JP6168514B2 - 暗所屈折度数測定方法 - Google Patents

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本発明は、夜間を始めとする暗所における屈折度数を測定する際に使用可能な暗所屈折度数測定用光学製品、及び暗所における屈折度数を測定する方法である暗所屈折度数測定方法に関する。
暗所でない通常の環境における屈折度数を測定する方法として、オートレフラクトメータを用いるものが知られている。この方法では、双眼鏡状の覗き窓を通じて映像を見ている状態の眼球の屈折度数を測定する。屈折度数の測定は、眼球の中心から直径2mm程度の範囲において眼球の形状を測定することで行われ、暗所に対応した瞳孔が拡大した状態での屈折度数は測定されない。
又、屈折度数を測定する方法として、眼波面収差測定装置を用いるものも知られている(暗闇及び/又は薄明時の視力補助手段の必要性を調べる方法に係る下記特許文献1参照)。この方法では、角膜や水晶体表面等を含む広い範囲における眼球の形状を測定することができる。この方法は、角膜屈折矯正手術時に用いられるような大がかりなものである。この方法では、瞳孔を薬剤等で拡大させた状態で眼球形状を測定することも可能であるが、瞳孔拡大状態での眼球形状を他覚的(客観的)に把握するに留まっている。
特表2007−518500号公報
眼波面収差測定装置を用いる瞳孔拡大状態での眼球形状に基づく暗所屈折度数測定方法では、その実施が大がかりとなり、眼鏡販売店等で気軽に提供することができない。
又、暗所では、明所と異なり、眼球内部の水晶体が調節安静位(1ディオプター(D)程度の調節状態)に落ち着くことが知られており、かような調節状態の変化によっても暗所での屈折度数が変わることが考えられるところ、眼波面収差測定装置を用いる暗所屈折度数測定方法では、暗所における調節状態の変化が反映されないこととなり、暗所における視力補助手段に具備させる屈折度数を適切に測定できない可能性がある。
そこで、本発明は、簡単に実行可能であり、調節状態の変化を織り込んだ暗所における屈折度数を測定可能である暗所屈折度数測定方法を提供することを目的としたものである。
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、分光透過率分布が波長400nm以上650nm以下において常に10%以下であり、波長530nmの光に対する透過率と560nmの光に対する透過率の差が2ポイント以内である暗所屈折度数測定用光学製品を用いて、眼前照度が300LUX以上である明所において、自覚的な度数の測定が行われることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、眼前照度が300LUX以上である明所において、眼前照度を5LUX以下として、自覚的な度数の測定が行われることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、上記発明において、前記自覚的な度数の測定は、レッドグリーンテストによる測定であることを特徴とするものである。
本発明によれば、簡単に実行可能であり、調節状態の変化を織り込んだ暗所における屈折度数を測定可能である暗所屈折度数測定方法を提供することが可能となる、という効果を奏する。
本発明に係る実施例で使用した光学製品(サングラス)の分光透過率分布を示すグラフである。 163眼について、眼波面収差測定装置で測定した、瞳孔が直径3mmである場合と5mmである場合の各種度数の差が、何れの度数差範囲内毎に収まるかの分布を示すグラフである。 サングラスを使用したレッドグリーンテストで得たS度数差の分布を、眼波面収差測定装置により把握した等価球面度数差の分布と共に示したグラフである。
以下、本発明に係る実施の形態の例につき、適宜図面を用いて説明する。尚、本発明の形態は、以下のものに限定されない。
本発明の暗所屈折度数測定方法では、自覚的な測定方法であるレンズ交換法やレッドグリーンテストを、適切な瞳孔拡大状態を確保したうえで行う。
レンズ交換法は、互いに屈折度数の異なる複数のレンズを用意し、検査対象の眼において何れかのレンズを通した視力検査表等の基準物の視認を行い、適宜レンズを交換して当該視認を繰り返し、最も視認性が良好である場合のレンズの屈折度数を、検査対象の眼における屈折度数として決定するものである。
レッドグリーンテストは、赤緑視力表を用いた屈折度数測定方法である。赤緑視力表は、赤地に黒の記号(文字や図形等)の赤部分と、緑地に黒の記号の緑部分を有する表である。赤部分と緑部分は、好適には、同じ広さで、互いに横に並んでおり(例えば左半分が赤部分で右半分が緑部分)、記号が対称的に配置されている。
レッドグリーンテストでは、レンズ交換法と同様に適宜複数のレンズを通して赤緑視力表を視認し、記号を含め赤部分と緑部分の何れか一方が視認し易い状態ではなく、双方とも同じ見易さとなった際のレンズの屈折度数を、検査対象の眼における屈折度数として決定するものである。
レッドグリーンテストは、単独でも行えるが、好ましくは、レンズ交換法の後で行われ、レンズ交換法で測定した屈折度数を更に微調整するために行われる。
本発明では、暗所に対応する眼の状態(瞳孔拡大状態や調節安静位状態等)を得るため、眼前照度を5ルクス(LUX)以下とし、更に好ましくは3LUX以下とする。このようにすると、殆どの場合において瞳孔が暗所に対応する状態で(直径5ミリメートル(mm)程度)開くし、暗所における調節状態を出現させることができる。
そして、かような眼前照度を確保したうえで、自覚的測定(レンズ交換法及び/又はレッドグリーンテスト等)を行う。
このような測定方法によれば、瞳孔が拡大し、水晶体が調節安静位となった状態における屈折度数を測定することができ、暗所に適切に対応した屈折度数を測定することができる。
本発明の暗所屈折度数測定方法は、単独で行っても良く、明所(昼間)における(通常の)自覚的測定と併せて行っても良い。
後者の場合、眼前照度を300LUX以上とすることが、明所(における瞳孔や水晶体の状態)の適切な再現の観点から好ましい。
又、暗所に対応する眼の状態を適切に又簡易に得るため、サングラス様の光学製品(暗所屈折度数測定用サングラス)を用いる。尚、光学製品を、ゴーグルや、シートや、グリップ付のレンズ等としても良い。
当該光学製品を用いれば、通常の環境下において装用するだけで簡単に暗所に対応する眼の状態を確保でき、通常の測定と併せて行い易い。特に、視力測定が頻繁に行われる眼鏡店や眼科では、小部屋や部屋の一部分において視力検査が行われることが多く、眼鏡店や眼科の照明を暗所屈折度数測定のために遮ると、店内や診察室も暗くなってしまう等他に影響が及んでしまうところ、当該光学製品を用いれば、他に影響を及ぼすことなく簡便に暗所における屈折度数測定を行える。
当該光学製品の分光透過率分布は、通常の環境下において適切に暗所に対応する眼の状態を再現する観点から、400ナノメートル(nm)以上650nm以下において10%以下とする。
又、暗所屈折度数測定において、赤の視認性と緑の視認性とを同等として測定結果を良好なものとし、あるいはレッドグリーンテストを適切に行う観点から、当該光学製品の波長530nmの光に対する透過率と560nmの光に対する透過率は同等(差が5ポイント以内、より好ましくは2ポイント以内)とする。
あるいは、当該光学製品は、基準物の照度(測定を行う室内の照度)を1%以上10%以下に低下させ、又は4%以上6%以下に低下させる。
本発明に係る暗所屈折度数測定用の光学製品は、上記の透過率等を呈するように形成され、例えばレンズ基部に対し顔料や染料を適宜付加したり、レンズ基部の表面に光学多層膜等の膜を適宜付与したり、これらを組み合わせたりして形成される。
次いで、上記実施形態に係る本発明の実施例を説明する。尚、上記実施形態に係る実施例は、以下のものに限定されない。
図1は、当該実施例において使用した光学製品(サングラス)の(レンズにおける)分光透過率分布を示すグラフである。
図1に示されるように、このサングラス(暗所屈折度数測定用光学製品、暗所視屈折検査用レンズ)では、分光透過率分布が、400nm以上650nm以下において10%以下である。
又、530nmの光(緑)に対する透過率は8.3%であり、560nmの光(赤)に対する透過率は6.4%であって、互いに同等(差(の絶対値)が8.3−6.4=1.9で2ポイント以内)となっている。
このサングラスを、次に説明する被験者に適宜装用してもらい、レッドグリーンテストを行った。
被験者は、年齢が30歳代ないし60歳代である男女の混合した80名程度の中から50名程度抽出した。
当該選択の前に、上記の80名程度(163眼)に係る暗所(夜間)と明所(昼間)の屈折度数変化の傾向を把握するため、瞳孔が直径3mmである場合と5mmである場合の双方の各種度数(D)を眼波面収差測定装置(OPD)で全員分測定したうえで、前者の場合の各種度数から後者の場合の各種度数を引いた差が何れの度数差範囲内毎に収まるかをカウントした。図2は、横軸に度数差範囲を並べ、縦軸に眼数を配したグラフである。ここで、「S」は、S度数同士の差即ち近視に関する球面度数の差であり、「C」はC度数同士の差即ち乱視に関する球面度数の差であり、「S+C/2」は等価球面度数同士の差である。又、ここでは近視矯正に関する度数を考慮しているので、度数(D)の符号はマイナスとなり、度数差はマイナスであると明所の度数の絶対値より暗所の度数の絶対値が大きい(暗所で近視が進んでいる)こととなって、度数差の絶対値が大きいほど明所の度数と暗所の度数の差が付いていることとなる。
図2によれば、等価球面度数の差が「−0.75〜−0.5」(−0.75より上で−0.5以下)となる眼数と、「−1〜−0.75」となる眼数と、「≦−1」(−1以下)となる眼数を合わせると33眼となり、約2割の眼において、暗所における近視化が現れている(余裕をみて−0.5よりプラス側は近視進行なしと扱う)。即ち、水晶体等による調節状態の変化を加味せず、瞳孔の拡大のみによっても、約2割の眼において暗所で近視度数が強くなる。
そして、上記の80名程度の内、被験者50名程度をランダムに選択した。
被験者には、まず上記のサングラスを装用しない状態で、眼鏡店に設置される一般的な赤緑視力表を、推奨される距離において、眼鏡店に普及している視力検査用レンズセットのレンズを通して見てもらった。即ち、被験者に対し、明所に対応するレッドグリーンテストを実施した。このテストにより、明所での等価球面度数を測定した。当該テストを行った室内(赤緑視力表)の照度は、300LUXであった。次に、上記のサングラスを装用したうえで、そのまま視力検査用レンズセットのレンズを通して赤緑視力表を見てもらうことで、暗所に対応するレッドグリーンテストを被験者に対し実施して、暗所での等価球面度数を得た。そして、これらの等価球面度数の差を求めた。
当該テストの結果(S度数差)を、眼波面収差測定装置により把握しておいた被験者の等価球面度数差と並べて示したグラフを、図3に示す。図3において、横軸は度数差範囲であり、縦軸は人数である。度数差は、レッドグリーンテストでの測定値についてはS度数に係るものの両眼の平均(レッドグリーン/サングラス装用・非装用下屈折変化(S))とし、眼波面収差測定装置での測定値では等価球面度数に係るものの両眼の平均(OPD(RL−ave)/3mm−5mm瞳孔屈折変化(S+C/2))としている。
図3によれば、サングラスを用いたレッドグリーンテストの方が、眼波面収差測定装置での測定より暗所で近視化する割合が高いことが分かる。レッドグリーンテストの方がより暗所で近視化した測定値が得られていることは、眼波面収差測定装置では加味されない要素である調節状態の近視化がレッドグリーンテストにおいて加味されていることに符合する。
更に、上記の50名程度の被験者に対して、暗所での近視化に関する次のアンケートを実施した。即ち、「夜間の運転時にかける眼鏡は、度数を強くした方が良いと思いますか」との質問に対し、「1:常に思う」,「2:たまに思う」,「3:思わない」の選択肢から選ぶ形で回答してもらった。すると、42名の被験者から有効な回答が得られた。
次の表1に、眼波面収差測定装置で測定した等価球面度数差(より暗所での近視化が進んだ方の眼における度数差)又はサングラスを用いたレッドグリーンテストで測定したS度数差(両眼の平均)が−0.5Dより下である(度数差がマイナスでその絶対値が0.5より大きく暗所で近視が進んだ)被験者、及び1の選択肢を選んだ(回答を1とした)被験者についての、各度数差や回答を示す。
Figure 0006168514
表1によれば、被験者の暗所近視化の自覚と、サングラスを用いたレッドグリーンテストの結果が、高い割合で合致していることが分かる。即ち、11名中8名において度数差の絶対値が0.5D以上である暗所近視化を測定できている。
そして、更に被験者の自覚と各種測定との相関関係を整理するため、上記のアンケートの回答が得られた42名の被験者を、上記アンケートの回答により2つの群に分けた。即ち、1又は2の選択肢を選択した群(近視化自覚群)と、3の選択肢を選択した群(近視化無自覚群)に分けた。
又、各群に属する被験者の、眼波面収差測定装置で測定した等価球面度数差の平均と、サングラスを用いたレッドグリーンテストで測定したS度数差の平均を調べた。更に、眼波面収差測定装置で測定した等価球面度数差に係る各群の値に関し、統計学上のt検定を行って、近視化自覚群と近視化無自覚群とで有意な差があるといえるかどうかを調べた。同様に、サングラスを用いたレッドグリーンテストで測定したS度数差に係る各群の値に関し、統計学上のt検定を行って、近視化自覚群と近視化無自覚群とで有意な差があるといえるかどうか(有意水準P)を調べた。
次の表2に、これらの調査結果を示す。
Figure 0006168514
表2によれば、眼波面収差測定装置で測定した等価球面度数差においては、t検定の有意水準(危険度)Pが0.744(74.4%)となり、近視化自覚群と近視化無自覚群とで有意な差があるとはいえない。
一方、サングラスを用いたレッドグリーンテストで測定したS度数差においては、t検定の有意水準Pが0.052(5.2%)となり、目安とされる0.05に極めて近くなっている。
従って、上記のサングラスを用いたレッドグリーンテストでは、サングラスを適宜装用するという簡便なテストでありながら、暗所近視化の自覚状態に良く合致した適切な結果を得ることができている。このテストは、明所におけるレッドグリーンテストに付加するだけで手軽に行え、通常の度数測定後にサングラスの装用をするだけで、暗所における適切な度数測定も併せて行える。
そして、暗所近視化が測定された場合には、測定された度数差分だけ度数を強めた視力矯正具(暗所用眼鏡、コンタクトレンズ等)を適宜提案し提供することが可能となる。

Claims (3)

  1. 分光透過率分布が波長400nm以上650nm以下において常に10%以下であり、
    波長530nmの光に対する透過率と560nmの光に対する透過率の差が2ポイント以内である暗所屈折度数測定用光学製品を用いて、
    眼前照度が300LUX以上である明所において、自覚的な度数の測定が行われる
    ことを特徴とする暗所屈折度数測定方法。
  2. 眼前照度が300LUX以上である明所において、眼前照度を5LUX以下として、自覚的な度数の測定が行われる
    ことを特徴とする暗所屈折度数測定方法。
  3. 前記自覚的な度数の測定は、レッドグリーンテストによる測定である
    ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の暗所屈折度数測定方法。
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