JP5888721B2 - 酸化防止膜被覆金属の製造方法 - Google Patents

酸化防止膜被覆金属の製造方法 Download PDF

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本発明は、酸化防止膜被覆金属の製造方法および酸化防止膜被覆金属に関し、詳細には、金属表面に酸化防止膜を形成させる酸化防止膜被覆金属の製造方法および当該製造方法により好適に得られる酸化防止膜被覆金属に関する。
アルミニウム金属およびアルミニウム基合金金属は一般に酸化されやすく、切削加工等により切り出された清浄な表面も大気中では即座に酸化され、表面が酸化アルミニウムの薄膜で覆われてしまうことがよく知られている。例えば、大気中では、数分間で厚さ10nm前後の酸化膜が表面に形成される。逆に言えば、表面に安定な酸化アルミニウムの薄膜が形成されることによって、これらの金属が保護され、安定した実用にかなうものとなっている。アルマイト膜の作製およびパーカライジング等の技術が幅広く用いられているのもこの点にある。
しかしながらこれらの酸化膜は空気中では薄くても10nm以下とはなり難い。したがって、アルミニウム素材を空気中で扱う限り、ナノメートルの桁の寸法での加工は不可能である。アルミニウムと酸素との結合性があまりにも高いため、このレベルでの酸化防止技術は想像だにされていないのが実情である。一方、近来発展の著しいナノテクノロジーの分野においては、数多くの種類の素材をナノメートルの寸法に加工する技術が各種開発されてきている。実際、ケイ素ウエハベースでの超高集積度半導体回路作成技術において、100nm以下のルーラーではアルミニウム配線の使用が一部困難となり、銅の配線に切り替えられるに及んでいる。
しかしナノテクノロジーではアルミニウムの特性を生かさなければならない局面も多々存在する。技術として厚さ10nmの酸化膜の形成を防止して意味をもたせるには、厚さ1nm前後の酸素を含まない素材で表面を覆って、酸化防止ができることが必要となる。厚さ1nmというと、表面上の単分子吸着層程度の厚さである。これまでに、金属の表面に有機化合物の層を形成させて酸化耐性を付与する試みがなされてきている。
例えばHamzaらは、清浄アルミニウム表面にC60(フラーレン化合物)分子の単分子吸着層を作製し、超高真空環境下で水分子に対する酸化耐性を見出している(非特許文献1)。またBellittoらは、清浄アルミニウム単結晶表面にフルオロカーボンカルボン酸を吸着させて単分子層を形成し、低圧力の酸素分子に対する耐性を見出している(特許文献1)。またJouetらは、水素化アルミニウム系の材料を同様の長鎖フルオロカーボンカルボン酸と共存させ、金属アルミニウム微粒子(直径10nm以上)が析出すると同時に単分子層で覆われて不動態化させることを試みて、酸化しにくい微粒子混合物を作製している(特許文献2、非特許文献2)。
米国特許第7,625,600号明細書 米国特許第7,192,649号明細書
A. V. Hamza, J. Dykes, W. D. Mosley, L. Dinh, M. Balooch, Surface Science, 1994, 318, 368-378. R. J. Jouet, A. D. Warren, D. M. Rosenberg, V. J. Bellitto, J. Park, M. R. Zachariah, Chem Mater., 2005, 17, 2987-2996.
酸化を防止する膜は、大気圧中であっても金属に酸化耐性を付与するものでなければならない。しかしながらこれまでに、このような吸着層は開発されていない。例えば、非特許文献1には、超高真空環境下で水分子に対する酸化耐性を金属に付与する単分子吸着層が開示されているものの、水蒸気被曝試験における被曝量が大気中と比べてあまりに小さく、実用的な層でない。また特許文献1に記載のフルオロカーボンカルボン酸それ自体には酸素原子が含まれており、その酸素原子部位でアルミニウムに結合するとされ、アルミニウム金属表面の酸化を完全に防ぐことが望めない。また、特許文献1には、酸素分子に対する耐性を金属に付与する単分子層が開示されているものの、酸素ガス被曝試験における被曝量があまりに小さく、また試験時の温度も液体窒素温度程度であり、実用的な層でない。また、特許文献2および非特許文献2に開示されている微粒子混合物は、不活性化素材のほうがアルミニウム金属成分より多いため実用的ではなく、またこの方法は平板のアルミニウム基板には応用できない。
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、大気圧もしくはそれに近い圧力の空気中にある金属の表面の酸化を抑えることができる酸化防止膜被覆金属の製造方法を提供することにある。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法は、上記課題を解決するために、アルミニウム、鉄、銀および銅ならびにこれらを主成分とする合金の群から選択される金属の表面にチオール基含有炭化水素化合物を吸着させて、該チオール基含有炭化水素化合物の薄膜を該金属の表面に形成する酸化防止膜形成工程を含む構成である。
上記構成によれば、チオール基含有炭化水素化合物によって形成される酸化防止膜が金属の表面に形成されることになる。これにより、金属が大気圧もしくはそれに近い圧力の空気または水蒸気中にあっても、この金属表面に形成される酸化膜をより薄くすることができる。すなわち、大気圧もしくはそれに近い圧力の空気中にある金属の表面の酸化を抑えることができる。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法において、上記金属がアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金であることが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法において、上記チオール基含有炭化水素化合物の吸着は、上記金属の表面を、ガス化した上記チオール基含有炭化水素化合物に露出させることによって行うことが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法は、上記酸化防止膜形成工程に先立って、上記金属の表面を超高真空中で清浄することが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法は、上記酸化防止膜形成工程の後に、上記薄膜を形成している上記チオール基含有炭化水素化合物同士を結合させる処理を行うことが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法において、上記処理が上記薄膜に対するエネルギー線の照射であることが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法において、上記金属の表面に上記チオール基含有炭化水素化合物を吸着させた後に、エネルギー線を照射することが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法は、上記エネルギー線が、電子線、イオンビーム、紫外線、エキシマレーザ光またはVUV軌道放射光であることが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法において、残留ガス圧が10−6Pa以下の状態で、上記エネルギー線を照射することが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法は、上記薄膜がチオール基含有炭化水素化合物の単分子層であることが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法は、上記薄膜がチオール基含有炭化水素化合物の多分子層であることが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法は、上記酸化防止膜形成工程の後に、上記薄膜を、上記金属の融点未満の温度で加熱することが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法において、上記チオール基含有炭化水素化合物は、炭素原子数が6以上であることが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法において、上記チオール基含有炭化水素化合物は、炭素原子数が12以上であることが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法は、上記チオール基含有炭化水素化合物がアルカンチオールであることが好ましい。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法において、上記チオール基含有炭化水素化合物が、1−オクタンチオール、1−ドデカンチオール、1−オクタデカンチオールまたは4−ビフェニルチオールであることが好ましい。
本発明に係る参加防止膜被覆金属の製造方法において、上記チオール基含有炭化水素化合物は、炭素原子に結合している水素原子の1つ以上がフッ素原子に置換されている化合物であることが好ましい。
また、本発明に係る酸化防止膜被覆金属は、上記課題を解決するために、アルミニウム、鉄、銀および銅ならびにこれらを主成分とする合金の群から選択される金属の表面に、チオール基含有炭化水素化合物の薄膜が形成されている構成である。
以上のように、本発明では、金属の表面にチオール基含有炭化水素化合物を吸着させて、チオール基含有炭化水素化合物の薄膜を金属の表面に形成させている。
これにより、大気圧もしくはそれに近い圧力の空気中にある金属の表面の酸化を抑えることができる。
本発明の一実施例における各処理および耐酸化試験の流れの概略を示す図である。 本発明の一実施例における比較用耐酸化試験の結果のグラフを示す図である。 本発明の一実施例における耐酸化試験の結果のグラフを示す図である。 本発明の一実施例における耐酸化試験の結果のグラフを示す図である。 本発明の一実施例における金属の表面付近の構成を示す断面図であり、(a)は耐酸化試験前の状態を示し、(b)は耐酸化試験後の状態を示している。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明に係る酸化防止膜被覆金属の製造方法は、金属の表面にチオール基含有炭化水素化合物を吸着させて、チオール基含有炭化水素化合物の膜(以下、有機分子層という)を該金属の表面に形成する構成を包含するものである。
(金属)
本発明に用いられる金属は、大気圧もしくはそれに近い圧力の空気中において酸化されやすい、アルミニウム、鉄、銀および銅ならびにこれらを主成分とする合金であることが好ましい。中でもアルミニウムおよびその合金は大気圧もしくはそれに近い圧力の空気中において非常に酸化されやすいため、特に好ましい。また、純粋な鉄は酸化しやすい一方で、ナノ磁性材料の基材として期待されているため、鉄もまた、本発明に係る製造方法の適用対象として好ましい。
ここで「主成分」とは、合金中90%以上含有されている成分のことをいい、好ましくは95%以上含有されている成分である。合金としては、例えば、ジュラルミン(JIS規格2000系合金)が挙げられる。
有機分子層を形成させる金属は、その表面が露出している形態であれば、形状および大きさに特に制限はなく、例えば、平板状、粒子状、ワイヤ状、蒸着膜およびケイ素ウエハならびにその他の基板上の微細パターンなどの形態が可能である。また、大きさも、最大直径150mm程度、厚さ数mm以上の基材、粒径10μm〜100μmの粒子またはフレーク、ならびに厚さ10nm以上の薄膜またはパターンなどの金属が可能である。最大直径150mm程度、厚さ数mm以上の金属は、通常の薄膜量産プロセスに使われる標準的なスパッター装置内での作製作業に用いられ得るものである。本発明によれば、厚さ1nm前後の有機分子層を形成して金属表面の酸化を防止することができるため、膜厚が10nm前後の金属薄膜の酸化防止に好適に利用することができる。膜厚が10nm前後の金属薄膜の場合、表面が数nm酸化されると薄膜の大半が酸化されることになり実用に耐えられなくなってしまう。しかしながら、本発明によればこれを防ぐことができるため、金属薄膜に対して適用する場合に非常に有用である。有機分子層を形成させる金属の形態の具体的な例としては、非限定的に、半導体装置用ボンディングワイヤ、および半導体基板上に設けられた金属配線などを挙げることができる。
(金属表面の清浄化)
金属の表面に有機分子層を形成するに先立って、金属の表面を清浄化して、金属表面の酸化物その他汚染物を予め除去しておくことが好ましい。金属の表面の清浄化は、例えば、超高真空中、好ましくは残留ガス圧力5×10−8Pa以下で、アルゴンイオン衝撃(アルゴンイオン加速電圧500eV)によって1時間以上、好ましくは1.5時間以上処理した後、超高真空中で400℃前後に加熱することによって、行うことができる。金属表面の清浄化は、X線光電子分光(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)、および低速電子線回折(LEED:Low Energy Electron Diffraction)によって評価することができる。
なお、イオン衝撃に用いる元素は、アルゴンに限らず、ネオン、クリプトンおよびキセノンなどの希ガスを用いることも可能である。中でも、ネオンおよびアルゴンが好ましい。また、イオン衝撃におけるイオン加速電圧は、500eV〜5000eVの範囲であればよい。さらにイオン衝撃後の加熱処理の温度は、有機分子層が形成される金属の融点以下であればよいが、金属の融点より150℃〜250℃低い温度であることがより好ましい。加熱処理の温度を金属の融点よりも150℃低い温度以下とすることにより、加熱の偏りによる金属の融解を防ぐことができる。また、加熱処理の温度を金属の融点よりも250℃低い温度以上とすることにより、加熱処理の時間が実用的な範囲内となる。
超高真空中においては、清浄表面は暫く維持可能である。
(チオール基含有炭化水素化合物)
本明細書において「チオール基含有炭化水素化合物」は、置換基として少なくとも1つのチオール基を有している炭化水素化合物であり、好ましくは置換基としてチオール基を1つ有している炭化水素化合物である。当該チオール基含有炭化水素化合物は、チオール基以外の置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。すなわち、特に限定されていない限り、「チオール基含有炭化水素化合物」は、炭素原子に結合している水素原子の1つ以上が置換されている化合物をも含むものである。炭素原子に結合している水素原子の1つ以上が置換されている化合物のうち、炭素原子に結合している水素原子の1つ以上がフッ素原子に置換されているチオール基含有炭化水素化合物が好ましい。
以下、フッ素原子に置換されているチオール基含有炭化水素化合物について言及する場合には、特に、「チオール基含有フッ化炭化水素化合物」という。一方、フッ素原子に置換されていないチオール基含有炭化水素化合物について言及する場合には、特に、「無置換のチオール基含有炭化水素化合物」という。
チオール基含有炭化水素化合物における炭素原子数は、6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、12以上であることがさらに好ましい。特に、炭素原子数が12以上である場合には、大気中の環境である1.3×10+5PaのOガスに曝されても、金属表面の酸化耐性を維持できる。チオール基含有炭化水素化合物における炭素原子数に上限はないが、例えば、20以下であり得、好ましくは18以下である。しかしながら、チオール基含有フッ化炭化水素化合物においては、その炭素原子数は、6以上10以下であることが好ましい。
チオール基含有炭化水素化合物としては、分枝鎖状および直鎖状の炭化水素化合物が可能であるが直鎖状であることが好ましい。これにより、チオール基含有炭化水素化合物を金属表面に密に吸着させることができ、それによって、金属の耐酸化性をより向上させることができる。
このようなチオール基含有炭化水素化合物のうち、無置換のチオール基含有炭化水素化合物としては、例えば、1−オクタンチオール(n−C17SH)、1−ドデカンチオール(n−C1225SH)、1−オクタデカンチオール(n−C1837SH)、1−ヘキサデカンチオール(n−C1633SH)および1−エイコサンチオール(n−C2041SH)などのアルカンチオール、ベンゼンチオール(CSH)、4−ビフェニルチオール(p−C(C)SH)および4−トリフェニルチオール(p−C(C12)SH)などの芳香族チオールを挙げることができる。この中でもより好ましいのは、1−オクタンチオール、1−ドデカンチオール、1−オクタデカンチオールおよび4−ビフェニルチオールであり、さらに好ましいのは、1−ドデカンチオール、1−オクタデカンチオールおよび4−ビフェニルチオールである。一方、このようなチオール基含有炭化水素化合物のうち、チオール基含有フッ化炭化水素化合物としては、CSHおよびC17SHなど、一般式:C2n+1SH(式中、nは、4、5、6、7または8)で表されるフッ化アルカンチオール、ならびにパラトリフルオロメチルテトラフルオロフェニルチオール(p−(CF)CSH)などの炭素数6〜10の芳香族フッ化炭化水素チオールを挙げることができる。中でもより好ましいのは、CSHおよびC17SHである。
上述のチオール基含有炭化水素化合物をガス化して、金属の表面に化合物分子を吸着させている。チオール基含有炭化水素化合物のガス化は従来公知の方法を用いればよい。
金属表面を、ガス化したチオール基含有炭化水素化合物に露出させる際の条件に特に制限はないが、膜厚制御の観点から、10−2Pa以下の圧力のガスであることが好ましく、10−4Pa以下の圧力のガスであることがより好ましい。露出させる際の金属の温度も特に制限はなく、例えば室温であり得る。
しかしながら、チオール基含有フッ化炭化水素化合物を用いる場合には、室温よりも高い温度であることが好ましく、50℃以上、350℃以下であることがより好ましく、50℃以上、250℃以下であることがさらに好ましい。例えば、約100℃あるいは約200℃であり得る。チオール基含有フッ化炭化水素化合物を用いる場合に、金属の温度が室温よりも高い温度であると、耐酸化特性がより向上する。これは、吸着時の熱反応により一部のフッ素原子が解離して放出され、その分、各分子のサイズが小さくなって、飽和吸着分子の密度が高まったため、あるいは、フッ素原子の解離により生成する炭素の不飽和結合によって、隣り合う分子同士で架橋して2次元組織層が形成されるためと考えられる。このように、金属への吸着時にフッ素原子が解離する場合があるため、チオール基含有フッ化炭化水素化合物を用いて形成された薄膜は、結果的に、無置換のチオール基含有炭化水素化合物が混在した薄膜となり得る。
チオール基含有炭化水素化合物は、チオール基と金属との間で結合を形成することによって金属に吸着するため、チオール基を1つだけ含む炭化水素化合物を用いることにより、金属表面に形成される有機分子層を容易に単分子層とすることができる。
単分子層の最大膜厚は、単分子層を形成する分子の分子長(各々の分子構造が可能な限り伸長した最大寸法)とほぼ同じであるかそれ以下である。したがって、例えば、1−オクタンチオールによって形成される単分子層の場合には1.3nm以下、1−ドデカンチオールによって形成される単分子層の場合には1.6nm以下、1−オクタデカンチオールによって形成される単分子層の場合には2.2nm以下、4−ビフェニルチオールによって形成される単分子層の場合には1.1nm以下であると推定される。同様に、CSHによって形成される単分子層の場合には、1.2nm以下、およびC17SHによって形成される単分子層の場合には、2.3nm以下であると推定される。表面上での分子鎖の傾き、折れ曲がり、および部分的な分解を考慮すると、概ね1nm前後であると想定される。ただし、電子衝撃等により、元の分子の形が変わったり、部分的に脱離する可能性もあるため、厳密には、単分子層に含まれる炭素原子の面積密度をXPSで評価するのが好ましい。
金属表面に形成させる有機分子層を単分子層とすることにより、有機分子層の膜厚をより薄くできるが、目的に応じて多分子層とすることも可能である。多分子層とすることにより、膜厚をより厚くすることができ、酸化耐性を増強することができる。
多分子層は、後述するエネルギー線照射処理中に、ごく低圧(10−6Pa前後)の素材ガス(チオール基含有炭化水素化合物ガスまたは炭化水素ガス)をガスとして導入することにより作製することができる。
(エネルギー線照射処理)
単に吸着分子によって有機分子層を形成しただけでは、個々の分子同士にはまとまりがなく、分子間の隙間が比較的大きなものとなる。したがって分子間の隙間を通して、酸素分子がアルミニウム基板表面に到達し得る可能性が未だ高い。しかしながら、吸着分子同士を部分的に結合させることによって、分子間の隙間をより小さくして、酸素分子の透過性を低減させることができる。
吸着分子同士を部分的に結合させる方法としては、これらの吸着分子によって形成された有機分子層に対して、エネルギー線を照射する方法が挙げられる。エネルギー線を吸着分子に照射すると、吸着分子がエネルギー線衝撃を受け、吸着分子が部分的に分解して不飽和な結合(ダングリングボンド)が露出する。この露出した不飽和な結合によって吸着分子同士が結合して、表面上にいわば高分子のような連続架橋構造(クロスリンキング)を作ると考えられる。そして、これにより、吸着分子間の隙間が比較的小さなものとなり、酸素分子がアルミニウム基板表面により到達しにくくなり、耐酸化特性が高まるものと推定される。同様の連続架橋構造は金基板上の4−ビフェニルチオール吸着種でも認められている(W. Eck, A. Kuller, M. Grunze, B. Volkel, A. Golzhauser, Advan. Mater., 17 (2005) 2853.)。
使用可能なエネルギー線としては、電子線、イオンビーム、紫外線、エキシマレーザ光、およびVUV軌道放射光などが挙げられる。処理プロセス向上および有機分子層の性能向上の観点からは、エキシマレーザ光およびVUV軌道放射光が光源自身の性能が高いため好ましい。また、コストおよび利便性の観点からは、電子線が好ましい。
好ましいエネルギー線量は、有機分子層形成に用いる吸着分子の種類および用いるエネルギー線の種類によって異なり得るため、吸着分子およびエネルギー線の種類に応じて適宜決定すればよい。当業者であれば、過度の実験を要することなく、所望の効果を奏するエネルギー線量を決定できる。例えば、電子線を用いる場合、80eV以上、200eV以下であり得、100eVであることが特に好ましい。80eV以上とすることにより、未照射の場合と比較して酸化耐性を明確に向上させることができる。また、200eV以下とすることにより、吸着分子の崩壊および離脱による吸着分子の量の減少を抑えることができ、これにより酸化耐性が低下してしまうことを防ぐことができる。
エネルギー線の好ましい照射時間もまた、有機分子層形成に用いる吸着分子の種類、用いるエネルギー線の種類、およびエネルギー線量によって異なり得るため、吸着分子およびエネルギー線の種類ならびにエネルギー線量に応じて適宜決定すればよい。当業者であれば、過度の実験を要することなく、所望の効果を奏するエネルギー線照射時間を決定できる。例えば、100eVの電子線を照射密度40μAcm−2で照射する場合、500秒間以上、1500秒間以下であり得、1200秒間であることが特に好ましい。500秒間以上とすることにより、未照射の場合と比較して酸化耐性を明確に向上させることができる。また、1500秒間以下とすることにより、吸着分子の崩壊および離脱による吸着分子の量の減少を抑えることができ、これにより酸化耐性が低下してしまうことを防ぐことができる。さらには、不純物の吸着を抑えることもできる。
エネルギー線を照射する際の表面電流密度もまた、有機分子層形成に用いる吸着分子の種類、用いるエネルギー線の種類、およびエネルギー線量に応じて異なり得るため、吸着分子およびエネルギー線の種類ならびにエネルギー線量に応じて適宜決定すればよい。当業者であれば、過度の実験を要することなく、所望の効果を奏する表面電流密度を決定できる。例えば、100eVの電子線を照射する場合、1μAcm−2以上、100μAcm−2以下であり得、40μAcm−2であることが特に好ましい。1μAcm−2以上とすることにより、未照射の場合と比較して酸化耐性を明確に向上させることができる。また、100μAcm−2以下とすることにより、吸着分子の崩壊および離脱による吸着分子の量の減少を制御することができ、これにより酸化耐性が低下してしまうことを防ぐことができる。
単分子層である有機分子層にエネルギー線を照射する際に、残留ガス圧が高い状態で照射すると、残留ガスの成分が単分子層表面に吸着することがある。例えば上述のように、10−6前後のガス圧で照射すると多分子層が作製される。そのため、多分子層を形成させずに単分子層による耐酸化性を向上させる場合、エネルギー線照射は、超高真空中で行うことが好ましく、残留ガス圧を10−7Pa以下に維持した状態で行うことがより好ましい。
(加熱処理)
単に金属表面を吸着分子に露出することによって単分子層の有機分子層を形成させる場合には、分子が金属表面に吸着しないで、すなわちチオール基と金属との間で結合を形成しないで単分子層に含まれている分子も存在すると考えられる。形成された有機分子層に対して加熱処理を施すことによって、これらの分子が金属表面に移動して金属表面に吸着できるようになり、その結果、吸着分子の量を増やすことができる。したがって、加熱処理により、分子間の隙間をより小さくでき、酸素分子の透過性を低減させることができる。
加熱温度は、上限としては金属の融点未満であることが必要であり、下限としては150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。
加熱処理を施して、酸化耐性を向上させる場合、有機分子層を形成させるチオール基含有炭化水素化合物は、炭素数が12以上の分子であることが好ましい。炭素数が12以上である分子を用いる場合に、酸化耐性の効果がより顕著に表れる。
なお、加熱処理と、上述のエネルギー線照射処理とを組み合わせて、酸化耐性を向上させることも可能である。二つの処理の両方を施すことにより、何れか一方の処理のみを施す場合に比べて、酸化防止耐性をより向上させることができる。なお、加熱処理およびエネルギー線照射処理を施す順番に制限はない。
以上により、有機分子層が単分子層であるか多分子層であるかによらず、厚さ1nm前後の有機分子層を用いて、大気圧近傍の酸化性ガス内において、金属表面の酸化物形成を抑制することができる。このような例はこれまでになく、本発明により、ナノメートルスケールでの金属とりわけアルミニウム素材の加工の道が開けたといえる。
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
各実施例の詳細を説明する前に、図1を参照して実施例1および実施例2における各処理および耐酸化試験の流れの概略を説明する。なお、図1では有機分子層を形成していない比較用の金属における耐酸化試験については省略している。
まず、アルミニウム素材の基板を準備し、超高真空中でその表面の清浄化処理を行う。次いで、超高真空中で、清浄化表面に無置換のチオール基含有炭化水素化合物(以下、単に、炭化水素チオール化合物という)を吸着させて、有機分子層を形成させる。実施例1では、この状態で金属をOガス中に露出して耐酸化試験を行う。一方、実施例2では、有機分子層を形成した後、引き続き超高真空中で、有機分子層に対して電子線を照射する。その後、金属をOガス中に露出して耐酸化試験を行う。
〔実施例1〕
(アルミニウム基板表面の清浄)
アルミニウム単結晶基板(試験面を鏡面に研磨した面方位指数(111)、直径10mm、厚さ2mm前後の円盤形状)を、超高真空連続排気系内(残留ガス圧力5×10−8Pa以下)で、アルゴンイオン衝撃(アルゴンイオン加速電圧500eV)で1〜2時間処理した後、超高真空中で温度400℃前後に加熱して、試験面が清浄表面となったアルミニウム単結晶基板を得た。この清浄表面を、同じ排気系内に設置されたX線光電子分光(XPS)装置(オミクロン社製、ドイツ)および低速電子線回折装置(スペックス社製、ドイツ)を用いて評価し、元素的に不純物(酸素を含む)がXPSの検出限界以下(表面上の被覆率で0.001以下)であること、および表面格子が面方位指数(111)に対応して整っていることを確認した。
(アルミニウム基板表面の耐酸化試験)
清浄アルミニウム表面が酸化性ガス内でどの程度の酸化を受けるかを評価するため、作製した清浄表面を圧力範囲1.3×10−6Paから1.3×10+5Paの純酸素(O)ガス、または圧力範囲1.3×10−6Paから1.3×10+2Paの水蒸気(HO)に、室温において真空容器内で100秒間露出し、形成される酸化アルミニウム(Al)薄膜の厚さをXPSで評価した。このときのAl薄膜の厚さは、まず純サファイヤ(Alの結晶)を測定して当該XPS装置の酸素およびアルミニウムに対する感度を補正し、Al固体内およびその下敷きになっている純金属アルミニウム固体内の酸素原子およびアルミニウム原子から放射される光電子の減衰距離(電子の平均自由行程)の文献値(文献F. L. Battye, J. G. Jenkin, J. Liesegang, R. C. G. Leckey, Phys. Rev. B 9 (1974) 2887.に示された値)を用いて較正した。結果を図2に示す。
図2は、各圧力において形成された表面酸化アルミニウムの膜厚を示すグラフであり、ガスまたは水蒸気の圧力を示す横軸が対数目盛で示されている。図2に示すとおり、OおよびHO共に、10−4Pa前後の圧力で、厚さ0.25nm前後のAl単原子層相当の酸化物膜が形成された。即ち、アルミニウム清浄表面は、いわゆる「高真空装置」程度の環境でも酸化されてしまうことが分かった。さらにOでは1.3×10−2Pa以上で、Al多層膜の形成が進み、圧力に応じて酸化膜厚が増え、1.3×10+5Paの圧力で、2nm程度の厚さの多層酸化膜となった。他方水蒸気中では、1.3×10+2Paまでの圧力で、Al単原子層相当の酸化物膜に概ね止まっていた。
清浄アルミニウム表面では、OガスまたはHOに対する露出時間を100秒より延長しても生成される酸化膜厚は殆ど増加しなかった。したがって、露出時間100秒をもって耐酸化試験の基準とした。また大気の成分では、分圧換算で約2.6×10+4PaのO、および1×10+3Pa前後のHOが主要な酸化性ガスであることから、大気中の耐酸化試験は上記のOガス中1.3×10+5Paの耐酸化試験で代表される。
(炭化水素チオール化合物の単分子層の形成)
上述のとおりに清浄アルミニウム表面を超高真空容器内で作製した後、直ちに各種の炭化水素チオール化合物(1−オクタンチオール(n−C17SH)、1−ドデカンチオール(n−C1225SH)、1−オクタデカンチオール(n−C1837SH)、4−ビフェニルチオール(p−C(C)SH))をガス化させて10−4Pa以下の圧力で600秒以下の時間室温において露出させた。これにより、各吸着分子が飽和吸着した単分子層を、清浄アルミニウム表面に形成した。XPSによって観測すると、各分子に含まれる炭素原子の数に比例したC1s光電子の信号が得られた。このことから、いずれの分子の場合も、単分子層で吸着が終了していることが示された。
また、単分子層の具体的な膜厚に関し、XPSで測定された炭素C1sのシグナルを用い、4−ビフェニルチオール単分子層を1.1nmとして、評価を行った。なお、ここで4−ビフェニルチオール単分子層を指標として用いた理由は、4−ビフェニルチオールは、分子の剛直性から、最も変形しにくいと考えられるためである。結果を表1に示す。
Figure 0005888721
(チオール膜被覆アルミニウム基板表面の耐酸化試験)
炭化水素チオール化合物の単分子層で覆われた清浄アルミニウム基板表面について、上記と同様にして純Oガス中で耐酸化試験を行った。結果を図3および図4に示す。
図3および図4は、各圧力において形成された表面酸化アルミニウムの膜厚を示すグラフであり、ガスの圧力を示す横軸が対数目盛で示されている。図3および図4に示すとおり、炭化水素チオール化合物の単分子層の有機分子層を清浄表面上に形成することによって、アルミニウム基板表面の酸化膜厚が、有機分子層によって被覆されていない清浄表面よりも低下することが示された。すなわち、単分子層によってアルミニウム基板の酸化を抑制できたことが示されている。なお、図4においては清浄表面の結果の図示を省略しているが、図3に示した場合と同条件で評価を行っているため、清浄表面の結果は図3の結果を援用できる。また、分子内の炭素原子の数に応じて酸化膜の膜厚の低下の度合いが異なることが示された。具体的には、有機分子層を形成する分子内の炭素原子の数が多いほど、酸化膜の膜厚の低下の度合いが大きく、酸化防止効果に優れていることが示されている。分子内の炭素数が12以上である分子(1−ドデカンチオール、1−オクタデカンチオール、4−ビフェニルチオール)を用いた場合では、1.3×10+5Pa(大気圧以上)であっても、清浄表面に比して酸化の度合いを低下させることができている。
さらに、1−ドデカンチオールおよび1−オクタデカンチオールを用いた場合について、耐酸化試験前に加熱処理を施して、耐酸化試験を行った。具体的には、耐酸化試験前に、単分子層で覆われた基板を超高真空中で200℃に3分間加熱し、冷却してから試験を行った。結果を図3中および表2に示す。
Figure 0005888721
図3および表2に示すように、耐酸化試験前に加熱処理を施しておくと、耐酸化試験後に形成される酸化膜の膜厚が0.6nmまで改善した。表1は、Oガス圧力を1.3×10+5Paとして耐酸化試験を行った結果である。未加熱の場合に比して、酸化耐性が向上した。なお、いずれの場合も、Oガス圧10−2Pa以下に対しては酸化をほとんど完全に防いでいた。
(アルミニウム金属表面における積層構造の決定)
炭化水素チオール化合物の単分子層で覆われたアルミニウム金属表面の、耐酸化試験前後の積層構造を調べ、比較を行った。
単分子層に覆われた表面が酸化された状態でのXPSを、光電子が表面垂直に放出される角度、および光電子が表面垂直方向から70°傾いた方向に放出される角度を別々に測定し、酸素、アルミニウムおよび炭素の信号強度を各々比較すると、各成分の積層構造を調べることができる。70°方向放出の電子線は、垂直放出に比べて、表面のより浅い部分に感度が高まるためである。以上の手法によって、各成分の積層構造を調べた。図5は、その調べた結果から示される積層構造を示す金属の表面付近の断面図であり、(a)は耐酸化試験前の状態を示し、(b)は耐酸化試験後の状態を示している。
その結果、何れの炭化水素チオール化合物を用いた場合においても、図5(b)に示すように、下から順に(金属の内部から表面に向かって)金属アルミニウム層1−酸化アルミニウム層3−炭化水素チオール化合物単分子層2−外部空間という積層構造となることが示された。特に炭化水素チオール化合物単分子層内または最外層に酸素が取り込まれているのが明白なケースはなく、炭化水素チオール化合物単分子層自身は酸化されないことがわかった。金属アルミニウム基板の酸化は、炭化水素チオール化合物単分子層を透過してアルミニウム界面に至ったO分子で行われていることになる。
〔実施例2〕
実施例1と同様にして、アルミニウム単結晶(111)基板を清浄化して、清浄表面に各種炭化水素チオール単分子層を作製した。本実施例では、耐酸化特性の向上を図るために、単分子層を作製した後、引き続き超高真空中で、熱したタングステン線フィラメントから発生する低速電子線を照射して、単分子層を変性させた。電子線の加速エネルギーは100eV前後、電流密度は試料面上で40μAcm−2前後とした。電子線照射時は残留ガス圧を10−7Pa以下に維持した。電子線照射時間は1200秒間とした。温度は室温とした。電子線照射の前後でXPSを測定して、不純物の吸着がないことを確かめた。なお、電子線照射を行うと、照射前に比べて単分子層内の炭素原子が僅かに減少するのがXPSで観察された。電子線による電子衝撃脱離過程によるものと考えられる。
以上の処理を行ったアルミニウム金属に対して、実施例1と同様の耐酸化試験を行った。結果を図4および表3に示す。
表3は、Oガス圧力を1.3×10+5Paとして耐酸化試験を行った結果である。図4または表3に示すとおり、1−ドデカンチオール、1−オクタデカンチオール、4−ビフェニルチオールにおいて、上記条件で電子線を照射することによって、何れも耐酸化試験後の酸化物膜厚が減少しており、耐酸化性能が大幅に改善していた。また、酸化膜厚0.2nmまでに防止できたケースもあった。すなわち、単分子層に電子線照射処理を施すことによって酸化耐性を向上させることができることが示された。
Figure 0005888721
なお、表3には、電子線照射処理を行った後の有機分子層の膜厚も併せて示している。
(多分子層の作製および評価)
アルミニウム単結晶基板を清浄化して、清浄表面に4−ビフェニルチオール単分子層を作製した後、引き続き、1×10−6Paの4−ビフェニルチオールの存在下において、電子線の加速エネルギーを100eV前後、表面電流密度を40μAcm−2前後とし、1200秒間、室温で、電子線照射することによって、4−ビフェニルチオールの多分子層を作製した。次いで、4−ビフェニルチオール多分子層を用いた耐酸化性試験を実施例1と同様にして行った。結果を図4および表3に示す。表3は、Oガス圧力を1.3×10+5Paとして耐酸化試験を行った結果である。
図4および表3に示すとおり、有機分子層を多分子層とすることにより、単分子層のときよりも、耐酸化試験後の酸化物膜厚が減少しており、耐酸化性能が大幅に改善していた。すなわち、有機分子層を多分子層とすることにより酸化耐性を向上させることができることが示された。
〔実施例3〕
上述の実施例では、炭化水素チオール化合物を用いて有機分子層を形成していたが、本実施例では、チオール基含有フッ化炭化水素化合物(以下、単に、フッ化炭化水素チオール化合物という)を用いて有機分子層を形成し、耐酸化試験を行った。
(アルミニウム基板表面の清浄)
アルミニウム単結晶基板(試験面を鏡面に研磨した面方位指数(111)、直径10mm、厚さ2mm前後の円盤形状)を、超高真空連続排気系内(残留ガス圧力5×10−8Pa以下)で、アルゴンイオン衝撃(アルゴンイオン加速電圧500eV)で1〜2時間処理した後、超高真空中で温度400℃前後に加熱して、試験面が清浄表面となったアルミニウム単結晶基板を得た。この清浄表面を、同じ排気系内に設置されたX線光電子分光装置および低速電子線回折装置を用いて評価し、元素的に不純物(酸素を含む)がXPSの検出限界以下(表面上の被覆率で0.001以下)であること、および表面格子が面方位指数(111)に対応して整っていることを確認した。
(フッ化炭化水素チオール化合物の単分子層の形成)
清浄アルミニウム表面(111)を超高真空容器内で作成した後、当該清浄アルミニウム表面を蔵置した超高真空容器内に、CSHまたはC17SHをガス化して導入することにより、フッ化炭化水素チオール化合物の単分子層を形成した。これらの物質は室温では液状であるため、室温においてガス化して真空容器内に導入する場合には十分に高い蒸気圧(10Pa前後)を示す。なお、各化合物の単分子層の形成は、各ガスを清浄アルミニウム表面に対し2×10Pa以下の圧力、600秒以下で行った。
吸着時の清浄アルミニウム基板の温度が室温になるように設定したところ、清浄アルミニウム基板表面上での飽和吸着分子の密度は、1−オクタンチオール、1−ドデカンチオールおよび1−オクタデカンチオール等の直鎖炭化水素チオール化合物を用いた場合の密度の1/2程度であった。これはフッ素原子が水素原子に比べ嵩高く、吸着分子1個当りのアルミニウム基板表面上に占める面積が広まることによる。
そこで、吸着時の清浄アルミニウム基板の温度を100℃前後または200℃前後に制御しながら、フッ化炭化水素チオール化合物を吸着させたところ、清浄アルミニウム基板表面上での飽和吸着分子の密度は、清浄アルミニウム基板の温度を室温に設定した場合と比較し、およそ2倍に増加した。この際、形成された有機分子層に含まれるフッ素原子の割合は、吸着させる前の分子中のフッ素原子の割合と比べて1/2以下に減少していた(表4)。このことから、吸着時の熱反応により一部のフッ素原子が解離して放出され、その分、各分子のサイズが小さくなって、飽和吸着分子の密度が高まったと考えられる。また、フッ素原子の解離により生成する炭素の不飽和結合が、隣り合う分子同士で架橋して、上述の炭化水素チオール化合物への電子線衝撃後と同様の2次元組織層が形成されていると考えられる。
なお、単分子層である有機分子層の膜厚は、分子構造から膜厚が既知となっている4−ビフェニルチオールのXPSスペクトルの炭素C1sの信号強度を基準にして、単純に比例配分して評価した。
(アルミニウム基板表面の耐酸化試験)
清浄アルミニウム表面および単分子層形成後のアルミニウム表面が酸化性ガス内でどの程度の酸化を受けるかを評価するため、作製した清浄表面または単分子層形成後のアルミニウム表面を圧力範囲1.3×10−6Paから1.3×10+5Paの純酸素(O)ガス、または圧力範囲1.3×10−6Paから1.3×10+2Paの水蒸気(HO)に、室温において真空容器内で100秒間露出し、形成される酸化アルミニウム(Al)薄膜の厚さをXPSで評価した。このときのAl薄膜の厚さは、まず純サファイヤ(Alの結晶)を測定して当該XPS装置の酸素およびアルミニウムに対する感度を補正し、Al固体内およびその下敷きになっている純金属アルミニウム固体内の酸素原子およびアルミニウム原子から放射される光電子の減衰距離(電子の平均自由行程)の文献値(文献:F. L. Battye, J. G. Jenkin, J. Liesegang, R. C. G. Leckey, Phys. Rev. B 9 (1974) 2887.に示された値)を用いて較正した(文献:S. Nomura, T. Yamada, M. Kawai, Chem. Lett., 39 (2010) 1297参照)。
その結果、フッ化炭化水素チオール化合物の単分子層の有機分子層を清浄表面上に形成することによって、アルミニウム基板表面の酸化膜厚が、有機分子層によって被覆されていない清浄表面よりも低下することが示された。このうち、1.3×10+5Paの純酸素(O)ガスに、室温において真空容器内で100秒間露出する条件で形成された酸化アルミニウム(Al)薄膜の厚さを表4に示す。
Figure 0005888721
表4に示されるように、吸着時の基板温度を約100℃あるいは約200℃に調整することにより、室温で吸着させる場合と比して、Oガスに対する高い耐酸化特性を示すことが明らかになった。これは、吸着時の温度を上昇させたことにより、飽和吸着分子密度が高まるとともに、隣り合う分子同士間の架橋により2次元組織層が形成されることに起因していると予想される。
本発明は、ナノスケールでの金属加工が求められる分野に利用することができる。
1 金属アルミニウム層
2 炭化水素チオール化合物単分子層
3 酸化アルミニウム層

Claims (14)

  1. アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金である金属の表面にチオール基含有炭化水素化合物を吸着させて、該チオール基含有炭化水素化合物の薄膜を該金属の表面に形成する酸化防止膜形成工程を含み、
    上記酸化防止膜形成工程に先立って、上記金属の表面を超高真空中で清浄し、
    上記チオール基含有炭化水素化合物の吸着は、上記金属の表面を、ガス化した上記チオール基含有炭化水素化合物に露出させることによって行うことを特徴とする酸化防止膜被覆金属の製造方法。
  2. 上記酸化防止膜形成工程の後に、上記薄膜を形成している上記チオール基含有炭化水素化合物同士を結合させる処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
  3. 上記処理が上記薄膜に対するエネルギー線の照射であることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
  4. 上記金属の表面に上記チオール基含有炭化水素化合物を吸着させた後に、エネルギー線を照射することを特徴とする請求項に記載の製造方法。
  5. 上記エネルギー線が、電子線、イオンビーム、紫外線、エキシマレーザ光またはVUV軌道放射光であることを特徴とする請求項3または4に記載の製造方法。
  6. 残留ガス圧が10−6Pa以下の状態で、上記エネルギー線を照射することを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
  7. 上記薄膜がチオール基含有炭化水素化合物の単分子層であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の製造方法。
  8. 上記薄膜がチオール基含有炭化水素化合物の多分子層であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の製造方法。
  9. 上記酸化防止膜形成工程の後に、上記薄膜を、上記金属の融点未満の温度で加熱することを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の製造方法。
  10. 上記チオール基含有炭化水素化合物は、炭素原子数が6以上であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の製造方法。
  11. 上記チオール基含有炭化水素化合物は、炭素原子数が12以上であることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の製造方法。
  12. 上記チオール基含有炭化水素化合物がアルカンチオールであることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の製造方法。
  13. 上記チオール基含有炭化水素化合物が、1−オクタンチオール、1−ドデカンチオール、1−オクタデカンチオールまたは4−ビフェニルチオールであることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の製造方法。
  14. 上記チオール基含有炭化水素化合物は、炭素原子に結合している水素原子の1つ以上がフッ素原子に置換されている化合物であることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の製造方法。
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