JP5905430B2 - 広帯域顕微鏡用カタジオプトリック結像系 - Google Patents

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Description

本願は「高性能カタジオプトリック結像系」(High Performance Catadioptric Imaging System)と題する2003年5月7日付米国特許出願第10/434374号(発明者:David G. Shafer, et al.)の一部継続出願であり、この米国特許出願第10/434374号は「高性能低コストカタジオプトリック結像系」(High Performance, Low Cost Catadioptric Imaging System)と題する2003年2月21日付米国暫定特許出願第60/449326号に基づく利益を享受する出願である。
本発明は、概略、光学的画像取得の分野に関し、より詳細には、顕微鏡的乃至微視的な撮影、検査、リソグラフィ等に使用されるカタジオプトリック光学系に関する。
標本表面に現れている構造物を検査し又はその画像を取得すること(イメージング)ができる光学系は多数あり、また顕微鏡を用いてイメージングを行う分野もいろいろある。顕微鏡を用いたイメージングが行われるのは、例えば、生物学、度量衡学、半導体検査等、やや込み入った検査分野であり、そうした分野では微小エリア乃至微小構造物を高解像度でイメージングできる性能が求められる。また、顕微鏡を用いたイメージングでは様々な結像モードを使用できる。様々な結像モードがあるのは標本上の構造物に様々な種類があるためである。結像モードは、狙っている対象物の種類に応じ、その種の構造物から明確な像を取得できるように選択する。なお、結像モードの例としては、明視野、暗視野、微分干渉、共焦点、浸漬等がある。
また、UV(紫外)波長域向け広帯域結像型顕微鏡があれば、多くの分野で有益に使用できるであろう。例えばOCT(optical coherence tomography:光干渉断層計)は生体組織断面をイメージングする装置として知られており、OCTにより得られる像の縦方向解像度は、使用光の帯域幅に反比例する光可干渉距離(light coherence length)により決定づけられている。そのため、OCTにて広帯域顕微鏡を使用すること、ひいては光可干渉距離を小さくし画像の縦方向解像度を精細にする(高める)ことができれば、有益である。このように、UV波長域広帯域イメージング技術は、縦方向解像度や横方向解像度が高い像が得られる技術であると見込まれている。
400nmより短い波長を使用し顕微鏡で広帯域イメージングを実現するに当たり、肝要な光学部品の一つは結像用の光学系乃至結像系即ち対物系(本願では単に「対物系」と呼ぶ)である。従来の対物系の中にはUV波長域で使用できるものもあり、そのなかには下は340nmに至る波長の光を通すことができるものもあるが、光の波長が400nm未満の領域では不十分な結像精度しか得られない。それは、その種の対物系の主たる用途が蛍光イメージングであるからである。蛍光イメージングとは、そのスペクトラムが340nm〜可視光域に属する励起光によってマーカ染料中の蛍光成分を励起するイメージング手法であり、その典型的な使用波長域は可視光域である。そのため、蛍光イメージング用対物系に対する性能要求は可視光域を基準として画定されるから、UV波長域では結像精度が不十分になる。
また、400nmより短波長側で広帯域に亘り十分な性能を呈する対物系もわずかだがある。しかしながらその何れも標準的な顕微鏡システム用の対物系としては使用できないものである。即ち、大きすぎたり、NA(numerical aperture:数値開口乃至開口率)値が不十分であったり、視野サイズが不十分であったりする。
対物系のNA値とは、一定対物距離におけるその対物系の集光能力及び標本細部分解能力を表す数値であり、その対物系若しくはその構成部品に入射するメリジオナル光線又は当該対物系若しくはその構成部品から出射するメリジオナル光線の最大円錐頂角の正弦値に、その円錐の頂点の所在場所を満たしている媒体の屈折率を乗ずることによって、求められる。大NA光学系を対物系として使用できれば、標本上のより小さな構造物を解像できる等の検査上瞠目すべき効果が得られるだけでなく、広角度に亘り散乱光を集光できるため暗視野環境での性能を高めることができる。
ここに、何れもShafer et al.に付与された米国特許に係る特許文献1及び2に記載の対物系は、UV波長域で強力に収差補正された大NA広帯域カタジオプトリック光学系である。図1には特許文献1に示されている発想によるカタジオプトリック装置の典型的な構成100を、また図2には特許文献2に示されている発想によるカタジオプトリック装置の典型的な構成200を、それぞれ示す。図1は特許文献1の図1と、図2は特許文献2の図4と、類似した図である。
まず、Shafer et al.に係る特許文献1に記載されている対物系は、UV波長域で超広帯域イメージングを実現可能な大NA対物系である。最大約0.9にも及ぶ大きなNA値を有するこの対物系によれば、明視野モードを用いて広帯域でイメージングを行うことができ、また暗視野モードを用いて複数の波長でイメージングを行うことができる。しかしながら、図1に示した如き対物系100には幾つかの問題点がある。第1に、大きく湾曲しているカタジオプトリック素子の中央部の孔内に視野レンズ集合体を実体配置する必要があるため、製造が面倒になりがちでありまた値もはりがちである。第2に、この対物系100においては視野レンズ素子同士を糊付けしなくてはならず、そのため光路上に糊付け面が何個か介在することとなるのに、365nm未満の波長で使用できしかも内部焦点における光強度レベルに耐え得るほど信頼度が高い糊などというものは普通は実現することができない。第3に、この対物系100におけるレンズ素子は視野面の非常に近くに配置されるため、非常に高い水準の(ほとんど完全というべき水準の)表面品質及びバルク素材品質を有するものでないと画像品質の劣化を避けられない。第4に、この対物系100を構成する素子特にカタジオプトリック素子集合体に属する素子の直径は標準的な顕微鏡用対物系よりも普通は大きくなるが、素子直径が大きいと検査システムへの組込が難しくなり製造コストが嵩むことが多い。
次に、図2に示されている対物系200も概ねUV波長域で超広帯域イメージングを実現可能な大NA対物系である。最大約0.9にも及ぶ大きなNA値を有するこの対物系200によれば、明視野モードを用いて広帯域でイメージングを行うことができ、暗視野モードを用いて複数の波長でイメージングを行うことができ、しかも可変焦点チューブレンズを用いれば倍率を大きく変化させることができる。しかしながら、そのカタジオプトリック素子集合体にて大きめの軸上球面収差(on-axis spherical aberration)が発生すること等を考慮すると、この図に示した対物系200においては、その視野レンズ集合体における公差を非常に厳しくする必要や、発生した軸上球面収差をその後段の屈折レンズ素子により補正する必要があるといえる。更に、この図に示した対物系200はやや大きすぎ、そのため素子特にカタジオプトリック素子集合体に属する素子の光機械実装手順乃至形態が込み入りがちである。
更に、図1及び図2に示した大NA対物系100又は200を顕微鏡用として使用するには、顕微鏡の特質に由来する幾つかの厳しい条件をクリアしなければならない。まず、通常、標本からその装着用フランジまでの距離(フランジ対物距離)の上限は45mmである。顕微鏡のタレットに装着できる対物系は大抵はその直径が40mm以内のものに限られる。通常、対物系を顕微鏡タレット内にネジ止めするのに使用されるネジ山のピッチは通常は20mm、25mm及び32mmのうち何れかに限られる。そして、顕微鏡用対物系の多くは屈折型素子だけで構成された全屈折型対物系であるが、全屈折型対物系で使用できる波長は使用可能なガラス素材による制約を受ける。
標本の顕微鏡検査向けに開発された光学装置は他にもあるが、そうした光学装置には共通する欠点乃至制約が見られる。総じて、高精度検査環境では長中心波長対物系ではなく短中心波長対物系を用いる方が有利である。例えば半導体ウェハのような多層標本を検査する場合、短波長であればその標本を高い光学的解像度で検査できるため、その上層にある欠陥をより高い確率で且つ相互に分離して検知でき、また検知した欠陥の特性・特徴をより明確に判別決定できる。加えて、特に照明用光源としてアークランプを用いる場合、使用できる帯域ができるだけ広い対物系を用いることが望ましい。しかしながら、短波長域で広帯域をカバーできる全屈折型対物系を実現するのは難しい。それは、高透過率で色収差を十分に補正できるガラス素材がほとんどないためである。かといって狭帯域対物系では、使用可能光パワー値が低く検査対象面上の薄膜による干渉が多くなりがちであるため、検査用には望ましくない。
また、標準的な顕微鏡用対物系におけるフランジ対物距離は45mm以内であるのに、これまでに実現されているカタジオプトリック対物系にはこの条件を満足できないものが多い。仮に、そうしたカタジオプトリック対物系を使用するとしたら、顕微鏡の光学系をやや特殊な光学系、即ちフランジ対物距離が60mmを超えまたレンズ直径が60mmを超える特殊な対物系を使用可能な光学系としなければならない。そのため、標準的な顕微鏡用対物系と併用でき標準的な顕微鏡用タレット内に物理的に組み込むことができる小型対物系を実現することも、嘱望されている。しかしながら、これまでに知られている小型対物系のNA値は高々0.75、視野サイズも高々0.12mm、帯域幅も高々10nmと狭小である。また、こうした小型対物系の代表例はシュバルツシルト方式を用い性能向上を狙ってカタジオプトリック素子集合体内に何個かのレンズ素子を付加したものであるが、それがため普通はその作動距離が8mmを超えてしまう。勿論、シュバルツシルト方式の小型対物系における作動距離を短くすることも可能でありそれによってその対物系の直径を更に小さくすることが可能ではあるものの、その引替として中央暗部(central obscuration)が広くなり対物系としての性能が大きく劣化してしまう。
更に、固有収差(intrinsic aberration)の少ない対物系、例えば単色収差及び色収差双方を強力に自己補正(self correction)でき、従前の自己補正型結像系に比べ配置公差が緩い自己補正型対物系も望まれている。なかでも、製造公差例えばレンズ素子芯ズレ公差(lens centering tolerance/lens decenter tolerance)が緩い対物系を実現できれば、特に有益である。更に、レンズ素子表面への入射角を抑えることは光学被膜の性能を高めまた製造を効率化する上でとみに有益であり、レンズ素子表面への入射角を抑えることによっても一般に製造公差が緩くなる。
従って、従来公知の対物系が有している前掲の各問題点が解消された顕微鏡用光学系を実現できれば、またそうした問題点を呈する装置に比べ優れた機能を有する光学検査システムを提供できれば、有益であるといえよう。
米国特許第5717518号明細書 米国特許第6483638号明細書
対物系のNA値を大きくすることができる対物系を提供する。
本発明の第1実施形態に係る対物系は、約266〜1000nmの波長域に属する波長を有する光エネルギが入射される対物系であって、入射光エネルギを受け取り合焦光エネルギを出射するよう構成された1個又は複数個の合焦レンズ素子を含む合焦レンズ素子集合体と、合焦レンズ素子集合体から合焦光エネルギを受け取り中間光エネルギを出射するよう方向設定された視野レンズ素子と、視野レンズ素子から中間光エネルギを受け取り制御光エネルギを出射するよう位置設定されたマンジャンミラー装置と、を設けると共に、各合焦レンズ素子の直径を約100mm未満とし、収差補正後における最大視野サイズが約0.15mmになるようにしたものである。
本発明の第2実施形態に係る対物系は、約157nmから赤外光域に至る波長域に属する波長を有する光エネルギが入射される対物系であって、入射光エネルギを受け取るよう構成された合焦レンズ素子集合体であって1個又は複数個の合焦レンズ素子を含む合焦レンズ素子集合体と、合焦レンズ素子集合体から合焦光エネルギを受け取り中間光エネルギを出射するよう方向設定された1個又は複数個の視野レンズ素子と、視野レンズ素子から中間光エネルギを受け取り制御光エネルギを出射するよう位置設定されたマンジャンミラー装置と、を設けると共に、合焦レンズ素子及び視野レンズ素子を何れもその直径が約100mm未満の素子とし且つマンジャンミラー装置が制御光エネルギを標本に与えるときのNA値を0.65超にまた視野サイズを約0.15mmにしたものである。
本発明の第3実施形態に係る対物系は、約157nmから赤外光域に至る波長域に属する波長を有する光エネルギが入射される対物系であって、入射光エネルギを受け取り合焦光エネルギを出射する1個又は複数個の合焦レンズ素子と、合焦光エネルギを受け取り中間光エネルギを出射する1個又は複数個の視野レンズ素子と、中間光エネルギを受け取り制御光エネルギを浸漬媒を介して標本に向け出射する1個又は複数個のマンジャンミラー素子と、を設けると共に、合焦レンズ素子、視野レンズ素子及びマンジャンミラー素子を何れもその直径が約100mm未満の素子とし、更にそれらを全てある同じ単一のガラス素材から形成したある同じガラス素材から形成したものである。
本発明の第4実施形態に係る対物系は、約157nmから赤外光域に至る波長域に属する波長を有する光エネルギが入射される対物系であって、入射光エネルギを受け取り合焦光エネルギを出射する1個又は複数個の合焦レンズ素子と、合焦光エネルギを受け取り中間光エネルギを出射する1個又は複数個の視野レンズ素子と、中間光エネルギを受け取り制御光エネルギを浸漬媒を介して標本に向け出射する1個又は複数個のマンジャンミラー素子と、を設けると共に、合焦レンズ素子、視野レンズ素子及びマンジャンミラー素子を何れもその直径が約100mm未満の素子とし、更にそれらを全てある同じ単一のガラス素材から形成したある同じガラス素材から形成したものである。
本発明の第5実施形態に係る方法は、標本を検査する方法であって、約157nmから赤外光域に至る波長域に属する波長を有する光エネルギを入射するステップと、何れもその直径が約100mm未満である1個又は複数個のレンズ素子を用いて入射光エネルギを合焦光エネルギへと合焦させるステップと、合焦光エネルギを受け取り中間光エネルギに変換するステップと、中間光エネルギを受け取り制御光エネルギを浸漬媒を介して標本に向け出射するステップと、を有する。
特許文献1の図1に示されているものと同様の構成を有するカタジオプトリック対物系を例示する図である。 特許文献2の図4に示されているものと同様の構成を有するカタジオプトリック対物系を例示する図である。 本発明の一実施形態に係る大NA小型7素子カタジオプトリック対物系を示す図である。 本発明の一実施形態に係る大NA小型8素子カタジオプトリック対物系であってその収差補正帯域が266〜1000nmでその視野サイズが約0.150mmの対物系を示す図である。 本発明の一実施形態に係る大NA小型9素子カタジオプトリック対物系であってその収差補正帯域が266〜1000nmでその視野サイズが約0.150mmの対物系を示す図である。 本発明の実施形態によりサポートされる比帯域幅を示すグラフである。 図5に示したものとは異なる中心波長向けに設計された9素子対物系を示す図である。 対物系にて使用されるカタジオプトリック素子集合体乃至マンジャンミラー装置の変形例、特に水、油、シリコーンゲル等の浸漬媒を有するものを示す図である。 浸漬媒を有するカタジオプトリック対物系を示す図である。 浸漬媒を有するカタジオプトリック対物系、特にそのカタジオプトリック素子集合体が1個の固形素子から構成された対物系を示す図である。 浸漬媒を有するカタジオプトリック対物系、特にそのカタジオプトリック素子集合体にて二組のレンズミラー空洞が形成された対物系を示す図である。 その収差補正帯域が320〜1300nmの7素子対物系、特に単一のガラス素材を用いて(性能を向上できる場合は複数のガラス素材を用いて)形成された対物系を示す図である。
以下、本発明について別紙図面を参照しながら詳細に説明する。本件技術分野における習熟者(いわゆる当業者)であれば、以下の説明及び図示を参照することにより、上述したものもそれ以外のものも含めて本発明の実施形態を明瞭に認識できるであろう。
なお、本発明についての以下の図示説明は例示的な性格のものであり、趣旨限定的な性格のものではない。
本発明の一実施形態に係るカタジオプトリック対物系は、その収差補正帯域が266〜1000nmの波長域で且つ形成に使用されたガラス素材が一種類の(性能向上につながる場合は複数種類の)カタジオプトリック対物系であり、その有益さが特に明らかになるのは顕微鏡の分野にて用いられた場合である。図3に、本発明の一実施形態に係る対物系を示す。この図に示すカタジオプトリック対物系は、UV及び可視光の両スペクトル域に跨る広い帯域、即ち約0.266〜1.000μmの波長域に属する光を結像できるよう構成されており、従来に比べそのNA値が大きく且つ対物視野が広い対物系である。本対物系はシュプマンの原理に基づき構成されており、更にオフナー式視野レンズ素子を併用して軸方向色収差(axial color aberration)及び一次横方向色収差(first order lateral color aberration)を補正するようにしたものである。図上明らかなように、本実施形態では、視野レンズ集合体305の位置を中間像309の位置からわずかにずらすことによって、性能を向上させている。
図3中のカタジオプトリック素子集合体312はマンジャンミラー装置であり、何れも反射被膜付きのレンズ素子であるマンジャンミラー素子307及び凹球面反射素子306から構成されている。これらマンジャンミラー素子307及び凹球面反射素子306の中心部には光学的な開口即ち反射素材のない部分が形成されているため、標本乃至対象物310から到来する光線はまずマンジャンミラー素子307を通り抜け、凹球面反射素子306に設けられている反射性の第2面に内側から入射してマンジャンミラー素子307の反射面方向に反射され、そして凹球面反射素子306及び視野レンズ集合体305を通り抜けた場所に中間像309を形成することとなる。なお、この図中で視野レンズ集合体305を構成している視野レンズ素子の個数は1個であるが、複数個のレンズ素子を用いて視野レンズ集合体305を構成することもできる。
また、視野レンズ集合体305の方向から到来する光線を中間像309を含め集光する合焦レンズ素子集合体311は、複数個のレンズ素子(図では4個のレンズ素子301、302、303及び304)から構成されており、それらレンズ素子は皆ある同じ素材から形成されている。
図3に示した実施形態向けのレンズ処方を表1に示す。
Figure 0005905430
いわゆる当業者であれば容易に認め得る通り、表1最左欄に記されている数字は図3に示した対物系より左側にある不図示部材を含めて左側から数えた面番号を表している。例えば、レンズ素子301の左面は表1でいうと面3に該当し、右面は面4に該当する。面3の曲率半径は21.214mm、面4の曲率半径は無限大(平坦)であり、レンズ素子301の厚みは2.5mm、面4とその次にくる面との間隔は6.866mm、素材は熔融シリカ、というように読む。
図3に示した対物系におけるNA値は約0.90又はそれ以上の値となる。本実施形態を含め、本願記載の実施形態は例外なく0.65超という顕著に大きなNA値を有している。
図3中の合焦レンズ素子集合体311は、入射してくる光エネルギを受け取り合焦させつつ出射して中間像309を形成する機能を有している。視野レンズ集合体305は、合焦レンズ素子集合体311から出射され中間像309として合焦された光エネルギを受け取り中間的な光エネルギとして出射する機能を有している。マンジャンミラー装置であるカタジオプトリック素子集合体312はこの中間的な光エネルギを受け取り制御された光エネルギを標本310に向け出射する。標本310は制御された光エネルギを反射する。即ち反射光路は標本310にて始まる。マンジャンミラー装置たるカタジオプトリック素子集合体312は標本310により反射された光エネルギを受け取り出射する。視野レンズ集合体305は反射された光エネルギを受け取り中間像309として合焦させる。合焦レンズ素子集合体311はこの合焦された最終的な光エネルギを受け取り出射する。その結果現れる入射瞳308は本対物系内にある内部瞳の像である。なお、本対物系のNA値を制限乃至変更するには、この入射瞳308に開口乃至マスクを配置しておけばよい。
また、図3及び表1に示した対物系はある単一のガラス素材から形成されている。ここではその素材は熔融シリカであるが、他種ガラス素材を用いることもできる。本対物系で熔融シリカを使用しているのは、190nm〜赤外波長という広い波長域に亘ってその光吸収率が低い素材だからであり、他種素材を使用する場合もこの条件を満たすものを選ぶ必要がある。熔融シリカを用いた対物系は、この波長域内であればどのような中心波長向けにも構成できる。例えば、193nm、198.5nm、213nm、244nm、248nm、257nm、266nm、308nm、325nm、351nm、355nm、364nm等の波長で発振するレーザ光源向けや、190〜202nm、210〜220nm、230〜254nm、285〜320nm、365〜546nm等のスペクトル帯域を有するランプ光源向けに、本対物系を適宜構成することができる。レンズ素子を形成するガラス素材として弗化カルシウムを用いる場合は、157nmで発振するエキシマレーザ光源向けや、157nm乃至177nmで発光するエキシマランプ光源向けに本対物系を構成することができる。使用する波長に合わせた構成にするには各構成部材を調整乃至変更する必要もあろうが、これはいわゆる当業者がなし得る範囲のことである。また、視野レンズ集合体305内で弗化カルシウム製レンズを用い、本対物系の帯域幅を拡げることも可能である。その種の変形については特許文献1を参照されたい。
更に、本対物系を構成するレンズ素子での最大直径は26mmであり、この波長域で従来使用されていた対物系に比べると顕著に小さくなっている。このように小型の対物系はその特性面で際だって特徴的且つ有益であり、そのフランジ対物距離が約45mmの標準的な顕微鏡タレットにも装着できる。しかもこの対物系は、約0.90という大きなNA値及び約0.4mmという大きな視野サイズを有しており、その収差補正帯域が約285〜313nmと広く、その多色波面収差(polychromatic wavefront error)が約0.067波長未満と小さな対物系である。
なお、対物系における視野サイズとは、標本のうち最小限の光学品質を保ちつつ結像できる部分のサイズのことであり、一般に、大抵の用途で視野サイズが大きいものが重宝される。
どのような光学系でもいえることであるが、本対物系にも性能に関わるトレードオフ関係がある。本対物系の性能をその所期用途に応じた性質のものにするには、そうしたトレーオフ関係を利用すればよい。例えば、帯域幅、視野サイズ、NA値及び対物系サイズといった特徴的性能のうち何個かを犠牲にし残りの何個かを増強することができる。どれを犠牲にしてどれを増強するかは用途に応じて決めればよい。例えばNA値を小さくすることによって、製造公差を緩くすると共に対物系外径を小さくし、視野サイズを大きくすると共に帯域幅を拡げ、(同一性能を保ちつつ)構成光学素子数を減らすことができる。逆に、NA値を大きくするには一般に視野サイズや帯域幅を抑えればよく、それに伴い対物系を構成する素子の直径がわずかに大きくなる。なお図3に示した対物系の視野サイズは直径で0.150mmである。
更に、図3に示した対物系によれば、約266〜1000nmという設定帯域内での固有多色波面収差(intrinsic polychromatic wavefront aberration)が従来より小さくなる。波面収差が小さければ製造上の余裕乃至製造上の容易さが増し、それでいて対物系製品の性能は従来より高くなる。また、本対物系は自己補正型でもある。本願では、自己補正という用語を、その対物系に何ら光学部品を付加せずとも収差を補正でき設計仕様を充足できる、という意味で使用している。自己補正機能があるため、本対物系と他の自己補正型結像系とを位置合わせして行う光学計測試験は単純乃至簡便なものとなる。勿論、結像に関わる光学系乃至光学部品を付加して残留収差(residual aberration)を補正することもでき、それによって帯域幅や視野サイズ等の光学的仕様をより高水準にすることができる。
また、本対物系の利点の一つはその製造公差が従来より緩いこと、詳細にはレンズ素子芯ズレ公差が従来より緩いことである。個別のレンズ素子に対する芯ズレ公差が緩いということはその対物系の製造条件が傾向として単純になるということである。製造時に発生するレンズ素子芯ズレは他種収差残留無しに補正するのが困難な軸上コマ収差(on-axis coma)を引き起こすものであるが、本対物系では、カタジオプトリック素子集合体312における収差や合焦レンズ素子集合体311における収差を注意深くバランスさせることによって、そのレンズ素子やミラー素子の芯ズレ感受性を抑えることができる。更に、図3に示した対物系では、視野レンズ集合体305及び合焦レンズ素子集合体311における必要補正量をうまくバランスさせることによって、カタジオプトリック素子集合体312を含めた合計収差(total aberration)を最善水準とすることができる。
本対物系における芯ズレ感受性は低く、何ら収差補正器を付加していないにもかかわらず、10μmの芯ズレによって各素子で生じる収差が高々約0.27波長に留まる。なかでもカタジオプトリック素子集合体312は特に芯ズレ感受性が低く、凹球面反射素子306とマンジャンミラー素子307との芯ズレが10μmあっても、それにより発生する収差は高々0.15波長である。図3に示した対物系における波長=約313nmでの平均公差は、収差でいって約0.15波長と緩いものである。カタジオプトリック素子集合体312に属する素子間で公差を更にバランスさせれば、芯ズレ感受性をより良好な水準にすることもできる。
また、芯ズレが小さい場合、傾向として、その芯ズレによって生じる光路長誤差は波長に対して概ね直線的に変化するので、使用波長が変われば芯ズレ公差も変わる。例えば、芯ズレが10μmである場合の光路長誤差が約0.0532μmであるとする。この光路長誤差は波長=266nmで動作している対物系では0.2波長分の収差に相当するのに、波長=365nmで動作している対物系ではたった0.15波長分の収差に相当するに過ぎない。このように、使用波長によって芯ズレ公差は変わる。
このように、図3に示した対物系においては、同様の環境で使用される従来のカタジオプトリック対物系に比べまた大抵の標準的な屈折型対物系に比べ芯ズレ公差が緩くなるだけでなく、ガラス素材屈折率公差も従来より緩くなる。ガラス素材屈折率公差が緩くなる主たる理由は、屈折率が違う二種類のガラス素材を利用して色収差を補正する手法を採らず、使用するガラス素材を一種類に絞りつつも色収差を抑えられるようにしたからである。更に、従来の対物系、即ち屈折率特性が異なる複数種類のガラス素材を用い色収差補正を行う対物系では、温度による屈折率特性の変化が素材毎にバラバラであるため、設計の際に基準とした温度以外の温度では色収差補正量が所期とは違う量になり、これにより全体性能の低下が生じていた。これに対して、本対物系は、使用しているガラス素材が一種類であるため温度変化に対する感受性が低い。
また、本願にて実施形態として記載されている対物系は、明視野(bright field)モード、各種の暗視野(dark field)モード、共焦点(confocal)モード、微分干渉(differential interference contrast)モード、偏向(polarization contrast)モードを含め、各種の照明/結像モードに対応できる。
顕微鏡用の対物系で最もよく用いられるのは明視野モードであり、明視野モードによる照明の利点は鮮明な像が得られることである。本願に実施形態として記載されている対物系で明視野モードによる照明を実施した場合、像の寸法値にその対物系の倍率を乗じて得られる寸法値即ち標本上における特徴的構造物の寸法値を、精度よく知ることができる。また、当該対物系及びその光学構成部品は特に支障なく画像比較及び処理アルゴリズムと組み合わせることができるため、対象物検知/分類処理をコンピュータ化できる。なお、明視野モードを実施する際に使用される光源は、通常はそのスペクトルが広帯域に拡がった非コヒーレント光源であるが、レーザ光源を用いて照明してもかまわない。本発明を実施するに当たり、照明系の構成は使用する光源の種類によってやや変わる。
光学的セクショニングにより対象物(標本)上の構造物の高さの違いを解像するのに用いられるのは共焦点モードである。大抵の結像モードでは構造物の高さ変化を検知するのが困難であるが、共焦点モードでは、対象物上の構造物の像がその高さの違いによって異なる現れ方をするため、高さの違いによる像の違いに着目して構造物間高さ比率乃至相対的高さ関係を知ることができる。本発明は、この共焦点モードを実施可能な形態で実施できる。
対象物上の構造物を検知できるモードには更に暗視野モードがある。暗視野モードの利点の一つは、対象物上の平坦な反射エリアから検知器に向かって到来するごくわずかな散乱光、例えば対象物から突出している表面構造物にて発生する散乱光から、暗いながらも像を生成できることである。半導体ウェハ等の対象物を検査する際暗視野モードにより結像させれば、暗い背景の中に対象物上の構造物、粒子その他の不規則形状部分が浮かび上がった像を、得ることができる。本発明は、こうした暗視野モードによる照明を行える構成で実施することができる。また、暗視野モードでは、光散乱性の微小構造物に対して光をぶつけたときに得られる信号が、像としての広がりが大きな信号となる。像としての広がりが大きな信号であるから、検知対象としている構造物のサイズに比肩し使用画素サイズが大きめでも特に支障はないので、画素サイズを大きめにして対物検査を高速化することができる。暗視野モードによる検査を実施する際得られる信号中に繰り返し現れるパターンを抑圧し、対象物上の構造物(ウェハの表面欠陥等)を示す信号の信号対雑音比を向上させるには、フーリエフィルタを使用すればよい。
また、暗視野モードにも様々な種類があり、それぞれ照明方式や集光方式に違いがある。照明方式や集光方式は、対象物から到来する散乱回折光から取得する信号の信号対雑音比が許容水準になるよう、選べばよい。本対物系で結像に使用できる暗視野モードとしては、例えば、環状暗視野(ring dark field)、レーザ方向性暗視野(laser directional dark field)、二重暗視野(double dark field)、中央暗視野(central dark ground)等のモードがある。本発明を実施する際には、こうした暗視野モードを随意に実行可能な構成とすることができる。
図4に、本発明の他の実施形態に係る8素子対物系を示す。図3に示した対物系に対する本対物系の相違点の一つは、素子を1個追加することによって収差を小さくし対物系の公差を緩くしていることである。即ち、この図に示した対物系における収差補正帯域は約266〜1000nmに亘っており、その視野サイズは約0.150mmであり、NA値としては約0.90という大きな値を確保しており、それでいて多色波面収差最悪値は約0.062波長と抑えられている。
図4中のカタジオプトリック素子集合体413はマンジャンミラー素子408及び凹球面反射素子407から構成されている。これらマンジャンミラー素子408及び凹球面反射素子407は何れも反射被膜付きレンズ素子であり、その中央には、反射素材のない部分即ち光学的開口が形成されている。このように反射被膜無しの部分があるため、対象物たる標本411から到来する光は、マンジャンミラー素子408を通り抜け、凹球面反射素子407の反射性の第2面によりマンジャンミラー素子408方向に反射され、凹球面反射素子407及び視野レンズ集合体406を通過して、中間像410を形成する。なお本実施形態で視野レンズ集合体406を構成している視野レンズ素子の個数は1個である。
また、中間像410を含め視野レンズ集合体406の方向から到来する光線を集光する合焦レンズ素子集合体412は、複数個のレンズ素子(図では5個のレンズ素子401、402、403、404及び405)から構成されており、それらレンズ素子は皆ある同じ素材から形成されている。また、入射瞳409は本対物系の内部瞳の像であり、この位置に開口乃至マスクを配置すれば本対物系のNA値を制限乃至変更することができる。図4に示した対物系は、図3に示した対物系と同様の利点及び柔軟性(変形可能性)を有している。本実施形態向けのレンズ処方を表2に示す。
Figure 0005905430
本対物系における芯ズレ感受性は低く、何ら補正器を設けていないにもかかわらず、10μmの芯ズレによって各素子で生じる収差が高々約0.23波長に留まる。なかでもカタジオプトリック素子集合体413は特に芯ズレ感受性が低く、凹球面反射素子407とマンジャンミラー素子408の芯ズレが10μmあってもそれによって生じる収差は高々0.15波長である。図4に示した対物系における波長=約313nmでの平均公差は、収差でいって約0.15波長と緩いものである。
図5に、本発明の他の実施形態に係る9素子対物系を示す。図3に示した対物系に対する本対物系の主な相違点は、素子を2個追加して対物系の公差を緩くしていることである。即ち、この図に示した対物系における収差補正帯域は266〜1000nmに亘っており、その視野サイズは約0.150mmであり、NA値としては約0.90と大きな値を確保しており、それでいて多色波面収差最悪値は約0.056波長に抑えられている。
図5中のカタジオプトリック素子集合体514はマンジャンミラー素子509及び凹球面反射素子508から構成されている。これらマンジャンミラー素子509及び凹球面反射素子508は何れも反射被膜付きレンズ素子であり、その中央には、反射素材のない部分即ち光学的開口が形成されている。この反射被膜無し部分があるため、対象物たる標本512から到来する光は、マンジャンミラー素子509を通り抜け、凹球面反射素子508の反射性の第2面によりマンジャンミラー素子509方向に反射され、凹球面反射素子508を通過した後視野レンズ集合体507を通過する前の位置に中間像511を形成する。なお本実施形態で視野レンズ集合体507を構成している視野レンズ素子の個数は1個である。
また、中間像511を含め視野レンズ集合体507の方向から到来する光線を集光する合焦レンズ素子集合体513は、複数個のレンズ素子(図では6個のレンズ素子501、502、503、504、505及び506)から構成されており、それらレンズ素子は皆ある同じ素材から形成されている。入射瞳510は本対物系の内部瞳の像であり、この位置に開口乃至マスクを配置すれば本対物系のNA値を制限乃至変更することができる。図5に示した対物系は、図3に示した対物系と同様の利点及び柔軟性(変形可能性)を有している。本実施形態向けのレンズ処方を表3に示す。
Figure 0005905430
図5に示した対物系における芯ズレ感受性は低く、何ら補正器を設けていないにもかかわらず、10μmの芯ズレによって各素子で生じる収差が高々約0.25波長に留まる。波長=約313nmでの平均公差は収差でいって約0.15波長と緩いものである。
本発明に係る小型カタジオプトリック対物系実現手法によれば、使用しているガラス素材が一種類であるため収差補正帯域が非常に広くなり、また従来よりもレンズ素子の直径が小さくなる。例えば、従来の全自己補正型対物系における視野サイズは約0.4mm近傍の値でありまた比帯域幅の上限は約0.19近傍の値であったが、本発明に係る新規な全自己補正型対物系における視野サイズは約0.15mmと小さくまた比帯域幅は最大で約0.9に達する程に広いものとなる。
図6に、図3〜図5に示した対物系により実現できる比帯域幅を示す。本願でいうところの比帯域幅とは帯域幅を中心波長で除した比の値のことであり、本発明に係る対物系で実現できる比帯域幅は従来より広く、また使用可能帯域はUV波長域に属する波長である400nm近くまで延びている。一般に、比帯域幅が広いと色彩が鮮明になるため、こうした広い比帯域幅が望まれることが多い。また、使用素材の屈折率増加が非線形的であるため比帯域幅には中心波長が短くなると狭くなる傾向があり、これは中心波長が短く且つ比帯域幅が広い対物系を実現する上でやっかいな問題であった。即ち、事実上この現象が原因で対物系を実現できないことが多かった。これに対して、本発明の実施形態に係る対物系によれば、顕著に望ましいことに、この図に示すように高い性能及び広い比帯域幅を実現することができる。
図7に、本発明の他の実施形態に係る9素子対物系を示す。図5に示した対物系に対する本対物系の相違点の一つは、違う中心周波数向けに構成されていることである。即ち、この図に示した対物系における収差補正帯域は190〜202nmに亘っており、その視野サイズは約0.150mmであり、NA値はやはり約0.90と大きな値であり、多色波面収差最悪値は約0.045波長となっており、それでいてその比帯域幅は約0.06と広くなっている。従来型の典型的なカタジオプトリック対物系では、中心波長が196nmである場合の実際の比帯域幅が高々約0.005であったから、本対物系における約0.06という比帯域幅は顕著に広いものである。
図7中のカタジオプトリック素子集合体714はマンジャンミラー素子709及び凹球面反射素子708から構成されている。これらマンジャンミラー素子709及び凹球面反射素子708は何れも反射被膜付きレンズ素子であり、その中央には、反射素材のない部分即ち光学的開口が形成されている。これらの素子の中央部分に反射被膜がないため、対象物たる標本712から到来する光は、マンジャンミラー素子709を通り抜け、凹球面反射素子708の反射性の第2面によりマンジャンミラー素子709方向に反射され、凹球面反射素子708を通過した後視野レンズ集合体707を通過する前の位置に中間像711を形成する。なお本実施形態で視野レンズ集合体707を構成している視野レンズ素子の個数は1個である。
また、中間像711を含め視野レンズ集合体707の方向から到来する光線を集光する合焦レンズ素子集合体713は、複数個のレンズ素子(図では6個のレンズ素子701、702、703、704、705及び706)から構成されており、それらレンズ素子は皆ある同じ素材から形成されている。入射瞳710は本対物系の内部瞳の像であり、この位置に開口乃至マスクを配置することによって本対物系のNA値を制限乃至変更することができる。
本実施形態向けのレンズ処方を表4に示す。
Figure 0005905430
本発明は、更に、その結像モードとして浸漬(immersion)モードを使用可能な対物系としても実施でき、本発明の実施形態に係る対物系にて浸漬モードを用いれば、NA値を大きくして解像度を向上させることができる。即ち、標本と対物系の間に流体を差し挟むことにより対物系のNA値が大きくなる。例えば、標本と対物系の間の空間を屈折率1.5の油で満たせば、限界入出射角が拡がって64°に達する結果、NA値が大きくなり約1.35にも達する。
図3に示した対物系においては、マンジャンミラー素子307の両面が平坦面乃至緩湾曲面であるため、マンジャンミラー素子307と標本310に挟まれている空間内に流体を入れることによって、その空間におけるNA値を大きくして浸漬モードを実施することができる。この場合、マンジャンミラー素子307の第2面即ち右面に入射する光のうち、その入射角が41°を超える光は全て内部全反射される。
図8に、素子が湾曲している場合でも浸漬モードを実施できるようにしたマンジャンミラー装置を示す。このマンジャンミラー装置においては、マンジャンミラー素子802の第2面即ち標本801に最も近い面の曲率を大きくすることによって、これを達成している。即ち、マンジャンミラー装置たるカタジオプトリック素子集合体を構成するマンジャンミラー素子802及び凹球面反射素子803の厚み及び曲率に工夫が施されているため、当該マンジャンミラー装置乃至カタジオプトリック素子集合体を浸漬媒存在環境下で機能させることができる。また、本カタジオプトリック素子集合体においては、球面収差のみならず、軸方向色収差や球面収差色変化(chromatic variation of spherical aberration)も補正できる。このカタジオプトリック素子集合体に対し更に変形を施すことにより、次段以降の屈折性素子で発生する収差を補正することもできる。
図9に、本発明の他の実施形態に係り浸漬モードを実行できるよう上掲の手法で構成してあるカタジオプトリック対物系を示す。この図に示した対物系における収差補正帯域は約266〜436nmに亘っており、その視野サイズは約0.150mmであり、多色波面収差最悪値は約0.057波長となっており、そしてNA値は約1.1と大きくなっている。
図9中のカタジオプトリック素子集合体918はマンジャンミラー素子912及び凹球面反射素子911から構成されている。これらマンジャンミラー素子912及び凹球面反射素子911は何れも反射被膜付きレンズ素子であり、その中央には、反射素材のない部分即ち光学的開口が形成されている。これらの部材の中央部に反射被膜がないため、対象物たる標本913から到来する光は、マンジャンミラー素子912を通り抜け、凹球面反射素子911の第2面によりマンジャンミラー素子912方向に反射され、凹球面反射素子911を通過した後視野レンズ集合体917内に中間像915を形成する。なお本実施形態で視野レンズ集合体917を構成する視野レンズ素子は908、909及び910の3個である。
また、中間像915を含め視野レンズ集合体917の方向から到来する光線を集光する合焦レンズ素子集合体916は、複数個のレンズ素子(図では7個のレンズ素子901、902、903、904、905、906及び907)から構成されている。入射瞳914は本対物系の内部瞳の像であり、この位置に開口乃至マスクを配置することにより本対物系のNA値を制限乃至変更することができる。図9に示した実施形態向けのレンズ処方を表5に示す。
Figure 0005905430
本発明は、更に、類似した構成のカタジオプトリック対物系を用いつつもまた別のやり方で浸漬モードを実行する形態、例えばそのカタジオプトリック素子集合体を単体の固形素子により構成する形態でも、実施することができる。図10に、この種の構成を有するカタジオプトリック素子集合体を用いた対物系を示す。この図に示した対物系における収差補正帯域は約266〜436nmに亘っており、その視野サイズは0.150mmであり、多色波面収差最悪値は約0.037波長となっており、そしてNA値は約0.95という大きな値になっている。
図10中のカタジオプトリック素子集合体1014はマンジャンミラー素子1002のみから構成されている。このマンジャンミラー素子1002は両面反射被膜付きレンズ素子であり、その中央には、両面とも、反射素材のない部分即ち光学的開口が形成されている。前掲の各実施形態から類推できるように、この部材の両面中央部に反射被膜がないため、対象物たる標本1001から到来する光乃至光エネルギは、マンジャンミラー素子1002の第1面を通り抜け、同素子1002の第2面により同素子1002の第1面方向に反射され、同素子1002の第1面によって反射された後に、同素子1002の第2面と視野レンズ集合体1015を通過した後中間像1013を形成する。なお本実施形態で視野レンズ集合体1015を構成している視野レンズ素子は1003及び1004の2個である。
更に、図中、標本1001とマンジャンミラー素子1002により挟まれている空間は浸漬媒(流体や液体の様に浸漬先となり得る媒体のこと;本願中同様)により満たされる空間であり、通常使用時には浸漬媒がマンジャンミラー素子1002に直に接触することとなる。マンジャンミラー素子1002の右面に形成されている反射被膜の中央には小さな開口があるため、この開口を介して浸漬媒更には標本1001へと光線を通すことができる。通常使用時には、まず少量の浸漬媒例えば液滴をイメージング対象物即ち標本1001上に載せる。検査システムは、対物系をこの標本1001の近傍に移動させ、対物系を浸漬媒に接触させる。この接触によって浸漬媒は押し広げられ、マンジャンミラー素子1002対標本1001間隙に満ちていく。
また、中間像1013を含め視野レンズ集合体1015の方向から到来する光線を集光する合焦レンズ素子集合体1016は、複数個のレンズ素子(図では8個のレンズ素子1005、1006、1007、1008、1009、1010、1011及び1012)から構成されている。
図10に示した実施形態向けのレンズ処方を表6に示す。
Figure 0005905430
本発明は、更に、レンズ素子及びミラー素子から構成された空洞を二組有するカタジオプトリック素子集合体を用い浸漬モードを実施する形態にて、実施することもできる。図11に、この種の構成を有するカタジオプトリック素子集合体を用いた対物系を示す。この図に示した対物系における収差補正帯域は266〜320nmに亘っており、その視野サイズは0.150mmであり、多色波面収差最悪値は約0.052波長となっており、そしてNA値は約1.15という大きな値になっている。
図11中のカタジオプトリック素子集合体1113は、片面反射被膜付きの第1マンジャンミラー素子1102と、両面反射被膜付きのミラー素子1103と、レンズ素子1104と、片面反射被膜付きの第2マンジャンミラー素子1105とを有している。第2マンジャンミラー素子1105の反射被膜は第2面、即ち図中カタジオプトリック素子集合体1113外を向いている左側の面に、設けられている。第1マンジャンミラー素子1102の前面(第1面)、ミラー素子1103の両面並びに第2マンジャンミラー素子1105の第2面の中央には、反射素材のない部分即ち光学的開口が形成されている。これらの部材の中央部に反射被膜がないため、対象物たる標本1101から到来する光は、第1マンジャンミラー素子1102の第1面を通り抜け、ミラー素子1103の第1面(右面)により第1マンジャンミラー素子1102の第1面方向に反射され、同素子1102の第1面により反射され、ミラー素子1103の第2面(左面)を通り抜けて第1中間像1115を形成する。この光は更にレンズ素子1104を通り抜け、第2マンジャンミラー素子1105の第2面により反射されてレンズ素子1104方向に戻り、ミラー素子1103の第2面により反射され、レンズ素子1104、第2マンジャンミラー素子1105及び視野レンズ集合体を通り抜けた後に第2中間像1116を形成する。なお本実施形態で視野レンズ集合体を構成している視野レンズ素子は1106の1個である。
更に、標本1101と第1マンジャンミラー素子1102により挟まれている空間は浸漬媒により満たされる空間であり、通常使用時には浸漬媒が第1マンジャンミラー素子1102に直に接触することとなる。第1マンジャンミラー素子1102の右面に形成されている反射被膜の中央には小さな開口があるため、この開口を介して浸漬媒更には標本1101へと光線を通すことができる。通常使用時には、まず少量の浸漬媒例えば液滴をイメージング対象物即ち標本1101上に載せる。検査システムは、対物系をこの標本1101の近傍に移動させ、対物系を浸漬媒に接触させる。この接触によって浸漬媒は押し広げられ、第1マンジャンミラー素子1102対標本1001間隙に満ちていく。
また、中間像1116を含め視野レンズ集合体1106の方向から到来する光線を集光する合焦レンズ素子集合体1114は、複数個のレンズ素子(図では6個のレンズ素子1107、1108、1109、1110、1111及び1112)から構成されている。
図11に示した実施形態向けのレンズ処方を表7に示す。
Figure 0005905430
図12に、本発明の他の実施形態に係る7素子対物系を示す。本カタジオプトリック対物系は、単一のガラス素材を用いて(性能向上につながる場合は複数のガラス素材を用いて)形成されており、その収差補正帯域が320〜1300nmに亘っているので、UV波長域から赤外域に亘る(即ち約0.320〜1.3μmの波長域に亘る)広帯域イメージング向けに使用できる。
図12中、マンジャンミラー装置たるカタジオプトリック素子集合体1212はマンジャンミラー素子1207及び凹球面反射素子1206を備えている。これらマンジャンミラー素子1207及び凹球面反射素子1206は何れも反射被膜付きレンズ素子であり、その中央には反射素材のない部分即ち光学的開口が形成されている。これらの部材の中央部に反射被膜がないため、対象物たる標本1210から到来する光は、マンジャンミラー素子1207を通り抜け、凹球面反射素子1206の第2面乃至内面によりマンジャンミラー素子1207の反射面方向に反射され、凹球面反射素子1206及び視野レンズ集合体1205を通り抜けた後に中間像1209を形成する。なお本実施形態で視野レンズ集合体1205を構成している視野レンズ素子は1個であるが、これは何個にもすることができる。
また、中間像1209を含め視野レンズ集合体1205の方向から到来する光線を集光する合焦レンズ素子集合体1211は、複数個のレンズ素子(図では4個のレンズ素子1201、1202、1203及び1204)から構成されている。これら、合焦レンズ素子集合体1211を構成するレンズ素子は何れもある同じ種類の素材により形成されている。入射瞳1208は本対物系の内部瞳の像であり、この位置に開口乃至マスクを配置することによって、本対物系のNA値を制限乃至変更することができる。
図12に示した実施形態向けのレンズ処方を表8に示す。
Figure 0005905430
図12に示した対物系におけるNA値は約0.90又はそれ以上の値となる。この実施形態を含め、本願記載の実施形態は何れも、0.65超という顕著に大きなNA値を有している。
図12中の合焦レンズ素子集合体1211は、入射してくる光エネルギを受け取り合焦させつつ出射して中間像1209を形成する機能を有している。視野レンズ集合体1205は、合焦レンズ素子集合体1211から出射され中間像1209として合焦された光エネルギを受け取り中間的な光エネルギとして出射する機能を有している。マンジャンミラー装置であるカタジオプトリック素子集合体1212はこの中間的な光エネルギを受け取り制御された光エネルギを標本1210に向け出射する。標本1210は制御された光エネルギを反射する。即ち反射光路は標本1210にて始まる。マンジャンミラー装置たるカタジオプトリック素子集合体1212は標本1210により反射された光エネルギを受け取り出射する。視野レンズ集合体1205は反射された光エネルギを受け取り中間像1209として合焦させる。合焦レンズ素子集合体1211はこの合焦された最終的な光エネルギを受け取り出射する。
以上説明した本発明に係る対物系は、様々な環境において使用できる。例えばリソグラフィ、顕微鏡、生物学的乃至生体検査、医学研究等である(但しこれらに限られない)。
また、本願における対物系乃至実施形態についての説明は、本発明の要旨を限定する性格のものではない。本発明の技術的範囲を逸脱しないようまた本発明の効果が損なわれないよう、以上説明した対物系の構成を改変することも可能である。即ち、NA値が大きく且つ様々な波長及び照明モードで使用できる小型対物系を得ることができる。また、本発明について特定の実施形態を例示して説明を行ったが、これらに対して様々な変形乃至修正を施すことも可能であると了解されたい。本願は、概ね本発明の基本原理に従う限り、どのような変形物、使用形態及び適用形態をも包括しようという趣旨の出願であり、本発明が属する技術分野にて既知の手法や慣用されている手法の適用によってなされる類の変更を本願記載の構成に適用したもの等も、本発明の技術的範囲に包含される。
本発明について特定の実施形態を例示して説明を行ったが、これらに対して様々な変形乃至修正を施すことも可能であると了解されたい。本願は、概ね本発明の基本原理に従う限り、どのような変形物、使用形態及び適用形態をも包括しようという趣旨の出願であり、本発明が属する技術分野にて既知の手法や慣用されている手法の適用によってなされる類の変更を本願記載の構成に適用したもの等も、本発明の技術的範囲に包含される。

Claims (12)

  1. 対物系であって、
    1個または複数個の合焦レンズ素子を含み、入射光エネルギを受け取り合焦光エネルギを出射するように構成された合焦レンズ素子集合体と、
    1個または複数個の視野レンズ素子を含む視野レンズ素子集合体であって、各視野レンズ素子が、前記合焦光エネルギを受け取り、中間光エネルギを出射するように構成された視野レンズ素子集合体と、
    前記中間光エネルギを受け取り、制御光エネルギを浸漬媒を介して標本に向け出射するように構成され、0.9を超えるNA値及び0.1mm以上の対物視野サイズを備えるマンジャンミラー集合体であって、当該マンジャンミラー集合体が、前記視野レンズ素子集合体と前記標本との間に配置され、当該マンジャンミラー集合体は、前記標本側の第1面に反射被膜を付けた第1マンジャンミラー素子、両面に反射被膜を付けたミラー素子、レンズ素子、前記標本側と反対側の第2面に反射被膜を付けた第2マンジャンミラー素子を備え、前記第1マンジャンミラー素子の前記第1面、前記ミラー素子の両面、及び前記第2マンジャンミラー素子の前記第2面は反射素材のない中央開口部を有するマンジャンミラー集合体と、を備え、
    各合焦レンズ素子及び各視野レンズ素子は、同じ単一のガラス素材から形成され、前記マンジャンミラー集合体、視野レンズ素子集合体及び合焦レンズ素子集合体の全ての構成要素は、受け取る光エネルギの軸線に沿って整列された、対物系。
  2. 請求項1記載の対物系であって、その視野サイズが0.15mmの対物系。
  3. 請求項1記載の対物系であって、そのNA値が1.2となるよう構成された対物系。
  4. 請求項1記載の対物系であって、使用している各レンズ素子の直径が25mm未満の対物系。
  5. 請求項1記載の対物系であって、通常動作時におけるフランジ対物距離が45mm以下の顕微鏡にて使用される対物系。
  6. 請求項1記載の対物系であって、浸漬媒が水、油、またはシリコーンゲルである対物系。
  7. 請求項1記載の対物系であって、前記1個又は複数個のマンジャンミラー素子が、合焦レンズ素子集合体にて発生する収差が補償されるよう球面収差、軸方向色収差及び収差色変化を発生させる対物系。
  8. 請求項1記載の対物系であって、多色波面収差最悪値が0.052波長になるよう構成された対物系。
  9. 請求項1記載の対物系であって、前記第1マンジャンミラー素子は前記標本側の前記第1面と前記標本側と反対側の第3面とを有し、前記第3面は湾曲した凸表面であり、前記第1面は反射性表であり、前記第2マンジャンミラー素子は前記標本側の第4面を有し、前記第4面は湾曲した表面であり、前記第2面は反射性表である対物系。
  10. 請求項1記載の対物系であって、最大で11素子を有する対物系。
  11. 請求項1記載の対物系であって、前記単一のガラス素材は熔融シリカである対物系。
  12. 請求項1記載の対物系であって、前記単一のガラス素材は弗化カルシウムである対物系。
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