JP5863109B2 - 燃焼流れ数値解析プログラムおよび燃焼流れ数値解析方法 - Google Patents

燃焼流れ数値解析プログラムおよび燃焼流れ数値解析方法 Download PDF

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Description

本発明は、水素燃料および/または炭化水素系燃料と酸化剤との燃焼を伴う流れを数値解析する燃焼流れ数値解析プログラムおよび燃焼流れ数値解析方法に関するものである。
現在、世界のエネルギー供給の約1/2は、水素燃料および炭化水素系燃料を用いるものが占めている。そのため、水素燃料および炭化水素系燃料を燃料とする燃焼技術の最適化は、COの排出量削減のための重要課題の一つである。
一般的に、燃料と酸化剤との燃焼は、多数の分子種による多段反応により構成され、その燃焼過程は、主として、以下の関係により支配されている。
(1)化学反応素過程
(2)化学反応過程に存在する全ての化学種の質量保存則
(3)燃焼混合気の運動量保存則
(4)燃焼混合気のエネルギー保存則
また、非定常、非均一な燃焼混合気の熱的条件を特定するためには、各化学種の熱的物性値および燃焼混合気の状態方程式を与える必要がある。
例えば、化学反応素過程は、水素燃料を用いる場合には、9種の化学物質と21種の素反応よりなると考えられる。また、炭化水素系燃料を用いる場合には、30から数100種の化学物質と300から1000以上の素反応が関与するものと考えられている。
また、化学反応の空間スケールおよび時間スケールは、流れの空間スケールおよび時間スケールに比べて約1/10と小空間・短時間の反応であり、数値解析における格子点数や時間刻みを流れの数値解析よりも細かくしなければならない。よって、このような多数の分子種による多段反応について近似モデルを使用せずに、直接、支配方程式の数値解析を行う場合、膨大な計算負荷を必要とする。そのため、化学反応素過程は詳細に検討されているものの、燃焼流れのような多種多段の化学反応と流れとを同時に数値解析することは困難とされていた。
そのような認識の下、従来、化学反応をモデル化し、数値解析による計算負荷を低減させる方法が種々提案されている。例えば、化学反応を単純な過程として近似させる、いわゆる「簡易反応モデル」という方法(非特許文献1、非特許文献2)がある。この簡易反応モデルは、実際の反応に近似させた仮想的な化学反応を仮定し、経験的に定数を定めることにより化学反応を計算するものである。
また、ガスタービン、火炉、ロケットエンジン、ガソリンエンジン、ボイラー、化学合成装置等の実機装置における多くの燃焼現象は、燃料の種類によらない類似性を有し、燃料や酸化剤等が亜音速以下の比較的遅い速度で流れている場合においては、薄い火炎を形成することが知られており、その薄い火炎の形成を仮定してその特性関数により近似する「flamelet近似モデル」という方法(非特許文献3、非特許文献4)がある。
このflamelet近似モデルでは、燃料と酸化剤の燃焼混合気の拡散混合を表す保存スカラー変数を用いることで、予め化学反応の数値解析と流れの数値解析とを分離して数値解析を行うものである。
日本機械学会著、「燃焼の数値計算」、丸善、2001年2月、p1、32、59−86 橋本ほか、「A numerical analysis of pulverized combustion in a multi-burner furnace」、Energy & Fuels、米国、米国化学会、2007年6月29日、Vol.21、p1950−1958 Norbert PETERS著、「Turbulence combustion」、英国、Cambridge University Press、2000年、Vol.21、p170−236 大島伸行、中島卓司、「燃焼流れLES」、日本ガスタービン学会誌、2007年7月、Vol.35、No.4、p9−14
しかしながら、非特許文献1および非特許文献2に記載されているような簡易反応モデルによる燃焼流れの数値解析方法では、経験的な定数が用いられるため、実際とは異なる仮想的な化学反応であり、理論的根拠が乏しく、適当な定数を与えることができなければ、結果が大きく異なるという問題がある。例えば、窒素酸化物等の特定生成物の反応に必要な微量化学種や副次的反応過程を欠くため、それらの予測には経験的モデルに頼らざるを得ない。また、化学反応過程における生成量を直接扱うため、乱流場を平均近似した際の見かけの反応促進を評価する必要があり、一般性や予測精度が劣ってしまう。
また、非特許文献3および非特許文献4に記載されているようなflamelet近似モデルによる燃焼流れの数値解析方法では、多種の燃料あるいは流れや熱的条件の変化に対する汎用性に欠けており、適用範囲や解析精度が原理的に限定されているという問題がある。例えば、断熱条件の数値解析しかできないし、化学種とエンタルピーの拡散係数が近似的に一致するようにルイス数を1と仮定しなければならない。また、燃料は、1種類しか扱うことができず、その供給源の初期温度は1つの温度にしか設定できない。同様に、酸化剤も1種しか扱うことができず、その供給源の初期温度も1つの温度にしか設定できない。
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、燃焼を伴う流れの数値解析における計算負荷を軽減するとともに、詳細な反応モデルに近い汎用性と予測精度を高めることのできる燃焼流れ数値解析プログラムおよび燃焼流れ数値解析方法を提供することを目的としている。
本発明に係る燃焼流れ数値解析プログラムは、水素燃料および/または炭化水素系燃料と酸化剤との燃焼を伴う流れを数値解析する燃焼流れ数値解析プログラムであって、前記燃料、前記酸化剤およびそれらを混合した燃焼混合気における各化学組成に基づいて設定される複数の保存スカラー変数のうち、所定の前記保存スカラー変数を用いて燃焼時の化学反応条件を数値解析により取得し、その化学反応条件を化学反応条件データベースに記憶させる化学反応条件データベース作成手段と、前記保存スカラー変数の運動方程式を用いて瞬時・局所保存スカラー変数を数値解析により取得する瞬時・局所保存スカラー変数取得手段と、前記化学反応条件データベースに記憶された化学反応条件および前記瞬時・局所保存スカラー変数を用いて瞬時・局所化学反応条件を算出する瞬時・局所化学反応条件算出手段と、前記瞬時・局所化学反応条件および所定の物性値を用いて瞬時・局所物性値を算出する瞬時・局所物性値算出手段と、前記瞬時・局所化学反応条件および前記瞬時・局所物性値を用いて前記燃料、前記酸化剤および前記燃焼混合気の燃焼を伴う流れを数値解析する燃焼流れ解析手段としてコンピュータを機能させることを特徴としている。
また、本発明に係る燃焼流れ数値解析方法は、水素燃料および/または炭化水素系燃料と酸化剤との燃焼を伴う流れを数値解析する燃焼流れ数値解析方法であって、前記燃料、前記酸化剤およびそれらを混合した燃焼混合気における各化学組成に基づいて設定される複数の保存スカラー変数のうち、所定の前記保存スカラー変数を用いて燃焼時の化学反応条件を数値解析により取得し、その化学反応条件を化学反応条件データベースに記憶させる化学反応条件データベース作成ステップと、前記保存スカラー変数の運動方程式を用いて瞬時・局所保存スカラー変数を数値解析により取得する瞬時・局所保存スカラー変数取得ステップと、前記化学反応条件データベースに記憶された化学反応条件および前記瞬時・局所保存スカラー変数を用いて瞬時・局所化学反応条件を算出する瞬時・局所化学反応条件算出ステップと、前記瞬時・局所化学反応条件および所定の物性値を用いて瞬時・局所物性値を算出する瞬時・局所物性値算出ステップと、前記瞬時・局所化学反応条件および前記瞬時・局所物性値を用いて前記燃料、前記酸化剤および前記燃焼混合気の燃焼を伴う流れを数値解析する燃焼流れ解析ステップとを有することを特徴としている。
すなわち、本発明に係る燃焼流れ数値解析プログラムおよび燃焼流れ数値解析方法は、水素燃料および炭化水素系燃料の燃焼過程における類似性に着目したflamelet近似モデルに基づく燃焼を伴う流れの解析に対して、従来の手法では経験的見地により選ばれていた指標変数を物理的および数学的に特定し、その組み合わせによる汎用的な燃焼流れの数値解析プログラムを構築したものである。
また、本発明において、前記化学反応条件データベース作成手段が、4種類の保存スカラー変数を設定する保存スカラー変数設定部と、前記4種類の保存スカラー変数のうち所定の2種類の保存スカラー変数の値による任意の組合せを設定する変数値組合せ設定部と、他の2種類の保存スカラー変数の多項式近似により前記組合せにおける前記化学反応条件を取得する化学反応条件取得部と、取得された前記化学反応条件を前記化学反応条件データベースに記憶させるデータベース作成部とを備える構成としてもよい。
さらに、本発明において、前記保存スカラー変数が、前記燃料、前記酸化剤および前記燃焼混合気に含まれる炭素の質量分率比に基づいて設定される質量分率比スカラー変数と、前記燃料、前記酸化剤および前記燃焼混合気のエンタルピー比に基づいて設定されるエンタルピースカラー変数と、前記燃料または前記燃焼混合気に含まれる水素と炭素の質量比に基づいて設定される燃料組成スカラー変数と、前記酸化剤または前記燃焼混合気に含まれる酸素と窒素の質量比に基づいて設定される酸化剤組成スカラー変数とであってもよい。
すなわち、保存スカラー変数を水素燃料(H)および/または炭化水素系燃料(C)の燃料と、酸素(O)および/または空気(O+N+微量の不活性希ガス)の酸化剤との燃焼を対象にした場合、水素H、炭素C、酸素Oおよび窒素Nのそれぞれの質量保存則と、全エンタルピーの保存則とが成り立つことに基づいて設定することにより、flamelet近似モデルにおける、断熱条件、ルイス数=1の条件、燃料および酸化剤は各1種の条件等の数値解析上の制限を必要としないようにしている。
また、本発明において、前記燃焼流れ解析手段が、ラージ・エディ・シミュレーション法に基づく解析手段であってもよい。
すなわち、実機装置において重要な乱流燃焼モデルへの拡張性として、空間平均化方程式により非定常計算を行うラージ・エディ・シミュレーション(Large eddy simulation :LES)法を採用し、定式化およびプログラムへの実装を行うことにより、乱流燃焼流れのシミュレーションを可能にしている。
本発明によれば、燃焼を伴う流れの数値解析における計算負荷を軽減するとともに、詳細な反応モデルに近い汎用性と予測精度を高めることができる。
本発明に係る燃焼流れ数値解析プログラムを備えたコンピュータの一実施形態を示すブロック図である。 本実施形態の燃焼場および想定される燃料組成スカラー変数ξの値の範囲を示す概略図である。 本実施形態の変数値組合せ設定部により設定される2種類の保存スカラー変数の任意の組合せを示す概略図である。 本実施形態の瞬時・局所化学反応条件算出手段における瞬時・局所化学反応条件の算出例を示す概略図である。 本実施形態の各構成の機能を示す機能ブロック図である。 本実施形態の燃焼流れ数値解析プログラムおよび燃焼流れ数値解析方法における処理の流れを示すフローチャート図である。 本実施形態の化学反応条件データベース作成手段における処理の流れを示すフローチャート図である。 本実施例1における解析対象とした3重拡散バーナを模した円筒状の燃焼流れ場を示す斜視図である。 本実施例1における解析対象とした燃焼流れ場の3重拡散バーナ部分を示す拡大図である。 本実施例1の化学反応条件データベース作成手段により作成された密度のデータベースを示す3次元グラフである。 本実施例1の燃焼流れ場におけるX−Y断面の質量分率比スカラー変数ξの時間平均値を示す分布図である。 本実施例1の燃焼流れ場におけるX−Y断面の酸化剤組成スカラー変数ξの時間平均値を示す分布図である。 本実施例1の燃焼流れ場におけるX−Y断面の温度の時間平均値を示す分布図である。 flamelet近似モデルにより解析された燃焼流れ場におけるX−Y断面の質量分率比スカラー変数ξの時間平均値を示す分布図である。 flamelet近似モデルにより解析された燃焼流れ場におけるX−Y断面の温度の時間平均値を示す分布図である。 本実施例1およびflamelet近似モデルによるX=100mmの位置におけるY軸上での温度の時間平均値を示す分布図である。 本実施例1およびflamelet近似モデルによるX=300mmの位置におけるY軸上での温度の時間平均値を示す分布図である。 本実施例1およびflamelet近似モデルによるX=500mmの位置におけるY軸上での温度の時間平均値を示す分布図である。 本実施例1およびflamelet近似モデルによるX=700mmの位置におけるY軸上での温度の時間平均値を示す分布図である。
以下、本発明に係る燃焼流れ数値解析プログラムおよび燃焼流れ数値解析方法の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態における燃焼流れ数値解析プログラム1aを備えたコンピュータ1の構成を示すブロック図である。
本実施形態におけるコンピュータ1は、主として、入力手段2、表示手段3、記憶手段4および演算処理手段5から構成されている。以下、各構成について詳細に説明する。
入力手段2は、テキストや数値を入力する操作キー、操作マウス等からなる。本実施形態においては、燃焼流れ数値解析プログラム1aを実行する際に用いられる初期条件、設定条件等の数値の入力操作等に用いることができるようになっている。
表示手段3は、画像やテキストデータを表示する液晶ディスプレーやCRTディスプレー、タッチパネル等からなり、燃焼流れ数値解析プログラム1aにおけるユーザーインターフェースとして、入力手段により入力された内容や解析結果等を表示できるようになっている。
記憶手段4は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク、フラッシュメモリ等によって構成されており、各種のデータを記憶するとともに、演算処理手段5が演算を行う際のワーキングエリアとして機能するものである。
本実施形態において、記憶手段4は、図1に示すように、主として、燃焼流れ数値解析プログラム1aを記憶するプログラム記憶部41と、後述する演算処理手段5の化学反応条件データベース作成手段6により取得された化学反応条件を記憶させておく化学反応条件データース42と、予め実験により計測された物性値や理論的に取得された物性値を記憶させておく物性値データベース43とを有する。
演算処理手段5は、CPU(Central Processing Unit)等から構成されており、記憶手段4にインストールされた燃焼流れ数値解析プログラム1aを実行させることにより、図1に示すように、化学反応条件データベース作成手段6、瞬時・局所保存スカラー変数取得手段7、瞬時・局所化学反応条件算出手段8、瞬時・局所物性値算出手段9および燃焼流れ解析手段10としてコンピュータ1を機能させるようになっている。以下、演算処理手段5の各構成部についてより詳細に説明する。
化学反応条件データベース作成手段6は、燃料、酸化剤およびそれらを混合した燃焼混合気における各化学組成に基づいて設定される複数の保存スカラー変数を用いて、前記保存スカラー変数に対する温度、密度および化学種分率からなる化学反応条件を取得し、その化学反応条件を化学反応条件データベース42に保存するものである。本実施形態では、図1に示すように、保存スカラー変数設定部61、変数値組合せ設定部62、化学反応条件取得部63およびデータベース作成部64から構成されている。
保存スカラー変数設定部61は、4種類の保存スカラー変数を設定するものである。本実施形態では、質量分率比スカラー変数ξと、エンタルピースカラー変数ξと、燃料組成スカラー変数ξと、酸化剤組成スカラー変数ξとが保存スカラー変数として設定される。これらの保存スカラー変数は、水素燃料(H)および/または炭化水素系燃料(C)の燃料と、酸素(O)および/または空気(O+N+微量の不活性希ガス)の酸化剤との燃焼を対象とした場合、水素H、炭素C、酸素Oおよび窒素Nのそれぞれの質量保存則と、全エンタルピーの保存則とが成り立つことに基づいて設定したものである。
質量分率比スカラー変数ξは、炭素Cの質量保存則に基づき設定されるものであり、燃料に含まれる炭素Cの質量分率Z、酸化剤に含まれる炭素Cの質量分率Zおよび燃焼混合気に含まれる炭素Cの質量分率Zの比によって、以下の式(1)により表される。
・・・式(1)
また、この質量分率比スカラー変数ξの運動方程式は、以下の式(2)により表される。
・・・式(2)
なお、この質量分率比スカラー変数ξは、flamelet近似モデルで用いられる保存スカラー変数と同じものである。
また、エンタルピースカラー変数ξは、全エンタルピーの保存則に基づき設定されるものであり、燃料の全エンタルピーhと、酸化剤の全エンタルピーhと、燃焼混合気の全エンタルピーhとの比によって、以下の式(3)により表される。
・・・式(3)
また、このエンタルピースカラー変数ξの運動方程式は、以下の式(4)により表される。
・・・式(4)
さらに、燃料組成スカラー変数ξは、燃料に含まれる炭素Cおよび水素Hの質量保存則に基づき設定されるものであり、燃料あるいは燃焼混合気に含まれる炭素Cと水素Hの質量比によって、以下の式(5)により表される。
・・・式(5)
また、この燃料組成スカラー変数ξの運動方程式は、以下の式(6)により表される。
・・・式(6)
また、酸化剤組成スカラー変数ξは、酸化剤に含まれる酸素Oと窒素Nの質量保存則に基づき設定されるものであり、酸化剤あるいは燃焼混合気に含まれる酸素Oと窒素Nの質量比によって、以下の式(7)により表される。
・・・式(7)
また、この酸化剤組成スカラー変数ξの運動方程式は、以下の式(8)により表される。
・・・式(8)
なお、式(2)、式(4)、式(6)および式(8)における、μは粘性係数を、Scはシュミット数を、Prはプラントル数を表している。
変数値組合せ設定部62は、保存スカラー変数設定部61で設定された4種類の保存スカラー変数のうち、所定の2種類の保存スカラー変数の値による任意の組合せを設定するためのものである。本実施形態では、燃料組成スカラー変数ξと酸化剤組成スカラー変数ξとを用いている。また、任意の組合せは、燃焼条件の範囲内で想定される保存スカラー変数の値の範囲内で設定される。例えば、図2に示すように、燃焼場と使用される燃料および酸化剤の種類を設定することで、想定される燃料組成スカラー変数ξの値の範囲aからaが設定される。
よって、本実施形態における変数値組合せ設定部62は、図3に示すように、燃焼条件の範囲内で想定される燃料組成スカラー変数ξの値aからaを適当な間隔に分割するとともに、その燃焼条件の範囲内で想定される酸化剤組成スカラー変数ξの値AからAを適当な間隔に分割することで任意の組合せを設定している。
化学反応条件取得部63は、変数値組合せ設定部62により設定された2種類の保存スカラー変数の各組合せにおける化学反応条件を、他の2種類の保存スカラー変数の多項式近似により取得するものである。よって、本実施形態では、質量分率比スカラー変数ξとエンタルピースカラー変数ξとの多項式近似により化学反応条件を取得するようになっている。
具体的には、前記変数値組合せ設定部62により設定された燃料組成スカラー変数ξの値aからaと酸化剤組成スカラー変数ξの値AからAとの組合せに対して、質量分率比スカラー変数ξおよびエンタルピースカラー変数ξをそれぞれの燃焼条件の範囲内で各値を少しずつ変化させ、化学反応条件を質量分率比スカラー変数ξおよびエンタルピースカラー変数ξの2変数多項式によって近似している。
そして、データベース作成部64は、前記化学反応条件取得部63により取得された各組合せにおける化学反応条件を記憶手段4の化学反応条件データース42に記憶させるものである。
なお、粘性係数μ、シュミット数Scおよびプラントル数Prの算定が必要ない場合、または、予測出力したい化学種の質量の算出が必要ない場合には、化学反応条件のうち化学種分率の取得および化学反応条件データベース42への記憶は省略することができる。
次に、瞬時・局所保存スカラー変数取得手段7、瞬時・局所化学反応条件算出手段8、瞬時・局所物性値算出手段9および燃焼流れ解析手段10について説明する。これらの手段は、化学反応条件データベース作成手段6により作成された化学反応条件データベース42の化学反応条件を用いて燃焼を伴う流れを数値解析するためのものである。
まず、瞬時・局所保存スカラー変数取得手段7は、保存スカラー変数の運動方程式、式(2)、式(4)、式(6)および式(8)を用いて、瞬時・局所保存スカラー変数を数値解析により取得するものである。
本実施形態では、燃料組成スカラー変数ξの運動方程式である式(6)と、酸化剤組成スカラー変数ξの運動方程式である式(8)とを連成して、その数値解を求めることにより、瞬時かつ局所の燃料組成スカラー変数ξおよび瞬時かつ局所の酸化剤組成スカラー変数ξを取得するようになっている。
瞬時・局所化学反応条件算出手段8は、前記化学反応条件データベース42に記憶された化学反応条件および前記瞬時・局所保存スカラー変数を用いて瞬時・局所化学反応条件を算出するものである。
例えば、図4に示すように、瞬時・局所保存スカラー変数取得手段7により取得された瞬時かつ局所の燃料組成スカラー変数ξおよび瞬時かつ局所の酸化剤組成スカラー変数ξの組合せが(a,A)であった場合、その組合せ(a,A)に近傍する化学反応条件データベース42に記憶された燃料組成スカラー変数ξと酸化剤組成スカラー変数ξの4つの組合せ(a,A)、(a,Az+1)、(ay+1,A)、(ay+1,Az+1)における化学反応条件を取得し、その4つの組合せと瞬時・局所の組合せとの差分等から瞬時・局所化学反応条件を算出するようになっている。
なお、瞬時・局所保存スカラー変数取得手段7により取得された瞬時・局所保存スカラー変数に対する瞬時・局所化学反応条件の算出方法は上記のものに限定されるものではなく、例えば、取得された瞬時・局所保存スカラー変数に最も近い保存スカラー変数の組合せにおける化学反応条件を瞬時・局所化学条件としてもよい。
瞬時・局所物性値算出手段9は、前記瞬時・局所化学反応条件算出手段8により算出された瞬時・局所化学反応条件および所定の物性値を用いて瞬時・局所物性値を算出するものである。
本実施形態においては、予め実験や理論計算等により取得された物性値を記憶手段4の物性値データベース43に記憶させておき、瞬時・局所化学反応条件、すなわち瞬時かつ局所の温度、瞬時かつ局所の密度および瞬時かつ局所の化学種分率における、粘性係数μ、シュミット数Scおよびプラントル数Pr等の流れの数値解析に必要な物性値を前記物性値データベース43から取得し、瞬時・局所物性値を算出するものである。
燃焼流れ解析手段10は、前記瞬時・局所化学反応条件および前記瞬時・局所物性値を用いて前記燃料、前記酸化剤および前記燃焼混合気の燃焼を伴う流れを数値解析するものである。
本実施形態においては、流れを解析する解析方法として、ラージ・エディ・シミュレーション法が用いられている。このラージ・エディ・シミュレーション法は、乱流渦を空間的に平均化する処理を施した乱流モデルによるシミュレーションである。なお、式(2)、式(4)、式(6)および式(8)の運動方程式は、全て生成項を持たない保存形式で与えられているため、乱流燃焼に適用した際に平均化された方程式が統一的かつ容易に導出され、高い近似精度を得ることができる。
式(2)、式(4)、式(6)および式(8)を空間平均化した方程式は、それぞれ以下のように導出される。
・・・式(2’)
・・・式(4’)
・・・式(6’)
・・・式(8’)
ここで、上付の−は空間平均、上付の〜は空間ファブル平均(「密度重み平均」ともいう)を表し、添字のSGSは空間平均以下の変動影響を表すサブグリッドスケールモデル定数を表している。
本実施形態においては、上記式(2’)、式(4’)、式(6’)および式(8’)をラージ・エディ・シミュレーション法に基づき数値解析することにより、流れの計算を行っている。
なお、燃焼流れ解析手段10は、ラージ・エディ・シミュレーション法によるものに限定されるものではなく、モデルを用いずに直接ナビエストークス方程式を解く方法や、レイノルズ平均モデルといった他のモデルを用いる方法等から適宜選択することができる。
次に、本実施形態の燃焼流れ数値解析プログラム1aにおける各構成の作用および燃焼流れ数値解析方法について、図5に示す各構成の機能を示す機能ブロック図および図6に示すフローチャートを用いて説明する。
図5に示すように、まず、化学反応条件データベース作成手段6が、保存スカラー変数を用いて化学反応条件を数機解析により取得し、記憶手段4内に記憶させて化学反応条件データベース42を作成する(ステップS1)。以下、図7を用いて、本実施形態における化学反応条件データベース作成手段6による化学反応条件データベース42の作成手順を説明する。
化学反応条件データベース作成手段6の保存スカラー変数設定部61は、式(1)に示す質量分率比スカラー変数ξ、式(3)に示すエンタルピースカラー変数ξ、式(5)に示す燃料組成スカラー変数ξおよび式(7)に示す酸化剤組成スカラー変数ξの4種類の保存スカラー変数を設定する(ステップS11)。
次に、変数組合せ設定部62により、燃料組成スカラー変数ξおよび酸化剤組成スカラー変数ξの2種類の保存スカラー変数の値の任意の組合せを設定する(ステップS12)。具体的には、図3に示すように、燃焼条件に基づき、燃料組成スカラー変数ξの値として想定しうるaからaを分割するとともに、酸化剤組成スカラー変数ξの値として想定しうるAからAを分割し、それらの組合せとして設定する。
次に、化学反応条件取得部63により、変数値組合せ設定部62により設定された燃料組成スカラー変数ξおよび酸化剤組成スカラー変数ξの各組合せにおける温度、密度および化学種分率からなる反応条件を、他の2種類の保存スカラー変数である質量分率比スカラー変数ξとエンタルピースカラー変数ξとの多項式近似により取得する(ステップS13)。
そして、データベース作成部64が、前記化学反応条件取得部63により取得された各組合せにおける化学反応条件を記憶手段4の化学反応条件データース42に記憶させる(ステップS14)。燃料組成スカラー変数ξおよび酸化剤組成スカラー変数ξの各組合せにおける化学反応条件データベースの作成が終了したら、次のステップへと進む(return)。
瞬時・局所保存スカラー変数取得手段7は、燃料組成スカラー変数ξおよび酸化剤組成スカラー変数ξの運動方程式を連成して、その数値解を求めることにより、瞬時かつ局所の燃料組成スカラー変数ξおよび瞬時かつ局所の酸化剤組成スカラー変数ξを取得する(ステップS2)。
そして、瞬時・局所化学反応条件算出手段8は、図5に示すように、瞬時・局所保存スカラー変数取得手段7から瞬時かつ局所の燃料組成スカラー変数ξおよび瞬時かつ局所の酸化剤組成スカラー変数ξを取得するとともに、それらの瞬時・局所保存スカラー変数の組合せに近傍する燃料組成スカラー変数ξおよび酸化剤組成スカラー変数ξの組合せの化学反応条件を化学反応条件データベース42から読み出し、読み出された化学反応条件に基づいて瞬時・局所化学反応条件を算出する(ステップS3)。
次に、瞬時・局所物性値算出手段9は、図5に示すように瞬時・局所化学反応条件算出手段8から瞬時・局所化学反応条件を取得するとともに、当該瞬時・局所化学反応条件に同一または近似する物性値を物性値データベース43から読み出し、瞬時・局所物性値を算出する(ステップS4)。本実施形態では、当該瞬時・局所の温度、密度および化学種分率に基づいた粘性係数μ、シュミット数Scおよびプラントル数Prが算出される。
そして、燃焼流れ解析手段10では、図5に示すように、瞬時・局所化学反応条件算出手段8から瞬時・局所化学反応条件を取得するとともに、瞬時・局所物性値算出手段9から瞬時・局所物性値を取得する。そして、取得された瞬時・局所化学反応条件および瞬時・局所物性値と、上記式(2’)、式(4’)、式(6’)および式(8’)を用いて、ラージ・エディ・シミュレーション法により、燃焼を伴う流れを数値解析する(ステップS5)。
以上のような本実施形態の燃焼流れ数値解析プログラム1aおよび燃焼流れ数値解析方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
1.断熱条件の仮定やルイス数の仮定を必要としないため、より実機に近い燃焼を伴う流れの数値解析を行うことができる。
2.多種燃料および/または多種酸化剤による燃焼を伴う流れの数値解析ができる。
3.燃料の供給源における初期温度は複数の温度に設定することができるとともに、酸化剤の供給源における初期温度も複数の温度に設定することができる。
4.化学反応と流れの計算を別に行うことができるため、計算負荷を軽減することができる。
5.ラージ・エディ・シミュレーション法を用いることにより、乱流燃焼流れに対応することができる。
実施例1では、所定の解析対象を本発明に係る燃焼流れ数値解析プログラム1aおよび燃焼流れ数値解析方法を用いて解析を行った。また、従来の燃焼流れ解析に用いられていた「flamelet近似モデル」を用いて、前記解析対象とほぼ同条件の解析対象を解析し、本発明に係る燃焼流れ数値解析プログラム1aおよび燃焼流れ数値解析方法の有効性について検討を行った。各解析条件および解析結果について以下に説明する。
(1)『解析対象』
本実施例1における解析対象は、3重拡散バーナにおける燃焼流れ場である。図8は、本実施例1における解析対象とした燃焼流れ場を示す斜視図である。また、図9は、解析対象とした燃焼流れ場の一端部に設けられた3重拡散バーナ部分を示す拡大図である。
図8に示すように、燃焼流れ場は、直径600mm、X軸方向700mmの円筒状とした。また、図9に示すように、本実施例1における3重拡散バーナは、燃料および酸化剤の吹き出し口として、中央のインナーパイプと、このインナーパイプの外周に設けられたミドルパイプと、このミドルパイプの外周に設けられたアウターパイプとから構成されており、アウターパイプの外径は23.9mmとした。
(2)『解析条件』
本実施例1では、燃料1種と酸化剤2種の混合気体が燃焼する場合について解析を行った。本実施例1における燃料および酸化剤の流入条件を下記の表1にまとめる。
表1に示すように、インナーパイプからは、純酸素からなる酸化剤が流入速度35.4m/sの速さで燃焼流れ場内に流入している。また、ミドルパイプからは、プロパン(C)およびブタン(C10)が質量比1対1の割合で混合された燃料が流入速度41.04m/sの速さで燃焼流れ場内に流入している。さらに、アウターパイプからは、空気からなる酸化剤が流入速度9.77m/sの速さで燃焼流れ場内に流入している。また、燃料および各酸化剤の流入時の温度は300.15Kとした。さらに、燃焼流れ場の圧力は大気圧とした。
また、「flamelet近似モデル」を用いた解析では、燃料および酸化剤はそれぞれ1種しか扱うことができないため、純酸素と空気との混合気を酸化剤として用いた。「flamelet近似モデル」を用いた解析における燃料および酸化剤の流入条件を表2にまとめる。
なお、インナーパイプおよびアウターパイプから流入させる酸化剤は、本実施例1の酸化剤である純酸素および空気の質量流量が等しくなるように、純酸素および空気が質量比で78対22となる混合気とした。
(3)『解析結果』
以下、本実施例1および「flamelet近似モデル」を用いた解析の解析結果について説明する。
(3−1)化学反応条件データベースの作成
まず、化学反応条件データベースの作成を行った。化学反応条件データベースの作成に用いた4つの保存スカラー変数は、質量分率比スカラー変数ξ、エンタルピースカラー変数ξ、燃料組成スカラー変数ξおよび酸化剤組成スカラー変数ξである。本実施例1の変数値組合せ設定部62では、これら保存スカラー変数のうち、質量分率比スカラー変数ξおよび酸化剤組成スカラー変数ξの2種類を組合せに設定した。
ここで、酸化剤組成スカラー変数ξは、空気、酸素および混合気中の酸素原子の質量分率ZO,Air、ZO,O2およびZを用いて次式と定義し直して解析を行った。
・・・式(9)
また、表1に示すように、本実施例1における酸化剤組成スカラー変数ξの値は、ミドルパイプから流入させる燃料では0であり、インナーパイプから流入させる酸化剤では1である。よって、本実施例1における燃焼条件の範囲内で想定される酸化剤組成スカラー変数ξの値は0〜1の範囲内にあり、0.1刻みで11本のテーブルを作成した。また、この11本のテーブルの間の値は、線形補完する形で密度を算出した。
図10は、質量分率比スカラー変数ξと酸化剤組成スカラー変数ξとの2保存スカラー変数の組み合わせに対する密度を解析した結果をグラフにしたものである。
なお、flamelet近似モデルの解析に用いられる化学反応条件データベースについては、上記表2に示すように、酸化剤内の酸素量が78質量%であるため、図10における酸化剤組成スカラー変数ξが0.78の部分に相当し、この値を用いることとした。
(3−2)燃焼流れの解析
次に、(3−1)で作成した化学反応条件データベースを用いて燃焼流れ場における燃焼流れをラージ・エディ・シミュレーション法に基づく解析方法により解析した。なお、時間積分法にはEuler陰解法を用い、運動方程式の移流項拡散化スキームには、2次精度の中心差分と1次精度の風上差分とを、それぞれを95対5の割合で線形結合するスキームを用いた。また、スカラーの輸送方程式の移流項拡散化スキームには、1次精度の風上差分を用いた。さらに、時間刻み幅は、1.5×10−5sec/stepとした。
図11は、図8におけるX−Y断面における質量分率比スカラー変数ξの時間平均分布である。色が白いほど炭素原子の質量分率が高く、炭素量が多いことを示している。本実施例1では、ミドルパイプから燃料が噴射されており、図11からは、2本の白い筋が見て取れる。また、流入口近傍では白色が濃く、流入口から離れるにつれ色が薄くなっている。これは燃料が流入口近傍で濃く、流入口から離れるにつれて拡散していることを表している。
図12は、X−Y断面における酸化剤組成スカラー変数ξの時間平均分布である。色が白いほど酸素原子の質量分率が高く、酸素量が多いことを示している。図12からは、酸化剤が流入口近傍で高い値を示し、流入口から離れるにつれて拡散していく様子が見て取れる。特に、本実施例1では、インナーパイプから純酸素が噴射されているため、中央から高い酸素量の酸化剤が噴射されている様子が見て取れる。
図13は、X−Y断面における温度の時間平均分布である。色が白いほど温度が高いことを示しており、燃焼反応が起きていることを示している。図13からは、インナーパイプの酸化剤とミドルパイプの燃料とが混合されるとともに、アウターパイプの酸化剤とミドルパイプの燃料とが混合されることによって、2重火炎が形成されていることが見て取れる。
また、本実施例1では、インナーパイプから供給される酸化剤が純酸素であるため、2重火炎のうち内側の火炎が高温であり激しく燃焼している。また、内側および外側の火炎は、流入口から離れるにつれて拡散し、温度も徐々に低くなっているのが見て取れる。以上のような結果は、火炎は外側の空気により徐々に冷却され温度が低くなる実現象に近いものであるといえる。
(3−3)flamelet近似モデルによる解析結果との比較
次に、flamelet近似モデルによる解析結果と比較を試みた。図14は、flamelet近似モデルにより解析された、X−Y断面における質量分率比スカラー変数ξの時間平均分布である。色が白いほど炭素原子の質量分率が高く、炭素量が多いことを示している。本実施例1における質量分率比スカラー変数ξの時間平均分布である図11と比較すると、燃料が流入口近傍で高い値を示し、流入口から離れるにつれて拡散していく傾向は同じであり、各位置における質量分率比スカラー変数ξの値についても、ほぼ等しい分布であった。上記表1および表2に示すように、ミドルパイプから流入される燃料の種類および流入速度が等しいためこのような結果になったものと思われる。
一方、温度分布に関しては、本実施例1における解析結果と、flamelet近似モデルによる解析結果との間で違いが現れた。図15は、flamelet近似モデルにより解析された、X−Y断面における温度の時間平均分布である。図13と比較すると、flamelet近似モデルにより解析された温度は、本実施例1の解析結果と同様に、2重火炎が形成されていることが見て取れるが、流入口から離れた場所においても比較的高い温度が保たれ、あまり拡散していないように見て取れる。
そこで、詳細に温度分布を比較するため、Y軸上での時間平均温度分布についても比較を行った。図16は、X=100mmの位置におけるY軸上での時間平均温度分布であり、実線で表されたものが本実施例1の解析結果、一点鎖線で表されたものがflamelet近似モデルの解析結果である。なお、上述のとおり、アウターパイプの直径が23.9mmであって、X=100mmの位置はアウターパイプの直径の約4倍の場所に相当する。
図16に示すように、本実施例1の解析結果とflamelet近似モデルの解析結果とは、a)中心付近の温度が低い点、b)左右略対称に2つの高温箇所がある点については共通する。なお、a)については、中心付近ではインナーパイプから流入している酸化剤とミドルパイプから流入している燃料との混合が不十分であり、燃料が燃焼していないためである。また、b)については、燃料がインナーパイプから流入してくる酸化剤と混合されて燃焼している箇所と、燃料がアウターパイプから流入してくる酸化剤と混合されて燃焼している箇所が現れたものである。
一方、2)の左右略対称に2つの高温箇所については、本実施例1では、インナーパイプ側が高温でアウターパイプ側が低温であるのに対し、flamelet近似モデルでは、インナーパイプ側とアウターパイプ側とはほぼ同じ温度である。これは、本実施例1では、インナーパイプ側では燃料と純酸素が混合されるため燃焼が激しく高温になり、アウターパイプ側では燃料と空気が混合されるため、比較的低温になったものと思われる。一方、flamelet近似モデルでは酸化剤が1種しか扱うことができないため、インナーパイプ側とアウターパイプ側の酸化剤を同じものとしたため、ほぼ同じ温度となったものと思われる。
図17〜図19は、それぞれX=300mm、X=500mmおよびX=700mmの位置におけるY軸上での時間平均温度分布である。
本実施例1では、流入口から距離が離れるにつれ、温度分布が均一化して行き、温度が徐々に拡散していく様子が見て取れる。そして、X=700mmの位置では、略軸対称となるなだらかな凸状の温度分布となり、中心の酸化剤の影響は見られなくなる。温度の拡散は、上述のとおり、火炎は外側の空気により徐々に冷却されることにより起こるため、この本実施例1による解析結果は、実現象に近い分布を示しているものと考えられる。
一方、flamelet近似モデルでは、本実施例1と同様、流入口から距離が離れるにつれ、温度分布の拡散および均一化が進行するが、その速度は本実施例1に比べて遅い。例えば、X=700mmの位置では、中心が酸化剤の影響により低温の部分が残り、凸状の温度分布も勾配が大きい。これは、flamelet近似モデルでは、化学種とエンタルピーの拡散係数が近似的に一致するようにルイス数を1と仮定しているため、実現象に比べて物質や温度の拡散が抑制されたためであると考えられる。
(4)まとめ
本発明に係る燃焼流れ数値解析プログラム1aおよび燃焼流れ数値解析方法によって、複数の酸化剤を用いた燃焼流れの解析を行うことができた。そのため1種の酸化剤しか用いることのできないflamelet近似モデルと比較して、利用範囲が格段に広くなったといえる。
また、解析結果を比較しても、従来のflamelet近似モデルを用いた解析結果より、実現象に近い解析結果が得られ、解析精度の点においても有利であるといえる。
なお、本発明に係る燃焼流れ数値解析プログラム1aおよび燃焼流れ数値解析方法は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
例えば、本発明に係る燃焼流れ数値解析プログラム1aおよび燃焼流れ数値解析方法は、既成のflamelet近似モデルと組合せて構成してもよい。予混合火炎の場合では、前記保存スカラー変数とは別に予混合火炎に基づいたスカラー変数を追加し、燃焼流れの数値解析を行ってもよい。
1 コンピュータ
1a 燃焼流れ数値解析プログラム
2 入力手段
3 表示手段
4 記憶手段
5 演算処理手段
6 化学反応条件データベース作成手段
7 瞬時・局所保存スカラー変数取得手段
8 瞬時・局所化学反応条件算出手段
9 瞬時・局所物性値算出手段
10 燃焼流れ解析手段
41 プログラム記憶部
42 化学反応条件データベース
43 物性値データベース
61 保存スカラー変数設定部
62 変数値組合せ設定部
63 化学反応条件取得部
64 データベース作成部

Claims (5)

  1. 水素燃料および/または炭化水素系燃料と酸化剤との燃焼を伴う流れを数値解析する燃焼流れ数値解析プログラムであって、
    前記燃料、前記酸化剤およびそれらを混合した燃焼混合気における各化学組成に基づいて設定される複数の保存スカラー変数のうち、所定の前記保存スカラー変数を用いて燃焼時の化学反応条件を数値解析により取得し、その化学反応条件を化学反応条件データベースに記憶させる化学反応条件データベース作成手段と、
    前記保存スカラー変数の運動方程式を用いて瞬時・局所保存スカラー変数を数値解析により取得する瞬時・局所保存スカラー変数取得手段と、
    前記化学反応条件データベースに記憶された化学反応条件および前記瞬時・局所保存スカラー変数を用いて瞬時・局所化学反応条件を算出する瞬時・局所化学反応条件算出手段と、
    前記瞬時・局所化学反応条件および所定の物性値を用いて瞬時・局所物性値を算出する瞬時・局所物性値算出手段と、
    前記瞬時・局所化学反応条件および前記瞬時・局所物性値を用いて前記燃料、前記酸化剤および前記燃焼混合気の燃焼を伴う流れを数値解析する燃焼流れ解析手段と
    してコンピュータを機能させる燃焼流れ数値解析プログラム。
  2. 前記化学反応条件データベース作成手段が、4種類の保存スカラー変数を設定する保存スカラー変数設定部と、前記4種類の保存スカラー変数のうち所定の2種類の保存スカラー変数の値による任意の組合せを設定する変数値組合せ設定部と、他の2種類の保存スカラー変数の多項式近似により前記組合せにおける前記化学反応条件を取得する化学反応条件取得部と、取得された前記化学反応条件を前記化学反応条件データベースに記憶させるデータベース作成部としてコンピュータを機能させる請求項1に記載の燃焼流れ数値解析プログラム。
  3. 前記保存スカラー変数が、前記燃料、前記酸化剤および前記燃焼混合気に含まれる炭素の質量分率比に基づいて設定される質量分率比スカラー変数と、前記燃料、前記酸化剤および前記燃焼混合気のエンタルピー比に基づいて設定されるエンタルピースカラー変数と、前記燃料または前記燃焼混合気に含まれる水素と炭素の質量比に基づいて設定される燃料組成スカラー変数と、前記酸化剤または前記燃焼混合気に含まれる酸素と窒素の質量比に基づいて設定される酸化剤組成スカラー変数とである請求項1または請求項2に記載された燃焼流れ数値解析プログラム。
  4. 前記燃焼流れ解析手段が、ラージ・エディ・シミュレーション法に基づく解析手段である請求項1から請求項3のいずれかに記載の燃焼流れ数値解析プログラム。
  5. 水素燃料および/または炭化水素系燃料と酸化剤との燃焼を伴う流れを数値解析する燃焼流れ数値解析方法であって、
    前記燃料、前記酸化剤およびそれらを混合した燃焼混合気における各化学組成に基づいて設定される複数の保存スカラー変数のうち、所定の前記保存スカラー変数を用いて燃焼時の化学反応条件を数値解析により取得し、その化学反応条件を化学反応条件データベースに記憶させる化学反応条件データベース作成ステップと、
    前記保存スカラー変数の運動方程式を用いて瞬時・局所保存スカラー変数を数値解析により取得する瞬時・局所保存スカラー変数取得ステップと、
    前記化学反応条件データベースに記憶された化学反応条件および前記瞬時・局所保存スカラー変数を用いて瞬時・局所化学反応条件を算出する瞬時・局所化学反応条件算出ステップと、
    前記瞬時・局所化学反応条件および所定の物性値を用いて瞬時・局所物性値を算出する瞬時・局所物性値算出ステップと、
    前記瞬時・局所化学反応条件および前記瞬時・局所物性値を用いて前記燃料、前記酸化剤および前記燃焼混合気の燃焼を伴う流れを数値解析する燃焼流れ解析ステップと
    を有する燃焼流れ数値解析方法。
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