JP6058846B1 - 水素浸入抑制方式の真空硬化方法及びこれを使用したワークの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】炭素源として炭化水素ガスを使用しつつ、水素脆性が発生しない真空浸炭方法を提供する。【解決手段】炭化水素ガスを炉内に導入する初期において、炭素がワークに過不足なく付着する基準ガス量に対応した基準水素濃度を検出し、基準水素濃度に基づいて目標水素濃度を設定する。後に続く継続工程では、処理炉の水素濃度を連続的に検知しつつ、処理炉の水素濃度が目標水素濃度を越えない所定範囲に維持されるように、炭化水素ガスの導入量を制御する。目標水素濃度は、例えば基準水素濃度より低い値である。炭化水素ガスの分解で発生した水素は速やかに排除されるため、ワークへの水素の浸入を防止できる。従って、従来の真空浸炭設備を使用しつつ、水素に起因した空孔の発生を防止して、ワークWの水素脆性を防止できる。真空浸炭窒化及び真空窒化にも適用できる。【選択図】図4

Description

本願発明は、真空浸炭方法や真空窒化方法、或いは真空浸炭窒化方法のような真空硬化方法であって水素浸入抑制方式の方法、並びに、これを使用した鋼製ワーク(処理物)の製造方法に関するものである。ここで、処理対象品であるワークには、全体が鋼材で構成されている場合と、少なくとも一部が鋼材で構成されている場合との両方が含まれる。
鋼製のワークの表面層を硬化処理する手段として、例えば真空浸炭法が広く行われている。真空浸炭法は、真空雰囲気下の処理炉に炭化水素ガスを導入し、炭化水素ガスから分離した炭素をワークの表面層に取り込むものであり、大気圧下で行われるガス浸炭に比べて、炭化水素ガスの使用量を抑制できる利点や、浸炭時間を短縮できる利点、或いは、炭化水素ガスの拡散がないため安全性が高い等の利点がある。
この真空浸炭法において、浸炭量や浸炭深さ等の浸炭効果は、炭化水素ガスの導入量や種類、真空度、炉内温度(ワークの表面温度)などの種々の要因によって左右されるが、特に、炭化水素ガスの導入量(正確には、単位時間及び単位体積当たりの導入量)は重要な要因である。
さて、炭化水素ガスは、処理炉内においてワーク等に接触して炭素と水素に分離するが、浸炭の程度は、ワークの単位表面積当たりに浸入する炭素量に依存していることから、従来は、十分な炭素量が維持されるように、炭化水素ガスを過剰に導入している。つまり、従来は、炭化水素ガスを処理炉内に押し込むことにより、浸炭の確実化を図っていたと云える。
そして、炭化水素ガスが分解すると処理炉内での水素の濃度は上昇するため、炭化水素ガスの分離の度合いを水素濃度から把握することが可能になる。特許文献1はこの点に着目し、処理炉内の雰囲気ガスの熱伝導度から例えば水素濃度を検知し、この水素濃度に基づいて、処理炉内における雰囲気ガスの組成(炭化水素ガスの分離の度合い)を分析し、この分析結果に基づいて炭化水素ガスの導入量を制御することを開示している。
つまり、炭化水素ガスは鋼製部材の表面に接触して炭素と水素とに分解するので、炭化水素ガスの分解の程度は、ワークの表面積や酸化の程度、鋼製炉壁のスーティングの程度、炭化水素ガスの種類や導入量、真空度などの様々な条件に依存しており、そこで、特許文献1では、水素濃度が設定値(通常の浸炭が行われる状態での水素濃度)になるように、炭化水素ガスの導入量をフィードバック制御することにより、炉内条件が変化しても十分な炭素量が確保されるようにしている。
さて、処理炉内は完全な真空ではなくて、微量な空気が残っているが、空気を構成する酸素の分圧は炭化水素ガスから分離した水素の量に応じて変化する。特許文献1には、このことを利用して、処理炉内での酸素濃度を検出して、酸素濃度が一定になるように炭化水素ガスの導入量等を制御することも開示されている。
なお、炭化水素ガスとしては、アセチレンやプロパン、メタンなどが使用されているが、アセチレンは1段階で炭素と水素とに分解するのに対して、プロパンのような分子量が大きい炭化水素ガスは、一部は第1段階で炭素と水素とに直接分解し、残りは分子量が小さい炭化水素ガスに分解してから、第2段階で炭素と水素とに分解する。いずれにしても、炭化水素ガスの全体がワークに接触する訳ではないので、炭素と水素とに分解されずに処理炉外に排出されるガスも相当割合ある。
浸炭は焼入れ(及び焼き戻し)とセットになっているのが通常であり、焼入れによる硬化によってワークに圧縮残留応力が付与されて、その結果、ワークの機械的性質が向上する。そして、炭化水素ガスを使用して浸炭されたワークに関する問題の一つに、水素脆性が挙げられる。水素脆性の原因とメカニズムは殆ど未解明と云えるが、対策は多く提案されている。
水素脆性対策のアプローチの大半は、脆性の原因は水素の存在にあるとして、水素の除去によって脆性を解消しようするものである。その例として特許文献2には、水素を除去したことにより、高い効果(機械的性質の向上)が得られた旨が記載されている。
水素自体を脆性の原因とみるアプローチに対して、本願発明者である上島らは、ワークから水素が除去されていても脆性の問題(特に遅れ破壊)は残っているという事実に直面し、従来の水素脆性対策には本質的な欠陥があるのではないかと考えた。そして、鋭意研究し、水素脆性の主因は水素自体にあるのではなくて、水素の浸入によって鋼材の結晶格子間に形成された空隙(空孔)にあるという結論に達した。その成果として、水素が発生しない状態で真空浸炭を行う方法を、特許文献3において提案した。
他方、水素脆性の原因とメカニズムに関する学術的な研究論文として、非特許文献1がある。この非特許文献1には、水素が金属組織での空孔生成を助長して、水素が除去されても空孔は除去されないために亀裂進展抵抗が小さくなり、破壊過程が促進されるという「水素助長塑性誘因空孔理論」が提起されている。
特許第3531736号公報 特開2002−339045号公報 特開2015−78416号公報
社団法人日本高圧力技術協会発行「圧力技術」第46巻4号190〜199頁、南雲道彦執筆「破壊現象としての水素脆性〜水素脆性機構〜」
上記のとおり、真空浸炭法では、処理炉内での炭素量は浸炭の程度を左右する重要な要素であり、特許文献1の制御も、目標は必要な炭素量の確保にあると云える。つまり、必要とする炭素量を確保するために炭化水素ガスの導入量を制御するものであり、炭素量を維持するための手段として水素濃度や酸素濃度を使用しているのである。
そして、従来は、浸炭量の確保を至上命題としており、浸炭に必要な理論値よりも多い量の炭化水素ガスを処理炉内に押し込んでおり、その結果として鋼中に浸入した水素の除去手段として、特許文献2のように後処理が成されていたと云える。他方、特許文献3は、水素脆性の主因を鋼中に生じた空隙(空孔)に求めるもので、特許文献3の考え方は、非特許文献1によって理論的にサポートされていると云える。
なお、特許文献2を初めとした多くの特許文献では、水素を除去することで高い効果が得られた旨が記載されており、これが特許文献2の認識と整合しないのではないかという指摘が想定される。しかし、特許文献2のような従来の対策に記載されている効果は、特許文献3の認識と整合しない訳ではない。このことは、2つの側面から理解できる。
第1の側面は、比較の対象の問題である。つまり、非特許文献1には、水素によって鋼中に生成された空孔が塑性変形の誘因となることが記載されているが、水素が存在すると原子空孔の生成が一層容易になるとの指摘があり、このことから、水素が存在したままに比べると、水素の除去によって機械的性質が高くなることは容易に理解できる。つまり、水素が存在しないと、存在する場合に比べて、相対的に機械的性質は向上するのである。
第2の側面は、機械的性質の試験の種類の問題である。つまり、鋼が持つ様々な機械的性質の中で、脆性との関係で特に問題になるのが遅れ破壊であるが、例えば、引っ張り試験において高い評価が得られても、そのことは、必ずしも遅れ破壊に対する高い耐性の証明にはならないのである。このような側面から見ても、特許文献2に記載されている効果が特許文献3や非特許文献1の認識と整合しない訳でないことを理解できる。
結局、浸炭時に水素が鋼中に浸入することは極力抑制すべきであり、水素の浸入自体を抑制することにより、水素に起因した脆性(特に遅れ破壊)を解消又は著しく抑制できることは明らかであると思料される。真空窒化法では、窒素含有ガスとして一般にアンモニアガスが使用されているが、アンモニアの分解によって水素が発生するため、真空窒化法でも、真空浸炭法と同様に水素脆性は深刻な問題として表れる。
そして、特許文献3は水素を含まないガスを使用せずに浸炭するので、水素脆性の防止という目的は確実に達成できる。従って、特許文献3は、関連産業に大きな貢献をできると云えるが、非水素含有ガスの浸炭性向上などにまだ研究が必要である。更に、真空浸炭設備(或いは、真空浸炭窒化設備)は現実に広く使用されているが、既存の設備や従来と同じ炭化水素ガスを使用して特許文献3と同様の効果を得ることができれば、産業界が受ける利益は極めて大きいと云える。
本願発明はこのような認識や知見を基礎にして成されたものであり、水素の浸入を抑制するという点は特許文献3と軌を一にしつつ、既存の設備や原料を有効利用するという視点に立って、水素脆性対策が採られたワークを容易に提供せんとするものである。
既述のように、炭化水素ガスは、ワークの表面に接触して炭素と水素とに分解する。従って、浸炭ガスとして炭化水素ガスを使用しても、分解した水素がワークに浸入しないか、浸入量が無視できるほどに少なければ、水素脆性の問題を大幅に改善できる。本願発明者たちはこのような視点に立って思索と研究と実験を重ね、本願発明を完成させるに至った。
本願発明は多くの構成を含んでおり、その代表例を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は、炭素又は窒素と水素とが結合した硬化用ガスを真空雰囲気下の処理炉内に導入して、前記硬化用ガスを加熱された鋼製ワークに接触させることにより、前記硬化用ガスを分解し、分解した炭素又は窒素をワークの表面に浸入させて硬化処理する、という基本構成になっている。
そして、請求項1では、上記基本構成の下、
前記硬化用ガスの導入量又は真空度若しくは他のガス成分変更手段を制御して、前記硬化用ガスの分解によって発生した水素がワークに浸入することを抑制しつつ前記硬化処理を進行させていく方法において、
硬化処理前の前記ワークを前記処理炉に入れて硬化用ガスに継続的に晒したときに前記ワークの表面全体に炭素又は窒素をまんべんなく付着させるために必要にして十分な硬化用ガスの単位時間当たりの導入量を、硬化処理工程の全体を通じて制御に使用する基準ガス量として設定しておき、硬化処理工程の全体に亙って単位時間当たりの硬化用ガスの導入量が前記基準ガス量を越えないように維持しつつ、前記硬化用ガスの導入量又は真空度若しくは他のガス成分変更手段を制御することを特徴とするものである。
請求項2の発明は、請求項1と同じ基本構成において、まず、硬化用ガスを予め設定された量だけ処理炉内に導入する初期工程と、硬化用ガスの導入量を制御しつつ処理を進める継続工程とを有している。
そして、前記初期工程において処理炉内の水素発生量がほぼ安定化した状態での水素濃度を基準水素濃度と設定して、この基準水素濃度を、前記ワークの表面全体に炭素又は窒素をまんべんなく付着させるために必要にして十分な硬化用ガスの量である基準ガス量のときの水素濃度とみなし、前記基準水素濃度に基づいて、ワークの表面への水素の浸入量を許容量以下に保持するための目標水素濃度が設定されている一方、前記継続工程においては、前記処理炉内の水素濃度を連続的に又は間欠的に検出しつつ、水素濃度の検出値が前記目標水素濃度を越えないように、硬化用ガスの導入量又は真空度若しくは他のガス成分変更手段を制御する。
請求項3の発明は、請求項1と同じ基本構成において、
「硬化用ガスを最初に処理炉に導入する初期工程と、硬化用ガスの分解率が略安定してから硬化用ガスの導入量を制御して硬化処理を行う継続工程とを有しており、
前記継続工程に先立って、前記ワークの表面積に基づいて、ワークの表面への水素の浸入量を許容量以下に保持するための目標水素濃度が設定されている一方、 前記継続工程においては、前記処理炉内の水素濃度を連続的に又は間欠的に検出しつつ、水素濃度の検出値が前記目標水素濃度を越えないように、硬化用ガスの導入量又は真空度若しくは他のガス成分変更手段を制御する、」
というものである。
請求項4の発明は、請求項2又は3を好適に具体化したもので、この発明は、
「処理炉内での酸素濃度又は他の微量非水素ガスの分圧の許容範囲を予め設定しておく一方、
前記継続工程時に、処理炉内での酸素濃度又は他の微量非水素ガスの分圧を連続的に又は間欠的に検出しつつ、当該微量非水素ガスが前記許容範囲を外れると、前記硬化用ガスの導入量の補正制御又は他のガス成分変更制御が行われる、」
という構成である。
請求項4を具体的に述べると、真空浸炭を例にとると、例えば、処理炉内での酸素の分圧が予め設定した範囲を越えると炭化水素ガスの導入量を増大させて、処理炉内での酸素の分圧が予め設定した範囲よりも低下すると炭化水素ガスの導入量を増大させる、といった制御を採用できる。
請求項5の発明は、請求項1と同じ基本構成であって、硬化用ガスを予め設定された量だけ処理炉内に導入する初期工程と、硬化用ガスの導入量を制御して処理を行う継続工程とを有している。
そして、まず、前記ワークの表面全体に炭素又は窒素をまんべんなく付着させるために必要にして十分な硬化用ガスの量である基準ガス量のときの水素濃度を基準水素濃度と設定して、ワークの表面積に応じた複数の基準水素濃度のゾーンを設定しておき、各ゾーン毎に、ワークの表面への水素の浸入量を許容量以下に保持するために継続工程で制御基準となる目標水素濃度が設定されている。
更に、前記初期工程において処理炉内の水素発生量がほぼ安定化した状態での水素濃度を検出して、この水素濃度が含まれる特定ゾーンの基準水素濃度に対応した目標水素濃度を制御の基準として、前記継続工程において、前記処理炉内の水素濃度を連続的に又は間欠的に検出しつつ、水素濃度の検出値が前記特定ゾーンの目標水素濃度を越えないように、硬化用ガスの導入量又は真空度若しくは他のガス成分変更手段を制御する。
請求項6の発明は、請求項2〜5のうちのいずれかにおいて、前記硬化用ガスから分離した水素がワークの表面近くに滞留することなく処理炉外に排出される状態での水素濃度を飽和水素濃度と設定して、前記目標水素濃度を飽和水素濃度に設定している。この請求項6の構成から理解できるように、目標水素濃度は基準水素濃度よりも高い値とすることも可能である。
本願発明は、ワークの製法も含んでいる。この製法は、請求項7のとおり、ワークを請求項1〜6のうちのいずれかの真空硬化方法で表面硬化処理してから、冷却液に浸漬して焼入れが行われるものである。
本願発明において、浸炭処理の対象品であるワークの種類に限定はなく、処理炉に入れることができるものなら何でも対象になる。ごく僅かながら、例として、ドリルねじやタッピンねじや木ねじのような棒状ねじ(或いは棒状ファスナ)、ギア、プーリ、チェーンスプロケット、チェーンの構成部材、各種の回転軸やアーム、各種のケーシング(ハウジング)、ベアリングを構成するボール、コロ、リテーナ、油圧シリンダや空圧シリンダのロッドやピストン、ソレノイドバルブの駆動軸などを挙げることができる。回転軸には、エンジンのカム軸やクランク軸、無段変速機の入力軸や出力軸、内燃機関用ウォータポンプの回転軸、各種モータの主軸など、多種多様のものが含まれる。
(1).各請求項に共通した効果
さて、特許文献1には、処理炉内の水素濃度が「通常の浸炭条件」での水素濃度になるように制御することが記載されている。このことは、通常の浸炭条件を維持したら、条件が相違しても所望の浸炭が行われることを意味していると云える。ここで問題は、第1に、「通常の浸炭条件」において水素脆性が発生していたことであり、第2に、いかなる状態でも必要な炭素量を確保するという点についてのみ着目し、大量に炭化水素ガスを導入していたことである。この点を、図1(A)に基づいて説明する。
図1(A)は、ガス導入口2とガス排出口3とを有する処理炉1にアセチレン(C2 2 )を導入して、アセチレンをワークWの表面に接触させて浸炭する状態を模式的に表示しており、十分な炭素が分離して所望の炭素量が得られるように、理論値よりも多くの量のアセチレンが導入されている(処理炉1の内部で、アセチレンの量をリッチ状態にしていている。但し、どの程度リッチになっているかは、把握できていない。)。
そして、水素は物質のうちで最も質量が小さい気体であるため、ワークWの表面で分離した水素は、基本的には、処理炉1の内部に拡散してガス排出口3から排出されるが、炭素量の維持を目的にしてアセチレンの導入量を高い値に設定していると、水素の分圧が高くなって処理炉1からのガスの排出が滞る傾向を呈することにより、水素の拡散(排出)が不十分になって、水素がワークWの表面個所に滞留したり、水素の飛散速度が著しく低下してワークWの表面に捕捉されやすい環境が発生し、その結果、水素が、ワークWを構成する鋼の結晶格子間に取り込まれてしまうことになる(水素分子は最も小さいため、鋼の結晶格子を構成する原子と原子との間に取り込まれやすい。)。
そして、ワークWの表層に取り込まれた水素は、時間の経過と共に(或いは焼き戻しにより)大気中に放散されてしまうのが大半であり、ワークWの組織に残ったままになっている量は僅かであるが、水素の浸入によって発生した空隙(空孔)は組織中にそのまま残っており、空隙が塞がって組織が修復されることはないため、鋼を構成する結晶格子間の分子間引力を低下させ、その結果、繰り返し荷重や持続的負荷によって塑性変形が徐々に進行していき、やがて破壊に至ると推測される。
なお、ビスや軸の場合は、破壊は切断という現象として表れるが、これは、硬化された外周部に存在している空隙(空孔)がきっかけとなって、まず、外周の表層部に塑性変形が進行して亀裂が発生し、この亀裂の個所に応力が集中して深部に破断が及ぶと推測される。従って、破断面を観察すると、硬化層の破断面は主として粒界破面として表れて、深部の破断面は主として延性破面として表れると云える。
他方、本願発明では、図1(B)に模式的に示すように、アセチレン導入量が制御されて水素の発生量が許容限度に納まっている状態(好適にはアセチレンがリーン状態)になっており、このため、水素は、ワークWの表面近くに全く又は殆ど滞留することなくガス排出口3から排出される。正確には、水素が発生してもワークWに浸入することなく速やかに排除される状態が維持されるように、アセチレンの導入量が制御される。これにより、鋼中への水素の浸入を防止又は著しく抑制できる。この点を、更に説明する。
さて、単位時間当たりの水素の発生量は、大まかには、炭化水素ガスの種類(組成)、炭化水素ガスの単位時間当たりの導入量、処理炉1の真空度、ワークWの総表面積によって定まるものであり、炭化水素ガスの種類と真空度とが一定であると、炭素と水素の分離量(すなわち、単位時間当たりの炭素及び水素の発生量)、炭化水素ガスの単位時間当たりの導入量に応じて変動する(正比例する。)。
また、処理炉1に導入された炭化水素ガスの全量がワークWに接触する訳ではなく、ワークWに接触することなく処理炉から排出する炭化水素ガスもあり、かつ、炭化水素ガスがワークWに接触して炭素が分離しても、浸炭に供されずに処理炉外に排出される炭素もある程度存在する。つまり、浸炭に供される炭化水素ガスには、分解せずに排出されるロスと、分解しても浸炭に寄与せずに排出されるロスとがある。
更に、真空浸炭法においては、(C)に示すように、まず、炭化水素ガスから分離した炭素原子がワークWの表面にまんべんなく付着し、次いで、炭素原子が時間をかけて内部に浸入していくというメカニズムを取っており、そこで、炭素原子がワークWの表面にまんべんなく付着する状態を実現するために、必要にして十分な炭化水素ガスの導入量(正確には、時間×導入量)を基準ガス量として定義できる(上記のロスを見越した導入量である。)。
そして、基準ガス量のときに発生する水素の濃度を基準水素濃度として定義可能であり、基準水素濃度では、理論的には、水素は全て処理炉1の外に排出されるので、ワークWへの水素の浸入はないと云える。
しかし、従来は、基準ガス量の把握がなされていないため、基準ガス量を大幅に越える(何倍もの)量の炭化水素ガスを導入していたのが実情であり、その結果、水素も基準水素濃度を越える濃度で過剰に発生しており、その結果、大量の水素がワークWの表面近くに滞留する現象が生じて、滞留した水素がワークWの組織内に大量に浸入していたといえる。
これに対して本願各発明では、基準水素濃度から基準ガス量を把握できるため、水素の発生量が許容範囲に納まるように炭化水素ガスの導入量を制御できる。例えば、炭化水素ガスの導入量を基準ガス量よりも少なく導入して処理炉内をリーン状態にすることにより、処理炉内に発生する水素の量も基準水素濃度よりも少なくすることができるのであり、その結果、水素をワークの表面近くに滞留させることなく処理炉外に速やかに排除できる。従って、水素の浸入に起因した脆性の発生を、防止又は著しく抑制できるのである。
ワークWに求められる機械的性質は様々であり、水素浸入が許容される程度も、ワークWの種類や等級によって大きく相違する。従って、炭化水素ガスの導入量は必ずしも基準ガス量より低く設定する必要はない。
以上の説明は、炭化水素ガスを使用する浸炭方法についてであったが、アンモニアのように窒化水素ガスを使用した真空浸窒についても、上記の説明が概ね妥当する。また、真空浸炭法と真空窒化法とを組み合わせた真空浸炭窒化法があるが、この場合も同様である。窒化について述べると、まず、分離した窒素がワークの表面の鉄と化合して、ワークの表面に窒化鉄の層が形成され、次いで、窒化鉄から窒素が分離して内部に浸入していくと推測される。そして、真空窒化でもアンモニア等のガスの分解率に比例して水素が発生するため、水素濃度を利用してガス導入量等を制御できる。
なお、本願発明では、水素濃度は直接に検知することも可能であるし、水素濃度と関連した他の数値から間接的に検知することも可能である。従って、本願発明で特定している水素濃度による制御は、水素濃度の値自体を使用した制御を含むことはもとより、水素濃度を適当な指標(基準値、目標値)に置き換えた制御も含んでいる(そのような制御が現実的である。)。
(2).請求項2〜4における継続工程の効果
図1(C)を引用して既に説明したように、炭化水素ガスから分離した炭素は、ワークWの表面に付着してから、ある程度の時間をかけて表層部内に浸入していく。炭化水素ガスは、ワークの表面に形成された炭素層に接触しても分離する性質があり、このような分離により、ワークWの表面に炭素の層が積層状に形成されることもある。しかし、ワークの地肌に接触した場合と炭素層に接触した場合とでは、分解の程度は相違する。ワークの表面に位置していた炭素が内部に浸入してワークの地肌が露出すると、炭化水素ガスは活発に分離する状態になる。
また、真空浸炭法の場合、浸炭が進んで、炭素が内部に浸入できなくなる状態になると、ワークの表面にはスーティングが発生して、炭化水素ガスの分離性も変わってくる。このように、ワークの表面での炭化水素ガスの分離性は一定ではなくて経時的に変動しており、炭化水素ガスを一定量ずつ導入しても、炭化水素ガスの分離量(炭素、水素の発生量)が一定に維持される訳ではない。
従って、炭化水素ガス等の硬化用ガスを一定量ずつ導入した場合は、炭素の発生量が少なくて浸炭性能が低下したり、逆に、分解率が高くなって水素が一時的に過剰発生したりすることが懸念される。この点については、水素の過剰発生防止を重視して、硬化用ガスの導入量を少なく設定しておくことが考えられるが、この場合は、硬化効率が悪くなるという問題がある。
これに対して、本願請求項2〜6のように、水素濃度(水素発生量)に連動して処理炉内のガスの組成を制御すると、ワークへの水素の浸入が極力抑制された状態を維持しつつ、炭素又は窒素の発生量をできるだけ高めて硬化(浸炭・浸窒)を促進することができる。従って、請求項2〜6では、所望の硬度を有すると共に耐水素脆性に優れたワークを、より確実に提供できる。
処理炉内でのガスの組成の制御としては、例えば、硬化用ガスの導入量は一定にして、処理炉の真空度を制御することが可能であるが、この場合は、硬化用ガスの使用量が増える場合がある。これに対して硬化用ガスの導入量を制御すると、硬化用ガスのロスを抑制できる利点がある。
なお、水素濃度に基づいて硬化用ガスの導入量を制御する場合、ワークの総表面積に基づいて上限値(目標水素濃度)と下限値とを設定し、実際の水素濃度が上限値に至ると炭化水素ガスの導入量を減らして、実際の水素濃度が下限値に至ると炭化水素ガスの導入量を増やす、という制御を採用できる。
(3).請求項2,5における初期工程の効果
ワークWの浸炭又は浸窒にどれだけの硬化用ガスが必要であるかは、ワークの総表面積に大きく依存している。総表面積が小さければ硬化用ガスの量は少なくてよいし、総表面積が大きいと硬化用ガスの量も多くなる。
そこで問題は、ワークの総表面積の検出方法である。ワークが単純な平板である場合は、計算によって求めることも可能であるが、例えば、ねじやギアのような複雑な形状のワークWの場合は、総表面積を計算で求めることは事実上不可能である。形状や寸法が異なるワークが混在している場合も、計算で総表面積を求めることは不可能である。また、単純な平板であっても、多数個をまとめて浸炭処理する場合は、一々個数を計算せねばならないため、総表面積を計算で求めることは非常に厄介である。
これに対して、請求項2,5の構成では、初期工程において、発生する水素濃度から総表面積を検出(算定、設定)するものであるため、ワークの形状や個数などに関係なく総表面積を導き出すことができる。この点を更に説明する。
さて、真空浸炭法を例にとると、炭化水素ガスが最初に処理炉に導入されたときは、水素濃度はゼロから立ち上がって急激に上昇する。そして、処理炉内には短時間で炭化水素ガスが充満するため、水素濃度の上昇率は短時間で減少して安定化する。請求項2,5では、水素濃度が安定化した状態で、当該安定した水素濃度からワークの表面積(或いは基準水素濃度)を求めるものである。従って、ワークの表面積(或いは、制御の基礎となる基準水素濃度)を簡易に検出できる。
水素濃度から表面積を求める方法は、何通りか考えられる。例えば、総表面積が判っているサンプルを予め複数種類製造しておいて、各サンプルを処理炉に実際に投入して硬化用ガスに晒して水素濃度を検知し、各サンプルの水素濃度との比較から、実際のワークWの総表面積を検定することができる。
この場合、各サンプルの水素濃度の使用方法の一つとして、総表面積の大きさと水素濃度との関係式を作成して、この関係式に基づいて、実際のワークWの総表面積を絶対値として検出することが可能である。或いは、請求項5のように、各サンプルの水素濃度に基づいてワークをいずれかのゾーンに区分して、検出された現実の基準水素濃度に多少の相違があっても、同じゾーンに含まれるワークには同じ目標水素濃度を使用して、硬化用ガスの導入量を制御できる。
前者は個別管理制御、後者はゾーン管理制御(或いはグループ管理制御)と呼ぶことができるが、いずれにしてしも、初期工程で検出される水素濃度を利用してワークの総表面積(或いは基準水素濃度)を検知又は設定できるため、様々な形状・個数のワークWを、耐水素脆性に優れた状態で浸炭できる。
(4).請求項4の効果
既述のように、ワークへの浸炭が進行していくと、ワークWの表面に炭素が増えていくため、経時的には、炭化水素ガスの分離性(反応性)は徐々に低下していく傾向を呈する。真空窒化の場合も同様である。従って、変動はあるが、趨勢としては、浸炭・浸窒効率が経時的に低下する傾向を呈する。
他方、処理炉は完全な真空ではないため、処理炉内には僅かながら空気が残っており、処理炉の真空度が一定に保持されていると、空気を構成する酸素の分圧は、炭化水素ガスの導入量や水素の発生量の変化に応じて変動する。そして、ワークへの浸炭が進行して硬化用ガスの分解性が低下していくと、酸素の分圧は上昇する。従って、例えば、酸素センサで処理炉内の酸素濃度を検知することにより、浸炭・浸窒の進行度合いをモニタリングすることができる。
例えば真空浸炭の場合、炭化水素ガスの分解性が低下すると酸素の分圧は高くなり、炭化水素ガスの分解性が高くなると酸素の分圧は低くなる。従って、請求項4のように、酸素分圧のような非水素微量ガスの分圧に許容範囲を設けて、分圧に基づいて硬化用ガスの導入量を制御することにより、水素の発生量を制御して浸炭又は浸窒を促進することができる。
具体的には、酸素分圧を利用する場合は、酸素分圧が許容範囲を超えたら硬化用ガスの導入量を増量して炭素量の増やし、酸素分圧が許容範囲より低下したら、硬化用ガスの導入量を抑えて炭素の発生量を低下させたらよい。空気は主として酸素と窒素とから成っているので、いずれかの分圧を検出(測定)したらよいが、酸素センサは広く普及しているので、現状では、酸素の分圧に基づいて硬化用ガスの導入量を制御するのが好ましい。また、真空窒化の場合は窒素の分圧は使用できないので、酸素分圧を使用すると、浸炭と浸窒との両方に使用できる利点もある。
(5).請求項7の効果
真空や浸炭は、一般に焼入れとセットになっている。従って、請求項7の構成では、水素脆性が防止又は著しく抑制されたワークを、所望の硬度で提供できる。焼入れの冷却液に油系と水系とがあるが、ワークの材質等に応じて使い分けたらよい。
真空浸炭法の場合、炭化水素ガスとしては、プロパンやブタンなど様々なものを単体で又は混合して使用できるが、炭素の分離のしやすさの点からは、アセチレンを使用するのが好適である。また、既述のように、アセチレンは直接に炭素と水素とに分解するため、水素濃度の検出の応答精度も高い。従って、制御を高い精度で迅速に行える利点もある。
真空浸炭方法及び真空窒化方法では、硬化用ガスをワークにできるだけ均等に接触させることと、発生した水素を速やかに排出することとが必要である。処理炉内での硬化用ガスの流速や流れ方向は、ワークの形状や配置態様、ガス噴出口の数や位置、処理炉の内部の形状、ガス排出口の数や場所などの様々な要因によって変化する。
そして、ガスの流れが一定化してしまうと、ワーク全体への回り込みが不十分になって浸炭ムラが生じやすい。これに対する改善策の一つとしては、複数のガス噴出口を備えている場合、異なるガス噴出口からタイミングを変えて炭化水素ガスを噴出させることが挙げられる。これにより、処理炉内でガスの拡散性を高めて、ワークへの接触性を向上できる。
(A)は従来例の模式図、(B)(C)は本願発明の模式図である。 真空浸炭設備の概念図である。 実施形態を示す図で、(A)は工程の流れを示す図、(B)は炭化水素ガス導入量を示す図、(C)は水素濃度の変化を示す図、(D)は酸素分圧の変化を示す図である。 (A)は水素濃度と炭化水素ガス導入量との単純な関係を示す図、(B)は水素濃度と炭化水素ガス導入量との関係が酸素分圧によって補正されている状態を示す図である。 実験結果を示す図で、(A)は材料を説明したグラフ、(B)は応力範囲と破断繰り返し数との関係を示すグラフ、(C)はテストピースの側面図である。
(1).設備の概要
次に、本願発明の実施形態を図面等に基づいて説明する。本実施形態は真空浸炭法に適用している。まず、図2に示す真空浸炭方設備の概要を説明する。本設備は従来と同様のものであり、主要要素として、ガス導入口2及びガス排出口3が内部に開口した処理炉(浸炭室)1と、処理炉1に扉4を介して隣り合った冷却室5と、冷却室5の下方に配置した焼入れ室6とを有している。焼入れ室6には、冷却液(水系又はオイル)を溜めた焼入れ槽7が配置されている。図示していないが、処理炉1や冷却室5にはワークWを出し入れするための扉を設けている。
ガス導入口2とガス排出口3はそれぞれ1つずつしか表示していないが、それぞれ複数個設けることが可能である。一般には、ガス導入口2は4個以上設けて、ガス排出口3は2個程度設けていることが多い。
ガス導入口2には、ボンベ8がガス導入管9を介して接続されており、ガス導入管9の中途部には第1バルブ10を配置している。ボンベ8には炭素源となる炭化水素ガスが充填されている。本実施形態では、炭化水素ガスとしてアセチレンを使用している。ガス排出口3は、第1排出管11を介して真空ポンプ12と接続されており、第1排出管11の中途部には第2バルブ13を介在させている。第1排出管11は、第2排出管14を介して冷却室5にも接続されており、第2排出管14の中途部には第3バルブ15を配置している。
処理炉1の内部には多数の伝熱式ヒータ16を配置しており、各ヒータ16は電源17に接続されている。また、浸炭設備には、水素濃度を直接的に検知する手段として、水素濃度センサ18を設けている。
水素濃度センサ18は、特許文献1に開示されているように、処理炉1内のガスの熱伝導率を検知するものであり、第1排出管11に設けたバイパス管19に設けている。なお、熱伝導率は最終的には電気信号に変換されて、制御に供される。性能等の条件が許せば、水素濃度センサ18を処理炉1の内部に露出させることも可能である。処理炉1には、酸素センサ20を臨ませている。酸素センサ20は、微量非水素ガスの分圧検知手段の例である。
真空浸炭設備は、制御装置(制御手段)21を有している。制御装置21は、真空浸炭設備とセットになっていてもよいし、パソコンで代替することも可能である。いずれにしても、メモリーやモニター、入力手段などを有している。各バルブ10,13,15、ヒータ電源17,水素濃度センサ18、酸素センサ20は、制御装置21に電気的に接続されている。図示していないが、処理設備には、デジタル式の温度センサや真空計を設けており、これらも制御装置21に接続されている。
(2).処理パターンの基本態様
次に、真空浸炭処理パターンを図3,4に基づいて説明する。表面処理作業の基本的なパターンは従来と同様であり、これを図3(A)に示している。
すなわち、表明処理作業は、ワークWを処理炉1に入れて炉内温度を上げる昇温工程、設定温度を維持してワークWをむらなく加熱する均熱工程、処理炉1に真空雰囲気下でアセチレンを導入して分解した炭素をワークWに浸入させる浸炭工程、アセチレンの導入を停止してワークWの表面層内で炭素を拡散させる拡散工程、炉内温度をある程度まで徐々に低下させる降温工程、ある程度の温度を維持してワークWの温度を安定させる均熱工程、冷却室5に移行させて窒素ガスで冷却するガス冷却、又は、焼入れ液に投入して急冷する焼入れ工程、のいずれかの各工程を有している。
浸炭温度は従来と同様である。ワークWの材質等によって相違するが、例えば、750〜1100℃程度である。処理炉1の真空度も従来と大きく相違するものではなくて、例えば4〜10Torr程度に維持されるように、第2バルブ13の開度が自動制御されている。
本実施形態では、浸炭工程は、最初にアセチレンを導入する初期工程と、その後にある程度の時間間隔をおいて行われる継続工程とから成っており、継続工程は、アセチレンの導入を複数の浸炭ブロックI〜IVに分けて行うパルス制御方式になっている。本実施形態
では、継続工程は、4回の浸炭ブロックI〜IVで構成されているが、浸炭ブロックの回数
や間隔は任意に設定できる。
初期工程では、一定量ずつのアセチレンが、所定時間だけ処理炉1に連続して導入される。他方、継続工程を構成する各ブロックI〜IVでは、アセチレンの導入量Qは、基本的
には水素濃度ρを変数として制御され、かつ、酸素分圧Pによっても補正される。また、本実施形態では、図4に示すように、継続工程を構成する各浸炭ブロックI〜IVは、アセ
チレンの導入のON・OFFが短い時間間隔で繰り返されている。従って、各浸炭ブロックI〜IVも、短い時間間隔でアセチレンの導入をON・OFFするパルス制御が成されて
いる。
初期工程から継続工程に移行するとき、及び、継続工程においてアセチレンの導入がカットされている状態では、処理炉の内部にはアセチレンが存在しない無ガス状態になっており、この無ガス状態でも、処理炉1は所定の真空雰囲気に維持されている(アセチレンが導入されている場合よりも真空度は高くなっている。)。
(3).総表面積の設定(算定)
図3(C)に示すように、初期工程では、アセチレンの導入により、水素濃度ρはゼロから急激に立ち上がって、増加率が急激に低下する。そこで、増加率が著しく低下した範囲を安定化状態として、安定化状態での平均値を、初期工程での基準水素濃度ρ0として設定する。例えば、初期工程が全体でn分間あると仮定すると、アセチレン導入経過後1〜n分の間の(n−1)分間を安定時間T0として、T0における水素濃度ρの平均値を基準水素濃度ρ0として設定する。なお、平均値は、単位時間ごとにプロットして、それらの加重平均を求めたらよい。
基準水素濃度ρ0からワークWの表面積(総表面積)を算定するが、このための準備として、予め面積が判っているサンプルを複数種類製造し、各サンプルを炭化水素ガスに晒して水素濃度を検知し、これにより、ワークWの表面積の絶対値と水素濃度との関係を、マップ(対応表)として作成している。
概念的に説明すると、例えば、1m2 のサンプル、2m2 のサンプル、3m2 のサンプル、4m2 のサンプル、5m2 のサンプルというように多数のサンプルを製造しておき、それぞれについて、初期工程と同じ条件で浸炭した場合に発生する水素濃度(ρ1,ρ2,ρ2・・・)を記録しておき、表面積と水素濃度との関係式(マップ)を作成しておく。
そして、実際のワークWから検知された水素濃度の平均値ρ0と、各サンプルの基準水素濃度ρ1,ρ2,ρ3・・・とを比較して、実際の平均値ρ0が最も近い基準水素濃度ρ1,ρ2,ρ2・・・を選択して、この基準水素濃度が属するサンプルの総表面積をワークWの総表面積に設定し、設定された総表面積を基準として、その総表面積の場合に設定されている飽和水素濃度を、実際のワークWの飽和水素濃度として設定する。
例えば、ワークWが3m2 の総表面積として設定されたら、3m2 の総表面積の場合の基準水素濃度ρ3から安全率を見込んだ目標水素濃度ρ3′を設定し、この目標水素濃度ρ3′を水素濃度ρの上限値とする。安全率は、例えば0.8〜0.95程度でよい。また、水素濃度ρの下限値も設定しており、便宜的に、3m2 の総表面積の場合の下限値をρ3″として表示する。
下限値は任意に設定できる。例えば、基準水素濃度ρ1,ρ2,ρ3・・・を基準にして、制御上限値である目標水素濃度ρ3′を基準水素濃度ρ1,ρ2,ρ3・・・の0.9倍、下限値を0.85倍とすることができる。基準水素濃度ρ1,ρ2,ρ3・・・を上限値とすること(基準水素濃度=目標水素濃度とすること)も可能である。目標水素濃度(上限値)や下限値を、ワークWの材質や形状等によって異ならせることも可能である。なお、基準水素濃度は、飽和水素濃度と呼ぶことも可能である。
初期工程でアセチレンを所定時間に所定量だけ導入すると、アセチレンが分解して水素が発生するが、水素の発生量はワークWの表面積に正比例している。また、処理炉1の内部が真空雰囲気であることから、初期工程としてある程度を保持しておけば、アセチレンはワークWの表面にまんべんなく接触する。従って、初期工程において、ワークWの表面には、分離した炭素がまんべんなく付着する。従って、初期工程では、ワークWの表面積の大きさに関係なく、ワークWの表面全体に炭素をまんべんなく付着させるために必要にして十分なアセチレンの量(基準ガス量)と、基準ガス量に対応した炭化水素ガスとを検出できる。
(4).アセチレンの導入量制御
図4(A)に示すように、実際の水素濃度ρは時々刻々と変化していくが、ρがρ3′とρ3″との間に維持されるように、アセチレンの導入量Qが制御される。つまり、実際の水素濃度ρが飽和水素濃度(上限値ρ3′)に近づくとアセチレンの導入量を減らし、実際の水素濃度ρが下限値ρ3″に近づくとアセチレンの導入量を増やすことにより、実際の水素濃度ρを所定の範囲(レベル)に維持する。
これにより、処理炉1内に水素が過剰に発生することを防止して、水素がワークWに浸入することを防止又は著しく抑制することができる。すなわち、水素の害を無くした状態で、アセチレン(炭化水素ガス)を使用して浸炭を行うことができるのである。アセチレンの導入量Qには、飽和水素濃度に対応した上限値Q3′と下限値Q3″とを設定している。
なお、上記の実施形態は、総表面積が相違してもある範囲のものは一律に扱うゾーン管理であるが、ワークWの総表面積と水素濃度との間には比例関係があるので、例えば、1m2 ,2m2 ,3m2 ,4m2 ,5m2 の5つのサンプルの水素濃度計結果に基づいて、1.5m2 の基準水素濃度、2.5m2 の基準水素濃度、3.5m2 の基準水素濃度、4.5m2 の基準水素濃度も作成しておくことが可能であり、このようにして多くのゾーンを用意しておくことにより、誤差を少なくしてきめ細かく制御できる。
さて、既述のように、本実施形態の継続工程では、各浸炭ブロックI〜IVは、短い時間
間隔でガス導入口の開閉を行うパルス制御が成されており、従って、短い時間のガス導入を単位として、多数のガス導入単位が間欠的に行われる。従って、各ガス導入単位での水素濃度の変化を見ると、水素濃度はゼロから立ち上がって安定化しており、安定化してからの濃度が既述の上限値(飽和水素濃度)と下限値との間に納まるように、アセチレンの導入量Qが制御される。
図4では、パルスの各単位ごとに水素濃度とガス導入量とが変動する状態に描いているが、これは、理解を容易にするための便宜的な表示であり、実際には、各ガス導入単位においても、水素濃度ρとアセチレン導入量Qとは高低変化している。但し、各ガス導入単位の時間が短い場合は、1つ前のガス導入単位での水素濃度に基づいて次のガス導入単位のアセチレン導入量を制御する、といったことは可能である。
(5).酸素分圧を利用した補正制御
図3(D)では、処理炉1内での酸素の分圧の変化を表示している。初期工程について見ると、酸素の分圧Pは浸炭ガス導入前の酸素分圧から急激に低下して安定化した領域に移行し、かつ、安定領域では、ワークWの浸炭に応じて僅かに上昇傾向を呈する。また、各浸炭ブロックI〜IVについて見ると、各浸炭ブロックI〜IVの前の状態では、処理炉1
内にはアセチレンが導入されていないので、真空度に対応した上限値から低下して安定領域に移行し、各安定領域では、ワークWの浸炭の進行に応じて僅かに上昇する傾向を呈する。
浸炭の継続工程においては、時間の経過と共に浸炭も進行していくので、酸素分圧Pの安定領域での平均値は、後ろの浸炭ブロックに行くほど高くなる傾向を呈する。また、各浸炭ブロックI〜IVは、多数のガス導入単位が間欠的に繰り返されるパルス制御が成され
ているので、酸素分圧Pは、各ガス導入単位ごとに急激に下降してから安定化するように変化しており、各ガス導入単位で見ても、酸素分圧Pの平均値は経時的に上昇する傾向を呈する。従って、図3(D)の表示は、各ガス導入単位の酸素分圧Pの平均値の推移を表示したものに相当する。
ワークWの浸炭が進行すると、ワークWの表面でのアセチレンの分解性能は低下していき、単位時間・単位アセチレン量当たりの炭素及び水素の発生量は低下する傾向を呈する。これに伴い、酸素分圧Pは上昇する傾向を呈する。従って、酸素分圧Pは、浸炭の進行度合いを把握する指標になる。
そして、浸炭の進行度合い等の様々な要因により、水素濃度ρが予め設定した範囲に納まっていても、浸炭に必要な炭素が不足している場合(アセチレンが過少な場合)や、炭素が過剰な場合(アセチレンか過剰な場合)があり得る。すなわち、水素濃度ρの制御のみでは炭素量が過不足なく分離するようなアセチレン量に制御しにくい場合がある。
そこで、図4(B)に示すように、酸素分圧Pに上限値P3′と下限値P3″とを設定して、酸素分圧Pが上限値P3′を越えると、水素濃度ρが設定範囲内でもアセチレンの導入量を増加させて、酸素分圧Pが下限値P3″を下回ると、水素濃度ρが設定範囲内でもアセチレンの導入量を減少させるように制御している。従って、酸素分圧Pで補正した後のアセチレンの導入量は、図4(B)の点線で示すように推移している。これにより、ワークWへの水素の浸入を阻止しつつ、ワークWに炭素を適量供給している。
なお、P3′とP3″は、ワークWの表面積が3m2 である場合であり、図4(A)と整合させたものである。(B)の水素濃度とガス導入量とは(A)のグラフをそのまま利用しており、ガス導入量のグラフに、実際のアセチレンの導入量が棒グラフ状に表示されている。また、図4(B)では、制御単位時短をtとしてフィードバック制御しており、酸素分圧Pに基づくアセチレン導入量Qの制御は、tの時間だけタイミングが遅れている。
このように、酸素分圧Pの上昇に応じてアセチレンの導入量を増大させることにより、水素の浸入は阻止しながら、ワークWに接触する炭素の量を必要量確保して浸炭を的確に行うことができるのである。なお、アセチレンの導入量は、上限値Q3′を越えないように制御されるが、図4(B)のQ3′を図4(A)のQ3′より高い値に設定することは可能である。
真空浸炭浸窒法の場合は、図3(A)に表示するように、浸炭後の均熱工程で処理炉1にアンモニアを投入して窒化処理される。この場合も、浸炭工程での処理の同様に、初期工程と継続工程とがセットになって窒化処理が行われる。制御手順は浸炭の場合と本質的な違いはない。アンモニアはアセチレンに比べて分子中の水素の割合が多いので、アンモニアの導入量はアセチレンに比べて抑え気味が好ましいと云える。
浸窒のみを行う場合は、上記した説明において、アセチレンをアンモニアにも置き換えたらよい。当然ながら、浸炭と浸窒とでは、ワークWの表面積が同じでも基準水素濃度や目標水素濃度は相違する。
(6).実験例
次に、実験例と比較例を説明する。本例では、テストピースとしてボロン鋼(10B21)の丸棒を使用した。図5(C)に示すように、試料は、基準径Dが7.15mm、全長が100mm、試験機での掴み部となる雄ねじ部SがM8で長さ15mmずつで、中間位置に、破断予想部として開き角度60度のノッチを形成した。ノッチの外径は、約4.6mmであった。実施例及び比較例とも、7本ずつ作成した。
実施例は、通常のボロン鋼に適用される条件下で、約14分かけてパルス浸炭を行い、890℃で焼入れした。冷却液には油を使用した。比較例は、大気圧の元で行われるガス浸炭法で浸炭処理されたものであり、従来と同様に浸炭ガス(プロパン)を過剰に供給している。このため、比較例の拡散性水素量は、浸炭直後の状態で2.1ppmであった。他方、実施例は目標水素濃度が基準水素濃度の90%程度となるようにリーン状態に設定して浸炭しており、拡散性水素濃度は0.05ppmであった。浸炭直後の拡散性水素量Aは、室温から300℃までの計測値であり、焼き戻し後の拡散性水素量Bは、360℃で焼き戻し後の計測値である。
ワークWに浸入した水素は、焼き戻し工程で大半が排出される。比較例も同様であり、焼き戻し後の拡散性水素量を測定したら、0.04ppmであった。他方、実施例は0.03ppmであった。従って、見かけ上の残留水素量は、実施例も比較例も大差ない。
そして、実施例と比較例との疲労試験を行った。疲労試験機にセットして、破断するまで軸方向に繰り返し負荷をかけて、応力範囲と繰り返しサイクルとの関係(SN曲線)を得た。制御波形はsin波、応力比は0.1、周波数は30Hz、最大繰り返し数は5.0×106 であった。その結果を示したのが図5(B)のグラフであり、実施品は、鋼製品で特に問題となる300〜400MPaの応力範囲で高い耐久性を有していることが判る。
(7).その他
鋼材の機械的性質は材質によって大きく相違するが、例えば、SWCHのような汎用鋼に従来以上の高い機械的性質や信頼性を付与できると、産業界は多大な恩恵を受けるといえる。本願発明は、炭素源として炭化水素ガスを使用しつつ、水素の影響を排除した状態で浸炭を行えるため、簡便な方法で汎用鋼に高い付加価値を付与できる可能性を秘めているといえる。
さて、ワークの表面に、水素の侵入に起因した空孔があると、ギア、ベアリングの球やリテーナ、スリーブ、プランジャのように、オイルやグリスで潤滑される摺動部材・転動部材の場合、オイルやグリスから分解した水素が空孔に侵入して強度低下や寿命低下を招くおそれがある。この点、本願発明によると、水素が入り込む空孔を全く又は殆ど無くすことができるため、水素が発生する雰囲気下で使用されるワークであっても、外からの水素の浸入による弊害を防止できる利点もある。
本願発明が遅れ破壊に高い効果を有することは容易に理解できると云えるが、焼入れ条件の改善や、ショットピーニング等の表面加工技術などと組み合わせることにより、引っ張り強度や曲げ強度などの機械的性質も大きく改善できると期待される。本願発明者たちは、更に改良に向けて取り組んでいきたい。
また、実施形態では、目標水素濃度を基準水素濃度よりも低く設定して、処理炉の内部においてアセチレンをリーン状態に維持したが、アセチレン等の硬化用ガスの導入量を、基準ガス量と同じかそれよりも多い量に設定することは可能である。基準ガス量より多い量であっても、本願発明では基準が明確であるので、バラツキを抑えて品質を安定化させることができる。
理論的には、炭素や窒素の硬化分子が過不足なく供給される基準ガス量が最適であるが、ワークへの水素の浸入率は真空度やワークの形状などの様々な要因によって相違するので、実際にどの程度が適量であるかは、実験を通じて探っていくべきものである。本願発明者たちや出願人たちは、この実験も進めていきたい。
本願発明は、実際に鋼製ワークの浸炭に適用できる。従って、産業上利用できる。
W ワーク
1 処理炉
2 ガス導入口
3 ガス排出口
5 冷却室
6 焼入れ室
8 炭化水素ガスボンベ(アセチレンボンベ)
10,13,15 バルブ
12 真空ポンプ(真空源)
18 水素濃度センサ
20 酸素センサ
21 制御装置

Claims (7)

  1. 炭素又は窒素と水素とが結合した硬化用ガスを真空雰囲気下の処理炉内に導入して、前記硬化用ガスを加熱された鋼製ワークに接触させることにより、前記硬化用ガスを分解し、分解した炭素又は窒素をワークの表面に浸入させて硬化処理を行うにおいて、
    前記硬化用ガスの導入量又は真空度若しくは他のガス成分変更手段を制御して、前記硬化用ガスの分解によって発生した水素がワークに浸入することを抑制しつつ前記硬化処理を進行させていく方法であって、
    硬化処理前の前記ワークを前記処理炉に入れて硬化用ガスに継続的に晒したときに前記ワークの表面全体に炭素又は窒素をまんべんなく付着させるために必要にして十分な硬化用ガスの単位時間当たりの導入量を、硬化処理工程の全体を通じて制御に使用する基準ガス量として設定しておき、硬化処理工程の全体に亙って単位時間当たりの硬化用ガスの導入量が前記基準ガス量を越えないように維持しつつ、前記硬化用ガスの導入量又は真空度若しくは他のガス成分変更手段を制御することを特徴とする、
    水素浸入抑制方式の真空硬化方法。
  2. 炭素又は窒素と水素とが結合した硬化用ガスを真空雰囲気下の処理炉内に導入して、前記硬化用ガスを加熱された鋼製ワークに接触させることにより、前記硬化用ガスを分解し、分解した炭素又は窒素をワークの表面に浸入させて硬化処理する方法であって、
    硬化用ガスを予め設定された量だけ処理炉内に導入する初期工程と、硬化用ガスの導入量を制御しつつ処理を進める継続工程とを有しており、
    前記初期工程において処理炉内の水素発生量がほぼ安定化した状態での水素濃度を基準水素濃度と設定して、この基準水素濃度を、前記ワークの表面全体に炭素又は窒素をまんべんなく付着させるために必要にして十分な硬化用ガスの量である基準ガス量のときの水素濃度とみなし、前記基準水素濃度に基づいて、ワークの表面への水素の浸入量を許容量以下に保持するための目標水素濃度が設定されている一方、
    前記継続工程においては、前記処理炉内の水素濃度を連続的に又は間欠的に検出しつつ、水素濃度の検出値が前記目標水素濃度を越えないように、硬化用ガスの導入量又は真空度若しくは他のガス成分変更手段を制御する、
    水素浸入抑制方式の真空硬化方法。
  3. 炭素又は窒素と水素とが結合した硬化用ガスを真空雰囲気下の処理炉内に導入して、前記硬化用ガスを加熱された鋼製ワークに接触させることにより、前記硬化用ガスを分解し、分解した炭素又は窒素をワークの表面に浸入させて硬化処理する方法であって、
    硬化用ガスを最初に処理炉に導入する初期工程と、硬化用ガスの分解率が略安定してから硬化用ガスの導入量を制御して硬化処理を行う継続工程とを有しており、
    前記継続工程に先立って、前記ワークの表面積に基づいて、ワークの表面への水素の浸入量を許容量以下に保持するための目標水素濃度が設定されている一方、 前記継続工程においては、前記処理炉内の水素濃度を連続的に又は間欠的に検出しつつ、水素濃度の検出値が前記目標水素濃度を越えないように、硬化用ガスの導入量又は真空度若しくは他のガス成分変更手段を制御する、
    水素浸入抑制方式の真空硬化方法。
  4. 処理炉内での酸素濃度又は他の微量非水素ガスの分圧の許容範囲を予め設定しておく一方、
    前記継続工程時に、処理炉内での酸素濃度又は他の微量非水素ガスの分圧を連続的に又は間欠的に検出しつつ、当該微量非水素ガスが前記許容範囲を外れると、前記硬化用ガスの導入量の補正制御又は他のガス成分変更制御が行われる、
    請求項2又は3に記載した水素浸入抑制方式の真空硬化方法。
  5. 炭素又は窒素と水素とが結合した硬化用ガスを真空雰囲気下の処理炉内に導入して、前記硬化用ガスを加熱された鋼製ワークに接触させることにより、前記硬化用ガスを分解し、分解した炭素又は窒素をワークの表面に浸入させて硬化処理する方法であって、
    硬化用ガスを予め設定された量だけ処理炉内に導入する初期工程と、硬化用ガスの導入量を制御して処理を行う継続工程とを有しており、
    前記ワークの表面全体に炭素又は窒素をまんべんなく付着させるために必要にして十分な硬化用ガスの量である基準ガス量のときの水素濃度を基準水素濃度と設定して、ワークの表面積に応じた複数の基準水素濃度のゾーンを設定しておき、各ゾーン毎に、ワークの表面への水素の浸入量を許容量以下に保持するために継続工程で制御基準となる目標水素濃度が設定されている一方、
    前記初期工程において処理炉内の水素発生量がほぼ安定化した状態での水素濃度を検出して、この水素濃度が含まれる特定ゾーンの基準水素濃度に対応した目標水素濃度を制御の基準として、前記継続工程において、前記処理炉内の水素濃度を連続的に又は間欠的に検出しつつ、水素濃度の検出値が前記特定ゾーンの目標水素濃度を越えないように、硬化用ガスの導入量又は真空度若しくは他のガス成分変更手段を制御する、
    水素浸入抑制方式の真空硬化方法。
  6. 前記硬化用ガスから分離した水素がワークの表面近くに滞留することなく処理炉外に排出される状態での水素濃度を飽和水素濃度と設定して、前記目標水素濃度を飽和水素濃度に設定している、
    請求項2〜5のうちのいずれかに記載した水素浸入抑制方式の真空硬化方法。
  7. ワークを請求項1〜6のうちのいずれかの真空硬化方法で表面硬化処理してから、冷却液に浸漬して焼入れが行われる、
    焼入れされたワークの製造方法。
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