JP6009353B2 - 痛覚過敏症の治療のためのキセノンの使用 - Google Patents

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Description

本発明は痛覚過敏症およびその結果としての疼痛慢性化を治療または予防するためのキセノンの使用に関する。
炎症または組織もしくは神経障害に続いて、痛覚過敏化のプロセスが発現して痛覚過敏症をもたらすことが知られている。これは痛覚過敏、すなわち侵害受容刺激に対する過剰反応、および/またはアロディニア、すなわち非侵害受容刺激によって引き起こされる痛覚の出現、ならびに持続疼痛によって引き起こされ、このことはC. Woolfらによる文献Neuronal plasticity: increasing the gain in pain, Science, 288, 1765-9 (2000);J. Scholzらによる文献Can we conquer pain?, Nat Neurosci. 5 Suppl, 1062-7 (2002);およびO. Wilder-Smithらによる文献Postoperative hyperalgesia: its clinical importance and relevance, Anesthes., 104, 601-7 (2006)によって想起される。
中枢神経系(CNS)では、いくつかの実験的および臨床的研究が、N−メチル−D−アスパラタート(NMDA)受容体を介する外傷後疼痛に対する過敏化における興奮性アミノ酸の重要な役割を示しており、このことはB. ChizhらのレビューNMDA antagonists and neuropathic pain -Multiple drug targets and multiple uses, Current Pharmaceutical Design, 11, 2977-94 (2005)によって想起される。
炎症または組織もしくは神経障害の後に起こる痛覚過敏化の現象は、痛覚過敏またはアロディニアおよび増した疼痛として発現され、現在、手術後のおよび慢性疼痛の発症の原因である重要なメカニズムであると考えられており、このことはF. PerkinsらのChronic pain as an outcome of surgery. A review of predictive factors. Anesthesiology 93, 1123-33 (2000);またはW. MacraeのChronic pain after surgery. British Journal of Anaesthesiology, 87, 88-98 (2001)によって想起される。
特に、一般的な麻酔中、揮発性もしくは静脈内睡眠剤を患者に投与するか、または静脈内鎮痛剤もしくはオピオイド物質を投与することが通例である。麻酔において一般に使用されている以下の麻酔物質、たとえばフェンタニル、アルフェンタニル、スフェンタニル、レミフェンタミルまたは他のオピオイドなどを特に挙げることができる。
しかしながら、これらの揮発性または静脈内オピオイドは、手術後の痛覚過敏を引き起こしおよび/またはこれを増幅させ、これは手術後に強さが増す患者の疼痛に対する感受性によって引き起こされることが言及されている。さらに、このオピオイド起因の疼痛に対するより大きな感受性はNMDA受容体の活動過多につながることが明らかになっており、このことはSimonnetらによる文献Opioid-induced Hyperalgesia: abnormal or normal pain? Neuroreport, 14, 1-7, (2003);およびAngstらによる文献Opioid-induced Hyperalgesia, Anesthesiology, 104:570-87. (2006)によって想起される。
この影響は特に1年まででありうる長期間にわたって顕著であり、それゆえに、患者がこの期間中疼痛に対してより過敏になるため、彼らの生活の質の低下がもたらされる。
これを改善することを試みるために、文献FR-A-2914633は、ヒトにおける手術後の痛覚過敏を予防するまたはこれを最小にするための、酸素(O2)と2〜10体積%のキセノン(Xe)とを含有するガス混合物の使用を提案している。
実際、N. Franksら、How does xenon produce anaesthesia ? Nature, 396, 324. (1998)によって教示されているようにNMDA受容体拮抗剤であるキセノンは急性鎮痛作用を有し、このことはD. Maら、Xenon exerts age-independent antinociception in Fischer rats, Anesthesiology. 100, 1313-8. (2004)、およびS. Petersen-Felixら、Comparison of the analgesic potency of xenon and nitrous oxide in humans evaluated by experimental pain; Br J Anaesth. 81, 742-7 (1998)によって想起される。
そこから、NMDA受容体が外傷によって引き起こされオピオイドによって増幅される痛覚過敏化における主たる重要な役割を有することを考慮に入れると、この性質を、薬剤として使用されるキセノンのNMDA受容体拮抗性のおかげで、痛覚過敏症の予防または治療に使用できる。
しかしながら、FR-A-2914633によって提案された解決策は理想的でない。なぜなら、キセノン濃度が低過ぎ、そのために痛覚過敏症を予防または治療するのに本当に有効な治療を得ることを可能にするものではないからである。
さらに、文献WO-A-02/22141は心血管保護剤、鎮静剤、鎮痛剤などとしてのキセノンの使用を教示している。
加えて、D. Maら、Xenon exerts age-independent antinociception in Fisher rats, May 2004, Anesth., vol. 100, n 5, pages 1313-1318はキセノンの鎮痛作用は胎児または新生児を含めて患者の年齢とは無関係であることを示しており、一方でS. Pertersen-Felixら、Comparison of the analgesic potency of xenon and nitrous oxide in humans evaluated by experimental pain, NoV. 1998, Brit. J. of Anesth., vol. 81, n 5, p. 742-747はキセノンの鎮痛作用をN2Oのそれと比較している。
本発明の1つの目的は、ヒト、すなわち特に男性、女性、子供、新生児および高齢者における痛覚過敏症の治療またはその予防の効能を向上させること、すなわち、患者における手術後の痛覚過敏またはアロディニアのこの有害な現象の出現を予防、抑制または低減することを可能にすることにある。
本発明による1つの解決策は、ヒトまたは動物における痛覚過敏症、特に痛覚過敏またはアロディニアの発生によって引き起こされる痛覚過敏症を予防するまたは治療するための吸引薬としての使用のための、酸素(O2)と20〜70体積%の割合のキセノン(Xe)とを含有するガス混合物である。
場合に応じて、本発明のガス混合物は以下の特徴のうちの1つ以上を含むことができる:
−キセノンの割合は22〜60体積%である;
−キセノンの割合は25〜60体積%である;
−それは酸素およびキセノンのみまたは空気およびキセノンのみからなる;
−それは窒素、ヘリウム、NO、N2O、クリプトン、アルゴンまたはネオンをさらに含有する;
−それは15〜25体積%の割合の酸素を含有する;
−痛覚過敏症は手術後または外傷後のタイプである;
−痛覚過敏症は少なくとも1種のオピオイドによって引き起こされる;
−それは2barを超える圧力で加圧容器、特にガスボンベに入れられる;
−ガス混合物は100barを超える圧力でガスボンベに入れられる。
また、本発明は、ヒトまたは動物における痛覚過敏を予防するまたは低減させるための吸引薬を製造するための、本発明による酸素(O2)と20〜70体積%の割合のキセノン(Xe)とを含有するガス混合物の使用にも関する。
さらに、本発明は、患者における痛覚過敏を治療するまたは予防する方法であって、本発明による酸素とキセノンとのガス混合物を吸引によって前記患者に投与する工程を含む方法にも関する。
本発明のガス混合物のおかげで、手術後または外傷後の痛覚過敏の悪影響に有効に対抗することができる。
本発明は添付の図面に関連した以下の例および以下に示す説明によってより明確に理解されるであろう。
図1Aは(25%Xeの場合の)炎症を起こした肢に圧力をかけたときのラットの疼痛知覚の閾値を示している。 図1Bは(25%Xeの場合の)炎症を起こしていない肢についてのこの閾値を示している。 図2Aは(50%Xeの場合の)炎症を起こした肢に圧力をかけたときのラットの疼痛知覚の閾値を示している。 図2Bは(50%Xeの場合の)炎症を起こしていない肢についてのこの閾値を示している。

外傷後の痛覚過敏の予防における本発明によるガス混合物の効能を示すために、前臨床試験と関連して、炎症性疼痛のモデルをラット、すなわち雄のSparague-Dawleyラットにおいて使用した。
炎症を起こす物質、カラギーナン(1%のカラギーナンを含む0.2mlの食塩水)をラットの後肢の片方に皮下注入した。
2つの体積濃度のキセノンを試験した。すなわち:
−25%のXe+25%のN2+50%のO2からなる三成分ガス混合物、および
−50%のXe+50%のO2からなる二成分ガス混合物。
侵害受容閾値、すなわち疼痛閾値を、増加する圧力(グラムで測定する)をラットが鳴くまでこのラットの後肢にかけるpaw-pressure vocalization試験(Randall-Selitto)を使用して評価した。
より詳細には、0日目(D0)に、炎症を起こす物質、すなわちカラギーナン(Car)をラットの後肢に注入した。
吸引によるラットのガスへの暴露を、Carの注入から1時間45分後に始め、1時間45分間続けた。侵害受容閾値を、Carの注入から1時間30分、2時間30分、3時間、3時間30分および4時間30分後に測定し、その後、基準の侵害受容閾値に戻るまで1日1回測定した。
ラットを以下のようにグループに分けた。
Figure 0006009353
炎症を起こす物質(Car)の注入後、ラットに痛覚過敏が発現し、これが炎症を起こした肢では4日間、炎症を起こしていない肢では2日間続いた。この遅延痛覚過敏は、NMDA依存性の痛覚過敏化プロセスに主によるものである。
得られた結果(図を参照のこと)から以下のことが分かる:
−キセノンはその投与中の鎮痛作用を有し、50%の含有量(図2A)は25%の含有量(図1A)よりも有効である。
−キセノンは抗痛覚過敏作用(図における丸印)を有する。なぜなら:
・25%のキセノンは、炎症を起こした肢(図1A)に対する遅延痛覚過敏を大きく低減させる:コントロール(空気/Car)の場合の4日に対して2日;
・50%のキセノンは、炎症を起こした肢および炎症を起こしていない肢(図2Aおよび図2B)での遅延痛覚過敏を完全に予防する
からである。
これは、キセノンが、炎症を起こした肢における遅延痛覚過敏に関するその抗痛覚過敏性のおかげで、痛覚過敏化プロセスを予防することを証明する。
さらに、キセノンは炎症を起こしていない肢に対する遅延痛覚過敏も完全に予防し、これは痛覚過敏化に対するキセノンの中心的な効果を示す。
そのため、キセノンは、外傷後の痛覚過敏および慢性疼痛を予防するための薬剤として使用できる。
そのため、酸素Oと20〜70体積%の割合のキセノンと含有する本発明のガス混合物は、このガス混合物を吸引により投与して、ヒトまたは動物、特に男性、女性または子供における痛覚過敏症、特に手術後または外傷後の痛覚過敏を予防または治療する予防または治療処置方法に関連して使用することができる。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
ヒトまたは動物における痛覚過敏症を予防するまたは治療するための吸引薬としての使用のための、酸素(O )と20〜70体積%の割合のキセノン(Xe)とを含有するガス混合物。
[2]
キセノンの割合は22〜60体積%であることを特徴とする[1]に記載のガス混合物。
[3]
キセノンの割合は25〜60体積%であることを特徴とする[2]に記載のガス混合物。
[4]
酸素およびキセノンのみまたは空気およびキセノンのみからなることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1に記載のガス混合物。
[5]
窒素、ヘリウム、NO、クリプトン、アルゴンまたはネオンをさらに含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1に記載のガス混合物。
[6]
15〜25体積%の割合の酸素を含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1または[5]に記載のガス混合物。
[7]
前記痛覚過敏症は手術後または外傷後のタイプであり、好ましくは前記痛覚過敏症は少なくとも1種のオピオイドにより引き起こされることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか1に記載のガス混合物。
[8]
前記痛覚過敏症は痛覚過敏またはアロディニアとして発現されることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか1に記載のガス混合物。
[9]
2barを超える圧力で加圧容器、特にガスボンベに入れられることを特徴とする[1]ないし[8]のいずれか1に記載のガス混合物。
[10]
ヒトまたは動物における痛覚過敏症、特に痛覚過敏またはアロディニアとして表現される痛覚過敏症を予防するまたは低減させるための吸引薬を製造するための、[1]〜[9]のいずれか1に記載の酸素(O )と20〜70体積%の割合のキセノン(Xe)とを含有するガス混合物の使用。

Claims (10)

  1. ヒトまたは動物における手術後または外傷後のタイプの痛覚過敏症を予防するまたは治療するための吸引薬であって、前記痛覚過敏症は痛覚過敏またはアロディニアとして発現され、前記吸引薬は酸素(O)と20〜70体積%の割合のキセノン(Xe)とを含有する吸引薬
  2. キセノンの割合は22〜60体積%であることを特徴とする請求項1に記載の吸引薬
  3. キセノンの割合は25〜60体積%であることを特徴とする請求項2に記載の吸引薬
  4. 酸素およびキセノンのみまたは空気およびキセノンのみからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸引薬
  5. 窒素、ヘリウム、NO、クリプトン、アルゴンまたはネオンをさらに含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸引薬
  6. 15〜25体積%の割合の酸素を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項または請求項5に記載の吸引薬
  7. 記痛覚過敏症は少なくとも1種のオピオイドにより引き起こされることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の吸引薬
  8. 2barを超える圧力で加圧容器に入れられることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の吸引薬
  9. 前記加圧容器はガスボンベであることを特徴とする請求項8に記載の吸引薬。
  10. ヒトまたは動物における手術後または外傷後のタイプの痛覚過敏症を予防するまたは低減させるための吸引薬を製造するための、酸素(O)と20〜70体積%の割合のキセノン(Xe)とを含有するガス混合物の使用であって、前記痛覚過敏症は痛覚過敏またはアロディニアとして表現される使用
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