酢酸40μlを再度加え、混合し、氷上で25分間放置した。この反応によって生成したナトリウムイオンを除去するために、Dowex 50W−x8 (H+型)約5gを用いて脱塩を行った。このとき、溶液のpHが3であることをpH試験紙にて確認した。試料をイオン交換樹脂と混合し、十分に反応させた後、カラムに詰め、樹脂体積の5倍量の水で洗浄した。回収した素通り画分と洗液を遠心濃縮し、グライコタッグ用サンプルバイアルに移し、凍結乾燥した。
5)ピリジルアミノ化
上記凍結乾燥後の試料にピリジルアミノ化試薬(再結晶2−アミノピリジン552mgを酢酸200μlに溶解したもの)100μlを加えた。ふたをし、残渣が完全に溶けるまで混ぜ、ヒートブロックを用いて、90℃で1時間加熱した。反応後、用時調製した還元試薬(ボラン−ジメチルアミン250mgを酢酸100μlと水62.5μlに溶解したもの)350μlを加え、よく混ぜた。ふたをして80℃で35分間加熱した。水750μlを加え、2本のマイクロチュ−ブに移した。さらに、フェノール−クロロホルム(フェノールに水を混合し、下層のフェノール相に対して1:1になるようにクロロホルムを混合したもの)0.5mlを各マイクロチュ−ブに加え、撹拌し、150×100Gで5分間遠心した。遠心分離後、上層(水相)を回収して別のマイクロチューブ2本に移した。この操作をもう一度繰り返した。上層を回収して別のマイクロチュ−ブ2本に移し、クロロホルム0.5mlを各マイクロチュ−ブに加え、撹拌し、150×100Gで5分間遠心した後に、上層を別のマイクロチュ−ブ1本にまとめて回収した。液−液分配により抽出・精製した試料の入ったマイクロチューブを凍結乾燥した。凍結乾燥した試料は、未反応の過剰2−アミノピリジンを除去するために、100μlの純水に溶解させた後、TOYOPEARL(HW-40S)カラム(1.0 x 10 cm)を用いてゲルろ過を行った。
上記凍結乾燥後の試料にピリジルアミノ化試薬(再結晶2−アミノピリジン552mgを酢酸200μlに溶解したもの)100μlを加えた。ふたをし、残渣が完全に溶けるまで混ぜ、ヒートブロックを用いて、90℃で1時間加熱した。反応後、用時調製した還元試薬(ボラン−ジメチルアミン250mgを酢酸100μlと水62.5μlに溶解したもの)350μlを加え、よく混ぜた。ふたをして80℃で35分間加熱した。水750μlを加え、2本のマイクロチュ−ブに移した。さらに、フェノール−クロロホルム(フェノールに水を混合し、下層のフェノール相に対して1:1になるようにクロロホルムを混合したもの)0.5mlを各マイクロチュ−ブに加え、撹拌し、150×100Gで5分間遠心した。遠心分離後、上層(水相)を回収して別のマイクロチューブ2本に移した。この操作をもう一度繰り返した。上層を回収して別のマイクロチュ−ブ2本に移し、クロロホルム0.5mlを各マイクロチュ−ブに加え、撹拌し、150×100Gで5分間遠心した後に、上層を別のマイクロチュ−ブ1本にまとめて回収した。液−液分配により抽出・精製した試料の入ったマイクロチューブを凍結乾燥した。凍結乾燥した試料は、未反応の過剰2−アミノピリジンを除去するために、100μlの純水に溶解させた後、TOYOPEARL(HW-40S)カラム(1.0 x 10 cm)を用いてゲルろ過を行った。
6)サイズ分画HPLC分析
サイズ分画HPLC分析には、島津製作所のProminence(登録商標)システムを使用した。カラムは、ナカライテスク社のCOSMOSIL(登録商標) Packed Column 5NH2−MS(4.6 ID×150 mm)を使用した。サイズマーカーとして、重合度が3〜22グルコース程度のピリジルアミノ化グルコースオリゴマー(タカラバイオ社製)を使用した。溶離液Aは、93%アセトニトリル−0.3%酢酸(v/v)水溶液をアンモニア水でpH7.0にしたもので、溶離液Bは、20%アセトニトリル−0.3%酢酸(v/v)水溶液をアンモニア水でpH7.0にしたものを使用した。流速は0.8 ml/min、分析温度は40℃、測定時間は1つの試料あたり60分間で行った。まず、溶離液Bを3%にし、カラムを20分間以上平衡化した後に試料を注入した。試料を注入してから3分間で溶離液Bを33%に上昇させて5分間保持し、その後32分間で溶離液Bを71%になるように直線的に上昇させた。溶離液Bを3%にし、20分間以上平衡化した。励起波長は310nm、蛍光波長は380nmで検出を行った。
サイズ分画HPLC分析には、島津製作所のProminence(登録商標)システムを使用した。カラムは、ナカライテスク社のCOSMOSIL(登録商標) Packed Column 5NH2−MS(4.6 ID×150 mm)を使用した。サイズマーカーとして、重合度が3〜22グルコース程度のピリジルアミノ化グルコースオリゴマー(タカラバイオ社製)を使用した。溶離液Aは、93%アセトニトリル−0.3%酢酸(v/v)水溶液をアンモニア水でpH7.0にしたもので、溶離液Bは、20%アセトニトリル−0.3%酢酸(v/v)水溶液をアンモニア水でpH7.0にしたものを使用した。流速は0.8 ml/min、分析温度は40℃、測定時間は1つの試料あたり60分間で行った。まず、溶離液Bを3%にし、カラムを20分間以上平衡化した後に試料を注入した。試料を注入してから3分間で溶離液Bを33%に上昇させて5分間保持し、その後32分間で溶離液Bを71%になるように直線的に上昇させた。溶離液Bを3%にし、20分間以上平衡化した。励起波長は310nm、蛍光波長は380nmで検出を行った。
以下、7)〜9)において、糖鎖の分子構造決定に使用した方法を記述するが、これは必ずしも7)、8)、9)の順番で実施することを意味するものではないし、7)〜9)の全てを実施する必要があることを意味するものでもない。当業者は7)〜9)およびサイズ分画HPLC分析の適切な組合せおよび順番を選択して目的の分子構造を決定することができる。
7)逆相HPLC分析
逆相HPLC分析には、島津製作所のProminence(登録商標)システムを使用した。カラムは、ナカライテスク社のCOSMOSIL(登録商標) Packed Column 5C18-P (4.6 ID×150 mm)を使用した。サイズマーカーとして重合度が3〜22グルコース程度のピリジルアミノ化グルコースオリゴマー (タカラバイオ社製)を使用した。溶離液Cは、10mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.0)、溶離液Dは、10mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.0)−1%ブタノール(v/v)を使用した。流速は1.5ml/min、分析温度は40℃、測定時間は1つの試料あたり75分間で行った。まず、溶離液Dを5%にし、20分間以上カラムを平衡化した後に試料を注入した。試料を注入してから55分間で溶離液Dを100%になるよう直線的に上昇させ、その後溶離液Dを5%にし20分間平衡化した。励起波長は315nm、蛍光波長は400nmで検出を行った。
逆相HPLC分析には、島津製作所のProminence(登録商標)システムを使用した。カラムは、ナカライテスク社のCOSMOSIL(登録商標) Packed Column 5C18-P (4.6 ID×150 mm)を使用した。サイズマーカーとして重合度が3〜22グルコース程度のピリジルアミノ化グルコースオリゴマー (タカラバイオ社製)を使用した。溶離液Cは、10mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.0)、溶離液Dは、10mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.0)−1%ブタノール(v/v)を使用した。流速は1.5ml/min、分析温度は40℃、測定時間は1つの試料あたり75分間で行った。まず、溶離液Dを5%にし、20分間以上カラムを平衡化した後に試料を注入した。試料を注入してから55分間で溶離液Dを100%になるよう直線的に上昇させ、その後溶離液Dを5%にし20分間平衡化した。励起波長は315nm、蛍光波長は400nmで検出を行った。
8)質量分析
質量分析機は、島津製作所のMALDI-TOF/MS (AXIMA(登録商標)-CFR Plus)を使用した。MALDIプレートは、Bruker社製のμFocus MALDI Plate 700μm (384 circles)を使用した。マトリックスは、シグマ社製のSuper−DHBを使用した。マトリックス溶液は、5mgのSuper−DHBを50%エタノールに溶解、混合させたものを使用した。調製したマトリックス溶液4μlとピリジルアミノ化糖鎖(5pmol/μl)をPCRチューブに入れ、よく混合した。混合した5μlのうち1μlをMALDIプレートにのせ、乾燥後、測定を行った。
質量分析機は、島津製作所のMALDI-TOF/MS (AXIMA(登録商標)-CFR Plus)を使用した。MALDIプレートは、Bruker社製のμFocus MALDI Plate 700μm (384 circles)を使用した。マトリックスは、シグマ社製のSuper−DHBを使用した。マトリックス溶液は、5mgのSuper−DHBを50%エタノールに溶解、混合させたものを使用した。調製したマトリックス溶液4μlとピリジルアミノ化糖鎖(5pmol/μl)をPCRチューブに入れ、よく混合した。混合した5μlのうち1μlをMALDIプレートにのせ、乾燥後、測定を行った。
9)酵素消化法
酵素は、非還元末端側のD−マンノースの加水分解にはシグマ社製のα-マンノシダーゼ(タチナタマメ由来)、非還元末端側のL−フコースの加水分解にはタカラバイオ社製のα-1,3/4-L-フコシダーゼ(Streptomyces sp.142由来)、末端ガラクトースの加水分解には生化学工業株式会社製のβ−ガラクトシダーゼ (タチナタマメ由来)を使用した。
〔1〕α-マンノシダーゼ
ピリジルアミノ化糖鎖2μlを0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.0)10
μlに溶解した。α-マンノシダーゼ0.33mUを0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.0)5μlに溶解した。ピリジルアミノ化糖鎖と酵素溶液を合わせて、37℃で1時間、98℃で5分間処理した。酵素消化後のピリジルアミノ化糖鎖画分はサイズ分画HPLC分析及び逆相HPLC分析を行った。
〔2〕α-1,3/4-L-フコシダーゼ
ピリジルアミノ化糖鎖4μlを50mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.0)10μlに溶解した。α-1,3/4-L-フコシダーゼ1mUを50mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.0)5μlに溶解した。ピリジルアミノ化糖鎖と酵素溶液を合わせて、37℃で1時間、98℃で5分間処理した。酵素消化後のピリジルアミノ化糖鎖画分は、サイズ分画HPLC分析を行った。
〔3〕β−ガラクトシダーゼ
α-1,3/4-L-フコシダーゼ消化後のピリジルアミノ化糖鎖画分に、β-ガラクトシダーゼ酵素溶液[酵素1mUを50mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH4.1)10μlに溶解したもの]を加え、37℃で1時間、98℃で5分間処理した。酵素消化後のピリジルアミノ化糖鎖画分は、サイズ分画HPLC分析を行った。
酵素は、非還元末端側のD−マンノースの加水分解にはシグマ社製のα-マンノシダーゼ(タチナタマメ由来)、非還元末端側のL−フコースの加水分解にはタカラバイオ社製のα-1,3/4-L-フコシダーゼ(Streptomyces sp.142由来)、末端ガラクトースの加水分解には生化学工業株式会社製のβ−ガラクトシダーゼ (タチナタマメ由来)を使用した。
〔1〕α-マンノシダーゼ
ピリジルアミノ化糖鎖2μlを0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.0)10
μlに溶解した。α-マンノシダーゼ0.33mUを0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.0)5μlに溶解した。ピリジルアミノ化糖鎖と酵素溶液を合わせて、37℃で1時間、98℃で5分間処理した。酵素消化後のピリジルアミノ化糖鎖画分はサイズ分画HPLC分析及び逆相HPLC分析を行った。
〔2〕α-1,3/4-L-フコシダーゼ
ピリジルアミノ化糖鎖4μlを50mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.0)10μlに溶解した。α-1,3/4-L-フコシダーゼ1mUを50mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.0)5μlに溶解した。ピリジルアミノ化糖鎖と酵素溶液を合わせて、37℃で1時間、98℃で5分間処理した。酵素消化後のピリジルアミノ化糖鎖画分は、サイズ分画HPLC分析を行った。
〔3〕β−ガラクトシダーゼ
α-1,3/4-L-フコシダーゼ消化後のピリジルアミノ化糖鎖画分に、β-ガラクトシダーゼ酵素溶液[酵素1mUを50mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH4.1)10μlに溶解したもの]を加え、37℃で1時間、98℃で5分間処理した。酵素消化後のピリジルアミノ化糖鎖画分は、サイズ分画HPLC分析を行った。
10)結果
図1に、催芽開始後0時間の胚の糖鎖について、サイズ分画HPLCを行った結果得られた糖鎖サイズ分布プロファイルを示す。図1の上部に示す逆三角形▼の記号は、グルコースオリゴマーのサイズマーカーの位置を示している(他図において同じ)。DP5〜9の範囲内に、a〜eという記号で示す5つのピークが現れた。
図1に、催芽開始後0時間の胚の糖鎖について、サイズ分画HPLCを行った結果得られた糖鎖サイズ分布プロファイルを示す。図1の上部に示す逆三角形▼の記号は、グルコースオリゴマーのサイズマーカーの位置を示している(他図において同じ)。DP5〜9の範囲内に、a〜eという記号で示す5つのピークが現れた。
サイズ分画HPLCで見出されるピークは、それぞれ、同等のサイズを有する複数の糖鎖を含んでいる可能性がある。事実、ピークbについては、逆相HPLCによりさらに分析したところ、b1、b2という2つのピークに分離された(図2)。このように、サイズ分画HPLCの各ピークを分取した後、各画分に対して逆相HPLC、酵素消化法、および図3に示すような質量分析(MALDI−TOF/MS)を実施し、ピークを構成する糖鎖の具体的な分子構造を決定した。図4および表1は、図1のピークa〜eに含まれる糖鎖構造とそれらの相対量を要約したものである。この相対量は、これらピークa〜eの総面積を100%とした面積百分率法で求めた。
図5に、催芽開始後48時間の胚の糖鎖サイズ分布プロファイルを示す。催芽開始後0時間と比べてプロファイルに劇的な変化が見られた(図5と図1を比較のこと)。最も顕著なことに、催芽開始後48時間の胚では、催芽開始後0時間においては見られなかった新たなピークf〜hがDP9〜13の範囲内に出現した。図6は、図5のピークa〜hに含まれる糖鎖の相対量を要約したものである。図6を図4と比較すると、例えば、ピークaの相対量が大きく減少し、ピークc〜eの間で量比が変化していることなどがわかる。このように、イネの正常な生育に伴ってプロファイルが特有のパターンで変遷することが明らかとなり、生育異常により生育が遅れている、または進み過ぎているイネを、糖鎖サイズ分布プロファイルの情報により同定することが可能となった。
催芽開始後48時間の糖鎖サイズ分布プロファイルの各ピークに含まれる糖鎖について、上記と同様の手法により構造解析を行った。決定された化学構造およびそれらの相対量を表2に要約する。
[実施例2]
催芽開始後120時間の時点における、発芽した芽の部分について、実施例1と同様にして糖鎖の切り出しからサイズ分画HPLC分析までを行った。ここではまた、2つの実験を並行して行った。第1の実験では、催芽開始72時間後から糖鎖試料調製前まで通常の照明下に種子を置き、第2の実験では、対応する時間帯に種子を暗所に維持した。後者は、日照不足という1つの生育不良条件のモデル実験としてとらえられる。
催芽開始後120時間の時点における、発芽した芽の部分について、実施例1と同様にして糖鎖の切り出しからサイズ分画HPLC分析までを行った。ここではまた、2つの実験を並行して行った。第1の実験では、催芽開始72時間後から糖鎖試料調製前まで通常の照明下に種子を置き、第2の実験では、対応する時間帯に種子を暗所に維持した。後者は、日照不足という1つの生育不良条件のモデル実験としてとらえられる。
上記の「明」条件および「暗」条件で発芽した芽から得られた糖鎖サイズ分布プロファイルの比較を図7に示す。図7ではまず第一に、催芽開始後120時間の時点における芽は、催芽開始後48時間の胚と比べてプロファイルがさらに大きく異なっていることが観察される(図7と図5を比較のこと)。同じく催芽開始後120時間の時点における根についても糖鎖分析を行ったが、芽とは明確に異なるプロファイルが、高い再現性で検出された(データは図示していない)。これらの結果は、植物体の各組織がそれぞれ固有のプロファイルを有することを示している。第二に、図7は、同種類の組織の、2つの独立した試料について行われた分析結果を比較したものであり、両プロファイルが全般的に極めてよく一致していることから、糖鎖構造分布プロファイルの再現性の高さ、すなわち特定のイネの特定の組織を同定する指標としての信頼性の高さが示されている。第三に、重要なことに、上記生育条件の違いにより、DP7.5付近にあるピークの相対的高さに明確な差異が検出されていることがわかる。すなわち、糖鎖構造分布プロファイルを得ることによって、単に生育が遅い/早いということに限らず、生育状態に関する様々な種類の差異や異常を検出することができることが示されている。
[実施例3]
インディカ品種(2013年、群馬県邑楽郡産)とジャポニカ品種(2011年、群馬県邑楽郡産)との糖鎖サイズ分布プロファイルの比較を行った。いずれも催芽開始後0時間の胚を試料とし、試料間の比較が適正となるように条件を同等にして、実施例1と同様の手法で実験を行った。
インディカ品種(2013年、群馬県邑楽郡産)とジャポニカ品種(2011年、群馬県邑楽郡産)との糖鎖サイズ分布プロファイルの比較を行った。いずれも催芽開始後0時間の胚を試料とし、試料間の比較が適正となるように条件を同等にして、実施例1と同様の手法で実験を行った。
図8に示されているように、品種間でプロファイルの明らかな差異が検出された。例えば、インディカ品種ではピークdに相当する糖鎖構造が相対的に低量であることがわかる(ピークdの左側のダブルピーク(*)と比較参照)。
従って、糖鎖構造分布プロファイルを得ることによって、異なるイネ品種を判別することが可能であることが確認された。
以上により、イネの各組織が、生育段階ごとに、あるいは品種ごとに、固有の糖鎖構造分布プロファイルを高い再現性で示すことが確かめられた。このことは、糖鎖構造の分析に基づいて、イネ試料が基準状態から逸脱しているか否かを検出することを可能にする。従って本発明は、栽培環境や疾患等との関係における生育・発達状態の評価、劣悪な貯蔵条件等による糖鎖分解を伴う劣化の検出、品種の識別等、イネの品質に関して幅広く応用することができる。
Claims (8)
- (1)イネの組織の糖タンパク質から切り出された糖鎖を、クロマトグラフィーにより分離し、糖鎖構造分布プロファイルを得る工程、および
(2)前記糖鎖構造分布プロファイルにおけるピークの相対的な強度を、基準プロファイルにおける対応するピークの相対的な強度と比較する工程
を含む、イネの品質を調べる方法。 - 前記クロマトグラフィーがサイズ分画クロマトグラフィーであり、前記糖鎖構造分布プロファイルは糖鎖サイズ分布プロファイルである、請求項1に記載の方法。
- 前記サイズ分画クロマトグラフィーが、サイズ分画HPLCである、請求項2に記載の方法。
- 前記工程(2)の比較は、DP5〜13の範囲内におけるピークについての比較である、請求項2または3に記載の方法。
- 前記基準プロファイルは、正常な生育状態にあるイネの前記組織について前記工程(1)を行って得られる糖鎖構造分布プロファイルである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- 前記基準プロファイルは、既知のイネ品種の前記組織について前記工程(1)を行って得られる糖鎖構造分布プロファイルである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- 前記糖鎖の切り出しはヒドラジン処理によるものである、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- 前記切り出された糖鎖は、クロマトグラフィーに付される前に2−アミノピリジンで標識される、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
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