JP5783554B2 - 骨充填材の製造方法 - Google Patents
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Description
このような目的で現在使われている人工骨材料の多くは、ブロック状、顆粒状、あるいはペースト状のものである。顆粒状やペースト状の人工骨材料を欠損部に充填する場合、欠損部の状態によっては漏出の危険を伴う。また人工骨材料として既に市販されているリン酸カルシウムなどのセラミックスの場合、人間の様々な骨の形状に対応して加工するのは容易ではない。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、優れた骨形成機能を有するとともに、取り扱いが容易な骨充填材を提供することを目的とする。
そこで、バテライトとPLA、または、ケイ素、バテライトおよびPLAを組み合わせた素材を、エレクトロスピニングを用いて不織布化したものについて検討した。しかしながら、PLAのような生分解性高分子を基材とする複合素材の場合、疎水性が強く現れ、体液とのなじみが悪く、骨形成性細胞が付着、増殖するまでに時間を要するという問題があった。また、上述したような骨類似アパタイトを予め生成させた不織布でさえも、十分な親水性が確保できなかった。
なお、本発明の骨充填材は、エレクトロスピニング法により布状または綿状に成形する成形工程を経た繊維構造体の表面に、静電作用によりケイ酸アルミニウムナノ粒子を堆積させる堆積工程を経ることで得られるので、簡易な方法により作製可能である。
本発明において、炭酸カルシウムとしてはバテライト(以下「V」と称す)があげられる。ケイ素含有炭酸カルシウムとしては、例えば特開2008−100878号公報に記載された方法で調製可能なケイ素成分を含有するバテライト(以下「SiV」)があげられる。なお、SiVとしては、Si量が0.7質量%〜6質量%のものが好ましい。
本発明においては繊維を構成する高分子材料として、ケイ素含有炭酸カルシウムとポリ乳酸とを含む高分子複合体が好ましい。
ここで、金属アルコキシドを原料に用いた合成方法を適用すれば、塩素イオンや未反応のアルミニウムイオンなどを含有しない高純度のイモゴライトを利用できるので特に好ましい。具体的には、たとえば、溶媒にイソプロパノールを用いて作製した薄いアルミニウムトリ−sec−ブトキシド溶液(たとえば、5質量%程度)と、オルトケイ酸テトラエチルをSi/Alモル比が0.4〜1.0となるように多量の水(たとえば、全容量の85質量%〜99質量%)とともに混合・撹拌した後、薄い酢酸水溶液(たとえば、0.5mol/L〜2mol/L程度)を適量加えて沈殿物を溶解させ、さらに加熱する(たとえば、30℃〜100℃)ことで、イモゴライトの分散液を作製することができる。
例えば、エレクトロスピニング法により板状の電極上に形成された布状の生分解性高分子複合体繊維構造体の場合、当該繊維構造体が付着した極ごと上述したイモゴライトの分散液に浸漬するとともに、別の金属板も浸漬して、前者をマイナス側に、後者をプラス側に結線して0.5V〜10V程度の電圧をかけると、数秒〜10分で骨格繊維表面に10nm〜5μmの厚さで繊維構造体の表面にイモゴライトを堆積させることができる。ここで、イモゴライトの分散液中のイモゴライトの濃度、電圧、および処理時間を調整することによりナノ粒子の堆積厚さを変化させることができる。
以下、本発明に係る骨充填材の実施例について説明する。以下の実施例についての説明は本発明をより深く理解するためのものであって、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
実施例では以下に示す原料、薬品を使用した。
ケイ素含有バテライト(SiV):消石灰(純度96%以上、矢橋工業株式会社製)、メタノール(特級試薬、純度99.8%以上、キシダ化学株式会社製)、γ‐アミノプロピルトリエトキシシラン(TSL8331、純度98%以上、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、炭酸ガス(高純度液化炭酸ガス、純度99.9%、大洋化学工業株式会社製)を用いて調製したSi含量が2質量%のバテライト
ポリ乳酸(PLA):Poly(L−lactic acid)、分子量20万〜30万、PURAC biochem製
クロロホルム(CHCl3):特級試薬、純度99.90%以上、キシダ化学株式会社製
オルトケイ酸ナトリウム:化学用、和光純薬工業(株)製
塩化アルミニウム(III)六水和物:特級試薬、純度99.8%、和光純薬工業(株)製
水酸化ナトリウム:特級試薬、純度96.0%、キシダ化学株式会社製
試料の形態の観察には走査型電子顕微鏡(SEM)[JSM−6301F(日本電子製)]を用いた。また、当該SEMに付属のエネルギー分散型微小部分析(EDS)により組成の分析も行った。
42gのPLAおよび18gのSiVを、加熱ニーダーで200℃、45分間混練してSiVを30質量%含有する生分解性高分子複合体を調製した。
生分解性高分子複合体1gに対しCHCl3を6g混合して紡糸溶液を作製した。
上記紡糸溶液と上記エレクトロスピニング装置とを用いて、以下の条件によりエレクトロスピニングを行った。
エレクトロスピニングの条件は以下のとおりである。
紡糸溶液供給速度:0.235mL/分、印加電圧:15kV、ノズルとコレクター極の距離:120mm、ノズル:注射針22G、コレクター表面にはアルミニウム箔を貼り付けておいた。
エレクトロスピニングの実行により得られた繊維構造体の布状物を試料1とする。
(a)イモゴライト分散液の作製
0.07mol/Lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液および0.17mol/Lの塩化アルミニウム水溶液を調製して、これらの水溶液を、シリカ/アルミナ比0.41となるように混合して混合溶液を作製した。
次に、この混合溶液に1mol/Lの水酸化ナトリウムを1.0mL/分 の速さで添加し、pHが約6.8となったところを終点として、前駆体懸濁液を得た。この前駆体懸濁液について、純水による洗浄と遠心分離(3000rpm、15分)を3回行うことで脱塩処理を行った。脱塩処理後、前駆体を純水に分散させ前駆体分散溶液を調製し、pHが3.8となるように1.0Nの塩酸を加え、攪拌した。次に、前駆体分散溶液を98℃に加熱してイモゴライトを生成し、イモゴライトが生成した水溶液を得た。
イモゴライトが生成した水溶液(0.087質量%)に水酸化ナトリウム水溶液(0.1mol/L)を5.5質量%添加し、pH7.9のイモゴライト分散液を作製した。
試料1をアルミニウム箔上から剥離せずに15mm×15mmに切断し、そのまま(a)で作製したイモゴライト分散液に沈めた。これとは別のアルミニウム板(15mm×15mm)も同分散液に沈めてプラス極とし、10mmの間隔を開け、試料1側をマイナス極として電圧1Vを2分かけた。その後、取り出し水洗して、80℃で1日空気中で乾燥したものを試料2とした。
試料1および試料2のSEMによる観察を行った。
図1はSEMで撮影した試料1の写真である。試料1は直径10μm程度の繊維からなる不織布であり、通常10μm程度である骨形成性細胞が進入するのに十分なスペースが確保されていた。図2は、SEMで撮影した試料1の骨格繊維表面を拡大した写真である。繊維表面には紡糸中にクロロホルムが揮発したことにより形成された多数の気孔が見られた。
図3はSEMで撮影した試料2の写真である。図1と比べると、繊維が交差する部分に水掻き状となった堆積物がみられるものの、骨形成性細胞が進入できる大きさのスペースは十分に確保されていた。図4はSEMで撮影した試料2の骨格繊維表面を拡大した写真である。図2に見られた繊維表面の多数の気孔は全く見られず、なめらかな表面をしていた。試料2の表面のEDS分析の結果、生分解性高分子複合体の繊維には含まれないケイ素とアルミニウムが検出され、ケイ酸アルミニウムであるイモゴライトが繊維表面に密に堆積していることがわかった。
図5はSEMで撮影した試料2の断面の写真である。繊維の表面を約400μmの厚さでイモゴライトが被覆していることがわかった。試料2を細胞培養液に浸漬しても堆積物の剥離は見られなかった。
(4)接触角の測定
試料1および試料2に、シリンジより蒸留水を1μL滴下し、自動接触角計(DM300、 協和界面科学製)を用いて各試料表面の接触角を測定した。
試料1の接触角は121°であり、高い疎水性を示し、この値は測定位置によってばらつくことはほとんどなかった。一方、試料2では、測定位置によりばらつきがみられたが、最大でも82°であり試料1よりも親水性が向上した。試料2の大部分において接触角40°以下であり、水滴が全て浸透する(すなわち接触角0°)箇所も多く見られた。これは親水性が非常に向上して、不織布の繊維間隙の大きさに影響を受けやすくなったためであると考えられる。
(1)比較の試料3の作製
(a)アパタイトコーティング溶液の作製
本比較例では以下に示す原料、薬品を使用して、アパタイトコーティング用溶液を作製した。
塩化ナトリウム(NaCl)特級99.5% キシダ化学株式会社製
炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)特級99.5% キシダ化学株式会社製
塩化カリウム(KCl)特級99.5% キシダ化学株式会社製
リン酸水素二カリウム三水和物(K2HPO4・3H2O)特級99.0% キシダ化学株式会社製
塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O)特級98.0% キシダ化学株式会社製
塩化カルシウム(CaCl2)特級95.0% キシダ化学株式会社製
硫酸ナトリウム(Na2SO4)特級99.0% キシダ化学株式会社製
トリスヒドロキシメチルアミノメタン((CH2OH)3CNH2)特級99.0% キシダ化学株式会社製
塩酸(HCl)精密分析用35.0% 和光純薬工業株式会社製
次に、塩化カルシウム(CaCl2)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)を溶かした後、トリスヒドロキシメチルアミノメタン((CH2OH)3CNH2)を徐々に溶かし、1mol/Lの塩酸を用いてpHを7.4に調整した。
実施例1で作製した試料1を、(a)で作製したアパタイトコーティング用溶液(Na+213.0mmol/L、K+7.5mmol/L、Mg2+2.25mmol/L、Ca2+3.75mmol/L、Cl−222.45mmol/L、HCO3 −6.3mmol/L、HPO4 2−1.5mmol/L、SO4 2−0.75mmol/Lのイオンを含む)30mLに浸漬し、36.5℃で1日保持した後、試料を取り出し、超純水にて洗浄した。その後、室温にて乾燥して、繊維表面にアパタイトをコーティングした試料3を作製した。
図6はSEMで撮影した試料3の写真である。繊維表面に鱗片状の生成物が見られる。この生成物をX線回折により分析した結果、アパタイトであることが確認された。繊維表面には均質にアパタイトがコーティングされていた。
試料3に、シリンジより蒸留水を1μL滴下し、試料1および試料2と同様に、試料表面の接触角を測定したところ、101°であり、試料1よりは低下したものの、試料2には遥か及ばず高い疎水性を示した。試料3においても、試料1と同様に接触角の測定値は測定位置によってばらつくことはほとんどなかった。このことから、アパタイトを繊維表面にコーティングしても十分な親水性は得られないことがわかり、イモゴライトをコーティングした場合のみ、親水化効果が顕著に現れることを確認することができた。
(1)培養方法
24wellプレート使用
細胞種;マウス骨芽細胞様細胞(MC3T3−E1細胞:理研)
細胞播種数;3×104cell/well
培地;α−MEM(10%ウシ胎仔血清含有)
培地交換;播種翌日
Cell Counting Kit−8(細胞増殖/胞毒性測定試薬、株式会社同仁化学研究所製)を使用。試薬添付のプロトコルに沿って処理。
(3)細胞親和性の評価
試料1、2、3を直径15mmの円状に切り取り、ガス滅菌器にて滅菌処理を行った。滅菌後、各試料を特級エタノール(99%)に浸漬した。これは試料1と3の親水性を向上させる操作である。各試料をエタノール中に10分浸漬後、50℃にて、3分保持し、続いて24wellプレートに入れた。
次に、マウス骨芽細胞様細胞の懸濁液を試料上に滴下し、1日間培養を行ったものおよび3日間培養したものについて細胞数をカウントした。基準試料としてThermanoxを用いた。
さらに、3日間培養後の各試料のSEM観察を行った。
各試料上における細胞数を図7に示した。播種数と比較して、全ての試料上において、日数の経過に伴う増殖が確認できた。3日間培養後では、繊維表面にイモゴライトコーティングした試料2においては、試料1および試料3と比較して細胞増殖性が有意に優れていた。
図8ないし図10は3日間培養後の試料1〜3をSEMで撮影した写真である。図8に示すように、試料1においては、図8に示すように、繊維同士が重なったクロスリンクポイント付近に細胞が架橋していた。試料2においては、図9に示すように、クロスリンクポイントに架橋している細胞が多くみられ、また、細胞が広く進展していた。試料3では、図10に示すように、細長く進展した細胞が繊維表面にまとわりついていたが、広く進展している部分はみられなかった。細胞増殖性と細胞の進展性から、試料2が最も親和性に優れることがわかった。
Claims (5)
- ポリ乳酸の重合体及びポリ乳酸とポリグリコール酸との共重合体からなる群から選ばれる生分解性高分子からなる繊維構造体、または、炭酸カルシウムおよびケイ素含有炭酸カルシウムから選ばれる化合物を含む前記生分解性高分子の複合体からなる繊維構造体を、エレクトロスピニング法により布状または綿状に成形する成形工程と、
前記繊維構造体がマイナス側の一方の電極上に載せられた状態でイモゴライトまたはアロフェンからなるケイ酸アルミニウムナノ粒子の分散液中に浸漬され、かつ前記分散液中にプラス側の他方の電極が浸漬された状態で、両電極間に電圧をかけることにより、前記繊維構造体の表面に、静電作用により前記ケイ酸アルミニウムナノ粒子を堆積させる堆積工程と、を経ることを特徴とする骨充填材の製造方法。 - 前記堆積工程において、前記両電極間に0.5V〜10Vの電圧を、数秒〜10分の間かける請求項1に記載の骨充填材の製造方法。
- 前記成形工程において、前記繊維構造体が、前記エレクトロスピニング法により、コレクター電極の表面に形成され、
前記堆積工程において、マイナス側の一方の前記電極として、前記繊維構造体が形成された前記形成工程における前記コレクター電極を取り外して利用する請求項1または請求項2に記載の骨充填材の製造方法。 - 前記炭酸カルシウムがバテライト相であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の骨充填材の製造方法。
- 前記ケイ素含有炭酸カルシウムが、ケイ素成分を含有するバテライト相であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の骨充填材の製造方法。
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