JP6291805B2 - 反射干渉分光法を用いた薄膜への微量水分子吸着の定量化方法およびそのための測定システム - Google Patents
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Description
たとえば、試料の含水率(水を含んだ試料の全重量で水の重量を割って得られる値)は、簡易的には水を含んだ試料をオーブンで加熱し、その前後の重量を測定することによって算出することができ、より正確にはカールフィッシャー法によって測定することができ、各種の測定装置も販売されている。しかしながら、このような測定方法には比較的多量の試料が必要とされ、また環境湿度に応じて変化する水の吸着(吸湿)量およびその速度をリアルタイムに求めることはできない。
[3] 前記測定工程において、湿度の変化が1〜100サイクル繰り返される、[1]または[2]に記載の分析方法。
[7] 前記試料薄膜が、被膜形成性の固体もしくは液体により形成される薄膜;測定基板の表面に固着可能な固体、液体もしくは気体により形成される薄膜;または測定基板上に形成された密閉空間内に溶解もしくは浮遊する物質により形成される薄膜である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の分析方法。
[9] 前記測定工程により得られたデータに基づいて、水分子の吸脱着量および吸脱着速度、水分子の吸脱着ダイナミクス、試料薄膜の飽和水和量、平衡時間、平衡膜厚および平衡含水率、分子レベルの微小な面積の濡れ性、環境(温度、湿度の変化)の違いやストレスをかけた前後での物質の水和性の違い、水分子の吸・脱着(加湿と除湿)に由来するヒステリシス、水和速度の違い、および水和構造からなる群より選ばれる少なくとも一つの項目について分析する工程を含む、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の分析方法。
[11] 前記水分子の吸脱着量または吸脱着速度についての分析を、前記測定工程により得られた試料薄膜の膜厚に関するデータから算出された、試料薄膜に吸脱着した水分子の体積または質量に基づいて行う、[9]に記載の分析方法。
[13] [1]〜[12]のいずれか一項に記載された分析方法に用いられるRIfS用の測定システムであって、測定基板の表面に形成された試料薄膜が置かれている雰囲気の湿度を連続的に変化させる湿度調節手段を備えることを特徴とする、RIfS用の測定システム。
[15] 気体を流出入させる開口を備えた密閉空間形成部材を前記測定基板に重ね合わせることで、前記試料薄膜の周囲に密閉空間が形成されている、[13]または[14]に記載の測定システム。
本発明は一つの側面において、試料薄膜に対する水分子の挙動に関する本発明の分析方法を実施するのに好適な、測定システムを提供する。本発明の測定システムは、RIfS、特に反射型RIfSに基づくものである。本発明の測定システムの実施形態の例を図1および図2に示すが、本発明の実施形態はこれら図に示されたものに限定されず、本発明の作用効果を妨げない範囲で改変された実施形態も含まれる。
RIfS装置10は、RIfS測定機構、測定環境調節機構、センサーチップ21および必要に応じて用いられるガス流路形成部材23をセットするためのセンサーチップセット部(ステージ)およびチップカバー、これらを収納し、一部に開閉可能な遮光カバーが設けられている筐体などから構成される。
RIfS測定機構は、白色光源11、分光器12、測定プローブ13を含む。白色光源11が点灯すると、その白色光が光ファイバ13aを介して測定領域Aに向けられたプローブ13から照射され、測定領域Aからの反射光が光ファイバ13bを介して分光器12に導かれる。図中の矢印は入射光および反射光を表す。プローブ13から照射される白色光の届く範囲が測定領域Aに相当し、この測定領域Aの面積(以下「測定面積」と呼ぶ場合がある。)は例えば0.126mm2(直径0.4mmの円)程度である。
センサーチップ21は、一般的には矩形であり、基板21aと、その上に形成された光学薄膜21bと、本発明ではさらに、光学薄膜21bの上に形成された試料薄膜21cから構成される。試料薄膜21cの一部が、白色光が照射されて反射率が測定される測定領域Aとなる。
基板21aおよび光学薄膜21bは、白色光を照射したときに観測される反射率極小波長が適切な範囲となるような屈折率および厚みを有する材料で形成される。
試料薄膜21cは、適切な材料により形成され、RIfSを適用することのできる膜厚、屈折率等の性質を備えたものであれば特に限定されるものではない。
たとえば、合成もしくは天然の高分子材料からなる薄膜を形成する場合は、必要に応じて溶媒を用いて適度な粘度の溶液を調製した後、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティングなどのコーティング技術を用いて無修飾センサーチップの表面に塗布することができる。また、無修飾センサーチップの表面をシランカップリング剤またはアミンカップリング剤で処理して反応性官能基(アミノ基、カルボキシル基等)を導入しておき、高分子材料が有する官能基と反応させることにより当該高分子材料からなる薄膜を形成するようにしてもよい。このような官能基同士の反応のかわりに、分子間相互作用や静電吸着により高分子材料からなる薄膜を形成することもできる。あるいは、無修飾センサーチップの表面に光、熱などにより重合可能なモノマーを導入し、グラフト重合させることにより、そのモノマーから高分子材料を生成させて薄膜をを形成することもできる。その他、キャスト製法、化学気相成長法(CVD)、物理気相成長法(PVD)等の成膜技術を用いることもできる。
測定システム1は必要に応じて、試料薄膜に微量の試薬を添加するための試薬供給手段を備えていてもよい。この場合、RIfS測定装置1は、たとえば、振動子での噴霧または静電噴霧による試薬供給機構を備える。試薬供給機構に係る制御プログラムを記憶した制御装置50は、当該機構を構成する各部材(液運搬手段など)と通信可能なように接続される。密閉空間形成部材23を利用する実施形態においては、当該部材に試薬供給口23dが設けられるので、試薬供給機構はそのような試薬供給口23dから試薬を噴霧できる位置に設置される。
システム制御手段は、制御装置50、制御装置50と測定システム1を構成する各要素との間で電気的な信号、データ等の通信を可能とする接続手段60、制御装置50に記憶されたプログラム(ソフトウェア)などから構成される。システム制御手段の対象となる上記の各要素には、RIfSにおける基本的な要素である白色光源11、分光器12などに加えて、本発明で必要とされる測定環境調節機構、たとえばそれらを構成する温湿度調節ユニット110、温湿度センサー120などの部材が含まれ、さらに、RIfS測定装置がセンサーチップ用温度調節機や試薬供給機構を備える場合は、それらの構成部材も含まれる。
測定環境調節手段は、分析の目的に応じて密閉空間23内の湿度および/または温度が所望の状態になるよう調節するための手段である。本発明のRIfS測定システムは、少なくとも湿度調節手段を含み、好ましくはさらに温度調節手段を含むが、これらの2つが統合されている測定環境調節手段を含むことが望ましい。
測定システム1は必要に応じて、センサーチップ21(試料薄膜21c)自体をより直接的に加熱冷却するための、センサーチップ用温度調節手段を備えていてもよい。
本発明に係る、試料薄膜に対する水分子の挙動に関する分析方法は、分析対象センサーチップが置かれている雰囲気の湿度および/または温度を連続的または不連続的に上昇および/または下降させながら、RIfSにより当該試料薄膜の膜厚に関するデータを取得する工程(RIfS測定工程)を含むことを特徴とする。
測定工程では、表面に試料薄膜が形成されたセンサーチップ(分析対象センサーチップ)が置かれている雰囲気の温湿度を連続的または不連続的に変化(上昇および/または下降)させながら、RIfSにより当該試料薄膜の膜厚に関するデータを測定する。すなわち、測定工程では、温湿度の連続的または不連続的な変化と同調させて、所定の時間間隔で測定ステップが複数回繰り返される。RIfS測定装置を用いれば、1秒以下(例えば700ミリ秒)の間隔で測定することも可能である。
湿度調節パターン(横軸に時間、縦軸に湿度または温度をとったときのプロット)は、任意の範囲の温湿度で試料薄膜の膜厚に関するデータを連続的または不連続的に取得できるよう、温湿度の数値の間隔を空けすぎずに連続的または不連続的に変化させればよく、分析の目的に応じて様々なパターンを適用することができる。
試料薄膜に試薬を添加してその反応による影響を分析する場合には、適切なタイミングで試薬を添加するための操作を行えばよい。たとえば、ある試料薄膜(試薬添加前)に対して所定の温湿度の変化に関する測定を行った後、前述したような実施形態により試薬を密閉空間に噴霧する操作を行い、試薬と試料薄膜とを反応させ、続いてその試料薄膜(試薬添加後)に対して所定の温湿度の変化に関する測定を行うことができる。
「試料薄膜の膜厚に関するデータ」は、RIfSにおいては一般的に光路長を基準にしており、その取得方法は次の通りである。
試料薄膜の光路長に関するデータは、分光器により得られる反射スペクトル(波長および光の強度)に基づいて、たとえば以下に述べるような(a)ボトムピーク法(Δλ等)、(b)cOPL法、(c)フーリエ解析法などにより、膜厚d、屈折率n、または光路長(=膜厚d×屈折率n)に換算することができる。いずれの算出方法を用いるにせよ、本測定データは各時点での試料薄膜と水の光路長を合算したものであり、本質的に2状態間の差分を水とするのではなく、水と薄膜の量(膜厚あるいは換算した重量として)を非破壊的に、絶対値としてリアルタイムに導出可能な方法である。膜厚算出の方式は特に限定されるものではなく、要求される精度に応じて適切なものを用いることができ、たとえばシミュレーションを用いる場合は、その精度の向上や実測値の補正により改良することが可能である。
ボトムピーク法は、従来のRIfSにおいて一般的に用いられている方法であり、Δλの値から所定の換算式により簡易的に測定対象薄膜の膜厚d等値を算出することも可能である。しかしながら、周期性を超える膜厚については膜厚の絶対値を求めることは容易ではない。
cOPL法(converted optical length)は、反射率曲線に表れる(複数の)極値の位置(数とボトムおよびピークの波長情報)に基づいて試料薄膜の光路長を算出する方法である。この方法では、光路長の変化、すなわち屈折率毎に膜厚を変化させた反射率曲線の(複数の)極値位置の波長シフトの関係を予めシミュレーションし、それを数学的に処理してテンプレートを作成しておく。そして、実測された反射率曲線の極値位置の波長をテンプレートに照らすと、近似的に分析対象センサーチップの光路長(L)が得られる。Lからリファレンスセンサーチップの光路長(L')を引けば、試料薄膜自体の光路長(ΔL)が求められる。このΔLは試料薄膜の光路長(=屈折率n×膜厚d)自体なので、その値を試料薄膜の屈折率nあるいは水の屈折率1.33を基に計算すると厚さdを直接的に算出することができる。光路長の解析を詳細に行うことで屈折率nと膜厚dの分離も原理的に可能である。cOPL法を用いた場合、水の膜厚の測定精度(分解能)は、高精度な分光器の場合、分子のシグナル/ノイズレベルからたとえば0.05nm程度であることが確認できている。cOPL法では前述のΔλと異なり、周期性を飛び越えても、絶対膜厚の算出が可能である。また、厚膜(概ね100nm以上)ではボトムあるいはピーク(極値と呼ぶ)が複数あるため、1個のピークしか追跡できないボトムピーク法よりもノイズに強く、測定精度は原理的に高精度である。水の吸脱着量の計算においては、例えば簡易的に任意の乾燥状態の膜厚をサンプル薄膜の膜厚として計算し、そこから更なる乾燥により水が蒸散、あるいは加湿により水が増加して行く膜厚を水分子として計算することで容易に計算できる。また、所定の湿度における光路長、あるいは調湿により変化して行く光路長から屈折率を最小二乗法により解析することにより、薄膜の膜厚と水の膜厚を独立してリアルタイムに算出することも可能である。
前記cOPL法同様に光路長の変化に対する反射率曲線の波形を予めシミュレーションし、それを数学的に処理してテンプレートを作成しておく。そして、実測された反射率曲線の波形をフーリエ解析し、前記テンプレートを参照して光路長を求めることができる。光路長の解析を詳細に行うことで屈折率nと膜厚dの分離も原理的に可能である。
本発明では、上述したような測定工程により得られたデータに基づき、試料薄膜に対する水分子の挙動、試料薄膜の各種の物性、その他の様々な項目について分析を行うことができる。本発明における分析内容は特に限定されるものではないが、たとえば以下のような項目について分析を行うことが可能である。それぞれの項目についての分析は、膜厚を基準として行うこともできるし、膜厚から算出可能な体積または質量を基準として行うこともできる。
(j)生体材料(骨、(人工)皮膚等)を試料とした場合、水分子の保持量、吸着量、離脱量等の測定値から、保湿性などを定量的に評価することができる。たとえば、化粧水の効果を推定することができる。
実施例1〜7において、RIfS装置としては反射型RIfS方式の分子間相互作用測定装置「MI−Affinity」(登録商標、コニカミノルタテクノロジーセンター株式会社)を使用し、無修飾センサーチップ(ベア基板)として、上記「MI−Affinity」専用のセンサーチップ(Si,厚さ1mm/SiN,厚さ66nm)を使用した。温湿度調整装置としては、ESPEC社製恒温槽PDR-3KTと専用調湿制御装置を用い、この恒温槽内に前記RIfS装置を設置した。調湿プログラムは、25℃において、まず15%(RH:相対湿度)で15分保持し、続いて15%(RH)から60%(RH)までの加湿を30分で行い、60%(RH)で15分保持後、60%(RH)から15%(RH)までの除湿を30分行い、最後に15%(RH)で15分保持するよう設定した。膜厚算出プログラムとしては、ボトムピーク法のΔλ(ボトム波長)を測定し、換算式により膜厚換算を行った。
表1に示した試料、成膜方法および基板を用いて分析対象センサーチップNo.1〜23を作成した。
無修飾のセンサーチップ上に、表2に示した条件に従って、各種材料をスピンコーターにより3000rpmで塗布し、加熱乾燥して分析対象センサーチップを作製した。
95%エタノール水溶液10mLに表3に示す薬剤を各100μL添加し、室温で1時間攪拌した。得られたシランカップリング剤の中に、無修飾のセンサーチップを室温で1時間浸漬して反応させた。センサーチップを引き上げ、エタノール、超純水で順次洗浄後、窒素ブローにより乾燥させ、乾熱機にて80℃、1時間脱水縮合させることにより、分析対象センサーチップNo.4〜7を作製した。
(c−1:アミノ化センサーチップの調製)
95%エタノール水溶液10mLに3-Aminopropyltrimethoxysilaneを100μL添加し、室温で1時間攪拌した。得られたシランカップリング剤の中に、無修飾のセンサーチップを室温で1時間浸漬しシランカップリング剤を反応させた。センサーチップを引き上げ、エタノール、超純水で順次洗浄後、窒素ブローにより乾燥させ、乾熱機にて80℃、1時間脱水縮合させることにより、アミノ化センサーチップ(アミノ基基板)を作製した。
NHS(N−ヒドロキシコハク酸イミド)とWSC(水溶性カルボジイミド)とを、それぞれ50mMおよび200mMの濃度で含有する水溶液を25mM MESバッファー(pH5.0)を用いて調製した。得られた水溶液に、表4に示した各試薬を10mM(濃度5wt%)となるよう添加し、30分間撹拌後、前記アミノ化センサーチップを室温で20分間、攪拌しながら浸漬した。その後、センサーチップを引き上げ、超純水で洗浄した。化学結合に利用されていない活性エステルを加水分解するために1/10規定の苛性ソーダ水溶液中に前記反応後のセンサーチップを10分間浸漬した。希塩酸で中和後、更に超純水洗浄、乾燥を行い、目的とする分析対象センサーチップを得た。
(d−1:ニュートラアビジン)
MI-AffinityにPDMS製の専用フローセルをセットし、PBSバッファーをランニングしている中に、ニュートラアビジン(NeutrAvidin)100μg/mlを100μlインジェクターから注入した。20μl/min.で10分送液後、窒素ガスを噴射して表面に付いた水を切って、直ぐに測定に用いた。
MI-AffinityにPDMS製の専用フローセルをセットし、PBSバッファーをランニングしている中に、膜画分100μg/mlを100μlインジェクターから注入した。20μl/min.で膜画分送液中にポンプを停止して1時間放置して基板に固着させた。窒素ガスを噴射して表面に付いた水を切って、直ぐに測定に用いた。
前記調湿プログラムに従って湿度を連続的に変化させながらRIfS測定を行い、その測定値に基づいて水分子の膜厚等を算出した。結果を表5に示す。水分子の膜厚は、60%(RH)と15%(RH)のΔλの差分を、水の屈折率に基づく換算係数(周期性有りまたは無しに応じたもの)で除算して求めた。リアルタイム計測なので、任意の湿度%の水分子の量を求めることができる。得られた水分子の膜厚を材料膜厚で除算を行い比較することも有益である。また、加湿と除湿の違いによる挙動も材料と水との相互作用を解析する上で重要である。
リファレンスとしてベア基板(No.1:図4)の水分子吸着を測定した。結露条件ではないため、本来は水分子の吸着は起きないはずだが、相対湿度が上昇するにつれて、水分子の吸着と見られるΔλの上昇がみられた。センサーチップのSiNが酸化されて一部SiO2になった可能性がある。撥水性のフッ素コート(No.2:図5、No.4:図7)を行うことで、前記ベア基板で見られた水分子吸着が抑制されることを確認した。厚みのあるNo.2の方が、分子レベルの薄膜であるNo.4よりも撥水効果が高いことも分かる。疎水性のアルキル基を有するNo.5(図8)も水分子吸着を抑制した。この結果から、本発明の方法により水和性だけでなく分子レベルの疎水性、撥水性評価も可能であることを示唆している。一方、No.3(図6)の親水性表面改質剤では、疎水性材料の20〜40倍の水を吸収している。No.6(図9)およびNo.7(図10)の親水化表面改質剤では、疎水性表面改質剤よりも水分子吸着量が増えているが、No.3程ではない。以上、厚みがほとんどなく、水による膨潤がほぼない被膜においても、水分の影響が高精度に測れていることから、従来の機器では測定できなかった、被膜表面に分子レベルで水和が起こる現象を定量化できていると考えられる。
No.8(図11)、No.9(図12)、No.10(図13)のCMDは比較的水和性が高く、置換度(カルボキシル基の導入量)の低いNo.9が水和能力としては一番低いことが確認できた。No.11(図14)のBSAは、CMDよりも水和量が大きいが、加湿と除湿で大きく挙動が異なっており、加湿時の水和が起きにくいことが示唆された。BSAが大気中に長期間放置されたサンプルだったので変質が起こったと考えられる。No.12(図15)のニュートラアビジンとNo.13(図16)の細胞膜画分は水和量が非常に大きく、かつ特にNo.13は加湿で水分子が入りやすく、除湿では出にくくなっている。これは、材料の水和性が高いために膜への水の吸収速度が放出速度に勝っていることを示唆している。No.14(図17)のリン脂質膜は、膜の薄さの割に非常に大きい親水性を示しており、リン脂質二重層を形成していることが示唆された。
実施例2で用いたニュートラアビジン(No.12)を12時間大気中に放置後、水吸着性の再測定を行った(加湿2、除湿2)。図27から明らかなように、放置後の加湿2では、乾燥しているため、水和速度が遅くなっているが、除湿2のサイクルでは放置前と同様になっており、高湿度下で元に戻ったと考えられる。このような測定で、各種材料の乾燥評価が可能なことを示している。
ポリスチレン(No.15:図18、No.16:図19、No.17:図20)では膜厚が小さい方が水和による変化が大きい結果であった。特にNo.15のPS1は、加湿時に水分子が膜に吸着しにくく、除湿時に水分子が出やすい結果であった。一方、親水性がより高いポリメタクリル酸メチル(No.18:図21、No.19:図22、No.20:図23)では膜厚が高い方が水分子の吸着が大きい結果であった。水溶性のアクリル酸(No.21:図24)と表面がカチオン性で水和性が強い「ハイドランCP7610」(No.22:図25)はいずれも水和性が高いものの、乾燥下に長時間置かれたため、加湿時に水分子が入りにくく、除湿時は出やすい傾向であった。複数の加湿サイクルを行えば、加湿と除湿の関係は徐々に逆転すると考えられる。
ポリマーの膜厚違いの挙動を見ると、膜厚に対する水分子の吸着比(水膜厚/試料膜厚、%)はポリスチレンも、ポリメタクリル酸メチルも薄い方が高いことが分かる(表5)。このことは、膜厚が増えるに従って水和の効率が下がることを示唆している。また、図28および29に示されているように、ポリスチレンでは、膜厚が薄い時ほど水和性の絶対量が高いのに対し、ポリメタクリル酸メチルでは逆になっており、ポリマーの疎水性の程度に由来するものと考えられる。
ポリメタクリル酸メチル(PMMA3: No.20)について、湿度を変化させながら10%、30%、50%において各30分間同一温度で保持する調湿プログラムを組んだ。これらの湿度10%、30%、50%それぞれに同期させて、1℃当たり15秒で10℃から40℃まで基板を昇温させる熱応答プログラムを走らせた。結果を図30に示す。湿度10%で測定することで、物質に対する熱のみの影響を測定し、湿度10%に対して30%、50%の測定を参照することで湿度の影響が定量的に分離できる。熱と水分の影響を一度の測定で行い、それぞれの因子を分離可能な優れた測定方法であることが分かる。
SiO2(No.23)については加湿のみを行った。図26に示す結果から分かるように、温度を高くすることで、相対湿度が同じでも絶対水分量(絶対湿度)が高いため、湿度に対するΔλは同じ傾向で、かつ全体が持ち上がっている。本サンプルはSiO2100%になることから、No.1の部分的にSiO2になったベア基板と絶対値で比較するとSiO2含有量が約50%と推定できる。
実施例8〜12において、RIfS装置としては反射型RIfS方式の分子間相互作用測定装置「MI−Affinity」(登録商標、コニカミノルタテクノロジーセンター株式会社)を使用し、無修飾センサーチップ(ベア基板)として、上記「MI−Affinity」専用のセンサーチップ(Si,厚さ1mm/SiN,厚さ66nm)を使用した。小型の温湿度調整装置としては、「GenRH-A」(英国Surface Measurement Systems社製)を用いた。下記のようにして作製した分析対象センサーチップに、図32に示す形状の部材を重ね合わせてガス流路を構築し、「MI−Affinity」のセンサー部に設置した。このガス流路に上記装置および「MI−Affinity」を連結し、上記装置から発生する調湿ガスを測定領域の試料薄膜に供給した。調湿制御をリアルタイムに自動で行うための制御ソフトウェアとして、SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)パッケージソフトウェアであるSpecView(米国SpecView Corporation社製)を用いて、加湿と除湿を連続的にPID制御するプログラムを作成した。PID制御に用いる湿度計はGenRH-A内蔵された湿度計のデータを用いた。膜厚算出ソフトウェアとしてはcOPL(コニカミノルタ社製)を用いて2層(下層に薄膜サンプル、上層に水分子)モデルを作成して、絶対膜厚を算出した。
表6に示したサンプルを含む塗布液を調製し、スピンコーターを用いてスロープ(SL)5秒、1000rpm−60秒の条件で無修飾センサーチップの表面に塗布して、各サンプルからなる試料薄膜が表面に形成された分析対象センサーチップNo.24〜29を作製した。これらの分析対象センサーチップはそれぞれ複数枚作製した。分析対象センサーチップNo.27およびNo.28は、膜厚の異なる2種類を作製した。
分析対象センサーチップNo.25(サンプルとしてCMD:カルボキシメチルデキストランを塗布)を用いてRIfSの測定を行った。MI-Affinityの温調は25℃に設定した。湿度制御は100ml/min.の流量で、図33に示したように10RH%の低湿度で10分、300RH%/hr.の調湿変化速度で連続的に80RH%の高湿度まで持って行き、10分間80RH%の高湿度下で保持し、その後300RH%/hr.の調湿変化速度で連続的に10RH%の低湿度まで持って行き、更に10分間10RH%の低湿度下で保持するものである。
前記調湿速度では10-80RH%の範囲内で完全に安定な湿潤状態が形成されていないので、10RH%および80RH%における時間と膜厚のグラフ(表8および図35参照)から任意のシミュレーション曲線を作成し、計算式を求めることにより、最適な調湿条件を求めることができる。また、該計算式を用いれば、試料薄膜の安定な乾燥状態または湿潤状態における水吸着量の定量化も可能である。本サンプルでの水吸着膜厚は51.16nmであったが、安定な調湿条件で測定すると67.75nmであると予測できる。
分析対象センサーチップNo.26(サンプルとして超親水性材料であるフレッセラRを塗布)を用いてRIfSの測定を行った。この薄膜サンプルを10RH%の低湿度で10分保持後、300RH%/hr.の調湿変化速度で連続的に80RH%の高湿度まで変化させて、10分間80RH%の高湿度下で保持し、その後300RH%/hr.の調湿変化速度で連続的に10RH%の低湿度まで持って行き、更に10分間10RH%の低湿度下で保持させた(a)。同一の薄膜サンプルを用いて、前記調湿パターンにおいて全ての連続調湿速度を100RH%/hr.に変化させた以外は全く同様にして測定を行った(b)。同一の薄膜サンプルを用いて、前記調湿パターンにおいて全ての連続調湿速度を50RH%/hr.に変化させた以外は全く同様にして測定を行った(c)。10-80RH%の測定における所要時間は、(a)14分、(b)42分、(c)84分である。結果を表9に示す。
調湿時間変化を行うことで、水吸脱着の平衡に達する時間を吸着、脱着の数値から決めることができる。例えば、平均吸着膜厚、平均脱着膜厚を求めてその差分を取り、時間と差分が0になる時間を求めることで連続的な水和が最安定に到達する調湿速度を求めることができる。ここでは、表10および図38に示すように、(a)、(b)、(c)のサンプルの近似式を導出して、0になる時間を求めたところ107分であったので、このサンプルにおいては10-80RH%の変化を107分で行えば、最安定な水和条件になることが推定できる。また、その時間に平衡に達した際の膜厚基準含水率は7.44%であることが計算可能である。
1mg/mlのNeutrAvidin−PBS溶液中に前記無修飾センサーチップ2枚を10秒間浸漬した後、水洗いして、サンプルとしてNeutrAvidinが表面に非特異的に吸着した分析対象センサーチップを作製した。1枚は正常サンプルとし、洗浄後乾燥による変性が起きないように80RH%で10分間保持し、80RH%から10RH%の調湿変化を行った。更に80RH%で10分保持後10RH%から80RH%の調湿変化、80RH%で10分間保持した。もう1枚は変性サンプルとし、70℃で水を蒸発させ、同温で3時間保持した後、再度水に1時間浸漬してから、前記調湿測定を行った。結果を表11および図39に示す。正常サンプルではスムースな水和変化が見られるが、乾燥保存された変性サンプルでは部分的に水和がスムースにいかない領域があり、結果的に顕著なヒステリシスが観測された。また、変性サンプルの方が正常サンプルよりも含水率が著しく多く、タンパクの立体構造がばらけて、水和領域が正常サンプルより多く表面に出てきたことが示唆される。
分析対象センサーチップNo.27(サンプルとして疎水性合成ポリマーであるポリメチルメタクリレート(PMMA)を塗布)および分析対象センサーチップNo.28(サンプルとして同じくポリスチレン(PS)を塗布)を用いてRIfSの測定を行った。これらの疎水性合成ポリマーについては、大気圧下で安定な含水状態にするのに半年かかるとのデータもあるが、本実施例では調整直後の含水率を測定した。結果を表12および図40に示す。本実施例の結果によると、PSの含水率は膜厚基準、質量基準どちらとも0.1%以下と、水和量が圧倒的に少なく、この結果からPSの疎水性の程度が明確になった。一方、質量基準含水率が1%前後と考えられるPMMAでは、膜厚あたりの水和量はPSに比較して圧倒的に大きく、疎水性ポリマー間の親水的な程度を膜厚基準の含水率として高精度に数値化できた。
分析対象チップNo.24(サンプルとしてデキストランを塗布)およびNo.25(サンプルとしてCMDを塗布)を用いてRIfSの測定を行った。デキストランとCMDは基本構造が同じ水和性材料(多糖類)である。水和性材料については、初期に乾燥状態を経ることでしばしば不可逆的な変化を起こし得るため、高湿状態から低湿状態に調湿を行う逆調湿パターンを考案したが、乾燥状態を経て水和構造が復元するか否かを見るために調湿パターンを80RH%で10分、80RH%から10RH%に300RH%/hr.の速度で変化、10RH%で10分、10RH%から80RH%に300RH%/hr.の速度で調湿パターンを考案した。結果を表13および図41に示す。膜厚基準含水率は基本構造が同じ糖鎖構造を持つこともあり、大差のない結果であった。CMDにおいては、乾燥状態を経ても10RH%から80RH%に調湿を行うことで素早く水和が進行するのに対し、デキストランでは乾燥状態を経た後、水和による膜厚が元に戻らず、不可逆的な膜の劣化を起こした可能性がある。このような調湿パターンを用いることにより、水和の復元性、水和の速さを測定可能であることが分かる。
分析対象センサーチップNo.26(サンプルとして超親水性材料であるフレッセラRを塗布)を用いてRIfSの測定を行った。超親水性で、かつ防染性を有する材料が表面処理剤として注目を浴びている。室内と室外、息がかかった場合の様に環境温湿度が急速に変化した際に微小なレベルで結露して失透する現象が大きな課題となっており、性能指標として防曇性が着目されているが、科学的な測定手法が確立していない。防曇性に関しては、高温高湿から低温低湿の変化で顕著に起こるのでMI-Affinityのプログラム温調機能を利用して、温度と湿度の関係性を多面的に評価した。調湿温度とサンプル表面の温度差が5℃および10℃の2通りについて測定した。
密閉空間(調湿ガス)の温度を30℃、サンプル表面(センサーチップ)の温度を25℃に調節した測定系で、湿度を10RH%、80RH%および10RH%の順に変化させたプログラム調湿を行った。結果を図43に示す。フレッセラRでは、5℃の温度差で、湿度80RH%近辺に結露(曇点)するポイントがあり、途中から水滴になって測定範囲から外れる(大きな水滴は測定不能)様子が観察できた。
密閉空間(調湿ガス)の温度を30℃、サンプル表面(センサーチップ)の温度を20℃に調節した測定系で、湿度を10RH%、80RH%および10RH%の順に変化させたプログラム調湿を行った。結果を図44に示す。湿度60%までは、通常の水吸着が見られるが、それ以降は結露のため測定不能となった。温度差5℃の時よりも明らかに低湿度で結露が発生していると思われる。
10 RifS測定装置
11 白色光源
12 分光器
13 測定プローブ
13a 第一の光ファイバ
13b 第二の光ファイバ
21 センサーチップ
21a 基板(Si)
21b 光学薄膜(SiN)
21c 試料薄膜(試料)
23 密閉空間形成部材
23a(破線) 密閉空間
23b 開口(ガス流入口)
23c 開口(ガス排出口)
23d 開口(試薬供給口)
A 測定領域
50 制御装置
60 接続手段
100 測定環境調節機構
110 温湿度調節ユニット
120 温湿度センサー
130 排気機構
140a 第一のガス流路
140b 第二のガス流路
150 水分トラップ機構
190 筐体(調湿ボックス)
200 センサーチップ用温度調節機構
210 温度調節器
220 温度調節ユニット
230 温度センサー
300 試薬供給機構
Claims (15)
- 測定基板の表面に形成された被膜形成性の固体もしくは液体から形成された試料薄膜が置かれている雰囲気の湿度を1%あたり1〜3600秒の速度で連続的に変化させながら、RIfS(反射干渉分光法)により当該試料薄膜の膜厚に関するデータを測定する工程(測定工程)を含むことを特徴とする、試料薄膜に対する水分子の挙動に関する分析方法であって、
前記測定工程において、前記雰囲気の温度または前記試料薄膜の温度を一定に保持したまま、または変化させて前記データを測定する、分析方法。 - 前記測定工程において、湿度の値の間隔が0.1〜10%である、10回以上の測定ステップが行われる、請求項1に記載の分析方法。
- 前記測定工程において、湿度の変化が1〜100サイクル繰り返される、請求項1または2に記載の分析方法。
- 前記測定工程において、初期の湿度を高くし、そこから湿度を低下させるように変化させる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分析方法。
- 前記測定工程が、前記雰囲気の湿度の変化速度が異なる条件下で、複数回行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の分析方法。
- 前記測定工程が、前記雰囲気の温度または前記試料薄膜の温度が異なる条件下で、複数回行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の分析方法。
- 前記試料薄膜が、被膜形成性の固体もしくは液体により形成される薄膜;測定基板の表面に固着可能な固体、液体もしくは気体により形成される薄膜;または測定基板上に形成された密閉空間内に溶解もしくは浮遊する物質により形成される薄膜である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の分析方法。
- 前記試料薄膜の厚さが1nm〜100μmである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の分析方法。
- 前記測定工程により得られたデータに基づいて、水分子の吸脱着量および吸脱着速度、水分子の吸脱着ダイナミクス、試料薄膜の飽和水和量、平衡時間、平衡膜厚および平衡含水率、分子レベルの微小な面積の濡れ性、環境(温度、湿度の変化)の違いやストレスをかけた前後での物質の水和性の違い、水分子の吸脱着(加湿と除湿)に由来するヒステリシス、水和速度の違い、および水和構造からなる群より選ばれる少なくとも一つの項目について分析する工程を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の分析方法。
- 前記平衡時間、平衡膜厚もしくは平衡含水率についての分析を、シミュレーション曲線または計算式に基づいて行う、請求項9に記載の分析方法。
- 前記水分子の吸脱着量または吸脱着速度についての分析を、前記測定工程により得られた試料薄膜の膜厚に関するデータから算出された、試料薄膜に吸脱着した水分子の体積または質量に基づいて行う、請求項9に記載の分析方法。
- 前記水和構造についての分析を、膜厚変化量−湿度曲線の変曲点に基づいて行う、請求項9に記載の分析方法。
- 請求項1〜12のいずれか一項に記載された分析方法に用いられるRIfS用の測定システムであって、
測定基板の表面に形成された試料薄膜が置かれている雰囲気の湿度を連続的に変化させる湿度調節手段を備えることを特徴とする、RIfS用の測定システム。 - さらに、前記雰囲気の温度または前記試料薄膜の温度を変化させる温度調節手段を備える、請求項13に記載の測定システム。
- 気体を流出入させる開口を備えた密閉空間形成部材を前記測定基板に重ね合わせることで、前記試料薄膜の周囲に密閉空間が形成されている、請求項13または14に記載の測定システム。
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