本発明の発電装置の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、熱伸縮発電装置20の構成の概略の一例を示す説明図である。図2は、複合自立膜10の構成の概略の一例を示す説明図である。熱伸縮発電装置20は、導体及び半導体の少なくとも一方の材質で形成された第1部材21と、複合自立膜10からなる第2部材22と、第1部材21と第2部材22とを動的接触させることにより生じた電力を外部回路へ取り出す動的発電手段としての動的発電部29と、を備えている。この発電装置20は、固定部23を介して固定されている第2部材22が、導電性を有する支持板25によって集積された構造を有している。この熱伸縮発電装置20では、第1部材21と第2部材22との2つの材料の仕事関数の差を駆動力とし、接触・離間時、又は摩擦時などの動的接触状態で界面に電荷移動が起き、これにより外部に電力を取り出すことができる。また、第2部材22としての複合自立膜10は、半導体層12と、繊維状及び/又はナノチューブ状の構造材料を含み柔軟性を有する構造保持層14とを備えている。この複合自立膜10は、例えば、第1部材21などからの熱を駆動力とし、湾曲状態と平坦状態とを繰り返す伸縮運動(以下、熱伸縮運動とも称する)を継続的に行うことができる。このように、熱伸縮発電装置20は、複合自立膜10の熱伸縮運動を電力に変換する熱電変換装置として構成されている。ここで、「動的接触」とは、一方が他方に対して動いて接触することをいい、例えば摩擦接触や、接触・離間の繰り返しなどを含む。
第1部材21は、導体及び半導体の少なくとも一方の材質で形成されており、第2部材22が接触可能である接触面21aを有する板状体の形状に形成されている。第1部材21は、例えば、金属、炭素部材、n型半導体、p型半導体、不純物をドープしたものであってもよいし、真性半導体などであってもよい。金属としては、例えば、Fe,Co,Niなどの遷移金属、Al,Znなどの典型金属、Pt,Auなどの貴金属、Na,Kなどのアルカリ金属、Mg,Caなどのアルカリ土類金属など、どのような金属で形成されていてもよい。このうち、資源量や化学安定性、導電性の観点から、遷移金属が好ましい。半導体としては、例えば、Si,GeなどのIV族半導体、ZnSe、CdS、ZnOなどのII−VI族半導体、GaAs、InP、GaNなどのIII−V族半導体、 SiC、SiGeなどのIV族化合物半導体、 CuInSe2(カルコパイライト系半導体)などのI-III-VI族半導体や、有機半導体などが挙げられる。なお、第1部材21は、板状体であるとしたが、第2部材22に接触可能な接触部分を有していれば、特にこれに限定されず、例えば、柱状体としてもよいし、基板に形成された膜状体としてもよい。
第2部材22は、可撓性を有する細長い板状体であり、一端が第1部材21に対して位置を固定する固定端であり、他端が第1部材21と動的に接触する自由端である。この第2部材22は、固定端側で支持板25に支持されて固定部23により固定されており、自由端側が伸縮により上下左右に移動可能となっている。この熱伸縮発電装置20では、第2部材22が櫛歯形状の櫛歯を形成しており、更にこの櫛歯が複数集積された構造に形成されている。第2部材22は、構造保持層14と、第1部材21と異なる材質で構造保持層14の表面に形成された半導体層12と、を備えた複合自立膜10からなる。この構造保持層14は、導電性を有する部材により形成されていることが好ましい。なお、「自立膜」とは、基体などに支持されていないシートや膜状体をいうものとする。
動的発電部29は、第1部材21と第2部材22とを固定する固定部23と、第1部材21に電気的に接続された第1端子26と、導電性を有する支持板25を介して第2部材22に電気的に接続された第2端子27と、を備えている。第1端子26は、第1部材21に配設されており、この第1端子26を介して外部回路と電気的に接続する。第2端子27は、支持板25に接合されていてもよいし、支持板25と一体成形されていてもよい。固定部23は、板状体、あるいは膜状体に形成されており、その裏面が第2部材22の上面(半導体層12側)に配設されている。支持板25は、絶縁体24を介して第1部材21の接触面21aに固定されている。この支持板25の上面には、導電性を有する構造保持層14が配設されている。絶縁体24及び支持板25は、第1部材21の接触面21aと第2部材22とが摩擦接触可能、接触・離間可能なクリアランスを有する厚さ及び形状に形成されている。この動的発電部29により、第2部材22の伸縮運動による第2部材22と第1部材21との動的接触により生じた電力を外部回路へ取り出し可能となっている。
ここで、複合自立膜10について詳細に説明する。複合自立膜10は、柔軟性(可撓性)を有しており、図2に示すように、繊維状及び/又はナノチューブ状の構造材料を含み柔軟性を有する構造保持層14と、構造保持層の表面に形成された半導体層12とを備えている。この複合自立膜10は、例えば、厚さが60μm以下としてもよいし、30μm以下としてもよいし、10μm以下としてもよい。この複合自立膜10では、繊維状及び/又はナノチューブ状の構造材料で構成された構造保持層14により半導体層12を保持するため、より薄膜化を図った状態であっても、破損などをより抑制して取り扱うことができる。
半導体層12は、例えば、半導体としてCu2ZnSn(S,Se)4(CZTS)、Cu2SnS3、Cu2(Sn,Ge)S3、Cu(In,Ga)Se2(CIGS)、Cu(In,Ga)(Se,S)2(CIGSS)、CuInS2(CIS)、CH3NH3PbI3系ペロブスカイト及び多孔質TiO2のうち1以上を含むものとしてもよい。CH3NH3PbI3系ペロブスカイトとしては、CH3NH3PbI3やCH3NH3PbBr3、CH3NH3Pb(Br,I)3、CH3NH3Pb(Cl,I)3などが挙げられる。この半導体層12は、膜状としてもよく、厚さが10μm以下としてもよく、5μm以下としてもよく、2μm以下としてもよい。また、半導体層12は、厚さが0.05μm以上であることが、発電力の観点からは好ましい。半導体層12の厚さは、使用場所や発電量などに応じて適宜設定すればよい。半導体層12は、詳しくは後述するが、太陽電池の素子構造の一部とすることができ、複合自立膜10を色素増感型太陽電池で用いるときには多孔質であることが好ましく、化合物半導体系太陽電池で用いるときには薄膜状であることが好ましい。なお、上記一般式の(A,B)は、(A1-nBn)(但し0≦n≦1)を意味する。
構造保持層14は、繊維状及び/又はナノチューブ状の構造材料を含んでいる。構造材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、窒化ホウ素ナノチューブ、窒化ホウ素ファイバー、セルロースナノファイバーのうち1以上を含むものとしてもよい。構造保持層14は、柔軟性を有すると共に、導電性を有するものがより好ましい。こうすれば、構造保持層14を電極として利用することが可能であり、構成の簡略化や複合自立膜10の薄膜化を図ることができる。また、構造保持層14は、膜状としてもよく、厚さが50μm以下としてもよく、20μm以下としてもよく、10μm以下としてもよく、5μm以下としてもよい。また、構造保持層14は、厚さが1μm以上であることが、複合自立膜10を取り扱う観点からは好ましい。
複合自立膜10は、所定の溶解剤に対して半導体層よりも溶解速度が速い犠牲層を基体上に形成し、犠牲層上に半導体層を形成し、繊維状及び/又はナノチューブ状の構造材料を含み柔軟性を有する構造保持層を前記半導体層上に形成したのち、犠牲層を溶解剤により溶解させ、複合自立膜を得る工程により作製されているものとしてもよい。このように、犠牲層を用いて作製すると、より簡便に複合自立膜10を作製することができる。
次に、複合自立膜10の製造方法について説明する。複合自立膜10の製造方法は、犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、半導体層を形成する半導体形成工程と、構造保持層を形成する保持層形成工程と、構造保持層を備えた複合自立膜を剥離する剥離工程とを含む。また、複合自立膜10の製造方法は、構造保持層14上に防湿層を形成する防湿層形成工程を含むものとしてもよい。図3は、複合自立膜10の作製方法の一例を示す説明図であり、図3(a)が犠牲層形成工程、図3(b)が半導体形成工程、図3(c)が保持層形成工程、図3(d)が剥離工程の説明図である。
犠牲層形成工程では、所定の溶解剤に対して半導体層12よりも溶解速度が速い犠牲層2を基体1上に形成する(図3(a))。こうすれば、のちの剥離工程において、複合自立膜をリフトオフしやすい。犠牲層2は、例えば、溶解剤による溶解速度が半導体層12よりも10倍以上大きいことが好ましい。基体1は、のちの工程において熱的及び化学的に安定な部材であることが好ましく、例えば、ガラスやセラミックスなどを用いることができる。犠牲層2は、半導体形成工程での半導体層の形成条件(高温、化学反応など)に耐えうる材料とする。例えば、基体1及び犠牲層2は、酸素雰囲気中、450℃以下で安定な材料とすることが好ましく、500℃以下で安定であることがより好ましい。この犠牲層2は、例えば、金属及び金属酸化物のうちいずれかを用いて形成することが好ましい。金属としては、例えば、Fe、Znなどが挙げられる。酸化物としては、酸化亜鉛などが挙げられる。このうち、酸化亜鉛が好ましい。この工程では、厚さ10nm以下の薄膜状、直径100nm以下の微粒子状、及び直径100nm以下の繊維状の材料のうちいずれか1以上を用いて犠牲層2を形成することが好ましい。こうすれば、溶解剤に対して溶解しやすくすることができ、のちの剥離工程において、複合自立膜10をより容易にリフトオフすることができる。この犠牲層2の厚さは、5μm以下としてもよく、1μm以下としてもよく、0.1μm以下としてもよい。この厚さは、0.05μm以上とすることが好ましい。なお、犠牲層2の形成において、微粒子状及び繊維状のうちいずれかの原料を用いる際には、溶解剤への接触面積など溶解性がより高いので犠牲層2の厚さは比較的厚くてもよい。一方、薄膜状(緻密状)の犠牲層2を形成する際には、溶解剤への接触面積など溶解性がより低いので犠牲層2の厚さは比較的薄くするとよい。犠牲層2は、例えば、犠牲層2の原料粒子とバインダーと溶媒とを混合したペーストを作製し、ドクターブレード法やスクリーン印刷法などにより基体1上に形成することができる。この溶媒は、例えば、水のほか、アルコールやアセトンなどの有機溶媒を用いることができる。バインダーは、例えば、セルロース系などの水系バインダーや、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素樹脂、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。この犠牲層2は、多孔質に形成することが、その後に除去しやすく好ましい。
半導体形成工程では、犠牲層2上に半導体層12を形成する(図3(b))。この工程では、Cu2ZnSn(S,Se)4、Cu2SnS3、Cu2(Sn,Ge)S3、CIGS、CIGSS、CIS、CH3NH3PbI3系ペロブスカイト及びTiO2のうち1以上を半導体層12の原料として用いることが好ましい。また、この工程では、半導体層12を厚さ10μm以下で形成してもよく、5μm以下で形成してもよく、2μm以下で形成してもよい。半導体層12は、厚さが0.05μm以上であることが、発電力の観点からは好ましい。半導体層12は、例えば、スパッタ成膜、CVD、真空蒸着、スピンコート法などにより犠牲層2上に形成することができる。この成膜方法は、作製する半導体材料にあったものを採用するのが好ましい。例えば、カルコゲナイド系(CZTS、CTS、CIGSなど)の半導体材料では、スパッタ成膜が好ましく、ペロブスカイト系の半導体材料では、真空蒸着やスピンコート法などが好ましい。あるいは、半導体層12は、ドクターブレード法やスクリーン印刷法などにより犠牲層2上に形成することができる。この工程では、半導体層12を緻密質に形成してもよいし、多孔質に形成してもよい。この工程では、複合自立膜10を色素増感型太陽電池で用いるときには半導体層12を多孔質に形成することが好ましく、化合物半導体系太陽電池で用いるときには半導体層12を薄膜状に形成することが好ましい。
保持層形成工程では、繊維状及び/又はナノチューブ状の構造材料を含み柔軟性を有する構造保持層14を半導体層12上に形成する(図3(c))。この工程では、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、窒化ホウ素ナノチューブ、窒化ホウ素ファイバー及びセルロースナノファイバーのうち1以上の構造材料を用いることが好ましい。この構造材料は、導電性を有することが好ましい。また、この工程では、半導体層12よりも厚い構造保持層14を形成することが好ましく、構造保持層14を厚さ20μm以下で形成してもよく、10μm以下で形成してもよく、5μm以下で形成してもよい。構造保持層14は、厚さが1μm以上であることが、複合自立膜10を取り扱う観点からは好ましい。構造保持層14は、例えば、スプレー法により半導体層12上に形成することができる。あるいは、構造保持層14は、ドクターブレード法やスクリーン印刷法などにより半導体層12上に形成することができる。このうち、スプレー法が好ましい。繊維状及び/又はナノチューブ状の構造材料を取り扱いやすいためである。スプレー法は、例えば、構造材料を溶媒に混合した溶液を半導体層12上に吹き付けるものとしてもよい。
剥離工程では、犠牲層2を溶解剤により溶解させ、半導体層12及び構造保持層14を備えた複合自立膜10を得る(図3(d))。溶解剤は、例えば、基体1、半導体層12及び構造保持層14の溶解速度が小さく、犠牲層2に対しての溶解速度がより大きいものが好ましい。この溶解剤は、例えば、酸溶液とすることが好ましく、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸などが挙げられ、塩酸が好ましい。酸溶液は、0.05〜1.0mol/Lの濃度であることが好ましい。犠牲層2の溶解時間は、溶解剤の種類及び濃度、犠牲層2の材質及び膜厚に応じて適宜設定されるが、例えば、1分以上60分以下とすることができる。
防湿層形成工程では、構造保持層14の背面側、且つ第1部材21と接触しない部位などに、湿気の流入を防止する防湿層を形成する。防湿層は、例えば、樹脂フィルムや、酸化物薄膜、窒化物薄膜、金属薄膜などが挙げられる。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などが挙げられる。酸化物薄膜としては、例えば、MgOやSiO2、Al2O3、Ta2O5などの薄膜が挙げられる。窒化物薄膜としては、例えば、AlNやSi3N4などの薄膜が挙げられる。金属薄膜としては、例えば、AlやAu、Ptなどの薄膜が挙げられる。この工程では、防湿層を厚さ0.01μm以上200μm以下で形成することが好ましく、0.05μm以上100μm以下で形成することがより好ましい。あるいは、構造保持層14の外部に露出した表面をフッ素化するなどしてもよい。この防湿層により、複合自立膜10の耐久性をより高めることができる。このように、複合自立膜10を作製することができる。
次に、こうして構成された熱伸縮発電装置20の発電動作について説明する。熱伸縮発電装置20は、例えば、熱を与えることにより第2部材22が熱的伸縮運動を行い、導体又は半導体で形成された第1部材21と、第1部材21と異なる部材で形成された第2部材22とが動的接触することにより、発電するものである。このように、熱伸縮発電装置20では、異なる材料が動的接触することにより生じた電力を取り出すことができる。熱伸縮発電装置20では、例えば、太陽光を接触面21aへ照射することや、地熱による温水などを第1部材21の内部を流通させること、燃焼装置やエンジンなど発熱する装置の近傍に第1部材21を配設することなど、複合自立膜10に熱を与えることにより、複合自立膜10が伸縮運動する。こうすれば、発電用ではない余剰のエネルギーなどを有効利用し、発電を行うことができる。なお、発電用の熱エネルギーを熱伸縮発電装置20へ積極的に与えて発電するものとしてもよい。この発電方法において、第1部材21と第2部材22とを動的接触させるに際して、第1部材21と第2部材22とを接触及び離間させるものとしてもよいし、第1部材21と第2部材22とを摩擦させるものとしてもよい。
この発電機構の詳細は、以下の機構が予想される。例えば、2つの材料の仕事関数の差により、接触・離間時、又は摩擦時などの動的接触状態において、2つの材料の界面に電荷移動が起き、一方の材料から他方の材料へ移動した電荷はそのまま外部回路へ輸送され、電力を取り出すことができるものと推察される。この発電機構では、仕事関数の差を駆動力にしていることから、おおよそ電荷は一方向に流れる。図4は、n型半導体と金属との接触・離間過程におけるバンドダイヤグラムの一例である。ここでは、半導体と金属とを用いた場合を一例として説明する。例えば、図4に示すように、仕事関数φMの金属と仕事関数φSの半導体とが動的接触する場合、接触させる瞬間、仕事関数の違いにより半導体から金属へ電子が移動し、それぞれのフェルミ準位が一致する(図4のEFSとEFM参照)。結果的に、半導体表面、即ち金属−半導体界面には、高さφM−φSのショットキー障壁が形成される。ダイオード応用などにはこのショットキー障壁を利用している。一方、接触を動的に繰り返した場合は、十分に検討されてはいないが、以下のように推察される。例えば、離間の瞬間、ショットキー障壁領域の空乏領域を埋めるように半導体の深い位置から表面へ電子が拡散し、電荷の空間分布が均一になる。外部負荷を無限大とすると、離間後は接触前と比べてフェルミ準位が下がった状態(イオン化状態)にある(図4のEFS→EFS’参照)。このポテンシャルが外部回路からキャリアを引っ張る駆動力となり、外部からキャリアがドリフトすることになる。したがって、接触・離間を繰り返すことにより、連続的にキャリアが外部回路を流れることになり、発電が起きるものと推察される。接触・離間と摩擦との違いについて考察すると、摩擦するときの互いの材料は常に接触しているが、上述と同様に離間過程が含まれているものと推察される。例えば、半導体を固定して金属を摩擦する場合を考える。この場合、初期接触位置Aには接触点を中心に空乏領域が形成され、次の瞬間その空乏領域から離れた場所へ移動すると次の接触位置Bに空乏領域が形成される。この瞬間が離間過程と同等であると考えられる。また、接触位置Aの空乏領域へその周辺からキャリアが拡散する。このように、接触位置Aから接触位置Bへ、又は接触位置Bから接触位置Aへの過程を繰り返すことにより、接触・離間を繰り返し行うことと等価になるものと推察される。このように、第1部材21と第2部材22とを動的接触させることによって、電荷はおおよそ一方向に流れ、発電が起きるものと推察される。そして、発電電圧の正負は、動的接触する第1部材の材質と第2部材の材質とにより定められるものと推察される。
この発電方法では、例えば、第1部材21と第2部材22とを動的接触させるに際して、第1部材21及び第2部材22をガス雰囲気中、真空中、液体中のうちいずれか1つの環境内で動的接触させてもよい。仕事関数の差を駆動力にしていることから、発電環境に影響されないものと推察される。ガス雰囲気としては、たとえば、大気中や、He,Arなどの不活性雰囲気中としてもよい。液体としては、例えば、水や、有機溶媒、油などとしてもよい。水としては、純水や水道水であってもよい。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、シクロヘキサンなどの炭化水素系の溶媒、メタノールやエタノールなどのアルコール、グリコールなどのジオール、アセトンなどのケトンなどとしてもよい。この発電方法によれば、例えば、従来なかったようなナノサイズなどの小型の発電装置を提供することができるものと推察される。また、電荷は比較的一方向に流れて発電が起きるため、整流装置などをより簡素化することができる。
複合自立膜10は、第1部材21の温度、外気温、複合自立膜10の大きさ(長さ)、半導体層12や構造保持層14の厚さなどが所定の条件を満たすと、湾曲状態と平坦状態とを繰り返す伸縮運動を継続的に行うものとなる。したがって、第1部材21(あるいは複合自立膜10)を、空間の温度よりも高い温度、例えば、40℃以上150℃以下の範囲などで加熱するものとすると、継続的に動的接触が起き、発電を継続することができる。これは、複合自立膜10が柔軟性を有し、半導体層12と構造保持層14との熱膨張係数に差があることにより発現する新規な現象である。この複合自立膜10の伸縮運動は、例えば、加熱された複合自立膜10がその熱膨張係数の差により湾曲状態になり、湾曲してより上部に位置した部位が外気で冷却されて湾曲状態が解除される、との繰り返しにより生じるものと考えられる。なお、熱伸縮発電装置20では、熱のみでなく、第1部材21と第2部材22とを動的接触すれば発電することができる。例えば、熱伸縮発電装置20は、音、液体、風及び熱のうち1以上を与えることにより第2部材22へ振動を与え、第1部材21と第2部材22とを動的接触させ、発電するものとしてもよい。
以上詳述した熱伸縮発電装置20では、半導体層12及び構造保持層14を有する複合自立膜10を備えており、その熱伸縮運動の継続によって、より発電することができる。また、複合自立膜10は、繊維状及び/又はナノチューブ状の構造材料を含む構造保持層14を有し、この構造保持層14に半導体層12を保持させたため、柔軟性を有し、より軽量である新規な複合自立膜10、熱伸縮発電装置20を提供することができる。また、繊維状及び/又はナノチューブ状の構造材料を含む構造保持層14により半導体層12を保持するため、作製時など取り扱い時の欠け、割れなど複合自立膜10の破損をより抑制することができる。更に、この構造保持層14を有することによって、例えば、紙のように、複合自立膜10の取り扱いをより容易にすることができる。更にまた、構造材料が導電性を有するカーボンなどである場合、構造保持層14を導電部材としてそのまま利用することができ、より構成を簡略化したり、例えば10μm以下など、厚さをより薄くすることができる。更にまた、犠牲層2を用いて複合自立膜10を作製するため、簡便に複合自立膜10を作製することができる。そしてまた、複合自立膜10は、例えば、炭素繊維など軽量な構造材料などにより形成され、薄膜であるため、発電装置をより軽量化することができる。
次に、複合自立膜10を用いた太陽電池シート11を第2部材22とした熱伸縮−光発電装置について説明する。図5は、熱伸縮−光発電装置30の構成の概略の一例を示す説明図である。図6は、柔軟性を有する太陽電池シート11の構成の概略の一例を示す説明図である。なお、上記熱伸縮発電装置20と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。熱伸縮−光発電装置30は、第2部材22が太陽電池シート11であり、固定部23が導電性を有する部材で形成され、固定部23に第3端子28が接続されている以外は、熱伸縮発電装置20と同様である。太陽電池シート11は、図6に示すように、複合自立膜10と、電解質層15と、光透過導電層16とを備えている。動的発電部29Bは、第1部材21と第2部材22とを固定する固定部23と、第1部材21に電気的に接続された第1端子26と、第2部材22の構造保持層14に電気的に接続された第2端子27と、第2部材22の光透過導電層16に電気的に接続された第3端子と、を備えている。
次に、太陽電池シート11について説明する。太陽電池シート11は、例えば、p型半導体とn型半導体を接合した化合物半導体系太陽電池としてもよいし、有機色素を用いた色素増感型太陽電池としてもよい。ここでは、まず、太陽電池シート11が色素増感型太陽電池である場合を説明する。図6に示すように、本実施形態に係る太陽電池シート11は、構造保持層14と、構造保持層14に形成された半導体層12と、半導体層12上に存在する電解質層15と、電解質層15上に存在する光透過導電層16とを備えている。太陽電池シート11において、半導体層12と構造保持層14とは、複合自立膜10を構成する。また、太陽電池シート11は、構造保持層14の背面側に形成された防湿層17と、複合自立膜10の端部側を封止するシール材18とが形成されている。
色素増感型太陽電池における半導体層12は、例えば、光増感剤である有機色素を含む多孔質のn型半導体層としてもよい。n型半導体としては、金属酸化物半導体や金属硫化物半導体などが適しており、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、硫化カドミウム(CdS)、硫化亜鉛(ZnS)のうち少なくとも1以上であることが好ましく、このうち多孔質の酸化チタンがより好ましい。これらの半導体材料を微結晶又は多結晶状態にして薄膜化することにより、良好な多孔質のn型半導体層を形成することができる。特に、多孔質の酸化チタン層は、光電極として好適である。また、酸化チタンとしては、伝導帯の下端のエネルギー準位がより高く、開放端電圧がより高いことから、ルチル型TiO2よりもアナターゼ型TiO2が好ましい。
有機色素は、受光に伴い電子を放出する色素である。有機色素は、多孔質の半導体層12の表面に吸着させるものとしてもよい。この吸着は、化学吸着や物理吸着等によって行うことができる。具体的には、多孔質の半導体層12へ有機色素を含む溶液を滴下して乾燥する方法や、多孔質の半導体層12を色素溶液に浸漬し乾燥する方法などにより作製することができる。この有機色素は、紫外光領域、可視光領域および赤外光領域、より好ましくは可視光領域に吸収を持つ増感特性を有していれば特に限定されるものではない。有機色素は、より好ましくは、少なくとも200nm〜1μmの波長の光により励起されて電子を放出するものであればよい。有機色素は、例えば、金属錯体であってもよい。有機色素としては、ロダニン構造を有する有機色素分子(例えば、化学式(1)の色素1)や、カルバゾール系色素、スクワリリウム系色素、メタルフリーフタロシアニン、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素等を用いることができる。また、金属錯体としては、例えば、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン、クロロフィルまたはその誘導体、ヘミン、ルテニウム、オスミウム、鉄及び亜鉛の錯体等が挙げられる。ルテニウムの錯体としては、例えば、シス−ジシアネート−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)(化学式(2)の色素2)などが挙げられる。
色素増感型太陽電池における構造保持層14は、上述した複合自立膜10と同様であり、その説明を省略する。この構造保持層14は、導電性を有することが好ましく、導電性を有する場合は、電極とすることができる。例えば、構造保持層14の表面に導電性を有する支持板25を設けることにより、太陽電池シート11で発電した電力をこの支持板25を介して利用することができる。また、構造保持層14の半導体層12とは反対側の表面に、対極を形成してもよい。対極としては、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、Pt、Au、カーボンなどが挙げられ、このうちカーボンが好ましい。
電解質層15は、例えば、電解液やゲル状の電解質を含むものとしてもよい。また、電解質層15には、添加剤を含むものとしてもよい。電解質層15に含まれる電解液は、酸化還元するヨウ素系化合物とヨウ素系化合物を溶解する溶媒とを含んでいる。ヨウ素系化合物としては、例えばヨウ素(I2)や、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨージド(PMII)、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド(DMPII)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムヨージド、1,3−ジメチルイミダゾリウムヨージドなどが挙げられる。このうち、ヨウ素とPMIIとの組み合わせや、ヨウ素とDMPIIとの組み合わせなどが好ましい。この電解質層15は、例えば、多孔質体に電解液を含むものとしてもよい。この多孔質体は、電解液を保持可能であり、電子伝導性を有さない多孔体であれば特に限定されず、例えば、多孔質体として、ルチル型の酸化チタン粒子により形成した多孔体を使用してもよい。
電解液に含まれる溶媒としては、例えば、イオン性液体とすることが好ましい。イオン性液体としては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(AMII−TFSI)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート(EMI−TCB)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BMI−BF4)などのイミダゾリウム塩が挙げられる。このイオン性液体を含むものとすれば、粘度をより好適な範囲とし、光電流や光電変換効率を更に向上させることができる。この溶媒の割合は、ヨウ素系化合物と溶媒との総和を100体積%とした場合に、5〜95体積%であることが好ましい。また、溶媒としては、イオン性液体に加えて又はこれに代えて、例えば、3−メトキシプロピオニトリル(MPN)、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、γ−ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロプレンカーボネート等のカーボネート系溶媒などのうち1以上を含むものとしてもよい。
光透過導電層16は、柔軟性及び光透過性を有する基材に導電膜が形成されたものとしてもよい。導電膜としては、例えば、酸化スズや酸化インジウム、酸化亜鉛に原子価の異なる陽イオン若しくは陰イオンをドープしたものなどが挙げられる。具体的には、導電膜としては、フッ素ドープ酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ(SnO2−Sb)、ITO、AlドープZnO(AZO)、GaドープZnO(GZO)などが挙げられる。基材は、例えば、樹脂フィルムとしてもよく、例えば、PTFEや、PP、PET、PC、PENなどが挙げられる。また、光透過導電層16としては、メッシュ状、ストライプ状など光が透過できる構造にした金属電極を基材表面に設けたものも使用できる。この光透過導電層16の表面に導電性を有する固定部23を設けることにより、太陽電池シート11で発電した電力をこの固定部23を介して利用することができる。この光透過導電層16は、厚さが0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.2μm以上1μm以下であることがより好ましい。また、光透過導電層16は、外部表面が防湿されていることが好ましい。
防湿層17は、湿気の流入を防止する層であり、例えば、樹脂フィルムや、酸化物薄膜、窒化物薄膜、金属薄膜などとしてもよい。樹脂フィルムとしては、例えば、PTFEや、PP、PET、PC、PENなどが挙げられる。酸化物薄膜としては、例えば、MgOやSiO2、Al2O3、Ta2O5などの薄膜が挙げられる。窒化物薄膜としては、例えば、AlNやSi3N4などの薄膜が挙げられる。金属薄膜としては、例えば、AlやAu、Ptなどの薄膜が挙げられる。この防湿層17は、厚さが0.01μm以上10μm以下であることが好ましく、0.05μm以上1μm以下であることがより好ましい。あるいは、構造保持層14の外部に露出した表面をフッ素化するなどしてもよい。この防湿層17により、複合自立膜10の耐久性をより高めることができる。この防湿層17は、複合自立膜10と第1部材21とが接触する部位以外に形成されているものとする。
シール材18は、太陽電池シート11の外周側を覆うように形成されており、電解質層15中に充填されている電解質が外部へ漏れ出すことを防止することを主な目的として設けられている。シール材18としては、例えば、絶縁性の部材であれば特に限定されずに用いることができ、ポリエチレン、アイオノマー樹脂等の熱可塑性樹脂フィルム、エポキシ系接着剤等を使用することができる。
太陽電池シート11は、その厚さが1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましい。また、太陽電池シート11の厚さは、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましい。複合自立膜10を備えることにより、太陽電池シート11をより薄くすることができる。
このように構成された太陽電池シート11に対して、光透過導電層16の受光面側から光を照射すると、有機色素が光を吸収して電子が発生する。太陽電池シート11では、この電子の移動により起電力が発生し、電池の発電作用が得られる。
次に、太陽電池シート11がp型半導体とn型半導体を接合した化合物半導体系太陽電池である場合について説明する。図7は、別の太陽電池シート11Bの構成の概略の一例を示す説明図である。この太陽電池シート11Bでは、外部全面に防湿層17Bが形成されたものを示すが、特にこれに限定されず、防湿層の形成はどのように行ってもよい。また、防湿層を省略するものとしてもよい。化合物半導体系太陽電池に用いる複合自立膜10Bでは、半導体層12はp型半導体層とすることが好ましい。また、太陽電池シート11Bでは、光透過導電層16と半導体層12との間にn型の半導体層16Bを備えるものとする。なお、p型の半導体層12と、n型の半導体層16Bとの間にバッファ層を備えるものとしてもよい。化合物半導体系太陽電池における半導体層12は、例えば、CZTS、Cu2SnS3、Cu2(Sn,Ge)S3、CIGS、CIGSS、CIS、CH3NH3PbI3系ペロブスカイトなどが挙げられる。また、n型の半導体層16Bとしては、TiO2、SnO2、ZnO、CdS、ZnSのうち少なくとも1以上が挙げられる。このように構成した太陽電池シート11Bにおいても、光を光透過導電層16側から照射することにより、太陽電池の発電作用が得られる。
以上詳述した熱伸縮−光発電装置30では、複合自立膜10を有する太陽電池シート11,11Bを備えており、繊維状及び/又はナノチューブ状の構造材料を含む構造保持層14を有し、この構造保持層14に半導体層12を保持させたため、柔軟性を有し、より軽量である新規な太陽電池シート11を提供することができる。また、複合自立膜10の熱伸縮運動による動的接触発電と、太陽光発電とを重畳することができ、より発電効率を高めることができる。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
例えば、熱伸縮発電装置20や熱伸縮−光発電装置30では、複合自立膜10や太陽電池シート11を多数備えたものとしたが、特にこれに限定されず、1以上の複合自立膜10や太陽電池シート11を備えるものとしてもよい。また、本発明の発電装置は、複合自立膜10と太陽電池シート11との両方を備えるものとしてもよい。また、本発明の発電装置は、色素増感型の太陽電池シート11と化合物半導体型の太陽電池シート11Bとの両方を備えるものとしてもよい。
以下には、複合自立膜を備えた本発明の発電装置を具体的に作製した例を実施例として説明する。
[実施例1]
多層カーボンナノチューブ(MWNT)膜とCu2ZnSnS4(CZTS)薄膜とを備えた複合自立膜を作製した。まず、粒径20〜30nmのZnO微粒子と、バインダーとしてのセルロースと、溶媒としてのアセチルアセトンとを混合し、犠牲層の原料ペーストとした。平坦なガラス基板上へドクターブレード法により、上記原料ペーストを用いて、ZnO微粒子により構成されたZnO多孔質膜(犠牲層)を形成した。なお、粒径は、電子顕微鏡(SEM)による観察値である。次に、450℃で焼成処理を行い、ZnO多孔質膜に含まれているバインダー成分を除去した。この犠牲層の厚さは、おおよそ1μmであった。次に、Cu2ZnSnS4(CZTS)を成形したスパッタターゲットを用いて、400℃で加熱しながら犠牲層の上にCZTS薄膜(半導体層)をスパッタ成膜した。CZTS薄膜の厚さは、1.5μmであった。続いて、構造材料としてのカーボンナノチューブ(名城ナノカーボン製MWNT Ink、溶媒:水、直径10nm)を用い、スプレー法により半導体層上に多層カーボンナノチューブ(MWNT)膜を形成し、100℃でこれを乾燥した。MWNT膜の厚さは、5〜10μmであった。そして、MWNT/CZTS/ZnO犠牲層/ガラス基板を、0.1Mの希塩酸に10分間浸漬し、MWNT/CZTS多層膜(複合自立膜)をガラス基板からリフトオフした。なお、MWNT膜を使わない場合、リフトオフプロセスでCZTS薄膜は割れてしまうことが多いが、MWNT膜を使ったこの本願実施例では、MWNT膜を使うことにより、CZTS薄膜の破損を防ぐことができた。このMWNT膜は、グルーの役割と、太陽電池の電極の役割を有する。作製した複合自立膜は、ピンセットや手でもつかむことができ、紙のように取り扱うことができ、ハサミのような刃物で細断することができた。図8は、作製した実施例1のMWNT/CZTS複合自立膜を斜めから観察したSEM写真である。図8に示すように、試料断面はハサミで切断したため、切断部の形状が荒れているが、MWNT/CZTS薄膜が積層構造になっていることがわかった。
[実施例1の太陽電池特性]
実施例1の複合自立膜のCZTS薄膜面に、n型の半導体層としてのCdS薄膜(膜厚100nm)、光透過導電層としてのZnO:Ga薄膜(膜厚200nm)、電極としてのAu薄膜(200nm)を順に室温でスパッタ成膜し、太陽電池自立膜とした。Au薄膜とMWNT膜は電極の役割を有し、このAu薄膜とMWNT膜とを電極とした。図9は、実施例1のCZTS太陽電池自立膜の外観写真と素子構造の断面模式図である。実施例1のCZTS太陽電池自立膜は、5.6cm×4.5cmの大きさで、膜厚は12μmであった。この実施例1のCZTS太陽電池自立膜を用いて太陽電池特性を検討した。図10は、実施例1のCZTS太陽電池自立膜の分光感度スペクトルである。図10では、縦軸は1つの入射フォトンに対する外部回路に取り出されるキャリア数の割合を、得られた最大値で規格化した値とした。図10に示すように、実施例1の太陽電池では、波長300〜1000nmまで分光感度が得られた。即ち、この波長範囲の電磁波(紫外光+可視光+一部の近赤外光)が電気エネルギーに変換できたことを示しており、太陽電池として動作していることが確認された。
[実施例2]
セルロースナノファイバーと多層カーボンナノチューブとを混合した構造保持層と多孔質TiO2薄膜(TiO2薄膜)とを備えた複合自立膜を作製した。構造材料としてセルロースナノファイバー(CNF、中越パルプ工業社製、竹セルロースナノファイバー)と実施例1のMWNT溶液とを1:1で混合した原料を用い、粒径20nmのTiO2微粒子(日揮触媒化成社製)を用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て、(CNF+MWNT)/TiO2多層膜(複合自立膜)を作製した。TiO2薄膜の厚さは、約1.5μmであり、CNF+MWNF混合膜の厚さは、5〜10μmであった。図11は、作製した実施例2の(CNF+MWNF)/TiO2複合自立膜の外観写真及び自立膜構造の断面模式図である。実施例2の(CNF+MWNF)/TiO2複合自立膜は、1.5cm×1.5cmの大きさで、膜厚は6〜11μmであった。このように、セルロースナノファイバーとカーボンナノチューブとを混合して用いた場合でも、複合自立膜を作製することができた。
[実施例2の太陽電池特性]
実施例2の複合自立膜のTiO2薄膜にRu錯体色素(色素2:N719)を表面吸着させ、光透過導電層としてSnO2:F薄膜(膜厚800nm)を形成したガラス板によりヨウ素電解液を封入し色素増感型太陽電池自立膜とした。なお、電極として、Pt板を用いた。実施例2の色素増感型太陽電池自立膜は、1.5cm×1.5cmの大きさで、膜厚は6〜11μmであった。この実施例2の色素増感型太陽電池自立膜を用いて太陽電池特性を検討した。図12は、実施例2の色素増感型太陽電池自立膜の分光感度スペクトルである。図12では、縦軸は1つの入射フォトンに対する外部回路に取り出されるキャリア数の割合を、得られた最大値で規格化した値とした。図12に示すように、実施例2の太陽電池では、波長300〜720nmまで分光感度が得られた。即ち、この波長範囲の電磁波が電気エネルギーに変換できたことを示しており、太陽電池として動作していることが確認された。
このように、本実施例の複合自立膜では、構造保持層が炭素質のナノチューブもしくはナノファイバーであり、柔軟性を有し、軽量且つ取り扱いが容易であった。また、本実施例の太陽電池自立膜では、柔軟性を有し、太陽電池として十分動作することが明らかとなった。
続いて、複合自立膜を備えた熱伸縮発電装置について検討した。この複合自立膜は、熱に反応するアクチュエーターとして振る舞うことが新たに明らかとなった。上記実施例1の複合自立膜(MWNT/CZTS自立膜)を熱源に近づけると湾曲した。図13は、複合自立膜を熱源へ近接離間させた際の様子を示す写真であり、図13(a)が熱源への接近前、図13(b)、(c)が接近中、(図13(d)が接近後の写真である。CZTS薄膜の熱膨張係数は、約12×10-6(/K)であり、ナノチューブの熱膨張係数はゼロに近いことから、この動作は、熱膨張係数の違いによる、例えばバイメタルのような機械偏位動作であると考えられる。熱源への近接前はほぼ直線状だった自立膜は(図13(a))、熱源へ近接したときにはMWNT側に湾曲した(図13(b))。また、複合自立膜の面を裏返しても、同様にMWNT側に湾曲した(図13(c))。熱源から離した際には、複合自立膜は、近接前と同様の形態に戻った(図13(d))。このように、構造保持層を備えた複合自立膜は、加熱、冷却に伴い、湾曲状態、平坦状態を繰り返すことがわかった。なお、CdS薄膜、ZnO:Ga薄膜及びAu薄膜を複合自立膜に成膜した実施例1の太陽電池自立膜においても同様の振る舞いが観察された。また、実施例2の複合自立膜でも同様であった。
次に、この実施例1の複合自立膜を10mm×3mmの大きさに切断し、平坦な熱源上に載置した。このとき、構造保持層(MWNT層)が熱源に対向するようにした。熱源は、温度150℃のホットプレートとし、このホットプレート上に平坦なガラス板を設置した。複合自立膜をこのガラス板上に載置した。図14は、複合自立膜を熱源上へ載置した際の様子を示す写真である。図14に示すように、複合自立膜を熱源に置いた瞬間、自立膜は縮まり弓なりに湾曲した。約0.5秒後に自立膜は伸びて曲率半径が大きくなり、更に約0.5秒後に縮まり曲率半径が小さくなった。複合自立膜は、熱源上において、おおよそこの時間間隔でこの伸縮動作を繰り返した。このような、一定温度の熱源に複合自立膜を設置したときに機械的伸縮を繰り返す、という現象はこれまで報告例がなく、新しい物理現象であると考えられた。詳しくは後述するが、単純なモデルを用いて計算を行ったところ、特定の幾何学スケールと温度条件において、この伸縮動作(熱アクチュエーション動作)が継続的に維持されることがわかった。
次に、この熱アクチュエーション動作による発電について、異種材料を動的接触させて発電する手法を用いて検討した。図15は、熱伸縮発電装置の概要及び発電結果の説明図である。図15(a)に示すように、熱伸縮発電装置は、第1及び第2電極としてPt箔を用い、実施例1の複合自立膜の一端を第1の電極上に固定する固定端とし、複合自立膜の他端を第2の電極上で自由に動ける自由端とした。2つのPt電極は、デジタルマルチメータに接続され、発生する電流と電圧をモニターしパソコン(PC)でデータ採取した。図15(b)に熱源温度60℃の発電特性、図15(c)に100℃の発電特性を示す。図15に示すように、この熱伸縮発電装置では、瞬間的に20nW以上の出力電力を示した。60℃の熱源を用い室温を25℃とすると、温度差35℃であっても電気エネルギーを取り出すことができることがわかった。このように、本発明の複合自立膜は、熱アクチュエーションエネルギーを電力に変換する熱電変換素子(熱伸縮−電力変換素子)として動作することが明らかとなった。なお、図15の出力電力の経時変化において、負方向の発電も見られたが、この原因は、構造保持層(MWNT層)が電極と接触している場合と、CZTS薄膜(半導体層)が電極と接触している場合とがあるためと推察された。もし、複合自立膜がピエゾのように交流出力であるならば、出力電力の時間積分値はゼロになる。しかしながら、本実施例では、出力電力を積分すると正の値を示した。したがって、本実施例の熱伸縮発電装置では、主として単極出力が得られ、整流回路は不要であるメリットがあることが明らかとなった。本実施例の熱伸縮発電装置では、コンデンサなどで平滑化させることが好ましく、また、素子形状の改良など、負方向の発電をより低減することが今後の課題である。
ここで、複合自立膜が熱により伸縮する機構について、その継続性などについてシミュレーションにより検討した。シミュレーションプログラムは、以下の仮定の元で作成し、このシミュレーションプログラムを用いて種々の条件下で計算を行った。
仮定:
1.試料は、異なる熱膨張係数αをもつ積層バイモルフ(細い短冊状)である。
2.試料の熱伸縮は、線熱膨張係数のみ考慮される。
3.試料を温度Thの熱源(平板)に置く。
4.熱源は、熱伝導により空気を温める。温度差による対流を無視する。
5.試料と熱源との接触による熱伝導を無視する。
6.試料の熱容量を無視する。即ち試料は一瞬で環境温度に変化するものとする。
7.試料の機械動作に関する時間を無視する(0秒で動作完了する)。
8.試料と熱源との摩擦を無視する。
9.試料、熱源への外乱を無視する。
10.試料の機械疲労を無視する。
11.試料の機械物性を無視する。
図16は、複合自立膜の形状変化の計算アルゴリズムである、形状変化シミュレーションの一例を示すフローチャートである。この形状変化シミュレーションでは、試料形状、試料の熱膨張係数、熱源温度Thなどの条件を設定し(ステップS100)、試料をN分割し(ステップS110)、分割した各セグメントの温度を計算し(ステップS120)、各セグメントの各温度での湾曲を計算する(ステップS130)。続いて、計算した各セグメントを接続し、それを座標変換して単一形状とし(ステップS140)、試料形状(座標値)を出力する処理を行う(ステップS150)。計算終了までこのステップS100〜S150の処理を繰り返し(ステップS160)、計算終了したときに終了する。具体的には、温度パラメータと複合自立膜の物性値(半導体層や構造保持層の熱膨張係数など)を初期値として設定し、初期の湾曲を試料の全領域の温度が熱源温度Thになったとして計算した。その後、複合自立膜の形状を高さ方向にN分割し、各セグメントの温度を計算した。そして、各セグメントの各温度での湾曲を計算し、全てのセグメントを接続して連続形状に変換した。この計算による形状変化を遷移回数1回として、M回遷移を繰り返し計算した。このアルゴリズムを用いた計算例を以下に示す。複合自立膜は、CZTSとMWNTとが貼り合わされたバイモルフとして計算した。自立膜の長さは1cm、CZTS薄膜の膜厚を1μm、線熱膨張係数を12×10-6(/K)、MWNTの膜厚を5μm、線熱膨張係数を1×10-6(/K)、熱源の温度を120℃、周囲の温度を25℃、空気の熱伝達率を15(51.1℃/mm)として計算した。
図17は、複合自立膜の形状及び形状変化の計算結果の説明図であり、図17(a)が初期の全体形状、図17(b)が複合自立膜の右半分の形状変化を計算した結果である。実際の複合自立膜は、図9、11に示すように短冊状だが、計算の簡易化のため、近似的に1次元の線状構造として検討した。図17(b)において、温度120℃で湾曲した形状が初期形状である(I)。この初期形状を高さ方向にN分割し、各セグメントの温度による伸縮を計算した結果、高さ方向に低くなる形状に変化した(II)。同様に伸縮を計算すると、高さ方向に高い形状に変化し、続いて高さ方向に低い形状に変化した(III→IV→…)。曲線上にプロットされた点は、計算に用いた分割点である。その後、遷移が100回繰り返し行われたときの形状を重ね書きしており、中間の形状に収束していく様子が確認された。このように、複合自立膜は、ある温度条件で伸縮を繰り返すことがわかった。この計算結果におけるy切片の値とx切片の値を、遷移数に対して描画した。図18は、複合自立膜のx切片及びy切片の変位継続性の計算結果の説明図である。図18(a)に示すように、100回遷移を繰り返しても、伸縮が繰り返すことがわかった。また、図18(b)に示すように、振幅は小さくなっていくが、1000回遷移しても伸縮を繰り返すことがわかった。
次に、上記と同様の幾何学条件において、空気の熱の伝わり方を意図的に変えることにより、伸縮が継続する条件について検討した。図19は、複合自立膜の変位継続性に関する条件の説明図であり、図19(a)が遷移数と複合自立膜のy切片との関係図、図19(b)が空間温度勾配の説明図である。熱源の温度を120℃とし、室温25℃まで変化する温度勾配を変えたところ、同じ形状であっても伸縮が続く場合とすぐに収束し停止する場合があることがわかった。図19(a)の点線は、空間温度が位置により変化している領域(勾配領域)と、一定の周囲温度(=室温:一定温度領域)の境界を示したものである。境界位置は、図19(b)に示す1.28mm、1.60mm、2.14mm、3.21mmである。各温度勾配条件での境界位置と、複合自立膜のy座標の最大値(ymax=y切片位置)との関係を見ると、伸縮振幅が境界位置の周囲に入っている場合は伸縮を繰り返し、伸縮振幅が境界位置の周囲から外れると収束に向かうことがわかった。例えば、温度勾配44.4℃/mmの条件では、境界位置yは、2.14mmであり、この条件でのymaxは約2.1〜2.3mmで変化しており、遷移数100でも伸縮状態が継続する。一方、温度勾配が29.6℃/mmの条件では、境界位置yは3.21mmであり、ymaxは約2.5mmであることから、伸縮振幅が境界位置の周囲に入っておらず、遷移数10回以内に伸縮が停止する。つまり、今回発見した複合自立膜の熱伸縮運動は、特定の温度領域に試料が存在する場合に起こる特異な現象であることがわかった。
図20,図21は、複合自立膜の変位継続性に関する膜厚及び温度条件の計算結果である。ここでは、複合自立膜の長さ1cm、材料1(半導体層,CZTS薄膜)と材料2(構造保持層,MWNT薄膜)の熱膨張係数をそれぞれ12×10-6(/K)、1×10-6(/K)として、材料1、2の膜厚を変化させたときの、99回目と100回目とのxmaxの差をマッピングした。ここでは、熱源の温度を100〜140℃とし、周囲の温度を25℃、空気の熱伝達率を15(51.1℃/mm)として計算した。xmaxは、複合自立膜のx座標の最大値(xmax=x切片位置)である。図20に示すように、膜厚が所定の範囲内で伸縮振幅が最大になることがわかった。この膜厚範囲は、熱源温度に依存し、熱源温度が下がるに連れて、最適膜厚範囲が減少することがわかった。また、膜厚が厚い場合は、すぐ収束して伸縮が停止し、膜厚が薄い場合は振幅が小さいことがわかった。この理由は、膜厚が厚すぎると湾曲しにくいため、前述した伸縮条件の一つである温度境界(勾配領域と一定温度領域との界面)付近で伸縮が起こらないためと思われる。膜厚が薄すぎる場合も同様に、湾曲しすぎて温度境界から外れるものと考えられた。なお、サーモスタット等で実用化されている従来のバイモルフは、膜厚が厚く、さらに意図的に温度勾配がある空間で稼働させていないので、このような現象は観察されなかったと思われる。また、従来の素子はサイズが大きく重いため熱容量が大きく、周囲の温度に敏感に反応しないことも、従来素子で本現象が現れなかった主な原因の一つと推察された。
図22は、複合自立膜の変位継続性に関する膜長さ条件の計算結果である。また、図23は、複合自立膜の変位継続性に関する膜長さに対する温度の計算結果である。ここでは、膜長さを変更した以外は、上述した図20,21での計算条件を採用した。図22に示すように、複合自立膜の長さが長すぎても短すぎても伸縮運動は収束し、所定範囲の長さで伸縮運動を繰り返すことがわかった。図19に示した温度境界は、図22の条件では2.12mmである。したがって、図22では、複合自立膜の長さが10mmのときに、伸縮振幅が境界位置をまたぐので、収束することなく伸縮し続けるものと推察された。図23では、各熱源温度Thと複合自立膜の長さとを変えたときの振幅(遷移99回目と100回目とのxmaxの差)を示した。前述したとおり、長すぎても短すぎても伸縮が停止し、ある温度と長さで伸縮をし続けることがわかった。この幾何学条件では、複合自立膜の長さが9〜11mmで、熱源温度が110℃〜150℃のとき、伸縮振幅が大きいことがわかった。
ここまでの検討では、熱源上に複合自立膜を置いて機械伸縮を調べた。周囲の環境の風の流れ等の外乱が機械伸縮の原因になっていることも考えられるため、密閉系で実験を行った。図24は、密閉容器中での複合自立膜の変位継続測定の説明図である。図24に示すように、熱源上においた伸縮し続けている複合自立膜に、密閉容器を被せた。すると、複合自立膜の伸縮が停止した。その後、密閉容器の上部に氷を置き、意図的に空間の温度勾配を形成した。その結果、複合自立膜は伸縮をはじめた。この結果から、複合自立膜の熱伸縮運動は、温度勾配によるものであり、外乱の影響は少ないことがわかった。以上のような熱伸縮運動は、熱源付近における対流については考慮していなかった。熱対流を考慮しなくても、シミュレーション結果から、特定の温度条件と試料の幾何学条件で伸縮することを明らかにした。しかしながら、現実的には熱源周囲には対流があるので、自立膜のような軽量の物質は対流の影響を受けないとはいえない。そこで、MWNTのみの自立膜を作製し、対流の影響について検討した。図3の作製手順において、CZTS薄膜を堆積せずにMWNTのみを堆積しリフトオフした試料を作製した。このように、同膜厚のMWNTにCZTS膜を付けたものと付けないものの2試料を作製し、熱源に置いて熱伸縮を観察した。図25は、複合自立膜と構造保持層との変位継続測定の説明図である。CZTS薄膜が有る複合自立膜では伸縮運動を繰り返したが、MWNTのみの薄膜では、全く動かなかった。即ち、熱対流の影響は少ないことがわかった。
このように、半導体層及び構造保持層を備えた複合自立膜では、所定の条件範囲において、熱伸縮運動を繰り返すことがわかった。また、上述した実施例1,2の太陽電池シートにおいても同様に熱伸縮運動を繰り返すことも明らかになった。したがって、図5のように、半導体基板表面に形成した絶縁体上に複合自立膜を固定し、複合自立膜の構造保持層に第1端子を接続し、半導体基板に第2端子を接続する。さらに、複合自立膜の半導体層に第3端子を接続する。このように、熱伸縮−光発電装置を構成すると、太陽電池動作による出力電力は、第1及び第3端子から取り出し、さらに太陽光で熱せられることにより複合自立膜が伸縮運動し、複合自立膜が半導体基板表面と動的接触することで、第1及び第2端子から出力電力を取り出すことができる。更に、このような素子をアレイ状に配置することにより、動的接触発電の電力を増加させる。このように、複合自立膜に、光発電素子と熱伸縮発電素子との両方の機能をもたせることができることがわかった。