JP5947076B2 - Pcb抽出装置、並びにこれを用いた、pcb検出装置及びpcb検出方法 - Google Patents
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Description
<1> 絶縁油中に含まれるポリ塩化ビフェニル(PCB)を抽出するPCB抽出装置であって、前記絶縁油を分解するキャピラリーカラムと、前記キャピラリーカラムにより分解された前記絶縁油からPCBを抽出するマイクロ流体デバイスとを有してなり、前記マイクロ流体デバイスが、前記絶縁油を流通させる流路と、前記流路に交差する方向に延設されたPCB抽出室とを有することを特徴とするPCB抽出装置である。
<2> PCB抽出室が、ガラスにより形成される前記<1>に記載のPCB抽出装置である。
<3> PCB抽出室の形状が、略半球状及び略角柱状の少なくともいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載のPCB抽出装置である。
<4> 一対のPCB抽出室が流路に対向して延設され、該一対のPCB抽出室を複数有する前記<1>から<3>のいずれかに記載のPCB抽出装置である。
<5> キャピラリーカラムの内径が、0.5mm〜5.0mmである前記<1>から<4>のいずれかに記載のPCB抽出装置である。
<6> キャピラリーカラムが、発煙硫酸含浸シリカゲルを含有する領域を有し、前記発煙硫酸含浸シリカゲルを含有する領域における前記キャピラリーカラムの空隙率が、30体積%以下である前記<1>から<5>のいずれかに記載のPCB抽出装置である。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のPCB抽出装置と、該PCB抽出装置により抽出されたPCBを検出するPCB検出手段とを有することを特徴とするPCB検出装置である。
<8> 前記<7>に記載のPCB検出装置を用いるPCB検出方法であって、PCB抽出装置におけるマイクロ流体デバイスの流路及びPCB抽出室にPCB抽出溶媒を導入し、前記マイクロ流体デバイスの前記流路に、PCBを含有する絶縁油を流通させ、前記PCB抽出室において、前記絶縁油中に含まれる前記PCBを前記PCB抽出溶媒で抽出するPCB抽出工程と、抽出した前記PCBを検出するPCB検出工程と、を含むことを特徴とするPCB検出方法である。
<9> PCB抽出溶媒が、ジメチルスルホキシドである前記<8>に記載のPCB検出方法である。
本発明のPCB検出装置は、PCB抽出装置と、PCB検出手段とを有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
本発明のPCB検出方法は、PCB抽出工程と、PCB検出工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
前記PCB検出方法は、前記PCB検出装置により、好適に実施することができる。
前記PCB抽出装置は、前記絶縁油中に含まれるPCBを抽出する装置である。
前記PCB抽出工程は、前記絶縁油中に含まれるPCBを抽出する工程である。
前記PCB抽出工程は、前記PCB抽出装置により、好適に実施することができる。
前記PCB抽出装置は、絶縁油を分解するキャピラリーカラムと、前記キャピラリーカラムにより分解された前記絶縁油からPCBを抽出するマイクロ流体デバイスとを有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
前記キャピラリーカラムにより前記絶縁油中に含まれる妨害成分を分解及び/又は吸着することができ、前記マイクロ流体デバイスにより前記絶縁油中に含まれるPCBを選択的に抽出することができる。
前記キャピラリーカラムは、前記絶縁油中に含まれるPCBを検出する際の妨害成分を分解及び/又は吸着することができるカラムであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記キャピラリーカラムを用いて前記絶縁油を通過させることにより、前記妨害成分が分解及び/又は吸着され、前記絶縁油中に含まれるPCBや前記絶縁油を送液する際に使用する溶媒等が溶出される。
ここで、前記絶縁油は、JIS規格の1種であればよく、主成分として鉱油を含んでいるものなどが挙げられる。また、前記妨害成分は、後述の前記PCBを検出する際に用いる抗体と結合しうる成分又は該抗体を変性させてしまう成分である。前記妨害成分は、前記絶縁油中に含まれている成分であり、前記絶縁油の種類によって含まれる成分が異なるが、前記鉱油を含む場合には、例えば、鎖式飽和炭化水素、芳香族炭化水素などが挙げられる。
前記マイクロ流体デバイスは、前記キャピラリーカラムにより前記妨害成分が分解されたPCBを含有する絶縁油から、前記PCBを抽出するデバイスである。
前記マイクロ流体デバイスは、前記絶縁油を流通させる流路と、前記流路に交差する方向に延設されたPCB抽出室とを有する。
ここで、前記マイクロ流体デバイスの第一の実施形態を、図面を用いて説明すると、図2Aに示すように、前記マイクロ流体デバイス20における前記流路20B、及び前記PCB抽出室20Aは、その空間サイズが小さいため、比界面積が大きく、拡散距離が短いため、迅速な分子輸送プロセスとすることができる。
また、前記マイクロ流体デバイスの第二の実施形態を、図面を用いて説明すると、図2Bに示すように、前記マイクロ流体デバイス20における前記流路20B、及び前記PCB抽出室20Aは、その空間サイズが小さいため、比界面積が大きく、拡散距離が短いため、迅速な分子輸送プロセスとすることができる。
前記流路は、前記キャピラリーカラムにより前記妨害成分が分解された絶縁油を流通させる流路である。前記流路の線流は、低レイノルズ数であることから、前記流路に平行して前記絶縁油を流通させることができる。
前記PCB抽出室としては、前記絶縁油中に含まれる前記PCBを抽出することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記PCB抽出室を、前記PCBを抽出するための溶媒(PCB抽出溶媒)で満たすことにより、前記絶縁油中に含まれるPCBを抽出することができる。
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記分解された絶縁油を回収する部材、前記分解された絶縁油を前記マイクロ流体デバイスに送液する部材などが挙げられる。
前記分解された絶縁油を前記マイクロ流体デバイスに送液する部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記絶縁油を送液するためのマイクロシリンジポンプ、該マイクロシリンジポンプに接続させるシリンジ用アダプタ、該シリンジ用アダプタと前記マイクロ流体デバイスとを接続するためのピークチューブなどが挙げられる。
前記PCB抽出工程は、前記PCB抽出装置を用いて実施することができ、前記マイクロ流体デバイスの前記流路及び前記PCB抽出室に前記PCB抽出溶媒を導入し、前記マイクロ流体デバイスの前記流路に、PCBを含有する絶縁油を流通させ、前記PCB抽出室において、前記絶縁油中に含まれる前記PCBを前記PCB抽出溶媒で抽出する工程である。
なお、前記マイクロ流体デバイスの材質として、ガラスを用いる場合、前記マイクロ流体デバイスの前記流路及び前記PCB抽出室に、前記抽出溶媒として前記DMSOを直接導入すると、前記PCB抽出室に空気が残存して、前記PCB抽出室が前記DMSOで満たされないため、予め前記PCB抽出室にエタノール、アセトンなどを送液した後に、前記DMSOを導入して溶媒置換する必要がある。
また、前記PCB抽出室において、前記PCBを抽出した後に、前記流路に残存する絶縁油を除去した後に、前記PCB抽出室に抽出されたPCBを回収する。
前記マイクロ流体デバイスは、前記流路及び前記PCB抽出室にエタノールを送液し、更にDMSOで溶媒置換した後に(図3Aの(A)及び図3Bの(A)参照)、前記流路に前記PCB含有絶縁油を流通させて(図3Aの(B)及び図3Bの(B)参照)、空気を導入して前記PCB含有絶縁油を排出させて(図3Aの(C)及び図3Bの(C)参照)、PBS−BSA溶液を導入して前記PCB抽出室に含まれるPCBを含むDMSOを希釈させながら排出させ(図3Aの(D)及び図3Bの(D)参照)、脱溶媒することにより、前記絶縁油からPCBを含む溶出液を回収することができる。なお、図3Aの(B)及び図3Bの(B)に示すように、前記流路に前記絶縁油を流通させると、稀に微量の前記絶縁油が、前記PCB抽出室に混入することもあり、前記PCB抽出室に混入した絶縁油成分は、前記PCB抽出室に留まり、排出孔より排出されることはない。
なお、前記マイクロ流体デバイスにおける流体挙動を観測する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記PCB抽出室における蛍光微粒子をDMSOに分散させ、図4A及び図4Bに示される蛍光画像を用いて、前記蛍光微粒子の軌跡から流線を観測する方法が好ましい。なお、前記蛍光画像は、蛍光顕微鏡とCCDカメラとを用いて取得することができる。
前記PCB検出手段は、前記PCB抽出装置により前記絶縁油中から抽出されたPCBを検出する手段である。
前記PCB検出工程は、前記PCB抽出工程により前記絶縁油中から抽出されたPCBを検出する工程である。
前記PCB検出工程は、前記PCB検出手段により、好適に実施することができる。
前記その他の工程及びその他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
試験例1では、PCB抽出装置に用いるキャピラリーカラムの性能を評価した。
−キャピラリーカラムの製造−
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のチューブ(内径1.59mm、外径3.17mm、アズワン株式会社製、商品名「四弗化パイプ」)に、テフゼルチューブ(内径0.25mm、外径1.57mm、ジーエルサイエンス株式会社製、商品名「テフゼルチューブ」)を差し込み、アラルダイトにて接着した。チューブ内にガラス繊維、アミノプロピルシリカゲル(株式会社住化分析センター製)130mg、無水硫酸ナトリウム(株式会社住化分析センター製)64mg、発煙硫酸含浸シリカゲル(遊離SO3:20%以下、株式会社住化分析センター製)170mg、及び無水硫酸ナトリウム(株式会社住化分析センター製)64mgをこの順に充填して、キャピラリーカラムを製造した(図1の符号10参照)。
上記製造したキャピラリーカラムを用いて、PCB含有絶縁油中に含まれるPCBを溶出させるのに必要な試薬量、及び溶出にかかった時間を計測することにより、その性能を試験した。まず、PCB含有絶縁油25μLを前記キャピラリーカラムの先端に添着した。次に、前記キャピラリーカラムの先端から流量を1.2mL、流速を300μL/minに設定してヘキサンを送液することにより、前記絶縁油中に含まれる妨害成分を前記キャピラリーカラムにより分解及び吸着させて、前記PCBを含むヘキサンを溶出させた。
なお、送液にはマイクロシリンジ(1001TLL,Hamilton社製)とマイクロシリンジポンプ(KDS210,KD Scientific社製)を用いた。カラムとシリンジを接続するため、上流側に高速液体クロマトグラフィー用のコネクター(P302,P300,P−628,Upchurch Scientific社製)を装着した。
−カラム(従来品)の製造−
現行法である「絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアル」(第2版)(平成22年6月、環境省廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課)に記載の[高濃度硫酸シリカゲルカラム]を比較例1で使用するカラムとして製造した(図1の符号15参照)。
上記製造したカラム(従来品)を用いて、PCB含有絶縁油中に含まれるPCBを溶出させるのに必要な試薬量、及び溶出にかかった時間を計測することにより、その性能を試験した。まず、PCB含有絶縁油295μLを前記カラムの先端に添着し、3分間放置した。次に、カラム壁面を洗浄するようにヘキサン75μLを2回添加し、無水硫酸ナトリウム層やカラムの壁面に残存している絶縁油を高濃度硫酸シリカゲル層に移動させ、1分間放置した。1分間放置後、ヘキサン10mL(5mL×2回)をカラムにゆっくり添加し、自然滴下により、前記絶縁油中に含まれる妨害成分を前記カラムにより分解及び吸着させて前記PCBを含むヘキサンを溶出させた。
実施例1で製造したキャピラリーカラムは、マイクロシリンジポンプを用いて溶出するため、送液速度や流量を適宜設定することができるのに対し、現行法である比較例1で製造したカラムは、自然滴下により前記PCB絶縁油中に含まれるPCBを溶出させるため、送液速度や流量を設定することができない。また、実施例1で製造したキャピラリーカラムでは、カラムを通過する溶液が全ての充填剤と接触するため、現行法である比較例1のカラムで必要とされる試薬量の12分の1とすることができた。
よって、実施例1で製造したキャピラリーカラムを用いることにより、前記絶縁油からのPCB抽出に必要な試薬量の大幅な低減による低コスト化を図ることができた。
試験例2では、現行法によるPCB抽出方法と、本発明によるPCB抽出方法とを比較し、その性能を評価した。
実施例2では、PCB含有ヘキサン溶液に含まれるPCBを、マイクロ流体デバイスを用いて抽出し、公知の検出方法を用いて抽出されたPCBを検出することによりその性能を評価した。
PCB含有ヘキサンとして、純粋なヘキサンに、カネクロール混合液(KC−300、KC−400、KC−500、及びKC−600をそれぞれ等量で混合したカネクロール混合液,ジーエルサイエンス株式会社製)を添加して、5.8×10−2ppm、1.5×10−1ppm、2.9×10−1ppm、1.5ppm、2.9ppm、15.0ppm、29.0ppmのPCB含有ヘキサン溶液を調製した。
フォトリソグラフィ工程を用いてガラス製マイクロ流体デバイスを作製した。
まず、表面研磨したテンパックスガラス基板(40mm×40mm×t=0.7mm、柴田科学株式会社製)を、硫酸過水(濃硫酸と過酸化水素水の混合液)に10分間以上浸漬した後、蒸留水に浸漬して10分間超音波洗浄した後に、2−プロパノールで洗浄し、前記基板を乾燥させた後、スパッタリング装置(L−332S−FH、キャノンアネルバ株式会社製)を用いてクロム薄膜を形成した。
上記製造したマイクロ流体デバイスを用いて、各濃度に調製した前記PCB含有ヘキサン溶液から前記PCBを抽出した。前記PCB含有ヘキサン溶液の流量は、10μL/minに設定し、接触時間が42秒間となるように設定した。以下に手順を示す。
まず、前記マイクロ流体デバイスにおける流路にエタノールを通液後、PCB抽出溶媒であるDMSOを送液して置換した。図3Aの(A)に示すように、前記マイクロ流体デバイスにおける前記PCB抽出室に前記DMSOが満たされた状態となった。次に、図3Aの(B)に示すように、各濃度の調製した前記PCB含有ヘキサン溶液50μLを送液して、前記PCB抽出室に前記PCB含有ヘキサン溶液中に含まれる前記PCBのみを分配させた。そして、図3Aの(C)に示すように、空気を送気して流路に含まれる前記PCB含有ヘキサン溶液を除去した後、図3Aの(D)に示すようにPBS−BSA溶液1mLを100μL/minで送液して、前記PCB抽出室に分配された前記PCBを溶出させて、前記PCBを含む溶出液を回収し、前記PCBの濃度を測定した。なお、送液は、マイクロシリンジポンプを用いて行った。まず、導入孔及び排出孔部分にネジ穴を設けたアルミ製の冶具にマイクロ流体デバイスをセットし、フェラル及びステンレス製ネジにPEEKチューブ(内径0.26mm×外径0.5mm)を差し込むことで、マイクロ流体デバイスとチューブとを接続した。前記チューブの先端にはシリンジ用アダプタ(ISC−01、マイクロ化学技研株式会社製)を装着し、シリンジと接続した。前記シリンジをマイクロシリンジポンプにセッティングして送液した。
前記PCBの検出は、抗原抗体反応を利用したイムノアッセイにより検出した。前記回収したPCBを含む溶出液を、PBS−BSA溶液にて1.7倍希釈し、抗体溶液の濃度が250pmol/Lとなるように調製した試料中に含まれるPCB濃度を測定した。
前記イムノアッセイで用いる固相担体としては、アガロースビーズ(NHS−activated SepharoseTM 4fast flow,Amercham Biosciences社製)を用いた。
前記ビーズ担体の活性化は、以下の手順に従って行った。まず、ビーズ容量1mLとなるように懸濁液を採取し、1mMのHCL(1mL)で10回洗浄した。次に、この懸濁液を生理食塩水(PBS)(pH7.5,1mL)にて10回洗浄して、PBS(0.9mL)に懸濁した。この懸濁液に、0.1mLの[合成したジクロロフェノール誘導体及びBSAの複合体を含むPBS溶液](前記誘導体及び前記複合体の濃度:1mg/mL)を添加した。この溶液を室温にて2時間振とうした後、0.1mLの[BSAを含むPBS溶液](BSA濃度:100mg/mL)を添加し、更に2時間振とうした。振とう後、ビーズを30mLのPBSに懸濁して検出セルに充填した。
以上により、製造例2で製造したマイクロ流体デバイスを用いたPCB抽出の性能試験を行った。結果を図5及び図6に示す。
比較例2では、PCB含有ヘキサン溶液に含まれるPCBを現行法により抽出し、公知の検出方法を用いて抽出されたPCBを検出することによりその性能を評価した。
実施例2と同様の方法により、各濃度のPCB含有ヘキサンを調製した。
現行法である「絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアル(第2版)(平成22年6月、環境省廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課)」に記載の高濃度硫酸シリカゲルカラム処理における[濃縮・分配]の欄に記載された方法により、各濃度に調製した前記PCB含有ヘキサン溶液から前記PCBを抽出し、回収した。
実験例2と同様の方法により、前記回収したPCBの検出を行った。結果を図5及び図6に示す。
本発明のPCB抽出装置におけるガラス製マイクロ流体デバイスを利用したDMSO分配に対する濃度依存、及び現行法で前処理及び調製した溶液を供した場合の濃度依存を図5に示す。抗体の半分が反応するPCB濃度をIC50濃度とし、それぞれの校正曲線よりIC50濃度を算出した。図5より、本発明のガラス製マイクロ流体デバイスを利用した場合、PCB検出の測定可能な濃度範囲が、0.034ppm〜1.34ppmであり、校正曲線からIC50濃度を算出すると0.23ppmとなることがわかった。このことから、本発明のPCBマイクロ流体デバイスを用いてPCB含有ヘキサン溶液からPCBを抽出した後、抽出されたPCBを検出すると、現行法よりも3倍程度高感度にPCBを検出できることがわかった。
また、現行法によるPCB検出は、前処理した70μLのDMSOを約70倍希釈したものを測定液として用いた。これに対し、本発明によるPCB検出は、7μLのDMSOを約240倍希釈したものを測定液として用いた。現行法によるPCB検出で用いた測定液と、本発明によるPCB検出で用いた測定液とでは、DMSOの希釈率が約3.4倍異なっていた。それにも関わらず、本発明によるPCB検出の方が、現行法によるPCB検出よりも高感度でPCBを検出できることがわかった。これは、本発明によるPCB検出が、マイクロ流体デバイスを用いてフロー式でPCB抽出を行ったことにより、測定液中のPCBが濃縮されて抽出されたからである。
よって、図6にも示したように、現行法よりも本発明のガラス製マイクロ流体デバイスを用いることにより、10倍程度のPCB濃縮抽出が可能となり、PCB抽出処理の高効率を実現することができた。また、本発明は、マイクロ流体デバイスを用いてPCB抽出を行うことにより、現行法で必須となっていたエバポレーターによるPCBの濃縮工程を経ずにPCBの濃縮を行うことができるため、PCB抽出処理の簡便化、迅速化等も可能となった。
試験例3では、PCB抽出装置に用いるキャピラリーカラムの発煙硫酸含浸シリカゲルの充填量の違いによるPCB回収率の性能を評価した。
−キャピラリーカラムの製造−
実施例1で製造したキャピラリーカラムにおいて、発煙硫酸含浸シリカゲルの含有量を170mgから400mgに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてキャピラリーカラムを製造した。製造したキャピラリーカラムは、発煙硫酸含浸シリカゲルを含有する領域における前記キャピラリーカラムの空隙率が、計算により25体積%となることがわかった。なお、ここでの空隙率は、シリカゲルの細孔容積を含む値である。
上記製造したキャピラリーカラムを用いて、既知濃度のPCBを含有する絶縁油中に含まれるPCBを回収した。まず、PCB含有絶縁油(PCB濃度:0.41mg/kg)25μLを前記キャピラリーカラムの先端に添着した。このとき、前記キャピラリーカラムに含有される無水硫酸ナトリウムと前記PCB含有絶縁油とを接触させないように添着した。次に、前記キャピラリーカラムの先端から流量を0.6mL、0.8mL、及び1.0mL、流速を100μL/min、300μL/min、及び500μL/minに設定してヘキサンを送液した。前記ヘキサンを送液することにより、前記絶縁油中に含まれる妨害成分を前記キャピラリーカラムにより分解及び吸着させた。そして、前記キャピラリーカラムの下流側から前記PCBを含むヘキサンを溶出させて、PCB回収溶液とした。なお、送液にはマイクロシリンジ(1001TLL,Hamilton社製)とマイクロシリンジポンプ(KDS210,KD Scientific社製)を用いた。カラムとシリンジを接続するため、上流側に高速液体クロマトグラフィー用のコネクター(P302,P300,P−628,Upchurch Scientific社製)を装着した。
前記PCB回収溶液中に含まれるPCB量をイムノアッセイにより定量して、その回収率を算出することにより、キャピラリーカラムの性能を試験した。まず、前記PCB回収溶液(全量)を2mLのマイクロチューブに回収し、ジメチルスルホキシド(DMSO)(25μL)を加え、温風によりヘキサンを蒸発させた。ヘキサンの蒸発後、ボルテックスミキサーにて1分間攪拌し、回収したPCBをDMSOに分配させた。この分配液を遠心分離機にて遠心分離(10,000rpm、1分間)した後、下相のDMSOを18μL採取した。採取したDMSOを、0.1質量%のPBS−BSA、DMSO、及び抗体を加えて100倍希釈して希釈液(抗体濃度:250pmol/L、DMSO濃度:2体積%)を得た。この希釈液を結合平衡除外測定装置に供し、PCB量を測定した。なお、PCB量を測定する際に用いた抗体、固相担体、及び結合平衡除外測定装置は、実施例2と同様のものを使用した。また、回収率の測定は3回行い、その平均値を用いた。結果を図7Aに示す(図7A中、エラーバーは標準偏差を示す)。
−キャピラリーカラムの製造−
実施例1と同様の方法により、キャピラリーカラム(発煙硫酸含浸シリカゲルの含有量:170mg)を製造した。実施例4のキャピラリーカラムは、前記発煙硫酸含浸シリカゲルを含有する領域における前記キャピラリーカラムの空隙率が、計算により69体積%となることがわかった。なお、前記空隙率は、シリカゲルの細孔容積を含む値である。
前記キャピラリーカラムに含有される無水硫酸ナトリウムと前記PCB含有絶縁油とを接触させて添着したこと以外は、実施例3と同様の方法により、PCB含有絶縁油(PCB濃度:0.41mg/kg)25μLから、PCB回収溶液を得た。
実施例3と同様の方法により、PCB回収溶液におけるPCB回収率を測定した。結果を図7Bに示す(図7B中、エラーバーは標準偏差を示す)。
実施例3のキャピラリーカラムを用いて、流量を0.6mLに設定してPCBを回収した場合、PCBの回収率が42%〜51%となり、流量を0.8mL以上に設定してPCBを回収した場合、PCBの回収率が50%以上となった。
一方、実施例4のキャピラリーカラムを用いて、流量を0.6mLに設定してPCBを回収した場合、PCB回収率が47%〜53%となったが、流量を0.8mL以上に設定してPCBを回収すると、50%以下の回収率となった。
実施例3のキャピラリーカラムにおける前記空隙率は30体積%以下であり、実施例4のキャピラリーカラムにおける前記空隙率は60体積%以上である。キャピラリーカラムにおける発煙硫酸含浸シリカゲル領域の空隙率を30体積%以下にすると、絶縁油分解能が向上し、PCB回収率が高くなることがわかった。
一方、実施例3では、前記PCB含有絶縁油をキャピラリーカラムに通液する際、前記キャピラリーカラムに含有される前記無水硫酸ナトリウムと前記PCB含有絶縁油とが直接接触しないよう、前記PCB含有絶縁油を前記キャピラリーカラムの先端に添着させた後、ヘキサンにより前記PCB含有絶縁油を送液させる手法をとった。その結果、PCB溶出時間が実施例4よりも短時間となるだけでなく、送液するヘキサン量も最小限に留めることができた。また、前記キャピラリーカラムに含有される発煙硫酸含浸シリカゲルのSO3ガスと、前記PCB含有絶縁油との接触時間が従来の4分の1である1分間に短縮され、前記キャピラリーカラムにより前記PCB含有絶縁油が効率的に分解され、大幅な分解時間の短縮を実現することができた。
試験例4では、本発明によるPCB検出と現行法によるPCB検出とを比較し、最終的に得られるPCBの検出感度を比較した。
−PCB抽出装置の製造−
キャピラリーカラムとマイクロ流体デバイスとを図8に示すように連結することによりPCB抽出装置を製造した。
実施例3と同様の方法により、キャピラリーカラム(発煙硫酸含浸シリカゲルの含有量:400mg、空隙率:25体積%)を製造した。
実施例2で製造したマイクロ流体デバイスにおいて、マイクロ流体デバイスの流路の幅が260μm、流路の深さが50μm、流路の長さが57cm、PCB抽出室の幅が520μm、PCB抽出室の深さが50μm、PCB抽出室が1,212個、及びPCB抽出室1個あたりの体積が12.2nLとなるように設計したこと以外は、実施例2と同様にして製造した(図2B参照)。導入孔及び排出孔部分にネジ穴を設けたアルミ製の冶具にマイクロ流体デバイスをセットした。排出孔にはフェラル及びステンレス製ネジにPEEKチューブ(内径0.26mm×外径0.5mm)を差し込み、前記マイクロ流体デバイスとチューブを接続した。前記導入孔には、アップチャーチ社製コネクタ(P−200及びP−206)に前記キャピラリーカラムのテフゼルチューブを差し込むことでマイクロ流体デバイスとチューブとを接続した。送液には、マイクロシリンジ(1001TLL、Hamilton社製)及びマイクロシリンジポンプ(KDS210、KD Scientific社製)を用いた。前記キャピラリーカラムとシリンジとの接続には、アップチャーチ社製コネクタ(P−628)を用いた。
製造したPCB抽出装置を用いて、各濃度のPCB含有絶縁油(PCB濃度:0.216mg/kg、0.414mg/kg、0.777mg/kg、1.940mg/kg、5.638mg/kg)から前記PCBを抽出し回収した。そして、回収したPCB回収溶液中に含まれるPCB濃度を結合平衡除外測定装置(KinExA 3000,Sapidyne Instrument社製)により測定した。各測定は3回繰返し測定の平均値を示した。結果を図9に示す。なお、図9中、エラーバーは標準偏差を示す。
−PCB抽出及びPCB検出−
現行法である「絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアル(第2版)(平成22年6月、環境省廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課)」に記載の高濃度硫酸シリカゲルカラム処理における[濃縮・分配]の欄に記載された方法により、各濃度のPCB含有絶縁油(PCB濃度:0.10mg/kg、0.30mg/kg、0.50mg/kg、1.00mg/kg、2.00mg/kg、10mg/kg)から前記PCBを抽出し回収した。そして、回収したPCB回収溶液中に含まれるPCB濃度を、携帯型測定装置(イムニー)により測定した。各測定は3回繰返し測定の平均値を示した。結果を図9に示す。なお、図9中、エラーバーは標準偏差を示す。
図9の縦軸は、各測定装置(実施例5:結合平衡除外測定装置、比較例3:携帯型測定装置)により検出された相対信号値を表す。この相対信号値から前記PCB回収溶液中におけるPCB濃度がわかる。本試験例では、この相対信号値が10%〜90%の範囲にあるものを測定可能範囲とした。また、抗原抗体反応させたサンプル溶液中の抗体の半分が反応するPCB濃度をIC50濃度とし、それぞれの校正曲線よりIC50濃度を算出した。図9より、本発明のマイクロ流体デバイスを利用した場合(図9中、「●」は本法を示す)、PCB検出の測定可能な濃度範囲が、0.12mg/kg〜6.79mg/kgであり、校正曲線からIC50濃度を算出すると0.68mg/kgとなることがわかった。また、現行法(図9中、「○」は現行法を示す)によるPCB検出は、校正曲線から0.69mg/kgとなることがわかった。
よって、本発明のマイクロ流体デバイスを利用すると現行法と同程度の感度が得られることがわかった。
よって、本発明のPCB抽出装置を用いると、現行法と同程度の感度でありながら、現行法よりも簡便かつ迅速にPCBを検出することができることがわかった。また、図8に示すように、本発明のマイクロ流体デバイスとキャピラリーカラムとを直接連結させてPCB抽出を行った場合、連結させずにPCB抽出を行ったときよりも、PCBの抽出効率が格段に高くなることがわかった。
また、本発明のPCB抽出装置は、前記マイクロ流体デバイスを用いることにより、PCB抽出処理の簡便化、迅速化、高効率化等を実現することができるため、絶縁油に微量に含有されているPCBの検出に好適に使用することができる。
2 無水硫酸ナトリウム
3 発煙硫酸含浸シリカゲル
4 無水硫酸ナトリウム
5 アミノプロピルシリカゲル
6 ガラス繊維
10 キャピラリーカラム
15 カラム
20 マイクロ流体デバイス
20A PCB抽出室
20B 流路
Claims (9)
- 絶縁油中に含まれるポリ塩化ビフェニル(PCB)を抽出するPCB抽出装置であって、
前記絶縁油を分解するキャピラリーカラムと、
前記キャピラリーカラムにより分解された前記絶縁油からPCBを抽出するマイクロ流体デバイスと、
を有してなり、
前記マイクロ流体デバイスが、前記絶縁油を流通させる流路と、
前記流路に交差する方向に延設され、前記絶縁油に含まれる前記PCBを抽出しうるPCB抽出溶媒を満たしたPCB抽出室と、
を有することを特徴とするPCB抽出装置。 - PCB抽出室が、ガラスにより形成される請求項1に記載のPCB抽出装置。
- PCB抽出室の形状が、略半球状及び略角柱状の少なくともいずれかである請求項1から2のいずれかに記載のPCB抽出装置。
- 一対のPCB抽出室が流路に対向して延設され、該一対のPCB抽出室を複数有する請求項1から3のいずれかに記載のPCB抽出装置。
- キャピラリーカラムの内径が、0.5mm〜5.0mmである請求項1から4のいずれかに記載のPCB抽出装置。
- キャピラリーカラムが、発煙硫酸含浸シリカゲルを含有する領域を有し、
前記発煙硫酸含浸シリカゲルを含有する領域における前記キャピラリーカラムの空隙率が、30体積%以下である請求項1から5のいずれかに記載のPCB抽出装置。 - 請求項1から6のいずれかに記載のPCB抽出装置と、該PCB抽出装置により抽出されたPCBを検出するPCB検出手段とを有することを特徴とするPCB検出装置。
- 請求項7に記載のPCB検出装置を用いるPCB検出方法であって、
PCB抽出装置におけるマイクロ流体デバイスの流路及びPCB抽出室にPCB抽出溶媒を導入し、前記マイクロ流体デバイスの前記流路に、PCBを含有する絶縁油を流通させ、前記PCB抽出室において、前記絶縁油中に含まれる前記PCBを前記PCB抽出溶媒で抽出するPCB抽出工程と、
抽出した前記PCBを検出するPCB検出工程と、を含むことを特徴とするPCB検出方法。 - PCB抽出溶媒が、ジメチルスルホキシドである請求項8に記載のPCB検出方法。
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