JP5770993B2 - インデューサ又は羽根車のキャビテーション挙動安定性を予測評価する方法 - Google Patents
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Description
近年の電子計算機の発達に伴い、CFD(Computational Fluid Dynamics)によってキャビテーション挙動の不安定現象を解析する研究が行われてきた。キャビテーション挙動の不安定現象は時間と共に変動する非定常現象であるため、その発生限界や挙動の予測には非定常CFDによって非定常解析を行う必要があった。しかしながら、インデューサや羽根車の設計段階において、多数の設計候補のキャビテーション挙動や安定性の評価のために、その都度、非定常CFDを行うことは現在の電子計算機能力を持ってしても時間的コスト、計算コストが大きすぎる欠点がある。
また、本発明は、特定の設計パラメータを異ならせた複数の予測評価対象について上記予測評価方法にてキャビテーションの挙動安定性を評価し、前記特定の設計パラメータのキャビテーションの挙動安定性に対する感度を予測する方法を提供することを目的とする。
各翼の子午面におけるチップ近傍でキャビテーションが発達する傾向があるため、本発明は、特定方向の圧力分布を、各翼の子午面におけるチップ近傍の圧力分布と特定したものである。
各翼の負圧面上の圧力分布の極大値の位置が異なることは、各翼の圧力分布が異なることを意味するので、キャビテーションの分布もばらついていると考えることができる。そこで、本発明は、各翼の圧力分布の特徴的な圧力分布形状の位置を、各翼の負圧面上の各圧力分布の極大値の位置と特定したものである。
(1)ポンプ等に使用される、複数の同一形状の翼を有するインデューサ又は羽根車を最適設計するにあたり、時間的コストおよび計算コストの大きい非定常CFDを用いることなく、定常CFDによる計算結果からより低コストでキャビテーションの挙動安定性を予測評価できる。したがって、キャビテーションの挙動安定性を向上できるインデューサ又は羽根車の開発をより低コストで行うことができる。
(2)特定の設計パラメータを異ならせた複数の予測評価対象について上記予測評価方法にてキャビテーションの挙動安定性を評価し、前記特定の設計パラメータのキャビテーションの挙動安定性に対する感度を予測することができる。
図1は本発明の一実施形態におけるインデューサを備えたターボポンプの一部分を示す断面図である。図1に示すターボポンプは、インデューサ1と、インデューサ1の下流側に配置された羽根車2と、インデューサ1と羽根車2とを支持する主軸3を備えている。インデューサ1の軸心は羽根車2の軸心と一致しており、インデューサ1は主軸3の回転に伴って羽根車2と同一回転速度で回転するようになっている。
ポンプの作動流体は、図1の矢印Fで示される方向からインデューサ1に流入する。インデューサ1に流入した作動流体は、インデューサ1内でキャビテーションを発生しながら昇圧され、更に下流の羽根車2でポンプの要求揚程まで昇圧される。このとき、インデューサ1により、羽根車2の中でキャビテーションが発生しない圧力まで作動流体が昇圧されるので、羽根車2単独のときよりもポンプの吸込性能が格段に向上する。
図3は、3枚翼のインデューサの吸込性能ならびにキャビテーション挙動の不安定現象の発生範囲とその種類の例を説明する図である。図3において、横軸はキャビテーション数σを表し、縦軸はインデューサ圧力係数ψtsを表す。キャビテーション数σは、ポンプ入口圧力Ptと作動流体の飽和蒸気圧Pvならびに作動流体の密度ρとインデューサチップ部周速度Utによって計算される。すなわち、キャビテーション数σ=2(Pt−Pv)/ρUt2と表される。インデューサ圧力係数ψtsは、インデューサヘッドHとインデューサチップ部周速度Utならびに重力加速度gによって計算される。すなわち、インデューサ圧力係数ψts=gH/Ut2と表される。
図中、実線と点線で囲われた領域は、キャビテーション挙動の不安定現象が発生していた範囲である。図中、キャビテーション挙動の不安定現象の種類を以下の記号で示している。
AC:非対称キャビテーション(各翼のキャビテーションが非対称な分布となる現象)
RC:旋回キャビテーション(キャビテーションが周方向に翼から翼へ伝播する現象)
CS:キャビテーションサージ(キャビテーションがインデューサ内をインデューサ上下流方向に振動する現象)
MCS:弱いキャビテーションサージ的変動
従来、これらのキャビテーションの挙動安定性を予測評価し、安定なインデューサの設計手法を構築することが課題であった。しかしながら、キャビテーションの挙動安定性の予測には、前述したように非定常CFDを用いており、時間的コストおよび計算コストがが過大になるという問題があった。
そこで、本発明では時間的コストの小さい定常CFDによってキャビテーション挙動の安定性を評価する。
図4は、図3で示したインデューサの吸込性能に関して、流量比Q/Qdが1.0と0.8の場合について、定常CFDで計算した結果と比較したものである。図中、7個の円形状の部分は、定常CFDで求めたキャビテーションが発生しているインデューサを前方から見た形状を示している。インデューサを前方から見た形状の中で、黒色部はキャビテーションボイド率50%の等値面であり、インデューサ翼面上に発達しているキャビテーション分布を表すものである。図中、上の列の左から2番目および3番目の形状の中で、黒色部で表すキャビテーションの分布がばらついていることがわかる。
図5(a)は、定常CFDで求めたキャビテーションが発生しているインデューサを前方から見た形状を示す。図中、黒色部はキャビテーションボイド率50%の等値面であり、インデューサ翼面上に発達しているキャビテーション分布を表す。図5(a)の黒色部の分布からわかるように、3枚の翼(blade1,blade2,blade3)に発生するキャビテーション分布にばらつきが発生している。
VT=(m1−mave)2+(m2+mave)2+(m3−mave)2/3 (1)
m1,m2,m3:負圧面静圧の極大値を示す(1)、(2)、(3)の子午面位置
mave:m1,m2,m3の平均値,(m1+m2+m3)/3
また、ここでは各翼のインデューサチップ側における翼面静圧分布における極大値の位置の分散Vtを評価したが、定常CFDの計算結果に基づく各翼のキャビテーション分布のばらつきを評価するには、各翼のキャビテーション体積/所定圧力以下の体積のばらつきや、各翼のキャビテーション領域の形状のばらつきを評価しても同様にキャビテーション不安定性の優劣を判断することができる。
また、定常CFDにより各翼の翼面から連続する所定圧力以下の領域、例えば飽和蒸気圧以下の領域を抽出し、抽出した各領域の形状を特定し、各形状自体のばらつきを評価してキャビテーション不安定性の優劣を判断することができる。
図8(a)において、横軸は正規化した子午面位置を示し、m=0がインデューサ入口、m=1がインデューサ出口を示し、縦軸はインデューサ負荷分布∂(rVθ)/∂m(rVθは角運動量,mは子午面位置)を示す。図8(a)に示すように、設計パラメータとしてチップ側の負荷分布のslope(スロープ)であるSLTとハブ側の負荷分布のslope(スロープ)であるSLHとがある。また、設計パラメータとしてチップ側およびハブ側のIncidence(インシデンス)であるINCT,INCHがある。
図8(b)において、横軸はspan(スパン)を示し、span=0.0がインデューサハブの位置、span=1.0がインデューサチップの位置を示し、縦軸はインデューサ出口のスパン方向無次元rVθ分布(オイラーヘッド係数に相当する)を示す。図中、rVθtype1は自由渦型であり、rVθtype2,rVθtype3はハブ側よりチップ側が大きい強制渦型である。図8(b)に示すように、設計パラメータとしてrVθtype1,rVθtype2,rVθtype3の出口渦形式があり、以下の説明においては、これらの出口渦形式をRVTと表記する。
本発明に係るインデューサは、この三次元逆解法により翼形の計算を行うものである。
図9(a),(b),(c)は、設計パラメータのキャビテーション体積およびキャビテーションのばらつきに及ぼす影響を示す図である。
図8において説明したように、設計パラメータはRVT,INCT,INCH,SLT,SLHの5個あり、これら5個の設計パラメータを用いて、それぞれlow(小),middle(中),high(大)のようにレベル(Level)を変えて定常CFDにより翼形状を求めることにより、15個の翼形状が求まる。
図9(a)は、15個の翼形状に対して、100%Qdおよびキャビテーション数σ=0.066においてCFDによりキャビテーション体積Vcを求めた結果を示す。図9(a)において、横軸は設計パラメータのレベルを示し、縦軸は正規化されたキャビテーション体積Vcを示す。図9(a)からわかるように、チップ部のインシデンス(INCT)が大きい場合にはキャビテーション体積Vcが大きく、チップ部のインシデンス(INCT)が小さい場合には、キャビテーション体積が小さい。他のパラメータ(RVT,INCH,SLT,SLH)は、キャビテーション体積Vcにはそれほど影響を与えない。
(1)キャビテーション体積の大きさで見たキャビテーションの発達度合いは、チップ側インシデンス(INCT)の影響が顕著であり他のパラメータの影響は小さい。
(2)Q/Qd=0.8におけるキャビテーションのばらつきにはRVT,INCT,SLTの影響が大きいことがわかる。すなわち、RVTが小さく(自由渦設計)、INCTが大きく(チップ側インシデンス大)、SLTが大きい(後半負荷型)場合にキャビテーションのばらつきが大きく、キャビテーション挙動の不安定性が大きく、RVTが大きく(強制渦設計)、INCTが小さく(チップ側インシデンス小)、SLTが小さい(前半負荷型)の場合にキャビテーションのばらつきが小さく、キャビテーション挙動の安定性が大きいと予測できる。
表1は、最もキャビテーション挙動が不安定と予測されるcase3と、吸込性能が高く、キャビテーション挙動が安定と予測されるcase16およびcase27の設計パラメータを示す。
図14(a)に示すように、case3のインデューサでは流量比Q/Qd=0.9,0.8ならびに0.7で旋回キャビテーション(RC)が発生した。また、流量比Q/Qd=1.0と0.9では非対称キャビテーション(AC)が発生した。さらに、流量比Q/Qd=1.0のキャビテーションサージ発生直前と流量比Q/Qd=0.9,0.8でキャビテーション数σ=0.1の付近において弱いキャビテーションサージ的変動(MCS)が発生した。
以上により、最適化プロセスにより予測されたcase16のインデューサの安定性と吸込性能の優位性を実験により確認できた。
1le 翼前縁
1te 翼後縁
1H インデューサハブ
1T インデューサチップ
2 羽根車
3 主軸
Claims (8)
- 複数の同一形状の翼を有するインデューサ又は羽根車のキャビテーションの挙動安定性を予測評価する方法であって、予測評価対象の流れ場をCFD(Computational Fluid Dynamics)で解析し、各翼の翼面の子午面方向の圧力分布を抽出し、各翼の圧力分布の特徴的な圧力分布形状の位置を特定し、前記各翼の圧力分布の特徴的な圧力分布形状の位置同士のばらつきをキャビテーションの挙動安定性を示す指標とすることを特徴とする予測評価方法。
- 複数の同一形状の翼を有するインデューサ又は羽根車のキャビテーションの挙動安定性を予測評価する方法であって、予測評価対象の流れ場をCFD(Computational Fluid Dynamics)で解析し、各翼の翼面の特定方向の圧力分布を抽出し、各翼の圧力分布の特徴的な圧力分布形状の位置を特定し、各位置のばらつきをキャビテーションの挙動安定性を示す指標とし、
前記特定方向の圧力分布は、各翼の子午面におけるチップ近傍の圧力分布であることを特徴とする予測評価方法。 - 複数の同一形状の翼を有するインデューサ又は羽根車のキャビテーションの挙動安定性を予測評価する方法であって、予測評価対象の流れ場をCFD(Computational Fluid Dynamics)で解析し、各翼の翼面の特定方向の圧力分布を抽出し、各翼の圧力分布の特徴的な圧力分布形状の位置を特定し、各位置のばらつきをキャビテーションの挙動安定性を示す指標とし、
前記特徴的な圧力分布形状の位置は、各翼の負圧面上の各圧力分布の極大値の位置であることを特徴とする予測評価方法。 - 複数の同一形状の翼を有するインデューサ又は羽根車のキャビテーションの挙動安定性を予測評価する方法であって、予測評価対象となるインデューサ又は羽根車の形状を決定し、前記予測評価対象の流れ場をCFD(Computational Fluid Dynamics)で計算し、各翼の翼面から連続する、所定圧力以下の領域、もしくは、所定のキャビテーションボイド率以上の領域を抽出し、各領域の占める体積を特定し、各体積のばらつきをキャビテーションの挙動安定性を示す指標とすることを特徴とする予測評価方法。
- 複数の同一形状の翼を有するインデューサ又は羽根車のキャビテーションの挙動安定性を予測評価する方法であって、予測評価対象の流れ場をCFD(Computational Fluid Dynamics)で計算し、各翼の翼面から子午面方向の連続する所定圧力以下の領域を抽出し、各翼の前記所定圧力以下の各領域の形状を特定し、前記各形状のばらつきをキャビテーションの挙動安定性を示す指標とすることを特徴とする予測評価方法。
- 特定の設計パラメータを異ならせた複数の予測評価対象の形状を用意し、前記複数の予測評価対象について、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の予測評価方法にてキャビテーションの挙動安定性を評価し、前記特定の設計パラメータのキャビテーションの挙動安定性に対する感度を予測することを特徴とする設計パラメータの感度予測方法。
- 請求項6記載の感度予測方法によって求められた前記特定の設計パラメータのキャビテーションの挙動安定性に対する感度に基づいて、キャビテーションの挙動安定性を最適化することを特徴とするインデューサまたは羽根車の設計方法。
- 前記キャビテーションの挙動安定性を最適化するとは、キャビテーションの挙動安定性を最大とすること、およびインデューサ又は羽根車の性能を維持した上でキャビテーションの挙動安定性を許容できる範囲内に収めることを含むことを特徴とする請求項7記載のインデューサまたは羽根車の設計方法。
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