JP6254056B2 - 硬質地盤の修景緑化工法 - Google Patents
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Description
採鉱場の跡地や、切土法面等の硬質地盤には土壌が殆どなく充分な土量を確保できないために自然の営力、すなわち周辺植物群落からの侵入・定着による緑化や植生回復が期待できない。このため、緑化予定の法面や平地等の地盤に苗木を植栽するため50cm以上の厚い客土や10cm程度の厚さを持つ植物生育基盤の造成が行われている。
例えば、採鉱場の跡地の緑化方法としては、小段に土砂を客土した後に苗木を植栽し、苗木の生長に伴い残壁を掩蔽する小段植栽工法が実施されている。
切土法面等の硬質地盤の緑化方法は、従来は牧草類を用いていたが、自然回復が求められたことにより苗木の導入が行われている。
地山が硬質であるため、植穴を掘削して植栽をする事が出来ず、基岩の上に苗木を設置し、根鉢の周りに10cm程度の厚さの植物生育基盤を吹き付けたり、或いは苗木を植え付けた土嚢等を法面上に張り付けたりする等の置苗工と称される方法により実施されている。
<1>一般に採鉱場の跡地や切土法面等の硬質地盤は、地山が硬質であるため風化による土壌化がし難く、かつ、日射が激しく強風に晒されるため、著しく乾燥状態となる。
そのため、従来の小段植栽工法では、植栽した導入植物(苗木)が厳しい気象環境と土壌環境に晒されるため、施工後数十年を経ても伸張生長が劣り、10mの高さの残壁を掩蔽するに至っていない。
切土法面等の硬質地盤においてもこれと同様であり、置苗工により導入した苗木の生育が停滞し、法面を掩蔽するに至っていない。
又、導入植物(苗木)が生長できないばかりか、周辺自然植生の侵入定着による自然回復も停滞している。
<2>既に植栽等を行った採鉱場の跡地や切土法面等の硬質地盤を再緑化する方法としては、化成肥料を追肥し樹木の生長の回復を図る方法と、既設の導入植物と植物生育基盤を撤去して新たに良質な厚い客土や植物生育基盤を造成して植栽や置苗工をし直す方法が提案されている。
前者の方法は多くの手間と費用がかかり、又、短期間で肥料分が流亡してしまうため繰り返し実施する必要がある。後者の方法は前者と比べてより多くの手間と費用がかかるといった問題があるため、導入植物が生育停止状態のまま放置されている。
<3>コストを度外視すれば、採鉱場の跡地や切土法面等の硬質地盤のある程度の緑化は可能であるが、採鉱場の跡地、切土法面等の硬質地盤は広大な面積に対する修景緑化に多額のコストをかけ難いといった特殊事情があるために修景緑化の実施を遅らせている。
一般の土壌条件の良好な箇所では、20年以上経過すると樹林状に景観が回復するが、例えば石灰岩採掘跡地のような硬質地盤の場合は景観の自然回復が遅々として進行していない。
<4>一般にこれまでの硬質地盤における緑化は、短期的に捉えて厚い客土や植物生育基盤を造成し、更に化成肥料を用い、人為的、強制的に植物を導入して緑化するというものであった。
さらに客土、植物生育基盤の質、及び量に問題があるため、施工当初は緑化されるが、未熟な土壌状態が続き、化成肥料等の肥料切れ等により年を経るごとに植生が衰退し、著しい場合は元の裸地の状態に戻ってしまう。
本発明は上記した課題を達成するため、採鉱場の跡地、法面等の硬質岩盤地に下水汚泥コンポストを撒布して硬質地盤の表面に土壌代替層を形成し、下水汚泥コンポストよりなる前記土壌代替層に含まれる放線菌等の有効土壌菌が土壌化を促進するとともに、未熟な硬質基盤を良好な土壌へ変質させることを特徴とする。
又、併せて、既設植栽樹木が存在する場合は、その生長を促進することもできる。
殊に、下水汚泥コンポストに含まれる放線菌が土壌化を促進し、未熟な土壌を良好な土壌へと変えてゆくため、新たな良質土砂の追加や追肥をする必要がない。
このように本発明では、少ない経済的負担で以って自然の営力を最大限に利用した中長期的な修景緑化、自然回復を実現することができる。
本例では修景緑化対象が、採鉱場跡の残壁法面11の一部を水平に切除した小段10である場合について説明する。
図1を参照して説明すると、採鉱場跡の小段10は岩盤質であり、その表層は多くの石礫21で覆われている。
小段10を覆う石礫21は、土壌が存在しないこと、及び厳しい気象環境と土壌環境に晒されるため人為的な植生はおろか自然の営力によっても修景緑化を実現することができない土壌である。
本発明はこのような硬質地盤を対象とし、修景緑化が可能な環境に変えて小段10の地表面の緑地化と自然回復を促進するものである。
本発明では、図2に示すように小段10の石礫21の表面へ向けて下水汚泥コンポスト31を撒布する。
降雨等により、下水汚泥コンポスト31及び下水汚泥コンポスト31中に含まれる放線菌や肥料養分等が石礫21間へ進入するだけでなく、小段10に形成された割れ目等を通じて硬質地盤へも浸透する。その結果、小段10の表面には石礫21へ散布した下水汚泥コンポスト31と、上記下水汚泥コンポスト31の浸透作用とによりによる土壌代替層30が形成される。
さらに現場の状況に応じて、土壌代替層30が強風雨により飛散しないように、下水汚泥コンポスト31中に粘性土砂等の土砂やベントナイト等の粘着材、或いは粘結剤等を混入する場合もある。
植物生育基盤の表面に肥料を追肥として撒布することは一般に行われており、ゴルフ場等では芝草に対して追肥目的で下水汚泥を撒布しているが、本発明は従来のような追肥目的で下水汚泥コンポスト31を用いるものではない。
殊に、下水汚泥コンポスト31の表面撒布にあたり、導入植物を用いたとしても短期的な生育障害を発生させるが、枯死しない限界量まで撒布する。具体的な層厚について後述する。
このように下水汚泥コンポスト31を散布し土壌代替材として使用するので、別途に良質土砂の追加投入を行う必要はない。
図2,3を参照して下水汚泥コンポスト31による土壌代替機能について詳しく説明する。
図2に拡大して示すように、下水汚泥コンポスト31の撒布前の採鉱場の跡地の小段10においては、その表面は石礫21によって覆われているだけで土壌が存在しないため苗木の植栽はおろか、周辺自然植生の侵入定着もできない状態である。
放線菌は医薬品、農薬、動物薬等多岐に亘る微生物資源であるが、生態系においては落葉等の有機物の分解や物質循環に関わる分解をすることや、菌体肥料としての効果を有する。
殊に、散布した下水汚泥コンポスト31から溶出した放線菌等が、石礫21を透過して硬質地盤の割れ目や表面を拡散する事により、散布箇所から離れた割れ目箇所等に対しても植生の自然侵入を促進する。
すなわち、雨水により下水汚泥コンポスト31から溶け出した放線菌類(下水コンポストの汁、肥料分、放線菌等)は、割れ目沿いに浸透するだけでなく、硬質地盤表面を流下することにより、散布した箇所のみならず、周辺の割れ目(小段下部の法面)などの栄養環境を変化させ、割れ目などへの侵入を促進する。
下水汚泥コンポスト31から肥料養分や放線菌等が供給されることにより、小段10の下部の法面が早期に苔むし、壁面割れ目などへの植生侵入が進行する。
以上のように、硬質地盤であり、過酷な自然環境下であっても、土壌代替層30を生育基盤として侵入した植物の定着と生長を持続することが出来て、周辺自然植生の侵入定着による地表面の緑化と自然回復が可能となる。
小段21等の硬質地盤の表面に石礫21が存在する場合は、土壌代替層30の厚みを厚く確保できるため、侵入した植物は容易に大きくなることができる。
石灰石の採掘場の跡地における緑化は、高標高地であり厳しい立地条件であるため、小段植栽木が必ずしも期待していた生育状況とはなっていない。また、客土表面に存在する石礫が障害となり、周辺自然植生からの侵入植物の定着が阻害されていた。
このため、下水汚泥コンポスト31を撒布して、侵入植物の定着状況とその育成効果等について実証実験を実施した。
また、併せて既設小段植栽が行われている場合の散布限界量の確認を行った。周辺自然植生の導入の手立てを行う事により、既設小段植栽を枯死させることを避けるためである。
一般に石灰石の採掘場跡地に対する小段植栽は、50cm厚さに粘性土を用いた客土を行っているが、石灰石等の石礫が混入している状態であり、粘性土の量は少なく植栽後の客土表面は石灰石の石礫に覆われた状態となっている。このため、石礫の存在が障害となり周辺植生からの侵入植物の定着が阻害される状態となっている。
試験には下水汚泥コンポスト31として、市販のエココンポスト(株式会社ビラミッド製)を用いた。その成分を以下に示す。
下水汚泥コンポスト31は、一般に瘠悪な客土の土壌改良に用いられる。土壌改良は、客土層中に均一に混合することで行われる。
その際の標準施与量は、砂質土、マサ土、シラス等瘠悪な土壌に混合する場合は、土壌厚さを60cmとし1m2当たり24kgを基本とする。
この場合、窒素分は63g/m2となり、客土層1cm当たりに換算すると10g/m2となる。
一般に、客土層1cmあたり10g/m2以上になると窒素濃度障害、いわゆる肥料焼けが起き、生育障害が発生するとされていることから、この値を施肥の限界量としている。この値を参考として石礫21への撒布量をを決定する。
当試験はこの値を参考とし、下水コンポストを撒布し用いることのできる最大量を確認するために行った。
下水汚泥コンポスト31は緩効性の菌体肥料であり窒素分を含むため、表面散布を行った場合、窒素分が徐々に雨水に溶出し土壌中に浸透拡散するため、客土中に均一に混合する場合に比較するならば大量に用いる事ができる。
その際、客土、生育基盤の質的改良を行う放線菌等の有効土壌微生物も同時に客土、生育基盤中に浸透拡散して行くため、できる限り大量に散布しておくことが効果的である。下水汚泥コンポスト31を大量に散布するに際し、生育障害を発生させない散布量、或いは生育障害を発生させたとしても短期間で回復可能な撒布量を求めたものである。
また、一度に大量散布が可能となるならば散布回数を減し、省力化が可能となる。このため、樹木の根系が最も発達する30cmの深さに窒素分が均一に浸透拡散するものと仮定し下水汚泥コンポストの散布量を決定した。
1cm当たりの客土中に含まれる窒素分を以下に示す。
下水汚泥コンポストの散布による樹木の生長の試験結果を以下の表3に示す。
下水汚泥コンポストの散布後2年目は0kg区、5kg区、10kg区と窒素濃度障害の出ない範囲で散布量が増加するにつれ植栽木の生長量が増していることを確認することができた。
これに対し、窒素濃度障害が現れると仮定した20kg区、30kg区は、2年目までは無施用区と同程度の生長であり、外見上窒素濃度障害(肥料焼け)が発生しており、肥料焼けによる生長阻害が現れていた。
しかし、20kg区、30kg区は、3年目には生長の回復が認められ、外観上の異常は認められない状態になり、旺盛な生育を示していた。
生育障害を発生させるものの短期間で回復することが判明し、30kgまで散布可能であることが判明した。
10kg区、20kg区の生長量が小さいのは、シカの食害を受けたためであり、シカ害の影響がなければ、良好な生長を示したものと考えられる。
これは、散布した下水汚泥コンポストの窒素分が散布造成した層より洗脱・浸透拡散したこと、及びあわせて放線菌等の有効土壌菌が浸透し増殖したことによる回復と生長と考えられる。
以上により、下水汚泥コンポストを表面撒布する場合、客土中に混合する場合に比較し2倍から3倍の量を用いることができ、客土中に混合する手間を省き、かつ一度に大量に散布する事が出来ることから省力化施工が出来ることが判明した。
この場合の下水コンポスト散布の層厚は、30kg区で3〜4cmの厚さとなった。
下水汚泥コンポスト散布量と植被及び侵入植物の試験結果を以下の表4に示す。
又、石灰石石礫の隙間に侵入定着したとしても、養分不足により生長困難となっていた。
これに対し、下水汚泥コンポストを散布した箇所は植物の侵入が容易となり、下水汚泥コンポスト散布量が増すにつれ侵入した木本類が旺盛な生長を示していた。
下水コンポスト30kg区は、散布3年後には植栽した樹木と侵入定着した木本類が同程度まで生長し、ブッシュ状の外観を呈するに至っていた。
侵入植物による植被率は0kg区が10%であるのに対し、5kg区は80%、10kg区、20kg区、30kg区は100%であり、樹高は下水コンポスト撒布量が増につれ高くなり、30kg区は植栽木と同様の樹高にまで生長していた。
このように、本試験において、下水汚泥コンポストの散布を行った箇所では、侵入植生が増し、旺盛な生長を示すことが判明し、下水汚泥コンポスト散布による植生侵入促進効果、自然回復効果について確認することができた。
石灰石採取跡地の石礫に覆われた小段植栽に対し、資源循環型肥料分含有資材である下水汚泥コンポストを散布することによる自然植生侵入による自然回復効果の確認、及び省力化のため最大散布量を確認した。
結果、1m2当たり10kgまでは窒素分過多による肥料焼けを発生させず散布可能であり、これ以上散布したとしても、2年目までは肥料焼けを発生させるが枯死させる程ではなく、3年目から回復に向かい、旺盛な生長を示すことが判明した。客土中に混合する場合に比較し、3倍の下水汚泥コンポストを散布する事ができることが判明し、一度に大量に散布する事による省力化が可能であることが判明した。
又、石灰石石礫に覆われた地表面に下水汚泥コンポストを散布することにより、周辺自然植生の侵入、及び生長を促し自然回復を速やかならしめることも確認できた。
以上は硬質地盤の表層が石礫21で覆われている場合について説明したが、基盤がつぎの性質の場合にも適用可能である。
本発明は石礫21の存在が絶対条件ではない。
修景緑化対象の硬質地盤に石礫21等が存在しない場合であっても、硬質地盤の表面へ向けて下水汚泥コンポストを撒布することで周辺自然植生の侵入定着を促進できるので、修景緑化が可能である。
下水汚泥コンポストの散布量は適宜選択するものとする。
既述したように、下水汚泥コンポストはそれ自身が土壌化するので、岩盤等の硬質地盤の表面に既設土壌や既設植物生育基盤が存在しなくとも下水汚泥コンポスト単独で良好な土壌代替層を形成することができる。
硬質地盤の表面に既設植物生育基盤が存在する場合にも、既設植物生育基盤の表面へ向けて下水汚泥コンポストを撒布することで周辺自然植生の侵入定着を促進できるので、修景緑化が可能である。
散布した下水汚泥コンポストの成分が既設植物生育基盤中や硬質地盤中へ浸透することで、良好な土壌代替層を形成することができる。
硬質地盤の表面に既設植物生育基盤が存在する場合は、土壌代替層30の厚みを厚く確保できるため、侵入した植物の生育条件がよくなる。
本発明では硬質地盤が硬質土砂である場合にも適用することができる。
本例では既述した硬質土砂製の硬質地盤の表面に石礫や既設植物生育基盤が存在する場合だけでなく、存在しない場合にも適用可能である。
硬質土砂は岩盤と比べて軟質であるから、導入植物の根系を土中深くまで延伸できるので、樹木の植栽に適している。
11・・・・・・残壁法面
20・・・・・・既設土壌
21・・・・・・石礫
30・・・・・・土壌代替層
31・・・・・・下水汚泥コンポスト
Claims (3)
- 硬質地盤の修景緑化工法であって、
修景緑化対象の硬質地盤の表面に下水汚泥コンポストを単独で撒布し、
下水汚泥コンポストに含まれる放線菌により土壌化を促進するとともに、良好な植物生育基盤へ変質させる土壌代替層を硬質地盤の表面に形成し、
前記土壌代替層を介して地表面の緑地化と周辺自然植生の侵入による自然回復を促進することを特徴とする、
硬質地盤の修景緑化工法。 - 前記修景緑化対象地盤が岩盤のみ、石礫の存在する岩盤、又は既設植生基材が存在する岩盤であることを特徴とする、請求項1に記載の硬質地盤の修景緑化工法。
- 前記修景緑化対象地盤が硬質土砂であることを特徴とする、請求項1に記載の硬質地盤の修景緑化工法。
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