JP6083651B2 - 植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法およびテスト片およびテストキット - Google Patents
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また、そのためには病害の原因である植物病原菌に対して制菌効果を有する薬剤を選定して散布する必要がある。
その一方で、圃場における植物病原菌は、薬剤の経年使用に伴い、薬剤に対する耐性を獲得している場合がある。
この場合、制菌効果が期待できない薬剤を圃場内に散布することは、病害の拡大を好適に防止できないばかりか、植物病原菌が使用薬剤に対するさらなる耐性を獲得する要因にもなりかねず、不必要な薬剤の散布は極力避ける必要があった。
また、その一方で、圃場内で植物病原菌による病害が発生した際に、適切な薬剤を選定する場合は、まず、圃場からその植物病原菌を採取して使用予定薬剤を含有する培地上で培養しての使用予定薬剤の植物病原菌に対する制菌効果の有無を確認する必要があり、その作業には時間(少なくとも2週間程度)も手間もコストもかかるという実情があった。
さらに、このような試験は十分な試験設備(例えば、顕微鏡、クリーンベンチ、オートクレーブ及びインキュベーター等)の整った施設で行う必要があり、圃場を営む農家や事業者が自身で手軽にできるような作業ではなかった。
しかも、上述のような試験設備が整っている環境であっても使用予定薬剤の制菌効果の有無を確認できるのは人工的な培地上で培養可能な植物病原菌のみであり、植物病原菌が絶対寄生菌である場合は、そもそも植物病原菌の培養自体ができないという課題があった。
本発明と同じ技術分野に属する発明ではないものの、本発明と関連すると思われる先行技術文献としては下記に示すようなものが知られている。
特許文献1に開示される発明である防カビ試験紙は、台紙と、この台紙の表面に設けられた試験材料層と、この台紙の裏面に設けられた接着剤からなることを特徴とするものである。
上述のような特許文献1に開示される発明によれば、防カビ試験紙を、カビの発生する現場に密着させることができるので、その場所で防カビ塗料を塗装したのと同然の環境において防カビ試験を行うことができる。従って、この試験の結果は的確であり、かつ、その試験方法も簡単であるというメリットを有している。
しかしながら、この場合でも試験対象となる植物病原菌は条件腐生菌又は条件寄生菌であり、絶対寄生菌は試験対象にならない。
上記構成の請求項1記載の発明において、植物病原菌により罹病した果実サンプルは、植物病原菌を培養するための培地として作用する。また、テスト片を植物病原菌により罹病した果実サンプルに突き刺すことで、果実サンプルの水分及び有機質成分がこのテスト片に吸い上げられて、テスト片自体が植物病原菌を培養するための使用予定薬剤を含有する培地と同等の役割を果たすものになる。また、テスト片を果実サンプルに突き刺した状態のものを静置培養することで、果実サンプルの水分及び有機質成分を吸い上げたテスト片上への植物病原菌の繁殖を促進するという作用を有する。そして、静置培養後に、テスト片上における植物病原菌の有無又はその到達レベルを確認することで、そのテスト片に含浸される使用予定薬剤の制菌効果の有無又はその強弱を判定可能にするという作用を有する。
請求項1記載の発明において、果実サンプルを構成する水分及び有機質成分を吸い上げたテスト片が使用予定薬剤を含有する培地として機能すると考えると、静置培養によりテスト片上に植物病原菌が繁殖したという事実は、テスト片に含有される使用予定薬剤がその植物病原菌に対する制菌効果を有していないことを意味している。逆に、テスト片に植物病原菌が繁殖していない状態は、テスト片に含有される使用予定薬剤がその植物病原菌に対する制菌効果を有していることを意味している。
上記構成の請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同じ作用に加えて、果実サンプルに突き刺すテスト片を2本以上とし、かつ、それぞれのテスト片に含浸される使用予定薬剤の種類を変えておくことで、それぞれの使用予定薬剤のその植物病原菌に対する制菌効果の有無を一度の試験により確認することを可能にするという作用を有する。
なお、テスト片に含浸される使用予定薬剤の制菌効果の強弱は、テスト片と果実サンプルの接触部分からどの程度の高さにまで植物病原菌が到達しているかを目視により確認することにより容易に判断できる。
上記構成の請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明と同じ作用に加えて、果実サンプルに、テスト片とは別に使用予定薬剤が含浸されていない硬質スティック体(テスト片に用いるものと同じ材質、形状及び寸法を有するもの)を併せて突き刺しておくことで、使用予定薬剤を使用した場合と、使用予定薬剤を使用しない場合との制菌効果の違いを比較可能にするという作用を有する。また、使用予定薬剤を使用した場合の制菌効果を高精度に定量的に把握可能にするという作用も有する。
上記構成の請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載される発明の作用と同じ作用に加えて、静置培養時にテスト片が突き刺された果実サンプルを密閉容器内に収容、又は、密閉用シート材を被覆して、果実サンプルの乾燥を防止することで、果実サンプル及びそれに突き刺されるテスト片を植物病原菌の繁殖に適した高湿状態を維持するという作用を有する。
これにより、静置培養時に植物病原菌の繁殖を促進して、使用予定薬剤の制菌効果の有無及び/又はその強弱の判定に要する時間を短縮させるという作用を有する。
上記構成の請求項5記載の発明において、硬質スティック体は果実サンプルに突き刺された際に、果実サンプル中の水分及び有機質成分を吸収することで、硬質スティック体自体が果実サンプルに病害を引き起こしている植物病原菌を培養するための培地として作用する。また、硬質スティック体は使用予定薬剤をその内部に保持するという作用を有する。このことは、使用予定薬剤を含浸してなる硬質スティック体が果実サンプル中の水分及び有機質成分を吸収した場合に、硬質スティック体が使用予定薬剤を含有する培地としての役割を果たすことを意味している。さらに、硬質スティック体中に含浸されて保持される使用予定薬剤は、果実サンプルから硬質スティック体上に繁殖しようとする植物病原菌の繁殖を抑制するという作用を有する。ただし、果実サンプルに病害を引き起こしている植物病原菌がこの使用予定薬剤に対して耐性を有している場合は、硬質スティック体上における植物病原菌の繁殖を阻止することはできない。
さらに、請求項5記載の発明は、テスト片を構成する硬質スティック体の表面に目印を備えていることで、硬質スティック体中に含浸される使用予定薬剤を目視により識別することを可能にするという作用を有する。
この場合、テスト片を構成する硬質スティック体の表面に目盛り線又は目安線を備えていることで、硬質スティック体を果実サンプルに所望量だけ突き刺すことを可能にするという作用を有する。
これにより、異なる種類の使用予定薬剤が含浸された硬質スティック体を複数本果実サンプルに突き刺す場合に、果実サンプルから個々の硬質スティック体に吸収される水分及び有機質成分の量を均一化するという作用を有する。
上記構成の請求項6に記載の発明は、請求項5に記載される発明と同じ作用に加えて、テスト片を構成する硬質スティック体の胴部に目盛り線を備えていることで、硬質スティック体上のどのレベル(位置)まで植物病原菌が繁殖して到達しているのかを、目視した際に定量的に把握することを可能にするという作用を有する。
この場合、硬質スティック体を構成する材料を木材に特定することで、硬質スティック体の入手を容易かつ安価にするという作用を有する。たとえば、硬質スティック体として市販の爪楊枝を使用することができる。
この場合、従来のように試験設備が整った施設に植物病原菌を送って時間と手間とコストをかけて試験を行う必要がなくなる。
この結果、圃場内において植物病原菌による病害が発生した場合に、適切な薬剤を迅速かつ確実に、しかも、安価に選定することができる。
また、この方法の実施には特別な技術を何ら必要としないので、圃場を営む農家や事業者が自身で手軽に実施することができ、その場合でも精度の高い結果を得ることができる。
また、請求項1記載の発明によれば、果実サンプル自体を、植物病原菌を培養するための培地として用いているので、従来公知の人工的な培地では培養することのできない絶対寄生菌も、少なくとも判定に必要な期間の間培養しておくことができる。
この結果、植物病原菌が絶対寄生菌である場合も、請求項1記載の発明を利用して、使用予定薬剤が制菌効果を有するか否かを確実に判定することができるという独自の効果を有する。
さらに、植物病原菌を培養するための培地として果実サンプル自体を用いることで、その植物体が生体内に保有する生理的な防御応答反応までもその培地内に再現することができる。この結果、人工的な培地を用いて植物病原菌を培養する場合に比べて試験結果の精度をより高くできる。
この場合、十分な制菌効果を有する薬剤がどれであるかが分からないまま、圃場内に不必要な薬剤を複数種類散布してしまうような事態が起こるのを確実に防止できる。
すなわち、圃場内において不必要な薬剤の散布が行われることにより、圃場内に生息する植物病原菌が不必要に薬剤に対する耐性を獲得してしまうリスクを低減することができる。
また、使用予定薬剤が含浸されていない硬質スティック体上における植物病原菌の繁殖状態と、使用予定薬剤が含浸されているテスト片上における植物病原菌の繁殖状態とを比較することで、使用予定薬剤の制菌効果をより定量的にかつ正確に把握できるという効果も有する。
つまり、請求項5記載の発明であるテスト片は、例えば、所望の容器体内において寒天培地を用いて植物病原菌を培養する際の、寒天と容器体と試験用の薬剤とを一まとめにしたものと同等の役割を果たすものであると言える。
そして、このようなテスト片が罹病した植物サンプルに突き刺されることで、硬質スティック体の吸水性により果実サンプル中の水分と有機質成分とが硬質スティック体中に吸い上げられることで、このテスト片は最終的に使用予定薬剤を含有してなる植物病原菌を培養するための培地と同等のものになる。
この結果、テスト片を罹病した果実サンプルに突き刺すだけでその植物病原菌に対する使用予定薬剤の制菌効果の有無を確認することが可能になる。
また、果実サンプルに突き刺されたテスト片は、果実サンプルと一体となり、結果として、果実サンプルの一部になるので、その果実サンプルが完全に腐敗しきらない間は、テスト片上に絶対寄生菌が繁殖することも可能である。これにより、請求項5記載のテスト片を用いることで絶対寄生菌に対しても、使用予定薬剤の制菌効果の有無を確認することが可能になるという独自の効果が発揮される。
さらに、請求項5に記載の発明によれば、テスト片がその硬質スティック体に含浸される使用予定薬剤を識別するための目印を備えていることで、罹病した果実サンプルに、異なる種類の使用予定薬剤をそれぞれ含浸させた複数本のテスト片を突き刺して試験を行う際に、どのテスト片にどの使用予定薬剤が含浸されているのかを目視により識別することができる。
この結果、請求項5記載の発明を用いて試験をする場合の作業効率を向上できる。さらに、テスト片に含浸されている薬剤の誤認も防止できる。
この場合、果実サンプルからそれぞれのテスト片に吸収される水分及び有機質成分の量を均一化することができるので、それぞれのテスト片上における植物病原菌の繁殖条件を一定にできる。
従って、試験結果の信頼性を一層向上できる。
この場合、異なる種類の使用予定薬剤を含浸させた複数本のテスト片を果実サンプルに突き刺して試験を行う場合に、それぞれの使用予定薬剤の植物病原菌に対する制菌効果の違いを高精度に比較することができる。ただし、使用予定薬剤毎の制菌効果の強弱は絶対的なものであるとは言い切れない。
この結果、より精度と信憑性の高い試験結果を得ることができるというメリットを有する。
この結果、より廉価なテスト片を供給することが可能になる。
図1は本発明の実施の形態に係るテスト片の概念図である。
図1に示すように、本実施の形態に係るテスト片1は、例えば、木材を細軸状に成形してなり吸水性を有する硬質スティック体2と、この硬質スティック体2に含浸される使用予定薬剤(農薬)と、からなるものである。
なお、本実施の形態においては、硬質スティック体2に使用予定薬剤が含浸されている状態を、硬質スティック体2に斜線を付した状態で示している。
また、このテスト片1は、植物病原菌に罹病した果実サンプルに突き刺した状態で使用するものであるため、果実サンプルに突き刺しやすいよう、硬質スティック体2の端部のいずれか一方を、針先状に尖らせておいてもよい。
また、本実施の形態に係るテスト片1は、上述のような構成に加えて必要に応じて以下に示すような構成を備えていてもよい。
また、本実施の形態に係るテスト片1を構成する硬質スティック体2の胴部に、目安線4又は目盛り線(図示せず)を設けておくことで、果実サンプルにテスト片1を複数本突き刺す場合に、個々のテスト片1の果実サンプルへの突き刺し量を均一にできる。この場合のメリットについては後段において詳細に説明する。
さらに、本実施の形態に係るテスト片1を構成する硬質スティック体2の胴部に、先の目安線4又は目盛り線とは別に、目盛り線5を設けておくことで、このテスト片1の胴部の途中まで植物病原菌が繁殖した場合に、硬質スティック体2上に植物病原菌が繁殖して被覆された領域を定量的に把握することができる。この場合のメリットについても後段において詳細に説明する。
図2(a)〜(d)はいずれも本発明の実施の形態に係るテスト片のそれぞれの製造工程を示す概念図である。なお、図1に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
本実施の形態に係るテスト片1を作製するには、はじめに、図2(a)に示すような吸水性を有する細軸状の硬質スティック体2を必要本数だけ準備する。この硬質スティック体2の材質としては、木材が好ましいが、必ずしも木材である必要はなく、吸水性を有し、かつ、吸水時に果実サンプルに突き刺さった状態を保持できる程度の剛性を有するものであれば、どのような物でも使用できる。例えば、草本植物の茎を乾燥させたものや、竹を使用することができる。あるいは、植物由来の繊維を人工的に固めるなどして硬質スティック体2としたものも支障なく使用できる。また、硬質スティック体2を木材により構成する場合は、例えば、従来公知の爪楊枝を用いることで、均質なものを安価に入手できる。また、爪楊枝の先端は、尖っているので、果実サンプルに突き刺すのに適している。
次に、図2(b)に示すように、必要に応じて上述の硬質スティック体2に、図1に示すような、目印3,目安線4及び目盛り線5を設ける。なお、硬質スティック体2の吸水時に、目印3,目安線4及び目盛り線5を形成する塗料が滲んだり流亡することがないよう、目印3,目安線4及び目盛り線5を設ける場合は水溶性でない塗料を用いることが望ましい。あるいは、これらを焼き付けて形成してもよい。また、硬質スティック体2に目印3,目安線4及び目盛り線5の全てを設ける必要はなく、目的に応じて必要なものだけを設ければよい。
なお、薬液7内における硬質スティック体2の浸漬時間の目安は概ね数十秒〜5分程度である。また、薬液7の濃度は、実際の散布濃度と同程度にすればよい。
そして、硬質スティック体2に薬液7が十分に含浸されたら、硬質スティック体2を薬液7が入った収容器6から引き上げて、図2(d)に示すように、支持台8に硬質スティック体2を突き刺した状態にして風乾すればよい。乾燥時間の目安は、概ね5分程度である。また、支持台8に突き刺して硬質スティック体2を支持する代わりに、通気性を有するカゴ等に硬質スティック体2を収容して風乾してもよい。
なお、別の使用予定薬剤を含浸したテスト片1を作製する場合は、別に硬質スティック体2を準備して、別の使用予定薬剤を用いて図2(a)〜(d)に示す工程を行えばよい。
また、図2(b),(c)に示される工程は、入れ替えてもよい。
図3は本発明の実施の形態に係る植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法のフローチャートである。また、図4乃至図6はともに、本発明の実施の形態に係る植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法における各工程の概念図である。なお、図1又は図2に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
本実施の形態に係る植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法9は、図3に示すように大まかに3つの工程から構成されている。
本実施の形態に係る植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法9における最初の工程は、図3に示すように、試験の準備をする準備工程(ステップS01)である。
この準備工程(ステップS01)は、図4に示すように、圃場において採集された植物病原菌12aに罹病した果実サンプル11の罹病部12(植物病原菌12aの繁殖部分)の周囲に、薬液7を含浸しない無処理片1a及びそれぞれ異なる種類の使用予定薬剤(農薬)が含浸されたテスト片1b〜1eを、所望間隔を空けながらに突き刺した状態にする工程である。なお、無処理片1aは必ずしも設けなくともよい。
果実サンプル11の病害部分が拡大するということは、果実サンプル11の腐敗が進行することを意味している。この場合、果実サンプル11の腐敗に伴い果汁等の汚水が滲み出たり、果実サンプル11が溶ける可能性があるので、本実施の形態に係る植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法9においては、試験に用いる果実サンプル11を容器体10内に収容した状態で試験を行っているが、容器体10は必ずしも必要ではない。
このように硬質スティック体2に果実サンプル11の水分及び有機質成分が含浸されて保持された状態は、硬質スティック体2が植物病原菌12aを培養するための培地として機能する状態になっていることを意味している。
また、植物病原菌に罹病した果実サンプル11は、それ自体が植物病原菌を培養するための培地として機能するものである。さらに、果実サンプル11は罹病しているとはいえ、生きた植物体組織であるため、この果実サンプル11は、人工的な培地を用いて培養することができない絶対寄生菌(植物病原菌12a)を培養できる生きた培地である。
そして、このような絶対寄生菌を培養できる培地である果実サンプル11と一体となった無処理片1aやテスト片1b〜1eもまた、絶対寄生菌を培養できる培地として機能する。
従って、テスト片1b〜1eに含浸される使用予定薬剤(農薬)が、果実サンプル11に病害を引き起こしている植物病原菌12aに対して制菌効果を有する場合は、果実サンプル11に突き刺されたテスト片1b〜1e上に植物病原菌は繁殖できないが、テスト片1b〜1eに含浸される使用予定薬剤(農薬)が、植物病原菌12aに対して制菌効果を有さない場合は、植物病原菌12aが繁殖する無処理片1aと同様に、テスト片1b〜1e上に植物病原菌が繁殖できる。
なお、図3乃至図6では、目印3が単なる斜線で示されているが、実際には異なる色の水溶性でない塗料が塗布されていたり、あるいは、目印3としてその太さや形状が異なるラインをそれぞれ変えて付しておくことで、どのテスト片1(例えば、テスト片1b〜1e)にどの使用予定薬剤が含浸されているかを目視で容易に視認できるようになっている。
この培養工程(ステップS02)では、先の図4で示す状態のまま15〜25℃の温度条件下において、1〜4日間静置しておけばよい。
また、一般に植物病原菌12aは、乾燥状態よりも湿潤状態にある方がその繁殖が促進される。従って、果実サンプル11、無処理片1a及びテスト片1b〜1eの乾燥を防止してやることで、よりスピーディに試験結果を得ることができる。
具体的には、無処理片1a及びテスト片1b〜1eが突き刺さった果実サンプル11を、外気との接触を遮断する密閉容器内に収容しておいてもよいし、あるいは、果実サンプル11が、例えば、図4に示すように容器体10内に収容されている場合は、例えば、図5に示すように、この容器体10の開口部に密閉用のシート材を被覆して簡単に固定しておくだけでも十分な効果が期待できる。本実施の形態においては、厳密な気密状態を実現する必要性はなく、果実サンプル11、無処理片1a及びテスト片1(例えば、テスト片1b〜1e)から水分が蒸発するのを妨げるような手段が講じられていれさえすればよい。
先の、ステップS2を完了した果実サンプル11及び無処理片1a及びテスト片1b〜1eは、例えば、図6に示すような状態になる。
先にも述べたように、果実サンプル11に突き刺された個々のテスト片1b〜1eは、それぞれが異なる使用予定薬剤を含有する植物病原菌12aを培養するための培地として機能する。このため、テスト片1b〜1e上に罹病部12が拡大していないものは、すなわち、テスト片1b〜1e上に植物病原菌12aが繁殖していない場合は、そのテスト片1(図6ではテスト片1b)に含浸される使用予定薬剤によりその繁殖が妨げられたと判断することができる。つまり、テスト片1bに含浸されている使用予定薬剤は植物病原菌12aに対する制菌効果を有していると判断できる。
逆に、図6に示すテスト片1eのように、無処理片1aと同様に硬質スティック体2の上部まで植物病原菌12aに覆われている場合は、テスト片1eに含浸される使用予定薬剤が、植物病原菌12aに対して制菌効果を有していないことを示している。
さらに、図6に示すテスト片1c,1dは、ともに硬質スティック体2の途中まで植物病原菌12aが繁殖しているので、テスト片1c,1dに含浸される使用予定薬剤は、テスト片1bに含浸される使用予定薬剤ほどの制菌効果は有さないものの、テスト片1c,1dに含浸される使用予定薬剤もある程度の制菌効果を有していると判断できる。
そして、図6に示すテスト片1c,1dが、硬質スティック体2のどの程度の高さまで繁殖しているかを比較することで、テスト片1c,1dに含浸される使用予定薬剤の制菌効果の優劣を比較することができる。ただし、その結果は絶対的なものではなく、あくまでも目安である。この場合、硬質スティック体2の胴部に目盛り線5を設けておくことで、それぞれのテスト片1(例えば、テスト片1b〜1e)に含浸される使用予定薬剤により制菌効果を定量的に把握することができる。
なお、本実施の形態に係る植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法9では、使用予定薬剤が含浸されていない硬質スティック体2(例えば、無処理片1a)を併せて用いることで、植物病原菌12aの繁殖能力を確認することが可能である。また、使用予定薬剤が含浸されていない無処理片1a上に繁殖する植物病原菌12aの到達位置と、使用予定薬剤を含浸しているテスト片1b〜1eに繁殖する植物病原菌12a到達位置を比較することで、使用予定薬剤の制菌効果をより定量的に把握することができる。
なお、図6に示す場合は、圃場に散布する使用予定薬剤として最も好ましいものは、テスト片1bに含浸される使用予定薬剤であり、次いで、テスト片1c,1dのいずれかに含浸される使用予定薬剤であると判断することができる。
そして、前者の場合は、テスト片1b〜1eに含浸される使用予定薬剤のどれを用いても植物病原菌12aにより病害抑制効果の発揮が期待できるので、目的に応じて、例えば、安価な薬剤を使用する等、適宜選択すればよい。
逆に、後者の場合は、テスト片1b〜1eに含浸される使用予定薬剤のどれを用いても植物病原菌12aによる病害抑制効果は期待できないことになる。この場合は、別の使用予定薬剤を含浸させたテスト片1を用いて再度テストを行う必要があるものの、少なくともテスト片1b〜1eに含浸される使用予定薬剤の使用を回避することができる。この場合は、それだけでも十分に有益である。つまり、この場合は、圃場に不必要な薬剤(使用予定薬剤)が散布されないので、圃場内に生息する植物病原菌が不必要に薬剤に対する耐性を獲得するリスクを低減することができるという効果が発揮される。
なお、本実施の形態においては果実サンプル11に複数本のテスト片1を突き刺してステップS01〜S03からなる試験を行う場合を例に挙げて説明しているが、果実サンプル11に突き刺すテスト片1の本数は1本のみでもよい。あるいは、テスト片1と無処理片1aを一本ずつ突き刺してもよい。
この場合、植物病原菌12aを培養するための特別な設備を何ら有さなくとも、迅速かつ確実にしかも安価に目的とする使用予定薬剤を選定することができる。
また、植物病原菌12aに制菌効果を有する使用予定薬剤を迅速に選定できることで、圃場内における植物病原菌12aによる病害の発生をいち早く食い止めることができる。また、植物病原菌12aに対して制菌効果を有する使用予定薬剤を確実に選び出すことができるので、圃場内に制菌効果を有さない不必要な薬剤を散布するのを防止できる。
前者の場合は、目的とする植物病原菌12aに対する制菌効果の有無が分からない状態で作業者はテストを行うためだけに使用予定薬剤を購入する必要があるが、後者の場合はテスト片1を用いた植物病原菌の薬剤耐性菌テストの後に、制菌効果を有する使用予定薬剤のみを購入すればよいことになる。
よって、後者の場合は、使用予定薬剤を使用する際の使用側の経済的負担を大幅に軽減できるというメリットがある。
さらに、本実施の形態に係る植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法9及びテスト片1によれば、人工的な培地では培養することができない絶対寄生菌に対する使用予定薬剤の制菌効果の有無をも確認することができる。このことは、絶対寄生菌に対する薬剤の制菌効果の有無が実験室レベルよりもはるかに低いレベルの設備で容易に確認できることを意味しており、新たな農薬の開発にも寄与できる。
従って、本発明によれば、従来技術では成しえない画期的な植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法9およびそのためのテスト片1を提供することができる。
この場合、特に薬液7の濃度を実際の散布濃度よりも薄くしたものを用いてテスト片1を作製し、このようなテスト片1を用いて、上述の植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法9を実施する場合は、植物病原菌12aの使用予定薬剤に対する感受性低下の兆候を発見することが可能になる。
Claims (9)
- 植物病原菌により罹病した果実サンプルに、使用予定薬剤を含浸させてなる吸水性を有する細軸状のテスト片を少なくとも1本突き刺した状態にし、この状態で15〜25℃の温度条件下において1〜4日間静置培養した後、前記果実サンプルに突き刺した前記テスト片上における前記植物病原菌の有無又はその到達レベルを確認することで、前記テスト片に含浸されている前記使用予定薬剤の前記植物病原菌に対する制菌効果を判定することを特徴とする植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法。
- 前記果実サンプルに突き刺す前記テスト片は2本以上であり、
それぞれの前記テスト片には、異なる種類の前記使用予定薬剤が含浸されていることを特徴とする請求項1に記載の植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法。 - 前記果実サンプルに、前記テスト片とは別に前記使用予定薬剤が含浸されていない硬質スティック体を併せて突き刺すことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法。
- 前記静置培養時に、前記果実サンプルは、密閉容器内に収容されることにより、又は、密閉用シート材を被覆されることにより、乾燥を防止することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の植物病原菌の薬剤耐性菌テスト方法。
- 植物病原菌が使用予定薬剤に対して耐性を有するか否かを判定するテストに用いられるテスト片であって、
このテスト片は、吸水性を有する細軸状の硬質スティック体と、この硬質スティック体に含浸される前記使用予定薬剤と、前記硬質スティック体の表面に設けられ前記硬質スティック体中に含浸される前記使用予定薬剤を識別するための目印と、を有し、
前記使用予定薬剤は、制菌剤であることを特徴とするテスト片。 - 前記テスト片は、その胴部に目盛り線を備えていることを特徴とする請求項5に記載のテスト片。
- 複数の請求項5又は請求項6に記載のテスト片からなり、
それぞれの前記テスト片には異なる種類の前記使用予定薬剤が含侵されていることを特徴とするテストキット。 - 請求項7に記載されるテストキットと、
前記使用予定薬剤が含浸されていない前記硬質スティック体と、を有することを特徴とするテストキット。 - 前記テストキットにおいて、少なくとも前記硬質スティック体を備えてなる各構成要素は、個別にパッケージされていることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のテストキット。
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