JP6327920B2 - 粉体ないしは粒子の集まりを連続して加熱処理する加熱処理装置 - Google Patents
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Description
また、特許文献2には、加熱処理する装置内に燃焼排ガスを導入し、燃焼排ガスによって粉体を浮遊させるとともに加熱させて熱変成させる製造装置が記載されている。
ところで、粉体ないしは粒子について、特定した昇温速度を持って、特定した温度に昇温する加熱処理ができれば、粉体ないしは粒子の汎用的な加熱処理方法になる。しかしながら、粉体ないしは粒子は微細な物質であるとともに粒度分布を持つため、粉体ないしは粒子の加熱にあたっては温度むらが発生しやすい。また、大量の粉体ないしは粒子を加熱処理することができれば、加熱処理費用が安価で済む。従って、大量の粉体ないしは粒子が、温度むらが発生することなく、特定した昇温速度を持って、特定した温度に昇温される、粉体ないしは粒子の加熱処理に係わる汎用的な加熱処理方法が求められている。
しかしながら、粉体ないしは粒子を、特定した昇温速度を持って、特定した温度に昇温するには困難を伴う。すなわち、大きな熱エネルギーを粉体ないしは粒子に与えれば昇温速度が速まるが、昇温速度が速いほど昇温する温度を制御するのが困難になる。これに対し、昇温速度が遅いほど、昇温する温度を制御することが容易になるが、例えば、前記した液状物質を短時間で排除できなくなるような事態が発生する。また、粉体ないしは粒子の加熱処理費用を低減するため、加熱処理装置の容積を拡大すると、装置内の温度偏差が増大し、粉体ないしは粒子の温度むらが増大する。
このため、第一に、大量の粉体ないしは粒子が加熱処理できる。第二に、粉体ないしは粒子に温度むらが発生しない。第三に、粉体ないしは粒子の昇温速度が制御できる。第四に、粉体ないしは粒子の昇温温度が制御できる。これらの4つの要件を兼備した加熱処理装置は、粉体ないしは粒子に対し、特定した昇温速度を持って、特定した温度に昇温する加熱処理が可能になり、粉体ないしは粒子の加熱処理に係わる汎用的な加熱処理方法になる。本発明における解決しようとする課題は、これら4つの要件を兼備して、粉体ないしは粒子の集まりを連続して加熱処理する加熱処理装置を実現することにある。
本発明の加熱処理装置における粉体ないしは粒子が移動する移動手段は、ヘリカル状やスパイラル状などの3次元曲線からなる通路とし、通路が形成するエリアの一部に加熱手段である複数の電磁波発生源を配置したため、電磁波の集まりが粉体ないしは粒子に照射できる領域が確保できる。さらに、この通路に粉体ないしは粒子の集まりが、気体と共に移動する構成とし、気体の流速を変えると、粉体ないしは粒子の加熱時間が変えられ、これによって、粉体ないしは粒子の昇温速度と昇温温度が大きく変わる。なお、通路に導入される気体は、大気や窒素ガスや水素ガスなどの様々な気体が選択できる。また、複数の電磁波発生源からの電磁波の集まりが、空間的な広がりを持って、移動する粉体ないしは粒子に均等に常時照射されるため、粉体ないしは粒子における温度むらは発生せず、同一の加熱処理条件で大量の粉体ないしは粒子が処理時間の経過とともに加熱処理される。
また、本発明の加熱処理装置における粉体ないしは粒子を加熱する加熱手段は、複数個の電磁波発生源から構成し、さらに、個々の電磁波発生源の出力の大きさが変えられる構成としたため、複数個の電磁波発生源の出力の大きさの組み合わせと、複数個の電磁波発生源の配置位置の組み合わせとが変えられる。従って、電磁波発生源の出力の大きさの可変幅と、出力の大きさの組み合わせと、電磁波発生源の配置位置の組み合わせからなる3つの条件に応じて、粉体ないしは粒子の昇温速度と昇温温度が大きく変わる。これによって、前記した移動手段のみならず加熱手段についても、粉体ないしは粒子の昇温速度と昇温温度とが大きく変えることができる構成とした。
従って、粉体ないしは粒子の移動速度の条件と、個々の電磁波発生源からの出力の大きさの組み合わせの条件と、複数個の電磁波発生源の配置位置の条件とから3つの条件を変えることで、粉体ないしは粒子の集まりが、予め特定した昇温速度を持って、予め特定した温度に昇温される。この結果、予め決めた同一の加熱処理条件で加熱処理された粉体ないしは粒子の集まりが、処理時間の経過とともに大量に製造される。
以上に説明したように、粉体ないしは粒子の集まりを、気体と共に3次元曲線からなる通路を移動させ、気体の流速を変えて粉体ないしは粒子が加熱手段を通過する移動速度を変え、これによって、粉体ないしは粒子の加熱時間が変えられ、粉体ないしは粒子の昇温速度と昇温温度とを制御することが可能になる。さらに、加熱手段を複数個の電磁波発生源から構成し、個々の電磁波発生源の出力を変えるため、電磁波出力の可変幅と出力の組み合わせと配置位置の組み合わせとに応じて、粉体ないしは粒子の昇温速度と昇温温度とを制御することが可能になる。従って、本発明の加熱処理装置は5段落で説明した4つの要件を兼備する加熱処理装置であり、特定された昇温速度を持って、特定した温度に昇温される条件で、大量の粉体ないしは粒子が連続して加熱処理される汎用的な加熱処理装置である。
このため、粉体ないしは粒子が3次元曲線の通路を移動する移動速度を変え、複数個からなる近赤外線ランプにおいては、近赤外線ランプのフィラメント温度の組み合わせを変え、さらに、複数個からなる近赤外線ランプの配置位置を変えると、粉体ないしは粒子が予め決めた昇温速度を持って、予め決めた温度に昇温され、粉体ないしは粒子の表面が微粒子の集まりで覆われる。
次に、13段落に記載した加熱処理装置を用い、13段落に記載したカルボン酸金属化合物が吸着した粉体ないしは粒子を熱処理する方法によって、オクチル酸銅が吸着した鱗片状黒鉛粒子の集まりを熱処理する。なお、加熱処理装置は、鱗片状黒鉛粒子が浮遊状態で連続して移動する通路が、ホウケイ酸ガラスによってスパイラル状のチューブに形成されている。また、近赤外線ランプは、スパイラルチューブから一定の距離を置いて、スパイラルチューブの中心軸に直交する平面に平行になるように、複数個の近赤外線ランプを等間隔で配置する。さらに、スパイラルチューブに、一定の速度からなる大気を導入し、この大気に一定の割合でオクチル酸銅が吸着した鱗片状黒鉛粒子を連続して投入する。
この後、複数個の近赤外線ランプについて、各々の近赤外線ランプの出力を調整し、オクチル酸銅を熱分解し、鱗片状黒鉛粒子の表面が銅微粒子の集まりで覆われた熱処理を鱗片状黒鉛粒子に施す。
次に、13段落に記載した加熱処理装置を用い、13段落に記載したカルボン酸金属化合物が吸着した粉体ないしは粒子を熱処理する方法によって、ナフテン酸鉄が吸着した鉄粉の集まりを熱処理する。なお、加熱処理装置は15段落で記載した加熱装置と同様で、鉄粉が浮遊状態で連続して移動する通路が、ホウケイ酸ガラスによってスパイラル状のチューブに形成されている。また、近赤外線ランプはスパイラルチューブから一定の距離を置いて、スパイラルチューブの中心軸に直交する平面に平行になるように、複数個の近赤外線ランプを等間隔で配置する。さらに、スパイラルチューブに、一定の速度からなる大気を導入し、この大気に一定の割合でナフテン酸鉄が吸着した鉄粉を連続して投入する。
この後、複数個の近赤外線ランプについて、各々の近赤外線ランプの出力を調整し、ナフテン酸鉄を熱分解し、点分の表面が酸化鉄FeOの微粒子の集まりで覆われた熱処理を鉄粉に施す。
本実施形態は、近赤外線ランプに関する実施形態である。最初に、赤外線ランプの原理である黒体輻射を説明する。つまり、赤外線ランプの熱エネルギーの90%近くが赤外線の放射に変換されるため、黒体輻射に関する原理が赤外線ランプに当てはまる。
黒体の絶対温度、つまり、赤外線ランプのフィラメントの絶対温度に相当する温度をTとし、黒体から放射される輻射の波長と放射強度、つまり、赤外線ランプから放射される赤外線の波長λと放射強度Esとの間には、数1で示されるプランクの法則が成り立つ。なお、C1は定数で3.74×10−16(W/m2)で、C2も定数で1.44×10−2(mK)である。また、黒体から輻射される中心波長、つまり、赤外線ランプから放射される赤外線の中心波長λmaxは、数2で示されるウィーンの法則が成り立つ。さらに、数1におけるプランクの法則を全波長範囲にわたって積分すると、黒体から輻射される全輻射エネルギー、つまり、赤外線ランプから放射される全放射エネルギーに相当する全輻射エネルギーEは数3で示すステファン・ボルツマンの法則が成り立つ。なお、σは定数で5.67×10−8(W/m2K4)である。
数2 λmaX・T=2898(μmK)
数3 E=σ・T4(W/m2)
本実施形態は、粉体ないしは粒子の表面にカルボン酸金属化合物を吸着させ、この粉体ないしは粒子を加熱処理することで、粉体ないしは粒子の表面が、金属微粒子で覆われるカルボン酸金属化合物の加熱処理条件に係わる実施形態である。以下の説明では、銅微粒子の原料となるカルボン酸銅化合物の加熱処理条件について説明する。
カルボン酸銅化合物を構成するイオンの中で、最も大きいイオンは銅イオンである。従って、カルボン酸銅化合物におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが、銅イオンと共有結合すれば、銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの距離が最も長い。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸銅化合物を昇温させると、カルボン酸の沸点において、カルボン酸と分子クラスター状の銅とに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成されれば、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に銅が析出する。また、カルボン酸銅は合成が容易で、安価な有機銅化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させると、カルボン酸アルカリ金属が生成される。このカルボン酸アルカリ金属を、硫酸銅などの無機銅化合物と反応させると、カルボン酸銅が生成される。
カルボン酸銅の組成式は、RCOO−Cu−COORで表わせられる。Rは炭化水素であり、組成式はCmHnである(ここでmとnとは整数)。カルボン酸銅を構成する物質の中で、組成式の中央に存在する銅イオンCu2+が最も大きい物質になる。従って、銅イオンCu2+とカルボキシル基を構成する酸素イオンO−とが共有結合する場合は、銅イオンCu2+と酸素イオンO−との距離が最大になる。この理由は、銅イオンCu2+の共有結合半径は112pmであり、酸素イオンO−の共有結合半径は63pmであり、炭素原子の共有結合半径は75pmであり、酸素原子の共有結合半径は57pmであることによる。このため、銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとが共有結合するカルボン酸銅は、カルボン酸の沸点において、結合距離が最も長い銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に切断され、分子クラスター状の銅とカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸であれば、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に銅が析出する。こうしたカルボン酸銅として、オクチル酸銅、ラウリン酸銅、ステアリン酸銅などがある。
さらに、飽和脂肪酸の沸点が相対的に低ければ、カルボン酸銅は相対的に低い温度で熱分解し、粉体ないしは粒子の加熱処理費用が安価で済む。飽和脂肪酸を構成する炭化水素が長鎖構造である場合は、長鎖が長いほど、つまり、飽和脂肪酸の分子量が大きいほど、飽和脂肪酸の沸点が高くなる。ちなみに、分子量が200.3であるラウリン酸の大気圧での沸点は296℃であり、分子量が284.5であるステアリン酸の大気圧での沸点は361℃である。従って、飽和脂肪酸の分子量が相対的に小さい飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅は、熱分解温度が相対的に低くなるので、銅微粒子の原料として望ましい。
さらに、飽和脂肪酸が分岐鎖構造を有する場合は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短いため、沸点がさらに低くなる。このため、カルボン酸銅もさらに低い温度で熱分解する。また、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は極性を持つため、カルボン酸銅も極性を持ち、アルコールなどの極性を持つ有機溶剤に相対的に高い割合で分散する。このため、カルボン酸銅のアルコール分散液に粉体ないしは粒子の集まりを投入し、アルコールを気化すれば、粉体ないしは粒子の表面がカルボン酸銅で覆われる。このようなカルボン酸銅としてオクチル酸銅がある。すなわち、オクチル酸は構造式がCH3(CH2)3CH(C2H5)COOHで示され、CHでCH3(CH2)3とC2H5とのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。オクチル酸の大気圧での沸点は228℃であり、前記したラウリン酸より沸点が68℃低い。このため、銅微粒子の原料として、熱分解温度が低いオクチル酸銅が望ましい。オクチル酸銅は、メタノールやn−ブタノールなどに10重量%まで分散する。
以上に説明したオクチル酸銅の熱分解現象から、オクチル酸銅を吸着させた粉体ないしは粒子を大気雰囲気で加熱処理し、銅微粒子の集まりで覆うには、1分以内で330℃付近まで昇温させ、350℃を超えてはならない加熱処理条件が必要になる。このため、粉体ないしは粒子の集まりが3次元曲線からなる通路を移動する移動速度を変え、複数個の近赤外線ランプのフィラメント温度の組み合わせと近赤外線ランプの配置位置を変えることで、前記した加熱処理条件を実現させることが求められる。この加熱処理条件は、粉体ないしは粒子の赤外線の吸収率に依存するため、実施例で具体的な加熱条件を説明する。なお、オクチル酸銅について説明したが、他のオクチル酸金属化合物についても、オクチル酸銅と同様の加熱処理条件が必要になる。
本実施形態は、粉体ないしは粒子の表面にカルボン酸金属化合物を吸着させ、粉体ないしは粒子を加熱処理することで、粉体ないしは粒子の表面が、金属酸化物微粒子で覆われるカルボン酸金属化合物の加熱処理条件に係わる実施形態である。以下の説明では、熱分解で酸化鉄FeOを析出するカルボン酸鉄化合物の加熱処理条件について説明する。
カルボン酸鉄化合物の熱分解で析出した酸化鉄FeOを大気中で昇温すると、酸化鉄FeOを構成する2価の鉄イオンFe2+の一部が酸化して、三価の鉄イオンFe3+になり、FeO・Fe2O3の組成式で表さられるマグネタイトFe3O4になる。このマグネタイトFe3O4は、強磁性で導電性の酸化物である。さらに大気中で昇温すると、2価の鉄イオンFe2+の全てが酸化されて三価の鉄イオンFe3+になり、酸化鉄Fe2O3のγ相であるマグへマイトγ−Fe2O3になる。このマグへマイトγ−Fe2O3は、強磁性で絶縁性の酸化物である。従って、熱分解によって酸化鉄FeOを析出するカルボン酸鉄化合物を、強磁性の性質を持つ粉体ないしは粒子の表面に吸着させ、この粉体ないしは粒子を加熱処理すると、粉体ないしは粒子の表面は、マグネタイトないしはマグヘマイトの微粒子の集まりが磁気吸着し、粉体ないしは粒子は、新たにマグネタイトないしはマグヘマイトの性質を持つ。
カルボン酸鉄化合物を構成する物質の中で、最も大きい共有結合半径を持つ物質は鉄イオンFe2+である。いっぽう、鉄イオンFe2+とカルボキシル基を構成する酸素イオンO−とが共有結合するカルボン酸鉄化合物は、鉄イオンと酸素イオンとの距離が最大になるため、19段落で説明したように熱分解によって鉄を析出する。従って、熱分解によって酸化鉄FeOを析出するカルボン酸鉄化合物は、鉄イオンFe2+と結合する酸素イオンO−との距離が短く、酸素イオンO−が鉄イオンFe2+の反対側で結合するイオンと結合する距離が長い分子構造上の特徴を持つ必要がある。つまり、カルボン酸鉄化合物の熱分解が始まると、酸素イオンO−が鉄イオンFe2+の反対側で結合するイオンと結合する部位が最初に切れ、鉄イオンと結合した酸素イオン、つまり、酸化鉄FeOと有機酸とに分解する。このような分子構造上の特徴を持つカルボン酸鉄化合物として、カルボキシル基を構成する酸素イオンO−が配位子になって鉄イオンFe2+に近づいて配位結合するカルボン酸鉄化合物があり、酢酸鉄、カプリル酸鉄、安息香酸鉄、ナフテン酸鉄などが挙げられる。なお、酢酸鉄とカプリル酸鉄と安息香酸鉄とは、酸素イオンが鉄イオンに近づいて配位結合して、複核錯塩を形成するが、熱分解の途上においては不安定な物質であるため取り扱いが難しい。従って、酸化鉄FeOを析出するカルボン酸鉄としては、ナフテン酸鉄が望ましい。さらに、ナフテン酸鉄はn−ブタノールに対して10重量%近くまで分散する。また、カルボン酸金属化合物は、19段落で説明したように合成が容易で、有機酸の沸点が低いため熱分解温度が比較的低い。このため、カルボキシル基を構成する酸素イオンが、配位子となって金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物は、安価な化学薬品であり、熱処理費用も安価で済む。
以上に説明したナフテン酸鉄の熱分解現象から、ナフテン酸鉄を吸着させた粉体ないしは粒子の集まりを大気雰囲気で加熱処理し、酸化鉄FeOの微粒子の集まりで覆うには、90秒以内で330℃付近まで昇温させる加熱処理条件が必要になる。このため、粉体ないしは粒子の集まりが3次元曲線からなる通路を移動する移動速度を変え、複数個の近赤外線ランプのフィラメント温度の組み合わせと複数個の近赤外線ランプの配置位置の組み合わせを変えることで、前記した加熱処理条件を実現させることが求められる。この加熱処理条件は、粉体ないしは粒子の赤外線の吸収率に依存するため、実施例で具体的な加熱条件を説明する。なお、ナフテン酸鉄の熱処理について説明したが、他のナフテン酸金属化合物についても、ナフテン酸鉄と同様の加熱処理条件が必要になる。
本実施例では、鱗片状黒鉛粒子の表面に銅微粒子の集まりを析出させ、析出した銅微粒子の多層構造で覆われた鱗片状黒鉛粒子を製造する。これによって、鱗片状黒鉛粒子の表面は等電位面を形成し、新規な性質を持つ金属黒鉛質ブラシの原料になる。本実施例では、鱗片状黒鉛粒子(鱗状黒鉛粒子ともいう)として日本黒鉛株式会社が製造するCB黒鉛を用いた。銅微粒子の原料として、オクチル酸銅(例えば、三津和薬品工業株式会社の製品)を用いた。n−ブタノールは試薬1級品を用いた。なお、黒鉛粒子は赤外線の吸収率が0.85と大きく、短時間の赤外線照射で自己発熱する。
銅微粒子の集まりで覆われた黒鉛粒子を製造する製作工程を説明する。最初に、オクチル酸銅の5モルを20リットルのn−ブタノールに分散する。この分散液を容器に入れ、鱗片状黒鉛粒子1kgを投入して撹拌する。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収する。こうして、オクチル酸銅が吸着した黒鉛粒子の集まり(以下では処理黒鉛粒子という)を製造した。さらに、処理黒鉛粒子の集まりを、次に説明する加熱処理装置を用いてオクチル酸銅を熱分解し、銅微粒子の集まりで覆われた黒鉛粒子を製造することに適切な加熱処理条件を導いた。
図1に、前記した加熱装置における近赤外線ランプが配置された箇所を模式的に示す。スパイラルチューブ1は、中心軸が鉛直方向と直交するように配置され、その外側に40mmの距離を置いて近赤外線ランプ20−29が16mmの間隔で10個が配置される。さらに、スパイラルチューブ1には、26mm/秒の速度を持つ大気3が導入され、この大気に10g/秒の割合で処理黒鉛粒子4を連続投入した。また、近赤外線ランプの外側に円筒形状のリフレクター5を配置した。
このような構成からなる加熱装置において、一つの加熱処理条件において、200g程度の処理黒鉛粒子を連続投入し、また、10個の近赤外線ランプの出力については、最大出力に対する割合として各々のランプ出力を変え、10個の近赤外線ランプからの近赤外線の集まりを処理黒鉛粒子の集まりに常時照射し、オクチル酸銅を熱分解した。なお、オクチル酸銅の熱分解の結果は、加熱処理した処理黒鉛粒子の表面を電子顕微鏡で観察し、表面状態から加熱処理条件の適否を判断した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社が所有する極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を持つ。また、反射電子線の1kVから900Vの間にあるエネルギーを抽出し、これを画像として映し出し、画像の濃淡から物質の材質の違いが分かる。これによって、オクチル酸銅の熱分解の状況が判断できる。また、反射電子線の1kVから900Vの間にある2次電子線を取り出し、これを画像として映し出すことで表面の凹凸状態が分かる。これによって、生成された銅微粒子の状況が分かる。加熱処理の条件を表1に示す。
条件1 条件2 条件3 条件4
ランプ1 出力10% 出力10% 出力20% 出力20%
ランプ2 出力10% 出力20% 出力30% 出力30%
ランプ3 出力20% 出力20% 出力30% 出力30%
ランプ4 出力20% 出力30% 出力30% 出力30%
ランプ5 出力30% 出力30% 出力30% 出力30%
ランプ6 出力30% 出力30% 出力30% 出力30%
ランプ7 出力30% 出力30% 出力20% 出力10%
ランプ8 出力20% 出力20% 出力10% 出力10%
ランプ9 出力20% 出力20% 出力10% 出力 0%
ランプ10 出力10% 出力10% 出力10% 出力 0%
以上の結果から、鱗片状黒鉛粒子を銅微粒子の集まりで覆うには、条件4における近赤外線ランプ駆動条件が適切である。従って、条件4によって加熱処理された黒鉛粒子は、1分以内で330℃付近まで昇温され、昇温温度は350℃を超えていない。
実施例1で製造した銅微粒子の集まりで覆われた黒鉛粒子は、銅微粒子の集まりが等電位面を形成する。さらに、黒鉛粒子の電気抵抗は、銅の電気抵抗に近づく。このため、実施例1で製造した銅微粒子の集まりで覆われた黒鉛粒子は、火花放電が起こらず、電気ノイズが発生せず、黒鉛粒子の摩耗量が激減する新たな金属黒鉛質ブラシの原料になる。
本実施例は、ナフテン酸鉄を吸着させた鉄粉を大気雰囲気で加熱処理し、鉄粉を酸化鉄FeOの微粒子の集まりで覆う。さらに、大気雰囲気で加熱処理し、酸化鉄FeOをマグヘマイトγ−Fe2O3に酸化し、鉄粉に磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まりで、鉄粉の表面を絶縁化させる実施例である。なお、マグヘマイトは酸化鉄Fe2O3のγ相であり、電気絶縁性で自発磁化を持つ。本実施例における鉄粉は、株式会社神戸製鋼所が製造するアトマイズ純鉄粉であるアトメル300NHを用いた。アトメル300NHは、マンガン、リン、イオウの含有量が極めて微量のアトマイズ純鉄粉であり、純度が高いため磁気特性に優れ、粉の形状から圧縮性に優れる。また、アトマイズ純鉄粉は光沢のあるねずみ色で、近赤外線の吸収率は0.35であり、前記した黒鉛粒子より近赤外線の吸収率は低い。なお、ナフテン酸鉄は、金属石鹸として市販されているもの(例えば、東栄化工株式会社の製品)を用いた。また、n−ブタノールは試薬1級品を用いた。
ここで、鉄粉を酸化鉄FeOの微粒子の集まりで覆う製造工程を説明する。最初に、ナフテン酸鉄の1モルを5リットルのn−ブタノールに分散した。この分散液を容器に入れアトマイズ純鉄粉3kgを投入して撹拌した。容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。こうして、ナフテン酸鉄が吸着した鉄粉の集まり(以下では処理鉄粉という)を製造した。さらに、次に説明する加熱処理装置を用いてナフテン酸鉄を熱分解し、鉄粉を酸化鉄FeOの微粒子の集まりで覆う加熱処理条件を導いた。
条件1 条件2 条件3 条件4
ランプ1 出力10% 出力20% 出力20% 出力20%
ランプ2 出力20% 出力30% 出力30% 出力30%
ランプ3 出力30% 出力30% 出力40% 出力40%
ランプ4 出力30% 出力40% 出力40% 出力40%
ランプ5 出力30% 出力40% 出力40% 出力40%
ランプ6 出力30% 出力30% 出力40% 出力40%
ランプ7 出力30% 出力30% 出力20% 出力20%
ランプ8 出力20% 出力20% 出力10% 出力10%
ランプ9 出力20% 出力10% 出力10% 出力 0%
ランプ10 出力10% 出力10% 出力10% 出力 0%
以上の結果から、鉄粉を銅微粒子の集まりで覆うには条件4が適切であり、条件4で加熱処理された鉄粉は、90秒以内で330℃付近まで昇温されている。
第一に、マグヘマイトは比抵抗が106Ωmの絶縁物質であるため、マグヘマイト微粒子で覆われた扁平鉄粉は絶縁体になる。ちなみに、鉄の比抵抗は10−7Ωmであり、鉄粉の渦電流損失は比抵抗に反比例するので、絶縁化された鉄粉の渦電流損失は著しく小さくなる。
第二に、マグヘマイトは自発磁化を有するため鉄粉に磁気吸着し、鉄粉の圧縮成形時に過大な圧力を加えても、磁気吸着したマグへマイト微粒子は、微粒子であるがゆえに鉄粉から剥がれない。これによって、成形後の鉄粉の絶縁性が保たれる。また、絶縁層を形成するための鉄粉の前処理は一切不要になる。
第三に、450℃近辺でヘマタイトに相転移する。このため、450℃以上の温度で成形体の磁気焼鈍を実施すると、マグへマイトはヘマタイトに相転移する。なお、この相転移は不可逆変化である。ヘマタイトは107Ωmの比抵抗を持つ物質であり、焼鈍によって鉄粉の絶縁性がさらに一桁向上し、渦電流損失はさらに低減する。また、ヘマタイトは安定した酸化物、つまり、不動態であり、融点の1566℃に近い耐熱性を有する。このため、一般的に行われている600℃以上の磁気焼鈍によってもヘマタイトの性質は変わらない。また、焼鈍時に鉄粉との界面における拡散現象が起らず、鉄粉の変質が起こらない。ちなみに鉄の融点は1535℃である。なお、ヘマタイトは化学式がα−Fe2O3で表され、酸化鉄Fe2O3のα相であり、弱強磁性の性質を持ち、磁気キュリー点が950℃である。
第四に、モース硬度が5.5であり、鉄ないしは鉄系の合金より硬い物質である。このため、圧縮成形時に加圧力が加えられてもマグへマイト微粒子は破壊されない。つまり、圧縮成形時において、マグへマイト微粒子は磁気吸着した状態を維持し、この状態でマグへマイトより硬度が小さい鉄粉が優先して塑性変形する。この結果、鉄粉同士が絡み合って鉄粉同士が結合する。この際、鉄粉の表面はマグへマイト微粒子によって絶縁性が維持され、成形体の密度の増大によって、圧粉磁心の磁束密度と機械的強度とが増大する。
Claims (6)
- 粉体ないしは粒子の集まりを連続して加熱処理する加熱処理装置は、粉体ないしは粒子の集まりを浮遊状態で移動させる移動手段と、該移動する粉体ないしは粒子の集まりを連続して加熱する加熱手段とからなる加熱処理装置であり、前記移動手段を、粉体ないしは粒子の集まりが、スパイラル状の3次元曲線からなる通路を連続して移動する第一の特徴と、該通路が形成するエリアに前記加熱手段を配置した第二の特徴と、該通路に気体の流れが導入される第三の特徴と、該導入される気体の流速が変えられる第四の特徴とからなる4つの特徴を兼備する移動手段とすることで、前記加熱手段によって前記粉体ないしは粒子の集まりが昇温される速度と昇温される温度との双方が変えられる移動手段であり、前記加熱手段を、複数個の電磁波発生源から構成される第一の特徴と、該電磁波発生源は出力レベルが変えられる第二の特徴と、該電磁波発生源は、前記粉体ないしは粒子の集まりが通過する前記通路への配置位置が変えられる第三の特徴と、前記複数個の電磁波発生源からの電磁波の集まりが、前記通路を連続して移動する粉体ないしは粒子の集まりに常時照射される第四の特徴とからなる4つの特徴を兼備する加熱手段とすることで、前記複数の電磁波発生源によって前記粉体ないしは粒子の集まりが昇温される速度と昇温される温度との双方が変えられる加熱手段であり、前記4つの特徴を兼備する移動手段と、前記4つの特徴を兼備する加熱手段とから構成されることを特徴とする、粉体ないしは粒子の集まりを連続して加熱処理する加熱処理装置。
- 請求項1における加熱処理装置を構成する電磁波発生源が、近赤外線を発生する近赤外線ランプからなる電磁波発生源であることを特徴とする、請求項1に記載した粉体ないしは粒子の集まりを連続して加熱処理する加熱処理装置。
- 請求項1における加熱処理装置を構成する粉体ないしは粒子の集まりが浮遊状態で連続して移動する通路が、ホウケイ酸ガラスで構成される通路であることを特徴とする、請求項1に記載した粉体ないしは粒子の集まりを連続して加熱処理する加熱処理装置。
- 請求項1における連続して加熱処理される粉体ないしは粒子が、カルボン酸金属化合物が吸着した粉体ないしは粒子であり、請求項1における粉体ないしは粒子を連続して加熱する手段が、フィラメント温度が異なる複数個からなる近赤外線ランプであり、該粉体ないしは該粒子の集まりを大気が導入される通路で、前記複数個の近赤外線ランプを稼働させ、該粉体ないしは該粒子の集まりを連続して加熱処理する、これによって、該粉体ないしは該粒子の表面が金属微粒子ないしは金属酸化物微粒子で覆われる熱処理が該粉体ないしは該粒子に連続してなされることを特徴とする、請求項1に記載した連続して加熱処理する加熱処理装置を用いた粉体ないしは粒子の加熱処理方法。
- 請求項4における加熱処理する粒子が、オクチル酸銅が吸着した鱗片状黒鉛粒子であり、該鱗片状黒鉛粒子の集まりを、請求項4に記載した加熱処理方法によって加熱処理する、これによって、前記鱗片状黒鉛粒子の表面が銅微粒子の集まりで覆われる熱処理が連続してなされることを特徴とする、請求項4に記載した加熱処理方法によって加熱処理する粒子の加熱処理方法。
- 請求項4における加熱処理する粉体が、ナフテン酸鉄が吸着した鉄粉であり、該鉄粉の集まりを、請求項4に記載した加熱処理方法によって加熱処理する、これによって、前記鉄粉の表面が酸化鉄FeOの微粒子の集まりで覆われる熱処理が連続してなされることを特徴とする、請求項4に記載した加熱処理方法によって加熱処理する粉体の加熱処理方法。
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