JP5959235B2 - 自然発症皮膚炎の新規原因因子及び皮膚疾患モデル動物 - Google Patents

自然発症皮膚炎の新規原因因子及び皮膚疾患モデル動物 Download PDF

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Description

本発明は、主に皮膚疾患又は皮膚障害の非ヒトモデル動物に関する。また、皮膚疾患の治療薬又は予防薬、又は化粧品の有効成分のスクリーニング方法にも関する。
皮膚は、生体と外環境とを隔てる重要なバリアーであり、生体を種々の物理的刺激から防護する役割を有する。角層(stratum corneum、SC)は上皮組織の最も外側に位置し、最初の防衛線として機能する。角層は、高度に秩序だって進行する分化機構を通じて形成される。具体的には、上皮の基底層に存在する角化細胞(ケラチノサイト)が有棘層(spinous layer)及びgranular layer(顆粒層)へと移動し、最終的に硬質な角質細胞(corneocyte)の多重層を形成する。角質細胞は、セラミド、コレステロール、遊離脂肪酸等の細胞間脂質に富む細胞であることが知られている。角層の異常に起因する皮膚のバリアー機能異常を伴う疾患として、アトピー性皮膚炎が挙げられる。
アトピー性皮膚炎等の皮膚に異常が生じる皮膚疾患は、痒みなどの身体的苦痛及び身体的外観の悪化の原因となり、患者のQOLを多いに低下させてしまう。そのため、皮膚疾患等を改善できる方策が広く求められている。
しかしながら、アトピー皮膚炎の発症機構には不明な点が多い。また、従来アトピー性皮膚炎のモデルとして知られているNC/Ngaマウスは、NC/NgaマウスはSPF環境(特殊無菌環境)では皮膚炎を発症せず、コンベンショナルな環境でも皮膚炎の発症率が100%でないという問題点がある。NC/Ngaマウスは、皮膚炎の発症機序は明らかではないが、ダニ感染により惹起されると考えられている(非特許文献1)。
このように、アトピー皮膚炎の発症機構(特に、自然発症する機構)の解明及び好適なアトピー性皮膚炎のモデルが大いに求められているのが現状である。
Matsuda H et al. Development of atopic dermatitis-like skin lesion with IgE hyperproduction in NC/Nga mice. Int Immunol. (1997) 9(3) pp461-466. Searle and Spearman. 'Matted', a New Hair-mutant in the House-mouse: Genetics and Morphology. Development (1957) vol. 5 (1) pp. 93 Lane, PW. Two New Mutations in Linkage Group XVI of the House Mouse. Journal of Heredity (1972). Fallon et al. A homozygous frameshift mutation in the mouse Flg gene facilitates enhanced percutaneous allergen priming. Nature Genetics (2009) vol. 41 (5) pp. 602-608.
本発明は、SPF環境下等の外的物理刺激が抑制された環境下においても、皮膚疾患等を自然発症する新たな非ヒトモデル動物の提供を目的とする。また、皮膚疾患の治療薬又は予防薬等のスクリーニング方法を提供することをも目的とする。
本発明者は、驚くべきことに、Tmem79遺伝子の機能を欠損した非ヒト動物を、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の非ヒトモデル動物として使用できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
本発明は、以下の態様を含む:
項1、Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子の機能が低下し、かつ、フィラグリン(filaggrin)遺伝子が正常な非ヒト動物である、皮膚疾患又は皮膚障害の非ヒトモデル動物。
項2、皮膚疾患が、アトピー性皮膚炎である、項1に記載の非ヒトモデル動物。
項3、非ヒト動物がマウスである、項1又は2に記載の非ヒトモデル動物。
項4、matted(ma)変異に起因する表現型を示し、かつ、フィラグリン(filaggrin)遺伝子が正常である、皮膚疾患又は皮膚障害のモデルマウス。
項5、下記工程を含む、皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分のスクリーニング方法:
被験物質を、項1〜4のいずれか1項に記載の非ヒトモデル動物に投与する工程、並びに
被験物質の投与後に、該非ヒトモデル動物の皮膚の状態を評価する工程。
項6、下記工程を含む、皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分のスクリーニング方法:
Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子のプロモーター及び該プロモーターにより発現可能に連結されたレポーター遺伝子を含む遺伝子構築物を導入した細胞と、被験物質とを接触させる工程、並びに、
該Tmem79遺伝子のプロモーターの活性を評価する工程。
項7、Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子のプロモーター及び該プロモーターにより発現可能に連結されたレポーター遺伝子を含む遺伝子構築物を導入した細胞。
項8、皮膚の現在の状態を評価又は将来の状態を予測するための、Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子の使用。
項9、皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分をスクリーニングするための、Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子の使用。
本発明により、皮膚炎様の表現型が高頻度で発症するモデル動物が提供される。本発明の非ヒトモデル動物は、従来知られていなかったTmem79遺伝子を介した発症機構を通じて、SPF環境下でも皮膚炎様の表現型を自然発症する。本発明の非ヒトモデル動物は、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患、さらには皮膚障害のモデルとして好適に使用することができ、治療薬、予防薬、化粧品等の有効成分のスクリーニングを行うために用いることもできる。そして、Tmem79遺伝子は研究ツールとしての使用することができ、皮膚疾患や皮膚障害に関連する技術の発展に多いに貢献することが期待される。
ft変異とma変異との分離のスキーム、及び各遺伝子型のマウスの表現型を示す。 ma変異ホモ接合体マウス(matted)及び野生型マウス(C57BL/6)の身体所見の観察結果を示す。 ma変異ホモ接合体マウス(ma/ma)及び野生型マウス(C57BL/6)における皮膚組織の組織学的観察の結果を示す。 ma変異近傍の遺伝学的地図(genetic map)及び遺伝子物理地図(physical map)を示す。 シーケンス解析の結果を示す。 Tmem79(matted1)遺伝子についての、ノザンブロッティング解析の結果を示す。 Tmem79(matted1)タンパク質についての、抗体染色の観察結果を示す。 Tmem79(matted1)タンパク質についての、共焦点顕微鏡による抗体染色の観察結果を示す 野生型遺伝子の導入による、ma変異ホモ接合体マウス(ma/ma)の表現型の回復(レスキュー)を示す。図は、身体的所見の観察結果(全身像)を示す。 野生型遺伝子の導入による、ma変異ホモ接合体マウス(ma/ma)の表現型の回復(レスキュー)を示す。図は、身体的所見の観察結果を示す。 野生型遺伝子の導入による、ma変異ホモ接合体マウス(ma/ma)の表現型の回復(レスキュー)を示す。図は、皮膚組織の組織学的観察の結果を示す。
1.非ヒトモデル動物
本発明の皮膚疾患の非ヒトモデル動物の一つの態様は、Tmem79遺伝子の機能が低下した非ヒト動物である。
上記非ヒト動物は、非ヒトであって実験動物として使用できるものであれば、後述のTmem79遺伝子が存在する動物である限り、いかなる種の動物でもよい。ヒトの皮膚疾患のモデルとして用いる観点から、ヒトに近縁なヒト以外の哺乳類であることが好ましい。このような哺乳類としては、サルなどの類人猿、齧歯類(ネズミ目)、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ等が挙げられる。実験動物としての取り扱いが容易であるとの観点から、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等の齧歯類が好ましく、マウスがより好ましい。マウスとしては、C56BL/6、BALB/c等の近交系化された系統に属するマウスが特に好ましい例として挙げられる。
本発明の非ヒトモデル動物は、Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子の機能が低下している。Tmem79遺伝子は、ゲノム配列解読により各種動物において存在が予測されていた遺伝子であるが、その具体的な作用は知られていない。Tmem79遺伝子がコードするTmem79タンパク質は、そのアミノ酸配列に基づき、5回膜貫通タンパク質であると推測される。
Tmem79遺伝子の塩基配列、及び当該遺伝子がコードするTmem79タンパク質のアミノ酸配列は公知である。例えば、Tmem79遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子がコードするTmem79タンパク質のアミノ酸配列は、米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information;NCBI)が公開するデータベースにおいて登録されている。
以下に、ヒト、マウス、チンパンジー、イヌ、ウシ、ラット、ニワトリのTmem79遺伝子(cDNA)の塩基配列及びTmem79タンパク質のアミノ酸配列のアクセッション番号を示す:
マウス(Mus musculus):NM_024246(塩基配列)、NP_077208(アミノ酸配列);
ヒト(Homo sapiens):NM_032323(塩基配列)、NP_115699(アミノ酸配列);
チンパンジー(Pan troglodytes):XM_001165258(塩基配列)、XP_001165258(アミノ酸配列);
イヌ(Canis lupus familiaris):XM_849873(塩基配列)、XP_854966(アミノ酸配列);
ウシ(Bos taurus ):NM_001014920(塩基配列)、NP_001014920(アミノ酸配列);
ラット(Rattus norvegicus):NM_001033896(塩基配列)、NP_001029068(アミノ酸配列);
ニワトリ(Gallus gallus):XM_424371(塩基配列)、XP_424371(アミノ酸配列)。
マウスのTmem79遺伝子の塩基配列を配列番号1に、Tmem79タンパク質を配列番号2に示す。ヒトのTmem79遺伝子の塩基配列を配列番号3に、Tmem79タンパク質を配列番号4に示す。
「Tmem79遺伝子の機能が低下」とは、正常なTmem79遺伝子産物(mRNA、タンパク質)の発現量が減少(例えば、部分的又は完全な喪失)する等の、正常なTmem79遺伝子の機能の発揮が低下する態様であれば、特に限定されるものではない。具体的には、Tmem79遺伝子のコーディング領域若しくはプロモーター領域の塩基配列の部分的若しくは完全な欠失(deletion)、点変異により生じるアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入等の改変に起因するTmem79遺伝子の機能低下、RNA干渉法に基づくTmem79遺伝子の遺伝子産物発現量減少等の態様が挙げられる。なお、「正常な」遺伝子又はタンパク質とは、野生型由来若しくは野生型由来と同等の機能を有する遺伝子又はタンパク質であることを指す。正常なTmem79遺伝子の発現量減少は、ノザンブロッティング法、in situハイブリダイゼーション法等の公知の手法により検証をすることができる。正常なTmem79タンパク質の発現量減は、抗体染色法、ウェスタンブロッティング法等の公知の手法により検証をすることができる。
Tmem79遺伝子の機能が低下する塩基配列の改変(例えば、欠失、点変異により生じるアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入、好ましくは欠失)は、偶発的に生じる変異、変異源により誘発された変異、遺伝子ノックアウト技術等により実現することができる。遺伝子ノックアウト技術による場合、一例として、塩基配列へ改変をしたTmem79遺伝子及び必要に応じて薬剤耐性遺伝子等の選択マーカーを組み込んだターゲティングベクターを用いて胚性幹細胞上のTmem79遺伝子を相同組み換えによりノックアウトし、該Tmem79遺伝子がノックアウトされた胚性幹細胞を胚盤胞に導入して得られるキメラ胚を、対象動物の雌の子宮に着床させることにより、キメラ動物を得る方法が挙げられる。
Tmem79遺伝子のコーディング領域若しくはプロモーター領域の塩基配列の、部分的若しくは完全に欠失する領域は、Tmem79遺伝子の機能低下を起こすものである限り、特に限定されるものではない。好ましい例として、翻訳開始メチオニンが含まれる第一エキソンを含む塩基配列の領域の欠失が挙げられる。
Tmem79遺伝子の塩基配列の置換、欠失若しくは挿入は、Tmem79遺伝子の機能低下を起こすものである限り、特に限定されるものではない。一態様として、Tmem79遺伝子の塩基配列の途中に、終始コドンが本来の終始コドンより手前に生じる塩基配列の置換、欠失若しくは挿入が挙げられる。この場合、完全長のTmem79遺伝子が転写及び翻訳されないため、Tmem79遺伝子の機能が低下すると予測される。
非ヒト動物がマウスである場合、Tmem79遺伝子の塩基配列の改変の具体例として、matted(ma)変異として知られる、配列番号2に示すアミノ酸配列の280番目のチロシン(Tyr、Y)残基にナンセンス変異(Y280X)(配列番号1に示す塩基配列において、935番目のシトシン(C)からグアニン(G)への変異)が挙げられる。当該変異により、Tmem79(matted1)タンパク質のC末端側が欠損する。
従って、非ヒト動物がマウスである場合、「Tmem79遺伝子の機能が低下」の一態様に、matted(ma)変異に起因する表現型を示すことが挙げられる。matted(ma)変異に起因する表現型として、体毛の異常(毛の直立に起因する乱れた外観、容易に破断する毛、毛の損傷による発毛領域の欠損など)が知られている(非特許文献2)。一方、皮膚疾患様又は皮膚障害様の表現型は、従来知られていなかった。
本発明の非ヒトモデル動物は、フィラグリン(Filaggrin、Flg)遺伝子が正常である。従来、自然に皮膚炎を発症するflaky tail(ft)マウスの原因遺伝子は、ftマウスが保有するフィラグリン遺伝子の変異であると考えられていた(非特許文献3、4)。しかしながら、後述の実施例で示すように、ftマウスでの皮膚炎は、フィラグリン遺伝子の変異に起因しない。フィラグリン遺伝子の塩基配列、及び当該遺伝子がコードするフィラグリンタンパク質のアミノ酸配列は公知である。例えば、フィラグリン遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子がコードするフィラグリンタンパク質のアミノ酸配列は、米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information;NCBI)が公開するデータベースにおいて登録されている。
以下に、ヒト、マウス、チンパンジー、イヌ、ウシ、ラット、ニワトリのTmem79遺伝子(cDNA)の塩基配列及びTmem79タンパク質のアミノ酸配列のアクセッション番号を示す:
ヒト(Homo sapiens):NM_002016(塩基配列)、NP_002007(アミノ酸配列);
マウス(Mus musculus):XM_485270(塩基配列)、XP_485270(アミノ酸配列);
チンパンジー(Pan troglodytes):XM_001134714(塩基配列)、XP_001134714(アミノ酸配列);
ウシ(Bos taurus ):XM_002686068(塩基配列)、XP_002686114(アミノ酸配列)。
本発明の非ヒトモデル動物は、皮膚疾患又は皮膚障害のモデルである。ここで、皮膚とは、上皮のうち体表を覆う部分を指す。上皮は、一般に体の外側から順に、角層、顆粒層、有棘層及び基底層からなる。マウスの耳由来の皮膚などにおいて、有棘層がほとんど観察されない場合もある。
皮膚疾患の具体例として、皮膚炎、尋常性乾癬、脱毛症などが挙げられる。ヒトの疾患の症状と、非ヒトモデル動物の表現型が特に類似するとの観点から、皮膚疾患の好ましい例として皮膚炎、特にアトピー性皮膚炎が挙げられる。ここで、「アトピー性皮膚炎」の病態は、日本皮膚科学会が示すガイドラインにおいて、表皮、なかでも角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリアー機能異常という皮膚の生理学的異常を伴い、多彩な非特異的刺激反応および特異的アレルギー反応が関与して生じる、慢性に経過する炎症と掻痒をその病態とする湿疹・皮膚炎群の一疾患と定義されている。従って、本発明の非ヒトモデル動物の一態様は、皮膚の乾燥及び/又はバリアー機能異常のモデルと換言することもできる。
皮膚障害とは、皮膚疾患とは診断されないものの、乾燥、かさつき、肌荒れ、ハリの欠如、しわ、刺激へ過敏になるなどを伴う皮膚の異常状態を指す。皮膚障害としては、例えばバリアー機能異常等に起因するものが挙げられる。
本発明の非ヒトモデル動物は、皮膚疾患様又は皮膚障害様の表現型を自然発症する。皮膚疾患又は皮膚障害を自然発症すると換言することもできる。ここで、「自然発症」とは、埃、ダニ等の外的物理刺激が存在しない環境で飼育した非ヒトモデル動物が、上記皮膚疾患の病態若しくは上記皮膚障害の状態を示すことを指す。外的物理刺激が存在しない環境は、例えば、特殊無菌環境(SPF)により実現することができる。
さらに、本発明の非ヒトモデル動物は、高い頻度(例えば、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは100%)で表現型を自然発症する。
本発明の非ヒトモデル動物が示す上記皮膚疾患様又は皮膚障害様の表現型は、例えば非ヒトモデル動物がマウスである場合、眼部周辺、頬部、前胸部等の皮膚で特に顕著に観察される。これらの表現型は、身体所見の観察、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)等の組織学的観察、行動観察などの公知の手法により検出することができる。身体所見の観察による場合、毛の形質異常、皮膚炎等の表現型;
組織学的観察による場合、上皮の肥厚、顆粒層の肥厚、白血球浸潤等の表現型;並びに、行動観察による場合、掻爬行動(scratching behavior)等の表現型が観察される。このような表現型は、ヒトのアトピー性皮膚炎の患者の症状と、類似する表現型である。
身体所見の観察を行う場合、観察を簡便にするために、例えば、剃毛を行うことができる。しかしながら、剃毛は外的物理的刺激となり、皮膚炎を惹起する可能性もある。このような観点から、遺伝的に体毛が少ない非ヒト動物を使うことがより好ましい。遺伝的に体毛が少ない非ヒト動物の具体例として、非ヒト動物がマウスである場合には、ヘアレスマウス、ヌードマウス等が挙げられる。
本発明の非ヒトモデル動物は、皮膚疾患又は皮膚障害のモデルとして有用である。例えば、皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分のスクリーニング方法に好適に使用することができる。スクリーニング方法の具体例については、後述する。
2.スクリーニング方法
本発明は、皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分のスクリーニング方法を提供する。
ここで、皮膚疾患としては、上記「1.非ヒトモデル動物」欄に記載の皮膚疾患を指す。また、「化粧品」とは、特に限定されるものではないが、例えば、上記「1.非ヒトモデル動物」欄に記載の乾燥、かさつき、肌荒れ、ハリの欠如、しわ、刺激への過敏な反応などを伴う皮膚の異常状態等である、皮膚障害を改善若しくは予防できる化合物若しくは組成物(改善剤又は予防剤)を指す。
本発明のスクリーニング方法の一つの態様は、下記工程を含む:
(1-1)被験物質を、上記「1.非ヒトモデル動物」欄に記載の非ヒトモデル動物に投与する工程、並びに
(1-2)被験物質の投与後に、該非ヒトモデル動物の皮膚の状態を評価する工程。
上記工程(1-1)において、上記「1.非ヒトモデル動物」欄に記載の非ヒトモデル動物に、被験物質を投与する。
上記被験物質は、皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分の候補化合物となり得る化合物であれば、特に限定されるものではない。上記被験物質は、天然化合物(例えば、動物、植物、微生物等の生体に由来する物質)又は合成化合物のいずれであってもよい。好ましくは、上記被験物質は、ヒトにおいて薬学的に許容される化合物である。
被験物質を非ヒトモデル動物に投与する手段は、特に限定されるものではなく、経口投与、経皮投与、粘膜を介した投与、注射又は点滴による静脈内、筋肉内、皮肉、皮下、腹腔内等への投与などの公知の手段から、適宜選択をすることができる。被験物質の投与は、必要に応じて、被験物質を担体と共に適宜製剤化した投与形態により行うことができる。好ましい被験物質を投与する手段として、液剤、貼付剤、軟膏剤、バップ剤、ローション剤等の外用剤による経皮投与が挙げられるが、これに限定されるものではない。
被験物質を経皮投与する場合、非ヒトモデル動物において顕著に皮膚疾患又は皮膚障害の表現型が現れる部位への投与が好ましい。非ヒトモデル動物がマウスである場合、眼部周辺、頬部、前胸部等の部位が例示される。
上記工程(1-2)において、工程(1-1)の被験物質の投与後に、非ヒトモデル動物の皮膚の状態を評価する。
評価対象となる皮膚の状態は、上記「1.非ヒトモデル動物」欄の記載の、非ヒトモデル動物が呈する皮膚疾患又は皮膚障害の表現型の程度である。身体所見の観察、組織学的観察等の公知の手段による、皮膚の観察結果に基づき、皮膚の状態を評価することができる。
上記工程(1-1)の評価において(a)被験物質を投与しない又は被験物質に替えて不活性物質を投与した(担体のみ、あるいは投与をしない場合も含む)非ヒトモデル動物(陰性対照)、(b)被験物質に替えて皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬又は皮膚障害剤の有効成分として効果が知られる化合物を投与した非ヒトモデル動物(陽性対照)などの対照と、皮膚の状態を比較することができる。対照は、通常は、被験物質を投与した非ヒトモデル動物と異なる動物である。被験物質の投与が外用剤により局所的にされる場合、被験物質を投与した非ヒトモデル動物と同一の動物の、被験物質を投与しなかった部位を対象とすることができる。
具体的には、例えば、被験動物の皮膚の状態が、対照(特に、陰性対照)の皮膚の状態と比べて、皮膚疾患若しくは皮膚障害が改善している(正常状態になる、または正常状態に近づいている)場合、該被験物質を皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分として選択することができる。
かくして、皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分がスクリーニングされる。上記態様によりスクリーニングされる有効成分の一例としては、Tmem79遺伝子の機能が低下に起因する皮膚疾患の治療若しくは予防、又は、皮膚障害の改善若しくは予防ができる有効成分が挙げられるが、これに限定されない。スクリーニングされた有効成分は、これを含む医薬組成物又は化粧品組成物等として好適に提供される。
本発明のスクリーニング方法の別の態様は、下記工程を含む:
(2-1)Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子のプロモーター領域及び該プロモーター領域により発現可能に連結されたレポーター遺伝子を含む遺伝子構築物を導入した細胞と、被験物質とを接触させる工程、並びに、
(2-2)該Tmem79遺伝子のプロモーター領域の活性を評価する工程。
工程(2-1)において、Tmem79遺伝子のプロモーター領域及び該プロモーター領域により発現可能に連結されたレポーター遺伝子を含む遺伝子構築物を導入した細胞と、被験物質とを接触させる。
Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子のプロモーター領域は、公知の手法によりその塩基配列を特定することができる。通常は、ゲノム配列上で、翻訳開始メチオニンから例えば3kb、2kb又は1kb程度上流の塩基配列であるが、これに限定されるものではない。ヒトにおいて特に高い効果を発揮する皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、皮膚障害の改善剤を得るためとの観点から、Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子のプロモーター領域はヒト由来であることが好ましい。
レポーター遺伝子は、プロモーター活性の評価に用いることができるものであれば特に限定されるものではない。具体例とて、GFP(Green Fluorescent Protein)などの蛍光タンパク質をコードする遺伝子、βガラクトシターゼをコードするlacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などが例示される。
Tmem79遺伝子のプロモーター領域とレポーター遺伝子とは、該プロモーター領域により発現可能に該レポーター遺伝子が連結され、遺伝子構築物の少なくとも一部を構成する。発現可能に連結とは、遺伝子構築物が導入される細胞内において、プロモーター領域の作用によりレポーター遺伝子の発現が誘導される態様を指す。
遺伝子構築物は、細胞に導入されていればよく、ベクターのかたちで細胞のゲノム外に保持されるものであっても、細胞のゲノムに挿入されたものであってもよい。遺伝子構築物の細胞への導入は、公知の手法により行うことができる。
上記遺伝子構築物が導入される細胞は、上記プロモーター領域の活性に基づき上記レポーター遺伝子が発現され、後述するプロモーター領域の活性の評価を行うことができる細胞であれば、特に限定されるものではない。細胞は、プロモーター領域と同じ生物由来であることが好ましい。例えば、プロモーター領域の塩基配列がヒト由来である場合は、上記遺伝子構築物が導入される細胞もヒト由来であることが好ましい。このような細胞として、HeLa細胞、HEK293細胞、HaCaT細胞、ケラチノサイト細胞等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
上記被験物質は、皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分の候補化合物となり得る化合物であれば、特に限定されるものではない。
上記細胞と、上記被験物質とを接触させる手段は、被験物質が細胞に作用することができるものであれば、特に限定されるものではない。簡便な手段として、被験物質を、上記細胞を培養するための培地に添加する手段が挙げられる。
上記工程(2-2)において、Tmem79遺伝子のプロモーター領域の活性を評価する。
Tmem79遺伝子のプロモーター領域の活性の評価は、通常、レポーター遺伝子の発現レベルを公知の手段により、直接又は間接的に測定することによって実施することができる。レポーター遺伝子がタンパク質をコードする場合、該タンパク質の物質量を測定することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを直接測定することができる。レポーター遺伝子がGFPなどの蛍光タンパク質をコードする遺伝子である場合、蛍光タンパク質による蛍光を測定することで、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合、X-Gal(5-bromo-4-chloro-3-indolyl- beta-D-galactopyranoside)等の該遺伝子産物の触媒作用により呈色する化合物の呈色を測定することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である場合、ルシフェリン、セレンテラジン等の該遺伝子の触媒作用により蛍光を発する化合物の蛍光を測定することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
評価の具体的態様として、例えば、被験細胞のTmem79遺伝子のプロモーター領域の活性と、対照細胞のTmem79遺伝子のプロモーター領域の活性とを比較する態様が挙げられる。対照細胞は、被験細胞と同じの遺伝子構築物を導入した細胞であることが好ましい。また、対照細胞の具体例として、(a)被験物質に替えて不活性物質を接触させた(担体のみ、あるいは接触をさせない場合も含む)細胞、(b)被験物質に替えてTmem79遺伝子のプロモーター領域の活性を特異的に変化(好ましくは亢進)させる効果が知られる物質を接触させた細胞などが挙げられる。
具体的には、例えば、被験動物のTmem79遺伝子のプロモーター領域の活性が、対照と比べて亢進している場合、該被験物質を皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分として選択することができる。
かくして、皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分がスクリーニングされる。上記態様によりスクリーニングされる有効成分の一例としては、Tmem79遺伝子の遺伝子発現量を亢進させる効果に基づき、皮膚疾患の治療若しくは予防、又は、皮膚障害の改善若しくは予防ができる有効成分が挙げられる、これに限定されない。スクリーニングされた有効成分は、これを含む医薬組成物又は化粧品組成物等として好適に提供される。
3.Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子の使用
後述の実施例で実証するように、本発明者は、Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子と、皮膚疾患及び皮膚障害との関連を見出した。従って、本発明は、皮膚疾患又は皮膚障害と関連するTmem79遺伝子の使用(例えば、研究ツールとしての使用)をも提供する。
一つの態様として、皮膚の現在の状態を評価、又は、将来の状態を予測又はするための、Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子の使用が挙げられる。Tmem79遺伝子の皮膚状態のマーカーとしての、又は、皮膚疾患又は皮膚障害のマーカーとしての使用と換言することもできる。
具体的には、被験体(ヒト及び非ヒト動物)において、Tmem79遺伝子の塩基配列を評価し、皮膚の現在の状態を評価、又は、将来の状態を予測する態様が挙げられる。この場合、
被験体由来のTmem79遺伝子の塩基配列が、と、Tmem79遺伝子の機能低下に起因する皮膚疾患又は皮膚障害を有する比較検体由来のTmem79遺伝子の塩基配列と同一の変異を有する場合、被検体は現在皮膚疾患の症状等を発症している若しくは将来皮膚疾患等を発症するおそれがあると判定することができる。
皮膚の現在の状態を評価、又は、将来の状態を予測又はするための、Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子の使用の異なる態様として、被験体におけるTmem79遺伝子の産物の発現パターンを評価し、皮膚の現在の状態を評価、又は、将来の状態を予測する態様が挙げられる。この場合、被験体におけるTmem79遺伝子産物(mRNA又はタンパク質)の発現パターンが、健常なヒト又は野生型の非ヒト動物でのTmem79遺伝子の産物の発現パターンと同等と評価できる場合、被検体はTmem79遺伝子の機能に基づく皮膚の状態は正常であると判定することができる。
皮膚疾患又は皮膚障害と関連するTmem79遺伝子の使用の異なる態様として、皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分をスクリーニングするための、Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子の使用が挙げられる。具体例としては、皮膚疾患又は皮膚障害の非ヒトモデル動物を製造するための、Tmem79遺伝子の使用(具体例は、上記「1.非ヒトモデル動物」欄に記載の通り。);
該非ヒトモデル動物を用いた皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分のスクリーニング方法を実施するための、Tmem79遺伝子の使用(具体例は、上記「2.スクリーニング方法」欄に記載の通り。);
皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分をスクリーニングするための遺伝子構築物(例えば、上記「2.スクリーニング方法」に記載の、Tmem79遺伝子のプロモーター領域及び該プロモーター領域により発現可能に連結されたレポーター遺伝子を含む遺伝子構築物)を製造するための、Tmem79遺伝子の使用;
該遺伝子構築物を含む細胞を製造するための、Tmem79遺伝子の使用;
該遺伝子構築物を含む細胞を用いた皮膚疾患の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分のスクリーニング方法を実施するための、Tmem79遺伝子の使用(具体例は、上記「2.スクリーニング方法」欄に記載の通り。)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例を示す。本発明は、実施例に限定されるものではない。
[実施例1]flakey tail(ft)変異及びmatted(ma)変異の分離
マウスのflakey tail(ft)変異及びmatted(ma)変異は、ともに3番染色体上に存在する。後述(実施例2)の通り、ft maマウスでは、野生型では観察されない、皮膚炎様の表現型を示す。
ft ma/ft maマウス(ft maマウス)の雄(CBA系統由来、The Jackson Laboratoryより入手)と、野生型C57BL/6マウス(日本クレア株式会社(CLEA Japan, Inc.)より入手)の雌とを交配した。さらに、得られたF1世代の雄及び雌を交配させ、F2世代を得た。なお、以下本明細書において、特段の記載がない限り、マウスはSPF(specific pathogen free)環境下で飼育を行った。
F2世代のマウスにおいて、CBA系統とC57BL/6系統間に存在するFilaggerin(Flg)遺伝子内に存在する多型を指標として、ft ma/ft maマウス(CBA系統)に由来するFlg遺伝子のホモ接合体、C57BL/6マウスに由来するFlg遺伝子のホモ接合体、及びCBA系統に由来するFlg遺伝子とC57BL/6マウスに由来するFlg遺伝子とのヘテロ接合体を選別した。Flg多型の検出にあたり、Taqman法を用いた(以下同様)。
ft変異は、Flg遺伝子の変異であることが知られており、皮膚炎様の表現型の原因遺伝子であると考えられている(非特許文献4)。しかしながら、CBA系統に由来するFlg遺伝子(変異型ft)のヘテロ接合体であるにもかかわらず、皮膚炎様の表現型及び体毛異常の表現型を示す個体が分離された(ftヘテロ接合体/皮膚炎+)。また、変異型ftのホモ接合体において、皮膚炎様の表現型及び体毛異常の表現型を示さない個体も分離された(ftホモ接合体/皮膚炎-)。このことにより、ft ma/ft maマウスの皮膚炎様の表現型、はft変異(Flg遺伝子の変異)が原因でないことが明らかになり、ma変異に起因するものであることが示唆された。
次いで、得られた[ftヘテロ接合体/皮膚炎+]マウスおよび[ftホモ接合体/皮膚炎-]マウスの各々において、3番染色体上でCBA系統由来のゲノム配列を有する染色体領域とC57BL/6系統由来のゲノム配列を有する箇所を、CBA系統とC57BL/6系統間に存在する多型に基づき解析した。その結果、皮膚炎様の表現型および異常毛髪の原因遺伝子は、3番染色体の86.8 ~ 90.5Mbの領域(遺伝子物理地図上)に存在することが明らかになった。
さらに、[ftヘテロ接合体/皮膚炎+]マウスの雌雄、及び[ftホモ接合体/皮膚炎-]マウスの雌雄をそれぞれ交配した。87.0Mb及び90.5Mbの位置(遺伝子物理地図上)に存在するCBA型多型をma変異の指標としスクリーニングを行い、ft + /ft +の遺伝子型を有するマウス(ft変異ホモ接合体、ft/ftマウス)及び+ ma /+maの遺伝子型を有するマウス(ma変異ホモ接合体、ma/maマウス)を得た。
[実施例2]ma /maマウスの表現型解析
実施例1で得たma/maマウス、ft/ftマウス、ft maマウス及び野生型C56BL/6の表現型を観察した。
結果を図1及び図2に示す。
図1は、生後16週齢のマウスの表現型を示す。ft maマウスでは、野生型では観察されない、皮膚炎様の表現型が観察された。主に眼部周辺皮膚、頬部皮膚、および前胸部皮膚に脱毛や湿疹を伴う皮膚炎様の表現型が観察された。
実施例1で得たma/maマウス、ft/ftマウスにおいても同様の観察をしたところ、ma/maマウスでは皮膚炎様の表現型が観察されたが、ft/ftマウスではそのような表現型は観察されなかった。
図2は、生後2週齢(2w)のma/maマウス及び野生型マウスの表現型、並びに、生後28週齢(28w)及び生後43週齢(43w)のma/maマウスの表現型を示す。
ma変異ホモ接合体マウスをより詳細に観察するために、皮膚組織の組織学的観察を行った。
生後2週齢ma変異ホモ接合体マウス及びC56BL/6マウス(対照)の前胸部の皮膚組織を摘出し、10%ホルムアルデヒドを含むPBS緩衝液で固定した。固定後、常法に従いパラフィンに包埋した。得られたパラフィンブロックから組織切片を作成し、常法に従いヘマトキリン−エオシン(HE)染色を行った。得られた試料を、明視野顕微鏡で観察した。
図3に結果を示す。生後2週齢ma変異ホモ接合体マウスの皮膚組織においては、野生型と比べて、上皮の肥厚、顆粒層の肥厚、白血球浸潤が観察された。
さらに、生後2週齢ma変異ホモ接合体マウスの行動を観察したところ、皮膚炎様の症状を有するマウスに特異的な掻爬行動(scratching behavior)を示した。一方で、生後2週齢のft変異ホモ接合体マウスは、そのような行動を示さなかった。
以上の結果から、ft maマウスにおける皮膚炎様表現型は、ma変異に起因するものであることが強く示唆された。
[実施例3]ma変異の原因遺伝子の特定
従前の遺伝学的解析の結果、ma変異は、マウス3番染色体のspa(spastic)変異(原因遺伝子:Glrb(Glycine receptor subunit beta))とft変異(原因遺伝子:Filaggerin)との間に存在することが明らかにされていいた。遺伝子物理地図(physical map)上の相当する領域には、予測遺伝子も含めて208個の遺伝子が存在した。概要を図4に示す。
ma/maマウスと、対照であるC56BL/6マウス及びCBAマウスとの間で、ゲノム配列の当該領域の全塩基を比較した。各々の遺伝子型を有するマウス個体からゲノムDNAを調製し、SureSelect Target Enrichmentシステム(Agilent Technology社)を用いて当該領域由来のゲノムDNAを特異的に濃縮し、濃縮ゲノムDNAに対し製造者が提供する指示書に従ってGenome Analyzer IIx DNAシーケンサー(Illumina社)を用いて解析を行った。
その結果、ma/maマウスにおいて、Tmem79遺伝子中、配列番号2に示すアミノ酸配列の280番目のチロシン(Tyr、Y)残基にナンセンス変異(Y280X)(配列番号1に示す塩基配列において、935番目のシトシン(C)からグアニン(G)への変異)を同定した。
また、当該変異はサンガー法を用いたシーケンス解析によっても確認できた。結果を、図5に示す。
[実施例4]Tmem79(matted1)遺伝子及びタンパク質の発現解析
(1)mRNA発現解析
Tmem79(matted1)遺伝子について、発現している組織を明らかにするために、ノザンブロッティング法によるmRNAの発現解析を行った。
結果を、図6に示す。Tmem79(matted1)遺伝子のmRNAは、皮膚において高く発現することが明らかとなった。また、その他に発現も、肺、胸腺、腎臓及び精巣で発現が観察された。
(2)抗体染色
ウサギに、Tmem79(matted1)タンパク質のアミノ酸番号99〜115のN末端側領域及び285〜391の領域のC末端側領域の配列を有するペプチド抗原として、常法に従い、ウサギを用いて2種の抗matted1タンパク質ウサギ抗体(No.3(抗原:N末端側)及びNo.7(抗原:C末端側))を作成した。
得られた抗体を用いて、表皮におけるTmem79(matted1)タンパク質の局在解析を行った。野生型C57BL/6マウス及びma変異ホモ接合体マウスの耳部由来の皮膚組織を、2%PFAで固定し、凍結切片を作成後、一次抗体として上記の抗matted1タンパク質ウサギ抗体(No.3及びNo.7の各々)及び抗KLK5タンパク質マウス抗体、二次抗体としてAlexa Fluor(登録商標) 568標識抗ウサギIgG抗体(Life technologies社)及びAlexa Fluor(登録商標) 488標識抗マウスIgG抗体(Life technologies社)を用いて免疫染色を行った。最後に、Hoechest33342を用いて核を染色した。得られた試料を、蛍光顕微鏡で観察した。
抗Tmem79(matted1)タンパク質ウサギ抗体No.7を用いた染色結果を、図7に示す。野生型において、Tmem79(matted1)タンパク質は、上皮顆粒層の最上層及び角層の最下層でKLK5タンパク質と同様な局在を示すことが明らかとなった。抗Tmem79(matted1)タンパク質ウサギ抗体No3でも同様の結果を得た。
ma変異ホモ接合体マウスでは、抗Tmem79(matted1)タンパク質ウサギ抗体No7での染色の結果、Tmem79(matted1)タンパク質の表皮での発現は検出されなかった。一方、抗体No3を用いた場合は、野生型と同様の染色像を得た。この結果は、ma変異ホモ接合体マウスでは、ma変異によりTmem79(matted1)タンパク質のC末端側が欠損し、Tmem79(matted1)遺伝子の機能が低下していることを示している。
(3)共焦点顕微鏡観察
Tmem79(matted1)タンパク質の局在をより詳細に観察するために、上皮シートを作製し、Tmem79(matted1)タンパク質の局在を、共焦点顕微鏡を用いて観察した。
C57BL/6マウスより耳組織片を採取後、3.8%チオシアン酸アンモニウム・リン酸緩衝水溶液を用いて上皮と真皮と分離し、上皮シートを得た。この上皮シートを95%冷エタノール・PBS溶液により固定処理を行い、水和処理後、一次抗体として上記の抗matted1タンパク質ウサギ抗体No.7、二次抗体としてAlexa Fluor(登録商標)568蛍光色素標識抗ウサギIgG抗体を用いて免疫組織染色を行った。得られた試料を、共焦点顕微鏡を用いて、上方(角層側)から顆粒層の最上面(SG1層)でのTmem79(matted1)タンパク質の局在を観察した。
結果を図8に示す。SG1層において、Tmem79(matted1)タンパク質の発現パターンは、細胞によって異なることが明らかとなった。発現が見られない細胞(図中、(0))や、網目状の発現が観察された細胞(図中、(1)〜(4))が観察された。
[実施例5]レスキュー実験
ma変異ホモ接合体マウスにおける皮膚炎様の表現型が、Tmem79遺伝子における変異に起因するものであることを検証するために、レスキュー実験を行った。
コンストラクトの作成
マウスTmem79遺伝子自体のプロモーターを含む、マウス3番染色体88,132,028- 88,141,251 ntの領域(Tmem79遺伝子及び隣接遺伝子の一部を含む領域)を、Red / ET Recombination System(Gene Bridges GmbH社)を用いて、pUC118ベクターに導入し、Tmem79遺伝子コンストラクトを得た。
トランスジェニックマウスの作成
制限酵素Hin dIII処理により直鎖化したコンストラクトを、C57BL/6マウスの受精卵にマイクロインジェクション法により導入した。インジェクション後、受精卵(胚)を仮親の卵管へ移植し、発生及び出産をさせた。
得られた子世代マウスの中から、上記コンストラクトのpUC118ベクター部分とマウスTmem79遺伝子の境界領域を増幅できるプライマーセットを用いて、コンストラクトが導入された子世代マウスを選別した。この中から、Tmem79遺伝子が1コピー導入された、トランスジェニックマウスC57BL/6 Tg(Tmem79)-No.11を得た。C57BL/6 Tg(Tmem79)-No.11マウスと、ma/maマウスとを交配し、ma/ma - Tg(Tmem79)マウスを得た。
表現型観察の結果を、図8、図9及び図10に示す。
図9及び図10は、身体所見の観察結果を示す。生後23週齢(23w)のma/maマウスでは眼部周辺、前胸部、頬部等の皮膚に皮膚炎様の表現型が観察された。ma/ma - Tg(Tmem79)マウスにおいて、皮膚炎様の表現型は観察されなかった。
図11は、生後8週齢(8w)マウスの前胸部のHE染色による、組織学的観察の結果を示す。ma/maマウスでは、重度の表皮肥厚が観察された。ma/ma - Tg(Tmem79)マウスでも、表皮肥厚が観察されたものの、ma/maマウスと比べて極めて軽微なものであった。
これらの結果は、ma/maマウスにおける皮膚炎様の表現型が、正常Tmem79遺伝子の導入により回復することを示している。すなわち、Tmem79遺伝子における変異に起因すると考えられる。

Claims (6)

  1. Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子の機能が低下し、かつ、フィラグリン(filaggrin)遺伝子が正常な非ヒト動物である、皮膚炎の非ヒトモデル動物。
  2. 皮膚炎が、アトピー性皮膚炎である、請求項1に記載の非ヒトモデル動物。
  3. 非ヒト動物がマウスである、請求項1又は2に記載の非ヒトモデル動物。
  4. 下記工程を含む、皮膚炎の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分のスクリーニング方法:
    被験物質を、請求項1〜のいずれか1項に記載の非ヒトモデル動物に投与する工程、並びに
    被験物質の投与後に、該非ヒトモデル動物の皮膚の状態を評価する工程。
  5. 下記工程を含む、皮膚炎の治療薬若しくは予防薬、又は、化粧品の有効成分のスクリーニング方法:
    Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子のプロモーター及び該プロモーターにより発現可能に連結されたレポーター遺伝子を含む遺伝子構築物を導入した細胞と、被験物質とを接触させる工程、並びに、
    該Tmem79遺伝子のプロモーターの活性を評価する工程。
  6. Tmem79(Transmembrane protein 79)遺伝子のプロモーター及び該プロモーターにより発現可能に連結されたレポーター遺伝子を含む遺伝子構築物を導入した細胞。
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