JP5996269B2 - G0s2タンパク質を含有してなるATP産生促進剤 - Google Patents

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本発明は、ATP合成酵素を活性化してATP産生を促進するATP産生促進剤、虚血性疾患の予防及び/又は治療剤、G0s2タンパク質とF0F−ATP合成酵素との複合体に関する。
ATP(アデノシン3リン酸)は、全ての生体の細胞中に存在し、全ての生命活動をつかさどる化学物質である。ATPは、エネルギーを電気的に蓄え、多くのエネルギー代謝に関与する。
酸素(O)は酸化的リン酸化反応によるATPの産生に基幹的な役割を果たしており、細胞の生存に不可欠である。例えば低酸素状態は、細胞内のATPの枯渇を引き起こし、細胞内ATPレベルの維持を助けてエネルギー枯渇により生じるあらゆる悪影響を最小限に抑えるための細胞適応反応が誘発される(非特許文献1)。しかしながら、低酸素ストレス下において、ミトコンドリアのATP産生を調節するメカニズムについては未だ明らかにされていない。
哺乳動物のF0F1−ATP合成酵素は、電子伝達系によって形成されたプロトン濃度勾配と、ミトコンドリア内膜の膜電位を利用してATPを産生する酵素である。F0F1−ATP合成酵素は好気呼吸している細胞において大部分のATPを産生するので、低酸素条件下等のATPが枯渇する状況下では、F0F1−ATP合成酵素の活性を増加させる様々な適応反応が誘導される。
例えばF0F1−ATP合成酵素を直接活性化することができれば、あらゆる細胞のエネルギー源となるATP濃度を直接調節することができるため、エネルギー枯渇による細胞死を防ぐことができ、虚血性疾患やエネルギー代謝不全の治療に有用であると考えられる。しかしながら、F0F1−ATP合成酵素に直接作用してその活性を増加させる物質については一切報告がない。
G0s2タンパク質は、G0/G1スイッチ遺伝子2(G0s2)にコードされるタンパク質であり、多くの組織で広く発現していることが知られている(非特許文献2)。しかしながらG0s2タンパク質の機能についてはほとんど知られていない。
G.L.Semenza, Annu Rev Cell Dev Biol 15, 551 (1999) F.Zandberben et al., Biochem J 392, 313 (2005)
本発明は、ATP産生酵素に直接作用して該酵素を活性化させることができるATP産生促進剤、及び該ATP産生促進剤を含有する虚血性疾患の予防及び/又は治療剤等を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。
(1)G0s2タンパク質は、F0F1-ATP合成酵素を活性化させることで、ミトコンドリアのATP産生を高める。より具体的には、G0s2タンパク質はFF−ATP合成酵素と直接結合し、そのプロトン駆動力を変化させずにATP産生能を増加させる作用を有する。このため、プロトン駆動力が低下した場合であっても、G0s2タンパク質を発現する細胞は、該タンパク質を少量しか発現しないか、又は全く発現しない細胞よりも、多くのATPを産生することができる。
(2)G0s2タンパク質の発現は低酸素状態により急性的にそして一過的に上昇し、その発現は細胞に低酸素ストレスに対して保護的に作用する。
(3)G0s2タンパク質は、ミトコンドリアのATP産生を増進させることによって、細胞を低酸素ストレスから保護する。
(4)外因性のG0s2タンパク質を大量に発現させると、低酸素に対する細胞保護作用が観察された。
これらの知見から、G0s2タンパク質はエネルギー消耗によるストレスから細胞を守るための、FF−ATP合成酵素に対する活性化リガンドであることが明らかになった。
また、G0s2タンパク質はプロトン駆動力は同等のままでF0F−ATP合成酵素のATP産生能を増加させるが、このようなATPの産生効率の増加は、あらゆる細胞や臓器における急性期のストレスに対して保護的に働くものである。より具体的には、このようにATP濃度を増加させる作用を有する物質は、例えばATP消費の多い心臓等の臓器や細胞において、臓器保護的、細胞保護的に作用する。特に、心臓等の臓器が虚血等の状態にあるときには、より強い臓器保護効果を発揮することになる。また、ATP産生促進による効率的なエネルギー配分は、糖尿病等のエネルギー代謝不全にも効果がある。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下のATP産生促進剤、虚血性疾患の予防及び/又は治療剤、及びG0s2タンパク質とF0F−ATP合成酵素との複合体に関する。
〔1〕(1)G0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩、又は(2)前記(1)に記載のタンパク質をコードするDNAを有効成分として含むことを特徴とするATP産生促進剤。
〔2〕低酸素状態又は虚血時におけるATP産生促進剤である前記〔1〕に記載のATP産生促進剤。
〔3〕G0s2タンパク質が、配列番号2、4及び6のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質である前記〔1〕又は〔2〕に記載のATP産生促進剤。
〔4〕G0s2タンパク質が、配列番号2、4及び6のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質である前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載のATP産生促進剤。
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のATP産生促進剤を含有することを特徴とするミトコンドリア病、代謝疾患、脳卒中、及び虚血性心疾患からなる群より選択される虚血性疾患の予防及び/又は治療剤。
〔6〕G0s2タンパク質とF0F1-ATP合成酵素との複合体。
本発明のATP産生促進剤は、F0F1-ATP合成酵素を直接活性化させることで、ミトコンドリアのATP産生を高めることができるものである。ミトコンドリアのATP産生を増進させることによって、細胞や臓器を低酸素ストレス等から保護することができ、また、糖尿病等によるエネルギー代謝不全(代謝異常)等を改善することができる。このため、本発明のATP産生促進剤及び虚血性疾患の予防及び/又は治療剤は、細胞保護効果や臓器保護効果、代謝不全改善効果を奏するものであり、特に細胞や臓器が低酸素状態や虚血などの状態にあるときに強い保護効果を発揮することができるものである。
図1のA〜Cは、G0s2を発現させた心筋細胞の免疫染色画像である。図1のA(左図)は、抗Flag抗体によって免疫染色した細胞の免疫染色画像であり、図1のB(中央)は、MitoTracker(登録商標) Red(インビトロジェン)によってラベルされた細胞の免疫染色画像である。図1のC(右図)は、図1のA及びBを合わせた画像である。上部パネル(図1のA〜C)の白い枠で囲った領域を拡大して、それぞれの下部パネルに示した。スケールバーは、20μm(上部パネル)及び5μm(下部パネル)である。 図2は、アフィニティ精製したG0s2結合タンパク質の銀染色ゲルの写真である。 図3は、心筋細胞におけるG0s2-Flagの免疫沈降反応の結果を示す図である。 図4は、図3の免疫沈降反応に対する相互免疫沈降反応の結果を示す図である。アスタリスクは、非特異性のバンドを意味する。 図5は、酸素正常状態(定常酸素:normoxia)又は低酸素状態(hypoxia)における心筋細胞中のF0F1-ATP合成酵素複合体の免疫沈降反応の結果を示す図である。アスタリスクは、非特異性のバンドを意味する。 図6のA〜Cはそれぞれ、抗G0s2抗体を用いた心筋細胞の免疫染色画像(図6のA(左上図))、抗F0F1-ATP合成酵素βサブユニット抗体を用いた心筋細胞の免疫染色画像(図6のB(中央上))、及び図6のA及びBを合わせた画像(図6のC(右上図))である。上図の白い枠で囲った領域を、拡大してそれぞれの下図に示した。スケールバーは、20μm(上図)及び5μm(下図)である。 図7は、G0s2Flag wild-type(WT)及び欠失変異体の一次構造を示す概略図である。G0s2タンパク質の膜貫通領域(TM)を黒色の四角で示している。 図8は、293T細胞(図8のA)又は心筋細胞(図8のB)で発現させた、G0s2変異体の免疫沈降反応の結果を示す図である。 図9は、心筋細胞における、Mit-ATeam(図9のA)及びCyto-ATeam(図9のB)蛍光のYFP/CFP放出比(相対YFP/CFP比)をプロットした図である。データは平均±標準誤差で表される。 図10は、LacZ(shLacZ;上部パネル)又はG0s2(shG0s2#2;下部パネル)に対するshRNAを発現している心筋細胞におけるMit-ATeam蛍光の、経時的なYFP/CFPレシオメトリック疑似カラーイメージである。表示された時間は、アデノウイルス感染後の経過時間を表している。ATPの合成を完全に阻害するために、タイムラプス撮影の終わりに、オリゴマシンA(1μg/mL)を添加した。スケールバーは、20μmである。 図11のA〜Eは、各アデノウイルスを24時間発現させた心筋細胞におけるMit-Ateam蛍光の代表的なYFP/CFPレシオメトリック疑似カラーイメージを示す図である。図11のF(右図)は、shLacZ(n=30)、shG0s2#1(n=30)、shG0s2#2(n=29)、shG0s2#2+G0s2 WT(n=32)又はshG0s2#2+G0s2ΔTM(n=31)のいずれかを24時間発現させた心筋細胞におけるMit- ATeam蛍光のYFP/CFP放出比の平均値を示す棒グラフである。すべての測定値は、コントロール細胞(shLacZ)の平均値で標準化した。図11のA〜Eにおいて、スケールバーは、20μmである。データは平均±標準誤差で表される。***P<0.001 図12は、オリゴマイシンA(1μg/mL)の存在下(点線)又は不在下(実線)における、各プラスミド(コントロール(mock)、G0s2 WT、又はG0s2ΔTM)を発現させた透過処理をしたHeLa細胞(図12のA)、又は各アデノウイルス(shLacZ、shG0s2#1、shG0s2#2、shG0s2#2+G0s2 WT又はshG0s2#2+G0s2ΔTM)を発現させた心筋細胞(図12のB)のMASC試験の結果を示す図である。上部パネルはATP産生のプロットを示しており、下部パネルは0から10分の間におけるATP産生速度の平均値を示している。図12のAにおいてn=12、図12のBにおいて実線はn=12、点線はn=8である。データは平均±標準誤差で表される。***P<0.001 図13は、低酸素の前処理あり又はなしで、オリゴマイシンA(1μg/mL)の存在下(点線、n=8)又は不在下(実線、n=12)、各アデノウイルス(shG0s2#1、又はshG0s2#2)を発現させ、膜透過処理した心筋細胞のMASC試験の結果を示す図である。図13のA(左図)はATP産生のプロットを示し、図13のB(右図)は、0から10分の間におけるATP産生速度の平均値を示す。 図14は、低酸素条件下でG0s2が枯渇した心筋細胞の細胞生存率を表す棒グラフである(n=7)。 図15は、G0s2 WT(上図)又はLacZ(下図)を発現させた心筋細胞の、低酸素状態から再酸素化の間の、Mit-ATeam蛍光の連続したYFP/CFPレシオメトリック疑似カラーイメージである。スケールバーは、20μmである。 図16は、G0s 2WT(四角(■)、n=20)又はLacZ(丸(●)、n=19)を発現している心筋細胞における、低酸素状態から再酸素化の間の、Mit-ATeam蛍光のYFP/CFP放出比プロットである。測定値は、0分での放出比で標準化し、G0s2 WTを発現させた心筋細胞及びLacZを発現させた心筋細胞を、それぞれの時点で比較した。アスタリスクは、G0s2及びLacZの比較において、統計的有意差があったことを示している。 図17は、低酸素条件下でG0s2を発現させた心筋細胞の細胞生存率を表す棒グラフである。LacZ又はG0s2 WT発現させた心筋細胞を、定常酸素条件下又は低酸素条件下で18時間培養した。n=8。 図18は、マウス、ラット及びヒトのG0s2タンパク質のアミノ酸配列を比較した図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のATP産生促進剤は、(1)G0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩、又は(2)前記(1)に記載のタンパク質をコードするDNAを有効成分として含むものである。有効成分は、1種のみ用いてもよく、2種以上を用いてもよい。本発明のATP産生促進剤は、有効成分のみを含むものであってもよいが、後述する薬学的に許容される担体等を適宜含んでもよい。
G0s2タンパク質は、F0F1-ATP合成酵素に結合して、そのATP産生を促進する活性を有するタンパク質である。また、G0s2タンパク質は、通常プロトン駆動力は同等のままでF0F1-ATP合成酵素のATP産生能を増加させる活性を有する。
本発明におけるG0s2タンパク質としては特に限定されず、各種動物由来のG0s2タンパク質(G0/G1スイッチ遺伝子2(G0s2)にコードされるタンパク質)を用いることができる。中でも、哺乳動物由来のG0s2タンパク質が好ましく、ヒト、マウス、ラット等由来のG0s2タンパク質がより好適に用いられる。
投与対象となる個体に対して当該個体と同種動物由来の(1)G0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩、又は(2)前記(1)に記載のタンパク質をコードするDNAを用いることが好ましく、例えばヒトに対してはヒトG0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩、又はヒトG0s2タンパク質をコードするDNAを用いることが好ましい。
例えば、ヒトのG0s2タンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子の塩基配列(ヒトG0s2遺伝子のコード配列)は、NCBI GENEBANKにおいて、それぞれアクセッション番号NP_056529.1、及びNM_015714.3(CDS: 258-569)として登録されている。ヒトのG0s2タンパク質のアミノ酸配列(アクセッション番号NP_056529.1)を配列番号2に、ヒトG0s2遺伝子のコード配列(アクセッション番号NM_015714.3(CDS: 258-569))を配列番号1に、それぞれ示す。
マウスのG0s2タンパク質のアミノ酸配列及びマウスG0s2遺伝子のコード配列は、NCBI GENEBANKにおいて、それぞれアクセッション番号NP_032085.1、及びNM_008059.3(CDS: 229-540)として登録されている。マウスのG0s2タンパク質のアミノ酸配列(アクセッション番号NP_032085.1)を配列番号4に、マウスG0s2遺伝子のコード配列(アクセッション番号NM_008059.3(CDS: 229-540))を配列番号3に、それぞれ示す。
ラットのG0s2タンパク質のアミノ酸配列及びラットG0s2遺伝子のコード配列は、NCBI GENEBANKにおいて、それぞれアクセッション番号NP_001009632.1、及びNM_001009632.1(CDS: 97-408)として登録されている。ラットのG0s2タンパク質のアミノ酸配列(アクセッション番号NP_001009632.1)を配列番号6に、ラットG0s2遺伝子のコード配列(アクセッション番号NM_001009632.1(CDS: 97-408))を配列番号5に、それぞれ示す。
本発明におけるG0s2タンパク質として、配列番号2、4及び6のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質等が好ましく、配列番号2、4及び6のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質等がより好ましい。配列番号2、4及び6のアミノ酸配列からなるタンパク質はいずれも、F0F1-ATP合成酵素に結合して、プロトン駆動力は同等のままでF0F1-ATP合成酵素のATP産生能を増加させる活性を有するタンパク質である。
G0s2タンパク質のアミノ酸配列において、膜貫通領域(TM)のアミノ酸配列は、通常F0F1-ATP合成酵素との結合に必須のコア配列である。図18に、ヒト、マウス、及びラットのG0s2タンパク質のアミノ酸配列の比較を示す。図18中、“*”が付されたアミノ酸は、ヒト、マウス及びラットの3種間で保存されているアミノ酸であることを意味する。“:”が付されたアミノ酸は、前記3種のうち2種で保存されているアミノ酸であることを意味する。図18に示すように、例えば、ヒト、マウス及びラットにおいて、G0s2タンパク質のアミノ酸配列は高い相同性を有する。また、膜貫通領域の配列(例えば、マウスのG0s2タンパク質における膜貫通領域はアミノ酸番号26〜48番)は保存されている。マウスのG0s2タンパク質における膜貫通領域(アミノ酸番号26〜48番)を、図18中に矢印で示す。
なおタンパク質がF0F1-ATP合成酵素に結合することは、例えば、実施例に記載した免疫沈降法等により確認することができる。また、F0F1-ATP合成酵素のATP産生活性は、M. Fujikawa, M. Yoshida, Biochem Biophys Res Commun 401, 538 (2010)に記載されている、透過処理細胞を用いてF0F1-ATP合成酵素のATP産生活性を測定するMASC測定法(MASC assay)等により確認することができる。例えば、あるタンパク質の存在下で、該タンパク質が存在しない場合と比較して、F0F1-ATP合成酵素の活性が増加すれば、当該タンパク質はF0F1-ATP酵素のATP産生を促進する活性を有するタンパク質である。
薬学的に許容される塩として、例えば無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性又は酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。
無機塩基との塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;並びにアルミニウム塩、アンモニウム塩などとの塩が挙げられる。
有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。
無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。
有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。
中でも無機塩基との塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
前記G0s2タンパク質は常法により得ることができる。例えば、天然の原料から単離することができるし、又は組換えDNA技術及び/又は化学的合成によって製造することもできる。例えば組換えDNA技術を用いた製法においては、G0s2タンパク質をコードするDNAを有する発現ベクターにより形質転換された宿主細胞を培養し、当該培養物から目的のタンパク質を採取することにより本発明に係るG0s2タンパク質を得ることもできる。
目的のタンパク質(G0s2タンパク質)をコードする遺伝子を組み込むベクターとしては、例えば大腸菌のベクター(pBR322、pUC18、pUC19等)、枯草菌のベクター(pUB110、pTP5、pC194等)、酵母のベクター(YEp型、YRp型、YIp型)、又は動物細胞のベクター(レトロウィルス、ワクシニアウィルス等)等が挙げられるが、その他のものであっても、宿主細胞内で安定に目的遺伝子を保持できるものであれば、いずれをも用いることができる。当該ベクターは、適当な宿主細胞に導入される。目的の遺伝子をプラスミドに組み込む方法や宿主細胞への導入方法としては、例えば、Molecular Cloninng(Sambrook et al., 1989)に記載された方法等が利用できる。
上記プラスミドにおいて目的のタンパク質遺伝子を発現させるために、当該遺伝子の上流にはプロモーターを機能するように接続させる。
本願発明において用いられるプロモーターとしては、目的遺伝子(G0s2タンパク質をコードする遺伝子)の発現に用いる宿主細胞に対応する適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、形質転換する宿主細胞がEscherichia属の場合はlacプロモーター、trpプロモーター、lppプロモーター、λPLプロモーター、recAプロモーター等を用いることができ、Bacillus属の場合はSPO1プロモーター、SPO2プロモーター等を用いることができ、酵母の場合はGAPプロモーター、PHO5プロモーター、ADHプロモーター等を用いることができ、動物細胞の場合は、SV40由来プロモーター、レトロウィルス由来プロモーター等を用いることができる。
上記のようにして得られた目的遺伝子を含有するベクターを用いて宿主細胞を形質転換する。宿主細胞としては、細菌(例えば、Escherichia属、Bacillus属等)、酵母(Saccharomyces属、Pichia属、Candida属等)、動物細胞(CHO細胞、COS細胞等)等を用いることができる。形質転換体の培養時の培地としては液体培地が適当であり、当該培地中には培養する形質転換細胞の生育に必要な炭素源、窒素源等が含まれることが特に好ましい。培地には所望によりビタミン類、成長促進因子、血清などを添加することができる。
培養後、培養物から目的のタンパク質を常法により分離、又はさらに精製すればよい。例えば、培養菌体又は細胞から目的物質を抽出するには、培養後、菌体又は細胞を集め、これをタンパク質変性剤(塩酸グアニジンなど)を含む緩衝液に懸濁し、超音波などにより菌体又は細胞を破砕した後、遠心分離を行う。次に上清から目的物質を精製するには、目的物質の分子量、溶解度、荷電(等電点)、親和性等を考慮して、ゲル濾過、限外濾過、透析、SDS-PAGE、各種クロマトグラフィーなどの分離精製方法を適宜組み合わせて行うことができる。
また、G0s2タンパク質は、常法により化学合成することができる。例えば、保護基の付いたアミノ酸を液相法及び/又は固相法により縮合させてペプチド鎖を延長させ、酸で全保護基を除去し、得られた粗生成物を上記の精製方法で精製することにより目的のタンパク質が得られる。
またタンパク質(ペプチド)の製造法は従来既に種々の方法が知られており、本発明に係るG0s2タンパク質の製造も公知の方法に従って容易に製造でき、例えば古典的なペプチド合成法に従ってもよいし、固相法に従っても容易に製造できる。
本発明のATP産生促進剤は、G0s2タンパク質をコードするDNAをその有効成分として含有することもできる。G0s2タンパク質をコードするDNAは、細胞内でのその安定性を高めるために修飾されていてもよい。このような修飾には、公知の手法を用いることができる。
G0s2タンパク質をコードするDNAは、前記G0s2タンパク質をコードする塩基配列を含むDNAであればよく、各種動物由来のG0/G1スイッチ遺伝子2(G0s2)等を用いることができる。好ましくは配列番号2、4及び6のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAである。このようなDNAとして、例えば、配列番号1、3又は5で表わされる塩基配列を有するDNA、又は配列番号1、3又は5で表わされる塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつF0F1-ATP合成酵素に結合して該酵素のATP産生を促進する活性を有するタンパク質をコードするDNA等を好適に用いることができる。すなわち、プロトン駆動力は同等のままでF0F1-ATP合成酵素のATP産生能を増加させる活性を有するタンパク質をコードするDNAである。配列番号1、3又は5で表わされる塩基配列は、それぞれ配列番号2のG0s2タンパク質(ヒトG0s2タンパク質)、配列番号4のG0s2タンパク質(マウスG0s2タンパク質)及び配列番号6のG0s2タンパク質(ラットG0s2タンパク質)をコードするDNAである。
配列番号1、3又は5で表わされる塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとは、例えば上記DNAをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味する。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、約0.7〜1.0M程度の塩化ナトリウム存在下、約65℃程度でハイブリダイゼーションを行った後、約0.1〜2倍程度の濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムよりなる。)を用い、約65℃程度の条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。
上記の配列番号1、3又は5で表わされる塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとして具体的には、配列番号1、3又は5で表わされる塩基配列と通常約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、さらに好ましくは約97%以上、特に好ましくは約98%以上の同一性を有する塩基配列を有するDNA等が挙げられる。ハイブリダイゼーションは、公知の方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning, A laboratory Manual, Third Edition(J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,2001:以下、モレキュラー・クローニング第3版と略す。)に記載の方法等に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
さらに、本発明におけるG0s2タンパク質をコードするDNAは上記に限定されず、発現するタンパク質がF0F1-ATP合成酵素に結合して該酵素のATP産生を促進する活性を有するG0s2タンパク質である限り、G0s2タンパク質をコードするDNAとして使用できる。
前記G0s2タンパク質をコードするDNAは常法により得ることができる。例えば、天然の原料から単離することができるし、又は化学的合成によって製造することもできる。
本発明における有効成分としてのG0s2タンパク質をコードするDNAは、細胞内でG0s2タンパク質を発現可能な形態であればよく特に限定されない。例えば、G0s2タンパク質をコードするDNAは、そのまま用いてもよいが、例えば、製剤化する際には、該DNAをベクターに挿入した形態で用いることが好ましい。前記発現ベクターは、G0s2タンパク質をコードするDNAを発現することができればよく、哺乳動物細胞においてG0s2タンパク質をコードするDNAを発現することができることが好ましい。例えば、G0s2タンパク質をコードするDNA断片が適当なプロモーターの下流に連結されている発現ベクターなどが挙げられる。
前記発現ベクターに用いられるベクターとしては、既存のベクターを使用することができる。例えば、大腸菌由来のプラスミド(例、pCR4、pCR2.1、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来プラスミド(例、pSH19、pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス(HIV)、センダイウイルス(HVJ-Eベクター)、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、SV40等のウイルスなどのウイルス由来のベクターの他、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。中でも、ウイルス由来のベクターが好ましく、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス(HIV)、センダイウイルス、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、SV40由来のベクター等を用いることが好ましい。
前記プロモーターとしては、宿主、すなわち標的細胞又は標的組織における遺伝子の発現に適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV−TKプロモーター、レトロウィルス由来プロモーター、サイトメガロウイルス由来プロモーター、アデノウイルス由来プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ−1(PGK−1)プロモーター、Col11a2遺伝子(XI型コラーゲンα2鎖遺伝子)のプロモーター、CAGプロモーター、伸長因子2(EF−2)プロモーター、MC−1プロモーターなどが挙げられる。
前記発現ベクターは、G0s2タンパク質をコードするDNA及びプロモーターの他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー又はSV40複製オリジンなどを有していてもよい。選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(メソトレキセート(MTX)耐性)、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子(G418耐性)等が挙げられる。
G0s2タンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターは、前記既存のベクターを用いて、自体公知の方法に従って作製できる。例えば、前記G0s2タンパク質をコードするDNA断片を、適当なベクター中のプロモーターの下流に公知の手法により連結することにより製造することができる。
本発明においては、例えば製剤化の際には、G0s2タンパク質をコードするDNA又は前記DNAを含む発現ベクターを、リポソーム、マイクロカプセル、ミクロスフェア、サイトフェクチン、DNA―タンパク質複合体又はバイオポリマー等の人工ベクターに内包させた形態で用いてもよい。中でも、リポソーム又はマイクロカプセルに内包することが好ましい。リポソーム等は、公知の方法により製造することができる。
前記G0s2タンパク質又はその塩、及びG0s2タンパク質をコードするDNAを患者等に投与することは、常法に従って、行うことができる。製剤形態としては、各投与形態に合った種々の公知の製剤形態をとり得ることができる。
本発明のATP産生促進剤は、F0F1-ATP合成酵素を活性化させる作用を有するものである。このため、本発明のATP産生促進剤を用いることにより、細胞においてATP産生が促進され、細胞におけるATP濃度を増加させることができる。このようにATP濃度の増加をもたらす薬剤は、特にATP消費が多い心臓等の細胞や臓器において細胞保護的、臓器保護的に働くものである。また、本発明のATP産生促進剤は、細胞におけるATP濃度を増加させることから、糖尿病などによる代謝不全(代謝異常)を改善することができるものである。さらに、本発明のATP産生促進剤は、通常プロトン駆動力は同等のままでF0F1-ATP合成酵素のATP産生能を増加させることができるものであることから、臓器が虚血等の状態にあるときにも効果的に臓器保護効果や細胞保護効果を発揮することができるものである。
本発明のATP産生促進剤は、低酸素状態又は虚血時の細胞においてATP産生を促進する効果を奏するものであるため、低酸素状態又は虚血時におけるATP産生促進剤として好適に用いられる。
本発明において、低酸素状態は、全身又は特定の組織・臓器へ十分な酸素供給がなされていない状態及び/又は酸素代謝(oxygen metabolism)が抑制されている状態を意味するものとする。
本発明において、虚血は、組織や器官で血流が不足し、酸素や栄養の供給が不足している状態を意味するものとする。
本発明のATP産生促進剤は、例えば、虚血性疾患の予防剤、治療剤等としても好適に用いられる。虚血性疾患としては、例えば、ミトコンドリア病、代謝疾患、脳卒中、及び虚血性心疾患等が挙げられる。
前記ATP産生促進剤を含有する、ミトコンドリア病、代謝疾患、脳卒中、及び虚血性心疾患からなる群より選択される虚血性疾患の予防及び/又は治療剤も、本発明に包含される。本発明の予防及び/又は治療剤は、本発明の効果を奏することになる限り、ATP産生促進剤以外の成分を含んでいてもよい。
本発明において、「予防」には発症を抑制する又は遅延させることが含まれる。「治療」には、症状又は疾病及び/又はその付随する症候を緩和し、又は治癒すること、及び緩和することを意味するものとする。
代謝疾患としては、糖尿病等が挙げられる。脳卒中として、例えば脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)等が挙げられる。虚血性心疾患として、心不全、心筋梗塞、狭心症等が挙げられる。
本発明のATP産生促進剤及び虚血性疾患の予防及び/又は治療剤は、前記(1)G0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩、又は(2)前記(1)に記載のタンパク質をコードするDNAの(1)〜(2)の少なくとも1つを薬学的に許容される担体又は添加剤とともに配合して、医薬製剤にすることができる。
薬学的に許容される担体又は添加剤としては、製剤素材として慣用の各種有機又は無機担体物質等が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等が挙げられる。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤用添加物を用いることもできる。担体や添加剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ATP産生促進剤及び虚血性疾患の予防及び/又は治療剤を医薬とする場合の製剤形態としては特に限定されず、通常、非経口投与剤とすればよいが、経口投与剤とすることもできる。本発明のATP産生促進剤及び虚血性疾患の予防及び/又は治療剤の有効成分はタンパク質又は遺伝子であるから、剤型は、非経口投与剤が好ましい。非経口投与剤としては、注射剤、吸入剤、カテーテル、点滴剤、経皮吸収剤、型粘膜吸収剤、座薬等が好適である。中でも、注射剤の製剤形態が好ましい。注射剤の場合は、投与対象である個体に対して、例えば静脈内、皮下、皮内、筋肉又は腹腔内への注射により、所定量を単回又は複数回に分けて投与することができる。これらの製剤形態は当業者に種々知られており、当業者は所望の投与経路に適する製剤形態を適宜選択し、必要に応じて当業界で利用可能な1又は2以上の製剤用の担体、製剤用添加物を用いて医薬用組成物の形態の製剤を製造することが可能である。
例えば、注射剤又は点滴剤の形態の医薬は、有効成分であるG0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩、又は該タンパク質をコードするDNAと共に適切な緩衝液、糖溶液、等張化剤、pH調節剤、無痛化剤、防腐剤などの1又は2以上の製剤用添加物を注射用蒸留水に溶解して滅菌(フィルター)濾過後にアンプルまたはバイアル詰めするか、滅菌濾過した溶液を凍結乾燥して凍結乾燥製剤とすることにより調製し提供することができる。添加剤としては、慣用されているものを使用することができる。このような製剤は、用時に注射用蒸留水や生理食塩水などを添加して溶解することにより注射剤又は点滴剤として使用できる。また、経粘膜投与には、点鼻剤や鼻腔内スプレー剤などの鼻腔内投与剤(経鼻投与剤)等も好適であり、経肺投与には吸入剤等も好適である。
1製剤中のG0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩の含量は、剤形等によって適宜調節することができるが、例えば0.001mg〜100mg程度とすればよく、好ましくは0.01mg〜10mg程度、特に好ましくは0.1〜10mg程度とすればよい。
1製剤中のG0s2タンパク質をコードするDNAの含量は、剤型等により適宜調節することができるが、通常、該DNAとして約0.0001〜100mg、好ましくは約0.001〜10mgである。
また、G0s2タンパク質をコードするDNAとG0s2タンパク質はそれぞれ独立して使用することができるが、両者を併用して用いることもできる。
本発明のATP産生促進剤及び虚血性疾患の予防及び/又は治療剤は、投与対象となる個体に対して医薬として使用できる。具体的な投与対象となる個体としては、上述した虚血性疾患を伴う個体、該虚血性疾患を発症する可能性がある個体等が好適な対象となる。また、個体としては哺乳動物(ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)が好ましく、特にヒトが好ましい。
本発明において、薬剤の投与量は特に限定されず、使用目的や投与対象の個体の年齢、体重、個体の種類、症状、栄養状態等に応じて適宜選択可能である。例えば、単回又は複数回をヒト成人に投与する場合、上記の製剤を、1日1回ないし数回(例えば3回)投与することが好ましい。例えば、虚血性疾患を予防及び/又は治療する場合、G0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩の1回の投与量は、例えば、ヒト成人であれば体重あたり0.00001〜1mg/kg程度とするのが好ましく、0.0001〜0.1mg/kg程度とするのがより好ましく、0.001〜0.1mg/kg程度とするのがさらに好ましい。また、G0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩を、1回当たり好ましくは0.001mg〜100mg程度、より好ましくは0.01mg〜10mg程度、特に好ましくは0.1〜10mg程度投与することが好ましい。
G0s2タンパク質をコードするDNAの投与量は、使用目的や投与対象の個体の年齢、体重、個体の種類、症状、栄養状態等に応じて適宜選択可能であるが、1日の投与量として通常、前記DNAとして約0.0001〜100mgとすることが好ましく、より好ましくは約0.001〜10mgである。
投与期間としては、上記の投与量を1日1回〜数回、1〜24週間投与することが好ましく、4〜12週間の投与がより好ましい。
投与方法は、剤型に応じて選択すればよいが、例えば、注射剤の場合は、投与対象である個体に対して、例えば静脈内、皮下、筋肉或いは腹腔内への注射により、所定量を単回又は複数回に分けて投与することができる。また、投与方法は非経口的に、例えば静脈内、皮下、筋肉内、経鼻等への注射等により、所定量を単回又は複数回に分けて投与することが好ましい。また、細胞又は部位によっては、局所的に直接投与することもできる。また、例えば、心筋細胞にATP産生促進剤又は虚血性疾患の予防及び/又は治療剤を導入する場合には、前記剤を、心筋組織内注射等によって心筋細胞に直接投与することもできる。
本発明のATP産生促進剤、及び虚血性心疾患予防及び/又は治療剤は、食品組成物とすることができる。
この食品組成物は、例えば、健康食品、栄養補助食品(バランス栄養食、サプリメントなどを含む)として好適に用いることができる。また、保健機能食品(特定保健用食品(疾病リスク低減表示、規格基準型を含む)、条件付き特定保健用食品、栄養機能食品を含む)に好適である。
剤型は、特に限定されないが、前記有効成分をそのまま、又はこれに食品に通常用いられている賦形剤又は添加剤を配合して、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、水和剤、乳剤、液剤、エキス剤、またはエリキシル剤等の剤型に、公知の手法にて製剤化することができる。必要に応じて、油脂、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、香料、増粘剤、甘味料、着色剤、香料、保存料、酸化防止剤、有機酸などの食品添加剤と共に混合して、製剤化すればよい。賦形剤、及び食品添加剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
前記食品組成物は、一般の飲食品に前記ATP産生促進剤の有効成分を添加して調製することもできる。飲食品の種類は特に限定されない。
食品組成物は、前記有効成分の1日摂取量が、例えば通常約0.01〜10000mg、好ましくは約0.1〜10000mg、さらに好ましくは約50〜1000mgになるように摂取すればよい。
前記食品組成物の剤の使用対象は特に限定されないが、虚血性疾患の患者、虚血性疾患を発症する可能性がある個体などが好適な対象となる。
本発明は、G0s2タンパク質とF0F1-ATP合成酵素との複合体も包含する。前記複合体は、通常、G0s2タンパク質とF0F1-ATP合成酵素とが結合したものである。G0s2タンパク質とF0F1-ATP合成酵素との複合体は、例えば、F0F1-ATP合成酵素を発現する細胞を低酸素条件下におくことにより、該細胞においてG0s2タンパク質の発現が誘導されて形成される。また、F0F1-ATP合成酵素を発現する細胞にG0s2タンパク質をコードする遺伝子を導入して発現させることによっても、G0s2タンパク質とF0F1-ATP合成酵素との複合体を形成することができる。このような複合体が形成されることにより、F0F1-ATP合成酵素が活性化されてそのATP産生能を増加させることができる。G0s2タンパク質の好ましい態様は上述した通りである。F0F1-ATP合成酵素は、好ましくはG0s2タンパク質と同種由来のF0F1-ATP合成酵素である。
以下、本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中、G0s2タンパク質を、単にG0s2ともいう。
試験例1
I.方法及び試薬
1.試薬及び抗体
試薬は以下の購入品を試験に用いた:オリゴマイシンA(シグマアルドリッチ、セントルイス、MO);2−デオキシグルコース(シグマアルドリッチ);Mito Tracker(登録商標) Red(インビトロジェン)。
抗体は以下の購入品を用いた:抗F0F1-ATP合成酵素複合体(Complex V)(ミトサイエンス、ユージーン、OR)、抗F0F1-ATP合成酵素サブユニット F1-α(プロテインテックグループ社)、F1-β(モレキュラープローブス、ユージーン、OR)、F1-γ(アブカム、ケンブリッジ、UK)、F0-b(プロテインテックグループ社);抗α-チューブリン(シグマアルドリッチ);抗Flag M2抗体(シグマアルドリッチ);ワサビペルオキシダーゼ結合ヒツジ抗ウサギ及び抗マウスIgG(horseradish peroxidase-coupled sheep anti-rabbit and anti-mouse IgG)(Cappel、オーロラ、OH);Alexa 488-及びAlexa 568-ラベル二次抗体(モレキュラープローブス)。
抗F0F1-ATP合成酵素cサブユニット(F0-c)抗体は、ヒトF0-cサブユニットに相当するペプチドを用いて免疫付与することにより作製した。G0s2に対するポリクロナル抗体及びモノクロナル抗体は、ウサギ及びマウスそれぞれのG0s2のアミノ酸配列(a.a. 93-103, CSRALSLRQHAS(配列番号7))に相当するペプチドを用いて免疫付与することにより作製した。
2.細胞培養及びトランスフェクション
HeLa細胞及び239T細胞は、10%のウシ胎児血清及び1%のペニシリン‐ストレプトマイシンを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;ギブコ)で、5%CO中37℃で維持した。一過性トランスフェクションは、HeLa細胞にはFuGENE(登録商標)(プロメガ)を、239T細胞にはLipofectamine(登録商標) 2000(インビトロジェン)を用いて、製造者の指示に従って実施した。
3.新生仔ラット心筋細胞の初代培養
1又は2日齢のウィスターラットから得た心筋細胞を、O. Seguchi et al., J. Clin Invest 117, 2812 (2007)に記載の方法により調製し、10%のFBSを含有したDMEMの中で培養した。特に記載がない場合、低酸素状態(1%O及び5%CO)は、マルチガスインキュベーター(型式MCO-5M、三洋電気)を用いて実現した。
4.構築
マウスG0s2遺伝子のコード配列(NM_008059.3、配列番号3)は、マウスの心臓cDNAライブラリーからPCRによって増幅し、pENTR(登録商標)/D-TOPO(登録商標)ベクター(インビトロジェン)へサブクローンした(pENTR/G0s2)。pENTR-G0s2を、Gatewayテクノロジー(インビトロジェン)を使用してpEF-DEST51/Flag(C末端 Flagタグ)ベクターに組み換えた(pEF-DEST51/G0s2-Flag)。G0s2欠失変異体は、pENTR-G0s2(終止コドンなし)を鋳型に用いたPCRによって作製し、次いでpEF-DEST51/Flagベクターへ組み換えた(pENTR-G0s2 ΔN、ΔTM及びΔC)。ΔN、ΔTM及びΔCは、それぞれ、G0s2のN末端部位、膜貫通部位、C末端部位の欠失変異体を意味する。
5.遺伝子組み換えアデノウイルスの作製
アデノウイルスコンストラクトは、製造者の指示に従い、過剰発現についてはViraPower(登録商標)Adenoviral Expression System(インビトロジェン)を、shRNAについてはBLOCK-iT(登録商標)Adenoviral RNAi Expression System(インビトロジェン)を用いて作製した。G0s2-Flagをコードするアデノウイルス構築のため、pENTR-G0s2(終止コドンあり)中のG0s2コード領域のC末端を有するフレーム内にFlag配列を挿入し、続けて、LRクロナーゼを用いてpAd/CMV/V5-DEST(登録商標)デスティネーションベクターへ組み換えた。ATeamをコードするアデノウイルス構築のため、pcDNA-ATeam1.03(Cyto-ATeam)又はpcDNA-CoxVIII2-AT1.03(Mit-ATeam)のXhoI-PmeIフラグメントを、pENTR-1Aベクター(インビトロジェン)へSalIとEcoRVの間にサブクローンし、その後、pAd/CMV/V5-DEST(登録商標)デスティネーションベクターへ組み換えた。shRNAをコードするアデノウイルス構築のため、標的シーケンスを含むオリゴヌクレオチドをpENTR-U6ベクターへサブクローンし、その後pAd/BLOCK-iT(登録商標) DESTベクターへ組み換えた。G0s2(#1)及び(#2)に対するshRNAの標的は、それぞれラットG0s2のコード領域及び3’-UTRである。標的シーケンスは以下の通りである。: G0s2(#1)へのshRNAはGGAAGCTAGTGAAGCTGTACG(配列番号8); G0s2(#2)へのshRNAはGCAGCATGCACTGTGATTTGT(配列番号9); LacZへのshRNAはGCTACACAAATCAGCGATTT(配列番号10)。
6.RNAの抽出及び定量PCR
全RNAは、製造者の指示に従い、RNA-Bee(登録商標)RNA分離試薬(RNA isolation)(Tel-Test Inc.)を用いて心筋細胞から調製し、Omniscript(登録商標) RT kit(キアゲン)を用いてcDNAへと変換した。定量PCRは、TaqMan(登録商標) technology及びStepOnePlus(登録商標) Real-Time PCR Systems(アプライドバイオシステムズ)を用いて実施した。全ての試料を、2回ずつ調製した。それぞれの転写のレベルは、βアクチンを内標準として用い、threshold cycle(Ct)法により定量した。
7.RNAの調製及びオリゴヌクレオチドアレイへのハイブリダイゼーション
全RNAは、低酸素(1%O)状態に置いた心筋細胞から、異なる3つの時点(0、2及び12時間目)で調製した。その際、Affymetrix Gene Chip technologyを用いた。cDNAを全RNAから合成し、T7-oligo-dTプライマーへアニールした。逆転写は、Superscript(登録商標) II 逆転写酵素(インビトロジェン)を用いて実施した。cDNAの二本目の鎖の合成は、適切な試薬を用い、DNAポリメラーゼIによって行った。ビオチン標識されたcRNAの合成は、MEGAscript(登録商標) T7 IVT kit(Ambion, Inc.)を用いて、in vitro転写にて実施した。このcRNAを断片化し、GeneChip(登録商標) Rat Genome 230 2.0 arrays(アフィメトリクス)にハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション、プローブの洗浄、染色及びプローブ配列のスキャンは、アフィメトリクス社から提供された実験実施要綱に従って実施した。
8.マイクロアレイデータ解析
データの解析及び標準化は、GeneSpring Gx11.5 bioinformatics software(製品名、アジレント・テクノロジー)を用いて実施し、全ての配列の中で原信号(raw signal)(<50)を有するプローブセットを除いた。有意でない遺伝子プローブによって生じた、バックグラウンドのノイズを縮減するための質的フィルタリングを実行した後、有意なp値を持った遺伝子のグループとなった、フィルター済みの遺伝子リストをOne-way ANOVA試験に供した。GeneSpring Gx11.5でヒートマップを作成した。さらに、ミトコンドリアの酸化的リン酸化に関する遺伝子に対するプローブを、IPA(インジェヌイティーシステムズ)で抽出した。
9.タンパク質と結合したG0s2の精製
心筋細胞に、G0s2-Flag又はLacZ(コントロール)をコードするアデノウイルスを感染させた。感染48時間後に、30mMのMOPS、pH7.4、150mMのNaCl、10%のグリセロール、1mMのEDTA、10mMのNaF、25mMのβグリセロリン酸、1mMのオルトバナジウム酸塩及び1%のCHAPS、及びプロテアーゼ阻害薬混合溶液(ナカライテスク)を含有する緩衝溶液Aで細胞を溶解させた。すべての細胞ライセートを、抗Flag M2 アガロース(シグマ)を用いて、4℃で1時間穏やかに振とうしながら免疫沈降させた。緩衝溶液Aを用いて3回、及び25mMのTris-HCl、pH8.0、100mMのNaCl、10%のグリセロール、1%のTween-20、及び1mMのジチオスレイトールを含有する溶出バッファーを用いて1回洗浄した後、250μg/mLのFlagペプチドを含む溶出バッファーで、4℃で一晩タンパク質を溶出させた。溶出させたタンパク質を、4−12%のNuPAGE(登録商標) Bis-Trisゲル(インビトロジェン)で電気泳動させ、銀で染色した。
10.In-gel消化及び精製蛋白質の質量分析
銀染色をしたゲルから特定のバンドを含むゲル切片を切り出し、30mMのフェリシアン化カリウム及び100mMのチオ硫酸ナトリウムの1:1溶液で洗浄して脱染し、200mMの重炭酸アンモニウムで20分間平衡化してpH8.0とした。酵素消化の前に、ゲル切片を、10mMのジチオスレイトールを含む50mMの重炭酸アンモニウム溶液で、37℃で30分間還元し、次いで、55mMのヨードアセトアミドを含む50mMの重炭酸アンモニウム溶液中で30分間処理してアルキル化し、アセトニトリルを加えて脱水した。還元され、アルキル化されたゲル切片を、50mMのTris-HCl、pH9.0、及び0.5μg/mLのシークエンシンググレードの修飾トリプシン(ロシュ・ダイアグノスティックス、ドイツ)中で再水和した。まずこの溶液をゲル切片に完全に吸収させ、酵素を含まないTris-HCl bufferをゲル切片が浸るまで加えた。試料を37℃で16時間消化し、アセトニトリル及び50%のギ酸で20分間抽出した後、SpeedVac遠心分離機(サーモサイエンティフィック)を用いてアセトニトリルを減圧留去した。トリプシンの消化物を、C18-StageTips(SPE C-TIP、日興テクノス、東京、日本)によって脱塩し、SpeedVac遠心分離機によって濃縮し、0.1%のギ酸を加えて再構成させた。各試料を、0.1mm×100mm C18 nano-ESI-column(日興テクノス、東京、日本)を装着したQ-TOFタンデム質量分析計(SYNAPT G2ウォーターズ、ミルフォード、MA)と連結させたnano-ultraperformance液体クロマトグラフィーに供した。移動相Aとして0.1%のギ酸水溶液を、移動相Bとして0.1%のギ酸を含むアセトニトリル溶液を用いた。各試料を、2%の移動相Bで平衡化したカラムにロードした。2−40%の移動相Bのグラジエントで、流速500nL/minで20分以上流し、ペプチドをカラムから溶出させ、その後90%の移動相Bで4分間リンスして、初期条件で12分間安定化させた。ナノエレクトロスプレーイオン化源を備える、positive V modeに設定したQ-Tof Premier(登録商標) instrument(ウォーターズ)を用いて、[Glu1]-fibrinopeptide B solution(流速300nl/minで200fmol/μL)をNanoLockSpray sourceのreference sprayer に流して校正した後に、質量分析によってペプチドフラグメントを分析した。MS分析はData dependent acquisition(DDA)modeで行った。MSデータは、Protein Lynx Global Server(登録商標)(PLGS)software version 2.4(ウォーターズ、ミルフォード、 MA)で処理した。European Bioinfomatics Institute-International Protein Index database(version 3.77)を使用し、以下のパラメーターでデータベースを調査した:peptide tolerance, 20 ppm;fragment tolerance, 0.1 Da;trypsin missed cleavages, 1;variable modifications, carbamidomethylation and oxidation of methionine。
11.共焦点顕微鏡法
心筋細胞を、コラーゲンをコーティングした35mmのガラス皿(旭テクノグラス)に播種した。播種から24時間後、LacZ又はG0s2を標的とするshRNAをコードするアデノウイルスを細胞に感染させた。50nMのMito Tracker(登録商標) Red(インビトロジェン)で4時間処理した後、まず、予熱したPBSで細胞を洗浄して、100%のメタノールで−20℃で15分間処理して固定した。次に、0.01%Triton X-100を含むPBSを用いて室温で10分間細胞を透過処理し、その後、ウサギ抗G0s2ポリクロナル抗体及びマウス抗 F0F1-ATP 合成酵素βサブユニットモノクロナル抗体を用いて一時間免疫染色した。G0s2-Flagを染色するために、抗Flag M2モノクロナル抗体(シグマアルドリッチ)を用いた。二次反応には、Alexa 488 又は568でラベルされた二次抗体(インビトロジェン)を使用した。蛍光画像は、油浸対物レンズHCX PL APO 63X、開口数(numeric aperture(NA))1.40を使用する共焦点顕微鏡Leica TCS SP5(製品名、ライカ)、又は油浸対物レンズPL APO 60X, 1.35 NAを使用する共焦点顕微鏡Olympus FV1000D(製品名、オリンパス)によって記録した。
12.Mit-ATeam及びCyto-ATeamを使用する、ミトコンドリアマトリックス及び細胞質ゾルのATP濃度のFRETに基づいた測定
ATP濃度の測定において、細胞質ゾル又はミトコンドリアそれぞれのATP濃度変化を測定するため、FRET基盤ATP指示薬(FRET-based ATP indicator)であるAT1.03又はmit AT1.03をコードするアデノウイルスを、心筋細胞に感染させた。細胞の広領域観察は、油浸対物レンズPL APO 60X, 1.35 NAを用いるOlympus IX-81倒立型蛍光顕微鏡(製品名、オリンパス)によって行った。ATeamからの蛍光放出は、ダイクロイックミラー510 nm及び2つの放出フィルター(CFPについて483nm/32nm及びYEPについて542nm/27nm、型番 A11400-03、浜松ホトニクス)を有するデュアル冷却電荷結合素子(dual cooled charge-coupled device)(CCD)カメラ(型番ORCA-D2、浜松ホトニクス)を使用して画像化した。CoolLED pE-1 excitation system(CoolLED)によって、波長425nmで細胞を照射した。顕微鏡上ではステージトップインキュベーター(東海ヒット)を使って細胞を37℃に保持した。低速度撮影中の酸素濃度の調節に関して、酸素(1%)及び正常(定常)酸素(20%)状態を作り出すためにステージトップインキュベーター用のデジタルガス混合装置GM8000(東海ヒット)を用いた。画像分析は、MetaMorph(登録商標、モレキュラーデバイス)によって行った。YFP/CFP放出比は、バックグラウンドを差し引いた後に、YFP画像をCFP画像と共に画素ごとに分割することで算出した。
13.ミトコンドリア膜電位の測定
ミトコンドリア膜電位は50nMのテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE、モレキュラープローブス)を、37℃で30分間ロードすることによって測定した。画像は冷却CCD CoolSNAP-HQカメラ(ローパーサイエンティフィック)を備えた倒立顕微鏡(オリンパス、型番IX-81)によって、対物レンズPL APO 40X, 0.95 NA又は油浸対物レンズPL APO 60X, 1.35 NA(型番、オリンパス)を使用して撮影した。TMREの蛍光画像はfilter set Semrock FF01-575/25-25 excitation filter、FF 604-Di01 dichroic mirror、及びFF01-624/40-25 emission filterによって観察した。ミトコンドリアの領域を設定するために、画像を二値化した。オリジナル画像を、二値化した画像を用いて算術的に拡大させた。TMREの統合強度(integrated intensity)を、二値化画像から測定したミトコンドリアの領域ごとに細分化した。これらのデータの算術的な処理は、MetaMorph(登録商標、モレキュラーデバイス)によって実施した。
14.透過処理細胞のATP合成活性の測定(MASC assay)
HeLa細胞におけるATP合成活性を、原形質膜を透過処理するためストレプトマイシンOを利用する、最近改良した測定方法(M. Fujikawa, M. Yoshida, Biochem Biophys Res Commun 401, 538 (2010))によって測定した。ジギトニン(50μg/mL)を心筋細胞の原形質膜を透過処理するために使用した。
15.組み換え体G0s2タンパク質の精製
全長のマウスG0s2 cDNAをpMAL-c2Pベクター(pMAL-c2e(ニュー・イングランド・バイオラボ)のエンテロキナーゼ認識部位をPreScissionプロテアーゼ認識部位で置換したもの)にサブクローンし、MBP融合G0s2のコード配列をpET21aベクター(ノバジェン)にクローニングした(pET21a-MBP-G0s2と名付けた)。pET21a-MBP-G0s2を用いて大腸菌BL21-Star(DE3)(インビトロジェン)を形質変換し、0.5mMのIPTGを加えて37℃で4時間処理をしてMBP-G0s2タンパク質の発現を誘導した。超音波処理により細胞を溶解させ、発現したMBP-G0s2タンパク質を、アミロース樹脂(ニュー・イングランド・バイオラボ)を用いて精製し、続いて、MBP tagを切断するためにPreScissionプロテアーゼと共にインキュベートした。タグがついていないG0s2をProtein-R逆相カラム(4.6 x 250 mm、ナカライテスク)でさらに精製した。溶出フラクションを、遠心エバポレーターで乾燥させ、30mMのMOPS、pH7.5、150mMのKCl、及び0.01%のn-ドデシル-β-D-マルトシド(DDM)を加えて再構成した。
16.In vitroでのATP加水分解試験
活性は、100mLのKCL、1mMのMgCl2、1mMのATP、及びATP再生システム(0.1mg/mLのピルビン酸キナーゼ、0.1mg/mLの乳酸脱水素酵素、2.5mMのホスホエノールピルビン酸及び0.2mMのNADH)を含む50mMのHEPES/KOH(pH7.5)の中で、37℃で測定した。ATPの加水分解量は、340nmの吸光度を測定して、NADHの酸化量によって評価した。ヒトF0F1-ATP合成酵素のF1サブユニット(ヒトF1)を最終濃度0.6μMで添加することで反応を開始させた。ヒトF1は、大腸菌で発現された組み換え体酵素を精製したものである。
17.細胞生存率
12-wellプレートに播種した9×10細胞の心筋細胞に、アデノウイルスshRNAを48時間、又はアデノウイルスLacZもしくはG0s2-Flagを24時間感染させ、その後、低酸素状態に18時間暴露した。低酸素状態(0.1%未満)は、AnaeroPack(登録商標)System(三菱ガス化学)によって実現した。低酸素状態の後、2μg/mLのヨウ化プロピジウム(シグマ)及び2μg/mLのHoechst 33342(同仁化学)によって、37℃で30分細胞を染色した。染色した細胞核はその後、BZ-8000蛍光顕微鏡(キーエンス)を用いて可視化した。プレート上の4つの領域(1領域あたり、〜400の細胞)を計測し、全体の細胞核中のヨウ化プロピジウム陽性細胞核のパーセンテージとしてデータを表した。
18.ミトコンドリアの精製
インタクトなミトコンドリアの精製のため、1.2×10細胞の心筋細胞を10cmの組織培養皿に播種し、G0s2-Flag又はLacZをコードするアデノウイルスを48時間感染させた。それぞれの群につき、10cmの皿を2つずつ用意した。ホモジナイゼーションバッファー(6.6mMのイミダゾール、pH7.0、83mMのスクロース及びプロテアーゼ阻害薬)を使用前に4℃に冷却し、4℃で遠心分離を行った。細胞を回収し、Dounceホモジナイザーを用いて8mLのホモジナイゼーションバッファーの中でホモジナイズし、以下の2種の遠心分離を実施した;まず初めに1,300×gで3分間の遠心分離を行った後、次に上澄み液を15,000×gで10分間遠心分離。インタクトなミトコンドリアをペレットの状態で回収し、ホモジナイゼーションバッファーに再懸濁した。タンパク質の濃度は、Lowry法によって測定した。
19.ブルーネイティブ(BN)-PAGE 及び in-gel ATP加水分解試験
精製したミトコンドリア(ウェスタンブロット用にタンパク質を25μg、又はin-gel ATP加水分解試験用にタンパク質を1,000μg)を100μLのミトコンドリア可溶化バッファー(50mMのイミダゾール、pH7.0、50mMのNaCl、5mMの6−アミノヘキサン酸及びDDM)で穏やか可溶化させた。界面活性剤濃度は、タンパク質に対してDDM1.5mgに調整した。氷上に10分間置いた後に、試料を100,000×g、4℃の条件で15分間遠心分離した。界面活性剤/色素の比率を4とするためにクーマシーG-250を上澄み液に加えた。20μLの試料(ウェスタンブロットにはタンパク質5μg、又はin-gel ATP加水分解試験にはタンパク質200μg)を4−20%のネイティブPAGEグラジエントゲルにロードし、カソードバッファー(50mMのトリシン、7.5mMのイミダゾール、pH7.0、及び0.02%のクーマシーG-250)及びアノードバッファー(7.5mMのイミダゾール、pH7.0)を用いて、150Vの一定電圧を30分間ゲルに掛けた。その後カソードバッファーを、低濃度のクーマシーG-250を用いたカソードバッファー(50mMのトリシン、7.5mMのイミダゾール、pH7.0、及び0.002%のクーマシーG-250)に交換し、ゲルに150Vの一定電圧を、さらに75分間掛けた。ゲルは、2つのうちいずれかの方法で使用された;ウェスタンブロットでは、PVDF膜(0.45μm、ミリポア)に転写した;又はin-gel ATP加水分解試験で使用した。ATPの加水分解を、E.Bisetto, F. Di Pancrazio, M.P. Simula, I. Mavelli, G. Lippe, Electrophoresis 28, 3178 (2007)に記載されたものに少しの変更を加えた1D BN-PAGEで測定した。BN-PAGEの後直ちに、270mMのグリシン、35mMのTris-HCl、pH8.0、及び14mMのMgSO4の中で、ゲルを室温にて2時間あらかじめインキュベートした。その後、270mMのグリシン、35mMのTris-HCl、pH8.0、14mMのMgSO4、2mMのATP、及び0.2%(w/v)の硝酸鉛の中で、ゲルを室温で一晩インキュベートした。表面に析出した過剰の鉛を取り除くため、ゲルを10%の酢酸で簡単に(2分間)洗浄し、その後蒸留水で10分間洗浄した。析出物をCCD camera-based detection system(ImageQuant LAS-4000、GEヘルスケア)を用いて光反射モードで記録し、複製した3つのゲルのF0F1バンド中の析出物量について濃度測定評価を実施した。
20.動物
全ての手順は、実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the care and use of laboratory animals)(NIH publication no. 85-23, revised 1996)に従って行われ、実験動物の使用に関する大阪大学委員会に認可された。
21.統計解析
取得データは、少なくとも3回の独立した実験の、平均の標準誤差で表現した。二つのグループ間における違いの解析には、スチューデントt検定の両側検定を使用した。p値<0.05であったときに、統計的有意差ありと判断した。
II.結果
1.G0s2の発現は、心筋において低酸素状態によって急速かつ一過的に誘導された。
新しいATP産生制御のレギュレーターの調査を行うにあたり、本発明者らは低酸素ストレスの間に急速に発現誘導される遺伝子に焦点を当てた。モデル系として、ミトコンドリアを豊富に有しており、全ての初代細胞の中で最も高いレベルのATPを産生する心筋細胞を選択した。培養ラットの心筋細胞の遺伝子の発現プロフィールを、低酸素状態の間の3つの異なる時点(0、2及び12時間目)で比較した。その結果、数多い低酸素誘導遺伝子の中で、3つの遺伝子(Adamts1、Cdkn3及びG0s2)のみが、低酸素状態2時間持続後に発現が急増し、低酸素状態12時間持続後に減少する発現パターンを示した。この急性的かつ一過的な発現のタイムコースは、これらの遺伝子が低酸素ストレスに対する適応反応において明らかに調節的な役割を果たすことを示唆していた。本発明者らは、エネルギー制御におけるその役割が知られていないこと、及び酸素消費の多い心臓などの臓器において大量発現していることから、さらなる詳細な研究の対象としてG0s2を選択した。G0s2のmRNA及びタンパク質レベルの両方が、低酸素状態2〜6時間持続中は増加し、その後低酸素状態12時間持続後に減少することを確認した。
G0s2は多くの組織で広く発現しており(F. Zandbergen et al., Biochem J 392, 313 (2005))、G0s2タンパク質の一次構造は一つの膜貫通領域と、進化的に保存されたアミノ末端を持つと予測されている。免疫細胞化学的解析では、G0s2はミトコンドリアに局在していることが示された。1%酸素で4時間インキュベートすると、G0s2の染色は顕著に増加したが、そのミトコンドリア局在は不変であった。
2.F0F1-ATP合成酵素は、G0s2の結合パートナーであると同定された。
G0s2の生物化学的標的を特定するため、G0s2が結合するタンパク質のスクリーニングを実施した。図1のA〜Cは、G0s2を発現させた心筋細胞の免疫染色画像である。心筋細胞の中で発現したC末端にFlagタグを付けた(C-terminally Flag-tagged) G0s2(G0s2-Flag)は、内因性のG0s2と同様にミトコンドリアに局在した(図1のA〜C)。図1のAは、細胞を抗Flag抗体(図1のA)を用いて染色した免疫染色の顕微鏡写真であり、図1のBは、細胞をMitoTracker(登録商標) Red(インビトロジェン)によってラベルした場合の顕微鏡写真である。
アフィニティ精製したG0s2結合タンパク質の銀染色ゲルの写真を、図2に示す。F0F1−ATP合成酵素の複数のサブユニットは、G0s2-Flagと免疫共沈降した(図2)。図2では、G0s2-Flag又はLacZを発現させた心筋細胞からの細胞ライセートを、抗Flagアフィニティゲルによって精製した。質量分析により同定されたF0F1-ATP合成酵素複合体のポリペプチドは、G0s2-Flagタンパク質と一緒に存在していることが示された。
F0F1−ATP合成酵素のG0s2-Flagへの結合は、F0F1−ATP合成酵素のいくつかのサブユニットに対する抗体を用いた免疫ブロットによって確認された(図3)。図3に結果を示す実験では、G0s2-Flag又はLacZを発現させた心筋細胞からの細胞ライセートを、抗Flag抗体と免疫沈降させ、次いでF0F1-ATP合成酵素のサブユニットに対する抗体を用いて免疫ブロットを行った。
逆に、人工的に発現させたG0s2-Flag及び内因性G0s2はいずれも、F0F1−ATP合成酵素複合体全体に対する抗体と、免疫共沈降した。この結果を、図4及び図5に示す。図4及び図5中、アスタリスクは、非特異性のバンドを意味する。
図4は、図3の免疫沈降反応に対する相互免疫沈降反応の結果を示す。図4に結果を示す実験では、細胞ライセートを、抗F0F1-ATP合成酵素複合体抗体又はコントロールの抗体(IgG)を用いて免疫沈降させ、次いでF0F1-ATP合成酵素の各サブユニットに対する抗体又は抗Flag抗体を用いて免疫ブロットを行った。
さらに、低酸素刺激は、F0F1−ATP合成酵素へ結合するG0s2の量を顕著に増加させたものの、F0F1−ATP合成酵素サブユニットの全体量は変化しなかった(図5)。図5に結果を示す実験では、心筋細胞を定常酸素(-)又は低酸素(+)で4時間培養した。細胞ライセートを、F0F1-ATP合成酵素複合体全体に対する抗体又はコントロールの抗体(IgG)と免疫沈降させ、次いで、F0F1-ATP合成酵素サブユニットに対する抗体又は抗G0s2抗体を用いる免疫ブロットを行った。これらの結果は、内因性のG0s2がF0F1−ATP合成酵素のβサブユニットと完全に共存していることを示した免疫細胞化学的解析によって裏付けられた(図6)。また、データは示さないが、G0s2は、293T細胞やHeLa細胞中のF0F1−ATP合成酵素と結合することも示された。このように、図1〜図6に示す結果から、F0F1-ATP合成酵素は、G0s2の結合パートナーであると同定された。
F0F1−ATP合成酵素との結合に重要なG0s2ドメインを特定するために、図7に模式図を示す3種の部分欠失変異体G0s2を作製した(図7)。これらの変異体の中でG0s2ΔTMを除くG0s2ΔC及びG0s2ΔNがF0F1−ATP合成酵素複合体と結合したことから(図8のA及び図8のB)、G0s2の膜貫通部位がF0F1−ATP合成酵素との結合に必要であると示された。図8は、293T細胞(図8のA)又は心筋細胞(図8のB)で発現させた、G0s2変異体の免疫沈降反応の結果を示す。図8に結果を示す実験では、細胞ライセートを抗Flag抗体と免疫沈降させ、F0F1-ATP合成酵素サブユニットに対する抗体又は抗Flag抗体を用いて免疫ブロットを行った。
3.G0s2はF0F1−ATP合成酵素を活性化させることで、ミトコンドリアのATP産生を高める。
G0s2のF0F1−ATP合成酵素への結合が低酸素状態で急激に増加することから、G0s2がATP枯渇時のF0F1−ATP合成酵素の活性に影響を与えることが示唆された。哺乳動物のF0F1−ATP合成酵素は、側面及び中心にある軸(a peripheral and a central stalk)によって連結された膜外F1及び膜内F0領域を含む、18のタンパク質の複合体である(J.E. Walker, Angewandte Chemie International Edition 37, 5000 (1998)、P. Dimroth, C. von Ballmoos, T. Meier, EMBO Rep 7, 276 (2006)、A.E. Senior, Cell 130, 220 (2007)、M. Yoshida, E. Muneyuki, T. Hisabori, Nat Rev Mol Cell Biol 2, 669 (2001))。F0領域の環構造のプロトン駆動力による回転は、同時に中心軸を回して回転力を生み出し、触媒作用に関するF1領域に立体構造上の変化をもたらして、ATPを合成する(W. Junge, H. Sielaff, S. Engelbrecht, Nature 459, 364 (2009)、H. Noji, R. Yasuda, M. Yoshida, K. Kinosita, Jr., Nature 386, 299 (1997)、J.P. Abrahams, A.G. Leslie, R. Lutter, J.F. Walker, Nature 370, 621 (1994)、K. Adachi et al., Cell 130, 309 (2007)、T. Uchihashi, R. Iino, T. Ando, H. Noji, Science 333, 755 (2011))。このF1領域はATPの加水分解及びATPの合成の両方の活性を有する。
したがって、まず、G0s2がATP加水分解活性に影響を与えるか否かについて確認した。精製したヒトF0F1−ATP合成酵素F1領域を用いて、組換え型のG0s2(recombinant G0s2)がF1領域におけるATPの加水分解活性には影響を与えないことを見出した(データは示さず)。加えて、Blue-Native PAGEを使用したin-gelでのATP加水分解の測定によっても、G0s2がATP加水分解活性に関して影響を及ぼさないことが証明された(データは示さず)。
ATP加水分解の試験とは対照的に、ATPの合成は、プロトン駆動力が生み出されるインタクトなミトコンドリア膜でのみ観測することが可能であった。まず、ATP検出用のFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)をベースにした指示薬(indicator)であり、最近改良されたATeam(adenosine 5’-triphosphate indicator based on epsilon subunit for analytical measurements)を用いた(H. Imamura et al., Proc Natl Acad Sci U S A 106, 15651 (2009))。ATeamによる測定では、細胞質ゾルにおけるATP濃度の測定(すなわちCyto-ATeam測定)、ミトコンドリアへの標的シグナルが指示薬と結びついた場合はミトコンドリア内ATP濃度の決定(すなわちMit-ATeam測定)の両方が可能である。興味深いことに、in vivoでミトコンドリアのATP合成速度を決定する場合には、Mit-ATeam測定の方がCyto-ATeam測定に比べて、はるかに感度が高かった。
例えば、図9のAに示すように、Mit-ATeam測定では、F0F1−ATP合成酵素の特異的な阻害物質であるオリゴマイシンAをごく少量(0.01μg/mL)投与すると、10分以内にYFP/CFP放出比が減少した(図9のA)。一方、同量のオリゴマイシンAを投与しても、Cyto-Ateam測定ではYFP/CFP放出比の減少は緩やかであった(図9のB)。これらの結果から、オリゴマイシンAの投与は少量でもF0F1−ATP合成酵素の活性を十分に弱めるが、細胞質ゾルのATP濃度の減少は、細胞質ゾルに存在する解糖系酵素、アデニル酸キナーゼ、クリアチンキナーゼなどのATP代謝産物の緩衝酵素(buffering enzyme)によりほぼ遮蔽されることが示された(V. Saks et al., J Physiol 571, 253 (2006))。ミトコンドリアマトリックスにおけるATP濃度は上記の酵素によりあまり影響されないため、Mit-ATeam測定はCyto-ATeam測定よりF0F1−ATP合成酵素の活性を高感度に測定できる。
なお、図9に結果を示す実験では、様々な濃度(0.001、0.01、0.1、1及び10μg/mL)のオリゴマイシンA又はDMSO(コントロール)を、開始5分の時点(矢印)で添加した(n=3)。すべての計測値は、0分の時点におけるYFP/CFP放出比で標準化した。データは平均±標準誤差で表される。
従って、心筋細胞内のG0s2をshRNAによってノックダウンした場合のF0F1−ATP合成酵素の活性を評価する方法として、Mit-ATeam測定を採用した。この場合においてミトコンドリアのATP濃度は、コントロールのshRNAの場合と比較して、24時間以内に明らかに減少した。そして、ATP減少の経時変化はG0s2の消失とよく一致した(図10)。
重要なことに、図11の結果に示されるように、G0s2ΔTMではなく、G0s2 WTの大量発現によってATPレベルが正常に戻った。繰り返すが、この時間枠におけるG0s2不活性化によって生じた著しい影響を、Cyto-ATeam測定では検出できなかった。G0s2の低減及び大量発現のいずれも、テトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)によって測定したミトコンドリア内膜の膜電位を変化させなかった。これらの結果から、G0s2はF0F1−ATP合成酵素を活性化させることによってATPの産生量を増加させることが示された。
G0s2の活性をさらに明らかにするため、ミトコンドリアからのATP産生量がG0s2の大量発現によって増加しうるか否かについて検証した。しかしながら、Mit-ATeam測定によっても増加は確認できなかった。過剰量のミトコンドリアのATPは速やかに多量のATP緩衝酵素(ATP buffering enzyme)を含むミトコンドリアマトリックスの外へ移行するため、Mit-ATeam測定はATP産生の増大を検出するのには適していないのではないように推測された。この問題を解決し、ミトコンドリアにおけるATP産生速度を直接測定するため、最近改良が加えられた(M. Fujikawa, M. Yoshida, Biochem Biophys Res Commun 401, 538 (2010))、MASC(mitochondrial activity of streptolysin O permeabilized cells)測定法と呼ばれる、セミインタクト(semi-intact)細胞システムを用いた。この測定法では、クレアチンや解糖系の基質などの細胞質ゾルの構成成分をすべて洗い落とすために原形質膜を透過処理する一方、ミトコンドリアはインタクトな状態で残した。さらに、アデニル酸キナーゼを完全に阻害するために、P1,P5-ジアデノシン−5’五リン酸(P1,P5-di(adenosine-5’) pentaphosphate)で細胞を処理した。同時にこれらのステップによって、そのほとんどがミトコンドリアのF0F1−ATP合成酵素からである、ATPの産生速度を測定することが可能となった。
MASC測定法によって、内因性G0s2を欠いているHeLa細胞でG0s2を発現させた場合に、ATP産生速度が著しく増加することが明らかとなった(図12のA)。単独の分子がミトコンドリアのATP産生能力を劇的に増加させるという観察結果は驚くべきものであった。心筋細胞においては、shRNAによってG0s2を不活性化するとミトコンドリア内でのATP産生速度が減少し、またG0s2ΔTM変異体ではなくG0s2 WTの発現によってATP産生速度が正常に戻った(図12のB)。MASC法によって検出されたATP産生は、オリゴマイシンAによってほぼ完全に阻害されることから、F0F1−ATP合成酵素によって合成されたものと思われた(図12のA及びB)。加えて、同一かつ飽和量の基質を添加していたことから、プロトン駆動力は全ての試験において同等であった(M. Fujikawa, M. Yoshida, Biochem Biophys Res Commun 401, 538 (2010))。従って、これらの結果から、G0s2はF0F1−ATP合成酵素を活性化させ、プロトン駆動力を変えることなくミトコンドリアでのATP産生を増加させることができることが示された。
4.G0s2は、ミトコンドリアのATP産生を増進させることによって、細胞を低酸素ストレスから保護する。
次に、低酸素状態によって誘導される内因性のG0s2も、同様にATP産生を増進させるかどうかを確認することによって、G0s2の生理学的役割を評価した。あらかじめ低酸素状態で4時間調整した心筋細胞においてG0s2の発現は大きく増加しており、該心筋細胞は、正常な酸素条件に置いた細胞よりも多量のATPを産生した(図13のA及びB)。
G0s2の不活性化によってこのATP産生速度の増加が減衰したことから、低酸素状態の結果生じるATP産生の増進は、主に内因性G0s2の発現の増加によるものであることが示された。低酸素ストレスの条件下において、G0s2を欠失させた細胞はコントロールの細胞よりも早く死滅したことから、上記のG0s2発現の増加は細胞の生存に必須であった(図14)。
図14に結果を示す実験においては、shLacZ又はshG0s2#2を発現させた心筋細胞を、定常酸素下又は低酸素状態下で18時間培養した。細胞核をヨウ化プロピジウム(PI)及びHoechst 33342で染色した後、その数を数えた。細胞死(%)は、PI陽性の細胞核/総細胞核の割合で表した(n=7)。
なお、図13、14、16及び17において、データは平均±標準誤差で表される。*はP<0.05、**はP<0.01及び***はP<0.001である。図14及び図17において、n.s.の記載は、有意差なし(not significant)を表している。
最後に、低酸素ストレスに曝す前にG0s2発現を増加させることで、低酸素ストレスによって誘発されるATPの枯渇を抑制できるかを試験した。低酸素状態を維持している間、Mit-ATeamにより測定されるATPの産生は徐々に低下した。しかしながら、低酸素状態を開始する前に過剰発現させたG0s2は、上記のミトコンドリアでのATP産生速度減少を緩和し、これにより細胞では、再酸素化(re-oxygenation)後速やかにATPのレベルが正常に戻った(図15及び図16)。さらに、低酸素に先立って大量発現させたG0s2は、細胞を低酸素状態に曝している間の細胞生存率を保持した(図17)。この結果から、低酸素状態の前にG0s2発現を増加させることで、低酸素条件下におけるミトコンドリアのATP産生の減少を抑制して細胞を保護することが可能であることが示された。
これまでに、F0F1−ATP合成酵素が、二つの分子ナノモーターが繋がった構造を持つこと、それぞれが同調してATPを産生することが明らかになってきている(H. Noji, R. Yasuda, M. Yoshida, K. Kinosita, Jr., Nature 386, 299 (1997)、K. Adachi et al., Cell 130, 309 (2007)、H, Itoh et al., Nature 427, 465 (2004)、及びY. Rondelez et al., Nature 433, 773 (2005))。これらの物理的に異なる構造は、F0F1−ATP合成酵素に対する活性化分子が存在することを示唆していた。
G0s2はF0F1−ATP合成酵素ナノモーターの潤滑剤として作用し、プロトン駆動力は同等なままでF0F1−ATP合成酵素を活性化させた。換言すると、プロトン駆動力が減少した場合であっても、G0s2を発現する細胞は、G0s2を少量しか発現しないか又は全く発現しない細胞よりも、多くのATPを産生することができる。低酸素状態の間G0s2発現を顕著に増加させることが、プロトン駆動力が低下した状況下で十分に高いATP濃度を維持するために必要であると考えられる。
持続的なATP産生は、細胞の生存に必須である。事実、心筋細胞におけるG0s2の欠乏は、低酸素ストレス下における細胞の死を早める。また、外因性のG0s2を大量発現させると細胞保護作用があることが観察された。これらの結果を合わせると、G0s2の治療学的な潜在能力を示唆している。実際、ミトコンドリアの酸化的リン酸化をターゲットとすることが、様々な病気に対して治療学的に有効であるとする証拠が増加している(Q. Chen, A. K. Camara, D. F. Stowe, C. L. Hoppel, E. J. Lesnefsky, Am J Physiol Cell Physiol 292, C137 (2007)、R. Huber, T. Spiegel, M. Buchner, M. W. Riepe, J Neurosci Res 75, 441 (2004)、S. Bonnet et al., Cancer Cell 11, 37 (2007))。しかしながら、ミトコンドリアの呼吸に関わる酵素を活性化しうる化合物は、これまで報告されていなかった。したがって、G0s2は、ミトコンドリアの疾患、代謝疾患などの低酸素状態に関連する疾患に対して、新しい予防及び治療のために使用できるものである。

Claims (5)

  1. (1)G0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩、又は(2)前記(1)に記載のタンパク質をコードするDNAを有効成分として含むことを特徴とするATP産生促進剤。
  2. 低酸素状態又は虚血時におけるATP産生促進剤である請求項1に記載のATP産生促進剤。
  3. G0s2タンパク質が、配列番号2、4及び6のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質である請求項1又は2に記載のATP産生促進剤。
  4. G0s2タンパク質が、配列番号2、4及び6のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質である請求項1〜3のいずれか1項に記載のATP産生促進剤。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載のATP産生促進剤を含有することを特徴とするミトコンドリア病、代謝疾患、脳卒中、及び虚血性心疾患からなる群より選択される虚血性疾患の予防及び/又は治療剤。
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