JP5776104B2 - 人体腹部の臍位における脂肪量を推定する方法及び脂肪量評価装置 - Google Patents
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また、CTスキャンを撮るには高いコストがかかるという問題もある。
測定対象者の皮膚表面温度と体深部温度とを測定する測定工程と、
予め体組織が分かっているサンプルデータに対し、前記測定対象者の皮膚表面温度を拘束条件として熱伝導解析を行って温度分布を求める演算工程と、
前記演算工程で求められた体深部温度を測定対象者の体深部温度と対比する対比工程と、
前記対比工程において両者が一致しない場合には、サンプルの体組織を調整する調整工程と、を備え、
前記演算工程で求められた体深部温度が測定対象者の体深部温度に合致するまで前記調整工程と前記演算工程とを繰り返す
ことを特徴とする。
予め体組織が分かっているサンプルデータに対し、測定対象者の皮膚表面温度を拘束条件として熱伝導解析を行って温度分布を求める演算手段と、
前記演算手段で求められた体深部温度を測定対象者の体深部温度と対比する対比手段と、
前記対比手段による対比において両者が一致しない場合には、サンプルの体組織を調整する調整手段と、を備え、
前記演算手段で求められた体深部温度が測定対象者の体深部温度に合致するまで前記調整手段による調整動作と前記演算手段による演算動作とを繰り返す
ことを特徴とする。
本発明者らは、体型の違いによって体表面の体温が違うということに着目し、体表面の温度差は体脂肪の量に関連があるのではないか、と考えた。そして、体脂肪量と体表面温度との間に関連があるならば、体表面の温度データから脂肪量を求められる可能性があることに想到した。体表面の温度を測ることは簡便であるので、体表面温度から脂肪量を求められるならば、これは極めて有益である。そして、発明者らの鋭意研究により、熱伝導解析に基づいて体表面温度から人体の脂肪量を評価できることが分かった。
そこで、まず、熱伝導解析に基づいて人体の脂肪量を評価するという本発明の基本原理を説明する。
伝熱解析に基づいて人体腹部の臍位における脂肪量を評価する方法の基本原理を説明する。
人体のマクロな熱環境は、(A1)代謝に伴う発熱と、(A2)皮膚表面での冷却と、によって決定される。そして、人体の温度が時間的に大きく変動しないのは、代謝に伴う発熱(A1)と皮膚表面での冷却(A2)とがバランスしているからである。つまり、代謝に伴う発熱(A1)によって単位時間に一定量の熱が発生しているが、それと同量の熱が皮膚表面から除去される(A2による冷却)ので人体各部の温度が時間とともに変化することはないのである。
温度の高いところから低いところに向かって熱移動が起きるので、温度の高い体深部から温度の低い皮膚表面に向かって常に熱が移動している。人体内の熱移動は熱伝導によるものと血流の対流輸送によるものとを考えることができるが、本発明で測定対象とする腹部の臍位断面においては、熱伝導が支配的である。それは、腹部には、皮膚表面に向かって熱を輸送するような大血管が存在しないからである。
伝熱方向をxとすると、単位時間に単位面積を通じて移動する熱流束q [W/m2]は、次の式(1)のように表される。
(B2)低温部の温度がさらに低くなる。
(C1)体深部から皮膚表面に常に一定量の熱移動が起きていること、
(C2)内臓脂肪が熱抵抗となること、
(C3)体深部温度がほぼ一定であること、
の3点である。
次に、脂肪量評価法の前提となる熱伝導解析について説明を加える。
上記では、熱が一方向(x方向)に移動することを前提として、熱抵抗の影響について述べた。実際の人体における熱の流れは一次元的ではなく、熱は、x、y、zの各方向に移動することができるので、温度分布も熱流束分布も複雑になる。また、体深部で発生した熱が皮膚表面に至るまでにたどる経路も脂肪量の大小によって違ってくる。しかしながら、脂肪量の大小が皮膚表面温度分布の違いとなって現れる点については一次元の場合と同様である。
上記式(4)を解くには、qinを与えなければならない。
このqinを見積もる方法を説明する。
上記のように、二次元熱伝導方程式(4)の右辺にあるqinは[W/m3]の次元をもつ量であり、単位体積の物質に対して単位時間に与えられる熱量を表わす。
臍位における断面内の温度分布を計算する際には、
(D1)筋肉と腸とにおける代謝の効果と、
(D2)臍位断面を貫く方向に横断する血流によりもたらされる熱の効果と、
の二つを考慮する必要があり、これらを合算したものがqinとして与えられる。
代謝量の見積もりにはハリス・ベネディクトの式を用いる。ハリス・ベネディクトの式については、文献(J.A. Harris and F.G. Benedict: A Biometric Study of Basal Metabolism in man, The Carnegie Institution of Washington, (1919))に記載されている。
これは、安静状態にある健常人の基礎エネルギー消費量を見積もるために広く用いられている式であり、体重、身長および年齢の線形な関数として基礎エネルギー消費量[kcal/day]が計算される。ハリス・ベネディクトの式で与えられる基礎エネルギー消費量のうち、筋肉での代謝が38%、腸での代謝が7%を占めているとしてqinを与える。この割合については、文献(横山真太郎: 生体内熱移動現象, 北海道大学図書刊行会, (1993))に記載されている。
臍位を貫く大血管は、大動脈、下大静脈、上腸間膜動脈と同静脈、下腸間膜動脈と同静脈である。大血管を通過する血流から周囲の組織に熱が移動するときの熱流束をq [W/m2]として次のように表す。
さらにこれを血管の占める体積πD2L/4で除せば、qin[W/m3]に相当する量を得ることができる。
また、Reは血流のレイノルズ数であり、Prは血流のプラントル数であり、これらの式中のu[m/s]は血液の平均流速、μ?[Pa・s]は血液の粘度、c[J/(kg・K)]は血液の比熱を表わす。
次に、上記で説明した熱伝導解析の手法が脂肪量の評価に適用できることを簡易モデルを用いて示す。
図1Aおよび図1Bは簡易的に作成した臍位の体組成モデルである。
図1AのモデルをModel Aとし、図1BのモデルをModel Bとする。
二つのモデルで、腹囲は810mmで共通とし、全体の面積も等しく設定してある。
ここで、簡単に符号を説明すると、皮膚11の内側に、脂肪12、腸13および筋肉(腹筋)14があり、さらに、中心に骨(背骨)15がある。
脂肪12の量については、Model Aで209.0cm2とし、Model Bで170.2cm2とし、Model Aの方が脂肪12の量が多くなるように設定してある。二つのモデルにおける脂肪量の差は、腹筋14と腸13との間に存在する内臓脂肪量121の差であり、皮下脂肪量122は共通である。
これらの組成や構造は必ずしも実際の人体のそれと合致するとは限らないが、本発明の手法の有効性についての基礎的な検討には十分である。
図2Aは、Model Aに対して求められた温度分布であり、図2Bは、Model Bに対して求められた温度分布である。各モデルの計算結果において温度の最小値は皮膚11の表面で記録されており、その値はModel Aで33.51、Model Bで33.76であった。両者の差は0.25Kであり、現状の温度計測技術の分解能により十分検知できるレベルの温度差である。
筋肉および腸の部位で一定値qin =780W/m3を与えるようにしたので、内部発熱量は、Model Aの方が約20%低く、逆に、Model Bの方が約20%高くなることになる。
仮に、筋肉14や脂肪12などの体組織の違いに関係なく熱伝導率が均一であるとすると、発生する温度勾配はModel Bの方が20%程度大きくなり、結果として、Model Bの皮膚表面温度がModel Aよりも低く算出されるはずである。
(拘束条件の一つとして、腸の平均温度が37℃、という条件を置いたので、発熱量の多いModel Bの方で排熱(放熱)が速く進まないと計算に合わなくなるからである)
それにも関わらず、Model Aにおいてより低い皮膚温度が算出されたのは、脂肪12の熱伝導率が低いことに起因すると結論することができる。
次に、熱伝導解析による脂肪量評価を実際の人体に適用した場合の例を示す。
二人の被験者のCT画像を撮り、それらをモデル化した。
図3Aと図3Bに示す二つの臍位モデルReal Model AとReal Model Bとは、二人の被験者のCT画像から作成したモデルである。
CT画像より、Real Model Aでは脂肪面積が398.1cm2であり、Real Model Bでは脂肪面積が56.5cm2であった。
図4Aと図4Bとは、サーモグラフィ計測の結果である。なお、図4Aは図3Aに対応し、図4Bは図3Bに対応する。この温度計測により、二次元定常熱伝導方程式(4)を解く際に境界条件として必要となる皮膚表面温度を得ることができる。
その結果を図6A、図6Bに示す。
背面に向かう熱は、主に背骨を取り巻く筋肉で発生したものである。それに対し、Real Model Bにおいては、腸およびその周辺の血管から発生した熱が背面と腹面との両方に伝わっており、Real Model Aと対照的である。以上のように,脂肪量が多い被験者と脂肪量が少ない被験者とでは、臍位における皮膚表面温度分布と内部の熱移動の様子とにおいて明確な差異が生じること示された。
次に、本発明の実施形態について説明する。
上記に説明した熱伝導解析による脂肪量評価を実際の患者に適用するための実施形態を説明する。
図7は、処理の流れを示す図である。
まず、本実施形態の方法を実施するにあたって、予めデータベース200を用意しておくことが必要である。
データベース200は、複数のサンプルデータを記録している。これは、できるだけ多くの人(サンプル)に対して基礎調査を行い、その結果を予め基礎データとして取得しておくものである。サンプルごとに、体組成データ、腹囲データ、皮膚表面温度分布、熱流束分布を求めて記録しておく。
サンプルの抽出にあたっては、例えば、まず、腹囲を使ってある程度サンプルを絞る。そして、絞られたサンプルの中から、体表面の平均温度が近いものを抽出するようにしてもよい。さらに、図5に示した皮膚温度分布のグラフにおいて、グラフの傾向が近似しているものを選ぶようにしてもよい。
例えば、図5のグラフにおいて、無次元長さ0.5から0.8あたりにかけて温度が低下する部分があり、この低下の程度が脂肪量に関係していると考えられる。そこで、この温度低下の傾向が近似しているサンプルを抽出するようにすると、患者と脂肪量が近いサンプルを選ぶことができる。
患者の体組織を求めるには、この体深部温度のずれが小さくなるようにサンプルの体組織データを調整する(ST150)。
脂肪量と筋肉量とを調整する場合には、部位や形はほぼ決まっているので、相似変形させることが一例として挙げられる。どの部位をどの程度調整するかは、熱伝導解析の結果として得られた熱流束分布を参照しながら判断する。
人体の脂肪量を求めるにあたり、従来は、毎回CTスキャンを撮るか、あるいは、インピーダンス法による体脂肪測定に頼るしかなかった。
しかし、CTスキャンには費用と被爆の問題があり、インピーダンス法には精度の点で大いに問題があった。
この点、本実施形態では、患者に対しては腹囲、体表面温度および体深部温度の測定を行えばよく、費用は低廉であり、体への負担もない。そして、体表面温度と脂肪量の関係に基づく熱伝導解析により、上記に説明したように、かなり正確に被験者の体組織、すなわち、脂肪量を求めることができる。したがって、測定を高い頻度で定期的に行うことができ、例えば肥満治療であれば、患者に対して脂肪量の変化を提示することができる。
また、医師としても正確な脂肪量データに基づいた適格な診断、アドバイスができる。
熱伝導解析において、内部発熱量qin、体深部温度、脂肪の熱伝導率、皮膚の熱伝導率等の値は文献値や多くの実測データから適切な値を使用すればよく、上記に挙げた数値は一つの例示にすぎないものである。
すなわち、コンピュータに所定プログラムを組み込んで、このコンピュータを、サンプル抽出手段、熱伝導解析演手段、対比手段および調整手段の各機能手段として機能するようにしてもよい。
Claims (3)
- 測定対象者の皮膚表面温度と体深部温度とを測定する測定工程と、
予め体組織が分かっているサンプルデータに対し、前記測定対象者の皮膚表面温度を拘束条件として熱伝導解析を行って温度分布を求める演算工程と、
前記演算工程で求められた体深部温度を測定対象者の体深部温度と対比する対比工程と、
前記対比工程において両者が一致しない場合には、サンプルの体組織を調整する調整工程と、を備え、
前記演算工程で求められた体深部温度が測定対象者の体深部温度に合致するまで前記調整工程と前記演算工程とを繰り返す
ことを特徴とする人体の脂肪量推定方法。 - 請求項1に記載の人体の脂肪量推定方法において、
サンプルごとに体組成データ、腹囲データおよび皮膚表面温度分布を記録したデータベースを予め用意しておき、
前記測定工程においては、さらに、腹囲を測定し、
腹囲および皮膚表面温度分布が測定対象者と近似したサンプルを前記データベースから抽出する
ことを特徴とする人体の脂肪推定方法。 - 予め体組織が分かっているサンプルデータに対し、測定対象者の皮膚表面温度を拘束条件として熱伝導解析を行って温度分布を求める演算手段と、
前記演算手段で求められた体深部温度を測定対象者の体深部温度と対比する対比手段と、
前記対比手段による対比において両者が一致しない場合には、サンプルの体組織を調整する調整手段と、を備え、
前記演算手段で求められた体深部温度が測定対象者の体深部温度に合致するまで前記調整手段による調整動作と前記演算手段による演算動作とを繰り返す
ことを特徴とする人体の脂肪量評価装置。
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