JP5754048B2 - コークス炉ガスの脱硫方法 - Google Patents

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本発明は、コークス炉ガスの脱硫方法に関する。
従来、石炭を乾留してコークスを製造する工程においては、コークス炉ガスが発生する。このコークス炉ガスには、石炭に含まれる硫黄分に由来する硫化水素が含まれるため、そのまま燃料として用いると、硫化水素に由来する硫黄酸化物(SOx)が発生し、環境に影響を及ぼすこととなる。このため、コークス炉ガスを燃料として用いるためには、燃焼前に硫化水素の除去を行う必要がある。
上記脱硫方法としては、吸収剤としてのNHOHと、脱硫触媒としてのピクリン酸を含有するアルカリ性水溶液(以下、「吸収液」ともいう)をコークス炉ガスに接触させ、硫化水素を水硫化アンモニウム(NHSH)として吸収し、この水硫化アンモニウムをピクリン酸によって酸化して硫黄に変換する方法が広く用いられている。
上記脱硫方法では、発生する硫黄及びピクリン酸の一部が、脱硫塔内の充填剤にスラッジとなって堆積する。そのため、脱硫塔内の圧力損失が上昇し、脱硫塔へコークス炉ガスを送る送風機に過度の負荷がかかったり、脱硫塔内でコークス炉ガスが偏流を起こすことにより脱硫効率が低下する場合がある。
脱硫塔内での硫黄及びピクリン酸の堆積を抑制するためには、吸収液中の硫黄及びピクリン酸濃度を低下すればよい。そのためには、ピクリン酸の過剰添加を抑えればよい。一方で、吸収液中のピクリン酸濃度を必要以上に低下させると脱硫効率が低下することとなる。そのため、吸収液中のピクリン酸濃度を常時適正値に保持することが求められる。
従来、ピクリン酸の吸収液への添加量は、脱硫塔出口の硫化水素濃度や、コークス炉に装入される石炭の成分分析結果により調整されていた。しかしながら、吸収液は、例えば、再生塔において析出した硫黄を分離・回収する場合等、脱硫系外に抜き出されるため、上述したピクリン酸の添加方法では、吸収液中のピクリン酸濃度が適正値から外れるおそれが高い。
従来、脱硫塔におけるコークス炉ガスの圧力損失測定結果に基づき、脱硫塔の塔頂部において、液滴平均径が5mm以上のアルカリ性水溶液を噴霧するコークス炉ガスの脱硫方法が存在する(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載のコークス炉ガスの脱硫方法は、吸収液の噴霧液滴径を大きくすることによって、吸収液とコークス炉ガスとの接触効率を低下させ、脱硫塔最上部の充填層における硫黄の生成を抑制すると共に、径の大きな吸収液液滴による充填層の洗浄効果によって脱硫塔最上部の充填層における局部的な硫黄スラッジの堆積を防止しようとするものである。
特開2001−271074号公報
しかしながら、特許文献1に記載のコークス炉ガスの脱硫方法では、脱硫塔におけるコークス炉ガスの圧力損失測定結果に基づいて、噴霧液滴径を調整しているため、ある程度の硫黄が堆積し、圧力損失が上昇しはじめてから噴霧液滴径が調整される。そのため、噴霧液滴径が調整された後、圧力損失が適正な値となるまでの間は、圧力損失が上昇した状態で運転が継続されるといった問題がある。また、一般的に上記圧力損失は、加速度的に上昇するため、圧力損失が上昇しはじめてから、噴霧液滴径を調整したとしても、硫黄生成の抑制や、充填層の洗浄効果が追いつかないといった問題がある。
ピクリン酸そのものの濃度は、一般的に、紫外可視吸光光度計を用いて測定することができる。しかしながら、紫外可視吸光光度計で、コークス炉ガスの脱硫に用いた吸収液中のピクリン酸濃度を測定しても、微量しか観測されない。これは、吸収液中においては、ピクリン酸はそのほとんどが還元生成物として存在するためである。コークス炉ガスの脱硫を効率よく行なうためには、脱硫系内のピクリン酸還元生成物の濃度をいち早く知ることが望ましい。そのため、脱硫系内のピクリン酸還元生成物の濃度をいち早く取得できる方法の開発が切望されていた。
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、脱硫系内のピクリン酸還元生成物の濃度をいち早く取得することが可能なコークス炉ガスの脱硫方法を提供することにある。
以上のような目的を達成するために、本発明は、以下のようなものを提供する。
ピクリン酸還元生成物を含有するアルカリ性水溶液でコークス炉ガスの脱硫を行うコークス炉ガスの脱硫方法であって、
脱硫系外に吸収液を抜き出す工程X−1、
前記工程X−1により脱硫系外に抜き出された吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度を求める工程X−2、
前記工程X−2により求めたピクリン酸還元生成物濃度と、抜き出した吸収液の量とに基づいて、脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量を求める工程X−3、
経験則に基づいた量のピクリン酸を脱硫系内に添加する工程X−4、
脱硫系内に添加したピクリン酸の量と脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量との相関を、前記工程X−1、前記工程X−2、前記工程X−3、及び、前記工程X−4を1セットとして複数回繰り返すことにより得る工程Y、及び、
前記工程Yにより得られた前記相関と、脱硫系内に添加するピクリン酸の量と、脱硫系外に抜き出す吸収液の量とに基づいて、脱硫系内のピクリン酸還元生成物濃度を求める工程Zを含むことを特徴とするコークス炉ガスの脱硫方法。
本発明者らは、脱硫系内に添加したピクリン酸の量と脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量とが相関することを発見した。そして、この相関を用いれば、脱硫系内に添加するピクリン酸の量と、脱硫系外に抜き出す吸収液の量とから、脱硫系内のピクリン酸還元生成物濃度を求める(推定する)ことができることに想到した。
前記構成によれば、脱硫系内に添加したピクリン酸の量と脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量との相関を、前記工程X−1、前記工程X−2、前記工程X−3、及び、前記工程X−4を1セットとして複数回繰り返すことにより得ておけば(工程Yを実施しておけば)、前記工程Yにより得られた前記相関と、脱硫系内に添加するピクリン酸の量と、脱硫系外に抜き出す吸収液の量とに基づいて、脱硫系内のピクリン酸還元生成物濃度を求める(工程Z)ことができる。すなわち、前記構成によれば、脱硫系内の吸収液を実際にサンプリングしてピクリン酸還元生成物の濃度を測定しなくても、脱硫系内のピクリン酸還元生成物の濃度を知ることができる。その結果、脱硫系内のピクリン酸還元生成物の濃度をいち早く取得することが可能となる。
前記構成において、前記工程X−2は、
抜き出した吸収液から有機物を抽出する工程、
抽出物に対して元素分析を行う工程、
抽出物に対して赤外分光分析を行う工程、及び、
前記元素分析の結果と前記赤外分光分析の結果とに基づいて、前記吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度を求める工程を含むことが好ましい。
上述した通り、ピクリン酸は、吸収液中においてはそのほとんどが還元生成物として存在している。しかしながら、現在、ピクリン酸還元生成物の濃度を測定する方法は知られていない。
コークス炉ガスの脱硫に使用する吸収液には、ピクリン酸還元生成物(ごく少量のピクリン酸そのものを含む)、コークス炉ガスに含まれるタール由来の脂肪族炭化水素、前記タール由来の芳香族炭化水素、チオシアン酸アンモニウム、単体硫黄、及び、水溶性物質が含まれる。
前記構成によれば、吸収液から有機物を主成分とする物質(以下、特に断らない限り、単に「有機物」という)を抽出し、抽出物に対して元素分析を行うとともに、抽出物に対して赤外分光分析を行い、元素分析の結果と、赤外分光分析の結果とに基づいて、ピクリン酸還元生成物(ごく少量のピクリン酸そのものを含む)の濃度を求めることができる。例えば、(a)吸収液から抽出した有機物の重量から吸収液中の有機物全体の濃度を特定し、(b)元素分析により遊離硫黄の濃度を特定し、(c)赤外分光分析により、遊離硫黄、及び、ピクリン酸以外の物質の濃度を特定し、(d)有機物全体の濃度から、遊離硫黄の濃度と、ピクリン酸以外の物質の濃度とを差し引くことにより、ピクリン酸還元生成物(ごく少量のピクリン酸そのものを含む)の濃度を求めることができる。
前記構成において、前記工程X−2は、
抜き出した吸収液に対して紫外線吸光分析を行なう工程A、
紫外線吸光分析を行なった後の吸収液から有機物を抽出する工程B、
有機物を抽出した後の吸収液に対して紫外線吸光分析を行なう工程C、
抽出物に対して元素分析を行う工程D、
抽出物に対して赤外分光分析を行う工程E、
前記工程Aにおける紫外線吸光分析の結果と前記工程Cにおける紫外線吸光分析の結果とに基づいて、有機物中のピクリン酸還元生成物の抽出率を得る工程F、
前記工程Dにおける元素分析の結果と前記工程Eにおける赤外分光分析の結果とに基づいて、抽出率換算前のピクリン酸還元生成物濃度を得る工程G、及び、
前記工程Gで得た抽出率換算前のピクリン酸還元生成物濃度と、前記工程Fで得た抽出率から、ピクリン酸還元生成物濃度を求める工程Hを含むことが好ましい。
本発明者らは、紫外可視吸光光度計で、吸収液のスペクトルを観察すると、ピクリン酸そのもののスペクトルは観察されないが、475nm付近をピークとするスペクトルが観察され、この475nmの吸光度がピクリン酸還元生成物の濃度と相関することを発見した。
前記構成によれば、抜き出した吸収液に対して紫外線吸光分析を行ない(工程A)、紫外線吸光分析を行なった後の吸収液から有機物を抽出し(工程B)、有機物を抽出した後の吸収液に対して紫外線吸光分析を行なう(工程C)。
吸収液の475nmにおける吸光度がピクリン酸還元生成物の濃度と相関することを利用し、前記工程Aにおける紫外線吸光分析の結果と前記工程Cにおける紫外線吸光分析の結果とに基づいて、有機物中のピクリン酸還元生成物の抽出率を得る(工程F)。
また、抽出物に対して元素分析を行う(工程D)とともに、抽出物に対して赤外分光分析を行い(工程E)、元素分析の結果と、赤外分光分析の結果とに基づいて、抽出率による換算前のピクリン酸還元生成物濃度を得る(工程G)。例えば、(a)吸収液から抽出した有機物の重量から吸収液中の有機物全体の濃度を特定し、(b)元素分析により遊離硫黄の濃度を特定し、(c)赤外分光分析により、遊離硫黄、及び、ピクリン酸還元生成物以外の物質の濃度を特定し、(d)有機物全体の濃度から、遊離硫黄の濃度と、ピクリン酸還元生成物以外の物質の濃度とを差し引くことにより、抽出率による換算前のピクリン酸還元生成物濃度を求める。
そして、前記工程Gで得た抽出率換算前のピクリン酸還元生成物濃度と、前記工程Fで得た抽出率から、ピクリン酸還元生成物濃度を求める(工程H)。
このように、前記構成によれば、有機物を抽出する工程において抽出されなかった(水相に残った)ピクリン酸還元生成物を考慮した、より正確なピクリン酸還元生成物濃度を得ることができる。
前記構成においては、前記工程Zにより求めた脱硫系内のピクリン酸還元生成物濃度に基づいて、ピクリン酸の添加量を調整する工程を含むことが好ましい。
前記構成によれば、前記工程Zにより求めた脱硫系内のピクリン酸還元生成物濃度に基づいて、ピクリン酸の添加量を調整する。従って、脱硫系外に吸収液を抜き出してから、そのピクリン酸還元生成物濃度を得るまでのタイムラグを少なくすることができる。その結果、吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度を所望の一定範囲内に調整することができる。これにより、脱硫塔内での硫黄生成を抑制することができ、脱硫塔の安定運転に寄与することができる。
本発明によれば、脱硫系内のピクリン酸還元生成物の濃度をいち早く取得することが可能になる。
本実施形態に係るコークス炉ガス脱硫設備の一例を模式的に示す系統図である。 吸収液中の有機物を抽出する手順を示すフロー図である。 脂肪族炭化水素の定量手順を示すフロー図である。 チオシアン酸アンモニウムの定量手順を示すフロー図である。 固相抽出前の紫外線吸収分析において得られた吸収スペクトルと、固相抽出後の紫外線吸収分析において得られた吸収スペクトルとの一例を示す図である。 オクタデカンを添加した抽出物の赤外線吸収スペクトルを示す図である。 脂肪族炭化水素を定量するための検量線である。 チオシアン酸アンモニウムを添加した抽出物の赤外線吸収スペクトルを示す図である。 チオシアン酸アンモニウムを定量するための検量線である。 実施例1〜9において測定したピクリン酸還元生成物濃度(抽出率換算後のピクリン酸還元生成物濃度)と添加したピクリン酸量との関係のグラフを示す図である。 実施例1〜9における抽出率換算前のピクリン酸還元生成物濃度と添加したピクリン酸量との関係のグラフを示す図である。 実施例1〜9について、脱硫系外に抜き出したピクリン酸量をx軸、脱硫系内に添加したピクリン酸の量をy軸としてプロットして得たグラフを示す図である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るコークス炉ガス脱硫設備の一例を模式的に示す系統図である。コークス炉ガス脱硫設備10は、脱硫塔12、再生塔14、及び、脱硫廃液処理装置18を備える。コークス炉ガス脱硫設備10においては、吸収液として、吸収剤としてのNHOHと、脱硫触媒としてのピクリン酸還元生成物(少量のピクリン酸そのものを含む)とを含有するアルカリ性の水溶液が使用される。
脱硫塔12では、脱硫塔12の頂部から吸収液が噴霧されており、コークス炉ガスCOG1が脱硫塔12の下方より導入されると、脱硫塔12内に充填された充填剤22の表面において、コークス炉ガスCOG1中の硫化水素やシアン化水素が吸収液に吸収されて除去され、脱硫コークス炉ガスCOG2として上部から次工程へと排出される。このとき、硫化水素は、水硫化アンモニウム(NHSH)として吸収され、シアン化水素は、チオシアン酸アンモニウム(NHSCN)として吸収される。また、触媒であるピクリン酸は還元され、ニトロ基(−NO)がニトロソ基(−NO)やヒドロキシルアミノ基(−NHOH)へと変換される。
硫化水素やシアン化水素を吸収し、且つ、ピクリン酸還元生成物を含む吸収液は、脱硫塔12の塔底より回収され、配管13を介して再生塔14に送られる。
配管13には、サンプリング管S1が接続されており、脱硫塔12の塔底から回収された吸収液をサンプリングすることができる。
再生塔14では、塔底より空気Aが導入されており、吸収液に吸収した硫化水素を遊離硫黄として、液中に析出させる。また、ピクリン酸還元生成物も塔底より導入される空気Aと接触して酸化されるとともに、アルカリが再生され、配管16を介して脱硫塔12に再び送られる。これにより、触媒及びアルカリの両者が再利用される。
配管16には、サンプリング管S3が接続されており、再生塔14から脱硫塔12に送られる吸収液をサンプリングすることができる。また、配管16には、触媒添加用管S2が接続されており、吸収液にピクリン酸Piを添加することができる。
また、再生塔14には、配管17が接続されており、再生塔14内に析出物が蓄積するのを防止するため、遊離硫黄、チオシアン酸アンモニウム等の析出物とともに吸収液がその上部から抜き出され、遊離硫黄等が分離された後、脱硫廃液処理装置18に送られる。
本実施形態の脱硫方法では、上記のように、吸収液の一部が脱硫系外に抜き出される。また、触媒としてのピクリン酸は、還元されるとニトロ基(−NO)がニトロソ基(−NO)やヒドロキシルアミノ基(−NHOH)へと変換されるが、さらに還元され、アミノ基(−NH)にまで変換されると、再生するのが困難となり、触媒作用を失うこととなる。これを補うべく、脱硫系を循環している吸収液は、定期的にその一部が抜き出され、新たな吸収液が補充される。そのため、脱硫系内の吸収液中のピクリン酸濃度は変化する。
本実施形態に係る脱硫方法では、再生塔14から脱硫塔12へと吸収液を送給する配管16の途中で、ピクリン酸Piを添加する。このとき、ピクリン酸Piの添加量は、脱硫系内に添加したピクリン酸の量と脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量との相関が得られるまでは、経験則に基づいて決定される(工程X−4)。そして、脱硫系内に添加したピクリン酸の量と脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量との相関が得られた後は、得られた前記相関と、脱硫系内に添加するピクリン酸の量と、脱硫系外に抜き出す吸収液の量とに基づいて、脱硫系内のピクリン酸還元生成物濃度を求め(工程Z)、前記工程Zにより求めた脱硫系内のピクリン酸還元生成物濃度に基づいて、決定される。なお、脱硫系内に添加したピクリン酸の量と脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量との相関が得られた後も、ピクリン酸Piの添加量は、経験則に基づいて決定してもよい。この場合であっても、脱硫系内のピクリン酸還元生成物濃度が求められているため、例えば、脱硫系外に抜き出す吸収液の量を調整する等して、吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度を所望の一定範囲内に調整することができるからである。
以下、まず、脱硫系内に添加したピクリン酸の量と脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量との相関を得る方法について説明する。なお、当該相関は、操業(コークス炉ガスの脱硫)を行ないながら得ることができる。
まず、脱硫系外に吸収液を抜き出す(工程X−1)。この工程X−1は、配管17から行なわれる。なお、配管17、サンプリング管S1、サンプリング管S3の2つ以上を用いて脱硫系外に吸収液を抜き出してもよい。
次に、工程X−1により脱硫系外に抜き出された吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度を求める(工程X−2)。工程X−1により脱硫系外に抜き出された吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度は、配管17から抜き取った吸収液中の濃度を採用してもよく、サンプリング管S1、又は、サンプリング管S3によりサンプリングした吸収液中の濃度を採用してもよい。ただし、サンプリング箇所により化合物の形態(酸化度合い)が異なるためピクリン酸還元生成物濃度に差が生じる場合がある。よってサンプリング箇所は一箇所に固定しておくことが好ましい。脱硫系外に抜き出された吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度の求め方については後ほど詳述する。
次に、前記工程X−2により求めたピクリン酸還元生成物濃度と、抜き出した吸収液の量とに基づいて、脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量を求める(工程X−3)。具体的には、下記式により脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量を求める。
(脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量)=(工程X−2により求めたピクリン酸還元生成物濃度)×(抜き出した吸収液の量)
一方、経験則に基づいた量のピクリン酸を脱硫系内に添加する(工程X−4)。工程X−4において添加されるピクリン酸の量は、装入炭性状(硫化水素濃度)、脱硫効率、吸収液の酸化還元電位等の値から経験的に決定される。
次に、前記工程X−1、前記工程X−2、前記工程X−3、及び、前記工程X−4を1セットとして複数回繰り返すことにより、脱硫系内に添加したピクリン酸の量と脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量との相関を得る(工程Y)。前記工程X−1、前記工程X−2、前記工程X−3、及び、前記工程X−4の繰り返しは、例えば、1月を1サイクルとして行なうことができる。例えば、これを複数回繰り返すことにより得られるデータから相関式を得ることができる。
次に、吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度の測定方法の具体例(前記工程X−2の具体例)について説明する。
コークス炉ガスの脱硫に使用された吸収液(以下、脱硫液ともいう)には、ピクリン酸還元生成物(以下、ピクリン酸還元生成物Fともいう)、コークス炉ガスに含まれるタール由来の脂肪族炭化水素(以下、脂肪族炭化水素Dともいう)、前記タール由来の芳香族炭化水素(以下、芳香族炭化水素Eともいう)、チオシアン酸アンモニウム(以下、チオシアン酸アンモニウムCともいう)、単体硫黄(以下、単体硫黄Bともいう)、及び、水溶性物質が含まれる。すなわち、脱硫液には、B〜F、及び、水溶性物質が含まれる。
上記吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度の測定方法では、まず、サンプリングした吸収液に対して紫外線吸光分析を行なう(工程A)。次に、固相抽出カートリッジを用いて有機物のみを回収する(工程B)。これにより、上記B〜F、及び、水溶性物質のうち、水溶性物質が除去される。次に、これを真空乾燥させることにより、抽出物(以下、抽出物Aともいう)を得る。この際、沸点が低く、揮発性の高いタール由来の芳香族炭化水素Eは除去される。従って、抽出物Aには、上記B〜D、及び、上記Fが含まれる。ただし、ピクリン酸還元生成物Fのうち、還元の進んだピクリン酸還元生成物は、親水性がより大きくなっているため、その一部は抽出されていない(水相に移動している)。
次に、有機物を抽出した後の吸収液に対して紫外線吸光分析を行なう(工程C)。475nmでの吸光度は、ピクリン酸還元生成物の濃度と相関する。従って、前記工程Aにおける紫外線吸光分析の結果(すなわち、試料中の全ピクリン酸還元生成物に基づく吸光度)と前記工程Cにおける紫外線吸光分析の結果(すなわち、試料のうち工程Bにより抽出されなかったピクリン酸還元生成物に基づく吸光度)とに基づいて、有機物中のピクリン酸還元生成物の抽出率を得る(工程F)。
次に、下記の方法により、抽出率による換算前のピクリン酸還元生成物Fの濃度を求める。
(i)抽出物Aを秤量し、固相抽出カートリッジに通水させた脱硫液の量と、抽出物Aの重量とから、脱硫液中の抽出物Aの濃度(mg/L)を求める。
(ii)元素分析装置を用いて抽出物Aの元素分析を行い、単体硫黄Bの濃度(mg/L)を求める(工程D)。
(iii)抽出物Aを含む錠剤を作成し、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)による赤外線吸収スペクトルから、抽出物Aに含まれる脂肪族炭化水素Dの濃度(mg/L)を求める(工程E)。
(iv)抽出物Aを含む錠剤を作成し、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)による赤外線吸収スペクトルから、抽出物Aに含まれるチオシアン酸アンモニウムCの濃度(mg/L)を求める(工程E)。
(v)上記(i)〜(iv)により得られた結果を基に、抽出率による換算前のピクリン酸還元生成物Fの濃度を下記計算式により求める(工程G)。
(抽出率による換算前のピクリン酸還元生成物Fの濃度)=(抽出物Aの濃度)−(単体硫黄Bの濃度)−(脂肪族炭化水素Dの濃度)−(チオシアン酸アンモニウムCの濃度)
そして、最後に、前記工程Gで得た抽出率換算前のピクリン酸還元生成物Fの濃度と、前記工程Fで得た抽出率から、ピクリン酸還元生成物濃度を求める(工程H)。
これにより、有機物を抽出する工程(工程B)において、抽出されなかった(水相に残った)ピクリン酸還元生成物を考慮した、より正確なピクリン酸還元生成物濃度を得ることができる。
以下、上記測定方法を詳述することとする。
図2は、吸収液中の有機物を抽出する手順を示すフロー図である。
まず、ステップS11において、サンプリング管S3から、脱硫液をサンプリングする。次に、ステップS12において、脱硫液150mlを純水にて20倍に希釈し、試料を作成する。
次に、ステップS13において、試料に対して紫外線吸光分析を行なう(工程A)。これにより、475nmにおける吸光度を得る。
次に、ステップS14において、試料を固相抽出カートリッジに通水し、有機物を吸着させる。このとき、固相抽出カートリッジを通過した試料は回収しておく。固相抽出カートリッジとしては、従来公知のものを採用することができる。前記固相抽出カートリッジに使用する充填剤としては、脱硫液中の有機物を吸着させることができるものであれば、特に限定されず、例えば、ポリスチレン系樹脂等を挙げることができる。
次に、ステップS15において、固相抽出カートリッジに純水を流して水洗し、水溶性物質を固相抽出カートリッジから除去する。
次に、ステップS16において、固相抽出カートリッジに一度通水した試料を再度通水し、一度目の通水において吸着しなかった有機物を吸着させる。
次に、ステップS17において、固相抽出カートリッジに通水した後の試料に対して紫外線吸光分析を行なう(工程C)。これにより、475nmにおける吸光度を得る。
次に、ステップS18において、150mlのメタノールを固相抽出カートリッジに流し、吸着させた有機物を溶出により脱離させる。
次に、脱離液をロータリーエバポレータにて濃縮し(ステップS19)、その後、濃縮物を70℃の真空乾燥機にて48時間乾燥させる(ステップS20)。これにより、抽出物Aを得る。
ここで、上記抽出手順により得られた抽出物Aの量を秤量し、抽出物Aの濃度を算出しておく。その後、元素分析装置を用いて抽出物Aの元素分析を行い、単体硫黄Bの濃度(mg/L)を求める。また、脂肪族炭化水素の定量、及び、チオシアン酸アンモニウムの定量を以下の手順(図3、図4参照)により行う。
図3は、脂肪族炭化水素の定量手順を示すフロー図である。
まず、10gの臭化カリウム(KBr)と、2.12mgの内部標準としてのヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム(K[Fe(CN)])とを脱イオン水300mlに溶解する(ステップS21)。
次に、エバポレータにて濃縮し、さらに、真空乾燥機(60℃で24時間)にて乾燥させ、水分を除去する(ステップS22)。
次に、ステップS21、S22において調製した内部標準入りのKBr:1gと、上記抽出手順において抽出した抽出物A:10mgと、アセトンに溶解した所定量のオクタデカンとをメノウ乳鉢にて混合する(ステップS23)。
次に、混合物を真空乾燥機(60℃で24時間)にて乾燥させて、アセトンを除去し(ステップS24)、錠剤に成型する(ステップS25)。
次に、成型した錠剤を用いて、FT−IR測定を行う(ステップS26)。このとき、脂肪族炭化水素DのCH結合に由来する吸収スペクトルと、内部標準物質のCN三重結合に由来する吸収スペクトルとの面積比((CH結合の面積)/(CN三重結合の面積))を求める。
次に、オクタデカンの配合量を変えて上記と同様に錠剤を成型し、FT−IR測定を行う(ステップS27)。このとき、ステップS26と同様に、脂肪族炭化水素DのCH結合に由来する吸収スペクトルと、内部標準物質のCN三重結合に由来する吸収スペクトルとの面積比を求める。なお、ステップS27は、次のステップS28において作成する検量線の正確性の観点から、オクタデカンの配合量を変えながら、複数回行うのが好ましい。
次に、オクタデカンの添加量をx軸に、上記面積比をy軸として検量線を作成する(ステップS28)。
次に、作成した検量線から、抽出物Aのうちの脂肪族炭化水素Dの割合を求め、この割合から、脱硫液中の脂肪族炭化水素Dの濃度を算出する(ステップS29)。なお、詳細な計算方法は、実施例に示すこととする。
図4は、チオシアン酸アンモニウムの定量手順を示すフロー図である。
なお、以下に説明にするチオシアン酸アンモニウムの定量手順では、脂肪族炭化水素の定量手順(図3参照)において混合したオクタデカン(ステップS23参照)に換えて、チオシアン酸アンモニウムとした以外は、脂肪族炭化水素の定量手順と同様の手順でチオシアン酸アンモニウムCの濃度を算出している。
まず、10gのKBrと、2.12mgの内部標準としてのK[Fe(CN)]とを脱イオン水300mlに溶解する(ステップS31)。
次に、エバポレータにて濃縮し、さらに、真空乾燥機(60℃で24時間)にて乾燥させ、水分を除去する(ステップS32)。
次に、ステップS31、S32において調製した内部標準入りのKBr:1gと、上記抽出手順において抽出した抽出物A:10mgと、アセトンに所定量溶解したチオシアン酸アンモニウムとをメノウ乳鉢にて混合する(ステップS33)。
次に、混合物を真空乾燥機(60℃で24時間)にて乾燥させて、アセトンを除去し(ステップS34)、錠剤に成型する(ステップS35)。
次に、成型した錠剤を用いて、FT−IR測定を行う(ステップS36)。このとき、チオシアン酸アンモニウムCのCN二重結合に由来する吸収スペクトルと、内部標準物質のCN三重結合に由来する吸収スペクトルとの面積比((CN二重結合の面積)/(CN三重結合の面積))を求める。
次に、チオシアン酸アンモニウムの配合量を変えて上記と同様に錠剤を成型し、FT−IR測定を行う(ステップS37)。このとき、ステップS36と同様に、チオシアン酸アンモニウムCのCN二重結合に由来する吸収スペクトルと、内部標準物質のCN三重結合に由来する吸収スペクトルとの面積比を求める。なお、ステップS37は、次のステップS38において作成する検量線の正確性の観点から、チオシアン酸アンモニウムの配合量を変えながら、複数回行うのが好ましい。
次に、チオシアン酸アンモニウムの添加量をx軸に、上記面積比をy軸として検量線を作成する(ステップS38)。
次に、作成した検量線から、抽出物Aのうちのチオシアン酸アンモニウムCの割合を求め、この割合から、脱硫液中のチオシアン酸アンモニウムCの濃度を算出する(ステップS39)。なお、詳細な計算方法は、実施例に示すこととする。
そして、得られた抽出物Aの濃度、単体硫黄Bの濃度、脂肪族炭化水素Dの濃度、チオシアン酸アンモニウムCの濃度を基に、抽出率による換算前のピクリン酸還元生成物Fの濃度を下記計算式により求める(工程G)。
(抽出率による換算前のピクリン酸還元生成物Fの濃度)=(抽出物Aの濃度)−(単体硫黄Bの濃度)−(脂肪族炭化水素Dの濃度)−(チオシアン酸アンモニウムCの濃度)
一方、前記工程A(ステップS13)における紫外線吸光分析の結果と前記工程C(ステップS17)における紫外線吸光分析の結果とに基づいて、有機物中のピクリン酸還元生成物の抽出率を得る(工程F)。
具体的には、下記式により有機物中のピクリン酸還元生成物の抽出率を得る。
(抽出率(%))=(1−((抽出後の吸光度)/(抽出前の吸光度)))×100
そして、最後に、前記工程Gで得た抽出率換算前のピクリン酸還元生成物Fの濃度と、前記工程Fで得た抽出率から、ピクリン酸還元生成物濃度を求める(工程H)。
(ピクリン酸還元生成物濃度)=(抽出率換算前のピクリン酸還元生成物Fの濃度)×(100/(抽出率(%)))
図5は、固相抽出前の紫外線吸収分析(工程A、ステップS13)において得られた吸収スペクトルと、固相抽出後の紫外線吸収分析(工程C、ステップS17)において得られた吸収スペクトルとの一例を示す図である。本発明者らは、図5に示すように、475nm付近をピークとする吸光度がピクリン酸還元生成物の濃度と相関することを発見した。図5に示すように、固相抽出後においても475nmには、ピークが残存している。これは、固相抽出において、ピクリン酸還元生成物のうちの一部が水相に残っているためである。
このように、本実施形態に係る吸収液中のピクリン酸濃度の測定方法によれば、抽出率換算を行い、有機物を抽出する工程(工程B、ステップS14〜ステップS16)において抽出されなかった(水相に残った)ピクリン酸還元生成物を考慮した、より正確なピクリン酸還元生成物濃度を得ることができる。
そして、上記ピクリン酸濃度の測定方法により測定したピクリン酸還元生成物濃度に基づいて、触媒添加用管S2(図1参照)から添加するピクリン酸の量を調整する。具体的には、例えば、下記式に基づいて、ピクリン酸添加量を決定する。
(ピクリン酸添加量)=(測定したピクリン酸還元生成物濃度)×(抜き出した脱硫液の量)
このように、本実施形態に係る脱硫方法では、ピクリン酸還元生成物濃度そのものを用いて、その添加量を調整するため、コークス炉ガス脱硫設備10において、ピクリン酸が過剰に添加されたり、添加量が少なくなったりすることを防止でき、吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度を所望の一定範囲内に調整することができる。その結果、脱硫塔12内での硫黄生成を抑制することができ、脱硫塔の安定運転に寄与することができる。
上述した実施形態では、抜き出した吸収液に対して紫外線吸光分析を行なう工程A、及び、有機物を抽出した後の吸収液に対して紫外線吸光分析を行なう工程Cを行い、有機物中のピクリン酸還元生成物の抽出率を得て(工程F)、この抽出率を考慮したピクリン酸還元生成物濃度を求める場合について説明した。しかしながら、本発明はこの例に限定されず、例えば、工程A、工程C、及び、工程Fは行なわず、元素分析の結果と赤外分光分析の結果とに基づいて、吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度を求めることとしてもよい。
この方法は、抽出率換算前のピクリン酸還元生成物濃度を、脱硫系内のピクリン酸還元生成物濃度と推定する方法である。
上述した実施形態では、475nmでの吸光度を用いて抽出率を得る場合について説明した。しかしながら、本発明の工程Fは、有機物抽出前の紫外線吸光分析(工程A)の結果と有機物抽出後の紫外線吸光分析(工程C)の結果とに基づいて、有機物中のピクリン酸還元生成物の抽出率を得るのであれば、この例に限定されない。本発明の工程Fとしては、例えば、475nmを含む一定の範囲内(例えば、400〜500nm)にある吸光度の積算値を用いて、抽出率を算出してもよい。475nmを含む一定の範囲内にある吸光度であっても、ピクリン酸還元生成物の濃度と相関するからである。具体的には、サンプリングした吸収液に対して紫外線吸光分析を行ない、475nmを含む一定の範囲内(例えば、400〜500nm)にある吸光度の積算値を取得し(工程A)、有機物を抽出した後の吸収液に対して紫外線吸光分析を行ない、475nmを含む一定の範囲内(例えば、400〜500nm)にある吸光度の積算値を取得し(工程C)、前記工程Aにおける積算値と前記工程Cにおける積算値とに基づいて、有機物中のピクリン酸還元生成物の抽出率を得る(工程F)ことができる。
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
まず、以下の参考例1を用いて、抽出率換算前のピクリン酸還元生成物の濃度の測定方法について説明する。
(参考例1)
図1に示した再生塔14で再生した吸収液(脱硫液)を、脱硫塔12に送る配管16に設けたサンプリング管S3からサンプリングし、図2に示した抽出の手順により抽出物Aを得た。固相抽出カートリッジには、日本ウォーターズ株式会社製の製品名「Sep−Pak Plus CSP 800(充填剤:ポリスチレン系樹脂、粒径:75〜150μm)」を使用した。抽出物Aを秤量し、脱硫液中の抽出物Aの濃度を求めた。結果を、表1の「F−1(入口)」の欄に示す。
Figure 0005754048
<脂肪族炭化水素Dの濃度(mg/L)の定量>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製、製品名「FT/IR410」)を用い、図3に示した脂肪族炭化水素の定量手順に基づいて、赤外線吸収スペクトルを得た。赤外線吸収スペクトルは、オクタデカンの添加量を変えながら4回行った。各測定におけるオクタデカンの添加量は、それぞれ、0.00017mmol、0.00051mmol、0.00085mmol、及び、0.0017mmolである。結果を図6に示す。
図6は、オクタデカンを添加した抽出物の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
図6に示すように、オクタデカンを添加した抽出物からは、大きく2つの吸収スペクトルが観測された。1つは、波数2900cm−1付近に2つのピークを有する脂肪族炭化水素DのCH結合に由来する吸収スペクトルである。他方は、波数2050cm−1付近に観測され、チオシアン酸アンモニウムのCN二重結合に由来する吸収スペクトル(以下、「CN二重結合のスペクトル」ともいう)と、内部標準物質のCN三重結合に由来する吸収スペクトル(以下、「CN三重結合のスペクトル」ともいう)とが重複したスペクトルである。ここで、本発明者らは、鋭意検討した結果、CN二重結合のスペクトルと、CN三重結合のスペクトルとの間に形成されている谷の位置より波数が少ない領域のスペクトルの面積をCN三重結合のスペクトルの面積とみなせば、この面積(「仮想CN三重結合スペクトルの面積」ともいう)が実際のCN三重結合のみのスペクトルの面積と著しく近似する知見を得た。本実施例では、この仮想CN三重結合スペクトルの面積を用い、脂肪族炭化水素DのCH結合に由来する吸収スペクトルと、内部標準物質のCN三重結合に由来する吸収スペクトルとの面積比((CH結合の面積)/(CN三重結合の面積))を求めた。そして、オクタデカンの添加量をx軸(横軸)に、求めた面積比をy軸(縦軸)とし、最小2乗法による線形近似により、検量線を作成した。作成した検量線を図7に示す。
図7は、脂肪族炭化水素を定量するための検量線である。
上記検量線より、y=1990x+7.48の関係式を得た。この関係式においてy=0を代入すると、この絶対値より、脂肪族炭化水素Dの量は、0.00376mmol/g−KBrとなった。ここで、FT−IR測定に使用した錠剤は、抽出物A:10mgと、KBr:1gとの混合により作成しているので、抽出物A中の脂肪族炭化水素Dの量は、0.376mmol/g−抽出物となる。そして、オクタデカンの分子量は、254.49であるので、抽出物A中の脂肪族炭化水素Dの量は、0.0957g/g−抽出物となる。抽出物Aの量は、327mg/Lであるので、脱硫液中の脂肪族炭化水素Dの量は、327×0.0957=31mg/Lとなる。以上より、脱硫液中の脂肪族炭化水素Dの濃度を得た。
<チオシアン酸アンモニウムCの濃度(mg/L)の定量>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製、製品名「FT/IR410」)を用い、図4に示したチオシアン酸アンモニウムの定量手順に基づいて、赤外線吸収スペクトルを得た。赤外線吸収スペクトルは、チオシアン酸アンモニウムの添加量を変えながら4回行った。各測定におけるチオシアン酸アンモニウムの添加量は、それぞれ、0.00034mmol、0.0010mmol、0.0017mmol、及び、0.0034mmolである。結果を図8に示す。
図8は、チオシアン酸アンモニウムを添加した抽出物の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
チオシアン酸アンモニウムを添加した抽出物からも、図6に示したオクタデカンを添加した抽出物と同様に、大きく2つの吸収スペクトルが観測された。図8には、そのうちの波数2050cm−1付近のピークのみを拡大して示している。
図8に示すように、波数2050cm−1付近に観測される吸収スペクトルは、3つのピークを有しており、チオシアン酸アンモニウムのCN二重結合のスペクトルと、内部標準物質のCN三重結合のスペクトルとが重複したスペクトルである。ここで、本発明者らは、鋭意検討した結果、3つのピークのうち、波数の大きい側のピークと真ん中のピークとの間に形成されている谷よりも波数の大きい領域のスペクトルの面積をCN二重結合のスペクトルの面積とみなし、真ん中のピークと波数の小さい側のピークとの間に形成されている谷よりも波数の小さい領域のスペクトルの面積をCN三重結合のスペクトルの面積とみなせば、両面積の比は、実際のCN二重結合のみの吸収スペクトルと、実際のCN三重結合のみの吸収スペクトルとの面積比と著しく近似する知見を得た。本実施例では、この方法によりCN二重結合の吸収スペクトルと、CN三重結合の吸収スペクトルとの面積比を求めた。そして、チオシアン酸アンモニウムの添加量をx軸(横軸)に、求めた面積比をy軸(縦軸)とし、最小2乗法による線形近似により、検量線を作成した。作成した検量線を図9に示す。
図9は、チオシアン酸アンモニウムを定量するための検量線である。
上記検量線より、y=124x+0.394の関係式を得た。この関係式においてy=0を代入すると、この絶対値より、チオシアン酸アンモニウムCの量は、0.00318mmol/g−KBrとなった。ここで、FT−IR測定に使用した錠剤は、抽出物A10mgと、KBr1gとの混合により作成しているので、抽出物A中のチオシアン酸アンモニウムCの量は、0.318mmol/g−抽出物となる。そして、チオシアン酸アンモニウムの分子量は、76.12であるので、抽出物A中のチオシアン酸アンモニウムCの量は、0.0242g/g−抽出物となる。抽出物Aの量は、327mg/Lであるので、脱硫液中のチオシアン酸アンモニウムCの濃度は、327×0.0242=8mgとなる。以上より、脱硫液中のチオシアン酸アンモニウムCの濃度を得た。
<元素分析>
元素分析装置(製品名「Perkin Elmer 2400 Series II CHNS/O Analyzer」、パーキンエルマージャパン株式会社製)を用いて、抽出物Aの元素分析を行った。結果を、表2の「F−1(入口)」の欄に示す。
Figure 0005754048
元素分析の結果、元素としての硫黄の含有量は、14.3重量%であった。ここで、元素としての硫黄は、単体硫黄だけでなく、チオシアン酸アンモニウムの構成の一部としても含まれる。そこで、単体硫黄の濃度は、下記式によって求めた。
(単体硫黄の濃度)=(抽出物の濃度)×(元素分析によるSのwt%)−(チオシアン酸アンモニウム中の硫黄の濃度)
ここで、(チオシアン酸アンモニウム中の硫黄の濃度)は、
(チオシアン酸アンモニウムの濃度)×((硫黄の分子量)/(チオシアン酸アンモニウムの分子量))
により求められる。
チオシアン酸アンモニウムの濃度は既に求めており、8mg/Lであるので、
(チオシアン酸アンモニウム中の硫黄の濃度)=8(mg/L)×0.42
より、3.36mg/Lとなる。
従って、
(単体硫黄の濃度)=327(mg/L)×14.3%−3.36(mg/L)
より、単体硫黄の濃度は、43mgとなる。
そして、得られた抽出物Aの濃度、単体硫黄Bの濃度、脂肪族炭化水素Dの濃度、チオシアン酸アンモニウムCの濃度を基に、ピクリン酸還元生成物Fの濃度を下記計算式により求めた。
(ピクリン酸還元生成物Fの濃度)=(抽出物Aの濃度)−(単体硫黄Bの濃度)−(脂肪族炭化水素Dの濃度)−(チオシアン酸アンモニウムCの濃度)
以上のようにして求めた各成分の濃度をまとめると下記表3の「F−1(入口)」の欄のようになった。
Figure 0005754048
(実施例1)
日時を変えて、サンプリング管S3から吸収液をサンプリングし、参考例1と同様の方法により、抽出率換算前のピクリン酸還元生成物の濃度を測定した。結果を表4に示す。また、有機物抽出前の試料の475nmでの吸光度、及び、有機物抽出後の試料の475nmでの吸光度の測定結果を表4に示す。測定には、株式会社日立ハイテクノロジーズのU−2900(紫外可視分光光度計)を用いた。また、表4には、抽出率(%)も示した。抽出率(%)は、下記式により得たものである。
(抽出率(%))=(1−((抽出後の吸光度)/(抽出前の吸光度)))×100
また、表4には、抽出率換算後のピクリン酸還元生成物の濃度も示した。抽出率換算後のピクリン酸還元生成物の濃度は、下記式により得たものである。
(ピクリン酸還元生成物濃度)=(抽出率換算前のピクリン酸還元生成物Fの濃度)×(100/(抽出率(%)))
(実施例2〜9)
日時を変えて、実施例1と同様の方法により、抽出率換算前のピクリン酸還元生成物の濃度を測定した。結果を表4に示す。また、有機物抽出前の試料の475nmでの吸光度、及び、有機物抽出後の試料の475nmでの吸光度の測定結果を表4に示す。また、表4には、抽出率(%)、抽出率換算後のピクリン酸還元生成物の濃度も示した。抽出率(%)、及び、抽出率換算後のピクリン酸還元生成物の濃度は、実施例1と同様にして求めた。
Figure 0005754048
図10は、実施例1〜9において測定したピクリン酸還元生成物濃度(抽出率換算後のピクリン酸還元生成物濃度)と添加したピクリン酸量との関係のグラフを示す図である。
図11は、実施例1〜9における抽出率換算前のピクリン酸還元生成物濃度と添加したピクリン酸量との関係のグラフを示す図である。
抽出率換算したピクリン酸還元生成物濃度と添加したピクリン酸との相関(図10参照)は、抽出率換算前のピクリン酸還元生成物濃度と添加したピクリン酸との相関(図11参照)よりもよい相関があることが確認できた。このことから、抽出率換算したピクリン酸還元生成物濃度は、測定結果のばらつきがより少ないことがわかる。
また、実施例1〜9について、当該時期に脱硫系内に添加したピクリン酸の量、脱硫系外に抜き出した脱硫液の量、及び、脱硫系外に抜き出したピクリン酸の量を、抽出率換算後のピクリン酸還元生成物濃度と共に、下記表5に示す。
なお、脱硫系外に抜き出したピクリン酸の量は、下記式により得たものである。
(脱硫系外に抜き出したピクリン酸の量(kg/日))=((抽出率換算後のピクリン酸還元生成物濃度(mg/L))/1000)×((脱硫系外に抜き出した脱硫液の量(m/時))×24)
Figure 0005754048
図12は、実施例1〜9について、脱硫系外に抜き出したピクリン酸量をx軸、脱硫系内に添加したピクリン酸の量をy軸としてプロットして得たグラフを示す図である。
実施例1〜9について、脱硫系外に抜き出したピクリン酸量をx軸、脱硫系内に添加したピクリン酸の量をy軸としてプロットし、最小二乗法を用いることにより図12に示す近似直線(y=13.061x−156.29)が得られた。ここで、x、すなわち、脱硫系外に抜き出したピクリン酸の量は、上述の通り、下記式にて表される。
(脱硫系外に抜き出したピクリン酸の量(kg/日))=((抽出率換算後のピクリン酸還元生成物濃度(mg/L))/1000)×((脱硫系外に抜き出した脱硫液の量(m/時))×24)
また、yは、脱硫系内に添加したピクリン酸の量である。
そこで、得られた上記近似直線のx、及び、yに代入して変形すると、以下のようになる。
(抽出率換算後のピクリン酸還元生成物濃度(mg/L)))=[((脱硫系内に添加したピクリン酸の量(kg/日))+156.29)×1000]/(13.061×(脱硫系外に抜き出した脱硫液の量(m/時))×24)
従って、実際に、抽出率換算後のピクリン酸還元生成物の濃度を測定しなくても、脱硫系内に添加したピクリン酸の量と、脱硫系外に抜き出した脱硫液の量とを代入することにより、抽出率換算後のピクリン酸還元生成物の濃度を得ることができる。
その結果、ほぼリアルタイムにて脱硫系内の濃度の推定値を得ることができ、当該濃度に対応した量のピクリン酸を添加することが可能になる。
以上、本発明の実施形態、及び、実施例について説明したが、本発明は、上述した例に限定されるものではなく、本発明の構成を充足する範囲内で、適宜設計変更を行うことが可能である。
10 コークス炉ガス脱硫設備
12 脱硫塔
13 配管
14 再生塔
16 配管
17 配管
18 脱硫廃液処理装置
22 充填剤
S1 サンプリング管
S2 触媒添加用管
S3 サンプリング管
Pi ピクリン酸
COG1 コークス炉ガス
COG2 脱硫コークス炉ガス
A 空気

Claims (4)

  1. ピクリン酸還元生成物を含有するアルカリ性水溶液でコークス炉ガスの脱硫を行うコークス炉ガスの脱硫方法であって、
    脱硫系外に吸収液を抜き出す工程X−1、
    前記工程X−1により脱硫系外に抜き出された吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度を求める工程X−2、
    前記工程X−2により求めたピクリン酸還元生成物濃度と、抜き出した吸収液の量とに基づいて、脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量を求める工程X−3、
    経験則に基づいた量のピクリン酸を脱硫系内に添加する工程X−4、
    脱硫系内に添加したピクリン酸の量と脱硫系外に抜き出したピクリン酸還元生成物の量との相関を、前記工程X−1、前記工程X−2、前記工程X−3、及び、前記工程X−4を1セットとして複数回繰り返すことにより得る工程Y、及び、
    前記工程Yにより得られた前記相関と、脱硫系内に添加するピクリン酸の量と、脱硫系外に抜き出す吸収液の量とに基づいて、脱硫系内のピクリン酸還元生成物濃度を求める工程Zを含むことを特徴とするコークス炉ガスの脱硫方法。
  2. 前記工程X−2は、
    抜き出した吸収液から有機物を抽出する工程、
    抽出物に対して元素分析を行う工程、
    抽出物に対して赤外分光分析を行う工程、及び、
    前記元素分析の結果と前記赤外分光分析の結果とに基づいて、前記吸収液中のピクリン酸還元生成物濃度を求める工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のコークス炉ガスの脱硫方法。
  3. 前記工程X−2は、
    抜き出した吸収液に対して紫外線吸光分析を行なう工程A、
    紫外線吸光分析を行なった後の吸収液から有機物を抽出する工程B、
    有機物を抽出した後の吸収液に対して紫外線吸光分析を行なう工程C、
    抽出物に対して元素分析を行う工程D、
    抽出物に対して赤外分光分析を行う工程E、
    前記工程Aにおける紫外線吸光分析の結果と前記工程Cにおける紫外線吸光分析の結果とに基づいて、有機物中のピクリン酸還元生成物の抽出率を得る工程F、
    前記工程Dにおける元素分析の結果と前記工程Eにおける赤外分光分析の結果とに基づいて、抽出率換算前のピクリン酸還元生成物濃度を得る工程G、及び、
    前記工程Gで得た抽出率換算前のピクリン酸還元生成物濃度と、前記工程Fで得た抽出率から、ピクリン酸還元生成物濃度を求める工程Hを含むことを特徴とする請求項1に記載のコークス炉ガスの脱硫方法。
  4. 前記工程Zにより求めた脱硫系内のピクリン酸還元生成物濃度に基づいて、ピクリン酸の添加量を調整する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のコークス炉ガスの脱硫方法。
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