JP5954620B2 - 透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲット及びその製造方法 - Google Patents

透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲット及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、特に、光ディスクに好適な光透過保護膜、液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子、電気泳動方式表示素子、トナー表示素子などの電子ペーパーや太陽電池などに用いられるガスバリア層などに利用できる酸化亜鉛系の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲット及びその製造方法に関するものである。
従来、光ディスクに好適な光透過保護膜として、さらには、液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子、電気泳動方式表示素子、トナー表示素子などの電子ペーパーや太陽電池などに用いられるガスバリア層として、酸化亜鉛系の透明酸化物膜をスパッタリング法で作製する技術が知られている。
例えば、特許文献1では、酸化スズと、Si、Ge、Alからなる群から選ばれる少なくとも1種の添加元素とを含有し、該添加元素は、添加元素とSnの含有量の総和に対して15原子%〜63原子%の割合で含まれ、結晶相の構成に、添加元素の金属相、該添加元素の酸化物相、該添加元素とSnの複合酸化物相のうちの1種以上が含まれ、該添加元素の酸化物相、および、該添加元素とSnの複合酸化物相が、平均粒径50μm以下の大きさで分散している酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用い、直流パルシング法を利用したスパッタリング法により、樹脂フィルム基材の表面に透明酸化物膜を形成する方法が提案されている。
この方法で得られた透明酸化物膜は、酸化スズと、Si、Ge、Alからなる群から選ばれる少なくとも1種の添加元素とを含有する透明酸化物膜であって、該添加元素は、添加元素とSnの総和に対して15原子%〜63原子%の割合で含まれ、非晶質膜であり、かつ、波長633nmにおける屈折率が1.90以下であるとされている。
また、特許文献2には、相変化光ディスク用保護膜に使用される光透過膜を形成することが記載されている。ここでは、Nb、V、B、SiO、Pから選択された1種以上のガラス形成酸化物を0.01〜20重量%と、Al又はGaを0.01〜20重量%含有し、残部In、SnO、ZnOから選択された1種以上の酸化物を含有したスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法により、Nb、V、B、SiO、Pから選択された1種以上のガラス形成酸化物を0.01〜20重量%と、Al又はGaを0.01〜20重量%を含有し、残部In、SnO、ZnOから選択された1種以上の酸化物である光透過膜を成膜する方法が提案されている。
特開2007−290916号公報 特開2000−119062号公報
従来の技術では、例えば、特許文献1に記載のターゲットを用いて酸化物膜を成膜する場合、その成膜のスパッタリング時に、ノジュールが多く発生し、装置の掃除等に手間がかかっていた。そのため、酸化スズ系ではなく、他の組成系のガスバリア性に優れる透明酸化物膜が要望された。しかしながら、特許文献2に記載の透明酸化物膜では、屈折率が高いため、上述した電子ペーパーや太陽電池に用いる樹脂フィルム基材上のガスバリア層に採用するには、樹脂フィルム基材の屈折率(例えば、波長633nmで屈折率n:1.5〜1.7)に近づけるために、その膜の屈折率を低くする必要がある。
このため、酸化亜鉛系の透明酸化物膜にSiOをより多く含有させて屈折率を下げることが考えられる。しかし、スパッタリングターゲットにSiOが添加されると、SiO自体は、絶縁性であるため、酸化物膜の成膜には、高周波(RF)スパッタリングを採用せざるを得ない。しかしながら、この高周波スパッタリングは、成膜レートが低いために、酸化物膜の成膜にあたっては、成膜レートが早く、生産性の高い直流(DC)スパッタリングの採用が期待されている。そこで、特許文献2に記載のように、直流スパッタリングの採用が可能となるように、ターゲットの低抵抗化を図ることが提案されている。この低抵抗化のために、スパッタリングターゲットに、Al又はGaを含有させているが、ガラスの屈折率に近い透明性の確保を実現するためには、SiOを多く添加しなければならない。このSiOの多量添加は、却って、直流スパッタリングの採用を困難にしている。
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、屈折率が低く良好なガスバリア性を有する透明酸化物膜を直流スパッタリングで成膜でき、しかも、スパッタリング時に、ターゲットの割れが発生したり異常放電が発生したりすることのない酸化亜鉛系の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO:Aluminium doped Zinc Oxide)膜にガラス形成酸化物であるSiOを含有させると屈折率が低くなることから、SiOを多く添加したスパッタリングターゲットを用いて、AZOの透明酸化物膜として、A1(又はGa)−Zn−Si−O四元系元素でなる膜をスパッタリングにより成膜するべく研究を行った。
しかし、成膜された膜の低屈折率化を図るため、多量のSiOがスパッタリングターゲットに添加されると、SiOの結晶相がターゲット中に析出するという知見が得られた。そのターゲット中に、結晶相のSiOが存在すると、スパッタリング時におけるターゲットの割れや、異常放電・パーティクルの発生の要因になり、その結果として、装置の掃除等の必要性が高まるだけでなく、成膜された膜の透明性やバリア性にも影響を与えることが判明した。
そこで、発明者らは、より多くのSiOがスパッタリングターゲットに添加された場合でも、SiOの結晶相がターゲット中に析出することなく、直流スパッタリングを可能とするスパッタリングターゲットを開発することとした。この研究により、特定の成分組成からなるスパッタリングターゲットを特定の粉末配合率で加圧焼結して作製することができ、直流スパッタリングを可能とし、かつ、このスパッタリングターゲットを用いて、直流スパッタリングで成膜すると、透明で低屈折率かつ高ガスバリア性能を有するA1(又はGa)−Zn−Si−O四元系元素でなる膜が得られることが判明した。
そこで、本発明者らは、一試験例として、Al粉末を2.2mol%、非晶質のSiO粉末を29mol%、ZnO粉末を残部として配合し混合して得られた混合粉末を真空中または不活性ガス中で加圧焼成(例えば、ホットプレス)することにより、透明酸化物膜形成用のスパッタリングターゲットを製造した。製造されたスパッタリングターゲットにおける組成成分について分析を行った。その分析結果が図1に示されている。
図1の写真は、製造されたスパッタリングターゲットについて、EPMA(フィールドエミッション型電子線プローブ)にて得られた元素分布像であり、図中の4枚の写真から、Zn、Si、A1、Oの各元素の組成分布の様子をそれぞれ観察することができる。
なお、EPMAによる元素分布像は、本来カラー像であるが、図1の写真では、白黒像に変換して示しているため、その写真中において、白いほど、当該元素の濃度が高いことを表している。具体的には、Alに関する分布像では、Al元素が白く斑点状(比較的白い部分)に分布し、Znに関する分布像では、Zn元素が全体的に存在し、その中でも、その濃度が高いと観られる白い部分が分布し、Oに関する分布像では、O元素が全体的にある程度の濃度で存在していることが観察される。そして、Siに関する分布像では、O元素が、ある程度の濃度で存在しているが、Zn元素の濃度が高い部分においては、存在していないことが観察できる。これらのことから、ZnOと、SiとZnとの複合酸化物(ZnSiO)とが、別々に存在すると推定される。
一方、図2のグラフは、上述したように製造された透明酸化物膜形成用のスパッタリングターゲットのX線回折(XRD)による分析結果を示している。図2の上段のグラフは、全体のピークを示しているが、その中段のグラフには、ZnSiOに係るピークが、そして、その下のグラフはZnAlに係るピークが、その下のグラフは、ZnOに係るピークが示されている。図1に示された分布画像と図2のグラフに現れたピークとを併せて考慮すると、ZnOおよび、またはAZO(AlがドープされたZnO)と、ZnとSiとの複合酸化物とZnAlとが別々に検出され、しかも、SiOの結晶相が存在していないことが分かる。なお、SiOが単独で存在し、かつ、結晶相析出しているのであれば、XRD回折の結果に、それに対応するピークが現れるはずであるが、図2の回折結果のグラフには、そのピークが現れておらず、SiOの結晶相は検出されなかった。
以上を総合すれば、製造したスパッタリングターゲットには、Al−Zn−Si−O四元系元素でなる焼成体の素地中において、Siは、少なくとも、ZnとSiとの複合酸化物として存在し、SiOの結晶相は存在していないことが確認された。従って、A1−Zn−Si−O四元系元素でなる透明酸化物を形成するためのスパッタリングターゲットを製造するとき、非晶質のSiO粉末を配合すれば、成膜される酸化膜の屈折率を低くするために、その配合量を増やしたとしても、焼成されたターゲット中において、SiOの結晶相が現れることがないため、スパッタリング時には、異常放電・パーティクルの発生を低減し、ターゲットの割れを防ぐことができ、良好なガスバリア性を有する透明酸化物膜を直流スパッタリングで成膜できるという知見が得られた。なお、AlがGaに置き換えられたGa−Zn−Si−O四元系元素でなる焼成体の場合も、同様であった。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)本発明の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットは、全金属成分量に対してAl及びGaのいずれか1種又は2種:0.6〜8.0at%と、Si:28.4〜33at%とを含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなる組成の酸化物であり、前記Siは、前記酸化物中において、ZnとSiとの複合酸化物として存在し、或いは、その一部が、ZnとSiとの複合酸化物、その残部が、非晶質酸化物として存在し、さらに、前記Al又はGaは、前記酸化物中において、Al 又はGa として存在し、或いは、その一部が、Al又はGaとZnと複合酸化物として存在していることを特徴としている。
(2)また、本発明の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法では、Al粉末及びGa粉末のいずれか1種又は2種:0.4〜4.0mol%と、非晶質のSiO粉末:29〜34mol%と、ZnO粉末:残部とを配合し混合して得られた混合粉末を真空中または不活性ガス中で加圧焼成することを特徴とし、さらに、前記SiOの粒径(D90)を10μm以下とし、前記Al又はGa:の平均粒径を5μm以下とし、前記混合粉末を、温度1100〜1300℃、圧力100〜400kgf/cmにて2〜10時間、真空または不活性ガス中で加圧焼成することを特徴としている。
この透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットを使用して成膜されたAl(又はGa)−Zn−Si−O四元系元素による透明酸化物膜は、SiOを多く含有するので、従来よりも可視光域で低い屈折率(n≦1.7)が得られ、また、膜が非晶質で形成され、高いガスバリア性(例えば、水蒸気バリア性)を有し、可視光域(波長380nm〜750nm)で95%以上の高い透過率が得られ、良好な透明性を有することが判明した。厚み50nm以上で水蒸気透過率が0.01g/(m・day)以下であり、電子ペーパーや太陽電池で採用される樹脂フィルム基材上に成膜されたガスバリア層として好適である。
なお、上記Al及びGaのいずれか1種又は2種の含有量を0.6〜8.0at%とした理由は、0.6at%未満では、十分な導電性を得ることができず、異常放電を発生して、直流スパッタリングができなくなるからであり、8.0at%を超えると、Al又はGaとZnとの複合酸化物であるZnAl、ZnGaが発生しやすくなり、これに起因して、異常放電が発生して直流スパッタリングができなくなるからである。なお、異常放電の発生を抑制するためには、ZnAl、ZnGaの(311)回折ピークはZnSiOの(410)回折ピークの1/50以下が望ましい。
さらに、Al及びGaのいずれか1種又は2種の含有量を0.6〜8.0at%にすると、酸化物組成中において、相対的に、Siの含有量を高く維持できるため、より低い屈折率を得ることができ、しかも、より高いガスバリア性が得られることになる。
また、本発明の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、Siの含有量を28.4〜33at%とした理由は、28.4at%未満では、低屈折率(n≦1.7)の透明酸化物膜を得られないからであり、33at%を超えると、導電性が低下して、直流スパッタリング不能になり、好ましくないからである。
XRDにおいて、スパッタリングターゲットに結晶相のSiOが存在しないと考えられる場合においても、EPMA等では非晶質のSiOの存在が観察される場合がある。この場合、異常放電・パーティクルを少なく抑えるためには、スパッタリングターゲット組織中のEPMA等で観察される非晶質SiOの粒子径を5μm以下とすることが好ましく、より一層の抑制効果を得るためには、0.5μm以下とすることが好ましい。なお、本発明においてはSiOの最も強度の強いピークがZnSiOの(410)回折ピークの1/100以下であれば結晶相のSiOが存在しないとみなした。また、XRDにおいて結晶相のSiOが存在しないと考えられ、且つZn,Al,Ga,Si、OのEPMAの元素分布像においてSiのみの酸化物が存在することが観察された場合、スパッタリングターゲットの組織中に非晶質のSiOが存在しているとみなした。
また、本発明の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法では、Al粉末及びGa粉末のいずれか1種又は2種:0.4〜4.0mol%と、非晶質のSiO粉末:29〜34mol%と、ZnO粉末:残部とを配合し混合して得られた混合粉末を加圧焼成してターゲット用の焼成体が得られる。
この製造方法で製造したスパッタリングターゲットの焼成体素地中では、焼成体に含まれているSiは、少なくとも、ZnとSiとの複合酸化物として存在し、非晶質のSiOの微細な粒子として存在することもあるが、その素地中には、SiOの結晶相は存在しない。スパッタリングターゲットの製造時に、SiO粉末を多く配合しても、結晶相が存在しないので、直流スパッタリングの際に異常放電・パーティクルが少ないターゲットが得られ、非晶質のSiO粉末を多く配合できることになり、成膜された透明酸化物膜における屈折率をより一層低くできる。本発明の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットでは、少なくとも、ZnとSiとの複合酸化物の形成に加えて、Al粉末又はGa粉末が0.4〜4.0mol%添加されているので、ターゲットの低抵抗化を図ると同時に異常放電・パーティクルを少なくすることができる。
また、本発明の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法においては、Al粉末又はGa粉末:0.4〜4.0mol%と、SiO粉末:29〜34mol%と、ZnO粉末:残部とを配合し混合して得られた混合粉末を、温度1100〜1300℃、圧力100〜400kgf/cmにて、2〜10時間、真空または不活性ガス中で加圧焼成することにより、焼成体素地中に、Zn及びSiの複合酸化物を分散形成するようにした。
さらに、本発明の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法においては、配合されるSiO粉末の粒径を10μm以下とすることが好ましく、さらには、5μm以下とすることが一層好ましい。これにより、加圧焼成時に、SiOとZnOが反応し、複合酸化物を形成されるようにしている。SiO粉末の粒径が、10μmを超えると、スパッタリングターゲットの組織中に5μmを超える大きさのSiOが残留する恐れがあり、スパッタリングターゲットに対する電流密度を非常に小さくしなければ、異常放電が発生してしまうため、生産性が悪くなるので、SiO粉末の粒径を10μm以下とした。
また、配合されるAl粉末又はGa粉末についても、その平均粒径を5μm以下とすることが好ましい。これは、加圧焼成時に、AlやGaがZnOに固溶され易くなり、スパッタリングターゲットの低抵抗化を促進するためである。
以上の様に、本発明の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットは、直流スパッタリングによる低屈折率の透明酸化物膜の成膜に使用でき、光ディスクに好適な光透過保護膜、液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子、電気泳動方式表示素子、トナー表示素子などの電子ペーパーや太陽電池などに用いられるガスバリア層などの成膜に使用するのに好適である。
本発明の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットによると、酸化物中のSiが、少なくとも、ZnとSiとの複合酸化物として存在し、非晶質のSiOの微細な粒子として存在することもあるが、そのターゲット中には、SiOの結晶相が形成されていないので、Al及びGaのいずれか1種又は2種の添加と併せてターゲットの低抵抗化を図ることができ、スパッタリング中に、ターゲットが割れたり、異常放電が発生したりすることがなく、直流スパッタリングで効率的に透明酸化物膜を成膜できるようになる。そして、この透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットを用いて成膜すれば、透明酸化物膜の屈折率を低くすることができ、ガスバリア性を向上することができる透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットを提供することができるという優れた効果を奏するものである。
本発明に係る透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットの一具体例について、酸化物スパッタリングターゲットの断面組織をEPMAにより測定した各元素の元素分布像である。 本発明に係る透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットのX線回折(XRD)の分析結果を示すグラフである。 スパッタリングターゲット中に非晶質のSiOの微細な粒子が存在する場合を示すEPMA画像例である。
つぎに、この発明の光記録媒体保護膜形成用ターゲット及びその製造方法について、以下に、実施例により具体的に説明する。
〔実施例〕
酸化亜鉛(化学式:ZnO、D50=1μm)と、二酸化ケイ素(非晶質、化学式:SiO、D90=5μm)と、酸化アルミニウム(化学式:Al、D50=0.2μm)または、酸化ガリウム化学式:Ga、D50=1.7μm)との各原料粉末を、表1に示す所定の比率になるように秤量した。

この秤量した原料粉末とその3倍量(重量比)のジルコニアボール(直径5mm)とをポリ容器に入れ、ボールミル装置にて24時間湿式混合した。なお、この際の溶媒には、アルコールを用いた。次に、得られた混合粉末を乾燥後、1300℃にて、3時間、300kgf/cmの圧力にて真空中でホットプレスし、実施例1〜12及び参考例1のスパッタリングターゲットを作製した。なお、ターゲットのサイズは、直径125mm×厚さ5mmとした。ここで、真空中のホットプレスの代わりに、不活性ガス中でホットプレスすることもできる。また、ホットプレスに限らず、熱間静水圧プレス(HIP)など、他の方法で加圧焼成することも可能である。
〔比較例〕
スパッタリングターゲットの比較例として、本発明の成分組成割合の設定範囲外としたものについても、表1に示す組成で、同様に、比較例1〜8のスパッタリングターゲットを作製した。なお、比較例8では、結晶質のSiO粉末が使用されている。
次に、上記実施例1〜12、参考例1及び比較例1〜8のスパッタリングターゲットにおける金属組成を表2に示した。

次に、表1及び表2に示された上記実施例1〜12、参考例1及び比較例1〜8のスパッタリングターゲットについて、XRD分析、EPMAによる分析及び比抵抗測定を行った。
<XRD分析>
XRD分析は、図2に示したXRD分析の場合と同様の手法で行った。スパッタリングターゲットについてのXRD分析により、XRDピークの有無を確認した。このXRD分析は、以下の条件で行った。
試料の準備:試料はSiC−Paper(grit 180)にて湿式研磨、乾燥の後、測定試料とした。
装置:理学電気社製(RINT−Ultima/PC)
管球:Cu
管電圧:40kV
管電流:40mA
走査範囲(2θ):5°〜80°
スリットサイズ:発散(DS)2/3度、散乱(SS)2/3度、受光(RS)0.8mm
測定ステップ幅:2θで0.02度
スキャンスピード:毎分2度
試料台回転スピード:30rpm
<EPMA分析>
ターゲットの組織中における非晶質SiOの粒子についてEPMA等で得られた分布画像から、その大きさを確認した。
<比抵抗測定>
スパッタリングターゲットの比抵抗測定は、三菱化学(株)製の抵抗測定器ロレスタGPを用いて測定した。
以上の結果を表3に示した。

表3に示されるように、上記実施例1〜12及び参考例1のスパッタリングターゲットのいずれにおいても、ターゲットの組織中に、上述したXRD分析及びEPMA分析では、SiOの結晶相は確認されなかった。そして、ZnO、ZnSiOが形成されていることが確認できた。また、Al又はGaとZnとの複合酸化物であるZnAl、ZnGaの(311)回折ピークはZnSiOの(410)回折ピークの1/50以下であることも確認された。
さらに、上記実施例1〜10のスパッタリングターゲットのいずれにおいても、非晶質のSiOの粒子は確認されなかった。即ち、確認できる程の大きさの粒子が存在すれば、図3に示されたEPMAにより取得された画像例のように、粒子部分が明瞭に表出されるが、実施例1〜10のスパッタリングターゲットのいずれについても、その粒子部分を確認できなかった。これは、焼成時に配合されたSiO粉末の粒径が、5μmであったところ、焼成によって、画像中では確認できないほど粒径が小さくなったことを示している。
なお、実施例11のスパッタリングターゲットの製造においては、8μmの粒径(D90)を有する非晶質のSiO粉末が配合され、実施例12のスパッタリングターゲットの製造においては、10μmの粒径(D90)を有する非晶質のSiO粉末が配合され、さらに、参考例1のスパッタリングターゲットの製造においては、13μmの粒径(D90)を有する非晶質のSiO粉末が配合された。図3の画像は、この実施例12のスパッタリングターゲットについて取得されたものである。この画像によれば、微細な非晶質のSiOの粒子が組織中に存在していることが観察される。これは、スパッタリングターゲットの製造時に配合された10μmの粒径の非晶質のSiO粉末が、ホットプレス焼成後においても、粒子径:5μm以下の微細な非晶質のSiOが存在していることを示している。なお、粒子径は円相当直径の最大値を組織中のSiOの粒子径とした。
同様に、実施例11のように、8μmの粒径を有する非晶質のSiOが配合された場合には、粒子径:0.5μm以下の微細な非晶質のSiOが存在していることを、そして、参考例1のように、13μmの粒径を有する非晶質のSiOが配合された場合には、粒子径:5μmを超える大きさではあるが、微細な非晶質のSiOが存在していることが、EPMA分析の画像によって、それぞれ観察された。これらは、粒子径が5μmを超える大きさの非晶質のSiOが配合されたときには、ホットプレス焼成後には、配合された非晶質のSiOが、ZnとSiとの複合酸化物に変化するとともに、微細な非晶質のSiOの粒子として残存することを示している。
次に、上述した実施例1〜12、参考例1及び比較例1〜8のスパッタリングターゲットを用いて、以下の成膜条件により、実施例1〜12、参考例1及び比較例1〜8の光記録媒体用保護膜を成膜した。なお、実施例1〜12及び参考例1の成膜においては、いずれも直流(DC)スパッタリングを実施し、高周波(RF)スパッタリングについては、実施しなかった。一方、比較例1〜8の成膜においては、直流(DC)スパッタリングを試み、成膜が困難であったものについて、高周波(RF)スパッタリングにて成膜を行い、膜の評価を行った。
<成膜条件>
・電源:DC500WまたはRF500W
・全圧:0.4Pa
・スパッタリングガス:Ar=45sccm、O:5sccm
・ターゲット−基板(TS)距離:70mm
なお、屈折率及び透過率測定用として、ガラス基板上に膜厚150nmを、また、水蒸気透過測定用として、PETフィルム(縦:100nm×横:100、厚さ:120μm)上に膜厚50nmを有する透明酸化物膜をそれぞれ成膜し、各種の測定を行った。
上記の成膜条件に従って成膜された実施例1〜12、参考例1及び比較例1〜8の光記録媒体用保護膜について、以下に示す手法により、異常放電回数、屈折率、ガスバリア性、透過率を測定した。これらの測定結果により、直流スパッタリングの可否を評価した。その測定・評価の結果を表4に示した。
<光学特性>
得られた各透明膜の屈折率は分光エリプソメーター(HORIBA Jobin Yvon社製UVISEL NIA AGMS)によって、透過率の測定には、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製V−550)を用いた。
<水蒸気バリア性>
水蒸気バリア性(水蒸気透過率)は、モコン法を用い、mocon社製PERMATRAN−W MODEL 3/33を用いてJIS規格のK7129法に基づいて測定した。
<異常放電とパーティクル>
上述の条件において12時間のスパッタリングを行い、異常放電の回数を計測した。その後、スパッタチャンバーを開放し、チャンバー内のパーティクルを確認した。

表4によれば、実施例1〜12のスパッタリングターゲットを使用して、直流スパッタリングを行った結果、いずれにおいても、異常放電の発生回数が極めて少ないことが確認でき、いずれの実施例の場合にも、直流スパッタリングを行えることが実証された。これに対して、比較例1、3、7のスパッタリングターゲットを直流スパッタリングで成膜しようとした場合には、プラズマが生じず、スパッタリング不能となり、或いは、比較例2、4、5、8の場合には異常放電の多発により、10秒以上の連続スパッタリングができなかった。各比較例では、高周波スパッタリングを行えば、成膜することができた。
なお、表4においては、プラズマが生じず、スパッタリング不能な場合「スパッタ不能」、異常放電の多発により、10秒以上の連続スパッタリングができなかった場合「不可」と表記した。
さらに、実施例1〜12のスパッタリングターゲットを使用してガラス基板上に直流スパッタリング成膜された透明酸化物膜のいずれにおいても、屈折率nは、いずれも1.7以下を達成できており、透明酸化物膜としても、優れた水蒸気バリア性、透過率を示し、所望の膜特性が得られた。これに対して、比較例1〜7のいずれにおいても、配合される原料組成が、実施例1〜12における原料組成の範囲外であるため、得られた膜における所望の屈折率を得ることができなかった。また、比較例6では、直流スパッタリングを行うことができたが、非晶質のSiOの配合が少ないため、得られた膜における所望の屈折率を達成できていない。さらに、比較例8では、結晶質のSiOが配合されたため、その配合量が、実施例1〜12における原料組成の範囲内のものであっても、直流スパッタリングで成膜できないだけでなく、得られた膜における所望の屈折率を得ることができなかった。
なお、参考例1のスパッタリングターゲットについては、異常放電の発生回数が、他の実施例に比較して多いが、比較例における多発に比較すれば、少なく、電源停止に至ることはないので、直流スパッタリングを行うことができた。この程度の回数であれば、屈折率nも、1.7以下を達成でき、水蒸気バリア性、透過率に関しても、実用上、問題ない結果が得られているので、透明酸化物膜の形成に何ら支障きたすものではなく、ターゲット組織中に、非晶質のSiOの微細な粒子が存在していてもよいことを示している。
以上から、透明酸化物膜形成時に、実施例1〜12のスパッタリングターゲットを使用した直流スパッタリングができることが確認され、しかも、これらのスパッタリングターゲットを使用した直流スパッタリングで成膜された透明酸化物膜は、所望の屈折率(n≦1.7)を達成することができることも確認された。
以上の様に、本発明の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットによると、酸化物中のSiが、少なくとも、ZnとSiとの複合酸化物として存在し、そのターゲット中には、Al及びGaのいずれか1種又は2種の添加と併せてターゲットの低抵抗化を図ることができるので、スパッタリング中に、ターゲットが割れたり、異常放電が発生したりすることがなく、直流スパッタリングで効率的に透明酸化物膜を成膜でき、透明酸化物膜の屈折率を低くすることができ、ガスバリア性を向上することができるなどの所望の特性を有する透明酸化物膜を形成することができる。
なお、本発明を、スパッタリングターゲットとして利用するためには、面粗さ:5.0μm以下、より好ましくは1.0μm以下、粒径:20μm以下より好ましくは10μm以下、金属系不純物濃度:0.1原子%以下、より好ましくは0.05原子%以下、抗折強度:50MPa以上、より好ましくは100MPa以上であることが好ましい。上記各実施例は、いずれもこれらの条件を満たしたものである。

Claims (4)

  1. 全金属成分量に対して、Al及びGaのいずれか1種又は2種:0.6〜8.0at%と、Si:28.4〜33at%とを含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなる組成の酸化物であり、
    前記Siは、前記酸化物中において、ZnとSiとの複合酸化物として存在し、或いは、その一部が、ZnとSiとの複合酸化物、その残部が、非晶質酸化物として存在し、さらに、前記Al又はGaは、前記酸化物中において、Al 又はGa として存在し、或いは、その一部が、Al又はGaとZnと複合酸化物として存在していることを特徴とする透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲット。
  2. Al粉末及びGa粉末のいずれか1種又は2種:0.4〜4.0mol%と、非晶質のSiO粉末:29〜34mol%と、ZnO粉末:残部とを配合し混合して得られた混合粉末を真空中または不活性ガス中で加圧焼成することを特徴とする透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
  3. 前記SiO 粉末の粒径を10μm以下とし、前記Al又はGa:の平均粒径を5μm以下としたことを特徴とする請求項2に記載の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
  4. 前記混合粉末を、温度1100〜1300℃、圧力100〜400kgf/cmにて2〜10時間、真空または不活性ガス中で加圧焼成することを特徴とする請求項2又は3に記載の透明酸化物膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
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