本発明は、高い逆転写酵素効率、ミスマッチ耐性、伸張速度、及び/又は逆転写酵素(RT)及びポリメラーゼ阻害剤に対する耐性を含めた改善された活性を有するDNAポリメラーゼ、並びに核酸ポリヌクレオチドの伸長及び増幅を含めた様々な用途におけるこのようなポリメラーゼの使用を提供する。
DNAポリメラーゼはゲノムの複製や保持という、世代から世代へと遺伝情報を正確に伝達するための中心的な役割を担っている。DNAポリメラーゼは、DNAの合成を担う酵素として細胞内で機能しており、複製される鋳型DNA又は鋳型ポリヌクレオチドに必要なオーダーのMg2+のような金属活性化因子の存在下、デオキシリボヌクレオシド3リン酸を重合付加している。In vivoにおいて、DNAポリメラーゼはDNA複製、DNA修復、組換え及び遺伝子増幅を含む一連のDNA合成過程に関与している。それぞれのDNA合成過程の間に、鋳型DNAは一度又は多くとも数回複製され、同一の複製物を生成する。これに対しin vitroでは、例えばポリメラーゼ連鎖反応の際のように、DNA複製は何回も繰り返すことができる(例えば、米国特許第4,683,202号を参照のこと)。
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の初期の研究では、各サイクルのDNA複製開始時にDNAポリメラーゼを加えていた(前述の米国特許第4,683,202号を参照のこと)。その後、高温で生育する細菌から耐熱性DNAポリメラーゼが得られ、これらの酵素を一度だけ加えればよくなった(米国特許第4,889,818号及び同第4,965,188号を参照のこと)。PCR中に使用する高温下で、これらの酵素は不可逆的に不活性化されない。その結果、合成付加過程の開始時ごとに新しい酵素を加えることなく、ポリメラーゼ連鎖反応の反復的サイクルを行うことができる。DNAポリメラーゼ、特に耐熱性ポリメラーゼは、DNA組換え研究や疾病の医療診断における数多くの技術にとって重要である。特に診断に用いられる場合、標的核酸配列は問題となるDNA又はRNAのごく一部のみとなり得るため、増幅しないで標的核酸配列の存在を検出するのは難しい可能性がある。
DNAポリメラーゼの折りたたみパターン全体はヒトの右手に似ており、パーム(手のひら)、フィンガー(指)、サム(親指)の3つの異なるサブドメインを含む(Beese et al., Science 260:352-355, 1993); Patel et al., Biochemistry 34:5351-5363, 1995を参照のこと)。フィンガー及びサム・サブドメインの構造は、サイズ及び細胞内での機能が異なるポリメラーゼ間で大きく異なる一方、触媒作用を持つパーム・サブドメインは全て重ね合わせることができる。例えば、入ってくるdNTPと相互作用して化学触媒作用中に遷移状態を安定化させるモチーフAは、哺乳類のpolα及び原核生物のpolI DNAポリメラーゼファミリーの中で、約1Åの平均偏差で重ね合わせることができる(Wang et al., Cell 89: 1087-1099, 1997)。モチーフAは構造的に、主に疎水性残基を含む逆平行β−ストランドで始まり、α−ヘリックスへと続く。DNAポリメラーゼ活性部位の一次アミノ酸配列は、非常によく保存されている。モチーフAの場合、例えば、配列DYSQIELR(配列番号22)は、例えばサーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)及びエシェリキア・コリ(Escherichia coli)を含む、何百万年もの間の進化により分化した生物のポリメラーゼの中に保持されている。
よく保存されていることに加え、DNAポリメラーゼの活性部位は比較的変異しやすく、DNAポリメラーゼ活性を有意に低下させることなく特定のアミノ酸置換を有することができることも示されている(例えば、米国特許第6,602,695号を参照のこと)。このような変異DNAポリメラーゼは、例えば核酸合成反応を含んでなる診断及び研究用途において種々の選択的優位性を提供することができる。
DNA重合の酵素的方法には少なくとも2つのステップ;1)入ってくるヌクレオチドの取込み、そして2)新たに取り込まれたヌクレオチドの伸長、がある。DNAポリメラーゼの全般的な忠実さ又は「精度」は、これらの2つの酵素活性を合わせたものと一般に考えられるが、前記ステップは異なっている。DNAポリメラーゼは、入ってくるヌクレオチドを誤取込みする可能性があるが、それが効率的に伸長されなければ、伸張速度は著しく低下するので、全般的な生成物産生が最小限になるであろう。あるいは、入ってくるヌクレオチドのDNAポリメラーゼ誤取込みを有し、新たに形成されたミスマッチを容易に誤伸長することが可能である。この場合、全般的な伸張速度は高いだろうが、全般的な精度は低いであろう。二価の金属イオン活性化因子としてMn2+を使用するとき、このタイプの酵素の例は、ES112DNAポリメラーゼ(E683R Z05 DNAポリメラーゼ;US7,179,590を参照のこと)であろう。ES112DNAポリメラーゼは非常に高い効率を有するが、それは、ミスマッチに遭遇したときに、止まる/失速する傾向がある典型的なDNAポリメラーゼと異なって、このES112DNAポリメラーゼはミスマッチを容易に伸長するからである。ES112で示される表現型がRTステップ中により明白であるが、それは、おそらくRNA/DNAヘテロ二重鎖対DNA/DNAホモ二重鎖の構造効果による。第二の例は、DNAポリメラーゼが容易に誤取込みをしないが(それほど誤取込みをしやくくはないかもしれないが)、ミスマッチの誤伸長に対して高い能力を有するであろう。この場合、精度は全般的な産物について著しく変わることはない。一般に、このタイプの酵素は、産物の精度が改善されるので、伸長反応に関してMn2+を用いたES112の特徴に比べてより好ましい。しかし、この特性は、たった一つの配列に対するオリゴヌクレオチドプライマーが配列異質性を有する標的(例えば、ウイルス性標的)にハイブリダイズされるが、正常又は低い誤取込み率が本来のオリゴヌクレオチドプライマーを超えたDNA合成の完了を可能にしている時など、ミスマッチしたオリゴヌクレオチドプライマーの誤伸長を可能にするために利用されることができる。このタイプのDNAポリメラーゼの例は、Z05 D580G DNAポリメラーゼである(米国特許出願公開第2009/0148891を参照のこと)。オリゴヌクレオチドプライマーのミスマッチに対してより耐性があるので、このタイプの活性は「ミスマッチ耐性」と呼ばれる。先の例がプライマー伸長タイプ反応について議論されてはいるが、プライマー伸長が頻繁に繰り返されているRT−PCRやPCRなどの反応では、その活性がより顕著である。データは、Z05 D580Gなどの酵素がミスマッチに対してより「耐性がある」と同時に、修飾塩基(例えばt−ブチルベンジル修飾塩基)を含んでいるか、又はSYBR Green IなどのDNA結合色素の存在下でオリゴヌクレオチドプライマーを伸長する高い能力を有することを示唆している(米国特許出願公開第2009/028053を参照のこと)。
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)は、増幅によってRNA標的を検出又は定量化するために多くの用途に使用される技術である。PCRによってRNA標的を増幅するために、最初にRNA鋳型をcDNAに逆転写することが必要である。典型的に、RT−PCRアッセイは、最初のcDNA合成ステップ(RT)のために中温性生物由来の非耐熱性逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)に頼る。追加的な耐熱性DNAポリメラーゼは、cDNAの増幅のために、PCRにおける核酸変性に必要とされる高温に耐える必要がある。RT−PCRアッセイのためにより効果的な逆転写を実施できるように設計された熱活性又は耐熱性DNAポリメラーゼを使用することのいくつかの潜在的利点が存在する。RNA鋳型の二次構造の緩めることができるより高い逆転写インキュベーション温度を使用する能力を伴う増強された逆転写酵素活性は、全般的により高いcDNA合成効率及びアッセイ感度をもたらす。より高い温度でのインキュベーションはまた、逆転写ステップにおける誤ったプライミングを低減することによって特異性を増強することもある。改善された逆転写効率を有する酵素は、短いRTインキュベーション時間及び/又は低い酵素濃度を可能にすることによって、アッセイデザインを簡素化する。dUTP及びUNGを使用するとき、非ストリンジェント設定条件中に形成されるdUMPを含む非特異的伸長産物は、UNGによって分解され、そして、プライマーとして又は鋳型として利用されることができない。中温性生物体由来の非耐熱性逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)を使用するとき、dUTP及びUNG法を利用することはできない(Myers, T.W. et al., Amplification of RNA: High Temperature Reverse Transcription and DNA Amplification with Thermus thermophilus DNA Polymerase, in PCR Strategies, Innis, M.A., Gelfand, D.H., and Sninsky, J.J., Eds., Academic Press, San Diego, CA, 58-68, (1995))。しかしながら、逆転写ステップのための本発明の熱活性又は耐熱性DNAポリメラーゼの使用は、その反応がdUTP/ウラシルN−グリコシラーゼ(UNG)キャリーオーバー予防システムの利用に完全に適合することを可能にする(Longo et al., Use of Uracil DNA Glycosylase to Control Carry-over Contamination in Polymerase Chain Reactions. Gene 93: 125-128, (1990))。キャリーオーバー汚染制御を提供することに加えて、dUTP及びUNGの使用は、非特異的増幅を低減するための「ホットスタート」を提供する(Innis and Gelfand 1999)。
本明細書中では、対応する非改変対照ポリメラーゼと比較して高い逆転写酵素効率、ミスマッチ耐性、伸張速度、及び/又はRT及びポリメラーゼ阻害剤に対する耐性を含めた改善された活性を有するDNAポリメラーゼ、並びにこのようなDNAポリメラーゼを生成、使用する方法を提供する。いくつかの実施形態において、改善されたDNAポリメラーゼは、対照DNAポリメラーゼと比べて高い逆転写酵素効率を有する。いくつかの実施形態において、改善されたDNAポリメラーゼには、対照DNAポリメラーゼと比べて同じであるか又は実質的に同様のDNA依存性ポリメラーゼ活性を有する。こうして、幾つかの実施形態では、配列番号1の698位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸は、Y以外の任意のアミノ酸であり、そして対照DNAポリメラーゼは、配列番号1の698位に対応する対照DNAポリメラーゼのアミノ酸がYであることを除いて、対照DNAポリメラーゼは、DNAポリメラーゼと同じアミノ酸配列を有する。例えば、幾つかの実施形態では、改善されたポリメラーゼの配列番号1の698位に対応する位置のアミノ酸は、G、A、V、R、F、W、P、S、T、C、I、N、Q、D、E、K、L、M、又はHから選ばれる。幾つかの実施形態では、配列番号1の698位に対応する位置のアミノ酸はFである。
幾つかの実施形態では、改善されたDNAポリメラーゼは、配列番号1と実質的に同一の(例えば、少なくとも約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%同一の)アミノ酸配列を含んでいるが、配列番号1の698位に対応する前記DNAポリメラーゼのアミノ酸は、I以外の任意のアミノ酸である。特定の実施形態において、改善されたDNAポリメラーゼは、配列番号1と少なくとも約90%同一のアミノ酸配列を含む。
いくつかの実施形態において、増大された逆転写効率、ミスマッチ耐性、伸張割合、及び/又はRT及びポリメラーゼ阻害剤に対する耐性を有するDNAポリメラーゼは、以下の:
E−X1−X2−X3−X4−I−X5−X6−X7−F−X8−X9−X10−X11−X12−X13−X14
{式中:
X1がA又はTであり;
X2がV、Q、A、E又はKであり;
X3がA、K、T又はEであり;
X4がF、M又はIであり;
X5がE、V、I又はDであり;
X6がR、N、S又はIであり;
X7がY以外の任意のアミノ酸であり;
X8がQ、V、T、R、A又はEであり;
X9がS、L、Y又はTであり;
X10がF又はYであり;
X11がP又はKであり;
X12がK又はGであり;
X13がV又はIであり;
X14がR、F又はKである(配列番号8)}
を含むポリメラーゼドメインにおけるモチーフを含む。
幾つかの実施形態では、X7位のアミノ酸が、G、A、V、R、F、W、P、S、T、C、I、N、Q、D、E、K、L、M、又はHから選ばれる。
幾つかの実施形態では、増大された逆転写効率、ミスマッチ耐性、伸張速度及び/又はRT及びポリメラーゼ阻害剤に対する耐性を有するDNAポリメラーゼは、以下の:
E−A−X2−X3−X4−I−X5−X6−X7−F−X8−X9−X10−P−K−V−R
{式中、
X2がV、Q、A又はEであり;
X3がA又はKであり;
X4がF又はMであり;
X5がE、V又はIであり;
X6がR、N又はSであり;
X7がY以外の任意のアミノ酸であり;
X8がQ、V又はTであり;
X9がS又はLであり;
X10がF又はYである(配列番号9)}
を含むポリメラーゼドメインのモチーフを含む。
幾つかの実施形態では、増大された逆転写効率、ミスマッチ耐性、伸張速度及び/又はRT及びポリメラーゼ阻害剤に対する耐性を有するDNAポリメラーゼは、以下の:
E−A−X2−A−F−I−E−R−X7−F−Q−S−X10−P−K−V−R
{式中、
X2がV、Q又はAであり;
X7がY以外の任意のアミノ酸であり;
X10がF又はYである(配列番号10)}
を含むポリメラーゼドメインにおけるモチーフを含む。
幾つかの実施形態では、増大された逆転写効率、ミスマッチ耐性、伸張速度及び/又はRT及びポリメラーゼ阻害剤に対する耐性を有するDNAポリメラーゼは、以下の:
E−A−X2−A−F−I−E−R−X7−F−Q−S−X10−P−K−V−R
{式中、
X2がV、Q又はAであり;
X7がFであり;
X10がF又はYである(配列番号11)}
を含むポリメラーゼドメインにおけるモチーフを含む。
いくつかの実施形態において、配列番号1の580位に対応する前記DNAポリメラーゼのアミノ酸は、D又はE以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施形態において、配列番号1の580位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸は、D以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施形態において、配列番号1の580位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸は、L、G、T、Q、A、S、N、R、及びKから成る群から選択される。
いくつかの実施形態において、配列番号1の709位に対応する前記DNAポリメラーゼのアミノ酸は、I以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施形態において、配列番号1の709位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸は、K、R、S、G、及びAから成る群から選択される。いくつかの実施形態において、配列番号1の709位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸はKである。
いくつかの実施形態において、配列番号1の698位に対応する前記DNAポリメラーゼのアミノ酸は、Y以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の580位に対応するアミノ酸は、D又はE以外の任意のアミノ酸であり、且つ、配列番号1の709位に対応するアミノ酸は、I以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施形態において配列番号1の698位に対応する前記DNAポリメラーゼのアミノ酸は、Y以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の580位に対応するアミノ酸は、L、G、T、Q、A、S、N、R、及びKから成る群から選択され;且つ配列番号1の709位に対応するアミノ酸は、K、S、R、G、又はAから成る群から選択される。幾つかの実施形態において、配列番号1の698位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸はY以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の580位に対応するアミノ酸はGであり、そして配列番号1の709位に対応するアミノ酸がKである。幾つかの実施形態では、配列番号1の698位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸がFであり、配列番号1の580位に対応するアミノ酸が、L、G、T、Q、A、S、N、R及びKからなる群から選ばれ、且つ、配列番号1の709位に対応するアミノ酸が、K、S、R、G又はAからなる群から選ばれる。いくつかの実施形態において、配列番号1の698位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸がFであり、配列番号1の580位に対応するアミノ酸はGであり、且つ、配列番号1の709位に対応するアミノ酸はKである。いくつかの実施形態において、DNAポリメラーゼは、対照DNAポリメラーゼと比べて同じであるか又は実質的に同様のDNA依存性ポリメラーゼ活性を有する。
いくつかの実施形態において、改善されたDNAポリメラーゼは、対照DNAポリメラーゼと比較して、任意にDNA依存性ポリメラーゼ活性における実質的な減少なしに、逆転写酵素効率が増強されたが、配列番号1の698位に対応する前記DNAポリメラーゼのアミノ酸は、Y以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の709位に対応するアミノ酸は、I以外の任意のアミノ酸であり、そして、前記対照DNAポリメラーゼは、配列番号1の698位に対応するその対照DNAポリメラーゼのアミノ酸がYであり、且つ、配列番号1の709位に対応するアミノ酸がIであることを除いて、前記DNAポリメラーゼと同じアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態において、配列番号1の698位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸はFであり、且つ、配列番号1の709位に対応するアミノ酸はKである。いくつかの実施形態において、改善されたDNAポリメラーゼは、配列番号1の580位に対応するアミノ酸にアミノ酸置換をさらに含んでなる。こうして、いくつかの実施形態において、配列番号1の698位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸は、Y以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の709位に対応するアミノ酸は、I以外の任意のアミノ酸であり、且つ、配列番号1の580位に対応するアミノ酸は、D又はE以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施形態において、配列番号1の698位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸はFであり、配列番号1の709位に対応するアミノ酸はKであり、且つ、配列番号1の580位に対応するアミノ酸はGである。
いくつかの実施形態において、DNAポリメラーゼは、配列番号1の580位及び709位から選ばれる位置に対応する1又は複数のアミノ酸において変異をさらに含む。いくつかの実施形態では、配列番号1の580位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸が、D又はE以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施形態では、配列番号1の580位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸が、L、G、T、Q、A、S、N、R及びKからなる群から選ばれる。いくつかの実施形態において、配列番号1の709位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸は、I以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施形態では、配列番号1の709位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸が、G、A、W、P、S、T、F、Y、C、N、Q、D、E、K、V、R又はHから選ばれる。いくつかの実施形態では、配列番号1の709位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸が、K、R、S、G及びAからなる群から選ばれる。幾つかの実施形態では、配列番号1の709位に対応するDNAポリメラーゼのアミノ酸はKである。
様々なDNAポリメラーゼが本発明による変異が可能である。特に適切なものは、様々な種の好熱性細菌由来の野生型又は天然型の耐熱性ポリメラーゼを含む耐熱性ポリメラーゼ、並びに、アミノ酸置換、挿入若しくは欠失、又は他の改変により、そのような野生型又は天然型の酵素から得た合成耐熱性ポリメラーゼである。非改変型ポリメラーゼの例としては、例えば、CS5、CS6若しくはZ05DNAポリメラーゼ、又はこれらと少なくとも80%、81、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性を有する機能的DNAポリメラーゼが挙げられる。特定の実施形態において、前記アミノ酸配列同一性は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、そして、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有する。他の非改変ポリメラーゼとしては、例えば、以下の好熱性細菌の種のいずれかに由来するDNAポリメラーゼ(又は、そのようなポリメラーゼと少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性を有する機能的DNAポリメラーゼ)が挙げられる:サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima);サーマス・アクアティクス(Thermus aquaticus);サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus);サーマス・フラバス(Thermus flavus);サーマス・フィリホルミス(Thermus filiformis);サーマス種sps17(Thermus sp. Sps17);サーマス種Z05(Thermus sp. Z05);サーモトガ・ネオポリタナ(Thermotoga neopolitana);サーモシフォ・アフリカヌス(Thermosipho africanus);サーマス・カルドフィルス(Thermus caldophilus)、デイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)又はバチルス・カルドテナクス(Bacillus caldotenax)。特定の実施形態において、前記アミノ酸配列同一性は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、そして、より好ましくは少なくとも95%である。適切なポリメラーゼとしてはまた、逆転写酵素(RT)活性及び/又はリボヌクレオチド若しくは他の2’改変ヌクレオチドのような特殊なヌクレオチド取込み能力を有するものも挙げられる。
効率的な逆転写活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼは、特にRT−PCR、特に単一酵素RT−PCRを行うのに適切である一方、熱活性であるが、耐熱性ではないDNAポリメラーゼであって、逆転写活性を有するDNAポリメラーゼもまた本発明による変異が可能である。例えば、高い逆転写酵素効率、ミスマッチ耐性、伸張速度、及び/又はRT阻害剤に対する耐性から成る特性は、RT−PCRのRTステップに重要であり、そして、このステップは、熱活性であるが、耐熱性ではないDNAポリメラーゼを不活化するであろう温度にて実施される必要はない。RTステップに続いて、熱性DNAポリメラーゼが加えられるか、又は熱性DNAポリメラーゼは、PCR増幅ステップを行うための反応混合物に既に含まれている。例えば、本明細書中に記載した改善されたDNAポリメラーゼは、実施例に記載のとおり、RNAとDNA鋳型の伸長及び増幅に好適なバッファー中でRTステップの前に第二の耐熱性DNAポリメラーゼと混合できる。好適な耐熱性DNAポリメラーゼの例は、米国特許番号第4,889,818号及び同第5,773、258号と同第5,677,152号に記載されている。いくつかの実施形態において、第二の耐熱性DNAポリメラーゼは、AmpliTaq(登録商標)DNAポリメラーゼ(デオキシヌクレオシド三リン酸:DNAデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ、E.C.2.7.7.7)である。いくつかの実施形態において、第二の耐熱性DNAポリメラーゼは、以下に記載したとおり、可逆的に不活性化された耐熱性ポリメラーゼである。一実施形態において、可逆的に不活性化された耐熱性ポリメラーゼは、AmpliTaq Gold(登録商標)DNAポリメラーゼ(Roche Applied Science, Indianapolis, IN, USA)である。この第二の方法論は、それがRTステップ中に完全に活性されないように、化学的に改変された耐熱性DNAポリメラーゼ(又は耐熱性DNAポリメラーゼを不活化するための他のHotStart技術)を使用することによって特別な利点を得るであろう。効果的な逆転写活性を有する熱活性であるが、耐熱性でないDNAポリメラーゼの例は、カルボキシドサーマス・ハイドロゲノホルマンス(Carboxydothermus hydrogenoformans)(Chy;配列番号39)からのDNAポリメラーゼである(例えば米国特許番号第6,468,775号及び同第6,399,320号を参照のこと。)
いくつかの実施形態において、前記DNAポリメラーゼは、以下の:
(a)サーマス種Z05DNAポリメラーゼ(Z05)(配列番号1);
(b)サーマス・アクアティクスDNAポリメラーゼ(Taq)(配列番号2);
(c)サーマス・フィリホルミスDNAポリメラーゼ(Tfi)(配列番号3);
(d)サーマス・フラバスDNAポリメラーゼ(Tfl)(配列番号4);
(e)サーマス種sps17DNAポリメラーゼ(Sps17)(配列番号5);
(f)サーマス・サーモフィルスDNAポリメラーゼ(Tth)(配列番号6);及び
(g)サーマス・カルドフィルスDNAポリメラーゼ(Tea)(配列番号7)
(h)カルボキシドサーマス・ハイドロゲノホルマンスDNAポリメラーゼ(Chy)(配列番号39)、
から成る群から選択されるポリメラーゼに対して少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%のアミノ酸配列同一性を有する。
特定の実施形態において、前記アミノ酸配列同一性は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、そして、より好ましくは少なくとも95%である。
いくつかの実施形態において、DNAポリメラーゼは、サーモトガDNAポリメラーゼである。例えば、いくつかの実施形態において、DNAポリメラーゼは、以下の:
(a)サーモトガ・マリティマDNAポリメラーゼ(Tma)(配列番号34);
(b)サーモトガ・ネオポリタナDNAポリメラーゼ(Tne)(配列番号35)、
から成る群から選択されるポリメラーゼと少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%のアミノ酸配列同一性を有する。
特定の実施形態において、前記アミノ酸配列同一性は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、そして、より好ましくは少なくとも95%である。
いくつかの実施形態において、DNAポリメラーゼは、配列番号1と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%のアミノ酸配列同一性を有する。特定の実施形態において、前記アミノ酸配列同一性は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、そして、より好ましくは少なくとも95%である。いくつかの実施形態において、当該DNAポリメラーゼは、サーマス種Z05DNAポリメラーゼ(Z05)DNAポリメラーゼ(すなわち、配列番号1)であり、且つ、698位のアミノ酸がY以外の任意のアミノ酸である。例えば、いくつかの実施形態において、698位のアミノ酸は、G、A、V、R、F、W、P、S、T、C、I、N、Q、D、E、K、L、M又はHから選択される。いくつかの実施形態において、当該DNAポリメラーゼは、Z05DNAポリメラーゼであり、且つ、698位のアミノ酸はFである。いくつかの実施形態において、当該DNAポリメラーゼは、580位にさらに置換を含んでなるZ05DNAポリメラーゼであり、580位のアミノ酸は、D又はE以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施形態において、当該DNAポリメラーゼはZ05DNAポリメラーゼであり、580位のアミノ酸は、D以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施形態において、当該DNAポリメラーゼはZ05DNAポリメラーゼであり、580位のアミノ酸は、L、G、T、Q、A、S、N、R及びKからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、当該DNAポリメラーゼはZ05DNAポリメラーゼであり、580位のアミノ酸はGである。いくつかの実施形態において、DNAポリメラーゼは709位にさらに置換を含んでなるZ05DNAポリメラーゼであり、且つ、その709位のアミノ酸はI以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施形態において、DNAポリメラーゼはZ05DNAポリメラーゼであり、且つ、709位のアミノ酸がK、R、S、G、及びAから成る群から選択される。いくつかの実施形態において、DNAポリメラーゼはZ05DNAポリメラーゼであり、且つ、709位のアミノ酸がKである。
いくつかの実施形態において、対照DNAポリメラーゼは、Z05、Z05 D580G、又はZ05 D580G I709Kポリメラーゼである。
変異又は改良ポリメラーゼは置換によらない他の改変を含むこともできる。そのような改変の一つは、酵素を不活性化する熱可逆的な共有結合修飾であり、通常ポリヌクレオチド伸長に用いられる温度などの高温でインキュベートすると、逆に酵素を活性化する。そのような熱可逆的な修飾のための試薬の例が、米国特許第5,773,258号及び第5,677,152号に記載されている。
いくつかの実施形態において、逆転写酵素活性は、pSP64ポリ(A)(Promega)を用いてHCV遺伝子型lb5’NTRの最初の800塩基から作り出したC型肝炎ウイルス(HCV)転写産物のリアルタイムRT−PCR増幅及び検出を実施することによって測定される。二つ以上の反応混合物に、滴定したコピー数のC型肝炎ウイルス(HCV)転写産物を入れておくことができる(例えば、1:5滴定(titrations)、1:10滴定、例えば、数種類の反応混合物中に10,000コピー、1000コピー、100コピー、10コピー、1コピー、0コピー)。本発明のポリメラーゼの逆転写酵素能は、本明細書中に記載されるように、事前に選択した単位時間にわたって、参照ポリメラーゼ(例えば、天然、非改変、又は対照ポリメラーゼ)の逆転写酵素能力と比較することができる。改善された逆転写酵素能力を有するポリメラーゼは、天然又は非改変ポリメラーゼと比較して、より高い効率で転写産物を増幅するか、又は転写産物を増幅するのにより少ないPCRサイクルしか必要としない(すなわち、本明細書中で計算されるように、低いCp値を呈する)。そのうえ、いくつかの実施形態において、改善されたRT機能を有するポリメラーゼはまた、長いRNA(例えば、少なくとも500、1000、2000又は5000以上ヌクレオチド長)鋳型の複製も改善した。いくつかの実施形態において、改善された逆転写酵素効率としては、対照ポリメラーゼと比較してより短い逆転写時間が挙げられる。これにより、いくつかの実施形態において、高い逆転写酵素効率を有するポリメラーゼは、対照又は参照ポリメラーゼより速くRNA鋳型を逆転写する。
様々な他の態様において、本発明は、本明細書に記載される変異又は改良DNAポリメラーゼをコードする組換え核酸、前記組換え核酸を含んでなるベクター及び/又は前記ベクターで形質転換した宿主細胞を提供する。特定の実施形態においては、当該ベクターは発現ベクターである。そのような発現ベクターを含んでなる宿主細胞は、組換え核酸の発現に適切な条件下で宿主細胞を培養することにより変異又は改良ポリメラーゼを生成するための本発明の方法に有用である。本発明のポリメラーゼは、反応混合物及び/又はキットに含まれていてもよい。組換え核酸、宿主細胞、ベクター、発現ベクター、反応混合物及びキットの実施形態は、上記及び本明細書に記載される通りである。
さらに別の態様において、ポリヌクレオチド伸長を行う方法が提供される。本方法は通常、本明細書に記載される高い逆転写酵素効率、ミスマッチ耐性、伸張速度、及び/又はRT及びポリメラーゼ阻害剤耐性を有するDNAポリメラーゼを、プライマーが伸長するのに適切な条件下で、プライマー、鋳型ポリヌクレオチド及びヌクレオシド三リン酸と接触させ、伸長プライマーを生成する工程を含む。当該鋳型ポリヌクレオチドには、例えば、鋳型RNA又はDNAがなりうる。特定の実施形態において、プライマー伸長には、約5分未満の逆転写ステップが含まれる。いくつかの実施形態において、伸長に好適な条件にはMg2+が含まれる。ヌクレオチド三リン酸は、例えば、リボヌクレオチド及び/又は標識されたヌクレオチドのような特殊なヌクレオチドを含むことができる。さらに、プライマー及び/又は鋳型は、1若しくは複数のヌクレオチド類似体を含むことができる。変形によっては、ポリヌクレオチド伸長方法は、変異又は改良DNAポリメラーゼを、ポリヌクレオチドの増幅に適切な条件下でプライマー対、鋳型ポリヌクレオチド及びヌクレオシド三リン酸と接触させる工程を含むポリヌクレオチド増幅方法である。ポリヌクレオチド伸長反応には、例えば、PCR、等温伸長又はシークエンシング(例えば、454シークエンシング反応)がなりうる。特定の実施形態において、プライマー伸長法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含んで成る。鋳型ポリヌクレオチドは、任意のタイプの生物学的サンプルに由来するものであり得る。
任意に、プライマー伸長反応物には、参照又は非改変ポリメラーゼの実際の又は潜在的な阻害剤が含まれる。その阻害剤は、参照又は非改変(対照)ポリメラーゼの核酸伸張速度及び/又は逆転写効率を阻害する。いくつかの実施形態において、前記阻害剤は、ヘモグロビン又はその分解産物である。例えば、いくつかの実施形態において、ヘモグロビン分解産物は、ヘミン、ヘマトポルフィリン、又はビリルビンなどのヘム分解産物である。いくつかの実施形態において、前記阻害剤は、鉄キレート剤又は紫色色素である。他の実施形態において、前記阻害剤は、ヘパリン又はメラニンである。特定の実施形態において、前記阻害剤は、挿入色素(intercalating dye)である。いくつかの実施形態において、前記挿入色素は、[2−[N−ビス−(3−ジメチルアミノプロピル)−アミノ]−4−[2,3−ジヒドロ−3−メチル−(ベンゾ−1,3−チアゾール−2−イル)−メチリデン]−1−フェニル−キノリニウム]+である。いくつかの実施形態において、前記挿入色素は、[2−[N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N−プロピルアミノ]−4−[2,3−ジヒドロ−3−メチル−(ベンゾ−1,3−チアゾール−2−イル)−メチリデン]−1−フェニル−キノリニウム]+である。いくつかの実施形態において、前記挿入色素は、[2−[N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N−プロピルアミノ]−4−[2,3−ジヒドロ−3−メチル−(ベンゾ−1,3−チアゾール−2−イル)−メチリデン]−1−フェニル−キノリニウム]+である。いくつかの実施形態において、伸長に好適な条件は、Mg++を含む。いくつかの実施形態において、伸長に好適な条件は、Mn++を含む。
本発明はまた、そのようなポリヌクレオチド伸長法において有用なキットも提供する。通常キットは、本明細書に記載される変異又は改良DNAポリメラーゼを提供する、少なくとも1つの容器を含む。特定の実施形態においては、キットはさらに、1若しくは複数の追加の試薬を提供する1若しくは複数の追加の容器を含む。例えば、特定の変形においては、1若しくは複数の追加の容器は、ヌクレオシド三リン酸;ポリヌクレオチド伸長に適切なバッファー;及び/又はポリヌクレオチド伸長条件下で、所定の鋳型ポリヌクレオチドにハイブリダイズ可能な1若しくは複数のプライマー又はプローブポリヌクレオチドを提供する。前記鋳型ポリヌクレオチドは、任意のタイプの生物学的サンプルに由来し得る。
さらに、本発明のポリメラーゼを含んでなる反応混合物が提供される。反応混合物はまた、鋳型核酸(DNA及び/又はRNA)、1若しくは複数のポリヌクレオチドプライマー又はプローブ、ヌクレオシド三リン酸(例えば、デオキシリボヌクレオシド三リン酸、リボヌクレオシド三リン酸、標識されたヌクレオシド三リン酸、特殊なヌクレオシド三リン酸を含む)、バッファー、塩類、標識(例えば、蛍光体)も含むことができる。いくつかの実施形態において、反応混合物には、鉄キレート剤又は紫色色素が含まれる。特定の実施形態において、反応混合物には、ヘモグロビン又はヘモグロビン分解産物が含まれる。例えば、特定の実施形態において、ヘモグロビン分解産物は、ヘミン、ヘマチン、ヘマトフォリン、及びビリルビンなどのヘム分解産物が含まれる。他の実施形態において、反応混合物には、ヘパリン又はその塩が含まれる。任意に、反応混合物には、挿入色素(これだけに限定されるものではないが、先に記載したもの又は他の場所で本明細書中に記載したものを含む)が含まれる。特定の実施形態において、反応混合物には、血液から単離された鋳型核酸が含まれる。他の実施形態において、鋳型核酸はRNAであり、且つ、反応混合物にはヘパリン又はその塩が含まれる。いくつかの実施形態において、反応混合物には、Mg2+がさらに含まれる。
特定の実施形態において、反応混合物には、第二の耐熱性DNAポリメラーゼが含まれる。いくつかの実施形態において、反応混合物には、2つ以上のポリメラーゼが含まれる。例えば、いくつかの実施形態において、反応混合物には、本明細書中に記載した高い逆転写効率(例えば、RNA鋳型を伸長する高い活性)を有する改善されたDNAポリメラーゼ、及びDNA依存性ポリメラーゼ活性を有する別のポリメラーゼが含まれる。一実施形態において、反応混合物は本明細書中に記載した高い逆転写効率、及び第二の耐熱性DNA依存性ポリメラーゼを持っている改善されたDNAポリメラーゼの混ぜ合わせを含む。その第二の耐熱性DNA依存性ポリメラーゼは、酵素が逆転写ステップに好適な温度で不活性であるが、好適な条件下、例えば、最長約12分間、約90℃〜100℃の高温で活性化されるように、先に記載したとおり可逆的に改変されるポリメラーゼであり得る。可逆的に不活性された耐熱性ポリメラーゼの活性化に好適な条件は、実施例に記載のとおり、例えばHot Start PCR反応において提供される。好適な第二の耐熱性DNA依存性ポリメラーゼの例は、米国特許第5,773、258号及び同第5,677,152号、前掲に記載されている。本発明の更なる実施形態が本明細書中に記載されている。
定義
他に断りがない限り、本明細書で用いる技術用語及び科学用語は全て、本発明が属する分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。実質的に本明細書に記載のものと同様の任意の方法及び材料を本発明の実施又は試験に用いることができるが、例示的な方法と材料のみを記載する。本発明の目的上、以下の用語は下記のとおり定義される。
用語「a」、「an」及び「the」は、文脈から明らかに別の意味を示さない限り、複数の指示対象を含む。
「アミノ酸」とは、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質中に組み込むことができる任意の単量体単位を指す。本明細書で使用する場合、「アミノ酸」という用語は、以下の20個の天然の又は遺伝的にコードされるアルファ−アミノ酸を含む:アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リジン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)。「X」残基が定義されていない場合、これらは「任意のアミノ酸」として定義する。これらの20の天然アミノ酸の構造は、例えば、Stryer et al., Biochemistry, 5th ed., Freeman and Company (2002)に示されている。セレノシステイン及びピロリジンのような追加のアミノ酸もまた、遺伝的にコードされうる(Stadtman (1996) "selenocysteine," Annu Rev Biochem. 65:83-100 and Ibba et al. (2002) "Genetic code: introducing pyrrolidine, " Curr Biol. 12(13):R464-R466)。「アミノ酸」という用語は、非天然アミノ酸、(例えば修飾された側鎖及び/又は骨格を有する)修飾アミノ酸及びアミノ酸アナログも含む(例えば、Zhang et al. (2004) "Selective incorporation of 5-hydroxy tryptophan into proteins in mammalian cells," Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101(24):8882-8887, Anderson et al. (2004) "An expanded genetic code with a functional quadruplet codon" Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101(20):7566-7571, Ikeda et al. (2003) "Synthesis of a novel histidine analogue and its efficient incorporation into a protein in vivo," Protein Eng. Pes. Sel. 16(9):699-706, Chin et al. (2003) "An Expanded Eukaryotic Genetic Code," Science 301(5635):964-967, James et al. (2001) "Kinetic characterization of ribonuclease S mutants containing photoisomerizable phenylazophenylalanine residues," Protein Eng. Pes. Sel. 14(12):983-991, Kohrer et al. (2001) "Import of amber and ochre suppressor tRNAs into mammalian cells: A general approach to site-specific insertion of amino acid analogues into proteins," Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98(25): 14310-14315,Bacher et al. (2001) "Selection and Characterization of Escherichia coli Variants Capable of Growth on an Otherwise Toxic tryptophan Analogue," J. Bacteriol. 183(18):5414-5425, Hamano-Takaku et al. (2000) "A Mutant Escherichia coli Tyrosyl-tRNA Synthetase Utilizes the Unnatural amino Acid Azatyrosine More Efficiently than tyrosine," J. Biol. Chem. 275(51):40324-40328, and Budisa et al. (2001) "Proteins with {beta}-(thienopyrrolyl)alanines as alternative chromophores and pharmaceutically active amino acids," Protein Sci. 10(7): 1281-1292を参照のこと)。
さらに例示すると、アミノ酸は典型的には、置換又は非置換のアミノ基、置換又は非置換のカルボキシ基、及び1若しくは複数の側鎖若しくは基、又はそれらの基のいずれかの類似体を含む有機酸である。側鎖の例としては、例えば、チオール、セレノ、スルホニル、アルキル、アリール、アシル、ケト、アジド、ヒドロキシル、ヒドラジン、シアノ、ハロ、ヒドラジド、アルケニル、アルキニル、エーテル、ボレート、ボロネート、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、複素環、エノン、イミン、アルデヒド、エステル、チオ酸、ヒドロキシルアミン又はこれらの基の任意の組み合わせが挙げられる。他の代表的なアミノ酸としては、限定しないが、光励起性架橋剤を含んでなるアミノ酸、金属結合性アミノ酸、スピン標識アミノ酸、蛍光アミノ酸、金属含有アミノ酸、新規な官能基を有するアミノ酸、他の分子と共有結合的又は非共有結合的に相互作用するアミノ酸、フォトケージされた(photocaged)及び/又は光異性化可能アミノ酸、放射性アミノ酸、ビオチン又はビオチン類似体を含んでなるアミノ酸、グリコシル化アミノ酸、他の炭水化物修飾アミノ酸、ポリエチレングリコール又はポリエーテルを含んでなるアミノ酸、重原子置換アミノ酸、化学的開裂可能な、及び/又は光開裂可能なアミノ酸、炭素結合した糖を含むアミノ酸、酸化還元活性アミノ酸、アミノチオ酸含有アミノ酸及び1若しくは複数の有毒部位を含んでなるアミノ酸が挙げられる。
「生物学的サンプル」という用語は、生物体から得られる様々なサンプルタイプを包含し、且つ、診断又は観察アッセイに使用できる。前記用語は、尿、尿沈渣、血液、唾液、及び生物起源の他の液体サンプル、生検材料などの固体組織サンプル、又はそこから誘導された組織培養物若しくは細胞及びその子孫を包含する。前記用語は、例えば特定の成分の試薬での処理、可溶化、沈降、又は濃縮などによって、それらの調達後に任意の方法で操作されたサンプルを包含する。前記用語は、臨床標本を包含し、そしてまた、細胞培養における細胞、細胞上清、細胞溶解物、血清、血漿、体液、及び組織サンプルも含む。
「変異体」という用語は、本発明のDNAポリメラーゼに関しては、対応する機能性DNAポリメラーゼに対して、1若しくは複数のアミノ酸置換を含んでなるポリペプチド、典型的には組換え体を意味する。
「非改変型」という用語は、変異ポリメラーゼに関しては、本発明の変異DNAポリメラーゼを定義づけるために本明細書で用いられる用語である:「非改変型」という用語は、変異ポリメラーゼを特徴づけるものとして特定された1若しくは複数のアミノ酸位置を除き、変異ポリメラーゼのアミノ酸配列を有する機能的DNAポリメラーゼを指す。したがって、(a)その非改変型及び(b)1若しくは複数の特定のアミノ酸置換という観点から変異DNAポリメラーゼのことを述べた場合、それは、変異ポリメラーゼが、特定のアミノ酸置換を除き、それ以外では特定のモチーフ中に非改変型と同一のアミノ酸配列を有することを意味する。「非改変ポリメラーゼ」(したがって、高い逆転写酵素効率を有する改変型も)は所望の機能性、例えば、ジデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、リボヌクレオチド類似体、色素標識ヌクレオチドの取り込みの改良、5’ヌクレアーゼ活性の調節、3’ヌクレアーゼ(又はプルーフリーディング)活性の調節等を提供するために追加の変異を含んでもよい。したがって、本明細書に記載されるように本発明を実施する際には、DNAポリメラーゼの非改変型をあらかじめ決定する。DNAポリメラーゼの非改変型には、例えば、野生型及び/又は天然DNAポリメラーゼ又は既に意図的に改変されたDNAポリメラーゼがなりうる。ポリメラーゼの非改変型は、好ましくは種々な好熱性細菌由来のDNAポリメラーゼのような耐熱性DNAポリメラーゼ、並びに野生型又は天然型の耐熱性ポリメラーゼと実質的な配列同一性を有するその機能的変異体である。そのような変異体としては、例えば、米国特許第6,228,628号及び同第7,148,049号に記載されたキメラDNAポリメラーゼのようなキメラDNAポリメラーゼが挙げられる。特定の実施形態においては、ポリメラーゼの非改変型は逆転写酵素(RT)活性を有する。
「耐熱性ポリメラーゼ」という用語は、熱に安定で、耐熱性で、二本鎖核酸を変性させるのに必要な時間の間、高温にさらした際に、続くポリヌクレオチド伸長反応を行うために十分な活性を保持し、不可逆的に変性(不活性化)しない酵素を指す。核酸の変性に必要な加熱条件は、当業界で周知であり、例えば、米国特許第4,683,202号、第4,683,195号及び第4,965,188号に例示されている。本明細書で使用するとおり、耐熱性ポリメラーゼは、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)のような温度サイクル反応での使用に適切である。本明細書での不可逆的変性とは、不変で完全な酵素活性の欠失を指す。耐熱性ポリメラーゼにとって酵素活性とは、鋳型核酸鎖と相補的なポリヌクレオチド伸長産物を生成するのに適切な方法でヌクレオチドの結合を触媒する作用を指す。好熱性細菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼとしては、例えば、サーモトガ・マリティマ、サーマス・アクアティクス、サーマス・サーモフィルス、サーマス・フラバス、サーマス・フィリホルミス、サーマス種sps17、サーマス種Z05、サーマス・カルドフィラス、バチルス・カルドテナクス、サーモトガ・ネアポリタナ及びサーモシフォ・アフリカヌス由来のDNAポリメラーゼが挙げられる。
「熱活性」という用語は、RT−PCR及び/又はPCR反応における逆転写又はアニーリング/伸長工程で通常用いられる温度(すなわち、45〜80℃)で触媒機能を維持する酵素を指す。耐熱性酵素とは、核酸の変性に必要な高温にさらした際に、不可逆的に不活性化又は変性しないものである。熱活性酵素は耐熱性であってもなくてもよい。熱活性DNAポリメラーゼは、限定しないが、エシェリキア・コリ、モロニーマウス白血病ウイルス及びトリ骨髄芽球症ウイルスを含む好熱性種又は中温性種由来のDNA又はRNA依存性であってよい。
本明細書で使用する場合、「キメラ」タンパク質とは、そのアミノ酸配列が、少なくとも二つの異なるタンパク質由来のアミノ酸配列の部分配列の融合産物であるタンパク質を指す。キメラタンパク質は、典型的には、アミノ酸配列を直接操作することにより生成されるのではなく、むしろキメラアミノ酸配列をコードする「キメラ」遺伝子から発現される。特定の実施形態においては、例えば、本発明の変異DNAポリメラーゼの非改変型は、サーマス種DNAポリメラーゼ由来のアミノ末端(N末端)領域とTmaDNAポリメラーゼ由来のカルボキシ末端(C末端)領域からなるキメラタンパク質である。N末端領域は、N末端(1位のアミノ酸)から内部アミノ酸までの領域をさす。同様に、C末端領域は、内部アミノ酸からC末端までの領域を指す。
「アプタマー」という用語は、米国特許第5,693,502号に記載されているように、DNAポリメラーゼを認識して結合し、ポリメラーゼ活性を効率的に阻害する一本鎖DNAを指す。RT−PCRにおけるアプタマー及びdUTP/UNGの使用はまた、Smith, E.S.ら(Amplification of RNA: High-temperature Reverse Transcription and DNA Amplification with a Magnesium-activated Thermostable DNA Polymerase, in PCR Primer: A Laboratory Manual, 2nd Edition, Dieffenbach, C.W. and Dveksler, G.S., Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 21 1-219, (2003))でも議論されている。
突然変異DNAポリメラーゼに関する文脈において、別の配列(例えば領域、断片、ヌクレオチド又はアミノ酸位置等)との「対応」は、ヌクレオチド又はアミノ酸位置番号によるナンバリングをし、次いで配列同一性の割合を最大にするように配列をアラインメントする方法に基づく。「[特定の配列]の位置[X]に対応する」アミノ酸とは、指定された配列の同等なアミノ酸とアラインメントされた着目のポリペプチド中のアミノ酸を指す。一般に、本明細書中に記載したように、ポリメラーゼの位置に対応するアミノ酸は、以下で記載するBLASTなどのアラインメントアルゴリズムを使用することで決定できる。得られた「対応領域」内の全ての位置が同一である必要はないため、対応領域内の一致しない位置が「対応位置」とみなされる場合もある。したがって、本明細書で、特定のDNAポリメラーゼの「アミノ酸位置[X]に対応するアミノ酸位置」といえば、他のDNAポリメラーゼ、構造的類似体及びファミリーの中で、それらをアラインメントさせたものに基づいた同等の位置を指す。本発明のいくつかの実施形態において、アミノ酸位置の「対応」を、配列番号1、2、3、4、5、6、7、32、33、34、35、36、37、又は39の1若しくは複数のモチーフを含んでなるポリメラーゼの領域に対して決定する。ポリメラーゼのポリペプチド配列が配列番号1、2、3、4、5、6、7、32、33、34、35、36、37、又は39と異なる場合には(例えば、アミノ酸の変化又はアミノ酸の付加又は欠失により)、本明細書で述べる改良された活性に関与する特定の変異は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、32、33、34、35、36、37又は39のものと同じ位置番号にはないかもしれない。このことは、例えば、表1で示される。
本明細書で使用する場合、「組換え体」とは、組換え法により意図的に改変されたアミノ酸配列又はヌクレオチド配列のことを指す。本明細書では、「組換え核酸」という用語は、一般的には制限エンドヌクレアーゼによる核酸の操作により、天然には通常ない形で、元々はin vitroで生成された核酸を意味する。したがって、直鎖状の単離された変異DNAポリメラーゼ核酸、又は通常は結合しないDNA分子を結合させることによりin vitroで生成した発現ベクターは、どちらも本発明の目的の組換え体とみなす。一旦組換え核酸を生成し、宿主細胞中に再導入すれば、それは非組換え的に、すなわち、in vitroでの操作よりもむしろ宿主細胞のin vivoの細胞機構を使って複製するだろう;しかし、一旦組換えで生成されたそのような核酸は、その後は非組換え的に複製されるが、それでも本発明の目的の組換え体とみなされることが理解される。「組換えタンパク質」は、組み換え技術を使って、すなわち、上述した組換え核酸の発現を通して、生成されたタンパク質である。
核酸は、別の核酸配列と機能的関係に置かれる時、「作動できるように連結される」。例えば、プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動できるように連結しており;又はリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように配置される場合、コード配列に作動できるように連結している。
「宿主細胞」という用語は、細胞培養において増殖させる際の単細胞原核生物と真核生物の両方(例えば細菌、酵母及び放線菌類)、そしてより高等の植物又は動物由来の単細胞を指す。
「ベクター」という用語は、典型的には二本鎖のDNA断片を指し、外来DNA断片がその中に挿入されていてもよい。又は、ベクターは例えば、プラスミド由来でもよい。ベクターは、宿主細胞内でベクターの自律複製を促進する「レプリコン」ポリヌクレオチド配列を含む。外来DNAは、宿主細胞中に本来存在しないDNAである異種DNAとして定義され、それは例えば、ベクター分子を複製し、選択可能又はスクリーニング可能なマーカーをコードするか、又は導入遺伝子をコードする。ベクターは、外来又は異種DNAを適切な宿主細胞に輸送するために用いられる。一旦宿主細胞に入れば、ベクターは宿主の染色体DNAとは独立に又はそれと同時に複製することができ、ベクターとその挿入DNAの複数のコピーを生成することができる。その上、ベクターは挿入DNAからmRNA分子への転写を可能にするか、又は挿入DNAからRNAの複数のコピーを複製する、必要な因子も含むことができる。発現ベクターの中には、発現したmRNAの半減期を長くし、かつ/又はmRNAからのタンパク質分子への翻訳を可能にする、挿入DNAに隣接した配列因子をさらに含むものもある。このように、挿入DNAによりコードされるmRNAとポリペプチドの多数の分子を、迅速に合成することができる。
「ヌクレオチド」という用語は、天然のリボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドのモノマーを指すのに加え、本明細書中では、文脈から明らかにそうでないと示されていない限り、ヌクレオチドが用いられている個々の状況(例えば、相補的塩基へのハイブリダイゼーション)に関して機能的に同等である、誘導体及び類似体を含む、関連するその構造的変異体も指すことが理解されるべきある。
「核酸」又は「ポリヌクレオチド」という用語は、リボース核酸(RNA)若しくはデオキシリボース核酸(DNA)ポリマー又はその類似体に相当しうるポリマーを指すと本明細書で理解される。これは、RNAやDNAのようなヌクレオチドのポリマー、並びに合成型、その修飾(例えば化学的又は生化学的に修飾された)型、及び混合ポリマー(例えばRNAサブユニットとDNAサブユニットの両方を含む)を含む。修飾の例としては、メチル化、類似体での天然ヌクレオチドの1若しくは複数の置換、無電荷結合のようなヌクレオチド間修飾(例えばメチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミダート、カルバマート等)、懸垂部分(例えばポリペプチド)、挿入剤(例えばアクリジン、ソラーレン等)、キレート剤、アルキル化剤及び修飾結合(例えばアルファアノマー核酸等)が挙げられる。水素結合や他の化学的相互作用を介して指定配列に結合する能力において、ポリヌクレオチドを模倣する合成分子もまた含まれる。核酸の合成型は他の結合(例えばNielsen et al. (Science 254:1497-1500, 1991)に記載されるようなペプチド核酸)を含むことができるが、典型的には、ヌクレオチドモノマーはホスホジエステル結合を介して結合する。核酸には、例えば染色体又は染色体セグメント、ベクター(例えば発現ベクター)、発現カセット、裸のDNA又はRNAポリマー、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物、オリゴヌクレオチド、プローブ及びプライマーがなりえる。又は核酸はそれらを含むことができる。核酸は例えば、一本鎖、二本鎖、又は三本鎖であることができ、特定の長さに限定されない。他に断りがない限り、特定の核酸配列は、明示された任意の配列に加え、相補的配列を任意に含んでなるか、又はコードする。
「オリゴヌクレオチド」という用語は、少なくとも2つの核酸モノマー単位(例えばヌクレオチド)を含む核酸を指す。オリゴヌクレオチドは、典型的には約6〜約175の核酸モノマー単位、より典型的には約8〜約100の核酸モノマー単位、さらにより典型的には約10〜約50の核酸モノマー単位(例えば約15、約20、約25、約30、約35又はそれ以上の核酸モノマー単位)を含む。オリゴヌクレオチドの正確なサイズは、そのオリゴヌクレオチドの最終的な機能又は用途を含む多くの要因によって決まる。オリゴヌクレオチドは場合により、限定しないが、既存の又は天然の配列の単離、DNA複製又は増幅、逆転写、適切な配列のクローニング及び制限消化、又はNarang et al. (Meth. Enzymol. 68:90-99, 1979)のホスホトリエステル法;Brown et al. (Meth. Enzymol. 68:109-151, 1979)のホスホジエステル法;Beaucage et al. (Tetrahedron Lett. 22: 1859-1862, 1981)のジエチルホスホルアミダイト法;Matteucci et al. (J. Am. Chem. Soc. 103:3185-3191, 1981)のトリエステル法;自動合成法;若しくは米国特許第4,458,066号の固相支持体法などの方法による直接化学合成、又は当業者に公知の他の方法を含む任意の適切な方法により調製される。
「プライマー」という用語は、本明細書で使用する場合、ポリヌクレオチド伸長が開始する条件下(例えば適切なバッファー中及び適切な温度又は温度サイクル(例えばポリメラーゼ連鎖反応でのような)で、必要なヌクレオシド三リン酸(コピーされる鋳型により決まる)の存在とポリメラーゼを含んでなる条件下)に置かれた時に、鋳型依存(template−directed)の核酸合成の開始点として作用しうるポリヌクレオチドのことを指す。さらに例示すると、プライマーは様々な他のオリゴヌクレオチド媒介合成方法において、例えばRNAのde novo合成及びin vitro転写関連過程(例えば核酸配列ベース増幅(NASBA)、転写媒介増幅(TMA)等)の開始剤として、使用することもできる。プライマーは典型的には一本鎖オリゴヌクレオチド(例えば、オリゴデオキシリボヌクレオチド)である。プライマーの適切な長さは、プライマーの企図される用途により決まるが、典型的には6〜40ヌクレオチド、より典型的には15〜35ヌクレオチドの範囲である。短いプライマー分子は一般に、鋳型と十分に安定なハイブリッド複合体を形成するためにより低い温度を必要とする。プライマーは鋳型の正確な配列を反映する必要はないが、プライマーを伸長させるために、鋳型とハイブリダイズするのに十分に相補的でなければならない。特定の実施形態においては、「プライマー対」という用語は、増幅させる核酸配列の5’末端の相補体とハイブリダイズする5’センスプライマー(「フォワード」と呼ばれる場合もある)と、増幅させる配列の3’末端とハイブリダイズする3’アンチセンスプライマー(「リバース」と呼ばれる場合もある)とを含むプライマーのセットを意味する(例えば、標的配列がRNAとして発現されるか、又はRNAである場合)。プライマーは、必要であれば、分光的、光化学的、生化学的、免疫化学的又は化学的手法により検出可能な標識を取り込むことにより、標識することができる。例えば、有用な標識としては、32P、蛍光色素、高電子密度試薬、酵素(ELISAアッセイに汎用される)、ビオチン、又はそれに対する抗血清若しくはモノクローナル抗体が入手可能であるハプテン及びタンパク質が挙げられる。
核酸塩基、ヌクレオシド三リン酸又はヌクレオチドについて述べる場合、「従来の」又は「天然の」という用語は、記載されたポリヌクレオチド中に本来存在するもの(すなわち、DNAの場合にはdATP、dGTP、dCTP及びdTTP)を指す。加えて、シークエンシングのような、in vitroでのDNA合成反応においては、dGTPの代わりにdITP及び7−デアザ−dGTPが頻繁に用いられ、dATPの代わりに7−デアザ−dATPを用いることができる。それらをまとめて、dNTPと呼んでもよい。
核酸塩基、ヌクレオシド又はヌクレオチドについて述べる場合、「特殊な」又は「改変された」という用語は、特定のポリヌクレオチド中に本来存在する従来の塩基、ヌクレオシド又はヌクレオチドの改変、誘導、類似体を含む。特定の特殊なヌクレオチドは、従来のdNTPと比較してリボース糖の2’位で改変されている。したがって、RNAの場合は天然のヌクレオチドはリボヌクレオチド(すなわちATP、GTP、CTP、UTP、総称してrNTP)だが、それらのヌクレオチドは、比較したらdNTPには存在しない、糖の2’位にヒドロキシル基を有するため、本明細書では、リボヌクレオチドはDNAポリメラーゼの基質としては特殊なヌクレオチドである。本明細書では、特殊なヌクレオチドとしては、限定しないが、核酸シークエンシングにターミネーター(terminator)として用いられる化合物が挙げられる。ターミネーター化合物の例としては、限定しないが、2’,3’ジデオキシ構造を有し、ジデオキシヌクレオシド三リン酸と呼ばれる化合物が挙げられる。ジデオキシヌクレオシド三リン酸ddATP、ddTTP、ddCTP及びddGTPは、まとめてddNTPと呼ばれる。ターミネーター化合物のその他の例としては、リボヌクレオチドの2’−PO4類似体(例えば、米国特許出願公開第2005/0037991号及び第2005/0037398号を参照のこと)が挙げられる。他の特殊ヌクレオチドとしては、ホスホロチオエートdNTP([α−S]dNTP)、5’−[α−ボラノ]−dNTP、[α]−メチルホスホネートdNTP及びリボヌクレオシド三リン酸(rNTP)が挙げられる。特殊な塩基は、32P、33P又は35Sのような放射性同位体;蛍光標識;化学発光標識;生物発光標識;ビオチンのようなハプテン標識;又は、ストレプトアビジン若しくはアビジンのような酵素標識により標識してもよい。蛍光標識としては、フルオレセインファミリーの色素のような負に帯電した色素、又はローダミンファミリーの色素のような電荷が中性である色素、又はシアニンファミリーの色素のような正に帯電した色素を挙げることができる。フルオレセインファミリーの色素としては、例えば、FAM、HEX、TET、JOE、NAN及びZOEが挙げられる。ローダミンファミリーの色素としては、テキサスレッド、ROX、R110、R6G及びTAMRAが挙げられる。FAM、HEX、TET、JOE、NAN、ZOE、ROX、R110、R6G、テキサスレッド及びTAMRAにより標識した様々な色素又はヌクレオチドは、Perkin-Elmer (Boston, MA), Applied Biosystems (Foster City, CA)又はInvitrogen/Molecular Probes (Eugene, OR)より販売されている。シアニンファミリーの色素としてはCy2、Cy3、Cy5及びCy7が挙げられ、それらはGE Healthcare UK Limited (Amersham Place, Little Chalfont, Buckinghamshire, England)により販売されている。
本明細書で使用する場合、「配列同一性の割合」は、比較ウィンドウを通して2つの最適にアラインメントさせた配列を比較することにより求められ、ここで比較ウィンドウ中の配列部分は、2つの配列の最適アラインメントのための参照配列(付加又は欠失を含まない)と比較して、付加又は欠失(すなわちギャップ)を含むことができる。割合は、同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が両方の配列中に存在する位置の数を調べて一致した位置の数を求め、一致した位置の数を比較ウィンドウ中の位置の総数で割り、その結果を100倍して配列同一性の割合を求めることにより算出する。
2つ以上の核酸又はポリペプチド配列の文脈における「同一」又はパーセント「同一性」という用語は、同じである2つ以上の配列又は部分配列のことをいう。比較ウィンドウ、又は下記の配列比較アルゴリズムの1つを使って若しくは手作業でのアラインメントと目視検査により測定するよう指定された領域にわたって、最大の対応となるように比較、アラインメントした時に、配列が同じであるヌクレオチド又はアミノ酸残基を特定の割合で有する場合(例えば、特定の領域にわたって少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%の同一性)、配列は互いに「実質的に同一」である。配列は、それらが少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、又は少なくとも55%同一であれば、互いに「実質的に同一」である。それらの定義は、試験配列の相補体にも適用する。場合により、同一性は少なくとも長さ約50ヌクレオチド、又はより典型的には長さ100〜500若しくは1000以上のヌクレオチドの領域にわたって存在する。
2つ以上のポリペプチド配列に関する文脈における「類似性」又は「類似性の割合」という用語は、比較ウィンドウ、又は下記の配列比較アルゴリズムの1つを使って若しくは手作業でのアラインメントと目視検査により測定するよう指定された領域にわたって、最大の対応となるように比較、アラインメントした時に、保存されたアミノ酸置換により定義されるものと同一か又は類似のアミノ酸残基を特定の割合(例えば、特定領域にわたって60%の類似性、場合により65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%の類似性)で有する、2つ以上の配列又は部分配列のことをいう。少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%又は少なくとも55%が互いに類似している場合、配列は互いに「実質的に類似」している。場合により、この類似性は、少なくとも長さ約50アミノ酸、より典型的には少なくとも長さ約100〜500又は1000以上のアミノ酸の領域にわたって存在する。
配列比較においては、通常1つの配列を参照配列とし、試験配列をその参照配列と比較する。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験及び参照配列をコンピューターに入力し、必要ならば部分配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。デフォルトプログラムパラメータが通常用いられるが、代替パラメータを指定することもできる。そしてプログラムパラメータに基づき、配列比較アルゴリズムが参照配列に対する試験配列の配列同一性又は類似性の割合を算出する。
「比較ウィンドウ」は、本明細書で使用する場合、20〜600、一般的には約50〜約200、より一般的には約100〜約150からなる群から選択される連続する位置の数のいずれか一つのセグメントを指すことを含み、ここでは、2つの配列を最適にアラインメントした後で、配列を同じ数の連続する位置の参照配列と比較してもよい。比較のための配列のアラインメント方法は当業界で周知である。比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith and Watermanのローカルホモロジーアルゴリズム(Adv. Appl. Math. 2:482, 1970)、Needleman and Wunschのホモロジーアラインメントアルゴリズム(J. Mol. Biol. 48:443, 1970)、Pearson and Lipmanの類似性検索法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988)、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実行(例えば、GAP, BESTFIT, FASTA, and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.)又は手動での配列及び目視検査(例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (1995 supplement)を参照のこと)により実施できる。
配列同一性及び配列類似性の割合を求めるのに適切なアルゴリズムの例は、BLAST及びBLAST2.0アルゴリズムであり、それらはそれぞれ、Altschul et al. (Nuc. Acids Res. 25:3389-402, 1977)及びAltschul et al. (J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990))に記載されている。BLAST分析を実行するためのソフトウェアは、the National Center for Biotechnology Information (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から市販されている。このアルゴリズムは、第1に、データベース配列中の同じ長さの文字列とアラインメントさせた際に、いくつかの正の値の閾値Tと一致する又は満たす検索配列中の長さWの短い文字列を同定することにより、高スコア配列ペア(HSP)を同定する。Tを、近接(neighbourhood)文字列スコア閾値と呼ぶ(上述のAltschul el al.,)。これらの初期近接文字列のヒットは、これらを含むより長いHSPを見出すための初期検索の種(シード)として機能する。文字列のヒットは、各々の配列に沿って、累積アラインメントスコアが増加し得る限り両方向に伸長する。ヌクレオチド配列についての累積スコアは、パラメータM(一致残基の対に対する報酬スコア;常に>0)及びN(不一致残基に対するペナルティスコア;常に<0)を用いて計算される。アミノ酸配列については、スコアリングマトリクスは、累積スコアを計算するために使用される。各々の方向への文字列のヒットの伸長は、累積アラインメントスコアがその最高値から量X減少した時、負のスコアの残基アラインメントの1若しくは複数の累積によって累積スコアがゼロ又はそれ以下になった時、又はいずれかの配列の末端に達した時に停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、T及びXは、アラインメントの感度及び速度を決定する。BLASTNプログラムは、(ヌクレオチド配列の場合)初期値として文字列の長さ(W)が11、期待値(E)が10、M=5、N=−4及び両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列の場合は、BLASTPプログラムは、初期値として文字列の長さが3、期待値(E)が10、BLOSUM62スコアリングマトリクス(Henikoff and Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915, 1989を参照のこと)アラインメント(B)が50、期待値(E)が10、M=5、N=−4及び両鎖の比較を用いる。
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計解析も行う(例えば、Karlin and Altschul, Proc. Natl Acad. Sci. USA 90:5873-87, 1993を参照のこと)。BLASTアルゴリズムが提供する類似性の1つの基準は、最小和確率(P(N))である。P(N)は、2つのヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の間の一致が偶然に起こる確率の指標を提供する。例えば、試験核酸を参照核酸と比較した最小和確率が約0.2未満、典型的には約0.01未満、より典型的には約0.001未満である場合、核酸は参照配列と類似していると見なされる。
「逆転写効率」という用語は、所定の逆転写反応においてcDNAとして逆転写されるRNA分子の割合を指す。特定の実施形態において、本発明の突然変異DNAポリメラーゼは、これらのDNAポリメラーゼの非改変型に比較して改善された逆転写効率を有する。すなわち、これらの突然変異DNAポリメラーゼは、特定の反応条件セット下で非改変型よりも高い割合のRNA鋳型を逆転写する。理論によって制限されることなしに、より高い割合のRNA鋳型を逆転写する本明細書中に記載した突然変異DNAポリメラーゼの能力は、増強された逆転写活性、例えば、高いヌクレオチド取込み速度及び/又は高い酵素の前進性に起因し得る。逆転写効率は、例えば、RNA鋳型を使用したPCR反応のクロッシングポイント(Cp)を決定し、そして、このCp値を同じ配列(Uのものを除いてTのものに置き換える)のDNA鋳型が増幅される対照反応のCp値と比較することによって測定でき、そのRNA及びDNA増幅では、例えば実施例に記載の、共通のプライマーセット及び同じポリメラーゼを使用する。試験ポリメラーゼは、その試験ポリメラーゼがRNAを鋳型として使用したときには、対照ポリメラーゼと比較して低いCp値を有するが、DNAが鋳型として使用されるとき、対照ポリメラーゼに対して実質的に変らないCp値を有する改善されたRT効率を有する。いくつかの実施形態において、本発明のポリメラーゼは、RNA鋳型に対してそのCpが対応する対照ポリメラーゼより少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10ユニット以上少ないような、改善されたRT効率を有する。
「ミスマッチ耐性」という用語は、1若しくは複数のヌクレオチドを核酸に(例えば、共有結合的に)付加することによって、鋳型依存性様式で核酸(例えば、プライマー又は他のオリゴヌクレオチド)を伸長する際に、ミスマッチ含有配列を許容するポリメラーゼの能力を指す。「3’ミスマッチ耐性」という用語は、伸長される核酸(例えば、プライマー又は他のオリゴヌクレオチド)が、プライマーの3’末端のヌクレオチドにその鋳型とのミスマッチを有する、ミスマッチ含有(ほとんど相補的な)配列を許容するポリメラーゼの能力を指す。鋳型に対するミスマッチはまた、プライマーの3’ペナルチメートヌクレオチドに又はプライマー配列内の別の位置にも存在し得る。
「ミスマッチ識別能」という用語は、1若しくは複数のヌクレオチドを核酸(例えば、プライマー又は他のオリゴヌクレオチド)に(例えば、共有結合的に)付加することにより鋳型依存的に核酸を伸長する際に、完全に相補的な配列をミスマッチ含有配列から識別するポリメラーゼの能力を指す。「3’ミスマッチ識別能」という用語は、伸長させる核酸(例えば、プライマー又は他のオリゴヌクレオチド)が、核酸がハイブリダイズする鋳型と比較して、その核酸の3’末端にミスマッチを有する場合に、(ほぼ相補的な)ミスマッチ含有配列から完全に相補的な配列を識別するポリメラーゼの能力を指す。いくつかの実施形態において、伸長させる核酸は、完全に相補的な配列に対して3’末端にミスマッチを含んでなる。「ミスマッチ」という用語は、他の相補的二本鎖形成(又は、潜在的の二本鎖形成)配列の範囲内の1若しくは複数の塩基の誤対合(又は「非相補的」塩基対立」)の存在を指す。
「Cp値」又は「クロッシングポイント」値という用語は、標的核酸の投入量の定量ができる値を指す。Cp値は、二次導関数最大値法(second−derivative maximum method)(Van Luu-The, et al., "Improved real-time RT-PCR method for high-throughput measurements using second derivative calculation and double correction," BioTechniques, Vol. 38, No. 2, February 2005, pp. 287-293)により求めることができる。二次導関数最大値法において、Cpは二次導関数曲線の第1のピークに相当する。このピークは指数増大期の開始に相当する。二次導関数法により、リアルタイムの蛍光強度曲線の二次導関数値が算出され、1つの値のみが得られる。オリジナルのCp法は、ある区間で定義された強度値の微分可能な近似、例えば、多項式関数によるものに基づく。その後三次導関数を算出する。Cp値は、三次導関数の最小根である。Cpはまたフィットポイント法(fit point method)を用いて求めることもでき、ここでは、Cpは指数増大範囲における補助線(threshold line)との平行線の交点から求める(Van Luu-The, et al., BioTechniques, Vol. 38, No. 2, February2005, pp. 287-293)。Cp値は、二次導関数最大法による計算によって、RocheからのLightCycler装置によって提供された。
「PCR効率」という用語は、サイクルからサイクルへの増幅効率の指標を指す。PCR効率は式:PCR効率(%)=(10(-傾き)−1)×100を用いて、それぞれの条件で算出する。ここで、傾きは、y軸にプロットされたコピー数の対数とx軸にプロットされたCpを用いた直線回帰により算出した。PCR効率は、完全に合致したか又はミスマッチしたプライマー鋳型を使用することで計測できる。
「核酸伸長速度」という用語は、生体触媒(例えば酵素、例えばポリメラーゼ、リガーゼ等)が、1又は複数のヌクレオチドを核酸に結合する(例えば共有結合的に)ことにより核酸(例えばプライマー又は別のオリゴヌクレオチド)を鋳型依存的又は鋳型独立的に伸長する速度を指す。例えば、本明細書中の或る種の変異型DNAポリメラーゼは、それらが与えられた反応条件セット下で未改変型よりも高い反応速度でプライマーを伸長できるように、それらのDNAポリメラーゼの未改変型に比較して改善された核酸伸長速度を有する。
「RT及びポリメラーゼ阻害剤に対する耐性」という用語は、対照ポリメラーゼのポリメラーゼ活性又は逆転写活性を阻害する量の阻害剤の存在下で活性(ポリメラーゼ又は逆転写活性)を維持するポリメラーゼの能力を指す。いくつかの実施形態において、改善されたポリメラーゼは、対照ポリメラーゼ活性を実質的に解消する量の阻害剤の存在下でポリメラーゼ又は逆転写活性を有し得る。「対照ポリメラーゼ」は、配列番号1の709位に対応するイソロイシン(I)を含むが、その他は改善されたポリメラーゼと同一であるポリメラーゼを指す。
「5’ヌクレアーゼプローブ」という用語は、少なくとも1つの発光標識部位を含んでなり、標的核酸の検出をする5’ヌクレアーゼ反応で用いられるオリゴヌクレオチドを指す。いくつかの実施形態において、例えば、5’ヌクレアーゼプローブは、わずかに1つの発光部位(例えば、蛍光色素等)を含む。特定の実施形態においては、5’ヌクレアーゼプローブは、選択された条件下でプローブがヘアピン構造を形成することができるような自己相補的領域を含む。さらに例示すると、いくつかの実施形態において、5’ヌクレアーゼプローブは少なくとも2つの標識部位を含んでなり、2つの標識のうち1つが開裂又はオリゴヌクレオチドから分離した後、発光強度が増す。特定の実施形態においては5’ヌクレアーゼプローブを、2つの異なる蛍光色素、例えば5’末端レポーター色素及び3’末端クエンチャー色素又は部位で標識する。いくつかの実施形態において、5’ヌクレアーゼプローブを、末端部位以外の、又は末端位置に加えて1若しくは複数の部位で標識する。プローブがインタクトな状態であれば、典型的には、レポーター色素からの蛍光発光が少なくとも部分的には消光されるように、2つの蛍光色素分子間でエネルギー転移が起こる。ポリメラーゼ連鎖反応の伸長工程で、例えば、鋳型核酸に結合した5’ヌクレアーゼプローブは、例えばTaqポリメラーゼ又はこの活性を有する別のポリメラーゼの5’−3’ヌクレアーゼ活性により、レポーター色素の蛍光発光がこれ以上消光されないように開裂する。5’ヌクレアーゼプローブの例は、例えば、米国特許第5,210,015号;米国特許第5,994,056号;及び米国特許第6,171,785号にも記載されている。他の実施形態においては、5’ヌクレアーゼプローブは、2つ以上の異なるレポーター色素と3’末端クエンチャー色素又は部位で標識してもよい。
「FRET」又は「蛍光共鳴エネルギー転移」又は「フェルスター共鳴エネルギー転移」という用語は、少なくとも二つの発色分子、ドナー発色分子及びアクセプター発色分子(クエンチャーと呼ぶ)間のエネルギー転移を指す。ドナーは通常、適切な波長の光放射により励起された時、アクセプターにエネルギーを転移する。アクセプターは通常、異なる波長での光放射の形で転移されたエネルギーを再放出する。アクセプターが「ダーク」クエンチャーの場合、転移されたエネルギーは光以外の形で放出される。特定の蛍光色素分子がドナー又はアクセプターとして作用するか否かは、FRET対の他の要素の性質による。通常用いられるドナー−アクセプター対としては、FAM−TAMRA対が挙げられる。通常用いられるクエンチャーはDABCYL及びTAMRAである。通常用いられるダーククエンチャーとしては、ブラックホールクエンチャー(BlackHole Quencher)(登録商標)(BHQ)、(Biosearch Technologies, Inc., Novato, Cal.)、アイオワブラック(Iowa Black)(登録商標)(Integrated DNA Tech., Inc., Coralville, Iowa)、及びブラックベリー(登録商標)クエンチャー650(BBQ−650))(BlackBerry Quencher 650 (BBQ-650) (Berry & Assoc., Dexter, Mich.)が挙げられる。
図1は、様々な細菌種由来の例示的なDNAポリメラーゼのポリメラーゼドメインからの領域のアミノ酸配列アラインメントを示す:サーマス種Z05(Z05)(配列番号12)、サーマス・アクアティクス(Taq)(配列番号13)、サーマス・フィリホルミス(Tfi)(配列番号14)、サーマス・フラバス(Tfl)(配列番号15)、サーマス種sps17(sps17)(配列番号16)、サーマス・サーモフィルス(Tth)(配列番号17)、サーマス・カルドフィラス(Tca)(配列番号18)、サーモトガ・マリティマ(Tma)(配列番号19)、サーモトガ・ネアポリタナ(Tne)(配列番号20)、サーモシフォ・アフリカヌス(Taf)(配列番号21)、デイノコッカス・ラディオデュランス(Dra)(配列番号23)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bst)(配列番号24)及びバチルス・カルドテナクス(Bca)(配列番号25)。さらに、示したポリペプチド領域は、アミノ酸モチーフE−X1−X2−X3−X4−I−X5−X6−X7−F−X8−X9−X10−X11−X12−X13−X14((配列番号26)を含んでなり、その可変位置は本明細書でさらに定義される。このモチーフは、各ポリメラーゼ配列において太字で強調されている。本発明にしたがって変異を受け入れるアミノ酸位置を、アスタリスク(*)で示す。アラインメントにおけるギャップを、ドット(.)で示す。
図2は、以下のDNAポリメラーゼI酵素の配列同一性を示す:サーマス種Z05DNAポリメラーゼ(Z05); サーマス・アクアティクスDNAポリメラーゼ(Taq);サーマス・フィリホルミスDNAポリメラーゼ(Tfi);サーマス・フラバスDNAポリメラーゼ(Tfl);サーマス種sps17DNAポリメラーゼ(sps17);サーマス・サーモフィルスDNAポリメラーゼ(Tth);サーマス・カルドフィラスDNAポリメラーゼ(Tca);デイノコッカス・ラディオデュランスDNAポリメラーゼ(Dra);サーモトガ・マリティマDNAポリメラーゼ(Tma);サーモトガ・ネアポリタナDNAポリメラーゼ(Tne);サーモシフォ・アフリカヌスDNAポリメラーゼ(Taf);バチルス・ステアロサーモフィルスDNAポリメラーゼ(Bst);及びバチルス・カルドテナクスDNAポリメラーゼ(Bca)。(A)全ポリメラーゼI酵素にわたる配列同一性(Z05のアミノ酸1〜834に対応する);及び(B)Z05のアミノ酸420〜834に対応するポリメラーゼサブドメインにわたる配列同一性。
図3は、様々なサーマス種のDNAポリメラーゼI酵素の配列同一性を示す:サーマス種Z05DNAポリメラーゼ(Z05); サーマス・アクアティクスDNAポリメラーゼ(Taq);サーマス・フィリホルミスDNAポリメラーゼ(Tfi);サーマス・フラバスDNAポリメラーゼ(Tfl);サーマス種sps17DNAポリメラーゼ(sps17);サーマス・サーモフィルスDNAポリメラーゼ(Tth);及びサーマス・カルドフィラスDNAポリメラーゼ(Tca)。(A)全ポリメラーゼI酵素にわたる配列同一性(Z05のアミノ酸1〜834に対応する);及び(B)Z05のアミノ酸420〜834に対応するポリメラーゼサブドメインにわたる配列同一性。
詳細な説明
本発明は、ポリメラーゼドメイン内の1若しくは複数のアミノ酸が機能的なDNAポリメラーゼに対して変異させた、改善されたDNAポリメラーゼを提供する。本発明のDNAポリメラーゼは、(例えば、Mn2+やMg2+の二価の陽イオンの存在下で)非改変型のポリメラーゼに対して高い逆転写酵素効率、及び/又は高いミスマッチ耐性、伸張速度、並びにRT及びポリメラーゼ阻害剤に対する耐性を有する活性酵素である。特定の実施形態において、突然変異DNAポリメラーゼは、親酵素より優れた又は同等な性能のためにより低い濃度で使用され得る。いくつかの実施形態において、突然変異DNAポリメラーゼは、高い逆転写酵素効率を有しながら、非改変又は対照ポリメラーゼに対して実質的に同じDNA依存性ポリメラーゼ活性を保有している。
より効率的に逆転写を実施するDNAポリメラーゼは、例えば、RNA標的を検出する及び/又は定量化するためにRT−PCRを用いるアッセイにかかわる様々な用途に役立つ。そのため、前記DNAポリメラーゼは、例えば組換えDNA試験と疾患の医学診断における用途を含めた、ポリヌクレオチド伸長、並びに鋳型ポリヌクレオチドの逆転写又は増幅にかかわる様々な用途で有用である。前記突然変異DNAポリメラーゼはまた、それらのミスマッチに対する耐性のため、可変配列を有する検出標的(例えば、ウイルス標的、又は癌や他の疾患遺伝子マーカー)にも特に有用である。
いくつかの実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、以下のモチーフ:
Glu−X1−X2−X3−X4−Ile−X5−X6−X7−Phe−X8−X9−X10−X11−X12−X13−X14(本明細書中、一文字コードで、E−X1−X2−X3−X4−I−X5−X6−X7−F−X8−X9−X10−X11−X12−X13−X14とも表される)(配列番号8);
式中:
X1がAla(A)又はThr(T)であり;
X2がVal(V)、Gln(Q)、Ala(A)、Glu(E)又はLys(K)であり;
X3がAla(A)、Lys(K)、Thr(T)又はGlu(E)であり;
X4がPhe(F)、Met(M)又はIle(I)であり;
X5がGlu(E)、Val(V)、Ile(I)又はAsp(D)であり;
X6がArg(R)、Asn(N)、Ser(S)又はIle(I)であり;
X7が、Tyr(Y)以外の任意のアミノ酸であり;
X8がGln(Q)、Val(V)、Thr(T)、Arg(R)、Ala(A)又はGlu(E)であり;
X9がSer(S)、Leu(L)、Tyr(Y)又はThr(T)であり;
X10がPhe(F)又はTyr(Y)であり;
X11がPro(P)又はLys(K)であり;
X12がLys(K)又はGly(G)であり;
X13がVal(V)又はIle(I)であり;
X14がArg(R)、Phe(F)又はLys(K)である}
を有することを特徴とし得る。
いくつかの実施形態において、X7は、G、A、V、R、F、W、P、S、T、C、I、N、Q、D、E、K、L、M、又はHから選択される。
いくつかの実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、以下のモチーフ:
Glu−Ala−X2−X3−X4−Ile−X5−X6−X7−Phe−X8−X9−X10−Pro−Lys−Val−Arg(本明細書中、一文字コードで、E−A−X2−X3−X4−I−X5−X6−X7−F−X8−X9−X10−P−K−V−Rとも表される)(配列番号9);
{式中:
X2がVal(V)、Gln(Q)、Ala(A)又はGlu(E)であり;
X3がAla(A)又はLys(K)であり;
X4がPhe(F)又はMet(M)であり;
X5がGlu(E)、Val(V)又はIle(I)であり;
X6がArg(R)、Asn(N)又はSer(S)であり;
X7がTyr(Y)以外の任意のアミノ酸であり;
X8がGln(Q)、Val(V)、Thr(T)であり;
X9がSer(S)又はLeu(L)であり;
X10がPhe(F)又はTyr(Y)である
を有することを特徴とし得る。
いくつかの実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、以下のモチーフ:Glu−Ala−X2−Ala−Phe−Ile−Glu−Arg−X7−Phe−Gln−Ser−X10−Pro−Lys−Val−Arg
(本明細書中、一文字コードで、E−A−X2−A−F−I−E−R−X7−F−Q−S−X10−P−K−V−R)とも表される)(配列番号10);
{式中:
X2がVal(V)、Gln(Q)又はAla(A)であり;
X7がTyr(Y)以外の任意のアミノ酸であり;
X10がPhe(F)又はTyr(Y)である}
を有することを特徴とし得る。
いくつかの実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、以下のモチーフ:
Glu−Ala−X2−Ala−Phe−Ile−Glu−Arg−X7−Phe−Gln−Ser−X10−Pro−Lys−Val−Arg
(本明細書中、一文字コードで、E−A−X2−A−F−I−E−R−X7−F−Q−S−X10−P−K−V−Rとも表される)(配列番号11);
式中:
X2がVal(V)、Gln(Q)又はAla(A)であり;
X7がPhe(F)であり;
X10がPhe(F)又はTyr(Y)である
を有することを特徴とし得る。
このモチーフは、多くのファミリーA型DNA依存性DNAポリメラーゼ、特に好熱性細菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼの「フィンガー」ドメイン(O2アルファへリックス)の中に存在する(Li et al., EMBO J. 17:7514-7525, 1998)。例えば、図1は、以下のいくつかの細菌種由来のDNAポリメラーゼの「フィンガー」ドメインからの領域のアミノ酸配列アラインメントを示す:バチルス・カルドテナクス、バチルス・ステアロサーモフィルス、デイノコッカス・ラディオデュランス、サーモシフォ・アフリカヌス、サーモトガ・マリティマ、サーモトガ・ネアポリタナ、サーマス・アクアティクス、サーマス・カルドフィラス、サーマス・フィリホルミス、サーマス・フラバス、サーマス種sps17、サーマス種Z05及びサーマス・サーモフィルス。図示されるように、先のモチーフに対応する天然配列がこれらのポリメラーゼの各々に存在しており、ポリメラーゼのこの領域が保存された機能を有することが示唆される。図2は、これらのDNAポリメラーゼの間の配列同一性を示す。
したがって、いくつかの実施形態において、本発明は、配列番号8、9、10又は11を含んでなり、本明細書に記載するように活性及び/又は特性が改良されているポリメラーゼを提供し、ここで、DNAポリメラーゼは、それ以外は、例えば、上記の好熱性細菌の任意の種由来のポリメラーゼのような野生型若しくは天然型のDNAポリメラーゼであるか、又はそのような野生型若しくは天然型のDNAポリメラーゼと実質的に同一である。例えば、いくつかの実施形態において、本発明のポリメラーゼは、配列番号8、9、10又は11を含んでなり、配列番号1、2、3、4、5、6、7、32、33、34、35、36、37、又は39と少なくとも80%、85%、90%又は95%同一である。一つの変形においては、ポリメラーゼの非改変型は、サーマス属の種由来である。本発明の他の実施形態において、非改変ポリメラーゼはサーマス以外の好熱性種、例えば、サーモトガ由来である。非常に多くの耐熱性DNAポリメラーゼの全核酸及びアミノ酸配列が入手可能である。サーマス・アクアティクス(Taq)(配列番号2)、サーマス・サーモフィルス(Tth)(配列番号6)、サーマス種Z05(配列番号1)、サーマス種sps17(配列番号5)、サーモトガ・マリティマ(Tma)(配列番号34)及びサーモシフォ・アフリカヌス(Taf)(配列番号33)のポリメラーゼの各配列が、国際公開第92/06200号で公開されている。サーマス・フラバス(配列番号4)由来のDNAポリメラーゼの配列は、Akhmetzjanov and Vakhitov(Nucleic Acids Research 20:5839, 1992)で公開されている。サーマス・カルドフィラス由来の耐熱性DNAポリメラーゼの配列(配列番号7)は、EMBL/GenBank Accession No. U62584で入手できる。サーマス・フィリホルミス由来の耐熱性DNAポリメラーゼの配列は、表1で提供される配列情報とともに、例えば米国特許第4,889,818号で提供された方法を用いて、ATCC受託番号 42380から得ることができる。サーモトガ・ネアポリタナDNAポリメラーゼの配列(配列番号35)は、GeneSeq Patent Data Base Accession No. R98144及び国際公開第97/09451号のものである。バチルス・カルドテナクス由来の耐熱性 DNAポリメラーゼの配列(配列番号37)は、例えば、Uemori et al.(J Biochem (Tokyo) 113(3):401-410, 1993; Swiss-Prot database Accession No. Q04957 and GenBank Accession Nos. D12982 and BAA02361も参照のこと)に記載されている。本明細書に記載されるように改変できるDNAポリメラーゼの非改変型の例はまた、例えば、米国特許第6,228,628号;同第6,346,379号;同第7,030,220号;同第6,881,559号;同第6,794,177号;同第6,468,775号;及び同第7,148,049号;同第7,179,590号;同第7,410,782号;同第7,378,262号にも記載されている。代表的な全長ポリメラーゼ配列はまた、本配列表でも提供されている。
同じく本明細書に記載の変異に適しているのは、前もって変更されている(例えばアミノ酸置換、付加又は削除により)機能的DNAポリメラーゼである。いくつかの実施形態において、このような機能的に改変されたポリメラーゼは、配列番号8のアミノ酸モチーフ(又は配列番号9、10又は11のモチーフ)、及び任意に配列番号38のアミノ酸モチーフを保有する。よって、適当な未変更ポリメラーゼは、野生型又は天然のポリメラーゼの機能的変異体も包含する。そのような変更体は、典型的には野生型又は天然のポリメラーゼに対して実質的な配列同一性又は類似性、典型的には少なくとも80%の配列同一性、より典型的には少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有するだろう。
いくつかの実施形態において、本発明のポリメラーゼは、配列番号8、9、10又は11を含んでなるポリメラーゼドメインを有するのと同時に、ヌクレアーゼドメイン(例えば、Z05の1〜291位に対応する)をも含んでなる。
いくつかの実施形態において、本発明のポリメラーゼはキメラポリメラーゼであり、すなわち、2つ以上の酵素由来のポリペプチド領域を含んでなる。そのようなキメラDNAポリメラーゼの例は、例えば、米国特許第6,228,628号に記載されている。特に適切なものは、キメラCSファミリーDNAポリメラーゼであり、それにはCS5(配列番号27)、CS6(配列番号38)ポリメラーゼ、及び配列番号27又は配列番号38と実質的なアミノ酸配列同一性又は類似性(典型的には少なくとも80%のアミノ酸配列同一性、より典型的には少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性)を有するその変異体が含まれ、したがって、それらは配列番号8を含むように改変することができる。CS5及びCS6DNAポリメラーゼは、サーマス種Z05及びサーモトガ・マリティマ(Tma)DNAポリメラーゼに由来するキメラ酵素である。それらは、サーマス酵素のN末端5’ヌクレアーゼドメインとTma酵素のC末端3’−5’エキソヌクレアーゼ及びポリメラーゼドメインを含んでなる。これらの酵素は効率的な逆転写酵素活性を有し、ヌクレオチド類似体含有プライマーを伸長することができ、アルファ−ホスホロチオエートdNTP、dUTP、dITP並びにフルオレセイン及びシアニン色素ファミリーで標識されたdNTPを取り込むことができる。CS5及びCS6ポリメラーゼは効率的なMg2+活性化PCR酵素でもある。CS5及びCS6キメラポリメラーゼは、さらに例えば、米国特許第7,148,049号に記載されている。
いくつかの実施形態において、アミノ酸置換は、単独のアミノ酸置換である。本明細書中に提供されたDNAポリメラーゼは、非改変ポリメラーゼに対して活性部位における1若しくは複数のアミノ酸置換を含んでなる。いくつかの実施形態において、(単数若しくは複数の)アミノ酸置換には、少なくとも配列番号8に規定されるモチーフ(又は配列番号9、10若しくは11のモチーフ)の位置X7が含まれる。この位置でのアミノ酸置換は、高い逆転写酵素効率、ミスマッチ耐性、伸張速度、及び/又はRT及びポリメラーゼ阻害剤に対する耐性を与え、そして、非改変ポリメラーゼに対して高い逆転写酵素効率、ミスマッチ耐性、伸張速度、及び/又はRTとポリメラーゼ阻害剤に対する耐性を有する突然変異DNAポリメラーゼをもたらす。典型的に、位置X7のアミノ酸は、配列番号8に規定されるモチーフ(又は、配列番号9、10又は11のモチーフ)内の天然配列に対応しないアミノ酸で置換される。これにより、典型的に、位置X7のアミノ酸は、置換されるのであれば、Ile(I)ではない。なぜなら、Iは天然に存在するポリメラーゼ内のこの位置に生じるからである。例えば、図1を参照のこと。特定の実施形態において、アミノ酸置換としては、位置X7におけるG、A、V、R、F、W、P、S、T、C、I、N、Q、D、E、K、L、M、又はHが挙げられる。特定の実施形態において、位置X7のアミノ酸置換としては、フェニルアラニン(F)が挙げられる。他の適切なアミノ酸置換は、例えば、公知の部位特異的変異誘発法及びさらに本明細書に記載される、又は当業者に公知の他の分析法によるポリヌクレオチド伸長能の決定を用いて調べることができる。
いくつかの実施形態において、本発明のポリメラーゼには、配列番号8、9、10、又は11を含み、さらに、天然ポリメラーゼと比較して(例えば、アミノ酸置換、付加、又は欠失による)1若しくは複数の追加のアミノ酸変化が含まれる。いくつかの実施形態において、このようなポリメラーゼは、配列番号8のアミノ酸モチーフ(又は、配列番号9、10又は11のモチーフ)を保有し、さらに、(Z05(配列番号1)のD580X突然変異に相当する)以下の配列番号38のアミノ酸モチーフ:
Thr−Gly−Arg−Leu−Ser−Ser−Xb7−Xb8−Pro−Asn−Leu−Gln−Asn(本明細書中、一文字コードで、T−G−R−L−S−S−Xb7−Xb8−P−N−L−Q−Nとも表される)(配列番号38);
式中:
X7は、Ser(S)又はThr(T)であり;そして
X8は、Asp(D)又はGlu(E)を除いた任意のアミノ酸である、
がさらに含まれる。
配列番号38により特徴づけられる変異は、例えば、米国特許出願公開第2009/0148891号でより詳細に述べられている。そのような機能的変異ポリメラーゼは、典型的には野生型又は天然型のポリメラーゼ(例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、32、33、34、35、36、37、又は39)と実質的な配列同一性又は類似性、典型的には少なくとも80%のアミノ酸配列同一性、より典型的には少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性を有するだろう。
いくつかの実施形態において、本発明のポリメラーゼは、配列番号8、9、10、又は11を含み、さらに、天然ポリメラーゼに比べて、1又は複数の追加のアミノ酸変化(アミノ酸置換、付加、又は欠失による)を含む。幾つかの実施形態では、そのようなポリメラーゼは、配列番号8のアミノ酸モチーフ(又は配列番号9、10又は11のモチーフ)を保持し、そしてさらに(Z05(配列番号1)のI709X突然変異に相当する)以下の配列番号29のアミノ酸モチーフ:
X1−X2−X3−X4−X5−X6−X7−X8−X9−X10−X11−X12−X13−Gly−Tyr−Val−X14−Thr−Leu(本明細書中、一文字コードで、X2−X3X4−X5−X6−X7−X8−X9−X10−X11−X12−X13−G−Y−V−X14−T−Lとも表される)(配列番号29);
式中:
X1は、Ala(A)、Asp(D)、Ser(S)、Glu(E)、Arg(R)又はGin(Q)であり;
X2は、Trp(W)又はTyr(Y)であり;
X3は、Ile(I)、Leu(L)又はMet(M)以外の任意のアミノ酸であり;
X4は、Glu(E)、Ala(A)、Gin(Q)、Lys(K)、Asn(N)又はAsp(D)であり;
X5は、Lys(K)、Gly(G)、Arg(R)、Gin(Q)、His(H)又はAsn(N)であり;
X6は、Thr(T)、Val(V)、Met(M)又はIle(I)であり;
X7は、Leu(L)、Val(V)又はLys(K)であり;
X8は、Glu(E)、Ser(S)、Ala(A)、Asp(D)又はGin(Q)であり;
X9は、Glu(E)又はPhe(F)であり;
X10は、Gly(G)又はAla(A)であり;
X11は、Arg(R)又はLys(K)であり;
X12は、Lys(K)、Arg(R)、Glu(E)、Thr(T)又はGin(Q)であり;
X13は、Arg(R)、Lys(K)又はHis(H)であり;そして
X14は、Glu(E)、Arg(R)又はThr(T)である、
がさらに含まれる。
いくつかの実施形態において、そのような機能的変異ポリメラーゼは、典型的には野生型又は天然型のポリメラーゼ(例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、32、33、34、35、36、37、又は39)と実質的な配列同一性又は類似性、典型的には少なくとも80%のアミノ酸配列同一性、より典型的には少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性を有するだろう。
いくつかの実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、(例えば、配列番号8、9、10又は11から選択されるモチーフ内のような)位置X7にアミノ酸置換を含み、さらに、配列番号38及び配列番号29に相当するアミノ酸置換を含んでなる。
いくつかの実施形態において、位置X7のアミノ酸は配列番号8、9、10又は11に示されるアミノ酸で置換され、(配列番号38の)位置X8のアミノ酸は配列番号38に示されるアミノ酸で置換される。このように、いくつかの実施形態において、位置X7のアミノ酸は、Tyl(Y)以外の任意のアミノ酸であり、位置X8のアミノ酸は、Asp(D)又はGlu(E)以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施形態において、アミノ酸置換には配列番号38の位置X8のロイシン(L)、グリシン(G)、スレオニン(T)、グルタミン(Q)、アラニン(A)、セリン(S)、アスパラギン(N)、アルギニン(R)、及びリジン(K)が含まれる。特定の実施形態においては、アミノ酸置換には、互いに独立して配列番号8、9、10又は11の位置X7のフェニルアラニン(F)、及び配列番号38の位置X8のグリシン(G)が含まれる。
いくつかの実施形態において、位置X7のアミノ酸は配列番号8、9、10又は11に示されるアミノ酸で置換され、(配列番号29の)位置X3のアミノ酸は配列番号29に示されるアミノ酸で置換される。このように、いくつかの実施形態において、位置X7のアミノ酸は、Tyr(F)以外の任意のアミノ酸であり、位置X3のアミノ酸は、Ile(I)、Leu(L)又はMet(M)以外の任意のアミノ酸である。いくつかの実施形態において、アミノ酸置換には配列番号29の位置X3のリジン(K)、アルギニン(R)、セリン(S)、グリシン(G)、又はアラニン(A)が含まれる。特定の実施形態においては、アミノ酸置換には、互いに独立して配列番号8、9、10又は11の位置X8のフェニルアラニン(F)、及び配列番号29の位置X3のリジン(K)が含まれる。
1若しくは複数の同定された部位での、他の適切なアミノ酸置換は、例えば、公知の部位特異的変異誘発法及びさらに本明細書に記載される、又は当業者に公知の他の分析法、例えば、米国特許出願公開第2009/0148891号及び同第2009/0280539号に記載のアミノ酸置換、によるポリヌクレオチド伸長能の決定を用いて調べることができる。
DNAポリメラーゼの正確な長さは変わるので、X7(配列番号8)、X8(配列番号38)、及びX3(配列番号29)のそれぞれに対応する正確なアミノ酸位置は、使用する特定の突然変異ポリメラーゼにより変化しうる。アミノ酸及び核酸配列アラインメントプログラムは容易に入手でき(例えば、上述のものを参照のこと)、本明細書で同定された特定の得られたモチーフが、本発明に従った改変のための正確なアミノ酸(及び対応するコドン)を同定するのに役立つ。代表的なキメラ耐熱性DNAポリメラーゼ及び例示的な好熱性種由来の耐熱性DNAポリメラーゼにおける、X7、X8及びX3のそれぞれに対応する位置を表1に示す。
いくつかの実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、サーマス種Z05DNAポリメラーゼ(配列番号1)由来又はその変異体(例えば、D580G突然変異などを持つもの)である。上述したように、サーマス種Z05DNAポリメラーゼにおいては、位置X7は698位のチロシン(Y)に対応し;位置X8は580位のアスパラギン酸(D)に対応し;そして、位置X3は709位のイソロイシン(I)に対応している。このように本発明の特定の変形において、変異ポリメラーゼは、サーマス種Z05DNAポリメラーゼ(又は配列番号1と実質的に同一、例えば、少なくとも約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%同一のDNAポリメラーゼ)に対し、Y698、I709、及び/又はD580において、少なくとも1つのアミノ酸置換を含んでなる。従って、典型的には、配列番号1の698位のアミノ酸は、Yではない。いくつかの実施形態において、配列番号1の698位のアミノ酸は、G、A、V、R、F、W、P、S、T、C、I、N、Q、D、E、K、L、M、又はHから選択される。特定の実施形態において、配列番号1の698位のアミノ酸残基は、フェニルアラニン(F)である。特定の実施形態において、配列番号1の580位のアミノ酸残基は、ロイシン(L)、グリシン(G)、スレオニン(T)、グルタミン(Q)、アラニン(A)、セリン(S)、アスパラギン(N)、アルギニン(R)、及びリジン(K)から選択される。これにより、いくつかの実施形態において、配列番号1の580位のアミノ酸残基は、グリシン(G)である。
さらに、特定の実施形態において、配列番号1の709位のアミノ酸は、Iではない。特定の実施形態において、配列番号1の709位のアミノ酸は、G、A、V、R、F、W、P、S、T、C、Y、N、Q、D、E、K、L、M、又はHから選択される。特定の実施形態において、709位のアミノ酸残基は、K、R、S、G又はAである。いくつかの実施形態において、配列番号1の709位のアミノ酸は、Kである。
代表的なサーマス種Z05DNAポリメラーゼ変異体としては、(単数若しくは複数の)アミノ酸置換Y698F、及び/又はI709K(又はI709R、I709S、I709G、I709A)を含むもの、及び/又はD580Gを含むものが挙げられる。いくつかの実施形態において、変異サーマス種Z05DNAポリメラーゼには、例えば、アミノ酸残基の置換Y698F及びD580Gが含まれる。いくつかの実施形態において、変異サーマス種Z05DNAポリメラーゼには、例えば、アミノ酸残基の置換Y698F及びI709Kが含まれる。いくつかの実施形態において、変異サーマス種Z05DNAポリメラーゼには、例えば、アミノ酸残基の置換Y698F、I709K、及びD580Gが含まれる。特定の実施形態において、変異サーマス種Z05DNAポリメラーゼには、例えばY698F、I709K、及び/又はD580Gから独立に選択されるアミノ酸残基置換が含まれる。
発明者らは、上で記載した配列番号1の709位に対応するアミノ酸での置換が改善された(すなわち、高い)逆転写効率、高いRT−PCR活性(例えば、DNA鋳型に対するPCR効率を下げることなく、RNA鋳型のより効果的な増幅)、Mg2+存在下での高いRT−PCR効率、阻害剤(例えば、ヘミンなどのヘモグロビンの分解産物、及び/又はヘパリン)存在下での高い逆転写酵素活性、高い伸張速度、並びに対照ポリメラーゼと比較して改善された3’ミスマッチ耐性を有するDNAポリメラーゼをもたらすことを示した(米国特許出願第61/474,160号を参照のこと)。これにより、本明細書中に記載した配列番号1の709位に対応するアミノ酸の置換を含んでなる改善されたポリメラーゼもまた先に記載した改善された特性を有すると予想される。
本明細書中に記載した配列番号8、9、10、11、29及び30のモチーフにおける突然変異に加えて、本発明のDNAポリメラーゼはまた、置換によらない他の改変を含むこともできる。そのような改変は、例えば当業界では公知の共有結合修飾を含むことができ、ポリヌクレオチド伸長を含んでなる用途に追加の利点を与える。例えば、このような改変の1つが、その酵素を不活化するが、ポリヌクレオチド伸長に典型的に使用される温度などの高温でのインキュベーションによりその酵素を活性化するように覆される、熱による可逆的な共有結合的改変である。このような熱による可逆的な改変のための代表的な試薬は、米国特許第5,773、258号及び同第5,677,152号に記載されている。
本発明のDNAポリメラーゼは、対応する非改変ポリメラーゼ(例えば、野生型ポリメラーゼ又は本発明のポリメラーゼの由来となっている対応する変異体)をコードするDNA配列を、部位特異的変異誘発と一般に呼ばれる技術を用いて変異させることにより生成することができる。ポリメラーゼの非改変型をコードする核酸分子を、当業者に周知の様々なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術により変異させることができる(例えば、PCR Strategies (M. A. Innis, D. H. Gelfand, and J. J. Sninsky eds., 1995, Academic Press, San Diego, CA) at Chapter 14; PCR Protocols : A Guide to Methods and Applications (M. A. Innis, D. H. Gelfand, J. J. Sninsky, and T. J. White eds., Academic Press, NY, 1990を参照のこと)。
非限定的な例として、ポリメラーゼの非改変型をコードするポリヌクレオチドに部位特異的変異を導入するために、Clontech製の部位特異的変異導入キット(Transformer Site-Directed Mutagenesis kit)を用いた2プライマー法を採用してもよい。この方法で標的プラスミドを変性した後、2つのプライマーを同時にそのプラスミドにアニーリングさせる;これらのプラスミドのうちの一方は所望の部位特異的変異を含み、他方は制限部位を削除する、プラスミド中の別の箇所の変異を含む。その後第二鎖合成を行い、これらの二つの変異をしっかりと連結し、得られたプラスミドでエシェリキア・コリmutS株を形質転換する。形質転換した菌からプラスミドDNAを単離し、関連する制限酵素で切断し(これにより変異していないプラスミドを線状化する)、次いでエシェリキア・コリを再び形質転換する。この方法を用いれば、サブクローニング又は一本鎖ファージミドの生成を必要とせずに、発現プラスミドに直接変異を生成できる。2つの変異の強固な連結及びそれに続く変異していないプラスミドの線状化により高い変異効率が得られ、最小限のスクリーニングが可能になる。最初の制限部位プライマーを合成すれば、後はこの方法では変異部位当たりたった1つの新規プライマー型の使用が必要なだけである。それぞれの位置の変異体を個別に調製するよりも、定められた部位に所望の変異の全てを同時に導入するために、「設計された縮重」オリゴヌクレオチドプライマーセットを合成することができる。変異誘発された領域を含めてプラスミドDNAの配列を決定し、変異体クローンを同定、選別することにより、形質転換体をスクリーニングすることができる。次いで各変異DNAを切断し、例えばMutation Detection Enhancement gel(Mallinckrodt Baker, Inc., Phillipsburg, NJ)での電気泳動により分析して、配列中に他の変更が起こらなかったことを確かめる(変異誘発しなかった対照とのバンドシフトの比較による)。又は、全DNA領域の配列を決定して、標的領域の外側で追加の変異現象が起こらなかったことを確かめることができる。
1つより多いアミノ酸が置換されたDNAポリメラーゼは、様々な方法で生成することができる。ポリペプチド鎖中で互いに近接した位置にあるアミノ酸の場合、所望のアミノ酸置換の全てをコードする1つのオリゴヌクレオチドを用いて同時にそれらを変異させてもよい。しかし、アミノ酸が互いにある程度の距離を置いて位置している(例えば、10アミノ酸を超えて離れている)場合、所望の変化の全てをコードする1つのオリゴヌクレオチドを生成するのはより困難である。その代わりに、2つの代替法の1つを使用してもよい。第一の方法では、置換する各アミノ酸のために、個別にオリゴヌクレオチドを生成する。次にそのオリゴヌクレオチドを一本鎖鋳型DNAに同時にアニーリングさせれば、鋳型から合成されるDNAの第二鎖が、所望のアミノ酸置換の全てをコードすることになる。別の方法では、所望の変異体を生成する2ラウンド以上の変異誘発を行う。第一ラウンドは、1つの変異について記載された通りである:非改変ポリメラーゼをコードするDNAを鋳型として使用し、第一の所望のアミノ酸置換をコードするオリゴヌクレオチドをこの鋳型にアニーリングさせ、次にヘテロ二本鎖DNA分子を生成する。変異誘発の第二ラウンドでは、変異誘発の第一ラウンドで生成した変異したDNAを鋳型として使用する。このように、この鋳型はすでに1若しくは複数の変異を含む。次に、追加の所望のアミノ酸置換をコードするオリゴヌクレオチドをこの鋳型にアリーリングすれば、得られたDNA鎖は、変異誘発の第一及び第二ラウンドの両方からの変異をコードすることとなる。この得られたDNAは変異誘発の第三ラウンド等で鋳型として使用できる。あるいは、Seyfang & Jin(Anal. Biochem. 324:285-291, 2004)の多部位変異誘発法を使用してもよい。
したがって、本発明のDNAポリメラーゼのいずれかをコードする組換え核酸もまた提供される。DNAポリメラーゼをコードする本発明の核酸を用いて、様々なベクターを生成することができる。宿主細胞と適合する種に由来するレプリコンと調節配列を含む任意のベクターを、本発明の実施に用いることができる。一般的に発現ベクターは、DNAポリメラーゼをコードする核酸と作動できるように連結された転写及び翻訳調節核酸領域を含む。「調節配列」という用語は、特定の宿主生物において、作動できるように連結されたコード配列が発現するのに必要なDNA配列を指す。原核生物に適切な調節配列としては、例えば、プロモーター、場合によりオペレーター配列及びリボソーム結合部位が挙げられる。さらに、ベクターは、転写されたmRNAの半減期を長くするPositive Retroregulatory Element(PRE)を含んでもよい(米国特許第4,666,848号を参照のこと)。転写及び翻訳調節核酸領域は、ポリメラーゼを発現させるために用いる宿主細胞に一般的に適したものである。様々な宿主細胞のための、非常に多くの種類の適切な発現ベクター及び適切な調節配列が当業界において公知である。一般に、転写及び翻訳調節配列としては、例えば、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始及び終結配列、翻訳開始及び終結配列、並びにエンハンサー又はアクチベーター配列が挙げられる。典型的な実施形態では、調節配列はプロモーターと転写開始及び終結配列とを含む。ベクターは通常、外来DNAの挿入のための複数の制限部位を含むポリリンカー領域を含む。特定の実施形態においては、精製及び、所望であれば、続けて行うFLAGタグ配列の除去を容易にするために「融合フラッグ」、例えば「Hisタグ」が用いられる。しかしながら、一般的に、「加熱工程」を使用できる中温性宿主(例えば、エシェリキア・コリ)から熱活性及び/又は耐熱性タンパク質を精製する際には、それらは不要である。複製配列、調節配列、表現型選択遺伝子及び対象となる変異ポリメラーゼをコードするDNAを含む適切なベクターの生成は、標準的な組換えDNA法を用いて行われる。当業界で周知のように(例えば、Sambrook et al.、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York、NY、2nd ed. 1989)を参照のこと)、単離されたプラスミド、ウイルスベクター及びDNA断片を切断し、加工し、特定の順序で一緒に連結して所望のベクターを生成する。
特定の実施形態においては、発現ベクターは形質転換された宿主細胞の選択を可能にする選択可能なマーカー遺伝子を含む。選択遺伝子は当業界で周知であり、使用する宿主細胞により異なる。適切な選択遺伝子としては、例えば、アンピシリン及び/又はテトラサイクリン耐性をコードする遺伝子を挙げることができ、こうした耐性遺伝子により、それらのベクターで形質転換された細胞がそれらの抗生物質の存在下で増殖できるようになる。
本発明の一つの態様において、本発明のDNAポリメラーゼをコードする核酸は、単独で又はベクターと共に細胞内に導入される。本明細書で使用する場合、「に導入される」又はその文法的同等語は、核酸がその後の核酸の組み込み、増幅及び/又は発現に適切な方法で細胞内に入ることを意味する。導入の方法は、標的となる細胞の種類により大きく異なる。導入方法の例としては、CaPO4沈澱、リポソーム融合、LIPOFECTIN(登録商標)、エレクトロポレーション、ウイルス感染等が挙げられる。
いくつかの実施形態において、本発明の最初のクローニング工程の宿主として、原核生物が典型的には用いられる。それらは、大量のDNAの迅速な生成、部位特異的変異誘発に用いる一本鎖鋳型DNAの生成、多数の変異体の同時スクリーニング、及び生成された変異体のDNA配列決定のために特に有用である。適切な原核生物宿主細胞としては、エシェリキア・コリK12株94(ATCCNo.31,446)、エシェリキア・コリW3110株(ATCCNo.27,325)、エシェリキア・コリK12株DG116(ATCCNo.53,606)、エシェリキア・コリX1776(ATCCNo.31,537)及びエシェリキア・コリBが挙げられる;しかし、他の多くのHB101、JM101、NM522、NM538、NM539のようなエシェリキア・コリ株、及び、枯草菌(Bacillus subtilis)のようなバチルス属、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)又はセラチア・マルセサンス(Serratia marcesans)のような他の腸内細菌、様々なシュードモナス(Pseudomonas)種を含む他の多くの原核生物の種及び属は、どれも宿主として使用することができる。原核宿主細胞又は堅い細胞壁を有する他の宿主細胞は、通常上述のsection 1.82 of Sambrook et al.に記載されている塩化カルシウム法を用いて形質転換される。あるいは、それらの細胞の形質転換にエレクトロポレーションを使用することができる。原核生物の形質転換技術は、例えばDower, in Genetic Engineering, Principles and Methods 12:275-296 (Plenum Publishing Corp., 1990); Hanahan et al., Meth. Enzymol, 204:63, 1991に記載されている。エシェリキア・コリの形質転換に通常用いられるプラスミドとしては、pBR322、pUCI8、pUCI9、pUCI18、pUC119及びBluescriptM13が挙げられ、それらは全て上述のsections 1.12-1.20 of Sambrook et al.に記載されている。しかし、他の多くの適切なベクターも同様に利用可能である。
本発明のDNAポリメラーゼは、DNAポリメラーゼをコードする核酸を含む発現ベクターにより形質転換された宿主細胞を、DNAポリメラーゼの発現を誘導するか又は引き起こすのに適切な条件下で培養することにより典型的には生成する。形質転換された宿主細胞をタンパク質発現に適切な条件下で培養する方法は、当業界で周知である(例えば前述のSambrook et al.を参照のこと)。ラムダpLプロモーター含有プラスミドベクターからのポリメラーゼの生成に適切な宿主細胞としては、エシェリキア・コリ株DG116(ATCCNo.53606)(米国特許第5,079,352号及びLawyer, F.C.et al.,PCR Method and Applications 2:275-87, 1993を参照のこと)が挙げられる。発現後、ポリメラーゼを回収、単離することができる。耐熱性DNAポリメラーゼの精製方法は、例えば前述のLawyer et al.に記載されている。
一旦精製されれば、改善されたRT効率、高いミスマッチ耐性、伸張速度、及び/又はRT及びポリメラーゼ阻害剤に対する耐性を有するDNAポリメラーゼの能力が、(例えば、実施例に記載のとおり)試験できる。
本発明の改良DNAポリメラーゼは、この種の酵素活性が必要又は所望である任意の目的に使用してよい。したがって、本発明の他の態様において、本発明のポリメラーゼを用いたポリヌクレオチド伸長法(例えば、PCR)が提供される。ポリヌクレオチド伸長に適切な条件は、当業界で公知である(例えば、上述のSambrook et al.を参照のこと。Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology (4th ed.,John Wiley & Sons 1999)も参照のこと)。一般に、プライマーを標的核酸にアニーリングし、すなわちハイブリダイズさせて、プライマー−鋳型複合体を形成させる。プライマー−鋳型複合体を適切な環境下でDNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸と接触させ、プライマーの3’末端に1若しくは複数のヌクレオチドを付加し、それにより標的核酸に相補的な伸長プライマーを生成する。プライマーとしては、例えば、1若しくは複数のヌクレオチド類似体を挙げることができる。さらに、ヌクレオシド三リン酸は、従来のヌクレオチド、特殊なヌクレオチド(例えば、リボヌクレオチド又は標識されたヌクレオチド)又はその混合物でありうる。変形によっては、ポリヌクレオチド伸長反応は、標的核酸の増幅を含んでなる。DNAポリメラーゼ及びプライマー対を用いた核酸増幅に適切な条件もまた、当業界で公知である(例えば、PCR増幅法)。(例えば、上述のSambrook et al.,;上述のAusubel et al.,; PCR Applications: Protocols for Functional Genomics (Innis et al. eds., Academic Press 1999を参照のこと))。他の、互いに排他的ではない実施形態において、ポリヌクレオチド伸長反応には、RNA鋳型の逆転写(例えば、RT−PCR)が含まれる。いくつかの実施形態において、改善されたポリメラーゼは、454シーケンシングでの使用が見出された(Margulies, M et al. 2005, Nature, 437, 376-380)。
任意に、プライマー伸長反応には、参照又は非改変ポリメラーゼの実際の又は潜在的な阻害剤が含まれる。前記阻害剤は、例えば、参照又は非改変(対照)ポリメラーゼの核酸伸張速度及び/又は逆転写効率を阻害できる。いくつかの実施形態において、前記阻害剤は、ヘモグロビン又はその分解産物である。例えば、いくつかの実施形態において、ヘモグロビン分解産物は、ヘミン、ヘマトポルフィリン、又はビリルビンなどのヘム分解産物である。いくつかの実施形態において、前記阻害剤は、鉄キレート剤又は紫色色素である。他の実施形態において、前記阻害剤は、ヘパリンである。特定の実施形態において、前記阻害剤は、挿入色素である。特定の実施形態において、前記阻害剤は、メラニンである(Ekhardt, et al., Biochem Biophys Res Commun. 271(3):726-30 (2000)を参照のこと)。
本発明のDNAポリメラーゼは、例えば、血液などのポリメラーゼ阻害剤が含まれているサンプルから単離された鋳型ポリヌクレオチドの存在下で鋳型を伸長するのに使用できる。例えば、本発明のDNAポリメラーゼは、血液の主要成分であるヘモグロビンの存在下、又はヘモグロビン分解産物の存在下で鋳型を伸長するのに使用できる。ヘモグロビンは、ヘミン、ヘマチン、ヘマトポルフィリン、及びビリルビンなどの様々なヘム分解産物に分解される。これにより、特定の実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、これだけに限定されるものではないが、ヘミン、ヘマチン、ヘマトポルフィリン、及びビリルビンを含めたヘモグロビン分解産物の存在下で鋳型を伸長するのに使用できる。特定の実施形態において、ヘモグロビン分解産物は、ヘミンである。いくつかの実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、約0.5〜20.0μΜ、約0.5〜10.0μΜ、約0.5〜5.0μΜ、約1.0〜10.0μΜ、約1.0〜5.0μΜ、約2.0〜5.0μΜ、約2.0〜3.0μΜのヘミンの存在下で鋳型を伸長するのに使用できる。他の実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、少なくとも約0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、4.0、5.0、10.0、20.0、又は20μΜ超のヘミンの存在下で鋳型を伸長するのに使用できる。ヘモグロビンの分解産物は、鉄キレート剤及び紫色色素を含んでいる。これにより、いくつかの実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、鉄キレート剤及び/又は紫色色素の存在下で鋳型を伸長するのに使用できる。他の実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、参照又は対照DNAポリメラーゼによる同じ鋳型の伸長を阻害する量のヘモグロビン分解産物の存在下で鋳型を伸長するのに使用できる。
本発明のDNAポリメラーゼは、ヘパリンの存在下で鋳型を伸長するのに使用できる。ヘパリンは、血液から分離されたサンプルの抗凝血物質として一般的に存在している。いくつかの実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、約1.0〜400ng/μl、1.0〜300ng/μl、1.0〜200ng/μl、5.0〜400ng/μl、5.0〜300ng/μl、5.0〜200ng/μl、10.0〜400ng/μl、10.0〜300ng/μl、又は10.0〜200ng/μlのヘパリンの存在下で鋳型を伸長するのに使用できる。いくつかの実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400ng/μl、又は400ng/μl超のヘパリンの存在下で鋳型を伸長するのに使用できる。他の実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、参照又は対照DNAポリメラーゼによる同じ鋳型の伸長を阻害する量のヘパリンの存在下で鋳型を伸長するのに使用できる。
いくつかの実施形態において、本発明の改善されたポリメラーゼは、逆転写反応に使用される。いくつかの実施形態において、逆転写反応は、RNA鋳型、1若しくは複数のプライマー、及び本発明の耐熱性DNAポリメラーゼを含む混合物中で行われる。その反応混合物は、典型的には、すべての4つの標準的なデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)及び二価陽イオンと一価陽イオンを含むバッファーを含んでいる。代表的な陽イオンとしては、例えば、Mg2+が挙げられるが、Mn2+又はCo2+などの他の陽イオンがDNAポリメラーゼを活性化できる。他の実施形態において、逆転写反応は、本発明の熱活性DNAポリメラーゼによって実施される。特定の実施形態において、本発明の改善されたポリメラーゼは、実施例に記載のとおり、Mn2+又はMg2+の存在下でDNA鋳型の効率的な増幅を損なうことなく、RNA鋳型のより効果的な増幅を可能にする。
いくつかの実施形態において、本発明の改善されたポリメラーゼは、RNA鋳型を伸長するのに必要とされる反応時間を短縮することによって逆転写効率を高める。例えば、本明細書中に記載の改善されたポリメラーゼは、対照ポリメラーゼと比較して、RNAをcDNAに転写するのに必要とされる反応時間を有意に短くでき、その結果、逆転写酵素効率を高める。理論に制限されるものではないが、改善されたポリメラーゼは、例えば、ヌクレオチド取込み速度を高める及び/又はポリメラーゼの前進性を高めることなどのRNA鋳型上の酵素の活性を増強することによってRT効率を高め、その結果、RNA鋳型又はRNA鋳型の集団の伸長時間を効果的に短くする。最初のRTステップの反応時間は、典型的に、非改変又は対照ポリメラーゼを使用するとき、65℃にて約30分以上である。これにより、いくつかの実施形態において、改善されたポリメラーゼは、65℃にて約10分未満、約8分未満、約5分未満、約4分未満、約3分未満、又は約2分未満でRNA鋳型をcDNAに転写できる。いくつかの実施形態において、改善されたポリメラーゼは、対照ポリメラーゼより短い時間で又は速く、HCV遺伝子型Ib5’NTRの最初の800塩基を含めたC型肝炎ウイルス(HCV)転写産物JP2−5由来のRNA鋳型をcDNAに転写できる。例えば、改善されたポリメラーゼは、同一の反応条件下で対照ポリメラーゼより約15秒未満、30秒未満、1分未満、2分未満、3分未満、4分未満、5分未満、又は約10分未満で240塩基のHCV JP2−5RNA鋳型を完全長cDNAに転写できる。いくつかの実施形態において、改善されたポリメラーゼは、同一の反応条件下で、対照ポリメラーゼより速く、例えば、対照ポリメラーゼより約5秒、10秒、15秒、30秒、45秒、又は60秒又はそれより速く、240塩基のHCV JP2−5RNA鋳型を完全長cDNAに転写できる。いくつかの実施形態において、前記反応条件は、実施例に記載の反応条件である。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載した改善されたポリメラーゼは、先に記載した反応混合物中、65℃にて2分間RNA鋳型と接触させる。伸長ステップには、実施例に記載のとおり、伸長した鋳型のPCR増幅があとに続き得る。
耐熱性DNAポリメラーゼで最も効果的なRT活性は、二価の金属イオン活性化因子としてMn2+を使用することで達成された。しかしながら、Mn2+が反応中に存在しているとき、DNAポリメラーゼの精度が下がることは周知である。突然変異を作り出そうとしていない限り、一般に、より高い精度を維持することは好評である。幸いなことに、通常、検出システムが産物集団を調べるので、最も従来型の配列決定法、PCR及びRT−PCR用途は、高い精度の条件を必要としない。次世代の配列決定法、デジタルPCRなどの到来により、産物の精度がより大切であり、そして、より高い精度のDNA合成を可能にする方法が重要である。二価の金属イオン活性化因子としてMg2+を使用して効果的なRT活性を達成することは、DNAポリメラーゼの精度を実質的に増強して、核酸標的のより信頼できる複製を可能にする素晴らしい方法である。従って、いくつかの実施形態において、本発明の改善されたポリメラーゼは、実施例に記載のとおり、二価の金属イオン活性化因子としてMg2+を使用して、RNA鋳型の効果的な伸長及び/又は増幅を可能にする。
本明細書中に記載したポリメラーゼはまた、高いミスマッチ耐性も有し得るので、そのポリメラーゼは、標的鋳型の変形がありそうな方法、及びそれにもかかわらず
標的鋳型における変形にかかわらず、それでもなお鋳型が増幅されることがまだ所望される方法における使用が見られる。このような鋳型の例としては、例えば、ウイルス、細菌、又は他の病原菌配列が挙げられる。多くの実施形態において、個体に感染したまさにそのウイルス変種にかかわらず、個体(ヒト又はヒト以外の動物)にウイルス又は他の感染があるか否かに関係なく、単純に判断することが望ましい。例として、当業者は、本発明のポリメラーゼを使用してHCVを増幅し、そして、個体に感染した特定のウイルスが突然変異を有し、プライマーハイブリダイゼーション部位にミスマッチをもたらしたとしてもHCVの存在を検出するための1対のプライマーを使用し得る。
標的核酸は、生体又は合成起源に由来することができる。標的は、例えば、DNA又はRNAであることができる。一般に、アンプリコンが作り出される場合には、アンプリコンはDNAで構成されるが、リボヌクレオチド又は合成ヌクレオチドもまた増幅産物に組み込まれ得る。当業者がRNAを検出することを望む場合には、増幅工程は、通常、例えば逆転写PCR(RT−PCR)を含めた逆転写の使用を伴うであろう。
具体的な標的配列としては、例えば、ウイルス核酸(例えば、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、(サイトメガロウイルス(CMV)、パルボB19ウイルス、エプスタイン‐バール・ウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト・パピローマウイルス(HPV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、西ナイルウイルス(WNV)、セントルイス脳炎ウイルス(SLEV)、マレーバレー脳炎ウイルス、及びクンジンウイルス)、細菌の核酸(例えば、S.アウレウス(S.aureus)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)、プラスモジウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum)、クラミジア・ムリダルム(Chlamydia muridarum)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、ミコバクテリア、真菌核酸、又は動物若しくは植物からの核酸が挙げられる。いくつかの実施形態において、前記標的核酸は、動物(例えば、ヒト)核酸であるか、又は動物(例えば、ヒト)のサンプル(すなわち、ウイルス又は他の病原菌核酸は、動物生検検体、血液サンプル、尿サンプル、糞便サンプル、唾液などからのサンプル中に存在している可能性がある)に由来する。いくつかの実施形態において、標的核酸は、例えば、疾患(例えば、癌、糖尿病など)に関連する変異を含む可能性があるヒト遺伝領域である。いくつかの実施形態において、本発明のポリメラーゼはミスマッチ耐性を有するので、このような酵素は、関連配列の相違点が標的配列内に存在する場合に特に有用である。例として、本発明は、ウイルス病原体を検出するために使用できるが、そのウイルス病原体は、大部分又はすべての可能なウイルスゲノムを増幅する単独の又は少ないセットのプライマーを設計することを難しく又は不可能にするのに十分なそれらのゲノム、或いは、配列の変形が知られているか又は起こりそうな癌又は他の疾患遺伝子マーカーの変形を有する。
本明細書に記載する改良ポリメラーゼを用いた、伸長産物又は増幅産物の他の検出方法としては、蛍光二本鎖ヌクレオチド結合色素又は蛍光二本鎖ヌクレオチドインターカレーション色素の使用が挙げられる。蛍光二本鎖DNA結合色素の例としては、SYBRgreen(Molecular Probes)が挙げられる。二本鎖DNA結合色素は、プライマー伸長産物及び/又は増幅産物を測定する融解曲線分析と併せて使用できる。融解曲線分析は、ABI5700/7000(96ウェル型)又はABI7900(384ウェル型)装置のようなリアルタイムPCR装置と搭載ソフトウェア(SDS2.1)を用いて行うことができる。若しくは、融解曲線分析はエンドポイント分析として行うこともできる。融解曲線分析の方法の例が米国特許出願公開第2006/0172324号に記載されている。
本発明の別の態様において、本明細書に記載するプライマー伸長方法に用いられるキットが提供される。いくつかの実施形態において、キットは、使用の簡易性のために区分され、本発明にしたがって改善されたDNAポリメラーゼを提供する少なくとも1つの容器を含む。追加の試薬を提供する1若しくは複数の追加の容器を含むこともできる。いくつかの実施形態において、前記キットは、採血用チューブ、容器、ヘパリン若しくはその塩を含むか又は溶液中にヘパリンを放出するユニットを含み得る。そのような追加の容器は上述の方法にしたがったプライマー伸長法で用いる、当業者に認識された任意の試薬又は他の要素を含むことができ、それには、例えば、核酸増幅法(例えば、PCR、RT−PCR)、DNAシークエンシング法又はDNAラベリング法で用いる試薬が含まれる。例えば、特定の実施形態においては、キットはさらに、プライマー伸長条件下で所定の鋳型ポリヌクレオチドにハイブリダイズ可能な5’センスプライマー、又は5’センスプライマーと対応する3’アンチセンスプライマーを含んでなるプライマー対を提供する容器を含む。他の相互排他的でない変形においては、キットはヌクレオシド三リン酸(従来の及び/又は特殊な)を提供する1若しくは複数の容器を含む。特定の実施形態では、キットはアルファ−ホスホロチオエートdNTP、dUTP、dITP及び/又は、例えばフルオレセイン又はシアニン色素ファミリーdNTPのような標識されたdNTPを含む。さらに他の相互排他的でない実施形態においては、キットは、プライマー伸長反応に適切なバッファーを提供する1若しくは複数の容器を含む。
本発明の別の態様において、反応混合物は、本明細書に記載されるように、高い逆転写活性、ミスマッチ耐性、伸張速度、及び/又はRT及びポリメラーゼ阻害剤に対する耐性を有するポリメラーゼを含んで提供される。反応混合物は、例えば、核酸増幅法(例えば、PCR、RT−PCR)、DNAシークエンシング法又はDNAラベリング法で用いる試薬をさらに含むことができる。例えば、特定の実施形態においては、反応混合物はプライマー伸長反応に適切なバッファーを含んでなる。反応混合物はまた、鋳型核酸(DNA及び/又はRNA)、1若しくは複数のプライマー又はプローブポリヌクレオチド、ヌクレオシド三リン酸(例えば、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、標識されたヌクレオチド、特殊なヌクレオチドを含む)、塩類(例えば、Mn2+、Mg2+)、及び標識(例えば、蛍光色素分子)を含むこともできる。いくつかの実施形態において、反応混合物はプライマー伸長条件下で所定の鋳型ポリヌクレオチドにハイブリダイズ可能な5’センスプライマー、又は5’センスプライマーと対応する3’アンチセンスプライマーを含んでなるプライマー対を含む。特定の実施形態においては、反応混合物はさらに、増幅した鋳型核酸の検出のための蛍光FRET加水分解プローブ、例えばTaqman(登録商標)プローブを含んでなる。いくつかの実施形態において、反応混合物は、一塩基多型又は多塩基多型と完全に相補的な2つ以上のプライマーを含む。いくつかの実施形態において、反応混合物は、アルファ−ホスホロチオエートdNTP、dUTP、dITP及び/又は、例えばフルオレセイン又はシアニン色素ファミリーdNTPのような標識されたdNTPを含む。いくつかの実施形態において、前記反応混合物には、鉄キレート剤又は紫色の色素が含まれる。特定の実施形態において、前記反応混合物には、ヘモグロビン又はヘモグロビンの分解産物が含まれる。例えば、特定の実施形態において、ヘモグロビンの分解産物は、ヘミン、ヘマチン、ヘマトフォリン、及びビリルビンなどのヘム分解産物を含む。他の実施形態において、反応混合物には、ヘパリン又はその塩が含まれる。特定の実施形態において、反応混合物には、血液から単離される鋳型核酸が含まれる。他の実施形態において、鋳型核酸はRNAであり、そして、反応混合物には、ヘパリン又はその塩が含まれる。
いくつかの実施形態において、反応混合物には、2以上のポリメラーゼが含まれる。例えば、いくつかの実施形態において、反応混合物には、対照ポリメラーゼと比較して高い逆転写酵素効率を有する第一のDNAポリメラーゼ、及びDNA依存性ポリメラーゼ活性を有する第二のDNAポリメラーゼが含まれる。第二のDNAポリメラーゼは、野生型非改変ポリメラーゼであり得るか、又は高いDNA依存性ポリメラーゼ活性を有する改善されたポリメラーゼであり得る。このような反応混合物は、高い逆転写酵素活性を有するポリメラーゼとDNA依存性ポリメラーゼ活性を有するポリメラーゼの両方を提供することによって、RNA鋳型の増幅(例えば、RT−PCR)に有用である。
以下の実施例は本発明を例示するために提供されるが、何ら限定するものではない。
実施例1:ライブラリー作製
簡単に言えば、このスクリーニング過程における工程には、ライブラリー作製、変異酵素の発現及び部分精製、所望の性質をもつ酵素のスクリーニング、DNAシークエンシング、クローン精製、選択された変異体候補のさらなる特性評価が含まれた。これらの工程のそれぞれについて、以下にさらに説明する。
クローンライブラリー作製:Z05 D580G I709K DNAポリメラーゼのポリメラーゼドメインをコードする核酸を、この核酸配列を含むプラスミドのBlpI及びBglII制限部位の間でエラープローン(変異誘発)PCRにかけた。これに用いたプライマーは以下の通りである:
フォワードプライマー:5’−CTACCTCCTGGACCCCTCCAA−3’(配列番号30);及び
リバースプライマー:5’−ATAACCAACTGGTAGTGGCGTGTAA−3’(配列番号31)。
所望の変異率のライブラリーを作製するために、1.8mMのMg2+濃度の範囲でPCRを実施した。バッファー条件は、50mMビシンpH8.2、115mM KOAc、8%w/vグリセロール、0.2mMの各dNTPであった。GeneAmp(登録商標)AccuRTホットスタートPCR酵素を0.15U/μLで使用した。反応容量50μL当たり5×105コピーの線状化Z05 D580G_I709KプラスミドDNAで開始し、94℃、60秒で変性させ、続いて変性温度94℃で15秒、アニーリング温度60℃で15秒、伸長温度72℃で120秒の条件で30サイクルの増幅を行い、最後に72℃で5分間最終伸長を行った。
得られた増幅産物をQIAquickPCR精製キット(Qiagen, Inc.,Valencia, CA, USA)で精製し、BlpI及びBglIIで切断し、次いでQIAquickPCR精製キットで再び精製した。Z05 D580G_I709Kベクタープラスミドは、同じ2つの制限酵素で切断し、アルカリホスファターゼ、組換え体(RAS,cat#03359123001)で処理し、QIAquickPCR精製キットで精製することにより調製した。切断したベクターと変異した挿入断片を1:3の比で混合し、室温で5分間T4DNAリガーゼにより処理した(NEB Quick Ligation(登録商標)キット)。ライゲーションしたものをQIAquickPCR精製キットで精製し、エレクトロポレーションによりエシェリキア・コリ宿主株を形質転換した。
各形質転換における特徴的な形質転換体の数を調べるために、発現した培養物の一部をアンピシリン選択培地にまいた。形質転換体は、プールし、そして、凍結保護物質としてのグリセロールの存在下−70℃〜−80℃で保存した。
次に、ライブラリーを大型のアンピシリン選択寒天培地にまいた。個々のコロニーを、自動コロニーピッカー(QPix2, Genetix Ltd)を用いて、アンピシリンと10%w/vグリセロールを含む2×Luriaブロスの入った384ウェルプレートに移した。それらのプレートを30℃で一晩インキュベートして培養物を増殖させ、その後−70℃〜−80℃で保存した。2×Luriaブロスに添加したグリセロールは、培養物の増殖を可能にするのに十分なほど少量だったが、凍結保護のためには十分多い量だった。後に使用するために、この方法により数千個のコロニーを調製した。
抽出物ライブラリー調製1−発酵:上述のクローンライブラリーから、スクリーニング用に適切な、部分精製された抽出物の対応するライブラリーを調製した。この過程の第一工程は、各クローンの小規模の発現培養物を生成することであった。それらの培養物を96ウェルフォーマットで増殖させた;したがって、384ウェルライブラリープレート毎に4枚の発現培養物プレートとなった。0.5μLをクローンライブラリープレートの各ウェルから、150μLの培地A(下記表3を参照のこと)を含む96ウェルの種プレートのウェルへと移した。この種プレートを、iEMSプレートインキュベーター/シェーカー(ThemoElectron)中で、1150rpm、30℃で一晩振盪培養した。次に、それらの種培養物を同じ培地に接種するのに用い、今度は大型の96ウェルプレート(Nunc #267334)の250μLの培地A中に20μLを接種した。それらのプレートを37℃で一晩振盪しながらインキュベートした。発現プラスミドは、37℃で発現するが30℃では発現しない転写調節因子を含んでいた。一晩インキュベートした後、培養物は典型的には全細胞タンパク質の1〜10%でクローンタンパク質を発現した。それらの培養物から細胞を遠心分離により回収した。それらの細胞を凍結するか(−20℃)又は後述するようにすぐに処理した。
抽出物ライブラリー調製2−抽出:発酵工程で得た細胞ペレットを25μLの溶解バッファー(下記表3)中に再懸濁し、384ウェルのサーモサイクラープレートに移して密閉した。なお、バッファーは細胞溶解を補助するためにリゾチームを含み、抽出物からDNAを除去するためにデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)を含む。細胞を溶解させるために、プレートを37℃で15分間インキュベートし、−20℃で一晩凍結し、37℃で15分間再びインキュベートした。硫酸アンモニウムを添加し(2M溶液を1.5μL)、外来的に添加されたヌクレアーゼを含む汚染タンパク質を沈澱、不活性化させるために、プレートを75℃で15分間インキュベートした。プレートを3000×gで15分間、4℃で遠心し、上清を新しい384ウェルサーモサイクラープレートに移した。それらの抽出物プレートを後にスクリーニングで使用するために−20℃で凍結した。各ウェルには約0.5〜3μMの変異ライブラリーポリメラーゼ酵素が含まれていた。
実施例2:改善された逆転写効率を有する突然変異DNAポリメラーゼの識別
改善された逆転写効率のための粗製タンパク室抽出ライブラリのスクリーニング:
抽出ライブラリを、pSP64ポリ(A)(Promega)を用いてHCV遺伝子型Ib5’NTRの最初の800塩基を含むC型肝炎ウイルス(HCV)転写産物JP2−5からの240塩基対の増幅産物の増幅から、RT−PCRシステムにより未精製の酵素抽出物の蛍光5’ヌクレアーゼ(TaqMan)活性によって作成される成長曲線からのCp(クロッシングポイント)値を比較することによってスクリーニングした。
表4に記載のRT−PCRマスタミックス12μLに加えられる、20mMのTris HCl、pH8、100mMのKCl、0.1mMのEDTA、及び0.1%のTween−20を含むバッファーで10倍希釈した個々の酵素抽出物3μLの入った各ウェルを有する384ウェル形式のRoche LC480キネティックサーモサイクラーにより、反応を実施した。サーモサイクリング条件は:50℃にて2分間(「UNG」ステップ);65℃にて2分間(「RT」ステップ);62℃が30秒間、続いて94℃にて15秒間を5サイクル;そして、91℃にて15秒間、続いて62℃にて30秒間を45サイクル、であった。
約5000個のクローンを、先のプロトコールを使用してスクリーニングした。40個のクローンを、最も初期のクロッシングポイント(Cp)値、及びAbs Quant/二次導関数最大値法によって計算される任意のカットオフを超える蛍光プラトー値に基づく再スクリーニングのために最初のプールから選抜された。最高の抽出物に対応する培養ウェルを、新鮮な成長培地にサンプリングし、再度培養して、最良の変異体が入った新しい培養プレート、並びに比較対照に使用する多くの親Z05 D580G_I709K培養物を作製した。次に、これらの培養プレートを、本来のスクリーニングについて先に記載したのと同じRNA標的及び条件を用いて再スクリーニングする新たな粗抽出物を作製するために使用した。表5には、FAM標識プローブの5’加水分解により増強された蛍光シグナルから得られた平均Cp値を示す。結果は、クローン0692−F5がZ05_D580G_I709K親より高い効率でRNA標的を増幅することを示している。
ポリメラーゼ遺伝子の変異領域のDNA配列を、配列決定して、任意の単一クローンでも存在している(単数若しくは複数の)突然変異を決定した。クローン0692−F5を、追加検査のために選抜し、そのため、変異体ポリメラーゼタンパク質を、フラスコ培養で発現させ、均質になるまで精製し、そして、定量化した。
Mg2+ベースのRT−PCRにおける完全に精製された0692−F5変異体の使用:
精製されそして定量された0692−F5変異体を、TaqManのMg2+ベースのRT−PCRにおいて親Z05_D580G_I709Kと比較した。逆転写及びPCR効率を、JP2−5RNA転写産物及び制限エンドヌクレアーゼEcoRlで消化したpJP2−5DNA線状プラスミドの増幅からのCp値を比較することによって計測した。オリゴヌクレオチド及びマスターミックス条件(表4)は、本来のスクリーンで使用したのと同じであった。各反応物には、100,000コピーのJP2−5転写産物RNA、100,000コピーのpJP2−5線状プラスミドDNA又は1000コピーのpJP2−5線状プラスミドDNAのいずれかを用いた。すべての標的を、240塩基対の増幅産物を作り出すように、二重反復反応により、先に記載のプライマー1及びプライマー2を用いて増幅した。すべての反応を、15μLの反応容量でRoche Light Cycler480サーマルサイクラーで実施した。クロッシングポイント(Cp)を、Abs Quant/二次導関数最大値法によって計算し、そして、平均した。マスターミックス条件は、5nM〜40nMのDNAポリメラーゼの濃度範囲を使用して反応を行ったことを除いて、表4に記載されたものと同じであった。サーモサイクリング条件は:50℃にて2分間(「UNG」ステップ);65℃にて2分間(「RT」ステップ);94℃にて15秒間、続いて62℃が30秒間を5サイクル;そして、91℃にて15秒間、続いて62℃にて30秒間を45サイクル、であった。表6には、20nMの酵素条件におけるTaqManプローブの開裂による蛍光シグナル増大から得られたCp値を示す。
この結果は、変異体DNAポリメラーゼ0692−F5が、親Z05 D580G_I709Kと比較して、DNA標的について、PCR効率を損なうことなく、より効率的にRNA標的の増幅することを可能にすることを示す。
表現系付与変異体の決定:
配列決定の結果により、クローン0692-F5により発現されるポリメラーゼが、親D580G及びI709K変異に加えて、W430C、Y698F、及びA707G変異を有することが明らかにされた。Y698F変異が別のクローンで見つかり、これはRT−PCRスクリーニングにおいて親Z05 D580G_709Kを超えるRNA増幅の改善を示した。別のクローンにおいて同じアミノ酸をかえる変異をさらに独立して単離したことに基づき、本発明者らは、Y698F変異が、観察された好ましい表現系に寄与することを予想した。A Z05 D580G_I709K_Y698F変異体をサブクローニングにより構築し、精製し、定量し、そしてKOAc濃度を40mM〜110mMに変動させ、25nMの精製酵素を用いたMg2+活性化TaQMan RT−PCRで、0692−F5(Z05 D580G_I709K_W430C_Y698F_A707G)及び親Z05D580G_I709Kと比較した。マスターミックス条件は、表4で記載された条件と同じであった。各反応は、100,000コピーのJP2−5RNA転写産物、100,000コピーのpJP2−5直線状プラスミドDNA、又は1000コピーのpJP2〜5の直線状プラスミドDNAを有した。全ての標的は、同じプライマーセットで2回増幅されて、240ベースペアのアンプリコンを生成した。PCR及びRT−PCR効率を、DNAとRNAとの間のCp値を比較することにより決定した。全ての反応を、反応体積を15μlとするRoche Light Cycler 480 サーマルサイクラーで行った。クロッシングポイント(Cp)を、Abs Quant/二次導関数最大値法によって計算し、そして平均した。サーモサイクリング条件は:50℃にて2分間(「UNG」ステップ);65℃にて2分間(「RT」ステップ);94℃にて15秒間、続いて62℃が30秒間を5サイクル;そして、91℃にて15秒間、続いて62℃にて30秒間を45サイクルであった。表8は、60mMのKOAc条件ではTaqManプローブが回裂するために生じる蛍光シグナルの増加から得られたCp値を示す。
0692-F5(Z05D580G_I709K_Y698F_A707G)及びZ05 D580G_I709K_Y698Fは、RNA及びDNA標的の両者について同等のCp値を有し、それによりY698F変異が、RT−PCR性能の観察された改善を与えることが示された。
本明細書に記載する実施例及び実施形態は、単に例示することが目的であり、その内容を踏まえた様々な改変又は変形が当業者に提示されるであろうことが分かる。