≪実施形態1≫
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各実施形態に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付記し、適宜その説明を省略する。
〔用語の定義〕
本発明の説明において用いる用語を以下のように定義する。
「立木」・・・森林内に立っている状態の樹木全体。
「丸太」・・・伐り倒した立木の幹の部分を利用する長さに切ったもの。原木と呼ばれることもある。
「採材」・・・伐り倒した立木を丸太に切り分ける方法および作業。
「採材位置」・・・伐り倒した立木において、丸太を切り出す樹幹上の切断位置。
「木口」・・・丸太の長手方向に垂直に切断した横断面。
「元口」・・・丸太の根元側の木口。
「末口」・・・丸太の梢側の木口。
「末口径」・・・末口の直径。立木は根元から梢に向かうにしたがって細くなるため、丸太の末口側の直径が元口側よりも小さくなる。このことから末口側の直径を採材の際の直径の基準とすれば採材後に寸足らずになる危険性が回避できるため、丸太直径の基準として利用されている。
「末口半径」・・・末口の半径。末口径(直径)の半分の長さ。
「元玉」・・・立木から切り出される丸太のうち、立木の根元に最も近いもの。元玉より後は、根元に近いものから順に番号で、二番玉、三番玉…と呼ばれる。
「元玉元口高」・・・元玉の元口(根元)側の高さ。採材の出発点となる。伐採に際しては倒す方向をコントロールするために切断面に特殊な段差をつける。この段差は伐採後に切り落として木口面を平面にするが、その高さが元玉元口高となる。そのため、元玉元口高は伐採する高さ(伐採高)よりも高い位置となる。
「余尺」・・・立木から切り出される丸太(玉)と丸太との間に切りしろとして確保される立木の樹幹の長手方向の長さ。
「直材」・・・曲りが少なく(あるいは無く)、まっすぐな、あるいは、まっすぐとみなしてよい丸太を指す。何をもって「直材」と判定するのかについては、後述する判定規則による。例えば、図3に示す規格(判定規則)に基づいて曲り区分が判定される場合、「直材」とは、「A(直)」または「1等級」と判定される丸太を指す。上記規格に基づかないで、後述の許容矢高上限値のような特殊用途に応じた個別の曲り判定基準を用いる場合は、「直材」とは、算出された最大矢高が許容矢高上限値以内の丸太を指す。
「許容矢高上限値」・・・長尺材は、製材品としての梁・桁材のサイズから逆算される丸太の木取り(円錐台である丸太から直方体である角材や板材を効率よく切り出す位置および組み合わせのパターン)想定から個別に求められる最大矢高の上限値のこと。曲りの許容限度値として用いる。
〔概要〕
図2の(a)は、立木101の幹の形状(外形)を円群データにより示す図である。円群データは、立木の幹の形状を示す三次元座標の情報であり、立木ごとに生成される。立木の形状は、図2の(a)に示すように、立木101の幹の高さ方向に任意の間隔(例えば10cm)ごとに輪切りにし、その木口形状を所定の規則で丸めることにより得られた円Cの集合で表される。円群データの取得方法の一例が、例えば、非特許文献3に開示されている。具体的には、これに限定されないが、レーザスキャナにより計測された立木の幹上の点(三次元座標化された点)の群である点群データから、内接円近似を行って各円が生成される。各円Cは、地表面からの高さを示すz座標と、円の中心座標(x、y座標)と、円の半径とによって定義される。各実施形態では、円Cを正円として説明するが、これに限定されず、例えば楕円であってもよい。あるいは、円に限定されず、上記木口形状が少なくとも3点の座標情報によって定義されていてもよい。円群データによれば、各円Cのz座標のうちの最大値によって、立木の幹の全長が示される。なお、円群データには、図示しないが、立木ごとに立木を一意に識別するための立木IDが関連付けられており、さらに、任意の土地(例えば林分)における当該立木の位置を示す相対位置座標が関連付けられていてもよい。
ところで、立木101には、周囲の環境等の影響により、曲りが生じることがある。特に、立木101の根元に近い部位ほど曲りが生じやすい。一般的に、立木から切り出される丸太の価値は、丸太の材積や材長にもよるが、曲りの少ない丸太ほど高く見積もられる。このため、立木101から切り出される丸太が曲りの少ない(あるいは無い)直材となるように、立木101の採材位置を決定することが重要である。以下の各実施形態では、丸太の曲りの程度を、丸太の最大矢高により求める。
図2の(b)は、丸太100の最大矢高hを説明するための図である。各実施形態では、丸太100の曲りは1箇所であることを想定している。図2の(b)に示すように、元口の外周上の点Aと末口Cの外周上の点Bとを結び、丸太100の内曲面fと弦ABとの間で距離が最大となるh(すなわち、弦ABから内曲面fに垂直におろした線の長さの最大値)を最大矢高hとする。なお、最大矢高hを得るための上記弦ABを特定するための点Aおよび点Bは、元口および末口の外周において同じ水平方位の点であり、図5を参照して後述する矢高算出方法の過程で一意に定められる。各実施形態において、上記最大矢高は、曲り判定の指標として単独で使用されてもよいし、または、末口径や材長とともに関数で使用されてもよい。
従来、最大矢高hは、立木を実際に伐採して立木から丸太を切り出した後、メジャー等で計測することにより求められていたが、各実施形態では、伐倒前の立木の状態で丸太100の最大矢高hを算出することが可能である。最大矢高hの算出方法の詳細は、図5を用いて後述する。
図2の(c)は、立木101から切り出される丸太を説明する図である。図2の(c)に示すように、立木101から切り出される丸太のうち、立木101の根元に最も近いものは元玉と呼ばれ、言わば一番玉である。上記元玉より後は、根元に近いものから順に番号で、二番玉、三番玉…と呼ばれる。
各実施形態では、採材支援装置は、立木101の採材位置を、円群データ上で模擬的に指定し、当該採材位置により特定される各丸太(玉)について最大矢高を算出し、算出した最大矢高を用いて丸太の曲りの程度を示す区分(以下、曲り区分)を判定する。そして、算出した最大矢高および判定した曲り区分を用いて、立木の価値がより高くなるように立木101の丸太の採材位置を決定する。採材位置とは、すなわち、図2の(c)に示される各玉の元口の位置および末口の位置である。
〔曲り区分判定〕
図3の(a)は、丸太の最大矢高に応じて、丸太の曲り区分A〜Dを判定するための判定規則の具体例を示す表である。同図の判定規則によれば、最大矢高が20mm以下の丸太は、曲りがほとんどない直材(A区分)と判定され、最大矢高が20mmより大きく45mm以下の丸太は、曲りの程度が小さい小曲り材(B区分)と判定され、最大矢高が45mmより大きく100mm未満の丸太は、曲り材(C区分)と判定され、最大矢高が100mm以上の丸太は、曲りの程度が大きすぎて製材品として活用できないため、チップ材(D区分)と判定される。なお、最大矢高の上記閾値は、丸太の材長に応じて変更されてもよい。例えば、丸太の材長が長くなるにつれて、最大矢高の基準を緩めて大きい値に設定してもよい。
図3の(b)は、ログハウス仕様に準拠した曲り区分判定規則の一例である。この例では、丸太の曲りの程度を、最大矢高を材長で除したものの百分率(最大矢高/材長×100(%))で表す。同図の判定規則によれば、曲りの程度が0.3%未満の丸太は直材(A区分)と判定され、曲りの程度が0.3%以上0.8%未満の丸太は小曲り材(B区分)と判定され、曲りの程度が0.8%以上の丸太は曲り材(C区分)と判定される。
図3の(c)は、JAS(Japanese Agricultural Standard、日本農林規格)仕様に準拠した曲り区分判定規則の一例である。この例では、丸太の末口直径に応じて丸太の大きさを小・中・大の素材に分け、素材ごとに丸太の曲りの程度に応じた等級が定められている。等級1等〜3等は、それぞれ、上述の曲り区分A〜Cに相当する。また、丸太の曲りの程度を、最大矢高を末口直径で除したものの百分率(最大矢高/末口直径×100(%))で表す。同図の判定規則によれば、末口直径が14cm未満の丸太(小の素材)の場合、曲りの程度が25%以下の丸太は1等と判定され、曲りの程度が25%より大きい丸太は2等と判定される。末口直径が14cm以上30cm未満の丸太(中の素材)の場合、曲りが1つで曲りの程度が10%以下の丸太は1等と判定され、曲りの程度が10%より大きく30%以下の丸太は2等と判定され、曲りの程度が30%より大きくなる丸太は3等と判定される。なお、上述の等級や区分および曲りの程度の閾値は、木の種類(スギ、ヒノキ、その他の針葉樹など)に応じて変更されてもよい。
なお、図3の(a)〜(c)に示す判定規則は、発明の理解を容易にすることを目的として挙げられた具体例に過ぎない。すなわち、上記各具体例は、本発明において、図3の(a)〜(c)に示す判定規則以外の判定規則を任意に定め、それを適用するということを排除する意図はない。例えば、後述の実施形態2では、図3の(a)〜(c)に示す判定規則とは異なる規則(許容矢高上限値)を使用して、丸太の曲り区分が判定される。
〔採材支援装置1の構成〕
図1は、本発明の一実施形態に係る採材支援装置1の要部構成を示すブロック図である。採材支援装置1は、少なくとも、制御部10および記憶部11を備え、好ましくは、さらに、操作部12および表示部13を備えている構成である。
制御部10は、採材支援装置1が有する各種の機能を統括的に制御する。制御部10は、機能ブロックとして、少なくとも、円群データ処理部20、採材位置模擬部22、矢高算出部23、および採材位置決定部27、さらに、必要に応じて、条件設定部21、曲り区分判定部24および採材位置出力部28を含んでいる。機能ブロックは、例えば、CPUなどが、不揮発性の記憶装置(記憶部11)に記憶されているプログラムを不図示のRAM等に読み出して実行することで実現できる。記憶部11は、採材支援装置1が処理する各種情報を記憶するものであり、少なくとも、立木からより価値の高い丸太を切り出すための最適な採材位置を示す情報である最適採材位置11aを含んでいる。操作部12は、採材支援装置1を動作させるための指示信号をユーザが入力するものであり、例えば、採材支援装置1に電気的に接続された、マウス、キーボード、タッチパネルなどで構成されている。表示部13は、記憶部11に記憶されている各種データをユーザが視認可能なように表示するものであり、例えば、LCD(液晶ディスプレイ)などの表示装置で構成される。
円群データ処理部20(座標情報取得部)は、円群データ(座標情報)を取得して、円群データに対して必要に応じて欠損データ補間処理およびスムージング処理を実行するものである。欠損データ補間処理およびスムージング処理の詳細については、図4にて後述する。
条件設定部21は、ユーザにより指定された、立木から丸太を切り出す際の採材に係る制約を、採材位置の模擬に使用する条件として、操作部12を介して受け付けるものである。本実施形態では、条件設定部21は、可変値として元玉元口高の条件と、固定値として余尺および材長の条件とを受け付ける。
元玉元口高は、元玉における元口の地表面からの高さ(元口位置)であり、例えば、その下限値は0.5(m)および上限値は2(m)と設定することができる。余尺は、二番玉以降の元口と直下の玉の末口との間の樹幹長手方向における長さであり、余尺は0m以上3m未満の範囲内で設定することができる。材長は、丸太の元口位置から、当該丸太の梢側の採材位置(末口位置)までの長さを意味し、例えば、3m、4m、および、6mと設定することができる。なお、余尺は、丸太の所望の長さである材長を確保するための切りしろとして任意の固定値を用いてもよい。本実施形態では、余尺を固定値0.1mに設定するものとする。
採材位置模擬部22は、円群データ処理部20によって取得された円群データを用いて、立木から切り出し可能な丸太の採材位置を、条件設定部21により設定される条件に従って模擬的に指定するものである。
矢高算出部23は、採材位置模擬部22によって指定された採材位置を採用した場合に切り出される丸太について、曲りの程度を示す最大矢高を算出するものである。
曲り区分判定部24(評価部)は、矢高算出部23によって算出された最大矢高に基づいて丸太の曲り区分を判定するものである。曲り区分については、図3を参照して説明したとおりであるが、単純には、曲り区分判定部24は、丸太が直材(A区分または1等)か直材でない(A区分または1等以外)かを判定するのみであってもよい。
採材位置決定部27は、曲り区分判定部24により判定された丸太のうち、価値が最も高い丸太を切り出すための採材位置を、立木に適用する最適採材位置として決定するものである。採材位置決定部27は、決定した最適採材位置を、最適採材位置11aとして記憶部11に格納する。
採材位置出力部28は、記憶部11に保存されている最適採材位置11aをユーザに対して提示するものである。例えば、採材位置出力部28は、最適採材位置11aをユーザが視認可能な情報に成形して表示部13に出力する。
〔欠損データ補間処理〕
円群データ処理部20が実行する欠損データ処理について説明する。立木の形状をレーザスキャナ等で計測する際、部分的に点群が欠損する場合がある。この場合、円群データにおいて一部の円が欠損し、最大矢高の算出ができないという問題が生じる。欠損データ補間処理では、欠損した円を補間して、上記問題を解決する。
円群データ処理部20は、円の欠損が生じている箇所について、当該箇所の直下(根元側)にある円、および当該箇所の直上(梢側)にある円の情報を用いて、円の中心の座標(x、y、z座標)、および、半径のそれぞれについて線形補間を実行する。例えば、補間対象箇所が連続していない場合、補間対象箇所の直下の円の中心座標(x、y、z座標)と直上の円の中心座標(x、y、z座標)とを結ぶ線分上の中央の点を、補間対象円の中心座標(x、y、z座標)として取得したり、直下の円の半径と直上の円の半径の平均値を補間対象円の半径として取得する。
上記の様に、欠損データ補間処理を行うことにより、立木を等間隔(例えば10cm間隔)で輪切りにした円の集合を欠落なく含む円群データが作成され、丸太の最大矢高算出を適切に行うことが可能となる。
〔スムージング処理〕
円群データ処理部20が実行するスムージング処理について、図4の(a)〜(b)を参照しながら説明する。図4の(a)は、スムージング処理前の円群データに基づいての立木の横から見たときの外形ラインを再現した図であり、図4の(b)は、スムージング処理後の円群データに基づいて立木の外形ラインを再現した図である。図4の(a)に示すように、円群データは、1本の立木として不自然な形となる(幹が先細りの形にならない)位置または大きさを持つ円(外れ値)を含むことがある。このように円が不自然にばらつくのは、枝の形状に影響を受けた計測誤差が原因と考えられる。この円の不自然なばらつきを、外れ値の影響を受けにくい手法(スムージング処理)により平滑化する。本スムージング処理では、各円の中央値を求める手法を採用している。
図4の(c)は、スムージング処理前の円群データの一部を示す図である。図4の(c)に示すように、円C1〜C5は、例えば10cm間隔で、上からz座標が高い順に並んでいる。円C1〜C5によれば、立木の外形ラインは先細りとなっていないため、外れ値である円が含まれていると考えられる。このため、スムージング処理を行うことにより、円群データが示す立木の外形ラインを実際の立木の外形ラインに近づける。
以下、円C3をスムージングの対象円とする場合について説明する。まず、円群データ処理部20は、スムージング処理に用いる参考円として、対象円に近い円を上下からそれぞれ2つずつ取得する(円C1〜C2、および、円C4〜C5)。なお、取得する参考円の個数を上下それぞれ2つとしたがこれは一例であって任意の数の参考円を取得すればよい。参考円の個数が多いほど、処理負荷が増大するが、スムージング処理後の円群データは実際の立木の幹形状に近づくというメリットがある。
まず、円C3の半径のスムージング処理を説明する。図4の(d)は、円の半径のスムージング処理を説明するための概念図である。同図に示すとおり、図4の(c)に示す円C1〜C5を上から半径の短い順に並べ替えると、半径の中央値がr1と判明する。この円C1が持つ半径r1を、スムージング処理後の対象円C3の半径とする。次に中心座標のスムージング処理を説明する(不図示)。対象円C3の中心のx座標は、スムージング処理後、円C1〜C5の中心の各x座標を昇順(または降順)に並べたときに中央値に該当するx座標に置き換わる。対象円C3の中心のy座標も同様に、円C1〜C5の中心の各y座標の中央値に置き換わる。このようなスムージング処理を円群データに含まれる各円を対象として繰り返し実行する。なお、スムージング処理に用いる参考円の円群データは、スムージング処理前の円群データであり、したがって、先のスムージング処理によって値が置き換わった円の情報が後のスムージング処理に影響することはない。スムージング処理は、上述した欠損データ補間処理の後に行うことが好ましい。
スムージング処理を行うことにより、円群データが示す立木の外形ラインを、図4の(a)に示すような不自然な凹凸が顕著な状態から、図4の(b)に示すように平滑な状態にすることができ、実際の立木の外形ラインに近づけることができる。このため、立木の価値の見積もりをより一層精度良く行うことが可能となる。
〔矢高算出方法〕
矢高算出部23が実行する矢高算出方法について、図5の(a)〜(c)を参照しながら説明する。図5の(a)〜(c)は、丸太の最大矢高を算出する方法を説明する図である。図5の(a)に示すように、まず、1つの丸太における元口円Caと末口円Cbとの間に位置する複数の円の中から、矢高算出の対象として注目する注目円Cnを1つ選定する。そして、元口円Caの中心、末口円Cbの中心、および注目円Cnの中心の3点を通る平面αを特定する。
次に、図5の(b)に示すように、平面αと元口円Caの円周との2交点のうち注目円Cnから遠い位置にある方の交点A(第1交点)と、平面αと末口円Cbの円周との2交点のうち注目円Cnから遠い位置にある方の交点B(第2交点)とを結ぶ線分ABを特定する。
そして、図5の(c)に示すように、平面αと注目円Cnの円周との2交点のうち線分ABに近い位置にある方の交点N(第3交点)を特定し、交点Nから線分ABに下ろした垂線NHの長さを注目円Cnの矢高hnとする。なお、注目円Cnの交点Nが線分AB上にある場合、矢高hnは0となる。
以上のような、1つの円について矢高を算出する処理を、元口円Caと末口円Cbとの間に位置する全ての円Cについて繰り返す。そして、各円について算出した矢高hnのうちの最大値を最大矢高hとして決定する。上記方法によれば、元口円、末口円、および、注目円のそれぞれの中心3点を通る平面を特定することにより、容易に、上記注目円における最も大きい矢高が得られる場合の丸太の仮想接地点(すなわち、上記交点Aおよび上記交点B)を得ることができる。結果として、従来のような計算量の多いシミュレーションを行わずとも、簡易な手順で最大矢高を求めることができ、結果として、最大矢高算出の処理効率を大幅に向上させることが可能となる。
なお、図5の(c)を参照して、線分ABが注目円Cn内にある場合(線分ABが注目円Cnと交わる場合)、矢高算出部23は、垂線NHの長さの負の値を上記注目円Cnにおける矢高hnとして算出することが好ましい。線分ABが注目円Cnと交わるということは、丸太は、図2の(b)に示すように弧を描く形状で曲がっているわけではなく、樽のように中央が膨らんで両木口に向かって細くなっていく形状を有していると考えられる。よって、このような樽形状の丸太は、直材が採れる可能性があり、弧形状の丸太と同様に曲りの程度を評価することは望ましくない。そこで、矢高に負の値を持たせることで、樽型の丸太を弧形状の丸太と区別して評価することが可能となる。結果として、樽型も含む様々な形状の丸太に対応した採材支援装置を実現することが可能となる。
なお、円Cが楕円である場合は、別の手順によって最大矢高を求めてもよい。また、木口形状が円ではなく3点の座標で定義されている場合、当該3点を円周上に含む円を再現し、再現した円に基づいて、上述と同様の方法で最大矢高を算出すればよい。
なお、最大矢高hを算出する方法は、図5に示す方法に限定されない。例えば、図示しないが、矢高算出対象の丸太について、末口円の中心と元口円の中心を結ぶ直線と、注目円の中心を該円に対して垂直に通る直線との距離tを注目円ごとに求め、求めた距離tのうちの最大値を最大矢高hとして算出してもよい。この方法を用いる場合、丸太の曲りの程度は、上記最大矢高hを末口の直径で除したものの百分率により表される。
〔標準モード〕
図6は、本発明の実施形態1に係る採材支援装置1が実行する処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態では、玉間の余尺および材長を固定値とし、元玉元口高を可変値として、林分単位の任意の数の立木について最適採材位置を決定する標準モードである。林分とは、立木の種類や大きさがほぼ一様であって森林の取り扱いの単位となる、まとまった広さの土地と立木の集団を合わせたものを指す。したがって、林分単位の立木とは、所定の林分における全ての立木であり、例えば、数ヘクタール〜数十ヘクタール林分を1単位として、当該土地に生えている立木の集団である。
まず、円群データ処理部20は、林分単位のすべての立木について円群データを取得し、必要に応じて事前準備処理を行う(S1)。事前準備処理には、上述の欠損データ補間処理およびスムージング処理が含まれる。
次に採材位置模擬部22は、採材位置の模擬に使用する条件(シミュレーション条件)を取得する(S2)。具体的には、採材位置模擬部22は、条件設定部21が受け付けた固定値または可変値の条件(下限値/上限値)を取得したり、該可変値の初期化を行ったりする。本実施形態では余尺および材長が固定値であり、採材位置模擬部22は、上記条件として、例えば、余尺0.1mおよび材長4mをそれぞれ取得する。また、本実施形態では元玉元口高Hが可変値であるため、採材位置模擬部22は、上記条件として、例えば、元玉元口高Hの下限値0.5mおよび上限値2mを取得する。なお、本実施形態では、円群データにおける各円の高さ間隔が10cmであるので、元玉元口高Hの増分は、0.1mと設定されているものとする。採材位置模擬部22は、処理を簡略化するために、上記増分を0.1mより大きい値に設定してもよい。さらに、採材位置模擬部22は、ここで、模擬対象となるすべての立木を把握するために、各立木の円群データから立木IDを取得しておく。続いて、採材位置模擬部22は、S1にて取得された円群データを用いて、立木から切り出し可能な丸太の採材位置を上記条件に従って模擬的に指定する。具体的には、採材位置模擬部22は、S2にて取得した条件に従って元玉元口高Hを1つ取得する(S3)。初回は、例えば、元玉元口高Hの初期値、0.5mを取得する。また、採材位置模擬部22は、模擬対象となる立木について、S1にて取得された円群データに関連付けられている立木IDを1つ取得する(S4)。採材位置模擬部22が指定したこれらの可変値は、評価を行う下流の機能ブロック(矢高算出部23など)に都度通知される。
次に、矢高算出部23は、S4にて指定された立木について、S3にて指定された元玉元口高HとS2にて取得された条件(固定値)とにより特定される丸太の最大矢高を算出する(S5)。例えば、元玉については、元口位置が0.5mの場合、末口位置は、上記元玉元口高Hに材長4mが加算されて、4.5mと求まる。また、二番玉以降については、元口位置は、直下の玉の末口位置に余尺0.1mが加算されることによって求まり、末口位置は、上記元口位置に材長4mが加算されることによって求まる。このように元口位置と末口位置とが求まれば、図5にて説明したとおり、最大矢高が算出される。矢高算出部23は、1本の立木から上記固定材長4mの丸太が複数採れる場合は、採れる丸太の数だけ上記最大矢高の算出を繰り返す。1本の立木から4mの丸太が何玉採れるのかについては、採材位置模擬部22が模擬して矢高算出部23に通知すればよい。
この後、曲り区分判定部24は、S5にて最大矢高が算出された全ての丸太について、その最大矢高を用いて曲り区分を判定する(S6)。例えば、図3の(a)の判定規則を使用するという条件がS2にて取得されている場合には、曲り区分判定部24は、図3の(a)の判定規則を参照して、各丸太についてA〜D区分のいずれに該当するのかを判定する。曲り区分判定部24は、曲り区分判定結果11bを記憶部11に記憶する。曲り区分判定結果11bは、立木IDと、丸太を識別する玉番数(例えば元玉は「1」、二番玉は「2」)とに関連付けて曲り区分(A〜D区分のいずれか)が格納されている情報である。
採材位置模擬部22は、1本の立木につき模擬したすべての丸太について曲り区分判定結果11bが記憶部11に記憶されると、S2にて取得したすべての立木IDについて、S4からS6までの処理が行われたか否かを判定する(S7)。未処理の立木が残っていると判定された場合(S7にてNO)、採材位置模擬部22は、次の処理対象の立木IDを取得して(S4)、S5およびS6の処理を繰り返すよう下流の機能ブロックに通知する。
全ての立木IDについてS4からS6までの処理が行われたと判定された場合(S7にてYES)、採材位置決定部27は、立木ごとかつ丸太ごとに算出された最大矢高の平均値Avを算出する(S8)。より具体的には、まず、1本の立木から切り出される丸太全てについて最大矢高の平均値を算出してこれをその立木の最大矢高平均値とし、次に、各立木の上記最大矢高平均値の平均値を、その林分における、特定の元玉元口高Hを採用した場合の最大矢高の平均値Avとして算出する。そして、採材位置決定部27は、S8にて算出した平均値Avが、最適採材位置11aとしてすでに記憶されている最小平均値Avmより小さいか否かを判定する(S9)。
上記平均値Avが最小平均値Avmよりも小さいと判定される場合、すなわち、S3にて取得した元玉元口高Hについて新規に算出した平均値Avがこれまで算出した平均値Avのうちで最小値である場合(S9にてYES)、採材位置決定部27は、上記新規の平均値Avを最小平均値Avmとし、上記元玉元口高Hを、該最小平均値Avmが得られる元玉元口高Hmとして、該最小平均値Avmに関連付ける。そして、これらの情報を最適採材位置11aとして、既存の情報と置き換える(S10)。なお、ここで、記憶部11に格納されている最適採材位置11aが無い場合(S8で算出された新規の平均値Avが1つ目である場合)、採材位置決定部27は、S9にてYESと判定し、最小平均値Avmおよび元玉元口高Hmのセットを最適採材位置11aとして記憶部11に記憶する。一方、新規の平均値Avが既存の最小平均値Avmを下回らない場合(S9にてNO)、新規の平均値Avが得られる元玉元口高Hが最適な採材位置としては採用できないので、採材位置決定部27は、該新規の平均値Avを破棄する。
続いて、最適採材位置11aが更新されるかまたは新規の平均値Avが破棄されると、採材位置模擬部22は、現行の元玉元口高Hを、0.1m増分し(S11)、増分後の元玉元口高HがS2にて取得された上限値(2m)を超えているか否かを判定する(S12)。元玉元口高Hが上記上限値以下の場合(S12にてNO)、S3以降の処理が繰り返される。すなわち、採材位置模擬部22は、0.1m増分された新規の元玉元口高Hについて、林分の最大矢高の平均値Avを算出するように、下流の各機能ブロックに指示する。一方、増分された元玉元口高Hが上記上限値を超えている場合(S12にてYES)、採材位置模擬部22は、想定されているすべての元玉元口高での模擬が終了したと判断し、これにより一連の処理が終了する。この終了時点で、記憶部11に記憶されている最適採材位置11aが、当該林分に属する全立木に適用すべき最適採材位置を示している。最後に、採材位置出力部28は、必要に応じて、上記最適採材位置11a、すなわち最後にS10にて更新された最小平均値Avmおよび最小時の元玉元口高Hmを、ユーザが視認可能な情報に加工して表示部13に出力してもよい(S13)。なお、S13にて出力される情報には、S10にて保存された最小平均値Avmの要素である各丸太について、元口・末口の半径、S5にて算出された最大矢高、およびS6にて記憶された曲り区分判定結果11bが含まれていてもよい。
上記の構成および方法によれば、需要に応じた条件(材長および余尺)で、立木から切り出される丸太の最大矢高が林分単位で最小となるように、元玉元口高を求めることができる。このため、林分単位で立木の価値の合計が最も高くなる一律の採材位置で、立木から丸太を切り出すことが可能となる。それゆえ、従来から行っていた伐採に係る作業(立木から一律的に丸太を切り出す作業)のスムーズさを保ちつつ、需要に応じた条件を満たし、なおかつ立木の価値を林分単位で最大とすることが可能となる。
≪変形例1‐1≫
図6に示すフローチャートでは、最適な元玉元口高Hを決定するために、S8において全立木の最大矢高の平均値を算出する場合について説明したが、本発明の方法はこれに限定されない。例えば、採材位置決定部27は、S8において、最大矢高の平均値に代えて、S6にて判定した曲り区分が直材となる丸太の個数の総数を算出してもよい。この場合、S9では、採材位置決定部27は、S8にて算出した1つの元玉元口高Hについての直材玉個数の総数が、これまでに算出した直材玉個数の総数を超えるか否かを判定する。なお、記憶部11に記憶される最適採材位置11aは、林分における各立木の直材玉個数の総数が最大となる元玉元口高Hを含んでいる。上記構成および方法によれば、市場で価値が高いとされる直材の丸太がより多く得られるように、元玉元口高を求めることができる。したがって、林分単位で立木の価値の合計が最も高くなる一律の採材位置で、立木から丸太を切り出すことが可能となる。
また、図6に示すフローチャートでは、林分に属する全ての立木を評価対象とする場合について説明したが、本発明の方法を、1本の立木を評価する場合にも適用可能である。この場合、S7の処理は省略され、S8では単に当該1本の立木についての各丸太の最大矢高平均値が算出される。
≪実施形態2≫
以下、本発明の他の実施の形態について詳細に説明する。本実施形態は、元玉の価値を評価するものであり、材長が可変値である点で実施形態1と異なる。
〔直材優先モード〕
本実施形態に係る直材優先モードとは、直材となる元玉をできるだけ長く採ることを目的として最適採材位置を検索するモードである。より具体的には、根元により近い元玉元口高から模擬および評価が開始され、所定材長で直材として切り出せる元玉が見つかれば、当該元玉の材長を所定長延長し、その元玉が直材以外(曲材)であると判定されるまで、材長を延長しながら模擬および評価を繰り返すものである。
図7は、本発明の実施形態2に係る採材支援装置1が実行する処理の流れを示すフローチャートである。まず、円群データ処理部20は、上記処理の対象となる立木について円群データを取得し、必要に応じてS1と同様に事前準備処理を行う(S21)。
次に、採材位置模擬部22は、採材位置の模擬に使用する条件(シミュレーション条件)を、取得する(S22)。具体的には、採材位置模擬部22は、条件設定部21が受け付けた以下の条件を取得する。すなわち、材長の初期値(例:4m)、材長の増分(例:2m)、元玉の末口半径の下限値(例:8cm)を取得する。元玉の末口半径の下限値は、一定の太さを確保した上で、できるだけ長い直材を検索するために必要な値である。続いて、採材位置模擬部22は、S22にて取得した条件に従って元玉元口高Hを1つ取得する(S23)。初回は、実施形態1と同様、0.5mを取得する。また、採材位置模擬部22は、元玉の末口位置を取得する(S24)。該末口位置は、S23にて取得した元玉元口高Hに、現行の材長Lを加算することにより求まる。例えば、初回は、末口位置は、元玉元口高H(0.5m)に材長の初期値(4m)を加算して、4.5mと求まる。
続いて、採材位置模擬部22は、上記末口位置がS21にて取得した円群データが示す立木の幹の全長を超えているか否かを判定する(S25)。上記末口位置が上記幹の全長以下である場合(S25にてNO)、このように模擬された採材位置は実現可能であると判断し、次に採材位置模擬部22は、上記末口位置を採用した場合の元玉の末口半径が、S22にて取得された末口半径の下限値よりも大きいか否かを判定する(S26)。上記末口半径が上記下限値よりも大きい場合(S26にてYES)、採材位置模擬部22は、上記採材位置にて元玉の太さが確保されているとして、模擬した採材位置にて評価を行うよう下流の機能ブロックに指示する。これに応じて、矢高算出部23は、S23にて取得された元玉元口高HとS24にて取得された末口位置とにより定められる元玉の最大矢高を算出する(S27)。最大矢高の算出方法は、図5にて上述した通りである。
なお、採材位置模擬部22は、S25にてYESと判定した場合、現行の元玉元口高Hだと、最低限の材長4mですらそもそも丸太が採れず、当然のことながらこれ以上元玉元口高Hを上げても材長4mの丸太は採材し得ないと判断し、一連の処理を終了させる。また、採材位置模擬部22は、S26にてNOと判定した場合、現行の元玉元口高Hと現行の材長Lとで丸太は採れるが、その丸太の太さの要件が満たされない(最低限の太さが確保されない)と判断し、当然のことながらこれ以上元玉元口高Hを上げても材長を延ばしても太さの要件を満たした丸太は採材し得ないと判断し、一連の処理を終了させる。
S27に続いて、曲り区分判定部24は、上記元玉について算出された最大矢高を用いて曲り区分を判定する(S28)。本実施形態では少なくとも直材であるか否か判定できればよいため、図3に示す判定規則を参照することを必須としない。代わりに、曲り区分判定部24は、S27にて算出された最大矢高と、現行の材長に対応した許容矢高上限値とを比較することにより、上記元玉が直材か否かを判定してもよい。具体的には、曲り区分判定部24は、上記元玉の最大矢高が上記許容矢高上限値以下である場合に、元玉が直材であると判定し、当該最大矢高が当該許容矢高上限値より大きい場合に、元玉が直材でないと判定する。なお、材長4mの許容矢高上限値は、例えば、2.4cmであり、材長6mでは3.6cmであり、材長8mでは4.8cmであり、材長10mでは6cmであり、材長12mでは、7.2cmである。このように材長ごとに許容矢高上限値が紐付けられたテーブルが、あらかじめ記憶部11に記憶されており(図示せず)、曲り区分判定部24が参照できるように構成されている。材長が長くなるほど、直材を採ることが難しい。そこで、上述のように、材長に応じて許容矢高上限値を定めておくことで、丸太を直材と判定するための最大矢高の基準値を緩めることができ、一律の判定規則で曲り区分の判定を行う場合と比較して、長尺直材の探索を需要に応じて柔軟に実行することが可能となる。
上記元玉の曲り区分が直材であると判定された場合(S29にてYES)、採材位置決定部27は、当該直材の元玉の材長Lを目下採り得る最大の材長(以下、最大材長)LMとして取得し、S23で取得した元玉元口高Hを当該最大材長LMの直材を得るための最大時元玉元口高HMとして取得する。そして、最大材長LMおよび最大時元玉元口高HMを関連付けて、最適採材位置11aとして記憶部11に格納する。あるいは、すでに先の模擬によって、最適採材位置11aが記憶部11に既に格納されている場合には、その既存のデータを上記最新の内容に更新する(S30)。続いて、採材位置模擬部22は、記憶部11に新規に最適採材位置11aが格納されたか、もしくは、新しい内容に更新されると、S24にて取得された末口位置の算出に利用した現行の材長Lを2m増分し、増分後のL+2mを、次に評価を行うのに用いる材長Lとして取得する(S31)。そして、新しい材長Lについて、S24以降の処理が繰り返される。
一方、上記元玉の曲り区分が直材でないと判定された場合(S29にてNO)、現行の元玉元口高Hについての模擬を終了させる。ここで、採材位置模擬部22は、現行の材長LがS22にて取得された初期値であれば(S32にてYES)、S23にて取得された現行の元玉元口高Hでは、最低限の材長4mでも直材が採れないと判断し、別の元玉元口高Hで直材が採れるかどうかを模擬する処理に移行する。具体的には、元玉元口高Hを0.1m増分し(S33)、増分後の元玉元口高Hが、S22にて取得された上限値を超えていなければ(S34にてNO)、採材位置模擬部22は、S23以降の処理を繰り返す。一方、増分後の元玉元口高Hが上記上限値を超えている場合(S34にてYES)、採材位置模擬部22は、想定されているすべての元玉元口高での模擬が終了したと判断し、これにより一連の処理が終了する。なお、採材位置模擬部22は、S32にてNOと判定した場合、現行の元玉元口高Hを採用することにより、最低限の材長4m以上で直材を採ることが可能であると判断し、一連の処理を終了させる。
一連の処理が終了した時点で(S25にてYES、S26にてNO、S32にてNO、または、S34にてYES)、記憶部11に記憶されている最適採材位置11aが、当該立木に適用すべき最適採材位置を示している。最後に、採材位置出力部28は、必要に応じて、上記最適採材位置11a、すなわち最後にS30にて更新された最大材長LMおよび最大時元玉元口高HMを、ユーザが視認可能な情報に加工して表示部13に出力してもよい(S35)。なお、処理対象の立木が複数存在する場合、1本の立木について一連の処理が終了した後(S35の直前または直後)、処理を行っていない立木についてS21以降の処理が繰り返されてもよい。
上記構成および方法によれば、1本の立木から、直材であって最低限の長さおよび太さが確保された直材の丸太を、できるだけ根元に近い位置からできるだけ長く採れるように、採材位置を決定することができる。一般に、元玉元口高が根元に近いほど、太い(材積が多い)丸太が採れる可能性が高くなる。そして、丸太の価値は、より長く、より太く、かつ、曲り区分が曲材であるよりも直材である方が高い傾向にある。したがって、より価値が高い丸太を採るためには、直材となる丸太をできるだけ根元に近い位置からできるだけ長く採材できることが好ましい。それゆえ、より価値の高い丸太を切り出すための採材位置を把握し、立木の価値を精度良く見積もることが可能となる。
≪変形例2‐1≫
図7に示すフローチャートでは、できるだけ根元に近い位置からできるだけ長い直材を採るための採材位置を決定する方法について説明した。しかし、上記方法では、元玉元口高を上げればより長い直材が採れるような形状を持つ立木について、最も価値が高くなる採材位置を特定したことにはならない。そこで、本変形例では、1本の立木について、直材となる元玉を最も長く採りうる採材位置を決定する方法(以下、長尺材優先モード)を開示する。具体的には、本変形例では、低い元玉元口高にて長直材が採れると判断された後も、元玉元口高を上げて、材長がより長い直材が採れないかを探索する点で、図7に示す方法と異なる。
〔長尺材優先モード〕
図8は、長尺材優先モードに係る処理の流れを示すフローチャートである。図8に示すS41〜S49の処理は、図7に示すS21〜S29の処理とそれぞれ同様である。
S48にて元玉が直材であると判定された場合(S49にてYES)、採材位置決定部27は、S48にて直材であると判定された元玉の材長Lを直材材長Lokとして取得し、上記元玉の現行の元玉元口高Hを元玉元口高Hokとして取得して、これらを関連付けて最適採材位置候補11e(図示せず)として記憶部11に保存する。すでに、最適採材位置候補11eが格納されている場合には、既存のデータを新規のデータに更新する(S50、S51)。続いて、採材位置模擬部22は、S44にて取得された末口位置の算出に利用した現行の材長Lを2m増分し(S52)、増分した材長L+2を、材長Lとして取得して、次に繰り返すS44以降の処理において使用する。
一方、元玉が直材でないと判定された場合(S49にてNO)、採材位置模擬部22は、S44にて利用された材長LがS42にて条件として取得された初期値であるか否かの判定(S53)と、S50にて保存された直材材長Lokが、S48にて直材であると判定された元玉の材長のなかで最大材長LMであるか否かの判定(S54)とを実行する。
現行の材長Lが初期値より長く(S53にてNO)、かつ直材材長Lokが既存の最大材長LMよりも大きい(S54にてYES)場合、採材位置決定部27は、上記直材材長Lokを最大材長LMとして取得し、最適採材位置候補11eにおいて上記直材材長Lokと関連付けられている元玉元口高Hokを、該最大材長が得られる最大時元玉元口高HMとして取得する。そして、上記最大材長LMと上記最大時元玉元口高HMとを関連付けて最適採材位置11aとして記憶部11に格納する(S55)。すでに、最適採材位置11aが格納されている場合には、既存のデータを新規のデータに更新する。S55の後、採材位置模擬部22は、S53にて初期値ではないと判定された現行の材長Lを、該初期値に変更する(S56)。続いて、採材位置模擬部22は、現行の元玉元口高Hを0.1mを増分し(S57)、増分後の元玉元口高HがS42にて取得された元玉元口高Hの上限値を超えないうちは(S58にてNO)、該増分後の元玉元口高Hを現行の元玉元口高Hとして取得して(S43)、以降の処理を繰り返す。一方、材長Lが初期値より長く(S53にてNO)、かつ直材材長Lokが既存の最大材長LM以下である(S54にてNO)場合、S55の処理が実行されることなく、すなわち、最適採材位置11aの更新は行われずに、S56の処理に移行する。なお、材長Lが初期値である場合(S53にてYES)、S54〜S56の処理が実行されることなく、次の元玉元口高について模擬するためにS57の処理に移行する。
一方、S57にて増分後の元玉元口高Hが上記上限値を超えている場合(S58にてYES)、採材位置模擬部22は、想定されているすべての元玉元口高での模擬が終了したと判断し、これにより一連の処理が終了する。この処理の終了時点で、記憶部11に記憶されている最適採材位置11aが、当該立木に適用すべき最適採材位置を示している。最後に、S35と同様に、採材位置出力部28は、上記最適採材位置11aを表示部13に出力してもよい(S59)。
なお、採材位置模擬部22は、S45にてYESと判定した場合、あるいは、S46にてNOと判定した場合、現行の元玉元口高Hでは、現行より長い材長で、太さの最低要件を満たす丸太がこれ以上採れないと判断して、S53の処理に移行する。
上記構成および方法によれば、1本の立木から採り得る最も長い直材の材長と、当該材長の直材を採るための最適な採材位置とを決定することができる。一般に、丸太の価値は、曲り区分が曲材であるよりも直材である方が高く、なおかつ、材長が長ければ長いほど高い傾向にある。それゆえ、最も価値の高い丸太を切り出すための採材位置を把握し、立木の価値を精度良く見積もることが可能となる。
≪実施形態3≫
以下に開示する本実施形態に係る採材支援装置は、元玉元口高、玉間の余尺および材長のすべてを可変値として扱い採材位置をシミュレートする(模擬する)。具体的には、これらの可変値の組み合わせから想定される採材位置の各々に対し、1つの立木から切り出され得るすべての丸太の評価を行う。これにより、上記立木の評価が最も高くなる切り方(採材位置)を特定することができ、これを最適採材位置として選択することができる。さらに、採材支援装置が採材位置のシミュレーション(模擬)を精度良くかつ効率的に実行することが可能な採材支援装置の制御方法を以下に開示する。なお、本実施形態において、余尺は、立木から切り出される丸太(玉)と丸太との間に切りしろとして確保される樹幹長手方向の長さであり、根元に近い玉の末口位置からその次の玉の元口位置までの長さで求まる。本実施形態では、この余尺を可変値として扱うことにより、最適採材位置の選択肢を広げ、より一層最適な採材位置を求めることが可能である。
〔採材支援装置の制御方法の概要〕
本方法では、立木から玉を切り出す際の採材に係る制約が、採材位置の模擬に使用される条件として取得される。そして、取得された条件に基づいて、立木の根元から近い玉から順に、玉の採材位置の模擬と玉および立木の評価とが繰り返し実行される(以下、模擬評価処理)。そして、最後に、出力された評価に基づいて上記立木の価値が最も高まる切り方(以下、最適解)が決定される。本方法では、具体的には、可変値の組み合わせごとに、まず、元玉の採材位置が模擬され、元玉について可能性のある採材パターンが列挙される。採材パターンは、少なくとも、玉を切り出すための採材位置と、その採材位置にて採材された場合の玉の評価値とを含む情報である。1つの玉について列挙された、可能性のある採材パターンの集合をその玉の採材パターンリストと称する。次に本方法では、元玉の次に採れる丸太(すなわち二番玉)について、模擬評価処理が実行される。すなわち、採材パターンリストが生成される。ここで特筆すべきは、本方法では、二番玉以降については、模擬評価処理の対象の玉(以下、現行玉)よりも前に上記処理が完了している各玉、すなわち、現行玉よりも根元に近い各玉(以下、先行玉)について生成された採材パターンリストの内容を継承して、上記処理対象の玉の採材パターンが生成されるという点である。例えば、二番玉が現行玉である場合、二番玉の採材パターンは、当該二番玉の先行玉となる元玉の評価値と二番玉の個別の評価値との合計を、当該採材パターンの評価値として含む。また、3番玉が現行玉である場合、先行玉のうち、直前に上記処理が完了している二番玉の採材パターンが継承され、これにより、3番玉の採材パターンは、全先行玉(元玉および二番玉)の合計評価値(合計価値)に、3番玉の評価値が加算されたものを、当該採材パターンの評価値として含む。すなわち、N番玉の採材パターンは、N−1番玉の採材パターンを継承することにより、N番玉までの合計評価値(すなわち、全先行玉の評価値と現行玉の評価値の合計)を含むように生成される。結果的に、採材パターンは、その採材パターンが何番目の玉についてのものであるのかによらず、常に立木全体の価値を表す評価値を含むように生成される。結果として、何番玉についての採材パターンかを区別する必要なく、生成された全ての採材パターンの合計評価値を単純比較することにより、立木の価値が最も高くなる採材パターン、すなわち最適解、を精度良くかつ効率的に選択することが可能となる。以下では、模擬評価処理の対象となるN番玉(現行玉)に対して、現行玉の処理の直前に模擬評価処理が完了したN−1番玉、すなわち、現行玉よりも先に採材パターンの生成が完了している丸太のうち最新の丸太を親玉と称する。また、現行玉の次に模擬評価処理がなされる予定の玉(N+1番玉)を次玉と称する。
立木から切り出される丸太の価格は、幹の曲りの程度も考慮して決定される。そのため、立木の価値を高めるには、根元から順により長く、より直材になるように採材すればよいとも限らないし、より多くの丸太を切り出せばよいとも限らない。つまり、採材玉数が多い採材パターンが、必ずしも最適解になるとも限らず、また、親玉の最適解である採材パターンを継承した採材パターンが、最終的に最適解になるとも限らない。このような状況下では、本方法にしたがって、何番玉についての採材パターンかを区別せずに、全ての採材パターンの合計評価値を単純比較できるようにすることは、最適解の採材パターンを精度良くかつ効率的に選択する上で特にメリットが大きい。
〔採材支援装置の構成〕
図9は、本発明の実施形態3に係る採材支援装置の要部構成を示すブロック図である。採材支援装置3は、少なくとも、制御部10および記憶部11を備え、好ましくは、さらに、操作部12および表示部13を備えている構成である。
制御部10は、採材支援装置3が有する各種の機能を統括的に制御する。制御部10は、機能ブロックとして、少なくとも、円群データ処理部20、採材位置模擬部22、矢高算出部23、パターン生成部26および採材位置決定部27、さらに、必要に応じて、条件設定部21、曲り区分判定部24、評価値算出部25および採材位置出力部28を含んでいる。機能ブロックは、例えば、CPUなどが、不揮発性の記憶装置(記憶部11)に記憶されているプログラムを不図示のRAM等に読み出して実行することで実現できる。記憶部11は、採材支援装置3が処理する各種情報を記憶するものであり、少なくとも、採材パターンリスト11cおよび最適解リスト11dを記憶している。
円群データ処理部20は、実施形態1および2と同様に、円群データを取得して、円群データに対して必要に応じて欠損データ補間処理およびスムージング処理を実行するものである。条件設定部21は、ユーザにより指定された、立木から丸太を切り出す際の採材に係る制約を、採材位置の模擬に使用する条件として、操作部12を介して受け付けるものである。本実施形態では、条件設定部21は、各種可変値(すなわち、元玉元口高、余尺および材長)の条件を受け付ける。より具体的には、条件設定部21は、元玉元口高および余尺の下限値と上限値、ならびに、想定されている材長の長さを受け付ける。
採材位置模擬部22は、実施形態1および2と同様に、丸太の採材位置を条件に従って模擬的に指定するものである。とりわけ、本実施形態では、採材位置の模擬に使用する条件に基づいて模擬に係る繰り返し処理を制御する。採材位置模擬部22が実行する処理には、各種可変値の初期化処理、処理対象となる各種可変値の組み合わせを決定し、下流の工程に引き渡す処理、可変値のインクリメント処理、および、繰返し処理の終了を判定する処理が含まれる。本実施形態では、採材位置模擬部22は、各可変値を取得して模擬評価処理に必要なすべての組み合わせを決定し、その組み合わせごとに採材パターンが繰り返し生成されるように、可変値のセットを、下流の工程を担う機能ブロック(パターン生成部26など)に引き渡す。可変値のセットとは、具体的には、現行玉の玉番数N、継承すべき親玉の採材パターン識別番号(親玉の玉番数、該親玉の採材パターンリスト中のパターン識別番号)(N−1、P)、(現行玉が元玉の場合)元玉元口高H、(現行玉が二番玉以降の場合、元玉元口高に代えて)余尺H、および、材長Lである。さらに、採材位置模擬部22は、必要に応じて、現行玉の末口位置を算出して、下流の工程に引き渡してもよい。
矢高算出部23は、実施形態1および2と同様に、最大矢高を算出するものである。
曲り区分判定部24は、実施形態1および2と同様に、最大矢高に基づいて玉の曲り区分を判定するものである。
評価値算出部25は、円群データから得られる丸太の形状(末口半径および材長)、ならびに、必要に応じて、曲り区分判定部24によって判定された玉の曲り区分に基づいて、玉の評価値を算出するものである。本実施形態では、曲り区分判定部24および評価値算出部25が、立木全体または立木から切り出される各丸太の価値を評価する評価部として機能する。本実施形態では、これに限定されないが、評価値算出部25は、市場販売価格を評価値として算出する。評価値算出部25は、例えば、非特許文献2に開示されている計算方法にしたがって丸太1本の価格を算出することができる。しかし、評価値算出部25が算出する評価値は上記価格に限定されない。評価値算出部25は、丸太の形状および曲り区分に基づいて、別の規則にしたがって、丸太の価値を表した数値を算出してもよい。例えば、評価値算出部25は、最大矢高の逆数に比例する係数と材積との積を評価値として算出してもよいし、玉の曲り区分に応じて重み付けした係数(直材係数>小曲り材係数>曲り材係数・・・)と材積との積、または、係数と末口半径との積を評価値として算出してもよい。
パターン生成部26は、採材パターンを生成するものである。パターン生成部26は、上流工程にて取得または生成された情報に基づいて採材パターンを生成する。生成された採材パターンは、記憶部11に記憶されている採材パターンリスト11cに登録される。採材パターンの具体例は、データ構造図を参照して後に詳述する。
採材位置決定部27は、生成された各採材パターンに含まれる合計評価値に基づいて、最適解を示す採材パターンを決定するものである。具体的には、採材位置決定部27は、1つの玉について採材パターンリストが生成される度に、その採材パターンリストの中から合計評価値が最も高い採材パターンを最適解候補として1つ選択し、最適解リスト11dに登録する。最後に、最適解リストに登録された採材パターンの中から、最も合計評価値の高い採材パターンを1つ選択し、これを立木の最適解として決定する。最適解リストの具体例は後述する。
採材位置出力部28は、採材位置決定部27によって決定された最適解をユーザに対して提示するものである。例えば、採材位置出力部28は、採材パターンに含まれている情報をユーザが視認可能な情報に成形して表示部13に出力する。
〔処理フロー〕
図10は、本実施形態に係る採材支援装置が実行する処理の流れを示すフローチャートであり、図11の(a)〜(d)は、上記採材支援装置が上記処理において用いる情報のデータ構造を示す図である。フローチャートを参照して以下に開示された方法は、単なる例示の目的で特定の順序で実行される特定のステップに関して示されているが、本発明の方法はこれに限定されない。フローチャートにおいて連続的に記載された各ステップは、本発明の方法と同等の方法を達成するために、実施形態の教示から逸脱しない範囲で、組み合わせてもよいし、さらに、分割されてもよいし、並行して実行されてもよいし、記載されたものと違う順序で実行されてもよい。
まず、S301にて、模擬評価処理を開始するための事前準備処理が実行される。具体的には、円群データ処理部20は、上記処理の対象となる立木について円群データを取得し、実施形態1および2と同様に必要に応じて欠損データ補間処理およびスムージング処理を実行する。採材位置模擬部22は、必要に応じて、可変値の条件を条件設定部21から取得したり、各可変値を初期化したりする。初期化の具体例として、採材位置模擬部22は、下記の各可変値を、
・現行玉の玉番数N←1
・継承すべき親玉の採材パターン識別番号(親玉の玉番数、該親玉の採材パターンリスト中のパターン識別番号)(N−1、P)←(0、0)
と初期化する。玉番数1は、元玉を示し、最初に元玉の模擬評価処理が実行されることを意味する。元玉には親玉が存在し得ないので、元玉の模擬および評価のために、本実施形態では、架空の親玉採材パターンとして、採材パターン(0、0)を用意する(図11の(a))。元玉の親玉採材パターンは、元玉の模擬評価処理を例外処理としない目的で作成された架空のものであるので、元玉の採材パターンに影響を与えないように、図示のとおり、採材位置に係る情報および評価値には0の値が格納されている。採材パターンは、さらに、採材可能フラグを含むことが好ましい。採材可能フラグの「1」は、次玉が採材可能であることを意味し、図示の例では、架空の親玉の次に、元玉を採材することが可能であることを意味している。
また、採材位置模擬部22は、条件設定部21が受け付けた、下記の可変値の条件、具体的には、
・元玉元口高Hの下限値/上限値=0.5m/2.0m
・余尺Hの上限値/下限値=0.1m/2.9m
・材長L=3m、4mおよび6m
を取得する。
上述の可変値の組み合わせごとに、以下に示すとおり、模擬評価処理が繰り返し実行される。採材位置模擬部22は、現行玉の玉番数1を取得し、親玉の採材パターンリストから継承すべき採材パターン(0、0)を1つ取得する(S302)。さらに、採材位置模擬部22は、H(元玉の場合、元玉元口高)を1つ取得し(S303)、材長Lを1つ取得する(S304)。一例として、玉の元口位置の模擬は、根元に近い位置から順に行われるので、ここでは、H=0.5mが取得される。また、玉の材長の模擬は、短いものから順に(3→4→6)行われるので、ここでは、L=3mが取得される。現行玉の元口位置と材長とを加算すれば現行玉の末口位置が求まるので、ここで、採材位置模擬部22は、現行玉の末口位置を決定してもよい(S304)。以上のとおり、採材位置模擬部22によって、玉の採材位置が円群データ上で模擬され特定される。これにより、矢高算出部23、曲り区分判定部24および評価値算出部25は、実施形態1および2と同様に特定された玉について、評価を行う(S305)。具体的には、矢高算出部23が玉の最大矢高を算出し、曲り区分判定部24が最大矢高に基づいて、玉の曲り区分を判定し、評価値算出部25が曲り区分(必要に応じてさらに、材長および材積)に基づいて評価値を算出する。
続いて、パターン生成部26は、S303およびS304にて指定された可変値の組み合わせに対応する、現行玉の採材パターンを生成する(S306)。
生成された採材パターンの一具体例を図11の(b)に示す。同図に示す採材パターンは現行玉の採材パターンリストにおける1レコードに相当する。同図に示すとおり、採材パターンは、玉を識別するための玉番数と、その玉の中で採材パターンのレコードを識別するためのパターン識別番号とを組み合わせた採材パターン識別番号(同図の例では、(1、0))によって一意に識別される。採材パターンは、採材位置に係る情報として、「末口位置」、「元玉元口高/余尺」、「材長」を含み、その採材位置で採材した場合の立木の価値を示す「評価値」の情報を含む。「評価値」は、元玉の場合、継承した親玉の評価値が0であるので、元玉個別の評価値がそのまま格納される。採材パターンは、さらに、「採材可能フラグ」を含む。現時点では、パターン生成部26は、採材可能フラグに「1」を格納しておく。また、採材パターンは、継承した親玉の採材パターンを識別する情報として「親パターン識別番号」を含む。
パターン生成部26は、記憶部11に格納されている現行玉の採材パターンリストを参照し、該リストに既に登録されている採材パターンがある場合は、その中に、生成した採材パターンの末口位置と一致する採材パターンがあるかないかを確認する(S307)。末口位置が同じ既存の採材パターンが無い場合(S307においてNO)、パターン生成部26は、S308で、生成した採材パターンを現行玉の採材パターンリストに登録し、現行玉のパターン識別番号Qを1つ増分する(Q←Q+1)。ここで、パターン生成部26は、登録した上記採材パターンについて、当該採材パターンを親玉の採材パターンとして継承して次玉を採材できるか否かについて判断することが好ましい(S309)。一例として、次玉の採材可否は、登録した採材パターンの末口位置に基づいて、立木の残りの材長が3m以上あるか否かによって判断される。残りの材長が3m未満であれば(S309においてNO)、パターン生成部26は、登録した採材パターンの採材可能フラグを、次玉の採材不可を意味する「0」に更新する(S310)。
一方、本実施形態では、好ましくは、現行玉同士の比較において、生成した採材パターンの末口位置と一致する採材パターンが既にリストに登録されている場合には(S307においてYES)、パターン生成部26は、既存の採材パターンの評価値と、生成した採材パターンの評価値とを比較して、評価値が高い方の採材パターンを採用する(S311)。具体的には、既存の採材パターンの評価値が高ければ、既存の採材パターンをそのまま残し、生成した採材パターンを破棄する。生成した採材パターンの評価値が高ければ、既存の採材パターンが格納されているレコードに、上記生成した採材パターンを上書きする。これにより、評価値が低い既存の採材パターンが抹消される。現行玉において、1つの採材位置(末口位置)につき、複数の採材パターンが共存することはあり得ない。そこで、上述のように、採用される可能性がない採材パターン(選択肢)を早期に削除することにより、以降の計算を省略して、処理時間を大幅に短縮することが可能となる。このステップでは、現行玉の採材パターンリストにおいて、採材パターンの数が増えないので、パターン識別番号Qは増分されない。
新規の採材パターンがリストに登録されるかまたは既存の採材パターンが上書きされると、採材位置模擬部22は、次の可変値の組み合わせについて、模擬評価処理を繰り返すか否かを判断する。具体的には、すべての材長について模擬評価処理が完了しているか否かを判断する(S312)。ここでは、1つの元玉元口高(余尺)に対して、3種類の材長(3m、4mおよび6m)を組み合わせてそれぞれ模擬評価処理を行う。3つの材長について処理が完了しないうちは(S312においてNO)、S304に戻り、次に長い材長について以降の模擬評価処理を繰り返す。3つの材長について処理が完了した場合は(S312においてYES)、採材位置模擬部22は、元玉元口高(余尺)Hを0.1m増分し(S313)、このHが上限値を超えないうちは(S314においてNO)、S303に戻り、元口位置が10cm高くなった場合について以降の模擬評価処理を繰り返す。Hが上限値を超えることは(S314においてYES)、S302において取得された1つの親玉の採材パターンを継承して、想定されている全ての元玉元口高(余尺)と材長との組み合わせについて模擬評価処理が完了したことを意味する。そこで、採材位置模擬部22は、継承していない(未処理の)親玉の採材パターンがある場合には(S315においてNO)、継承すべき親玉の採材パターンのパターン識別番号を1つ増分して(P←P+1)、S302以降の処理を繰り返す。現行玉についてすべての組み合わせについて模擬評価処理が完了すると、現行玉についての採材パターンリストが完成する。図11の(c)に、元玉の採材パターンリストの具体例を部分的に示す。
現行玉の採材パターンリストが完成すると(S315においてYES)、採材位置決定部27は、記憶部11に格納されている、現行玉の採材パターンリストの中から、評価値が最も高い採材パターンを、最適解の候補として選択し、最適解リスト11dに登録する。最適解リストは、図11の(d)に示すとおり、最適解の候補となる採材パターン識別番号を少なくとも含んでいる。
続いて、採材位置模擬部22は、次玉の模擬評価処理を実行するかについて判断する(S317)。具体的には、採材位置模擬部22は、現行玉の採材パターンリストに、採材可能フラグが「1」の採材パターンが1つでも存在する場合に、次玉の模擬評価処理を実行すると判断し、リスト中の全採材パターンの採材可能フラグが「0」である場合に、次玉の模擬評価処理を実行しないと判断する。前者のケースでは(S317においてYES)、次に玉を採るために、材長が少なくとも3m残っているので、その次玉について模擬および評価を行える。そこで、採材位置模擬部22は、玉番数Nを1つ増分し(S318)、S317の時点で現行玉であった玉についての採材パターンリストを今度は継承すべき親玉の採材パターンリストとして取得して(S319)、S302以降の処理を繰り返す。なお、S319では、併せて、パターン識別番号Qが初期化される(Q←0)。例えば、親玉(ここでは、元玉)の採材パターン(1、0)(図11の(c)における1行目のレコード)を継承して、二番玉の模擬評価処理が実行されると、パターン生成部26は、図11の(e)に示すような採材パターンを生成する。この採材パターンの評価値は、上述したとおり、全ての先行玉(元玉)の合計評価値(1000)と、現行玉(二番玉)の個別の評価値とを合算した合計評価値(3200)を少なくとも含んでいる。一方後者のケースは(S317においてNO)、現行玉のいずれの採材パターンを採用したとしても残りの材長が3m未満であり、想定されている材長が最も短い3mの玉ですら、次玉がひとつも採れないことを意味する。したがって、採材位置模擬部22は、これ以上の玉の模擬評価処理は不要であると判断して、繰り返し処理の終了を決定する。
繰返し処理が終了すると(S317においてNO)、記憶部11には、可変値のすべての組み合わせごとの採材パターン(採材パターンリスト11c)、および、すべての玉ごとの最適解候補からなる最適解リスト11dが格納されている状態になる。そこで、採材位置決定部27は、最適解候補の中で、最も評価値が高い採材パターンを、最終的な最適解として決定する(S320)。図11の(d)に示す例では、元玉の最適解候補が採材パターン(1、10)であり、二番玉までの最適解候補が採材パターン(2、65)であり、三番玉までの最適解候補が採材パターン(3、132)である。例えば、各採材パターンの合計評価値が、それぞれ、2000円、1500円、2500円だとすると、この場合、採材位置決定部27は、採材パターン(3、132)を立木の最適解として決定する。採材位置出力部28は、採材位置決定部27によって決定された採材パターン(3、132)に含まれている、採材位置に係る情報および評価値を表示部13に出力してユーザに提示してもよい。なお、最適解として決定された採材パターンが複数の丸太を採るパターンである場合には、採材パターンに関連付けられている親パターン識別番号を順に辿ることによって、結果的にすべての丸太の採材位置(元口位置および末口位置)が一意に定まる。
≪変形例3−1≫
本実施形態では、説明の簡略化のために、模擬評価処理において、材長の可変値を、3m、4mおよび6mとして取り扱う。しかし、この数値は一例に過ぎず、本発明の模擬評価処理によれば、市場の需要に合わせて様々な材長について、最適採材位置の模擬および評価が可能である。また、例えば、3mの丸太を得るためには、実際は、切りしろを確保する必要があるため、切りしろを考慮した材長(3.1m、4.1mおよび6.1m)を可変値として取り扱ってもよい。また、元玉元口高の下限値/上限値を0.5m/2.0mとしたがこれは一例であってこれに限定されない。元玉元口高の下限値/上限値は、立木ごとに変更されてもよい。
≪変形例3−2≫
採材位置模擬部22は、S304にて決定された現行玉の末口位置が、立木の樹幹全長を超えるか超えないかを判定し(図示しないS304’)、末口位置が全長を超える場合は、この可変値の組み合わせについて採材パターンを生成することなく、次の組み合わせの評価に進むようにしてもよい。末口位置が全長を超えるような採材パターンはあり得ない。実現不可能な採材パターンについて以降の無駄な処理を省くことができる。なお、S309およびS310を省略してもよい。このように採材可能フラグを活用しない場合は、上述のS304’は必須である。また、S317においては、現行玉の採材パターンリストに1つでも採材パターンが登録されたか?(Q>0?)に基づいて、次玉の採材可否を判断する。
≪変形例3−3≫
本実施形態では、採材位置決定部27が、立木から切り出される全丸太の合計価格が最も高くなる採材パターンを最適採材位置として決定する構成について説明した。しかし、本発明の採材支援装置3の構成はこれに限定されない。採材位置決定部27は、矢高算出部23が丸太ごとに出力する最大矢高を用いて、立木から切り出される全丸太の合計最大矢高が最も小さくなる採材パターンを最適採材位置として決定してもよい。あるいは、採材位置決定部27は、曲り区分判定部24が丸太ごとに判定する曲り区分を用いて、曲り区分が直材となる丸太の総数が最大となる採材パターンを最適採材位置として決定してもよい。
〔ソフトウェアによる実現例〕
採材支援装置1(3)の制御ブロック(特に、制御部10に含まれる各部)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
後者の場合、採材支援装置は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムおよび各種データがコンピュータ(またはCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)または記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(またはCPU)が上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。