実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による放射線入射方向検出器の構成を表す図である。放射線入射方向検出器は、X線検出部であるX線検出器1と、X線検出器1の筐体100と、X線検出器1の周囲に互いに異なる方向に向けて配置された12種類の第1のコンバータ2A〜2Lと、X線検出器1が出力するパルス信号を電気的に処理する信号処理回路101と、信号処理回路101で処理されたパルス信号の波高分布を生成する波高分析部である波高分析器102と、波高分析器102で生成されたパルス信号の波高分布からガンマ線の入射方向を求める演算部である演算装置103と、表示装置104とを備える。以下、図1を用いて本実施の形態の放射線入射方向検出器の動作の概略を説明する。なお、以下では特に放射性物質から放出されるガンマ線の入射方向を検出する場合について述べる。
放射性物質3から放出されたガンマ線4は、例えば第1のコンバータ2Cに入射し、第1のコンバータ2Cから特性X線5が発生し、発生した特性X線5はX線検出器1で検出される。X線検出器1は、特性X線5を検出する度に、検出した特性X線のエネルギーに比例した波高の微小なパルス信号を出力する。信号処理回路101は、X線検出器1からのパルス信号とノイズとを識別するための信号処理を行う。一般に、放射線計測においては、放射線を検出して生じた信号とノイズを識別するために、放射線検出器からの出力電荷量に閾値を設け、ノイズと信号の分離を行っている。信号処理回路101では、X線検出器1の出力パルスの大きさが所定の閾値を超えた場合のみ、パルス信号を増幅して、後段の波高分析器102に出力する。
波高分析器102は、信号処理回路101から出力されたパルス信号の列を受け取り、パルス信号の波高値を所定の分解能でA/D変換し、ヒストグラムメモリに格納することで、パルス信号の波高ごとの発生頻度分布を表すパルス波高分布を生成する。演算装置103は、波高分析器102で作成したパルス波高分布特性を基に、ガンマ線の入射方向または入射方向の角度分布を求める。表示装置104は、求められたガンマ線の入射方向または入射方向の角度分布を表示する。以上が、本実施の形態の放射線入射方向検出器の動作の概略である。以下、さらに詳細について説明する。
図2は、本実施の形態の放射線入射方向検出器において特性X線が検出される動作を説明するための図であり、図1に示す放射線入射方向検出器を上から見た断面図である。図2において、図1におけるものと同一の番号を付したものは同一のものである。以下、X線検出器1で特性X線が検出されるまでの動作について、図2を用いて説明する。X線検出器1の周囲に配置される第1のコンバータ2A〜2Lは、それぞれ異なる元素組成の材料により構成されている。第1のコンバータ2A〜2Lは、放射性物質3から放出されるガンマ線と光電効果を起こし、結果として特性X線を発生する。図2において、放射性物質3から放出されるガンマ線4a、4b、4cは、それぞれ第1のコンバータ2B、2C、2Dに入射し、光電効果を起こして、特性X線5a、5b、5cが発生する。表1は、代表的な元素の特性X線のエネルギーを示す表である。発生する特性X線のエネルギーは、表1に示すように材料の組成により異なるので、特性X線5a、5b、5cはそれぞれ異なるエネルギーとなる。
光電効果が発生した場合、ガンマ線の運動エネルギーから電子の束縛エネルギーを引いた運動エネルギーを持つ電子が放出され、その放出された電子が占めていた軌道順位に、外側の軌道から電子が落ちてきて、その際の余剰エネルギーがX線として放出される。これが特性X線である。電子は物質中の透過力が低いため、光電効果によって発生する電子は、第1のコンバータで停止してしまうが、特性X線は、電子に比べ高い透過力を有するため、第1のコンバータから飛び出し、X線検出器1まで到達する。ここで、ガンマ線の入射方向に関係なく、特性X線の放出方向は等方となるため、第1のコンバータ2A〜2Lで発生する特性X線の検出効率を高めるために、X線検出器1と第1のコンバータ2A〜2Lを近接させて、X線検出器1の各位置から見た第1のコンバータ2A〜2Lの立体角を大きくすることが望ましい。
特性X線5a〜5cは、X線検出器1で検出される。代表的な特性X線のエネルギーは、表1に示すとおり100keV未満であるので、X線検出器1は100keV未満の低いエネルギーのX線に対して高い感度を有していることが望ましい。一方で、X線検出器1は数100keV以上の比較的高いエネルギーのガンマ線に対して、感度が低いまたは感度がないことが望ましい。例えば、一般的に、原子力発電所の事故などで環境中に放出される放射性物質は数100keVのエネルギーのガンマ線を放出するものが多く、X線検出器1が数100keV以上のガンマ線に対して高い感度を有していると、放射線量が高い環境下ではX線検出器1の出力が飽和してしまい正確な測定ができなくなってしまう。X線検出器1として、数100keV以上の比較的エネルギーの高いガンマ線に対して感度が低い、もしくは感度がないような特性のものを用いることで、放射線量が高い環境下においても、放射性物質が放出するガンマ線の影響を除去し、特性X線のエネルギーを効率よく測定することが可能となる。
X線検出器1には、例えばアバランシェフォトダイオード(APD)や、CdTe半導体検出器等のように、100keV未満の低いエネルギーのX線に対して高い感度を有し、数100keV以上の比較的エネルギーの高いガンマ線に対して感度が低い放射線検出素子を利用することが望ましい。アバランシェフォトダイオードや、CdTe半導体検出器を用いることで、シンチレータを用いた放射線検出器と比較して小型化が可能となる利点もある。また、ヨウ化ナトリウムシンチレータのように数100keV以上のガンマ線に感度を有する放射線検出器であっても、シンチレータの有感厚さが、シンチレータ中での数100keV以上のガンマ線の飛程より十分薄ければ、数100keV以上のガンマ線の感度が低下するため、X線検出器1として望ましい特性となる。なお、ヨウ化ナトリウムシンチレータを使用する場合には、特性X線のエネルギーが互いに近すぎないように第1のコンバータの材料を選択することが望ましい。
以下、X線検出器1で特性X線が検出されて以降の動作について述べる。X線検出器1は、特性X線を検出する度に、検出した特性X線のエネルギーに比例した波高を有するパルス信号を出力する。X線検出器1から出力されたパルス信号の列は、信号処理回路101を介して波高分析器102に入力される。波高分析器102は、パルス信号の波高値をA/D変換し、パルス波高分布を生成する。波高値のA/D変換においては、第1のコンバータ2A〜2Lからの特性X線のエネルギーに対応する波高を識別できるだけの分解能は少なくとも必要となる。
ここで、X線検出器1は、第1のコンバータ2A〜2Lからの特性X線のみではなく、X線検出器1が感度を有するエネルギー範囲の周辺からの放射線を検出する可能性がある。したがって、波高分析器102で生成されるパルス波高分布には、第1のコンバータ2A〜2Lからの特性X線によるもの以外も含まれる可能性がある。演算装置103は、波高分析器102で生成されたパルス波高分布から、第1のコンバータ2A〜2Lからの特性X線に対応する波高のものを抽出することで、特性X線の波高、すなわちエネルギー毎の検出頻度分布である特性X線のエネルギー分布を生成する。
図3は、演算装置103で生成される特性X線のエネルギー分布の一例である。図3において、横軸が検出された特性X線のエネルギー、縦軸が特性X線のエネルギー毎の検出頻度である計数値となる。図3の横軸のA〜Lは、X線検出器1の周囲に配置された第1のコンバータ2A〜2Lが放出する特性X線のエネルギーに対応している。次に、演算装置103は、特性X線のエネルギー分布を基に、ガンマ線の入射方向または入射方向の角度分布を求める。第1のコンバータ2A〜2Lが互いに異なる方向に向けて配置されているため、特性X線のエネルギーとガンマ線の入射方向が対応している。この対応を利用して、特性X線のエネルギー分布から、基準方向からの角度で表した入射方向ごとのガンマ線の入射頻度分布である角度分布への変換を行う。ここで、第1のコンバータ2A〜2Lの特性X線のエネルギーを昇順もしくは降順となるように選択しておけば、特性X線のエネルギー分布からガンマ線の入射方向の角度分布への変換が容易となる。
例えば、図2に示した例では12種類の第1のコンバータ2A〜2Lは、水平方向の全周方向を均等に分割するように配置されており、第1のコンバータ2Aが向けられた方向を基準方向として0度とすると、第1のコンバータ2Bが向けられた方向は30度、第1のコンバータ2Cが向けられた方向は60度、第1のコンバータ2Lが向けられた方向は330度となる。単純には、図3に示したエネルギー分布の横軸を角度に置き換えることで、ガンマ線の入射方向の角度分布に変換することができる。
図4は、演算装置103で生成されるガンマ線の入射方向の角度分布の一例であり、図3に示すエネルギー分布の横軸を入射方向に置き換えたものである。求められた角度分布を演算装置103から出力し、入射方向毎のガンマ線の入射頻度として表示装置104に表示しても良い。複数の方向からガンマ線が入射することが予想される場合や、ガンマ線が入射する方向がいくつあるのか不明の場合には、入射方向を1方向に特定して表示するよりも、入射方向の角度分布を表示することが有効である。この際、ノイズを除去するためのしきい値を設けて、入射頻度がしきい値以下の入射方向については、入射頻度を0として演算装置103から出力しても良い。
入射方向を1方向に特定する必要がある場合には、演算装置103はガンマ線の入射方向の角度分布を基に、ガンマ線の入射方向を特定する。ここで、最も単純な方法は、角度分布において頻度が最大となっている方向をガンマ線の入射方向とする方法である。例えば、図4では、第1のコンバータ2Cが向けられている60度の方向の検出頻度が高いため、ガンマ線の入射方向を60度と決定することができる。他にも、頻度分布の加重平均を利用する方法が考えられる。また、ガンマ線の入射方向の角度分布が、線源から見た第1のコンバータ2A〜2Lの立体角に比例することを利用し、三角関数演算を用いて、線源から見た立体角に応じて入射方向の角度分布を補正し、ガンマ線の入射角度を決定することもできる。演算装置103で入射方向が特定された場合には、表示装置104は特定された入射方向を表示する。
次に、特性X線のエネルギー分布からガンマ線の入射方向の角度分布へ変換する別の方法について述べる。各方向からガンマ線が1本入射した場合に対して、第1のコンバータのそれぞれで生成される特性X線のX線検出器1での検出確率、すなわち応答関数を用いると、ある特定の第1のコンバータから放出される特性X線の検出数は式(1)のように表すことができる。式(1)において、iは入射方向を識別するための記号であり、jは第1のコンバータを識別するための記号である。また、Mjは第1のコンバータjから放出される特性X線の検出数である。Rijは方向iに存在する放射性物質からガンマ線が放出された場合に、第1のコンバータjから放出される特性X線を検出する確率であり、応答関数である。Siは方向iから入射するガンマ線の数であり、Nは検出するガンマ線の入射方向の数であり、第1のコンバータの数と等しい値である。よって、i、jともに1からNまでの自然数となる。
応答関数Rijはあらかじめ算出、または実験などにより求めておくことが可能であり、N個の方向に対してあらかじめ求めておく。また、Mjは測定で得られる第1のコンバータからの特性X線のエネルギー分布である。式(1)を解くことでSiが求められ、特性X線のエネルギー分布からガンマ線の入射方向の角度分布を求めることができる。例えばアンフォールディング、逆行列演算、擬似逆行列演算、デコンボリューション、逆畳み込み積分等の逆問題演算手法を用いて式(1)を解くことで、ガンマ線の入射方向の角度分布を算出することが可能である。本実施の形態の放射線入射方向検出器は以上のように動作するのであるが、以下にて補足説明を行う。
本実施の形態の放射線入射方向検出器に入射するガンマ線は、第1のコンバータの材料と厚さによって決まる確率で、第1のコンバータを透過する場合もある。例えば図2において、ガンマ線4aが第1のコンバータ2Bを透過し、第1のコンバータ2Kに入射して光電効果を起こして特性X線を発生する可能性もある。図3に示した特性X線のエネルギー分布の一例において、エネルギーKの特性X線が検出されているのがこれに相当する。ガンマ線が第1のコンバータを透過する確率が低くなり、第1のコンバータで発生した特性X線がX線検出器1に入射する確率が向上するように第1のコンバータの材料と厚さを選択するのが一般的であり、このように構成することで、特性X線のエネルギー分布からガンマ線の入射方向の角度分布を求めるのが容易になる。ただし、演算装置103で得られる特性X線のエネルギー分布とガンマ線の入射方向との相関が取れるように構成されていれば、すなわち応答関数Rijがあらかじめ求められており、式(1)を解くことができれば、ガンマ線の入射方向は測定可能である。
また、図1において、X線検出器1の周囲に12種類の第1のコンバータ2A〜2Lを配置しているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、第1のコンバータの種類が2種類以上であれば何種類であっても良い。X線検出器1の周囲に配置する第1のコンバータの数が多ければ、ガンマ線の入射方向をより細かい角度分解能で検出することが可能となる。例えば、2種類の第1のコンバータを反対方向に向けて配置する場合には、前後、左右などの2方向での検出が可能となる。さらに、図1では、第1のコンバータ2A〜2Lのそれぞれの面積を等しくしているため、X線検出器1から見た第1のコンバータ2A〜2Lのそれぞれが占める方位角は等しいが、X線検出器1と第1のコンバータ2A〜2Lの幾何学的形状が把握できていれば、第1のコンバータ2A〜2Lの面積は必ずしも等しい必要はない。
また、図1において、第1のコンバータ2A〜2Lをリング状に隙間無く配列しているが、X線検出器1と第1のコンバータ2A〜2Lの幾何学的形状が正確に把握できていれば、第1のコンバータ2A〜2Lの間に隙間があっても良い。例えば、X線検出器1の前方空間のみを測定対象としたい場合は、第1のコンバータ2A〜2Lを半円上に配列しても良い。一方で、X線検出器1の周りに第1のコンバータ2A〜2Lをリング状に隙間無く配列することで、外部からの特性X線を遮蔽することができ、ガンマ線の入射方向の検出精度を高めることができる。
図5は、本実施の形態の放射線入射方向検出器において特性X線が外部から入射する場合の動作を説明するための図である。図5において、図2におけるものと同一の番号を付したものは同一のものである。図5において、放射性物質3の周囲に、例えば、X線検出器1の周囲に配置した第1のコンバータ2Cと同じ組成の構造物6があった場合、特性X線5bと同じエネルギーの特性X線5dが構造物6から放出されることになる。このとき、特性X線5dは第1のコンバータ2Cと異なる位置から放出されるノイズ成分となるため、特性X線5dを遮蔽することが望ましい。ここで、特性X線はエネルギーが低く、材料中での減衰が大きいため、第1のコンバータ2A〜2Lの厚さを、特性X線の透過率が十分低くなる厚さに調整することで、外部からの特性X線5dを遮蔽することができる。
次に、第1のコンバータ2A〜2Lの厚さを調整することで得られる効果について述べる。入射するガンマ線強度I0に対する透過するガンマ線強度Iの比で表されるガンマ線の透過率I/I0は、材料に固有な線減弱係数μと材料の厚さtとから式(2)のように決まるが、線減弱係数が材料ごとに異なるため、透過率が同じになるようにX線検出器1の周囲に配置する第1のコンバータ2A〜2L毎に厚さを調整することで、全ての方向から入射してくるガンマ線が光電効果を起こす確率を同じにでき、装置の角度依存性を無くすことができる。厚さtを線減弱係数μに反比例するように調整することで、ガンマ線の透過率I/I0を一定にすることができる。
一方、線減弱係数μは、同じ材料であってもガンマ線のエネルギーによっても異なるため、第1のコンバータ2A〜2Lの厚さを変更することで、感度の高い、すなわち光電効果によって発生した特性X線がX線検出器1で検出される確率の高いガンマ線のエネルギーを選択することが可能である。例えば、第1のコンバータ2A〜2Lを薄くするとエネルギーの高いガンマ線の感度が低くなり、第1のコンバータ2A〜2Lを厚くするとエネルギーの高いガンマ線の感度が高くなる。ガンマ線のエネルギーが高いほど線減弱係数μは小さくなり、同じ厚みに対して透過率が高くなる。したがって、第1のコンバータ2A〜2Lを薄くした場合は、エネルギーの高いガンマ線は第1のコンバータ2A〜2Lで光電効果を起こさず透過する割合が増えるため感度が低くなる。
これに対して、第1のコンバータ2A〜2Lを厚くした場合は、エネルギーが低いガンマ線は、第1のコンバータ2A〜2Lの内側まで侵入できず、ほとんどが第1のコンバータ2A〜2Lの外側で光電効果を起こして特性X線を発生してしまう。この場合、エネルギーの低い特性X線は第1のコンバータ2A〜2Lを透過できず、X線検出器1に到達できないため、エネルギーの低いガンマ線は計測できない。逆に、エネルギーの高いガンマ線は、コンバータの内側まで侵入できる割合が多くなるため、コンバータの内側で発生する特性X線の割合が高くなり、コンバータを透過しX線検出器1に到達する特性X線の割合が高くなる。このため、エネルギーの高いガンマ線の感度が高くなる。
例えば、第1のコンバータ2A〜2Lにおいて、エネルギーの高いガンマ線の感度を高めるように厚くした第1のコンバータと、エネルギーの低いガンマ線の感度を高めるように薄くした第1のコンバータとが交互に配列されるように構成すると、ガンマ線の入射方向とエネルギーを同時に計測することも可能である。エネルギーの高いガンマ線の感度を高めた第1のコンバータからの特性X線の検出頻度と、エネルギーの低いガンマ線の感度を高めた第1のコンバータからの特性X線の検出頻度の比率から、入射しているガンマ線のエネルギーが推定できる。すなわち、第1のコンバータのそれぞれの厚さを配置に応じて調節することで、ガンマ線の入射方向に加えて、エネルギーも測定可能となる。また、高いエネルギーのガンマ線、低いエネルギーのガンマ線のそれぞれについて入射方向が測定できる。ただし、この場合には、第1のコンバータ2A〜2Lの厚さを調整して感度を均一にした場合に比べて角度分解能は低下する。
以上のように、第1のコンバータ2A〜2Lの厚さによって得られる効果、特性が異なる。使用目的に合わせて調整した厚さで、X線検出器1の周囲に互いに異なる方向に向けて、それぞれの材料組成が異なる複数種類の板状の第1のコンバータ2A〜2Lを配置することにより、ガンマ線の入射方向に応じて異なるエネルギー分布の特性X線を計測することができる。なお、図1において、信号処理回路101は、放射線入射角を極めて高い精度で検出するためには備えられることが望ましいが、省略することもできる。また、図1において、表示装置104も必須ではない。検出した放射線の入射方向を記録しておいて後で確認するような使用方法では、必ずしも表示装置を備えている必要はない。
本実施の形態の放射線入射方向検出器によれば、互いに異なる方向に向けて配置された複数の第1のコンバータによって、入射した放射線をそれぞれ異なるエネルギーの特性X線に変換し、特性X線を検出してエネルギーに比例した波高のパルス信号の列を生成し、パルス信号の波高分布を生成し、第1のコンバータの向けられた方向と波高分布と用いて放射線の入射方向を求めるので、一度に多方向の放射線入射方向を検出でき、小型化が可能で、必要な演算処理量を削減できる。また、本実施の形態の放射線入射方向検出器によれば、第1のコンバータの材料と配置を適切に選択することによって、X線検出器で検出される特性X線のエネルギー分布とガンマ線の入射方向の角度分布を一致させることができるため、アンフォールディング等の複雑な演算を必要とせずに、ガンマ線の入射方向を検出できる。
複数台の放射線検出器を使用する従来の放射線入射方向検出器では、装置が大型化してしまうとともに、放射線検出器の出力信号を処理する信号処理回路や、測定結果の演算処理が複雑になってしまう問題があった。本実施の形態の放射線入射方向検出器では、1台のX線検出器にて放射線の入射方向を検出するので、小型化が可能であるとともに、1台のX線検出器から出力される信号を扱えば良く、ノイズの影響を除去するための信号処理や、入射方向を演算するための演算処理の量を削減することができ、構成を簡単にすることができる。例えば、アンフォールディング等の複雑な演算を行う場合でも、扱う信号量が少なくなるのは演算処理の量を削減する上で大きな利点となる。
また、複数台の放射線検出器を使用する従来の放射線入射方向検出器では、原子力発電所の事故等で大量の放射性物質が環境中に拡散した場合のように、測定場所の放射線量が高い場合には、装置を構成する複数台の放射線検出器の全てで、放射線の検出数が増加し、出力が飽和してしまうため、放射線検出器間の相関が取れず、放射線の入射方向を特定できなくなる問題があった。本実施の形態の放射線入射方向検出器では、1台のX線検出器にて放射線の入射方向を検出するので、放射線検出器間の相関を取る必要もない。さらに、放射性物質から放出されるエネルギーの高いガンマ線に対して感度が低いX線検出器を用いることができ、測定場所の放射線量が高い場合でも、放射線検出器の出力が飽和せずに、放射線の入射方向を特定することができる。
一方で、コリメータを用いて、放射線検出器の角度応答を特定方向に限定し、単一の放射線検出器のみで放射線の入射方向を特定する従来の方式もあるが、この方式では、一度に一方向しか放射線の入射方向を検出できず、検出器周囲の広い立体角範囲において放射線の入射方向を特定するためには、多数回の測定が必要になってしまい、さらにコリメータにより装置の質量が大きくなる問題があった。ここで、コリメータとは、放射線の遮蔽効果が高い材料で構成され、特定の方向にのみ開口部がある放射線遮蔽体である。放射線は開口部のみを通過することができるため、放射線検出器の視野を限定することができる。本実施の形態の放射線入射方向検出器では、一度に多方向の放射線入射方向を測定でき、またコリメータを必要としないので軽量化が可能となる。小型化や軽量化により、例えばラジコン操作のヘリコプターなど、遠隔操作可能な小型の移動機に放射線入射方向検出器を搭載し、遠隔操作で地上または空中から測定することも容易となる。さらに、放射線入射方向検出器を人工衛星などに搭載して宇宙での観測に使用するような場合にも、小型化や軽量化は大きな利点となる。
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2による放射線入射方向検出器において特性X線が検出される動作を説明するための図であり、放射線入射方向検出器を上から見た断面図である。実施の形態1では、第1のコンバータ2A〜2LをX線検出器1の周囲に1層のリング状に配列しているが、本実施の形態ではX線検出器1の周囲を2重に取り囲むように、第1のコンバータ20A〜20D、21K、21Lを2層のリング状に配列し、入射方向の検出分解能よりも少ない種類の第1のコンバータでガンマ線の入射方向を検出するように構成したものである。図6において、実施の形態1の図1におけるものと同一の番号を付したものは同一のものである。また、図示していないが、本実施の形態の放射線入射方向検出器は、実施の形態1と同様に信号処理回路101、波高分析器102、演算装置103、表示装置104を備えている。
X線検出器1の周囲には、外側に第1のコンバータ20A〜20D、内側に第1のコンバータ21K、21Lが2層のリング状に配列される。内側の第1のコンバータ21K、21Lは、円周を8分割するように交互に4つずつ配列され、外側に配列される第1のコンバータ20A〜20Dが向けられた方向を2分割するように配列される。第1のコンバータ20A〜20D、21K、21Lは、互いに異なる元素組成の材料により構成されている。ここで、各層のコンバータの厚さは、外部から入射するガンマ線の一部が内側の層に到達可能であり、外側の層で発生した特性X線がX線検出器1に到達可能なように調整されている。
以下、X線検出器1で特性X線が検出されるまでの動作について、図6を用いて説明する。放射性物質3から放出されるガンマ線4aは、第1のコンバータ20Aに入射し、光電変換を起こし、結果として特性X線5aを発生する。特性X線5aは、第1のコンバータ21Kを透過してX線検出器1に入射する。一方、放射性物質3から放出される別のガンマ線4bは、第1のコンバータ20Aを透過して第1のコンバータ21Kに入射し、光電変換を起こし、結果として特性X線5bを発生する。特性X線5bは、X線検出器1に入射する。第1のコンバータ20Aと第1のコンバータ21Kは異なる材料で構成されているので、特性X線5aと特性X線5bのエネルギーは異なる。
このように外部から入射するガンマ線の一部は外側の層で光電変換を起こし、他の一部は内側の層で光電変換を起こし、結果として異なるエネルギーの特性X線の組み合わせが発生してX線検出器1に入射する。ガンマ線の入射方向に応じて、異なる組み合わせの特性X線が発生するように第1のコンバータ20A〜20D、21K及び21Lを配置し、X線検出器で検出した特性X線のエネルギー分布を求めることで、ガンマ線の入射方向を求めることができる。図6に示す例では、外側の層に4種類の異なる材料の第1のコンバータを配列し、内側の層で2種類の異なる材料の第1のコンバータを配列している。よって、外側の層で4種類の異なるエネルギーの特性X線が発生し、内側の層で2種類の異なるエネルギーの特性X線が発生し、これらの組み合わせでガンマ線の入射方向が8方向の分解能で検出可能となる。以上が、X線検出器1で特性X線が検出されるまでの動作となる。
以下、X線検出器1で特性X線が検出されて以降の動作について述べる。X線検出器1は、特性X線を検出する度に、検出した特性X線のエネルギーに比例した波高を有するパルス信号を出力する。X線検出器1から出力されたパルス信号の列は、信号処理回路101を介して波高分析器102に入力される。波高分析器102は、パルス信号の波高値をA/D変換し、パルス波高分布を生成する。演算装置103は、パルス波高分布から特性X線のエネルギー分布を生成する。ここまでの動作は上記実施の形態1におけるものと同様である。
図7は、本実施の形態の放射線入射方向検出器において、演算装置103で生成される特性X線のエネルギー分布の一例を示す図である。図7において、横軸が検出された特性X線のエネルギー、縦軸が特性X線のエネルギー毎の検出頻度である計数値となる。図7の横軸のA〜D、K、Lは、X線検出器1の周囲に配置した第1のコンバータ20A〜20D、21K、21Lが放出する特性X線のエネルギーに対応している。次に、演算装置103は、特性X線のエネルギー分布を基に、ガンマ線の入射方向を求める。ガンマ線の入射方向は、外側に配列した第1のコンバータと内側に配列した第1のコンバータとの組み合わせで決まる8方向から選択する。例えば、エネルギーA〜Dに対応する計数値のいずれが最大となるかと、エネルギーK、Lに対応する計数値のいずれが大きいかとによって、8方向のうちの1方向を選択する。
図7のエネルギー分布では、エネルギーA〜DのうちエネルギーAの計数値が最大となるので、第1のコンバータ20Aが向けられた方向が候補として選択される。さらに、エネルギーLに対応する計数値よりもエネルギーKに対応する計数値が大きいので、第1のコンバータ20Aと第1のコンバータ21Kとの両方が向けられた方向が選択され、検出された入射方向となる。表示装置104は検出された入射方向を表示する。図6に示す構成例では、6種類の第1のコンバータを用いて8方向の分解能でガンマ線の入射方向を検出している。
X線検出器1の周りに2層のリング状に配列する第1のコンバータは、別の配列とすることもできる。図8は、本実施の形態の放射線入射方向検出器における第1のコンバータの別の配置例を示す図である。X線検出器1の周囲には、外側に第1のコンバータ20A〜20D、内側に第1のコンバータ21A〜21Dが2層のリング状に配列される。第1のコンバータ20A〜20Dは、互いに異なる元素組成の材料により構成されている。また、第1のコンバータ21A〜21Dも、互いに異なる元素組成の材料により構成されている。一方、第1のコンバータ20Aと21A、20Bと21B、20Cと21C、20Dと21Dは、同じ元素組成の材料により構成されている。ここで、各層のコンバータの厚さは、外部から入射するガンマ線の一部が内側の層に到達可能であり、外側の層で発生した特性X線がX線検出器1に到達可能なように調整されている。
放射性物質3から放出されるガンマ線4aは、第1のコンバータ20Aに入射し、光電変換を起こし、結果として特性X線5aを発生する。特性X線5aは、第1のコンバータ21Cを透過してX線検出器1に入射する。一方、放射性物質3から放出される別のガンマ線4bは、第1のコンバータ20Aを透過して第1のコンバータ21Cに入射し、光電変換を起こし、結果として特性X線5bを発生する。特性X線5bは、X線検出器1に入射する。ガンマ線の入射方向に応じて、異なるエネルギーの特性X線の組み合わせが発生するように第1のコンバータ20A〜20D及び21A〜21Dを配置し、X線検出器1で検出した特性X線のエネルギー分布を求めることで、ガンマ線の入射方向を求めることができる。図8に示す配置例では、外側の層の4種類の第1のコンバータと、内側の層の4種類の第1のコンバータとで、8つの組み合わせを作ってガンマ線の入射方向を検出可能としている。
なお、図8の配置例では、例えば、外側の層の第1のコンバータ20Aからの特性X線と内側の層の第1のコンバータ21Cからの特性X線との組み合わせと、外側の層の第1のコンバータ20Cからの特性X線と内側の層の第1のコンバータ21Aからの特性X線との組み合わせとを識別する必要があるが、隣接する第1のコンバータも考慮すると識別は可能となる。上記では、基本的な動作原理を説明するために、第1のコンバータ20Aで発生する特性X線5aと第1のコンバータ21Cで発生する特性X線5bについてのみ述べたが、実際には、第1のコンバータ20Aと21Cとが重なる方向と隣接する第1のコンバータ20Bや21Bでも特性X線が発生し、X線検出器1で検出される。第1のコンバータ20Aと21Cとが重なる方向と、第1のコンバータ20Cと20Aとが重なる方向とでは、隣接する第1のコンバータが異なるため、X線検出器1で検出される特性X線のエネルギー分布も異なり、識別することが可能となる。図8に示す配置例では、4種類の第1のコンバータを用いて8方向の分解能でガンマ線の入射方向を検出している。
本実施の形態の放射線入射方向検出器は以上のように動作するので、第1のコンバータを多層に配置し、各層のコンバータの材料組成の組み合わせを、ガンマ線の入射方向ごとに固有な組み合わせとすることで、検出される特性X線のパターンがガンマ線の入射方向ごとに固有となり、入射方向の検出分解能よりも少ない種類の第1のコンバータでガンマ線の入射方向を検出することができる。また、実施の形態1におけるものと同様の効果も有する。
実施の形態3.
図9は本発明の実施の形態3による放射線入射方向検出器の構造図である。図9に示す構成例は、第1のコンバータ2A〜2FをX線検出器1からみて水平方向だけでなく、鉛直方向にも向けて配置している点が実施の形態1におけるものと異なる。図9において、X線検出器1の上方に第1のコンバータ2A、X線検出器1の右側に第1のコンバータ2B、X線検出器1の手前側に第1のコンバータ2C、X線検出器1の左側に第1のコンバータ2D、X線検出器1の奥側に第1のコンバータ2E、X線検出器1の下方に第1のコンバータ2Fが配置されている。第1のコンバータ2A〜2Fは、互いに異なる元素組成の材料により構成されている。また、図示していないが、本実施の形態の放射線入射方向検出器は、実施の形態1と同様に信号処理回路101、波高分析器102、演算装置103、表示装置104を備えている。
放射性物質3から放出されたガンマ線4aは、例えば第1のコンバータ2Aに入射し、第1のコンバータ2Aから特性X線5aが発生し、発生した特性X線5aはX線検出器1で検出される。また、放射性物質3から放出された別のガンマ線4bは、例えば第1のコンバータ2Bに入射し、第1のコンバータ2Bから特性X線5bが発生し、発生した特性X線5bはX線検出器1で検出される。X線検出器1でX線が検出されて以降の動作は実施の形態1におけるものと同様である。本実施の形態の放射線入射方向検出器は、第1のコンバータ2A〜2FをX線検出器1からみて水平方向だけでなく、鉛直方向にも向けて配置したので、検出可能なガンマ線の入射方向が水平方向、鉛直方向も含めた4π方向に広がっている。
図9の構成例では、立方体を構成するように配置した第1のコンバータ2A〜2Fの中心にX線検出器1を配置しているが、これに限定されるものではなく、例えば、立方体の底面にX線検出器1を配置し、上半球のみをカバーする配置としても良い。また、図9では、立体的に配置した第1のコンバータの代表例として、立方体の場合を示しているが、第1のコンバータの形状は必ずしも正方形である必要はなく、正五角形を組み合わせた正十二面体や正三角形を組み合わせた正二十面体のような正多面体、サッカーボールのように正六角形と正五角形を組み合わせた形状でも良い。
また、X線検出器1と第1のコンバータのそれぞれとの幾何学的配置を把握しておけば、第1のコンバータのそれぞれが占める立体角を算出できるので、第1のコンバータの形状が正多角形で無い場合や、第1のコンバータ間に隙間があっても良い。また、第1のコンバータは平面の板状である必要もなく、局面の板状であっても良い。また、実施の形態2で述べたように、第1のコンバータを多層で配置しても良い。さらに、実施の形態1で述べたように、第1のコンバータの厚さを変更することによって、ガンマ線の入射方向に加えて、エネルギーを計測することも可能である。
本実施の形態の放射線入射方向検出器は、ガンマ線の入射方向が水平方向、鉛直方向も含めた4π方向、すなわち全球方向で検出可能となる。また、実施の形態1におけるものと同様の効果も有する。さらに第1のコンバータを多層で配置すれば、実施の形態2におけるものと同様の効果も有する。
実施の形態4.
図10は本発明の実施の形態4による放射線入射方向検出器の構造図である。本実施の形態の放射線入射方向検出器は、ガンマ線だけでなく中性子の入射方向を検出するため、第2のコンバータである中性子減速吸収部9を第1のコンバータ2A〜2Lの外側に配置している点が実施の形態1と異なる。中性子を放出する放射性物質(中性子放出体)としては、核燃料等がある。図10において、実施の形態1の図1におけるものと同一の番号を付したものは同一のものである。
一般的に、中性子はガンマ線のように、鉛等の高密度金属では遮蔽できず、水やポリエチレン等の水素を多く含んだ材料で減速させ、中性子を吸収する確率が大きいホウ素、カドミウム、ガドリニウムを使って吸収することにより遮蔽を行う。このため、中性子の入射方向を検出するためのコリメータは非常に大掛かりな装置になってしまう問題がある。 そこで、本実施の形態では、第1のコンバータ2A〜2Lの外側、すなわち第1のコンバータ2A〜2Lの向けられた方向の近傍に第2のコンバータとして中性子減速吸収部9を備え、中性子吸収反応によって生じる捕獲ガンマ線を計測することで、中性子の入射方向を検出する。
以下、図10を用いて本実施の形態の放射線入射方向検出器の動作について述べる。本実施の形態の放射線入射方向検出器は、第1のコンバータ2A〜2Lの向けられた方向の近傍に第2のコンバータとして中性子減速吸収部9を配置しているため、中性子放出体7から放出された中性子8は、まず中性子減速吸収部9に入射する。中性子減速吸収部9では、入射した中性子の減速と吸収反応を起こし、中性子の吸収反応によって捕獲ガンマ線10が発生する。発生した捕獲ガンマ線10は、第1のコンバータ2A〜2Lのうち発生位置の近傍に位置するものに入射して光電効果を起こし、特性X線5を発生する。発生した特性X線5をX線検出器1で検出し、エネルギー分布を生成することで中性子の入射方向を検出する。捕獲ガンマ線10が第1のコンバータ2A〜2Lのいずれかに入射して以降の動作は実施の形態1におけるものと同様である。
次に、中性子減速吸収部9について述べる。一般的に中性子の吸収は、中性子のエネルギーが低いほど発生確率が高いが、核燃料等から放出される中性子のエネルギーは数MeVと高いため、数eV程度の低エネルギー中性子に比べ、吸収反応の発生確率は1/1000程度である。そのため中性子減速吸収部9を用いて、中性子を適当な物質と散乱させてエネルギーを低下、すなわち減速させ、吸収反応の確率を高くしている。
中性子減速吸収部9は、中性子の減速と吸収反応を起こすための材料で構成され、ホウ素のような中性子吸収確率の高い元素と、水素のように中性子と散乱を起こし中性子のエネルギーを低下させる能力の高い元素を多く含んだ樹脂が理想的である。例えば、ポリエチレンにホウ素やガドリニウム等を混合した樹脂が利用可能である。また、中性子減速吸収部9は、減速効果のある減速層と吸収効果のある吸収層のように2つの層に分離することも可能である。この場合は、例えば、ポリエチレン等で構成される減速層と、炭化ホウ素などで構成させる吸収層が考えられる。
減速層と吸収層を分離して設ける場合、中性子のエネルギーにより必要な減速層の厚さが異なるため、減速層の厚さを調整することで、最も感度の高い中性子のエネルギーを選択することが可能である。一方で、中性子の吸収反応によって発生する捕獲ガンマ線10は、数100keV以上のエネルギーを持つ。例えば、ホウ素−10(10B)による中性子吸収反応では0.48MeVのガンマ線を放出する。このため、捕獲ガンマ線10は、樹脂で構成される中性子減速吸収部9の中で減衰することなく、第1のコンバータ2A〜2Lに入射する。以上が中性子減速吸収部9の働きである。
なお、図10では、各方向で厚さが均一な中性子減速吸収部9を第1のコンバータ2A〜2Lの周囲に隙間無く配置した例を示しているが、特定の方向の中性子減速吸収部9の厚さを変えたり、特定の方向に中性子減速吸収部9を配置しない構成も可能である。また、中性子減速吸収部9の減速層の厚さにより、感度が最も高くなる中性子のエネルギーが変化するため、例えば、中性子減速吸収部9の減速層の厚い部分と薄い部分を交互に配置し、それぞれに対応する位置に異なる材料の第1のコンバータを配置することにより、中性子の入射方向とそのエネルギーを同時に測定することが可能となる。さらに、中性子減速吸収部9を配置していない部分については、中性子の感度が無いため、中性子減速吸収部9のある部分と無い部分を交互に配置し、それぞれに対応する位置に異なる材料の第1のコンバータを配置することにより、中性子とガンマ線が混在する場において、中性子のみ、ガンマ線のみの入射角度を求めることができる。
また、図10では、中性子減速吸収部9を用いて中性子の吸収反応の結果生じる捕獲ガンマ線10を測定しているが、中性子減速吸収部9の代わりに、共鳴と呼ばれる特定のエネルギーの中性子に対して反応確率が極端に高くなる特性を持った材料を用いても良い。例えば、アルミニウム−27(27Al)を用いた場合は、5〜6keVのエネルギーにおける反応確率が他のエネルギーに比べ1桁以上高いため、5〜6keVのエネルギーの中性子を選択的に測定することができる。このように、第2のコンバータの材料組成を調整することで、特定のエネルギーの中性子を選択的に測定することが可能である。
さらに、実施の形態1で述べたように、第1のコンバータの厚さを変更することによってガンマ線の入射方向に加えてエネルギーも計測する方法と、上記の中性子減速吸収部の減速層の厚さを変更することによって中性子の入射方向とエネルギーを同時に計測する方法、および、中性子減速吸収部の有無によりガンマ線と中性子の入射方向を別々に求める方法を組み合わせることで、中性子とガンマ線が混在している場においても、中性子とガンマ線の入射方向およびエネルギーを別々に求めることができるようになる。