以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、各図において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
(本実施形態の構成)
図1は、本実施形態におけるMRI装置20の全体構成を示すブロック図である。図1に示すように、MRI装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石22と、静磁場用磁石22の内側において軸を同じにして設けられた筒状のシムコイル24と、略円筒状の傾斜磁場コイルユニット26と、RFコイル28と、制御系30と、被検体Pが乗せられる寝台32とを備える。
ここでは一例として、装置座標系の互いに直交するX軸、Y軸、Z軸を以下のように定義する。まず、静磁場用磁石22およびシムコイルユニット24は、それらの軸方向が鉛直方向に直交するように配置されているものとし、静磁場用磁石22およびシムコイルユニット24の軸方向をZ軸方向とする。また、鉛直方向をY軸方向とし、寝台32は、その天板の載置用の面の法線方向がY軸方向となるように配置されているものとする。
制御系30は、静磁場電源40と、シムコイル電源42と、傾斜磁場電源44と、RF送信器46と、RF受信器48と、冷却制御装置50と、シーケンスコントローラ56と、コンピュータ58とを備える。
傾斜磁場電源44は、X軸傾斜磁場電源44xと、Y軸傾斜磁場電源44yと、Z軸傾斜磁場電源44zとで構成されている。
コンピュータ58は、演算装置60と、入力装置62と、表示装置64と、記憶装置66とで構成されている。
静磁場用磁石22は、静磁場電源40に接続され、静磁場電源40から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる。
シムコイル24は、シムコイル電源42に接続され、シムコイル電源42から供給される電流により、この静磁場を均一化する。
静磁場用磁石22は、超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源40に接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。なお、静磁場電源40を設けずに、静磁場用磁石22を永久磁石で構成してもよい。
傾斜磁場コイルユニット26は、X軸傾斜磁場コイル26mxと、Y軸傾斜磁場コイル26myと、Z軸傾斜磁場コイル26mzとを有し、静磁場用磁石22の内側で筒状に形成されている(その構造は、後述の図2、図3において詳説する)。X軸傾斜磁場コイル26mx、Y軸傾斜磁場コイル26my、Z軸傾斜磁場コイル26mzはそれぞれ、X軸傾斜磁場電源44x、Y軸傾斜磁場電源44y、Z軸傾斜磁場電源44zに接続される。そして、X軸傾斜磁場電源44x、Y軸傾斜磁場電源44y、Z軸傾斜磁場電源44zからX軸傾斜磁場コイル26mx、Y軸傾斜磁場コイル26my、Z軸傾斜磁場コイル26mzにそれぞれ供給される電流により、X軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzが撮像領域にそれぞれ形成される。
即ち、物理軸としての3軸であるX、Y、Z方向の傾斜磁場Gx、Gy、Gzを合成して、論理軸としてのスライス方向傾斜磁場Gss、位相エンコード方向傾斜磁場Gpe、および、読出し方向(周波数エンコード方向)傾斜磁場Groの各方向を任意に設定することができる。スライス方向、位相エンコード方向、および、読み出し方向の各傾斜磁場は、静磁場に重畳される。
RF送信器46は、シーケンスコントローラ56から入力される制御情報に基づいて、核磁気共鳴を起こすためのラーモア周波数のRFパルス(RF電流パルス)を生成し、これを送信用のRFコイル28に送信する。RFコイル28には、ガントリに内蔵されたRFパルスの送受信用の全身用コイル(WBC:whole body coil)や、寝台32または被検体Pの近傍に設けられるRFパルスの受信用の局所コイルなどがある。
送信用のRFコイル28は、RF送信器46からRFパルスを受けて被検体Pに送信する。受信用のRFコイル28は、被検体Pの内部の原子核スピンがRFパルスによって励起されることで発生したMR信号(高周波信号)を受信し、このMR信号は、RF受信器48により検出される。
RF受信器48は、検出したMR信号に前置増幅、中間周波変換、位相検波、低周波増幅、フィルタリングなどの各種の信号処理を施した後、A/D(analog to digital)変換を施すことで、デジタル化された複素データである生データ(raw data)を生成する。RF受信器48は、生成したMR信号の生データをシーケンスコントローラ56に入力する。
冷却制御装置50は、シーケンスコントローラ56の制御に従って、後述の冷却管76(図3参照)に水などの冷却液を循環させることで、傾斜磁場コイルユニット26の発熱を抑制する。
演算装置60は、MRI装置20全体のシステム制御を行うものであり、これについては後述の図4を用いて説明する。
シーケンスコントローラ56は、演算装置60の指令に従って、傾斜磁場電源44、RF送信器46およびRF受信器48を駆動させるために必要な制御情報を記憶する。ここでの制御情報とは、例えば、傾斜磁場電源44に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報である。
シーケンスコントローラ56は、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源44、RF送信器46およびRF受信器48を駆動させることにより、X軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場GzおよびRFパルスを発生させる。また、シーケンスコントローラ56は、RF受信器48から入力されるMR信号の生データ(raw data)を受けて、これを演算装置60に入力する。
図2は、傾斜磁場コイルユニット26内における温度センサの配置の一例を示す模式的斜視図である。4つの温度センサ70A、70B、70C、70Dは、撮像時に磁場中心となる部分を含む装置座標系のX−Y平面の環状の一断面において、静磁場磁石22の円筒形状に沿って等間隔で配置される。温度センサ70A〜70Dは、検出した温度をシーケンスコントローラ56にそれぞれ入力する。なお、図2に示す温度センサの配置および個数は、一例にすぎず、温度センサの数および配置は、上記の例に限定されるものではない。
図3は、図2に示す傾斜磁場コイルユニット26の断面模式図であり、図2において一点鎖線枠26’で囲った領域の断面である。図3に示すように、傾斜磁場コイルユニット26は、アクティブシールドを用いた多層構造である。即ち、傾斜磁場コイルユニット26は、メインコイル26mの層と、シールドコイル26sの層と、それらの間に挟まれた複数のシムトレイ72の挿入層および複数の冷却管76の埋設層とを有する。図3において、シムトレイ72は斜線の四角い領域で示し、冷却管76は楕円状の白抜きの領域で示す。
メインコイル26mは、X軸傾斜磁場コイル26mx、Y軸傾斜磁場コイル26my、Z軸傾斜磁場コイル26mzから構成され、前述のように傾斜磁場Gx、Gy、Gzを撮像領域に形成する。
シールドコイル26sは、X軸シールドコイル26sx、Y軸シールドコイル26sy、Z軸シールドコイル26szから構成され、これらは傾斜磁場電源44から供給される電流により磁場を発生させる。即ち、X軸シールドコイル26sx、Y軸シールドコイル26sy、Z軸シールドコイル26szは、X軸傾斜磁場コイル26mx、Y軸傾斜磁場コイル26my、Z軸傾斜磁場コイル26mzにそれぞれ対応した磁場をメインコイル26mの外側に発生させることで、メインコイル26mによって発生する傾斜磁場Gx、Gy、Gzを遮蔽する。
メインコイル26m側における冷却管76の埋設層と、シールドコイル26s側における冷却管76の埋設層との間の層には、複数のシムトレイ72が略等間隔で挿入される。冷却管76の中では、冷却制御装置50によって冷却液が循環するため、メインコイル26mおよびシールドコイル26sによって発生する熱がシムトレイ72に伝わりにくくなる。シムトレイ72は、非磁性かつ非電導性の樹脂で形成され、Z軸方向に延在した概略棒状に形成される。シムトレイ72には、所定数の鉄シム(図示せず)が収納される。
なお、図3の構造では、温度センサ70A〜70DはY軸傾斜磁場コイル26myの温度を検出するが、これは一例にすぎない。多数の温度センサがX軸傾斜磁場コイル26mx、Y軸傾斜磁場コイル26my、X軸シールドコイル26sx、Y軸シールドコイル26sy、Z軸シールドコイル26szの各温度をそれぞれ検出する構成でもよい。或いは、温度センサ70A〜70Dがシムトレイ72の温度を検出する構成でもよい。即ち、傾斜磁場コイルユニット26の温度を検出する構成であればよい。
従って、冷却管76内の冷却水の温度を検出する構成でもよいが、傾斜磁場コイルユニット26内における、冷却管76とその周囲を除いた領域の温度を検出する構成の方が望ましい。冷却管76内には、傾斜磁場コイルユニット26の温度上昇を抑制するための冷却液が循環するから、傾斜磁場コイルユニット26内において冷却管76近傍の温度が最も低いためである。即ち、撮像領域の磁場強度に直接的に関わる要素の温度を直接的かつ正確に検出する構成が望ましく、その点では、冷却管76周囲よりも、鉄シムを含むシムトレイ72やメインコイル26sの温度を検出する方が優るからである。
また、温度センサ70A〜70Dとしては、赤外線放射温度計を用いてもよいし、メインコイル26sの温度をほぼ直接的に計測するサーミスタ、熱電対などを用いてもよい。赤外線放射温度計は、計測対象とは非接触で温度を計測できるので、熱伝導によって計測対象と温度センサとが同温になることが望まれる計測方法とは違い、短時間で温度を計測できる利点がある。
図4は、図1に示すコンピュータ58の機能ブロック図である。コンピュータ58の演算装置60は、MPU(Micro Processor Unit)86と、システムバス88と、画像再構成部90と、画像データベース94と、画像処理部96と、表示制御部98と、データ部100と、パルス設定部102とを備える。
MPU86は、撮像条件の設定、撮像動作および撮像後の画像表示において、システムバス88等の配線を介してMRI装置20全体のシステム制御を行う。また、MPU86は、撮像条件設定部としても機能し、入力装置62からの指示情報に基づいてFETシーケンス等のパルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ56に入力する。そのために、MPU86は、表示制御部98を制御して、撮像条件の設定用画面情報を表示装置64に表示させる。
入力装置62は、撮像条件や画像処理条件を設定する機能をユーザに提供する。
画像再構成部90は、内部にk空間データベース92を有する。画像再構成部90は、k空間データベース92に形成されたk空間において、シーケンスコントローラ56から入力されるMR信号の生データをk空間データとして配置する。画像再構成部90は、k空間データに2次元フーリエ変換などを含む画像再構成処理を施して、被検体Pの各スライスの画像データを生成する。画像再構成部90は、生成した画像データを画像データベース94に保存する。
画像処理部96は、画像データベース94から画像データを取り込み、これに所定の画像処理を施し、画像処理後の画像データを表示用画像データとして記憶装置66に記憶させる。
記憶装置66は、上記の表示用画像データに対し、その表示用画像データの生成に用いた撮像条件や被検体Pの情報(患者情報)等を付帯情報として付属させて記憶する。
表示制御部98は、MPU86の制御に従って、撮像条件の設定用画面や、撮像により生成された画像データが示す画像を表示装置64に表示させる。
データ部100は、傾斜磁場コイルユニット26の温度の変化分と、水素原子の磁気共鳴の中心周波数のシフト量との対応関係を示すシフトデータを記憶している。シフトデータは、例えば、MRI装置20の据付時において、後述の温度係数取得シーケンスを実行することで生成および記録される。なお、温度係数取得シーケンスは、据付時の据付調整の一環として行うものに限らず、例えば定期点検時に実行して上記シフトデータを較正するようにしてもよい。
パルス設定部102は、シーケンスコントローラ56を介して温度センサ70A〜70Dの検出温度を取得し、傾斜磁場コイルユニット26の温度変化分を計算し、上記シフトデータに基づいてRFパルスの中心周波数を設定する。ここでのRFパルスとは、例えば、脂肪抑制のプレパルスや、領域選択的プレサチュレーションパルス、データ収集用の90°励起パルスや再収束パルスなどである。
(本実施形態の動作説明)
本実施形態の特徴の1つである温度係数取得シーケンスでは、温度が上昇するパルスシーケンスを実行し、温度センサ70A〜70Dの検出温度および水素原子の磁気共鳴の中心周波数を経過時刻と共に計測する。そして、この計測結果に基づく傾斜磁場コイルユニット26内の温度の変化分に応じて、中心周波数がどれだけシフトするかを算出し、これをシフトデータとしてデータ部100に記録する。温度の上昇の仕方は、同じパルスシーケンスを実行しても、MRI装置20の個体毎に異なる固有のものであるため、据付時などにおいて、MRI装置毎に行うことが望ましい。
温度係数取得シーケンスとしては、例えば傾斜磁場コイルユニット26の温度が経過時間の長さにほぼ比例して上昇するパルスシーケンスを実行し、そのときの各温度センサ70A〜70Dの検出温度を経過時刻毎のデータとして取得する。同時に、例えば磁気共鳴スペクトロスコピーによって、磁気共鳴信号の周波数スペクトラムのピーク周波数位置を検出することで、(例えば水などの)ファントム内の水素原子の磁気共鳴の中心周波数を経過時刻毎のデータとして取得する。なお、人体の水組織の水素原子も、人体の脂肪組織の水素原子も、傾斜磁場コイルの温度上昇に対する中心周波数のシフト量はほぼ同じであるから、水組織と脂肪組織とで分けて考える必要はない。
図5(A)は、温度係数取得シーケンスにおける温度センサ70Aの検出温度の時間変化を示し、図5(B)は、温度係数取得シーケンスにおける水素原子の磁気共鳴の中心周波数の時間変化を示す。図5(A)、(B)において、横軸は温度係数取得シーケンスの開始時刻をt0とした経過時間を示し、図5(A)の縦軸は温度センサ70Aの検出温度(℃)を示し、図5(B)の縦軸は水素原子の磁気共鳴の中心周波数のシフト量(Hz)を示す。
横軸を温度、縦軸をシムトレイ72内の鉄シムの透磁率とした場合、通常のMRI装置の使用の温度範囲(例えば20℃〜90℃)では、温度に対する透磁率がほぼ1次関数的に変化することを本実施形態では利用する。具体的には、鉄シムの透磁率が温度上昇に対して1次関数的に変化すれば、撮像領域の磁場強度(テスラ)も1次関数的に変化するため、撮像領域内の水素原子の磁気共鳴の中心周波数も1次関数的に変化する。ラーモア周波数は、印加された磁場の強度に比例するからである。
なお、温度センサ70Aの検出温度が上昇し始める時刻t1と、水素原子の磁気共鳴の中心周波数がシフトし始める時刻t2との間には、若干の遅延時間(時間間隔)が存在する。ここでは説明の簡単化のため、遅延時間については考慮しないが、シフトデータの作成において遅延時間も反映した構成としてもよい。
各温度センサ70A〜70D毎に感度の個体差があるから、その検出温度が単位温度(1ケルビン、即ち、1℃)上昇すると中心周波数が何Hzシフトするかの温度係数を、各温度センサ70A〜70D毎に求める。温度上昇分をΔTp、その温度上昇分に対応する中心周波数のシフト量をΔHzとするとき、温度計測センサ70Aの温度係数KAは、KA=ΔHz/ΔTpとして求める。同様にして、温度計測センサ70Bの温度係数KB、温度計測センサ70Cの温度係数KC、温度計測センサ70Dの温度係数KDも、ΔHz/ΔTpとして求める。
温度係数KA〜KDの決定方法の第1の例としては、最小二乗法を用いる。具体的には、時刻t2以後の複数の異なる時刻(検出温度が例えば約20℃〜90℃の範囲)において、温度センサ70Aの検出温度を経過時刻毎のデータとしてプロットし、そのグラフ(図5(A)に対応)の傾きを最小二乗法で算出する。同様に、時刻t2以後の複数の異なる時刻における中心周波数のシフト量を経過時刻毎のデータとしてプロットし、そのグラフ(図5(B)に対応)の傾きを最小二乗法で算出する。そして、図5(B)のグラフの傾きを図5(A)のグラフの傾きで割ることで、温度係数KAを算出できる。温度係数KB、KC、KDについても同様に算出できる。
温度係数KA〜KDの決定方法の第2の例としては、連立方程式を用いる。具体的には、時刻t2より後の時刻t3において、各温度計測センサ70A、70B、70C、70Dの検出温度の変化分をそれぞれΔTp1A、ΔTp1B、ΔTp1C、ΔTp1Dとして計測する。ここでは一例として、ΔTp1A〜ΔTp1Dは、温度係数取得シーケンスの開始時刻t0における検出温度との差分で求める(図5(A)に示す温度センサ70Aの場合、22℃との差分になる)。そして、磁気共鳴スペクトロスコピーの計測結果に基づき、時刻t3における中心周波数の時刻t0からのシフト量をΔHz1とする。これにより、以下の(1)式が得られる。
(ΔTp1A×KA+ΔTp1B×KB+ΔTp1C×KC+ΔTp1D×KD)÷4=ΔHz1 …(1)
温度係数KA〜KBは単位温度上昇に対する中心周波数シフト量で定義したから、(1)式では一例として、温度係数×温度変化分で与えられる中心周波数シフト量を、4つの温度センサ70A〜70Dで平均した値にしている。
同様に、時刻t3より後の時刻t4において、各温度計測センサ70A〜70Dの検出温度の変化分をそれぞれΔTp2A〜ΔTp2Dとして計測し、時刻t0からの中心周波数シフト量をΔHz2とすれば、以下の(2)式が得られる。
(ΔTp2A×KA+ΔTp2B×KB+ΔTp2C×KC+ΔTp2D×KD)÷4=ΔHz2 …(2)
時刻t4より後の時刻t5、時刻t5より後の時刻t6においても同様の計測を行えば、以下の(3)、(4)式が得られる。
(ΔTp3A×KA+ΔTp3B×KB+ΔTp3C×KC+ΔTp3D×KD)÷4=ΔHz3 …(3)
(ΔTp4A×KA+ΔTp4B×KB+ΔTp4C×KC+ΔTp4D×KD)÷4=ΔHz4 …(4)
上記(1)〜(4)式では、未知数はKA、KB、KC、KDの4つだけであるから、(1)〜(4)式を連立方程式として解けば、温度係数KA〜KDをそれぞれ決定できる。このように連立方程式により係数KA〜KDをそれぞれ決定する場合、温度センサの数と同数の計測データが必要となる。
なお、温度係数KA〜KDの決定方法は、上記2つに限らず、他の手法でもよい。また、KA=ΔHz/ΔTpで定義したが、その逆数(ΔTp/ΔHz)を温度係数KAとしてもよい(KB〜KDについても同様)。また、本実施形態では、各温度センサ70A〜70Dの検出結果に基づく「温度変化分ΔT×温度係数」を全ての温度センサ70A〜70Dで合算平均するが、これは一例にすぎず、他の形態でもよい。例えば、多数の温度センサを設け、温度が上昇し易い部分に近い複数の温度センサの温度を採用してもよい。
図6は、本実施形態による脂肪抑制プレパルスの効果の説明図であり、図6において横軸は周波数(Hz)、縦軸はMR信号の信号強度を示す。図6の上側は、傾斜磁場コイルユニット26の温度上昇前における、脂肪組織の水素原子と、水組織の水素原子との周波数スペクトラムに、脂肪抑制プレパルスの信号強度を重畳したものである。プレスキャンでは、例えばプレスキャンの実行時における傾斜磁場コイルユニット26の温度に基づいて、当該温度での脂肪組織の水素原子の信号強度のピークに合致するように脂肪抑制プレパルスの中心周波数が(暫定的に)設定される。
図6の下側は、傾斜磁場コイルユニット26の温度上昇後における、脂肪組織および水組織の水素原子の周波数スペクトラムに、脂肪抑制プレパルスの信号強度を重畳したものである。脂肪抑制プレパルスの中心周波数を設定後、傾斜磁場コイルユニット26の温度が上昇すると、脂肪組織および水組織の水素原子の信号強度のピークは、図6の下側に示すようにΔHzだけシフトする。この場合、実線で示すプレスキャンで設定された脂肪抑制プレパルスでは、その中心周波数が脂肪組織の水素原子の信号強度のピークから離れ、脂肪抑制の効果が劣化する。
一方、本実施形態では、プレスキャンで脂肪抑制プレパルスの中心周波数を暫定的に設定後、本スキャンの前に傾斜磁場コイルユニット26の温度を計測する。そして、温度変化分と、シフトデータとに基づいて、脂肪抑制プレパルスの中心周波数を図6の下側の破線に示すように本スキャンの前に補正する。このように本実施形態では、傾斜磁場コイルユニット26の温度変化に拘らず、脂肪抑制プレパルスの中心周波数を脂肪組織の水素原子の信号強度のピークに一致させ、脂肪抑制の効果を確実にする。
図7は、RFパルスの中心周波数の補正タイミングを入力設定する場合に、表示装置64のモニタに表示される画面の一例を示す模式図である。図7に示すように、画面の外縁である太線の枠内には、設定状況を説明する表示窓122と、入力選択用の表示領域124、126、128、130、132が表示されている。この例では、表示窓122の表示内容から分かるように、4時相のダイナミック撮像に既に設定されている。
ユーザは、入力装置62を介して1を入力することで(表示領域124に対応)、各時相の各スライス毎にRFパルスの中心周波数を補正することを選択できる。
ユーザは、入力装置62を介して2を入力することで(表示領域126に対応)、各時相毎にRFパルスの中心周波数を補正することを選択できる。
ユーザは、入力装置62を介して3を入力することで(表示領域128に対応)、2時相毎にRFパルスの中心周波数を補正することを選択できる。
ユーザは、入力装置62を介して4を入力することで(表示領域130に対応)、始めの時相の前にRFパルスの中心周波数を1回補正することを選択できる。
ユーザは、入力装置62を介して6を入力することで(表示領域132に対応)、前の設定画面に戻すことを選択できる。
なお、入力装置62と表示装置64とを一体化して、タッチパネル式で入力できるように構成してもよい。
図7において、2が選択入力されると、例えば図8のような画面表示に切り替わり、ユーザは、温度計測のタイミングを入力設定することができる。
図8は、図7の次の画面として、RFパルスの中心周波数の補正タイミングを入力設定する場合に、表示装置64のモニタに表示される画面の一例を示す模式図である。
ユーザは、例えば、入力装置62を介して5を入力することで(表示領域148に対応)、中心周波数補正のための温度計測を各時相の各撮像開始前にそれぞれ行うことを選択できる。
ユーザは、例えば、入力装置62を介して1を入力することで(表示領域140に対応)、中心周波数補正のための温度計測を、順番的に始めの時相の撮像開始前に行うことを選択できる。入力装置62を介して2(表示領域142に対応)、3(表示領域144に対応)、4(表示領域146に対応)を入力した場合も同様である。
また、ユーザは、例えば入力装置62を介して1、2、4のみを入力することで、順番的に始めの時相の撮像開始前と、2番目の時相の撮像開始前と、4番目の時相の撮像開始前との3回のタイミングで中心周波数補正のための温度計測を行うことを選択できる。この場合、2番目の時相の撮像終了後、3番目の時相の撮像開始前には、温度計測は行われない。他の組み合わせで、1、2、3、4の内の二つのみ、または、三つのみを入力した場合も同様である。即ち、1、2、3、4の内の一つのみ、二つのみ、または、三つのみが入力選択された場合、1、2、3、4の内の入力選択されなかったタイミングについては、温度計測を実行しないことが選択されたことになる。
換言すれば、入力装置62は、表示装置64上に表示された温度計測のタイミングの複数の候補の中から、温度計測を実行しないタイミング、および、温度計測を実行するタイミング、の双方をそれぞれ選択可能に構成される。
図9は、MRI装置20により、一例として4時相のダイナミック撮像を行う場合の動作の流れを示すフローチャートである。以下、前述の図1〜図7を適宜参照しながら、図9に示すステップ番号に従って、MRI装置20の動作を説明する。
[ステップS1]MPU86(図4参照)は、入力装置62に対して入力された入力情報等に基づいて、MRI装置20の初期設定を行う。この初期設定において、装置座標系のX軸、Y軸、Z軸に対する被検体Pの体位情報や、撮像部位の情報等が設定される。本実施形態では一例として、4時相のダイナミック撮像がこのステップS1で設定されるものとする。
各々の時相では、例えば50スライスの画像用のMR信号の収集が、RFパルスの中心周波数を除いて同じ撮像条件でそれぞれ行われる。このとき、ダイナミック撮像の各時相間の空き時間の長さも併せて設定される。なお、空き時間には、パルス送信および被検体Pからの信号受信は一切行われない。また、時相は4時相以外でもよく、各時相のスライス数も任意に変更可能である。
また、表示制御部98は、MPU86の指令に従って、設定された撮像条件から算出される撮像時間を表示し、イメージング中にどれだけの頻度でRFパルスの中心周波数を補正するかの選択用入力画面を表示装置64のモニタ上に表示させる(図7、図8参照)。この例では4時相のダイナミック撮像であるため、1時相目の直前に1回だけ補正するか、2時相おきに補正するか、各時相毎に補正するか、或いは、各時相の各スライス毎に補正するか等を選択できる。ここでは一例として、時相毎に補正する場合が選択されるものとする。
また、表示制御部98は、MPU86の指令に従って、傾斜磁場コイルユニット26の温度計測のタイミングを選択するための入力画面を表示装置64のモニタ上に表示させる(図8参照)。ここでは上記のようにRFパルスの中心周波数の補正を時相毎に行う場合が選択されるので、以下の4つのタイミングが選択肢として表示される。
第1に、後述のステップS4で表示される位置決め画像に基づいて操作者が撮像条件を最終的に決定後、ダイナミック撮像の1時相のパルスシーケンス開始前のタイミング(図8の表示領域140に対応し、以下、第1タイミングと称する)である。第2に、ダイナミック撮像の1時相のパルスシーケンスの終了後、2時相のパルスシーケンスの開始前の空き時間内のタイミング(図8の表示領域142に対応し、以下、第2タイミングと称する)である。
第3に、ダイナミック撮像の2時相のパルスシーケンスの終了後、3時相のパルスシーケンスの開始前の空き時間内のタイミング(図8の表示領域144に対応し、以下、第3タイミングと称する)である。第4に、ダイナミック撮像の3時相のパルスシーケンスの終了後、4時相のパルスシーケンスの開始前の空き時間内のタイミング(図8の表示領域146に対応し、以下、第4タイミングと称する)である。
ここでは一例として、入力装置62に対して、第1、第2、第4タイミングが温度計測を実行するオンタイミングとして選択され、第3タイミングは温度計測を実行しないように設定されるものとする。
但し、これは一例にすぎない。例えば、ダイナミック撮像における全ての空き時間(この例では第1〜第4タイミング)に温度をそれぞれ検出し、全ての空き時間にRFパルスの中心周波数をそれぞれ補正してもよい。或いは、全スライス間(各スライスのMR信号の収集と、次のスライスのMR信号の収集との間)に温度をそれぞれ検出し、全スライス間でRFパルスの中心周波数をそれぞれ補正してもよい。
一方、冷却制御装置50は、シーケンスコントローラ56の制御の下、冷却管76内に冷却液を循環させ、傾斜磁場コイルユニット26の温度が例えば図5(A)に示す22℃となるように制御する。傾斜磁場コイルユニット26の温度が初期値としてほぼ安定(収束)したタイミング、例えば、次のステップS2のプレスキャン開始直前において、温度センサ70A〜70D(図2、図3参照)はそれぞれ、傾斜磁場コイルユニット26内の温度を初期温度として検出する。温度センサ70A〜70Dによりそれぞれ検出された初期温度は、シーケンスコントローラ56を介してパルス設定部102に入力される。
なお、初期温度の計測タイミングは、上記のプレスキャン開始直前ではなく、プレスキャン実行中、または、プレスキャン実行直後でもよい。
温度センサが傾斜磁場やRFパルスによるノイズの影響を受けやすい場合、プレスキャン開始直前またはプレスキャン実行直後に温度計測をすることで、上記ノイズの影響を回避できるので望ましい。
温度センサが傾斜磁場或いはRFパルスによるノイズの影響を受けにくいものである場合、プレスキャン実行中に温度計測をすることで、プレスキャン実行時の温度をより正確に検出できる。
[ステップS2]MRI装置20は、プレスキャンを行うことで、どのような条件で撮像をするかを計算する。例えば、原子核スピンの縦磁化成分を90°倒すRFパルスとして必要なパワー(90°条件)や、脂肪抑制プレパルスや励起パルスなどのRFパルスの暫定的な中心周波数の計算などが行われる。
ここでのRFパルスの暫定的な中心周波数は、例えば初期温度における水素原子の磁気共鳴の中心周波数に合うように、パルス設定部102により設定される。或いは、RFパルスの暫定的な中心周波数は、プレスキャン実行時に温度センサ70A〜70Dにより傾斜磁場コイルユニット26の温度を検出し、この検出温度における水素原子の磁気共鳴の中心周波数に合わせて設定してもよい。
[ステップS3]位置決め画像が生成される。即ち、MRI装置20は、画像データ収集用のRFパルスを送信し、被検体PからのMR信号をRF受信器48により検出する。シーケンスコントローラ56は、MR信号の生データを画像再構成部90に入力し、画像再構成部90は、この生データに所定の処理を施して位置決め画像の画像データを生成し、これを画像データベース94に入力する。画像処理部96は、画像データベース94に入力された画像データに所定の画像処理を施し、記憶装置66は、画像処理後の位置決め画像の画像データを記憶する。
[ステップS4]表示制御部98は、MPU86の指令に従って表示装置64のモニタ上に位置決め画像を表示させる。この表示画像に基づいて、撮像領域等の設定が行われる。
[ステップS5]以下、診断画像のイメージング(いわゆる本スキャン)が行われる。まず、温度センサ70A〜70Dはそれぞれ、傾斜磁場コイルユニット26内の温度を第1タイミングの温度として検出し、これをシーケンスコントローラ56を介してパルス設定部102に入力する。
次に、パルス設定部102は、前述のシフトデータをデータ部100から読み込む。パルス設定部102は、温度センサ70Aが初期温度として検出した温度と、第1タイミングの温度として検出した温度との差分をΔTpA_T1として算出する。同様に、パルス設定部102は、温度センサ70B〜70Dが初期温度として検出した温度と、第1タイミングの温度として検出した温度との差分をΔTpB_T1、ΔTpC_T1、ΔTpD_T1として算出する。
次に、パルス設定部102は、ΔTpA_T1、ΔTpB_T1、ΔTpC_T1、ΔTpD_T1の4つの平均値を算出し、この平均値とシフトデータから、水素原子の磁気共鳴の中心周波数のシフト量を求める。次に、パルス設定部102は、プレスキャンで暫定的に設定した脂肪抑制プレパルスや励起パルスなどのRFパルスの中心周波数を、求めたシフト量だけずらす補正をする。
シーケンスコントローラ56は、MPU86の指令に従ってMRI装置20の各部を制御し、パルス設定部102により中心周波数が補正されたRFパルスを送信することで、ダイナミック撮像の1時相の各スライスのMR信号の収集を行わせる。
具体的には、静磁場電源40により励磁された静磁場用磁石22によって撮像領域に静磁場が形成され、シムコイル電源42からシムコイル24に電流が供給されて、静磁場が均一化される。MPU86は、撮像開始指示が入力されると、パルスシーケンスを含む撮像条件をシーケンスコントローラ56に入力する。シーケンスコントローラ56は、入力されたパルスシーケンスに従って傾斜磁場電源44、RF送信器46およびRF受信器48を駆動させることで、被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させると共に、RFコイル28からRF信号を発生させる。
このため、被検体Pの内部の核磁気共鳴により生じたMR信号がRFコイル28により受信されて、RF受信器48により検出される。RF受信器48は、検出したMR信号に所定の信号処理を施した後、これをA/D変換することで、デジタル化したMR信号である生データを生成する。RF受信器48は、生成した生データをシーケンスコントローラ56に入力する。シーケンスコントローラ56は、生データを画像再構成部90に入力し、画像再構成部90は、k空間データベース92に形成されたk空間において生データをk空間データとして配置し、これによりk空間データが記録される。このような1スライスのMR信号の収集およびデータ記録の処理が、スライスの数だけ実行される。
[ステップS6]ダイナミック撮像の1時相のデータ収集後、一定の空き時間を挟んで、2時相のデータ収集が1時相と同様にして行われる。まず、温度センサ70A〜70Dはそれぞれ、傾斜磁場コイルユニット26内の温度を第2タイミングの温度として検出し、これをシーケンスコントローラ56を介してパルス設定部102に入力する。
次に、パルス設定部102は、ステップS5と同様に、各温度センサ70A〜70Dが初期温度として検出した温度と、第2タイミングの温度として検出した温度との差分をそれぞれ算出して平均する。パルス設定部102は、この平均値とシフトデータから、水素原子の磁気共鳴の中心周波数のシフト量を求め、RFパルスの中心周波数を第2タイミングの傾斜磁場コイルユニット26の温度における水素原子の磁気共鳴の中心周波数に合致させる補正をする。この後、パルス設定部102により中心周波数が再補正されたRFパルスが送信され、ダイナミック撮像の2時相の各スライスのMR信号が収集される。
[ステップS7]ダイナミック撮像の2時相のデータ収集後、一定の空き時間を挟んで、3時相のデータ収集が行われる。3時相のデータ収集前の空き時間における第3タイミングでは、ステップS1での入力設定に従って、温度センサ70A〜70Dによる温度検出は行われない。
パルス設定部102は、温度センサ70A〜70Dによる第3タイミングより前の検出温度に基づいて、第3タイミングにおける傾斜磁場コイルユニット26の温度の推定値を算出する。例えば、横軸を経過時間(測定時刻)、縦軸を温度とするグラフ上の複数の計測データのプロットに基づいて求める。
具体的には、第1タイミングの測定時刻および各温度センサ70A〜70Dの検出温度の平均値からなる第1プロットと、第2タイミングの測定時刻および各温度センサ70A〜70Dの検出温度の平均値からなる第2プロットとの2点を結ぶ直線を求める。この直線上において、第3タイミングの時刻では傾斜磁場コイルユニット26内の温度が何℃かを推定値として求める。
なお、温度の推定値の算出方法は、上記に限定されるものではない。例えば、本スキャンの開始後(ステップS5以降)、この第3タイミングまでの間に、異なる測定時刻で4回以上、各温度センサ70A〜70Dに温度を検出させ、横軸を経過時間、縦軸を温度とするグラフの傾きを最小二乗法で求め、これに基づいて上記同様に第3タイミングの温度の推定値を算出してもよい。
次に、パルス設定部102は、算出した温度の推定値とシフトデータから、第3タイミングにおける水素原子の磁気共鳴の中心周波数のシフト量を求め、RFパルスの中心周波数を第3タイミングの温度における水素原子の磁気共鳴の中心周波数に合致させる補正をする。この後、パルス設定部102により中心周波数が再補正されたRFパルスが送信され、ダイナミック撮像の3時相の各スライスのMR信号が収集される。
[ステップS8]ダイナミック撮像の3時相のデータ収集後、一定の空き時間を挟んで、4時相のデータ収集が1時相および2時相と同様に行われる。即ち、温度センサ70A〜70Dはそれぞれ、傾斜磁場コイルユニット26内の温度を第4タイミングの温度として検出し、これをシーケンスコントローラ56を介してパルス設定部102に入力する。
次に、パルス設定部102は、各温度センサ70A〜70Dが初期温度として検出した温度と、第4タイミングの温度として検出した温度との差分の平均値を計算し、この平均値とシフトデータに基づき水素原子の磁気共鳴の中心周波数のシフト量を求め、RFパルスの中心周波数を第4タイミングの温度における水素原子の磁気共鳴の中心周波数に合致させる補正をする。この後、シーケンスコントローラ56は、前述と同様にしてダイナミック撮像の4時相の各スライスのMR信号の収集を行わせる。
[ステップS9]MRI装置20は、全時相の全スライスの画像データを再構成する。即ち、画像再構成部90は、k空間データベース92からk空間データを取り込み、これにフーリエ変換を含む画像再構成処理を施すことで画像データを再構成し、得られた画像データを画像データベース94に保存する。画像処理部96は、画像データベース94から画像データを取り込み、これに所定の画像処理を施すことで2次元の表示用画像データを生成し、この表示用画像データを記憶装置66に保存する。以上の処理が各スライスのk空間データに対して行われる。この後、全時相の全スライスの画像が例えばスルー画で表示装置64のモニタ上に表示される。
以上が本実施形態のMRI装置20の動作説明である。
このように本実施形態では、傾斜磁場コイルユニット26の温度変化分と、水素原子の磁気共鳴の中心周波数のシフト量との関係を、シフトデータとして予め温度係数取得シーケンスによってデータ部100に記録しておく。そして、撮像時には傾斜磁場コイルユニット26の温度変化を複数のタイミングで計測し、その温度変化があった場合の水素原子の共鳴中心周波数に合致するように、RFパルスの中心周波数をシフトデータに基づいてその都度補正する。
従って、傾斜磁場コイルの発熱に起因した水素原子の共鳴中心周波数のシフトに拘らず、RFパルスの中心周波数を水素原子の共鳴中心周波数にほぼ合致させるため、良好な画像が得られる。図6で説明したように、温度変化による水素原子の共鳴中心周波数のシフトに追従して、脂肪抑制プレパルス等の中心周波数を補正するため、撮像時間が長くなっても、脂肪抑制プレパルス等の効果が劣化することはないからである。また、撮像時間が長いほど温度がより上昇するが、本実施形態では本スキャンの開始後にも温度の検出と中心周波数の補正とを繰り返すため、その効果が顕著に表れる。
即ち、本実施形態によれば水素原子の共鳴中心周波数の変化に追従できるため、傾斜磁場コイルユニット26の冷却機能を最小限に留めることもできるので、冷却コストを削減できる。また、水素原子の共鳴中心周波数の変化に追従できるため、熱伝導性の高い(即ち、熱容量の少ない)傾斜磁場コイルユニット26を使用することもできる。
さらに、本実施形態によれば、ユーザは、どのタイミングで傾斜磁場コイルユニット26の温度を計測し、或いは、どれだけの頻度でRFパルスの中心周波数を補正するかを設定できる(ステップS1)。
なお、絶対温度に対して中心周波数値を与えるテーブルデータを予め記憶し、温度差に拘らず、テーブルデータと本スキャン実行時の温度のみに基づいて中心周波数を補正する手法も考えられる。しかし、上記のようにプレスキャン実行の際と、本スキャン実行時との温度差に基づいて中心周波数を補正する方が望ましい。一般にはプレスキャン実行によって中心周波数を暫定的に定めるからである。即ち、プレスキャン実行時と、本スキャン実行時との温度差に基づいて、中心周波数をプレスキャン実行時から何ヘルツずれせばよいかを算出することで、本スキャンの中心周波数を効果的に補正できる。
(実施形態の補足事項)
[1]4時相のダイナミック撮像において中心周波数を変更する例を述べたが、本発明の実施形態は、かかる態様に限定されるものではなく、他の撮像形態にも適用可能である。例えば、1スライスのデータ収集動作毎に、空き時間を設けて温度を計測し、この計測結果に基づき中心周波数を補正してから、次のスライスのデータ収集動作を行う構成でもよい。ここでの「データ収集動作」とは、プレパルスや、データ収集用の励起パルスの印加から、MR信号の収集までの処理を指し、画像再構成までは含まない。
また、スピンエコー法では、励起パルスおよび再収束パルスの印加と、MR信号の収集とを含むデータ収集動作が位相エンコード数だけ繰り返されるが、各位相エンコード毎に中心周波数を補正してもよい。即ち、前の位相エンコードのMR信号の収集後、次の位相エンコードの励起パルス印加前のタイミングで傾斜磁場コイルユニット26の温度を取得し、これに基づき、次の位相エンコードの励起パルスの印加開始前に中心周波数を補正してもよい。
或いは、1スライスの撮像において、励起パルスおよび再収束パルスの送信時と、MR信号収集時(読み出し時)とで、送信パルスの中心周波数を変更してもよい。この場合、位相が変わるので、画像再構成時に位相補正をすることが望ましい。
[2]上記の[1]の補足として、例えば、T1強調画像を4時相、続いてT2強調画像を4時相の順にダイナミック撮像を行う場合、以下のようにMRI装置を構成してもよい。即ち、「ON」を選択入力すると、全時相(T1強調画像の4時相およびT2強調画像の4時相)に亘って、各時相の撮像前に中心周波数の補正を行うように入力装置62、表示装置64、パルス設定部102等の各部を構成してもよい。
上記の場合、例えば、T1強調画像の4時相で1セットの撮像シーケンス、T2強調画像の4時相で別の1セットの撮像シーケンスとする場合がある。このような構成において(1セットの撮像シーケンス内の)撮像終了をトリガとする場合、以下の第1〜第6のタイミングで中心周波数の補正を行うようにしてもよい。
第1に、T1強調画像シーケンスの始めの時相の撮像終了後、T1強調画像シーケンスの2番目の時相の撮像開始前の空き時間のタイミングである。
第2に、T1強調画像シーケンスの2番目の時相の撮像終了後、T1強調画像シーケンスの3番目の時相の撮像開始前の空き時間のタイミングである。
第3に、T1強調画像シーケンスの3番目の時相の撮像終了後、T1強調画像シーケンスの4番目の時相の撮像開始前の空き時間のタイミングである。
第4に、T2強調画像シーケンスの始めの時相の撮像終了後、T2強調画像シーケンスの2番目の時相の撮像開始前の空き時間のタイミングである。
第5に、T2強調画像シーケンスの2番目の時相の撮像終了後、T2強調画像シーケンスの3番目の時相の撮像開始前の空き時間のタイミングである。
第6に、T2強調画像シーケンスの3番目の時相の撮像終了後、T2強調画像シーケンスの4番目の時相の撮像開始前の空き時間のタイミングである。
即ち、上記の場合は一例として、T1強調画像シーケンスの始めの時相の撮像開始直前には中心周波数の補正を行わず、T1強調画像シーケンスの4番目の時相の撮像終了後、T2強調画像シーケンスの始めの時相の撮像開始前の空き時間にも中心周波数の補正を行わない。
なお、T1強調画像シーケンスの始めの時相の撮像開始直前は、他のタイミングと対比すれば、中心周波数の補正を省略するデメリットが少ない。このタイミングは、位置決め画像の表示後、関心領域等を設定した後であり、それまでの撮像数に鑑みて傾斜磁場コイルユニットの温度がそれほど上昇していないとも考えられるからである。
[3]ダイナミック撮像に限らず、例えば拡散強調イメージングなどの他の撮像シーケンスの場合にも、本実施形態は適用可能である。以下、拡散強調イメージングに本実施形態を適用する場合の一例について説明する。
この場合、例えばまず、拡散傾斜磁場(Motion Probing Gradient)のパルス(以下、MPGパルスという)を印加しないで、b値(b−factor)をゼロとして、基準の1セットのスライス群を撮像する。なお、以降の各セットのスライス群は、互いに同じスライス数である。
次に、b値を第1の値に変えて、MPGパルスを印加しつつ、第1セット〜第Nセットまでのスライス群の撮像を行う。ここで、第1セット〜第Nセットは、各セット毎にMPGパルスの方向性(Vector)が互いに異なる。第1セットの撮像が終わったら、MPGパルスの方向性を変えて次は第2セットの撮像を行う、というように、各セット毎に順番に撮像する。
次に、b値を第2の値に変えて、同様にMPGパルスを印加しつつ、第1セット〜第Nセットまでのスライス群の撮像を行う。第1セット〜第NセットのMPGパルスのVectorは、b値が第1の値の場合とそれぞれ同じである。
次に、b値を第3の値に変えて、同様にMPGパルスを印加しつつ、第1セット〜第Nセットまでのスライス群の撮像を行う。
このような撮像シーケンスの場合、全体として、長い撮像時間になるため、傾斜磁場コイルユニット26の温度上昇が予想される。
そこで、例えば、b値が第1の値の撮像グループの場合、各セット間に温度を計測する。ここで、温度計測は瞬間的に実行できるので、各セット間に空き時間があるか否かに拘らず、各セット間に温度計測を実行できる。そして、その温度計測の後の1セットの撮像におけるRFパルスは、計測温度とシフトデータとに基づいて中心周波数が補正されたものを用いる。
なお、上記では温度計測および中心周波数の補正を各セット毎に行うとしたが、これは一例に過ぎない。例えば、2セット毎、或いは3セット毎に温度計測および中心周波数の補正を行ってもよい。いずれにせよ、上記のように、MPGパルスのVectorおよびb値が同じ1セットの撮像間では、RFパルスの中心周波数を同じにすることが望ましい。
[4]本実施形態では、温度センサ70A〜70Dが温度を検出した時刻を基準時として、基準時における水素原子の磁気共鳴の中心周波数のシフト量に基づいてRFパルスの中心周波数を補正する例を述べた。本発明の実施形態は、かかる態様に限定されるものではなく、温度計測時刻である上記基準時よりも後の時刻における傾斜磁場コイルユニット26の温度を予測してもよい。
即ち、MRI装置20の作動開始後における傾斜磁場コイルユニット26内の温度変化の測定結果に基づいて、次の撮像シーケンスの実行時(特にK空間中心に配置されるMR信号の収集近辺の時刻)の温度を予測し、この予測温度とシフトデータとに基づいて次の撮像シーケンスの実行前にRFパルスの中心周波数を補正してもよい。
[5]本実施形態では、入力情報に従って、全4時相の空き時間の一部(3時相の前の空き時間)において、傾斜磁場コイルユニット26の温度を計測しない例を述べた。本発明の実施形態は、かかる態様に限定されるものではない。例えば、どの時点で温度を計測するかの入力設定画面を表示せず、パルス設定部102が温度計測およびRFパルスの中心周波数補正のタイミングを全て自動的に決定してもよい。例えば、全4時相のそれぞれの間の全ての空き時間において、傾斜磁場コイルユニット26の温度を一律的に計測し、計測温度とシフトデータとに基づいてRFパルスの中心周波数を補正してもよい。
[6]水素原子の磁気共鳴の中心周波数のシフト量を計算し、シフト量に基づいて中心周波数を補正する例を述べたが、本発明の実施形態は、かかる態様に限定されるものではない。シフト量ではなく、水素原子の磁気共鳴の中心周波数自体を推定し、これに基づいて中心周波数を補正する構成としても、技術的には等価である。
[7]ステップS5、S6、S8において、ΔTpA_T1、ΔTpB_T1、ΔTpC_T1、ΔTpD_T1の4つの平均値を算出し、この平均値とシフトデータから、中心周波数のシフト量を求める例を述べた。本発明の実施形態は、かかる態様に限定されるものではない。
傾斜磁場コイルユニット26の大きさを考慮すると、本スキャン実行によって発熱が生じれば、傾斜磁場コイルユニット26内で温度が均一にはならない。例えば、装置座標系のX、Y、Zの各軸方向に離間して、傾斜磁場コイルユニット26内に多数の温度センサが配置される場合を考える。
この場合、例えば、撮像断面に近い温度センサほど、大きい重み係数が乗じられるように、各温度センサが検出した温度差(上記ΔTpA_T1等に対応)に、重み係数をそれぞれ乗じる。そして、重み係数が乗じられた各温度差を合算する。合算した温度差を、温度センサの数で割ることで、重み付け平均された温度差を算出する。このように重み付け平均された温度差と、シフトデータから、中心周波数のシフト量を求めてもよい。
[8]MRI装置20として、静磁場磁石22、シムコイル24、傾斜磁場コイルユニット26等が含まれるガントリの外にRF受信器46が存在する例を述べた(図1参照)。本発明の実施形態は、かかる態様に限定されるものではない。RF受信器46がガントリ内に含まれる態様でもよい。
具体的には例えば、RF受信器46に相当する電子回路基盤をガントリ内に配設する。そして、受信用RFコイルによって電磁波からアナログの電気信号に変換されたMR信号を、当該電子回路基盤内のプリアンプによって増幅し、デジタル信号としてガントリ外に出力し、シーケンスコントローラ56に入力してもよい。ガントリ外への出力に際しては、例えば光通信ケーブルを用いて光デジタル信号として送信すれば、外部ノイズの影響が軽減されるので、望ましい。
[9]請求項の用語と実施形態との対応関係を説明する。なお、以下に示す対応関係は、参考のために示した一解釈であり、本発明を限定するものではない。
静磁場用磁石22、シムコイル24、傾斜磁場コイルユニット26、RFコイル28、制御系30の全体(図1参照)が、傾斜磁場およびRFパルスの印加を伴った撮像により被検体Pの画像データを生成する構成は、請求項記載の撮像部の一例である。
温度センサ70A〜70Dは、請求項記載の温度計測部の一例である。
温度計測のタイミングを設定する入力情報を受け付ける画面を表示する表示装置64の機能、および、温度計測のタイミングを入力情報として受け付ける入力装置62の機能は、請求項記載の入力部の一例である。
[10]本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。