以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態における界面張力の測定装置の構成を示す図である。
図において、10は、本実施の形態における界面張力の測定装置であり、測定対象としての液体の力学物性の一つである界面張力を測定する装置であり、より具体的には、液体の界面にレーザ光を入射させて前記界面で散乱された散乱光のスペクトルを測定し、測定されたスペクトルに含まれる極値に基づいて自発的に発生する界面張力波の共鳴周波数を取得し、取得した共鳴周波数に基づいて界面張力を算出する装置である。本実施の形態においては、測定用セル30に含まれる測定対象の液体35の界面35aで散乱された散乱光のスペクトルを測定することによって界面張力を測定する。なお、前記スペクトルは、いわゆるドップラースペクトルである。
この場合、前記測定用セル30は、厚さ方向に貫通するように形成された内部空洞を備えるセル本体31と、前記内部空洞の一方(図に示される例では上方)の面を塞(ふさ)ぐ透明カバー板32と、前記内部空洞の他方(図に示される例では下方)の面を塞ぐ境界画定板部材33とを備える。そして、該境界画定板部材33には所定形状の微小な開口34が形成され、該開口34に露出する液体35の界面35aで散乱された散乱光のスペクトルが測定される。
前記界面張力の測定装置10は、界面で散乱された散乱光のスペクトルを測定するスペクトル測定装置と、測定されたスペクトルとともに、該スペクトルに含まれる極値、及び、該極値に対応する共鳴周波数を取得するスペクトル分析装置21とを有する。なお、図に示される例において、前記界面張力の測定装置10は、スペクトル測定装置の測定結果を演算処理するデータ処理装置22、並びに、測定した液体35の界面張力波のスペクトルに含まれる極値、及び、該極値に対応する共鳴周波数を記憶する記憶装置23も含んでいる。
そして、前記スペクトル測定装置は、レーザ光を発光するレーザ光源部11と、レーザ光を集光して液体の界面の一方から入射させる集光部12と、レーザ光源部11から集光部12までの光路中に配設された細長い開口13aを備えるスリット部13と、液体の界面の他方に配設された小開口を備えるピンホール部15と、液体35の界面35aの他方に配設され、界面35aで散乱され、ピンホール部15の小開口を通過した光を検出する光検出部14とを備える。なお、図に示される例において、前記スペクトル測定装置は、プリズム、鏡等から成り、レーザ光の光路の方向を変換する光路変換部16a、16b及び16c、並びに、液体の界面におけるレーザ光の集光度合いをチェックするための撮像装置17も含んでいる。なお、光路変換部16cは、半透過鏡等から成り、レーザ光を反射してその光路を変換するとともに、界面35aの画像を透過して撮像装置17に到達させる。前記光路変換部16a、16b及び16c、並びに、撮像装置17は、省略することもできる。そして、前記スペクトル測定装置は、具体的には、準弾性レーザ散乱法(Quasi Elastic Light Scattering:QELS)によって界面で散乱された散乱光のスペクトルを測定する。
前記レーザ光源部11は、例えば、波長532〔nm〕の単一の連続レーザ光を発射するレーザ光源モジュールである。また、前記集光部12は、例えば、顕微鏡等に使用する対物レンズを備え、焦点を調整し、レーザ光源を液体35の界面35aに集光させる。なお、前記集光部12を通過して液体35の界面35aに入射するレーザ光の光路は、前記界面35aに対して垂直となるように調整される。さらに、前記スリット部13は、例えば、回転可能な円板に直径方向に延在するスリット、すなわち、細長い開口13aを形成したものであり、前記円板を回転させることによって前記開口13aの延在する方向を180度の範囲で調整可能となっていることが望ましい。
さらに、前記ピンホール部15は、ピンホール、すなわち、小開口を備え、該小開口を通過する光路が前記集光部12を通過して液体35の界面35aに入射するレーザ光の光路、すなわち、界面35aに対して垂直な直線に対して所定の角度(例えば、約9〜40〔mrad〕の角度)で傾斜するような位置に配設される。これにより、前記光検出部14は、液体35の界面35aに入射するレーザ光とともに、液体35の界面35aで散乱された散乱光を正確に検出することができる。また、前記光検出部14は、例えば、フォトダイオード等の受光素子を備え、該受光素子が散乱光を受光して受光光量に応じた電圧を出力する。なお、前記光検出部14は、必要に応じて、受光素子の出力電圧を増幅する増幅器を含んでいてもよい。
また、前記スペクトル分析装置21は、市販されている、いわゆるスペクトルアナライザであって、前記光検出部14に接続され、例えば、横軸が周波数、縦軸が電圧である表示画面に、光検出部14の出力波形を表示することができる。さらに、前記データ処理装置22は、例えば、市販されているパーソナルコンピュータ等の演算処理装置であって、前記光検出部14及びスペクトル分析装置21に接続され、光検出部14及びスペクトル分析装置21の出力結果を演算処理したり、記憶したりすることができる。さらに、前記記憶装置23は、前記データ処理装置22に内蔵又は接続されたメモリ、磁気ディスク等から成るデータの記憶手段である。
なお、図においては、光検出部14及びピンホール部15が、レーザ光が液体35の界面35aに入射する側と反対側に配設された例、すなわち、液体35の界面35aの一方からレーザ光を入射させて界面35aで散乱された散乱光を界面35aの他方において検出する例のみが示されているが、光検出部14及びピンホール部15をレーザ光が液体35の界面35aに入射する側に配設し、液体35の界面35aの一方からレーザ光を入射させて界面35aで散乱された散乱光を界面35aの一方において検出するようにしてもよい。
次に、前記構成の界面張力の測定装置10の動作について説明する。
図2は本発明の第1の実施の形態における液体の界面に発生する界面張力波を説明する模式図、図3は本発明の第1の実施の形態におけるマイクロ流路を備える測定用セルを用いた界面張力の測定装置の模式図、図4は本発明の第1の実施の形態における界面張力波のパワースペクトルのシミュレーション結果を示す図、図5は本発明の第1の実施の形態における界面張力波のパワースペクトルの測定結果を示す図、図6は本発明の第1の実施の形態における異なる幅寸法のマイクロ流路内の界面張力波のパワースペクトルの測定結果を示す図、図7は本発明の第1の実施の形態における共鳴の各モードのマイクロ流路の幅と周波数との関係を示す図である。なお、図2において、(a)は熱ゆらぎによって発生する界面張力波を示す図、(b)は共鳴している界面張力波を示す図であり、図3において、(a)は界面張力の測定装置の要部を示す図、(b)は測定用セルの拡大図である。
液体35の界面35aには、図2(a)に示されるように、熱ゆらぎによって振幅の小さい(振幅が約1〔nm〕未満)多くの波長の界面張力波が発生している(例えば、非特許文献1参照。)。一般に、界面は、液体の相が他の相と接している境界であって、他の相は液体であってもよいが、ここでは、説明の都合上、他の相が空気であるものとする。このような場合、界面は、表面とも呼ばれるが、ここでは、統一的に界面と呼ぶこととする。
このような界面張力波に入射したレーザ光が散乱すると、散乱光は、界面張力波の周波数分だけドップラーシフトを受ける。このとき、波長(波数)と周波数・張力との関係は、流体力学関係式で表され、散乱角と波長(波数)との関係は、光学的関係式で表され、張力と表面の化学量との関係は、熱力学関係式で表される。
そして、本発明の発明者は、実験を行った結果、細長く幅の狭い(マイクロメートルからナノメートルスケールの幅)溝状の流路であるマイクロ流路の中では、図2(b)に示されるように、界面張力波が流路の幅方向に共鳴していることを発見した(例えば、非特許文献2〜4参照。)。
Ch.Pigot, A.Hibara, "Micro-Fluidic Resonator ", MEMS 2012, Paris, FRANCE, 29 January-2 February 2012, pp. 850-853
Christian Pigot, Akihide Hibara,"Surface Tension Measurement at the Microscale by Passive Resonance of Capillary Waves ", Anal. Chem. 2012, 84, pp. 2557-2561
Pigot Ch, Hibara Akihide, "Toward chemical sensing on micro-sized interfaces using a micro-fluidic resonator ", NEMS 2012, Kyoto, JAPAN, March 5-8, 2012, pp. 1001-1002 。
具体的には、図3(b)に示されるようなマイクロ流路37を備える測定用セル30を使用して実験を行った。なお、図3(a)には、説明の都合上、集光部12、スリット部13、光検出部14、ピンホール部15及び測定用セル30のみが描画され、他の部材は省略されている。
この場合、測定用セル30のセル本体31は、弾力性のあるシリコーンゴムの一種であるポリジメチルシロキサン(Polydimetylsiloxane:PDMS)から成り、表面に、例えば、幅70〔μm〕及び深さ30〔μm〕で直線状に延在する細長いマイクロ流路37が形成されている。そして、供給口37aからマイクロ流路37内に液体35を供給した。該液体35は、具体的には、メタノール又はアセトニトリルである。前記マイクロ流路37は、底面及び幅方向の両側面がセル本体31によって画定され、前記底面と対向する上面が開放された横断面が矩(く)形の溝であって、マイクロ流路37内の液体35の上面が空気との界面35aとなる。セル本体31の下方から入射したレーザ光は、マイクロ流路37内の液体35を透過し、その界面35aで散乱され、散乱光が光検出部14によって検出される。
また、前記マイクロ流路37は、幅方向の寸法に対して、長手方向(延在する方向)の寸法が十分に長いので、前記マイクロ流路37内の液体35の界面35aは、幅方向のみがマイクロ流路37の両側面によって画定され、長手方向が無限大であって画定されていない一次元方向に画定された界面、すなわち、一対の対向する二辺が画定された一次元空間界面であると言える。
ところで、界面張力波の周波数f0 及びその半値半幅(HWHM)Δfは、Lamb及びLorentzianによって、次の式(1)及び(2)で表される(例えば、非特許文献2及び3参照。)。
なお、γは界面張力、ρ1 及びρ2 は第1の流体(本実施の形態においては液体35)及び第2の流体(本実施の形態においては空気)の密度、qは界面張力波の波数、η1 及びη2 は第1の液体及び第2の液体の動粘度である。
また、界面張力波の共鳴が発生するためには境界条件が満たされる必要がある。前記マイクロ流路37のような一次元空間界面の場合、界面35aを画定するマイクロ流路37の両側面が弾性を備えるものとすると、境界条件は次の式(3)で表される。
nπ=qw ・・・式(3)
なお、nはモードを表す整数、wは界面35aの相当半径(相当直径の1/2)としてのマイクロ流路37の幅である。
そして、前記式(1)〜(3)を組合わせると、パワースペクトルP(f)を表す次の式(4)を得ることができる。
なお、F0 は器械中心周波数、Γはその半値半幅、fn はn番目のモードの中心周波数、Δfn はその幅である。
本発明の発明者は、前記式(4)を使用して、前記マイクロ流路37内の液体35の界面張力波のパワースペクトルについてシミュレーションを行い、図4に示されるような結果を得た。なお、非共鳴バックグラウンドスペクトルとなる器械中心周波数F0 及びその半値半幅Γはともに50〔kHz〕であるとした。
図4において、上側のグラフは、境界が画定されていない無限大に広い界面についてのシミュレーション結果を示し、下側のグラフは、マイクロ流路37内の液体35の界面35a、すなわち、幅70〔μm〕の両側面によって画定された一次元空間界面についてのシミュレーション結果を示している。また、下側のグラフにおける極値であるピークのそれぞれに対応する振動数は、各モードの共鳴周波数に相当する。
また、図5は、本発明の発明者が図3(b)に示されるようなマイクロ流路37を備える測定用セル30を使用して実験を行った結果、すなわち、図1に示されるような界面張力の測定装置10によってマイクロ流路37内の液体35の界面35aについて界面張力波を測定した結果が示されている(例えば、非特許文献3参照。)。
図5において、最上位に位置するグラフは、境界が画定されていない無限大に広い界面についての測定されたパワースペクトルを示し、中間に位置するグラフは、マイクロ流路37内の液体35の界面35a、すなわち、幅70〔μm〕の両側面によって画定された一次元空間界面についての測定されたパワースペクトルを示している。なお、最下位に位置するグラフは、前記式(4)によるフィッティングを行った結果を示すフィッティング曲線であり、視認性を高めるために、一次元空間界面についての測定されたパワースペクトルから離して示されている。
最上位に位置するグラフである境界が画定されていない界面についての測定されたパワースペクトルは、微小変動を無視すれば、全体的になだらかな曲線であって極値を含んでいないのに対し、中間に位置するグラフである一次元空間界面についての測定されたパワースペクトル及びそのフィッティング曲線は、複数の極値であるピークを含んでいる。そして、一次元空間界面についての測定されたパワースペクトル及びそのフィッティング曲線における極値のそれぞれに対応する振動数は、各モードの共鳴周波数に相当する。
さらに、本発明の発明者は、比較のために、異なる幅寸法、すなわち、幅43〔μm〕及び幅27〔μm〕のマイクロ流路37を備える測定用セル30を作成し、同様の実験を行って、一次元空間界面についてのパワースペクトルを測定した。図6には、異なる幅寸法のマイクロ流路37内の液体35の界面35aについて界面張力波を測定した結果が示されている。
図6において、最上位に位置するグラフは、幅70〔μm〕の両側面によって画定された一次元空間界面についての測定されたパワースペクトルを示し、中間に位置するグラフは、幅43〔μm〕の両側面によって画定された一次元空間界面についての測定されたパワースペクトルを示し、最下位に位置するグラフは、幅27〔μm〕の両側面によって画定された一次元空間界面についての測定されたパワースペクトルを示している。
ところで、境界条件を表す前記式(3)は、界面35aを画定するマイクロ流路37の両側面が弾性を備えていないものとすると、次の式(5)のように修正される。
(n+C)π=qw ・・・式(5)
なお、Cは、非弾性定数であり、経験的には0.7である。
そして、前記式(1)及び(5)を用い、図6に示される測定結果を、横軸がマイクロ流路37の幅寸法であり、縦軸が周波数である座標空間にプロットし直すと、図7に示されるような結果を得ることができる。図7から、界面35aの幅(マイクロ流路37の幅)wの値と、パワースペクトルの極値に対応する共鳴周波数の値fとに基づいて、共鳴のモードnを取得し得ることが分かる。
また、界面張力γは、次の式(6)で表される(例えば、非特許文献3参照。)。
したがって、液体35の密度ρ及び界面35aの幅(マイクロ流路37の幅)wの値が既知であれば、測定されたパワースペクトルに含まれる互いに隣接する2つのピーク、すなわち、極値に対応する共鳴周波数の値fn 及びfn+1 から、前記式(6)に従った演算を行うことによって、液体35の界面張力γの値を得ることができる。
なお、パワースペクトルに含まれる極値は、例えば、記憶装置23にあらかじめ記憶させておいた既に測定済みの図5、6等に示されるようなパワースペクトルを呼び出し、スペクトル分析装置21又はデータ処理装置22の表示画面に表示させて参照することによって、容易に特定することができる。また、液体35の密度ρ及び界面35aの幅wの値を記憶装置23にあらかじめ記憶させておくとともに、前記式(6)に従った演算をデータ処理装置22に実行させることによって、液体35の界面張力γの値を正確かつ容易に得ることができる。
このように、本実施の形態においては、液体35を微小な幅寸法を備えるマイクロ流路37内に収容して界面35aで散乱された散乱光のスペクトルを測定することによって、前記液体35がナノリットルからフェムトリットルスケールの微小量であっても、また、前記界面35aがマイクロメートルからナノメートルスケールの微小界面であっても、前記液体35の界面張力を容易かつ正確に測定することができる。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図8は本発明の第2の実施の形態における測定用セルを示す図、図9は本発明の第2の実施の形態における界面張力波のパワースペクトルの測定結果を示す図である。なお、図8において、(a)は測定用セルの側断面図、(b)は測定用セルの下面図、(c)は比較例を示す図である。
図8(b)に示されるように、本実施の形態における液体35の界面35aは、周辺のすべてが画定された二次元空間界面としての円形界面である。測定用セル30は、厚さ方向に貫通するように形成された内部空洞を備えるセル本体31と、ガラス板等から成り、前記内部空洞の一方(上方)の面を塞ぐ透明カバー板32と、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)の厚さ50〔μm〕のフィルムから成り、前記内部空洞の他方(下方)の面を塞ぐ境界画定板部材33とを備える。そして、前記内部空洞内には液体35が収容され、前記境界画定板部材33には、円形の微小な開口34が形成され、該開口34に露出する液体35の界面35aで散乱された散乱光のスペクトルが測定される。なお、前記開口34は、例えば、直径が40〔μm〕の円形である。
したがって、本実施の形態における液体35の界面35aは、円周が開口34の縁によって画定された相当直径としての直径が40〔μm〕の円形界面である。なお、図8(a)に示されるように、前記界面35aは、下方にやや膨出した凸面となっている。
また、本実施の形態においては、比較例として、図8(c)に示されるように、平坦(たん)で透明なガラス板41上に滴下させた1〔μL〕の液滴42を用意した。該液滴42は、前記液体35と同一の液体から成る。
そして、前記第1の実施の形態において説明した図1に示されるような界面張力の測定装置10によって図8(a)及び(b)に示されるような測定用セル30内の液体35の界面35aについて界面張力波を測定した結果が図9に示されている。なお、図9には、比較例として、図8(c)に示されるような液滴42について界面張力波を測定した結果も示されている。
図9において、上側のグラフは、比較例としての液滴42、すなわち、周辺が画定されていない液滴42の界面42aについての測定されたパワースペクトルを示し、下側のグラフは、開口34内の界面35a、すなわち、直径40〔μm〕の円形の開口34の縁によって周辺がすべて画定された二次元空間界面についての測定されたパワースペクトルを示している。
上側のグラフである周辺が画定されていない液滴42の界面42aについての測定されたパワースペクトルは、微小変動を無視すれば、全体的になだらかな曲線であって極値を含んでいないのに対し、下側に位置するグラフである周辺がすべて画定された二次元空間界面についての測定されたパワースペクトルは、複数の極値であるピークを含んでいる。そして、二次元空間界面についての測定されたパワースペクトルにおける極値のそれぞれに対応する振動数は、1〜5の各モードの共鳴周波数に相当する。
次に、二次元空間界面ついて、界面張力を算出する方法について説明する。
図10は本発明の第2の実施の形態における二次元空間界面ついての界面張力波のパワースペクトルの第1の例を示す図、図11は本発明の第2の実施の形態における二次元空間界面ついての界面張力波のパワースペクトルの第2の例を示す図である。
流体の運動に関するナビエ−ストークスの式、及び、界面形状の曲率半径に反比例して圧力が働くラプラスの式を考えると、界面の周辺を画定する円形又は多角形の各辺での振幅0を境界条件として、界面張力と固有振動周波数との関係を理論上導くことができる。微小振幅かつ微小粘度を仮定すると、ナビエ−ストークスの式が簡略化される。
例えば、長辺の長さがaであり、短辺の長さがbである長方形の二次元空間界面の場合、a方向への共鳴数及びb方向への共鳴数をm、n(m、n=1、2、3・・・)とすると、界面張力γは、次の式(7)で表される。
したがって、該式(7)を用いれば、一つの共鳴周波数f0 から界面張力γを求めることができる。
例えば、図10には四角形である二次元空間界面ついての界面張力波のパワースペクトルが示されており、図10に示されるグラフからは、四つの極値を明確に得ることができる。そして、(2、3)の極値に対応する共鳴周波数と前記式(7)とから、液体が水である場合の界面張力γ=72〔mN/m〕を得ることができる。
また、例えば、半径がaである円形の二次元空間界面の場合、共鳴数をm、n(m、n=1、2、3・・・)とすると、界面張力γは、次の式(8)で表される。
ここで、xmnはベッセル関数Jn (x)=0のm番目の解を表す。
例えば、図11には円形である二次元空間界面ついての界面張力波のパワースペクトルが示されており、図11に示されるグラフにおける(m、n)=(1、1)の極値に対応する共鳴周波数と前記式(8)とから、液体が水である場合の界面張力γ=72〔mN/m〕を得ることができる。
なお、四角形又は円形以外の形状の二次元空間界面の場合、各辺での振幅を0とする境界条件の下、ナビエ−ストークスの式とラプラスの式とを連立して数値解析することにより、共鳴周波数列を得ることができる。ある定まった界面張力で数値解析的に共鳴周波数列f1 、f2 、f3 、f4 、f5 ・・・を求めておく。想定される界面張力の範囲で細かく前記共鳴周波数列を用意しておき、測定結果にフィットさせることにより、界面張力を得ることができる。
次に、二次元空間界面としての円形界面の直径が異なる場合について説明する。
図12は本発明の第2の実施の形態における異なる直径の開口内の界面張力波のパワースペクトルの測定結果を示す図である。なお、図において、(a)及び(b)は互いに異なる直径の開口内の界面張力波のパワースペクトルの測定結果を示す図である。
本発明の発明者は、比較のために、異なる直径、すなわち、直径70〔μm〕の開口34を備える測定用セル30を作成し、同様の実験を行って、二次元空間界面についてのパワースペクトルを測定した。図12には、異なる直径の開口34内の界面35aについて界面張力波を測定した結果が示されている。
図12(a)は、直径70〔μm〕の界面35a、すなわち、直径70〔μm〕の円形の開口34の縁によって周辺がすべて画定された二次元空間界面についての測定されたパワースペクトルを示し、図12(b)は、直径40〔μm〕の界面35a、すなわち、直径40〔μm〕の円形の開口34の縁によって周辺がすべて画定された二次元空間界面についての測定されたパワースペクトルを示している。いずれのパワースペクトルも、複数の極値であるピークを含んでいる。
次に、スリット部13の開口13aの形状又は延在する方向を変化させた場合について説明する。
図13は本発明の第2の実施の形態におけるスリット部の開口の形状又は方向を変化させた場合の界面張力波のパワースペクトルの測定結果を示す図である。なお、図において、(a)はパワースペクトルの測定結果を示す図、(b)はスリット部の開口の形状又は方向を示す図である。
本発明の発明者は、スリット部13の開口13aの形状又は延在する方向を変化させて、同様の実験を行い、図13(a)に示されるような二次元空間界面についてのパワースペクトルを測定した。具体的には、スリット部13の開口13aを、図13(b−1)に示されるように円形とした場合、図13(b−2)に示されるように上下方向に延在する細長いスリットとした場合、及び、図13(b−3)に示されるように左右方向に延在する細長いスリットとした場合の各々において、直径40〔μm〕の界面35a、すなわち、直径40〔μm〕の円形の開口34の縁によって周辺がすべて画定された二次元空間界面についてのパワースペクトルを測定した。
図13(a)において、最上位に位置するグラフは、開口13aを、図13(b−1)に示されるように、円形とした場合のパワースペクトルを示し、中間に位置するグラフは、開口13aを、図13(b−2)に示されるように、上下方向に延在する細長いスリットとした場合のパワースペクトルを示し、最下位に位置するグラフは、開口13aを、図13(b−3)に示されるように、左右方向に延在する細長いスリットとした場合のパワースペクトルを示している。
図13(a)から分かるように、スリット部13の開口13aの形状又は延在する方向を変化させると、パワースペクトルに含まれる極値であるピークの判別の度合いが変化することが分かる。したがって、必要に応じて、スリット部13の開口13aの形状又は延在する方向を変化させることによって、界面35aで散乱された散乱光のスペクトルに含まれる極値、及び、該極値に対応する共鳴周波数の値を正確かつ容易に把握することが可能となる。
このように、本実施の形態において、液体35の界面35aは、周辺のすべてが画定された二次元空間界面としての円形界面である。この場合も、前記第1の実施の形態と同様に、複数の共鳴モードの各々の共鳴周波数に対応する極値を含むパワースペクトルが測定された。したがって、界面35aが二次元空間界面としての円形界面の場合も、前記第1の実施の形態と同様に、液体35の界面35aで散乱された散乱光のスペクトルを測定することによって、前記液体35がナノリットルからフェムトリットルスケールの微小量であっても、また、前記界面35aがマイクロメートルからナノメートルスケールの微小界面であっても、前記液体35の界面張力を容易かつ正確に測定することができる。
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図14は本発明の第3の実施の形態における測定用セルを示す図、図15は本発明の第3の実施の形態における異なる形状の開口の界面張力波のパワースペクトルの測定結果を示す図である。なお、図14において、(a)は測定用セルの側断面図、(b)〜(f)は三〜七角形の開口を備える測定用セルの下面図であり、図15において、(a)〜(c)は三〜五角形の開口の界面張力波のパワースペクトルの測定結果を示す図である。
図14(b)〜(f)に示されるように、本実施の形態における液体35の界面35aは、周辺のすべてが画定された二次元空間界面としての多角形界面である。測定用セル30は、前記第2の実施の形態と同様に、厚さ方向に貫通するように形成された内部空洞を備えるセル本体31と、ガラス板等から成り、前記内部空洞の一方(上方)の面を塞ぐ透明カバー板32と、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)の厚さ50〔μm〕のフィルムから成り、前記内部空洞の他方(下方)の面を塞ぐ境界画定板部材33とを備える。そして、前記内部空洞内には液体35が収容され、前記境界画定板部材33には、多角形の微小な開口34が形成され、該開口34に露出する液体35の界面35aで散乱された散乱光のスペクトルが測定される。
前記開口34の形状は、例えば、図14(b)〜(f)に示されるように、正三角形、正四角形(正方形)、正五角形、正六角形、又は、正七角形であるが、その他の多角形であってもよい。なお、前記開口34の大きさは、相当直径が前記第2の実施の形態における開口34と同様になるように決定される。
そして、前記第1の実施の形態において説明した図1に示されるような界面張力の測定装置10によって図14(b)〜(d)に示されるような多角形の形状を備える液体35の界面35aについて界面張力波を測定した結果が図13に示されている。
図15(a)は、図14(b)に示されるような正三角形の開口34の縁によって周辺がすべて画定された二次元空間界面についての測定されたパワースペクトルを示し、図15(b)は、図14(c)に示されるような正四角形の開口34の縁によって周辺がすべて画定された二次元空間界面についての測定されたパワースペクトルを示し、図15(c)は、図14(d)に示されるような正五角形の開口34の縁によって周辺がすべて画定された二次元空間界面についての測定されたパワースペクトルを示している。いずれのパワースペクトルも、複数の極値であるピークを含んでいる。
このように、本実施の形態において、液体35の界面35aは、周辺のすべてが画定された二次元空間界面としての多角形界面である。この場合も、前記第1及び第2の実施の形態と同様に、複数の共鳴モードの各々の共鳴周波数に対応する極値を含むパワースペクトルが測定された。したがって、界面35aが二次元空間界面としての多角形界面の場合も、前記第1及び第2の実施の形態と同様に、液体35の界面35aで散乱された散乱光のスペクトルを測定することによって、前記液体35がナノリットルからフェムトリットルスケールの微小量であっても、また、前記界面35aがマイクロメートルからナノメートルスケールの微小界面であっても、前記液体35の界面張力を容易かつ正確に測定することができる。
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第3の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図16は本発明の第4の実施の形態における測定用セルを示す図である。
図に示されるように、本実施の形態における測定用セル30は、他の相としての分散媒38(例えば、水)中に液体35(例えば、油)がコロイド状に分散し、球面状の界面35aを形成している。すなわち、本実施の形態における液体35の界面35aは、三次元空間界面としての球形界面である。そして、前記第1の実施の形態において説明した図1に示されるような界面張力の測定装置10によって前記界面35aについて界面張力波を測定することができる。
なお、その他の点の構成及び動作については、前記第1〜第3の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
また、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。