JP6046074B2 - 建物のシミュレーションシステムおよびマップ作成方法 - Google Patents
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Description
従来、屋外に屋根や外壁に見立てたブラックパネルを設置し、その表面温度とその時の気象データ(気温、湿度、日射量)の関係式を求め、様々な傾斜、方位面に対してのマップが提案されている(例えば、非特許文献1)。ブラックパネルを用いるのは、日射吸収熱の影響を最大にするためである。
建物の外装材の外表面の温度は、用いられている材料の種類、層構成で異なるほか、建物の条件(用途、生活スケジュール、プラン)によっても異なるため、屋外に設置されたブラックパネルから得られたデータから提案された式では、材料の熱容量等の非定常的な条件には対応していない。そのため、適用範囲が限られる。また、多層からなる材料の層境界面の温度を求めることはできないため、壁内の材料内部の温度について得ることができない。
さらに、個々の材料は、劣化が進行するに従って、熱伝導や水分移動に関する物性値そのものが変化する場合があり、従来技術では反映できないという問題点がある。
この発明の他の目的は、建物の部位を構成する材料の内部についても、劣化因子の物理量を求めることができるようにすることである。
この発明の他の目的は、材料の経年劣化に則した建物の部位の劣化因子の物理量を求めることができるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、地理を示す図に劣化因子を関連付けられ、かつ地域毎の劣化因子につき精度良く示された劣化因子マップを簡単に短時間で作成できる方法を提供することである。
シミュレーションのモデル(9)として、前記建物の部位の材料構成を含む建物データ(9a)、前記材料の物性値を含む材料データ(9b)、前記建物の建設地の外気温および外気湿度を含む建設地データ(9c)、および前記部位の環境となる温度,湿度の変化に関するスケジュールデータ(9d)を有するモデル(9)を記憶したシミュレーションモデル記憶手段4と、
材料内の熱変化および水蒸気の変化にそれぞれ関する所定の熱の変化方程式(式(1))および水蒸気の変化方程式(式(2))を用い、前記モデル(9)から前記建物の部位の劣化因子の物理量を計算する劣化計算手段(5)とを含む。
以上の基本構成に加え、さらに前記シミュレーションのモデル(9)は、前記建物が複数の部屋を有する平面プランとされた平面プランデータを前記建物データ(9a)として含む建物の全体を示すモデルと、前記建物の各部位のモデルとで構成され、前記各部位のモデルは、前記建物の全体を示すモデルにおけるどの部位であるかを示すデータを有し、
前記劣化計算手段(5)は、前記平面プランデータを、前記部位の前記劣化因子の物理量の計算に用いる。
前記建物の部位は、例えば外壁または屋根のように区分される建物の部分である。
前記物理量を求める前記劣化因子は、例えば、建物の部位の温度、湿度、含水率のいずか一つまたは複数を含む。この他に、後述のように換気を考慮する場合は、計算する前記劣化因子の物理量として、建物の各部屋の換気量を含めても良い。
前記劣化計算手段(5)は、材料内の熱変化および水蒸気の変化にそれぞれ関する所定の熱の変化方程式(式(1))および水蒸気の変化方程式(式(2))を用いるため、前記劣化因子の物理量を簡単に精度良く求めることができる。
また、建物1棟のシミュレーションとするため、同時刻における方位の影響も考慮でき、部位単独のシミュレーションとする場合における安全を見込んだ過剰な評価を避け、より適切に劣化因子の物理量を求めることができる。平面プランデータを考慮することで、建物の各部位への前記劣化因子の伝達が適切に考慮されたシミュレーションとできる。
前記建物の部位のモデルを多層化し、各断層毎に前記劣化因子の物理量を計算するため、前記部位の表層だけでなく、内部の劣化因子の物理量を求めることができる。例えば、下地材等の隠蔽部の劣化因子を求めることが可能となる。
熱の変化方程式(式(1))および水蒸気の変化方程式(式(2))に加え、熱収支式(式(3))および水分収支式(式(4))を用いることで、より精度良く劣化因子を計算することができる。例えば、前記平面プランデータを用い、各部屋毎の熱、水分の収支を求めることで、精度良く劣化因子を計算することができる。
換気は、前記各劣化因子への影響が大きく、換気を考慮することで、より精度良く前記劣化因子を求めることができる。また、各部屋の換気量を求めて出力すれば、建物の部位の劣化状態や寿命予測等をより適切に行える。
熱および水蒸気を発生する量の変化は、建物側の部屋条件となる用途や生活スケジュールに応じて変化する。このようなスケジュールを考慮することで、気象条件の差等の地域の差の影響をより正確にかつ短時間で求めることが可能となる。
このように個々の材料について、経年による物性値の変化を考慮すると、より実際の経年劣化に則した劣化因子の物理量を求めることができる。前記材料の経年による物性値変化は、例えば築後何年後であるかのデータを、前記モデル(9)の建物データ(9a)に
加え、その場合の物性値を材料データ(9b)に加えておくことで、または、物性値の経年による変化量のデータを材料データ(9b)に加えておくことで、劣化因子の物理量の計算に反映させる。
このように繰り返し計算を行うことで、熱や湿度等の劣化因子の経時的な伝達を考慮したより精度の良い劣化因子の物理量が求まる。
ものとしても良い。このように材料ごとに断層を設定し、さらにある程度以上の厚さをもつ材料については、さらに複数の断層を設定することで、劣化因子の物理量がより精度良くも止まる。
この発明の前記基本構成となる建物のシミュレーションシステム(1)は、シミュレーションのモデル(9)に建物の建設地の外気温および外気湿度を含む建設地データ(9c)を用い、かつ前記建物の部位の材料構成を含む建物データ(9a)、および前記材料の物性値を含む材料データ(9b)を用いてシミュレーションを行う。
そのため、地域により、気象条件や、建物の断熱性能等の仕様が異なっていても、試験を行う場合と異なり、再計算するだけで劣化因子の物理量が求まる。したがってこの発明のシミュレーションシステム(1)を用いることにより、各地域毎の前記建物の部位の劣化因子の物理量を、前記地域を示す図に関連付けた劣化因子マップを、簡単にかつ短時間で作成することができる。
また、材料の経年による物性値変化を含めて前記建物の部位の劣化因子の物理量を求めるようにした場合は、材料の経年劣化に則した建物の部位の劣化因子の物理量を求めることができる。
野地板12およびスレート14は、いずれも3層の断層12a,14aに概念上で分割されている。したがって、この屋根モデルでは、防水シート13を1層の断層として、合計7層の断層を有する多層体とされている。
図7は、熱発生スケジュールの例を示す。同図の例では、熱発生スケジュールは、1時間毎の各部屋の発生熱量(W)とされている。
図8は、水蒸気発生量スケジュールの例を示す。同図の例では、1時間毎の各部屋の水蒸気発生量(g/h)とされている。図7,図8において、各部屋は、図8に棒グラフのハッチングの種類で分けている。
図9は、冷暖房スケジュールの例を示す。同図の例では、1日について、1時間毎に冷房または暖房を行ったか否かのデータとされている。暖房時は、その暖房を行った室内の温度を20℃、湿度を60%であると仮定している。また、冷房時は、その冷房を行った室内の温度を28℃、湿度を60%と仮定している。
なお、上記計算過程のステップS1における「分割接点」は、材料を分割した場合の各断層間と材料の両面とであり、「分割接点数」は「断層数+1」である。例えば3層の断層とする場合、分割接点数は4となる。ステップS2に「要素の計算」とある要素は、劣化因子、例えば湿度、絶対温度などである。
建物の温度、湿度、各部位の各断面の温度、湿度、含水率を求めるシミュレーションは、例えば次の基礎式(1),(2)を用いて行う。この基礎式(1),(2)および後述の式(3),(4)は、従来から論文で広く知られている式である。
(1)式は材料内の熱に関する基礎式であるが、右辺第2項において絶対湿度の項が含まれる。また、(2)式は、材料内の水分に関する基礎式であるが、右辺第2項において温度が含まれており、互いに関連していることを示している。
室内温湿度は(3)式の熱収支式と、(4)式の水分収支式から求める。これら熱収支式(3)および水分収支式(4)の適用については、例えば、図3の平面プランから求めた各部屋の空間と小屋裏空間と床下空間とに、建物1棟の空間を分割し、各空間(各部屋(j室))間の熱および水分の移動の収支を計算する。また、各部屋の容積V,および部屋構成面積Sを用いて行う。この熱収支式(3)および水分収支式(4)は、各部屋ごとに立てる。
換気量の計算は、多数室を換気回路でモデル化し、各部屋に対して室内圧を仮定する方法で各開口部に作用する圧力分布を時間差毎に求めることで計算する方法を用いる。
式(7)は、n+1時間を含むθとXの項が未知数(求める値)となり、n時間を含むθとXの項が既知項(現在の値)である。この連立方程式を微小時間Δt毎に繰り返し計算することで、温度θと絶対温度Xの経時変化が得られる。前記「微小時間Δt」は、例えば「1分」とするなど、適宜に定める。
なお、式(7)から分かるように、前記式(1)、式(2)は、各接点と各部屋を含めて立てる。
なお、地理的な場所を示す地図の作成については、市販のソフトウェアを用いる。
細密なシミュレーション過程を加えることで、建物各部位の材料の種類、層構成を考慮でき、表層だけではなく下地材等の隠蔽部の劣化因子の物理量を知ることも可能となる。
建物1棟を基本とするシミュレーションのため、同時刻における方位の影響も考慮され、部位単独のシミュレーションを用いたような安全を見込んだ過剰な評価を避けることが可能となる。
個々の材料について経年による物性値変化を考慮すれば、より実際の経年劣化に則したマップの作成が可能になる。
建物側の部屋条件(用途、生活スケジュール)を揃えたマップができるため、地域の差(気象条件の差)の影響を正確でかつ短時間で知ることが可能になる。
建物の断熱性能等の仕様が異なっていても、再計算により簡単に、マップを作成できる。
・各地域について1回のシミュレーションで、シミュレーションモデル9における各断層毎のマップ、小屋裏、床下などの隠蔽部の温熱環境のマップ、季節ごとの換気量マップなどの作成が可能である。
・平均値のマップのみならず、最大、最小値など、目的に応じたマップの作成が可能である。
・異なる建物のプラン、断熱性能等の仕様に対応したマップ作成が、プランのデータや断熱仕様のデータの変更だけで可能になる。
・地域による仕様差や生活スタイル、家族構成などに影響されないマップの作成が可能である。
・住まい方の違いによるマップの作成が可能になる。
・実測では得られない、材料内の水分(含水率など)のマップの作成か可能になる。
・個々の材料について、経年による物性値変化を考慮すれば、より実際の経年変化に則したマップの作成が可能になる。
1A…情報処理装置
2…入力装置
3…出力装置
4…シミュレーションモデル記憶手段
5…劣化計算手段
6…マップ作成手段
7…入力処理手段
8…出力処理手段
9…モデル
9a…建物データ
9b…材料データ
9c…建設地データ
9d…スケジュールデータ
9e…換気部材のデータ
12a,14a,17a,20a…断層
30…マップ
Claims (10)
- 建物の部位の劣化因子の物理量を求めるシミュレーションシステムであって、
シミュレーションのモデルとして、前記建物の部位の材料構成を含む建物データ、前記材料の物性値を含む材料データ、前記建物の建設地の外気温および外気湿度を含む建設地データ、および前記部位の環境となる温度,湿度の変化に関するスケジュールデータを有するモデルを記憶したシミュレーションモデル記憶手段と、
材料内の熱変化および水蒸気の変化にそれぞれ関する所定の熱の変化方程式および水蒸気の変化方程式を用い、前記モデルから前記建物の部位の劣化因子の物理量を計算する劣化計算手段とを含み、
前記シミュレーションのモデルは、前記建物が複数の部屋を有する平面プランとされた平面プランデータを前記建物データとして含む建物の全体を示すモデルと、前記建物の各部位のモデルとで構成され、前記各部位のモデルは、前記建物の全体を示すモデルにおけるどの部位であるかを示すデータを有し、
前記劣化計算手段は、前記平面プランデータを、前記部位の前記劣化因子の物理量の計算に用いる
建物のシミュレーションシステム。 - 請求項1に記載の建物のシミュレーションシステムにおいて、前記シミュレーションモデル記憶手段は、前記建物データの前記材料構成を、前記部位を設定数の断層の多層体として示した材料構成とし、前記劣化因子量計算手段は、前記部位の前記各断層毎の前記劣化因子の物理量を計算する建物のシミュレーションシステム。
- 請求項1または請求項2に記載の建物のシミュレーションシステムにおいて、前記物理量を求める前記劣化因子は、建物の部位の温度、湿度、含水率のいずか一つまたは複数を含む建物のシミュレーションシステム。
- 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の建物のシミュレーションシステムにおいて、前記劣化計算手段は、前記熱の変化方程式および水蒸気の変化方程式の他に、前記建物の室内温度および室内湿度にそれぞれ関する所定の熱収支式および水分収支式を用いる建物のシミュレーションシステム。
- 請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の建物のシミュレーションシステムにおいて、前記シミュレーションモデル記憶手段は前記建物の換気部材のデータを有し、前記劣化計算手段は各部屋の換気量を、前記建物の部位の劣化因子の物理量の一つとして求める建物のシミュレーションシステム。
- 請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の建物のシミュレーションシステムにおいて、前記シミュレーションモデル記憶手段は、前記スケジュールデータとして、前記建物において熱および水蒸気を発生する量が変化するスケジュールを記憶し、前記劣化計算手段は、前記変化するスケジュールを反映させて前記建物の部位の劣化因子の物理量を求める建物のシミュレーションシステム。
- 請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の建物のシミュレーションシステムにおいて、前記劣化計算手段は、材料の経年による物性値変化を用いて前記建物の部位の劣化因子の物理量を求める建物のシミュレーションシステム。
- 請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の建物のシミュレーションシステムにおいて、前記劣化計算手段は、前記建物に生じる設定時間毎の変化の繰り返し計算によって前記建物の部位の劣化因子の物理量を求める建物のシミュレーションシステム。
- 請求項1に記載の建物のシミュレーションシステムにおいて、前記建物の部位が屋根または外壁であって、これら屋根または外壁のシミュレーションのモデルは、これら屋根または外壁を構成する材料毎の断層に分割され、かつ少なくとも一つの材料の断層については、さらに複数の断層に分割された建物のシミュレーションシステム。
- 建物のシミュレーションシステムを用いる建物の劣化因子マップの作成方法であって、 前記建物のシミュレーションシステムは、
建物の部位の劣化因子の物理量を求めるシミュレーションシステムであり、
シミュレーションのモデルとして、前記建物の部位の材料構成を含む建物データ、前記材料の物性値を含む材料データ、前記建物の建設地の外気温および外気湿度を含む建設地データ、および前記部位の環境となる温度,湿度の変化に関するスケジュールデータを有するモデルを記憶したシミュレーションモデル記憶手段と、
材料内の熱変化および水蒸気の変化にそれぞれ関する所定の熱の変化方程式および水蒸気の変化方程式を用い、前記モデルから前記建物の部位の劣化因子の物理量を計算する劣化計算手段とを含み、
前記建物のシミュレーションシステムを用いて、前記建物が建設される各地域毎に、その地域の気象条件となる外気温および外気湿度を前記シミュレーションモデル記憶手段に記憶させ、この記憶させた情報を用いて前記劣化計算手段により計算した結果である前記地域毎の前記建物の部位の劣化因子の物理量を、前記地域を示す図に関連付けた劣化因子マップを作成する建物の劣化因子マップの作成方法。
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