JP5996269B2 - G0s2タンパク質を含有してなるATP産生促進剤 - Google Patents
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Description
(1)G0s2タンパク質は、F0F1-ATP合成酵素を活性化させることで、ミトコンドリアのATP産生を高める。より具体的には、G0s2タンパク質はF0F1−ATP合成酵素と直接結合し、そのプロトン駆動力を変化させずにATP産生能を増加させる作用を有する。このため、プロトン駆動力が低下した場合であっても、G0s2タンパク質を発現する細胞は、該タンパク質を少量しか発現しないか、又は全く発現しない細胞よりも、多くのATPを産生することができる。
(2)G0s2タンパク質の発現は低酸素状態により急性的にそして一過的に上昇し、その発現は細胞に低酸素ストレスに対して保護的に作用する。
(3)G0s2タンパク質は、ミトコンドリアのATP産生を増進させることによって、細胞を低酸素ストレスから保護する。
(4)外因性のG0s2タンパク質を大量に発現させると、低酸素に対する細胞保護作用が観察された。
これらの知見から、G0s2タンパク質はエネルギー消耗によるストレスから細胞を守るための、F0F1−ATP合成酵素に対する活性化リガンドであることが明らかになった。
〔1〕(1)G0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩、又は(2)前記(1)に記載のタンパク質をコードするDNAを有効成分として含むことを特徴とするATP産生促進剤。
〔2〕低酸素状態又は虚血時におけるATP産生促進剤である前記〔1〕に記載のATP産生促進剤。
〔3〕G0s2タンパク質が、配列番号2、4及び6のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質である前記〔1〕又は〔2〕に記載のATP産生促進剤。
〔4〕G0s2タンパク質が、配列番号2、4及び6のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質である前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載のATP産生促進剤。
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のATP産生促進剤を含有することを特徴とするミトコンドリア病、代謝疾患、脳卒中、及び虚血性心疾患からなる群より選択される虚血性疾患の予防及び/又は治療剤。
〔6〕G0s2タンパク質とF0F1-ATP合成酵素との複合体。
本発明のATP産生促進剤は、(1)G0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩、又は(2)前記(1)に記載のタンパク質をコードするDNAを有効成分として含むものである。有効成分は、1種のみ用いてもよく、2種以上を用いてもよい。本発明のATP産生促進剤は、有効成分のみを含むものであってもよいが、後述する薬学的に許容される担体等を適宜含んでもよい。
投与対象となる個体に対して当該個体と同種動物由来の(1)G0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩、又は(2)前記(1)に記載のタンパク質をコードするDNAを用いることが好ましく、例えばヒトに対してはヒトG0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩、又はヒトG0s2タンパク質をコードするDNAを用いることが好ましい。
無機塩基との塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;並びにアルミニウム塩、アンモニウム塩などとの塩が挙げられる。
有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。
有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。
中でも無機塩基との塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
本願発明において用いられるプロモーターとしては、目的遺伝子(G0s2タンパク質をコードする遺伝子)の発現に用いる宿主細胞に対応する適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、形質転換する宿主細胞がEscherichia属の場合はlacプロモーター、trpプロモーター、lppプロモーター、λPLプロモーター、recAプロモーター等を用いることができ、Bacillus属の場合はSPO1プロモーター、SPO2プロモーター等を用いることができ、酵母の場合はGAPプロモーター、PHO5プロモーター、ADHプロモーター等を用いることができ、動物細胞の場合は、SV40由来プロモーター、レトロウィルス由来プロモーター等を用いることができる。
さらに、本発明におけるG0s2タンパク質をコードするDNAは上記に限定されず、発現するタンパク質がF0F1-ATP合成酵素に結合して該酵素のATP産生を促進する活性を有するG0s2タンパク質である限り、G0s2タンパク質をコードするDNAとして使用できる。
本発明において、低酸素状態は、全身又は特定の組織・臓器へ十分な酸素供給がなされていない状態及び/又は酸素代謝(oxygen metabolism)が抑制されている状態を意味するものとする。
本発明において、虚血は、組織や器官で血流が不足し、酸素や栄養の供給が不足している状態を意味するものとする。
本発明のATP産生促進剤は、例えば、虚血性疾患の予防剤、治療剤等としても好適に用いられる。虚血性疾患としては、例えば、ミトコンドリア病、代謝疾患、脳卒中、及び虚血性心疾患等が挙げられる。
また、G0s2タンパク質をコードするDNAとG0s2タンパク質はそれぞれ独立して使用することができるが、両者を併用して用いることもできる。
投与期間としては、上記の投与量を1日1回〜数回、1〜24週間投与することが好ましく、4〜12週間の投与がより好ましい。
この食品組成物は、例えば、健康食品、栄養補助食品(バランス栄養食、サプリメントなどを含む)として好適に用いることができる。また、保健機能食品(特定保健用食品(疾病リスク低減表示、規格基準型を含む)、条件付き特定保健用食品、栄養機能食品を含む)に好適である。
前記食品組成物の剤の使用対象は特に限定されないが、虚血性疾患の患者、虚血性疾患を発症する可能性がある個体などが好適な対象となる。
I.方法及び試薬
1.試薬及び抗体
試薬は以下の購入品を試験に用いた:オリゴマイシンA(シグマアルドリッチ、セントルイス、MO);2−デオキシグルコース(シグマアルドリッチ);Mito Tracker(登録商標) Red(インビトロジェン)。
HeLa細胞及び239T細胞は、10%のウシ胎児血清及び1%のペニシリン‐ストレプトマイシンを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;ギブコ)で、5%CO2中37℃で維持した。一過性トランスフェクションは、HeLa細胞にはFuGENE(登録商標)(プロメガ)を、239T細胞にはLipofectamine(登録商標) 2000(インビトロジェン)を用いて、製造者の指示に従って実施した。
1又は2日齢のウィスターラットから得た心筋細胞を、O. Seguchi et al., J. Clin Invest 117, 2812 (2007)に記載の方法により調製し、10%のFBSを含有したDMEMの中で培養した。特に記載がない場合、低酸素状態(1%O2及び5%CO2)は、マルチガスインキュベーター(型式MCO-5M、三洋電気)を用いて実現した。
マウスG0s2遺伝子のコード配列(NM_008059.3、配列番号3)は、マウスの心臓cDNAライブラリーからPCRによって増幅し、pENTR(登録商標)/D-TOPO(登録商標)ベクター(インビトロジェン)へサブクローンした(pENTR/G0s2)。pENTR-G0s2を、Gatewayテクノロジー(インビトロジェン)を使用してpEF-DEST51/Flag(C末端 Flagタグ)ベクターに組み換えた(pEF-DEST51/G0s2-Flag)。G0s2欠失変異体は、pENTR-G0s2(終止コドンなし)を鋳型に用いたPCRによって作製し、次いでpEF-DEST51/Flagベクターへ組み換えた(pENTR-G0s2 ΔN、ΔTM及びΔC)。ΔN、ΔTM及びΔCは、それぞれ、G0s2のN末端部位、膜貫通部位、C末端部位の欠失変異体を意味する。
アデノウイルスコンストラクトは、製造者の指示に従い、過剰発現についてはViraPower(登録商標)Adenoviral Expression System(インビトロジェン)を、shRNAについてはBLOCK-iT(登録商標)Adenoviral RNAi Expression System(インビトロジェン)を用いて作製した。G0s2-Flagをコードするアデノウイルス構築のため、pENTR-G0s2(終止コドンあり)中のG0s2コード領域のC末端を有するフレーム内にFlag配列を挿入し、続けて、LRクロナーゼを用いてpAd/CMV/V5-DEST(登録商標)デスティネーションベクターへ組み換えた。ATeamをコードするアデノウイルス構築のため、pcDNA-ATeam1.03(Cyto-ATeam)又はpcDNA-CoxVIII2-AT1.03(Mit-ATeam)のXhoI-PmeIフラグメントを、pENTR-1Aベクター(インビトロジェン)へSalIとEcoRVの間にサブクローンし、その後、pAd/CMV/V5-DEST(登録商標)デスティネーションベクターへ組み換えた。shRNAをコードするアデノウイルス構築のため、標的シーケンスを含むオリゴヌクレオチドをpENTR-U6ベクターへサブクローンし、その後pAd/BLOCK-iT(登録商標) DESTベクターへ組み換えた。G0s2(#1)及び(#2)に対するshRNAの標的は、それぞれラットG0s2のコード領域及び3’-UTRである。標的シーケンスは以下の通りである。: G0s2(#1)へのshRNAはGGAAGCTAGTGAAGCTGTACG(配列番号8); G0s2(#2)へのshRNAはGCAGCATGCACTGTGATTTGT(配列番号9); LacZへのshRNAはGCTACACAAATCAGCGATTT(配列番号10)。
全RNAは、製造者の指示に従い、RNA-Bee(登録商標)RNA分離試薬(RNA isolation)(Tel-Test Inc.)を用いて心筋細胞から調製し、Omniscript(登録商標) RT kit(キアゲン)を用いてcDNAへと変換した。定量PCRは、TaqMan(登録商標) technology及びStepOnePlus(登録商標) Real-Time PCR Systems(アプライドバイオシステムズ)を用いて実施した。全ての試料を、2回ずつ調製した。それぞれの転写のレベルは、βアクチンを内標準として用い、threshold cycle(Ct)法により定量した。
全RNAは、低酸素(1%O2)状態に置いた心筋細胞から、異なる3つの時点(0、2及び12時間目)で調製した。その際、Affymetrix Gene Chip technologyを用いた。cDNAを全RNAから合成し、T7-oligo-dTプライマーへアニールした。逆転写は、Superscript(登録商標) II 逆転写酵素(インビトロジェン)を用いて実施した。cDNAの二本目の鎖の合成は、適切な試薬を用い、DNAポリメラーゼIによって行った。ビオチン標識されたcRNAの合成は、MEGAscript(登録商標) T7 IVT kit(Ambion, Inc.)を用いて、in vitro転写にて実施した。このcRNAを断片化し、GeneChip(登録商標) Rat Genome 230 2.0 arrays(アフィメトリクス)にハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション、プローブの洗浄、染色及びプローブ配列のスキャンは、アフィメトリクス社から提供された実験実施要綱に従って実施した。
データの解析及び標準化は、GeneSpring Gx11.5 bioinformatics software(製品名、アジレント・テクノロジー)を用いて実施し、全ての配列の中で原信号(raw signal)(<50)を有するプローブセットを除いた。有意でない遺伝子プローブによって生じた、バックグラウンドのノイズを縮減するための質的フィルタリングを実行した後、有意なp値を持った遺伝子のグループとなった、フィルター済みの遺伝子リストをOne-way ANOVA試験に供した。GeneSpring Gx11.5でヒートマップを作成した。さらに、ミトコンドリアの酸化的リン酸化に関する遺伝子に対するプローブを、IPA(インジェヌイティーシステムズ)で抽出した。
心筋細胞に、G0s2-Flag又はLacZ(コントロール)をコードするアデノウイルスを感染させた。感染48時間後に、30mMのMOPS、pH7.4、150mMのNaCl、10%のグリセロール、1mMのEDTA、10mMのNaF、25mMのβグリセロリン酸、1mMのオルトバナジウム酸塩及び1%のCHAPS、及びプロテアーゼ阻害薬混合溶液(ナカライテスク)を含有する緩衝溶液Aで細胞を溶解させた。すべての細胞ライセートを、抗Flag M2 アガロース(シグマ)を用いて、4℃で1時間穏やかに振とうしながら免疫沈降させた。緩衝溶液Aを用いて3回、及び25mMのTris-HCl、pH8.0、100mMのNaCl、10%のグリセロール、1%のTween-20、及び1mMのジチオスレイトールを含有する溶出バッファーを用いて1回洗浄した後、250μg/mLのFlagペプチドを含む溶出バッファーで、4℃で一晩タンパク質を溶出させた。溶出させたタンパク質を、4−12%のNuPAGE(登録商標) Bis-Trisゲル(インビトロジェン)で電気泳動させ、銀で染色した。
銀染色をしたゲルから特定のバンドを含むゲル切片を切り出し、30mMのフェリシアン化カリウム及び100mMのチオ硫酸ナトリウムの1:1溶液で洗浄して脱染し、200mMの重炭酸アンモニウムで20分間平衡化してpH8.0とした。酵素消化の前に、ゲル切片を、10mMのジチオスレイトールを含む50mMの重炭酸アンモニウム溶液で、37℃で30分間還元し、次いで、55mMのヨードアセトアミドを含む50mMの重炭酸アンモニウム溶液中で30分間処理してアルキル化し、アセトニトリルを加えて脱水した。還元され、アルキル化されたゲル切片を、50mMのTris-HCl、pH9.0、及び0.5μg/mLのシークエンシンググレードの修飾トリプシン(ロシュ・ダイアグノスティックス、ドイツ)中で再水和した。まずこの溶液をゲル切片に完全に吸収させ、酵素を含まないTris-HCl bufferをゲル切片が浸るまで加えた。試料を37℃で16時間消化し、アセトニトリル及び50%のギ酸で20分間抽出した後、SpeedVac遠心分離機(サーモサイエンティフィック)を用いてアセトニトリルを減圧留去した。トリプシンの消化物を、C18-StageTips(SPE C-TIP、日興テクノス、東京、日本)によって脱塩し、SpeedVac遠心分離機によって濃縮し、0.1%のギ酸を加えて再構成させた。各試料を、0.1mm×100mm C18 nano-ESI-column(日興テクノス、東京、日本)を装着したQ-TOFタンデム質量分析計(SYNAPT G2ウォーターズ、ミルフォード、MA)と連結させたnano-ultraperformance液体クロマトグラフィーに供した。移動相Aとして0.1%のギ酸水溶液を、移動相Bとして0.1%のギ酸を含むアセトニトリル溶液を用いた。各試料を、2%の移動相Bで平衡化したカラムにロードした。2−40%の移動相Bのグラジエントで、流速500nL/minで20分以上流し、ペプチドをカラムから溶出させ、その後90%の移動相Bで4分間リンスして、初期条件で12分間安定化させた。ナノエレクトロスプレーイオン化源を備える、positive V modeに設定したQ-Tof Premier(登録商標) instrument(ウォーターズ)を用いて、[Glu1]-fibrinopeptide B solution(流速300nl/minで200fmol/μL)をNanoLockSpray sourceのreference sprayer に流して校正した後に、質量分析によってペプチドフラグメントを分析した。MS分析はData dependent acquisition(DDA)modeで行った。MSデータは、Protein Lynx Global Server(登録商標)(PLGS)software version 2.4(ウォーターズ、ミルフォード、 MA)で処理した。European Bioinfomatics Institute-International Protein Index database(version 3.77)を使用し、以下のパラメーターでデータベースを調査した:peptide tolerance, 20 ppm;fragment tolerance, 0.1 Da;trypsin missed cleavages, 1;variable modifications, carbamidomethylation and oxidation of methionine。
心筋細胞を、コラーゲンをコーティングした35mmのガラス皿(旭テクノグラス)に播種した。播種から24時間後、LacZ又はG0s2を標的とするshRNAをコードするアデノウイルスを細胞に感染させた。50nMのMito Tracker(登録商標) Red(インビトロジェン)で4時間処理した後、まず、予熱したPBSで細胞を洗浄して、100%のメタノールで−20℃で15分間処理して固定した。次に、0.01%Triton X-100を含むPBSを用いて室温で10分間細胞を透過処理し、その後、ウサギ抗G0s2ポリクロナル抗体及びマウス抗 F0F1-ATP 合成酵素βサブユニットモノクロナル抗体を用いて一時間免疫染色した。G0s2-Flagを染色するために、抗Flag M2モノクロナル抗体(シグマアルドリッチ)を用いた。二次反応には、Alexa 488 又は568でラベルされた二次抗体(インビトロジェン)を使用した。蛍光画像は、油浸対物レンズHCX PL APO 63X、開口数(numeric aperture(NA))1.40を使用する共焦点顕微鏡Leica TCS SP5(製品名、ライカ)、又は油浸対物レンズPL APO 60X, 1.35 NAを使用する共焦点顕微鏡Olympus FV1000D(製品名、オリンパス)によって記録した。
ATP濃度の測定において、細胞質ゾル又はミトコンドリアそれぞれのATP濃度変化を測定するため、FRET基盤ATP指示薬(FRET-based ATP indicator)であるAT1.03又はmit AT1.03をコードするアデノウイルスを、心筋細胞に感染させた。細胞の広領域観察は、油浸対物レンズPL APO 60X, 1.35 NAを用いるOlympus IX-81倒立型蛍光顕微鏡(製品名、オリンパス)によって行った。ATeamからの蛍光放出は、ダイクロイックミラー510 nm及び2つの放出フィルター(CFPについて483nm/32nm及びYEPについて542nm/27nm、型番 A11400-03、浜松ホトニクス)を有するデュアル冷却電荷結合素子(dual cooled charge-coupled device)(CCD)カメラ(型番ORCA-D2、浜松ホトニクス)を使用して画像化した。CoolLED pE-1 excitation system(CoolLED)によって、波長425nmで細胞を照射した。顕微鏡上ではステージトップインキュベーター(東海ヒット)を使って細胞を37℃に保持した。低速度撮影中の酸素濃度の調節に関して、酸素(1%)及び正常(定常)酸素(20%)状態を作り出すためにステージトップインキュベーター用のデジタルガス混合装置GM8000(東海ヒット)を用いた。画像分析は、MetaMorph(登録商標、モレキュラーデバイス)によって行った。YFP/CFP放出比は、バックグラウンドを差し引いた後に、YFP画像をCFP画像と共に画素ごとに分割することで算出した。
ミトコンドリア膜電位は50nMのテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE、モレキュラープローブス)を、37℃で30分間ロードすることによって測定した。画像は冷却CCD CoolSNAP-HQカメラ(ローパーサイエンティフィック)を備えた倒立顕微鏡(オリンパス、型番IX-81)によって、対物レンズPL APO 40X, 0.95 NA又は油浸対物レンズPL APO 60X, 1.35 NA(型番、オリンパス)を使用して撮影した。TMREの蛍光画像はfilter set Semrock FF01-575/25-25 excitation filter、FF 604-Di01 dichroic mirror、及びFF01-624/40-25 emission filterによって観察した。ミトコンドリアの領域を設定するために、画像を二値化した。オリジナル画像を、二値化した画像を用いて算術的に拡大させた。TMREの統合強度(integrated intensity)を、二値化画像から測定したミトコンドリアの領域ごとに細分化した。これらのデータの算術的な処理は、MetaMorph(登録商標、モレキュラーデバイス)によって実施した。
HeLa細胞におけるATP合成活性を、原形質膜を透過処理するためストレプトマイシンOを利用する、最近改良した測定方法(M. Fujikawa, M. Yoshida, Biochem Biophys Res Commun 401, 538 (2010))によって測定した。ジギトニン(50μg/mL)を心筋細胞の原形質膜を透過処理するために使用した。
全長のマウスG0s2 cDNAをpMAL-c2Pベクター(pMAL-c2e(ニュー・イングランド・バイオラボ)のエンテロキナーゼ認識部位をPreScissionプロテアーゼ認識部位で置換したもの)にサブクローンし、MBP融合G0s2のコード配列をpET21aベクター(ノバジェン)にクローニングした(pET21a-MBP-G0s2と名付けた)。pET21a-MBP-G0s2を用いて大腸菌BL21-Star(DE3)(インビトロジェン)を形質変換し、0.5mMのIPTGを加えて37℃で4時間処理をしてMBP-G0s2タンパク質の発現を誘導した。超音波処理により細胞を溶解させ、発現したMBP-G0s2タンパク質を、アミロース樹脂(ニュー・イングランド・バイオラボ)を用いて精製し、続いて、MBP tagを切断するためにPreScissionプロテアーゼと共にインキュベートした。タグがついていないG0s2をProtein-R逆相カラム(4.6 x 250 mm、ナカライテスク)でさらに精製した。溶出フラクションを、遠心エバポレーターで乾燥させ、30mMのMOPS、pH7.5、150mMのKCl、及び0.01%のn-ドデシル-β-D-マルトシド(DDM)を加えて再構成した。
活性は、100mLのKCL、1mMのMgCl2、1mMのATP、及びATP再生システム(0.1mg/mLのピルビン酸キナーゼ、0.1mg/mLの乳酸脱水素酵素、2.5mMのホスホエノールピルビン酸及び0.2mMのNADH)を含む50mMのHEPES/KOH(pH7.5)の中で、37℃で測定した。ATPの加水分解量は、340nmの吸光度を測定して、NADHの酸化量によって評価した。ヒトF0F1-ATP合成酵素のF1サブユニット(ヒトF1)を最終濃度0.6μMで添加することで反応を開始させた。ヒトF1は、大腸菌で発現された組み換え体酵素を精製したものである。
12-wellプレートに播種した9×104細胞の心筋細胞に、アデノウイルスshRNAを48時間、又はアデノウイルスLacZもしくはG0s2-Flagを24時間感染させ、その後、低酸素状態に18時間暴露した。低酸素状態(0.1%未満)は、AnaeroPack(登録商標)System(三菱ガス化学)によって実現した。低酸素状態の後、2μg/mLのヨウ化プロピジウム(シグマ)及び2μg/mLのHoechst 33342(同仁化学)によって、37℃で30分細胞を染色した。染色した細胞核はその後、BZ-8000蛍光顕微鏡(キーエンス)を用いて可視化した。プレート上の4つの領域(1領域あたり、〜400の細胞)を計測し、全体の細胞核中のヨウ化プロピジウム陽性細胞核のパーセンテージとしてデータを表した。
インタクトなミトコンドリアの精製のため、1.2×107細胞の心筋細胞を10cmの組織培養皿に播種し、G0s2-Flag又はLacZをコードするアデノウイルスを48時間感染させた。それぞれの群につき、10cmの皿を2つずつ用意した。ホモジナイゼーションバッファー(6.6mMのイミダゾール、pH7.0、83mMのスクロース及びプロテアーゼ阻害薬)を使用前に4℃に冷却し、4℃で遠心分離を行った。細胞を回収し、Dounceホモジナイザーを用いて8mLのホモジナイゼーションバッファーの中でホモジナイズし、以下の2種の遠心分離を実施した;まず初めに1,300×gで3分間の遠心分離を行った後、次に上澄み液を15,000×gで10分間遠心分離。インタクトなミトコンドリアをペレットの状態で回収し、ホモジナイゼーションバッファーに再懸濁した。タンパク質の濃度は、Lowry法によって測定した。
精製したミトコンドリア(ウェスタンブロット用にタンパク質を25μg、又はin-gel ATP加水分解試験用にタンパク質を1,000μg)を100μLのミトコンドリア可溶化バッファー(50mMのイミダゾール、pH7.0、50mMのNaCl、5mMの6−アミノヘキサン酸及びDDM)で穏やか可溶化させた。界面活性剤濃度は、タンパク質に対してDDM1.5mgに調整した。氷上に10分間置いた後に、試料を100,000×g、4℃の条件で15分間遠心分離した。界面活性剤/色素の比率を4とするためにクーマシーG-250を上澄み液に加えた。20μLの試料(ウェスタンブロットにはタンパク質5μg、又はin-gel ATP加水分解試験にはタンパク質200μg)を4−20%のネイティブPAGEグラジエントゲルにロードし、カソードバッファー(50mMのトリシン、7.5mMのイミダゾール、pH7.0、及び0.02%のクーマシーG-250)及びアノードバッファー(7.5mMのイミダゾール、pH7.0)を用いて、150Vの一定電圧を30分間ゲルに掛けた。その後カソードバッファーを、低濃度のクーマシーG-250を用いたカソードバッファー(50mMのトリシン、7.5mMのイミダゾール、pH7.0、及び0.002%のクーマシーG-250)に交換し、ゲルに150Vの一定電圧を、さらに75分間掛けた。ゲルは、2つのうちいずれかの方法で使用された;ウェスタンブロットでは、PVDF膜(0.45μm、ミリポア)に転写した;又はin-gel ATP加水分解試験で使用した。ATPの加水分解を、E.Bisetto, F. Di Pancrazio, M.P. Simula, I. Mavelli, G. Lippe, Electrophoresis 28, 3178 (2007)に記載されたものに少しの変更を加えた1D BN-PAGEで測定した。BN-PAGEの後直ちに、270mMのグリシン、35mMのTris-HCl、pH8.0、及び14mMのMgSO4の中で、ゲルを室温にて2時間あらかじめインキュベートした。その後、270mMのグリシン、35mMのTris-HCl、pH8.0、14mMのMgSO4、2mMのATP、及び0.2%(w/v)の硝酸鉛の中で、ゲルを室温で一晩インキュベートした。表面に析出した過剰の鉛を取り除くため、ゲルを10%の酢酸で簡単に(2分間)洗浄し、その後蒸留水で10分間洗浄した。析出物をCCD camera-based detection system(ImageQuant LAS-4000、GEヘルスケア)を用いて光反射モードで記録し、複製した3つのゲルのF0F1バンド中の析出物量について濃度測定評価を実施した。
全ての手順は、実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the care and use of laboratory animals)(NIH publication no. 85-23, revised 1996)に従って行われ、実験動物の使用に関する大阪大学委員会に認可された。
取得データは、少なくとも3回の独立した実験の、平均の標準誤差で表現した。二つのグループ間における違いの解析には、スチューデントt検定の両側検定を使用した。p値<0.05であったときに、統計的有意差ありと判断した。
1.G0s2の発現は、心筋において低酸素状態によって急速かつ一過的に誘導された。
新しいATP産生制御のレギュレーターの調査を行うにあたり、本発明者らは低酸素ストレスの間に急速に発現誘導される遺伝子に焦点を当てた。モデル系として、ミトコンドリアを豊富に有しており、全ての初代細胞の中で最も高いレベルのATPを産生する心筋細胞を選択した。培養ラットの心筋細胞の遺伝子の発現プロフィールを、低酸素状態の間の3つの異なる時点(0、2及び12時間目)で比較した。その結果、数多い低酸素誘導遺伝子の中で、3つの遺伝子(Adamts1、Cdkn3及びG0s2)のみが、低酸素状態2時間持続後に発現が急増し、低酸素状態12時間持続後に減少する発現パターンを示した。この急性的かつ一過的な発現のタイムコースは、これらの遺伝子が低酸素ストレスに対する適応反応において明らかに調節的な役割を果たすことを示唆していた。本発明者らは、エネルギー制御におけるその役割が知られていないこと、及び酸素消費の多い心臓などの臓器において大量発現していることから、さらなる詳細な研究の対象としてG0s2を選択した。G0s2のmRNA及びタンパク質レベルの両方が、低酸素状態2〜6時間持続中は増加し、その後低酸素状態12時間持続後に減少することを確認した。
G0s2の生物化学的標的を特定するため、G0s2が結合するタンパク質のスクリーニングを実施した。図1のA〜Cは、G0s2を発現させた心筋細胞の免疫染色画像である。心筋細胞の中で発現したC末端にFlagタグを付けた(C-terminally Flag-tagged) G0s2(G0s2-Flag)は、内因性のG0s2と同様にミトコンドリアに局在した(図1のA〜C)。図1のAは、細胞を抗Flag抗体(図1のA)を用いて染色した免疫染色の顕微鏡写真であり、図1のBは、細胞をMitoTracker(登録商標) Red(インビトロジェン)によってラベルした場合の顕微鏡写真である。
図4は、図3の免疫沈降反応に対する相互免疫沈降反応の結果を示す。図4に結果を示す実験では、細胞ライセートを、抗F0F1-ATP合成酵素複合体抗体又はコントロールの抗体(IgG)を用いて免疫沈降させ、次いでF0F1-ATP合成酵素の各サブユニットに対する抗体又は抗Flag抗体を用いて免疫ブロットを行った。
G0s2のF0F1−ATP合成酵素への結合が低酸素状態で急激に増加することから、G0s2がATP枯渇時のF0F1−ATP合成酵素の活性に影響を与えることが示唆された。哺乳動物のF0F1−ATP合成酵素は、側面及び中心にある軸(a peripheral and a central stalk)によって連結された膜外F1及び膜内F0領域を含む、18のタンパク質の複合体である(J.E. Walker, Angewandte Chemie International Edition 37, 5000 (1998)、P. Dimroth, C. von Ballmoos, T. Meier, EMBO Rep 7, 276 (2006)、A.E. Senior, Cell 130, 220 (2007)、M. Yoshida, E. Muneyuki, T. Hisabori, Nat Rev Mol Cell Biol 2, 669 (2001))。F0領域の環構造のプロトン駆動力による回転は、同時に中心軸を回して回転力を生み出し、触媒作用に関するF1領域に立体構造上の変化をもたらして、ATPを合成する(W. Junge, H. Sielaff, S. Engelbrecht, Nature 459, 364 (2009)、H. Noji, R. Yasuda, M. Yoshida, K. Kinosita, Jr., Nature 386, 299 (1997)、J.P. Abrahams, A.G. Leslie, R. Lutter, J.F. Walker, Nature 370, 621 (1994)、K. Adachi et al., Cell 130, 309 (2007)、T. Uchihashi, R. Iino, T. Ando, H. Noji, Science 333, 755 (2011))。このF1領域はATPの加水分解及びATPの合成の両方の活性を有する。
次に、低酸素状態によって誘導される内因性のG0s2も、同様にATP産生を増進させるかどうかを確認することによって、G0s2の生理学的役割を評価した。あらかじめ低酸素状態で4時間調整した心筋細胞においてG0s2の発現は大きく増加しており、該心筋細胞は、正常な酸素条件に置いた細胞よりも多量のATPを産生した(図13のA及びB)。
図14に結果を示す実験においては、shLacZ又はshG0s2#2を発現させた心筋細胞を、定常酸素下又は低酸素状態下で18時間培養した。細胞核をヨウ化プロピジウム(PI)及びHoechst 33342で染色した後、その数を数えた。細胞死(%)は、PI陽性の細胞核/総細胞核の割合で表した(n=7)。
Claims (5)
- (1)G0s2タンパク質又はその薬学的に許容される塩、又は(2)前記(1)に記載のタンパク質をコードするDNAを有効成分として含むことを特徴とするATP産生促進剤。
- 低酸素状態又は虚血時におけるATP産生促進剤である請求項1に記載のATP産生促進剤。
- G0s2タンパク質が、配列番号2、4及び6のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質である請求項1又は2に記載のATP産生促進剤。
- G0s2タンパク質が、配列番号2、4及び6のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質である請求項1〜3のいずれか1項に記載のATP産生促進剤。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載のATP産生促進剤を含有することを特徴とするミトコンドリア病、代謝疾患、脳卒中、及び虚血性心疾患からなる群より選択される虚血性疾患の予防及び/又は治療剤。
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