JP5870189B1 - 個別電気機器稼働状態推定装置、およびその方法 - Google Patents
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Abstract
Description
ところが、このように各電気機器にセンサをそれぞれ設けると、センサ数が増えるのみならず、それらの取付けコストや、センサからの測定信号の収集システム(無線等)構築のためのコストが必要となり、高コスト化をまぬがれない。
そこで、安価な装置として一般家庭等などでも利用可能とするため、各電気機器にそれぞれセンサを設けなくとも各電気機器の使用状況をモニタリング可能とした技術が開発されてきている。
この特許文献1に記載の個別電気機器稼働状態推定装置では、使用している電気機器の総使用電力の電気特性に基づきパルス型波形のパターン認識を利用して、電気機器の電力使用や操作特性を個別に測定する非侵入型電力使用モニタリング(NIALM: Non-intrusive Appliance Load Monitoring)を行うようにしている。
上記従来技術にあっては、その適用にあたって、どの家庭にどのような規格電力を持ったどのような電気機器が何台保有されているかといった情報を事前に収集したり、また廃棄される電気機器や新たに追加される電気機器がある場合の情報をその都度更新したりする必要がある。このため、大きな手間やコストがかかる上、一般家庭で素人がそれらの情報を入力したり更新したりすることは期待できず、現実には適用が非常に難しいといった問題がある。
複数の電気機器の総使用電力を測定する総使用電力測定手段と、
総使用電力測定手段で測定した総使用電力に基づき、この総使用電力の時間的変動であるジャンプ電力を算出する時間変動算出手段と、
時間変動算出手段で算出したジャンプ電力に基づいて新たな電気機器の機種として既存の機種リストに加えるか否かを判定し、新たな電気機器の機種として既存の機種リストに加える場合には個別電気機器の機種別の規格電力の再計算を行い、必要に応じて既存の機種リストから余分な機種を削除し、新たな電気機器の機種を加えない場合には既存の機種リストを維持する、前記電気機器の機種のクラスタリングを行う電気機器機種特定手段と、
時間変動算出手段で算出したジャンプ電力に基づいてアップおよびダウンのジャンプがどの電気機器のスイッチオン及びスイッチオフの事象の生起に対応しているかの尤度を推定する対応尤度推定手段と、
対応尤度推定手段で得られた、現在の個別電気機器の稼働状態のもとで総使用電力のジャンプから得られる、個別電気機器のスイッチオン及びスイッチオフの事象生起に関する尤度が入力されたときの個別電気機器の稼働状態の変化を推定して、現在の個別電気機器の稼働状態の推定を更新し、この更新された個別電気機器の稼働状態の推定結果と規格電力の推定結果を用いて予測される総使用電力の予測値と総使用電力の測定データから個別電気機器の機種の推定、規格電力の推定、および稼働状態の推定を最適化し、測定された総使用電力の時間変動の時間間隔で刻々変化する個別電気機器の稼働確率を動的に推定する個別電気機器稼働状態推定手段と、
を備えたことを特徴とする。
複数の電気機器の総使用電力を測定するステップと、
測定した総使用電力に基づき、この総使用電力の時間的変動であるジャンプ電力を算出するステップと、
算出したジャンプ電力に基づいて新たな電気機器の機種として既存の機種リストに加えるか否かを判定し、新たな電気機器の機種として既存の機種リストに加える場合には個別電気機器の機種別の規格電力の再計算を行い、必要に応じて既存の機種リストから余分な機種を削除し、新たな電気機器の機種を加えない場合には既存の機種リストを維持する、前記電気機器の機種のクラスタリングを行うステップと、
算出したジャンプ電力に基づいてアップおよびダウンのジャンプがどの電気機器の機種のスイッチオン及びスイッチオフの事象の生起に対応しているかの尤度を推定するステップと、
現在の個別電気機器の稼働状態のもとで総使用電力のジャンプから得られる、個別電気機器のスイッチオン及びスイッチオフの事象生起に関する尤度が入力されたときの個別電気機器の稼働状態の変化を推定して、現在の個別電気機器の稼働状態の推定を更新し、この更新された個別電気機器の稼働状態の推定結果と規格電力の推定結果を用いて予測される総使用電力の予測値と総使用電力の測定データから個別電気機器の機種の推定、規格電力の推定、および稼働状態の推定を最適化し、測定された総使用電力の時間変動の時間間隔で刻々変化する個別電気機器の稼働確率を動的に推定するステップと、
を有することを特徴とする。
(a)総使用電力の時間変動であるジャンプ、このうち特に各電気機器のオン-オフのみに着目しているか、
(b) k-ミーンズ法(k -Means Clustering)のアルゴリズムなどの統計的アプローチをとっているか、
(c)どのような電気機器が稼働しているのかなどの事前情報をどの程度必要としているか、
(d)1分間隔の計測など、実際の環境での総使用電力の計測時系列データに対応できる動的なモデル化が確立されているか、
といった点で異なっている。
これらの性質をすべて備えたアルゴリズムとして本発明では逆推定アルゴリズムを用いるが、現時点では上記すべての性質を満たすNIALMの解法アルゴリズムは存在していない。
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、上記のような逆推定アルゴリズムを用いた本実施例1の個別電気機器稼働状態推定装置が、このモニタリングの対象となる複数の電気機器を備えた家屋に設置された状態の全体構成を模式的に示す。なお、逆推定アルゴリズムとは、不完全なデータのもとで完全データを統計的に復元する方法である。
同図において、家屋1内には、複数の配線2が分電盤8から張り巡らされており、これらの配線2の適宜箇所には複数機種の電気機器3a〜3n(nは、2以上の正の整数)がそれぞれタップやコンセント等を介して接続、あるいは接続可能である。このような電気機器3a〜3nとしては、たとえば、冷蔵庫、テレビ、シーリングライト、エアコン(分電盤8を介して前者等とは独立系統で接続)などのようにオン/オフ可能な家庭用電気機器の他に、ウォッシュレット(商品名)のような不定期で負荷が発生する電気機器や、インターフォンなどのように常時オンとされている電気機器が含まれる。
この電力計5で計測した総使用電力に関する信号は、稼働推定部6に送られ、ここでどの電気機器が稼働しているのかといった電気機器の機種の特定、またその稼働状態について推測し、その推測結果をディスプレイ7に表示するように構成している。電力計5、稼働推定部6、およびディスプレイ7は、本実施例の個別電気機器稼働推定装置を構成する。
すなわち、図2に示すように、稼働推定部6は、時間変動算出部6aと、電気機器機種特定部6bと、対応尤度推定部6cと、個別電気機器稼働状態推定部6dと、電気機器のリスト6gと、を備えている。
以下、これらについてそれぞれ説明する。
なお、時間変動算出部6aは、本発明の時間変動算出手段に相当する。
ここで、新しい機種の判定基準では、ジャンプ量が、クラスタに対応する規格電力の分散のある一定比率を超えた場合に新しい機種として判定し、そうでない場合には既存の機種の電力使用が規格電力の通常の変動範囲内に入っていると判定する。
また、新しい電気機器が抽出された場合には、個別電気機器の機種別の規格電力を再計算し、必要に応じて、実質重複する機種など、余分な機種を機種リスト6gから削除(枝刈り)する。ここで、機種のクラスタ数は、可変としてある。ジャンプに応じた個別電気機器の規格電力の推定は、リアルタイムで学習していく。このようにして得た新しい機種リスト6gのデータを、対応尤度推定部6cと、個別電気機器稼働状態推定部6dと、機種リスト6gとへそれぞれ出力する。なお、電気機器機種特定部6bは、本発明の電気機器機種特定手段に相当する。
なお、対応尤度推定部6cは、本発明の対応尤度推定手段に相当する。
すなわち、前者を用いて現在の個別電気機器の稼働状態のもので総使用電力の変動ジャンプが得られる個別電気機器のスイッチオン/スイッチオフの事象生成に関する尤度(確率)が入力されたとき、どのような個別電気機器の稼働状態が変化するか、を推定し、後者を用いて総使用電力の時間変動の測定データと上記稼働状態の変化とから、個別電気機器の機種推定、規格電力推定および稼働状態の推定を最適化する。そして、個別電気機器の稼働状態の推定結果を、平日・土日別、時間帯別に集計していき、個別電気機器の使用パターンの学習を行う。個別電気機器の稼働状態の推定結果およびその過去のパターンから事前分布を改定していくため、この学習結果を対応尤度推定部6cやディスプレイ7へ出力する。
なお、個別電気機器稼働状態推定部6dは、本発明の個別電気機器稼働状態推定手段に相当する。
個別電気機器の稼働状態推定にあっては、上述のように、NIALMリアルタイム逆推定アルゴリズムを用いる。ここで、総使用電力の時間変動を表現している動的推定モデルの核となる部分は、一般的に、状態空間モデル(State Space Model)と呼ばれているモデルである。
この逆推定アルゴリズムの最終的なアウトプットは、測定された総使用電力の時間変動の入力ストリームに対応した時間間隔(本実施例では1分)で、刻々変化する個別電気機器のスイッチオンとスイッチオフの稼働状態を推定することである。
このように総使用電力の時間変動としてのジャンプに着目しているのは、電気機器がスイッチオンしたときに規格電力の垂直のジャンプ(この符号が正となるジャンプ)が起こり、いずれかの時点で電気機器がスイッチオフになったとき、垂直のジャンプを打ち消す符号が負のネガティブのジャンプが起こり、電気機器の使用電力は0になる、との考えによっている。なお、このことは図9に示すように実際の事例で検証済みである。
具体的には、最初の時点で、機種数が0から1種類と少ない場合には、新しい機種を加える判定基準を緩く、経過時間が長く、データ長が十分とれる時点では、情報量基準などの厳密な統計的判定基準を用いる。経過時間が短い時点では、たとえば、規格電力の大きさの10%以下のジャンプ電力であると同一の機種リスト6gのままとし、規格電力の大きさの10%より大きいジャンプ電力については、新たな機種として機種リスト6gに加える。
すなわち、同図での領域Aは、ステップS2〜S9からなり、総使用電力の時間変動1段階差データから稼働電気機器の機種を抽出して特定するプロセスに対応する。この領域Aのプロセスは、新規の個別電気機器を既存の電気機器の機種リストに新たに加えるか否かの判定し、また、既存の機種リストから同じ機種と考えられる機種を削除するために実行する。
一方、領域Bは、ステップステップS9からなり、総使用電力の時間変動1段階差、すなわちアップおよびダウンのジャンプがどの電気機器のスイッチオンとスイッチオフの事象の生起に対応しているか、の尤度を推定するプロセスに対応する。
また、領域Cは、各ステップS9〜S11からなり、測定された総使用電力の時間変動の時間間隔で刻々変化する個別電気機器の稼働状態を動的に確定するプロセスに対応する。
また、領域Cのプロセスは、ステップS10の、現在の個別電気機器の稼働状態のもとで総使用電力のジャンプから得られる個別電気機器のスイッチオン/スイッチオフの事象生起に関する尤度(確率)がインプットされたとき、どのように個別電気機器の稼働状態が変化するか、を、マルコフスイッチングモデル6eを用いて推定するプロセスと、ステップS11の総使用電力の時間変動の測定データから、個別電気機器の機種推定、規格電力推定および稼働状態の推定を、カルマンフィルタ6fを用いて最適化するプロセスとからなる。
すなわち、上記領域A、Bで示すプロセスは、可変k -ミーンズアルゴリズムに、また領域B、Cで示すプロセスはカルマンフィルタによるモデリングの部分である。そして、両者に共通する領域Bで示すプロセスが、k -ミーンズアルゴリズムとカルマンフィルタとを接合するプロセスであって、前者の出力を後者の入力とする部分である。より詳細には、領域Aでのプロセスは、k -ミーンズモデルを、クラスタの数kを可変に拡張しEMアルゴリズム(Expectation Maximization Algorithm:期待値最大化法)と呼ばれるアルゴリズムを用いて不完全データの下で最尤推定値を求めるプロセスである。この最尤推定値は、個別電気機器の規格電力の平均と分散に関する最尤推定値である。
以下、これらのプロセスの詳細について、数式を用いながら説明する。
k -ミーンズモデルは、混合正規モデル(Gaussian Mixture Model)とも呼ばれるモデルである。サンプルが未知のk個の正規分布からの実現値であるとき個の正規分布の平均と分散を推定し、各サンプルがどの正規分布からの実現値であるのかを判定するモデルである。したがって、一般的にk -ミーンズモデルは、クラスタリングのモデルの一種である。しかし、クラスタリングに、クラスタ分けの外的基準を用いないため、教師なし学習アルゴリズムの一種として知られている。
k -ミーンズの解法には様々な考え方が取り入れられているが、本実施例では、上記のように統計的な概念がもっとも明確な混合正規モデルの立場をとり、解法としては、これも統計学の明確な理論的背景をもつ、EMアルゴリズムを採用する。
混合正規モデル視点からすk -ミーンズモデルは、本実施例の場合、単純な1次元モデルである。
すなわち、m個のサンプルをxi, (i=1,…m)と表わし、また、k個の未知の正規分布N (μj,σj 2), (j=1,…,k)と表す。ここでkは既知である。なお、説明の便宜のため、ここでは、σj, (j=1,…,k)は既知とし、σj =σ^, (j=1,…,k)で、すべて等しいとする。k=2の場合の模式図を図4に示す。
ここで、式(1)が収束するのか、また、収束したとして、混合正規モデルの尤度を最大化しているのか、ということについて説明する。
実は、EMアルゴリズムとは、不完全データの下で、最尤推定値を与える、一般的なアルゴリズムのことである。このEMアルゴリズムは、大域最適化は保障されないが、尤度の単調(増大)性をもったアルゴリズムである。
以下では、k -ミーンズモデルを、不完全データの下での最尤推定法の問題に変換し、混合正規モデルとしてのk -ミーンズモデルを解くEMアルゴリズムを導出する。
混合正規モデルとしてk−ミーンズモデルのキーとなるポイントは、サンプルが、k個の正規分布N(μj, σj 2), j=1,…,kのどの正規分布からのサンプルであるかわからない、つまり、観測されていないことである。もしもこれがわかっているのであれば、通常の最尤推定法で、k個の正規分布の平均、分散の最尤推定値を求めることは容易である。通常、不完全データモデルでは、観測されないが、観測されたとしたときの確率変数を、潜在確率変数として導入してモデル化する。
確率変数Zijを、観測されないが、xiが、第j番目の正規分布N(μj, σj 2)からのサンプルであるとき1、そうでなければ0の値をとる潜在確率変数とする。
完全データ:
平均μj', j=1,…,kの最尤推定値μj^', j=1,…,kは、式(8)をμj', j=1,…,kに関して微分し、1階の条件から、μj^', j=1,…,kを求めれば、次式が得られる。
このAICを用いて、最適なクラスタ数を、AICを最小にするk*とすることができる。AICは最大対数尤度をl*、パラメータ数をpで表すと、次式で定義される。
最適なクラスタ数k*を求めるアルゴリズムの表現としては、順次、kを1から増やしていき、AIC(k+1)>AIC(k)となるkを、最適なクラスタ数k*とすればよいことになる。
確率変数YとXを考える。データとは、これら確率変数の実現値であり、小文字y, xで表す。一般に、確率変数yとxとの間に、多対一の写像hによる対応関係があるとき、yを完全データ、xを不完全データと定義する。すなわち、
サンプルとなるデータベクトルをx=(xi; i=1,…,m)、また、潜在確率変数に対応する潜在変数データベクトルをzと表そう。zはその定義より、z=(zij; i=1,…,m, j=1,…,k)である。
完全データyは、xとzの組、
その方法は、あるモデル(パラメータ)の下で、不完全xデータを生成する確率(尤度)を、完全データyのモデルに逆もどって、計算することである。
つまり、写像の像xに対応する原像が、像xを生み出す完全データyの集合であることに注意すると、不完全データxを生み出す確率(尤度)は、原像h-1(x)に含まれる完全データyの起こる確率である。別言すれば、原像h-1(x)に含まれる、個々の完全データyが生起する確率(尤度)の和が、不完全データxが起こる尤度となる。以上を数式で表現すると、以下のようになる。
これらの方法の概要は以下の通りである。
まず、不完全データの対数尤度をL(Φ)で表す。
EMアルゴリズムの定義:
E−ステップ:
GEMのM−ステップ:
まず、EMアルゴリズムでは、E−ステップの計算が必要である。k -ミーンズモデルのパラメータはh[(μj,σj 2), j=1,…,k]であるので、Φ, Φ'の代わりに、h, h'の表記を用いる。
また、E−ステップの条件付き期待値は、条件付き対数尤度の条件付き期待値となっており、複雑な計算と捉えられるかも知れない。しかし、条件付き対数尤度の条件となっているパラメータは、条件付き期待値の計算に何の影響も与えないことに注意すると、式(26)の計算は、と不完全データxの下での完全データyの期待値を計算するにすぎないことになる。
さて、Q(h'|h)の式(36)をみればわかるように、Eステップにおいては、次の計算が問題となる。
式(37)は、事後確率の形をしている。すなわち、不完全データxiを観測したもとで、xiがどの正規分布からのサンプルかを判別するインジケータ確率変数Zgの事後確率を求めている。この事後確率はわからないものの、インジケータ確率変数Zgが与えられたもとで、不完全データxiが起こる尤度は明確に計算できる。
つまり、ベイズの定理を用いることで、式(37)の事後確率を、事前分布と尤度の積に比例するものとして求める。
πj|i-1=P(Zy|Xi-1,…,X1)とおくと、式(43)は、次式で表される。
Eステップ:
以上の説明では、複雑さを避けるために、クラスタの数kが固定されたケースを考えてきた。しかし、本実施例で構築したNIALMのためのリアルタイム逆推定アルゴリズムでは、クラスタの数kが可変のk -ミーンズモデルを採用している。
本実施例では、観測された1分おきの総使用電力にもとづいて、逐次的に電気機器の機種を同定し、個別電気機器の機種の数が変動するモデルを目標としている。総使用電力の1分時間階差をベースに、どのような機種の電気機器があるのか、また、それらの電気機器の稼働状態はどうなのか、をリアルタイムに推定するアルゴリズムが目標である。
本実施例では、その電気機器の機種の同定にk -ミーンズモデルを適用する。通常のk -ミーンズモデルでは、クラスタ数kは、事前に与えられた数に固定されている。しかし、電気機器の種類は、k -ミーンズモデルによるクラスタに対応するから、当然、k -ミーンズモデルのクラスタ数kも可変となる必要がある。
実用化の場面で、日本国内で3000万世帯にもおよぶ個々の家庭にHEMS(Home Energy Management System)を導入する場面を想定してみる。逆推定のアルゴリズムをこれらの家庭に実装する場合、それぞれの家庭が持っている電気機器を種類まで特定し、事前情報として持っておかないと、アルゴリズムが動かないので、大変な実装の手間とコスト、時間がかかる。より実用化の段階に近ければ近いほど事前情報にたよらず、アルゴリズム自体が学習し、初期設定にたよらなくてよいシステムが望まれる。本実施例もそのような実用化のレベルに近いレベルでのシステム化を想定している。
理論的には、これで十分のように思われるが、実用化を想定したモデリングでは、これでは不十分である。
なぜなら、AICの定義に中に、大標本理論での極限の概念があり、一体、どの程度のサンプル数であれば、不偏推定量として、どの程度の誤差の範囲に収まるのかの、議論がないからである。
実際、アルゴリズムがスタートして直後は、データ数(サンプル数)が少なく、アルゴリズムも学習が進んでおらず、個別電気機器の機種の付け加えや、削除などをAICの基準で行おうとすると、すぐに破綻する。この問題は、一般に、コールドスタートの問題とも呼ばれ、リコメンデーションシステムなどのシステム設計でも、新規のユーザーについては、利用履歴が少なく、システムがうまく作動しないことが起こる問題として知られている。
ここでは、クラスタ数は、個別電気機器の機種の数を表し、また、クラスタを構成する正規分布の平均が、個別電気機器の規格電力に対応している。以下に、本実施例で採択した可変クラスタ数の決定方法を示す。
本実施例ではまず、総使用電力の1分時間間隔階差の電力ジャンプ量に着目する。
1) ジャンプ量が0に近い場合
個別電気機器の稼働状態に何も変化なしとして、次の期に移る。
一方、
2) ジャンプが0ではない場合、
a) ジャンプ量が既存の電気機器の規格電力に近い場合は、既存の電気機器がオンまたはオフしたと判定し、
b) ジャンプが既存の電気機器の規格電力から離れている場合は、新たな電気機器の機種が特定されたと判定し、新たな電気機器の機種の規格電力をそのジャンプ量に設定してこのジャンプ量をともなった新たな機種を既存の機種リストに加える。
これが、次の電気機種の重複削除(枝刈り)のプロセスである。
すなわち、領域A-2のプロセスにおいて、 規格電力およびその分散の更新と機種の重複削除を行う。
2) 規格電力の再計算の結果、規格電力が同一とみなされる機種を1つの機種に統合する。すなわち、重複機種の削除を行う。
このように、領域A-2のプロセスは、EMアルゴリズムによる平均、分散の再計算、更新をおこなうプロセスである。ここでも同様に、同一の機種に属すかどうかの判定は、規格電力の分散に対する大きさを判定基準としている。
そこで、本実施例では、尤度の単調性の特徴をもつEMアルゴリズムの特性を利用し、1回のみ、EMアルゴリズムの繰り返し計算を行なって、次のプロセスに引き継ぐことにしている。
同一のこれまでに登録された規格電力の値に近ければ、その規格電力に対応した電気機器がオン、オフしたと考える。既存の規格電力の値に近いか否かの判定は、規格電力に対応した分散の大きさで判定する。
なお、上記Mステップにあっては、用いる過去のデータの長さ、逆戻る長さは、前記過去のデータより少ない長さに指定する。
以上で、クラスタ数が可変の可変k-ミーンズ アルゴリズムの説明を終えたので、次に、NIALMのための逆推定アルゴリズムの動的表現について説明する。
この状態空間モデルを用いる方法は、カルマンフィルタとも呼ばれる。その基本的考え方は、潜在変数である状態変数の時間的遷移を表現する状態方程式と、観測されない状態変数を観測データに結びつける観測方程式とから構成される。
本実施例では、状態方程式が、総使用電力の1階階差のジャンプからどの電気機器がオン/オフしたのかといった統計的推定にかかわるモデルの記述式としている。
さらに、4) 制御と関連づける場合は、状態変数以外に、制御者や観測者が、状態方程式で表される動的システムに、政策変数、あるいは、制御変数として、入力を加える必要がある。
本実施例のNIALMのためのリアルタイム逆推定アルゴリズムは、この最後の入力変数を含んだモデル化を行ったことを特徴とする。すなわち、本実施例での入力変数を含んだモデル化では、旧来の制御変数の意味ではなく、動的システムの状態を変える外的なショックと捉えたモデル化を用いる。もっと広義に一般化すれば、外部からの学習入力なども、同じような扱いが可能になる方法である。
まず、t期における状態変数ベクトルをxi、入力ベクトルをut、観測ベクトルをytとおく。状態方程式の誤差項の確率変数ベクトルをWtとおき、観測方程式の誤差項の確率変数ベクトルをvtと表す。
標準形では上述の状態方程式、観測方程式は、それぞれ以下のように表す。
以上の仮定は、次で表現される。
また、誤差項の時間添字がtとなっているが、これもt-1時点の状態変数に誤差項が加わって、t時点の状態変数を生み出すことを示すためである。入力ベクトルは、観測誤差を含まないと想定しているので、入力の時点sは、誤差の加えられる時点の前でも後でもよい。このことから、後の記述では、入力の時点をtとしているが、本質的に式(52)と変わらないことを付記しておく。
1) まず、式(59)および(60)にもとづいて、初期値(x0^+, P0 +)を決める。
2) 次いで、式(61)および式(62)にもとづいて、状態変数ベクトルの予測値xt^-と、誤差共分散Pt -を1期前までの観測値にもとづいて求める。
3) 式(63)のカルマンゲインを計算する。
4) 式(64)により、状態変数ベクトルの予測値を今期の観測値にもとづいて改定する。
5) 式(65)により、状態変数ベクトルの誤差共分散を改定する。
以上が、状態空間モデリングの考え方、カルマンフィルタの標準形、そして、カルマンフィルタの再帰的計算の手順についての説明である。
NIALMのためのリアルタイム逆推定アルゴリズムは、総使用電力の1分間隔の時間変動データから、個別電気機器の機種(それぞれ規格電力を有する)の同定・推定と、各電気機器の稼働状態の動的変動をリアルタイムに把握することをねらったアルゴリズムである。本実施例では、状態空間モデリングの方法を個別電気機器の稼働状態の動的推定に適用するとともに、これを前述した個別電気機器の規格電力の推定アルゴリズムと統合することで、逆推定アルゴリズムの目的を実現する。
その最も特徴的な点は、個別電気機器の規格電力推定アルゴリズムによる推定結果を、カルマンフィルタの入力として活用し、個別電気機器の稼働状態の状態遷移を表す状態方程式に組み込んだ点である。
Pwt: 第t期の総使用電力
Pwt k: 第k種電気機器の第t期の電力使用
Pk: 第k種電気機器の規格電力
(σ2)k: 第k種電気機器の規格電力の分散
Pt^k: 第k種電気機器の第t期での規格電力の推定値
(σ^2)t k: 第k種電気機器の第t期での規格電力の分散の推定値
yt=Pwt, t=1,2,…
なお、カルマンフィルタの標準形に記法を合わせるために、ytの記号を用いている。
第種の電気機器の稼働状態を表す確率変数をXt kとする。状態確率変数Xt kは、以下のように定義される。
ただし、例外的に、機種0は、総使用電力を表し、状態変数に加えておく。
xt 0: 総使用電力(観測値に同じ)の期待値 Xt 0=Pwt
xt k, (k=1,2,…,kt): 第種電気機器の稼働確率
ただし、ktは、t期までに推定された個別電気機器の種類の数
Ωt: t期までに推定された全電気機器の機種のリスト
すなわち、Ωt={1,2,…,kt}
Bt: t期までに推定された全電気機器の規格電力Pk、分散(σ2)t kの推定値のリスト、すなわち、
ただし、ジャンプをそのまま入力にしているわけでではなく、ジャンプが既存の保有電気機器の集合Ωtの中のどの機器の稼働状態の変化から生じたのかを判定し、各状態変数への入力ベクトルに、k-ミーンズモデルを用いて変換している点が、カルマンフィルタの標準形と異なるところである。
まず、総使用電力の1階階差としてのジャンプを、スカラーの入力変数とし、総使用電力の状態変数Xt 0に対応するスカラーの入力変数とする。
次いで、kt種類の電気機器に対応する状態変数への入力変数ut k, k=1,…,ktを定義する。
これらは、ut 0のジャンプが、1,…,ktのどの機器の稼働状態の変化から発生したのかを表すkt個の電気機器の種類上の確率分布として定義される。これらの入力変数ut k, k=1,…,ktについては、この後、形式的な定義を述べるが、その意味については、改めて詳述する。当面は、kt個の状態に対応する入力ベクトルであるとしておく。
これらkt+1個の入力変数をまとめてベクトルutと表すことにする。
1) ut 0およびxt 0の決定
(a)nzut k, (k=1,…,kt)を次で決める。
Φ(x|μ,σ):平均μ,標準偏差σの正規分布N(μ,σ2)の密度関数
|ut 0|:ut 0の絶対値
πt k, k=1,…,kt:kt個の仮説N(μt k,(σ2)t k)に対する事前分布 (Cf.式(43))
式(73)は、総使用電力のジャンプがどの機種から発生したかを判別する確率を表している。
次式は、状態方程式のうち、k=0を除く、k=1,…,ktの方程式を表している。
以上のように、式(71)から式(72)が状態方程式を構成し、式(76)が観測方程式となっているので、状態空間モデリングによるカルマンフィルタの標準形に、NIALMのためのリアルタイム逆推定アルゴリズムを帰着できる。
一方、式(74)は、図3の領域C-1のマルコフスイッチングに相当する部分であって、上記入力によって、状態変数をどのように変化させるか、を計算するプロセスである。
次に、これらの計算プロセスについて詳しく説明する。
期でのk-ミーンズモデルの計算フローは、電気機器の新しい機種を既存リストに加えるかどうかを判定し、次いで、その新しい機種リストのもとで、EMアルゴリズムによって、規格電力および規格電力の分散を再計算し、重複する機種があれば削除する、といった流れである。
したがって、図3の領域Aのブロックからの出力は、t期での最新の個別電気機器の機種数、個別電気機器の規格電力および規格電力の分散の推定値である。k -ミーンズモデルの言葉でいえば、t期での最新の機種数kt個の正規分布の平均と分散である。NIALMの用語では、個別電気機器の規格電力Pkの推定値Pt kと、その分散(σ2)kの推定値(σ2)t kである。
そこで、総使用電力のジャンプut 0が、kt個の正規分布N(μt k, (σ2)t k), k=1,…,ktの中の、どの正規分布からのサンプルか、の判断をおこなうことができる。
総使用電力のジャンプut 0は、正負があるが、規格電力の大きさは正で分散も正であるから、ut 0の絶対値|ut 0|をとり、k -ミーンズモデルの考え方を用いて、式(44)にしたがって、求めたものである。式(73)を再掲するが、正規化していることを明記するため、式(78)に示すように、ut kを、nzut k, k=1,…,ktと表記している。
Φ(x|μ,σ):平均μ,標準偏差σの正規分布N(μ,σ2)の密度関数
|ut 0|:ut 0の絶対値
πt k, k=1,…,kt:kt個の仮説N(μt k,(σ2)t k)に対する事前分布 (式(44)を参照)
nzut k, (k=1,…,kt)は、事前分布πt k, (k=1,…,kt)のとき、ut 0が観測された場合の事後分布となっている。
本実施例での逆推定アルゴリズムの開発では、短い時間間隔で、総使用電力を測定すれば、2つ以上の電気機器が同時にオンしたり、同時にオフしたりすることが少なくなるはずだ、との前提に立っている。また、同様に、複数の電気機器が、同時にオンとオフになることも少なくなると想定している。
このような想定のもとでは、期の総使用電力のジャンプut 0は、kt種類の機種のいずれかでオン/オフの変化が起こったと考えるのが自然である。
したがって、次のようになる。
さて、ut 0が与えられたとき、kt個の電気機器のどの電気機器に変化が起こったのかの確率が、nzut k, k=1,…,ktで推定されたとしても、それが状態変数にどのような変化をもたらすかは、必ずしも明らかではない。
それは、変化が起こる前のt-1期の状態変数の値xt-1 kによって、状態変数の変化の仕方が異なるからである。t-1期の状態の違いによって、t期の状態遷移の仕方が異なるモデルのことを、一般に、マルコフスイッチング(Markov-Switching)モデルと呼ばれている。
本実施例におけるNIALMのためのリアルタイム逆推定アルゴリズムでは、状態遷移に、このマルコフスイッチングモデルの考え方を適用している。
まず、ut 0>0の場合からみていく。図5に、ut 0>0の場合の状態変化をまとめた表を示す。
ut 0>0あるから、k=1,…,ktのいずれかの機器にオンの変化があったと考えられる。しかし、この変化は、t-1期の状態変数xt-1 kの値によって異なる。
さて、ut 0>0の場合、いずれかの電気機器がオンに変化したと考えられるから、すでに、t-1期で、xt-1 kの値が1の機種、すなわち、すでにオンの機器では、変化が起こらなかったと考えるべきで、そのことを表現するために、図5の表では、P11=1,P10=0と記入してある。
この発想にしたがって、推移確率を、次のように想定する。
図6の表の記載したように、推移確率を以下のように想定する。
したがって、状態方程式は、次式である。
さらに付け加えれば、通常、カルマンフィルタでは、状態変数ベクトルの次元は、変動せず、固定されている。しかし、本実施例の逆推定アルゴリズムでは、個別電気機器の機種と規格電力自体を、時間が経過する途上でリアルタイムに推定していくことになり、機種数が時間の経過とともに変化する。したがって、状態方程式を記述する状態変数ベクトルの次元が時間推移によって、変わることになり、状態変数ベクトルの次元が変化する際の、変数の引き渡しなどの未開拓の課題も出てくる。
このプロセスは、図3の領域C-2に相当する部分である。本モデルの状態変数は、推定された個別電気機器の稼働確率であるから、総使用電力の観測値を得て、随時、個別電気機器の稼働状態の最適推定を更新していくことになる。
状態変数の再帰的な最適更新アルゴリズムは、カルマンフィルタの核である。その計算プロセスは、カルマンフィルタの標準形について、式(95)から式(65)としてすでに記述されている。
第1は、通常の最小二乗法が、未知パラ―メータとしているβを、確率変数として扱い、その最少分散推定量を求めている点であり、初期時点で事前にその共分散に関する事前情報をもっている点である。
第2は、最小分散推定法において、逐次、新たな観測値が入ってきたとき、それまでのβの推定値をどのように更新していくかの論点であり、新たな観測値がもつ、それまでの推定値が張る空間への直交成分に対する寄与部分を既存の推定値に加えて、逐次、更新を行っていく点である。この第2の論点が、カルマンフィルタでは、カルマンゲインと呼ばれる項を用いた状態変数の更新アルゴリズムに表現されている。
では、順次、その計算プロセスを行列形式に変形してみていく。
次に、状態変数の右肩についたとの添字の区別が重要である。それらを再掲すると、
カルマンフィルタの期のアルゴリズムは、xt-1^+, Pt-1 +が与えられたもとで、入力ut-1を得て、順次、計算をおこない、xt^+, Pt +を出力し、次のt+1期の計算につなげていく、逐次計算プロセスである。まず、入力ut-1をもとに、状態方程式によって、xtの予測値xt^-を次で求める。(式(48)を参照)
図7は、これまで説明してきた、本実施例実施例の、NIALMのためのリアルタイム逆推定アルゴリズムでの全体の計算プロセスを、フローチャートにまとめた図である。
1) 初期値を与える。初期値には、個別電気機器の稼働確率x0^+、および、その共分散P0 +、また、状態方程式の誤差共分散Qt, t=0,1,…、および、観測方程式の誤差共分散Rt, t=0,1,2,…も与える。状態方程式および観測方程式の誤差共分散は、すべての期で外生的に与える。
2) k-ミーンズアルゴリズムによって、総使用電力のジャンプがこれまでに存在している電気機器の規格電力かどうかを判断し、新たなジャンプであれば、新規の電気機器として機種リストに加え、その規格電力を新しい機種の規格電力として仮登録する。
3) 仮登録された個別電気機器の機種と規格電力を含め、機種リストに登録された電気機器の規格電力およびその分散を再計算する。既存の機種間、あるいは、新規の機種と既存の機種が、規格電力の再計算の結果、同一のものとみなすことができれば、当該の電気機器を機種リストから取り除く。これによって、個別電気機器の機種リスト、その規格電力リストを最新のリストに改定する。
4) k-ミーンズアルゴリズムの計算結果をもとに、総使用電力のジャンプが、最新の機種リスト、規格電力リストに登録された、どの規格電力をもつ、どの個別電気機器の稼働状態の変化に起因するジャンプなのか、の起こりやすさの確率を計算する。
5) 総使用電力のジャンプが、プラスか、マイナスか、0かによって、状態推移が異なるマルコフスイッチングモデルを構成し、総使用電力のジャンプの符号と、t-1期の個別電気機器の稼働状態の違いによって、t期への状態推移が異なる状態方程式を構成する。
6) t-1期までの情報をもちいた個別電気機器の稼働確率と、t期での個別電気機器の規格電力の推定値の情報を用いてt期の総使用電力を予測する。その予測値とt期の総使用電力の観測値との誤差にもとづいて、カルマンフィルタによって、状態変数と状態変数の共分散行列の最適推定の再帰的な更新を行い、t期までの情報をもちいた、t期の個別電気機器の稼働確率xt^+、および、その共分散行列Pt+を出力する。
1) 層使用電力の時間変動の1階階差、すなわち、ジャンプにのみ着目する点。
2) 電気機器の機種を企画電力の違いで識別する単純化を行っている点。
3) ジャンプを、クラスタの数が変化する可変的k−ミーンズモデルへの入力と捉え、EMアルゴリズムの解法を用いることで、1分間隔のリアルタイムでの機種の同定と推定を可能とした点。
4) 可変的なk−ミーンズモデルと状態空間モデリングのカルマンフィルタとを接合し、同定した個別電気機器の稼働状態の変化を、リアルタイムの動的推定可能としている点。
5) k−ミーンズモデルとカルマンフィルタの統合には、マルコフスイッチングの考え方を梃子としている点。
このように、本実施例の逆推定アルゴリズムは、リアルタイムの動的推定を可能にする実装を意図した実用性の高い、これまでにないアルゴリズムである。
実際の過程環境データへの適用は、以下のように行った。
実際に生活している環境(東京都内)にNIALMを8日間(2013年3月12日〜19日)設置して、総使用電力を観測し、個別電気機器の種類と、規格電力を推定できるかを行った。NIALMは疑似家庭環境と同機を使用しており、1秒おきにデータを収集した。実験に協力していただいた家庭は、4人家族で、うち2人は子供である。実験期間の天候は図8に示す表の通りである。
本実施例では、今後、一般家庭に普及することを想定して、8日間を1分間隔のデータ11520個のデータを使用した。
図9は、総使用電力の1分間のジャンプの規模別度数分布を表している。同図から明らかなように、観測されたジャンプは0を中心としてプラスとマイナスに対称的に描かれていることがわかる。それゆえ、総使用電力のジャンプはその機器がオン、オフになった可能性が非常に高く、そのジャンプが規格電力である可能性が高いといえる。
本実施例で構築した逆推定アルゴリズムの適用対象としては、実家庭環境での総使用電力の1分間隔の時間変動データを想定している。とくに、総使用電力の1分時間間隔の時間変動データの1階階差、ジャンプに着目し、それを逆推定アルゴリズムの入力ストリームとしている。
それは、個別電気機器がスイッチオンしたときに、規格電力のポジティブのジャンプが起こり、いずれかの時点で、個別電気機器がスイッチオフとなったときに、ネガティブのジャンプが起こり、個別電気機器の使用電力は0となる、との考え方である。これは、特許文献1に記載の技術のように総使用電力の波形にまで踏み込まずに、オンとオフのジャンプの動きにのみ着目する方法である。
なお、このアルゴリズムでは、状態変数の引き渡しについては行っていない。
図12は、図11のうち使用開始から150分までを切り出して拡大したものである。また、図13は、図11のうち150分から300分までを切り出して拡大したものである。
図12から、使用開始から150分にかけては、総使用電力の観測値と推定値で誤差が生じている箇所がいくつかあるが、その後の150分以降は、図13のように、観測値と推定値の間に大きな誤差は生じておらず、推定精度がよいことが分かった。
ただし、150分以降は個別電気機器の種類の数が変わったときの状態変数の引き渡しを考慮しなくても、個別電気機器の種類の数は学習で安定した状態に達し、総使用電力の観測値と推定値との間に大きな違いは生じていない。
図13の状態変数の引き渡しを考慮していない場合と比べると、使用開始から、総使用電力の観測値と推定値との間に大きな違いが見られず、初期の段階から予測精度の向上が図られている。
すなわち、実施例1の個別電気機器稼働状態推定装置およびその方法にあっては、個々の電気機器にセンサを設けることなく、また事前にどのような種類の電気機器が何台あるかといった情報がなくても、個々の電気機器の使用状況(どの電気機器の機種があり、どの電気機器がどのような稼働状態にあるか)をリアルタイムでモニタリングを行うことができる。したがって、安価になり、一般家庭等への適用も容易となって、その結果、電気機器の使用状況の改善や電力供給制御の改善等を実施して省エネルギ化を図ることが可能となる。
あるいは、本発明の個別電気機器稼働状態推定装置およびその方法によるモニタリングの対象としては、家屋1軒を複数のエリアに分けて、それぞれのエリアに分電盤などを設け、個別あるいは統合して適用するようにしてもよい。
2 配線
3a〜3n 電気機器
4 供給電線
5 電力計(総使用電力測定手段)
6 稼働状態推定部
6a 時間変動算出部(時間変動算出手段)
6b 稼働電気機器機種特定部(稼働電気機器機種特定部)
6c 対応尤度推定部(対応尤度推定手段)
6d 個別電気機器稼働状態推定部(個別電気機器稼働状態推定手段)
6e マルコフスイッチングモデル
6f カルマンフィルタ
7 ディスプレイ
8 分電盤(総使用電力測定手段)
Claims (16)
- 複数の電気機器の総使用電力を測定する総使用電力測定手段と、
該総使用電力測定手段で測定し総使用電力に基づき、該総使用電力の時間的変動であるジャンプ電力を算出する時間変動算出手段と、
該時間変動算出手段で算出したジャンプ電力に基づいて新たな電気機器の機種として既存の機種リストに加えるか否かを判定し、新たな電気機器の機種として前記既存の機種リストに加える場合には個別電気機器の機種別の規格電力の再計算を行い、必要に応じて前記既存の機種リストから余分な機種を削除し、新たな電気機器の機種を加えない場合には前記既存の機種リストを維持する、前記電気機器の機種のクラスタリングを行う電気機器機種特定手段と、
前記時間変動算出手段で算出したジャンプ電力に基づいてアップおよびダウンのジャンプがどの電気機器の機種のスイッチオン及びスイッチオフの事象の生起に対応しているかの尤度を推定する対応尤度推定手段と、
該対応尤度推定手段で得られた、現在の個別電気機器の稼働状態のもとで総使用電力のジャンプから得られる、前記個別電気機器のスイッチオン及びスイッチオフの事象生起に関する尤度が入力されたときの前記個別電気機器の稼働状態の変化を推定して、前記現在の個別電気機器の稼働状態の推定を更新し、この更新された個別電気機器の稼働状態の推定結果と規格電力の推定結果を用いて予測される総使用電力の予測値と前記総使用電力の測定データから前記個別電気機器の機種の推定、前記規格電力の推定、および前記稼働状態の推定を最適化し、測定された前記総使用電力の時間変動の時間間隔で刻々変化する前記個別電気機器の稼働確率を動的に推定する個別電気機器稼働状態推定手段と、
を備えたことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定装置。 - 請求項1に記載の個別電気機器稼働状態推定装置において、
前記電気機器機種特定手段で行うクラスタリングにはk-ミーンズアルゴリズムを用い、該k-ミーンズアルゴリズムで用いる前記個別電気機器の機種に対応するクラスタの数kを可変とした、
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定装置。 - 請求項2に記載の個別電気機器稼働状態推定装置において、
前記k-ミーンズアルゴリズムは、期待値ステップおよび最大化ステップを有するEMアルゴリズムを用いて、入力された前記ジャンプ電力に基づいて未知のk個の正規分布からの実現値であるときのk個の正規分布の平均と分散を推定し、前記入力されたジャンプ電力がどの正規分布からの実現値であるかを判定する、
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定装置。 - 請求項3に記載の個別電気機器稼働状態推定装置において、
前記EMアルゴリズムでの期待値ステップおよび最大化ステップの、時間変動間隔ごとの繰り返し計算は、1ステップの再計算のみとした、
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定装置。 - 請求項3又は4に記載の個別電気機器稼働状態推定装置において、
前記最大化ステップに用いる、平均および分散の過去のデータの長さ、逆戻る長さは、該過去のデータより前から得てきた過去のデータより少ない長さに指定する、
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定装置。 - 請求項3乃至5のうちの1項に記載された個別電気機器稼働状態推定装置において、
前記EMアルゴリズムは、前記期待値ステップでの期待値の算出に、該期待値の事後確率が前記期待値の事前分布と尤度との積に比例するとしたベイジアン学習に基づく前記事前分布を導入し、前記総使用電力と前記ジャンプ電力の過去のデータから得られた、前記個別電気機器のスイッチオン、オフの発生確率の時間変動、使用環境の違いによる変動、使用日変動のうちの少なくとも一つの変動のパターンの学習結果の推定に利用するようにした、
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定装置。 - 請求項2乃至6のうちのいずれか1項に記載の個別電気機器稼働状態推定装置において、
各電気機器の稼働確率の状態変数に対応させるマルコフスイッチングモデルと、
状態方程式の標準形に、前記総使用電力に対して前記ジャンプ電量を対応させた各入力変数を持たせ、前記各電気機器の稼働確率とした状態変数を用いるカルマンフィルタと、を備えている、
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定装置。 - 請求項7に記載の個別電気機器稼働状態推定装置において、
前記カルマンフィルタの状態変数を、次元が可変である状態変数ベクトルとした、
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定装置。 - 複数の電気機器の総使用電力を測定するステップと、
前記測定した総使用電力に基づき、該総使用電力の時間的変動であるジャンプ電力を算出するステップと、
前記算出したジャンプ電力に基づいて新たな電気機器の機種として既存の機種リストに加えるか否かを判定し、新たな電気機器の機種として前記既存の機種リストに加える場合には個別電気機器の機種別の規格電力の再計算を行い、必要に応じて前記既存の機種リストから余分な機種を削除し、新たな電気機器の機種を加えない場合には前記既存の機種リストを維持する、前記電気機器の機種のクラスタリングを行うステップと、
前記算出したジャンプ電力に基づいてアップおよびダウンのジャンプがどの電気機器の機種のスイッチオン及びスイッチオフの事象の生起に対応しているかの尤度を推定するステップと、
現在の個別電気機器の稼働状態のもとで総使用電力のジャンプから得られる、前記個別電気機器のスイッチオン及びスイッチオフの事象生起に関する尤度が入力されたときの該個別電気機器の稼働状態の変化を推定して、前記現在の個別電気機器の稼働状態の推定を更新し、この更新された個別電気機器の稼働状態の推定結果と規格電力の推定結果を用いて予測される総使用電力の予測値と前記総使用電力の測定データから前記個別電気機器の機種の推定、前記規格電力の推定、および前記稼働状態の推定を最適化し、測定された前記総使用電力の時間変動の時間間隔で刻々変化する前記個別電気機器の稼働確率を動的に推定するステップと、
を有する別電気機器稼働状態推定方法。 - 請求項9に記載の個別電気機器稼働状態推定方法において、
前記クラスタリングは、k-ミーンズアルゴリズムを用い、該k-ミーンズアルゴリズムで用いる前記個別電気機器の機種に対応するクラスタの数kを可変とした、
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定方法。 - 請求項10に記載の個別電気機器稼働状態推定方法において、
前記k-ミーンズアルゴリズムは、期待値ステップおよび最大化ステップを有するEMアルゴリズムを用いて、入力された前記ジャンプ電力に基づいて未知のk個の正規分布からの実現値であるときのk個の正規分布の平均と分散を推定し、前記入力されたジャンプ電力がどの正規分布からの実現値であるかを判定する,
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定方法。 - 請求項11に記載の個別電気機器稼働状態推定方法において、
前記EMアルゴリズムでの期待値ステップおよび最大化ステップの、時間変動間隔ごとの繰り返し計算は、1ステップの再計算のみとした、
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定方法。 - 請求項11又は12に記載の個別電気機器稼働状態推定方法において、
前記最大化ステップに用いる、平均および分散の過去のデータの長さ、逆戻る長さは、該過去のデータより前から得てきた過去のデータ過去のデータより少ない長さに指定する、
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定方法。 - 請求項11乃至13のうちの1項に記載された個別電気機器稼働状態推定方法において、
前記EMアルゴリズムは、前記期待値ステップでの期待値の算出に、該期待値の事後確率が前記期待値の事前分布と尤度との積に比例するとしたベイジアン学習に基づく前記事前分布を導入し、前記総使用電力と前記ジャンプ電力の過去のデータから得られた、前記個別電気機器のスイッチオン、オフの発生確率の時間変動、使用環境の違いによる変動、使用日変動のうちの少なくとも一つの変動のパターンの学習結果の推定に利用するようにした、
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定方法。 - 請求項9乃至14のうちのいずれか1項に記載の個別電気機器稼働状態推定方法において、
マルコフスイッチングモデルを用いて各電気機器の稼働確率の状態変数に対応させるステップと、
カルマンフィルタの状態方程式の標準形に、前記総使用電力に対して前記ジャンプ電量を対応させた各入力変数を持たせ、前記カルマンフィルタで前記各電気機器の稼働確率とした状態変数を用いると、
を有することを特徴とする個別電気機器稼働状態推定方法。 - 請求項15に記載の個別電気機器稼働状態推定方法において、
前記カルマンフィルタの状態変数を、次元が可変である状態変数ベクトルとした、
ことを特徴とする個別電気機器稼働状態推定方法。
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