以下に、本願の開示する基地局、ベースバンド信号処理装置、及び無線通信方法の実施例を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この実施例により、本願の開示する基地局、無線通信システム、及び無線通信方法が限定されるものではない。
まず、本願の開示する一実施例に係る無線通信システムの構成を説明する。図1は、無線通信システム1の構成を示す図である。図1に示すように、無線通信システム1は、基地局10と、移動局20とを少なくとも有する。基地局10は、ベースバンド部11とRF(Radio Frequency)部12とを有する。更に、ベースバンド部11は、送信制御部111と故障判定部112とを有し、RF部12は、変復調部121を有する。これら各構成部分は、一方向又は双方向に信号の入出力が可能なように信号線を介して接続されている。
送信制御部111は、基地局10内でのデータトラヒック量、及び移動局20からのフィードバック情報(CQI(Channel Quality Indicator)値、受信側の復号結果等)に基づき、下り方向のパケットデータのリソース割当てスケジューリングを行う。あるいは、送信制御部111は、上記フィードバック情報に基づき、コーディング処理や、HARQ(Hybrid Automatic Repeat reQuest)方式に基づく再送制御処理を実行する。また、送信制御部111は、上位装置としてのRNC(Radio Network Controller)30より受信された下り方向のデータに対して、コーディング処理を実行した後、無線通信システム1の変調方式に基づいたマッピング及び変換処理を施し、変復調部121に出力する。
なお、上記変調方式は、例えば、CDMA(Code Division Multiple Access)方式、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)方式である。また、上記受信側復号結果としてのACK、NACK情報は、各MAC−hs(Medium Access Control−High Speed downlink packet access)データフレームに対する移動局20側での復号結果(正常または異常)を示すものである。送信制御部111は、当該ACK、NACK情報を基に、HARQ方式に基づく既送信データの再送を行うか、新規の未送信データに対するリソースの割当てを行うかを決定する。
故障判定部112は、スケジューリング対象のセクタ内において所定の監視周期内に接続された各移動局につき、後述の情報を監視する。監視される情報は、例えば、MAC−hs PDU(Protocol Data Units)に割り当てられた各送信データのTBS(Transport Block Size)、各移動局からのフィードバック情報により得られる無線チャネル品質の指標値であるCQI値を含む。また、監視される情報は、MAC−hs PDUに割り当てられた各送信データに対する各移動局の復号結果を含む。この復号結果は、各移動局からのフィードバック情報により得られるACK、NACK、DTX情報である。各送信データは、各移動局側にて正常に復号されるまでの間、HARQバッファに滞留し、滞留時間が所定時間に達したこと、あるいは、再送回数が所定回数に達したことを契機として無効となり、HARQバッファから破棄される。したがって、監視される情報は、MAC−hs PDUに割り当てられた各送信データの、HARQバッファ内における破棄状態を含む。
故障判定部112は、上記監視結果に基づき、無線区間の伝送品質の優劣を各移動局毎に考慮した上で、復号結果が妥当であるか否か(換言すれば、無線チャネル品質に見合った復号結果が得られているか)を判定する。また、故障判定部112は、所定周期の監視時間毎に得られた統計データに基づき、基地局10における装置内故障の発生の有無を判定する。
RF部12の変復調部121は、送信制御部111から入力されたデータを、無線送信可能な信号に変調することにより、RF信号を生成する。変復調部121は、当該RF信号を、アンテナA1を介して、移動局20に送信することで、無線通信システム1における有線無線インタフェースとして機能する。
図2は、基地局10のハードウェア構成を示す図である。図2に示すように、基地局10は、ハードウェアの構成要素として、DSP(Digital Signal Processor)10aと、FPGA(Field Programmable Gate Array)10bと、メモリ10cと、RF部10dと、ネットワークIF(Inter Face)部10eとを有する。DSP10aと、FPGA10bとは、スイッチ等のネットワークIF部10eを介して各種信号やデータの入出力が可能なように接続されている。RF部10dは、アンテナA1を有する。メモリ10cは、例えば、SDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)等のRAM、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリにより構成される。ベースバンド部11を構成する送信制御部111と故障判定部112とは、例えばDSP10a、FPGA10b等の集積回路により実現される。また、変復調部121は、RF部10dにより実現される。
また、上述した移動局20は、物理的には、例えば携帯電話によって実現される。図3は、移動局20のハードウェア構成を示す図である。図3に示すように、移動局20は、ハードウェア的には、CPU(Central Processing Unit)20aと、メモリ20bと、アンテナA2を有するRF部20cと、LCD(Liquid Crystal Display)等の表示装置20dとを有する。メモリ20bは、例えば、SDRAM等のRAM、ROM、フラッシュメモリにより構成される。
次に、実施例1における無線通信システム1の動作を説明する。図4は、本実施例に係る基地局の主要な動作を説明するためのフローチャートである。
図4のS1では、DSP10aは、基地局10の故障判定に用いるパラメータの初期化を行う。このとき初期化されるパラメータは、所定の周期(例えば、2〜3分程度)内に基地局10に接続した移動局のユーザ呼数の合計値を表すUSER_total、及びCQIを考慮した復号状況が著しく低いと判定されたユーザ呼数を表すUSER_ngである。ユーザ呼は、例えば、移動局20を含む複数の移動局からのHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)を用いたユーザ呼であるが、これに限定されない。
S2では、DSP10aは、監視周期タイマを起動することにより、各移動局のTBS、CQI値、復号結果、破棄状態を監視する時間の計測を開始する。周期の時間(例えば、2〜3分程度)が経過し、監視周期タイマが満了すると(S3)、DSP10aは、上記USER_totalと、その閾値であるUSER_total_thとの大小関係を比較する(S4)。比較の結果、USER_total≧USER_total_thの関係にある場合には(S4;Yes)、後述のS5に移行する。監視は、USER_totalが閾値(USER_total_th)に達するまでの間、所定の周期で繰り返し実行される。
なお、S4において、基地局10に接続した移動局のユーザ呼数の合計値が閾値に到達したか否かを判定するのは、母集団となるユーザ呼数を所定値まで増やすことで、復号状況がNGであるユーザ呼の割合の判定処理(後段のS5)の結果に信頼性をもたせるためである。
S5では、DSP10aは、上記USER_ngを上記USER_totalで除算した値と、その閾値であるNG_prob_thとの大小関係を比較する(S5)。当該比較の結果、USER_ng/USER_total≧NG_prob_thの関係にある場合には(S5;Yes)、後述のS6に移行する。一方、S5における比較の結果、USER_ng/USER_total<NG_prob_thの関係にある場合には(S5;No)、DSP10aは、基地局10が正常に動作しているとみなす。そして、前述のS1に戻り、USER_totalとUSER_ngとは再び初期化され、その後S2以降の処理が繰り返し実行される。その結果、基地局10の運用は継続される。なお、NG_prob_thの値は、少なくとも基地局10の故障と判定し得る程度に高い確率であり、例えば、50%程度である。
S6では、DSP10aは、基地局10(例えば、ベースバンド部11のパッケージ)に故障が発生したものと判定し、必要に応じて、故障箇所を運用から除外する。
続いて、図5〜図9を参照しながら、上述した故障判定処理の前提となる処理、すなわち、データ復号状況監視処理、及びデータ破棄状況監視処理について説明する。図4に示したS2とS3の処理の間の監視時間内に、ユーザ呼が基地局10に接続されると、データ復号状況監視処理、及びデータ破棄状況監視処理の各処理が実行される。これらの処理は、ユーザ呼の接続回数、あるいは、複数のユーザ呼の発信元が同一の移動局であるか否かを問わず、ユーザ呼の接続を契機として、接続された全てのユーザ呼について、実行される。
図5は、本実施例に係る基地局10の実行するデータ復号状況監視処理を説明するためのフローチャートである。
図5のT1では、DSP10aは、データ復号状況の監視に用いるパラメータの初期化を行う。T1では、t、NUM_ack[i]、及びNUM_nack[i]の各パラメータに、初期値の“0”が設定される。tは、復号結果の判定回数のカウンタとして機能する数値であり、復号結果の判定が終了する都度更新される。NUM_ack[i]は、ユーザ呼iについての復号結果がACKであった場合にインクリメントされる、復号成功回数を示す値である。同様に、NUM_nack[i]は、ユーザ呼iについての復号結果がNACKであった場合にインクリメントされる、復号失敗回数を示す値である。
DSP10aは、RF部10dによるユーザ呼iの接続を検知すると(T2;Yes)、ユーザ呼iに対するデータ送信の有無を監視する(T3)。ユーザ呼iに対するデータ送信が行われた場合(T3;Yes)には、DSP10aは、ユーザ呼iを発呼した移動局での復号結果であるDEC_result[i,t]が“ACK”であるか否かの判定を行う(T4)。復号結果DEC_result[i,t]は、上記フィードバック情報より得られる。上記判定の結果、DEC_result[i,t]=“ACK”である場合(T4;Yes)には、DSP10aは、復号成功回数を示すNUM_ack[i]の値を1だけインクリメントする(T5)。また、復号結果の判定が終了したことに伴い、DSP10aは、カウンタtの値を1だけインクリメントする(T6)。その後、T2に戻り、DSP10aは、T2以降の処理を繰り返し実行する。
T2において、監視対象であるユーザ呼iの接続が終了(切断)すると(T2;No)、DSP10aは、ユーザ呼iにおける復号状況の妥当性を判定する。すなわち、DSP10aは、現時点におけるユーザ呼iのACKの累積値であるNUM_ack[i]とNACKの累積値NUM_nack[i]との和であるNUM_total[i]を算出する(T7)。次に、DSP10aは、T7の算出結果であるNUM_total[i]が、所定の閾値NUM_total_th(例えば50)以上であるか否かを判定する(T8)。当該判定の結果、NUM_total[i]≧NUM_total_thの関係にある場合(T8;Yes)には、DSP10aは、復号状況の妥当性を有効に判定し得る数の復号結果が既に累積されているものと判断し、T9の処理に移行する。一方、依然、NUM_total[i]の値がNUM_total_thの値未満である場合(T8;No)には、DSP10aは、復号状況の妥当性を有効に判定し得る程度の復号結果数に達していないものと判断し、図4に示したS3の処理に移行する。
T9では、DSP10aは、ユーザ呼iを、復号状況の妥当性の判定対象として設定すると共に、判定対象のユーザ呼数を示すUSER_totalの値を、1だけインクリメントする。次に、DSP10aは、復号状況の良し悪しを判定するための、復号失敗率の閾値であるNACK_prob_thを基に、ユーザ呼iに関する復号状況の妥当性を判定する(T10)。具体的には、DSP10aは、現時点におけるNUM_nack[i]とNUM_total[i]との比率を算定し、その値と上記閾値(例えば、80%)との大小関係を比較する。比較の結果、NUM_nack[i]/NUM_total[i]≧NACK_prob_thの関係にある場合(T10;Yes)には、本来(基地局10の故障が無ければ)ACKとなる筈であったNACKの比率が高く、CQI値に見合わない数のNACKが多発していることが推測される。したがって、DSP10aは、無線チャネル品質に比して、ユーザ呼iについての復号状況が悪いものと判断し、上述のUSER_ngの値を、1だけインクリメントする(T11)。
なお、T10における比較の結果、NUM_nack[i]/NUM_total[i]<NACK_prob_thの関係にある場合(T10;No)には、DSP10aは、ユーザ呼iについての復号状況が良好であると判断し、T11の処理を省略して、図4に示したS3の処理に移行する。
上記T4における判定の結果、DEC_result[i,t]=“ACK”でない場合(T4;No)、すなわち、復号結果がNACK、DTXの何れかである場合には、DSP10aは、図6に示す復号失敗判定処理を実行する。図6は、本実施例に係る基地局10の実行する復号失敗要因判定処理を説明するためのフローチャートである。
T21では、DSP10aは、CQI_input[i,t]、TBS[i,t]、及びTable_TBS[CQI_input[i,t]]を取得する。ここで、CQI_input[i,t]は、ユーザ呼iの発信元である移動局からRF部10dにより受信された最新のCQI値である。また、TBS[i,t]は、データの送信プロセスtで割り当てられた、ユーザ呼iに対するデータのTBS(Transport Block Size)であり、基地局10が実際に割り当てたデータ(送信を試みたデータ)の量を示す値である。
Table_TBS[CQI_input[i,t]]は、基地局10のメモリ10cに保持されているCQIマッピングテーブルを参照して得られる、CQI_input[i,t]に対応するTBSであり、CQIに応じた本来のTBSの値である。図7は、移動局20に適用されるCQIマッピングテーブル101cの一例を示す図である。図7に示すように、CQIマッピングテーブル101cには、TBS、HS−PDSCH(High-Speed Physical Downlink Shared CHannel)のコード本数、無線変調方式、及び電力補正値Δが、CQI値毎に格納されている。無線変調方式としては、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、及び64QAMが設定されている。
例えば、移動局20に関し、基地局10のRF部10dが受信した最新のCQI_input[i,t]の値が“20”である場合、CQIマッピングテーブル101cを参照すると、CQI値“20”に対応するTBSの値は“5896”である。したがって、移動局20のTable_TBS[CQI_input[i,t]]の値として、“5896”ビットが導出される。換言すれば、Table_TBS[CQI_input[i,t]]は、対応するCQIの下で移動局20が復号可能なデータの容量であり、この値が大きい程、無線チャネル品質が高く、チャネル品質上は復号結果がOK(ACK)になる確率が高い。したがって、この値が所定値(本実施例ではTBS[i,t])以上であるにも拘らず、DEC_result[i,t]の値が“ACK”となっていない(図5のT4;No参照)ときには、復号失敗の要因は、無線チャネル品質にはなく、基地局10側にあることが高く推測される。
そこで、T22では、DSP10aは、上記TBS[i,t]と上記Table_TBS[CQI_input[i,t]]との大小関係を比較する。当該比較の結果、TBS[i,t]≦Table_TBS[CQI_input[i,t]]が成立する場合(T22;Yes)には、DSP10aは、復号失敗回数を示す上記NUM_nack[i]の値を、1だけインクリメントする(T23)。一方、TBS[i,t]の値が、上記Table_TBS[CQI_input[i,t]]の値を超過する場合(T22;No)、換言すれば、移動局が復号可能なデータ容量の範囲にTBS[i,t]が収まっていない場合には、復号失敗は、CQIの低下に起因する(基地局10の故障に起因しない)ものと推定される。したがって、DSP10aは、T23の処理を省略し、NUM_nack[i]の値をインクリメントすることなく、図5に示したT6の処理に移行する。
なお、TBS[i,t]との比較対象となるTable_TBS[CQI_input[i,t]]の値は、必ずしもそのままの値を用いなくてもよく、所定の係数α(0<α≦1)を乗算することで、補正するものとしてもよい。DSP10aは、αの値に小さい値を設定する程、図6のT22における右辺の値は小さくなることから、T22の条件を満たすTBS[i,t]は限定的となり、無線チャネル品質が十分に良好であるにも拘らず、移動局において復号に失敗したケースのみが該当することとなる。換言すれば、復号失敗要因の判定基準が厳格となり、T22でYesと判定された場合、基地局10において故障が発生した可能性が高くなる。その結果、基地局10の故障判定精度が向上する。DSP10aは、補正係数αの値として、無線伝搬品質の優劣に基づく移動局側のデータ復号特性を考慮した上で最適な値を選定する。但し、故障判定に一定の精度を維持する観点から、補正係数αの値は、DSP10aによる故障判定の実効性を失わない範囲で、極力小さい値(例えば0.3)を採ることが望ましい。
上述したように、基地局10のDSP10aは、RF部10dから送信されるデータ毎の移動局側での復号結果(ACK、NACK、DTX)の割合に基づき、ユーザ呼に関するデータ復号状況の妥当性を判定する。また、DSP10aは、復号失敗(NACKまたはDTX)となったデータについて、その時点でのCQIが、当該データのTBSのデータを復号する上で支障のない値であるか否かを判定する。そして、DSP10aは、CQIに支障のない状態において復号失敗となったデータの発生頻度(NACK、DTXが多発しているか否か)を基に、上記ユーザ呼に関する復号状況の妥当性を判定する。すなわち、基地局10のDSP10aは、RF部10dによるユーザ呼の接続が終了した際、データ復号状況の監視結果を基に、移動局20におけるデータ復号状況が、無線チャネル品質に見合ったデータ復号状況に達しているか否かを判定する。達している場合には、基地局10に故障が生じている可能性があると推定することができるため、DSP10aは、USER_ngの値をインクリメントする。これにより、基地局10は、データ復号状況の監視と、その前提なる復号失敗要因の判定とを可能とする。
次いで、図8、図9を参照し、データ破棄状況監視処理及び破棄要因判定処理を説明する。図8は、本実施例に係る基地局10の実行するデータ破棄状況監視処理を説明するためのフローチャートである。図9は、本実施例に係る基地局10の実行する破棄要因判定処理を説明するためのフローチャートである。図8は、データ復号状況監視処理の説明において参照した図5と、U12を除き同様である。したがって、共通するステップには、末尾が同一の参照符号を付すと共に、その詳細な説明は省略する。具体的には、図8のステップU1〜U11は、図5に示したステップT1〜T11にそれぞれ対応する。また、図9は、復号失敗要因判定処理の説明において参照した図6と、U22を除き同様であるため、共通するステップには、末尾が同一の参照符号を付すと共に、その詳細な説明は省略する。具体的には、図9のステップU21〜U23は、図6に示したステップT21〜T23にそれぞれ対応する。
また、図8のU1、U7、U10、及び図9のU23の各処理におけるNUM_cancel[i]は、図5のT1、T7、T10、及び図6のT23の各処理におけるNUM_nack[i]にそれぞれ対応する。NUM_cancel[i]は、ユーザ呼iに対するデータが破棄された場合にインクリメントされる、破棄回数を示す値である。図8のU10の処理におけるCANCEL_prob_thは、図5のT10の処理におけるNACK_prob_thに対応する。CANCEL_prob_thは、破棄状況の良し悪しを判定するための、破棄発生率の閾値である。図9のU21、U22の各処理におけるTBS_cancel[i,t]は、図6のT21、T22の各処理におけるTBS[i,t]にそれぞれ対応する。TBS_cancel[i,t]は、データの送信プロセスtで割り当てられた、ユーザ呼iに対するデータの内、破棄されたデータのTBSであり、基地局10が実際に破棄したデータの量を示す値である。なお、U8における閾値NUM_total_thは、例えば30であり、U10における閾値CANCEL_prob_thは、例えば80%である。
U12では、基地局10のDSP10aは、破棄データの有無、すなわち、ユーザ呼i宛のデータが、HARQバッファ内において破棄されたか否かの判定を行う。当該判定の結果、ユーザ呼iに対するデータの破棄が有る場合(U12;Yes)、図9に移行し、DSP10aは、U21以降の処理を実行する。これに対して、上記判定の結果、ユーザ呼iに対するデータの破棄が無い場合(U12;No)には、U21〜U23の処理を省略して、DSP10aは、U6以降の処理を実行する。
U22の処理に関し、TBS_cancel[i,t]は、実際に破棄されたデータの量を示す値であり、Table_TBS[CQI_input[i,t]]は、対応するCQIの下で破棄されるべきデータの量である。したがって、前者のTBS_cancel[i,t]の値が小さい程、破棄されたデータの量は少なく、無線チャネル品質が高いといえる。このため、チャネル品質上はデータが破棄される確率が低い。したがって、この値が所定値(本実施例ではTable_TBS[CQI_input[i,t]])以下であるにも拘らず、DEC_result[i,t]の値が“ACK”となっていない(図8のU4;No参照)ときには、復号失敗の要因は、無線チャネル品質にはなく、基地局10側にあることが高く推測される。データが実際に破棄されているにも拘らず、CQI値は、データが破棄される様な値を採っていないことから、データの破棄が、無線チャネル品質以外の事象に起因すると考えられるためである。
そこで、U22では、DSP10aは、上記TBS_cancel[i,t]と上記Table_TBS[CQI_input[i,t]]との大小関係を比較する。当該比較の結果、TBS_cancel[i,t]≦Table_TBS[CQI_input[i,t]]が成立する場合(U22;Yes)には、DSP10aは、データ破棄回数を示す上記NUM_cancel[i]の値を、1だけインクリメントする(U23)。一方、TBS_cancel[i,t]の値が、上記Table_TBS[CQI_input[i,t]]の値を超過する場合(U22;No)、換言すれば、CQIに見合った数以上のデータが破棄されている場合には、復号失敗は、CQIの低下に起因する(基地局10の故障に起因しない)ものと推定される。したがって、DSP10aは、U23の処理を省略し、NUM_cancel[i]の値をインクリメントすることなく、図8に示すU6の処理に移行する。
なお、TBS_cancel[i,t]との比較対象となるTable_TBS[CQI_input[i,t]]の値は、必ずしもそのまま用いなくてもよく、所定の係数β(0<β≦1)を乗算することで、補正するものとしてもよい。DSP10aは、βの値に小さい値を設定する程、図9のU22における右辺の値は小さくなることから、U22の条件を満たすTBS_cancel[i,t]は狭い範囲に限定され、無線チャネル品質が十分に良好であるにも拘らず、移動局において復号に失敗したケースのみが該当することとなる。換言すれば、復号失敗要因の判定基準が厳格となり、U22でYesと判定された場合、基地局10において故障が発生した可能性が高くなる。その結果、基地局10の故障判定精度が向上する。DSP10aは、補正係数βの値として、無線伝搬品質の優劣に基づく移動局側のデータ復号特性を考慮した上で最適な値を選定する。但し、故障判定に一定の精度を維持する観点から、補正係数βの値は、DSP10aによる故障判定の実効性を失わない範囲で、極力小さい値(例えば0.3)を採ることが望ましい。
上述したように、基地局10のDSP10aは、RF部10dから送信されるデータ毎の基地局10側でのHARQバッファ内のデータ破棄状況に基づき、ユーザ呼に関するデータ復号状況の妥当性を判定する。また、DSP10aは、HARQバッファにて破棄されたデータについて、その時点でのCQIが、当該データのTBSのデータを復号する上で支障のない値であるか否かを判定する。そして、DSP10aは、CQIに支障のない状態において破棄されたデータの発生頻度(データ破棄が多発しているか否か)を基に、上記ユーザ呼に関する復号状況の妥当性を判定する。すなわち、基地局10のDSP10aは、RF部10dによるユーザ呼の接続が終了した際、データ破棄状況の監視結果を基に、移動局20におけるデータ破棄状況が、無線チャネル品質に見合ったデータ破棄状況を超えているか否かを判定する。超えている場合には、基地局10に故障が生じている可能性があると推定することができるため、DSP10aは、USER_ngの値をインクリメントする。これにより、基地局10は、データ破棄状況の監視と、その前提なる破棄要因の判定とを可能とする。
以上説明したように、無線通信システム1は、基地局10と、基地局10と通信する移動局20とを有する。基地局10は、RF部12と故障判定部112とを有する。RF部12は、移動局20に対して、復号対象となるデータを送信すると共に、該データの復号失敗を示す信号(NACK)を移動局20から受信する。故障判定部112は、RF部12により上記信号を受信した場合、基地局10と移動局20との間の無線チャネルの品質を推定し、該推定された品質に応じて、基地局10に故障があるか否かを判定する。例えば、故障判定部112は、推定された品質が所定値(例えば、CQI=18)以上であるとき、自基地局10に故障が有るものと判定する。故障判定部112は、図6のT22に示したように、移動局20が復号可能なデータの量を用いて無線チャネルの品質を推定するものとしてもよい。また、故障判定部112は、図9のU22に示したように、破棄されたデータの量を用いて無線チャネルの品質を推定するものとしてもよい。これにより、基地局10は、移動局20におけるデータ復号の失敗が、無線チャネル品質の劣化、基地局10の故障の内、何れに起因するものかを特定することができる。したがって、基地局10は、自局の故障を早期に検知することができる。その結果、基地局10に故障が発生した際、基地局10と移動局20との間のスループットを速やかに回復することが可能となる。
すなわち、故障判定部112は、プロセス割当てユーザデータのTBSと、HARQバッファ内のデータ破棄情報との内、少なくとも一方の情報を用いて、CQIを考慮に入れた故障判定を行う。故障判定部112は、送信が完了したトランスポートブロックに対する移動局20側での復号OKと復号NGとの比率を監視し、CQI値の割に、復号NGの多発するユーザ呼が多数存在した場合には、基地局10に故障が生じたと判定する。同様に、故障判定部112は、復号NGの多発に起因する、バッファ内データの破棄数を監視し、CQI値の割に破棄数が多い場合には、基地局10に故障が生じたと判定する。
以下、図10〜図12を参照しながら、本実施例に係る無線通信システム1の作用効果を、より具体的に説明する。
まず、図10は、基地局に故障がなく、かつ、通信環境が良好な場合における、移動局での復号状況を示す図である。図10に示すように、基地局10は、RNCからトラヒックデータを受信すると、ベースバンド部11によりコーディングをした後、RF部12により変調をして、当該データを移動局20宛に送信する。図10では、基地局10におけるコーディング及び変調処理は正常に完了し、また、基地局10から移動局20に至るまでの無線伝搬環境も良好である。したがって、移動局20は、基地局10から受信したデータを正常に復号することができる。その結果、移動局20は、受信データの復号が正常に完了したことを示すACKを基地局10に返信する。
次に、図11は、基地局に故障がなく、かつ、通信環境が劣化した場合における、移動局での復号状況を示す図である。図11に示すように、基地局10は、RNCからトラヒックデータを受信すると、ベースバンド部11によりコーディングをした後、RF部12により変調をして、当該データを移動局20宛に送信する。図11では、基地局10におけるコーディング及び変調処理は正常に完了したが、基地局10から移動局20に至るまでの無線伝搬環境が良好でないため、移動局20は、基地局10から受信したデータを正常に復号することができない。したがって、移動局20は、受信データの復号が正常に完了しなかったことを示すNACKを基地局10に返信する。
これに対して、図12は、基地局に故障があり、かつ、通信環境が良好な場合における、移動局での復号状況を示す図である。図12に示すように、基地局10は、RNCからトラヒックデータを受信すると、ベースバンド部11によりコーディングをした後、RF部12により変調をして、当該データを移動局20宛に送信する。図12では、基地局10において故障が発生した結果、無線フレーム出力が異常となったため、無線伝搬環境は良好であるにも拘らず、移動局20は、基地局10から受信したデータを正常に復号することができない。したがって、移動局20は、受信データの復号が正常に完了しなかったことを示すNACKを基地局10に返信する。
上述したように、通信環境と基地局内部が共に良好な状態にある場合には、データ復号結果としてACKが返信される(図10参照)はずであることから、NACKが返信された場合には、少なくとも何れかに異常があるものと推定することができる。そこで、基地局10は、NACKが返信された場合に、通信環境の劣化(図11参照)の有無を判定する。基地局10は、通信環境が良好であるにも拘らず、NACKが返信された場合には、通信環境以外の要因があるものと推定し、その要因を基地局の故障と判断する。通常、基地局では、受信されたACKとNACKとの比率(移動局側での受信エラーレート)が無線区間の伝送品質上妥当なものであるか否かの判定が行われないが、かかる状況であっても、基地局10は、上記推定に基づく判断により、基地局の故障を検知することができる。これにより、無線通信システム1は、無線通信時における、基地局10内部の故障を早期かつ高精度に検知することができる。したがって、基地局10の復旧処理を迅速に開始することができる。その結果、基地局10に接続する移動局に対するデータ伝送レートの低下が長時間継続することを防止することが可能となる。
更に、基地局10は、故障の有無の判定に際して、CQI値に基づく無線チャネル品質を勘案する。これにより、移動局における復号失敗の要因が、無線チャネル品質と装置故障との双方にある場合でも、DSP10aが、低いCQIに見合った復号確率に達しているか否かを判定することで、復号失敗の要因が基地局側に存在することの判別が可能となる。したがって、基地局10は、NACKの多発が基地局故障にのみ起因する場合は元より、NACKの多発が上記双方に起因する場合にも、容易に対応することができる。その結果、汎用性の高いシステムの実現が可能となる。
なお、本実施例では、図4のS4では、USER_totalの値は、図5、図6に示したフローチャートの処理が実行された場合に加えて、図8、図9に示したフローチャートの処理が実行された場合にも、インクリメントされるものとした。また、同様に、図4のS5では、USER_ngの値は、移動局20での復号失敗(NACKの返信)と、基地局10でのデータ破棄との双方を契機として、インクリメントされるものとした。これにより、双方の角度から、ユーザ呼の総数、及び復号状況がNGであるユーザ呼の割合が決定されることとなり、より高精度な故障の検知が実現されるが、基地局10は、必ずしも双方の処理結果を用いる必要はない。すなわち、基地局10は、図5、図6に示した処理と、図8、図9に示した処理との内、少なくとも一方を実行すれば足りる。これにより、故障検知処理に伴う基地局10の処理負荷は軽減され、処理時間は短縮される。
基地局10が、一方の処理を実行する際、何れの処理を実行するかは、以下の観点から決定することができる。すなわち、第1のケースとして、基地局10に装置故障が発生し、移動局20での復号結果がNGになったとしても、その後のデータ再送処理によって、移動局20がHARQデータ合成処理を実行し、最終的にデータの復号結果がOKとなる場合がある。かかる場合を以下、「ケース1」と記す。これに対し、第2のケースとして、基地局10に装置故障が発生し、移動局20での復号結果がNGとなり、その後のデータ再送処理、及びHARQデータ合成処理によっても、データの復号結果がOKとならない場合がある。かかる場合を以下、「ケース2」と記す。図5、図6に示した復号状況の監視処理によれば、ケース1、2において、故障の検知が可能である。しかしながら、ケース1では、HARQバッファ内に滞留したデータが破棄されないため、図8、図9に示したデータ破棄状況の監視処理は、本ケースに対応できず、ケース2においてのみ、故障の検知が可能である。したがって、基地局10は、復号状況の監視処理を実行することにより、データ破棄状況の監視処理を実行した場合よりも、検知可能な故障の種別が多数であり、より多くの故障種別に対応することができる。
これに対して、処理量を軽減するという観点からは、基地局10は、復号状況監視処理を実行するよりも、データ破棄状況監視処理を実行することが好適である。なぜなら、前者の場合、基地局10のDSP10aは、移動局宛に送信したデータに対する応答としてNACKを受信する(図5のT4;No)度に、上述した復号失敗要因判定処理(図6参照)を実行することとなる。一方、後者のデータ破棄状況監視処理では、基地局10のDSP10aは、HARQバッファ内でのデータ破棄が発生した場合(図8のU12;Yes)にのみ、破棄要因判定処理(図9参照)を実行すれば足りる。すなわち、破棄要因判定処理の実行は、多数のNACK受信が継続して発生し、その結果として、HARQバッファ内でのデータ滞留時間が所定時間を超えた場合に限定される。したがって、基地局10のDSP10aは、移動局宛に送信したデータに対する応答としてNACKを受信する都度、破棄要因判定処理を実行する必要はない。これにより、復号状況監視処理とデータ破棄状況監視処理とを比較した場合、前者の処理よりも後者の処理の方が、処理量が少なくて済む。その結果、DSP10aは、データ破棄状況監視処理の実行により、処理負荷の軽減及び処理時間の短縮を図ることが可能となる。
上述のように、復号状況監視処理とデータ破棄状況監視処理とは、各々に特有の効果を奏することから、用途に基づく使い分けが可能である。すなわち、前者の復号状況監視処理は、基地局10が、故障検知に伴う処理負荷の多少の増大を許容する場合に実行されることが望ましい。また、前者の復号状況監視処理は、検知可能な故障の種別が多いことから、高レベルのデータ通信障害の原因となる故障のみならず、小、中レベルのデータ通信障害の原因となる故障を検知しなければならない場合に特に好適である。これに対して、後者のデータ破棄状況監視処理は、基地局10が、故障検知に伴う処理負荷を極力軽減したい、あるいは、処理速度の高速化を図りたい場合に実行されることが望ましい。また、後者のデータ破棄状況監視処理は、上述のように、検知可能な故障の種別が限られていることから、例えば、高レベルのデータ通信障害の原因となる故障のみを検知すれば足りる場合に好適である。
また、基地局10が、双方の処理結果を用いる際、少なくとも一方の処理結果に対して重み付けを加えてもよい。例えば、復号状況の監視結果(図5、図6参照)の信頼性が、データ破棄状況の監視結果(図8、図9参照)の信頼性よりも高いことが推測される場合には、図4のS5に示したUSER_ng/USER_totalの値の算出に際して、前者のUSER_ngの値(図5のT11参照)に重み付けを施してもよい。具体的には、例えば、基地局10が、前者のUSER_ngを1.5倍にした上で、その算出結果を、図4のS5に示したUSER_ng/USER_totalの分子に加算する。反対に、例えば、復号状況の監視結果(図5、図6参照)の信頼性が、データ破棄状況の監視結果(図8、図9参照)の信頼性よりも低いことが推測される場合には、図4のS5に示したUSER_ng/USER_totalの値の算出に際して、後者のUSER_ngの値(図8のU11参照)に重み付けを施してもよい。具体的には、例えば、基地局10が、後者のUSER_ngの値を1.2倍にした上で、その算出結果を、図4のS5に示したUSER_ng/USER_totalの分子に加算するものとすれば、双方の処理結果の比重の調整が可能となる。これにより、復号状況の監視結果、及びデータ破棄状況の監視結果の確度に応じた、より信頼性の高い故障の検知が実現される。また、上述の重み付け処理は、USER_ng/USER_totalの値(図4のS5)のみならず、USER_totalの値(図4のS4)に対しても、併せて適用することができる。これにより、基地局10は、自局における故障の有無を、更に的確に検知することができる。その結果、無線通信システム1の信頼性が向上する。
加えて、故障判定部112による判定の対象となる故障は、必ずしも、データの復号失敗とデータの破棄との双方を誘発するような重度のものに限らず、何れか一方を誘発する程度あるいはこれと同程度の装置異常であれば足りる。
また、上記実施例では、移動局として、携帯電話、スマートフォン、PDA(Personal Digital Assistant)を想定して説明したが、本発明は、移動局に限らず、基地局からのデータを復号する様々な通信機器に対して適用可能である。
更に、図1に示した基地局10の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的態様は、図示のものに限らず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することもできる。例えば、送信制御部111と故障判定部112をそれぞれ1つの構成要素として統合してもよい。その際、送信制御部111が、故障判定部112を、構成要素の1つとして包含するものとしてもよい。反対に、図2のDSP10aに関し、データ復号状況監視処理を実行する部分と、データ破棄状況監視処理を実行する部分とに分散してもよい。また、メモリ10c、20bを、基地局10、移動局20の外部装置としてネットワークやケーブル経由で接続するようにしてもよい。