JP5982044B2 - 悪臭抑制剤 - Google Patents

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本発明は、悪臭抑制剤又は悪臭抑制方法に関する。
我々の生活環境には、極性や分子量が異なる多数の悪臭分子が存在する。多様な悪臭分子を消臭するために、これまで様々な消臭方法が開発されてきた。一般的に消臭方法は、生物的方法、化学的方法、物理的方法、感覚的方法に大別される。悪臭分子の中で、極性の高い短鎖脂肪酸やアミン類については、化学的方法、すなわち中和反応による消臭が可能である。またチオールなどの硫黄化合物に関しては、物理的方法、すなわち吸着処理による消臭が可能である。しかし、中鎖・長鎖脂肪酸やスカトールなど、従来の消臭法では対応できない悪臭分子が数多く残されている。
日常生活において特に忌避される匂いとして糞便臭や口臭が挙げられる。これらの匂いの主な成分の1つはスカトールである。スカトール臭や糞便臭を消臭する手段としては、多孔質物質、アミノポリカルボン酸及び金属を含む組成物(特許文献1)、白金等の触媒を担持させた絹焼成体(特許文献2)、ならびにアリルヘプタノエート、エチルバニリン、メチルジヒドロジャスモネート、ラズベリーケトン又はオイゲノールを有効成分とする消臭剤(特許文献3)、アミルシンナミックアルデヒド、桂皮酸エチル、2-シクロヘキシルプロパナール(ポレナールII)、ゲラニルアセトン、ヘプタン酸シス-3-ヘキセニル、ヘキサン酸シス-3-ヘキセニル、2,2-ジメチルプロピオン酸 3-メチル-3-ブテニル(ロミラット)、メチルヘプテノン、バレンセン、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド(トリプラール又はリグストラール)、シス−ジャスモン、アセチルセドレン、酢酸ベンジル、ゲラニオール、オレンジ回収フレーバー、及びフタバガキ科植物エキス等の芳香成分(特許文献3及び4)を使用する方法が知られている。
これらの従来の手段では、目的の悪臭物質を吸着・分解してその存在量を減少させるか又は芳香剤などにより消臭を行っている。しかし、悪臭物質を吸着・分解する方法は、悪臭物質減少までに時間を要するため即効性に欠ける。一方、芳香剤を使用する場合、芳香剤自体の匂いに対する不快感が生じたり、目的の悪臭物質以外の匂いも消されてしまう等の問題がある。
ヒト等の哺乳動物においては、匂いは、鼻腔上部の嗅上皮に存在する嗅神経細胞上の嗅覚受容体に匂い分子が結合し、それに対する受容体の応答が中枢神経系へと伝達されることにより認識されている。ヒトの場合、嗅覚受容体は387個存在することが報告されており、これらをコードする遺伝子はヒトの全遺伝子の約3%にあたる。
一般的に、嗅覚受容体と匂い分子は複数対複数の組み合わせで対応付けられている。すなわち、個々の嗅覚受容体は構造の類似した複数の匂い分子を異なる親和性で受容し、一方で、個々の匂い分子は複数の嗅覚受容体によって受容される。さらに、ある嗅覚受容体を活性化する匂い分子が、別の嗅覚受容体の活性化を阻害するアンタゴニストとして働くことも報告されている。これら複数の嗅覚受容体の応答の組み合わせが、個々の匂いの認識をもたらしている。
従って、同じ匂い分子が存在する場合でも、同時に他の匂い分子が存在すると、当該他の匂い分子によって受容体応答が阻害され、最終的に認識される匂いが全く異なることがある。このような仕組みを嗅覚受容体のアンタゴニズムと呼ぶ。この受容体アンタゴニズムによる匂いの変調は、香水や芳香剤等の別の匂いを付加することによる消臭方法と異なり、悪臭の認識を特異的に失くしてしまうことができ、また芳香剤の匂いによる不快感が生じることもないことから、好ましい消臭手段である。
特開2002-153545号公報 国際公開第2005/007287号パンフレット 特開2005-296169号公報 特開2008-136841号公報
本発明は、嗅覚受容体アンタゴニズムに基づく悪臭抑制剤及び悪臭抑制方法を提供する。
嗅覚受容体アンタゴニズムのためには、目的の悪臭物質に対応する嗅覚受容体を同定し、且つ当該悪臭物質に対して有効な嗅覚受容体アンタゴニスト作用を示す物質を探索、同定しなければならない。そこで、本発明者は、スカトール等の悪臭原因物質に応答する嗅覚受容体、及び当該嗅覚受容体に対するアンタゴニストを探索し、鋭意努力した結果、それらを同定することに成功した。本発明者はさらに、当該受容体アンタゴニストを用いることによって、嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキングにより目的の悪臭を特異的に抑制することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
(1)OR5P3、OR2W1、OR5K1及びOR8H1から選択される嗅覚受容体のいずれか1に対するアンタゴニストであって、且つ下記より選択されるアンタゴニストの1種以上を有効成分とする、悪臭抑制剤:
エチル 2−tert−ブチルシクロヘキシルカルボネート;
1−(2,3,4,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,6,8,8−テトラメチル−1H−3a,7−メタノアズレン−5−イル)−エタノン;
3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール;
1−(5,5−ジメチル−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン;
1−(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール;
オキサシクロヘキサデカン−2−オン;
(Z)−シクロヘプタデカ−9−エン−1−オン;
ドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチル−ナフト[2.1−b]フラン;
p−tert−ブチルシクロヘキサノール;
1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−4,6,6,7,8,8−ヘキサメチルシクロペンタ−γ−2−ベンゾピラン;
γ−ウンデカラクトン;
β−メチル−3−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール;
3,7−ジメチル−1−オクタノール;
5−メチル−2−(1−メチルエチル)−フェノール;
1−(2,2−ジメチル−6−メチレンシクロヘキシル)−1−ペンテン−3−オン;
3−(1−エトキシ)−3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン;
4−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン;
メチル 2−ペンチル−3−オキソシクロペント−1−イルアセテート;
2−メチル−4−フェニルペンタノール;
3,7,11−トリメチル−1,6,10−ドデトリエン−3−オール;
7−メトキシ−3,7−ジメチル−オクタナール;
cis−3−ヘキセニルサリシレート;
1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−8,8−ジメチル−2−ナフトアルデヒド;
2−trans−3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オール;
3−(4−tert−ブチルフェニル)プロピオンアルデヒド;
p−tert−ブチル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド;
1−(2,6,6−トリメチル−3−シクロヘキセニル)−2−ブテン−1−オン;
7−ヒドロキシ−3,7−ジメチル−オクタナール;
エチル−2,3−エポキシ−3−メチル−3−フェニルプロピオネート;
8−シクロヘキサデカン−1−オン;
4−(4−メチル−3−ペンテン−1−イル)−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド;
(Z)−2−(2−ペンテニル)−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン;
酢酸ジメチルベンジルカルビニル;
トリシクロデセニルアセテート;
3,7−ジメチル−6−オクテン−1−イルアセテート;
フェニルヘキサノール;
3,7−ジメチル−6−オクタナール;
4(3)−(4−メチル−3−ペンテニル)−3−シクロヘキセニルメチルアセテート;
アリルシクロヘキサンプロピオネート;
2,6−ジメチル−2−オクタノール又は3,7−ジメチル−3−オクタノール;
α−メチル−4−(2−メチルプロピル)−ベンゼンプロパナール;
(5E)−3−メチルシクロペンタデク−5−エン−1−オン;
ジメチル−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド;
1,3,3−トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オール;
2,4,4,7−テトラメチル−6,8−ノナジエン−3−オンオキシム;
2−シクロヘキシルプロパノール;
ヘキシルサリシレート;及び、
4−(1−メチルエテニル)−1−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド。
(2)前記悪臭がスカトール臭又はインドール臭である、(1)記載の悪臭抑制剤。
(3)エチル 2−tert−ブチルシクロヘキシルカルボネート、1−(2,3,4,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,6,8,8−テトラメチル−1H−3a,7−メタノアズレン−5−イル)−エタノン、1−(5,5−ジメチル−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン、オキサシクロヘキサデカン−2−オン、(Z)−シクロヘプタデカ−9−エン−1−オン、ドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチル−ナフト[2.1−b]フラン、p−tert−ブチルシクロヘキサノール、γ−ウンデカラクトン、β−メチル−3−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール、3,7−ジメチル−1−オクタノール、1−(2,2−ジメチル−6−メチレンシクロヘキシル)−1−ペンテン−3−オン、メチル 2−ペンチル−3−オキソシクロペント−1−イルアセテート、3,7,11−トリメチル−1,6,10−ドデカトリエン−3−オール、8−シクロヘキサデカン−1−オン、トリシクロデセニルアセテート及び3,7−ジメチル−6−オクテン−1−イルアセテートより選択される1種以上を有効成分とする、(1)又は(2)記載の悪臭抑制剤。
(4)下記より選択される、OR5P3、OR2W1、OR5K1及びOR8H1から選択される嗅覚受容体のいずれか1に対する受容体拮抗剤:
エチル 2−tert−ブチルシクロヘキシルカルボネート;
1−(2,3,4,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,6,8,8−テトラメチル−1H−3a,7−メタノアズレン−5−イル)−エタノン;
3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール;
1−(5,5−ジメチル−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン;
1−(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール;
オキサシクロヘキサデカン−2−オン;
(Z)−シクロヘプタデカ−9−エン−1−オン;
ドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチル−ナフト[2.1−b]フラン;
p−tert−ブチルシクロヘキサノール;
1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−4,6,6,7,8,8−ヘキサメチルシクロペンタ−γ−2−ベンゾピラン;
γ−ウンデカラクトン;
β−メチル−3−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール;
3,7−ジメチル−1−オクタノール;
5−メチル−2−(1−メチルエチル)−フェノール;
1−(2,2−ジメチル−6−メチレンシクロヘキシル)−1−ペンテン−3−オン;
3−(1−エトキシ)−3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン;
4−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン;
メチル 2−ペンチル−3−オキソシクロペント−1−イルアセテート;
2−メチル−4−フェニルペンタノール;
3,7,11−トリメチル−1,6,10−ドデトリエン−3−オール;
7−メトキシ−3,7−ジメチル−オクタナール;
cis−3−ヘキセニルサリシレート;
1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−8,8−ジメチル−2−ナフトアルデヒド;
2−trans−3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オール;
3−(4−tert−ブチルフェニル)プロピオンアルデヒド;
p−tert−ブチル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド;
1−(2,6,6−トリメチル−3−シクロヘキセニル)−2−ブテン−1−オン;
7−ヒドロキシ−3,7−ジメチル−オクタナール;
エチル−2,3−エポキシ−3−メチル−3−フェニルプロピオネート;
8−シクロヘキサデカン−1−オン;
4−(4−メチル−3−ペンテン−1−イル)−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド;
(Z)−2−(2−ペンテニル)−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン;
酢酸ジメチルベンジルカルビニル;
トリシクロデセニルアセテート;
3,7−ジメチル−6−オクテン−1−イルアセテート;
フェニルヘキサノール;
3,7−ジメチル−6−オクタナール;
4(3)−(4−メチル−3−ペンテニル)−3−シクロヘキセニルメチルアセテート;
アリルシクロヘキサンプロピオネート;
2,6−ジメチル−2−オクタノール又は3,7−ジメチル−3−オクタノール;
α−メチル−4−(2−メチルプロピル)−ベンゼンプロパナール;
(5E)−3−メチルシクロペンタデク−5−エン−1−オン;
ジメチル−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド;
1,3,3−トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オール;
2,4,4,7−テトラメチル−6,8−ノナジエン−3−オンオキシム;
2−シクロヘキシルプロパノール;
ヘキシルサリシレート;及び、
4−(1−メチルエテニル)−1−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド。
(5)エチル 2−tert−ブチルシクロヘキシルカルボネート、1−(2,3,4,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,6,8,8−テトラメチル−1H−3a,7−メタノアズレン−5−イル)−エタノン、1−(5,5−ジメチル−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン、オキサシクロヘキサデカン−2−オン、(Z)−シクロヘプタデカ−9−エン−1−オン、ドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチル−ナフト[2.1−b]フラン、p−tert−ブチルシクロヘキサノール、γ−ウンデカラクトン、β−メチル−3−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール、3,7−ジメチル−1−オクタノール、1−(2,2−ジメチル−6−メチレンシクロヘキシル)−1−ペンテン−3−オン、メチル 2−ペンチル−3−オキソシクロペント−1−イルアセテート、3,7,11−トリメチル−1,6,10−ドデカトリエン−3−オール、8−シクロヘキサデカン−1−オン、トリシクロデセニルアセテート又は3,7−ジメチル−6−オクテン−1−イルアセテートである、(4)記載の拮抗剤。
本発明によれば、従来の消臭剤や芳香剤を用いる消臭方法において生じていた即効性の低さや、芳香剤の香りに基づく不快感等の問題を生じることなく、悪臭を特異的に消臭することができる。
嗅覚受容体のスカトールに対する応答。横軸は個々の嗅覚受容体、縦軸は応答強度を示す。 種々の濃度のスカトールに対する嗅覚受容体の応答。エラーバー=±SE。 スカトール及びインドールに対する嗅覚受容体の応答。 試験物質によるスカトール臭抑制能の官能評価。n=4、エラーバー=±SE。 試験物質による悪臭抑制効果の特異性。n=3、エラーバー=±SE。
本明細書において、匂いに関する用語「マスキング」とは、目的の匂いを認識させなくするか又は認識を弱めるための手段全般を指す。「マスキング」は、化学的手段、物理的手段、生物的手段、及び感覚的手段を含み得る。例えば、マスキングとしては、目的の匂いの原因となる匂い分子を環境から除去するための任意の手段(例えば、匂い分子の吸着及び化学的分解)、目的の匂いが環境に放出されないようにするための手段(例えば、封じ込め)、香料や芳香剤などの別の匂いを添加して目的の匂いを認識しにくくする方法、等が挙げられる。
本明細書における「嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキング」とは、上述の広義の「マスキング」の一形態であって、目的の匂い分子と他の匂い分子をともに適用することにより、当該他の匂い分子によって目的の匂い分子に対する受容体応答を阻害し、結果的に個体に認識される匂いを変化させる手段である。嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキングは、同様に他の匂い分子を用いる手段であっても、芳香剤等の、目的の匂いを別の強い匂いによって打ち消す手段とは区別される。嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキングの一例は、アンタゴニスト(拮抗剤)等の嗅覚受容体の応答を阻害する物質を使用するケースである。特定の匂いをもたらす匂い分子の受容体にその応答を阻害する物質を適用すれば、当該受容体の当該匂い分子に対する応答が抑制されるため、最終的に個体に知覚される匂いを変化させることができる。
従って、一態様として、本発明は、悪臭に対する嗅覚受容体のアンタゴニスト(拮抗剤)を有効成分とする悪臭抑制剤を提供する。悪臭に対する嗅覚受容体としては、OR2W1、OR5K1、OR5P3及びOR8H1から選択される嗅覚受容体のいずれか1つが挙げられる。OR2W1、OR5K1、OR5P3及びOR8H1は、ヒト嗅細胞で発現している嗅覚受容体であり、それぞれ、GenBankに GI:169234788、GI:23592230、GI:115270955、GI:52353290として登録されている。
OR2W1は、配列番号1で示される遺伝子配列を有する遺伝子にコードされる、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
OR5K1は、配列番号3で示される遺伝子配列を有する遺伝子にコードされる、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
OR5P3は、配列番号5で示される遺伝子配列を有する遺伝子にコードされる、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
OR8H1は、配列番号7で示される遺伝子配列を有する遺伝子にコードされる、配列番号8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
上記嗅覚受容体は、図1〜3に示すとおり、スカトール、インドール等の悪臭に対して応答を示す。このスカトール、インドールは、糞便臭や口臭等として一般的に知られている匂い分子である。従って、これらの受容体の応答を抑制すれば、中枢における上記匂いの認識に変化が生じるため、スカトール、インドール等に由来する悪臭を抑制することができる。
本発明の悪臭抑制剤の有効成分であるアンタゴニストは、上記嗅覚受容体のいずれか1つに対するアンタゴニストであっても、又は複数に対するアンタゴニストであってもよい。すなわち、これらのアンタゴニストは、OR2W1、OR5K1、OR5P3及びOR8H1から選択される嗅覚受容体のいずれか1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは全ての応答を抑制することができる。このうち、OR5K1、OR5P3又はOR8H1の応答を抑制することができるものが好ましく、OR5P3を抑制することができるものがより好ましい。
上記アンタゴニストは、上記嗅覚受容体の応答を、アンタゴニストが存在しない場合と比べて80%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下に抑制することができる。
上記アンタゴニストは、OR2W1、OR5K1、OR5P3及びOR8H1から選択される嗅覚受容体の応答を抑制することで、中枢における匂いの認識に変化を生じさせ、結果として、当該嗅覚受容体によって受容される匂いを認識させなくする。すなわち、本発明によれば、嗅覚受容体アンタゴニズムに基づくマスキングにより、OR2W1、OR5K1、OR5P3及びOR8H1から選択される嗅覚受容体によって受容される匂いを抑制することができる。
従って、本発明の悪臭抑制剤によって抑制される悪臭としては、スカトール臭、インドール臭、ならびに糞便臭、口臭等のスカトール臭やインドール臭に由来する匂いが挙げられる。
本発明の悪臭抑制剤の有効成分となるアンタゴニストとしては、下記物質が挙げられる:
エチル 2−tert−ブチルシクロヘキシルカルボネート(Ethyl 2-tert-butyl cyclohexyl carbonate, Floramat (登録商標));
1−(2,3,4,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,6,8,8−テトラメチル−1H−3a,7−メタノアズレン−5−イル)−エタノン(1-(2,3,4,7,8,8a-Hexahydro-3,6,8,8-tetramethyl-1H-3a,7-methanoazulen-5-yl)-ethanone, Acetyl cedrene);
3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール(3-Methyl-5-(2,2,3-trimethyl-3-cyclopenten-1-yl)-4-penten-2-ol, Ebanol (登録商標));
1−(5,5−ジメチル−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン(1-(5,5-Dimethyl-cyclohexen-1-yl)-4-penten-1-one, Dynascone (登録商標));
1−(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール(1-(2-tert-Butylcyclohexyloxy)-2-butanol, Amber core);
オキサシクロヘキサデカン−2−オン(Oxacyclohexadecan-2-one, Pentalide);
(Z)−シクロヘプタデカ−9−エン−1−オン((Z)-Cycloheptadeca-9-en-1-one, Civettone);
ドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチル−ナフト[2.1−b]フラン(Dodecahydro-3a,6,6,9a-tetramethyl-naphtho[2.1-b]fran, Ambroxan (登録商標));
p−tert−ブチルシクロヘキサノール(p-tert-Butylcyclohexanol, 4-(1,1-Dimethylethyl)-cyclohexanol);
1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−4,6,6,7,8,8−ヘキサメチルシクロペンタ−γ−2−ベンゾピラン(1,3,4,6,7,8-Hexahydro-4,6,6,7,8,8-hexamethyl cyclopenta-γ-2-benzopyran, Galaxolide);
γ−ウンデカラクトン(γ-Undecalactone, 5-Heptyl dihydro-2(3H)-furanone);
β−メチル−3−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール(β-Methyl-3-(1-methylethyl)benzenepropanal, Florhydral (登録商標));
3,7−ジメチル−1−オクタノール(3,7-Dimethyl-1-octanol, Tetrahydro geraniol);
5−メチル−2−(1−メチルエチル)−フェノール(5-Methyl-2-(1-methylethyl)-phenol, Thymol);
1−(2,2−ジメチル−6−メチレンシクロヘキシル)−1−ペンテン−3−オン(1-(2,2-Dimethyl-6-methylen cyclohexyl)-1-penten-3-one, Methyl ionone-γ);
3−(1−エトキシ)−3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン(3-(1-Ethoxy)-3,7-dimethyl-1,6-octadiene, Acetaldehyde ethyl linalyl acetal);
4−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン(4-(2,6,6-Trimethyl-1-cyclohexen-1-yl)-3-buten-2-one, Ionone-β);
メチル 2−ペンチル−3−オキソシクロペント−1−イルアセテート(Methyl 2-pentyl-3-oxocyclopent-1-yl acetate, Methyl dihydro jasmonate);
2−メチル−4−フェニルペンタノール(2-Methyl-4-phenylpentanol, Panplefleur);
3,7,11−トリメチル−1,6,10−ドデカトリエン−3−オール(3,7,11-Trimethyl-1,6,10-dodecatrien-3-ol, Nerolidol);
7−メトキシ−3,7−ジメチル−オクタナール(7-Methoxy-3,7-dimethyl-octanal, Methoxycitronellal);
cis−3−ヘキセニルサリシレート(cis-3-Hexenyl salicylate, 3(Z)-Hexenyl-2-hydroxy benzoate);
1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−8,8−ジメチル−2−ナフトアルデヒド(1,2,3,4,5,6,7,8-Octahydro-8,8-dimethyl-2-naphthaldehyde, Cyclemone A);
2−trans−3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オール(2-trans-3,7-Dimethyl-2,6-octadien-1-ol, Geraniol);
3−(4−tert−ブチルフェニル)プロピオンアルデヒド(3-(4-tert-Butylphenyl)propionaldehyde, Bourgeonal);
p−tert−ブチル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド(p-tert-Butyl-α-methyl hydrocinnamic aldehyde, Lilial);
1−(2,6,6−トリメチル−3−シクロヘキセニル)−2−ブテン−1−オン(1-(2,6,6-Trimethyl-3-cyclohexenyl)-2-buten-1-one, δ-Damascone);
7−ヒドロキシ−3,7−ジメチル−オクタナール(7-Hydroxy-3,7-dimethyl-octanal, Hydroxy citronellal);
エチル−2,3−エポキシ−3−メチル−3−フェニルプロピオネート(Ethyl-2,3-epoxy-3-methyl-3-phenyl propionate, Ethyl methyl phenyl glycidate);
8−シクロヘキサデカン−1−オン(8-Cyclohexadecen-1-one, Globanone);
4−(4−メチル−3−ペンテン−1−イル)−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド(4-(4-Methyl-3-penten-1-yl)-3-cyclohexene-1-carboxaldehyde, Myrac aldehyde);
(Z)−2−(2−ペンテニル)−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン((Z)-2-(2-Pentenyl)-3-methyl-2-cyclopenten-1-one, cis-Jasmon);
酢酸ジメチルベンジルカルビニル(α,α-Dimethyl phenylethyl acetate);
トリシクロデセニルアセテート(Tricyclo decenyl acetate, Hexahydro-4,7-methanoinden-5(6)-yl acetate);
3,7−ジメチル−6−オクテン−1−イルアセテート(3,7-Dimethyl-6-octen-1-yl acetate, Citronellyl acetate);
フェニルヘキサノール(Phenyl hexanol, 3-Methyl-5-phenyl-1-pentanol);
3,7−ジメチル−6−オクタナール(3,7-Dimethyl-6-octenal, Citronellal);
4(3)−(4−メチル−3−ペンテニル)−3−シクロヘキセニルメチルアセテート(4(3)-(4-Methyl-3-pentenyl)-3-cyclohexenylmethyl acetate, Myraldyl acetate);
アリルシクロヘキサンプロピオネート(Allyl cyclohexane propionate);
2,6−ジメチル−2−オクタノール又は3,7−ジメチル−3−オクタノール(2,6-Dimethyl-2-octanol又は3,7-Dimethyl-3-octanol, Tetrahydro muguol);
α−メチル−4−(2−メチルプロピル)−ベンゼンプロパナール(α-Methyl-4-(2-methylpropyl)-benzenepropanal, Suzaral (登録商標));
(5E)−3−メチルシクロペンタデク−5−エン−1−オン((5E)-3-methylcyclopentadec-5-en-1-one, Muscenone-δ);
ジメチル−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド(Dimethyl-3-cyclohexene-1-carboxaldehyde, Triplal);
1,3,3−トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オール(1,3,3-Trimethyl bicyclo[2.2.1]heptan-2-ol, Fenchyl alcohol);
2,4,4,7−テトラメチル−6,8−ノナジエン−3−オンオキシム(2,4,4,7-Tetramethyl-6,8-nonadiene-3-one oxime, Labienoxime);
2−シクロヘキシルプロパノール(2-Cyclohexylpropanal, Pollenal(登録商標)II);
ヘキシルサリシレート(Hexyl salicylate, n-Hexyl-o-hydroxy benzoate);及び、
4−(1−メチルエテニル)−1−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド(4-(1-Methyl ethenyl)-1-cyclohexene-1-carboxyaldehyde, Perilla aldehyde)、
表2に示すとおり、これらの物質は、嗅覚受容体OR2W1、OR5K1、OR5P3又はOR8H1のいずれか1以上、いずれか2以上、いずれか3以上、又は全ての応答を抑制する、当該嗅覚受容体のアンタゴニストである。
上記のアンタゴニストのうち、本発明の悪臭抑制剤の有効成分として、好ましくは、エチル 2−tert−ブチルシクロヘキシルカルボネート(Floramat (登録商標))、1−(2,3,4,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,6,8,8−テトラメチル−1H−3a,7−メタノアズレン−5−イル)−エタノン(Acetyl cedrene)、1−(5,5−ジメチル−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン(Dynascone (登録商標))、オキサシクロヘキサデカン−2−オン(Pentalide)、(Z)−シクロヘプタデカ−9−エン−1−オン(Civettone)、ドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチル−ナフト[2.1−b]フラン(Ambroxan (登録商標))、p−tert−ブチルシクロヘキサノール、γ−ウンデカラクトン、β−メチル−3−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール(Florhydral (登録商標))、3,7−ジメチル−1−オクタノール(Tetrahydro geraniol)、1−(2,2−ジメチル−6−メチレンシクロヘキシル)−1−ペンテン−3−オン(Methyl ionone-γ)、メチル 2−ペンチル−3−オキソシクロペント−1−イルアセテート(Methyl dihydro jasmonate)、3,7,11−トリメチル−1,6,10−ドデカトリエン−3−オール(Nerolidol)、8−シクロヘキサデカン−1−オン(Globanone)、トリシクロデセニルアセテート及び、3,7−ジメチル−6−オクテン−1−イルアセテート(Citronellyl acetate)が挙げられる。
上記のアンタゴニストは、市販のものを購入することができる(「合成香料 化学と商品知識」増補改訂版、印藤元一著、化学工業日報社、2005年3月発行を参照)。例えば、Firmenich S. A.、Givaudan S. A.、IFF Inc.、高砂香料工業株式会社、花王株式会社等から入手することが可能である。
本発明の悪臭抑制剤の有効成分は、上記アンタゴニストのいずれか1つ以上であればよい。すなわち、本発明の悪臭抑制剤は、上記アンタゴニストのいずれかを単独又は2つ以上の組み合わせとして含有する。好ましくは、本発明の悪臭抑制剤は、上記アンタゴニストのいずれかの単独又は2つ以上の組み合わせから本質的に構成される。
別の態様として、本発明は、悪臭と、悪臭に対する嗅覚受容体のアンタゴニストとを共存させる工程を含む悪臭抑制方法を提供する。当該方法においては、悪臭の認識の阻害を必要とする個体、好ましくは嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキングによる悪臭の認識の阻害を必要とする個体に、当該悪臭に対する受容体のアンタゴニストを適用して、当該悪臭と当該アンタゴニストとを共存させる。それによって、当該悪臭受容体とアンタゴニストが結合して、当該受容体の応答が抑制されるので、嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキングが生じ、悪臭が抑制される。
本発明の方法において、個体は哺乳類であれば特に限定されないが、好ましくはヒトである。抑制される悪臭、嗅覚受容体、及び使用されるアンタゴニストのタイプは、上述の悪臭抑制剤の場合と同様である。
上記アンタゴニストは、上記嗅覚受容体のいずれか1の応答抑制に基づく嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキングによる悪臭抑制のために使用することができ、またそうした悪臭抑制のための化合物又は組成物の製造のために使用することができる。当該悪臭抑制用化合物又は組成物は、上記アンタゴニストに加えて、他の消臭効果を有する成分、又は消臭剤や防臭剤に使用される任意の成分、例えば、香料、粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、植物抽出物、漢方成分、高級アルコール類、低級アルコール類、エステル類、長鎖脂肪酸、界面活性剤(非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等)、ステロール類、多価アルコール類、保湿剤、水溶性高分子化合物、増粘剤、皮膜剤、殺菌剤、防腐剤、紫外線吸収剤、保留剤、冷感剤、温感剤、刺激剤、金属イオン封鎖剤、糖分、アミノ酸類、有機アミン類、合成樹脂エマルジョン、pH調製剤、酸化防止剤、酸化防止助剤、油分、粉体、カプセル類、キレート剤、無機塩、有機塩色素、増粘剤、殺菌剤、防腐剤、防カビ剤、着色剤、消泡剤、増量剤、変調剤、有機酸、ポリマー、ポリマー分散剤、酵素、酵素安定剤等を、その目的に応じて適宜含有していてもよい。
上記悪臭抑制用化合物又は組成物に含有され得る消臭効果を有する他の成分としては、公知の消臭剤が何れも使用できるが、例えば、植物の葉、葉柄、実、茎、根、樹皮等の各部位から抽出された消臭有効成分(例えば、緑茶抽出物);乳酸、グルコン酸、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸等の有機酸、各種アミノ酸およびこれらの塩、グリオキサール、酸化剤、フラボノイド類、カテキン類、ポリフェノール類;活性炭、ゼオライトなどの多孔性物質;シクロデキストリン類などの包接剤;光触媒;各種マスキング剤、等が挙げられる。
下記実施例に示すとおり、上記アンタゴニストは、OR5P3、OR2W1、OR5K1及びOR8H1から選択される嗅覚受容体の匂い分子に対する応答を抑制する。当該アンタゴニストを使用すれば、当該嗅覚受容体によって感受する匂い分子に由来する匂い、例えばスカトール臭、インドール臭、及びそれらに由来する匂いである糞便臭、口臭等を、嗅覚受容体アンタゴニズムによるマスキングによって、匂い特異的に抑制することが可能となる。
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
実施例1 悪臭に応答する嗅覚受容体の同定
(1)ヒト嗅覚受容体遺伝子のクローニング
ヒト嗅覚受容体はGenBankに登録されている配列情報を基に、human genomic DNA female (G1521:Promega)を鋳型としたPCR法によりクローニングした。PCR法により増幅した各遺伝子をpENTRベクター(Invitrogen)にマニュアルに従って組込み、pENTRベクター上に存在するNot I、Asc Iサイトを利用して、pME18Sベクター上のFlag-Rhoタグ配列の下流に作成したNot I、Asc Iサイトへと組換えた。
(2)pME18S-RTP1Sベクターの作製
ヒトRTP1Sはhuman RTP1遺伝子(MHS1010-9205862:Open Biosystems)を鋳型としたPCR法によりクローニングした。PCRに用いるプライマーには、センス側にEcoR I、アンチセンス側にXho Iサイトを付加した。PCR法により増幅したhRTP1S遺伝子(配列番号9)をpME18SベクターのEcoR I、Xho Iサイトへ組込んだ。
同様の手順で、hRTP1S遺伝子(配列番号9)の代わりに、RTP1S変異体(配列番号12)をコードするRTP1S変異体遺伝子(配列番号11)をpME18SベクターのEcoR I、Xho Iサイトへ組込んだ。
(3)嗅覚受容体発現細胞の作製
ヒト嗅覚受容体369種をそれぞれ発現させたHEK293細胞を作製した。表1に示す組成の反応液を調製しクリーンベンチ内で15分静置した後、96ウェルプレート(BD)の各ウェルに添加した。次いで、HEK293細胞(3×105細胞/cm2)を100μlずつ各ウェルに播種し、37℃、5%CO2を保持したインキュベータ内で24時間培養した。
(4)ルシフェラーゼアッセイ
HEK293細胞に発現させた嗅覚受容体は、細胞内在性のGαsと共役しアデニル酸シクラーゼを活性化することで、細胞内cAMP量を増加させる。本研究での匂い応答測定には、細胞内cAMP量の増加をホタルルシフェラーゼ遺伝子(fluc2P-CRE-hygro)由来の発光値としてモニターするルシフェラーゼレポータージーンアッセイを用いた。また、CMVプロモータ下流にウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を融合させたもの(hRluc-CMV)を同時に遺伝子導入し、遺伝子導入効率や細胞数の誤差を補正する内部標準として用いた。
上記(3)で作製した培養物から、培地をピペットマンで取り除き、CD293培地(Invitrogen)で調製した匂い物質(スカトール1mM)を含む溶液75μlを各ウェルに添加した。細胞をCO2インキュベータ内で4時間培養し、ルシフェラーゼ遺伝子を細胞内で十分に発現させた。ルシフェラーゼの活性測定には、Dual-GloTM luciferase assay system(promega)を用い、製品の操作マニュアルに従って測定を行った。匂い物質刺激により誘導されたホタルルシフェラーゼ由来の発光値を、匂い物質刺激を行わない細胞での発光値で割った値をfold increaseとして算出し、応答強度の指標とした。
(5)結果
OR2W1、OR5K1、OR5P3及びOR8H1の4種類の嗅覚受容体がスカトールに対して応答を示した(図1)。これらはいずれも、スカトールに応答することが報告されていない新規のスカトール受容体である。
実施例2 スカトール受容体の濃度依存性応答
実施例1と同様の手順で、嗅覚受容体OR2W1(配列番号2)、OR5K1(配列番号4)、OR5P3(配列番号6)及びOR8H1(配列番号8)をそれぞれRTP1S変異体(配列番号12)と共にHEK293細胞に発現させ、それらのスカトール(0、3、10、30、100、300、及び1000μM)に対する応答を調べた。その結果、いずれの嗅覚受容体もスカトールに対し濃度依存的な応答を示した(図2)。
実施例3 受容体のスカトール及びインドール応答性
実施例2と同様の手順で、スカトール及びインドール(各々0、3、10、30、100、300、及び1000μM)に対する上記嗅覚受容体の応答を調べた。その結果、これらの受容体は、スカトールだけでなくインドールにも応答する傾向が見られた(図3)。
実施例4 悪臭受容体アンタゴニストの同定
実施例1で同定されたスカトール受容体を対象としてアンタゴニストの探索を行った。
実施例2と同様の手順でHEK293細胞にそれぞれ発現させたOR2W1、OR5K1、OR5P3、及びOR8H1に対して、300μMスカトール刺激下で121種類の試験物質(100μM)を適用し、嗅覚受容体のスカトール応答を抑制するアンタゴニストの探索を行った。
試験物質による受容体応答の阻害率は、以下のとおり算出した。スカトール単独での匂い刺激により誘導されたホタルルシフェラーゼ由来の発光値(X)を、同じ受容体を導入しスカトール刺激を行わなかった細胞での発光値(Y)で引き算し、スカトール単独刺激による受容体活性(X−Y)を求めた。同様に、スカトールと試験物質との混合物での刺激による発光値(Z)を、スカトール刺激を行わない細胞での発光値(Y)で引き算し、試験物質添加時の受容体活性(Z−Y)を求めた。以下の計算式により、スカトール単独刺激による受容体活性(X−Y)に対する試験物質添加時の受容体活性(Z−Y)の低下率を算出し、試験物質による受容体活性阻害率を求めた。測定では、独立した実験を二連で複数回行い、各回の実験の平均値を得た。

阻害率(%)={1−(Z−Y)/(X−Y)}×100

結果、表2に示すように、OR2W1では42種類、OR5K1では38種類、OR5P3では42種類、OR8H1では43種類のアンタゴニストが見出された。
実施例5 悪臭抑制能の官能評価試験
実施例4で同定したアンタゴニストの悪臭抑制能を、官能試験によって確認した。
ガラス瓶(柏洋硝子No.11、容量110ml)に綿球を入れ、悪臭としてプロピレングリコールで100000倍に希釈したスカトール、及び試験物質を綿球に20μl滴下した。ガラス瓶を一晩室温で静置し、匂い分子をガラス瓶中に十分揮発させた。官能評価試験はパネラー4名で行い、悪臭を単独で滴下した場合の匂いの強さを5とし、試験物質を混合した場合の悪臭の強さを0から10(0.5刻み)の20段階で評価した。
用いた試験物質は、以下のとおりである:
1−(2,3,4,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,6,8,8−テトラメチル−1H−3a,7−メタノアズレン−5−イル)−エタノン(アセチルセドレン);
エチル 2−tert−ブチルシクロヘキシルカルボネート(フロラマット(登録商標));
オキサシクロヘキサデカン−2−オン(ペンタライド);
(Z)−シクロヘプタデカ−9−エン−1−オン(シベトン);
ドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチル−ナフト[2.1−b]フラン(アンブロキサン(登録商標));
1−(5,5−ジメチル−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン(ダイナスコン(登録商標));
p−tert−ブチルシクロヘキサノール;
γ−ウンデカラクトン;
β−メチル−3−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール(フロルヒドラール(登録商標));
3,7−ジメチル−1−オクタノール(テトラヒドロゲラニオール);
1−(2,2−ジメチル−6−メチレンシクロヘキシル)−1−ペンテン−3−オン(γ−メチルヨノン);
3,7,11−トリメチル−1,6,10−ドデカトリエン−3−オール(ネロリドール);
3,7−ジメチル−6−オクテン−1−イルアセテート(シトロネリルアセテート);
8−シクロヘキサデカン−1−オン(グロバノン);及び、
トリシクロデセニルアセテート。
結果を図4に示す。OR2W1、OR5K1、OR5P3又はOR8H1に対するアンタゴニストの存在下でスカトール臭が抑制されることが明らかとなった。
実施例6 悪臭抑制効果の特異性
実施例4で同定した受容体応答阻害活性を有する試験物質による悪臭抑制の特異性を調べるため、スカトールと構造の異なる悪臭であるヘキサン酸を用いて、同様の官能試験を行った。実験では、悪臭としてプロピレングリコールで100倍に希釈したヘキサン酸を用い、試験物質としてプロピレングリコールで100倍に希釈したメチルジヒドロジャスモネートを用いた。
試験の結果、メチルジヒドロジャスモネートによってスカトール臭は抑制された一方、ヘキサン酸の匂いは抑制されなかった(図5)。従って、アンタゴニストによる悪臭抑制効果は匂い特異的であることが示された。

Claims (2)

  1. γ−ウンデカラクトンを有効成分とする、スカトール臭又はインドール臭の抑制剤。
  2. γ−ウンデカラクトンを有効成分とする、OR5P3、OR2W1、OR5K1及びOR8H1から選択される嗅覚受容体のいずれか1に対する受容体拮抗剤。
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