以下、本発明の一実施の形態について、図1〜図8を用いて詳細に説明する。図1に示す打撃工具10はハンマドリルである。すなわち、打撃工具10は、電動モータ11の動力を先端工具12に伝達して、その先端工具12を回転させる機能と、電動モータ11の回転運動を先端工具12に与える打撃力に変換する機能とを有する。打撃工具10は、ケーシング13を有し、ケーシング13はハウジング14及びギヤカバー15を有する。ハウジング14は、筒形状の胴部14aと、胴部14aの一端に連続したハンドル部14bとを有する。ハンドル部14bは、打撃工具10を使用する作業者が手で掴む箇所である。胴部14aにおけるハンドル部14bとは反対側の開口端と、ギヤカバー15の一方の開口端とが接触された状態で、ハウジング14とギヤカバー15とが、締結部材により固定されている。締結部材は、便宜上、図示されていない。
ギヤカバー15は筒形状に構成されており、ギヤカバー15の内部にインナーカバー16が設けられている。インナーカバー16は、熱伝導性に優れた金属材料、例えば、アルミニウム等により構成されている。ケーシング13の内部は、インナーカバー16により、胴部14aの内部に形成された第1収容室17と、ギヤカバー15の内部に形成された第2収容室18とに仕切られている。すなわち、インナーカバー16は隔壁の役割を有している。
前記電動モータ11は第1収容室17に設けられている。電動モータ11は、ハウジング14に固定されたステータ19と、回転可能に設けられたロータ20とを有する。ロータ20は、軸線Aを中心として回転可能であり、ステータ19は、軸線Aを中心とする半径方向で、ロータ20の外側に配置されている。軸線Aは、図1において、便宜上、水平方向に沿って配置されている。また、ロータ20は、出力軸21と、出力軸21に取り付けたコイル22とを有している。出力軸21の外周面には出力ギヤ23が形成されている。
インナーカバー16は、外筒部16aと、外筒部16aと同軸に設けられた内筒部16bとを有する。内筒部16bは、外筒部16aの内側に設けられている。また、インナーカバー16の外周面とギヤカバー15の内周面との間には、密封装置としてのOリング15aが介在されている。さらに、インナーカバー16は、軸線Aに沿った方向で、外筒部16aの端部と内筒部16bの端部とを接続する張り出し部16cを有する。張り出し部16cは、軸線Aを中心として半径方向に延ばされている。内筒部16bは、円筒形状を有しており、内筒部16bの内周面に軸受24が取り付けられている。内筒部16bの内周面と、軸受24の外輪との間には、密封装置としてのOリング57が取り付けられている。また、軸受24は、内輪と外輪との間に密封装置(図示せず)が取り付けられたシール軸受である。
また、第1収容室17であってハンドル部14bに近い箇所には軸受(図示せず)が設けられている。この軸受及び軸受24は同軸上に配置されており、出力軸21は2つの軸受により軸線Aを中心として回転可能に支持されている。このように、軸線Aに沿った方向で異なる2箇所に2つの軸受が配置されている。出力軸21の一端は第2収容室18に配置されており、出力ギヤ23は、出力軸21であって第2収容室18に配置された部分に設けられている。
また、第1収容室17には、コイル22に電力を供給するブラシ(図示せず)が設けられている。ハンドル部14bには電源コード25が取り付けられており、電源コード25は外部電源(図示せず)に接続されている。また、ハンドル部14bにはトリガ26が設けられているとともに、ハンドル部14bの内部には制御回路(図示せず)が設けられている。この制御回路は、電源コード25を経由して供給される電力を、ブラシに供給する制御等を行うものである。電動モータ11は、トリガ26が操作されると、電源コード25を経由して電力がコイル22に供給されて、ロータ20とステータ19との間に回転磁界が形成され、ロータ20が回転する。
前記第1収容室17であって、軸線Aに沿った方向でコイル22とインナーカバー16との間にはファン27が設けられている。ファン27は、電動モータ11及び第2収容室18内を冷却する空気の流れを形成するための機構であり、本実施形態のファン27は、遠心ファンにより構成されている。ファン27は、図3のように出力軸21に取り付けられた羽根車27aと、羽根車27aの外周側を取り囲む案内壁27bとを有する。羽根車27aは、出力軸21と一体回転する構成であり、羽根車27aは、軸線Aを中心とする半径方向で、内側から外側に向けて延ばされた複数の羽根27dを有している。
案内壁27bは、羽根車27aの周りを所定角度の範囲内で取り囲むように設けられている。案内壁27bは、軸線Aに沿った方向で、ステータ19とインナーカバー16との間に設けられている。案内壁27bはハウジング14に対して回転しないように固定されている。また、ファン27は、羽根車27aと案内壁27bとの間に形成された吸気通路27cを有する。吸気通路27cは、軸線Aを中心とする半径方向で、内側から外側に沿って形成されている。
また、羽根車27aの外周側、例えば、ハウジング14とギヤカバー15との結合部分には、図3及び図4のように、ケーシング13の内部と外部とを連通する通気孔28が設けられている。通気孔28は、ファン27によって案内された空気を、ケーシング13の外部に排出するために設けられている。通気孔28は、ケーシング13における側方及び下方の2箇所に設けられている。案内壁27bは、前記軸線Aを中心とする円周方向で通気孔28に対向する2箇所が開放されている。
前記第2収容室18には中間シャフト29が設けられている。この中間シャフト29は、出力軸21の動力を先端工具12に伝達する動力伝達要素である。第2収容室18には2つの軸受30が同軸に設けられており、中間シャフト29は、2つの軸受30により中心線Bを中心として回転可能に支持されている。2つの軸受30は、ギヤカバー15に取り付けられている。中心線Bは軸線Aと平行であり、かつ、中心線Bは軸線Aと非同軸に配置されている。中間シャフト29であって、張り出し部16cに近い方の端部にはギヤ31が設けられている。このギヤ31は出力ギヤ23と噛み合わされている。また、中間シャフト29であって、2つの軸受30の間にはギヤ32が形成されている。
さらに、第2収容室18にはシリンダ33が設けられている。このシリンダ33は中間シャフト29のトルクを先端工具12に伝達する要素である。シリンダ33は、中心線Cを中心として同軸に設けられた大径円筒部34及び小径円筒部35を有する。大径円筒部34の内径は、小径円筒部35の内径よりも大きい。また、大径円筒部34の外周面には第3ギヤ36が取り付けられている。第3ギヤ36はシリンダ33と一体回転するように設けられており、第3ギヤ36はギヤ32と噛み合わされている。ギヤ32及び第3ギヤ36は、中間シャフト29のトルクをシリンダ33に伝達する要素である。
前記ギヤカバー15は、軸線Aに沿った方向でハウジング14と反対側の箇所に円筒部37を有している。この円筒部37の内径は、大径円筒部34の外径及び小径円筒部35の外径よりも大きい。円筒部37の外周面には、グリップ部(図示せず)が取り付けられる一方、円筒部37の内周面には軸受38が取り付けられている。また、インナーカバー16の内周面には軸受39が取り付けられている。2つの軸受38、39は同軸に配置されており、大径円筒部34は軸受39により回転可能に支持されている。小径円筒部35は軸受38により回転可能に支持されている。つまり、シリンダ33は、2つの軸受38、39により中心線Cを中心として回転可能である。中心線Cは、軸線A及び中心線Bと平行であり、中心線Cは、軸線A及び中心線Bと非同軸である。
上記図1は中心線Cを含む縦断面図であり、その図1において、軸線Aは中心線Cよりも下方に位置し、中心線Bは軸線Aよりも下方に位置にしている。軸線A及び中心線B及び中心線Cは全て平行である。なお、軸線A及び中心線B及び中心線Cは、全てが同一平面上に位置していてもよいし、軸線A、中心線B,Cのうち、2本の線のみが同一平面上に位置していてもよい。
シリンダ33は、ギヤカバー15に対して中心線Cに沿った方向で位置決め固定されている。さらに、円筒部37と小径円筒部35との間には、密封装置56が設けられている。この密封装置56は、公知のオイルシール等により構成されており、密封装置56は、第2収容室18内に封入された潤滑油が、ケーシング13の外部に漏れることを防止するためのものである。
前記小径円筒部35の先端は、円筒部37の外部に露出されている。先端工具12は小径円筒部35内に挿入されている。先端工具12の外周面には、中心線Cに沿った方向の長さを有する溝12aが設けられている。一方、小径円筒部35を半径方向に貫通する保持孔35aが設けられており、保持孔35aにはボール55が配置されている。小径円筒部35であって、円筒部37の外部に露出している部位にはエンドカバー40が取り付けられている。
エンドカバー40はシリンダ33と一体回転するように構成されており、エンドカバー40は、ボール55が保持孔35aから脱落することを防止する押さえ部材40aを有する。保持孔35aに保持されたボール55は、その一部が溝12aに配置されている。つまり、ボール55は溝12a内で転動可能である。シリンダ33及び先端工具12は、ボール55の係合力により相対回転が防止されている。すなわち、シリンダ33のトルクは、ボール55を介して先端工具12に伝達され、先端工具12は回転する。
また、先端工具12は、中心線Cに沿った方向における溝12aの長さに基づいて、シリンダ33に対して中心線Cに沿った方向に移動可能である。なお、エンドカバー40は、シリンダ33に対して取り付け及び取り外しが可能に構成されている。そして、エンドカバー40を操作すると、ボール55が保持孔35aから出るため、先端工具12を交換することができる。
前記大径円筒部34にはピストン41が挿入されている。ピストン41は、大径円筒部34内で中心線Cに沿った方向に移動可能である。このピストン41は、円筒部41aと、円筒部41aに連続して形成された底部41bとを有している。円筒部41aの開口部分は小径円筒部35側に配置されている。円筒部41aには半径方向に貫通する通気孔41cが設けられているとともに、円筒部41a内には打撃子42が挿入されている。打撃子42は、ピストン41に対して中心線Cに沿った方向に移動可能であり、円筒部41a内における打撃子42と底部41bとの間には空気圧室43が形成されている。空気圧室43の容積は、ピストン41が往復運動して生じる打撃力が目標値となるように設定されている。打撃子42の外周面にはOリング42aが取り付けられており、Oリング42aは、打撃子42と大径円筒部34との間を気密に維持している。
シリンダ33内において、打撃子42と先端工具12との間には中間子44が設けられている。つまり、中間子44は、中心線Cに沿った方向で打撃子42と先端工具12との間に配置されており、中間子44はシリンダ33に対して中心線Cに沿った方向に移動可能である。中間子44は、空気圧室43の圧力上昇で打撃子42に加えられた打撃力を、先端工具12に伝達する要素である。中間子44は、打撃子42及び先端工具12に接触したり離れたりすることができる。
一方、第2収容室18には、中間シャフト29の回転運動をピストン41の往復運動に変換する運動変換機構45が設けられている。運動変換機構45は、内輪45a及び外輪45bを有している。内輪45aは、中間シャフト29の外周面に取り付けられている。内輪45aは、中間シャフト29と相対回転可能である。内輪45aの外周面は、中心線Bを含む平面内における断面形状が円弧形状となっており、内輪45aの外周面には溝(図示せず)が形成されている。内輪45aの円周方向における位相変化に対応して、溝は中心線Bに沿った方向における位置が異なっている。そして、外輪45bと内輪45aとの間に転動体45cが円周方向に複数個介在されている。この転動体45cは、溝に沿って転動可能である。また、外輪45bには連結棒45dが設けられており、連結棒45dはピストン41に連結されている。このため、外輪45bは中心線Bを中心として回転することはない。
さらに、第2収容室18にはクラッチ46が設けられている。このクラッチ46は、内輪45aと中間シャフト29との間の動力伝達経路を接続及び遮断するための機構である。クラッチ46は、中間シャフト29と一体回転するとともに、中間シャフト29に対して中心線Bに沿った方向に移動可能である。そして、クラッチ46が、中心線Bに沿って左側に向けて移動して停止すると、中間シャフト29と内輪45aとの間の動力伝達経路が接続される。つまり、クラッチ46が係合された状態となる。これに対して、クラッチ46が、中心線Bに沿って右側に向けて移動して停止すると、中間シャフト29と内輪45aとの間の動力伝達経路が遮断される。つまり、クラッチ46が解放された状態となる。なお、クラッチ46の中心線Bに沿った方向の移動及び停止、移動方向は、作業者がモード切替スイッチを操作すると切り替えられる。なお、モード切り替えスイッチは、ケーシング13の外表面に設けられているが、便宜上、図示されていない。
そして、クラッチ46が係合された状態で、中間シャフト29が回転すると、転動体45cが溝に沿って転動し、外輪45bは、中心線B上の中心点を中心として所定角度の範囲内で揺動する。なお、中心点は便宜上、図示していない。外輪45bが所定角度の範囲内で揺動すると、ピストン41が中心線Cに沿った方向に往復運動する。
上記のように構成された打撃工具10の作用を説明する。まず、作業者が一方の手でハンドル部14bを掴み、他方の手でグリップ部を掴み、先端工具12を対象物に押し付けてトリガ26を引く。すると、電動モータ11に電力が供給されてロータ20が回転し、出力軸21のトルクが、出力ギヤ23、ギヤ31を経由して中間シャフト29に伝達される。中間シャフト29のトルクは、ギヤ32及び第3ギヤ36を経由してシリンダ33に伝達される。シリンダ33のトルクは、ボール55を経由して先端工具12に伝達される。
上記の作用中、モード切替スイッチが操作されて、ドライバモードが選択されていると、クラッチ46は解放状態となる。このため、中間シャフト29の回転運動はピストン41の往復運動には変換されない。したがって、先端工具12に打撃力は加えられない。これに対して、モード切替スイッチが操作されて、ハンマドライバモードが選択されていると、クラッチ46は係合状態となる。このため、中間シャフト29の回転運動はピストン41の往復運動に変換される。打撃子42のシール部材が通気孔41cよりも先端工具12側に位置しているときは、空気圧室43は通気孔41cを介してピストン41の外部と連通している。先端工具12を被削材に押付けると、打撃子42が図1において左側に動作する。すると、通気孔41cは打撃子42により閉じられる。ついで、ピストン41が図1で右方向に動作すると、空気圧室43の圧力が上昇し、打撃力が発生する。発生した打撃力は、打撃子42及び中間子44を経由して先端工具12に伝達される。したがって、先端工具12は、回転しながら打撃される。なお、打撃子42が図1で右側に移動すると、通気孔41cが開かれて、空気圧室43が大気と連通して圧力が低下する。したがって、打撃力が低下して打撃子42は停止する。その後は、ピストン41の往復運動に伴い、上記の作用が繰り返される。
ところで、ピストン41が往復運動を繰り返すと、打撃力発生時の反力、ピストン41の動作等に起因して、中心線Cに沿った方向の振動が発生する。この振動は、シリンダ33及び軸受38、39を経由してケーシング13に伝達されたり、運動変換機構45、中間シャフト29、軸受30を経由してケーシング13に伝達されたりする。すると、ケーシング13が振動する。ここで、ケーシング13の振動状態の一例を、図5に基づいて説明する。例えば、揺動中心Dを中心として所定の角度範囲内で円弧状の軌跡で振動(揺動運動)する。揺動中心Dは、第1の線分Eと第2の線分Fとの交点である。第1の線分Eは、先端工具12の先端と、ハンドル部14bの長手方向の中心点とを通る。第2の線分Fは、ケーシング13の重心Gを通り、かつ、軸線Aと直角である。図5では、ケーシング13の重心Gは軸線A上に表されている。なお、図5に示すケーシング13の振動状態は、1つの解析例を表しているに過ぎない。
本実施形態の打撃工具10は、ケーシング13の振動を低減する振動低減機構47を有する。振動低減機構47の構成を、図1、図2、図5、図6、図7に基づいて説明する。振動低減機構47は、張り出し部16cに取り付けられた支持部材48と、その支持部材48により支持されたウェイト49とを有する。支持部材48は、金属材料により一体成形されている。支持部材48は、基部48aと、基部48aから二股に分岐された2つの腕部48bとを有する。2つの腕部48bの対向部分は、円弧形状に構成されている。基部48aは、張り出し部16cとマウント部材50とにより挟まれており、ねじ51により張り出し部16cに固定されている。また、支持部材48は、ばね弾性を備えた金属材料により構成されていてもよい。ねじ51による支持部材48の固定位置Jは、中心線Bよりも下方に位置している。さらに、支持部材48の基部48aにはゴム部材52が取り付けられている。
前記ウェイト49は、2つの腕部48bの自由端に取り付けられている。ウェイト49は、例えば、金属材料等により構成されている。ウェイト49は、軸線Aに対して垂直な平面内でC字形状を有しており、ウェイト49の内周面は円弧形状に構成されている。また、ウェイト49は、2つの腕部48bを挟んで取り付けた2個の構成片49a、49bを有する。軸線Aに沿った方向で、構成片49bは、構成片49aよりも張り出し部16cに近い位置に配置されている。また、軸線Aに沿った方向において、構成片49bは、構成片49aよりも厚い。したがって、支持部材48を中心として、ウェイト49全体としては、軸線Aに沿った方向の幅は、電動モータ11とは反対側(運動変換機構45側)に位置する構成片49bの方が構成片49aよりも幅広である。図5において、ウェイト49の重心Hは、中心線Cよりも上方に配置されている。そして、ウェイト49と2つの腕部48bとの間には、軸線Aと垂直な平面内において軸孔53が設けられている。この軸孔53内には、内筒部16bが配置されている。すなわち、振動低減機構47は、軸線Aと垂直な平面内で、内筒部16bを取り囲むように設けられている。
また、振動低減機構47の固有振動数は、穴あけ作業中の打撃回数と同じに設定されている。振動低減機構47の固有振動数は、ウェイト49の質量、支持部材48の剛性、支持部材48の固定位置(固定端)からウェイト49の重心Hまでの長さ等の条件により決定される。また、支持部材48がバネ弾性を有するものである場合、支持部材48のバネ定数は、固有振動数を決定する要因となる。また、軸孔53の内径は、支持部材48及びウェイト49が揺動したときに、振動低減機構47と内筒部16bとが接触することのない値に設定されている。
上記構成を有する振動低減機構47は、ケーシング13が揺動中心Dを中心として振動する。具体的には、支持部材48が固定位置Jを支点として弾性変形し、かつ、ケーシング13の振動の向きとは逆向き(逆位相)に振動することで、ケーシング13の振動を低減及び吸収する。また、ゴム部材52は、支持部材48及びウェイト49が振動したとき、マウント部材50及び支持部材48によってつぶされるように弾性変形し、振動を吸収する。
さらに、振動低減機構47及びファン27は、軸線Aに沿った方向で並べて配置されている。このため、支持部材48及びウェイト49が振動したときに、振動幅が大きいと、ウェイト49がファン27、具体的には羽根車27aと接触する可能性がある。そこで、第1収容室17には、ウェイト49が羽根車27aと接触することを防止するプレート54が設けられている。プレート54は金属板により一体成形されており、プレート54はケーシング13に固定されている。プレート54は、軸線Aに沿った方向に貫通する軸孔54aを有し、軸孔54aには、出力軸21及び羽根車27aのボス部が挿入されている。プレート54の内周端は、軸線Aに沿った方向でファン27と内筒部16bとの間に配置されている。振動低減機構47は、プレート54とインナーカバー16とにより取り囲まれた空間に配置されている。
また、プレート54には、羽根車27aの外周端に相当する箇所に通気孔54bが設けられている。通気孔54bは、軸線Aを中心とする円弧形状に設けられている。この通気孔54bは、羽根車27aの回転によって形成された空気の流れを、インナーカバー16に向けて案内する経路である。また、プレート54には厚さ方向に貫通する取り付け孔54cが複数設けられている。
一方、インナーカバー16に複数の係止爪16eが設けられており、係止爪16eが取り付け孔54cに挿入されている。この構造によりプレート54は、軸線Aを中心として円周方向で、ケーシング13に対して位置決め固定されている。なお、上記実施形態において、軸受24、30、38は、スラスト荷重及びラジアル荷重の両方を受ける機能を兼備している。
一方、第2収容室18内には被潤滑部が設けられている。被潤滑部は、出力ギヤ23とギヤ31との噛み合い部分、ギヤ32と第3ギヤ36との噛み合い部分、運動変換機構45、ピストン41とシリンダ33との接触部分を含む。第2収容室18内には被潤滑部を潤滑及び冷却する潤滑油が封入されている。密封装置56は、第2収容室18内の潤滑油が小径円筒部35と円筒部37との間を経由して、ケーシング13の外部に漏れることを防止する。また、Oリング15aは、第2収容室18内の潤滑油がインナーカバー16とギヤカバー15との間を経由して第1収容室17へ漏れることを防止する。さらに、軸受24に取り付けられた密封装置(図示せず)は、第2収容室18内の潤滑油が第1収容室17へ漏れることを防止する。
本実施形態においては、支持部材48の固定位置Jは、図5のように中心線Bよりも下方にある。そして、支持部材48及びウェイト49は、固定位置Jを支点として振動し、ウェイト49の振動軌跡は円弧形状となる。すなわち、揺動中心Dを中心としてケーシング13が円弧形状に振動するときに、ケーシング13の振動軌跡と、ウェイト49の振動軌跡とをなるべく近似させることができ、振動低減効率が向上する。また、中心線Cを中心とする半径方向で、中心線Cとウェイト49の重心Hとをなるべく近くに設定している。したがって、振動低減機構47は、ウェイトを効果的に振動させることができ、振動低減効果が向上する。
さらに、軸受24及びウェイト49は、軸線Aに沿った方向における配置位置の少なくとも一部が重なって(オーバーラップして)いる。また、振動低減機構47は、軸線Aを中心とする半径方向で、出力ギヤ23の外側に配置されている。さらに、振動低減機構47及び出力ギヤ23は、軸線Aに沿った方向の配置位置の一部が重なっている。そして、軸線Aと中心線Cとは平行である。したがって、中心線Cに沿った方向で、軸受24及び振動低減機構47の配置スペースをなるべく短くすることができる。したがって、打撃工具10の大型化を抑制できる。
また、振動低減機構47は、軸線Aを中心とする半径方向で、内筒部16bの外側に配置されており、出力ギヤ23は内筒部16bの内側に配置されている。このため、出力軸21は、軸受24により支持された部分から、出力ギヤ23が形成された部分を含む端部までの長さをなるべく短くすることができる。したがって、出力軸21は、出力ギヤ23側において1個の軸受24で支持することができ、部品点数を削減できる。
また、振動低減機構47の軸孔53に出力軸21が挿入されているため、軸線Aに沿った方向における部品の配置スペースを狭めることができる。また、振動低減機構47が振動しても、出力軸21と接触することを回避できる。さらに、振動低減機構47が振動しても、円筒部16dに接触することを回避できる。
本実施形態におけるファン27は、電動モータ11のロータ20のトルクにより回転して、第1収容室17の空気を吸入する。第1収容室17内では、ファン27の回転により空気の流れが形成される。電動モータ11は、流れる空気との間で熱交換が行われて、電動モータ11の温度上昇が抑制される。第1収容室17の空気は、吸気通路27cを通り、半径方向で外側に向けて案内される。案内された空気は、プレート54の通気孔54bを通り、プレート54とインナーカバー16との間に流れ込む。プレート54とインナーカバー16との間に流れ込んだ空気は、インナーカバー16の張り出し部16cの表面に沿って流れ、ついで、軸孔53内を内筒部16bの表面に沿って流れる。
そして、第2収容室18内の熱は、インナーカバー16に伝達される。インナーカバー16に伝達された熱は、インナーカバー16に沿って流れる空気に伝達され、空気の温度が上昇する。温度が上昇した空気は、通気孔28を通りケーシング13の外部に排出される。このようにして、第2収容室18内の温度上昇が抑制される。
したがって、第2収容室18内に封入された潤滑油の粘度が低下して、潤滑油がケーシング13の外部に漏れること、または、第2収容室18内の潤滑油が第1収容室17へ漏れることを防止できる。また、支持部材48に取り付けたゴム部材52の特性が変化したり、劣化したりすることを防止できる。さらに、第2収容室18内の温度上昇により空気圧室43の空気圧が変化して、打撃力が目標値から外れることを防止できる。
また、構成片49bの方が構成片49aよりも幅広であるため、振動低減効果を小さくすることなく、軸受24を電動モータ11に近づけて配置することができる。特に、軸受24と電動モータ11との間にファン27を設けるにあたり、ファン27と軸受24とを軸線Aに沿った方向でなるべく近づけて配置することができる。さらに、ウェイト49は、出力軸21を隔てて中間シャフト29の反対側に配置されているから、ウェイト49が振動したときにウェイト49が中間シャフト29と干渉することを防止できる。
また、ウェイト49が振動した際にケーシング13に振動を低減する力を伝える固定位置Jが、中心線Cに沿った方向において打撃工具10の重心Gに近い構成であるため、効果的に振動低減を図ることができる。さらに、中心線Cの半径方向において固定位置Jが中心線Cから打撃工具10の重心Gよりも離間し、軸線Aを中心とする半径方向で、固定位置Jからウェイト49までの距離を長くする配置としているため、ウェイト49の振動量を大きくすることができる。
さらに、出力軸23の軸線Aは、中心線Cと平行かつ非同軸に配置されている。したがって、打撃工具10の中心線Cに沿った方向の寸法を抑えることができ、打撃工具10の重心Gとウェイト49の固定位置Jを、中心線Cに沿った方向において近づけることができる、ウェイト49の振動による回転モーメントの発生を抑えることができる。
次に、打撃工具10のウェイト49の他の構成例を、図9に基づいて説明する。構成片49aには孔49cが設けられており、構成片49bには孔49dが設けられている。孔49cは、構成片49aを軸線Aに沿った方向に貫通している。孔49dは、構成片49bを軸線Aに沿った方向に貫通している。また、軸線Aと垂直な平面内において、孔49c、49dは共に同一円周上に配置され、かつ、同一位相に配置されている。つまり、孔49cと孔49dとは接続されている。図9に示す打撃工具10は、ウェイト49以外の構成は図1に示された打撃工具10の構成と同じである。
図9に示された打撃工具10は、ファン27により吸引された空気の一部が、ウェイト49の孔49c、49dを通過して張り出し部16cに向かう。つまり、ウェイト49の孔49c、49dは、空気の流れをスムースにする役割を果たす。
ここで、本実施形態で説明した構成と、本発明の構成との対応関係を説明すると、ピストン41が、本発明の動作部材に相当し、中心線Cが、本発明の中心線に相当し、重心Gが、本発明のケーシングの重心に相当し、重心Hが、本発明のウェイトの重心に相当し、出力ギヤ23が、本発明の第1ギヤに相当し、中間シャフト29が、本発明の動力伝達軸に相当し、ギヤ31が、本発明の第2ギヤに相当し、軸孔53が、本発明における孔に相当する。
また、軸線A、中心線B、Cは全て平行であるから、軸線Aに沿った方向は、中心線Bまたは中心線Cに沿った方向と同じであり、中心線Bに沿った方向は、中心線Cまたは軸線Aに沿った方向と同じであり、中心線Cに沿った方向は、中心線Bまたは軸線Aに沿った方向と同じである。
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、前記実施の形態においては、打撃工具は、先端工具に打撃力を与えられるものであればよく、打撃工具は、先端工具を回転運動させことができない構成でもよい。また、打撃工具は、ハンマ専用モード、ドリル専用モード、ハンマドリルモードの3種類を切り替え可能な構成であってもよい。ハンマ専用モードは、先端工具に打撃力のみを与えるモードであり、ドリル専用モードは、先端工具に回転力のみを与えるモードであり、ハンマドリルモードは、先端工具に打撃力及び回転力を与えるモードである。また、先端工具は、ねじ部材を締め付けるためのドライバビットでもよい。さらに、先端工具は、コンクリート、石材等に穴あけ、ハツリを施すためのドリルビットでもよい。
さらに、ケーシングの内部に設けるファンは、軸流ファンでもよい。ウェイトに設ける空気の案内路には、孔の他、切り欠き、溝等が含まれる。さらに、打撃工具は、2つの中心線及び軸線が、垂直方向に沿った状態、水平方向に沿った状態、水平方向と垂直方向の間に沿った状態のうち、何れの状態で使用することもできる。さらに、ケーシングの振動を解析する基準は、ケーシングの重心に代えて、打撃工具の重心を用いることもできる。打撃工具の重心は、ケーシングの質量、ケーシングの内部に設けられた部品、機構、要素等の質量の総和質量の中心である。さらにまた、打撃工具は、電動モータに電力を供給するバッテリがケーシング内に収納される構造、またはケーシングにバッテリがカセット構造で取り付けられる構造であってもよい。また、振動低減機構47に設ける孔は、凹部であってもよい。