JP5994819B2 - 耐衝撃性に優れた鋼板及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、船舶、建築物、橋梁、タンク、海洋構造物等の溶接構造物に好適な、耐衝撃性に優れた鋼板及びその製造方法に関する。
近年、大型タンカーの座礁や衝突による油流出による環境汚染が問題となっている。これらの事故による油流出を防止するために、船殻の二重構造化等の船体構造面からの取り組みは行われているが、船体用鋼材については十分な対応策が検討されていない。その中でも、船体用鋼材面からの取り組みとして、衝突時のエネルギーを鋼材自体に多く吸収させることが提案されているが、未だ十分な実用段階には達していない。
衝突時のエネルギー吸収能カを向上させる方法としては、鋼板の組織をフェライト(α)主体とし、かつα相を強化する技術が特許文献1に提案されている。この技術は、α分率Fが80%以上であり、かつαの硬さHについては下限値(H≧400−2.6×F)を規定することを特徴としている。
また、鋼板の表裏層に残留オーステナイト(γ)相を含ませる技術が特許文献2に提案されている。この技術は、C、Si、Mn、Alを含有し、さらに必要に応じて強化元素を含有し、鋼板の少なくとも板厚の1/8以上の表裏層に面積率で1.0〜20%の残留γを含むというものである。
これらの他に、特許文献3には、鋼板金属組織中のα相の分率を板厚中央部で70%以上、板厚表層部で50%以上とし、一様伸びを増加させることにより、耐衝突性を向上させる技術が開示されている。
さらに、特許文献4に、鋼板の全金属組織に占めるαの面積分率を90%以上、その平均α粒径を3〜12μm、最大α粒径を40μm以下、第2相の平均円相当径を0.8μm以下とし、一様伸びと破断応力の積を大きくすることにより、衝突吸収性を向上させる技術が提案されている。
特許第3434431号公報 特許第3499126号公報 特許第3578126号公報 特許第4476923号公報
上記の特許文献1と特許文献2では、伸びと強度の積(EL×(YP+TS)/2)を耐衝撃性を表す指標(衝撃吸収エネルギー)として、これを高める手段が開示されている。ところが、船舶同士が衝突した際の破孔抑制という観点からは、上記指標よりも伸びの値そのものの方がより大きく影響することが大規模衝突シミュレーションによって明らかになりつつある。特許文献1の技術では、α粒径が5μm以下で、αの硬さはHv160〜190と高めであるため、伸び自体は必ずしも高くなく、衝突時の破孔を抑制する効果はあまり期待できない。
また、特許文献2の技術では、組織に残留γを含むようにするため、合金元素が多目に添加されており、実施例の鋼は炭素等量(Ceq)が高いか、Siが高い鋼種となっている。そのため、溶接性や継手靭性を確保することが困難で、実船への適用は限定的と考えられる。
一方、特許文献3の技術では、合金元素添加量を低目に抑え、2段階の冷却により特に板厚中心部のα相の分率、硬さ、粒径を制御することにより、一様伸びの向上を図っているが、造船用のような広幅長尺鋼板を製造する際には、材質ばらつきが生じてしまい、実用的な製造方法とはいい難い。
特許文献4では、鋼材の化学成分と金属組織の情報は開示されているが、製造方法において実用上不確実な点が多い。すなわち、詳細な説明に記されている製造方法は、熱間圧延、冷却後に再加熱を推奨しているが、廉価かつ大量生産が必須の造船用鋼板において、再加熱のようなプロセスは生産コストと製造工期の観点から実用化が懸念される。
以上を鑑みると、船舶等の衝突時のエネルギー吸収性能に優れた鋼板を、安定的かつ低コストで大量生産できる技術は、未だ確立されていない。
本発明は、現状用いられている鋼材に対して合金元素の添加等によるコス卜の増加を必要最小限に抑えつつ、現状の鋼材に比べて衝突時のエネルギー吸収能を大幅に増加させることが可能な耐衝突性に優れた鋼材及びその製造方法を提供することを目的とする。
耐衝突性を高めるためには鋼板の伸びを大きくすることが本質的に重要である。伸びは一様伸びと局部伸びに分けることができるが、これらの支配因子は異なっており、通常両立することは困難である。すなわち、一様伸びはα自体の延性向上に加えて、第二相の硬さ増加により高めることができ、一般に複合組織とする方が有利である。一方、局部伸びは硬さ分布の均一化、第二相や介在物等の微細分散等、均一組織とする方が有利である。構造物が衝突した際の破壊を防止するという観点からは、どちらかの伸びを重点的に向上させるというよりも、両者をバランスよく向上させることが望ましい。なお、伸びの値は試験片形状によって大きく異なることがわかっており、標準的なJISの1A号引張試験片を用いた場合、一様伸びは18%以上、局部伸びは12%以上で、一様伸びと局部伸びの合計である全伸び(以下単に伸びとも称す)30%以上を本発明における目標値とした。
そこで、本発明者らは、鋼板内での強度と伸びの変動を抑制しやすいα(フェライト)+パーライト鋼を前提として、α相の延性向上と第二相であるパーライトの微細分散を図るという指針のもと、鋼板の化学成分、製造条件の影響について詳細な調査を行い、以下の知見を見出した。
α相の延性を向上させるためには、αの清浄度をできる限り高める必要がある。ただし、鋼板の強度は担保する必要があることから、パーライトを形成するCと、置換型固溶元素であるSi、Mn等は一定量添加せざるを得ない。α中で析出物を形成するNb、V、Ti等の元素は必要最小限の添加にとどめ、侵入型で固溶して降伏応力を顕著に上昇させるNや、不純物元素であるP、S等を極力低減することが効果的である。また、Ca、Mg、REM(La,Ce等の希土類元素)の単独または複合添加によりこれらを含有する酸化物を形成させて、伸び向上を妨げる元素を酸化物上に析出させることも有効である。α中の転位密度が高くなると、塑性変形により容易に増殖してαを硬化させ、伸びを低下させる原因となるため、転位密度を低減しておくことも必要である。
一方、第二相であるパーライトを微細分散させるためには、まず高温加熱によって、バンド状組織を形成させる原因であるミクロ偏析を極力低減しておく必要がある。一般に、高温加熱を行うとγ粒が粗大化して、圧延後に空冷した場合でも一部ベイナイトが生成してしまい、伸びが低下することがある。そのため、圧延のパス間でγ(オーステナイト)の再結晶が進行し、かつ顕著な粒成長が生じない温度域において、十分な歪みを付与することでγを細粒化する必要がある。その際、再結晶粒径は各パスの圧下率で概ね決まるため、圧延の後段ほど圧下率を高めることが非常に重要である。この時点でγを十分細粒化しておけば、αとパーライトの細粒化を目的とした未再結晶温度域での圧延、及びその後の加速冷却は最小限でよい。加速冷却を行う際には、α中の固溶Cや転位密度を低く抑え、ベイナイトの生成を回避するため、冷却速度と冷却停止温度を適正な範囲に制御する必要がある。
本発明は、上記の知見を基に、更に詳細な検討を加えることによってなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1] 質量%で、
C:0.05〜0.20%、
Si:0.2〜1.0%、
Mn:0.5〜2.0%、
P :0.008%以下、
S :0.003%以下、
Nb:0.003〜0.030%、
Al:0.002〜0.10%、
N :0.0010〜0.0060%、
O :0.0010〜0.0060%
を含有し、さらにCa、Mg、REMの1種または2種以上を添加量の合計として0.0015〜0.0080%含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼であって、ミクロ組織がフェライト、及び第二相からなり、前記第二相は、パーライトからなるか、ベイナイト、マルテンサイト、残留γのいずれか1以上を面積率で3%以下含有し残部がパーライトからなり、該第二相のビッカース硬さH、分率F(%)が以下の式(1)〜(3)を満たし、平均面積S、平均周囲長Lが以下の式(4)を満たすとともに、フェライト相中の平均転位密度が7×1012/m以下であることを特徴とする耐衝撃性に優れた鋼板。
H≦300 ・・・ (1)
F≦20 ・・・ (2)
366≦H+8.3F≦433 ・・・ (3)
L/√S≦5.2 ・・・ (4)
[2] 鋼組成として、更に、
Cu:0.05〜0.5%、
Cr:0.05〜0.5%、
Ni:0.05〜0.5%、
Mo:0.02〜0.3%、
Ti:0.003〜0.020%、
V :0.010〜0.040%
の中から選ばれる1種又は2種以上を含有するとともに、Nb、Ti、Vの添加量の合計が0.040%以下であることを特徴とする、前記[1]記載の耐衝撃性に優れた鋼板。
[3] 前記[1]又は[2]記載の耐衝撃性に優れた鋼板を製造する方法であって、前記[1]又は[2]に記載の組成の鋼素材を、1200〜1350℃の温度に120分間以上保持した後、Trex〜Trex+80℃の温度域において累積圧下率40%以上、かつ、1パス当たりの圧下率が15%以上のパスを2パス以上含み、該パスの圧下率が後段ほど大きくなるように圧延を行い、さらにAr3〜Trex未満の温度域において累積圧下率30%以上の圧延を行った後、空冷することを特徴とする、耐衝撃性に優れた鋼板の製造方法。
ただし、Trex、Ar3は下記式(5)、(6)で表される。
rex=−91900[Nb]+9400[Nb]+770 ・・・ (5)
r3=910−310[C]+65[Si]−80[Mn]−20[Cu]
−15[Cr]−55[Ni]−80[Mo] ・・・ (6)
但し、元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
[4]前記[3]に記載の耐衝撃性に優れた鋼板の製造方法において、前記加熱、圧延を行った後、Ar以上の温度から、20℃/秒以下の鋼板平均冷却速度で、Ar−50℃以上の温度まで加速冷却を行い、その後、前記空冷を行うことを特徴とする耐衝撃性に優れた鋼板の製造方法。
本発明によって、船舶等の大型構造物に適用可能な耐衝撃性に優れた鋼板及びその製造方法を提供することが可能になり、産業上の貢献は極めて大きい。
耐衝撃性に及ぼす第二相の分率と硬さの関係を表す図である。 耐衝撃性に及ぼす第二相の平均面積と平均周囲長の関係を表す図である。 耐衝撃性に及ぼすフェライト相中の平均転位密度の関係を表す図である。
まず、本発明鋼の成分限定理由を説明する。なお、%はすべて質量%を意味する。
(C:0.05〜0.20%)
Cは、パーライトを形成して強度を高めるのに不可欠な元素であるため0.05%以上添加する。一方、C量が増えると溶接性や継手靭性確保が困難となるため0.20%を上限とする。なお、C量は0.07%以上、0.16%以下が好ましい。
(Si:0.2〜1.0%)
Siは、安価な脱酸元素であり、固溶強化に効くとともに、変態点を上昇させてα中の転位密度低減に寄与するため0.2%以上添加する。一方、Si量が1.0%を超えると溶接性と継手靭性を劣化させるため上限を1.0%とする。Si量は、0.3%以上、0.6%以下が好ましい。
(Mn:0.5〜2.0%)
Mnは、母材の強度及び靭性を向上させる元素として有効であるため0.5%以上添加する。一方、Mnを過剰に添加すると、継手靭性、溶接割れ性を劣化させるため2.0%を上限とする。Mn量は、0.7%以上、1.7%以下が好ましく、更に好ましくは、0.9%以上、1.5%以下である。
(P:0.008%以下、S:0.003%以下)
P、Sは、不純物であり、伸びや靭性を確保するため、Pは0.008%、Sは0.003%を上限とする。P及びSの含有量は少ないほど望ましい。
(Nb:0.003〜0.030%)
Nbは、微量の添加により組織微細化に寄与し、母材強度確保に有効な元素であるため、0.003%以上添加する。一方、過剰に添加すると溶接部を硬化させて著しく靭性を劣化させるため、0.030%を上限とする。
(Al:0.002〜0.10%)
Alは、重要な脱酸元素であるため0.002%以上添加する。一方、Alを過剰に添加すると鋼片の表面品位を損ない、靭性に有害な介在物を形成するため0.10%を上限とする。Al量の好ましい上限は、0.05%以下であり、更に好ましくは、0.03%以下である。
(N :0.0010〜0.0060%)
Nは、Alとともに窒化物を形成し継手靭性を向上させるため、含有量の下限を0.0010%以上とする。一方、Nの含有量が過剰であると、固溶Nによる脆化や伸びの低下が生じるため、上限を0.0060%以下とする。N量の好ましい上限は、0.0050%以下であり、更に好ましくは、0.0040%以下である。
(Ca、Mg、REMの1種または2種以上を添加量の合計として0.0015〜0.0080%)
Mg、Ca、REMは、いずれも微細な酸化物を形成して、伸びに有害な元素を析出させるために重要な元素である。これらは同等の効果を有するため、個々の添加量は問わないが、添加量の合計としては0.0015〜0.0080%とする必要がある。添加量の合計が0.0015%未満であると伸び向上の効果が安定して得られない。一方、0.0080%を超える添加では効果が飽和して経済上不利であり、また酸化物が粗大化して伸びや靭性が低下する可能性がある。
(O :0.0010〜0.0060%)
Oは、Mg、Ca、REMとともに酸化物を形成することで伸び向上に寄与するため、0.0010%以上必要である。一方、0.0060%を超えると酸化物が粗大化して伸びや靭性が低下する可能性があるため、0.0060%以下とする。
更に、選択元素として、Cu、Cr、Mo、Ni、Ti、Vの群の内の1種又は2種以上を添加してもよい。
Cu、Cr、Moは、何れも焼入れ性を向上させ、高強度化に有効であるため、Cu、Crは0.05%以上、Moは0.02%以上添加することが好ましい。一方、過剰に添加すると、継手の硬さが上昇して靭性が低下することがあるため、Cu、Crは0.5%、Moは0.3%を上限とすることが好ましい。
Niは、強度確保と靭性向上に有効であるため0.05%以上を添加することが好ましい。しかし、0.5%を超えて添加するとコストが上昇するため、上限を0.5%とする。
Tiは、微量の添加により母材と溶接部の組織微細化を通じて靭性向上に寄与するため、0.003%以上添加する。一方、過剰に添加すると溶接部を硬化させ著しく靭性を劣化させるため、0.020%を上限とする。
Vは、析出強化により強度上昇に寄与するため0.010%以上を添加する。一方、0.040%超のVを添加すると、継手靭性を損なうことがあるため、0.040%を上限とする。
Nb、Ti、Vの個々の添加量が上記範囲内であっても、合計の量が0.040%を超えるとα中に多量の析出物が生成して伸びが低下する可能性があるため、合計の添加量を0.040%以下に制限する。
次に、本発明鋼のミクロ組織の限定理由について説明する。
本発明鋼は軟質相であるαと硬質第二相であるパーライトから主に構成され、各相の機械的性質を最適化することにより、従来鋼と同等の強度を担保しつつ、伸びを向上させたものである。なお、第二相としては、パーライトの他にベイナイト、マルテンサイト、残留γが少量(3%以下を許容する)混在する場合があるが、第二相はパーライトとすることが好ましい。
第二相のビッカース硬さH、分率Fは以下の式(1)〜(3)を満足する必要がある。
H≦300 ・・・ (1)
F≦20 ・・・ (2)
366≦H+8.3F≦433 ・・・ (3)
これらの式を満たす領域を図1に示す。即ち、(1)〜(3)を満足する場合には、全伸び30%以上、引張強度490N/mm以上(図1中○印)を確保可能となる。H+8.3F<366の場合は(図中下部の斜線以下)、引張強度が490N/mm以上を確保できない(図1中△印)可能性がある。H>300、F>20、H+8.3F>433(図中上部の斜線以上)の何れかに相当する場合は、伸び30%以上の確保が困難(図1中×印)で、耐衝撃性が低下してしまう。H、F、H+8.3Fの好ましい範囲はそれぞれ、240〜298、9〜18%、368〜420である。
第二相の平均面積S、平均周囲長Lは以下の式(4)を満たす必要がある。
L/√S≦5.2 ・・・ (4)
L/√Sは第二相の形態を表す指標であり、円であれば小さく(最小値:3.54)、バンド状や入り組んだ形状になるほど大きくなる。この指標が5.2を超えると、図2に示すように、伸びが顕著に低下して30%以上を確保出来なくなる。L/√Sの好ましい上限は5.0である。
α相中の平均転位密度は7×1012/m以下とする必要がある。転位密度が7×1012/m超であると、鋼板の塑性変形により転位が顕著に増殖してαが硬くなり、図3に示すように、十分な伸び(EL%)が得られない。転位密度は低ければ低いほどよいが、通常1×1012/mを下回ることはほとんどない。平均転位密度の好ましい上限は6×1012/mである。
続いて、本発明における製造条件の限定理由を説明する。
本発明では鋼素材の加熱条件を加熱温度1200〜1350℃で120分間以上保持することとした。加熱温度が1200℃未満、または保持時間が120分間未満では偏析している合金元素の拡散が不十分となるため、パーライトバンドが生成して、伸び低下の原因となる。一方、加熱温度が、1350℃を超えると加熱γ粒径が粗大化してしまい、最終的な組織の微細化が困難になるおそれがある。この加熱の保持時間の上限は規定する必要はないが、省エネルギー及び生産性の観点から240分間以内で行うことが多い。加熱の好ましい温度範囲は1220〜1330℃、好ましい保持時間は130〜210分間である。
加熱後、γの高温域で粗圧延を行うが、これが本発明で最も重要な工程である。通常の厚鋼板製造プロセスにおける加熱温度よりも高い温度域に加熱するため、γ粒径が大きくなっており、この圧延工程でγを細粒化しなければ、最終組織にベイナイトが一定量混在し、伸びが低下してしまう。そのため、圧延条件としては、Trex〜Trex+80℃の温度域において累積圧下率40%以上、かつ、1パス当たりの圧下率が15%以上のパスを2パス以上含み、該パスの圧下率が後段ほど大きくなるようにする必要がある。Trexは通常の厚板圧延のパス間時間(10〜15秒間程度)で概ね再結晶を完了させるために必要な温度(再結晶限界温度)のことで、Nb添加量を用いて下記の式(5)で表せることを見出した。
rex=−91900[Nb]+9400[Nb]+770 ・・・ (5)
ここで、[Nb]はNb含有量(質量%)を表す。
温度がTrex未満であるとγの再結晶が完了しないために最終的に混粒組織となり、伸びが低下してしまう。一方、温度がTrex+80℃を超えると、再結晶後のγが粒成長により粗大化して、ベイナイトが生成し伸びが低下する。Trex〜Trex+80℃の温度域における累積圧下率が40%未満、または、1パス当たりの圧下率が15%以上のパスが2パス未満である場合も、再結晶によるγの均一微細化が図れず、伸びが低下してしまう。該パスが圧下率15%以上、かつ2パス以上あっても、後段パスの圧下率が小さい場合には、γを細粒化できないため、やはり伸びが低下してしまう。Trex+80℃超の温度域における圧延の条件、及びTrex〜Trex+80℃の温度域における累積圧下率、1パス当たりの圧下率の上限については、特に規定する必要はない。ただし、現状の鋳造設備、圧延設備の仕様を前提とすると、累積圧下率は90%程度、1パス圧下率は50%程度が上限と考えられる。Trex〜Trex+80℃の温度域における累積圧下率、1パス圧下率の好ましい範囲は、それぞれ45〜85%、15〜30%である。該温度域における1パス圧下率15%以上のパス数の上限も特に規定する必要はないが、80℃の温度範囲内で圧延することを考えると、6パス以内が好ましい。
引き続き行うγ未再結晶域での仕上圧延は、γ粒の偏平化、転位や変形帯等の導入によりαを細粒化するために重要な工程であり、Ar3〜Trex未満の温度域において累積圧下率30%以上で行う必要がある。Ar3は冷却過程においてαが生成し始める温度であり、合金元素添加量から推定する式がいくつか提案されているが、本発明を実施するに当たっては精度が十分ではなかったため、以下の式(6)のように定めた。圧延温度がAr3未満となると、加工α生成により伸びが低下する可能性がある。一方、Trex以上になるとγが一部再結晶してしまい、最終組織が混粒となり、伸びが低下する恐れがある。累積圧下率が30%未満では、αと第二相の微細化が図れず、第二相が入り組んだ形状となることからL/√Sの値が大きくなり、伸びが低下する可能性がある。累積圧下率の上限については特に規定する必要はないが、圧延生産性の観点から60%以下とすることが好ましい。
r3=910−310[C]+65[Si]−80[Mn]−20[Cu]
−15[Cr]−55「Ni」−80[Mo] ・・・ (6)
なお、元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
圧延完了後は空冷でもよいが、組織微細化を目的に加速冷却を行ってもよい。この加速冷却を行う場合には、Ar3以上の温度から、20℃/秒以下の鋼板平均冷却速度で、Ar3−50℃以上の温度まで冷却し、その後空冷する。冷却開始温度がAr未満になると、αが一部生成して混粒組織となり、伸びが低下してしまう。冷却速度が20℃/秒超、あるいは、冷却停止温度がAr3−50℃よりも低くなると、ベイナイトが一定量混在する組織となり、伸びが低下する。冷却開始温度、冷却停止温度の上限、冷却速度の下限は規定しない。好ましい冷却速度の上限は15℃/秒である。
本発明の実施例を表1〜3を参照して説明する。
表1の化学成分を有する鋼片を用いて、表2の製造条件により板厚12〜36mmの鋼板を試作した。なお、表2の冷却速度は、実測された表面温度から、公知の差分法による熱伝導解析により求めた値である。また、表2の加速冷却欄で「−」が記載された番号1〜3、5〜7、9、11、16〜18、20〜21、23、28〜30は、加速冷却を行わずに空冷を行った例であり、また、その他の例は加速冷却後、空冷を行ったものである。
製造した各鋼板の組織的特徴を、以下の要領で測定した。
まず、鋼板の幅方向垂直断面が観察できるようにサンプルを採取し、光学顕微鏡により表面から1mm、板厚1/4、板厚中心部の金属組織を500倍の倍率で撮影した。次に画像解析ソフトを用いて適切な条件で二値化処理を施した後、αと第二相(パーライト主体であるが一部ベイナイトを含む)の総面積を求め、撮影部の全面積で除することにより各相の分率(面積分率%)を求めた。また、個々の第二相の面積、周囲長を測定し、L/√Sの平均値を求めた。
第二相の硬さはマイクロビッカース硬度計を用いて、荷重29mNの条件で10点測定し、平均値を求めた。
α相中の平均転位密度は、上記板厚各位置から薄膜試料を採取し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて倍率を40000倍として明視野の観察撮影を行い、得られたTEM像から任意の直線(長さ:L)と転位線との交切点の数(N)を測定し、膜厚:tの値を用いて、以下の式(7)により平均転位密度(ρ)を算出した。
ρ=2N/Lt ・・・ (7)
機械的性質は、板厚中心部から圧延方向と直角の方向に採取したJIS Z 2241の1A号引張試験片を用いて評価した。
表3に組織的特徴と機械的性質(降伏応力(YS)、引張強度(TS)、一様伸び(U.EL)、局部伸び(L.EL)、全伸び(EL))を測定した結果を示す。
本発明例のNo.1〜15は化学成分、ミクロ組織、製造条件が本発明の範囲内であるため、いずれもU.ELが20%以上、L.ELが13%以上、全伸びLE30%以上、引張強度TS490N/mm以上を確保出来た。
一方、比較例のNo.16〜32は化学成分、ミクロ組織、製造条件のいずれかが本発明の範囲を逸脱していたために、十分な伸び、または引張強度が得られなかった。すなわち、No.17、19、21、23は加熱の温度が低かった、あるいは保持時間が短かったために、L/√Sの値が本発明の範囲より大きくなって、伸びが低くなった。
No.20は加熱温度が高過ぎたために、γを細粒化できずに変態点が低下して、α中の転位密度が高くなり、伸びが低下した。No.22は粗圧延のTrex〜Trex+80℃の温度域における累積圧下率が小さかったために、H+8.3Fの値が大きくなり、伸びが低下した。
No.16、18、26は粗圧延の1パス圧下率15%以上のパスが少なかった、または後段の圧下率が小さかったために、L/√Sの値が大きい、またはα中転位密度が大きくなり、伸びが低下した。No.24は仕上圧延の累積圧下率が小さかったために第二相が粗大化し、H+8.3Fの値が過少、かつL/√Sが過大となり、引張強度TSが低く、伸びも低下してしまった。
No.25、27は加速冷却の停止温度が低かった、あるいは冷却速度が過大であったために、第二相(特にベイナイト)の分率増加、硬さ上昇により、伸びが低下した。No.28はS量が過剰であったために、延伸したMnSにより伸びが低下した。No.29はCa+Mg+REMの量が不足していたために侵入型固溶元素が残存し、α中転位密度が高くなって伸びが低下した。No.30はCa+Mg+REMの量が過剰であったために、粗大な酸化物が生成して伸びが低下した。No.31はNb+Ti+Vの量が過剰であったために、α中に析出物が生成、転位密度が増加して、伸びが低下した。No.32はC量が少なかったためにパーライト分率が低下、H+8.3Fの値が過少となり、引張強度が低くなった。
Figure 0005994819
Figure 0005994819
Figure 0005994819

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.05〜0.20%、
    Si:0.2〜1.0%、
    Mn:0.5〜2.0%、
    P :0.008%以下、
    S :0.003%以下、
    Nb:0.003〜0.030%、
    Al:0.002〜0.10%、
    N :0.0010〜0.0060%、
    O :0.0010〜0.0060%
    を含有し、さらにCa、Mg、REMの1種または2種以上を添加量の合計として0.0015〜0.0080%含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼であって、ミクロ組織がフェライト、及び第二相からなり、前記第二相は、パーライトからなるか、ベイナイト、マルテンサイト、残留γのいずれか1以上を面積率で3%以下含有し残部がパーライトからなり、該第二相のビッカース硬さH、分率F(%)が以下の式(1)〜(3)を満たし、平均面積S、平均周囲長Lが以下の式(4)を満たすとともに、フェライト相中の平均転位密度が7×1012/m以下であることを特徴とする耐衝撃性に優れた鋼板。
    H≦300 ・・・ (1)
    F≦20 ・・・ (2)
    366≦H+8.3F≦433 ・・・ (3)
    L/√S≦5.2 ・・・ (4)
  2. 鋼組成として、更に、
    Cu:0.05〜0.5%、
    Cr:0.05〜0.5%、
    Ni:0.05〜0.5%、
    Mo:0.02〜0.3%、
    Ti:0.003〜0.020%、
    V :0.010〜0.040%
    の中から選ばれる1種又は2種以上を含有するとともに、Nb、Ti、Vの添加量の合計が0.040%以下であることを特徴とする、請求項1記載の耐衝撃性に優れた鋼板。
  3. 請求項1又は2記載の耐衝撃性に優れた鋼板を製造する方法であって、請求鋼1又は2記載の組成の鋼素材を、1200〜1350℃の温度に120分間以上保持した後、Trex〜Trex+80℃の温度域において累積圧下率40%以上、かつ、1パス当たりの圧下率が15%以上のパスを2パス以上含み、該パスの圧下率が後段ほど大きくなるように圧延を行い、さらにAr3〜Trex未満の温度域において累積圧下率30%以上の圧延を行った後、空冷することを特徴とする、耐衝撃性に優れた鋼板の製造方法。
    ただし、Trex、Ar3は下記式(5)、(6)で表される。
    rex=−91900[Nb]+9400[Nb]+770 ・・・ (5)
    r3=910−310[C]+65[Si]−80[Mn]−20[Cu]
    −15[Cr]−55[Ni]−80[Mo] ・・・ (6)
    但し、元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
  4. 請求項3に記載の耐衝撃性に優れた鋼板の製造方法において、前記加熱、圧延を行った後、A r3 以上の温度から、20℃/秒以下の鋼板平均冷却速度で、A r3 −50℃以上の温度まで加速冷却を行い、その後、前記空冷を行うことを特徴とする耐衝撃性に優れた鋼板の製造方法。
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