JP5924882B2 - 原子プローブを用いた二次イオンによる分析装置および分析方法 - Google Patents
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Description
しかし照射にイオンビームが用いられるため、絶縁体の試料の表面分析、結晶性、下地絶縁性基板等の評価をするとき、イオンビームによって試料表面が帯電する問題がある。いわゆるチャージアップと呼ばれる現象である。チャージアップした場合、試料表面の電位が変化し、照射するイオンビームの位置がずれたり、試料から発生する二次イオンのイオン化率の低下等の不具合が生じる。その結果、分析精度が低下し、分析不能になる事態が生じる。
このような絶縁体におけるチャージアップを防止するため、マグネトロンスパッタリングによってPt−Pd合金膜を形成する方法が提案されている(特許文献1)。これによれば、表面が安定性の高い導電膜で覆われるため、チャージアップを防ぐことができる。
また、表面から所定の元素の深さ方向分布を求める場合、既に照射イオンビームでスパッタされた元素が試料表面に残存していて、これが一定深さ位置における濃度に対して影響を及ぼすことが知られている。これを防止するために、FIB(Focused Ion Beam)装置を用いて、ビームを小さく絞ることで残存元素の影響を受けにくくする方法がある。
また、FIB装置を用いることなく測定対象の深さ範囲よりも深い凹部を形成した後、耐電防止のためPt−Pd合金膜を凹部も含めて全体に形成する方法が提案されている(特許文献2)。
上記の方法によれば、いずれも、絶縁体試料のチャージアップを防止することができる。
また、試料に電位を与えることで試料表面にほぼ垂直な電気力線が生じ、中性粒子ビームを入射させることで、スパッタされる各種の形態の分子や粒子等の中で低い割合で含まれる同極性のイオンを試料表面から、電気力線に沿って電気反発力で離すことができる。すなわち試料に電位を印加することで、同極性のイオンの試料からの離脱を促進することができる。試料への入射粒子として、イオンビームではなく中性粒子ビームを用いると、試料に電位を与えても中性粒子ビームのエネルギーや軌道は影響を受けない。このことから、試料に電位を与えることで、二次イオンを試料から離脱し加速させることができるのである。二次イオンを離脱し加速させる方法として、試料を接地したまま試料の前面に加速電極(グリッド)を配置し、これに静電位またはパルス電位などを印加する方法でもよいが、試料に電位を印加する方法がきわめて簡便であり、また、コストの削減に繋がる。試料に印加する電位は、プラスでもマイナスでもよく分析対象に応じて極性を変えればよい。そして電位の絶対値はとくに限定しないが、たとえば50V〜5kV程度とするのがよい。試料表面から離れたイオンは、粒子検出装置に向かって飛行し、検出されて、その飛行時間を測定することでエネルギーまたは質量を測定される。とくに元素の同定を目的とする場合は、イオンもしくは原子または分子の種類を特定される。この結果、入射粒子線にイオンビームを用いた場合と比較して遜色のない精度で、試料表面に付着する、または試料表面に含まれる、不純物等の原子の特定およびその相対濃度を測定することができる。
ここで測定装置はどのような装置でもよく、たとえば飛行時間(TOF:Time Of Flight)による質量弁別、エネルギー弁別等を行う装置を用いることができる。
なお、中性粒子ビームは、原子、分子あるいはクラスターなど電荷を帯びない粒子から構成されるビームである。この中性粒子ビームを分析対象の試料に照射することが、上述の原子プローブを用いることに相当する。中性粒子ビームは、中性の原子のビームである。
これによって、二次イオンを捕捉することが容易になり、二次イオンに対する感度を高めることができ、極微量の不純物でも測定することができる。なお、二次イオン収率向上機構は、具体的には、二次イオンを拡散させずに所定位置に集める集光パイプ(光学における集光レンズに対応する)、二次イオンに電磁気力を及ぼすグリッド、試料から粒子検出装置、たとえばマイクロチャンネルプレート(MCP:Micro-Channel Plate)までを半密閉空間となるように囲む筒状体など、が該当する。上記のグリッドは、二次イオンが衝突することでグリッドの材料から二次イオンが放出されるので、金(Au)などの一定の金属材料で形成するのがよい。粒子検出装置は、MCPに限定されず、どのような装置でもよい。
ここで収率とは、試料から放出された二次イオンのうち粒子検出装置に到達してカウントにかかる割合をいう。
これによって、試料に対して接地電位と異なる電位を確実に与えることができる。試料に与える電位は、プラス電位でもマイナス電位でもよい。
上記の散乱した中性粒子は、中性粒子ビームが試料に入射してその試料から散乱(反跳)したその中性粒子ビーム由来の中性粒子である。中性粒子ビーム由来の中性粒子散乱型の表面分析を行うことができる。この表面分析では、試料表面の原子配列、極点図の作成などを行うことができる。したがって、次の2種類の分析を行うことができる。
(A1)二次イオンを質量分析することで元素の同定を行う二次イオン質量分析(A2)原子散乱表面分析による原子の構造解析
上記の(A1)の場合は、試料の表面にほぼ垂直に中性粒子(原子)を入射させるのに対して、(A2)の場合は、試料表面はいろいろな方位(全方位)をとる必要がある。
中性粒子ビームの強度を、常時、検知しているので、中性粒子ビームの強度に変動が生じた場合など、直ぐに対応をとることができる。この結果、安定して高精度の中性粒子ビームを用いることができる。これによって中性粒子ビームの強度をモニタしながら、(A1)表面の元素の同定、深さ方向の濃度分布、および(A2)表面の原子配列、を測定することができる。
上記の安定性の向上などの他に、より積極的な利用方法としては、この中性粒子ビームの強度のモニタによって、中性粒子ビームの強度を微弱に絞って、不純物や表面近傍の組成原子や分子などの分析をほぼ非破壊的に行うことできる。また、高い中性粒子ビーム強度を用いることで、深さ方向にスパッタリングを行って深さ方向の特定元素の濃度分布を容易に得ることができる。このように、中性粒子ビーム強度をモニタすることで、測定の信頼性を高めるだけでなく、多様な形態の測定が可能になる。
これによって、中性粒子ビームおよび前駆体であるイオンビームのどちらにも影響を与えることなく、中性粒子ビームを出射しながら連続的にその中性粒子ビームの強度をモニタすることができる。このため、非常に信頼性の高い、強度が安定した中性粒子ビームのみを用いて、表面分析((A1)不純物の同定、(A2)結晶構造解析等)が可能となる。
(S1)中性ガスとイオンビームとの、電荷交換反応を伴う衝突において、衝突係数(イオンの進行軸と衝突相手の中性ガス粒子との間の距離)が小さい場合、ビーム軸心に沿って直進する中性粒子は得られない。すなわち衝突係数が小さい場合、中性ガスが帯電して生じる帯電粒子がイオンビームの力を受けてビーム軸心から大きく逸脱して散乱する一方で、その散乱相手のイオンビームから変じた中性粒子も、ビーム軸心から大きく逸脱する。この場合、中性粒子は、コリメータ出口を通り抜けることはできず、従って試料の入射に用いることはできない。このような場合、帯電粒子の電荷をカウントすれば、それは誤差となる。上記の遮蔽板は、ビーム軸心から逸脱した帯電粒子を、中性化室の内面にまで届かせないように遮蔽する。この結果、無効な中性粒子ビームに対応する帯電粒子を測定対象から除くことができ、有効な中性粒子ビームの強度のみをカウントすることができる。
(S2)衝突係数が大きい場合、電荷交換反応を伴う衝突において、中性ガスから変じた帯電粒子は、ビーム軸心方向に対してほぼ垂直に散乱される。一方、イオンビームから変じた中性粒子は、ビーム軸心に沿って直進して、利用可能な中性粒子ビームを形成する。この場合、帯電粒子は、遮蔽板に遮蔽されることなく中性化室の内面に到達して、その電荷をカウントされる。
ここで、衝突係数について具体的に示すと、たとえばヘリウム(He)−ヘリウム(He)の電荷交換を伴う衝突において衝突係数が0.05nm以上であれば散乱角は約1°以内となり、直進性は概ね確保される。また、たとえばネオン(Ne)−ネオン(Ne)の場合、衝突係数0.15nm以上であれば、やはり散乱角は約1°以内となり、直進性を得ることができる。
上記(S1)および(S2)により、中性粒子ビームの強度を高精度でモニタすることが可能になる。
これによって、中性粒子ビーム強度にばらつきなどの変動が起きた場合、強度調整部を調整することで、安定した高精度の中性粒子ビームを得ることができる。また、中性粒子ビーム強度を積極的に、微弱レベルから高レベルまで変化させることができる。
中性粒子ビーム強度調整部としては、中性化室における中性ガスの圧力、イオン源におけるイオン化ガスの圧力、およびイオンを発生するための各種電圧など、を挙げることができる。イオンを発生するための各種電圧などについて具体例を挙げると、電子衝撃型イオン銃の場合、イオン化ガスの圧力とイオン励起用の加熱フィラメントの電力(電圧・電流)などが該当する。また、冷陰極型(プラズマ放電型)の場合、イオン化ガスの圧力とプラズマ放電電力(電圧・電流)などが該当する。なお、中性ガス種、中性化室の長さ、イオンを発生するための電圧、イオンビームの加速電圧なども、中性粒子のビーム強度に影響を及ぼすが、測定中に変化(調整)することはできないので、中性粒子ビーム強度調整部とすることは、通常、難しい。
これによって、安定して中性粒子ビームを形成することが可能になる。また、希ガス、特に、同位体存在比率が少ないHeやArを用いた場合、中性粒子は、ほぼ原子のみで構成され、粒子の質量が均一化されるので、散乱された中性粒子から高精度の分析を行うことができる。
これによって、たとえば原子配列の測定(A1)のために試料に入射し、散乱される粒子のエネルギー弁別を飛行時間計測法によって行うことができ、これを表面分析装置に応用することができる。中性粒子のエネルギーは、パルスを用いないで静電場や静磁場を用いた分散型ではエネルギー弁別を行うことはできない。質量弁別でも、当然、パルスとしなければならない。
試料から二次イオンを放出させるための入射粒子として中性粒子を用いることで、試料が絶縁体であっても導電膜等で被覆しないでも、帯電は防止される。このため、試料に対する予備処理は不要となり、工数削減および予備処理に付随する測定精度の低下を避けることができる。
この結果、入射粒子線にイオンビームを用いた場合と比較して遜色のない精度で、試料表面に付着する、または試料表層に含まれる、不純物等の元素の同定およびその相対濃度を測定することができる。
ここで質量分析装置はどのような装置でもよく、たとえばTOFによる質量弁別、エネルギー弁別等を行う装置を用いることができる。
これによって、中性粒子ビームの中から散乱するものの極角分布、方位角分布等を測定することができる。
これによって、中性粒子ビーム強度にばらつきなどの変動が起きた場合、強度調整部を調整することで、安定した高精度の中性粒子ビームを得ることができる。また、中性粒子ビーム強度を積極的に、微弱レベルから高レベルまで変化させて、二次粒子の測定から散乱中性粒子の測定まで連続的に行うことができる。
図2は、本発明の分析装置における中性粒子ビーム発生部52を示す構成図である。図1における分析室1と図2における中性粒子ビーム発生部52とが統合されて、本発明の分析装置が形成される。
図1および2に示すように、分析装置は大きく分けて、イオン銃から構成されるイオン源2、イオンの中性化室3、分析室1および散乱粒子の検出器5などから構成されている。いずれも高真空あるいは超高真空をベースとするため真空容器4の中に一体的に配置され、TMP(ターボ分子ポンプ)により排気している。とくに分析室1は、さらにイオン(ION)ポンプを加えて超高真空を実現している。
この真空容器4の内部の端には、イオン源2が配置されている。イオン源2では、まず陰極フィラメント2fから電子を放出して、ガス供給口2sから導入されたガスをイオン化して送り出す。このイオン源2から適切な電極(図示せず)によって引き出しかつ加速したイオンを、パルスジェネレータ(PG)26で生じたチョッピングパルスが印加されるパルス化電極22によってパルス化する。パルス化電極22は、簡単には平行平板電極として、パルス化のためのチョッピングパルス電圧を両極板間に印加することで、所定時間、イオン流を曲げてコリメータホールを通れないようにする。パルス化されたイオンビームは、中性化室3に入る。この中性化室3では、イオン粒子は走行中に電荷交換によって中性化される。中性化された原子ビーム(パルス)は分析室1に入り、分析対象の試料41の表面に入射される。
中性化された粒子は、偏向電極で構成されるイオン除去手段32を通される。コリメータ出口から出射される原子ビームNには、電荷交換が行われずに、イオンのまま通過するものも一部含まれる。これに対して、出口近傍に設けた2枚の平板電極で構成されるイオン除去手段32に偏向電位を与えることで、そのイオン成分のみを除くことができる。これによって、残存のイオン成分などは偏向電極にかけられた電界によって偏向され、中性化された中性粒子ビーム(原子ビーム)のみ得ることができる。イオン除去手段は、電界による除去だけでなく、磁場を用いてローレンツ力で除いてもよい。
図3(a)および(b)に示す電気的状態は、試料41が絶縁体の場合であるが、試料41が良導体であってもほぼ同じである。すなわち、試料41の電気伝導度の大小によらず、たとえばプラスの電位を印加した場合、衝撃箇所から離脱するプラスイオンは、電気力線に沿って試料41表面から離脱して、検出器5の方向に向かう。
粒子検出装置5としては、図1および2に例示するように、MCP(Micro-Channel Plate)を用いて高感度の検出を行うことができる。上述のように粒子検出装置はMCPに限定されず、どのようなものでもよい。イオンが飛来した時刻は、MCP5によって高精度で検出され、パルスジェネレータ26のパルス発生時刻とともに、TDC(Time-to-Digital Cnoverter:時間測定回路)25に入力される。パルス発生時刻は、図1および2に示すように、パルス化された中性粒子ビームの試料41への入射時刻に補正することができる。これよりTDC25は、試料41の衝撃箇所から離脱したイオンのMCP5までの飛行時間(TOF:Time Of Flight)を導出してPCに入力することができる。飛行時間からイオンのエネルギー弁別を行うことができ、これより質量分析を行うことで試料41から離脱する元素の同定を行うことができる。
この結果、試料41に電位を印加することにより、中性粒子ビームNを入射した箇所から離脱してくるイオンの同定を高精度で行うことができる。これは中性粒子ビームNを用いた二次イオン質量分析装置であり、従来のイオンビームを用いた二次イオン質量分析装置とは異なる装置である。
(1)入射ビーム:従来の装置ではイオンビームを用いるのに対して、本発明では中性粒子ビームを用いる。この結果、絶縁体の試料41であっても予備処理することなくチャージアップを防止することができる。
(2)試料への電位の印加:従来の装置では、イオンビームを用いるため帯電などによる試料の電位状態によってはイオンの軌道が曲げられたり、あるいは、試料に達するイオンビームの有効エネルギーが変化する。このため、絶縁体の分析においては適切な導電処理を施して試料電位を接地し、試料表面の直前に設けた加速電極に電位を印加して二次イオンを加速している。これに対し、本発明の装置では、入射中性粒子ビームに何らの影響も与えずに試料の電位状態を自由に設定できる利点がある。このため、試料に電位を与えて、小さい割合のイオンを有効に検出器5の方向に向けて離脱の促進をはかることで、確実に元素の同定を行うことができる。
また、図4(b)に示す複数枚のグリッド18によっても二次イオンを検出器5にまで散逸なく到達させることができる。
図4(a)、(b)に例示した、集イオン筒体17、グリッド18は、二次イオン収率向上機構の一部であり、二次イオンの収率を向上することができれば、どのような機構でもよい。
しかし、表面に位置する元素の同定という測定に加えて、中性粒子ビームNを試料41の表面に入射して、そこで反射される中性粒子を方位別にエネルギー弁別する場合には(A2の場合)、試料41の表面を全方位に向ける制御機構が必要である。これによって、試料の表面における原子配列、薄膜の成長モード評価などを遂行することができる。
離脱した二次イオンのエネルギー弁別(質量分析)と、散乱した中性粒子のエネルギー弁別の両方を行うためには、図5に示すように、試料41に電位を印加しながら、試料41の表面を全方位に向ける機構が必要である。ただし、上述のように二次イオンの元素特定の場合は、試料41はその面を中性粒子ビームNに直交させる方位(姿勢)のみが必要である。
図5に示す方位調節機構は、試料41を、z軸およびx軸の両方の軸の周りに独立に回動させる機構である。このような独立した2方向の周りに回動させることで、中性粒子ビームNを試料41の面に対して、あらゆる角度から入射して、かつ散乱するその中性粒子のエネルギーを弁別することができる。
2つの独立した回動機構および割り開口Kによって、試料41の表面は中性粒子ビームNの軸心を遮ることなく全方位に回動することができる。また、表面に含まれる元素の同定を行うために試料41を正面に向け、二次イオンを離脱させたとき、試料41と導電板19の電位差によって離脱した二次イオンを加速させる。
<中性粒子ビーム形成装置(強度モニタ付き)>
図7は、図2に示す中性化室3の基本構成を示す図である。中性化室3は、ビームの進行軸I,Nを中心として中性化室本体部である適切な長さの金属パイプ33と、その金属パイプ33の両端に絶縁体36,37を介在させて位置する電極板34,35とを備える。電極板34には出射側コリメータホール12、また電極板35には入射側コリメータホール11が、ビーム軸線I,Nを共通にして開口されている。記号Iは、イオンビームの軸線にも、またイオンビームもしくはイオン自体にも、用いる。また、記号Nは中性粒子ビームの軸線にも、また中性粒子ビームもしくは中性粒子自体にも用いる。さらに中性粒子がほぼ原子で構成される場合には、原子ビームもしくは原子にも用いる。
電極板34,35は導電性であれば何でもよいが金属板を用いることができる。金属パイプ33の長さは5cm〜50cm程度とするのがよい。中性化のための中性ガスAは、真空容器1の開口部である中性ガス導入口30から導入し、本体部である金属パイプ33を通って、真空容器の差動排気口31から出てゆく。差動排気口31は、入射側コリメータホール11および出射側コリメータホール12から排出される中性ガスを効率よく排気し、中性化室3の外側での圧力を高真空にする観点から、その口径は大きいほうがよい。金属パイプ33は、真空容器1の中性ガス導入口30と絶縁管38を介在させて連結している。真空容器内での金属パイプ33の力学的な支持は、図示しない支持部材によってなされている。
上記の電荷交換反応における粒子間の関係は、入射イオン1個と帯電粒子1個とが、1対1に対応することから、金属パイプ33をコレクタ(収集電極)として、電荷交換反応で帯電した帯電粒子の電荷を電流として検出すれば、中性化されたあとの中性粒子ビームまたは原子ビームの強度を検知することができる。入射イオンIが、希ガスからイオン化されたものであれば、中性化されて原子となるので、中性粒子ビームは原子ビームとみることができる。図2では、金属パイプに流入する電荷を測定する機器は省略されている。たとえば金属パイプ33にはアースされた電流計が導電接続されているとみることができる。中性粒子ビーム強度モニタ機構は、金属パイプ33と、上記の電流計とを備える。金属パイプ33は、導電性のある管状体であれば何でもよいが、たとえばステンレススティール、アルミニウム合金、銅管などを用いることができる。帯電粒子を集電することができればよいので、中性化室の内壁のみ導電性材料で被覆されているものであってもよい。
これによって、安定して強度について高精度の中性粒子ビームを形成することができる。
なお、中性ガス種、中性化室の長さ、イオンを発生するための電圧、イオンビームの加速電圧なども、中性粒子のビーム強度に影響を及ぼすが、測定中に変化(調整)することはできない。これらの要因については、装置の仕様等に応じて装置の設計の際に検討対象となる。
図8は、中性粒子ビームの強度をより高精度でモニタする高精度強度モニタ付き中性粒子ビーム形成装置を示す図である。図2に示す中性化室を図8に示すような構造のもので構成してもよい。図8に示す中性化室本体部33には、複数枚の遮蔽板15が配置されている点に特徴を有する。複数の遮蔽板15は、ビームI,Nが通るように共通の位置に開口があけられ、その板面がビームI,Nに直交するように配列されている。図3に示すように複数枚の遮蔽板15を配列することで、中性粒子ビームの強度を高精度で検知することができる。その理由を、図9および図10を用いて説明する。
これに対して、図10に示すように衝突係数bが小さくない場合、電荷交換したあとの帯電粒子P2(A)はビームI,Nに対してほぼ垂直方向に散乱される。このとき、入射イオンIは中性化され原子または中性粒子になる間に、小さく反作用を受けるが軌道をほとんど変化させずに進行する。すなわち中性化室3から出射される有効な中性粒子または原子のビームNを形成する。この結果、衝突係数bが大きい場合、イオンビームIは、試料に有効に照射される原子または中性粒子のビームNになる。ビームI,Nの軸線にほぼ垂直方向に散乱される帯電粒子P2(A)は、遮蔽板15に遮蔽されることなく金属パイプ33の内面に到達する。そして、試料に照射される原子ビームNに寄与した帯電粒子としてカウントされる。図10から分かるように、原子ビームNは完全な線ではなく、所定の立体角の中に入るものであればよい。イオンビームIについても同様のことがいえる。
要約すると、図9に示すようにbが小さい場合の帯電粒子P1(A)の電荷はカウントされず、図10に示すようにbが大きい場合の帯電粒子P2(A)の電荷はカウントされる。これは、中性化室3から出射される中性粒子または原子のビームに寄与した帯電粒子P2(A)のみをカウントすることになり、モニタの精度を向上させることができる。
1.表面における元素の同定
試料41の表面を正面に向け、中性粒子ビームNを入射してそこから離脱する二次イオンについて質量分析を行うことで、表面に存在する元素を同定し、たとえば深さ方向の相対的な濃度分布を測定することができる。二次イオンの離脱を促進する上で、試料41に電位を印加することが必須となる。
中性粒子ビームの強度をモニタしてその強度調整を行うことができる。たとえば中性粒子ビーム強度を微弱にすることで、極く表層から二次イオンを離脱させることができ試料の極く表面の元素を同定することができる。一方、中性粒子ビーム強度を大きくすることで、試料41の表層をスパッタリングして掘りながら元素の深さ方向の相対的な濃度分布を測定することができる。
2.表面の結晶構造解析
極角または方位角の周りに回転させて散乱強度を測定することで、表面直下層(数層)の結晶構造を解析することができる。薄膜の結晶成長中のその場解析など、半導体工学、薄膜工学、光物性などの分野で、多くの有用な情報を得ることができる。
3.中性粒子ビーム
真空容器1は真空排気口40によって排気されており、検出器5で測定がなされた粒子を含め、照射によって余剰に生じた粒子、その他の真空劣化要因は排気される。本実施の形態における分析装置では、原子ビームNを用いるため、絶縁体の試料でも帯電することがなく、正確な分析を行うことができる。イオンビームだけでなく他の原因で帯電した場合でも、電磁界の影響を受けることなく正確な分析ができる。とくに原子ビームの強度を常時モニタできるので、安定した高精度の原子ビームを用いることができるので、表面分析の精度を大きく向上することができる。
1.表面における元素の同定
測定対象:LiMn2O4
中性粒子(原子)ビーム:ヘリウム(He)およびアルゴン(Ar)
図11にヘリウム原子ビームを用いたスペクトル測定結果を示す。中性化前のHeイオンでの加速電圧は3kVである。この結果によれば、リチウム(Li)およびマンガン(Mn)が鮮明に同定されているだけでなく、試料41に付着した環境由来と思われる不純物(CmHn、Na、Hなど)も検出されている。感度はきわめて高いことが分かる。また、飛行時間400(×10nsec)付近にあるブロードなバンドは、試料表面で衝突散乱されたヘリウム(中性粒子)のスペクトルである。
図12にアルゴン原子ビームを用いたスペクトル測定結果を示す。アルゴン原子ビームを用いた場合も、ヘリウム原子ビームを用いた場合と同様の非常に鮮明なLiピーク、Mnピークが得られている。環境由来と思われる不純物のピークも同様に鮮明に得られている。
上記より、試料41に電位を印加して、中性粒子ビームを入射させることで、表面における元素の同定を高感度で遂行できることが分かった。
2.表面の結晶構造解析
測定対象:MgO(100)
中性粒子(原子)ビーム:ヘリウム(He)
測定:極角測定および方位角測定
図13はMgO(100)の極角スキャン測定結果を示す図である。図13は、散乱した中性粒子の強度について鋭敏な極角依存性を示している。これによって、表面下の数原子層の結晶構造を解明することが可能である。
また、図14は、同じくMgO(100)に対する方位角スキャン測定結果を示す図である。この方位角スキャン測定結果と、図13に示す極角スキャン測定結果を合わせることで、より精緻な構造解析を行うことができる。
Claims (11)
- イオンを生成するイオン源と前記イオンの中性化室とを有し、試料に中性粒子ビームを入射するための中性粒子ビーム源と、
前記中性粒子ビームをパルス化するパルス化手段と、
前記試料を保持する試料ホルダーと、
前記中性粒子ビームが入射されて前記試料から放出された二次イオンを加速するイオン加速手段と、
前記試料から放出された粒子を測定する測定装置と、
前記中性粒子ビームの強度を調節する中性粒子ビーム強度調整部と、
前記中性粒子ビームの強度をモニタする中性粒子ビーム強度モニタ機構と、を備え、
前記試料ホルダーは、前記試料の面を全方位に向かせることができるように構成されており、
前記イオン加速手段は、前記試料ホルダーに保持される試料に接地電位と異なる電位を保持する電位保持部を設けて構成されており、
前記測定装置は、前記試料の表面にほぼ垂直に前記中性粒子ビームが入射されて前記試料から放出された二次イオンのエネルギ又は質量を測定することができるように構成されているとともに、前記試料の表面に所定の方位から中性粒子ビームが入射されて前記試料から散乱した前記中性粒子の所定方位ごとのエネルギーを測定することができるように構成されており、
前記中性粒子ビーム強度調整部は、前記イオン源におけるイオン化ガスの圧力、前記中性化室における中性ガスの圧力およびイオン発生電力を調整することにより、前記中性粒子ビーム強度を調整するように構成されている、分析装置。 - 前記試料から放出された二次イオンの前記測定装置における収率を制御するための二次イオン収率向上機構が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の分析装置。
- 前記試料に前記中性粒子ビームを入射させて前記試料から放出された二次イオンを前記測定装置で測定することで、前記試料の元素の同定を行うとともに、
前記試料に前記中性粒子ビームを入射させて前記試料から散乱したその中性粒子を前記測定装置で測定することで、前記試料の結晶構造解析を行うことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の分析装置。 - 前記中性化室に前記中性ガスを導入して、その中性化室に通されたイオンビームと電荷交換反応させることで中性化して、中性粒子ビームとして出射することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析装置。
- 前記中性粒子ビーム強度モニタ機構は、前記電荷交換反応によって前記中性ガスが帯電して変じた帯電粒子の電荷を計測することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分析装置。
- 前記中性粒子ビーム強度モニタ機構は、前記中性化室の少なくとも内壁を導電性材料で形成し、該導電性材料に流入する前記帯電粒子による電流を計測する機構であることを特徴とする、請求項5に記載の分析装置。
- 前記中性粒子ビーム強度モニタ機構が、前記中性化室において、前記中性粒子ビームが通る部分が開口し、該中性粒子ビームとその板面が直交するように配列され、前記導電性材料とは電気的に絶縁された複数の遮蔽板を備えることを特徴とする、請求項5または6に記載の分析装置。
- 前記中性粒子ビームおよび前記中性化室に導入される前記中性ガスが、両方ともに希ガス元素からなることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか1項に記載の分析装置。
- 測定対象の試料を試料ホルダーに取り付け、該試料ホルダーに接地電位と異なる電位を印可することで該試料に当該電位を与える過程と、
イオン源においてイオンを生成し、該イオンをイオンビームとして出射する過程と、
前記イオンビームをパルス化する過程と、
中性化室に中性ガスを導入しながら、前記イオンビームを該中性化室に通し、前記中性ガスと該イオンビームとに電荷交換反応を起こさせ、イオンビームを中性化して中性粒子ビームに変換して、前記試料に向けて出射する過程とを含み、
前記試料ホルダーが、試料の面を前記中性粒子ビームに対して直交させる過程と、
前記中性粒子ビームの強度を所定の強度に調整して、前記試料に前記中性粒子ビームを入射させることで放出された二次イオンのエネルギーまたは質量を測定する過程と、
前記試料ホルダーが、試料の面を複数の所定の方位をとらせる過程と、
前記中性粒子ビームの強度を所定の強度に調整して、前記試料に前記中性粒子ビームを入射させることで散乱する前記中性粒子の所定方位ごとのエネルギーを測定する過程とを備えることを特徴とする、分析方法。 - 前記中性ガスと該イオンビームとに電荷交換反応を起こさせる過程で前記中性ガスから生じる帯電粒子を、集電することで前記中性粒子ビームの強度を検知する過程とを備えることを特徴とする、請求項9に記載の分析方法。
- 前記中性粒子ビームの強度を検知しながら、前記イオン源におけるイオン化ガスの圧力と、前記中性化室における前記中性ガスの圧力と、前記イオンを生成するときのイオン励起用フィラメントに供給する電力とを調整することで、該中性粒子ビームの強度を調整することを特徴とする、請求項9または請求項10に記載の分析方法。
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