JP6340465B1 - 認知機能障害を検査するシステム - Google Patents

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Abstract

【課題】専門家による検査が必要なく、高齢者が自分自身のみで容易に検査を行うことを可能とし、認知症であると鑑別する精度も従来と同等以上とする。【解決手段】ペグ1が着脱可能として穴2に差し込まれたボード本体3と、を検査器具100とし、被検者の年齢を入力することをディスプレイ4に表示して促し、被検者が複数のペグ1のうちいずれかを引き抜いたことを検出して時間の計数を開始し、被検者がペグ1の上下を逆にして差し込む返し動作を行った時間を測定して測定時間とし、測定時間が年齢区分ごとに定めた基準値よりも大きい場合、被検者を認知症であると鑑別する。【選択図】図1

Description

本発明は、高齢者における加齢および認知症により誘発された認知機能障害を検査するシステム及び方法並びにプログラムに関し、特に、専門家である検査者による検査が必要なく、高齢者が自分自身で検査を行うのに好適である。
一般に、記憶力、集中力、注意力、学習能力、思考力など、高次脳機能を脳機能、認知機能と称している。従来、認知症の確定診断手法は確立されておらず、様々な検査結果を考慮して総合的に診断を行っている。認知脳機能の検査としては、画像診断では、コンピュータ断層撮影(CTスキャン)およびMRI(磁気共鳴画像装置)があり、今日広く脳疾患の臨床評価に用いられている。
また、SPECT(単一光子放射型断層撮影)が日常の臨床検査場面で使用され、NIRS(光トポグラフィ)やPET(機能的MRI)などの他の技術が、脳血流、脳代謝過程、および神経伝達物質の機能を評価する検査目的に使用されている。さらに、認知症の検査方法の一つには、被検者に対して問診や問答を行う神経心理学検査があり、特別な検査器具が不要で簡単に行えるため、広く用いられている。例えば日本語による神経心理学検査としては改訂長谷川式知能評価スケール(HDS−R)が挙げられる。
CTスキャンやMRI、SPECTなどの画像診断を行うには、検査を行うために高額な検査機器が必要であり、更にそれらの検査機器を操作する専門家や医師が必要である。また、これらの検査は、検査時間が長く、検査費用も高額になる。そこで、HDS−Rのような神経心理学検査は簡単に行えるため、多大な費用と時間を要する精密検査の前に行うスクリーニング検査に向いている。
しかしながら、上述した神経心理学検査では、被検者の取り組み方によって検査結果が左右される。さらに、検査者の被検者に対する質問の仕方によって検査結果が変わることもあり、主観的な検査方法であることに起因して検査結果に偏りが生じる。
アルツハイマー型認知症者と健常者との間で、非侵襲的な計測が可能な利き手の巧緻動作運動などで有意差があることが知られており、この有意差を利用して従来診断が困難であったアルツハイマー型認知症の検査が行うことができる。
また、手指の巧緻動作能力を検査する上で、短時間に、低い能力から高い能力の人までの対象者に対して実施でき、結果判定を自動的に表示するため、両端部の色が異なる9本のペグと、縦に3個ずつ5列に15個の孔が縦横等間隔に配列するボードを用い、ボードの片側3列に差し込まれたペグを、1本ずつ反対側3列に移動する移し動作、及び/又は、1本ずつ抜いたのち、上下を逆さにして差し込む動作の時間を測定する。そして、動作に要した時間に基づいて、予め被検者と同年代の健常者を対象に基準値を求め、被検者の手指の巧緻動作能力を算出することが、特許文献1に記載されている。
さらに、利き手の手指巧緻動作機能を検査することにより、脳機能の老化度合いの判定を簡単な方法で精度良く行うため、特許文献1と同様のペグと、ボードとを用い、ボードの片側3列に差し込まれたペグを、利き手のみの操作で1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む動作の時間を計測する。そして、計測値と、予め健常者を対象に求めた健常者の基準値および、同年代の認知症者を対象として求めた認知症者の基準値とを基に、危険率として算出することが、特許文献2に記載されている。
特開2010−284293号公報 特開2013−78552号公報
上記従来技術において、巧緻動作能力は幼児より成長に伴い発達し、老化に伴い低下するという変化が知られている。しかしながら、特許文献1に記載されたものでは、単に、予め被検者と同年代の健常者を対象に基準値を求め、被検者の手指の巧緻動作能力を算出するだけなので、巧緻動作能力に基づいて認知症であると判定する指標が明確でない。したがって、判定の精度に制限があり、正確に判定することは困難である。
また、特許文献2に記載されたものも同様であり、同年代の認知症者を対象として求めた認知症者の基準値を基に、危険率として算出するだけなので、被検者に対して問診や問答を行う神経心理学検査であるHDS―Rと同等の特異度(疾病に罹っていない者が検査で陰性となる割合)、敏感性(実際に疾病に罹っている者が検査で陽性となる割合)を得ることは困難であった。
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、簡単な方法により認知症の鑑別、判定をより正確に行うことを可能とすることである。また、本発明の目的は、検査のために専門家である検査者が必要なく、高齢者が自分自身で検査を行うことができ、検査結果も自動的に出てくるシステムや方法を提供し、これらを認知症予防へ活用することを可能とすることにある。また、認知症であると判定する精度は、スクリーニング検査であるHDS―Rと同等の敏感性と特異度を得ることにある。
上記目的を達成するため、本発明は、棒状の複数のペグと、該ペグが着脱可能として穴に差し込まれたボード本体と、を検査器具とし、被検者が前記穴に差し込まれたペグを、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作を行う時間を計測し、年齢区分ごとに定めた基準値とを比較して認知症の鑑別を行う認知機能障害を検査するシステムにおいて、前記ペグの上下の向きを判別する判別手段と、前記年齢区分ごとに定めた前記基準値を記憶したデータベースと、前記被検者の年齢を入力することを促す入力促し手段と、前記被検者が複数の前記ペグのうちいずれかを引き抜いたことを検出して時間の計数を開始し、前記被検者が前記ペグの上下を逆にして差し込む返し動作をすべての前記ペグで行った時間を測定して測定時間として記憶する計測記憶手段と、前記データベースを参照して前記年齢に応じた前記基準値を取得し、前記測定時間と比較する比較手段と、前記測定時間が前記基準値よりも大きい場合、前記被検者を認知症であると鑑別する鑑別手段と、を備えたものである。前述した判別手段、入力促し手段、計測記憶手段、比較手段、鑑別手段は、例えばマイクロコンピュータ等のコンピュータを用いてそれぞれの機能を実現することができる。あるいは、それぞれの手段の機能を実現するための専用の電子回路を設けることもできる。前記計測記憶手段で記憶される測定時間とは、別の表現をすれば、複数のペグのうち最初のペグを引き抜いたときから計測を始め、最後のペグをひっくり返して差し込んだ時までの時間のことである。
また、上記において、前記動作は利き手で行い、前記年齢区分は5歳間隔としたことが望ましい。
さらに、前記ペグの本数を9本とし、前記基準値は、45-49歳において12.93〜14.05秒、50-54歳において13.69〜14.88秒、55-59歳において13.11〜14.25秒、60-64歳において13.23〜14.38秒、65-69歳において14.38〜15.63秒、70-74歳において14.65〜15.93秒、75-79歳において15.70〜17.06秒、80-84歳において16.94〜18.41秒、85-89歳において17.92〜19.48秒、90-94歳において18.87〜20.51秒、95-99歳において19.83〜21.55秒、100歳以上において20.78〜22.59秒、としたことが望ましい。
さらに、前記ペグの本数を9本とし、前記基準値は、45-49歳において13.49秒、50-54歳において14.28秒、55-59歳において13.68秒、60-64歳において13.80秒、65-69歳において15.00秒、70-74歳において15.29秒、75-79歳において16.38秒、80-84歳において17.68秒、85-89歳において18.70秒、90-94歳において19.69秒、95-99歳において20.69秒、100歳以上において21.68秒、としたことが望ましい。
さらに、前記基準値は、前記年齢区分ごとの健常者によって行った前記測定時間の平均値に基づいて定められたことが望ましい。
さらに、上記において、前記基準値は、前記平均値よりも値を大きくしたことが望ましい。
さらに、上記において、前記基準値は、前記平均値×(1+(1-A))とし、Aを0.85〜0.75としたことが望ましい。
さらに、上記において、前記基準値は、前記平均値×(1+(1-A))とし、Aを0.8としたことが望ましい。
さらに、上記において、上端と下端とで磁極が反対となるように磁石が埋め込まれた前記ペグと、前記穴の底部に設けられた磁気センサと、前記磁気センサからの信号によって前記ペグの上下の向きを判別する前記マイクロコンピュータと、を備えたことが望ましい。
さらに、上記において、全ての前記ペグが同じ方向に前記穴へ差し込まれていることを検出した後、測定を開始することが可能であることを表示する手段を更に備えることが望ましい。この手段は、マイクロコンピュータ等のコンピュータによって実現することができる。
また、上記目的を達成するため、本発明は、棒状の複数のペグと、該ペグが着脱可能として穴に差し込まれたボード本体と、を検査器具とし、被検者が前記穴に差し込まれたペグを、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作を行う時間を計測し、年齢区分ごとに定めた基準値とを比較して認知症の鑑別を行う認知機能障害を検査する方法であって、前記被検者が複数の前記ペグのうちいずれかを引き抜いたことを検出して時間の計数を開始し、前記被検者が前記ペグの上下を逆にして差し込む返し動作を行った時間を測定して測定時間とし、該測定時間が前記被検者の年齢に対応する前記基準値よりも大きい場合、前記被検者を認知症であると鑑別する。
さらに、上記目的を達成するため、本発明は、棒状の複数のペグと、該ペグが着脱可能として穴に差し込まれたボード本体と、を検査器具とし、被検者が前記穴に差し込まれたペグを、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作を行う時間を計測し、年齢区分ごとに定めた基準値とを比較して認知症の鑑別を行う認知機能障害を検査するプログラムにおいて、コンピュータに、前記ペグの上下の向きを判別する機能と、前記被検者の年齢を入力することを促す機能と、前記被検者が複数の前記ペグのうちいずれかを引き抜いたことを検出して時間の計数を開始し、前記被検者が前記ペグの上下を逆にして差し込む返し動作をすべての前記ペグで行った時間を測定して測定時間とする機能と、前記測定時間が前記基準値よりも大きい場合、前記被検者を認知症であると鑑別する機能と、を実現させる。
本発明によれば、被検者の年齢を入力することを促し、被検者が複数のペグのうちいずれかを引き抜いたことを検出して時間の計数を開始し、被検者がペグの上下を逆にして差し込む返し動作を行った時間を測定して測定時間とし、該測定時間が年齢区分ごとに定めた基準値よりも大きい場合、被検者を認知症であると鑑別するので、専門家である検査者が必要なく、高齢者が自分自身で検査を行い、認知症予防へ活用することが可能となる。また、認知症であると鑑別する精度は、スクリーニング検査であるHDS−Rと比べて遜色がない。
本発明による一実施の形態に係る検査器具の外観を示す斜視図 一実施の形態に係る検査器具の主な構成を示す側面図 一実施の形態に係るペグとボード本体との関係を示す説明図 一実施の形態に係るフローチャート 健常者による図4のフローチャート(ICAT)で行った測定時間の平均値を示したグラフ 年齢区分ごとの基準値の設定例を計算した数値(秒)示す表(表1) 表1の基準値%に対して、健常者の特異度を算出した表(表2) 図7と同じ健常者に実施したHDS−Rによる特異度を示した表(表3) 表1の基準値%に対して、認知症者の敏感度を算出した表(表4) 図9と同じ認知症者に実施したHDS−Rによる敏感度を示した表(表5)
以下に、本発明を詳細に説明する。図1は、認知機能障害を検査するシステムにおける検査器具100の外観図を示し、図2は検査器具100の主な構成を示す側面図、図3は棒状のペグ1とボード本体3との関係を示す説明図である。1は、被検者が検査を行うための動作を行うペグである。ペグ1はボード本体3に設けられた穴2に全長の1/4程度が差し込まれている。ペグ1の直径は、1.5〜3cm、長さが5〜8cmであり、ボード本体3には、縦に3個、横3列に穴2が等間隔で並んでおり、合計9か所の穴2が設けられている。
検査器具100の大きさは、横30〜40cm×奥行20〜30cmであり、ノートパソコンと同程度で持ち運びなどの運搬し易い大きさである。4は、検査を行う手順を示したり、被検者がそれに従って被検者情報の入力をしたりすることのできるタッチパネルを兼ねたディスプレイである。ディスプレイ4には、例えば、測定のスタートボタン5が表示され、そこを手、またはタッチペン等でタッチすることにより開始される。
9本のペグ1を用いて検査するための動作を行う程度であれば、検査は、疾病や障害を持った対象者の身体的・心理的耐久性を配慮し、高齢者などにも理解しやすい。検査するための動作は、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作を9か所の全てで行うことになる。その後、ディスプレイ4には、検査結果が画面上で被検者に示される。
穴2の底部には図2に示すように、ホール素子を利用した磁気センサ6が設置される。磁気センサ6は、穴2に差し込まれたペグ1の上下の向きによって生じる信号をマイクロコンピュータ10へ伝達する。検査器具100には、電源スイッチ7、電源コード9、外部機器との信号の通信を行うためのUSBポート8などが設けられる。
ペグ1は図3に示すように、上端は上面がS(またはN)極となるように磁石1-1が埋め込まれ、下端は(上端とは逆の極性である)下面がN(またはS)極となるように磁石1-2が埋め込まれている。つまり、ペグ1の上端と下端は互いに磁極が反対となっている。したがって、ペグ1の向きは、ペグ1が穴2に磁石1-2が下となるように差し込まれていれば、磁気センサ6によるプラス(マイナス)電位の信号によってマイクロコンピュータ10によって判別される。
逆に、ペグ1が穴2に磁石1-1が下となるように差し込まれていれば、マイナス(プラス)電位によってマイクロコンピュータ10によって判別される。なお、ペグ1は、上下方向で上側の1/2が青、残りの下側が赤と言うように色分けされていることが望ましい(不図示)。
9本のペグ1が穴2に磁石1-2が下となるように差し込まれていれば、検査が開始できる状態である。また、検査方法としては、9本のペグ1のうち一つ引き抜いてボード本体3上の同じ穴2にひっくり返して差し込む「返し動作」を9回(9本)行う。被検者が9本のペグ1を全て返すと、この一連の動作がマイクロコンピュータ10によって認識される。動作の認識は、時間測定により行われ、検査開始は1本目のペグ1を引き抜いた時に時間測定が開始される。マイクロコンピュータ10は、9本のペグ1の「返し動作」を磁気センサ6によってモニターし、どのペグ1が「返し動作」を完了して、どのペグ1が完了していないかを認識している。
最後の9本目のペグ1の「返し動作」を行った時、即ち、最後の9本目のペグ1の先端のS又はN極の磁場が変化し、磁気センサ6の出力電圧が変化した時、マイクロコンピュータ10により被検者が9本のペグ1全ての「返し動作」を行うまでに要した時間が計測される。つまり、被検者がペグ1を1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む「返し動作」の9本分すべての合計時間が測定される。
図4は、図1から3で示した認知機能障害を検査するシステムにおいて、認知症との鑑別、被検者に対して認知症者である蓋然性の高いと言う判断に基づいて健常者からは区分するフローチャートを示している。まず、ステップ1では電源スイッチ7を入れるとディスプレイ4にスタートボタン5の表示が行われ、タッチすることが促される。
ステップ2ではスタートボタン5がタッチされたことにより、検査方法の説明、検査するための動作は、ペグ1を1本ずつ抜いたのち上下を逆にして差し込む返し動作を9か所の全てで行う、と言うことをマイクロコンピュータ10の指示によりディスプレイ4に表示する。
ステップ3では、被検者の年齢を入力することを促す、と共に入力された年齢を記憶する。ステップ4では、検査を開始の準備として、全てのペグ1が同じ方向に穴2へ差し込まれているかを確認する。確認は、ペグ1の上下端に埋め込まれた磁石1-1あるいは1-2によって生じる磁気センサ6による信号の電位によってマイクロコンピュータ10によって行われる。
ステップ5では、測定を開始する準備が整い、ペグ1の上下を逆にして差し込む「返し動作」の測定を開始することが可能であることをディスプレイ4に表示する。ステップ6では、被検者によって9本のペグ1のうちいずれかが引き抜かれたときにそのことを検出する。検出は、磁気センサ6による電位の変化によって行われる。
ステップ7では、ペグ1のうちいずれかが引き抜かれたことにより時間の計数を開始する。ステップ8では、被検者が9本すべてのペグ1の上下を逆にして差し込む返し動作を行ったことを磁気センサ6により検出する。ステップ9では、計数を終了して被検者が9本のペグ1を全て「返し動作」を行うのに要した時間を測定して測定時間として記憶する。
20は、年齢区分ごとの基準値を記憶したデータベースである。ステップ10では、ステップ3で入力された年齢に応じた年齢区分における基準値がデータベース20を参照して取得される。そして取得された基準値と測定時間とを比較する。ステップ11では、測定時間が基準値よりも大きいか判別する。
ステップ12では、測定時間が基準値よりも大きい場合、被検者を認知症であると鑑別する。そうで無い場合は認知症で無いと鑑別しても良い。なお、認知症の鑑別において、認知症のおそれ(第1分類)、認知機能低下のおそれ(第2分類)、問題なし(第3分類)として判定することも認知症予防へ活用する上では望ましい。
認知症であると鑑別するには、基準値の設定が重要になる。また、従来、広く医療場面で用いられてきたHDS−Rによるスクリーニング検査と適合し、同様の鑑別精度を得ることが必要とされる。特に、特異度と敏感度に基づいて基準値、カットオフポイントを設定する必要がある。
特異度とは、疾病に罹っていない者が検査で陰性となる割合であり、非罹患者を陽性としない能力を表す。つまり、特異度は検査で正しく発見された非罹患者/全非罹患者である。敏感度とは、実際に疾病に罹っている者が検査で陽性となる割合であり、検査による疾病発見の能力を表す。つまり、敏感度は検査で正しく発見された罹患者/全罹患者である。
本願発明者らは、上記で説明した認知機能障害を検査するシステムをICATとして、認知症スクーリング機能を確認するためのカットオフポイントを探索した。また、敏感度と特異度についても実際の対象者に対してHDS−Rと比較して検査を行い、鋭意努力して研究を重ねた。その結果、基準値のカットオフポイントを適正に選択すればHDS−Rと同等の鑑別精度が得られることを見出し、これらの知見を一般化することにより、本発明を完成するに至った。
検査対象は、茨城県・千葉県・埼玉県在住の健常者・認知症者とした。健常者は自宅で暮らす上で介助を要さない自立者とした。認知症者は、介護老人保健施設、グループホームの入所者または通所者で、認知症(型不特定)またはアルツハイマー型認知症と既に診断され、上肢運動機能障害のない者とした。測定対象者は、45-94歳の健常者668名(男性240名、女性428名)及び45-102歳の認知症者917名(男性206名、女性711名)とした。なお、ペグ1の本数を9本としている。
図4で示したフローチャート(ICAT)は利き手のデータを用いるため、右利きの対象者は右手の、左利きの対象者は左手のデータを用いた。図5は、5歳間隔の年齢区分ごとの健常者による図4のフローチャート(ICAT)で行った測定時間(縦軸:秒、横軸:年齢区分)の平均値を示したグラフであり、95歳以上は健常者の測定値がないため、経年変化からの推測値としている。
図6の表1は、5歳間隔の年齢区分ごとの基準値の設定例を計算した数値(秒)を示す表である。被検者の測定時間に対して認知症であると鑑別する基準値を健常者が行った測定時間(秒)の平均値とする場合を基準値100%と表記している。そして、基準値を5%刻みで許容範囲が広がるように値を大きくした数値を示している。図6において、
行は年齢区分、列は拡大した基準値%であり、基準値95%とは、45-49歳での100%の基準値(=平均値)11.24秒に対して11.24×(1+(1-0.95))=11.80としている。つまり、基準値100%で鑑別を行うことは、45-49歳の被検者が図4のフローチャート(ICAT)で行った測定時間が基準値100%と表記された45-49歳の行に記載された数値11.24秒よりも大きかった場合、認知症と鑑別することになる。
これに対して、基準値95%では同様に行った測定時間が11.80秒よりも大きかった場合、認知症と鑑別する。図6の表1は、その他の年齢区分、基準値%も同様に計算した数値を示し、基準値を5%刻みで60%までとしている。つまり、基準値100%は健常者が行った測定時間(秒)の平均値であり、基準値X%はAをX/100として、平均値×(1+(1-A))とした数値である。
図7は、図6の表1で示した年齢区分ごとの基準値%に対して、疾病に罹っていない健常者が検査で認知症であると鑑別されない割合、つまり、実際に測定した人数を基に健常者の特異度を算出した表2である。例えば、年齢区分75-79歳において、図6の表1による基準値100%、13.65秒より大きい測定時間であった被検者を認知症と鑑別すると、健常者154人を測定して57人は基準値100%、13.65秒より大きい測定時間となった。つまり、ICATによる健常者75-79歳での特異度は(154-57)/154で図7の表2における75-79歳の行、基準値100%の列に記載された63.0%となったことを示している。
この結果より、基準値100%で鑑別を行うと、被検者の年齢が高くなれば健常者に対する特異度が大きく低下、認知症では無いのに、認知症と鑑別される恐れが高まることが分かる。したがって、単に年齢区分ごとの健常者における測定時間の平均値を鑑別のための基準値、カットオフポイントとすると誤判定が多くなることが分かる。全体と表記した全年齢では基準値80%で鑑別を行うと特異度が92.1%である。
図8は、同じ健常者に実施したHDS−Rの20点以下を認知症の疑い、20点より大きい者を正常、検査が実施できなかったものを不可として、健常者の年齢区分別の人数および特異度を示した表3である。HDS−Rの検査者は、それぞれの検査のマニュアルに従いHDS−Rに関する採点教育を受けた作業療法士・理学療法士が行った。HDS−Rでは、全体と表記した全年齢では特異度が94.6%である。
図9は、図6で示した年齢区分ごとの基準値%に対して、図7と逆に、実際に疾病に罹っている者が検査で認知症であると鑑別される割合、つまり、実際に測定した人数を基に認知症者の敏感度を算出した表4である。例えば、年齢区分75-79歳において、図6の表1による基準値100%、13.65秒より大きい測定時間であった被検者を認知症と鑑別すると、認知症者98人を測定して92人は基準値100%、13.65秒より大きい測定時間となった。つまり、ICATによる認知症者75-79歳での敏感度は92/98で図7の表2における75-79歳の行、基準値100%の列に記載された93.9%となったことを示している。
この結果より、基準値を許容範囲が広がるように値を大きくした、例えば75-79歳での100%の基準値13.65に対して13.65×1.20=16.38とした基準値80%(図6の表1を参照)であっても、敏感度は図9の表4の75-79歳の行、基準値80%の列に記載された87.8%となったことを示している。全体と表記した全年齢では基準値80%で鑑別を行うと敏感度が82.2%である。
図10は、同じ認知症者に実施したHDS−Rの20点以下を認知症の疑い、20点より大きい者を正常、検査が実施できなかったものを不可として認知症者の年齢区分の人数および敏感度を示した表5である。HDS−Rでは、全体と表記した全年齢では敏感度が80.2%である。
上記のようにカットオフポイントを検討し、健常者の特異度、認知症者の敏感度の結果から、ICATのカットオフポイントを基準値80%とすることで、従来広く医療場面で用いられてきたHDS−Rの特異度94.6%,敏感度80.2%と同様にICATにおける特異度92.1%、敏感度82.2%と高い鑑別精度が得られることが分かった。また、ICATでは、基準値85〜75%とすれば実用的な精度が得られるので採用することができる。
なお、基準値80%は図6の表1より時間では、45-49歳において13.49秒、50-54歳において14.28秒、55-59歳において13.68秒、60-64歳において13.80秒、65-69歳において15.00秒、70-74歳において15.29秒、75-79歳において16.38秒、80-84歳において17.68秒、85-89歳において18.70秒、90-94歳において19.69秒、95-99歳において20.69秒、100歳以上において21.68秒である。
同様に、基準値85〜75%は、45-49歳において12.93〜14.05秒、50-54歳において13.69〜14.88秒、55-59歳において13.11〜14.25秒、60-64歳において13.23〜14.38秒、65-69歳において14.38〜15.63秒、70-74歳において14.65〜15.93秒、75-79歳において15.70〜17.06秒、80-84歳において16.94〜18.41秒、85-89歳において17.92〜19.48秒、90-94歳において18.87〜20.51秒、95-99歳において19.83〜21.55秒、100歳以上において20.78〜22.59秒である。
また、図6の表1において、基準値X%はAをX/100として、平均値×(1+(1-A))とした数値であるので、基準値80%は平均値×(1+(1-A))とし、Aを0.8とした数値である。さらに、基準値85〜75%は、Aを0.85〜0.75とした数値である。
さらに、検査実施率、総数-検査不可数/総数についてみると、健常者ではICAT、HDS−R共に100%、認知症者ではICATで100%であったが、HDS−Rでは検査実施率が98.6%であった。このことは、動作性検査であるICATは言語性検査のHDS−Rより幅広い対象者で使用できることを示している。
1 ペグ
1-1、1-2 磁石
2 穴
3 ボード本体
4 ディスプレイ
5 スタートボタン
6 磁気センサ
7 電源スイッチ
8 USBポート
9 電源コード
10 マイクロコンピュータ
20 データベース
100 検査器具

Claims (3)

  1. 棒状の複数のペグと、該ペグが着脱可能として穴に差し込まれたボード本体と、を検査器具とし、被検者が前記穴に差し込まれたペグを、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作を行う時間を計測し、年齢区分ごとに定めた基準値とを比較して認知症の鑑別を行う認知機能障害を検査するシステムにおいて、
    前記ペグの上下の向きを判別する判別手段と、
    前記年齢区分ごとに定めた前記基準値を記憶したデータベースと、
    前記被検者の年齢を入力することを促す入力促し手段と、
    前記被検者が複数の前記ペグのうちいずれかを引き抜いたことを検出して時間の計数を開始し、前記被検者が前記ペグの上下を逆にして差し込む返し動作をすべての前記ペグで行った時間を測定して測定時間として記憶する計測記憶手段と、
    前記データベースを参照して前記年齢に応じた前記基準値を取得し、前記測定時間と比較する比較手段と、
    前記測定時間が前記基準値よりも大きい場合、前記被検者を認知症であると鑑別する鑑別手段と、を備え
    前記ペグの本数を9本とし、前記基準値は、
    45-49歳において12.93〜14.05秒、
    50-54歳において13.69〜14.88秒、
    55-59歳において13.11〜14.25秒、
    60-64歳において13.23〜14.38秒、
    65-69歳において14.38〜15.63秒、
    70-74歳において14.65〜15.93秒、
    75-79歳において15.70〜17.06秒、
    80-84歳において16.94〜18.41秒、
    85-89歳において17.92〜19.48秒、
    90-94歳において18.87〜20.51秒、
    95-99歳において19.83〜21.55秒、
    100歳以上において20.78〜22.59秒、
    としたことを特徴とする認知機能障害を検査するシステム。
  2. 棒状の複数のペグと、該ペグが着脱可能として穴に差し込まれたボード本体と、を検査器具とし、被検者が前記穴に差し込まれたペグを、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作を行う時間を計測し、年齢区分ごとに定めた基準値とを比較して認知症の鑑別を行う認知機能障害を検査するシステムにおいて、
    前記ペグの上下の向きを判別する判別手段と、
    前記年齢区分ごとに定めた前記基準値を記憶したデータベースと、
    前記被検者の年齢を入力することを促す入力促し手段と、
    前記被検者が複数の前記ペグのうちいずれかを引き抜いたことを検出して時間の計数を開始し、前記被検者が前記ペグの上下を逆にして差し込む返し動作をすべての前記ペグで行った時間を測定して測定時間として記憶する計測記憶手段と、
    前記データベースを参照して前記年齢に応じた前記基準値を取得し、前記測定時間と比較する比較手段と、
    前記測定時間が前記基準値よりも大きい場合、前記被検者を認知症であると鑑別する鑑別手段と、を備え、
    前記ペグの本数を9本とし、前記基準値は、
    45-49歳において13.49秒、
    50-54歳において14.28秒、
    55-59歳において13.68秒、
    60-64歳において13.80秒、
    65-69歳において15.00秒、
    70-74歳において15.29秒、
    75-79歳において16.38秒、
    80-84歳において17.68秒、
    85-89歳において18.70秒、
    90-94歳において19.69秒、
    95-99歳において20.69秒、
    100歳以上において21.68秒、
    としたことを特徴とする認知機能障害を検査するシステム。
  3. 棒状の複数のペグと、該ペグが着脱可能として穴に差し込まれたボード本体と、を検査器具とし、被検者が前記穴に差し込まれたペグを、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作を行う時間を計測し、年齢区分ごとに定めた基準値とを比較して認知症の鑑別を行う認知機能障害を検査するシステムにおいて、
    前記ペグの上下の向きを判別する判別手段と、
    前記年齢区分ごとに定めた前記基準値を記憶したデータベースと、
    前記被検者の年齢を入力することを促す入力促し手段と、
    前記被検者が複数の前記ペグのうちいずれかを引き抜いたことを検出して時間の計数を開始し、前記被検者が前記ペグの上下を逆にして差し込む返し動作をすべての前記ペグで行った時間を測定して測定時間として記憶する計測記憶手段と、
    前記データベースを参照して前記年齢に応じた前記基準値を取得し、前記測定時間と比較する比較手段と、
    前記測定時間が前記基準値よりも大きい場合、前記被検者を認知症であると鑑別する鑑別手段と、を備え、
    前記ペグは、上端と下端とで磁極が反対となるように磁石が埋め込まれており
    前記判別手段は、前記穴の底部に設けられた磁気センサと、前記磁気センサからの信号によって前記ペグの上下の向きを判別するマイクロコンピュータとであることを特徴とする認知機能障害を検査するシステム。
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