以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態に係るレーザ加工方法及びレーザ加工装置においては、板状の加工対象物に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより、切断予定ラインに沿って加工対象物に改質領域を形成する。
そこで、まず、本実施形態に係るレーザ加工方法及びレーザ加工装置における改質領域の形成について、図1〜図9を参照して説明する。
図1に示すように、レーザ加工装置100は、レーザ光(加工用レーザ光)Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107をX、Y、Z軸方向に移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿って、切断の起点となる改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。以下、この改質領域について詳細に説明する。
図2に示すように、板状の加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示すように、加工対象物1の内部に集光点Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4〜図6に示すように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。また、改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面、裏面、若しくは外周面)に露出していてもよい。
ちなみに、ここでは、レーザ光Lが、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一般的に、表面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)場合、加工領域は表面3側から徐々に裏面側に進行する。
ところで、本実施形態に係るレーザ加工方法及びレーザ加工装置にて形成される改質領域は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。例えば、(1)溶融処理領域、(2)クラック領域、絶縁破壊領域、(3)屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。
本実施形態に係るレーザ加工方法及びレーザ加工装置における改質領域は、レーザ光の局所的な吸収や多光子吸収という現象により形成される。多光子吸収とは、材料の吸収のバンドギャップEGよりも光子のエネルギーhνが小さいと光学的に透明となるため、材料に吸収が生じる条件はhν>EGであるが、光学的に透明でも、レーザ光Lの強度を非常に大きくするとnhν>EGの条件(n=2,3,4,・・・)で材料に吸収が生じる現象をいう。多光子吸収による溶融処理領域の形成は、例えば、溶接学会全国大会講演概要第66集(2000年4月)の第72頁〜第73頁の「ピコ秒パルスレーザによるシリコンの加工特性評価」に記載されている。
また、D.Du,X.Liu,G.Korn,J.Squier,and G.Mourou,”Laser Induced Breakdown by Impact Ionization in SiO2 with Pulse Widths from 7ns to 150fs”,Appl Phys Lett64(23),Jun.6,1994に記載されているようにパルス幅が数ピコ秒からフェムト秒の超短パルスレーザ光を利用することにより形成される改質領域を利用してもよい。
(1)改質領域が溶融処理領域を含む場合
加工対象物(例えばシリコンのような半導体材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光Lを照射する。これにより、集光点近傍にてレーザ光Lが吸収されて加工対象物の内部が局所的に加熱され、この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。
溶融処理領域とは、一旦溶融後再固化した領域や、まさに溶融状態の領域や、溶融状態から再固化する状態の領域であり、相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。つまり、例えば、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。
図7は、レーザ光が照射されたシリコンウェハ(半導体基板)の一部における断面の写真を表した図である。図7に示すように、半導体基板11の内部に溶融処理領域13が形成されている。
入射するレーザ光の波長に対して透過性の材料の内部に溶融処理領域13が形成されたことを説明する。図8は、レーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示す線図である。ただし、シリコン基板の表面側と裏面側それぞれの反射成分を除去し、内部のみの透過率を示している。シリコン基板の厚さtが50μm、100μm、200μm、500μm、1000μmの各々について上記関係を示した。
例えば、Nd:YAGレーザの波長である1064nmにおいて、シリコン基板の厚さが500μm以下の場合、シリコン基板の内部ではレーザ光Lが80%以上透過することが分かる。図7に示す半導体基板11の厚さは350μmであるので、溶融処理領域13は半導体基板11の中心付近、つまり表面から175μmの部分に形成される。この場合の透過率は、厚さ200μmのシリコンウェハを参考にすると、90%以上なので、レーザ光Lが半導体基板11の内部で吸収されるのは僅かであり、殆どが透過する。しかし、1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光Lをシリコンウェハ内部に集光することで集光点とその近傍で局所的にレーザ光が吸収され溶融処理領域13が半導体基板11の内部に形成される。
なお、シリコンウェハには、溶融処理領域を起点として亀裂が発生する場合がある。また、溶融処理領域に亀裂が内包されて形成される場合があり、この場合には、その亀裂が、溶融処理領域においての全面に渡って形成されていたり、一部分のみや複数部分に形成されていたりすることがある。更に、この亀裂は、自然に成長する場合もあるし、シリコンウェハに力が印加されることにより成長する場合もある。溶融処理領域から亀裂が自然に成長する場合には、溶融処理領域が溶融している状態から成長する場合と、溶融処理領域が溶融している状態から再固化する際に成長する場合とのいずれもある。ただし、どちらの場合も溶融処理領域はシリコンウェハの内部に形成され、切断面においては、図7に示すように、内部に溶融処理領域が形成されている。
(2)改質領域がクラック領域を含む場合
加工対象物(例えばガラスやLiTaO3からなる圧電材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光Lを照射する。このパルス幅の大きさは、加工対象物の内部にレーザ光Lが吸収されてクラック領域が形成される条件である。これにより、加工対象物の内部には光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され、これにより加工対象物の内部に、1つ又は複数のクラックを含むクラック領域が形成される。クラック領域は絶縁破壊領域とも言える。
図9は電界強度とクラックの大きさとの関係の実験結果を示す線図である。横軸はピークパワー密度であり、レーザ光Lがパルスレーザ光なので電界強度はピークパワー密度で表される。縦軸は1パルスのレーザ光Lにより加工対象物の内部に形成されたクラック部分(クラックスポット)の大きさを示している。クラックスポットが集まりクラック領域となる。クラックスポットの大きさは、クラックスポットの形状のうち、最大の長さとなる部分の大きさである。グラフ中の黒丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が100倍、開口数(NA)が0.80の場合である。一方、グラフ中の白丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が50倍、開口数(NA)が0.55の場合である。ピークパワー密度が1011(W/cm2)程度から加工対象物の内部にクラックスポットが発生し、ピークパワー密度が大きくなるに従いクラックスポットも大きくなることが分かる。
(3)改質領域が屈折率変化領域を含む場合
加工対象物(例えばガラス)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光Lを照射する。このように、パルス幅が極めて短い状態で加工対象物の内部にレーザ光Lが吸収されると、そのエネルギーが熱エネルギーに転化せず、加工対象物の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起され、屈折率変化領域が形成される。
なお、改質領域とは、溶融処理領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等やそれらが混在した領域を含めて、その材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域であったり、格子欠陥が形成された領域であったりする。これらをまとめて高密転移領域と言うこともできる。
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、更にそれら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。
ちなみに、加工対象物の結晶構造やその劈開性等を考慮して、改質領域を次のように形成すれば、精度よく加工対象物を切断することが可能になる。
すなわち、シリコン等のダイヤモンド構造の単結晶半導体からなる基板の場合は、(111)面(第1劈開面)や(110)面(第2劈開面)に沿った方向に改質領域を形成するのが好ましい。また、GaAs等の閃亜鉛鉱型構造のIII−V族化合物半導体からなる基板の場合は、(110)面に沿った方向に改質領域を形成するのが好ましい。更に、サファイア(Al2O3)等の六方晶系の結晶構造を有する基板の場合は、(0001)面(C面)を主面として(1120)面(A面)或いは(1100)面(M面)に沿った方向に改質領域を形成するのが好ましい。
また、上述した改質領域を形成すべき方向(例えば、単結晶シリコン基板における(111)面に沿った方向)、或いは改質領域を形成すべき方向に直交する方向に沿って基板にオリエンテーションフラットを形成すれば、そのオリエンテーションフラットを基準とすることで、改質領域を容易且つ正確に基板に形成することが可能になる。
次に、本実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。
図10に示すように、レーザ加工装置200は、板状の加工対象物1を支持する支持台201と、レーザ光Lを出射するレーザ光源202と、レーザ光源202から出射されたレーザ光Lを変調する反射型空間光変調器203と、支持台201によって支持された加工対象物1の内部に、反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lを集光する集光光学系204と、反射型空間光変調器203を制御する制御部205と、を備えている。レーザ加工装置200は、加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、加工対象物1の切断予定ライン5に沿って、切断の起点となる改質領域7を形成するものである。
反射型空間光変調器203は筐体231内に設置されており、レーザ光源202は筐体231の天板に設置されている。また、集光光学系204は、複数のレンズを含んで構成されており、圧電素子等を含んで構成された駆動ユニット232を介して筐体231の底板に設置されている。そして、筐体231に設置された部品によってレーザエンジン230が構成されている。なお、制御部205は、レーザエンジン230の筐体231内に設置されてもよい。
筐体231には、筐体231を加工対象物1の厚さ方向に移動させる移動機構が設置されている(図示せず)。これにより、加工対象物1の深さに応じてレーザエンジン230を上下に移動させることができるため、集光光学系204の位置を変化させて、レーザ光Lを加工対象物1の所望の深さ位置に集光することが可能となる。なお、筐体231に移動機構を設置する代わりに、支持台201に、支持台201を加工対象物1の厚さ方向に移動させる移動機構を設けてもよい。また、後述するAFユニット212を利用して集光光学系204を加工対象物1の厚さ方向に移動させてもよい。そして、これらを組み合わせることも可能である。
制御部205は、反射型空間光変調器203を制御する他、レーザ加工装置200の全体を制御する。例えば、制御部205は、改質領域7を形成する際に、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面(レーザ光入射面)3から所定の距離に位置し且つレーザ光Lの集光点Pが切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御する。なお、制御部205は、加工対象物1に対してレーザ光Lの集光点Pを相対的に移動させるために、集光光学系204を含むレーザエンジン230ではなく支持台201を制御してもよいし、或いは集光光学系204を含むレーザエンジン230及び支持台201の両方を制御してもよい。
レーザ光源202から出射されたレーザ光Lは、筐体231内において、ミラー206,207によって順次反射された後、プリズム等の反射部材208によって反射されて反射型空間光変調器203に入射する。反射型空間光変調器203に入射したレーザ光Lは、反射型空間光変調器203によって変調されて反射型空間光変調器203から出射される。反射型空間光変調器203から出射されたレーザ光Lは、筐体231内において、集光光学系204の光軸に沿うように反射部材208によって反射され、ビームスプリッタ209,210を順次透過して集光光学系204に入射する。集光光学系204に入射したレーザ光Lは、支持台201上に載置された加工対象物1の内部に集光光学系204によって集光される。
また、レーザ加工装置200は、加工対象物1の表面3を観察するための表面観察ユニット211を筐体231内に備えている。表面観察ユニット211は、ビームスプリッタ209で反射され且つビームスプリッタ210を透過する可視光VLを出射し、集光光学系204によって集光されて加工対象物1の表面3で反射された可視光VLを検出することで、加工対象物1の表面3の像を取得する。
更に、レーザ加工装置200は、加工対象物1の表面3にうねりが存在するような場合にも、表面3から所定の距離の位置にレーザ光Lの集光点Pを精度良く合わせるためのAF(autofocus)ユニット212を筐体231内に備えている。AFユニット212は、ビームスプリッタ210で反射されるAF用レーザ光LBを出射し、集光光学系204によって集光されて加工対象物1の表面3で反射されたAF用レーザ光LBを検出することで、例えば非点収差法を用いて、切断予定ライン5に沿った表面3の変位データを取得する。そして、AFユニット212は、改質領域7を形成する際に、取得した変位データに基づいて駆動ユニット232を駆動させることで、加工対象物1の表面3のうねりに沿うように集光光学系204をその光軸方向に往復移動させ、集光光学系204と加工対象物1との距離を微調整する。
ここで、反射型空間光変調器203について説明する。図11に示すように、反射型空間光変調器203は、シリコン基板213と、シリコン基板213上に設けられた金属電極層214と、金属電極層214上に設けられたミラー層215と、ミラー層215上に設けられた液晶層216と、液晶層216上に設けられた透明電極層217と、透明電極層217上に設けられたガラス板218と、を備えている。金属電極層214及び透明電極層217は、マトリックス状に配置された複数の電極部214a,217aを有しており、金属電極層214の各電極部214aと透明電極層217の各電極部217aとは、反射型空間光変調器203の積層方向において互いに対向している。
以上のように構成された反射型空間光変調器203では、レーザ光Lは、外部からガラス板218及び透明電極層217を順次透過して液晶層216に入射し、ミラー層215によって反射されて、液晶層216から透明電極層217及びガラス板218を順次透過して外部に出射される。このとき、互いに対向する1対の電極部214a,217a毎に電圧が印加され、その電圧に応じて、液晶層216において互いに対向する1対の電極部214a,217aに挟まれた部分の屈折率が変化している。これにより、レーザ光Lを構成する複数の光線のそれぞれにおいて、各光線の進行方向と直交する所定の方向の成分の位相にずれが生じ、レーザ光Lが整形(位相変調)されることになる。
制御部205は、改質領域7を形成する際に、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように(換言すれば、加工対象物1の内部においてレーザ光Lの波面が所定の波面となるように)、互いに対向する1対の電極部214a,217a毎に電圧を印加することで、反射型空間光変調器203を制御する。制御部205は、反射型空間光変調器203に入射したレーザ光Lのビームパターン(ビーム波面)を整形(変調)させるための波面整形(収差補正)パターン情報を反射型空間光変調器203に入力する。そして、入力されたパターン情報に基づいた信号により反射型空間光変調器203の一対の電極214a,217a毎に対応する液晶層216の屈折率を変化させることで、反射型空間光変調器203から出射されるレーザ光Lのビームパターン(ビーム波面)を整形(変調)する。なお、反射型空間光変調器203に入力するパターン情報は逐次入力するようにしてもよいし、予め記憶されたパターン情報を選択して入力するようにしてもよい。
ところで、厳密に言えば、反射型空間光変調器203で変調(補正)されたレーザ光Lは、空間を伝播することにより波面形状が変化してしまう。特に、反射型空間光変調器203から出射されたレーザ光Lや集光光学系204に入射するレーザ光Lが所定の拡がりを有する光(すなわち、平行光以外の光)である場合には、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とが一致せず、結果的に、目的とする精密な内部加工を妨げるおそれがある。そこで、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とを一致させることが重要となる。そのためには、レーザ光Lが反射型空間光変調器203から集光光学系204に伝播したときの波面形状の変化を計測等により求め、その波面形状の変化を考慮した波面整形(収差補正)パターン情報を反射型空間光変調器203に入力することがより望ましい。
或いは、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とを一致させるために、図23に示すように、反射型空間光変調器203と集光光学系204との間を進行するレーザ光Lの光路上に、調整光学系240を設けてもよい。これにより、正確に波面整形を実現することが可能となる。
調整光学系240は、少なくとも2つのレンズ(第1の光学素子)241a及びレンズ(第2の光学素子)241bを有している。レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203での波面形状と集光光学系204での波面形状とを相似的に一致させるためのものである。レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203とレンズ241aとの距離がレンズ241aの焦点距離(第1の焦点距離)f1となり、集光光学系204とレンズ241bとの距離がレンズ241bの焦点距離(第2の焦点距離)f2となり、レンズ241aとレンズ241bとの距離がf1+f2となり、且つレンズ241aとレンズ241bとが両側テレセントリック光学系となるように、反射型空間光変調器203と反射部材208との間に配置されている。
このように配置することで、1°以下程度の小さな拡がり角を有するレーザ光Lであっても、反射型空間光変調器203での波面と集光光学系204での波面とを合わせることができる。なお、より正確さを求める場合には、反射型空間光変調器203と液晶層216とレンズ241aの主点との距離をf1とすることが望ましい。しかしながら、図11に示すように、反射型空間光変調器203は非常に薄く、液晶層216とガラス板217との距離も極めて小さいため、液晶層216とガラス板217との間での波面形状の変化の程度も極めて小さい。従って、簡易的に、反射型空間光変調器203の構成上、焦点距離を設定し易い位置(例えば、反射型空間光変調器203の表面(表面近傍)等)とレンズ241aとの距離をf1に設定してもよく、このようにすることで調整が容易となる。また、より正確さを求める場合には、集光光学系204の主点とレンズ241bの主点との距離をf2とすることが望ましい。しかしながら、集光光学系204は複数のレンズを含んで構成され、主点での位置合わせが困難となる場合がある。その場合には、簡易的に、集光光学系204の構成上、焦点距離を設定し易い位置(例えば、集光光学系204の表面(表面近傍)等)とレンズ241bとの距離をf2に設定してもよく、このようにすることで調整が容易となる。
また、レーザ光Lのビーム径は、f1とf2との比で決まる(集光光学系204に入射するレーザ光Lのビーム径は、反射型空間光変調器203から出射されるレーザ光Lのビーム径のf2/f1倍となる)。従って、レーザ光Lが平行光、或いは小さな拡がりを有する光のいずれの場合であっても、反射型空間光変調器203から出射される角度を保ったまま、集光光学系204に入射するレーザ光Lにおいて所望のビーム径を得ることができる。
以上のように、調整光学系240によれば、レーザ光Lのビーム径及び拡がり角を調整することも可能となる。切断の起点となる改質領域7を加工対象物1に形成するレーザ加工方法においては、精密な切断を実現するために表面から加工を行うレーザ加工方法と比較してレーザ光Lの拡がり角やビーム径に基づく集光条件は極めて重要で、切断に適した改質領域7を精度良く形成するために集光光学系204には平行光ではなく小さな拡がり角(例えば、数mrad〜十数mrad程度)を持ったレーザ光Lが必要となる場合もある。そのため、反射型空間光変調器203を設置している場合と、反射型空間光変調器203を設置していない場合とで、改質領域7を形成するための基本的な加工条件を合わせるために、集光光学系204に入射するレーザ光Lのビーム径及び拡がり角を(反射型空間光変調器203を設置していない場合と)合わせる必要がある。
そこで、調整光学系240を使用することにより、反射型空間光変調器203で変調された波面(収差)を維持したまま、レーザ光Lを集光光学系204で集光することができ、且つ所定のビーム径及び所定の拡がり角を有するレーザ光Lで内部に改質領域を形成することができる。これにより、所定の拡がり角を有するレーザ光Lで集光光学系204の有効径を効率良く利用することができ、切断に適した精密な改質領域を形成することが可能となる。
なお、調整光学系240のレンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203と反射部材208との間のレーザ光Lの光路上に設けることが好ましい。その理由は次の通りである。すなわち、平板状の反射部材208やビームスプリッタ209,210に大きな広がりを持った光(レンズ241aとレンズ241bとの間の光)を入射すると球面収差や非点収差が発生する。従って、レンズ241bを反射部材208の後段に配置すると、レンズ241aから出射されて光軸に対して角度を有する光が反射部材208やビームスプリッタ209,210に入射した後にレンズ241bに入射することになるため、球面収差や非点収差の影響を受け、集光光学系204に入射するレーザ光Lの精度が低下する。また、調整光学系240は、レンズ241a,241bのそれぞれの位置を独立して微調整する機構を備えることが望ましい。また、反射型空間光変調器203の有効エリアを有効に使用するために、反射型空間光変調器203とレーザ光源202との間のレーザ光Lの光路上にビームエキスパンダを設けてもよい。
次に、本実施形態に係るレーザ加工装置の製造方法として、上述したレーザ加工装置200の製造方法について説明する。
まず、図12に示すように、上述したレーザ加工装置200と略同一の構成を有する基準レーザ加工装置200sを用意する。基準レーザ加工装置200sは、切断の起点としての機能が高い改質領域7を形成し得るレーザ加工装置であって、例えば、一定の条件下で、格子状に設定された複数の切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成して加工対象物1を切断した場合に、未切断部分が所定の割合以下となるレーザ加工装置である。
この基準レーザ加工装置200sに対して、加工対象物1に替えて参照球面ミラー221をその光軸が基準集光光学系204sの光軸と一致するように設置すると共に、AFユニット212に替えて波面計測器222を設置する。そして、基準レーザ加工装置200sの基準集光光学系204sから出射された基準レーザ光Lsの波面を波面計測器222によって計測し、基準波面データを取得する。なお、参照球面ミラー221は、波面計測器222の精度を上回る精度で作製されているため、参照球面ミラー221よって基準レーザ光Lsが反射されることで生じる基準レーザ光Lsの波面の乱れは無視することができる。
続いて、図13に示すように、支持台201と、レーザ光源202と、反射型空間光変調器203と、集光光学系204と、制御部205と、を備えている最終調整前のレーザ加工装置200を用意する。
このレーザ加工装置200に対して、加工対象物1に替えて参照球面ミラー221をその光軸が集光光学系204の光軸と一致するように設置すると共に、AFユニット212に替えて波面計測器222を設置する。そして、レーザ加工装置200の集光光学系204から出射されたレーザ光Lの波面を波面計測器222によって計測し、波面データを取得する。
続いて、基準波面データ及び波面データに基づいて、レーザ光Lの波面が基準レーザ光Lsの波面となるように反射型空間光変調器203を制御するための制御信号を算出し、制御部205に記憶させる。具体的には、基準波面データ及び波面データをゼルニケ多項式として取得し、基準波面データのゼルニケ多項式と波面データのゼルニケ多項式との差をとって、その差を埋めるような制御信号を算出し、制御部205に記憶させる。例えば、基準波面データのゼルニケ多項式が「(1×第1項)+(4×第2項)+(4×第3項)」であり、波面データのゼルニケ多項式が「(1×第1項)+(2×第2項)+(4×第3項)」である場合、波面データのゼルニケ多項式の第2項が更に2倍となるような制御信号を算出し、制御部205に記憶させる。
なお、集光光学系204の出射側に波面計測器222を直接配置してレーザ光Lの波面を計測しないのは、次の理由による。すなわち、板状の加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、切断の起点となる改質領域7を形成する場合には、集光光学系204によって加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの開口数が例えば0.55〜0.80というように非常に大きくなる。そのため、レーザ光Lの強度が弱くなってしまったり、レーザ光Lを構成する複数の光線間の位相差が波面計測器222の測定限界を超えてしまったりするからである。このことは、基準レーザ加工装置200sにおいて基準レーザ光Lsの波面を計測する場合にも同様である。
以上のように、切断の起点としての機能が高い改質領域7を形成し得るレーザ加工装置を基準レーザ加工装置200sとして用意することで、装置間の個体差を埋めて、基準レーザ加工装置200sと同等の性能を有するレーザ加工装置200を製造することができる。
続いて、図14に示すように、レーザ加工装置200において、ビームスプリッタ210と集光光学系204との間に参照平面ミラー223をレーザ光Lの光軸と直交するように設置する。そして、参照平面ミラー223及びビームスプリッタ210によって順次反射されたレーザ光Lの波面を波面計測器222によって計測し、波面データをゼルニケ多項式として取得する。なお、参照平面ミラー223は、波面計測器222の精度を上回る精度で作製されているため、参照平面ミラー223よってレーザ光Lが反射されることで生じるレーザ光Lの波面の乱れは無視することができる。
続いて、図15に示すように、加工対象物1と同一の材料からなる所定の厚さの参照ウェハ224を用意し、レーザ加工装置200において、集光光学系204によって集光されたレーザ光Lの集光点Pが参照ウェハ224の裏面(レーザ光出射面)に位置するように、参照ウェハ224を設置する。更に、参照ウェハ224の出射側に参照球面ミラー221をその光軸が集光光学系204の光軸と一致するように設置する。そして、集光光学系204及び参照ウェハ224を順次透過し、参照球面ミラー221によって反射されて参照ウェハ224及び集光光学系204を順次透過し、ビームスプリッタ210によって反射されたレーザ光Lの波面を波面計測器222によって計測し、波面データをゼルニケ多項式として取得する。なお、参照ウェハ224は、波面計測器222の精度を上回る精度で作製されているため、参照ウェハ224をレーザ光Lが透過することで生じるレーザ光Lの波面の乱れは無視することができる。
続いて、図14の状態で取得した波面データのゼルニケ多項式と、図15の状態で取得した波面データのゼルニケ多項式との差をとる。これにより、ビームスプリッタ210によって反射されることでレーザ光Lの波面が乱れたとしても、その波面の乱れをキャンセルすることができる。そして、ゼルニケ多項式間の差が所定の差以下となるように(すなわち、レーザ光Lの集光点Pを加工対象物1の表面3から所定の距離(参照ウェハ224の所定の厚さと等しい)に位置させた場合に、その位置で発生するレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように)反射型空間光変調器203を制御するための制御信号を算出する。
なお、ゼルニケ多項式間の差が所定の差以下であれば、反射型空間光変調器203を制御するための制御信号は不要となる。また、ゼルニケ多項式間の差が略ゼロとなるように(すなわち、レーザ光Lの集光点Pを加工対象物1の表面3から所定の距離(参照ウェハ224の所定の厚さと等しい)に位置させた場合に、その位置で発生するレーザ光Lの収差が略ゼロとなるように)反射型空間光変調器203を制御するための制御信号を算出してもよい。
この反射型空間光変調器203を制御するための制御信号の算出を、例えば参照ウェハ224の所定の厚さを50μmから700μmまで50μmずつ変えて実行する。そして、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように(換言すれば、加工対象物1の内部においてレーザ光Lの波面が所定の波面となるように)反射型空間光変調器203を制御するための制御信号を、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から所定の距離に位置するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御するための制御信号と対応付けて制御部205に記憶させる。
これにより、1本の切断予定ライン5に対して、加工対象物1の厚さ方向に並ぶように改質領域7を複数列形成する場合に、形成すべき複数列の改質領域7のそれぞれに応じて、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差を所定の収差以下とすることができる(換言すれば、加工対象物1の内部においてレーザ光Lの波面を所定の波面とすることができる)。
ところで、厳密に言えば、反射型空間光変調器203,203sで変調(補正)されたレーザ光Lは、空間を伝播することにより波面形状が変化してしまう。特に、反射型空間光変調器203,203sから出射されるレーザ光Lや集光光学系204,204sに入射するレーザ光Lが所定の拡がりを有する光(すなわち、平行光以外の光)である場合には、反射型空間光変調器203,203sでの波面形状と集光光学系204,204sでの波面形状とが一致せず、結果的に目的とする精密な内部加工を妨げるおそれがある。そこで、反射型空間光変調器203,203sでの波面形状と集光光学系204,204sでの波面形状とを一致させる必要がある。また、集光光学系204,204sでの波面形状と波面計測器222での波面形状とを一致させることや、反射型空間光変調器203,203sでの波面形状と波面計測器22での波面形状とを一致させることも重要である。そのためには、レーザ光Lが反射型空間光変調器203,203sから集光光学系204,204sに伝播したときの波面形状の変化を計測等によって求め、その波面形状の変化を考慮した波面整形(収差整形)パターン情報を反射型空間光変調器に入力することがより望ましい。
或いは、反射型空間光変調器203,203sでの波面形状と集光光学系204,204sでの波面形状とを一致させるために、図24〜27に示すように、調整光学系240,250を設けることで、より正確な波面整形を実現することが可能となる。この図24〜27に示すレーザ加工装置の製造方法は、図12〜図15に示すレーザ加工装置の製造方法と基本的に同じである。異なる点は調整光学系240,250が存在する点である。
まず、調整光学系240は、少なくとも2つのレンズ241a,241bを有している。レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203,203sでの波面形状と集光光学系204,204sでの波面形状とを相似的に一致させるためのものである。レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203とレンズ241aとの距離がレンズ241aの焦点距離f1となり、集光光学系204とレンズ241bとの距離がレンズ241bの焦点距離f2となり、レンズ241aとレンズ241bとの距離がf1+f2となり、且つレンズ241aとレンズ241bとが両側テレセントリック光学系となるように、反射型空間光変調器203と反射部材208との間に配置されている。
このように配置することで、小さな拡がり角を有するレーザ光Lであっても、反射型空間光変調器203,203sでの波面形状と集光光学系204,204sでの波面形状とを合わせることができる。
レーザ光Lのビーム径は、f1とf2との比で決まる(集光光学系204,204sに入射するレーザ光Lのビーム径は、反射型空間光変調器203,203sから出射されるレーザ光Lのビーム径のf2/f1倍となる)。従って、レーザ光Lが平行光、或いは小さな拡がりを有する光のいずれの場合であっても、反射型空間光変調器203,203sから出射される角度を保ったまま、集光光学系204,204sに入射するレーザ光Lにおいて所望のビーム径を得ることができる。
また、調整光学系250は、少なくとも2つのレンズ251a,251bを有している。レンズ251a,251bは、集光光学系204,204s若しくは参照平面ミラー223での波面形状と波面計測器222での波面形状とを相似的に一致させるためのものである。なお、調整光学系250の配置については、調整光学系240と同様の技術的思想に基づく。また、調整光学系240,250は、それぞれが有するレンズのそれぞれの位置を独立して微調整する機構を備えることが望ましい。
次に、本実施形態に係るレーザ加工方法として、上述したレーザ加工装置200にて実施されるレーザ加工方法について説明する。
まず、加工対象物1を用意する。加工対象物1は、図16に示すように、例えばシリコンからなる厚さ300μmの半導体基板である。この半導体基板の表面には、オリエンテーションフラット6に平行な方向及び垂直な方向にマトリックス状に配置された複数の機能素子(図示せず)が形成されるのが一般的である。なお、機能素子とは、例えば、結晶成長により形成された半導体動作層、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、或いは回路として形成された回路素子等である。
続いて、加工対象物1をレーザ加工装置200の支持台201上に固定する。そして、オリエンテーションフラット6に平行な方向に延在する複数本の切断予定ライン5a及びオリエンテーションフラット6に垂直な方向に延在する複数本の切断予定ライン5bを隣り合う機能素子間を通るように格子状に設定する。ここでは、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から270μm,210μm,150μm,50μmに位置するようにして、各切断予定ライン5a,5bに沿って、加工対象物1の厚さ方向に並ぶように、溶融処理領域を含む改質領域7を4列形成するものとする。
初めに、集光光学系204を含むレーザエンジン230の位置を制御するための制御信号を制御部205が出力し、図17(a)に示すように、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から270μmに位置するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御する。そして、レーザ光Lの集光点Pが1本の切断予定ライン5aに沿って相対的に移動するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御する。同時に、反射型空間光変調器203を制御するための制御信号を制御部205が出力し、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように反射型空間光変調器203を制御する。これにより、1本の切断予定ライン5aに沿って、切断の起点となる改質領域71が形成される。
なお、反射型空間光変調器203を制御するための制御信号は、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から270μmに位置するように集光光学系204を含むレーザエンジン230の位置を制御するための制御信号と対応付けられて制御部205に記憶されたものである。
続いて、集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御するための制御信号を制御部205が出力し、図17(b)に示すように、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から210μmに位置するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御する。そして、レーザ光Lの集光点Pが同じ1本の切断予定ライン5aに沿って相対的に移動するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御する。同時に、反射型空間光変調器203を制御するための制御信号を制御部205が出力し、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように反射型空間光変調器203を制御する。これにより、同じ1本の切断予定ライン5aに沿って、切断の起点となる改質領域72が形成される。
なお、反射型空間光変調器203を制御するための制御信号は、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から210μmに位置するように集光光学系204を含むレーザエンジン230の位置を制御するための制御信号と対応付けられて制御部205に記憶されたものである。また、レーザ光Lの集光点Pを切断予定ライン5aに沿って相対的に移動させる方向は、改質領域72の形成速度を向上させるために、改質領域71を形成する場合と反対方向であってもよい。
続いて、集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御するための制御信号を制御部205が出力し、図18(a)に示すように、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から150μmに位置するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御する。そして、レーザ光Lの集光点Pが同じ1本の切断予定ライン5aに沿って相対的に移動するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御する。同時に、反射型空間光変調器203を制御するための制御信号を制御部205が出力し、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように反射型空間光変調器203を制御する。これにより、同じ1本の切断予定ライン5aに沿って、切断の起点となる改質領域73が形成される。
なお、反射型空間光変調器203を制御するための制御信号は、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から150μmに位置するように集光光学系204を含むレーザエンジン230の位置を制御するための制御信号と対応付けられて制御部205に記憶されたものである。また、レーザ光Lの集光点Pを切断予定ライン5aに沿って相対的に移動させる方向は、改質領域73の形成速度を向上させるために、改質領域72を形成する場合と反対方向であってもよい。
続いて、集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御するための制御信号を制御部205が出力し、図18(b)に示すように、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から50μmに位置するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御する。そして、レーザ光Lの集光点Pが同じ1本の切断予定ライン5aに沿って相対的に移動するように集光光学系204を含むレーザエンジン230を制御する。同時に、反射型空間光変調器203を制御するための制御信号を制御部205が出力し、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように反射型空間光変調器203を制御する。これにより、同じ1本の切断予定ライン5aに沿って、切断の起点となる改質領域74が形成される。
なお、反射型空間光変調器203を制御するための制御信号は、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から50μmに位置するように集光光学系204を含むレーザエンジン230の位置を制御するための制御信号と対応付けられて制御部205に記憶されたものである。また、レーザ光Lの集光点Pを切断予定ライン5aに沿って相対的に移動させる方向は、改質領域74の形成速度を向上させるために、改質領域73を形成する場合と反対方向であってもよい。
以上のようにして同じ1本の切断予定ライン5aに沿って4列の改質領域71〜74を形成したら、他の1本の切断予定ライン5aに沿って4列の改質領域71〜74を形成する。そして、全ての切断予定ライン5aのそれぞれに沿って4列の改質領域71〜74を形成したら、切断予定ライン5aに沿って改質領域71〜74を形成する場合と同様に、全ての切断予定ライン5bのそれぞれに沿って4列の改質領域71〜74を形成する。
このように、切断予定ライン5が加工対象物1に対して複数本設定されている場合には、1本の切断予定ライン5に沿って複数列の改質領域7を形成した後に、他の1本の切断予定ライン5に沿って複数列の改質領域7を形成すると、次のような効果が奏される。すなわち、AFユニット212は、加工対象物1の表面3にうねりが存在するような場合であっても、表面3から所定の距離の位置にレーザ光Lの集光点Pを精度良く合わせるために、切断予定ライン5に沿った表面3の変位データを取得し、その変位データに基づいて集光光学系204と加工対象物1との距離を微調整する。従って、1本の切断予定ライン5に沿って複数列の改質領域7を形成した後に、他の1本の切断予定ライン5に沿って複数列の改質領域7を形成すれば、変位データの切替回数を減少させることができ、各切断予定ライン5において複数列の改質領域7を加工対象物1の表面3から所定の距離の位置に精度良く形成することが可能となる。
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ加工方法では、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように(或いは、加工対象物1の内部においてレーザ光Lの波面が所定の波面となるように)反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lが加工対象物1に照射される。そのため、レーザ光Lの集光点Pを合わせる位置で発生するレーザ光Lの収差を極力小さくして、その位置でのレーザ光Lのエネルギー密度を高め、切断の起点としての機能が高い改質領域7を形成することができる。しかも、反射型空間光変調器203を用いるため、透過型空間光変調器に比べてレーザ光Lの利用効率を向上させることができる。このようなレーザ光Lの利用効率の向上は、切断の起点となる改質領域7を板状の加工対象物1に形成する場合、特に重要である。従って、本実施形態に係るレーザ加工方法によれば、切断の起点となる改質領域7を確実に形成することが可能となる。その結果、改質領域7が形成された加工対象物1に対し、エキスパンドテープ等を介して応力を印加すると、改質領域7が切断の起点としての機能を充分に発揮するため、加工対象物1を切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができ、未切断部分の発生を防止することが可能となる。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、1本の切断予定ライン5に沿って複数列の改質領域7を形成した後に、他の1本の切断予定ライン5に沿って複数列の改質領域7を形成したが、複数本の切断予定ライン5に沿って1列の改質領域7を形成した後に、複数本の切断予定ライン5に沿って他の1列の改質領域7を形成してもよい。
その場合、次のような効果が奏される。すなわち、1本の切断予定ライン5に沿った複数列の改質領域7の形成によって加工対象物1が割れるような場合には、1本の切断予定ライン5に沿って複数列の改質領域7を形成した後に、他の1本の切断予定ライン5に沿って複数列の改質領域7を形成すると、加工対象物1の割れによって加工対象物1の位置にずれが生じる。そこで、切断予定ライン5に沿って改質領域7を精度良く形成するためには、加工対象物1の位置を補正する必要がある。しかしながら、複数本の切断予定ライン5に沿って1列の改質領域7を形成した後に、複数本の切断予定ライン5に沿って他の1列の改質領域7を形成すれば、加工対象物1の割れによって加工対象物1の位置がずれるのを防止することができ、加工対象物1の位置の補正回数を減少させて、複数本の切断予定ライン5に沿って複数列の改質領域7を短時間で形成することが可能となる。
また、複数列の改質領域7のうち、加工対象物1のレーザ光入射面である表面3から最も遠い改質領域7を含む1列又は複数列の改質領域7を形成する際に、形成する改質領域7に応じて、加工対象物1の内部にレーザ光Lを集光する集光光学系204と加工対象物1との距離が所定の距離となるように集光光学系204と加工対象物1との距離を変化させると共に、加工対象物1の内部においてレーザ光Lの波面が所定の波面となるように(或いは、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように)反射型空間光変調器203によってレーザ光Lを変調してもよい。
このように、加工対象物1のレーザ光入射面である表面3から最も遠い改質領域7を形成する際に、反射型空間光変調器203によるレーザ光Lの変調を必須とするのは、改質領域7を形成する位置がレーザ光入射面から遠くなるほど、レーザ光Lの集光点Pを合わせる位置で発生するレーザ光Lの収差が大きくなるからである。つまり、例えば、加工対象物1のレーザ光入射面である表面3に最も近い改質領域7を形成する場合において、反射型空間光変調器203によってレーザ光Lを変調しなくても、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるときには、反射型空間光変調器203によるレーザ光Lの変調は不要である。これにより、1本の切断予定ライン5に対して複数列の改質領域7を形成する場合であっても、切断の起点となる改質領域7を確実に形成することが可能となる。なお、反射型空間光変調器203によるレーザ光Lの変調を行わない場合は、反射型空間光変調器203を通常の反射ミラーとして利用するように制御する(すなわち、パターン情報を未入力の状態もしくはOFF状態で使用する)。
また、レーザエンジン230を移動させる代わりに、支持台201に、支持台201を加工対象物1の厚さ方向に移動させる移動機構を設けてもよい。また、AFユニット212を利用して集光光学系204を加工対象物1の厚さ方向に移動させてもよい。また、これらを組み合わせることも可能である。
また、上述した反射型空間光変調器203や調整光学系240は、図29に示すように、AFユニット212に代えて光路長光路長変移手段300を備えるレーザ加工装置200にも適用可能である。光路長変移手段300は、高さ位置検出手段(不図示)により検出された加工対象物1の表面3の高さ位置に基づいて、複数の偏向ミラー301の設置角度を変化させることで、レンズ303とレンズ304との間の光路長を変化させ、集光光学系204によって集光されるレーザ光Lの集光点Pの位置を変化させる。これは、集光光学系204によって集光されるレーザ光Lの集光点Pの位置までの距離は、レンズ303からレンズ304までの光路長の関数で表されるためである。なお、高さ位置検出手段としては、例えば、所定の入射角度で加工対象物1の表面3にレーザ光Lを入射し、その反射光の高さ位置の変化に基づいて、表面3の高さ位置を検出するものが挙げられる。
また、図19に示すように、レーザ加工装置200は、支持台201と、レーザ光源202と、レーザ光源202から出射されたレーザ光Lを変調する複数(ここでは、2つ)の反射型空間光変調器203a,203bと、集光光学系204と、制御部205と、を備えたものであってもよい。制御部205は、レーザ光Lの光学特性が所定の光学特性となるように反射型空間光変調器203a,203bを制御する機能を有している。なお、図20に示すように、2つの反射型空間光変調器203a,203bは、両側テレセントリック光学系のレンズ403a,403bの配置と等価となるように配置されているため、レーザ光Lの光学特性としてビーム径や光軸等を制御することができる。また、少なくとも1つの反射型空間光変調器203a又は203bによって、加工対象物1の内部においてレーザ光Lの波面が所定の波面となるように(或いは、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように)レーザ光Lを変調することもできる。
このレーザ加工装置200によれば、複数の反射型空間光変調器203a,203bを備えているため、レーザ光Lの光学特性としてビーム径や光軸等を制御することができる。従って、何らかの原因でレーザ光Lの光軸にずれが生じた場合であっても、そのずれを容易に補正して、切断の起点となる改質領域7を確実に形成することが可能となる。
このとき、図28に示すように、調整光学系240を設けてもよい。調整光学系240の配置位置は、反射型空間光変調器203a,203bのどちらで波面を制御するかによって異なる。反射型空間光変調器203aで波面を制御する場合は、反射型空間光変調器203aとレンズ241aとの距離が焦点距離f1となるように配置する。一方、反射型空間光変調器203bで波面を制御する場合は、反射型空間光変調器203bとレンズ241aとの距離が焦点距離f1となるように配置する。そして、いずれの場合も、レンズ241aとレンズ241bとの距離はf1+f2とし、レンズ241bと集光光学系204との距離はf2とする。
また、改質領域7を形成する際に、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの開口数が所定の開口数となるように反射型空間光変調器203によってレーザ光Lを変調してもよい。この場合、例えば、加工対象物1の材質や改質領域7を形成すべき位置までの距離等に応じてレーザ光Lの開口数を変化させて、切断の起点としての機能が高い改質領域7を形成することができる。
また、図21,22に示すように、1本の切断予定ライン5に対して、加工対象物1の厚さ方向に並ぶように、切断の起点となる改質領域7を少なくとも3列(ここでは、3列)形成する場合には、次のように改質領域71〜73を形成してもよい。
まず、図21(a)に示すように、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの開口数が相対的に大きくなるように反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lを加工対象物1に照射することで、切断予定ライン5に沿って、加工対象物1のレーザ光入射面である表面3から最も遠い改質領域71を形成する。
続いて、図21(b)に示すように、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの開口数が相対的に小さくなるように反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lを加工対象物1に照射することで、切断予定ライン5に沿って改質領域72を形成する。
続いて、図22に示すように、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの開口数が相対的に大きくなるように反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lを加工対象物1に照射することで、切断予定ライン5に沿って、加工対象物1のレーザ光入射面である表面3に最も近い改質領域73を形成する。
以上のように、3列の改質領域71〜73のうち、加工対象物1のレーザ光入射面である表面3から最も遠い改質領域71及び表面3に最も近い改質領域73を除く改質領域72を形成する際には、改質領域71,73を形成する場合に比べ、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの開口数が小さくなるように反射型空間光変調器203によってレーザ光Lを変調する。つまり、切断の起点として特に重要な改質領域7として、加工対象物1のレーザ光入射面である表面3から最も遠い改質領域71及び表面3に最も近い改質領域73を形成する際に、その間の改質領域72を形成する場合に比べ、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの開口数が大きくなるように反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lが加工対象物1に照射される。
これにより、加工対象物1のレーザ光入射面である表面3から最も遠い改質領域71及び表面3に最も近い改質領域73を、切断の起点としての機能が極めて高い改質領域7(例えば、割れを含む改質領域7)とすることができる。また、その間の改質領域72を、加工対象物1の厚さ方向に相対的に長い改質領域7(例えば、溶融処理領域を含む改質領域7)として、切断予定ライン5に沿ってのレーザ光Lのスキャン回数を減少させることができる。
なお、切断予定ライン5に沿って、加工対象物1の厚さ方向に並ぶように、改質領域7を複数列(例えば、2列)形成する場合において、複数列の改質領域7のうち、加工対象物1のレーザ光入射面である表面3又は加工対象物1においてレーザ光入射面と対向する対向表面である裏面21に最も近い改質領域7を除く改質領域7を形成する際には、表面3又は裏面21に最も近い改質領域7を形成する場合に比べ、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの開口数が小さくなるように反射型空間光変調器203によってレーザ光Lを変調することが好ましい。
このレーザ加工方法では、切断の起点として特に重要な改質領域7として、加工対象物の表面3又は裏面21に最も近い改質領域7を形成する際に、その他の改質領域7を形成する場合に比べ、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの開口数が大きくなるように反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lが加工対象物1に照射される。そのため、加工対象物1の表面3又は裏面21に最も近い改質領域を、切断の起点としての機能が極めて高い改質領域(例えば、割れを含む改質領域)とすることができる。
また、集光光学系204を含むレーザエンジン230や支持台201を移動させずに、反射型空間光変調器203によってレーザ光Lを変調することで、加工対象物1のレーザ光入射面である表面3から所定の距離の位置にレーザ光Lの集光点Pを合わせてもよい。具体的には、加工対象物1の表面3から相対的に深い位置に集光させる場合には、反射型空間光変調器203から出射されて集光光学系204に入射するレーザ光Lの拡がり角が相対的に小さくなるように反射型空間光変調器203を制御し、加工対象物1の表面3から相対的に浅い位置に集光させる場合には、反射型空間光変調器203から出射されて集光光学系204に入射するレーザ光Lの拡がり角が相対的に大きくなるように反射型空間光変調器203を制御すればよい。
また、上記実施形態では、波面データをゼルニケ多項式として取得したが、これに限定されない。例えば、波面データをザイデルの5収差やルジャンドル多項式等として取得してもよい。
また、上記実施形態では、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように(或いは、加工対象物1の内部においてレーザ光Lの波面が所定の波面となるように)反射型空間光変調器203を制御するための制御信号を実測に基づいて算出したが、シミュレーション等に基づいて算出してもよい。シミュレーション等に基づいて制御信号を算出する場合には、制御信号を制御部205に記憶させておいてもよいことは勿論であるが、制御信号を制御部205に記憶させておかずに、改質領域7を形成する直前に制御信号を算出するようにしてもよい。
また、厚さが20μm程度になると加工対象物1が反り易くなるため、加工対象物1のレーザ光入射面である表面3から所定の距離の位置に改質領域7を形成するためには、ガラス板等のレーザ光透過部材で、加工対象物1の表面3を支持台201側に押さえることが好ましい。しかしながら、この場合、レーザ光透過部材の影響で収差が生じ、レーザ光Lの集光度が劣化してしまう。そこで、レーザ光透過部材を考慮して、加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように反射型空間光変調器203によってレーザ光Lを変調すれば、切断の起点となる改質領域7を確実に形成することができる。
また、改質領域7を形成する際におけるレーザ光入射面は、加工対象物1の表面3に限定されず、加工対象物1の裏面21であってもよい。
また、上記実施形態では、半導体材料からなる加工対象物1の内部に、溶融処理領域を含む改質領域7を形成したが、ガラスや圧電材料等、他の材料からなる加工対象物1の内部に、クラック領域や屈折率変化領域等、他の改質領域7を形成してもよい。