JP5971966B2 - Tdp−43の凝集体が蓄積する疾患の発症リスクを予測する方法、診断薬及び治療薬 - Google Patents

Tdp−43の凝集体が蓄積する疾患の発症リスクを予測する方法、診断薬及び治療薬 Download PDF

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Description

本発明は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の発症リスクを予測する方法に関する。また、本発明は、ミスフォールドしたTDP-43に対する抗体の産生を刺激又は増強するためのペプチド及びDNA、並びに該ペプチド又はDNAを含む医薬組成物に関する。更に、本発明は、ミスフォールドしたTDP-43に対する抗体又は抗体断片、該抗体又は抗体断片を含む診断薬、診断用キット及び医薬組成物、並びに該抗体又は抗体断片を利用した化合物のスクリーニング方法に関する。
認知症において2番目の有病率を有する前頭側頭葉変性症(FTLD)と最難治性神経難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因タンパク質として核タンパク質であるTDP-43 (TAR DNA-binding protein of 43kDa)が同定されている。TDP-43はFTLDやALSにおいて核から脱出し、細胞質内で病的凝集体を形成するがその機序は不明である。
TDP-43は、FTLDとALSにおけるユビキチン化封入体において非常に高率に認められることが判明している。現在TDP-43の異常病理所見を呈する疾患は、TDP-43プロテイノパチーという疾患群と位置づけられ、各種の報告からTDP-43の機能異常がALS病態の本質である可能性が高まっている。
このようにTDP-43の生理的・病理的機能を解明することはALSの克服に繋がる可能性があり、世界中で精力的な研究が進められている。TDP-43プロテイノパチーの最も明確且つ重要な病理所見は、TDP-43の核染色性の低下と細胞質での封入体形成である。この異所性局在の機能解明はALSの病態理解に不可欠である。
TDP-43の分子構造は、図1に示されているように2ヶ所のRNA結合領域(RRM)とC末端のグリシンリッチ領域、核移行シグナル(NLS)、及び核外輸送シグナル(NES)を有する。
TDP-43は全ての体細胞に恒常的に発現しており、主に核に局在する。FTLD及びALSにおいても正常組織では例外なく核に局在することから、TDP-43の異所性局在が病態に及ぼす影響が注目されてきた。TDP-43陽性細胞封入体は高頻度に断片的且つリン酸化されたTDP-43を含んでいる。
TDP-43の封入体形成に関連すると想定される異所性局在後の分解経路は次の通りである。TDP-43は恒常的にポリユビキチン化され、プロテアソームとオートファゴソームによって分解されているが、ミスフォールドしたTDP-43の分解はプロテアソームが担当する。プロテアソーム機能低下状態は何らかの機序を介してTDP-43の核移行を阻害し、一部のミスフォールドした細胞質TDP-43から断片化が生じる。そして、プロテアソーム機能低下に加えてオートファジーの機能低下が加わると、凝集体形成を促進するというものである。
また、FTLD及びALS以外にもTDP-43の異所性局在を呈する疾患として、低悪性度グリオーマ、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、パーキンソン病、レビー小体病、大脳皮質基底核変性症、封入体筋炎、B細胞リンパ腫(M期)等が報告されている。
非特許文献1では、TDP-43のカスパーゼ認識部位を認識する抗体が、病的なTDP-43の凝集体を認識することが報告されているが、カスパーゼが作用するのは凝集が起こり始めてからであり、早期診断や治療への適用は困難である。
また、非特許文献2ではリン酸化TDP-43抗体が開発されたことが報告されており、リン酸化TDP-43は病的なTDP-43の封入体を認識する信頼性の高いマーカーとなっている。しかしながら、TDP-43のリン酸化はALSやFTLD発症において後期の現象であると考えられており、早期診断、治療法開発には適さないと理解されている。
非特許文献3には、SOD1 (Cu/Zn-superoxide dismutase)遺伝子変異を有するALS患者における運動ニューロン変性のメカニズムとして、SOD1のミスフォールディングが明らかになっており、SOD1の単量体ミスフォールド形態を特異的に認識する抗体が作製されたこと、当該抗体は二量体であるSOD1がアミノ酸変異によってミスフォールドし、疎水性の二量体の接合面が曝されているSOD1だけを認識することが記載されている。
Zhang, Y. J. et al. (2009). Aberrant cleavage of TDP-43 enhances aggregation and cellular toxicity. Proceedings of the National Academyof Sciences of the United States of America, 106(18), 7607-7612. Hasegawa, M. et al. (2008). Phosphorylated TDP-43 in frontotemporal lobar degeneration and amyotrophic lateral sclerosis. Ann Neurol, 64(1), 60-70. Rakhit, R. et al. (2007). An immunological epitope selective for pathological monomer-misfolded SOD1 in ALS. Nat Med, 13(6), 754-759.
前述するように、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患について早期診断や治療を可能にする方法の開発が望まれている。
そこで、本発明は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の発症リスクを予測する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、ミスフォールドしたTDP-43に対する抗体の産生を刺激又は増強するためのペプチド及びDNA、並びに該ペプチド又はDNAを含む医薬組成物を提供することを目的とする。更に、本発明は、ミスフォールドしたTDP-43に対する抗体又は抗体断片、該抗体又は抗体断片を含む診断薬、診断用キット及び医薬組成物、並びに該抗体又は抗体断片を利用した診断用及び治療用の化合物のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、TDP-43のRNA結合部位RRM2において246番目のグルタミン酸(E246)と247番目のアスパラギン酸(D247)がその構造維持に重要であることを見出した。そして、E246及びD247を標的とすることにより、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の早期診断や治療が可能になり得るという知見を得た。
本発明は、これら知見に基づき、完成されたものであり、次の発症リスクの予測方法、ペプチド、DNA、抗体又は抗体断片、及び化合物のスクリーニング方法を提供するものである。
(I) 発症リスクの予測方法
(I-1) 被験対象のTDP-43の凝集体が蓄積する疾患(好ましくは、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の発症リスクを予測する方法であって、
該被験対象の生体試料において、TDP-43の部分アミノ酸配列であって、246位及び/又は247位に対応するアミノ酸残基を含む20残基以内のアミノ酸配列からなるペプチドを検出する工程を含む、方法。
(I-2) 前記ペプチドに結合する抗体又は抗体断片により前記ペプチドの検出を行うことを特徴とする、(I-1)に記載の方法。
(I-3) 前記抗体断片が、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv又はscFvである、(I-2)に記載の方法。
(II) ペプチド、DNA
(II-1) TDP-43の部分アミノ酸配列であって246位及び/又は247位に対応するアミノ酸残基を含む20残基以内のアミノ酸配列からなるペプチド。
(II-2) (II-1)に記載のペプチドをコードするDNA。
(II-3) (II-1)に記載のペプチド又は(II-2)に記載のDNAを含む、ミスフォールドしたTDP-43に対する抗体の産生を刺激又は増強するための医薬組成物。
(II-4) ワクチンである(II-3)に記載の組成物。
(II-5) TDP-43の凝集体が蓄積する疾患(好ましくは、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の治療用及び/又は予防用である、(II-3)に記載の組成物。
(III) 抗体又は抗体断片
(III-1) TDP-43の部分アミノ酸配列であって、246位及び/又は247位に対応するアミノ酸残基を含む20残基以内のアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗体又は抗体断片。
(III-2) Fab、Fab'、F(ab')2、Fv又はscFvである、(III-1)に記載の抗体断片。
(III-3) (III-1)又は(III-2)に記載の抗体又は抗体断片を含むTDP-43の凝集体が蓄積する疾患(好ましくは、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の診断薬。
(III-4) (III-1)又は(III-2)に記載の抗体又は抗体断片を含むTDP-43の凝集体が蓄積する疾患(好ましくは、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の診断用キット。
(III-5) (III-1)又は(III-2)に記載の抗体又は抗体断片を含む医薬組成物。
(III-6) TDP-43の凝集体が蓄積する疾患(好ましくは、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の治療用及び/又は予防用である、(III-5)に記載の組成物。
(IV) 化合物のスクリーニング方法
(IV-1) 以下の工程を含む、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患(好ましくは、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1)ミスフォールドしたTDP-43又はTDP-43のRRM2部分に、(III-1)に記載の抗体又は抗体断片と候補となる化合物を接触させる工程、
(2)該化合物の結合阻害活性を検出する工程、及び
(3)該抗体又は抗体断片の結合を阻害する化合物を選択する工程。
(IV-2) 以下の工程を含む、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患(好ましくは、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の診断用の化合物のスクリーニング方法:
(1)ミスフォールドしたTDP-43又はTDP-43のRRM2部分に、(III-1)に記載の抗体又は抗体断片と候補となる化合物を接触させる工程、
(2)該化合物の結合阻害活性を検出する工程、及び
(3)該抗体又は抗体断片の結合を阻害する化合物を選択する工程。
(IV-3) 前記抗体断片が、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv又はscFvである、(IV-1)又は(IV-2)に記載の方法。
本発明の方法によれば、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患(特に、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の発症リスクを予測することが可能となり得る。
また、本発明のペプチド又はDNAは、TDP-43の凝集体形成前の病的状態に対する抗体の産生を刺激又は増強し得ることから、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療及び予防への適用が期待される。
更に、本発明の抗体又は抗体断片によりTDP-43の凝集体形成前の病的状態を検出することが可能となることから、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の早期診断や治療及び予防への適用が期待される。また、本発明の抗体又は抗体断片は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の診断用及び治療用の化合物のスクリーニング方法への適用も期待される。
TDP-43の分子構造を示す図である。 RRM2ドメインタンパク質(WT、E246Q/D247N (QN)、E246G/D247G (GG))について各処理(4℃ 24hr、37℃ 24hr、70℃ 20 min、Agitation RT 24hr)を行った後のPFO-PAGE 16%TG(CBB染色)(左)とSDS-PAGE 16%(CBB染色、ウェスタンブロッティング)(右)の結果を示す写真である。 HPLCによるフラクションごとのRRM2タンパク量の検出結果(吸光度215 nm)を示すグラフである。WT-4:WT 4℃、WT-70:WT 70℃、QN-4:QN 4℃、QN-70:QN 70℃ HPLCによるフラクションごとのRRM2タンパク量(GG)の検出結果(吸光度215 nm)を示すグラフである。GG-4:GG 4℃、GG-70:GG 70℃ チオフラビンT(ThT)アッセイ法によって求めた(対照に対する)ThT比を示すグラフである。Ab:アミロイドβ、RT:room temperature、agi:agitation *:p<0.05 震盪刺激を与えない対照実験におけるアミロイドβの吸光度に比し、#:p<0.05 震盪刺激を与えない常温下の野生型RRM2 (RRM2 WT RT)に比し HPLCによるフラクションごとのRRM2タンパク量(E246G、D247G)の検出結果(吸光度215 nm)を示すグラフである。左:4℃、右:70℃ RRM2ドメインタンパク質(WT、E246G、D247G、GG、QN)についてのPFO PAGE 16% Tris-Glycine(左)とSDS-PAGE(右)の結果を示す写真である。DTT:ジチオスレイトール HPLCによるフラクションごとのRRM2タンパク(WT)とチミン-グアニン12回繰り返し核酸(TG12)を結合させた後の検出結果(吸光度215 nm、254 nm)を示すグラフである。 HPLCによるフラクションごとのRRM2タンパク(QN)とTG12を結合させた後の検出結果(左)、RRM2タンパク(GG)とTG12を結合させた後の検出結果(右)(吸光度215 nm、254 nm)を示すグラフである。 vector、WT、del RRM2、RRM2 GG、RRM2 QNについてのスプライス効率を示すグラフである。 全長TDP-43の野生型、NLS-LQ、RRM2欠失変異体、E246G、D247G、GG変異体、QN変異体の遺伝子の構成を示す図である。 RRM2ドメインについて欠失(ΔRRM2)や変異(QN, D247G、GG)を加えたTDP-43-EGFPを培養細胞(SHSY-5Y)に一過性過剰発現させた共焦点顕微鏡の写真(上)、TDP-43の核内封入体の平均サイズを示すグラフ(左下)、細胞当たりの核内封入体数を示すグラフ(右下)である。*p<0.05、野生型TDP-43に比し 抗TDP-43抗体と抗EGFP抗体を用いた細胞ライセートの上清と沈殿のウェスタンブロッティングの結果を示す写真(左)、溶解性の全長TDP43に対する不溶性の全長TDP-43の比率を示すグラフ(右)である。*p<0.05、野生型全長TDP-43 (WT)に比し 孤発性ALS患者の脊髄の切片をハイブリドーマ(3B12A)培養上清及び抗TDP-43抗体にて免疫組織化学的に染色した結果を示す写真である。a:3B12A、b:抗TDP-43抗体、c:3B12A b,cは連続切片である。 3B12Aクローンの各種タンパク質に対する結合を調べるためのELISAの結果を示すグラフである。 SHSY-5Y細胞にヒト全長野生型TDP-43-EGFP(カルボキシル末端)を遺伝子導入し、3B12A抗体で免疫細胞染色をした後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。 SHSY-5Y細胞にヒト全長野生型TDP-43-EGFP(カルボキシル末端)を遺伝子導入し、3B12A抗体で免疫細胞染色をした後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。 SHSY-5Y細胞にヒト全長TDP-43-EGFP(LQ変異体(上)又はRRM2欠失変異体(下))を遺伝子導入し、3B12A抗体で免疫細胞染色をした後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。RRM2欠失変異体はEGFPで発光するが3B12A抗体は認識しない(ブランク矢印)。 SHSY-5Y細胞にヒト全長TDP-43-EGFP(LQ変異体)を遺伝子導入し、抗ユビキチン抗体(上)又は抗リン酸化TDP-43抗体(下)で免疫細胞染色をした後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。 SHSY-5Y細胞にヒト全長TDP-43-EGFP(突然変異体A315T)を遺伝子導入し、3B12A抗体で免疫細胞染色をした後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。白矢印はA315T変異を有するTDP-43である。 SHSY-5Y細胞にヒト全長TDP-43-EGFP(突然変異体Q331K)を遺伝子導入し、3B12A抗体で免疫細胞染色をした後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。 3B12Aハイブリドーマをヌードマウス腹腔内接種し、採取した腹水からプロテインG精製した抗体を用いて、ALS患者脊髄の免疫組織化学染色した結果を示す写真である。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるTDP-43の凝集体が蓄積する疾患としては、これらに限定されるものではないが、例えば、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、低悪性度グリオーマ、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、パーキンソン病、レビー小体病、大脳皮質基底核変性症、封入体筋炎、B細胞リンパ腫(M期)等が挙げられる。
TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の発症リスクを予測する方法
本発明の被験対象のTDP-43の凝集体が蓄積する疾患(特に、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の発症リスクを予測する方法は、該被験対象の生体試料において、TDP-43の部分アミノ酸配列であって、246位及び/又は247位に対応するアミノ酸残基を含む20残基以内のアミノ酸配列からなるペプチドを検出する工程を含むことを特徴とする。
本発明における被験対象は、哺乳動物(ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、マウス、ラット等)であり、特にヒトである。生体試料は、被験対象から単離された細胞、組織、体液等であり、好ましくは脳、脊髄等である。
「TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の発症リスク」とは、被験対象が未だTDP-43の凝集体が蓄積する疾患を発症していないが、将来的にこれらの疾患を発症する可能性が存在することを意味する。
TDP-43は414アミノ酸からなるタンパク質であり、一次構造はヘテロリボ核タンパク質(hnRNA)ファミリーと高い相同性を有している。TDP-43は2つの高く保存されたRNA認識モチーフ(RRM1、RRM2)を有し、C末端にはグリシンリッチ領域を含んでおり、このグリシンリッチ領域はhnRNPファミリーのメンバーと結合する。
TDP-43タンパク質のアミノ酸配列は、GenBank Accession No.NP_031401として登録され、配列番号1に示されている。また、TDP-43タンパク質をコードする遺伝子は、GenBank Accession No.NM_007375.3として登録され、cDNAは配列番号2に示されている。
本発明におけるTDP-43としては、上記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するものであれば、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質の変異体であっても良い。
本発明の「246位及び/又は247位に対応するアミノ酸残基」とは、基本的には配列番号1で示されるアミノ酸配列の246位(グルタミン酸)及び/又は247位(アスパラギン酸)に対応するアミノ酸残基であるが、他のアミノ酸配列を有するTDP-43については同様の位置が該当する。
本発明において検出する対象は、TDP-43の部分アミノ酸配列であって、246位及び/又は247位に対応するアミノ酸残基を含む20残基以内のアミノ酸配列からなるペプチドである。ここで、検出対象となるペプチドは、TDP-43の一部分の状態のもの、及び当該ペプチドのみからなるものの両方を含む。
TDP-43の246位と247位に対応するアミノ酸残基は、構造維持に非常に重要で、疾患や変異によって構造変化が起こり、抗体と結合しやすい構造になるが、天然状態では、抗体と結合しにくい構造をとっていると考えられる。そのため、これらのアミノ酸残基を検出することにより、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の発症リスクを予測することが可能になり得る。
本発明における上記ペプチドを検出する方法としては、上記ペプチド検出することができる方法であれば特に限定されないが、好ましくは、上記ペプチドに結合する抗体又は抗体断片を使用することが挙げられる。
上記ペプチドに結合する抗体又は抗体断片は、公知の方法に従って取得することが可能であり、抗体はモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれでも良く、またヒト化されたキメラ抗体であっても良い。抗体断片としてはFab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv等が挙げられ、抗体又は抗体断片は蛍光色素等により修飾されていても良い。当該抗体又は抗体断片は、ELISA法、ウェスタンブロッティング法、プロテインチップによる解析法等に使用することで上記ペプチドを検出することができる。
本発明において、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の発症リスクの予測は、被験対象の生体試料と正常試料の上記ペプチドの検出量の対比により行うことができる。正常試料の上記ペプチドの検出量とはTDP-43の凝集体が蓄積する疾患に罹患していない個体の上記ペプチドの検出量である。正常試料の発現レベルは過去に得られたデータから標準化されたものであっても良い。
本発明において、被験対象の生体試料の上記ペプチドの検出量が、正常試料の検出量と比較して上昇していた場合に、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の発症リスクが高いとの判定を行うことができる。
ペプチド、DNA
本発明のペプチドは、TDP-43の部分アミノ酸配列であって246位及び/又は247位に対応するアミノ酸残基を含む20残基以内のアミノ酸配列からなることを特徴とし、本発明のDNAは、該ペプチドをコードすることを特徴とする。
上記ペプチドについては、前述するものと同様である。
本発明の医薬組成物は、ヒトを含む哺乳動物に投与されるものであって、上記ペプチド又は上記DNAを含むことを特徴とし、ミスフォールドしたTDP-43に対する抗体の産生を刺激又は増強し得る。E246/D247はTDP-43の構造維持に重要で、疾患や変異によって構造変化が起こり、抗体と結合しやすい構造になるが、天然状態では、抗体と結合しにくい構造をとっていると考えられる。そのため、本発明の医薬組成物は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患(特に、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の予防の効果を有するワクチンとして機能し得る。また、本発明の医薬組成物は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患(特に、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の治療及び/又は予防の効果を有し得る。
本発明の医薬組成物は、その使用形態に応じて、生物学的に許容される担体、賦形剤等を任意に含有できる。本発明の医薬組成物は、常套手段に従って製造することができる。例えば、必要に応じて糖衣や腸溶性被膜を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等として経口的に、軟膏、硬膏等の外用剤、噴霧剤、吸入剤等として経皮的、経鼻的又は経気管的に、水又はそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、懸濁液剤等の注射剤の形で非経口的に使用できる。
また、本発明の医薬組成物は、細胞又は組織内で上記ペプチドを発現させることができるDNAを使用した非ウイルスベクター又はウイルスベクターを含むものであっても良い。非ウイルスベクターによる投与方法としては、リポソームを用いてDNAを導入する方法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃でキャリアとともにDNAを細胞に移入する方法等が挙げられる。ウイルスベクターを用いて投与する方法としては、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターを利用する方法が挙げられ、上記ペプチドを発現するベクターを無毒化したアデノウイルス、レトロウイルス等に導入し、細胞又は組織にこのウィルスを感染させることにより細胞又は組織内に遺伝子を導入することができる。
本発明の医薬組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定できる。
抗体又は抗体断片
本発明の抗体又は抗体断片は、TDP-43の部分アミノ酸配列であって、246位及び/又は247位に対応するアミノ酸残基を含む20残基以内のアミノ酸配列からなるペプチドに結合することを特徴とする。
上記ペプチドについては、前述するものと同様である。ここで、結合の対象となるペプチドは、TDP-43の一部分の状態のもの、及び当該ペプチドのみからなるものの両方を含む。
本発明の診断薬及び診断用キットは、上記抗体又は抗体断片を含むことを特徴とし、ミスフォールドしたTDP-43を検出することが可能である。そのため、本発明の診断薬及び診断用キットにより、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患(特に、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の診断が可能となり得る。
上記抗体又は抗体断片は、公知の方法に従って取得することが可能であり、例えば、実施例に記載の方法により取得することができる。また、上記抗体はモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれでも良く、またヒト化されたキメラ抗体であっても良い。抗体断片としてはFab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv等が挙げられ、抗体又は抗体断片は蛍光色素等により修飾されていても良い。当該抗体又は抗体断片は、ELISA法、ウェスタンブロッティング法、プロテインチップによる解析法等に使用することで上記ペプチドを検出することができる。
上記診断薬又は診断用キットを使用して、前述するのと同様な方法で、被験対象の生体試料における、上記ペプチドを検出し、正常試料との検出量の比較を行い、検出量が上昇していた場合に、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患(特に、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の発症リスクが高いと判定することができる。
本発明の医薬組成物は、ヒトを含む哺乳動物に投与されるものであって、上記抗体又は抗体断片を含むことを特徴とし、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患(特に、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の治療及び/又は予防の効果を有し得る。これは、TDP-43の246位と247位に対応するアミノ酸残基は、構造維持に重要であるため、疾患や変異によって構造変化が起こり、抗体と結合しやすい構造になるためと考えられる。
本発明の医薬組成物は、その使用形態に応じて、生物学的に許容される担体、賦形剤等を任意に含有できる。本発明の医薬組成物は、常套手段に従って製造することができる。例えば、必要に応じて糖衣や腸溶性被膜を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等として経口的に、軟膏、硬膏等の外用剤、噴霧剤、吸入剤等として経皮的、経鼻的又は経気管的に、水又はそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、懸濁液剤等の注射剤の形で非経口的に使用できる。
本発明の医薬組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定できる。
化合物のスクリーニング方法
本発明の化合物のスクリーニング方法は以下の工程を含むことを特徴とする:
(1)ミスフォールドしたTDP-43又はTDP-43のRRM2部分に、上記の抗体又は抗体断片と候補となる化合物を接触させる工程、
(2)該化合物の結合阻害活性を検出する工程、及び
(3)該抗体又は抗体断片の結合を阻害する化合物を選択する工程。
上記方法により選択される、ミスフォールドしたTDP-43又はTDP-43のRRM2部分への上記の抗体又は抗体断片の結合を阻害する化合物は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患(特に、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症の治療)及び/又は予防、並びにTDP-43の凝集体が蓄積する疾患(特に、筋萎縮性側索硬化症又は前頭側頭型認知症)の診断に有効であり得る。
候補となる化合物は、特に制限なく使用することができるが、例えば、低分子化合物、高分子化合物、生体高分子(タンパク質、核酸、多糖類等)等が挙げられ、このような化合物を含む種々の化合物ライブラリーを使用することができる。
候補となる化合物の存在により、上記の抗体又は抗体断片の結合が、10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上低下した場合、当該化合物をTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療及び/又は予防、並びにTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の診断に有効なものとして選択できる。結合阻害活性の測定方法としては、特に制限なく使用できるが、例えば、ELISA法が挙げられる。
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
以下の試験例における材料、試薬及び実験方法は特に記載しない限り次の通りとした。
(ヒトTDP-43全長及び部分配列のタンパク質発現コンストラクト)
ヒト胎児腎臓(HEK293)細胞のメッセンジャーRNAから生成したcDNAを鋳型にして、常法によるPCR法で全長TDP-43の翻訳配列(ORF)に該当する核酸をクローニングした。更に、BamHI/XhoI、又はXhoI/BamHIの制限酵素配列を含むプライマーを用いてPCRで増幅させ、大腸菌タンパク発現ベクターpGEX6p-1(GE ヘルスケア社、ニュージャージー、米国)又はpEGFP-N3ベクター(クロンテック社、カリフォルニア、米国)に同配列部位のサブクローニングを行った。RRM2ドメインタンパク質は、先のORF部分のcDNAを鋳型にして、同様にBamHI/XhoIの制限酵素配列を含むプライマーでPCR増幅させ、pGEX6p-1にサブクローニングを行った。
(RRM2ドメイン変異体、遺伝性ALS患者の原因遺伝子である突然変異体の作製)
野生型全長TDP-43、又はそのRRM2ドメインの246番目のグルタミン酸(E246)、247番目のアスパラギン酸(D247)を、各々グルタミン(Q)、アスパラギン(N)にアミノ酸置換した変異体(QN変異体)、又は両者をグリシン(G)に変換させたGG変異体は、当該変異を来すようにデザインした相補的なプライマーを設計し、変異体作成キット(スタラタジーン社、カリフォルニア、米国)を用いて作製した。変異体の配列は、遺伝子シーケンシングによって確認した。
(大腸菌組換えタンパク質の発現、精製)
pGEX6p-1にサブクローニングしたTDP-43の全長又はRRM2ドメインの発現ベクターを、タンパク質発現用大腸菌BL21(プロメガ社、ウィスコンシン、米国)に通常の化学トランスフォーメーション法により導入し、アンピシリン選択によって生じたコロニーを更に500 mlのLB培地で増殖させ0.2 mMイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を加え22℃で16時間培養し、タンパク質を誘導させた。誘導されたタンパク質はGST結合体であり、菌体を破砕・溶解させた後、グルタチオンセファロースビーズカラムに吸着後、GSTと目的タンパク質本体をプロテアーゼ(Precision、GEヘルスケア社)に4℃、16時間反応させることで切断し、回収、更にPBSに溶媒置換を行った。
(ペルフルオロオクタン酸(PFO)を用いた非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
ペルフルオロオクタン酸(PFO)ナトリウム(Oakwood社、カリフォルニア、米国)を2%含むサンプルバッファー液(100 mM Tris base, 2% NaPFO, 20% glycerol, 0.005% Bromophenol Blue, pH 8.0)を調製し、同量のタンパク液と混合し、常温で1時間反応後、同試薬を0.5%含むトリスグリシン泳動バッファー(0.5% NaPFO, 25 mM Tris-HCl, 192 mM Glycine, pH 8.5)内で泳動し、Coomassie brilliant blue (CBB)液で染色した。
(高圧力液体クロマトグラフィー分析)
高圧力液体クロマトグラフィーシステム(AKTA 10S)に備え付けられた分子篩クロマトグラフィー(Superdex75)を用いてRRM2の分子量を決定した。RRM2の野性型及び各変異体に種々の処理をした後、分子篩クロマトグラフィーに供した。溶出液はPBSを用い、流速は0.5 ml/minで行なった。
(抗TDP-43 E246 D247マウスモノクローナル抗体)
RRM2ドメイン内のE246-D247を含む20アミノ酸配列(QSLCGEDLIIKGISVHISNA)をKLHにコンジュゲートし、初回完全フロイントアジュバント、2回目以降不完全フロイントアジュバントを用いてC57Bl/6マウスに免疫し、リンパ節を採取し常法によりハイブリドーマを作製した。そして、ELISA法により野生型RRM2と反応し、GG型変異体に反応しないクローンを選抜した。更に、ハイブリドーマ培養上清(原液)を用いて、ALS患者剖検脊髄組織切片を免疫組織化学染色し、TDP-43陽性異常封入体を認識する抗体を最終選抜した(クローン#, 3B12A, 4A5B)。
(培養細胞)
SHSY-5Y細胞(ATCC社、バージニア、米国)は、15% FBS、1/100非必須アミノ酸(NEAA、インビトロジェン社、カリフォルニア、米国)、ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM/F12 Ham培地により、37℃、5% CO2、湿度100%に設定した培養器内で培養した。遺伝子のトランスフェクションはFuGene HD(ロッシュ社、バーゼル、スイス)を用い、48時間後に、4%パラホルムアルデヒド(PFA)固定後免疫細胞染色(用いた抗体の希釈率は以下*1)を行った後、共焦点顕微鏡(ニコン社、日本)による観察、又は細胞ライセートを作成後にウェスタンブロッティング法(抗体情報は*2)を用いて解析を行った。
*1 MAb(3B12A) ハイブリドーマ上清 1:100, 精製後 1:1000, 抗リン酸化TDP-43抗体1:500 (コスモバイオ、日本), 抗ユビキチン抗体1:500 (Dako社、デンマーク)
*2 抗EGFP抗体 1:1000 (ナカライテスク社、日本)、抗TDP-43抗体1:800 (プロテインテック社、米国). なお、図中のMAb3は3B12Aを意味する。
(ヒト脊髄切片の免疫組織化学解析)
3例の孤発性ALS患者と3例の正常コントロールの脊髄を10%緩衝ホルマリン液で固定後、腰髄を切り出してパラフィン包埋し、6μm厚で薄切した切片を免疫組織化学的に検討した。一次抗体にはRRM2ドメイン内のE246-D247を含む20アミノ酸配列をC57Bl/6マウスに免疫して得られた4種のハイブリドーマ培養上清(原液)を用いた。121℃、10分間のオートクレーブによる抗原賦活化の後、4℃で一晩一次抗体と反応させ、Vectastain Elite ABC kit (Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)で標識して3,3′-diaminobenzidine tetrahydrochlorideで発色した。染色結果の特異性は一次抗体を除いたリン酸緩衝液にて評価した。その結果、2種のハイブリドーマ培養上清でALS患者の運動神経細胞質内封入体に有意な陽性所見が認められた。更に、抗TDP-43抗体を用いた免疫染色との連続切片法による詳細な検討を行い、3B12Aがより特異的な染色性を示すことが明らかとなった。
試験例1
(E246-D247のTDP-43の構造維持における重要性)
TDP-43はRNA結合部位としてRRM1、RRM2の2者を有している(図1)。本発明では、RRM2ドメインの中で、核脱出シグナルを含み、既報において25kDaの断片が生じる際に切断部位となる可能性が指摘されている246番目のグルタミン酸(E246)と247番目のアスパラギン酸(D247)に着目し、まず側鎖構造の類似したグルタミン酸からグルタミン(Q)、アスパラギン酸からアスパラギン(N)へ変異させた(QN)変異体、E、Dの両者を側鎖の影響が少なく、アミノ酸の可動性が増大するグリシンに変異させたGG変異体を作製した。
図2は、これらのRRM2ドメインタンパク質を4℃若しくは37℃で24時間の熱変性刺激、70℃20分の熱変性刺激、又は常温16時間の持続振盪刺激(800rpm)を与えた後、刺激開始から24時間後に解析したものである。PFOによって非変性状態でRRM2の分子サイズを検討すると、野生型はいかなる刺激を与えても10 kDa程度の単量体にとどまるが、QN変異は熱変性で、GG変異は4℃の安定非刺激状態でオリゴマー形成をしていることが判明した(図2左)。更に、GG変異体のオリゴマーはSDSと還元剤を含めた強力な変性下においても、オリゴマーが維持されていた(図2右)。
また、HPLCによるフラクションごとのRRM2タンパク量を吸光度215 nmにて検出した。野生型はほぼ100%単量体で、熱処理をしても単量体のままであった。一方、QN変異は熱処理によって明らかなオリゴマー化が認められた(図3)。一方、GG変異体は4℃静置状態ですでに明らかな二量体、オリゴマーを形成し、熱変性により著明にオリゴマーの高分子化が促進された(図4)。
図5はオリゴマー形成をしたRRM2変異体がβシート形成をしているか否かをチオフラビンT(ThT)アッセイ法によって調べた結果である。PBS溶液に0.1 mMに調整したRRM2ドメインタンパク質を同濃度の2-(4´-Methylaminophenyl)benzothiazole (BTA-1、シグマ社、ミズーリ、米国)に反応させ、マルチプレートリーダー (Tecan社、テネシー、米国)で440 nm/480 nmにて測定した。GG変異体は定常状態から既に高いThT値を示し、熱変性によって有意に増強されていた。
(RRM2構造維持に重要性なアミノ酸の特定)
E246とD247のいずれがRRM2の構造維持により重要かを調べるため、各々をグリシンにアミノ酸置換した変異体組換えタンパク質を既述の方法で作製し、HPLC(図6)及びPFO-PAGEとSDS-PAGEによるサイズ分類(図7)による解析を行った。図6はD247Gが4℃、70℃ともにE246Gに比べてオリゴマー化しやすいことを示している。図7では、D247GがPFO-PAGE、SDS-PAGEともにGG変異体により近い泳動パターンが類似しており、D247が構造維持上極めて重要であることを示している。
(RRM1の正常な単量体と核酸結合能)
図8は野生型天然構造のRRM2とチミン-グアニンの12回繰り返し核酸(TG12)を等モル常温で1時間反応させ、HPLCによってサイズ分けしたものである。RRM2とTG12は同一のフラクションで回収されており、過不足無く結合していることがわかる。図9は同様にHPLCによるQN変異体と核酸結合能に関する解析であり、QN変異体の単量体はTG12と結合するが、オリゴマーはTG12結合に伴う分子量の増大が見られないことを示している。また、GG変異体においても単量体とのみTG12の結合が認められたことから、オリゴマー形成が核酸代謝を阻害する重要なコンフォメーション変化であることがわかる。
(E246, D247変異のRNAスプライシングに与える影響)
全長TDP-43のE246、D247をともにGG若しくはQNに置換した変異体、全長野生型、又はRRM2欠失変異体(0.5μg)を、嚢胞性線維症(CF)膜受容体(CFTR)のエクソン9のスプライシング部位を含むプラスミド(3μg)とともにHEK293細胞にトランスフェクションし、文献(Che, MX, et al. (2011) Aggregation of the 35-kDa fragment of TDP-43 causes formation of cytoplasmic inclusions and alteration of RNA processing. FASEB J, 25(7), 2344-2353)に記載された方法に従いスプライシング効率を検討した。コントロールとしてTDP-43を含まないベクターのみを使用した。その結果、E246、D247の変異体はRRM2欠失変異体と同様ないし、それ以上にスプライシング効率を抑制した(図10)。
(E246、D247の細胞内分布と凝集体形成に対する影響)
カルボキシル末端にEGFPタグを有する全長TDP-43 (野生型、NLS-LQ(83、84番目のアミノ酸R, KをL, Qに置換したもの)、RRM2欠失変異体、E246G、D247G、GG変異体、QN変異体)をSHSY-5YにFuGeneを用いてトランスフェクションを行ったところ(図11)、GG変異体では核内のTDP-43凝集体の数とサイズが有意に増大し、E246G、D247G変異体では、野生型と比較してその傾向が高かった(図12)。同様にトランスフェクションを行った48時間後に1%TritonX100を含むバッファーに細胞を溶解したライセートを遠心分離し(17,400g、20分、4℃)、上清と沈殿に分けて抗TDP-43抗体と抗EGFP抗体を用いてウェスタンブロッティングを行ったところ、GG変異体では界面活性剤不溶性のTDP-43が野生型TDP-43に比べて有意に増大したことが示された(図13)。
試験例2
(D247を中心とした領域を特異的に認識するマウスモノクローナル抗体の作製)
RRM2ドメインのE246、D247を中心に持つアミノ酸配列QSLCGEDLIIKGISVHISNAとKLHをコンジュゲートさせ、C57Bl/6マウスを免疫した後、ハイブリドーマを作製した。3B12Aクローンの培養上清が、孤発性ALS患者のTDP-43封入体を認識することを示した(図14、bとcは連続切片である)。培養上清は原液を用いた。TDP-43抗体(ProteinTech社)は2000倍希釈で用いた。
3B12Aクローンは、ELISAによる検討でRRM2には強く反応するが、類似の構造を持つRRM1とは結合せず、他のタンパクとの非特異的結合がないことが示された(図15a)。また、図15bでは、3B12Aクローンは、E246をグリシンに置換した変異体とは結合するが、D247をグリシンに置換した変異とは結合しておらず、D247がこの抗体のエピトープとして重要であることが示されている。図15cでは、ヒト野生型TDP-43全長の大腸菌組換えタンパク質と強く反応することが示されているが、これは大腸菌の組換えタンパクは天然状態のTDP-43とはコンフォメーションが異なるためと考えられる。
図16では、SHSY-5Y細胞にヒト全長TDP-43-EGFP(カルボキシル末端)を遺伝子導入し、3B12A抗体で免疫細胞染色をした後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果が示されている。3B12A抗体は、一部の核内TDP-43(白矢印)を除いて殆どのTDP-43とは反応していない(ブランク矢印)。3B12A抗体が、培養細胞における天然のTDP-43とは反応しないことから、遺伝子導入されたTDP-43-EGFPは、一部の過剰発現に基づくコンフォメーション異常を有するTDP-43であることを示している。
3B12Aクローンは、核外に異所性局在した野生型TDP-43(図17)や核移行シグナルを遺伝子変異させた変異体TDP-43(LQ変異体)の殆どと共局在するが、RRM2の欠失変異体は全く認識しない(図18)。一方、3B12A抗体によって認識される細胞質内の異所性TDP-43の多くは、リン酸化やユビキチン化を受けておらず、3B12A抗体が認識するTDP-43の構造は早期の病的コンフォメーション変化であると考えられる(図19)。
遺伝性ALS家系で発見されたTDP-43の突然変異体(A315TとQ331K)を上述の方法でSHSY-5Y細胞に遺伝子導入させたところ、3B12A抗体が核内の変異TDP-43を高頻度に認識したことから、ALSに関連するTDP-43の構造変化によりD247付近が外部からアクセスし易くなっていることが示された(図20、21)。
3B12Aハイブリドーマをヌードマウス腹腔内接種し、採取した腹水からプロテインGで精製した抗体を用いて、ALS患者脊髄の免疫組織化学染色を行ったところ、病理学的診断価値の高いskein-like inclusionが検出できることが示された(図22)。
結論
本発明者らは、TDP-43のRNA結合部位RRM2において246番目のグルタミン酸(E246)と247番目のアスパラギン酸(D247)がその構造維持に重要であることを突き止めた。更に、当該部位を特異的に認識するモノクローナル抗体の作製に成功し、この抗体が核内の正常なTDP-43を認識せず、ALSの細胞質封入体を認識することを発見した。
培養細胞の実験では、当該抗体が、核移行が出来ないTDP-43変異体と、核内の野生型TDP-43の一部を特異的に認識した。E246、D247に変異を加えたTDP-43は病的な可溶性オリゴマーを形成し、細胞内では核内や細胞質で凝集体を作ることが判明した。これらの現象はD247の変異体でより著明に認められた。
以上の結果は、E246、D247、特に後者がTDP43の正常な構造維持に重要な役割を果たし、正常なTDP-43では本発明によるモノクローナル抗体に反応しないが、病的状態になって構造変化を起こすと反応することを示している。つまりD247(E246)を標的とすることにより、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の早期診断や治療が可能になり得ることを発見した。

Claims (5)

  1. 被験対象のTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の発症リスクを予測する方法であって、
    該被験対象の生体試料において、TDP-43の部分アミノ酸配列QSLCGEDLIIKGISVHISNAからなるペプチドに結合する抗体又は抗体断片を用いてミスフォールドしたTDP-43を検出する工程を含む、方法。
  2. 前記抗体又は抗体断片が、TDP-43の野生型RRM2と結合するが、RRM2の247番目のアスパラギン酸をグリシンに変換させた変異体には結合しない、請求項1に記載の方法。
  3. TDP-43の部分アミノ酸配列QSLCGEDLIIKGISVHISNAからなるペプチドに結合する抗体又は抗体断片を含むTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の診断薬。
  4. TDP-43の部分アミノ酸配列QSLCGEDLIIKGISVHISNAからなるペプチドに結合する抗体又は抗体断片を含むTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の診断用キット。
  5. 以下の工程を含む、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の診断用の化合物のスクリーニング方法:
    (1)ミスフォールドしたTDP-43又はTDP-43のRRM2部分に、TDP-43の部分アミノ酸配列QSLCGEDLIIKGISVHISNAからなるペプチドに結合する抗体又は抗体断片と候補となる化合物を接触させる工程、
    (2)該化合物の結合阻害活性を検出する工程、及び
    (3)該抗体又は抗体断片の結合を阻害する化合物を選択する工程。
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