本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
[A.概要]
まず、本実施の形態に従う動作識別方法の概要について説明する。図1は、本実施の形態に従う動作識別方法の概要を示す模式図である。図1を参照して、本実施の形態の動作識別方法は、教師あり学習を用いた識別手法を採用する。より具体的には、本実施の形態の動作識別方法は、学習工程および識別工程を有している。
学習工程では、被験者が何らかの動作を行なっている際に取得されるNIRS計測信号(図1の(1−1))と、その動作を示す動作情報(動作ラベル)(図1の(1−2))とを関連付けて収集し、これらのNIRS計測信号と動作情報(動作ラベル)とのペア(サンプル)を用いて学習を実施する(図1の(2))。この学習工程によって、識別器が構築される。この識別器の詳細については、後述する。
本明細書において、被験者の動作を示す動作情報は、予め定義された複数の動作のうち、いずれかの動作を被験者が行なっていることを示す情報に限らず、被験者が何らの動作も行なっていないことを示す情報、または、当該予め定義された複数の動作のいずれとも異なる動作を行なっていることを示す情報を含み得る。これらの情報は、いずれも学習工程において教師ラベルとなり得るからである。以下の具体例の説明においては、簡素な処理例として、被験者が、予め定義された複数の動作のうちいずれかの動作を行なっていることを示す情報を用いる場合を説明するが、これに限られるものではない。
識別工程では、被験者が何らかの(未知の)動作を行なっている際に取得されたNIRS計測信号を、予め構築した識別器に入力することで(図1の(3))、入力されたNIRS計測信号に対応する、最も確からしい動作が出力される(図1の(4))。すなわち、未知のNIRS計測信号から被験者の動作を識別または推定できる。
なお、本明細書において、「被験者」とは、NIRS計測信号を取得する対象となる人を包含するが、狭義の意味での実験においてNIRS計測信号を取得する対象となる人には限られない。本実施の形態に従う動作識別方法は、後述するように、各種の実用的な応用が想定されており、そのような応用においては、「被験者」とは、装置またはシステムを利用する「ユーザ」を含み得る。
[B.システム構成例]
次に、本実施の形態に従う動作識別方法を実現するためのシステム構成例について説明する。図2は、本実施の形態に従う動作識別方法を実現するためのシステム構成例を示す模式図である。本実施の形態の動作識別方法は、典型的には、図2に示される動作識別システム1によって実現される。
動作識別システム1は、主として、携帯型コントローラ2と、センサ本体3と、動作観察装置4と、情報処理装置5とからなる。携帯型コントローラ2およびセンサ本体3は、被験者への装着が可能に構成されたセットであり、この両者をまとめて、携帯型計測装置と称する場合もある。すなわち、携帯型計測装置は、被験者の頭部に近赤外光を照射することで取得される脳活動を示す信号であるNIRS計測信号を情報処理装置5へ送信する。被験者は、本実施の形態に従う携帯型計測装置を装着した状態で移動できるので、通常の生活環境内で日常生活の動作を行なっている被験者の計測が可能である。
センサ本体3は、被験者の頭部に装着され、NIRS計測信号を取得するための複数のプローブを含む。より具体的には、センサ本体3は、近赤外光を頭部の内部に向けて照射する送光プローブ、および、照射された近赤外光が脳内で透過・反射して生じる近赤外光を受光する受光プローブを含む。センサ本体3には、脳波計測(EEG)を行なうための少なくとも一対の電極が組み込まれていてもよい。センサ本体3の詳細については、後述する。
携帯型コントローラ2は、典型的には、所定のアダプタなどで被験者に装着されるとともに、センサ本体3に接続される。携帯型コントローラ2は、主たるコンポーネントとして、制御部200と、発光部202と、検出部204と、A/D(Analog to Digital)変換部206および210と、増幅器208と、通信部212と、バッテリ220とを含む。
発光部202および検出部204は、NIRS計測信号を取得するために、センサ本体3に配置される送光プローブおよび受光プローブとそれぞれ接続される。発光部202は、近赤外光を発生する光源であり、その発生させた近赤外光を、光ファイバを介して送光プローブへ送出する。検出部204は、受光プローブで受光されて光ファイバを介して伝播された近赤外光を検出する。検出部204は、受光した近赤外光に含まれる予め定められた複数の波長での強度のそれぞれを出力し、または、受光した近赤外光の予め定められた波長範囲についての強度スペクトルを出力する。検出部204から出力された信号(アナログ信号)は、A/D変換部206でデジタル信号に変換されて、制御部200へ与えられる。
増幅器208は、脳波計測を行なうためのコンポーネントであり、センサ本体3に組み込まれた電極と電気的に接続される。増幅器208は、電極間に生じる電気信号を増幅して、A/D変換部210へ出力する。A/D変換部210は、増幅器208からの電気信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換して制御部200へ与える。ただし、増幅器208およびA/D変換部210は、本実施の形態に従う動作識別方法において必須の構成ではないので、省略可能である。
制御部200は、携帯型コントローラ2での処理を中心的に実行するコンポーネントであり、発光部202に対して、必要なタイミングで近赤外線の発生を指示するとともに、A/D変換部206からの信号を予め定められた変換関数を用いて換算した上で、通信部212を通じて情報処理装置5へ送信する。より具体的には、制御部200は、検出部204での検出量(すなわち、光子量)を、変換関数を用いて、酸化ヘモグロビン(以下、「OxyHb」とも略称する。)および還元ヘモグロビン(以下、「deOxyHb」とも略称する。)の濃度変化量として数値化する。この濃度変化量としての数値化の具体的手順については、公知技術であるので、ここでは詳細な説明は行なわない。
検出部204での検出量を、OxyHbおよびdeOxyHbの濃度変化量に変換する処理については、情報処理装置5で実行するようにしてもよい。すなわち、携帯型コントローラ2は、検出部204での検出生信号を情報処理装置5へ送信し、情報処理装置5がOxyHbおよびdeOxyHbの濃度変化量を算出してもよい。
通信部212は、情報処理装置5との間で各種情報を遣り取りするコンポーネントである。本実施の形態においては、通常の生活環境内で日常生活の動作を行なっている被験者を計測するので、携帯型コントローラ2と情報処理装置5との間は、無線通信によって情報を遣り取りする。典型的には、通信部212は、無線LANやBluetooth(登録商標)などの汎用的な無線通信方式に従って、情報処理装置5との間を遣り取りする。
バッテリ220は、携帯型コントローラ2を構成する各コンポーネントに対して電源を供給する。バッテリ220は、再充電可能になっていることが好ましい。
動作観察装置4は、学習工程において必要な、被験者の動作を示す動作情報(動作ラベル)を取得するために、被験者の行動を観察する。動作観察装置4は、主たるコンポーネントとして、撮像部400と、動画像収集部402と、位置・動き認識部404とを含む。
撮像部400は、学習工程において被験者を撮像できる位置に配置されている。動画像収集部402は、撮像部400から出力された動画像を時系列に格納する。位置・動き認識部404は、動画像収集部402に格納された動画像を解析して、被験者の動作を特定するために必要な情報を出力する。より具体的には、位置・動き認識部404は、画像内に存在する被験者およびその主要部位(例えば、顔)の位置、ならびに、骨格の位置およびそれらの間の相対位置関係などを認識して、その認識結果を出力する。位置・動き認識部404としては、たとえば、マイクロソフト社のKinect(登録商標)を用いることもできる。なお、位置・動き認識部404に相当する機能は、動作観察装置4ではなく、情報処理装置5に組み入れてもよい。
被験者が移動する範囲が広い場合には、撮像部400として、複数のカメラを配置してもよい。複数の撮像部400を配置する場合には、それぞれが出力する動画像のタイムスタンプを互いに同期させておくことが好ましい。
図2には、被験者の行動を観察する具体的手法として、被験者を撮像することで得られる動画像を用いる例を示すが、別の手法として、被験者に装着したマーカを検出する方法を採用してもよい。
情報処理装置5は、携帯型コントローラ2から受信するNIRS計測信号、および、動作観察装置4から受信する被験者の動作を特定するための情報を用いて、学習工程および識別工程(図1参照)を実現するための処理を実行する。情報処理装置5の詳細については、後述する。
[C.NIRSおよびセンサ本体3]
次に、NIRS計測信号を取得するためのセンサ本体3について説明する。図3は、本実施の形態に従うセンサ本体3を被験者に装着した状態を示す外観図である。図4は、本実施の形態に従うセンサ本体3のプローブおよび計測部位を示す模式図である。図5は、本実施の形態に従うセンサ本体3による計測部位を示す模式図である。
図3を参照して、被験者の頭部に装着されるセンサ本体3は、複数のプローブユニット32,33,34,35を含み、これらのプローブユニットはフレーム31によって位置決めされる。プローブユニット32,33,34,35の各々は、一対の送光プローブおよび受光プローブを含む。
本実施の形態においては、頭頂から側頭部の間にある運動野周辺にプローブを配置する。より具体的には、脳波の電極配置に用いる国際10−20法において中心部(central)として定義されているC3およびC4の近傍に、複数のプローブが配置される。C3およびC4に相当する運動野の中心は手足の運動に関わる部分であるとの本願発明者らの知見に基づいて、これらの近傍に複数のプローブが配置されている。C3が左運動野に相当し、C4が右運動野に相当する。図4には、被験者の頭頂部から見たC3およびC4の位置を示し、図5(A)には、被験者の側面側から見たC3およびC4の位置を示し、図5(B)には、被験者の背後側から見たC3およびC4の位置を示す。
本実施の形態に従うセンサ本体3は、8チャネルのNIRS計測信号を取得できるようになっている。図4に戻って、C3の近傍にプローブユニット32および33が配置される。プローブユニット32は、送光プローブ321および受光プローブ322を含み、プローブユニット33は、送光プローブ331および受光プローブ332を含む。これらのプローブは、C3を中心とした対角状に互い違いに配置されている。
送光プローブ321から照射された近赤外光は、脳内で透過・反射し、その結果生じる近赤外光は、受光プローブ322および332で受光される。この近赤外光の伝搬する経路が計測点(チャネル)に相当する。図4に示す配置例では、送光プローブ321から受光プローブ322までの伝搬経路にある部分がチャネル1(ch1)となり、送光プローブ321から受光プローブ332までの伝搬経路にある部分がチャネル2(ch2)となる。同様に、送光プローブ331から受光プローブ322までの伝搬経路にある部分がチャネル3(ch3)となり、送光プローブ331から受光プローブ332までの伝搬経路にある部分がチャネル4(ch4)となる。
同様に、C4の近傍にプローブユニット34および35が配置される。プローブユニット34は、送光プローブ341および受光プローブ342を含み、プローブユニット35は、送光プローブ351および受光プローブ352を含む。上述したのと同様に、送光プローブから受光プローブまでのそれぞれの伝搬経路にある部分がチャネル5(ch5)〜チャネル8(ch8)となる。
計測部位としては、C3およびC4に限られることはなく、別の計測部位にプローブを配置してもよいし、別の計測部位を追加してもよい。また、計測点(チャネル)の数や位置についても、識別器の構築精度および処理速度などを考慮して適宜設計できる。
[D.情報処理装置5]
次に、学習工程および識別工程を主として実行する情報処理装置5について説明する。図6は、本実施の形態に従う情報処理装置5のハードウェア構成を示す模式図である。
情報処理装置5は、典型的には、汎用的なアーキテクチャに従うコンピュータを採用することができる。図6を参照して、情報処理装置5は、主たるコンポーネントとして、プロセッサ500と、主メモリ502と、無線通信インターフェイス504と、有線通信インターフェイス506と、表示部508と、入力部510と、補助記憶装置520とを含む。これらのコンポーネントは、内部バス512を介して互いにデータを遣り取りできるように接続されている。
プロセッサ500は、補助記憶装置520に格納されている各種プログラムに含まれるコードを指定される順序に実行することで、後述する各種機能を実現する。主メモリ502は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などで構成され、プロセッサ500で実行されるプログラムのコードやプログラムの実行に必要な各種ワークデータを保持する。
情報処理装置5は、通信機能を有しており、この通信機能は、主として、無線通信インターフェイス504および有線通信インターフェイス506によって提供される。
無線通信インターフェイス504は、主として、携帯型コントローラ2(図2)との間で各種情報を遣り取りするためのコンポーネントであり、典型的には、無線LANやBluetooth(登録商標)などに従う通信モジュールからなる。有線通信インターフェイス506は、主として、動作観察装置4(図2)との間で各種情報を遣り取りするためのコンポーネントであり、典型的には、インターネットプロトコルに従う通信モジュールからなる。有線通信インターフェイス506は、識別工程において、未知のNIRS計測信号を他の情報処理装置から受信したり、識別結果を他の情報処理装置へ出力したりする。
表示部508は、典型的には、ディスプレイなどで構成され、情報処理装置5における処理の実行状態や操作に係る各種情報をユーザへ通知する。入力部510は、典型的には、マウスまたはキーボードなどで構成され、ユーザからの操作を受付ける。
補助記憶装置520は、典型的には、ハードディスクまたはSSD(Solid State Drive)などで構成され、プロセッサ500にて実行される各種の情報処理プログラムおよび受信した各種情報を保持する。より具体的には、補助記憶装置520は、計測情報格納領域522が確保されている。計測情報格納領域522には、携帯型コントローラ2から受信するNIRS計測信号524および脳波計測信号526、ならびに、動作観察装置4から受信する位置・動き認識信号528が格納される。
補助記憶装置520には、さらに、信号処理モジュール530と、動作ラベル付与モジュール532と、識別器生成モジュール534と、識別器定義データ536と、識別モジュール538とが格納される。信号処理モジュール530は、計測情報格納領域522に格納される、NIRS計測信号524を用いて学習工程を実施するために必要な特徴量の抽出処理(前処理)を実行する。動作ラベル付与モジュール532は、動作観察装置4から受信する位置・動き認識信号528に基づいて、被験者の動作を特定し、その動作のタイミングまたは期間を示す情報(典型的には、開始時刻および終了時刻)とともに、その動作の種類を特定する動作情報(動作ラベル)を出力する。識別器生成モジュール534は、信号処理モジュール530からのNIRS計測信号と、動作ラベル付与モジュール532からの動作情報(動作ラベル)とを用いて、識別器を構築する。識別モジュール538は、任意のNIRS計測信号を識別器に入力することで、当該入力されたNIRS計測信号に対応する動作を推定する。
このように、情報処理装置5では、信号処理モジュール530、動作ラベル付与モジュール532、識別器生成モジュール534、および識別モジュール538を含む、情報処理プログラムが実行されることになる。
構築された識別器の定義は、識別器定義データ536として格納される。後述するように、識別器定義データ536としては、1または複数の判別関数の定義を含む。
図6には、プロセッサ500がプログラムを実行することで、本実施の形態に従う動作識別方法を実現する構成例について説明したが、これに限られることなく、本発明に係る製品または方法が現実に実装される時代の技術水準に応じた構成を適宜採用することができる。たとえば、図6に示す情報処理装置5が提供する機能の全部または一部をLSI(Large Scale Integration)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路を用いて実装してもよいし、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの再プログラム可能な回路素子を用いて実装してもよい。さらにあるいは、図6に示す情報処理装置5が提供する機能を複数の処理主体が互いに協働することで実現してもよい。たとえば、情報処理装置5が提供する機能の実質的全部または一部がネットワーク上のサーバ装置によって提供されるようにしてもよい。サーバ装置がすべての機能を提供する場合には、情報処理装置5は、携帯型コントローラ2および動作観察装置4とサーバ装置との間のインターフェイスとしてのみ機能することになるが、そのような場合であっても、本発明の技術的範囲に含まれ得る。
[E.学習工程および識別器]
次に、本実施の形態に従う動作識別方法において実行される学習工程のより詳細な手順、およびそれによって構築される識別器について説明する。
図7は、本実施の形態に従う情報処理装置5での学習工程に係る機能構成を示す模式図である。図7に示す各機能は、典型的には、情報処理装置5が情報処理プログラム(含:信号処理モジュール530、動作ラベル付与モジュール532、識別器生成モジュール534、および、識別モジュール538(図6参照))を実行することで実現される。すなわち、図7に示す情報処理装置5において、信号処理モジュール530は、バンドパスフィルタ処理5302と、信号抽出処理5304と、信号整形処理5306とを実現するためのコードを含む。動作ラベル付与モジュール532は、動作認識処理5322および動作データベース5324とを実現するためのコードを含む。識別器生成モジュール534は、学習処理5342を実現するためのコードを含む。識別モジュール538は、識別処理5382を実現するためのコードを含む。
バンドパスフィルタ処理5302は、携帯型計測装置(携帯型コントローラ2およびセンサ本体3)から取得したNIRS計測信号に対して、特定の周波数帯域の成分を抽出する。上述したように、本実施の形態に従うセンサ本体3は、一例として、8チャネルのNIRS計測信号(OxyHbおよびdeOxyHbをそれぞれ8チャネル分)を75msec周期(13.3Hz)で取得することができる。なお、被験者に装着された携帯型計測装置から、被験者の頭部に近赤外光を照射することで取得される脳活動を示す信号であるNIRS計測信号を受信する機能は、無線通信インターフェイス504(図6)が提供する。
バンドパスフィルタ処理5302は、これらのNIRS計測信号のうち、0.01〜0.2Hzの成分を抽出する。バンドパスフィルタ処理5302は、バンドパスフィルタを用いて、このような特定の周波数帯域の成分を抽出する。バンドパスフィルタとしては、任意のものを採用することができるが、たとえば、バターワースフィルタを用いることができる。以下に示す実験例では、4次のバターワースフィルタを用いた。
図8は、脳内の血流に含まれる周波数成分を示す模式図である。図8に示すように、脳内の血流には、人間の生命維持や体動に伴うノイズ成分(アーチファクト)が生じ得る。たとえば、0.01Hz付近には、心臓からの血液吐出に伴う血圧変動に由来するノイズ成分が生じ、1.0Hz付近には、心臓の鼓動に由来するノイズ成分が生じる。また、1.0Hzより高い周波数帯域において、体を動かすこと(体動)によるノイズ成分が生じ得る。バンドパスフィルタ処理5302は、NIRS計測信号からこれらのノイズ成分を除去して、脳活動に由来する特徴量を抽出する。
なお、被験者が頭を動かすことで、センサ本体3および血液に何らかの傾きが生じ、その傾きによってNIRS計測信号にノイズ成分が生じる場合もあり得る。このような場合には、センサ本体3自体または被験者の頭部にその傾きを検出するセンサ(加速度センサおよび地磁気センサなど)を装着し、そのセンサの検出値に基づいて、NIRS計測信号に含まれるノイズ成分を低減または打ち消すようにしてもよい。
図7に戻って、動作認識処理5322は、動作観察装置4により取得された情報から被験者の動作を特定する。より具体的には、動作認識処理5322は、動作データベース5324を参照して、動作観察装置4から受信した位置・動き認識信号528にマッチする動作を特定する。動作認識処理5322は、特定した動作を示す動作ラベルと、その動作が行なわれた期間(開始時刻および終了時刻)を出力する。動作が開始された時刻が、動作開始タイミングとして扱われる。なお、動作認識処理5322は、被験者が、位置・動き認識信号528にマッチするいずれの動作も行なっていないことを特定してもよい。
本処理例においては、動作認識処理5322は、動作観察装置4から被験者の行動の記録を取得して、予め定義された複数の動作のうちいずれかの動作を被験者が開始したタイミングを特定し、そのタイミングの情報を出力する。予め定義された複数の動作のうちいずれかの動作が開始されたときのNIRS計測信号のみを用いることで、より効率的な学習が可能になる。
なお、動作認識処理5322が出力する動作ラベルおよびそのタイミングについては、外部の装置から入力、または手動で入力するようにしてもよい。
動作データベース5324には、被験者に限らず複数人について、通常の生活環境内での日常生活の動作を示す位置・動き認識信号に含まれる特徴量が、対応する動作ラベルと関連付けて格納されている。動作認識処理5322は、入力された位置・動き認識信号528に含まれる特徴量を抽出し、その抽出した特徴量とマッチする情報を検索し、マッチする情報が存在すれば、それに関連付けられる動作ラベルを出力する。
被験者の動画像から時間ごとの動作を特定する技術については、任意の公知の技術を採用できる。動作認識処理5322に代えて、実験者またはその補助者などが、被験者を撮像した動画像を見ながら、または、目視判断で、動作ラベルを付与するようにしてもよい。
信号抽出処理5304は、携帯型計測装置から受信する脳活動を示す信号であるNIRS計測信号のうち、所定期間の信号成分を抽出する。より具体的には、信号抽出処理5304は、動作認識処理5322が検出した動作開始タイミングに従って、バンドパスフィルタ処理5302から出力されるフィルタ後のNIRS計測信号(時系列信号)のうち、学習工程に必要な部分を抽出する。すなわち、信号抽出処理5304は、特定された動作開始タイミングを基準とする所定期間の信号成分を抽出する。
以下、情報処理装置5でのNIRS計測信号に含まれる特徴量を抽出する方法をいくつか例示する。
(1)第1の特徴量抽出処理(時系列信号の平均化)
図9は、本実施の形態に従うNIRS計測信号の第1の特徴量抽出処理を説明する模式図である。図9を参照して、動作認識処理5322から何らかの動作の動作開始タイミングが指示されると、信号抽出処理5304は、その動作開始タイミングを基準にして、予め定められた時間範囲のNIRS計測信号を抽出する。本実施の形態においては、一例として、時間幅を5秒とするウィンドウ5241を、動作開始タイミングの20秒前から動作開始タイミングの35秒後までシフトさせて順次設定する。たとえば、シフト間隔を1秒とすれば、一動作あたり、55個のウィンドウ5241が設定される。そして、信号整形処理5306(図7)がウィンドウ5241の各々に含まれる信号成分と対応する動作ラベルとの組み合わせ(学習用のベクトルデータであるサンプル5308(図9))が、一つの情報の単位として、識別器へ入力される。
信号整形処理5306は、抽出された信号成分と当該信号成分に対応する被験者の動作を示す情報とを関連付けたサンプルを生成する。
なお、被験者が何らの動作も行なっていないことを示す情報、または、当該予め定義された複数の動作のいずれとも異なる動作を行なっていることを示す情報を用いる場合には、そのような条件に合致する所定期間のNIRS計測信号を任意または所定規則に従って抽出し、それを用いてサンプルを生成してもよい。
信号整形処理5306は、好ましくは、ウィンドウ5241の各々に含まれる信号成分を時間方向に平均化し、OxyHbおよびdeOxyHbのそれぞれのチャネルごとに1つの代表値をもつように整形した上で、対応する動作ラベルを付与して、サンプル5308を生成する。すなわち、脳活動を示す信号であるNIRS計測信号は、複数の計測点(チャネル)においてそれぞれ計測された複数の時系列信号を含んでいる。この複数の時系列信号は、同一の計測点(チャネル)において計測される、OxyHbおよびdeOxyHbの濃度変化の信号を含む。信号整形処理5306は、各サンプル5308の時刻を基準とする所定の時間幅に関して、複数の時系列信号(NIRS計測信号の各チャネル成分)をそれぞれ時間方向に平均化することで、サンプル5308の要素として、複数の計測点(チャネル)のそれぞれの代表値を算出する。図9に示すサンプル5308では、時間×チャネルの2次元データが1次元データ(各チャネルの代表値のセット)に圧縮されている。
(2)第2の特徴量抽出処理(時系列信号の標準化)
図10は、本実施の形態に従うNIRS計測信号の第2の特徴量抽出処理におけるサンプルの生成方法を説明する模式図である。図11は、本実施の形態に従うNIRS計測信号の第2の特徴量抽出処理におけるNIRS計測信号と動作ラベルとの組み合わせの生成処理を説明する模式図である。
図10(A)には、上述の第1の特徴量の抽出処理の概要を示し、図10(B)には、第2の特徴量の抽出処理の概要を示す。上述したように、第1の特徴量の抽出処理では、所定の時間幅(例えば、5秒)を有するウィンドウ5241を設定し、NIRS計測信号(OxyHbおよびdeOxyHbの濃度変化量)の各々を時間方向に平均化することで得られる平均値を1サンプル(代表値)として算出する。
これに対して、第2の特徴量の抽出処理では、所定の時間幅(例えば、5秒)を有するウィンドウ5242を所定時間ΔTずつずらしてNIRS計測信号に設定し、各ウィンドウ5242に含まれる信号成分を標準化し、その結果を1サンプルとして算出する。
標準化処理によって、各ウィンドウ5242内に含まれるNIRS計測信号の時間的変化を正規化した特徴量ベクトルを生成できる。すなわち、各ウィンドウ5242に含まれる信号成分は、平均が「0」であって、分散(標準偏差)が「1」となるようにその値(振幅)が調整される。標準化処理においては、同一の期間内に取得された特徴量ベクトルの全体、すなわち同一の期間内に取得された特徴量ベクトルの全体の平均が「0」となるように、各要素の値を調整することが好ましい。
このような標準化を行なうことで、各サンプルが示す時間的変化(特徴量)を正規化することができる。これによって、別の時間または別のソースから得られた他のサンプルとの間でそれぞれが示す特徴量の重みを均一化でき、サンプル間のばらつきによる誤差を低減できる。
より具体的な処理例としては、動作開始タイミングの5秒前から動作開始タイミングの10秒後までの間に、時間幅Tを5秒とするウィンドウ5242を0.25秒(所定時間ΔT)ずつシフトさせて順次設定するとともに、各ウィンドウ5242内のNIRS計測信号をLデータポイントまでダウンサンプリングした上で、Z変換を実行することで、1つのサンプルを生成する。たとえば、センサ本体3の取得周期が75msec周期(13.3Hz)であれば、1つのウィンドウ5242内には66データポイントが含まれ、これを、6ポイントごとにダウンサンプリングすることで11データポイントからなる特徴量ベクトルを生成できる。そして、この特徴量ベクトルの各要素の振幅を標準化する。この例では、動作開始タイミングを含む15秒間に60個のウィンドウ5242が設定される。
上述のように、脳活動を示す信号であるNIRS計測信号は、複数の計測点(チャネル)においてそれぞれ計測された複数の時系列信号を含んでいる。信号整形処理5306は、サンプルを生成するための各ウィンドウ5242の終了時刻tを基準とする所定の時間幅(ウィンドウ5242の時間幅T)に含まれる複数の時系列信号を標準化することで、複数の計測点のそれぞれの特徴量を算出する。すなわち、ウィンドウ5242ごとに抽出される所定期間の信号成分は、各サンプルの時刻を基準とする所定の時間幅(時間幅T)に含まれる複数の時系列信号を標準化することで算出される、複数の計測点のそれぞれの特徴量を含むことになる。
図11を参照しつつ、具体的な標準化の一例についてさらに詳述する。各ウィンドウ5242の終了時刻をtとして、その終了時刻tから66個のデータポイントを抽出し、さらに6ポイントごとにダウンサンプリングすることでサンプルを得る。このような手順によって得られた、OxyHbおよびdeOxyHbの濃度変化量のサンプルをそれぞれxOxy,C(t)およびxdeOxy,C(t)と表す。ここで、tは、対応するウィンドウ5242の終期を示し、Cは、計測点(チャネル)を示す。
1つの動作開始タイミングに関連付けて取得されるデータポイントの群は、(2×チャネル数)×Lの行列X(t)として表すことができる。本実施例では、2種類×8チャネルの濃度変化で16となる。また、Lは、1つのウィンドウ5242内にあるダウンサンプリング後のデータポイントの数を示す。
ここで、Δtは、ダウンサンプリングした後のデータポイント間隔を示す。
最終的に、1つの動作開始タイミングに関連付けて設定されるウィンドウ5242のそれぞれに関して、上述の処理を繰り返すことで、以下のような行列Zが取得される。
Zn,k(t+(k−1)Δt)≡Yn
ここで、kは、動作開始タイミングに関連付けて設定されるウィンドウ5242の番号を示す(k=1,2,…,s)。さらに、各ウィンドウ5242の行列Zに、対応するラベルYnを付与する。このようにして取得される、特徴量ベクトルと対応する動作ラベルとの組み合わせを用いて、識別器を生成する。
以上のとおり、第2の特徴量抽出処理においては、同一の期間内に取得された特徴量ベクトル(図11の符号5243)の要素間で、振幅の時間的な変動を標準化する。すなわち、1つの特徴量ベクトルを構成する要素をそれらの全体平均値(オフセット)で除算した上で、その変動量が正規化される。このような標準化処理によって、特徴量ベクトル間でその中に含まれる変動量の大きさを整合させて、特徴量ベクトルのもつ情報を適切に識別器に反映させることができる。
(3)第2の特徴量抽出処理の変形例
上述の第2の特徴量抽出処理では、同一の期間内に取得された、OxyHbおよびdeOxyHbの濃度変化量を示す特徴量ベクトルに対して、標準化処理が行なわれる。すなわち、標準化(オフセットの除去および変動量の正規化)の対象は、共通のウィンドウ内のNIRS計測信号である。ただし、これに限られず、標準化処理の単位は認定に設定できる。
図12は、本実施の形態に従うNIRS計測信号の第2の特徴量抽出処理の変形例におけるNIRS計測信号と動作ラベルとの組み合わせの生成処理を説明する模式図である。図12に示す例では、同一の期間内に取得されたOxyHbについての特徴量ベクトル(図12の符号5244)と、deOxyHbについての特徴量ベクトル(図12の符号5245)とが生成され、それぞれの特徴量ベクトルに対して標準化処理が行なわれる。すなわち、OxyHbの特徴量ベクトルの要素間でオフセットの除去および変動量の正規化が行なわれ、これとは独立して、deOxyHbの特徴量ベクトルの要素間でオフセットの除去および変動量の正規化が行なわれる。
OxyHbとdeOxyHbとの間では、変動量の絶対値に大きな差があるような場合には、計測信号の種類の別に標準化処理を行なうことが好ましい。すなわち、一方の計測信号の変動が他方の計測信号の変動に比較して大きい場合などには、当該他方の計測信号に対する重みが相対的に低下し得るが、別々に標準化処理を行なうことで、このような影響を排除した識別器を生成できる。
さらに別の変形例として、複数の特徴量ベクトルについて標準化処理を行なってもよい。たとえば、1つの動作開始タイミングに関連付けて取得されるすべての特徴量ベクトル(図12に示す符号5246)を対象として標準化処理を行なってもよい。これらの特徴量ベクトルには、いずれも同一の動作ラベルが付与されるので、同一の動作ラベルが付与される特徴量ベクトルの間で標準化処理を行なうことで、時間経過に伴う変動の情報を反映した識別器を生成できる。すなわち、時間的変動(時系列信号の変動パターン)についてのチャネル間の相関情報を反映した識別器を生成できる。
上述の特徴量の抽出処理(前処理)は、情報量を圧縮することによる演算量の低減、および、ノイズ成分の低減による識別精度の向上を目的としている。ただし、識別器のアルゴリズムおよび演算速度が許容するのであれば、このような前処理は必ずしも必要ではなく、NIRS計測信号をそのまま用いて学習を実行してもよい。
図7に戻って、学習処理5342は、複数の動作についてそれぞれ生成されたサンプル5308を用いた学習により、動作についての識別器(学習モデル)を構築する。この構築された識別器の情報は、識別器定義データ536として格納される。
識別器としては、たとえば、線形入力に対するパターン識別器を用いることができる。このようなパターン識別器としては、サポートベクターマシン(Support vector machine:SVM)、スパースロジスティック回帰(Sparse Logistic Regression:SLR)、線形判別分析(Linear Discrimination Analysis:LDA)などが知られている。ただし、教師あり学習に適用できるのであれば、どのような識別器を用いてもよい。
以下のいくつかの実験例では、上述の3種類のパターン識別器を用いた結果を示す。本願発明者らの研究によれば、識別器は、サポートベクターマシン(SVM)に従う判別関数によって定義されることが好適である。サポートベクターマシンでは、入力されるサンプル5308で示される多次元空間内の各点との距離が最大となる超平面を算出し、その算出した超平面に基づいて1または複数のパターン判別関数を定義する。
[F.サポートベクターマシンおよび識別工程]
次に、典型例として、サポートベクターマシン(SVM)に従う識別器の構築手順について説明する。説明の便宜上、2つのクラスのパターン判別を目的とした識別器の構築について例示する。
図9に示すサンプル5308に相当する学習用ベクトルxi(i=1,…,l)は、2クラスのいずれかに属しているとし、その属しているクラスを示す教師ラベルyiは、{1,−1}の2値をとるものとする。SVMによる2値判別(クラス判別)は、以下の(1)に示すような最適化問題として定式化することができる。
ここで、φは、高次元の特徴空間への写像を意味し、C(>0)は、正規化のための変数である。wTφ(xi)+bは、パラメータwおよびbによって定義される判別関数である。上述の(1)式の解法にあたっては、以下の(2)式に示すような等価な双対問題に変換し、これを解く。
ここで、e=[1,…,1]Tは、要素すべてが1のベクトルであり、Qは、l×lの正の値をとる行列Qij≡yiyjK(xi,xj)であり、K(xi,xj)≡φ(xi)Tφ(xj)は、カーネル関数である。双対問題の解αが得られると、主の最適化問題の解wは、以下の(3)式で与えられる。
この(3)式を用いると、判別関数は、カーネル関数を用いて、以下の(4)式のようになる。
つまり、上述の(4)式に示される判別関数の1または複数によって識別器が構築され、判別関数の各々を定義するためのパラメータが識別器定義データ536(図6)に格納される。本明細書において、「識別器」とは、典型的には、1または複数の判別関数に基づいて定義されるロジックを意味する。
識別工程では、識別対象のデータ(ベクトルx)を判別関数に入力し、そのときの判別関数の正負に基づいて、ベクトルxを2クラスのいずれかに分類する。
上述したように、複数の種類の動作を識別する場合には、3クラス以上のいずれかに分類する必要がある。この場合には、判別関数(2クラス識別器)を想定され得る組み合わせだけ用意する、one−against−one法を用いることができる。
クラス数をkとすると、2クラスの組み合わせは、k(k−1)/2通りになり、その各々についてSVMによる2クラス識別器(判別関数)を決定する。何らかのデータ(ベクトルx)が属するクラスについて、k(k−1)/2個の判別関数を、それぞれ投票結果として用いて、最大の得票数を得たクラスをその入力されたデータが属するクラスであると判別する。
識別処理5382では、任意の脳活動を示す信号(未知のNIRS計測信号)を識別器に入力することで、当該入力された信号に対応する動作を推定する。なお、識別処理5382において、被験者が何らかの動作を開始したこと判断し、その動作の開始タイミングを基準としてNIRS計測信号を抽出し、それを識別器するような処理は必要なく、被験者から連続的に取得されるNIRS計測信号を、連続的に識別器へ入力するようにしてもよい。この場合、識別器からは、何らかの結果が連続的に出力されるが、この連続的に出力される結果のうち、信頼性が高い結果のみを選択して最終的に出力するようにしてもよい。ただし、以下の実験例のいくつかにおいては、その実験の目的から、被験者が予め定義された複数の動作のうちいずれかの動作を開始したタイミングを基準とした所定期間のNIRS計測信号を識別器に入力している。
以上説明したような装置構成を用いて、本願発明者らが各種実験を行なった結果を以下に示す。
[G.実験結果(第1の実験)]
まず、第1の実験として、被験者に、実環境実験施設にて、7種類の日常生活の動作(テレビのリモコン操作、エアコンのリモコン操作、読書、冷蔵庫の開け閉め、歯磨き、ポットのお湯を入れる、床掃除)を繰り返し行なってもらい、携帯型計測装置(携帯型コントローラ2およびセンサ本体3)を用いてそのときのNIRS計測信号を取得した。併せて、実験中の被験者を撮像した動画像に基づいて、7種類の動作のうちいずれかの動作が行なわれた時間帯および行なわれた動作を特定し、その特定した動作を対応する時間帯のNIRS計測信号に関連付けて、学習工程を実施した。
第1の実験では、被験者に対して、行なうべき7種類の日常生活については指示しておいたものの、いずれの動作を行なうかについては、被験者の自由意思に委ねた。
第1の実験においては、7種類の動作をランダムに10回ずつ繰り返し行ってもらい、NIRS計測信号と動作ラベルとの組み合わせを70ペア取得した。そのうち、63ペア(9回分)を用いて学習工程を実施し、残りの7ペア(1回分)を用いて識別工程での識別精度を評価した。
(g1:NIRS計測信号)
図13は、第1の実験において取得されたNIRS計測信号の時間波形の一例を示す図である。図13には、被験者がエアコンのリモコン操作を行なった際に取得されたNIRS計測信号の時間波形を示し、図4に示す計測点(チャネル)に対応付けた位置に、チャネル1〜8(ch1〜ch8)について取得された時間波形のグラフを配置している。図13に示す各時間波形としては、エアコンのリモコン操作を開始したタイミング(動作開始タイミング)を基準(0秒)として、その前後にある−25秒〜35秒の間の、OxyHbおよびdeOxyHbの濃度変化を示す。ただし、縦軸は任意単位である。また、図13の各時間波形は、10回分の結果を、時間軸を一致させて平均化(加算)したものである。
図13に示すように、各時間波形について、動作開始タイミングの前後を比較すると、OxyHbおよびdeOxyHbのいずれの濃度変化についても、識別可能な変化が生じていることがわかる。本実施の形態に従う動作識別方法では、被験者の動作開始に伴って生じる、OxyHbおよびdeOxyHbの濃度変化を特徴量として識別器を構築する。
(g2:識別能力についての評価)
第1の実験において取得されたNIRS計測信号を対して、識別器として、線形判別分析(以下、「LDA」とも略称する。)、サポートベクターマシン(以下、「SVM」とも略称する。)、スパースロジスティック回帰(以下、「SLR」とも略称する。)の3つのそれぞれを用いて、学習工程および識別工程を実施した結果を示す。後述するいくつかの実験においても、3種類の識別器を用いたそれぞれの結果を合わせて示す。
図14は、第1の実験において取得されたNIRS計測信号に対する学習工程および識別工程の結果を示す図である。図14の各グラフの横軸は、動作開始タイミングを基準(0秒)とした時間軸であり、図9に示すウィンドウ5241(すなわち、入力される特徴量)の開始時刻が各測定結果の時刻となっている(たとえば、0秒のデータは、0〜5秒間のNIRS計測信号の平均値に相当する)。各グラフの縦軸は、識別精度(%)を示す。
図14(A)〜(C)は、学習工程の結果を示すグラフであり、図14(D)〜(E)は、識別工程の結果を示すグラフである。図14(A)および(D)は、OxyHbのみで、それぞれ学習工程および識別工程を実施した結果を示し、図14(B)および(E)は、deOxyHbのみで、それぞれ学習工程および識別工程を実施した結果を示し、図14(C)および(F)は、OxyHbおよびdeOxyHbの両方を用いて、それぞれ学習工程および識別工程を実施した結果を示す。すなわち、図14(A)および(D)、ならびに、図14(B)および(E)は、図9に例示するサンプル5308の上側の成分のみ、および、下側の成分のみを用いた例に相当する。
図14(A)〜(C)に示す、学習工程の識別精度は、学習工程によって構築した識別器に対して、その学習工程に用いたデータを再度入力した場合の精度を示す。本実験例では、63ペア(9回分)を用いて識別器を構築した後、63ペア(9回分)をその構築した識別器に入力した場合の識別結果の適否を評価したものに相当する。
図14(A)〜(C)を参照すると、いずれの結果についても、動作開始タイミングから5秒後あたり(0〜5秒間のNIRS計測信号の平均値)の波形を特徴量として用いることで、十分に高い識別精度を得られていることがわかる。すなわち、動作開始タイミングから5秒後以降のNIRS計測信号を用いることで、線形識別性の高い識別器を構築できていると判断できる。OxyHbおよびdeOxyHbのうち一方のみを用いる場合(図14(A)および(B))には、情報量が少なくなるので、OxyHbおよびdeOxyHbの両方を用いる場合(図14(C))に比較して、識別精度は低下しているが、それでも、チャンスレベルCL(本実験例では、7種類の動作を行なったので7分の1の確率)より十分に高い値を達成できていることがわかる。
また、図14(D)〜(F)を参照すると、いずれの場合およびいずれの識別器についても、動作開始タイミングから5秒後あたり(0〜5秒間のNIRS計測信号の平均値)の波形を特徴量とすることで、十分に実用に耐え得る識別精度を得られていることがわかる。
ただし、SVMの識別精度は、LDAおよびSLRのそれに比較して優れていると言える。すなわち、図9に示すようなサンプル5308を用いる場合には、SVMを識別器として用いることが好ましい。LDAおよびSLRについてみれば、学習工程後の識別精度は高いので、本実験例では、いわゆる過学習が生じていると判断することもできる。実験条件や学習条件を調整することで、過学習を回避して、SVMと同様に、実用的に用いることもできる。
(g3:複数の被験者についての評価)
上述した第1の実験を複数の被験者に対してそれぞれ実施し、それによって得られた結果を用いて、学習工程および識別工程を実施した結果を示す。
図15は、第1の実験において複数の被験者から取得されたNIRS計測信号に対する学習工程および識別工程の結果を示す図である。上述の図14と同様に、図15の各グラフの横軸は、動作開始タイミングを基準(0秒)とした時間軸であり、縦軸は、識別精度(%)を示す。なお、識別器としては、SVMを用いた。
図15(A)〜(F)は、図14(A)〜(F)と同様に、OxyHbのみで学習工程を実施した結果、deOxyHbのみで学習工程を実施した結果、OxyHbおよびdeOxyHbの両方を用いて学習工程を実施した結果、OxyHbのみで識別工程を実施した結果、deOxyHbのみで識別工程を実施した結果、ならびに、OxyHbおよびdeOxyHbの両方を用いて識別工程を実施した結果、をそれぞれ示す。
図15(A)〜(F)の各々において、5人の被験者それぞれから取得されたNIRS計測信号を用いて構築した識別器の識別精度を薄線で示し、5人の被験者それぞれから取得されたNIRS計測信号の平均値を用いて構築した識別器の識別精度を実線で示す。
最終的に用いられることが想定される、OxyHbおよびdeOxyHbの両方を用いた識別工程の結果(図15(F))を参照すると、被験者の間での個人差はあるものの、動作開始タイミングから5秒後あたり(0〜5秒間のNIRS計測信号の平均値)の波形を特徴量とすることで、被験者別および平均値のいずれを用いても十分な識別精度が得られていることがわかる。すなわち、図15(F)に示すいずれの結果についても、動作開始タイミングから5秒後あたりでは、チャンスレベルCLに対して十分高い値を達成できていることがわかる。
この実験結果を見れば、必ずしも被験者別に識別器を構築する必要はなく、複数の被験者からそれぞれ取得されたNIRS計測信号を用いて、共通の識別器を構築するような実施形態も可能であると言える。
(g4:第1の実験のまとめ)
第1の実験によれば、日常生活の動作を行なっている被験者から、NIRS計測信号と動作情報(動作ラベル)とのペア(サンプル)を予め取得して学習工程を実施して識別器を構築すれば、わずか8チャネルのNIRS計測信号だけで動作を識別(推定)できる。非特許文献1に開示されるような機能的近赤外分光脳計測(fNIRS)を用いる場合に比較して、計測点(チャネル)を少なくできるので、計測装置の携帯性を高めることができ、より実用的な動作識別を実現できる。
第1の実験においては、被験者が自身の意思で次に行なうべき動作をランダムに決定することで取得されたNIRS計測信号を用いて識別器を構築でき、その構築した識別器で十分に高い識別精度を実現できる。すなわち、本実施の形態に従う動作識別方法では、被験者が、複数の動作のうちから自身で任意に決定した動作を行なったときに取得される脳活動を示す信号(NIRS計測信号)、から生成されたサンプルを用いて、識別器が構築される。このような方法で取得されたNIRS計測信号を用いることができるので、通常の生活環境内で日常生活の動作を行なっている被験者の動作の識別(推定)に適した識別器を構築できるとともに、識別器の構築(学習工程)に要する手間を低減できる。
また、本実施の形態に従う動作識別方法では、同一の計測点(チャネル)において計測されたOxyHbおよびdeOxyHbの情報を同一のサンプルに組み入れて識別器の構築(学習工程)を実施するので、識別器の識別精度を高めることができる。
従来の研究では、指をタッピングしたり、掌を開閉したりするような、通常の生活環境ではあまり用いない特殊な動作を識別することが主目的とされていたが、本実施の形態では、生活環境内で日常生活の動作を行なっている被験者の計測が可能であり、様々なアプリケーションに適用できる。
[H.実験結果(第2の実験)]
次に、第2の実験として、実験者が次に何の動作をするのかランダムに指示したことに応答して、被験者が指示された動作を行なう場合(以下、「Instructed条件」とも略称する。)と、予め定義された複数の動作のうち、被験者の自由意思で選択した動作を行なう場合(以下、「Active条件」とも略称する。)とに場合分けした上で、学習工程および識別工程を実施した。図16は、第2の実験におけるInstructed条件およびActive条件を説明する模式図である。図16(A)に示すように、Instructed条件では、実験者が被験者に対して次に行なうべき動作をランダムに指示し、図16(B)に示すように、Active条件では、被験者が自身の意思で次に行なうべき動作をランダムに決定する。
本実験においては、学習工程および識別工程の間では、互いに異なる条件下で取得されたNIRS計測信号を用いた。すなわち、Instructed条件下で取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した後、Active条件下で取得されたNIRS計測信号を用いて識別工程での識別精度を評価するとともに、その逆の場合についても実施した。
より具体的な第2の実験の条件としては、被験者に、実環境実験施設にて、3種類の日常生活の動作(テレビのリモコン操作、エアコンのリモコン操作、読書)について、Instructed条件下およびActive条件下でそれぞれ30回繰り返し行なってもらった。第2の実験では、先に、Instructed条件下で30回繰り返し、続いて、Active条件下で30回繰り返した。ただし、動作開始タイミングの前後にある−5秒〜10秒の間の濃度変化を用いた。
図17は、第2の実験においてInstructed条件下で取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した後、Active条件下で取得されたNIRS計測信号を用いて識別工程を実施した結果を示す図である。図18は、第2の実験においてActive条件下で取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した後、Instructed条件下で取得されたNIRS計測信号を用いて識別工程を実施した結果を示す図である。
図17(A)〜(F)および図18(A)〜(F)は、上述の図14(A)〜(F)と同様に、それぞれOxyHbのみで学習工程を実施した結果、deOxyHbのみで学習工程を実施した結果、OxyHbおよびdeOxyHbの両方を用いて学習工程を実施した結果、OxyHbのみで識別工程を実施した結果、deOxyHbのみで識別工程を実施した結果、OxyHbおよびdeOxyHbの両方を用いて識別工程を実施した結果、を示す。
最終的に用いられることが想定される、OxyHbおよびdeOxyHbの両方を用いた識別工程の結果(図17(F)および図18(F))を参照すると、Instructed条件下およびActive条件下でそれぞれ取得されたNIRS計測信号のうち、学習工程および識別工程においていずれを用いたとしても、識別器の種類にかかわらず、チャンスレベルCL(本実験例では、3種類の動作を行なったので3分の1の確率)を超える値を達成できていることがわかる。
特に、識別器としてSVMを用いた場合には、チャンスレベルCLを大きく上回って、3種類の動作を90%近くの識別精度で識別できていることがわかる。
上述の第2の実験の結果によれば、被験者の意図的な要因がない場合(Instructed条件)と、被験者の意図的な要因がある場合(Active条件)との間で、識別器に決定的な影響を与えることはないと判断できる。この知見によれば、たとえば、Instructed条件下で、被験者に、識別対象となるそれぞれの動作を行なってもらい、そのときに取得されるそれぞれのNIRS計測信号を用いて識別器を構築し、その構築した識別器を用いて、通常の生活環境内での日常生活の動作を識別することもできる。
すなわち、被験者が、複数の動作のうちから自身で任意に決定した動作を行なったときに取得される脳活動を示す信号(NIRS計測信号)、から生成されたサンプルを用いて、識別器を構築できる。あるいは、被験者が、複数の動作のうちから予めランダムに指定される動作を行なったときに取得される脳活動を示す信号(NIRS計測信号)、から生成されたサンプルを用いて、識別器を構築できる。これらの方法を選択的に採用できるので、状況に応じて、学習工程の時間および手間を効率化でき、本実施の形態に従う動作識別方法を実用化する際の障壁を取り除くことができる。
[I.実験結果(第3の実験)]
上述の第1および第2の実験では、被験者が日常生活の動作を行なった際に取得されるNIRS計測信号を用いて、学習工程および識別工程を実施したが、このような状況で取得されるNIRS計測信号をより詳細に分析するために、以下の第3の実験を実施した。
第3の実験の詳細としては、被験者の頭の動きを抑制した状態とそうでない状態とをそれぞれつくり、取得されるNIRS計測信号の違いを評価した。被験者の頭の動きを抑制した状態は、実験室での計測に近い状況であり、取得されるNIRS計測信号の主成分は、脳活動に由来する成分になると考えられ、頭の動きを抑制しない状態は、実環境での計測に近い状況であり、取得されるNIRS計測信号の主成分は、脳活動に由来する成分および体動に由来する成分の合計になると考えられる。すなわち、第3の実験の第一義的な趣旨としては、取得されるNIRS計測信号に含まれる成分を確認することである。
(i1:頭の動きを抑制した状態)
第3の実験において、被験者の頭の動きを抑制した状態をつくるために、被験者の頭をあご台で固定した上で、以下に説明する、Instructed条件下およびPassive条件下にて、NIRS計測信号をそれぞれ取得した。なお、被験者には、テレビのリモコン操作(右腕を前に出す)、エアコンのリモコン操作(右腕を右斜め前に挙げる)、読書(両手で本を開く)、左手を挙げる、の4種類の日常生活の動作を行なってもらった。
図19は、第3の実験におけるInstructed条件およびPassive条件を説明する模式図である。図19(A)に示すように、Instructed条件では、実験者が次に何の動作をするのかランダムに指示したことに応答して、被験者が指示された動作を行なう。図19(B)に示すように、Passive条件では、実験者が次に何の動作をするのかランダムに指示したことに応答して、介助者が被験者の腕を動かす。このとき、被験者は、可能な限り力を入れずに、受け身で腕を動かされるものとした。
図20は、第3の実験において、頭の動きを抑制したInstructed条件下において取得されたNIRS計測信号の時間波形の一例を示す図である。図21は、第3の実験において、頭の動きを抑制したPassive条件下において取得されたNIRS計測信号の時間波形の一例を示す図である。図20(A)および図21(A)は、OxyHbの濃度変化を表す時間波形を示し、図20(B)および図21(B)は、deOxyHbの濃度変化を表す時間波形を示す。いずれについても、動作を開始したタイミング(動作開始タイミング)を基準(0秒)としている。各表の凡例において、「TV」、「AC」、「Reading」、「Left」は、それぞれ、テレビのリモコン操作、エアコンのリモコン操作、読書、左手を挙げる、を示す。図20および図21のチャネル1〜8(ch1〜ch8)は、図4に示される計測点に対応している。
図20(A)および図21(A)を参照すると、いずれの条件下においても、OxyHbの濃度変化については、動作開始タイミングから5秒後あたりで識別可能な変化が生じていることがわかる。これに対して、図20(B)および図21(B)を参照すると、deOxyHbについては、その濃度変化が小さいことがわかる。
図20(A)と図21(A)とを比較すると、Instructed条件下におけるOxyHbの方が、Passive条件下におけるOxyHbより、その濃度変化はやや大きいことがわかる。これは、Instructed条件下においては、被験者が主体的に腕を動かすことになるので、そのような動作に起因して、Passive条件に比較して、NIRS計測信号としてより大きな反応が取得されているものと考えられる。
図22および図23は、第3の実験において、被験者の頭の動きを抑制した状態において測定されたNIRS計測信号を用いて学習工程および識別工程を実施したときの識別精度を一覧表示する図である。図22および図23において、「Instructed条件1」および「Instructed条件2」は、Instructed条件下での実験を2セット実施した結果を意味する。図22に示す識別精度(最大値および平均値)の各々については、図23に示すそれぞれ対応する識別精度の時間波形において、動作開始タイミングから5秒後まで(0〜5秒間)の値から算出した(識別器はSVMとした)。
図22および図23を参照すると、Passive条件下で取得されたNIRS計測信号を用いた場合には、チャンスレベルCL(本実験例では、4種類の動作を行なったので4分の1の確率)と同程度の識別精度しか得ることができていないことがわかる。
図24〜図26は、図22および図23に示す実験結果から混合行列を生成して、識別精度を評価した結果を示す図である。図24〜図26には、動作開始タイミングを基準とする時間ごとの混合行列を示す。各混合行列において、対角行列成分の値が高いほど正しく識別できていることを意味する。
図24は、第3の実験において、頭の動きを抑制したInstructed条件1下で取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した場合の識別精度の評価結果を示す図である。図24(A)には、Instructed条件2下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示し、図24(B)には、Passive条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。
図24の結果からは、図24(B)に示されるPassive条件下で取得されたNIRS計測信号を入力とした場合には、他の動作であっても、「読書」と識別される傾向が見られた。これは、他の動作に比較して「読書」では動きが少ないためと推測される。
図25は、第3の実験において、頭の動きを抑制したInstructed条件2下で取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した場合の識別精度の評価結果を示す図である。図25(A)には、Instructed条件1下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示し、図25(B)には、Passive条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。
図25の結果からは、図25(A)に示されるInstructed条件1下で取得されたNIRS計測信号を入力とした場合には、「テレビのリモコン操作」と「エアコンのリモコン操作」との間の識別精度は相対的に低いが、「エアコンのリモコン操作」と「読書」との間の識別精度は相対的に高いという結果が得られた。これは、「リモコン操作」という意味において被験者の動きが類似している一方で、「リモコン操作」と「読書」との間では、基本的な動き(片手操作であるか、両手操作であるか)などが異なっていることに起因していると推測される。
図26は、第3の実験において、頭の動きを抑制したPassive条件下で取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した場合の識別精度の評価結果を示す図である。図26(A)には、Instructed条件1下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示し、図26(B)には、Instructed条件2下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。
図26の結果からは、図26(A)に示されるInstructed条件1下で取得されたNIRS計測信号を入力とした場合には、「テレビのリモコン操作」と「左手を挙げる」との間の識別精度が相対的に低いという結果が得られた。
(i2:頭の動きを抑制しない状態)
次に、頭の動きを抑制しない状態(すなわち、日常生活の動作を行なっている状態)において、以下のような4つの条件下でNIRS計測信号を取得した。より具体的には、Active条件、Instructed条件、Passive条件、および、Initial−assisted条件の4つの条件を設定した。なお、上述の頭の動きを抑制した状態での実験と同じく、被験者には、テレビのリモコン操作(右腕を前に出す)、エアコンのリモコン操作(右腕を右斜め前に挙げる)、読書(両手で本を開く)、左手を挙げる、の4種類の日常生活の動作を行なってもらった。
Active条件、Instructed条件、およびPassive条件は、いずれもそれぞれ上述した条件と同様である。すなわち、Active条件では、被験者が自身の意思で次に行なうべき動作をランダムに決定する。Instructed条件では、実験者が次に何の動作をするのかランダムに指示したことに応答して、被験者が指示された動作を行なう。Passive条件では、実験者が次に何の動作をするのかランダムに指示したことに応答して、介助者が被験者の腕を動かす。このとき、被験者は、可能な限り力を入れずに、受け身で腕を動かされるものとした。
これに対して、Initial−assisted条件は、Passive条件に類似した条件であり、実験者が次に何の動作をするのかランダムに指示したことに応答して、介助者が被験者の腕を最初だけ動かし、その後は、実験者が指示された動作を自ら行なうものとした。
NIRS計測信号の計測点(チャネル)などについては、上述した条件と実質的に同一であるので、詳細な説明は繰り返さない。
図27は、第3の実験において、被験者の頭の動きを抑制しない状態において測定されたNIRS計測信号を用いて学習工程および識別工程を実施したときの識別精度の一覧表示する図である。
図28〜図30は、第3の実験において、頭の動きを抑制しないActive条件下で取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した場合の識別精度の評価結果を示す図である。より具体的には、図28には、頭の動きを抑制しないInstructed条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。図29には、頭の動きを抑制しないPassive条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。図30には、頭の動きを抑制しないInitinal−assisted条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。
図31〜図33は、第3の実験において、頭の動きを抑制しないInstructed条件下で取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した場合の識別精度の評価結果を示す図である。より具体的には、図31には、頭の動きを抑制しないActive条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。図32には、頭の動きを抑制しないPassive条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。図33には、頭の動きを抑制しないInitinal−assisted条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。
図34〜図36は、第3の実験において、頭の動きを抑制しないPassive条件下で取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した場合の識別精度の評価結果を示す図である。より具体的には、図34には、頭の動きを抑制しないActive条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。図35には、頭の動きを抑制しないInstructed条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。図36には、頭の動きを抑制しないInitinal−assisted条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。
図37〜図39は、第3の実験において、頭の動きを抑制しないInitinal−assisted条件下で取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した場合の識別精度の評価結果を示す図である。より具体的には、図37には、頭の動きを抑制しないActive条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。図38には、頭の動きを抑制しないInstructed条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。図39には、頭の動きを抑制しないPassive条件下で取得されたNIRS計測信号を入力として、識別工程を実施した結果を示す。
(i3:第3の実験のまとめ)
被験者の頭の動きを抑制した状態、すなわち、体動による影響を最小限にした場合でああっても、被験者が腕を動かすことでNIRS計測信号に変化が生じており(図20および図21)、本実施の形態に従う動作識別方法は、腕などの動きに関する脳活動に由来する特徴量を適切に観測できていると判断できる。
実用的に利用する場合には、被験者の頭の動きを抑制することはないが、それぞれの場合における識別精度の結果(図22および図27)を比較すると、被験者の頭の動きを抑制しない方がより高い識別精度を得られており、より実用向きであることが示されている。これは、被験者の頭の動きを抑制しない方が、動きの成分も含めて特徴量として識別さえることに起因するものと推定される。
一方で、被験者の頭の動きを抑制した状態(すなわち、体動によるアーチファクトを最小限にした状態)で取得されたNIRS計測信号を用いても、ある程度の識別精度を実現できており、この事実を考慮すれば、日常生活の動作のうち、動きの少ない動作であっても、実用的な識別精度を実現できると考えられる。
なお、介助者が被験者の体を動かすような態様(Passive条件)においても、NIRS計測信号に変化が見られたが、動作間での特徴量の差異が比較的少ないことがわかった。このような点を考慮すれば、何らかの外力によって体を動かされる場合と、被験者が意図的に自身の体を動かす場合とを選択的に識別できる可能性がある。
[J.実験結果(第4の実験)]
次に、第4の実験として、実環境実験施設にて、被験者に3種類の日常生活の動作(テレビのリモコン操作、エアコンのリモコン操作、読書)を、任意のタイミングで、ランダムに実施してもらい、そのときに取得されたNIRS計測信号、およびその様子を撮像した動画像を用いて、学習工程および識別工程を実施した。
図40は、第4の実験における識別結果の一例を示す図である。図40(A)には、識別結果の一例を時系列に示し、図40(B)には、図40(A)に示す識別結果のうち、実際に被験者が何らかの動作を行なった時間帯のみを抽出した結果を示し、図40(C)には、被験者の実際の動作(動作ラベル)を時系列に示す。
第4の実験においては、最初にある時間範囲(図40(C)の「学習用データ」の区間)に取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した。その学習工程の実施によって構築された識別器に対して、取得されているNIRS計測信号を入力した結果が、図40(A)に示されている。すなわち、図40(A)には、複数の動作のうちいずれかの動作を行なっている場合と、何らの動作を行なっていない場合とを合わせてサンプルとして、学習工程を実施して構築された識別器にNIRS計測信号を入力した結果を示す。
図40(A)に示される識別結果には、被験者が何らの動作も行なっていない場合の識別結果を含むので、何らの動作も行っていない期間の識別結果をマスクしたものを図40(B)に示す。図40(C)には、学習工程において教師ラベルとして用いた、動作情報(動作ラベル)を時系列に示す。
すなわち、図40(B)に示される識別結果と、図40(C)に示される被験者の実際の動作(動作ラベル)とが一致していれば、識別結果が正しいということを意味する。図40を参照すると、大部分の区間で一致しており、十分に実用に耐え得ることが示されている。
第4の実験においては、被験者が日常生活の動作を行なっているときに連続的に取得されたNIRS計測信号を用いて、学習工程および識別工程を実施したが、このような簡易な処理であっても、比較的高い識別精度を実現できた。
また、第4の実験においては、被験者が、3種類の日常生活の動作のうちいずれかの動作を行なっている期間のNIRS計測信号、ならびに、何らの動作も行なっていない期間、および、当該3種類の動作とは異なる動作を行なっている期間のNIRS計測信号を用いて学習工程を実施することで、判別精度の高い識別器を構築できることが示された。
[K.実験結果(第5の実験)]
次に、第5の実験として、頭部の動き(体動)に伴うアーチファクト(ムービングアーチファクト)による識別精度への影響を評価した。
図41は、第5の実験の実験条件を説明する模式図である。図41を参照して、被験者は、テレビを視聴できる位置で、車椅子に背筋を伸ばして着座する。そして、被験者の太ももにラップテーブルを配置するとともに、被験者は両手で文庫本をもつようにする。
第5の実験については、実環境実験施設にて、被験者に3種類の日常生活の動作(テレビのリモコン操作、エアコンのリモコン操作、読書を、予め用意された刺激用プログラムの教示に従って、実施してもらい、そのときに取得されたNIRS計測信号、およびその様子を撮像した動画像を用いて、学習工程および識別工程を実施した。なお、リモコン操作については、実際のリモコンを使用するのではなく、文庫本をリモコンに見立てて、リモコンを操作するのと同様の動きを被験者にしてもらった。
刺激用プログラムの教示は、ディスプレイにて行なわれる。具体的には、まず、指示開始の音とともに、(1)テレビのリモコン操作、(2)エアコンのリモコン操作、(3)読書、のいずれを実施するのかを示す番号がディスプレイに表示される。その後、数秒後に指示された動作の実施が指示される。この動作の実施が指示された後の所定期間にわたって、被験者からのNIRS計測信号が取得される。ここで、被験者が動作を行なう際の条件を以下の2種類に異ならせた。
第1の条件は、日常動作を行なう際に、腕を動かす動作に合わせて頭部の動きも許容するというものである。一方、第2の条件は、日常動作を行なう際に、腕を動かす動作の有無にかかわらず、被験者は正面を向き、なるべく頭部を動かさないようにするというものである。
第1の条件では、取得されるNIRS計測信号には、脳活動に由来する成分とおよび体動に由来する成分との両者が含まれることになる。そのため、動作を識別するための情報がより多く含まれると考えられる。これに対して、第2の条件では、取得されるNIRS計測信号は、主として脳活動に由来する成分からなる。そのため、第1の条件に比較して、動作を識別するための情報がより少なくなると考えられる。
図42は、第5の実験において同一条件下で学習工程および識別工程を実施した結果を示す図である。図43は、第5の実験において互いに異なる条件下で学習工程および識別工程を実施した結果を示す図である。
図42および図43に示す実験結果の学習工程においては、3種類の日常生活の動作(テレビのリモコン操作、エアコンのリモコン操作、読書)のそれぞれの動作を各10回ずつ、合計30回行なうことを1セッションとした。被験者1については、それぞれの条件別に、合計300回(10セッション)の動作によって得られたNIRS計測信号から識別器を生成した。同様に、被験者2については、合計180回(6セッション)の動作によって、被験者3については、合計120回(4セッション)の動作によって得られたNIRS計測信号からそれぞれ識別器を生成した。
図42(a)は、第1の条件での識別工程での識別精度を示す実験結果であり、図42(b)は、第2の条件での識別工程での識別精度を示す実験結果である。つまり、図42(a)には、第1の条件において学習工程および識別工程を実施した実験結果の例を示し、図42(b)には、第2の条件において学習工程および識別工程を実施した実験結果の例を示す。
図42(a)と図42(b)とを比較すると、より多くの動作を行なって識別器を生成した被験者1については、第2の条件、すなわち頭部をなるべく動かさない状態であっても、比較的高い識別精度が得られることがわかる。ただし、識別器の生成に用いたNIRS計測信号が相対的に少ない被験者2および被験者3については、相対的に識別精度が低くなっていることがわかる。
この実験結果から、たとえば、身体に障がいがあって体を自由に動かすことができないユーザであっても、十分な学習工程を経ることで、相対的に高い精度で意思する動作を識別できる可能性があることがわかる。
また、図43(a)は、第2の条件で取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した後に、第1の条件で取得されたNIRS計測信号を用いて識別工程を実施したときの識別精度を示す実験結果である。図43(b)は、第1の条件で取得されたNIRS計測信号を用いて学習工程を実施した後に、第2の条件で取得されたNIRS計測信号を用いて識別工程を実施したときの識別精度を示す実験結果である。
図42(a)に示される実験結果によれば、主として脳活動に由来する成分から生成された識別器を用いることで、動作を行なう際に頭部の動きが加わったとしても、比較的高い識別精度が得られることがわかる。ただし、図41に示される実験結果と同様に、識別器の生成に用いるサンプルが少ないほど、識別精度が低下することがわかる。
また、図42(b)に示される実験結果によれば、脳活動に由来する成分とおよび体動に由来する成分との両者を含むNIRS計測信号を用いて識別器を生成した場合には、体動に由来する成分が実質的に含まれないNIRS計測信号がその識別器に入力されると、識別精度がやや低下することがわかる。すなわち、体動に由来する成分は、動作を識別するために有効な特徴量を含んでいるといえる。
この実験結果から、たとえば、動作を制限した状態で学習工程を実施しておくことで、その後の識別工程が学習工程とは異なる状況であっても、実用的な動作の識別精度を確保できる可能性があるといえる。
[L.処理手順]
図44は、本実施の形態に従う動作識別方法の処理手順を示すフローチャートである。図44に示す各ステップは、典型的には、情報処理装置5(図6のプロセッサ500)がプログラムを実行することで実現される。図44のフローチャートには、説明の便宜上、学習工程および識別工程を連続的に記述するが、これらの工程はそれぞれ独立に実施されることもある。
図44を参照して、情報処理装置5は、被験者に装着された携帯型計測装置(携帯型コントローラ2およびセンサ本体3)から、被験者の頭部に近赤外光を照射することで取得される脳活動を示す信号である、NIRS計測信号524を受信する(ステップS2)。続いて、情報処理装置5は、受信したNIRS計測信号524に対して、バンドパスフィルタを適用して、特定の周波数帯域の成分を抽出する(ステップS4)。
並行して、情報処理装置5は、動作観察装置4から位置・動き認識信号528を受信する(ステップS6)。そして、情報処理装置5は、受信した位置・動き認識信号528を用いて、被験者が行なった動作を特定し、その特定した動作を示す動作ラベルと、その動作が行なわれた期間を検出する(ステップS8)。
情報処理装置5は、検出した動作開始タイミングに従って、フィルタ処理後のNIRS計測信号のうち、学習工程に必要な部分を抽出する(ステップS10)。すなわち、情報処理装置5は、被験者が予め定義された複数の動作のうちいずれかの動作を開始したタイミングの情報に基づいて、NIRS計測信号のうち、当該タイミングを基準とする所定期間の信号成分を抽出する。
続いて、情報処理装置5は、抽出されたNIRS計測信号と対応する動作ラベルとを組み合わせてサンプルを生成する(ステップS12)。すなわち、情報処理装置5は、抽出された信号成分と当該信号成分に対応する被験者の動作を示す情報とを関連付けたサンプルを生成する。ステップS12において、情報処理装置5は、動作開始タイミングを基準とする所定範囲にわたって、所定の時間幅を有するウィンドウをシフトさせて順次設定し、各時刻におけるサンプルを生成する(図9参照)。また、ステップS8において特定された動作の数だけ、ステップS10〜S12が繰り返される(ステップS14においてNO)。
特定された動作のすべてについてサンプルの生成が完了すると(ステップS14においてYES)、情報処理装置5は、生成された複数のサンプルを用いて、識別器を構築する(ステップS16)。すなわち、情報処理装置5は、複数の動作についてそれぞれ生成された、複数のサンプルを用いた学習により、動作についての識別器を構築する。この構築された識別器を定義する情報は、情報処理装置5内に格納される。
以上の処理により、学習工程が完了する。その後、任意のタイミングで、識別工程に係る処理が実行される。
すなわち、情報処理装置5は、任意のNIRS計測信号を受信すると(ステップS20においてYES)、先に構築した識別器にその受信したNIRS計測信号を入力し、当該入力された信号に対応する最も確からしい動作を出力する(ステップS22)。
終了が指示されるまで(ステップS24においてNO)、ステップS20およびS22の処理が繰り返される。
[M.変形例]
上述の説明では、主として、情報処理装置5が学習工程および識別工程の両方を実施する実装例について説明したが、それぞれの工程を別の実行主体が実施するようにしてもよい。たとえば、本発明のある局面によれば、学習工程のみを実行して、識別器を構築するだけであっても、十分に実用性・有用性が存在する。
さらに、第1の実験において複数の被験者から取得されたNIRS計測信号に対する学習工程および識別工程の結果(図15)を参照すれば、複数の被験者の間で同一の識別器を共通に使用することも可能である。そのため、被験者ごとに識別器を構築してもよいが、複数の被験者からNIRS計測信号および対応する動作情報(動作ラベル)を収集して、共通に利用可能な識別器を構築してもよい。このような実装形態においては、いわゆるクラウド型のシステムが有効である。すなわち、それぞれ別々の場所にいる被験者からNIRS計測信号および対応する動作情報(動作ラベル)を取得し、それをサーバ装置で収集して識別器を構築し、さらに、構築した識別器(1または複数の判別関数)をそれぞれの端末に配布するようにしてもよい。なお、複数の被験者を層別した上で、たとえば、男女別や年齢別に識別器をそれぞれ構築してもよい。このような処理には、いわゆるビッグデータに対する統計処理の手法を応用できる。
[N.応用例]
本実施の形態に従う動作識別方法は、体を動かすための脳機能が失われていない人への応用も可能である。
一つの応用例として、ユーザが何らかの動作をしようとすると、そのユーザが意図した動作を識別し、その動作に関連付けられた処理を実行するようなシステムが考えられる。たとえば、ユーザが本を読もうとするしぐさをすると、本を読もうとしている動作であると識別して、部屋の明かりを明るくし、本を読みやすい環境を提供できる。あるいは、手を動かすことはできるが、指が不自由で細かい操作ができない要介護者や患者などがテレビやエアコンを操作するしぐさをすることで、テレビやエアコンをつけようとしている動作であると識別し、その識別された動作(テレビやエアコンをつける)を自動的に実行する環境を提供できる。
(n1:第1の応用例)
図45は、本実施の形態に従う動作識別方法を応用したシステム構成例(第1の応用例)を示す模式図である。上述のような応用例は、たとえば、図45に示すシステム1Aによって実現される。システム1Aは、携帯型コントローラ2、サーバ装置6、およびサーバ装置9を含む。携帯型コントローラ2は、図2に示す携帯型コントローラ2と同様の機能を有しており、ユーザの頭部に近赤外光を照射することで測定される脳活動を示す信号(NIRS計測信号)を取得する。携帯型コントローラ2は、取得したNIRS計測信号をサーバ装置6またはサーバ装置9へ選択的に送信できる。
サーバ装置6は、図2に示す情報処理装置5と同様の機能を有しており、携帯型コントローラ2からユーザのNIRS計測信号を取得する。そして、サーバ装置6は、上述したような学習工程に従って、1または複数のユーザについての、識別器定義データを生成する。1または複数の識別器定義データが記憶部600に保持されており、サーバ装置6は、サーバ装置9などからの要求に応じて、対象の識別器定義データを送信する。これらの識別器定義データは、識別器を構築するためのものであり、これらの生成方法は、上述の学習工程に相当するので、ここでは詳細な説明は繰り返さない。
サーバ装置9は、携帯型コントローラ2から取得されたユーザのNIRS計測信号を用いて、当該ユーザが行なおうとしている動作あるいはその意思を推定し、その推定した結果に応じて、対象となる機器に指令を与える。これによって、ユーザの日常生活などを支援する。
より具体的には、サーバ装置9は、記憶部900に、対象となるユーザに応じた識別器定義データ21を保持しており、携帯型コントローラ2から送信されるNIRS計測信号を識別器定義データ21に適用することで、最も確からしい動作を決定する。すなわち、サーバ装置9は、NIRS計測信号を識別器定義データ21(識別器)に入力することで、当該入力された信号に対応する動作を決定する。典型的な応用例を想定すると、ユーザごとに生成された識別器定義データをサーバ装置6が保持しており、サーバ装置9は、ネットワーク8を介して、対象となるユーザに対応付けられた識別器定義データ21をサーバ装置6から取得する。
サーバ装置9は、記憶部900に、決定される動作に対応付けられる機器操作を定義する機器操作定義データ22をさらに保持している。サーバ装置9は、機器操作定義データ22を参照して、最も確からしい動作に対応する、対象の機器および当該機器に対する指令の内容を決定する。機器操作定義データ22は、ユーザの生活環境に応じて、適宜定義される。
サーバ装置9は、エアコン、テレビ、照明コントローラなどの各種機器と通信可能になっており、決定した指令の内容に従って、対象となる機器に対して、必要な信号を送信する。サーバ装置9と、エアコン、テレビ、照明コントローラなどとの間は、LAN接続などの汎用的な有線通信方式、または、無線LANやBluetooth(登録商標)などの汎用的な無線通信方式によって接続されてもよい。あるいは、パルス状の赤外線を照射することでリモコンをエミュレートする赤外線発光部をサーバ装置9に装備してもよい。たとえば、サーバ装置9は、ユーザから取得されたNIRS計測信号から、当該ユーザがエアコンをオンにする動作を行なおうとしている(あるいは、行なう意思をもっている)と判断すると、対象のエアコンをオンするための信号を発信したり、照明コントローラに対して特定の照明をオンにするための信号を発信したりする。
このような構成を採用することで、ユーザが行なおうとしている動作あるいはその意思に応じて、対象の機器を制御することができ、これによって、体の不自由なユーザの日常動作を支援できる。
なお、識別器定義データ21および機器操作定義データ22を、サーバ装置9の記憶部900ではなく、ネットワーク上の別のストレージ装置に保持するようにしてもよい。
図46は、図45に示すサーバ装置9における処理手順を示すフローチャートである。図46に示す各ステップは、典型的には、サーバ装置9(典型的には、主たる構成要素であるプロセッサなど)がプログラムを実行することで実現される。
図46を参照して、サーバ装置9は、有効な識別器定義データ21を保持しているか否かを判断する(ステップS100)。有効な識別器定義データ21を保持していない場合(ステップS100においてNOの場合)には、サーバ装置9は、サーバ装置6などから識別器定義データ21を取得して格納する(ステップS102)。
携帯型コントローラ2は、ユーザの頭部に近赤外光を照射することで測定される脳活動を示す信号(NIRS計測信号)を取得する機能を有している。ステップS102の実行後、または、有効な識別器定義データ21を保持している場合(ステップS100においてYESの場合)には、サーバ装置9は、ユーザから取得されたNIRS計測信号を携帯型コントローラ2から受信したか否かを判断する(ステップS104)。NIRS計測信号をセンサ本体3から受信していない場合(ステップS104においてNOの場合)には、ステップS104の処理が繰り返される。
NIRS計測信号を携帯型コントローラ2から受信している場合(ステップS104においてYESの場合)には、サーバ装置9は、受信したNIRS計測信号を識別器定義データ21に適用して、当該入力された信号に対応する最も確からしい動作を決定する(ステップS106)。すなわち、サーバ装置9は、NIRS計測信号を識別器(識別器定義データ21)に入力することで、当該入力された信号に対応する動作を決定する機能を有している。
サーバ装置9は、機器操作定義データ22を参照して、決定された最も確からしい動作に対応する、操作対象となる機器および当該機器に対する指令の内容を決定する(ステップS108)。そして、サーバ装置9は、操作対象となる機器に対して、決定された指令の内容を送信する(ステップS110)。すなわち、サーバ装置9は、決定された動作に関連付けられた機器に対して、決定された動作に関連付けられた指令を出力する機能を有している。なお、サーバ装置9が決定された動作に関連付けられた機器を特定する(たとえば、いずれのエアコンが操作対象となるのかを特定する)ようにしてもよいし、携帯型コントローラ2が、自身が存在する周辺の情報を参照または探索することで、操作対象の機器を決定するようにしてもよい。
終了が指示されるまで(ステップS112においてNO)、ステップS104〜S110の処理が繰り返される。
上述したように、本実施の形態に従う動作識別方法を応用したシステムでは、典型的には、(1)脳活動を示す信号であるNIRS計測信号を取得する機能と、(2)NIRS計測信号を識別器定義データ21(識別器)に入力することで、当該入力された信号に対応する動作を決定する機能と、(3)決定された動作に関連付けられた機器に対して、決定された動作に関連付けられた指令を出力する機能、とが互いに連係できれば、どのような実装形態を採用してもよい。図45に示すシステム構成例においては、実質的には、携帯型コントローラ2に(1)の機能が実装され、サーバ装置9に(2)および(3)の機能が実装されていることになるが、当業者であれば、実施時の技術水準や実装コストなどに基づいて、いずれの装置にいずれの機能を実装するのかについて適宜設計することができる。この際、単一の機能を複数の主体が協働して実現するように実装されることも可能である。たとえば、複数のサーバ装置が連係することで(2)の機能を実現してもよい。以下、本発明に対する理解を深めるために、いくつかのさらに別のシステム構成例について説明する。ただし、本発明の技術的範囲は図示する実装例に限定されるものではない。
(n2:第2の応用例)
図47は、本実施の形態に従う動作識別方法を応用したシステム構成例(第2の応用例)を示す模式図である。図47を参照して、システム1Bは、携帯型コントローラ2Bおよびサーバ装置6Bを含む。携帯型コントローラ2Bのコンポーネントのうち、図2に示す携帯型コントローラ2と同様の機能を有するコンポーネントについては、同一の符号を付している。これらの同一のコンポーネントについての詳細な説明は繰り返さない。
以下に説明する第2の応用例では、実質的に、サーバ装置6Bに、(2)NIRS計測信号を識別器定義データ21(識別器)に入力することで、当該入力された信号に対応する動作を決定する機能が実装され、携帯型コントローラ2Bに、(3)決定された動作に関連付けられた機器に対して、決定された動作に関連付けられた指令を出力する機能が実装される。
携帯型コントローラ2Bは、ユーザの頭部に近赤外光を照射することで測定される脳活動を示す信号(NIRS計測信号)を取得し、取得したNIRS計測信号をサーバ装置9へ送信する。より具体的には、携帯型コントローラ2Bの制御部200Bは、センサ本体3からのNIRS計測信号を、無線中継器7およびネットワーク8を介してサーバ装置6Bへ送信するとともに、サーバ装置6Bからの応答を受信する。すなわち、携帯型コントローラ2Bの通信部212Bは、NIRS計測信号をサーバ装置6B(外部装置)へ送信するとともに、サーバ装置6Bからの応答を受信する通信手段に相当する。
通信部212Bは、無線中継器7だけではなく、エアコン、テレビ、照明コントローラなどの各種機器と通信可能になっており、制御部200Bからの内部コマンドに従って、対象となる機器に対して、必要な指令を送信する。
サーバ装置6Bは、識別器定義データ21および機器操作定義データ22を記憶部600に保持しており、携帯型コントローラ2BからNIRS計測信号を受信すると、当該NIRS計測信号を識別器定義データ21に適用することで、最も確からしい動作を決定する。すなわち、サーバ装置6Bは、NIRS計測信号を識別器定義データ21(識別器)に入力することで、当該入力された信号に対応する動作を決定する。続いて、サーバ装置6Bは、機器操作定義データ22を参照して、最も確からしい動作に対応する、対象の機器および当該機器に対する指令の内容を決定する。最終的に、サーバ装置6Bは、対象の機器および当該機器に対する指令の内容を携帯型コントローラ2Bへ応答する。すなわち、サーバ装置6Bから携帯型コントローラ2Bへの応答は、入力されたNIRS計測信号に対応する動作の情報を含む。
携帯型コントローラ2Bの制御部200Bは、サーバ装置6Bから送信された情報に従って、通信部212Bから、操作対象となる機器に対して決定された指令の内容を送信する。
図47に示すようなシステム1Bを採用することで、図45に示すシステム1Aに比較して、サーバ装置の数を削減できる。さらに、携帯型コントローラ2Bが制御対象の機器に直接指令を送信するので、制御対象の機器が相対的に少ない家庭で使用する場合などの導入コストを低減できる。
(n3:第3の応用例)
図48は、本実施の形態に従う動作識別方法を応用したシステム構成例(第3の応用例)を示す模式図である。図48を参照して、システム1Cは、携帯型コントローラ2Cおよびサーバ装置6を含む。携帯型コントローラ2Cのコンポーネントのうち、図2に示す携帯型コントローラ2と同様の機能を有するコンポーネントについては、同一の符号を付している。これらの同一のコンポーネントについての詳細な説明は繰り返さない。また、サーバ装置6は、図45に示すシステム1Aのサーバ装置6と実質的に同一である。
以下に説明する第3の応用例では、実質的に、携帯型コントローラ2Cに、(2)NIRS計測信号を識別器定義データ21(識別器)に入力することで、当該入力された信号に対応する動作を決定する機能、および、(3)決定された動作に関連付けられた機器に対して、決定された動作に関連付けられた指令を出力する機能、が実装される。
携帯型コントローラ2Cは、制御部200Cと通信部212Cとを含んでいる。制御部200Cは、対象となるユーザに応じた識別器定義データ21を保持しており、センサ本体3によって取得されるNIRS計測信号を識別器定義データ21に適用することで、最も確からしい動作を決定する。ユーザごとに生成された識別器定義データをサーバ装置6が保持しており、携帯型コントローラ2C(制御部200C)は、無線中継器7およびネットワーク8を介して、対象となるユーザに対応付けられた識別器定義データ21をサーバ装置6から取得する。
携帯型コントローラ2Cの制御部200Cは、決定される動作に対応付けられる機器操作を定義する機器操作定義データ22をさらに保持している。制御部200Cは、機器操作定義データ22を参照して、最も確からしい動作に対応する、対象の機器および当該機器に対する指令の内容を決定する。最終的に、携帯型コントローラ2Cの制御部200Cは、通信部212Cから、操作対象となる機器に対して決定した指令の内容を送信する。
好ましい実装形態としては、サーバ装置6をインタネットなどのパブリックネットワーク上に配置しておけば、本システムを各家庭に導入する際には、携帯型コントローラ2Cおよびセンサ本体3のセットのみを購入すれば済み、導入コストをより低減できる。
上述したシステムの別の応用例として、たとえば、認知症の患者などがどのような動作を行なおうとしているのかを逐次観測し、危険が及ぶような動作を行なおうとしている場合に、介護者に対して、その旨を通知するようなシステムを提供することもできる。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。