JP6297983B2 - 細胞の識別方法 - Google Patents
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Description
性質の変化としては、例えば、(a)分化誘導操作による分化傾向の変化、(b)細胞増殖速度の変化、(c)癌化に対する耐性の変化などが挙げられる。
しかしながら、上に挙げた従来の識別方法では、細胞の性状変化(a)〜(c)を識別することができない。
そのような試みとして、まず、各種幹細胞において、mRNAの発現解析と染色体DNAの一塩基多型(SNP)解析が行われた。多数の幹細胞株が解析されたが、遺伝子発現パターンおよびSNPにおいて株間に差異を見いだすことができず、細胞の性状変化(a)〜(c)の原因となる遺伝子群を特定するまではいたらなかった。
エピジェネティクス解析の対象としては、特に染色体DNAのメチル化修飾(5−メチルシトシン(5mC))とヒストンタンパク質の修飾が注目された。DNAのメチル化は、1980年代から遺伝子発現の制御と深く関係することが示唆されていた。長年、メチル化検出法の開発が試行錯誤され、2000年頃から5mC修飾の検出法として、バイサルファイト法が使用されるようになった。
さらにその改良版として、バイサルファイト法とマイクロアレイとを組み合わせた解析方法(非特許文献2)や、バイサルファイト法と次世代シークエンス法とを組み合わせた解析方法(Bis−seq法)(非特許文献4)が開発され、これらの方法により網羅的に幹細胞の染色体DNAの状態を解析することが可能となった。
この報告からすると、バイサルファイト処理したDNAの配列解析を行った場合、非修飾シトシンはウラシル(すなわちチミン)として解読され、他方、5mCと5hmCはいずれもシトシンとして解読されることになる。つまり、従来のBis−seq解析では5mCと5hmCとは区別されておらず、得られたデータには両者が混在していることが分かってきた。
Bis−seq法は5mCと5hmCとを区別することができないため、細胞のエピジェネティックな変化をトレースするには十分な解析法であるとはいえない。
また、MBDタンパク質で濃縮した5mCのDNA断片をマイクロアレイで解析するMIRA法(非特許文献8)も開発された。この方法は、正確に5mC断片のみを濃縮でき、Bis−seq法より正確なデータが得られると思われる。しかし、MIRA法も(i)MBD−seq同様にメチル化領域の近傍遺伝子を候補遺伝子とするのみでメチル化によって制御を受ける遺伝子を特定することができず、さらにメチル化の可能性を定量的に検出することができない点、ならびに(ii)5mCのみを解析対象とし、5hmCの変化をとられていないという点で、幹細胞の微妙な性状を明確に識別することができない。
得られたマイクロアレイデータにアルゴリズムによる数値処理を行ったのち、UCSC Genome Browserによるマッピングを行いそれぞれの遺伝子のメチル化パターンの解析を行った。
本発明者らはこの結果から、従来の方法では識別不可能であった継代初期と後期のES細胞を遺伝子のメチル化及びハイドロキシルメチル化パターンにより明確に識別できることを見出し、本発明を完成させた。
[1] 被検幹細胞から抽出された染色体DNAについて、メチル化及び脱メチル化のパターンを解析し、解析されたパターンと前記被検幹細胞の性質とを関連づけることを特徴とする幹細胞の識別方法。
[2] メチル化及び脱メチル化のパターンの解析は、免疫沈降、マイクロアレイを用いたハイブイダイゼーション処理、当該処理により得られたシグナルデータの確率値処理、及び当該確率値のマッピングにより行われるものである前記[1]に記載の方法。
[3] 確率値のマッピングは、マイクロアレイ上の各プローブのメチル化確率値Pm及び脱メチル化確率値Phmを、プローブ番号に割り当てることにより行われる、前記[2]に記載の方法。
[4] 前記確率値のマッピングは、
(1)被検幹細胞のプローブ番号n(nは整数)と、該プローブ番号に対応する基準幹細胞のマイクロアレイプローブ番号n’(n’は整数)とを選定する工程、
(2)プローブ番号nに割り当てられた確率値P(n)の、プローブ番号n’に割り当てられた確率値P(n’)に対する比率r=P(n)/P(n’)を求める工程、
(3)工程(1)を連続するプローブ番号nからn+i(iは整数)について繰り返し、0.5〜1.5の範囲にある比率rの個数Srをカウントする工程、並びに
(4)メチル化確率値及び脱メチル化確率値のそれぞれについて、相関率
R(%)={Sr/(i+1)}x100
を求める工程、
をさらに含む、前記[3]に記載の方法。
[5] 幹細胞の性質は継代又は分化のステージを特徴づけるものである、前記[1]に記載の方法。
[6] メチル化及び脱メチル化のパターンの解析が自動化装置により行われるものである、前記[1]に記載の方法。
[7] 幹細胞がES細胞又はiPS細胞である、前記[1]に記載の方法。
[8] 幹細胞が外胚葉、内胚葉又は中胚葉系幹細胞である、前記[1]に記載の方法。
[9] 解析されたパターンと被検幹細胞の性質との関連づけは、以下の(a)〜(d)の判定基準に基づいて行われるものである、前記[4]に記載の方法。
(a)メチル化相関率Rmが70%以上、かつ脱メチル化相関率Rhmが70%以上のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化及び脱メチル化が共に類似の状態にあると決定される。
(b)メチル化相関率Rmが70%未満、かつ脱メチル化相関率Rhmが70%以上のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、脱メチル化は類似の状態にあるが、メチル化は非類似の状態にあると決定される。
(c)メチル化相関率Rmが70%以上、かつ脱メチル化相関率Rhmが70%未満のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化は類似の状態にあるが、脱メチル化は非類似の状態にあると決定される。
(d)メチル化相関率Rmが70%未満、かつ脱メチル化相関率Rhmが70%未満のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化及び脱メチル化が共に非類似の状態にあると決定される。
すなわち、本発明は、抗体染色、遺伝子発現では区別できない細胞の内的な性質および状態を、エピジェネティック解析により、明確に区別することを可能にする。未分化と分化の区別のみならず、同じ未分化状態の2種類の細胞グループを、抗体染色、遺伝子発現では区別できない程度の差であっても、本発明により識別することができる。
したがって、本発明の方法により株間のエピジェネティック状態の類似性又は非類似性を識別することにより、創薬研究又は医療行為に供する幹細胞を選定することが可能である。
加えて、本発明の方法は、幹細胞の品質評価、品質管理など、再生医療分野の産業化に大きく貢献することができる。
なお、本明細書において引用した全ての文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、2013年1月16日に出願された本願優先権主張の基礎となる日本国特許出願(特願2013−005594号)の明細書及び図面に記載の内容を包含する。
本願では、メチル化又はヒドロキシメチル化の確率値P、確率値Pの比r、相関率R、相関係数R’等の記号について、これらの記号がメチル化又はヒドロキシメチル化のいずれに関するものであるのかを明確に区別するため、メチル化を表す「m」及びヒドロキシメチル化を表す「hm」の符号を右下付きで付け加える場合もある。あるいは文脈上、上記記号がメチル化又はヒドロキシメチル化のいずれに関するものであるのか明らかな場合は、上記符号を省略する場合もある。
本発明は、2種類以上の幹細胞株の染色体(ゲノム)DNAをエピジェネティック解析することにより、前記幹細胞の株間の性状の差を明確に区別することが可能な、幹細胞の識別方法を提供する。
具体的には、本発明は、被検幹細胞から抽出された染色体DNAについて、メチル化及び脱メチル化(「ヒドロキシメチル化」ともいう)のパターンを解析し、解析されたパターンと前記被検幹細胞の性質とを関連づけることを特徴とする幹細胞の識別方法を提供する。
DNAのメチル化は、DNAを構成するアデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)及びシトシン(C)の4種類のヌクレオチドのうちシトシンに生じる。メチル化を受けたシトシン(メチルシトシン)は、以下の式に示すとおり、そのピリジン環の第5位炭素がメチル基(−CH3)で置換されている。
染色体DNAにおいて、5−メチルシトシンのメチル基は、常に存在するわけではなく、脱メチル化に伴って失われる。脱メチル化過程の中間体として、5−ヒドロキシメチルシトシンが生じる。5−ヒドロキシメチルシトシンでは、ピリジン環の第5位炭素がヒドロキシメチル基(−CH2OH)で置換されている(下記式参照)。
そこで、本発明の識別方法は幹細胞を対象とする。
ある実施態様において前記幹細胞はヒト由来のものであり、別の実施態様では非ヒト哺乳動物、例えば、マウス由来のものである。
あるいはES細胞は、胚盤胞期以前の卵割期の胚の単一割球のみを用いて、胚の発生能を損なうことなく樹立されたものであってもよい。このES細胞であれば受精卵を破壊せずに得られるからである(Klimanskaya I et al.,(2006)Nature 444:481−485;and Chung Y et al.,(2008)Cell Stem Cell 2:113−117)。
ヒト由来ES細胞の培養方法は、理研CDB・ヒト幹細胞研究支援室プロトコール(2008)、Takahashi,K.et al.(Cell(2007),Nov 30:131,pp.861−872)及びThomson,J.A.et al.(Science(1998)Nov 6:282,pp.1145−1147)に記載されている。
iPS細胞はES細胞と同様の方法により培養することができる。
本発明は、未分化マーカーの発現解析だけでは検出することのできない染色体DNAのメチル化状態の差異を検出可能にするものである。本発明の方法により、被検幹細胞のメチル化状態を解析し、その解析結果を、良好な未分化状態維持能、良好な増殖能または良好な分化能を有する基準幹細胞のメチル化状態と比較することにより、被検幹細胞の性質(未分化状態維持能、増殖能、分化能等)を判断することができる。
まず、上記被検幹細胞から染色体DNAを抽出する。染色体DNAは、アルカリSDS法、プロテアーゼK消化法又はカオトロピックイオン溶解法等によって細胞を溶解した後に、当該溶解物からシリカビーズ法、シリカメンブレン法、陰イオン交換樹脂カラム法、DEAE練り込み型メンブレン法、シリカ磁気ビーズ法、−OH系磁気ビーズ法又はイオン交換性磁気ビーズ法等によって抽出することができる。抽出した染色体DNAはエタノール沈殿法等によってさらに精製してもよい。
メチル化の解析方法としては、例えば、メチル化DNA免疫沈降(MeDIP:Methylated DNA immunoprecipitation)が挙げられ、その他にもMIAMI法(Microarray−based Integrated Analysis of Methylation by Isoschizomers)、Infinium HumanMethylation450 BeadChip(イルミナ)を用いた方法などが挙げられる。
好ましくは、メチル化の解析方法はMeDIP法であり、ヒドロキシメチル化の解析方法はhMeDIP法である。
以下、MeDIP法およびhMeDIP法を例にとって、解析方法を具体的に説明する(図1を参照)。
(A) 断片化
得られた染色体DNAを、超音波破砕又は適切な制限酵素で処理することにより断片化する(図1:工程A)。これにより、様々な染色体DNA断片を含む混合物が得られる。この混合物の一部(混合物1)をインプットDNAサンプルとして取り、残りの混合物(混合物2)を抗メチルシトシン抗体を用いた免疫沈降に供する。インプットDNAサンプルとは、MeDIP法で濃縮したメチル化DNA断片をマイクロアレイプローブにハイブリダイズさせる際に同メチル化DNA断片と競合的にマイクロアレイプローブにハイブリダイズさせるためのサンプルを意味する。
インプットDNAサンプルには、メチル化DNA断片および非メチル化DNA断片が混在している。
インプットDNAサンプルを用いることにより、MeDIP法で濃縮したメチル化DNA断片がマイクロアレイプローブに対して非特異的に結合し、偽陽性を生じるリスクを低下させることができる。
混合物2のDNA断片を変性によって一本鎖化する(図1:工程B)。得られた一本鎖DNA断片を抗メチルシトシン抗体と反応させ、抗体とメチル化DNA断片とからなる複合体を遠心分離又は磁気分離によって濃縮し、抽出する(図1:工程C)。
抽出された抗体とメチル化DNA断片とからなる複合体をプロテアーゼ処理して抗体やDNA結合タンパク質を取り除き、メチル化DNA断片を精製する(図1:工程D)。
精製したメチル化DNA断片をPCR増幅する(図1:工程E)。PCR増幅にはランダムプローブを用いる。その際に、PCR産物を第1の蛍光標識(Cy5等)で標識する。これにより、蛍光標識されたメチル化DNA断片(以下、「MeDIP断片」)が得られる。図1の例ではメチル化DNA断片はCy5で標識されているが、他の適切な蛍光標識を用いてもよい。
先の工程「(A)断片化」で取り分けたインプットDNAにプロテアーゼ処理等を施すことによりDNA断片を精製する。精製されたDNA断片には、メチル化DNA断片と非メチル化DNA断片の両方が含まれる。次に、生成されたインプットDNAをPCR増幅する。PCR増幅にはランダムプローブを用いる。その際にPCR産物を第2の蛍光標識(第1の蛍光標識とは異なる励起波長・放出波長を有する蛍光標識)で標識する(図1:工程F)。
これにより、第2の蛍光標識で標識されたメチル化DNA断片と非メチル化DNA断片の混合物(以下、「インプット断片」)が得られる。図1の例ではインプット断片はCy3で標識されているが、他の適切な蛍光標識を用いてもよい。
得られたMeDIP断片をマイクロアレイで解析する。マイクロアレイではプローブ位置が固定されているため、位置情報に関する誤差やアルゴリズムの差が出にくく、より正確に遺伝子を同定することができる。また、マイクロアレイは次世代シークエンス法等の配列解析方法と比較してはるかに低コストである。さらに、マイクロアレイは、データ解析も短時間で容易に行うことが出来るため、幹細胞の識別法としてより優れていると考えられる。
さらに、マイクロアレイの場合、容易にプローブの設計および変更を行うことができるため、例えば、検出するDNAの領域が一部重複するようにプローブを設計することができ(例えば、タイリングアレイ等)、それによって、メチル化およびヒドロキシメチル化部位を詳細に特定することができる。
具体的な手順として、まず、蛍光標識されたMeDIP断片とインプット断片とを競合的にマイクロアレイプローブと反応させる(図1:工程G)。
好ましくは、マイクロアレイはStanford型のものが用いられる。
また、競合反応は、MeDIP断片:インプット断片の比が、1:2〜1:50、好ましくは1:5〜1:30、さらに好ましくは1:7〜1:20、1:8〜1:10または1:10で行われる。
そこで、インプット断片とMeDIP断片とを競合的に反応させると、(i)メチル化されいていないDNA領域に対応するプローブにはインプット断片が結合し、(ii)メチル化されたDNA領域に対応するプローブにはMeDIP断片が優先的に結合する。
従って、インプット断片の蛍光強度が高いプローブ領域では染色体DNAはメチル化されていない可能性が高く(つまりメチル化されている可能性が低く)、MeDIP断片の蛍光強度が高いプローブ領域では染色体DNAはメチル化されている可能性が高い。
抗メチルシトシン抗体の代わりに抗ヒドロキシメチルシトシン抗体を用いて、上記工程(A)〜(G)を行うことによりhMeDIPを実施することができる。
この場合、インプット断片の蛍光強度が高いプローブ領域では染色体DNAはヒドロキシメチル化されていない可能性が高く(つまりヒドロキシメチル化されている可能性が低く)、hMeDIP断片の蛍光強度が高いプローブ領域では染色体DNAはヒドロキシメチル化されている可能性が高い。
上記通り、インプット断片の蛍光強度が高いプローブ領域では染色体DNAはメチル化されている可能性が低く、MeDIP断片の蛍光強度が高いプローブ領域では染色体DNAはメチル化されている可能性が高い。
そこでプローブから放出されるインプット断片の蛍光強度とMeDIP断片の蛍光強度とを比較してその強度差を解析することにより、そのプローブに対応するDNA領域がメチル化されている確率Pmを求めることができる。
同様にして、プローブに対応するDNA領域がヒドロキシルメチル化されている確率Phmを求めることができる。
χ2検定およびベイズ検定は、それぞれマイクロアレイ解析用のアルゴリズムであるACME(Algorithm for Capturing Microarray Enrichment)(Scacheri et al.,Methods Enzymol.2006;411:270−82.)およびBatman(Bayesian Tool for Methylation Analysis)(Rakyan VK et al.(2008)Genome Res 18:1518−1529)を使用して行うことができる。
好ましい態様では、自動化装置はSX−8G Compact(PSS社)が用いられる。
実験操作をオートメーション化することにより、手作業により生じるデータのばらつきやノイズによる誤認識などを回避することができる。その結果、データに高い再現性と信頼性が与えられる。
得られたメチル化確率値Pmをマイクロアレイの各プローブ番号に割り当てることにより、確率値Pmのマッピングをおこなう(図2参照)。マッピングは、UCSCGenome Browser等の適切なブラウザを用いて行うことができるが、他にもIntegrated Genome Browser(IGB)(Nicol JW et al.,Bioinformatics.2009 Aug 4[1];Helt GA et al.,BMC Bioinformatics.2009 Aug 25;10(1):266.[2])、Signal Map(NimbleGen)、Genomic WorkBench(Agilent)などを用いることができる。
図2は、縦軸をP値、横軸をプローブ番号としてマッピングを行ったときに示されるマッピンググラフの模式図である(グラフA:被検幹細胞のPm値、グラフB:基準幹細胞のPm値)。横軸のプローブ番号は染色体上の位置に対応する。図2に示すデータは仮想のものであるが、以下、この仮想データの例を参照しながら本発明のデータ処理工程を説明する。
被検幹細胞のプローブ番号nのメチル化確率Pm(n)と、基準幹細胞の対応するプローブ番号n’のメチル化確率Pm(n’)から、比率r(n)=Pm(n)/Pm(n’)を求める。同様にプローブ番号n+1、n+2、・・・n+i(iは整数)について(基準幹細胞についてはn’+1、n’+2、・・・n’+iについて)、比率r(n+1)、r(n+2)、・・・r(n+i)を求める。
ここで、番号n〜n+i(およびn’〜n’+i)の各プローブは、染色体DNAの連続する領域(例えば1種類のプロモーター領域等)に対応するものである。
例として、グラフAにプローブ番号n〜n+3のメチル化確率Pm(n)〜Pm(n+3)を示す。同様に、グラフBプローブ番号n’〜n’+3のメチル化確率Pm(n’)〜Pm(n’+3)を示す。
図2の例の場合、被検幹細胞ではPm(n)=1.0、Pm(n+1)=0.5、Pm(n+2)=0.8、Pm(n+3)=0.4であり、他方、基準幹細胞ではPm(n’)=0.9、Pm(n’+1)=0.25、Pm(n’+2)=0.6、Pm(n’+3)=1.0である。
この例では、比率r(n)=Pm(n)/Pm(n’)=1.0/0.9=1.11となり、同様に、r(n+1)=0.5/0.25=2、r(n+2)=0.8/0.6=1.33、r(n+3)=0.4/1.0=0.4である。
得られたSrから、相関率R(%)={Sr/(i+1)}x100を求める。
図2の例の場合、比率r(n)=1.11、r(n+1)=2、r(n+2)=1.33、r(n+3)=0.4である。0.5≦r≦1.5の範囲に含まれるのはr(n)=1.11およびr(n+2)=1.33である。したがって、この場合、Sr=2である。
そこで、相関率R(%)を求めると、
R(%)={Sr/(i+1)}x100={2/(3+1)}x100=50%となる。
図3にその例を示す(グラフC:被検幹細胞のPhm値、グラフD:基準幹細胞のPhm値)。
図3の例の場合、被検幹細胞ではPhm(n)=0.8、Phm(n+1)=0.5、Phm(n+2)=0.4、Phm(n+3)=0.9であり、他方、基準幹細胞ではPhm(n’)=0.9、Phm(n’+1)=0.6、Phm(n’+2)=0.3、Phm(n’+3)=1.0である。
この例では、比率r(n)=Phm(n)/Phm(n’)=0.8/0.9=0.99となり、同様に、r(n+1)=0.5/0.6=0.83、r(n+2)=0.4/0.3=1.33、r(n+3)=0.9/1.0=0.9である。
0.5≦r≦1.5の範囲に含まれるのはr(n)=0.99、r(n+1)=0.83、r(n+2)=1.33、r(n+3)=0.9である。したがって、この場合、Sr=4である。
そこで、相関率R(%)を求めると、
R(%)={Sr/(3+1)}x100={4/(3+1)}x100=100%となる。
以下、メチル化およびヒドロキシメチル化の相関率をそれぞれRmおよびRhmとする。
上記のようにして求められた相関率R(%)の数値は、以下の基準に従って被検幹細胞の性質(特にエピジェネティックな状態)と関連付けることができる。
即ち、
(a)メチル化相関率Rmが基準値X以上、かつヒドロキシメチル化相関率Rhmが前記基準値X以上のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化及びヒドロキシメチル化が共に類似の状態にあると決定される。
(b)メチル化相関率Rmが基準値X未満、かつヒドロキシメチル化相関率R(hm)が前記基準値X以上のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、ヒドロキシメチル化は類似の状態にあるが、メチル化は非類似の状態にあると決定される。
(c)メチル化相関率Rmが基準値X以上、かつヒドロキシメチル化相関率Rhmが前記基準値X未満のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化は類似の状態にあるが、ヒドロキシメチル化は非類似の状態にあると決定される。
(d)メチル化相関率Rmが基準値X未満、かつヒドロキシメチル化相関率Rhmが前記基準値X未満のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化及びヒドロキシメチル化が共に非類似の状態にあると決定される。
基準値Xを60%に設定した場合、図2及び図3の仮想データは、上記「(b)メチル化相関率Rmが60%未満、かつヒドロキシメチル化相関率Rhmが60%以上」のケースに該当するので、被検幹細胞と基準幹細胞とは、ヒドロキシメチル化は類似の状態にあるが、メチル化は非類似の状態にあると決定される。
第二の態様として、被検幹細胞と基準幹細胞との間でP値のマッピンググラフの波形を比較して相関係数R’を求めることもできる。相関係数R’は、Rなどのフリーソフトウェアや、SAS(SAS)、SPSS(SPSS)、Stat(インフォーマティック)、StatView(SAS)、STATISTICA(スタットソフト)、SigmaStat(HULINKS)、SYSTAT(HULINKS)、MINITAB(インフォーマティック)、Prism(エムデーエフ)、JMP(SAS)、Excel(Microsoft)等の市販のソフトウェア等を用いて求めることができる。
即ち、
(a’)メチル化相関係数R’mが基準値X’≦R’m≦1.0(基準値X’は0<X’<1)であり、かつヒドロキシメチル化相関係数R’hmが前記基準値X’≦R’hm≦1.0のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化及びヒドロキシメチル化が共に類似の状態にあると決定される。
(b’)メチル化相関係数R’mがR’m<基準値X’であり、かつヒドロキシメチル化相関係数R’hmが前記基準値X’≦R’hm≦1.0のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、ヒドロキシメチル化は類似の状態にあるが、メチル化は非類似の状態にあると決定される。
(c’)メチル化相関係数R’mが基準値X’≦R’m≦1.0であり、かつヒドロキシメチル化相関係数R’hmがR’hm<前記基準値X’のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化は類似の状態にあるが、ヒドロキシメチル化は非類似の状態にあると決定される。
(d’)メチル化相関係数R’mがR’m<基準値X’であり、かつヒドロキシメチル化相関係数R’hmがR’hm<前記基準値X’のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化及びヒドロキシメチル化が共に非類似の状態にあると決定される。
そこで、本発明の方法では、好ましくはメチル化およびヒドロキシメチル化のパターン解析は、自動化装置によりオートメーションで行われる。
オートメーションでパターン解析を行えば、手作業で生じ得る実験誤差(溶液量、反応時間、攪拌条件等における誤差)を回避することができる。
自動化装置についてはすでに述べたとおりである。
基準幹細胞として良好な未分化状態および増殖能を維持したiPS細胞株を用い、被検幹細胞1及び2は、上記基準幹細胞を培養・増殖させ、複数回の継代を得たiPS細胞株(未分化マーカー遺伝子の発現は陽性)であるものと仮定する。
また、被検幹細胞と基準幹細胞とで未分化マーカー遺伝子(Oct3/4、SSEA4、Nanog等)のプロモーター領域について解析し、被検幹細胞1は同プロモーター領域のヒドロキシメチル化状態は類似であり、メチル化状態が非類似と決定され、被検幹細胞2はメチル化状態およびヒドロキシメチル化状態の両者が類似であると決定されるものと仮定する。
この場合、被検幹細胞1と基準幹細胞とでメチル化確率値Pmを比較し、全体的に被検幹細胞1がより高いPm値を示す場合、被検幹細胞1では一応未分化マーカー遺伝子が発現しているが、そのプロモーター領域は徐々にメチル化修飾を受けていると判断できる。したがって、被検幹細胞1は、今後、未分化マーカー遺伝子がオフ状態になり、未分化状態を維持できなくなる傾向にあると判断できる。
これに対し、被検幹細胞2は基準幹細胞とメチル化状態およびヒドロキシメチル化状態の両者が類似であり、今後も良好な未分化状態および増殖能を維持する傾向にあるものと判断できる。
基準幹細胞として良好な増殖能および神経細胞への分化能を有する神経幹細胞株を用い、被検幹細胞1及び2は、iPS細胞から神経幹細胞へ分化誘導する過程にある細胞株であり、現時点では神経幹細胞マーカー遺伝子(Nestin、NCAM等)の発現は検出されていないものと仮定する。
また、被検幹細胞と基準幹細胞とで神経幹細胞マーカー遺伝子(Nestin、NCAM等)のプロモーター領域について解析したところ、被検幹細胞1は同プロモーター領域のヒドロキシメチル化状態は類似であり、メチル化状態が非類似のものと決定され、被検幹細胞2は基準幹細胞とメチル化状態は同じであるが、ヒドロキシメチル化が非類似の状態にあると決定されるものと仮定する。
この場合、被検幹細胞1と基準幹細胞とでメチル化確率値Pmを比較し、全体的に被検幹細胞1がより高いPm値を示す場合、被検幹細胞1では現在、神経幹細胞マーカー遺伝子の発現が抑制されていることが分かる。そして、ヒドロキシメチル化の状態は、基準幹細胞と同じであることから、被検幹細胞1が基準幹細胞と比べて脱メチル化の傾向が高いとはいえない。したがって、被検幹細胞1では同プロモーター領域のメチルシトシンが脱メチル化する徴候はないといえる。
よって、被検幹細胞1は、iPS細胞から神経幹細胞への分化誘導において分化初期ステージにあるものと判断することができる。
一方、被検幹細胞2は基準幹細胞とメチル化状態は同じであるため、神経幹細胞マーカー遺伝子の発現は強い抑制は受けていないことが分かる。また、ヒドロキシメチル化の状態は異なっているので、被検幹細胞2と基準幹細胞とでヒドロキシメチル化確率値Phmを比較し、全体的に被検幹細胞2がより高いPhm値を示す場合、被検幹細胞2では現在、神経幹細胞マーカー遺伝子は発現のスイッチがオンに移行しつつあることが分かる。
したがって、被検幹細胞2はiPS細胞から神経幹細胞への分化誘導において分化後期ステージにあるものと判断することができる。
メチル化DNA免疫沈降(MeDIP)及びヒドロキシルメチル化DNA免疫沈降(h−MeDIP)の同時比較による幹細胞のメチル化/ヒドロキシルメチル化解析(MeDIP/h−MeDIP on Chip)
摂氏−80℃で保存されたヒトES細胞khES−1及びkhES−3の細胞ペレット(京都大学)及びヒトiPS細胞ペレット(株式会社リプロセルより入手)を解凍し、0.9%NaCl溶液を100〜200uLに懸濁し、細胞濃度を1x106細胞/100μLとした。
上記100μLを1.5mLチューブに分注し、自動核酸精製装置12GC(プレシジョン・システム・サイエンス株式会社製)にセットした。染色体DNA精製試薬のwell10に10μg/mLのRnase 1μLを添加し、調製試薬とした。
また、染色体DNA調製プロトコールとしては、MagDEA DNA 20012GC v3 with Rnasever0.1(プレシジョン・システム・サイエンス株式会社製)を用いた。約40分後に、染色体DNA溶液20−50μLを得た(溶出容量設定により、溶出量は異なる)。
小型分光光度計Nanodropに染色体DNA溶液を2μL重層し、濃度とA260/A280を測定した。結果、濃度60〜120μg/μL,20〜50μL,A260/A280 1.8〜1.9程度の染色体DNAを得た。
次に1xTAE緩衝溶液系で1%アガロース電気泳動を行った。マーカーとして、Wide range marker(TAKARA社製)とLamda/HindIII(Takara Bio社製)2μLを用いた。染色体DNAのサイズは、約20Kbps程度の単一バンドであった(図4:レーンA)。
精製したDNA溶液に適量の2xTEとDNase/RNase Free水を添加し、1xTEに溶解した50ng/μlの染色体DNA溶液を調製した。1.5mLチューブに、上記50ng/μl染色体DNA,200μLを添加し、以下の条件で破砕した。超音波破砕装置BioRuptor UCD−250(東湘電気社製)を冷却し、4℃の冷却水中で出力medium,15sec ON/15sec OFFの条件で破砕した。1%アガロース電気泳動で破砕された染色体DNAのサイズを確認した。結果、約200〜800bpsの破砕DNA断片を得た(図4:レーンB)。
自動エピジェネティクスシステム(プレシジョン・システム・サイエンス社製)を使用して自動免疫沈降を行った。試薬としてAuto MeDIP Kit試薬(Diagenode社製)を用いた。
WellにAuto MagDEA−IP kit(プレシジョン・システム・サイエンス社製)のLysis Buffer100μLを添加した。工程2で破砕した染色体DNA1μgを、95℃、3分加熱後、氷水で急冷し、一本鎖DNAに変性させた。その後、変性したDNA溶液に抗5−メチルシトシン抗体 1μg(Diagenode社製)を添加し、SX−8G システムをもちいて自動免疫沈降を行った。ChIP Type Bプロトコールを用いて、抗5−メチルシトシン抗体、磁気ビースと破砕した染色体DNAが共存した状態で撹拌した。夾雑物を除くため、磁気ビーズと抗体とDNAの免疫複合体を2種類の洗浄溶液で4回、自動的に洗浄を行った。
工程3Aと同一の装置を使用し、試薬としてAuto h−MeDIP Kit(Diagenode社製)及びAuto MagDEA−IP kitのLysis Bufferを用いて自動免疫沈降を行った。工程2で破砕した染色体DNA1μgを、95℃、10分加熱後、氷水で急冷し、一本鎖とした。その後、変性したDNA溶液に抗5−ヒドロキシメチルシトシン抗体 1μgを添加し、自動化システムにより自動免疫沈降を行った。ChIP Type Aプロトコール(間接型免疫沈降法)用いて、抗5−ヒドロキシメチルシトシン抗体と染色体DNAの複合体を形成させた後、磁気ビースで抗体とDNAの免疫複合体複合体を補足した。夾雑物を除くため、磁気ビーズと抗体とDNAの免疫複合体を2種類の洗浄溶液で4回、自動的に洗浄を行った。
免疫沈降が終了した磁気ビーズ懸濁溶液(免疫沈降濃縮サンプル)に、プロテアーゼK溶液(Diagenode社製)1μLを添加した。また、90μLのLysis Bufferに10μLの免疫沈降前のサンプルを添加し、インプットサンプルとした。インプットサンプルにも、プロテアーゼK1μLを添加した。次に、免疫沈降濃縮サンプルとインプットサンプルに蓋をして、58℃で15分加熱し、上記免疫複合体のタンパク質を消化しさせた。そして、プロテアーゼKの酵素活性を失活させるために、各サンプルを95℃、15分加熱した。加熱後、遠心(1000rpm、25℃、1分)し、蓋に付着した水滴を回収した。
工程4で得た溶液を自動エピジェネティクス装置SX−8Gにセットし、DNA断片を精製した。試薬としては、Auto MagDEA−IP Kitを、精製プロトコールとしてはMagPurification8_v2.HDLまたはMagPurification16_v2−1.HDLを用いた。精製DNAとして、10〜13μLの溶液を回収した。
次に小型分光光度計Nanodropに染色体DNA溶液を2μL重層し、濃度とA260/A280を測定した。濃度は1〜2ng/μlであった。
WGA2キット(シグマ社製)を用いて、5−10ngの濃縮DNA断片を増幅した。Fragmentation Bufferを添加後、熱変性させずにLibrary Preparation BufferとEnzymeを加え、ユニバーサルリンカーを付加した。
次にWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社製)を用いて、WGA2キットの残存するユニバーサル・プライマーを除去した。1xTAE緩衝溶液系で1%アガロース電気泳動を行った。マーカーとして、Wide range maker(TAKARA Bio社製)とLamda/HindIII(Takara Bio社製)2μLを用いた。DNAサンプル2μLにWater6μL、5xDye2μLを添加し、100V,25min電気泳動した。WGA2増幅断片は500−2000bpsの領域で増幅されたことを確認した(図5)。
免疫沈降で濃縮したDNAサンプルとインプットサンプルを、それぞれ、蛍光色素Cy5とCy3でラベルした。ラベル化後、各社マイクロアレイ(Agilent社製及びNimblegen社製)上で、1:10濃度比の競合ハイブリダイゼーションを行った。16時間ハイブリダイゼーションの後、洗浄溶液で洗浄し、蛍光スキャナーでシグナルを検出した。色素間補正後、シグナル強度をテキストデータとして、保存した。
メチル化領域のP値算出には、Batmanアルゴリズム(Thomas A.Down作成)とACMEアルゴリズム(Sean Davis作成)を利用した。Agilent社製マイクロアレイには、解析ソフトGenomomic Work Bench(Agilent社製)内のMethylation Module内のBatmanプログラムを用いた。また、Nimblegen社製マイクロアレイにはACMEプログラムを用いた。
UCSC Genome Browser上で各プローブ位置でのP値をマッピングした。継代の異なる各ステージの幹細胞(khES 1株)、すなわち、継代初期(E1)、継代後期(E2)、及びE1のレチノイン酸による分化細胞(E3)に対して、MeDIPとhMeDIPによるP値を比較しながら、マッピングを行った。MeDIPの結果を5−メチルシトシンによるメチル化の指標として、hMeDIPによる結果を5−ヒドロキシシトシンによる脱メチル化の指標とした。
以下の手順により、シトシン残基のメチル化およびヒドロキシメチル化のパターン解析を行った。
(1)近傍の5プローブ(これを1つの「プローブ群」とする)に関して、P値の比r=株1/株2をとる。
(2)値が1.3−0.7に含まれる比rを選択し、その個数Srをカウントする。
(3)相関率R(%)=(Sr/5)x100を計算し、80−100%の領域を類似パターンと判断する。
iPS細胞のメチル化/ヒドロキシメチル化パターン解析
ヒトiPS細胞(以下、「hiPS細胞」)に対して上記工程1〜10の解析を行ったところ、図6〜9のマッピンググラフが得られた。
図6〜9のマッピンググラフにおいて、上向きのグラフはメチル化P値のパターンであり、下向きのグラフは非メチル化P値のパターンである。図6〜9の各図において、上パネル及び下パネルのグラフは、それぞれhiPS細胞の株1及び株2の同一のDNA領域におけるパターンを示す。また、図6〜9はそれぞれ異なるDNA領域におけるパターンを示す。
図6〜9のマッピンググラフのメチル化P値のパターンの数値データをそれぞれ表1〜4に示す。
表1
表2
表3
表4
表1のset1株およびset5株のメチル化P値について、P値の比r=set1/set5を求めた。
次に、連続する5つプローブ(プローブ群)の比rのうち、値が1.3−0.7に含まれるものを選択し、その個数Srをカウントし、相関率R(%)=(Sr/5)x100を求めた。
例えば、表1において、最初のプローブ群の比r(即ち、0.863、0.352、0.444、0.377及び0.749)のうち、値が1.3−0.7に含まれる比r(即ち、0.863及び0.749)を選択し、その個数Sr(=2)をカウントし、相関率R(%)=(2/5)x100=40%を算出した。同様に、他のプローブ群に関して相関率を算出した。
表1において、枠で囲った各プローブ群では、それぞれ相関率が80%以上となっており、メチル化のパターンが類似するといえる。
なお、表1の「set1」及び「set5」に示すメチル化P値のパターンについて相関係数R’を求めたところ、0.920という高い値が得られた。
次に、連続する5つプローブ(プローブ群)の比rのうち、値が1.3−0.7に含まれるものを選択し、その個数Srをカウントし、相関率R(%)=(Sr/5)x100を求めた。
表2において、枠で囲った各プローブ群では、それぞれ相関率が80%以上となっており、メチル化のパターンが類似する。
なお、表2の「set1」及び「set5」に示すメチル化P値のパターンについて相関係数R’を求めたところ、0.912という高い値が得られた。
次に、連続する5つプローブ(プローブ群)の比rのうち、値が1.3−0.7に含まれるものを選択し、その個数Srをカウントし、相関率R(%)=(Sr/5)x100を求めた。
表3では、相関率が80%以上となるプローブ群は存在しなかった。
表3の「set1」及び「set5」に示すメチル化P値のパターンについて相関係数R’を求めたところ、0.701という値が得られた。
次に、連続する5つプローブ(プローブ群)の比rのうち、値が1.3−0.7に含まれるものを選択し、その個数Srをカウントし、相関率R(%)=(Sr/5)x100を求めた。
表4では、相関率が80%以上となるプローブ群は存在しなかった。
表4の「set1」及び「set5」に示すメチル化P値のパターンについて相関係数R’を求めたところ、0.303という値が得られた。
ES細胞のメチル化/ヒドロキシメチル化パターン解析
ヒトES細胞に対して上記工程1〜10の解析を行ったところ、図10〜13のマッピンググラフが得られた。
図10〜13のマッピンググラフにおいて、上パネルのグラフはメチル化Pm値のパターンであり、下パネルのグラフはヒドロキシメチル化Phm値のパターンである。図10〜13の各図に示すグラフは、それぞれヒトES細胞の株1及び株2の同一のDNA領域におけるパターンを示す。また、図10〜13はそれぞれ異なるDNA領域におけるパターンを示す。
図10〜13のマッピンググラフのメチル化P値のパターン(5mC)及びヒドロキシメチル化P値パターン(5hmC)の数値データをそれぞれ表5〜8に示す。
表5
表6
表7
表8
各プローブのメチル化P値について、P値の比r=A02株/A03株を求めた。同様に、ヒドロキシメチル化P値について、P値の比r=A02株/A03株を求めた。
次に、メチル化r値及びヒドロキシメチル化r値のそれぞれについて、1.3−0.7に含まれるものを選択し、その個数Srをカウントし、相関率R(%)=(Sr/5)x100を求めた。メチル化及びヒドロキシメチル化の相関率Rをそれぞれ示す。
表5のメチル化パターン(5mC)において、枠で囲った各プローブ群では、それぞれ相関率Rが80%以上となっており、メチル化のパターンが類似するといえる。
また、表5のヒドロキシメチル化パターン(5hmC)において、枠で囲った各プローブ群では、それぞれ相関率Rが80%以上であり、ヒドロキシメチル化のパターンが類似するといえる。
なお、表5のメチル化P値のパターンについてA02株とA03株との間で相関係数R’を求めたところ、0.953という高い値が得られ、ヒドロキシメチル化P値のパターンについては相関係数R’=0.921という値が得られた。
各プローブのメチル化P値について、P値の比r=A02株/A03株を求めた。同様に、ヒドロキシメチル化P値について、P値の比r=A02株/A03株を求めた。
次に、メチル化r値及びヒドロキシメチル化r値のそれぞれについて、1.3−0.7に含まれるものを選択し、その個数Srをカウントし、相関率R(%)=(Sr/5)x100を求めた。
表6のメチル化パターンにおいて、枠で囲った各プローブ群では、それぞれ相関率Rが80%以上であり、メチル化のパターンが類似するといえる。
他方、表6のヒドロキシメチル化パターンにおいて、相関率Rが80%以上のプローブ群は認められなかった。
なお、表6のメチル化P値のパターンについてA02株とA03株との間で相関係数R’を求めたところ、0.973という高い値が得られ、ヒドロキシメチル化P値のパターンについては相関係数R’=0.588という値が得られた。
各プローブのメチル化P値について、P値の比r=A01株/A03株を求めた。同様に、ヒドロキシメチル化P値について、P値の比r=A01株/A03株を求めた。
次に、メチル化r値及びヒドロキシメチル化r値のそれぞれについて、1.3−0.7に含まれるものを選択し、その個数Srをカウントし、相関率R(%)=(Sr/5)x100を求めた。
表7のメチル化パターンにおいて、相関率Rが80%以上のプローブ群は認められなかった。
他方、表7のヒドロキシメチル化パターンにおいて、枠で囲った各プローブ群では、それぞれ相関率Rが80%以上となっており、ヒドロキシメチル化のパターンが類似するといえる。
なお、表7のメチル化P値のパターンについてA01株とA03株との間で相関係数R’を求めたところ、−0.282という値が得られ、ヒドロキシメチル化P値のパターンについては相関係数R’=0.988という値が得られた。
各プローブのメチル化P値について、P値の比r=A01株/A03株を求めた。同様に、ヒドロキシメチル化P値について、P値の比r=A01株/A03株を求めた。
次に、メチル化r値及びヒドロキシメチル化r値のそれぞれについて、1.3−0.7に含まれるものを選択し、その個数Srをカウントし、相関率R(%)=(Sr/5)x100を求めた。
表8のメチル化パターンにおいて、相関率が80%のプローブ群は認められなかった。同様に、ヒドロキシメチル化パターンにおいても、相関率Rが80%のプローブ群は認められなかった。
なお、表8のメチル化P値のパターンについてA01株とA03株との間で相関係数R’を求めたところ、0.796という値が得られ、ヒドロキシメチル化P値のパターンについては相関係数R’=−0.125という値が得られた。
相関係数R’を用いた識別方法
3株のES細胞(A01〜A03)に対し、上記実験手順に示す工程1〜9を行い、メチル化Pm値のマッピンググラフを得た(図14)。図14の例(Case)1〜3は、それぞれ異なるDNA領域のマッピンググラフである。メチル化シトシンの修飾のP値を、10−20個からなる各プローブセットを単位として、細胞群間での相関係数R’を求めた。相関係数R’=0.8〜1.0の群を類似すると判断した。
下記表9に示すように、それぞれの相関係数は0.29、0.94、0.17と計算された。系統2と系統3はP値のヒストグラムの上昇傾向に類似性がみられた。系統2と系統3において、P値の上昇パターンが類似していることが、相関係数で確認された。具体的な数値データを図15に示す。
例2の場合、相関係数は0.24、0.11、−0.34と計算され、P値のヒストグラムにも類似性がみられなかった。
同様に、例3では系統3と系統1間で、相関係数が0.94と計算された。パターンも類似していることが確認できた。一方、系統1と系統2、系統2と系統3ではそれぞれ相関係数が−0.12、−0.14となり、P値の上昇パターンにも類似性が見いだされなかった。
表9
Claims (5)
- 被検幹細胞から抽出された染色体DNAについて、メチル化及び脱メチル化のパターンを解析し、解析されたパターンと前記被検幹細胞の性質とを関連づけることを特徴とする幹細胞の識別方法であって、
メチル化及び脱メチル化のパターンの解析は、免疫沈降、マイクロアレイを用いたハイブイダイゼーション処理、当該処理により得られたシグナルデータの確率値処理、及び当該確率値のマッピングにより行われ、
前記確率値のマッピングは、マイクロアレイ上の各プローブのメチル化確率値P m 及び脱メチル化確率値P hm を、プローブ番号に割り当てるとともに、以下の(1)〜(4)の工程:
(1)被検幹細胞のプローブ番号n(nは整数)と、該プローブ番号に対応する基準幹細胞のマイクロアレイプローブ番号n’ (n’は整数)とを選定する工程、
(2)プローブ番号nに割り当てられた確率値P (n) の、プローブ番号n’に割り当てられた確率値P (n’) に対する比率r=P (n) /P (n’) を求める工程、
(3)工程(1)を連続するプローブ番号nからn+i(iは整数)について繰り返し、0.5〜1.5の範囲にある比率rの個数S r をカウントする工程、並びに
(4)メチル化確率値及び脱メチル化確率値のそれぞれについて、 相関率
R(%)={S r /(i+1)}×100を求める工程
を含むものであり、
解析されたパターンと被検幹細胞の性質との関連づけを、以下の(a)〜(d)の判定基準、又は以下の(a’)〜(d’)の判定基準に基づいて行う、前記方法。
(a)メチル化相関率R m が70%以上、かつ脱メチル化相関率R hm が70%以上のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化及び脱メチル化が共に類似の状態にあると決定される。
(b)メチル化相関率R m が70%未満、かつ脱メチル化相関率R hm が70%以上のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、脱メチル化は類似の状態にあるが、メチル化は非類似の状態にあると決定される。
(c)メチル化相関率R m が70%以上、かつ脱メチル化相関率R hm が70%未満のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化は類似の状態にあるが、脱メチル化は非類似の状態にあると決定される。
(d)メチル化相関率R m が70%未満、かつ脱メチル化相関率R hm が70%未満のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化及び脱メチル化が共に非類似の状態にあると決定される。
(a’)メチル化相関係数R’ m が0.7以上、かつ脱メチル化相関係数R’ hm が0.7以上のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化及び脱メチル化が共に類似の状態にあると決定される。
(b’)メチル化相関係数R’ m が0.7未満、かつ脱メチル化相関係数R’ hm が0.7以上のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、脱メチル化は類似の状態にあるが、メチル化は非類似の状態にあると決定される。
(c’)メチル化相関係数R’ m が0.7以上、かつ脱メチル化相関係数R’ hm が0.7未満のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化は類似の状態にあるが、脱メチル化は非類似の状態にあると決定される。
(d’)メチル化相関係数R’ m が0.7未満、かつ脱メチル化相関係数R’ hm が0.7未満のとき、前記被検幹細胞と基準幹細胞とは、メチル化及び脱メチル化が共に非類似の状態にあると決定される。 - 幹細胞の性質は継代又は分化のステージを特徴づけるものである、請求項1に記載の方法。
- メチル化及び脱メチル化のパターンの解析が自動化装置により行われるものである、請求項1又は2に記載の方法。
- 幹細胞がES細胞又はiPS細胞である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- 幹細胞が外胚葉、内胚葉又は中胚葉系幹細胞である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
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