本発明の一実施形態を図1〜図9を参照して以下に説明する。
まず、図1を参照して、本実施形態の車両1の機構的な概略構成を説明する。車両1は、左右一対の前部側の車輪(前輪)2f,2fと、左右一対の後部側の車輪(後輪)2r,2rと、これらの車輪2f,2f,2r,2rに図示しないサスペンション機構を介して支持された車体3とを備える。以降、車輪2f,2f,2r,2rを区別する必要が無いときは、それらを総称的に車輪2という。
車体3には、車輪2のうちの駆動輪に車両1を走行させるための回転駆動力を付与する駆動系ユニット4と、車輪2のうちの操舵輪を操舵するための操舵系ユニット5と、各車輪2に制動力を付与する制動系ユニット6とが搭載されている。
本実施形態では、車輪2のうちの前輪2f,2fが操舵系ユニット5により操舵される操舵輪である。そして、後輪2r,2rは、車両1の左右方向の車軸を有する非操舵輪である。
上記操舵系ユニット5は、パワー・ステアリング機能を有する公知の構造のステアリング装置により構成されており、操舵輪である前輪2f,2fを操舵するための駆動力(又は補助力)を発生する電動式又は油圧式の操舵用アクチュエータ7を備える。
そして、操舵系ユニット5は、運転者によるステアリングハンドル8の回転操作に応じて、前輪2f,2fを操舵するための駆動力(又は補助力)を操舵用アクチュエータ7から前輪2f,2fに付与したり、あるいは、ステアリングハンドル8の回転操作によらずに自動的に、前輪2f,2fを操舵するための駆動力を前輪2f,2fに付与することが可能となっている。
また、本実施形態では、車輪2のうちの前輪2f,2fが、駆動系ユニット4により回転駆動される駆動輪である。そして、後輪2r,2rは従動輪である。
上記駆動系ユニット4は、例えば、エンジンと変速機とにより構成された公知の構造のものであり、車両1のアクセルペダル(図示省略)の操作に応じて運転制御されるエンジンの動力を変速機を介して前輪2f,2fに伝達することで、該前輪2f,2fを回転駆動する。
なお、駆動系ユニット4は、エンジンの代わりに電動モータを動力発生源として備えるもの、あるいは、エンジンと電動モータとの両方を動力発生源として備えるものであってもよい。さらに、駆動系ユニット4は、前輪2f,2fの代わりに、後輪2r,2rを回転駆動し、あるいは、前輪2f,2f及び後輪2r,2rの両方を回転駆動するように構成されていてもよい。
前記制動系ユニット6は、例えば、公知の構造の油圧式制動装置により構成され、車両1のブレーキペダル(図示省略)の操作等に応じて生成したブレーキ圧によって、各車輪2に搭載されたディスクブレーキ等の制動機構(図示省略)を駆動することで、各車輪2の制動力を付与する。
車両1には、以上の機構的な構成の他、操舵輪である前輪2f,2fの操舵制御を行なうために、図1及び図2に示すように、前記操舵用アクチュエータ7を介して前輪2f,2fの操舵制御を行う制御装置10と、その操舵制御のために利用する種々の検出データを制御装置10に出力する複数のセンサ11〜17とが搭載されている。
ここで、本実施形態の車両1では、前輪2f,2fの操舵制御の形態(モード)として、運転者によるステアリングハンドル8の回転操作に連動させて、前輪2f,2fの操舵を行なうハンドル操作連動操舵モードと、車両1(以下、自車両1ということがある)を所要の目標経路に追従させて走行させるように、前輪2f,2fの自動操舵を行なう自動操舵モードとがある。そして、いずれか一方の操舵モードが、運転者の指示操作、あるいは、自車両1の走行環境に応じて、制御装置10で選択されるようになっている。
以降に説明する本実施形態の操舵制御は、上記自動操舵モードでの制御に関するものである。
この自動操舵モードでの前輪2f,2fの操舵制御を行うためのセンサ11〜17は、本実施形態では、自車両1の前方の路面等の外界状況を認識するための視覚センサとしてカメラ11と、各車輪2の回転速度を検出する車輪速センサ12と、制動系ユニット6から各車輪2に付与されるブレーキ圧を検出するブレーキ圧センサ13と、前輪2f,2fの操舵角を検出する操舵角センサ14と、自車両1のアクセルペダルの操作量(踏み込み量)を検出するアクセルセンサ15と、自車両1のヨーレート(ヨー方向の角速度)を検出するヨーレートセンサ16と、自車両1の前後方向及び横方向(左右方向)の並進加速度を検出する加速度センサ17とを備えている。なお、上記カメラ11は、単眼カメラ及びステレオカメラのいずれであってもよい。
これらのセンサ11〜17の検出データが入力される制御装置10は、CPU、RAM、ROM、インターフェース回路等から構成される電子回路ユニットである。なお、制御装置10は、相互に通信可能な複数の電子回路ユニットにより構成されていてもよい。
そして、制御装置10は、入力された上記検出データを用いて前輪2f,2fの操舵制御(自動操舵モードでの操舵制御)のための制御処理を実行する。
この場合、制御装置10は、実装されたプログラムを実行することで実現される機能(ソフトウェア構成により実現される機能)又はハードウェア構成により実現される機能として、図2に示すように、自車両1の目標経路を示す目標経路データを取得する目標経路データ取得部21と、操舵制御のために用いる各種状態量の観測値を取得する観測値取得部22と、目標経路データ及び各種状態量の観測値を用いて操舵用アクチュエータ7を制御するための制御入力である操舵制御入力を決定する操舵制御入力決定部23と、操舵制御入力に応じて操舵用アクチュエータ7を制御する操舵用アクチュエータ制御部24とを備える。
上記目標経路データ取得部21、観測値取得部22、操舵制御入力決定部23、及び操舵用アクチュエータ制御部24は、それぞれ、本発明における目標経路データ取得手段、観測値取得手段、操舵制御入力決定手段、操舵用アクチュエータ制御手段に相当するものである。
なお、「観測値」は、観測対象の状態量の実際の値を、適宜のセンサにより直接的に検出した値(検出値)、あるいは、観測対象の状態量と相関性を有する1つ以上の他の状態量の検出値から適当なモデルもしくは自然法則に基づき推定した値(推定値)を意味する。
そして、制御装置10は、上記各機能部の処理を所定の制御処理周期で逐次実行することで、操舵用アクチュエータ7を介して前輪2f,2fの操舵制御を行う。
以下に制御装置10の制御処理を詳細に説明する前に、その制御処理の前提となる基本的な技術事項を説明しておく。
図3(a)に示すように、水平面上を走行する瞬時瞬時の車両1の前後方向をX軸方向、車両1の横方向(左右方向)をY軸方向とするXY座標系を想定し、このXY座標系を車両座標系と呼ぶ。この車両座標系のX軸、Y軸の正の向きは、それぞれ、車両1の前向き、左向きである。
さらに、車両座標系のX軸及びY軸に直交する方向(すなわち車両1の上下方向)の軸をヨー軸と呼ぶ。そして、回転運動又は角度に関するヨー軸まわりの方向をヨー方向と呼ぶ。ヨー方向の回転運動又は角度の正方向は、車両1の上方から見て反時計まわりの方向である。
また、前輪2f,2fの操舵角を前輪操舵角δ、車両1の全体重心Gの移動速度ベクトルを水平面(XY平面)に投影して見た速度ベクトル(全体重心Gの水平方向の移動速度ベクトル)を車両重心移動速度Vと呼ぶ。そして、V(ベクトル)のX軸方向成分を車両重心前後速度Vx、V(ベクトル)のY軸方向成分を車両重心横滑り速度Vy、V(ベクトル)がX軸の正方向に対してなすヨー方向の角度を車両重心横滑り角βと呼ぶ。
また、ヨー方向での車両1の全体重心まわりの角速度を車両ヨーレートγと呼ぶ。さらに、非操舵状態の前輪2f,2fの車軸と、車両1の全体重心Gとの間のX軸方向の距離を、前輪・重心間前後距離Lf、後輪2r,2rの車軸と車両1の全体重心Gとの間のX軸方向の距離を後輪・重心間前後距離Lrと呼ぶ。Lf+Lrは、車両1のホイールベースに相当する。
なお、前輪操舵角δは、より詳しくは、車両1の上方から見て、前輪2f,2fの回転面(前輪2f,2fの回転軸心と直交する面)がX軸方向と平行になる状態からの前輪2f,2fのヨー方向の回転角度である。
車両1の動力学的な挙動は、所謂、二輪モデルにより表現される。この二輪モデルは、図3(b)に示す如く、車両1の動力学的な挙動を、左右の前輪2f,2fをひとまとめにした単一の仮想前輪102fと、左右の後輪2r,2rをひとまとめにした単一の仮想後輪102rとを有する二輪車の動力学的挙動として近似表現する動力学モデルである。
この二輪モデルでは、図示の如く、仮想前輪102fの操舵角は、車両1の前輪操舵角δに一致し、仮想前輪102fと全体重心との間のX軸方向(前後方向)の距離、及び、仮想後輪102rと全体重心との間のX軸方向(前後方向)の距離は、それぞれ、車両1の前輪・重心間前後距離Lf、後輪・重心間前後距離Lrに一致する。
この場合、二輪モデルの動力学(車両1の近似的な動力学)は、次式(1)により表される。
なお、式(1)のただし書きに記載した仮想前輪102fのコーナリングパワーCfは、車両1の2つの前輪2f,2fのコーナリングパワーの総和(前輪2f,2fの1輪当たりのコーナリングパワーの2倍)のコーナリングパワー、仮想後輪102rのコーナリングパワーCrは、実際の車両1の2つの後輪2r,2rのコーナリングパワーの総和(後輪2r,2rの1輪当たりのコーナリングパワーの2倍)のコーナリングパワーである。
また、車両重心横滑り角βは、一般に、[rad]の角度単位で、|β|<<1となる。この場合、V≒Vx、β≒Vy/Vxとなるので、式(1)は、次式(2)に書き換えることができる。すなわち、二輪モデルの動力学(車両1の近似的な動力学)は、次式(2)により表現することもできる。
前記式(1)又は(2)から判るように、車両1の動力学的な挙動特性は、車両重心移動速度V又は車両重心前後速度Vxに対して非線形な依存性を有する。
本実施形態における制御装置10の制御処理は、上記二輪モデルを基礎として構築されている。この二輪モデルは、本発明における動力学モデルに相当するものである。
ここで、図4に示すように、任意の時刻tでの車両1と目標経路との位置及び姿勢関係を想定し、その時刻tでの車両1のヨー方向の姿勢(目標経路又は路面に対する姿勢)を示す方位角を車両ヨー方位角θ、目標経路を横断する方向での車両1の代表点Pの位置を車両横位置Pyと呼ぶ。
より具体的な一例として、車両ヨー方位角θを、例えば、図4に示すXX軸及びYY軸を有するXX−YY座標系のXX軸方向に対する車両1の前後方向(X軸方向)の角度と定義し、車両横位置Pyを、XX−YY座標系で見た車両1の代表点PのYY軸方向の位置と定義する。
この場合、図4に示す例では、上記XX−YY座標系は、時刻tでの車両1の近辺での目標経路の延在方向(又は接線方向)をXX軸方向、XX軸に直交して目標経路を横断する方向をYY軸方向として、車両1が走行中の路面に対して固定・設定した座標系(グローバル座標系)である。該XX−YY座標系の原点は任意の点でよい。また、車両1の代表点Pは、例えば車両1の全体重心Gの位置の点である。
なお、車両ヨー方位角θは、上記の如く定義される角度に限られるものではない。例えば、XX軸方向に対する車両1の横方向(Y軸方向)の角度、あるいは、YY軸方向に対する車両1の前後方向(X軸方向)の角度等を車両ヨー方位角θとして定義してもよい。また、車両1の代表点Pは、全体重心G以外の点に設定してもよい。
次に、車両1を目標経路に追従させて走行させる場合の制御系として、状態変数が、例えば、車両重心横滑り速度Vyと、車両ヨーレートγと、上記車両ヨー方位角θと、車両横位置Pyとの組により構成され、且つ、入力が前輪操舵角δ、出力が車両横位置Pyとなるシステムを想定する。
この場合、車両ヨー方位角θの時間的変化率θ_dot(=dθ/dt)は車両ヨーレートγに一致するので、次式(3)が成立する。
また、車両1を目標経路に追従させるように走行させている状態では、車両ヨー方位角θは、[rad]の角度単位で、|θ|<<1であるとみなすことができる。このため、車両横位置Pyの時間的変化率Py_dot(=dPy/dt)は、近似的に、次式(4)により与えられる。
θ_dot=γ ……(3)
Py_dot=Vy・cosθ+Vx・sinθ
≒Vy+Vx・θ ……(4)
これらの式(3)、(4)と、前記二輪モデルの式(2)とから、入力及び出力がそれぞれδ、Pyである上記システムは、その連続時間系での状態方程式が、次式(5a),5b)の形式で表記されるシステムとして表現される。
なお、行列Acの成分a'11,a'12,a'21,a'22と、行列Bcの成分b'1,b'2は、前記式(2)のただし書きの式により規定される値である。
上記式(5a),(5b)の状態方程式を離散時間系で表現したものは、次式(6a),(6b)により表記される。
なお、kは、離散時間系での時刻を示す整数値である。時刻kは、連続時間系での時刻がk・Δtとなる離散時間系での時刻を意味する。また、式(6a),(6b)は、それぞれ前記式(Da),(Db)に相当するものである。
上記式(6a),(6b)の状態方程式により表されるシステムに対して、車両横位置Pyの現在時刻以後の目標値を付加することで、次式(7)により表現される拡大系のシステムが得られる。
この式(7)が、本実施形態において、自車両1を目標経路に追従させて走行させるための制御入力を決定するための基礎となる式である。
すなわち、本実施形態では、上記式(7)の拡大系のシステムにおいて、Δδ、すなわち、単位時間当たり(ここでは、Δtの時間当たり)の前輪操舵角δの変化量を、実際の車両横位置Pyを目標値Py_refに追従させるための制御入力(以降、操舵制御入力Δδという)として逐次決定する。該操舵制御入力Δδは、前輪操舵角δの角速度に相当するものである。
この場合、本実施形態では、次式(8)により表される評価関数Jの値を最小化するように、操舵制御入力Δδを逐次決定する。
より詳しくは、本実施形態では、予見制御理論に基づいて、Nステップ(N:1以上の整数)先の将来時刻までの、所定の刻み時間毎のPyの目標値Py_ref(k+1)、Py_ref(k+2)、……、Py_ref_(k+N)を用いて、次式(8)の評価関数Jを最小化するような操舵制御入力Δδ(k)を逐次決定する。
なお、上付き添え字Tは転置を意味する。
式(8)の評価関数Jの右辺のΣ内の各項は、式(7)の拡大系のシステムの状態変数X0の各成分e、ΔVx、Δγ、Δθ、ΔPyのそれぞれの二乗値と、Δδの二乗値とを、ある重み係数で線形結合してなる値である。この場合、e、ΔVx、Δγ、Δθ、ΔPyのそれぞれの二乗値に掛かる重み係数が、上記対角行列Qの対角成分であり、Δδの二乗値に掛かる重み係数が上記重み係数Hである。
この評価関数Jを最小化する操舵制御入力Δδ(k)は、予見制御理論に基づいて次式(9)により決定することができる。
そこで、本実施形態では、制御装置10は、上記式(9)に基づいて、制御処理周期毎の操舵制御入力Δδ(k)を決定する。そして、このΔδ(k)に応じて操舵用アクチュエータ7を制御する。
なお、式(9)の右辺の第1項は、操舵制御入力Δδのフィードバック操作量成分でああり、本発明における第1操作量成分に相当する。この場合、行ベクトルであるF0の各成分が本発明における第1ゲインパラメータに相当する。また、Σの項の全体は、操舵制御入力Δδのフィードフォード操作量成分であり、本発明における第2操作量成分に相当する。この場合、Fr(j)(j=1,2,…,N)が本発明における第2ゲインパラメータに相当する。
そして、式(9)は前記式(A)に相当し、式(9)のただし書きにおけるF0の定義式と、Fr(j)の定義式と、式(10)とがそれぞれ、前記式(B)、(C)、(E)に相当する。
以上が、制御装置10の制御処理の前提となる基本的な技術事項である。
以上の技術事項を前提として、制御装置10の制御処理(図2に示す各機能部の処理)を具体的に説明する。
制御装置10は、各制御処理周期において、まず、目標経路データ取得部21及び観測値取得部22の処理を実行する。
目標経路データ取得部21には、カメラ11の撮像データが入力される。そして、目標経路データ取得部21は、カメラ11の撮像データにより示される自車両1の前方の撮像画像を基に、自車両1が走行中の車線領域を特定する。例えば、図5に示すように、自車両1の左側に延在する白線等の走行領域区分線a1と、自車両1の右側に延在する白線等の走行領域区分線a2との間の領域、すなわち、a1,a2をそれぞれ左側、右側の境界線とする領域が、自車両1の車線領域Aとして特定される。
そして、目標経路データ取得部21は、車線領域Aの幅内で、該車線領域Aとほぼ同方向に滑らかに延在するラインを、現在時刻以後の将来の目標経路として決定する。例えば、図5に破線のラインで示す如く、車線領域Aの幅の中央(もしくはほぼ中央)を通るラインが自車両1の目標経路として決定される。
さらに、目標経路データ取得部21は、このように決定した目標経路のラインの位置及び形状(曲がり具合)を規定するデータを目標経路データとして取得する。例えば、目標経路のライン上で一定間隔で並ぶように配列した複数の点の位置を示すデータ、あるいは、該目標経路のラインを近似するように決定した高次関数を規定するデータ等が、目標経路データとして取得される。
なお、目標ラインの位置は、前記車両座標系、又はカメラ11の撮像画像に基づいて路面に対して固定・設定した座標系(例えば図4に示したXX−YY座標系)で見た位置として表される。
補足すると、目標経路データ取得部21は、自車両1の外部のサーバーとの通信によって、該サーバから目標経路データを取得してもよい。また、カメラ11の撮像画像、あるいは、車両1に搭載したレーダ装置に基づき認識される自車両1の前方の任意の障害物を避けるように、目標経路を決定するようにしてもよい。さらに、GPS等に基づく自車両1の位置情報と、ナビゲーション装置の地図情報とを用いて、目標経路を決定するようにしてもよい。
また、目標経路データは、制御装置10の制御処理周期毎に更新してもよいが、該制御処理周期よりも長い周期で更新するようにしてもよい。
観測値取得部22には、前記センサ12〜17の出力が与えられる。そして、観測値取得部22は、センサ12〜17の出力に基づいて、車両1の運動に関する所定種類の状態量の観測値を取得する。その観測値は、本実施形態では、車両重心前後速度Vx、車両重心横滑り速度Vy、車両ヨーレートγ、車両方位角θ及び車両横位置Pyの実際の値の観測値である。
この場合、Vy、γ、θ、Pyは、前輪2f,2fの操舵に応じた値が変化する観測対象状態量である。これらの観測対象状態量の観測値は、前記式(9)の右辺の状態変数X0を規定するものである。
また、Vxは、車両1の全体重心のX軸方向(前後方向)の移動速度であるから、車両1の走行速度に相当するものである。以降、Vxを車両走行速度Vxということがある。この車両走行速度Vxの観測値は、式(9)の右辺の演算に必要なゲインF0,Fr(j)(j=1,2,…,N)を決定するために用いるものである。
本実施形態では、上記観測値のうち、車両ヨーレートγの観測値は、前記ヨーレートセンサ16の出力により示される値として得られる。
また、車両方位角θ及び車両横位置Pyの観測値は、例えば、カメラ11の撮像画像から公知の画像処理手法により特定される路面に対する自車両1の相対位置及び姿勢に基づいて推定される値である。
また、車両走行速度(車両重心前後速度)Vx及び車両重心横速度Vyは、例えば、本願出願人が特開2010−234920号公報又は特開2010−234919号公報に提案した手法によって、前記センサ12〜17の出力に基づいて推定される値である。
なお、通常の自動車等の車両で採用されている車速検出手法により検出される車速を、車両走行速度Vxの観測値(車両重心前後速度Vxの代用的な観測値)として得るようにしてもよい。
制御装置10は次に、操舵制御入力決定部23の処理を実行する。操舵制御入力決定部23には、目標経路データ取得部21で取得された目標経路データと、観測値取得部22で取得された観測値(Vx,Vy,γ,θ,Pyの観測値)とが入力される。
そして、操舵制御入力決定部23は、これらの入力データから、前記式(9)の右辺の演算に必要なパラメータの値を決定して、該演算を行なうことで操舵制御入力Δδ(k)を決定する。
この場合、車両横位置Pyの現在時刻kでの目標値Py_ref(k)及び将来の目標値Py_ref(k+j)(j=1,2,…,N)のうち、現在時刻kでの目標値Py_ref(k)は、例えば、現在時刻kでの車両1の全体重心G(代表点P)を通って、目標経路と直交する方向(図4のYY軸方向)の直線と目標経路との交点の位置(YY軸方向での位置)とされる。
また、車両横位置Pyの将来の目標値Py_ref(k+j)(j=1,2,…,N)は、それぞれ、例えば、現在時刻kでの目標値Py_ref(k)に対応する目標経路上の点から、車両1が現在時刻kでの車両走行速度Vxの観測値Vx(k)と同じ走行速度で、j・Δt’の時間だけ目標経路に沿って移動したと仮定した場合に到達する目標経路上の点の位置(YY軸方向での位置)とされる。すなわち、Py_ref(k+j)のそれぞれは、現在時刻kでの目標値Py_ref(k)に対応する目標経路上の点から、j・Δt’・Vx(k)の距離だけ移動した目標経路上の点の位置とされる。
なお、Δt’は、あらかじめ定めた所定値の刻み時間である。そのΔt’の値は、例えば、制御装置10の制御処理周期Δtと同じである。ただし、Δt’は、該制御処理周期Δtよりも長い時間であってもよい。
また、Nの値は、あらかじめ定められた所定値、例えば、N・Δtが2秒程度となるような時間に設定されている。
また、式(9)の右辺の状態変数X0(k)(=[e(k),ΔVy(k),Δγ(k),Δθ(k),ΔPy(k)]T)の各成分値は、前記式(7)のただし書きの定義に従って、次式(11a),(11b),(11c),(11d),(11e)により算出される。
e(k)=Py_ref(k)−Py(k) ……(11a)
ΔVy(k)=Vy(k)−Vy(k-1) ……(11b)
Δγ(k)=γ(k)−γ(k-1) ……(11c)
Δθ(k)=θ(k)−θ(k-1) ……(11d)
ΔPy(k)=Py(k)−Py(k-1) ……(11e)
すなわち、X0(k)の第1成分e(k)は、車両横位置Pyの現在時刻kでの目標値Py_ref(k)と、観測値Py(k)との偏差として算出される。また、ΔVy(k),Δγ(k),Δθ(k),ΔPy(k)のそれぞれは、現在時刻kでの観測値の、前回の制御処理周期の時刻k−1からの変化量(単位時間当たりの変化量)として算出される。
また、式(9)の右辺の車両横位置Pyの将来の目標値Py_ref(k+j)(j=1,2,…,N)にそれぞれ掛かるゲインFr(j)(以降、Fr(j)を総称的に予見FFゲインFrということがある)とは、現在時刻kでの車両走行速度Vx(k)と、jの値に対応する予見時間j・Δt’とから、あらかじめ設定されたマップに基づいて決定される。
ここで、前記式(9)のただし書きの記載から判るように、FBゲインF0及び予見FFゲインFr(j)は、行列φ、G、Gr、P、Q及び重み係数Hに応じて決定されるものである。
この場合、本実施形態では対角行列Qは、その対角成分の値があらかじめ設定された対角行列であり、その各対角成分の値は、例えば“1”に設定されている。すなわち、本実施形態では、Qは、5行5列の単位行列である。
また、重み係数Hは、本実施形態では、あらあじめ定められた値であり、その値は、例えば“1”である。
また、行列Grは、前記式(7)のただし書きで示されるように、その各成分が定数値の行列である。
また、行列φ、Gは、前記式(2)のただし書き、式(5a),(5b)のただし書き、式(6a),(6b)のただし書き、及び式(7)のただし書きの記載から判るように、これらのただし書きの定義に従って、車両走行速度Vxの観測値Vx(k)から、一義的に決定できるものである。
この場合、本実施形態では、φ、Gを決定するために必要となるCf、Cr、I、mの値は、あらかじめ実験的に設定された定数値とされている。
一方、前記式(9)のただし書きの式(10)のリカッチの方程式の解として定義される行列Pは、行列φ、Gと、重み行列Q及び重み係数Hとから、公知の演算処理により求めることができるものの、その演算処理は、一般には、時間がかかりやすい。
従って、仮に、制御処理周期毎の操舵制御入力Δδ(k)を前記式(9)により算出するにあたって、制御処理周期毎に、式(10)のリカッチの方程式の解としての行列Pを公知の演算処理により求めるようにすると、その演算処理に時間がかかるために、制御処理周期の時間Δt、すなわち、操舵制御入力Δδの算出周期を十分に短くすることが困難となる。ひいては、自車両1の実際の走行経路の目標経路に対する追従性が低下してしまう恐れがある。
そこで、本実施形態では、式(9)におけるゲインF0の各成分(X0(k)の各成分に掛かるゲイン係数)のそれぞれと、車両走行速度Vxとの間の関係を示すマップデータをあらかじめ作成した。そして、操舵制御入力決定部23の処理では、現在時刻でのVxの観測値Vx(k)から、該マップデータに基づいて、ゲインF0の各成分のゲイン係数の値を決定する。
同様に、予見FFゲインFrと、車両走行速度Vx及び予見時間(現在時刻からの経過時間)との間の関係を示すマップデータをあらかじめ作成した。そして、操舵制御入力決定部23の処理では、現在時刻以後の将来の車両走行速度Vxが、現在時刻でのVxの観測値Vx(k)と同じ速度に維持されると仮定して、現在時刻でのVxの観測値Vx(k)と、各jに対応する予見時間j・Δt’の値(本実施形態では、Δt’=Δt)とから、該マップデータに基づいて、Fr_(j)(j=1,2,…,N)のそれぞれの値を決定する。
ここで、FBゲインF0の各成分のゲイン係数の値と、車両走行速度Vxの値との間の関係を示すグラフの一例を図6に示す。なお、F0_eは、X0の第1成分eに掛かるゲイン係数、F0_vyは、X0の第2変数ΔVyに掛かるゲイン係数、F0_γは、X0の第3成分Δγに掛かるゲイン係数、F0_θは、X0の第4成分Δθに掛かるゲイン係数、F0_pyは、X0の第5成分ΔPyに掛かるゲイン係数である。
これらのグラフは、十分に小さい刻み幅であらかじめ設定した多数のVxの値のそれぞれに対して、前記式(10)のリカッチの方程式を満たす行列Pを算出する処理を含む演算処理によって、FBゲインF0の各成分のゲイン係数の値を計算することで得られたグラフである。
また、予見FFゲインFrの値と、車両走行速度Vx及び予見時時間の値との間の関係を示すグラフの一例を図7に示す。このグラフは、予見FFゲインFrの値を、車両走行速度Vx及び予見時時間の2変数の関数値として表すものである。
これらのグラフは、十分に小さい刻み幅であらかじめ設定した多数のVxの値と予見時間の値との各組に対して、前記式(10)のリカッチの方程式を満たす行列Pを算出する処理を含む演算処理によって、予見FFゲインFrの値を計算することで得られたグラフである。
以降、上記の如く得られたグラフを基準グラフという。また、以降、FBゲインF0の各成分のゲイン係数のうちの任意の1つ(F0_e、F0_vy、F0_γ、F0_θ及びF0_pyのうちのいずれか)を総称的にゲイン係数F0_?と表記する。
本実施形態では、FBゲインF0の各成分のゲイン係数と、予見FFゲインFrとにそれぞれ対応する上記の基準グラフを事前に作成した上で、FBゲインF0の各成分のゲイン係数の値を決定するためのマップデータ(以降、FBゲイン用マップデータという)と、予見FFゲインFrの値を決定するためのマップデータ(以降、予見FFゲイン用マップデータという)とを作成した。
この場合、FBゲインF0の各成分のゲイン係数毎のFBゲイン用マップデータは、Vxの複数の代表値と、Vxの各代表値に対応する当該ゲイン係数の値とから構成される。Vxの代表値(以降、単にVx代表値という)は、F0の各成分のゲイン係数毎に、次のように決定されている。
すなわち、F0の任意の1つのゲイン係数F0_?に対応するFBゲイン用マップデータのVx代表値は、該ゲイン係数F0_?の基準グラフにおいて、Vxに対するF0_?の値の2階微分値の大きさが小さい速度領域でのVx代表値の刻み幅(隣合うVx代表値の差の大きさ)よりも、該2階微分値の大きさが大きい速度領域でのVx代表値の刻み幅が相対的に小さくなるように(Vxの単位幅の範囲内に含まれるVx代表値の個数が相対的に多くなるように)、設定されている。
換言すれば、図8に概略的に示すように、Vxの単位変化量あたりのゲイン係数F0_?の変化量の大きさが一定もしくはほぼ一定となる速度領域(図中の速度領域B2)では、Vx代表値の刻み幅が相対的に大きくなり、Vxの単位変化量あたりのゲイン係数F0_?の変化量の大きさが、比較的顕著に変化する速度領域(図中の速度領域B1)では、Vx代表値の刻み幅が相対的に小さくなるように、該ゲイン係数F0_?に対応するFBゲイン用マップデータのVx代表値が決定されている。
このようなVx代表値は、より具体的には、例えば次のように決定される。すなわち、各Vx代表値に対応するF0_?の値の点を結ぶ折れ線グラフ(基準グラフの近似グラフ)の面積(既定の速度範囲で該近似グラフのF0_?の値を積分してなる値)と、基準グラフの面積(既定の速度範囲での該基準グラフのF0_?の値を積分してなる値)との差の絶対値(以下、面積差という)が最小となるように、所定数のVx代表値が探索的な収束演算によって決定される。
この場合、その収束演算は、次のような手順で行なうことができる。すなわち、まず、所定数のVx代表値の初期候補値が任意に設定される(手順1)。この場合、Vx代表値の刻み幅は、一定値でよい。
次いで、Vx代表値の現在の候補値に対応する前記面積差が算出される(手順2)。
さらに、各Vx代表値を現在の候補値から既定の微小量だけ変化させた場合の上記面積差の変化の感度が算出される(手順3)。
次いで、手順2で算出した各Vx代表値毎の感度に所定のゲインを乗じてなる値が、各Vx代表値の候補値の更新量として算出される(手順4)。
さらに、手順4で算出した更新量により各Vx代表値の候補値を更新し、その更新後のVx代表値の候補値に対応する前記面積差が算出される(手順5)。
次いで、手順5で算出された面積差(更新前のVx代表値に対応する面積差)と、手順2で算出された面積差(更新前のVx代表値に対応する面積差)との差がの絶対値が所定値よりも小さいという第1条件と、手順4で算出された各Vx代表値の候補値の更新量の絶対値の最大値が所定値よりも小さいという第2条件とのうちのいずれか一方の条件が成立するか否かが判断される(手順6)。
この手順6の判断結果が否定的となる場合(第1条件及び第2条件の両方が成立しない場合)には、上記手順5での更新後のVx代表値の候補値を現在値として、上記手順2からの処理が繰り返される。
一方、この繰り返しの途中で、手順6の判断結果が、肯定的になった場合(第1条件又は第2条件が成立する場合)には、直近の手順5での更新後のVx代表値の候補値(又は、その更新前のVx代表値の候補値)が、当該F0_?に対応するFBゲイン用マップのVx代表値として確定される(手順7)。
本実施形態では、以上説明した手順1〜7の処理によって、Vxに対するF0_?の値の2階微分値の大きさが小さい速度領域でのVx代表値の刻み幅よりも、該2階微分値の大きさが大きい速度領域でのVx代表値の刻み幅が相対的に小さくなるように、各F0_?に対応するFBゲイン用マップデータのVx代表値が設定されている。
次に、予見FFゲインFrの予見FFゲイン用マップデータは、Vxの複数の代表値(Vx代表値)及び予見時間の複数の代表値(以降、予見時間代表値という)と、Vx代表値及び予見時間代表値の各組に対応するFFゲインFrの値とから構成される。FFゲイン用マップデータの複数のVx代表値及び予見時間代表値は、次のように決定されている。
まず、予見FFゲイン用マップデータの複数のVx代表値は、予見時間の値が所定値であるときのVxの値とFrの値との関係を示す基準グラフに基づいて決定されている。
この場合、予見時間の上記所定値は、Frに関する基準グラフの全体において、Vxに対するFrの2階微分値の大きさが最大となるような予見時間の値として決定されている。そして、予見時間の値が所定値であるときのVxの値とFrの値との関係を示す基準グラフに基づいて、Vx代表値を決定する仕方は、FBゲイン用マップデータのVx代表値の決定の仕方と同じである。
すなわち、予見時間の値が所定値であるときの基準グラフにおいて、Vxに対するFrの値の2階微分値の大きさが小さい速度領域でのVx代表値の刻み幅よりも、該2階微分値の大きさが大きい速度領域でのVx代表値の刻み幅が相対的に小さくなるように、予見FFゲイン用マップデータにおける複数のVx代表値が設定されている。
また、予見FFゲイン用マップデータの複数の予見時間代表値は、Vxの値が所定値であるときの予見時間の値とFrの値との関係を示す基準グラフに基づいて決定されている。
この場合、Vxの上記所定値は、Frに関する基準グラフの全体において、予見時間に対するFrの2階微分値の大きさが最大となるようなVxの値として決定されている。そして、Vxの値が所定値であるときの予見時間の値とFrの値との関係を示す基準グラフに基づいて、予見時間代表値を決定する仕方は、FBゲイン用マップデータのVx代表値の決定の仕方と同様である。
すなわち、Vxの値が所定値であるときの基準グラフにおいて、予見時間に対するFrの値の2階微分値の大きさが小さい領域(予見時間の領域)での予見時間代表値の刻み幅よりも、該2階微分値の大きさが大きい領域(予見時間の領域)での予見時間代表値の刻み幅が相対的に小さくなるように、FFゲイン用マップデータにおける複数の予見時間代表値が設定されている。
本実施形態では、操舵制御入力決定部23は、上記の如くあらかじめ作成されたFBゲイン用マップデータを用いて、現在時刻での車両走行速度Vxの観測値Vx(k)に対応する前記式(9)のFBゲインF0の各成分のゲイン係数を求める。
さらに、操舵制御入力決定部23は、上記の如くあらかじめ作成されたFFゲイン用マップデータを用いて、現在時刻でのVxの観測値Vx(k)と、式(9)の各jに対応する予見時間j・Δt’の値との組に対応するFr_(j)(j=1,2,…,N)のそれぞれの値を求める。
この場合、FBゲインF0の各成分のゲイン係数を求める処理においては、Vxの観測値Vx(k)が、FBゲイン用マップデータのVx代表値と異なる値である場合には、線形補間処理によって、当該ゲイン係数の値が決定される。
同様に、FFゲインFr(j)を求める処理においては、Vxの観測値Vx(k)が、FFゲイン用マップデータのVx代表値と異なる値である場合、あるいは、予見時間j・Δt’の値が、には、FFゲイン用マップデータの予見時間代表値と異なる値である場合には、線形補間処理によって、当該FFゲインFr(j)の値が決定される。
操舵制御入力決定部23は、以上の如く決定した式(9)の右辺の各パラーメータの値を用いて式(9)の右辺の演算を行なうことで、現在時刻kにおける操舵制御入力Δδ(k)を算出する。
制御装置10は、次に、操舵用アクチュエータ制御部24の処理を実行する。この操舵用アクチュエータ制御部24には、操舵制御入力決定部23で決定された操舵制御入力Δδ(k)が入力される。
そして、操舵用アクチュエータ制御部24は、実際の前輪操舵角δが、入力された操舵制御入力Δδ(k)の値だけ現在値から変化させた値になるように操舵用アクチュエータ7を制御する。
以上説明した制御装置10の制御処理によって、車両1が目標経路に追従して走行するように、前輪操舵角δが操舵用アクチュエータ7を介して制御される。
以上説明した実施形態によれば、二輪モデルに基づく自車両1の動力学的な挙動特性と、Nステップ先までの将来の目標経路とを反映させた前記式(9)により、操舵制御入力Δδ(k)が逐次決定される。
このため、自車両1の実際の走行経路を高い安定性で滑らかに目標経路に追従させるようにすることができる。
例えば、本願発明者のシミュレーションによれば、目標経路の横位置をステップ状に変化させた場合に、図9に示す如く、自車両1の走行経路(実線)が目標経路(破線)に追従するように操舵制御が行われることが確認された。この場合、式(9)に将来の車両横位置Pyの目標値Py_refが反映されているため、目標経路の横位置が変化する前から、自車両1の走行経路の変化が開始する。そして、自車両1の走行経路は、変化後の目標経路に速やかに収束する。
また、本実施形態では、前記FBゲインF0と、予見FFゲインFr(j)(j=1,2,…,N)とがあらかじめ作成されたFBゲイン用マップデータ、予見FFゲイン用マップデータに基づいて瞬時に算出される。このため、制御装置10の各制御処理周期で操舵制御入力Δδ(k)を決定するための演算処理時間が短時間で済む。
ひいては、制御装置10の制御処理周期を十分に短い時間に設定しておくことができる。その結果、自車両1の目標経路のへの追従性を好適に高めることができる。
さらに、FBゲインF0の各成分のゲイン係数F0_?毎のFBゲイン用マップデータにおいては、Vx代表値は、前記した如く設定されているので、該FBゲイン用マップデータに基づき補間演算により決定されるF0_?の値の精度を確保しつつ、Vx代表値の個数を極力少なくすることができる。
同様に、予見FFゲイン用マップデータにおいても、該予見FFゲイン用マップデータに基づき補間演算により決定されるFr(j)(j=1,2,…,N)の値の精度を確保しつつ、Vx代表値の個数及び予見時間代表値の個数を極力少なくすることができる。
このため、FBゲイン用マップデータ及びFFゲイン用マップデータの記憶保持に必要なメモリ容量を少なくできる。
[変形態様について]
次に、以上説明した実施形態の変形態様をいくつか説明する。
前記実施形態では、前記式(5a)(又は式(6a))の状態変数xの一成分としての観測対象状態量に車両方位角θを含めるようにしたが、このθを省略した状態方程式に表されるシステムの拡大システム(前記式(7)と同様の形式のシステム)に基づいて、前記実施形態と同様に得られる演算式により、操舵制御入力Δδを算出するようにしてもよい。
また、前記式(5a),(5b)(又は式(6a),(6b))の状態方程式の代わりに、前輪操舵角δと、その時間的変化率(=dδ/dt)である前輪操舵角速度δ_dotとを状態変数xにさらに含めた状態方程式を用いるようにしてもよい。
例えば、前記式(5a),(5b)の代わりに次式(12a),(12b)の状態方程式により表されるシステムの拡大システムに基づいて、前記実施形態と同様に得られる演算式により、操舵制御入力を決定するようにしてもよい。
なお、この状態方程式のシステムでは、前輪操舵角δの2階微分値(=d2δ/dt2)である前輪操舵角加速度δ_dot2が該システムに対する入力とされている。また、このシステムではθを状態変数xの成分に含めたが、それを省略してもよい。
また、前記実施形態では、状態変数xに含めた横滑り運動状態量として、車両重心横滑り速度Vyを用いたが、Vyの代わりに、車両重心横滑り角βを用いるようにしてもよい。
この場合には、β≒Vy/Vxという関係に基づいて、Vyをβに置き換えて構成される状態方程式を用いて、操舵制御入力を決定するための演算式を構築するようにすればよい。
また、前記実施形態では、前記式(8)における重み行列Qの対角成分(重み係数)と、重み係数Hとを全て“1”に設定したが、それらのうちのいずれかを、他の値と異ならせるようにしてもよい。例えば、X0の成分のうち、ゼロへの収束性をより高めたい成分に掛かる重み係数の値を、他の重み係数の値よりも大きな値に設定しておくようにしてもよい。