JP5815529B2 - 向上した保存可能期間を有するトマト - Google Patents

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Description

発明の分野
本発明は、その果実(fruit)が、既存のトマト果実と比較して向上した(improved)保存可能期間(shelf-life)を有するトマト植物に関する。本発明はさらに、向上した保存可能期間を有するかかる植物を得るための、かかる植物の子孫(progeny)および繁殖材料(propagation material)にも関する。本発明はまた、本発明の向上した保存可能期間の形質を導くゲノム情報を含む生殖質(germplasm)およびこの生殖質の使用にも関する。
トマトの商業生産は質と組み合わせて生産性をねらっている。質は様々な点、例えば、風味、味、質感、口当たり、外観、形状、色、可溶性固形物、栄養化合物、耐病性および保存可能期間に関して規定されうる。果実の熟成(ripening)の過程において、これらの質の形質は、生育条件および収穫後処理とともに品種(variety)に応じて多様に発達しうる。それゆえ、最終製品、即ち消費される果実はしばしばこれらすべての形質の間の妥協である。
果実の発達的特性を最適化することは、栽培業者の収益性に寄与する。植物育種は栽培者に、高い生産性のために交配された品種を伝統的に提供してきた。かかる品種は、特定の環境条件下で栽培者が果実のバイオマス生産を最大にすることを可能にするように選抜されてきた。
しかし、最近、トマトの生鮮市場は、伝統的な品種に加えて、風味、味および質感等の質的形質が向上した生成物が要求されるという意味で変化してきた。これは、上昇した質的形質に対する育種の標的の修正を導いてきており、それは好ましくは高い生産性と組み合わされたものである。
この点に関して鍵となる形質は保存可能期間である。収穫された果実が質感および硬度(firmness)を損なうことなくより長期間保存できる品種は、より後の発達段階において収穫することができる。これは、作物の成育中に質的形質が発達しうるという計り知れない利点を有する。さらに、質感および硬度を損なうことなく成熟することができる果実は、生鮮(fresh cut)市場にとって興味深いものでありうる。
発現される質的形質の組み合わされた価値は市販品種の間で大幅に相違しうる。収穫されたトマト果実の全体としての質の向上における主な障害は、風味、色および味等の質的形質の発達が、長い保存可能期間を有する果実を収穫することを望むこととしばしば一致しないという事実によってもたらされる。長い保存可能期間は、収穫および保存の際の過度の損傷(bruising)を避けるために要求される。着色および軟化の点での果実の熟成は収穫後も続くため、この問題の解決手段はしばしば、トマト果実を成熟緑色またはブレーカー(breaker)段階で収穫することによって見いだされ、その後それらは保存期間中に赤色に変化する。かかる慣行の大きな利点は、果実は収穫の際にいまだに非常に硬く、それゆえ、損傷に対して高い抵抗性を有することである。果実は赤く色着いた、損傷のない状態で消費者に到達するであろう。これは保存可能期間の制限に対する実践的な解決手段ではあるが、製品が延長された期間保存される必要がある場合、例えば、長い輸送距離を伴う場合、このアプローチは依然として不適切である。
さらなるそして非常に重要な問題は、着色および軟化は収穫後も発達するのに対して、風味および味は発達しないことである。それゆえ、保存可能期間の質的形質は、風味および味の質的形質と矛盾するようである。それゆえ、風味および味等の質的形質が、長い保存可能期間と組み合わせて収穫前に発達しうるように、トマトを改良することが望ましい。
トマトにおける長い保存可能期間のさらなる利点は、果実の収穫に必要とされる労働投入量と関連する。通常の保存可能期間を有する果実は、成熟度の変動に起因する果実の収穫後の質に関する過剰の変動を防ぐために同一の発達段階にてできるだけ多くつみ取られる必要がある。これはときには1日に2回でさえもありうる。長い保存可能期間のトマトが利用可能であれば、そのような労力集約的な収穫の必要がなくなる。というのは収穫の際の発達段階にかかわらず、果実は成熟し、硬いまま残るからである。労働投入量の削減に加えて、収穫時期における柔軟性は、市場の需要に応じて生成物の送達を注文設計することを可能とする。
エチレンは熟成の強力な刺激因子であるため、トマト果実の保存可能期間を向上させるための過去の試みは、エチレン生産が少ないかまたはエチレンに対する感受性が低い果実の遺伝的変異を選抜することを含むものであった。これにより、向上した保存可能期間を有する多数の多面的(pleiotropic)熟成突然変異体の同定が導かれ、それらは異なる詳細さのレベルにて特徴決定されてきた (Giovannoni, J (2007) Current Opinion in Plant Biology 10, 283−289)。例えば、Never−ripe (NR) 突然変異体はエチレン受容体遺伝子において突然変異していることが示されており、その結果エチレンに対する非感受性がもたらされている。この突然変異により、果実は収穫後の保存の際にも硬いままであるが、熟成および関連する色および味の発達が阻害されている。
さらに、ripening-inhibitor (rin)、non-ripening (nor) およびcolourless non-ripening (cnr) 突然変異体が同定されており、それらはエチレンの産生またはエチレンへの応答に関与する転写因子をコードする遺伝子において改変されている。
rinなどの突然変異体はより良好な保存可能期間について一定の実践的価値を有するが、それにはいまだに改善の余地がある。好ましい状況において、上昇した(increased)保存可能期間が、正の熟成-関連質的形質、例えば、着色、風味、および質感を損なわずに達成されるべきである。
トマト果実の成長と発達については、多数の連続する相が識別されうる。もっとも早い相は花の発達である。第二の相としての授粉の後に、初期の果実発達が起こり、それは高頻度の細胞分裂によって特徴づけられる。第三の相の間に、果実は細胞拡張に主に起因してサイズにおいて迅速に上昇する。第三の相の最後に、果実は成熟緑色段階に達する。第四の相の間に果実熟成が起こり、それは色および風味ならびに果実硬度(fruit firmness)および質感の変化によって特徴づけられる。
トマト果実の特徴的な赤い色の発展は、リコピンおよびカロテンの蓄積によってもたらされる。一般に、異なる着色相は区別される: 成熟緑色、ブレーカー(breaker)、ピンクおよび赤色である。典型的な赤色の着色(pigmentation)はブレーカー段階において始まる。赤く熟した段階または赤く熟して収穫された果実段階(red ripe harvested fruit stage)は、果実が果実の主要な部分においてその成熟した色に到達した段階である。さらに、酵素活性が細胞壁の中央の層状領域の分解をもたらし、それは、果実の軟化および質感のロスとして現れる細胞のゆるみを導く。果実の軟化はしばしば、圧縮に対する外部抵抗として測定され、それは例えば針入度計によって定量されうる。
詳細な分子的および生化学的研究により、エンドポリガラクツロナーゼおよびペクチンメチルエステラーゼなどの活性が果実の軟化に関与していることが示された。これら酵素をコードする遺伝子のアンチセンス阻害は、一般に果実硬度の改良をもたらさなかった。このことは、その他の活性が全体の軟化プロセスに関与していることを示す。この点に関して、果実の熟成に関連するエクスパンシン(expansin)が、果実軟化のプロセスに関与するものとして同定されている。熟成関連(associated)エクスパンシンのアンチセンス阻害は実際に、果実の軟化の速度における小さな低下をもたらした。
トマト果実の保存可能期間を上昇させるための別のアプローチとして、デオキシハイプシン合成酵素 (DHS)が、遺伝子組換えにより(transgenically)抑制された (Wang, T. et al (2005) Plant Physiology 138, 1372−1382)。トランスジェニック植物の果実は着色に関しては正常の熟成(normal ripening)を示したが、DHS 抑制のレベルに関連した収穫後の軟化および老化の低減を示した。これらの事象(event)のいくつかは、ブレーカー段階での果実の収穫後44日目まで果皮のしわを伴わなかった。しかしながら、強力に抑制されたDHS 事象は、DHSがいくつかの翻訳開始因子5A (eIF−5A)を調節するという事実におそらくは起因して雄性不稔などの多面的効果を示した。
さらに、7ヶ月までもの非常に長い保存可能期間を特徴とする遅延果実劣化(Delayed Fruit Deterioration) (DFD)と称される天然の突然変異が記載されている(Saladie, M. et al (2007) Plant Physiology 144, 1012-1028)。この突然変異体は、果実の外部圧迫に対して高い耐性を有し、水分ロスが最小化されているが、内部組織は通常の軟化を経る。これは、果実組織の軟化と果実硬度とが必ずしも関連していないことを示す。
これらの研究の結論は、おそらく様々な生理的プロセスが全体の果実軟化プロセスに関与しているということである。熟成に関与していることが知られている単一の遺伝子の改変は、正常の熟成を示すが組織軟化が最小化された果実をもたらすにはいまだに至っていない。結論は、熟成をこのようにして改変するのは生理的に実行不可能であるということであろう。
あるいは、多くの遺伝因子が熟成プロセスに関与しているので、これらの遺伝子を同時に改変する必要があるのかもしれず、即ち、決定的因子はいまだに同定されていない。
トマトはクリマクテリック(climacteric)果実であるので、その熟成相は、上昇したエチレン生産および呼吸バーストにより特徴づけられる。呼吸は糖の代謝的酸化であり、CO2の放出を導く。この呼吸活性の副生成物として、活性酸素種(ROS)が形成され、これは非常に反応性が高く、細胞構造に顕著な損傷をもたらし得、酸化的ストレスを導く。ROSは、葉と果実との両方における老化の促進において重要な役割を果たすことが示唆されている。クリマクテリック相の間に、風味 (揮発性物質、糖、酸)および色化合物が形成され、かかる化合物は、トマト果実にその典型的な味覚認識と外観とを与える。
老化相は最終の熟成相であり、それは果実組織のさらなる軟化、上昇した呼吸および水分ロスにより特徴づけられ、水分ロスはさらに種子の散布を促進する。ボトリチスなどの日和見病原体による感染は、この段階にて比較的容易に起こりうる。
トマトはクリマクテリックであるため、果実は成熟緑色またはブレーカー/ピンク段階にてつみ取ることができ、その後、着色および軟化プロセスは、収穫後も起こり続ける。必要な場合は、熟成プロセスを促進するために、収穫した未熟な果実を外因性エチレンに曝露してもよい。熟成プロセスにおけるエチレンの重要な刺激性の役割により、保存可能期間を上昇させる試みは、果実熟成を遅延させるために、エチレン生合成、認識またはエフェクター遺伝子に注目してきた。自然変異の選抜ならびに遺伝子組み替え技術の両方を介して、エチレン成分の改変が成功してきており、その結果、熟成プロセスの遅延を介して延長した(extended)保存可能期間がもたらされている。かかるアプローチの好ましくない点は、果実熟成に関連する望ましい質的形質も同様により遅く発達するということである。
それゆえ、本発明の目的は、果実の老化を阻止または阻害することにより果実の保存可能期間を延長するが、可能な限り熟成プロセスが完了することを可能とする形質を提供することである。
老化は、植物または葉や果実などの植物器官の生活環の最後にある天然の発達プロセスである。老化を刺激する周知の因子は、発育年齢、損傷、剥離(detachment)、暗条件(darkness)、栄養不足およびホルモンである。エチレンは老化を刺激することが知られている植物ホルモンであるが、ジャスモン酸などのその他のホルモンもまたこのプロセスに寄与しうる。葉の発育の最終段階において、資源を種子などの繁殖構造へと再可動化するために代謝が再プログラミングされる。
老化のもっとも明白な兆候である葉の黄変は、老化の比較的後期の段階におけるクロロフィル分解の結果であり、それはいったん葉が受容可能になるとエチレンにより促進されうる。老化はまた、果実熟成の最終段階ともみなされる。このプロセスは広範な組織軟化、水分ロスおよび劣化により特徴づけられ、それらは種子の散布に役立ちうる。エチレン生合成および応答に加えて、つみとられた(detached)果実の収穫後代謝は、呼吸の強い促進により特徴づけられ、それは結果として活性酸素種 (ROS)の生産を導く。
酸化的ストレスは老化に顕著に寄与することが知られているが、エチレンと比較すると果実熟成に関して徹底的に研究されていない。一つの研究は、果実劣化とROS 消去酵素のレベルとの間の相関を記載しており、これは少なくともこれらの酵素の果実老化における機能的役割を示唆している(Mondal, K. et al (2004) Biologia Plantarum 48, 49−53)。
本発明の新規なトマトの開発に用いられる方法は、除草剤パラコートによってもたらされる酸化的ストレスに対する耐性のレベルがより高い植物を選抜することによる老化の阻害に関する。老化の空間的および時間的制御が複雑であることから、多くの調節およびエフェクター遺伝子が老化に関与していると予測されうる。遺伝学研究により、葉および果実の両方の老化に関与する多数の遺伝子が発見されたが、老化に関与する遺伝因子のほとんどは現在いまだに未知である。それゆえ、より先入観のないアプローチがこの点においてより成功するために必要であることが結論された。かかるアプローチは、遺伝的変異を含む集団の酸化的ストレスへの曝露を含む。
酸化的ストレスが除草剤パラコート (N,N’−ジメチル−4,4’−ビピリジニウムジクロリド)の適用により与えられた。パラコートは低い酸化還元電位を有するので、植物に適用されると容易に還元される。この結果、パラコートのラジカルイオンが形成され、それはスーパーオキシド・ラジカルを生成する。スーパーオキシド・ラジカルは顕著な酸化的損傷をもたらし、最終的には細胞死をもたらす。パラコートに対して耐性であり、高レベルの酸化的ストレス耐性を有する植物はまた、向上した保存可能期間を有するであろうと予測された。
したがって、本発明を導いた研究において、突然変異体集団が、除草剤パラコートの適用によりスクリーニングされた。そのなかからパラコート耐性を示し、野生型トマト植物においてみられるよりも良好な保存可能期間を示す新規な突然変異体が同定された。
本発明はしたがって、突然変異体 LePQ58 (受託番号 NCIMB 41531)からの向上した保存可能期間の形質を通常の保存可能期間を有するトマト植物へと遺伝子移入すること(introgressing)によって得られうる、野生型トマト植物の果実と比較して、その果実が向上した保存可能期間を有するトマト植物に関する。
本発明の向上した保存可能期間の形質は、本明細書において、本発明の形質を有さない類似の遺伝的背景を有する果実と比較して、少なくとも 31%、好ましくは少なくとも 42%、より好ましくは少なくとも 52%、さらにより好ましくは少なくとも 60%、もっとも好ましくは少なくとも 70%上昇した赤く熟した収穫物(red ripe harvest)における果実硬度として規定される。
本発明の向上した保存可能期間の形質はさらに、赤く熟して収穫された果実段階(red ripe harvested fruit stage)と比較して、50%未満、好ましくは43%未満、より好ましくは38%未満、さらにより好ましくは32%未満、もっとも好ましくは25%未満低下した、収穫の4週間後(4 weeks post harvest)における果実硬度を有するものとして規定される。さらに、本発明の果実は正常の熟成を示し、それにより着色が速度および強度において対照と同様である。果実硬度は外部圧迫に対する耐性であり、針入度計、好ましくは実施例に記載のように、モデルFT327(QA Supplies、Norfolk Virginia)によって測定される。「野生型」トマト植物は、その果実が本発明の形質を担持しないトマト植物である。対照は、本発明の形質を除いては同一または類似の遺伝的背景を有するトマト植物である。本出願において用いられる場合、正常の熟成は、着色が速度および強度において対照と同様であることを意味する。
本出願において、用語「保存可能期間」との関係において用いられる、「向上」、「上昇」および「延長」という用語は、互換的に用いられ、いずれも同様の遺伝的背景を有する果実よりも少なくとも 31% より硬い赤く熟した収穫物における果実硬度、および/または50%未満低下した収穫の4週間後における硬度において表されるより良好な保存可能期間を有し、かつ、対照と同様の熟成を有することを意味する。
本出願において用いられる場合、形質を「遺伝子移入」するとは、形質が親から子孫植物へと移されることを意味する。形質の遺伝的形質(inheritance)に応じて、子孫植物は第一またはさらなる世代の植物であってもよい。しかし、必要条件は、子孫植物が実際に本発明の形質を獲得しており、したがって表現型の上で向上した保存可能期間の形質を発現することである。これは、子孫植物によって作られるトマト果実を少なくとも収穫後4 週間維持し、上記のように果実硬度および着色を試験することによってテストすることができる。
本発明はさらに、そのゲノム内に、保存可能期間の延長に必要であってトマト植物 LePQ58のゲノムにおいてみられる遺伝情報を有する植物または植物の部分であって、その種子がNCIMB 受入番号 41531の下で寄託されている植物または植物の部分にも関する。
本発明はさらに、本発明のトマト植物の種子および該植物の部分にも関する。一つの態様において、本発明は、有性生殖に好適な植物の部分に関する。かかる部分は、例えば、小胞子、花粉、子房、胚珠、胚嚢および卵細胞からなる群から選択される。さらに、本発明は、栄養生殖に好適な植物の部分、特に、切り取った部分(cutting)、根、茎、細胞、プロトプラストに関する。
そのさらなる側面によると、本発明は、本発明のトマト植物の組織培養物(tissue culture)を提供する。組織培養物は再生可能な(regenerable)細胞を含む。かかる組織培養物は、葉、花粉、胚、子葉、胚軸、分裂組織細胞、根、根端、葯、花、種子および茎に由来しうる。
本発明の別の側面によると、その代表種子がNCIMBに受入番号 NCIMB 41531の下で寄託された本発明のトマト植物と同一または類似の上昇した保存可能期間を有するトマト植物が提供され、かかる植物は本発明の植物の種子から成育するかあるいはその部分または組織培養物から再生する。
本発明はまた、本発明のトマト植物の子孫にも関する。かかる子孫は本発明の植物またはその子孫植物の有性または栄養生殖によって作られうる。再生した植物は、請求項に記載のその代表種子がNCIMBに受入番号 NCIMB 41531の下で寄託された植物と同一または類似の延長した保存可能期間を有する。これは、かかる子孫が、本発明のトマト植物について請求項に記載したものと同じ特徴、即ち、上昇した保存可能期間を有することを意味する。これに加えて、植物は1以上のその他の特徴において改変されていてもよい。かかるさらなる改変は、例えば、突然変異誘発または導入遺伝子による形質転換によってなされる。
さらに、本発明は、既知の長い保存可能期間の遺伝子に起因して向上した保存可能期間を示すが、熟成に関連する質の側面においては野生型トマト果実と比較して低下している、例えば、それらを本発明の形質とは異なるものとする、遅い熟成および低下した色強度であるトマト植物の改良に関する。
熟成傾向(habit)における相違の表現型の観察は別にして、本発明の向上した保存可能期間の形質とその他の保存可能期間の遺伝子との間の相違は、対立性アッセイを実施することによって容易に遺伝的に確立することができる。これは、ホモ接合性であるべきまたはホモ接合性にされるべき2つの事象(event)を交配すること(crossing)および結果として得られる異種交配種(hybrid)、およびそれに続くF2 世代の表現型を決定することを含む。事象の対立性(allelism)である場合、向上した保存可能期間は、F1およびF2の両方のすべての植物において明らかであろう。即ち、形質は分離しないであろう。表現型が異なる遺伝子座によって決定される場合、これはあてはまらず、F1 および/または F2において分離が観察されるであろう。
本発明はしたがって、第一のトマト親植物と第二のトマト親植物とを交配すること(ここで、親の一方は、その代表サンプルがNCIMB 受入番号 41531の下で寄託された種子から成育した植物であるかまたはその子孫植物である)、および、雑種(cross)の子孫から向上した保存可能期間を示すトマト植物を選抜することによって得られうる、向上した保存可能期間を示すトマト植物に関する。選抜が行われる子孫は好適にはF2 子孫である。
本発明はさらに、雑種種子および、第一の親植物と第二の親植物とを交配することおよびその結果得られる雑種種子を収穫することを含む雑種種子の生産方法に関し、ここで、該第一の親植物または該第二の親植物は本発明の植物である。形質が劣性である場合、両方の親植物は、雑種種子が本発明の形質を担持するためには、向上した保存可能期間の形質についてホモ接合性である必要がある。それらは、その他の形質については必ずしも均一である必要はない。
一つの態様において、本発明は、向上した保存可能期間の形質を含むトマト植物に関し、該植物は以下によって得られうる:
a)その代表種子が受入番号 NCIMB 41531の下でNCIMBに寄託された植物と、該形質を示さない植物とを交配することにより、F1 集団を得る工程;
b)F1 集団からの植物を自家受粉させること(selfing)により、F2 集団を得る工程;
c)本発明のトマト果実と同一または類似の上昇した保存可能期間を有する果実を生産する植物について該 F2において選抜する工程;および、
d)所望により工程b)およびc)を繰り返す工程。
本発明の形質を提供する親は必ずしも寄託された種子から直接成育された植物である必要はないことは明らかである。親は、該種子からの子孫植物であってもよいし、その他の手段、例えば、分子マーカーにより、本発明の形質の遺伝情報を有すると同定された種子からの子孫植物であってもよい。
請求項に記載の植物の子孫もまた本発明の一部である。本明細書において用いられる「子孫」は、本明細書に記載する元の(original)植物と同一または類似の保存可能期間の延長を有し、あらゆる手段によってそれらに由来するすべての植物を包含する意図であり、かかる手段としては、交配、半数体培養、プロトプラスト融合またはその他の技術が挙げられる。かかる子孫は、保存可能期間の延長が保持される限り第一世代のみならずすべてのさらなる世代である。
本発明はさらに、本発明の上昇した保存可能期間を付与するゲノム領域を含む生殖質および育種計画(breeding program)における該生殖質のその他の生殖質への遺伝子移入のための使用に関する。
本新規トマト植物 (Solanum lycopersicum)の代表種子は、NCIMB Ltd.、Ferguson Building、Craibstone Estate、Bucksburn、Aberdeen、AB21 9YA Scotland、UKに2007年12月17日に寄託され、受入番号 NCIMB 41531を付与された。
本発明をさらに以下の実施例において説明するが、それは、いかなるようにも本発明を限定する意図のものではない。
本発明を添付の図面において説明する:
図 1は、パラコートを用いる処理に対して生き残ったトマトのM2 突然変異体の例を示す。近隣の植物は除草剤によって完全に死滅した。 図 2は、パラコートを用いる処理に対して生き残ったトマト M2 突然変異体のM3 子孫スクリーニングの例である。3ブロックの植物がこの図に示される。右側に、完全に感受性の突然変異体集団 (LePQ28)が示され、この集団はパラコートにより完全に死滅した。中央に、完全に耐性の M3 集団 (LePQ19) が示され、この集団の植物は正常の形態(habitus)を有し、パラコートによる処理に対して生き残った。左側に、耐性の M3 集団 (LePQ15)が示され、この集団の植物はパラコートによる処理に対して生き残ったが、矮性の、白化した表現型を有する。 図 3は、トマトのパラコート耐性突然変異体の老化の速度を決定するための脱離(detached)葉アッセイを示す。1: wt 対照、2: LePQ19、3: LePQ37、4: LePQ48、5: LePQ58、6: LePQ96。 図 4は、LePQ48 (左側)、LePQ58 (中央) および LePQ96 (右側)の成熟緑色果実の緑色における差異を示す。 図 5は、対照植物(1)のトマト果実および突然変異体LePQ19 (2)、LePQ49 (3)、LePQ58 (4)およびLePQ96 (5)の果実の保存可能期間アッセイを示す。果実は成熟赤色段階にて収穫した。写真は室温での果実の保存の56日後に撮影する。
実施例 1
emsを用いるトマトの遺伝子改変
トマト系統 TO 029 (丸(round)トマト)のおよそ5000の種子を、0.05% (w/v) または 0.07% (w/v)のいずれかの emsの通気溶液中で室温で24 時間インキュベートした。ems 処理の後、M1 種子を水中ですすぎ、24℃で16 時間明期、8 時間暗期の管理体制にて温室に植え、成熟植物へと成育させ、開花を誘導してM2 種子を作らせた。
成熟後、M2 種子を収穫し、バルクとし(bulked)、さらに使用するまで保存した。突然変異頻度をクロロフィル生合成が阻害されている白化した表現型を示す個々の植物の相対数に基づいて評価した。
実施例 2
パラコート耐性のトマト突然変異体のスクリーニング
M2 種子を鉢植え用の土に播き、小植物体を第一の本葉が出現するまで成育させた。この段階において、植物に、感受性のトマト植物にとっては致死的な用量のパラコートを噴霧した。条件に応じて異なるが、一般に3 日後に、葉の上の最初の壊死兆候が見えるようになった。除草剤処理のおよそ 7 日後、感受性のトマト植物は完全に壊死する。この段階において、生き残った突然変異体植物を標識し、推定パラコート耐性であるとみなした。総数40.000のM2 植物をスクリーニングした結果、29の推定パラコート耐性突然変異体が得られた(図 1)。
推定パラコート耐性トマト植物を成育させて成熟させ、自家受精によりM3 種子を作らせた。
実施例 3
トマトの推定パラコート耐性 M2 突然変異体のM3 子孫試験
M3 種子を、29の推定パラコート耐性トマト植物から収穫した。各突然変異体について、32の種子を鉢植え用の土に播き、小植物体を標準的トマト生育条件を用いて温室中で育てた。第一の本葉が出現した後、植物に、パラコート感受性対照トマト植物にとっては致死的な用量のパラコートを噴霧した。パラコート耐性植物を含む子孫は、真のパラコート耐性 M2 突然変異体に由来するとみなした。
図 2に示すように、異なるM3 集団の間で、応答および表現型におけるいくらかの相違が観察された。子孫植物のいくつかは完全に耐性の表現型を示し、いくつかは感受性であることが判明した。子孫の別の群は、矮性の白化した表現型を示した。完全に感受性の表現型を示した子孫は、突然変異の結果ではなくパラコート処理に対して生き残ったM2 植物に由来するものとみなされる。試験した29のM3 集団のなかで、6つは矮性の白化した表現型を示したが、パラコート処理に対してはすべて生き残った。残りの23のM3 集団のなかで、5つの集団は処理に対して生き残る植物を含んでいた。その他のすべての事象は感受性であった。
正常の植物形態(habitus)を示した5つのパラコート耐性のトマト事象を、除草剤処理の後の生存を可能とするM2 突然変異体における突然変異に由来するものとみなした。これらの事象に以下の名前を付けた: LePQ19、LePQ37、LePQ48、LePQ58 および LePQ96。
実施例 4
トマトのパラコート耐性突然変異体の葉老化アッセイ
突然変異体集団から選抜されたパラコート耐性機構が葉の老化に対して効果を有するかどうかを評価するために、脱離葉アッセイを行った。5種類のパラコート耐性突然変異体および野生型対照植物 (突然変異体集団についての出発系統)のM3 植物を温室中で成育させた。植物が開花し始めたら、8-10枚の葉を植物から脱離させ、密閉容器中で暗黒化で室温でインキュベートした。葉が乾燥してしまうのを防ぐために、葉を水飽和脱脂綿上に置いた。
2週間のインキュベーション後、脱離させた葉の老化が明白となった。パラコート事象のなかの1つ、即ち: LePQ58は、葉の黄変における遅延を示し、これは老化応答が低下していることを示す (図 3)。
実施例 5
低下した葉の老化を示すトマトのパラコート耐性突然変異体の成熟緑色果実の特徴
トマトにおける異なるパラコート耐性突然変異の効果を、果実形成の果実拡張相の間のそれらの緑化の程度に関して比較した。LePQ58 突然変異体の成熟緑色果実は、果実が呈する緑色の強度に関して野生型とその他のパラコート耐性突然変異体に対して明らかな相違を示した。図 4に示すように、LePQ58 果実は成熟緑色相において野生型対照およびその他のパラコート耐性突然変異体と比較してより暗い緑色を示した。
実施例 6
トマトのパラコート耐性突然変異体の果実保存可能期間アッセイ
突然変異体集団から選択されたパラコート耐性機構が果実の老化に効果を有するか否かを評価するために、保存可能期間アッセイを行った。5 種類のパラコート耐性突然変異体および野生型対照植物 (突然変異体集団についての出発系統)のM3 植物を温室内で成育させた。
果実が着果し、果実熟成の初期相が起こった後、果実を赤く熟した段階にて植物から切り離し、室温で保存した。対照植物および突然変異体 LePQ19、LePQ37、LePQ48、LePQ96から切り出した果実は保存のおよそ 14 日後に軟化し始めたが、LePQ58からの果実はこの期間にわたって硬いままであった。延長した保存の結果、果実のさらなる縮小、果皮の亀裂および偶発性の真菌感染の発生が起こった。突然変異体 LePQ58からの果実は、56 日の期間の後にも軟化の兆候を示さなかった(図 5)。
それゆえ、赤く熟した段階にて収穫された場合、対照、LePQ19、LePQ37、LePQ48および LePQ96と比較して、突然変異体 LePQ58 は果実の向上した保存可能期間を有することが結論される。
実施例 7
トマトの長い保存可能期間の突然変異体 LePQ58の収穫後果実硬度
突然変異体 LePQ58 および陰性対照の植物を温室内で成育させ、果実を作らせて収穫後果実硬度を判定した。陰性対照として、突然変異体 LePQ58が単離されたものと同じ集団からのものであるが、パラコートに感受性の植物を用いる。果実を赤く熟した段階にて収穫し、21℃で温室内で実験中保存した。収穫の直後ならびに収穫の4および6 週間後において、果実の硬度を針入度計 (model FT327、QA Supplies、Norfolk Virginia)を用いて判定した。各測定について、多数の果実を用いて、果実の皮をやぶるために針入度計によって課される必要がある圧力(Kg/cm2)を判定した。かかる測定は全体の果実硬度を反映しているとみなされる。結果を表1に要約する。
表 1
LePQ58についての収穫後果実硬度判定。収穫の0、4 および6 週間後において、 Kg/cm2 にて表されるLePQ58および対照果実の硬度を針入度計を用いて判定した。示された数の果実についての平均値が与えられる。
Figure 0005815529
結果は、LePQ58から収穫された果実はすべての収穫後の時点、即ち、0、4 および6 週間後において針入度計により課された高圧に耐えることができたことを示し、このことから、LePQ58 からの果実は陰性対照と比較してより高い硬度を有することが推察できる。収穫後保存期間の間の果実硬度の低下は、陰性対照の果実についてのものと比較してLePQ58 果実についてはより小さいこともさらに示される。LePQ58および陰性対照の果実の着色は速度と強度との両方において類似しているので、LePQ58 は硬い(firm)-熟成突然変異体であることが結論される。
第二の実験において、LePQ58の果実硬度を、Mecanoと称される F1 交配種の果実硬度と比較した。Mecano は硬い熟成果実を作り、保存可能期間に関して市場の標準であるとみなされている。LePQ58、Mecano および陰性対照の収穫された果実を、上記のようにして針入度計を用いて保存の4 週間後にそれらの収穫後硬度について判定した。結果を表 2に要約する。
表 2
F1 交配種(hybrid)であるMecanoと比較したLePQ58についての収穫後果実硬度判定。収穫の4週間後に、Kg/cm2にて表されるLePQ58、Mecano および対照果実の硬度を針入度計を用いて判定した。示された数の果実についての平均値が与えられる。
Figure 0005815529
結果は、LePQ58の果実はMecanoの果実と比較してより高い収穫の4 週間後の果実硬度を有することを示す。Mecanoの果実は一方、陰性対照と比較して高い果実硬度を有する。この実験から、LeQP58 果実は現在の市場の標準と比較してより高い収穫後硬度を有すると結論される。
実施例 8
トマトの長い保存可能期間の突然変異体 LePQ58の収穫後果実重量ロス
蒸発の結果としての重量ロスは、保存されるトマト果実の重要な質的形質であるとみなされている。突然変異体 LePQ58 ならびに陰性対照の果実を、赤く熟した段階にて収穫し、21 ℃で実験期間中保存した。陰性対照として、 突然変異体 LePQ58が単離されたものと同じであるが、パラコートに感受性の集団からの植物を用いる。LePQ58 および陰性対照の4つの果実の新鮮重量を、収穫直後および4 週間の保存後に測定した。この実験の結果を表 3に要約する。
表 3
陰性対照と比較してのLePQ58についての収穫後果実重量ロス判定。収穫の0 および4 週間後に、LePQ58 および陰性対照の果実の新鮮重量を測定した。
Figure 0005815529
結果は、LePQ58の果実は室温での4 週間の保存の間にそれらの新鮮重量の13%を失ったのに対し、陰性対照果実はそれらの新鮮重量の50%を失ったことを示す。それゆえ、LePQ58 突然変異体は、蒸発による収穫後重量ロスに対するその耐性に関して強度に向上しているとみなされる。

Claims (12)

  1. の果実が野生型トマト植物の果実と比較して向上した保存可能期間を有するトマト植物であって、そのゲノム内に該向上した保存可能期間の原因である遺伝情報を含み、該遺伝情報が、その種子が受託番号 NCIMB 41531の下に寄託されているトマト植物LePQ58のゲノムにおいて見出されるものである、トマト植物
  2. 上昇した保存可能期間が、本発明の形質を有さない類似の遺伝的背景を有する果実と比較して、少なくとも 31%上昇している赤く熟した収穫物における果実硬度を有する正常の熟成を示す果実を含む、請求項 1のトマト植物。
  3. 上昇した保存可能期間が、正常の熟成、および、赤く熟して収穫された果実段階と比較した場合に、50%未満低下している収穫の4週間後における硬度を示す果実を含む、請求項 1または 2のトマト植物。
  4. その代表種子が受託番号 NCIMB 41531の下で寄託された植物である請求項1-3のいずれかのトマト植物。
  5. 以下によって得られうる請求項1-3 のいずれかの向上した保存可能期間の形質を含むトマト植物:
    a)その代表種子がNCIMBに受入番号 NCIMB 41531の下で寄託された植物と、該形質を示さない植物とを交配して F1 集団を得る工程;
    b) F1 集団からの植物を自家受粉させてF2 集団を得る工程;
    c)本発明のトマト果実と同一または類似の上昇した保存可能期間を有する果実を生産する植物について、該 F2において選抜する工程;および、
    d) 所望により、工程b)およびc)を繰り返す工程。
  6. 請求項1-5のいずれかの植物のトマト果実。
  7. 請求項1-5のいずれかの植物の子孫。
  8. 請求項1-5のいずれかの植物の繁殖材料。
  9. 材料が、小胞子、花粉、子房、胚珠、胚嚢、卵細胞、切り取った部分、根、茎、細胞、プロトプラスト、および再生可能な細胞を含む組織培養物から選択される請求項 8の繁殖材料。
  10. その代表種子が受入番号 NCIMB 41531の下で寄託された突然変異体 LePQ58から得られうる、延長した保存可能期間の形質を担持する生殖質。
  11. 突然変異体 LePQ58の子孫植物から得られうる、依然として延長した保存可能期間の形質を担持する、請求項 10の生殖質。
  12. 請求項 10または11の生殖質の育種計画における使用。
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