JP6324754B2 - レーザー加工装置、レーザー加工方法、及び加工物の製造方法 - Google Patents

レーザー加工装置、レーザー加工方法、及び加工物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、被加工物にレーザー光を照射して被加工物を加工するレーザー加工装置、レーザー加工方法、及び加工物の製造方法に関する。
近年、フェムト秒レーザーは、様々な微細加工に利用されている。フェムト秒レーザー加工は、熱拡散を伴わない非熱的加工であるため、熱拡散を伴うレーザー加工と比べて、加工特性が優れているからである。
例えば、非特許文献1は、フェムト秒レーザーを銅の表面に照射して、銅の表面に微細周期構造を形成した例を開示する。例えば、フェムト秒レーザーによって摺動部品に微細周期構造を形成して摩擦を低減できる。また、非特許文献1は、フェムト秒レーザーを金に照射して、金に微細穴開け加工を実行した例を開示する。さらに、非特許文献2は、フェムト秒レーザーを透明材料に照射し、多光子吸収を誘引することによって多層構造を形成する例を開示する。
藤田雅之、橋田昌樹、「フェムト秒レーザー加工」、Journal of Plasma and Fusion Research、2005年、Vol.81、p.195−201 三澤弘明、「多光子吸収による3次元フォトニック結晶の作製」、表面科学、2001年、Vol.22、No.11、p.729−734
しかしながら、科学技術の発展に伴い、レーザーによる、さらなる加工特性の向上が求められる。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、加工特性の向上を図ることができるレーザー加工装置、レーザー加工方法、及び加工物の製造方法を提供することにある。
本発明の第1の観点によれば、レーザー加工装置は、被加工物にレーザー光を照射して前記被加工物を加工する。レーザー加工装置は、レーザー手段と、加工手段とを備える。レーザー手段は、パルストレインを含む前記レーザー光を生成する。加工手段は、前記パルストレインを前記被加工物に照射する。前記パルストレインは、複数のパルスを含む。前記複数のパルスは、前記被加工物において励起される格子振動の周期のオーダーのパルス間隔を有する。
本発明のレーザー加工装置において、前記加工手段は、前記パルストレインの前記複数のパルスのうち最初のパルスによりコヒーレントフォノンを励起することが好ましい。前記パルス間隔は、前記コヒーレントフォノンの周期のオーダーであることが好ましい。
本発明のレーザー加工装置において、前記レーザー手段は、前記パルス間隔が前記コヒーレントフォノンの周期の整数倍になるように前記パルストレインを生成することが好ましい。
本発明のレーザー加工装置において、前記レーザー手段は、前記パルス間隔が前記コヒーレントフォノンの半周期の奇数倍になるように前記パルストレインを生成することが好ましい。
本発明のレーザー加工装置において、前記レーザー手段は、レーザー部と、波形整形部とを含むことが好ましい。レーザー部は、パルス幅がフェムト秒のオーダーであるシングルパルスを生成することが好ましい。波形整形部は、前記シングルパルスの波形を整形して、前記パルストレインを生成することが好ましい。前記波形整形部は、位相変調手段を含むことが好ましい。位相変調手段は、入力された位相パターンに従って、前記シングルパルスをフーリエ変換して得られた複数の周波数成分に対して位相変調を実行することが好ましい。前記位相パターンは、複数の周期的なパターンを含むことが好ましい。前記複数の周期的なパターンは互いに異なっていることが好ましい。
本発明のレーザー加工装置において、前記位相パターンは、前記各周波数成分に対して分散補償を行うパターンを含むことが好ましい。
本発明のレーザー加工装置は、波形測定手段をさらに備えることが好ましい。波形測定手段は、前記レーザー手段が生成した前記パルストレインの波形を測定することが好ましい。
本発明のレーザー加工装置は、格子振動検出手段をさらに備えることが好ましい。格子振動検出手段は、前記被加工物において励起された前記格子振動を検出することが好ましい。
本発明のレーザー加工装置において、前記加工手段は、前記複数のパルスによって起こる光絶縁破壊によるエネルギー伝達を実行することが好ましい。
本発明のレーザー加工装置において、前記加工手段は、前記複数のパルスのうちの第1パルスを前記被加工物に照射して、格子振動を励起し、前記格子振動が励起されている時に、前記複数のパルスのうち前記第1パルスに後続する第2パルスを前記被加工物に照射することが好ましい。前記第2パルスは、前記第2パルスが照射される前よりも高い振動数の帯域で前記被加工物の電子を振動させ、光絶縁破壊によって前記高い振動数の帯域で振動する電子に光エネルギーを伝達することが好ましい。前記光エネルギーが伝達された電子の振動エネルギーは、前記励起された格子振動の振動エネルギーに変換されることが好ましい。
本発明の第2の観点によれば、レーザー加工方法は、被加工物にレーザー光を照射して前記被加工物を加工する。レーザー加工方法は、パルストレインを含む前記レーザー光を生成する工程と、前記パルストレインを前記被加工物に照射する工程とを含む。前記パルストレインは、複数のパルスを含む。前記複数のパルスは、前記被加工物において励起される格子振動の周期のオーダーのパルス間隔を有する。
本発明のレーザー加工方法において、前記照射する工程は、前記複数のパルスのうちの第1パルスを前記被加工物に照射して、格子振動を励起する工程と、前記格子振動が励起されている時に、前記複数のパルスのうち前記第1パルスに後続する第2パルスを前記被加工物に照射する工程と、前記第2パルスによって、前記第2パルスが照射される前よりも高い振動数の帯域で前記被加工物の電子を振動させる工程と、前記第2パルスによって光絶縁破壊を起こし、前記高い振動数の帯域で振動する電子に前記第2パルスの光エネルギーを伝達する工程と、前記光エネルギーが伝達された電子の振動エネルギーを前記励起された格子振動の振動エネルギーに変換する工程とを含むことが好ましい。
本発明のレーザー加工方法において、前記励起する工程は、各々が前記被加工物の格子定数で規定される複数の異なる振動数から選択された振動数で調和振動を行うように前記格子振動を励起することが好ましい。
本発明の第3の観点によれば、レーザー加工方法は、被加工物に複数のパルスを含むレーザー光を照射して前記被加工物を加工する。レーザー加工方法は、前記複数のパルスのうちの第1パルスを前記被加工物に照射して、格子振動を励起する工程と、前記格子振動が励起されている時に、前記複数のパルスのうち前記第1パルスに後続する第2パルスを前記被加工物に照射する工程と、前記第2パルスによって、前記第2パルスが照射される前よりも高い振動数の帯域で前記被加工物の電子を振動させる工程と、前記第2パルスによって光絶縁破壊を起こし、前記高い振動数の帯域で振動する電子に前記第2パルスの光エネルギーを伝達する工程と、前記光エネルギーが伝達された電子の振動エネルギーを前記励起された格子振動の振動エネルギーに変換する工程とを含む。
本発明の第4の観点によれば、加工物の製造方法は、被加工物にレーザー光を照射して前記被加工物を加工し、前記被加工物から加工物を製造する方法である。加工物の製造方法は、パルストレインを含む前記レーザー光を生成する工程と、前記パルストレインを前記被加工物に照射する工程とを含む。前記パルストレインは、複数のパルスを含む。前記複数のパルスは、前記被加工物において励起される格子振動の周期のオーダーのパルス間隔を有する。
本発明の加工物の製造方法において、前記照射する工程は、前記複数のパルスのうちの第1パルスを前記被加工物に照射して、格子振動を励起する工程と、前記格子振動が励起されている時に、前記複数のパルスのうち前記第1パルスに後続する第2パルスを前記被加工物に照射する工程と、前記第2パルスによって前記第2パルスが照射される前よりも高い振動数の帯域で前記被加工物の電子を振動させる工程と、前記第2パルスによって光絶縁破壊を起こし、前記高い振動数の帯域で振動する電子に前記第2パルスの光エネルギーを伝達する工程と、前記光エネルギーが伝達された電子の振動エネルギーを前記励起された格子振動の振動エネルギーに変換する工程とを含む。
本発明によれば、被加工物において励起される格子振動の周期のオーダーの時間分解でレーザー光(パルストレイン)を被加工物に照射することによって、格子が高速で振動及び減衰する系の状態を制御できる。その結果、レーザー光から被加工物へのエネルギーの伝達効率を改善でき、加工特性の向上を図ることができる。
本発明の実施形態1に係るレーザー加工装置を示すブロック図である。 (a)インコヒーレントフォノンを説明する図である。(b)コヒーレントフォノンを説明する図である。 (a)フェムトシングルパルス及びコヒーレントフォノンを説明する図である。(b)フェムトパルストレイン及びコヒーレントフォノンを説明する図である。 コヒーレントフォノンが励起された状態の被加工物にフェムトパルストレインのパルスを照射する第1タイミングを説明する図である(コヒーレントフォノンの周期の整数倍)。 コヒーレントフォノンが励起された状態の被加工物にフェムトパルストレインのパルスを照射する第2タイミングを説明する図である(コヒーレントフォノンの半周期の奇数倍)。 図1の波形整形部を示す概略図である。 本発明の実施形態2に係るレーザー加工装置を示すブロック図である。 図7のレーザー加工装置を示す模式図である。 図8の波形整形部内の光路を説明する概念図である。 図7のコヒーレントフォノン検出装置を示す模式図である。 本発明の実施形態3に係るレーザー加工方法を示すフローチャートである。 本発明の実施形態4に係るレーザー加工方法を示すフローチャートである。 エネルギー移動の周波数応答を説明する図である。 光絶縁破壊を説明する図である。 コヒーレントフォノン励起加工におけるエネルギー変換プロセスを説明する図である。 特定結合の選択的処理を説明する図である。 比較例に係るフェムトシングルパルスの波形図である。 (a)本発明の実施例1に係る位相パターンの波形図である。(b)図18(a)の位相パターンに基づき生成されたフェムトパルストレインの波形図である。 (a)本発明の実施例1に係る他の位相パターンの波形図である。(b)図19(a)の位相パターンに基づき生成されたフェムトパルストレインの波形図である。 本発明の実施例1に係る加工条件を説明する図である。 (a)比較例に係るフェムトシングルパルスの波形図である。(b)〜(d)AFMで測定された比較例に係る加工結果を示す図である。 (a)本発明の実施例1に係るフェムトパルストレインの波形図である。(b)〜(d)AFMで測定された実施例1に係る加工結果を示す図である。 (a)本発明の実施例1に係る他のフェムトパルストレインの波形図である。(b)〜(d)AFMで測定された実施例1に係る加工結果を示す図である。 比較例及び本発明の実施例1に係る加工レートを示す図である。 比較例及び本発明の実施例1に係る加工面積を示す図である。 (a)本発明の実施例2に係る位相パターンを示す波形図である。(b)図26(a)の位相パターンに基づき計算されたフェムトパルストレイン波形を示す図である(c)図26(a)の位相パターンをSLMに入力して実際に生成されたフェムトパルストレインを示す波形図である。 (a)本発明の実施例2に係る他の位相パターンを示す波形図である。(b)図27(a)の位相パターンに基づき計算されたフェムトパルストレイン波形を示す図である(c)図27(a)の位相パターンをSLMに入力して実際に生成されたフェムトパルストレインを示す波形図である。 (a)本発明の実施例2に係る他の位相パターンを示す波形図である。(b)図28(a)の位相パターンに基づき計算されたフェムトパルストレイン波形を示す図である(c)図28(a)の位相パターンをSLMに入力して実際に生成されたフェムトパルストレインを示す波形図である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一または相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
(実施形態1)
[基本原理]
図1を参照して、本発明の実施形態1に係るレーザー加工装置1について説明する。図1は、レーザー加工装置1を示すブロック図である。レーザー加工装置1は、被加工物TAにレーザー光(例えば、フェムト秒レーザー光)を照射して被加工物TAを加工する。レーザー加工装置1は、レーザー装置3と、加工装置5とを備える。レーザー装置3及び加工装置5は、それぞれ、レーザー手段及び加工手段として機能する。
レーザー装置3は、パルストレインビームPTを含むレーザー光を生成する。加工装置5は、パルストレインビームPTを被加工物TAに照射する。パルストレインビームPTは、複数のパルスPを含む。複数のパルスPは、被加工物TAにおいて励起される格子振動CP(例えば、コヒーレントフォノン)の周期のオーダーのパルス間隔を有する。なお、図1に示す格子振動CPの波形は、被加工物TAにパルストレインビームPTを照射した後の波形を示している。
本実施形態1によれば、被加工物TAにおいて励起される格子振動CPの周期のオーダーの時間分解でレーザー光(パルストレインビームPT)を被加工物TAに照射することによって、格子が高速で振動及び減衰する系の状態を制御できる。その結果、レーザー光から被加工物TAへのエネルギーの伝達効率を改善でき、加工特性(例えば、加工レート、又は加工精度)の向上を図ることができる。
以下、本明細書では、レーザー光がフェムト秒パルスレーザー光であり、被加工物TAにおいて励起される格子振動CPがコヒーレントフォノンである例を説明する。従って、パルストレインビームPTは、フェムト秒パルストレインビーム(以下、「フェムトパルストレイン」又は「フェムトパルストレインビーム」と記載する。)PTであり、複数のパルスPのパルス間隔は、コヒーレントフォノンCPの周期のオーダーである。なお、レーザー光を単に「レーザー」と記載することもある。
[コヒーレントフォノンCP]
図1及び図2を参照して、コヒーレントフォノンCPについて説明する。図2(a)はインコヒーレントフォノンを説明する図である。図2(b)はコヒーレントフォノンCPを説明する図である。図中、横軸は時間(fs(フェムト秒))を示し、縦軸は振幅(ΔR/R)を示す。Rは、格子が平衡位置にあるときに光波が照射された時の反射率を示す。ΔRは、格子が平衡位置からずれた場合に、光波が照射された時の反射率の微小変化を示す。また、物質中の複数の格子の代表として、格子a1〜格子a3の波形を図示している。
インコヒーレントフォノンとは、格子振動(又はフォノン)の位相が時間的・空間的にランダムで揃っていない現象、又はそのような格子振動(又はフォノン)のことである(図2(a)参照)。これに対して、コヒーレントフォノンCPとは、時間的・空間的にランダムな格子振動(又はフォノン)の位相が全て揃う現象、又はそのような格子振動(又はフォノン)のことである(図2(b)参照)。例えば、格子振動の周期よりも十分に短い時間幅のパルスレーザー(代表的には、フェムト秒パルスレーザー)を物質に照射すると、その衝撃により位相が不揃いだった格子振動が一斉に励起され、時間的・空間的に全ての格子振動の位相が揃い、コヒーレントフォノンCPが発現する(コヒーレントフォノンCPの励起)。
コヒーレントフォノンCPの励起には、第1特徴及び第2特徴がある。第1特徴は、時間的な格子の振動状態(表面のエネルギー活性)が一様であることである。第2特徴は、電子から格子へのエネルギー伝達効率が高いことである。従って、被加工物TAにコヒーレントフォノンCPが励起された状態での加工には、第3特徴及び第4特徴がある。第3特徴は、加工の初期状態が揃っているため、エネルギー伝達が一様に行われ、加工特性が向上することである。第4特徴は、格子の温度上昇が速くなり、加工レート(単位パルス当たりの加工量)が向上することである。単位パルスは、本実施形態1では1パルストレインを示し、一般的なフェムト秒レーザー加工では1パルスを示す。
そこで、図1に示すように、本実施形態1では、加工装置5は、フェムトパルストレインPTを被加工物TA(例えば、被加工物TAの表面)に照射する。その結果、フェムトパルストレインPTに含まれる最初のパルスPによって、被加工物TA(例えば、被加工物TAの表面)にコヒーレントフォノンCPが励起される。そして、コヒーレントフォノンCPが励起された状態の被加工物(つまり、コヒーレントフォノンCPが減衰により消滅する前の状態の被加工物)TAには、最初のパルスPに後続するパルスPが照射される。その結果、電子−格子の相互作用により被加工物TAに新たな格子振動が発生し、加工特性が向上する。以下、コヒーレントフォノンCPが励起された状態でのレーザー加工を「コヒーレントフォノン励起加工」と記載する。
[コヒーレントフォノン励起加工]
図1及び図3を参照して、コヒーレントフォノン励起加工の原理を説明する。図3(a)は、フェムト秒シングルパルスビーム(以下、「フェムトシングルパルス」又は「フェムトシングルパルスビーム」と記載する。)SP及びコヒーレントフォノンCPを説明する図である。図3(b)は、フェムトパルストレインPT及びコヒーレントフォノンCPを説明する図である。図3(a)及び図3(b)の上段に示した波形図の縦軸は強度を示し、下段に示した波形図の縦軸は規格化された反射率変化の振幅(ΔR/R)を示す。また、横軸は時間を示す。
図1のレーザー装置3は、レーザー部7と波形整形部9とを備えることができる。レーザー部7は、パルス幅がフェムト秒のオーダーであるフェムトシングルパルスSPを生成する。フェムトシングルパルスSPの繰返し周波数及びパルス間隔は、それぞれ、例えば、80MHz及び12.5ns(ナノ秒)である。
本実施形態1では、フェムトシングルパルスSPは被加工物TAに照射されない。ただし、フェムトシングルパルスSPを被加工物TAに照射した場合は、図3(a)の下段に示す波形のコヒーレントフォノンCPが被加工物TAに励起される。例えば、コヒーレントフォノンCPの周波数及び持続時間(減衰時間)は、それぞれ、9THz及び2.7ps(ピコ秒)である。従って、コヒーレントフォノンCPの持続時間は、フェムトシングルパルスSPのパルス間隔よりも非常に短い。
その結果、フェムトシングルパルスSPを被加工物TAに繰り返し照射しても、被加工物TAにコヒーレントフォノンCPが励起された状態で被加工物TAにフェムトシングルパルスSPを照射することはできない。例えば、時点t0のフェムトシングルパルスSPによりコヒーレントフォノンCPが励起されても、次のフェムトシングルパルスSPを照射する時点t1では、時点t0で励起されたコヒーレントフォノンCPは消滅している。
そこで、本実施形態1では、波形整形部9は、レーザー部7が生成したフェムトシングルパルスSPに対して波形整形を実行することによって、フェムトパルストレインPTを生成する。フェムトパルストレインPTは、複数のパルスPを含む。複数のパルスPは、コヒーレントフォノンCPの周期のオーダーのパルス間隔を有する。パルスPとパルスPとの間隔は、フェムト秒のオーダー又はピコ秒のオーダーであり、例えば、10fs〜数十psである。好ましくは、パルスPとパルスPとの間隔は、例えば、100fs〜数psである。
加工装置5は、波形整形部9が生成したフェムトパルストレインPTを被加工物TAに照射して、フェムトパルストレインPTに含まれる最初のパルスPによって、被加工物TAにコヒーレントフォノンCPを励起する。そして、最初のパルスPに後続するパルスPが、コヒーレントフォノンCPが励起された状態の被加工物TAに照射される(図3(b)参照)。図3(b)の例では、フェムトパルストレインPTは、4つのパルスPを含む。従って、最初のパルスPによって、コヒーレントフォノンCPが励起され、後続する3つのパルスPが、コヒーレントフォノンCPが励起された状態の被加工物TAに照射される。
[フェムトパルストレインPTの照射タイミング]
図1、図4、及び図5を参照して、フェムトパルストレインPTのパルスPの照射タイミングについて説明する。図4及び図5は、それぞれ、コヒーレントフォノンCPが励起された状態の被加工物TAにパルスPを照射する第1タイミング及び第2タイミングを説明する図である。図4及び図5において、横軸は時間を示す。コヒーレントフォノンCPに対応する縦軸は規格化された反射率変化の振幅(ΔR/R)を示し、フェムトパルストレインPTに対応する縦軸は強度を示す。
図4及び図5では、フェムトパルストレインPTが2つのパルスP(パルスP1及びパルスP2)を含む例を示す。
まず、図1及び図4を参照して、第1タイミングについて説明する。第1タイミングは、コヒーレントフォノンCPの振動を強めるタイミング(位相)でパルスPを照射するタイミングである。具体的には、波形整形部9が、パルスPの間隔ΔtがコヒーレントフォノンCPの振動を強める間隔となるように、フェムトパルストレインPTを生成する。
例えば、波形整形部9は、パルスPの間隔ΔtがコヒーレントフォノンCPの周期(振動周期)Tcの整数倍となるように、フェムトパルストレインPTを生成する。即ち、Δt=n×Tcである。nは1以上の整数である。
図4の例では、最初のパルスP1によってコヒーレントフォノンCPが励起され、コヒーレントフォノンCPのエネルギーが高い状態で、後続するパルスP2が照射される。従って、効率良くパルスP2のエネルギーを被加工物TAに伝達することができる。その結果、加工レートが向上する。例えば、単位パルス当たりの加工深さが大きくなる。
換言すると、コヒーレントフォノンCPの振動を強める間隔のパルスPを照射すると、照射領域に励起されているコヒーレントフォノンCPの振動が増進され、格子温度が上昇する。その結果、コヒーレントフォノンCPの高い振動エネルギーが加工に利用され、加工レートが増加する。
次に、図1及び図5を参照して、第2タイミングについて説明する。第2タイミングは、コヒーレントフォノンCPの振動を弱めるタイミング(位相)でパルスPを照射するタイミングである。具体的には、波形整形部9が、パルスPの間隔ΔtがコヒーレントフォノンCPの振動を弱める間隔となるように、フェムトパルストレインPTを生成する。
例えば、波形整形部9は、パルスPの間隔ΔtがコヒーレントフォノンCPの半周期(Tc/2)の奇数倍となるように、フェムトパルストレインPTを生成する。即ち、Δt=m×(Tc/2)=(m/2)×Tcである。mは奇数である。
図5の例では、最初のパルスP1によってコヒーレントフォノンCPが励起され、コヒーレントフォノンCPのエネルギーが低い状態で、後続するパルスP2が照射される。従って、パルスP2のエネルギーがコヒーレントフォノンCPの振動を減衰させるために利用される。その結果、加工精度が向上する。例えば、加工面積が小さくなる。
換言すると、コヒーレントフォノンCPの振動を弱める間隔のパルスPを照射すると、照射領域に励起されているコヒーレントフォノンCPの振動が抑制され、格子温度が下降する。その結果、コヒーレントフォノンCPの抑制された振動エネルギーが加工に利用され、加工レートが抑制されて、加工精度が向上する。
以上、コヒーレントフォノンCPが励起された面(以下、「コヒーレントフォノン励起面」と記載することもある。)に、第1タイミング又は第2タイミングでパルスPを照射したが、第3タイミングでパルスPを照射することもできる。第3タイミングは、任意のタイミングでパルスPを照射するタイミングである。
3つの照射タイミング(第1タイミング、第2タイミング、及び第3タイミング)のいずれかの照射タイミングでパルスPを照射可能とすることにより、コヒーレントフォノン励起面、つまり、加工面の格子温度を局所的かつ瞬間的に(例えば、フェムト秒又はピコ秒のオーダーで)増減させて、加工を実行できる。従って、コヒーレントフォノン励起面へのパルスPの照射タイミングを制御することによって、加工目的に応じて、加工レートを意図的に増減することができる。つまり、加工レートを容易に制御できる。
また、フェムトパルストレインFTを繰り返し照射して加工を実行する工程において、第1タイミングによる加工だけを実行してもよいし、第2タイミングによる加工だけを実行してもよいし、第3タイミングによる加工だけを実行してもよいし、第1タイミングによる加工と第2タイミングによる加工とを異なる時間帯で実行してもよいし、第1タイミングによる加工と第3タイミングによる加工とを異なる時間帯で実行してもよいし、第2タイミングによる加工と第3タイミングによる加工とを異なる時間帯で実行してもよいし、第1タイミングによる加工と第2タイミングによる加工と第3タイミングによる加工とを異なる時間帯で実行してもよい。
例えば、加工終了時に、第2タイミングでパルスPを照射し、パルスPのエネルギーによってコヒーレントフォノンCPのエネルギーを相殺することによって、最終的に熱になって拡散されるエネルギーを減らし、加工精度を高めることが可能である。
[フェムトパルストレインPTの生成]
図1及び図6を参照して、波形整形部9によるフェムトパルストレインPTの生成について説明する。図6は、波形整形部9を示す概略図である。波形整形部9は、レーザー部7が生成したフェムトシングルパルスSPの波形を整形して、フェムトパルストレインPTを生成する。具体的には次の通りである。
波形整形部9は、回折格子(Grating)11a、回折格子11b、レンズ13a、レンズ13b、透過型の空間光変調器(Spatial Light Modulator:SLM)15、及びコンピューター17を備える。SLM15は位相変調手段として機能する。例えば、SLM15は、液晶空間光変調器(Liquid Crystal−Spatial Light Modulator:LC−SLM)である。
回折格子11aと回折格子11bとの機能及び構成は同一であり、また、レンズ13aとレンズ13bとの機能及び構成は同一である。波形整形部9は4f型波形整器であるため、回折格子11aとレンズ13aとの距離、レンズ13aとSLM15との距離、SLM15とレンズ13bとの距離、及びレンズ13bと回折格子11bとの距離は、それぞれ、レンズ13a(レンズ13b)の焦点距離fに等しい。従って、フーリエ変換面が形成される。
フェムトシングルパルスSPは、回折格子11aに入射する。フェムトシングルパルスSPは、回折格子11aによって、空間的に複数の周波数成分FCの光に分散され、レンズ13aに入射する。複数の周波数成分FCに分散された光は、レンズ13aによって平行光にされ、SLM15に入射する。つまり、フェムトシングルパルスSPは、回折格子11a及びレンズ13aによってフーリエ変換されて、複数の周波数成分FCの光としてSLM15に入射する。
SLM15は、フーリエ変換面に配置される。SLM15は、一次元的に配列された複数のピクセルPXを含む。SLM15は、コンピューター17から入力される位相パターンPPに従って、ピクセルPXごとに位相変調を実行する。具体的には、フーリエ変換面では複数の周波数成分FCが直線状に並んで配列されるため、SLM15は、個々の周波数成分FCに対して、ピクセルPXごとに位相変調を実行する。本実施形態1では、光(フェムトシングルパルスSP)の利用効率の向上を図るため、SLM15は、各周波数成分FCの振幅を維持したまま位相変調を実行する。
位相変調された複数の周波数成分FCの光は、レンズ13bに入射する。複数の周波数成分FCの光は、レンズ13bによって集光され、回折格子11bに入射する。複数の周波数成分FCの光は、回折格子11bによって周波数領域で空間的に分解された状態から再び、空間的に重ね合わせられることによって時間領域に変換されたのと同じ効果を示し、フェムトパルストレインPTとして出射される。つまり、複数の周波数成分FCの光は、回折格子11b及びレンズ13bによって逆フーリエ変換されて、フェムトパルストレインPTとして出射される。フェムトパルストレインPTは、複数のパルスPを含む(図3参照)。複数のパルスPは、コヒーレントフォノンCPの周期のオーダーのパルス間隔を有する。
[フェムトパルストレインPTの振幅制御]
図6を参照して、フェムトパルストレインPTの振幅制御について説明する。フェムトパルストレインPTの振幅は、例えば、SLM15に入力する位相パターンPPを調整することによって制御される。位相パターンPPとしては、正弦関数及びステップ関数等の様々な関数により表される位相パターンを採用できる。
本実施形態1では、コンピューター17は、M系列(Maximum length sequence)に基づく位相パターンPPをSLM15に入力する。以下、詳細を説明する。
n次のM系列は、周期Q=2n−1の周期系列であり、0と1との組み合わせで構成される。1周期内に0が(2n-1−1)個あり、1が2n-1個ある。例えば、M系列は、4次のM系列である。4次のM系列は、[0 0 0 1 0 0 1 1 0 1 0 1 1 1 1]である。本実施形態1では、4次のM系列として、M系列[0 0 0 k 0 0 k k 0 k 0 k k k k](0<k<2)を採用する(以下、本明細書において「適用M系列」と記載する)。
位相パターンPPは、適用M系列の要素(項)kにπ(ラジアン)を乗じ、適用M系列を繰り返すことによって作成される。位相パターンPPの各要素(0又はkπ)が、SLM15の対応するピクセルPXに入力される。1つの要素と1つのピクセルPXが対応する。その結果、SLM15は、位相パターンPPの各要素に応じて、ピクセルPXごとに位相変調を実行する。なお、位相パターンPPの各要素は位相遅れを示す値である。従って、SLM15の各ピクセルPXは、入力された位相遅れを示す値に従って、入射した周波数成分FCの位相を遅らせる。
適用M系列の要素kの値を調整することにより、フェムトパルストレインPTに含まれる最初のパルスP1(図4、図5参照)の振幅を制御できる。例えば、要素kの値が小さいほど、最初のパルスP1の振幅は小さくなる。
[フェムトパルストレインPTのパルス間隔制御]
図6を参照して、フェムトパルストレインPTのパルス間隔制御について説明する。フェムトパルストレインPTに含まれるパルスPの間隔は、例えば、SLM15に入力する位相パターンPPを調整することによって制御される。
一般的に、フェムト秒パルスレーザーの電界E(t)は、複数の縦モード(以下、「モード」と記載する。)の重ね合わせで表現できる。複数のモードは、回折格子11aによって得られるフェムトシングルパルスSPの複数の周波数成分FCに相当する。
電界E(t)は、各モードの振幅Aq、振動数ωq、位相φq、位相遅れδφSLMq、虚数単位i、時間t、及び各モードの識別子q(=1、2、…)を使用して、式(1)によって表される。
コンピューター17は、位相パターンPPの各要素として、位相遅れδφSLMqを示す値をSLM15に入力する。従って、SLM15は、位相パターンPPに従って、各モード(周波数成分FC)qに位相遅れδφSLMqを与え、位相変調を実行する。
N(Nは1以上の整数)のモードqに適用M系列の同じ1つの要素を割り当てることによって、位相パターンPPが作成される。位相パターンPPの周期は、Nが1のときの周期のN倍になる。
例えば、1つのモードqに適用M系列の1つの要素を割り当てる。この場合、15のモードqが、適用M系列[0 0 0 k 0 0 k k 0 k 0 k k k k]に割り当てられる。位相パターンPPは、この適用M系列の要素kにπを乗じ、適用M系列を繰り返すことによって作成される。従って、15のモードqが、位相パターンPPの1周期に割り当てられる。
例えば、2つのモードqに適用M系列の同じ1つの要素を割り当てる。この場合、30のモードqが、適用M系列[0 0 0 0 0 0 k k 0 0 0 0 k k k k 0 0 k k 0 0 k k k k k k k k]に割り当てられる。位相パターンPPは、この適用M系列の要素kにπを乗じ、適用M系列を繰り返すことによって作成される。従って、30のモードqが、位相パターンPPの1周期に割り当てられる。その結果、位相パターンPPの周期は2倍になる。
また、位相パターンPPの周期が、Nが1のときの周期のM(Mは1より大きい小数)倍になるように、モードqに適用M系列の要素を割り当てることもできる。つまり、適用M系列の全てと、適用M系列の一部とを連結する。適用M系列の一部とは、適用M系列の最初の要素からL(Lは2以上の整数)番目までの要素である。連結された適用M系列を連結M系列と記載する。Nのモードqに連結M系列の同じ1つの要素を割り当てることによって、位相パターンPPを作成する。
例えば、L=10、N=1とする。この場合、25のモードqが、連結M系列[0 0 0 k 0 0 k k 0 k 0 k k k k 0 0 0 k 0 0 k k 0 k]に割り当てられる。位相パターンPPは、この連結M系列の要素kにπを乗じ、連結M系列を繰り返すことによって作成される。従って、25のモードqが、位相パターンPPの1周期に割り当てられる。その結果、位相パターンPPの周期は5/3倍になる。
位相パターンPPの1周期に割り当てるモードqの数(以下、「モード数MN」と記載する。)を調整することにより、フェムトパルストレインPTに含まれるパルスP(図4、図5参照)の間隔を制御できる。例えば、モード数MNが大きいほど、パルスPの間隔は小さくなる。
[SLM15による分散補償]
図6を参照して、SLM15による分散補償について説明する。波長分散は光学素子を通過するときの波長による屈折率の違いによって生じる。つまり、各波長成分に様々な位相遅れが生じる。そこで、SLM15によって、その位相遅れを補償するような位相変調を行う。波長分散を考えるとき、波長の短い方が屈折率は大きく位相の遅れが大きい。回折格子11aによって得られた複数の周波数成分FCのうち、波長が長い(周波数の小さい)成分の位相を遅らせて、分散補償を行う位相パターンPPを作成し、SLM15に与える。
[エネルギー変換プロセス]
図1、図4、及び図5を参照して、コヒーレントフォノン励起加工におけるエネルギー変換プロセスについて説明する。加工装置5は、複数のパルスPによって起こる光絶縁破壊によるエネルギー伝達を実行する。具体的には次の通りである。加工装置5は、複数のパルスPのうちのパルスP1(第1パルス)を被加工物TAに照射して、コヒーレントフォノンCPを励起し(格子振動を励起し)、コヒーレントフォノンCPが励起されている時に(格子振動が励起されている時に)、複数のパルスPのうちパルスP1に後続するパルスP2(第2パルス)を被加工物TAに照射する。なお、コヒーレントフォノンCPを励起する過程において、パルスP1は、光絶縁破壊によって電子に光エネルギーを伝達する。
パルスP2は、パルスP2が照射される前よりも高い振動数の帯域で被加工物TAの電子を振動させ、光絶縁破壊によって高い振動数の帯域で振動する電子に光エネルギーを伝達する。光エネルギーが伝達された電子の振動エネルギーは、励起されたコヒーレントフォノンCPの振動エネルギーに変換される。コヒーレントフォノンCPの振動エネルギーによって被加工物TAが加工される。なお、パルスP1の照射によっても、コヒーレントフォノンCPの振動エネルギーによって被加工物TAは加工される。
以上、図1〜図6を参照して説明したように、本実施形態1によれば、コヒーレントフォノンCPの周期のオーダーの時間分解でレーザー光(フェムトパルストレインPT)を被加工物TAに照射することによって、コヒーレントフォノンCPの振動を制御できる。その結果、レーザー光から被加工物TAへのエネルギーの伝達効率を改善でき、加工特性の向上を図ることができる。
これに対して、従来のレーザー加工の分野では、被加工物(例えば、被加工物の表面)の格子振動は平均化されて一様であるとの前提で(つまり、時間方向の格子振動は無視して)レーザー加工が行われていた(時間平均)。本実施形態1では、時間方向の格子振動を考慮して、時間分解でレーザー光を照射し、格子振動を制御することによって加工特性の向上を図っている。
また、図4を参照して説明したように、本実施形態1によれば、コヒーレントフォノンCPの振動を強める間隔のパルスPを含むフェムトパルストレインPTを生成する。その結果、効率良くエネルギーを被加工物TAに伝達することができ、加工レートを向上できる。
さらに、図5を参照して説明したように、本実施形態1によれば、コヒーレントフォノンCPの振動を弱める間隔のパルスPを含むフェムトパルストレインPTを生成する。その結果、加工精度を向上できる。
さらに、図6を参照して説明したように、本実施形態1によれば、SLM15は、入力された位相パターンPPに従って、フェムトシングルパルスSPをフーリエ変換して得られた複数の周波数成分FCに対して位相変調を実行する。従って、入力する位相パターンを調整することにより、生成されるフェムトパルストレインPTに含まれるパルスPの間隔及び振幅を簡易に制御できる。また、位相パターンPPに、各周波数成分FCに対して分散補償を行うパターンを含めることによって、各周波数成分FCの分散が抑制されて、精度良くフェムトパルストレインPTを生成できる。
(実施形態2)
[概要]
図7及び図8を参照して、本発明の実施形態2におけるレーザー加工装置1の概要について説明する。図7及び図8は、それぞれ、レーザー加工装置1を示すブロック図及び模式図である。
レーザー加工装置1は、レーザー装置3と、加工装置5と、波形測定装置20と、コヒーレントフォノン検出装置40とを備える。また、レーザー加工装置1は、ミラーM1、1/2波長板W1、ハーフミラーHM1、ミラーM2、ミラーM3、ミラーM4、ミラーM5、ミラーM6、ハーフミラーHM2、及びハーフミラーHM3をさらに備える。なお、図8では、図面の簡素化のため、コヒーレントフォノン検出装置40の図示を省略した。
レーザー装置3、加工装置5、波形測定装置20、及びコヒーレントフォノン検出装置40は、それぞれ、レーザー手段、加工手段、波形測定手段、及び格子振動検出手段として機能する。
レーザー装置3は、レーザー部7と波形整形部9とを含む。レーザー装置3は、図1に示したレーザー装置3と同様である。ただし、本実施形態2では、図6に示した透過型の波形整形部9に代えて、反射型の波形整形部9を採用する。レーザー部7は、レーザー発振器LAを含む。レーザー発振器LAは、パルス幅がフェムト秒のオーダーであるフェムトシングルパルスSPを生成する。
波形測定装置20は、相互相関法に基づいて、フェムトパルストレインPTの波形を測定する。コヒーレントフォノン検出装置40は、ポンプ−プローブ法に基づいて、被加工物TAにおいて励起されたコヒーレントフォノンCP(図4、図5参照)を検出する。
[波形整形部9]
図8を参照して、波形整形部9の詳細について説明する。波形整形部9は、図6を参照して説明した実施形態1の波形整形部9と同様にして、フェムトパルストレインPTを生成する。具体的には次の通りである。
波形整形部9は、回折格子11aと、レンズ13aと、反射型の空間光変調器(SLM)15とを備える。波形整形部9は、SLM15に位相パターンPPを与えるコンピューターを備えるが、図6に示したコンピューター17と同じであるため、図示を省略した。SLM15は位相変調手段として機能する。例えば、SLM15は、液晶空間光変調器である。
回折格子11aとレンズ13aとの距離、及びレンズ13aとSLM15との距離は、それぞれ、レンズ13aの焦点距離fに等しい。また、反射型のSLM15を採用しているため、波形整形部9は実質的には4f型波形整器である。SLM15はフーリエ変換面に配置される。
レーザー部7が生成したフェムトシングルパルスSPは、ミラーM1、1/2波長板W1、ハーフミラーHM1、及びミラーM2を介して、波形整形部9の回折格子11aに入射する。
回折格子11aに入射されたフェムトシングルパルスSPは、回折格子11a及びレンズ13aによってフーリエ変換され、複数の周波数成分FC(図6の複数の周波数成分FCに相当するため同じ参照符号FCを付した。)の光としてSLM15に入射する。詳細は、図6を参照して説明した実施形態1の回折格子11a及びレンズ13aによるフーリエ変換と同様であり、説明を省略する。
SLM15は、一次元的に配列された複数のピクセルPX(図6のピクセルPXに相当するため同じ参照符号PXを付した。)を備える。SLM15は、コンピューターから入力される位相パターンPP(図6の位相パターンPPに相当するため同じ参照符号PPを付した。)に従って、ピクセルPXごとに位相変調を実行する。
詳細は、図6を参照して説明した実施形態1のSLM15と同じであり、説明を省略する。なお、本実施形態2でも、光(フェムトシングルパルスSP)の利用効率の向上を図るため、SLM15は、各周波数成分FCの振幅を維持したまま位相変調を実行する。
SLM15は、位相変調を実行した複数の周波数成分FCの光をレンズ13aに向けて出射する。複数の周波数成分FCの光は、レンズ13aによって集光され、回折格子11aに入射する。複数の周波数成分FCの光は、回折格子11aによって周波数領域で空間的に分解された状態から再び、空間的に重ね合わせられることによって時間領域に変換されたのと同じ効果を示し、フェムトパルストレインPTとしてミラーM3に出射される。つまり、複数の周波数成分FCの光は、回折格子11a及びレンズ13aによって逆フーリエ変換されて、フェムトパルストレインPTとして出射される。
SLM15への入射光路OP1及びSLM15からの出射光路OP2については、図9を参照して詳細に後述する。
[加工装置5]
図8を参照して、加工装置5の詳細について説明する。加工装置5は、フェムトパルストレインPTを被加工物TAに照射して、被加工物TAを加工する。具体的には次の通りである。加工装置5は、CCD(Charge Coupled Device)50と、レンズL1と、ミラーM7と、対物レンズ52と、ステージ54とを備える。波形整形部9が生成したフェムトパルストレインPTは、ミラーM3及びハーフミラーHM3を介して、加工装置5のレンズL1に入射する。レンズL1に入射したフェムトパルストレインPTは、さらに、ミラーM7を介して、対物レンズ56に入射する。フェムトパルストレインPTは、対物レンズ56により、被加工物TAに照射される。被加工物TAはステージ54上に配置される。
ユーザーは、CCD50で被加工物TAを観察しながら、対物レンズ52及び被加工物TAの位置を調整して、フェムトパルストレインPTの照射位置及び焦点距離を調整する。
[波形測定装置20]
図8を参照して、波形測定装置20の詳細について説明する。波形測定装置20は、相互相関法に基づいて、レーザー部7が生成したフェムトパルストレインPTの波形を測定する。具体的には次の通りである。波形測定装置20は、遅延ステージ22と、レンズL2と、SHG(Second Harmonic Generation:第2高調波発生)結晶24と、パワーメーター26とを備える。
レーザー部7が生成したフェムトシングルパルスSPは、ハーフミラーHM1によって、サンプリング光と、波形整形のためのフェムトシングルパルスSPとに分けられる。サンプリング光は、ミラーM4によって、遅延ステージ22に入射される。遅延ステージ22は、サンプリング光に任意の遅延時間を与えて、ミラーM5に出射する。サンプリング光は、ミラーM5及びミラーM6を介して、ハーフミラーHM2に入射する。一方、波形整形部9で生成されたフェムトパルストレインPTは、ハーフミラーHM3を介して、ハーフミラーHM2に入射する。
ハーフミラーHM2は、サンプリング光とフェムトパルストレインPTとを非共軸でレンズL2に入射させる為に配置される。ハーフミラーHM2を透過したサンプリング光及びフェムトパルストレインPTは、重ね合わせられ干渉光として、レンズL2に入射し、さらに、SHG結晶24に入射する。その結果、SHG結晶24は、干渉光に応じた第2高調波を発生する。この第2高調波をパワーメーター26で検出することにより、フェムトパルストレインPTの波形を観測できる。
次に、図9を参照して、SLM15への入射光路OP1及びSLM15からの出射光路OP2について説明する。図9は、波形整形部9内の光路を説明する概念図である。図9では、側面視によってレンズ13a等の光学部品が示される。ただし、図9では、説明の便宜のため、光学部品の物理的配置を示していない。
ミラーM8及びミラーM9を利用して、SLM15への入射光路OP1とSLM15からの出射光路OP2とが異なるように光学系を構成する。その結果、ビームスプリッターを利用してSLM15への入射光路とSLM15からの出射光路とを共通にする場合と比較して、光(フェムトシングルパルスSP)の利用効率の向上を図ることができる。具体的には次の通りである。
フェムトシングルパルスSPは、ミラーM8によって、回折格子11aに入射される。回折格子11aによって複数の周波数成分FCに分散された光は、レンズ13aの一方端部LIに入射され、SLM15に向けて出射される。SLM15で位相変調が実行された複数の周波数成分FCの光は、レンズ13aの他方端部LOに入射され、更に回折格子11aに入射される。複数の周波数成分FCの光は、レンズ13a及び回折格子11aによって逆フーリエ変換され、フェムトパルストレインPTとして、ミラーM9に出射される。フェムトパルストレインPTは、複数のパルスPを含む(図3参照)。複数のパルスPは、コヒーレントフォノンCPの周期のオーダーのパルス間隔を有する。
[コヒーレントフォノン検出装置40]
図10を参照して、コヒーレントフォノン検出装置40の詳細について説明する。図10は、コヒーレントフォノン検出装置40を示す模式図である。コヒーレントフォノン検出装置40は、差動型検出法を採用する反射型ポンプ−プローブ法によって、被加工物TAにおいて励起されたコヒーレントフォノンCP(図4、図5参照)を検出する。具体的には次の通りである。
コヒーレントフォノン検出装置40は、ミラーM10と、ミラーM11と、ND(Neutral Density)フィルターND1と、NDフィルターND2と、ミラーM12と、ハーフミラーHM4と、オプティカルチョッパーOPと、NDフィルターND3と、ミラーM19と、ハーフミラーHM5と、NDフィルターND4と、フォトダイオードCH2とを備える。なお、NDフィルターND1〜NDフィルターND4の各々は、減光フィルターであり、設定された減光率に従って、入射光の光量を減少させて出射する。なお、NDフィルターND4の減光率は可変である。
コヒーレントフォノン検出装置40は、1/2波長板W2と、ミラーM13〜ミラーM17と、レンズL3と、1/2波長板W3と、フォトダイオードCH1とをさらに備える。コヒーレントフォノン検出装置40は、差動増幅器42と、ロックインアンプ46と、オシロスコープ48とをさらに備える。
フェムトパルストレインPTは、ミラーM10、ミラーM11、NDフィルターND1、NDフィルターND2、及びミラーM12を介して、ハーフミラーHM4に入射され、プローブ光PBとポンプ光PMとに分けられる。
ポンプ光PMは、1/2波長板W2、ミラーM13〜ミラーM15、及びレンズL3を介して、被加工物TAに照射される。
一方、プローブ光PBは、オプティカルチョッパーOPから、参照信号としてロックインアンプ46に入力される。また、プローブ光PBは、NDフィルターND3を介して、ミラーM19に入射される。ミラーM19によって遅延されたプローブ光PBは、ハーフミラーHM5及びNDフィルターND4を介して、参照光I0として、フォトダイオードCH2に入力される。
一方、ミラーM19によって遅延されたプローブ光PBは、ハーフミラーHM5、1/2波長板W3、ミラーM17、及びレンズL3を介して、被加工物TAに照射される。被加工物TAからのプローブ光PBの反射光は、ミラーM16を介して、フォトダイオードCH1に入力される。
ここで、定常状態のプローブ光PBの反射光を反射光Ipと記載する。反射光Ipは、ポンプ光PMが被加工物TAに入射する前におけるプローブ光PBの反射光である。本実施形態2では、参照光I0の強度と反射光Ipの強度とが等しくなるように、NDフィルターND4を調整する。一方、非定常状態のプローブ光PBの反射光を反射光I(t)と記載する。反射光I(t)は、ポンプ光PMが被加工物TAに入射した後におけるプローブ光PBの反射光である。
また、参照光I0の強度及び参照光I0に対応するフォトダイオードCH2の出力信号にも、参照光I0と同じ参照符号I0を付する。反射光Ipの強度及び反射光Ipに対応するフォトダイオードCH1の出力信号にも、反射光Ipと同じ参照符号Ipを付する。反射光I(t)の強度及び反射光I(t)に対応するフォトダイオードCH1の出力信号にも、反射光I(t)と同じ参照符号I(t)を付する。
差動増幅器42は、フォトダイオードCH1の出力信号(ΔI+I0)(=I(t))とフォトダイオードCH2の出力信号I0との差分を増幅して、差分信号ΔIをロックインアンプ46に出力する。ロックインアンプ46は、オプティカルチョッパーOPからの参照信号に基づいて、差分信号ΔIを増幅し、オシロスコープ48に出力する。オシロスコープ48は、差分信号ΔIの強度を参照光の信号の強度I0で除して、除算結果をコヒーレントフォノンCPの波形として表示する。
コヒーレントフォノン検出装置40による検出原理は、式(2)によって示される。
コヒーレントフォノンCPの振動(ΔR(t)/R)は、プローブ光PBの非定常状態の反射光の強度I(t)とプローブ光PBの定常状態の反射光の強度I0との差を参照光の強度I0で除することにより算出される。ロックインアンプ46に入力される差分信号ΔIが、(I(t)−I0)に相当する。
以上、図7及び図8を参照して説明したように、本実施形態2によれば、実施形態1と同様に、コヒーレントフォノンCPの周期のオーダーの時間分解でレーザー光(フェムトパルストレインPT)を被加工物TAに照射することによって、コヒーレントフォノンCPの振動を制御できる。その結果、レーザー光から被加工物TAへのエネルギーの伝達効率を改善でき、加工特性の向上を図ることができる。その他、本実施形態2では、実施形態1と同様の効果を奏する。
また、図8を参照して説明したように、本実施形態2によれば、波形測定装置20はフェムトパルストレインPTの波形を測定する。従って、フェムトパルストレインPTの波形を確認して、最適な波形のフェムトパルストレインPTを被加工物TAに照射できる。
さらに、図10を参照して説明したように、本実施形態2によれば、コヒーレントフォノン検出装置40は、被加工物TAにおいて励起されたコヒーレントフォノンCPを検出する。従って、コヒーレントフォノンCPの状態を確認しながら被加工物TAを加工できるので、被加工物TAに応じて、より効果的なフェムトパルストレインPTを生成できる。
(実施形態3)
図1、図7、及び図11を参照して、本発明の実施形態3に係るレーザー加工方法について説明する。図11は、レーザー加工方法を示すフローチャートである。レーザー加工方法は、図1に示した実施形態1に係るレーザー加工装置1又は図7に示した実施形態2に係るレーザー加工装置1によって実行される。
レーザー加工方法は、被加工物TAにレーザー光を照射して被加工物TAを加工する。工程S1において、パルストレイン(例えば、実施形態1又は実施形態2のフェムトパルストレインPT)を含むレーザー光を生成する。パルストレインは、複数のパルスPを含む。複数のパルスPは、被加工物TAにおいて励起される格子振動(例えば、コヒーレントフォノンCP)の周期のオーダーのパルス間隔を有する。
工程S3において、パルストレインを被加工物TAに照射する。工程S5において、加工が完了したか否かが判定される。加工が完了していないと判定された場合、処理は工程S1に進む。一方、加工が完了したと判定された場合、処理は終了する。つまり、加工が完了するまで、工程S1及び工程S3が繰り返される。
以上、本実施形態3によれば、実施形態1及び実施形態2と同様に、被加工物TAにおいて励起される格子振動の周期のオーダーの時間分解でレーザー光(パルストレイン)を被加工物TAに照射することによって、格子が高速で振動及び減衰する系の状態を制御できる。その結果、レーザー光から被加工物TAへのエネルギーの伝達効率を改善でき、加工特性の向上を図ることができる。その他、本実施形態3では、実施形態1及び実施形態2と同様の効果を奏する。
なお、本発明の一実施形態に係る加工物の製造方法は、本実施形態3に係るレーザー加工方法を実行することによって、被加工物TAにレーザー光(例えば、フェムトパルストレインPT)を照射して被加工物TAを加工し、被加工物TAから加工物を製造する。
(実施形態4)
[レーザー加工方法]
図1、図4、図5、図7、及び図12を参照して、本発明の実施形態4に係るレーザー加工方法について説明する。レーザー加工方法は、実施形態1に係るレーザー加工装置1又は実施形態2に係るレーザー加工装置1によって実行される。レーザー加工方法は、被加工物TAに複数のパルスPを含むレーザー光(例えば、パルストレイン)を照射して被加工物TAを加工する。パルストレインは、例えば、実施形態1〜実施形態3のいずれかのフェムトパルストレインPTである。
図12は、レーザー加工方法を示すフローチャートである。図4、図5、及び図12に示すように、工程S40において、複数のパルスPのうちのパルスP1(第1パルス)を被加工物TAに照射して、格子振動(例えば、実施形態1〜実施形態3のいずれかのコヒーレントフォノンCP)を励起する。
工程S50において、格子振動が励起されている時に、複数のパルスPのうちパルスP1に後続するパルスP2(第2パルス)を被加工物TAに照射して、フォトンの振動エネルギーを電子の振動エネルギーに移動し、さらに、電子と格子とのエネルギー交換過程を経て、電子の振動エネルギーを格子の振動エネルギーに移動する。
工程S60において、加工が完了したか否かが判定される。加工が完了していないと判定された場合、プロセスは、工程S40の先頭、つまり、工程S11に進む。一方、加工が完了したと判定された場合、プロセスは終了する。つまり、加工が完了するまで、工程S40及び工程S50が繰り返される。
具体的には、工程S40は、工程S11〜工程S17を含む。工程S11において、複数のパルスPのうちのパルスP1を被加工物TAに照射する。工程S13において、パルスP1によって、パルスP1が照射される前よりも高い振動数の帯域で被加工物TAの電子を振動させる。工程S15において、パルスP1によって光絶縁破壊を起こし、高い振動数の帯域で振動する電子にパルスP1の光エネルギーを伝達する。工程S17において、パルスP1の光エネルギーが伝達された電子の振動エネルギーを被加工物TAの格子振動の振動エネルギーに変換し、格子振動(例えば、コヒーレントフォノンCP)を励起する。格子振動の振動エネルギーによって加工が行われる。プロセスは工程S50に進む。
工程S50は、工程S19〜工程S25を含む。工程S19において、格子振動が励起されている時に、つまり、励起された格子振動が消滅する前に、複数のパルスPのうちパルスP1に後続するパルスP2を被加工物TAに照射する。工程S21において、パルスP2によって、パルスP2が照射される前よりも高い振動数の帯域で被加工物TAの電子を振動させる。工程S23において、パルスP2によって光絶縁破壊を起こし、高い振動数の帯域で振動する電子にパルスP2の光エネルギーを伝達する。工程S25において、パルスP2の光エネルギーが伝達された電子の振動エネルギーを、励起された格子振動の振動エネルギーに変換する。格子振動の振動エネルギーによって加工が行われる。プロセスは工程S60に進む。
なお、実施形態3に係るレーザー加工方法の工程S3は、図12に示す工程S40及び工程S50を含むことができる。
以上、格子振動の励起中に(例えば、コヒーレントフォノンCPの励起中に)パルスP2を照射することによって、電子へ光エネルギーが伝達され、電子が加熱される。そして、電子の振動エネルギーが格子振動の振動エネルギーに変換され、電子が冷却される。冷却された電子には光エネルギーが伝達され易い。従って、格子振動の励起中に、電子の加熱、電子から格子へのエネルギー移動、及び電子の冷却を繰り返すことによって、光波から格子への高速なエネルギー変換プロセスを実現できる。
[コヒーレントフォノン励起面の特徴]
工程S17では、被加工物TAにコヒーレントフォノンCPが励起される。コヒーレントフォノンCPが励起される面(コヒーレントフォノン励起面)の第1特徴〜第3特徴を説明する。
第1特徴は、コヒーレントフォノン励起面では、エネルギー準位が時間的にも空間的にも一様であることである。つまり、コヒーレントフォノン励起面は、被加工物TAのうちレーザー集光点の一定範囲(光の照射点及び照射点近傍)に形成され、エネルギー準位が空間的に一様である。そして、コヒーレントフォノン励起面では、同一の位相を有する複数の格子(振動子)が互いに同期して振動するため、ある振動に同期した格子振動が存在し、エネルギー準位が時間的に一様である。第1特徴は、主に、加工精度の向上に寄与する。
第2特徴は、コヒーレントフォノン励起面が、局所的な領域に制限され、拡張しないことである。つまり、コヒーレントフォノン励起面は、レーザー集光点の一定範囲に限定される。具体的には、同一の位相を有する複数の格子の互いに同期した振動(コヒーレント振動)は、被加工物TAの表面に沿った方向(表面方向)に伝播せず、レーザー集光点の一定範囲に限定される。加えて、コヒーレント振動は、被加工物TAの表面に交差する方向(深さ方向)にも伝搬しない。従って、コヒーレント振動を行うコヒーレントフォノン励起面は拡張しない。第2特徴は、主に、加工精度の向上に寄与する。
コヒーレント振動が表面方向にも深さ方向にも伝搬しない理由は次の通りである。すなわち、コヒーレント振動は、調和振動であるため、周囲に拡散する性質を有しない。また、励起光は、被加工物TAに入射すると瞬時に減衰するため、深さ方向に新たなコヒーレント振動を励起しない。
第3特徴は、コヒーレントフォノン励起面が、光波のエネルギーを吸収し易いことである。第3特徴は、主に、加工レート及びエネルギー伝達効率の向上に寄与する。コヒーレントフォノン励起面では、格子の固有振動数(コヒーレントフォノンCPの周波数)の近傍で格子が振動しているため、光波を照射してコヒーレントフォノン励起面に格子の固有振動数に相当する周波数帯域の振動を印加すると、振動振幅が非常に大きく伝達される。つまり、コヒーレントフォノン励起面では、振幅伝達関数が大きい。従って、格子の固有振動数の近傍の振動数を有する電子(キャリア)(以下、「近傍電子」と記載する。)の振動は、格子の振動(運動エネルギー)に変換され易い。
その結果、近傍電子の振動から格子の振動へのエネルギー移動によって、近傍電子、つまり、コヒーレント振動に反応するモードの電子は、格子の固有振動数の周囲の振動数を有する電子(以下、「周囲電子」と記載する。)に比べて早く冷却される。近傍電子の温度が、周囲電子の温度よりも低い場合、光波から近傍電子へのエネルギー勾配が大きくなるため、近傍電子には、周囲電子よりも光波のエネルギーが伝達され易い。そして、近傍電子に伝達されたエネルギーがコヒーレント振動を行っている格子に伝達される。
光波から格子へのエネルギー移動は、光波から電子へのエネルギー移動、さらに、電子から格子へのエネルギー移動という2段階のプロセスを経るため、コヒーレントフォノン励起面への光波の照射による電子の高速な冷却と大きなエネルギー勾配が、光波から格子へのエネルギー移動を促進する。
[エネルギー変換プロセス]
図13〜図15を参照して、コヒーレントフォノン励起加工におけるフォトンPOからフォノンPNへのエネルギー変換プロセスについて説明する。なお、エネルギー変換プロセスの説明において、フォノンPNを格子と読み替えることもできる。図13は、エネルギー移動の周波数応答を説明する図である。図14は、光絶縁破壊を説明する図である。
図13に示すように、電子eは、振動エネルギーを保持したまま、広い帯域WBにわたって様々な振動数(周波数)をとり得る。電子eは、確率密度関数によって記述されるからである。通常、電子eは、帯域WBのうち安定な状態の低い振動数の帯域で振動している。一方、フォトンPOの振動数(光の周波数)は、安定な状態の電子eの振動数よりも遥かに大きい。従って、図14に示すように、通常、光絶縁が起こっている。光絶縁は、フォトンPOの振動が電子eに伝達されず、フォトンPOから電子eに振動エネルギーが伝達されない現象である。
しかしながら、物質に強力な電界を有する光を照射すると、安定な状態の低い振動数の帯域で振動していた電子eが、高い振動数の帯域で振動するようになる。つまり、電子eは、光の周波数に近い周波数又は光の周波数に相当する振動数で振動する。その結果、光絶縁破壊が起こり、フォトンPOの振動が電子eに伝達され、フォトンPOから電子eに振動エネルギーが伝達される。そして、フォトンPOの振動エネルギーが伝達された電子eの振動はフォノンPNに伝達され、電子eの振動エネルギーはフォノンPNの振動エネルギーに変換される。
例えば、光絶縁破壊は、1012ワット/cm2以上のエネルギーを有するレーザーを物質に照射したときに起こる。又は、例えば、光絶縁破壊は、パルス幅がフェムト秒のオーダーのレーザー(フェムト秒パルスレーザー)を物質に照射したときに起こる。なお、例えば、コヒーレントフォノンCPは、1012ワット/cm2以上のエネルギーを有するレーザーを被加工物TAに照射したときに励起される。又は、例えば、コヒーレントフォノンCPは、フェムト秒パルスレーザーを被加工物TAに照射したときに励起される。フェムトパルストレインPTのパルスP1及びパルスP2(図4及び図5参照)は、光絶縁破壊を起こしてコヒーレントフォノンCPを励起できるエネルギー又はパルス幅を有する。
図15は、コヒーレントフォノン励起加工におけるエネルギー変換プロセスを説明する図である。1つのフェムトパルストレインPTはJ(Jは2以上の整数)個のパルスPを含む。j(j=1〜J)番目のパルスPをパルスPjと記載する場合がある。例えば、1番目のパルスPをパルスP1と記載する。以下、J=3である。
時間T0より前では、つまり、パルスP1の照射前では、被加工物TAの格子振動はインコヒーレントフォノンである。時間T0において、被加工物TAにパルスP1を照射する。パルスP1を照射すると、強力な電界によって、被加工物TAの電子e及びフォノンPNは、非平衡状態になる。
非平衡状態では、被加工物TAの電子eは高い振動数の帯域で振動し、光絶縁破壊によってフォトンPOの振動エネルギーが電子eに伝達される。パルスP1の照射が終わると強力な電界がなくなるため、電子eは、フォトンPOから伝達された比較的大きな振動エネルギーを保持したまま、瞬時に安定した状態の振動数の帯域に戻っていき、位相の揃った状態で振動する。そして、電子eの振動エネルギーは、電子eとフォノンPNとのエネルギー交換過程を経て、フォノンPNの振動エネルギーに変換される。その結果、時間T1において、被加工物TAにコヒーレントフォノンCPが励起される。例えば、数ピコ秒の間、コヒーレントフォノンCPが持続する。フォノンPNの振動エネルギーは被加工物TAの加工に利用される。
例えば、ゲルマニウム(結晶方位及びタイプは、それぞれ、[1 1 0]及び「N−type doped」)にパルスP1を照射する。パルスP1(フォトンPO)のエネルギー、周波数、及び波長は、それぞれ、1015ワット/cm2、374THz、及び800nmである。非平衡状態の電子eは374THzの振動数で振動する。そして、パルスP1の照射が終わると、位相の揃った電子eは、9THzの振動数で振動し、9THzの周波数(振動数)のコヒーレントフォノンCPを励起する。
コヒーレントフォノンCPの励起中の時間T2において、パルスP2を被加工物TAのコヒーレントフォノン励起面に照射する。パルスP2を照射すると、強力な電界によって、被加工物TAの電子eは高い振動数の帯域で振動する。そして、光絶縁破壊によってフォトンPOの振動エネルギーが電子eに伝達される。
パルスP2の照射が終わると強力な電界がなくなるため、電子eは、フォトンPOから伝達された比較的大きな振動エネルギーを保持したまま、瞬時に安定した状態の振動数の帯域に戻っていき、位相の揃った状態で振動する。つまり、電子eは、フォノンPNの固有振動数(コヒーレントフォノンCPの周波数)の近傍の振動数で振動する。
コヒーレントフォノン励起面では、フォノンPNの固有振動数の近傍でフォノンPNが振動しているため、パルスP2を照射してコヒーレントフォノン励起面にフォノンPNの固有振動数に相当する周波数帯域の振動を印加すると、振動振幅が非常に大きく伝達される。つまり、コヒーレントフォノン励起面では、振幅伝達関数が大きい。従って、フォノンPNの固有振動数の近傍の振動数を有する電子e(近傍電子e)の振動は、フォノンPNの振動(運動エネルギー)に変換され易い。
その結果、近傍電子eの振動からフォノンPNの振動へのエネルギー移動によって、近傍電子e、つまり、コヒーレント振動に反応するモードの電子eは、フォノンPNの固有振動数の周囲の振動数を有する電子(周囲電子)に比べて早く冷却される。つまり、近傍電子eからフォノンPNへのエネルギー伝達は高速である。フォノンPNの振動エネルギーは被加工物TAの加工に利用される。
コヒーレントフォノンCPの励起中の時間T3において、さらにパルスP3を被加工物TAのコヒーレントフォノン励起面に照射する。パルスP3を照射すると、強力な電界によって、近傍電子eは高い振動数の帯域で振動する。この時点で、近傍電子eはフォノンPNの固有振動数の近傍の振動数を有しないが、説明の便宜上、同じ名称を使用する。
そして、光絶縁破壊によってフォトンPOの振動エネルギーが近傍電子eに伝達される。近傍電子eの温度は、周囲電子の温度よりも低いため、パルスP3から近傍電子eへのエネルギー勾配が大きく、近傍電子eには、周囲電子よりもフォトンPOのエネルギーが多く伝達される。つまり、エネルギー伝達効率が高い。
パルスP3の照射が終わると強力な電界がなくなるため、近傍電子eは、フォトンPOから伝達された比較的大きな振動エネルギーを保持したまま、瞬時に安定した状態の振動数の帯域に戻っていき、位相の揃った状態で振動する。つまり、近傍電子eは、フォノンPNの固有振動数の近傍の振動数で振動する。
さらに、コヒーレントフォノン励起面では振幅伝達関数が大きいため、近傍電子eの振動からフォノンPNの振動へのエネルギー移動が起こり易い。つまり、近傍電子eからフォノンPNへ高速にエネルギー伝達が行われる。フォノンPNの振動エネルギーは被加工物TAの加工に利用される。
以上、コヒーレントフォノンCPの励起中にパルスPを照射することによって、電子eへフォトンPOのエネルギーが伝達され、電子eが加熱される。そして、電子eの振動エネルギーがフォノンPNの振動エネルギーに変換され、電子eが冷却される。冷却された電子eにはフォトンPOのエネルギーが伝達され易い。従って、コヒーレントフォノンCPの励起中に、繰り返しパルスPを照射して、電子eの加熱、電子eからフォノンPNへのエネルギー移動、及び電子eの冷却を繰り返すことによって、フォトンPOからフォノンPNへの高速なエネルギー変換プロセスを実現できる。
時間T4において、コヒーレントフォノンCPが消滅して、被加工物TAの格子振動はインコヒーレントフォノンになる。コヒーレントフォノンCPが消滅した後に、熱拡散が始まる。例えば、10ナノ秒を超えて熱拡散が続く。従って、1つのフェムトパルストレインPTによる加工は、熱拡散の発生前に終了する。
次に、最初のパルスPより後のパルスPからフォノンPNへのエネルギーの伝達効率について説明する。一般的には、フェムトシングルパルスを被加工物に照射した場合、フェムトシングルパルスの光エネルギーのうち約3%がコヒーレントフォノンの励起に利用される。従って、フェムトシングルパルスの光エネルギーの大部分は、反射及び熱拡散等の現象によって失われる。
しかしながら、本実施形態4では、最初のパルスPより後のパルスPのフォトンPOからフォノンPNへのエネルギー伝達効率は、高く、3%を大きく超えると考えられる。その結果、同じエネルギーを有するフェムトパルストレインPTとフェムトシングルパルスとを比較すると、フェムトパルストレインPTによる加工では、フェムトシングルパルスによる加工よりも、エネルギー伝達効率は高くなり、加工レートが向上する。また、本実施形態4では、高いエネルギー伝達効率を実現できるため、低い電力のレーザー装置3を用いつつ、十分な加工レート及び加工量のレーザー加工が可能である。
コヒーレントフォノンCPの励起中に照射するパルスPからのエネルギー伝達効率が高いため、1つのフェムトパルストレインPTに含まれるパルスPの数を増やすことにより、つまり、最初のパルスPに後続するパルスPの数を増やすことにより、フェムトパルストレインPT当たりのエネルギー伝達効率をより向上でき、より加工レートを向上できる。
なお、実施形態1〜実施形態4において、1つのフェムトパルストレインPTに含まれるパルスPの数は2つに限定されず、3以上でもよい。例えば、1つのフェムトパルストレインPTは、2個〜10個のパルスPを含む。
例えば、1つのフェムトパルストレインPTがJ個のパルスPを含む場合、図12に示すフローチャートにおいて、工程S40と工程S60との間に、(J−1)段の工程S50を直列に挿入する。つまり、工程S40及び工程S60を(J−1)回繰り返す。
[被加工物TAの特定結合の選択的処理]
図12及び図16を参照して、被加工物TAの特定結合の選択的処理について説明する。図16は、特定結合の選択的処理を説明する図である。被加工物TAの各結合は、異なる振動数(例えば、振動数ω1〜振動数ω4)の調和振動を行うことが可能である。工程S40では、各々が被加工物TAの格子定数で規定される複数の異なる振動数から選択された振動数で調和振動を行うように格子振動(例えば、コヒーレントフォノンCP)を励起する。従って、被加工物TAの特定の結合を選択して処理できる。なお、調和振動の振動数を調和振動数と記載する場合もある。なお、振動数と周波数とは同義である。
具体例を挙げながら説明する。被加工物TAは、原子の結合B1、結合B2、結合B3、及び結合B4を有する。結合B1、結合B2、結合B3、及び結合B4は、それぞれ、振動数ω1、振動数ω2、振動数ω3、及び振動数ω4で調和振動を行うことが可能である。
振動数ω3で調和振動するコヒーレントフォノンCPを励起すると、結合B3が振動数ω3で強く調和振動し、加熱される。その結果、結合B3は高い格子温度を有する。調和振動は、他の調和振動とエネルギーを交換しない。従って、結合B3の調和振動のエネルギーは、他の結合B1、結合B2、及び結合B4の調和振動に伝播されることはない。従って、結合B1、結合B2、及び結合B4は、振動されず、加熱されない。その結果、結合B1、結合B2、及び結合B4は、低い格子温度を維持する。
従って、振動数ω3で調和振動するコヒーレントフォノンCPを励起して、特定の結合B3だけを強く振動させることができる。その結果、結合B3を選択して加工を行うことができる。つまり、結合B3に対応する結晶面を選択して加工できる。
結晶面ごとに結合が異なるため、結晶面ごとに調和振動数が異なる。従って、励起するコヒーレントフォノンCPの調和振動数を選択することによって、選択した調和振動数に対応する結晶面だけを加工することができる。例えば、[1 0 0]面だけを加工したり、[0 1 1]面だけを加工できる。
次に、所望の調和振動数のコヒーレントフォノンCPを励起する方法を説明する。フェムトパルストレインPTの振動数ωを制御することによって、所望の調和振動数のコヒーレントフォノンCPを励起できる。フェムトパルストレインPTの振動数ωは、1つのフェムトパルストレインPTに含まれる最初のパルスPと次のパルスPとの時間間隔Δtの逆数によって表される(ω=1/Δt)。フェムトパルストレインPTの振動数ωに一致する調和振動数のコヒーレントフォノンCPが励起される。また、パルスPの光の波長を制御することによって、所望の調和振動数のコヒーレントフォノンCPを励起できる。
例えば、フェムトパルストレインPTの振動数ωを振動数ω3に設定した場合、結合B3が振動数ω3で強く調和振動し、振動数ω3のコヒーレントフォノンCPが励起される。一方、結合B1、結合B2、及び結合B4は、振動されず、励起されない。
以上、図12〜図16を参照して説明したように、本実施形態4では、光波による電子系の加熱、電子系と格子系とのエネルギー交換、及び電子系の冷却によって、光波から電子系、電子系から格子系へと効率良くエネルギー交換が実行され、高速なエネルギー変換プロセスを実現できる。その結果、高いエネルギー伝達効率及び高い加工レートでの加工を実現できる。
また、本実施形態4では、加工周波数がコヒーレントフォノンCPの周波数(例えば、ゲルマニウムでは9.1THz、シリコンでは15.6THz)の帯域に向上するため、高周波数加工、つまり、高速加工を実現でき、単位時間当たりの加工量を改善できる。コヒーレントフォノンCPの周波数はテラヘルツのオーダーであるため、例えば、波長800nm及び振動周波数374THzの光に対して、効率的かつ高速なエネルギー移動を実現できる。その結果、単位時間当たりの加工量を改善でき、また、テラヘルツのオーダーでの超高速加工を実現できる。
さらに、本実施形態4では、コヒーレントフォノンCPが調和振動を行うという性質を利用しているため、次の効果を奏する。加工領域は、過剰なエネルギーを有するフェムトパルストレインPTを照射しない限り、局所的な領域、つまり、コヒーレントフォノンCPが励起された領域に限定される。従って、加工領域、つまり、コヒーレントフォノンCPが励起されている領域は、被加工物TAの表面方向に拡張せず、被加工物TAの深さ方向にも拡張しない。
過剰なエネルギーについて説明する。コヒーレントフォノン励起面は、エネルギーの吸収率が局所的に高い面を形成している。従って、コヒーレントフォノン励起面が形成されると、コヒーレントフォノン励起面が加工の閾値を超えるエネルギーを瞬時に吸収し、加工が行われる。ただし、加工に利用されるエネルギーを超えて過剰なエネルギーを有するフェムトパルストレインPTが被加工物TAに照射されると、余剰のエネルギーは、コヒーレントフォノンCPの励起されていない領域に熱として拡散する。従って、過剰なエネルギーにならないように、フェムトパルストレインPTを生成することが好ましい。
加工領域が局所的な領域に限定されるため、加工精度が向上されると伴に、加工分解能が改善される。例えば、微小領域の加工が可能になる。また、コヒーレントフォノンCPを被加工物TAの表面近傍に励起して、フェムトパルストレインPTを照射することによって、加工領域を表面近傍に限定した極めて浅い表面加工、又は高精度の表面研磨を実現できる。さらに、加工周波数がコヒーレントフォノンCPの調和振動の周波数(テラヘルツのオーダー)の帯域まで向上するため、局所的な領域の高速加工を実現できる。
さらに、本実施形態4では、コヒーレントフォノンCPの持続時間が短いため(例えば、ピコ秒のオーダー)、フェムトパルストレインPTによる加工は熱拡散が開始される前に終了する。その結果、熱拡散の影響が除去されて、加工精度を向上できる。例えば、熱拡散は、パルスP1が照射されてから、10-10秒以後に開始される。
さらに、本実施形態4によれば、次の理由により、加工精度を向上できる。すなわち、位相の揃ったコヒーレントフォノンCPを励起して加工するため、統一された境界条件及び初期条件の下で加工が可能である。さらに、コヒーレントフォノンCPの振動は、コヒーレントフォノンCPの励起されている領域の周囲から分離されているため、加工量を最小限に維持でき、余剰加工を抑制できる。さらに、高効率であるため、レーザーのエネルギーを削減して、加工制御を安定化できる。
さらに、本実施形態4によれば、フォトンPOの振動、電子eの振動、及びフォノンPNの振動を介して、フォトンPOからフォノンPNへ振動エネルギーが伝達される。従って、エネルギー移動が高速であり、加工速度を向上できる。
さらに、本実施形態4では、局所的な領域でフォノンPNが高い振動数で振動すること(つまり、コヒーレントフォノンCPの励起)を局所的なフォノンPNの加熱と捉えることができる。そして、局所的なフォノンPNの加熱面(つまり、コヒーレントフォノン励起面)にパルスPを照射して加工を行うことで、加工レートの高い加工を実現できる。
次に、本発明が実施例に基づき具体的に説明されるが、本発明は以下の実施例によって限定されない。
(実施例1)
[概要]
図8、図17〜図25を参照して、本発明の実施例1について説明する。本実施例1では、図8に示した実施形態2に係るレーザー加工装置1を使用して、2種類のフェムトパルストレインPT(フェムトパルストレインPT1及びフェムトパルストレインPT2)を生成した。そして、フェムトパルストレインPT1及びフェムトパルストレインPT2の各々を被加工物TAであるゲルマニウムに照射し、ゲルマニウムに穴開け加工を実行した。また、比較例として、図8に示した実施形態2に係るレーザー部7を使用して、フェムトシングルパルスCSを生成した。そして、フェムトシングルパルスCSを被加工物TAであるゲルマニウムに照射し、ゲルマニウムに穴開け加工を実行した。
[フェムトシングルパルスCS]
図17を参照して、比較例に係るフェムトシングルパルスCSについて説明する。図17は、フェムトシングルパルスCSの波形図である。図中、横軸は時間(ps)を示し、縦軸は強度(arbitrary unit)を示す。この点は、後述する図18(b)、図19(b)、図21(a)、図22(a)、図23(a)、図26(b)、図26(c)、図27(b)、図27(c)、図28(b)、及び図28(c)でも同じである。フェムトシングルパルスCSのパルス幅は、半値幅で720fsであった。
[フェムトパルストレインPT1]
図18を参照して、実施例1に係るフェムトパルストレインPT1について説明する。図18(a)は、実施例1に係る位相パターンPP1の波形図である。図18(a)において、横軸は周波数(1014×Hz)を示し、縦軸は位相(ラジアン)を示す。この点は、後述する図19(a)、図26(a)、図27(a)、及び図28(a)でも同じである。図18(b)は、位相パターンPP1に基づき生成されたフェムトパルストレインPT1の波形図である。
位相パターンPP1が、SLM15に入力され、フェムトパルストレインPT1が生成された。位相パターンPP1は、適用M系列の要素kを1、モード数MNを15とし、さらにランプ(Ramp)関数を応用して、分散補償を実行するように作成された。
その結果、位相パターンPP1に基づいて生成されたフェムトパルストレインPT1は、2つのパルスP(パルスP1及びパルスP2)を含んだ。パルスP1とパルスP2との間隔は、600fsであった。パルスP1及びパルスP2の各々の幅は、半値幅で580fsであった。また、パルスP1及びパルスP2の各々のピーク値は、フェムトシングルパルスCSの1.2倍であった。
パルスP1とパルスP2との間隔(600fs)は、ゲルマニウムのコヒーレントフォノンの周期(110fs)の5.5倍(つまり、半周期の奇数倍)である。つまり、フェムトパルストレインPT1は、ゲルマニウムのコヒーレントフォノンの振動を弱める間隔のパルスP1及びパルスP2を含む。
[フェムトパルストレインPT2]
図19を参照して、実施例1に係るフェムトパルストレインPT2について説明する。図19(a)は、実施例1に係る位相パターンPP2の波形図である。図19(b)は、位相パターンPP2に基づき生成されたフェムトパルストレインPT2の波形図である。
位相パターンPP2が、SLM15に入力され、フェムトパルストレインPT2が生成された。位相パターンPP2は、連結M系列の要素kを1、モード数MNを25とし、さらにランプ関数を応用して、分散補償を実行するように作成された。
その結果、位相パターンPP2に基づいて生成されたフェムトパルストレインPT2は、2つのパルスP(パルスP1及びパルスP2)を含んだ。パルスP1とパルスP2との間隔は、334fsであった。パルスP1及びパルスP2の幅は、それぞれ、半値幅で580fs及び492fsであった。また、パルスP1及びパルスP2のピーク値は、それぞれ、フェムトシングルパルスCSの1.5倍及び1.8倍であった。
パルスP1とパルスP2との間隔(334fs)は、ゲルマニウムのコヒーレントフォノンの周期(110fs)の3倍(つまり、周期の整数倍)である。つまり、フェムトパルストレインPT2は、ゲルマニウムのコヒーレントフォノンの振動を強める間隔のパルスP1及びパルスP2を含む。
[加工条件]
図20を参照して、実施例1に係る加工条件について説明する。図20は、加工条件を説明する図である。被加工物TAであるゲルマニウムの結晶方位、タイプ、表面粗さ、平坦度、及び厚さは、それぞれ、[1 0 0]、N−type Undoped、<10Å、<2μ/cm、及び0.5mmである。
被加工物TAの100μm×100μmの範囲にビーム(フェムトシングルパルスCS、フェムトパルストレインPT1、フェムトパルストレインPT2)を照射した。ビーム照射による加工の再現性の確認及びAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)での測定を容易にするため、同じ加工条件で、100μm×100μmの範囲の複数点を加工した。加工結果はAFMで測定した。1点当たり、6.4×106ショットで、ビームを照射した。フェムトシングルパルスCSについては、1パルスが1ショットである。フェムトパルストレインPT1及びフェムトパルストレインPT2については、2つのパルスP1及びパルスP2を含む1パルストレインが1ショットである。ビームのスポット径(面積)は、0.98μm(0.75μm2)である。
加工エネルギーとしては、フェムトシングルパルスCSについては、2.50nJ/pulse、1.88nJ/pulse、1.25nJ/pulseの3パターンを採用した。フェムトパルストレインPT1及びフェムトパルストレインPT2については、加工エネルギーとして、2.50nJ/pulse、2.18nJ/pulse、1.88nJ/pulse、1.56nJ/pulse、1.25nJ/pulseの5パターンを採用した。フェムトシングルパルスCSについては、1パルスが単位パルスである。フェムトパルストレインPT1及びフェムトパルストレインPT2については、2つのパルスP1及びP2を含む1パルストレインが単位パルスである。この点は、後述するフェムトパルストレインPT1及びフェムトパルストレインPT2による加工レートについても同じである。
[加工結果]
図21〜図23を参照して、比較例及び実施例1に係る加工結果を説明する。図21(a)は、比較例に係るフェムトシングルパルスCSの波形図である。図21(b)〜図21(d)は、比較例に係る加工結果を示す図である。図22(a)は、実施例1に係るフェムトパルストレインPT1の波形図である。図22(b)〜図22(d)は、フェムトパルストレインPT1による加工結果を示す図である。図23(a)は、実施例1に係るフェムトパルストレインPT2の波形図である。図23(b)〜図23(d)は、フェムトパルストレインPT2による加工結果を示す図である。
図21(b)〜図21(d)、図22(b)〜図22(d)、及び図23(b)〜図23(d)は、AFMで測定された加工結果の平面像を示している。図21(b)、図22(b)、及び図23(b)は、加工エネルギーが2.50nJ/pulseのときの加工結果を示す。図21(c)、図22(c)、及び図23(c)は、加工エネルギーが1.88nJ/pulseのときの加工結果を示す。図21(d)、図22(d)、及び図23(d)は、加工エネルギーが1.25nJ/pulseのときの加工結果を示す。
ビーム(フェムトシングルパルスCS、フェムトパルストレインPT1、フェムトパルストレインPT2)の加工エネルギー及び波形によって、形成された穴の面積(加工面積)及び穴の深さ(加工深さ)が変化していることが確認できた。同じ加工エネルギーのフェムトパルストレインPT1とフェムトパルストレインPT2とフェムトシングルパルスCSとを比較する。
次に、図24を参照して、加工レートについて説明する。図24は、比較例及び実施例1に係る加工レートを示す図である。図24において、横軸は加工エネルギー(nJ/pulse)を示し、縦軸は、加工レート(pm/pulse)を示す。加工レートは、単位パルス(pulse)当たりの穴の深さ(pm(ピコメートル))である。
同じ加工エネルギーでも、フェムトパルストレインPT1及びフェムトパルストレインPT2による加工レートは、フェムトシングルパルスCSによる加工レートより高くなった。図13〜図15を参照して説明したように、パルスP2のエネルギー伝達効率が高いためである。例えば、1.88nJ/pulseの加工エネルギーでは、フェムトパルストレインPT2による加工レートは、フェムトシングルパルスCSによる加工レートの約5倍である。従って、フェムトパルストレインPT2による加工では、フェムトシングルパルスCSによる加工と比較して、1/5のエネルギーで同じ量の加工が可能である。従って、一般的なフェムト秒レーザー加工と比較して、レーザー装置3の使用電力を大幅に削減可能であり、工業上有用である。
また、1.88nJ/pulse以上で、フェムトパルストレインPT2による加工レートが、フェムトパルストレインPT1による加工レートより高くなった。フェムトパルストレインPT2によってコヒーレントフォノンの振動が強められたことにより、エネルギーの伝達効率が向上したため、穴の深さが大きくなったと考えられる。穴の深さは加工レートを示す指標の一例である。
次に、図25を参照して、加工精度について説明する。図25は、比較例及び実施例1に係る加工精度を示す図である。図25において、横軸は加工エネルギー(nJ/pulse)を示し、縦軸は、加工面積(μm2)を示す。加工面積は形成された穴の面積である。同じ加工エネルギーでも、フェムトパルストレインPT1による加工面積が、フェムトパルストレインPT2による加工面積よりも小さい傾向が確認できた。フェムトパルストレインPT1によってコヒーレントフォノンの振動が弱められたことにより、格子温度が下降し、コヒーレントフォノンCPの抑制された振動エネルギーが加工に利用されたため、穴の面積が小さくなったと考えられる。穴の面積が小さいほど、加工精度が高い。従って、フェムトパルストレインPT1による加工精度は、フェムトパルストレインPT2による加工精度より高い。加工面積は加工精度を示す指標の一例である。
[光学系の仕様]
図8を参照して、本実施例1で使用した光学系の仕様を説明する。レーザー発振器LAのレーザー媒質、中心波長、及び繰り返し周波数は、それぞれ、Ti(チタン):sapphire(サファイヤ)、800nm、及び80MHzである。
波形整形部9の回折格子の溝、ブレーズ波長、及びブレーズ角は、それぞれ、1200(lines/mm)、750nm、及び26°44分である。回折効率(800nm)は、S偏光で約79%、P偏光で約45%、平均で約63%である。レンズ13aは、近赤外域用アクロマティック複レンズである。直径及び焦点距離は、それぞれ、25.4mm及び200mmである。SLM15の画面サイズ、回折効率、画素数、変調度、fill factor、及びピクセル間隔は、それぞれ、19.66mm×19.66mm、80%〜95%、1×12,288(12,288active pixels)、2π、100%、及び1.6μmである。
加工装置5のミラーM7は、フェムト低分散ミラーである。適応波長及び反射率は、それぞれ、750nm〜850nm及び99.5%である。対物レンズ52の倍率、開口数(NA)、及び作動距離は、それぞれ、100、0.95、及び0.30mmである。
以上、図18及び図19を参照して説明したように、本実施例1によれば、自在にパルスPの間隔を変化させることによって、ゲルマニウムのコヒーレントフォノンの振動周期に合わせて、コヒーレントフォノンの振動を弱める間隔のパルスPを含むフェムトパルストレインPT1と、コヒーレントフォノンの振動を強める間隔のパルスPを含むフェムトパルストレインPT2とを生成できた。
また、図24及び図25を参照して説明したように、本実施例1によれば、振動を弱めるフェムトパルストレインPT1をゲルマニウムに照射した結果、加工面積が小さくなる傾向を確認できた(加工精度の向上)。一方、振動を強めるフェムトパルストレインPT2をゲルマニウムに照射した結果、加工深さが大きくなる傾向を確認できた(加工レートの向上)。これらの結果から、フェムトパルストレインに含まれるパルスの間隔を変化させることによって、加工特性(加工精度及び加工レート)を変化させることができる。
(実施例2)
[概要]
本発明の実施例2では、式(1)に基づいて、フェムトパルストレイン波形を生成するシミュレーションを行った。式(1)の右辺の各項は、フェムト秒パルスレーザーの縦モードqの電界を示している。本実施例2では、各縦モードqの位相相関関係を調整し、各縦モードに独立して初期位相を与えることで時間波形を整形する。そこで、式(1)の各縦モードqの位相遅れδφSLMqに任意の値を代入して、フェムトパルストレイン波形を算出した。
具体的には、各縦モードqの位相遅れδφSLMqを示す値として、位相パターンを入力した。三種類の位相パターンを用意した。各位相パターンは、図6を参照して説明した実施形態1の適用M系列(連結M系列)の要素(項)kにπ(ラジアン)を乗じ、適用M系列(連結M系列)を繰り返すことによって作成された。
[シミュレーション結果]
図26〜図28を参照して、本実施例2に係るシミュレーション結果について説明する。図26(a)は、位相パターンPP3を示す波形図である。図26(b)は、位相パターンPP3に基づき計算されたフェムトパルストレイン波形ST3を示す図である。
図27(a)は、位相パターンPP4を示す波形図である。図27(b)は、位相パターンPP4に基づき計算されたフェムトパルストレイン波形ST4を示す図である。図28(a)は、位相パターンPP5を示す波形図である。図28(b)は、位相パターンPP5に基づき計算されたフェムトパルストレイン波形ST5を示す図である。
位相パターンPP3は、適用M系列において、要素k=0.787、モード数MN=15と設定することによって作成された。位相パターンPP4は、適用M系列において、要素k=0.543、モード数MN=15と設定することによって作成された。位相パターンPP5は、適用M系列において、要素k=1、モード数MN=30と設定することによって作成された。
図26(b)では、フェムトパルストレイン波形ST3の中央のパルスに対して半分の振幅のパルスが850fs間隔で前後に連なっている。ここで、中央のパルスの振幅に対する前後のパルスの振幅の割合を振幅比Rと定義する。図26(b)では、振幅比Rは0.5である。図27(b)では、フェムトパルストレイン波形ST4の中央のパルスに対して半分よりもさらに小さい振幅のパルスが850fs間隔で前後に連なっている。振幅比Rは0.1である。
図26(b)の波形ST3と図27(b)の波形ST4とを比較すると、パルスの間隔は同じであるが、図27(b)の中央のパルスの前後のパルスの振幅は、図26(b)の中央のパルスの前後のパルスの振幅より小さい。つまり、要素kの値が変わってもパルスの間隔は変化しないが、要素kの値が小さいほど、振幅比Rが小さくなることが分かった。
図28(b)では、フェムトパルストレイン波形ST5の中央のパルスは非常に小さいが、前後のパルスがガウス分布の包絡線を描くように400fs間隔で連なっている。振幅比Rは10である。
図28(b)の波形ST5と図26(b)の波形ST3及び図27(b)の波形ST4とを比較すると、モード数MNを2倍にすると、フェムトパルストレイン波形に含まれるパルスの間隔が1/2になることが分かった。
次に、図8、図26(c)、図27(c)、及び図28(c)も参照して、実際にフェムトパルストレインPT3〜フェムトパルストレインPT5を生成した例を説明する。図26(c)は、位相パターンPP3をSLM15に入力して実際に生成されたフェムトパルストレインPT3を示す波形図である。図27(c)は、位相パターンPP4をSLM15に入力して実際に生成されたフェムトパルストレインPT4を示す波形図である。図28(c)は、位相パターンPP5をSLM15に入力して実際に生成されたフェムトパルストレインPT5を示す波形図である。
なお、図26(c)、図27(c)、及び図28(c)では、それぞれ、フェムトパルストレイン波形ST3、フェムトパルストレイン波形ST4、及びフェムトパルストレイン波形ST5を、スケールを調整して、破線で示している。
図26(c)では、中央のパルスの振幅に対して左のパルスの振幅は小さく、フェムトパルストレインPT3は、フェムトパルストレイン波形PT3と似ているが、左のパルスの大きさは1/4となっている。図27(c)では、フェムトパルストレインPT4に、フェムトパルストレイン波形PT4と同じ振幅比Rの2つのパルスが確認できた。図26(c)と図27(c)とでは、パルスの間隔が共に1.5psとなったが、要素kの値を変えることによって振幅比Rだけが変わるフェムトパルストレインを発生させることができた。
図28(c)では、フェムトパルストレインPT5の振幅がフェムトパルストレイン波形ST5のようにガウス分布の包絡線を描く波形になった。また、パルスの間隔は266fsであり、フェムトパルストレイン波形ST5よりパルスの間隔が短いフェムトパルストレインPT5が発生した。この相互相関波形はフェムトパルストレインとフェムトシングルパルスとの干渉光を測定した結果であるため、フェムトシングルパルスの時間幅(250fs)が大きく影響する。図28(c)では、パルスの間隔が266fsであることを考えると、パルスの強度が弱い箇所でも干渉光が検出されてしまい、ピークのコントラストが低下したと推測される。従って、実際にはシミュレーション結果と近い波形が得られたと考えられる。
以上、図26〜図28を参照して説明したように、本実施例2によれば、SLM15に入力するための位相パターンPPを調整することにより、フェムトパルストレインPTに含まれるパルスの間隔と振幅とを制御できることが確認できた。具体的には、要素kの値が小さいほど、フェムトパルストレインPTに含まれる最初のパルスの振幅は小さくなった。また、モード数MNが大きいほど、フェムトパルストレインPTに含まれるパルスの間隔は小さくなった。
なお、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば、以下のような変形も可能である。
(1)図8に示した実施形態2に係るレーザー加工装置1において、レーザー部7はビームエキスパンダーを備えることもできる。ビームエキスパンダーは、レーザー発振器LAとミラーM1との間に配置される。この場合は、ビームエキスパンダーとレーザー発振器LAとの間に、2次分散を補償するための光学部品を配置することが好ましい。また、波形整形部9には、3次分散を補償するための光学部品を配置することが好ましい。
(2)図8に示した実施形態2に係るレーザー加工装置1において、被加工物TAを加工する時には、光(フェムトパルストレインPT)の利用効率を向上させるため、ハーフミラーHM3を取り除き、フェムトパルストレインPTの全てを加工装置5に与えることが好ましい。
(3)図18、図19、及び図26〜図28に示した位相パターンPPは、適用M系列(連結M系列)を繰り返すことによって作成された。ただし、各位相パターンPPの波形を観察すると、各位相パターンPPが、複数の周期的なパターンを含むことを確認できる。各位相パターンPPにおいて、複数の周期的なパターンは互いに異なっている。図26〜図28に示す各位相パターンPPを構成する複数の周期的なパターンの包絡線が示すレベル(位相)は一定である。包絡線が示すレベルが小さいほど(要素kの値が小さいほど)、フェムトパルストレインPTに含まれる最初のパルスPの振幅を小さくできる。
一方、図18及び図19に示す各位相パターンPPを構成する複数の周期的なパターンの包絡線が示すレベル(位相)は非一定である。非一定にすることによって、分散補償を行っている。なお、図18及び図19では、具体的には、包絡線は傾斜している。
また、位相パターンPPは、図18、図19、及び図26〜図28に示した規則的な位相パターンPPに限定されない。位相パターンPPは、不規則なパターンを含んでもよい。
(4)図6を参照して説明した適用M系列(連結M系列)は、基礎数列の一例である。基礎数列は、単数又は複数の一定要素(例えば、適用M系列の要素0)と、単数又は複数の変数要素(例えば、適用M系列の要素k)とを含む。位相パターンPPは、基礎数列を繰り返し配列することによって作成することができる。なお、一定要素と変数要素とを区別して説明する必要がないときは、単に「要素」と記載する。変数要素を変えることによって、フェムトパルストレインPTに含まれるパルスPの振幅を調整できる。また、基礎数列を構成する要素の数を変えることによって、基礎数列の周期を変更できる。基礎数列の周期を変更することによって、フェムトパルストレインPTに含まれるパルスPの間隔を調整できる。
(5)図20を参照して説明した実施例1では、被加工物TAは、ゲルマニウムであった。ただし、被加工物TAは、ゲルマニウムに限定されない。パルスを照射して特定の格子振動(例えば、コヒーレントフォノン)を励起できる物質であればよい。例えば、被加工物TAは、他の半導体(例えば、シリコン)である。被加工物TAは、化合物半導体(例えば、ガリウム砒素)でもよい。また、被加工物TAは、金属(例えば、金属薄膜)でもよい。被加工物TAは、透明材料(例えば、シリカガラス、ポリマー)でもよい。被加工物TAは、誘電体でもよい。
(6)実施形態1〜実施形態4において、1つのフェムトパルストレインPTに含まれる各パルスPは、光絶縁破壊を起こすために必要なエネルギー又はパルス幅を有する。また、1つのフェムトパルストレインPTに含まれる少なくとも最初のパルスPは、光絶縁破壊を起こしてコヒーレントフォノンCPを励起するために必要なエネルギー又はパルス幅を有する。なお、フェムトパルストレインPTの生成方法は、実施形態1及び実施形態2で説明した波形整形部9による生成方法に限定されず、例えば、フェムトシングルパルスをミラーで複数に分け、時間をずらして出力することによって生成できる。
(7)実施形態1〜実施形態4では、パルスPによって励起される格子振動として、コヒーレントフォノンCPを説明した。そして、コヒーレントフォノンCPは調和振動を行う。ただし、コヒーレントフォノンCPに限定されず、調和振動を行う他の格子振動を励起してもよい。
本発明は、半導体基板のダイシング及びステルスダイシング、半導体及び金属の表面加工、金属薄膜の加工(例えば、表面加工)、誘電体の多層膜の加工、及び透明材料の加工など、様々な分野に利用可能である。
1 レーザー加工装置
3 レーザー装置
5 加工装置
7 レーザー部
9 波形整形部
11a 回折格子
11b 回折格子
13a レンズ
13b レンズ
15 空間光変調器(SLM)
20 波形測定装置
40 コヒーレントフォノン検出装置
TA 被加工物
SP フェムトシングルパルス
PT フェムトパルストレイン
PT1〜PT5 フェムトパルストレイン
P パルス
P1 パルス(第1パルス)
P2 パルス(第2パルス)
PP 位相パターン
PP1〜PP5 位相パターン
PN フォノン
PO フォトン
e 電子

Claims (15)

  1. 被加工物にレーザー光を照射して前記被加工物を加工するレーザー加工装置であって、
    パルストレインを含む前記レーザー光を生成するレーザー手段と、
    前記パルストレインを前記被加工物に照射する加工手段と
    を備え、
    前記パルストレインは、複数のパルスを含み、前記複数のパルスは、前記被加工物において励起される格子振動の周期のオーダーのパルス間隔を有する、レーザー加工装置。
  2. 前記加工手段は、前記パルストレインの前記複数のパルスのうち最初のパルスによりコヒーレントフォノンを励起し、
    前記パルス間隔は、前記コヒーレントフォノンの周期のオーダーである、請求項1に記載のレーザー加工装置。
  3. 前記レーザー手段は、前記パルス間隔が前記コヒーレントフォノンの周期の整数倍になるように前記パルストレインを生成する、請求項2に記載のレーザー加工装置。
  4. 前記レーザー手段は、前記パルス間隔が前記コヒーレントフォノンの半周期の奇数倍になるように前記パルストレインを生成する、請求項2に記載のレーザー加工装置。
  5. 前記レーザー手段は、
    パルス幅がフェムト秒のオーダーであるシングルパルスを生成するレーザー部と、
    前記シングルパルスの波形を整形して、前記パルストレインを生成する波形整形部と
    を含み、
    前記波形整形部は、
    入力された位相パターンに従って、前記シングルパルスをフーリエ変換して得られた複数の周波数成分に対して位相変調を実行する位相変調手段を含み、
    前記位相パターンは、複数の周期的なパターンを含み、前記複数の周期的なパターンは互いに異なっている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレーザー加工装置。
  6. 前記レーザー手段が生成した前記パルストレインの波形を測定する波形測定手段をさらに備える、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のレーザー加工装置。
  7. 前記被加工物において励起された前記格子振動を検出する格子振動検出手段をさらに備える、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のレーザー加工装置。
  8. 前記加工手段は、前記複数のパルスによって起こる光絶縁破壊によるエネルギー伝達を実行する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のレーザー加工装置。
  9. 前記加工手段は、前記複数のパルスのうちの第1パルスを前記被加工物に照射して、格子振動を励起し、前記格子振動の励起されている時に、前記複数のパルスのうち前記第1パルスに後続する第2パルスを前記被加工物に照射し、
    前記第2パルスは、前記第2パルスが照射される前よりも高い振動数の帯域で前記被加工物の電子を振動させ、光絶縁破壊によって前記高い振動数の帯域で振動する電子に光エネルギーを伝達し、
    前記光エネルギーが伝達された電子の振動エネルギーは、前記励起された格子振動の振動エネルギーに変換される、請求項8に記載のレーザー加工装置。
  10. 被加工物にレーザー光を照射して前記被加工物を加工するレーザー加工方法であって、
    パルストレインを含む前記レーザー光を生成する工程と、
    前記パルストレインを前記被加工物に照射する工程と
    を含み、
    前記パルストレインは、複数のパルスを含み、前記複数のパルスは、前記被加工物において励起される格子振動の周期のオーダーのパルス間隔を有する、レーザー加工方法。
  11. 前記照射する工程は、
    前記複数のパルスのうちの第1パルスを前記被加工物に照射して、格子振動を励起する工程と、
    前記格子振動が励起されている時に、前記複数のパルスのうち前記第1パルスに後続する第2パルスを前記被加工物に照射する工程と、
    前記第2パルスによって、前記第2パルスが照射される前よりも高い振動数の帯域で前記被加工物の電子を振動させる工程と、
    前記第2パルスによって光絶縁破壊を起こし、前記高い振動数の帯域で振動する電子に前記第2パルスの光エネルギーを伝達する工程と、
    前記光エネルギーが伝達された電子の振動エネルギーを前記励起された格子振動の振動エネルギーに変換する工程と
    を含む、請求項10に記載のレーザー加工方法。
  12. 前記励起する工程は、各々が前記被加工物の格子定数で規定される異なる複数の振動数から選択された振動数で調和振動を行うように前記格子振動を励起する、請求項11に記載のレーザー加工方法。
  13. 被加工物に複数のパルスを含むレーザー光を照射して前記被加工物を加工するレーザー加工方法であって、
    前記複数のパルスのうちの第1パルスを前記被加工物に照射して、格子振動を励起する工程と、
    前記格子振動が励起されている時に、前記複数のパルスのうち前記第1パルスに後続する第2パルスを前記被加工物に照射する工程と、
    前記第2パルスによって、前記第2パルスが照射される前よりも高い振動数の帯域で前記被加工物の電子を振動させる工程と、
    前記第2パルスによって光絶縁破壊を起こし、前記高い振動数の帯域で振動する電子に前記第2パルスの光エネルギーを伝達する工程と、
    前記光エネルギーが伝達された電子の振動エネルギーを前記励起された格子振動の振動エネルギーに変換する工程と
    を含む、レーザー加工方法。
  14. 被加工物にレーザー光を照射して前記被加工物を加工し、前記被加工物から加工物を製造する方法であって、
    パルストレインを含む前記レーザー光を生成する工程と、
    前記パルストレインを前記被加工物に照射する工程と
    を含み、
    前記パルストレインは、複数のパルスを含み、前記複数のパルスは、前記被加工物において励起される格子振動の周期のオーダーのパルス間隔を有する、加工物の製造方法。
  15. 前記照射する工程は、
    前記複数のパルスのうちの第1パルスを前記被加工物に照射して、格子振動を励起する工程と、
    前記励起された格子振動が消滅する前に、前記複数のパルスのうち前記第1パルスに後続する第2パルスを前記被加工物に照射する工程と、
    前記第2パルスによって前記第2パルスが照射される前よりも高い振動数の帯域で前記被加工物の電子を振動させる工程と、
    前記第2パルスによって光絶縁破壊を起こし、前記高い振動数の帯域で振動する電子に前記第2パルスの光エネルギーを伝達する工程と、
    前記光エネルギーが伝達された電子の振動エネルギーを前記励起された格子振動の振動エネルギーに変換する工程と
    を含む、請求項14に記載の加工物の製造方法。
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