JP6181073B2 - ピーナッツアレルギーの処置用医薬製剤およびその使用 - Google Patents

ピーナッツアレルギーの処置用医薬製剤およびその使用 Download PDF

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Description

本発明は、免疫療法で使用しうる医薬製剤または組成物、および特に、ピーナッツアレルギーに罹患する哺乳類、例えばヒトの免疫療法に用いうる製剤または組成物に関する。本発明はさらに、アレルギーに罹患する哺乳類の免疫系を免疫療法により脱感作させるための治療的処置のための本発明の製剤もしくは組成物の使用、および特定のアレルギーを発症する高い素因を有する哺乳類の予防的処置における本発明の製剤もしくは組成物の使用に関する。
アレルゲン免疫療法は、減感作療法、免疫脱感作、減感作(hyposensibilization)、アレルゲン特異的免疫療法ともよばれ、免疫寛容を引き起こすために、アレルゲン、すなわち患者がアレルギー性を示す物質を、次第に用量を増やしながら患者にワクチン接種する、アレルギー障害の免疫療法の一形態である。
アレルゲン特異的免疫療法は、アレルギー障害の根底となる原因を処置する唯一の治療方法である。該免疫療法は、対費用効果の高い治療方法であり、クオリティオブライフの改善をもたらすものである。
免疫療法は、アレルギー性の症候の長期間での寛解をもたらし、関連するアレルギー応答の重症度を低下させ、かつ、アレルゲンに対して新たに感作する可能性を低下させることが示されている。免疫療法は、アレルゲンに対する免疫系の応答を調節することを目的とする。
一般的に、免疫療法は、例えば、舌下または皮下経路を介して特定のアレルゲンに繰り返し暴露させることにより、アレルギー患者の該アレルゲンに対する脱感作をもたらし、それにより、アレルギー性の症候を減少させることならびに、症候に基づく処置の使用を含む。
免疫療法の根底となる機構は、完全にはわかっていないが、免疫療法が、アレルゲンに対する免疫応答の変化を引き起こすということは受け入れられている。かかる変更には、少なくとも、IgE合成の変化および特定のアレルゲンに対するアレルギー性の応答を低下させるIgE遮断抗体の産生が含まれる。また、Th2のTh1/T制御性細胞への変換が増加することも観察されている。分子レベルにおいて、根底となる機構は、アレルゲンを中和する、アレルゲン特異的なIgGの優先的な誘導およびアレルゲン特異的なIgEの低下に依存している。
一般的に、免疫療法は、アレルギー患者の低用量のアレルゲンに対する暴露を含む。該用量は、定期的、例えば1週間毎に、「維持」量に達するまで徐々に上昇させる。これはすなわち、維持量に達するまで1週間毎の注射を約4ヶ月間行うということである。ひとたび維持量に達すると、注射の頻度は低下し、例えば1ヶ月に1回の頻度で2、3年間行うようになる。一般的に、処置が長く、用量が高い程、治療の恩恵は大きくなる。
免疫療法が成功して完了した後では、3〜5年以上の長期間の保護が期待される。症候が見られはじめるもしくは再びみられるようになるか、または該個人が、以前の処置レジメンに含まれていなかった新しいアレルゲンに暴露されるようになった場合、治療を繰り返しうる。
ピーナッツは、食物誘導性のアレルギーの原因となる最も一般的な食物の1つである。ピーナッツアレルギーに対する治療的処置は未だ利用可能ではない。水性のピーナッツ抽出物を用いた特異免疫療法(SIT)は、ピーナッツの経口摂取に対する寛容性を上昇さることが示された。しかし、Nelsonらの報告 (非特許文献1: J. Allergy Clin. Immunol. 1997 June;99(6 Pt 1):744-51)により、水性のピーナッツ抽出物は、維持期の注射の間ですら、許容できない全身性応答を引き起こすことが示された。したがって、Nelsonらは:「この処置方法を臨床適用するためには、修飾ピーナッツ抽出物が必要である」と結論づけている。
ピーナッツアレルギーの主要なアレルゲンは、ピーナッツ種子貯蔵蛋白質Arah1(ビシリン)およびArah2(コングルチン)である。近年の研究 (非特許文献2: Moverare et al., Int Arch Allergy Immunol; 2011; pp 282-290)により、ピーナッツアレルギーの疑いのある若年の成人のほとんどが、Arah1およびArah2に対するIgE抗体を有することが示された。これらの主要なアレルゲンに加えて、他のピーナッツカーネル蛋白質、例えばArah6に対するIgE反応性が報告されている。
ピーナッツアレルゲンのArah2およびArah6の、還元およびアルキル化による修飾により、これらのアレルゲン性蛋白質の低アレルゲン形態が得られることが報告されている。アレルゲン性の低さは、固相免疫アッセイにおけるIgE結合の低下または好塩基球のようなエフェクター細胞の活性化により示しうる。しかし、アレルゲンであるArah2およびArah6に、ピーナッツで見つかっている全てのアレルゲンが含まれるわけではなく、そのため、Arah2およびArah6にのみ基づく免疫療法または免疫ワクチン接種では、ピーナッツアレルギーの個体を(予防的に)処置するか、または脱感作させるのに十分ではないと考えられる。
還元およびアルキル化により、蛋白質中のジスルフィド結合は非可逆的に切断される。Arah2は4つのジスルフィド結合、Arah6は6つのジスルフィド結合を有する。還元およびアルキル化により、Arah2およびArah6の2次構造に主な変化が生じ、その結果としてIgE結合の損失およびエフェクター細胞の活性化が見られることが示されている。しかし、Arah2および、Arah6がそれより低い程度で、ピーナッツアレルギーの原因物質のごく一部しかなしていないことを考えると、Arah2およびArah6のみではピーナッツアレルギーの個体を処置するのに十分とは考えられない。
J. Allergy Clin. Immunol. 1997 June;99(6 Pt 1):744-51 Moverare et al., Int Arch Allergy Immunol; 2011; pp 282-290
本発明の目的は特に、ピーナッツアレルギーの治療または予防的処置用の医薬組成物または製剤を提供することである。すなわち、本発明の目的は、特に、患者を、ピーナッツまたはより具体的にはピーナッツのアレルゲンに対して脱感作させるための医薬組成物または製剤を提供することである。
これらの目的は、特に、添付の特許請求の範囲に記載する医薬組成物により果たされる。
個々のピーナッツアレルゲンおよびスペイン品種の抽出物のrp−HPLCパターンを示す。パネルA (個々のピーナッツアレルゲン): ピーク 7.3ml: Arah2; ピーク 9〜9.5ml: Arah6; ピーク 11ml: Arah1。パネルB (スペイン品種の抽出物): ブランク (MQ水); ピーク 7.3ml: Arah2; ピーク9〜9.5ml: Arah6; ピーク 11ml: Arah1; 修飾前後の個々のピーナッツアレルゲンのrp−HPLCパターン。一番上のパネル: Arah1、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。真ん中のパネル: Arah2、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。一番下のパネル: Arah6、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。; 修飾前後の個々のピーナッツアレルゲンの遠紫外線CDスペクトル。一番上のパネル: Arah1、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。真ん中のパネル:Arah2、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。一番下のパネル: Arah6、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す; 負荷後のピーナッツアレルギーマウスの体温。上のパネル: 天然ピーナッツ抽出物を用いた負荷(0.1、0.6および3mg/マウス)。下のパネル: 修飾ピーナッツ抽出物を用いた負荷(0.1、0.6および3mg/マウス); 実施例6(A)で用いた感作、脱感作および負荷手法のタイムラインおよび実施例7(B)で用いた感作、脱感作および負荷手法のタイムライン; 91日目に負荷試験を行ったマウスの体温(A)および85日目の肥満細胞の活性(B; mMCP−1); 112日目に負荷試験を行ったマウスの体温; 全ての試験群の99日目の血清中のmMCP−1レベル; 全ての試験群の99日目の血清中のIgE (A)、IgG1 (B)およびIgG2a (C)のレベル。
具体的には、第一の局面によって、これらの目的は、特に、修飾ピーナッツ全抽出物と薬学的に許容される希釈剤および/または賦形剤とを含む医薬組成物により果たされ、ここれ、該修飾ピーナッツ全抽出物は、還元、続いてアルキル化されたピーナッツ全抽出物である。
本発明において、アレルゲンとは、免疫グロブリンE(IgE)応答を通してアトピー性の哺乳類において過感受性応答を刺激しうる抗原として定義する。ほとんどの哺乳類は、顕著な免疫グロブリンE応答を、寄生虫感染にたいする防御としてのみ開始する。しかし、哺乳類の中には、多くの一般的な環境的抗原に対して応答するものがある。この遺伝的素因は、アトピーともよばれる。アトピー性の哺乳類では、非寄生性の抗原が望まないIgE産生を刺激し、その結果、過感受性もしくはアレルギーが引き起こされる。
本発明において、ピーナッツ全抽出物は、ピーナッツ中にみられる種子カーネル蛋白質を実質的に全て含むピーナッツ抽出物をさす。すなわち、本発明のピーナッツ全抽出物は、ピーナッツ中にみられる蛋白質の代理となるものであり、したがって、ピーナッツアレルギーの原因物質(アレルゲン)の代理となるものである。したがって、本発明のピーナッツ全抽出物は、Arah2およびArah6に加えて、他のピーナッツアレルゲンをも含み、その中には、主要ピーナッツアレルゲンであるArah1も含まれる。
本発明によれば、ピーナッツ全抽出物は、還元およびアルキル化により修飾されており、それにより、ピーナッツ全抽出物の蛋白質に存在するジスルフィド結合はアルキル化により崩壊し、その結果、ジスルフィド結合を含む蛋白質の二次構造が変化し、そのため、これらの蛋白質中のアレルギー応答を起こすIgEエピトープが崩壊する。
ジスルフィド結合を還元する適当な薬剤は公知のものであり、例えば、2-メルカプトエタノール (β-ME)、ジチオトレイトール(DTT)、ジチオエリトリトール、システイン、ホモシステイン、トリブチルホスフィン、亜硫酸塩、トリス(2-カルボキシエチル) ホスフィン(TCEP)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、灰汁、グルタチオン、E−メルカプトエチルアミン、チオグリコール酸、メチルスルフィドまたはエチルスルフィドであってよい。
還元されたシステイン残基をアルキル化する適当な薬剤は公知のものであり、例えば、N−エチルマルイミド(ethylmalimide)、シスタミン、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、アルキルハロゲン化物、アルキル硫酸、アルケンまたは酵素であってよい。
Arah2およびArah6と対照的に、Arah1が、単一のCys残基以外にジスルフィド結合を含まないことを考えると、主要アレルゲン蛋白質Arah1を含むピーナッツ全抽出物を還元およびメチル化させることにより、アレルゲン性を低下させることは驚くべきことである。したがって、Arah1の還元およびアルキル化は、二次構造の変化およびそれに伴うピーナッツ全抽出物のIgE結合の損失およびエフェクター細胞の活性化を引き起こすとは予期されない。これにもかかわらず、Arah1が主要なピーナッツアレルゲンであることを特に考えると、驚くべきことに、本発明の発明者らは、還元およびアルキル化がArah1に影響を与え、それにより、修飾ピーナッツ抽出物のアレルゲン性に影響を与えることを見出した。
本発明の第一の局面の好ましい態様によれば、本発明のピーナッツ全抽出物は、該ピーナッツ抽出物が還元およびアルキル化を受ける前に脱脂されている。脂質および他の脂肪性の物質を除くことにより、抽出物中の蛋白質の含有量が増加し、そのため、免疫性IgEエピトープの相対数が増加し、該抽出物のアレルゲン性が増加する。
本発明の第一の局面のさらに他の好ましい態様によれば、本発明のピーナッツ全抽出物は、可溶性のピーナッツカーネル蛋白質、より好ましくは少なくともArah1、Arah2およびArah6を含む。可溶性のピーナッツカーネル蛋白質は、全てではないにしても、ピーナッツ蛋白質Arah1、Arah2およびArah6のアレルゲンとなるエピトープの大部分を示すものである。
本発明の第一の局面の特に好ましい態様によれば、本発明のピーナッツ全抽出物は:
a) ピーナッツを粉砕してピーナッツ粉末を得;
b) 該ピーナッツを、アセトン50mlあたりピーナッツ粉末5gを用いてアセトン中で30分間インキュベートして脱脂ピーナッツ粉末を得;
c) 該脱脂ピーナッツ粉末を乾燥させ;
d) 該乾燥ピーナッツ粉末をpH7〜9の緩衝液に懸濁し;
e) 生じた工程(d)の上清を単離し、それにより、ピーナッツ全抽出物を得る;
ことにより得られる。
上述の方法は、可溶性ピーナッツアレルゲン性蛋白質の精製抽出物、すなわち、可溶性ピーナッツカーネル蛋白質に富む抽出物を提供し、該抽出物は還元およびアルキル化を容易に受けうる。
本発明の第一の局面の、他の特に好ましい態様によれば、本発明の医薬組成物はさらにアルミニウムを含む。驚くべきことに、本発明の組成物にアルミニウムを添加することにより、本発明の修飾ピーナッツ全抽出物のアレルゲン性がさらに低下することが明らかになった。
IgE結合またはIgEエピトープが有意に減少するため、本発明の医薬組成物は特に、患者におけるピーナッツアレルギーの脱感作、好ましくは免疫療法または免疫ワクチン接種による脱感作のための治療的処置において用いるのに適当である。
本発明によれば、免疫療法は、アレルギーに罹患している哺乳類、好ましくはヒトに、本発明の組成物を、該哺乳類の該アレルゲンに対するアレルギー性応答を低下させるかまたは除去するのに十分な量で、十分な期間投与することを含む。
典型的な十分量は、本発明の組成物を投与する個体の体重に対して約0.1ng/kg〜10mg/kg、10ng/kg〜約100μg/kgまたは0.1μ/kg〜1μg/kgの本発明の組成物である。処置が、この範囲の中の低い用量の投与ではじまり、処置が進行するにつれて用量を増加させることを含むことはしばしばである。
脱感作処置には、患者は頻繁な投与、例えば最初は1日、2日または3日毎の投与を受け、徐々に頻度を低下させて、2週間または3週間に一度に低下させることが典型的に必要とされる。他の適当な脱感作プログラムは、注射の用量が徐々に増加する2〜4週間に1回の頻度の皮下注射を3〜6ヶ月の間行った後、最長約5年間の間、2〜4週間に1度の注射を続ける。舌下投与については特に、毎日投与を行うことも可能である。
脱感作手法はまた、急速脱感作、急速アレルゲン免疫療法、急速アレルゲンワクチン接種および急速(rapid or rush)免疫療法として、種々の相当する代替形態で慣用的に知られる、処置形態を含みうる。広義には、この手法は、アレルギー患者に、頻度の高い間隔で(例えば時間毎)、用量を増加させながらアレルゲンを、一連の注射による(または他の適当な担体を介した)投与によって、抽出物(すなわちアレルゲン)の免疫量または維持量に至るように進めることを目的とするものである。成功した場合、該患者はアレルゲンに対する抵抗性の改善を示し、アレルゲンに暴露しても完全な非応答を示すこともあり得る。
当該分野では、種々の脱感作手法が公知であり、例えば、アレルゲンに対する即時型の過感受性を有する患者を、促進免疫療法の前にプレドニゾンおよびヒスタミン拮抗薬で予め処置する方法と組み合わせて、促進急速免疫療法スケジュールと組み合わせて処置する方法を含みうる。
本発明を、本発明の好ましい態様である以下の実施例によりさらに詳細に記載する。実施例において、言及する図は以下の通りである:
図1は、個々のピーナッツアレルゲンおよびスペイン品種の抽出物のrp−HPLCパターンを示す。パネルA (個々のピーナッツアレルゲン): ピーク 7.3ml: Arah2; ピーク 9〜9.5ml: Arah6; ピーク 11ml: Arah1。パネルB (スペイン品種の抽出物): ブランク (MQ水); ピーク 7.3ml: Arah2; ピーク9〜9.5ml: Arah6; ピーク11ml: Arah1;
図2は、修飾前後の個々のピーナッツアレルゲンのrp−HPLCパターンを示す。一番上のパネル: Arah1、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。真ん中のパネル: Arah2、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。一番下のパネル: Arah6、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。;
図3は、修飾前後の個々のピーナッツアレルゲンの遠紫外線CDスペクトルを示す。一番上のパネル: Arah1、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。真ん中のパネル:Arah2、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。一番下のパネル: Arah6、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す;
図4は、負荷後のピーナッツアレルギーマウスの体温を示す。上のパネル: 天然ピーナッツ抽出物を用いた負荷(0.1、0.6および3 mg/マウス)。下のパネル: 修飾ピーナッツ抽出物を用いた負荷(0.1、0.6および3 mg/マウス);
図5は、実施例6(A)で用いた感作、脱感作および負荷手法のタイムラインおよび実施例7(B)で用いた感作、脱感作および負荷手法のタイムラインを示す;
図6は、91日目に負荷試験を行ったマウスの体温(A)および85日目の肥満細胞の活性(B; mMCP−1)を示す;
図7は、112日目に負荷試験を行ったマウスの体温を示す;
図8は、全ての試験群の99日目の血清中のmMCP−1レベルを示す;
図9は、全ての試験群の99日目の血清中のIgE (A)、IgG1 (B)およびIgG2a (C)のレベルを示す。
実施例1 試料回収および抽出物の製造
4つの異なる品種(ランナー、スペイン、バレンシアおよびバージニア種)を含む12のピーナッツ試料を、Maleki博士(US Department of Agriculture, New Orleans, USA)よりご供与いただいた。これらの品種は、西欧および米国において通常消費されているものである。ピーナッツの一部を焙煎した(予め加熱した熱風循環炉内で、140℃にて15分間)。
該ピーナッツを、手動により粉砕し、アセトンを用いて脱脂し(アセトン 50mLでピーナッツ5gを30分間脱脂した)、室温(RT)に置いて一晩乾燥させた。脱脂ピーナッツ粉末1gを50mM Tris HCl(pH8.0) (10% w/v) 10mLに懸濁し、1時間室温にて撹拌した。その後、試料を遠心分離し、上清を0.2μm セルロース膜フィルター(Whatman FP30/0,2 CA-S, Whatman GmbH, Dassel, Germany)に通して濾過し、さらなる試験に用いた。
該抽出物を単回使用量で−20℃にて保存した。蛋白質濃度を、Bradford解析を用いて決定した。ウシ血清アルブミン (BSA 2mg/mL、Pierce, IL, USA) を用いて標準曲線を描き、50〜500μg/mLの範囲に希釈した。粗製ピーナッツ抽出物 (CPE)を、50mM Tris HCl (pH8.0)を用いて40倍希釈した。protein assay試薬(Bio-Rad, USA)を水で5倍に希釈した。標準および試料20μLを、5倍希釈した試薬1mLと混合し、各試料および標準250μLを、フラット付き平底プレート(Fタイプ)のウェルに入れた。50 mM Tris HCl (pH8.0)をブランクとして用いた。結果を表1にまとめる。
Figure 0006181073
実施例2 ピーナッツカーネル中のArah1、Arah2およびArah6の存在量
X-Bridge BEH Phenyl 3.5 μm column (2.1 x 150 mm, Waters, Ireland)を備えたAgilent 1200 series HPLCを用いたrp−HPLC法によって、Arah1、Arah2およびArah6を定量化した。勾配溶出は、以下の移動相を用いて行った: (A) 0.1 % Milli Q (MQ) 水中TFAおよび(B) 0.085% メタノール中TFA。用いた勾配は、3% 溶出液B/分であり、溶出液B50%から始めて100%になるまで15分間続けた。クロマトグラムは、280nmおよび215nmにて記録した。215nmにおける記録を、ピーク面積の比較に用いた。
試料をMQ水を用いて蛋白質濃度を1 mg/mL に希釈し、ブランクにMQ水を用いた。ピーナッツアレルゲン Arah1、Arah2およびArah6の精製物を、ピークの指定に用いた。主要ピーナッツアレルゲン(Arah1、Arah2およびArah6) の分離したピークを定量し、全蛋白質面積あたりの%として表した。
図1aは、個々のArah1、Arah2およびArah6の精製形態を用いたこの解析の実施例を示す。これらのアレルゲンは、ベースラインが分離されており、該方法は抽出物中の定量化を考慮したものである。
図1bは、ピーナッツ抽出物の例を示し、矢印はArah1、Arah2およびArah6に相当するピークを示す。この抽出物において、Arah1が最も豊富なアレルゲンであることが示されている。
全てのピーナッツ試料を、そのArah1、Arah2およびArah6の含有量について解析し、その結果を表2にまとめる。試験した全てのピーナッツ試料について、Arah1の含有量はArah2およびArah6よりも高い。
Figure 0006181073
Figure 0006181073
試験した全ての試料において、Arah1はArah2もしくはArah6より量が多い。
実施例3 修飾はArah2およびArah6には影響を与えるが、Arah1には与えない。
精製したアレルゲンArah1、Arah2およびArah6を上に記載したように処理した。端的には、該アレルゲンをDTTとともに1時間60℃にてインキュベートし、IAAを添加し、該混合物を室温にて1.5時間インキュベートした。
処理したアレルゲンを、rp−HPLCにより、移動度に影響があるかどうかについて試験した。図2より、Arah2およびArah6が影響を受けているのに対し、Arah1がこの修飾による影響を受けていないことが明らかにわかる。この点をさらに調べるため、さらなる試験:精製蛋白質の二次構造要素の含量を評価しうる遠紫外線CD分光法を行った。スペクトルを蛋白質濃度について標準化した。図3により、修飾はArah2およびArah6に影響を与えるが、Arah1には影響を与えないことを示す。
実施例4 還元し、アルキル化したピーナッツ抽出物は低IgE結合力価を示す。
ピーナッツアレルギーの患者20人から回収した血清を得、IgE ELISAを行った。ELISAプレートは、ピーナッツ抽出物でコートし、天然のピーナッツ抽出物のIgE結合力価を1とし、修飾ピーナッツ抽出物のIgE結合力価をその相対値とした。表3は、患者ごとの天然ピーナッツ抽出物に対して相対的な、修飾ピーナッツ抽出物の残存力価を示す。修飾ピーナッツ抽出物の残存力価の平均は、天然ピーナッツ抽出物の力価の7%である。
Figure 0006181073
実施例5 修飾ピーナッツ抽出物の生体内安全性
以前に記載されている方法により、マウスをピーナッツ抽出物に対してアレルギー性にした。これらのマウス(群ごとに6個体)を、天然もしくは修飾ピーナッツ抽出物のいずれ化を用いて負荷試験を行った。その後、90分間体温を測定した。該体温をプロットしたものを図4に示す。
天然ピーナッツ抽出物での負荷が、体温の急速かつ深い低下を伴う重症なアレルギー応答を引き起こすことは明らかである。これは0.1mg/mlの用量ですでに見られる。対照的に、修飾ピーナッツ抽出物での負荷は、30倍高い用量(3mg/マウス)においてさえ該応答をひきおこさなかった。
実施例6および7
導入
ピーナッツアレルギー免疫療法の生体内マウスモデルにおいて、試験製剤を、その有効性について解析した。これらの実験は、化学的に修飾したピーナッツ抽出物(水酸化アルミニウムに吸着させていても吸着させていなくてもよい)が、ピーナッツに感作させたマウスを処置するのに有効に使用できる可能性があることを示す。
材料および方法
マウス
5週齢の、特定病原体不在のメスC3H/HeOuJマウスを、Charles River, Franceより購入した。全てのマウスを特定病原体不在条件下で動物飼育施設(ユトレヒト大学、オランダ)に収容した。実験は、ユトレヒト大学の動物実験委員会の承認を受けている。用いた食事には、植物蛋白質(ダイズを含む)が含まれていたが、ピーナッツ蛋白質は含まれていなかった。
感作および負荷
マウス (群ごとのn=6) を、マウス一匹につき、PBS 400μl中のピーナッツ抽出物(PE) 6mgおよびコレラトキシン(CT、List Biological Laboratories, Inc.) 15μgを、0、1、2、7、14、21、28日目に胃内(i.g.)投与することにより感作させた。対照マウスには、マウス一匹につき、PBS400μl中にCT15μgを含むPBSを投与した。42日目より、様々な群のマウスに様々な試験製剤(修飾PE +/- 水酸化アルミニウム)またはそのそれぞれの対照200μlを用いて、首への皮下(s.c.)投与による脱感作を、1週間に3回を3週間(実施例5)または1週間に2回を6週間(実施例6)行った(図5)。以降、非アレルギー性PBS感作マウスおよびアレルギー性PE感作マウス(免疫療法なし)を、それぞれ、PBS対照およびPE対照として示す。
アナフィラキシーの評価
アナフィラキーショックの客観的パラメーターとして、体温を、腹腔内(i.p.)負荷の後、10〜20分ごとに90分間直腸検温により測定した。該モデルの過程におけるいくつかのタイムポイントにおいて、血液を、抗体およびmMCP−1(mast cell protease 1)を測定するために採取した。91日目 (実施例5)または112日目 (実施例6)に、マウスにi.p.負荷を行った直後、体温を90分間経過観察した。
実施例6
結果
91日目のi.p.負荷の後、修飾PE製剤は、負荷後の体温低下により測定されるアナフィラキー応答を効果的に低下させた (図6A)。様々な濃度の修飾PEによる脱感作により、体温により測定されるアナフィラキーショック応答の改善について、0.03mgおよび0.1 mgを比較して、濃度依存的な効果が小さいことが示された(図6A)。
最も濃度の高い2つである、0.1および1mg mPEを比較しても、体温に違いは観察されない (図6A)。mPEによる免疫療法後における、体温低下の減少によって示されるアナフィラキーショック応答の改善は、同様に、85日目における肥満細胞の活性化レベルによっても示される (mMCP−1; 図6B)。試験した中で高い2つのIT用量(それぞれ、0.1および1mg/マウス)では、肥満細胞の活性が低下していたのに対し、最も低い用量 (0.03mg/マウス) では改善は見られなかった。

実施例7
結果
112日目のi.p.負荷試験の後、免疫療法製剤(修飾PE単独およびアルミニウムに吸着させたもの)は、ともに、負荷後の体温低下により測定されるアナフィラキー応答を効果的に低下させた(図7)。
アルミニウムに吸着させた抽出物は、吸着させない抽出物と比較して、有効性プロファイルがわずかに改善した(図7A)。アルミニウムに吸着させた、様々な濃度の修飾PEによる脱感作は、温度により測定されるアナフィラキーショック応答の改善に対する濃度依存的な効果を示した(図7)。
mMCP−1および抗体 (IgE、IgG1およびIgG2a)のレベルを、モデルの過程において、全ての群の血清において測定した。これらの免疫学的パラメーターに対する免疫療法の99日目における効果が示されている(図8および9)。
mMCP−1レベルは、陰性PBS対照と比較して、全ての群で上昇していた。修飾PEで脱感作した群は、免疫療法を受けていないマウス(PE対照)およびアルミニウムに吸着させた修飾PEで脱感作したマウスと比較して、mMCP−1が増加していた(図8)。
IgEレベルは、陰性PBS対照と比較して全ての群で、高くなっていた。臨床において一般的に見られるように、免疫療法は、IgEのレベルを上昇させる(図9A)。これは、免疫療法により免疫系がブーストされていることを示す。該上昇は、注射の過程の間においてより高く、時間とともにわずかに低下する(データは示さない)。
免疫療法を受けたマウスは、アルミニウムに吸着させた抽出物および吸着させていない抽出物を用いた場合に匹敵するレベルで、血清中のIgG1レベルの上昇を示した(図9B)。IgG2aレベルの上昇(ヒトにおけるIgG4に匹敵する)は、アルミニウムに吸着させたピーナッツ製剤で処理した群が優位を占めた(図9c)。
結論
還元およびアルキル化により修飾したピーナッツ抽出物は、i.p.負荷後のマウスにおけるアナフィラキー応答を改善することができる。様々な免疫療法モデル(皮下注射、1週間に3回を3週間または1週間に2回を6週間)により、匹敵する有効な結果が得られることが示された。有効性は、ピーナッツ抽出物を水酸化アルミニウムに吸着させた後ではわずかに上昇する。これは、これらのマウスにおいて、IgG2a(ヒトIgG4に匹敵)のレベルが上昇することによるものであり得る。

Claims (8)

  1. 修飾ピーナッツ全抽出物およびアルミニウムと、薬学的に許容される希釈剤および/または賦形剤とを含む医薬組成物であって、該修飾ピーナッツ全抽出物が、還元され、続いてアルキル化されたピーナッツ全抽出物であり、Arah1、Arah2およびArah6を含み、かつ水酸化アルミニウムに吸着されている、医薬組成物。
  2. 該ピーナッツ全抽出物が脱脂されている、請求項1に記載の医薬組成物。
  3. 該ピーナッツ全抽出物が可溶性ピーナッツカーネル蛋白質を含む、請求項1または2記載の医薬組成物。
  4. アレルギーに罹患する哺乳類の免疫療法による処置において用いるための、請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
  5. 該哺乳類がヒトである、請求項4に記載の組成物
  6. アレルゲンについて哺乳類の免疫系を脱感作するために治療的処置に用いるか、または該アレルゲンへの接触時にアレルギーを発症する素因が高い哺乳類の予防的処置に用いるための、請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
  7. 該哺乳類がヒトである、請求項6に記載の組成物
  8. 医薬に用いるための、請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
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