JP5712490B2 - 動物細胞培養用培地 - Google Patents
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Description
(1)β−コングリシニン濃縮物の加水分解物を含む動物細胞培養用培地。
(2)無血清培地である、上記(1)に記載の培地。
(3)β−コングリシニン濃縮物の加水分解物からなる動物細胞増殖促進剤。
(4)β−コングリシニン濃縮物の加水分解物からなる抗体産生促進剤。
(5)上記(1)又は(2)に記載の培地中で動物細胞を培養する、動物細胞の培養方法。
(6)上記(1)又は(2)に記載の培地中で動物細胞を培養する、動物細胞の増殖を促進する方法。
(7)動物細胞培養用培地にβ−コングリシニン濃縮物の加水分解物を添加する、上記(1)又は(2)に記載の培地の製造方法。
(8)上記(1)又は(2)に記載の培地中で動物細胞を培養し、動物細胞から産生される有用物質を培地から単離する、有用物質の製造方法。
一般の大豆に含まれる蛋白質は、超遠心分析による沈降係数から、2S、7S、11S及び15Sの各種グロブリンが含まれている。このうち、7Sグロブリンと11Sグロブリンは主要な酸沈殿生の構成蛋白質成分である。本発明におけるβ−コングリシニンは7Sグロブリンに相当するものであり、β−コングリシニン濃縮物は蛋白質中のβ−コングリシニンの割合が高められたものをいう。一方、グリシニンは11Sグロブリンに相当するものである。さらに、大豆蛋白質中には上記グロブリン以外にも酸沈殿性大豆蛋白質群が存在し、これらはレシチンや糖脂質などの極性脂質を多く随伴するために、包括的に、脂質親和性蛋白質(LP)と呼ばれている(特許文献2参照)。
本発明の動物細胞培養用培地に添加される窒素源としては、通常の大豆粉末や分離大豆蛋白質から調製された加水分解物ではなく、動物細胞用培地が優れた細胞増殖促進活性を発揮するために、β−コングリシニン濃縮物の加水分解物が必須である。該濃縮物中のβ−コングリシニン含量は、粗蛋白質に対して40重量%以上含まれていることが好ましく、50重量%以上含まれていることがより好ましい。大豆からβ−コングリシニン濃縮物を調製する方法は公知であり、大きく類別して一般的な組成の大豆から蛋白質を抽出又は濃縮したものからβ−コングリシニンを分画する方法と、予め育種や遺伝子組換技術によりβ−コングリシニンを濃縮させた大豆から蛋白質を抽出又は濃縮する方法がある。例えば、前者の例としては非特許文献1、特許文献2及び特許文献3などに記載の方法が挙げられる。また後者の例としては特許文献4や特許文献5などに記載の方法が挙げられる。これらの調製方法によれば、β−コングリシニン濃縮物におけるβ−コングリシニンの含量を、粗蛋白質に対して60重量%以上あるいは80重量%以上とすることが可能である。
本発明に係るβ−コングリシニン濃縮物の加水分解物は、上記β−コングリシニン濃縮物をプロテアーゼ処理することによって得られるペプチド混合物である。β−コングリシニン濃縮物の加水分解物は分解度がより高いことが好ましく、特に加水分解物中におけるペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占めるジペプチド及びトリペプチドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占めるジペプチド及びトリペプチドの割合が60重量%以上であることが好ましく、64重量%以上であることがより好ましい。なお本願では、ジペプチド及びトリペプチドを、分子量500以下の画分から遊離アミノ酸を除いた画分と規定した。したがって、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占めるジペプチド及びトリペプチドの割合は、ペプチド用ゲルろ過クロマトグラフィーにより加水分解物中の分子量500以下のペプチド画分の割合を測定した後、アミノ酸分析により測定した加水分解物中の遊離アミノ酸含量を差し引くことにより算出することが可能である。蛋白質中の遊離アミノ酸含量は10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。さらに、ペプチド体はより低分子であることが望ましいことから、加水分解物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占める分子量500以上の画分の割合は40重量%以下であることが好ましく、35重量%以下であることがより好ましい。
このようにして得られたβ−コングリシニン濃縮物の加水分解物を動物細胞培養用培地に添加することで、本発明の動物細胞培養用培地を製造することができる。β−コングリシニン濃縮物の加水分解物を添加する基本培地は、血清含有培地であってもよく無血清培地であってもよく、基本培地の種類は特に限定されず市販されている培地を使用することができる。好ましい基本培地は培養する動物細胞の種類によって異なり、当業者が適宜選択することができる。β−コングリシニン濃縮物の加水分解物の添加量は、培養する動物細胞の種類によって異なるが、望ましくは動物細胞培養用培地当たり、乾燥させた加水分解物として0.001〜5重量%、好ましくは0.01〜2重量%の濃度にて高い効果を得ることができる。
本発明の動物細胞培養用培地中で動物細胞を培養すると、β−コングリシニン濃縮物の加水分解物により動物細胞の細胞増殖が促進される。これにより、増殖が促進される動物細胞がヒトの生体に有用な物質を産生する種類のものである場合は、動物細胞による該有用物質の産生も促進されうる。例えば、培養する動物細胞が抗体産生細胞の場合は、β−コングリシニン濃縮物の加水分解物の作用により抗体産生が促進される。したがって、本発明の動物細胞培養用培地中で動物細胞を培養して有用物質を産生させ、これを培地から常法により単離することにより、有用物質を効率的に製造することができる。動物細胞から産生される各種有用物質としては抗体の他、酵素やホルモン等が挙げられる。
105℃、12時間乾燥した大豆蛋白質画分の重量に対して、ケルダール法により測定した蛋白質量の重量を、乾燥物中の蛋白質含量として重量%で表した。なお、窒素換算係数は6.25とした。
β−コングリシニンはELISA法により定量を行った。サンプル0.1gを精秤し、50ml栓付三角フラスコ中に入れ、0.05M Tris−HCl緩衝液(pH8.2)2.5ml及び8M Urea−DTT緩衝液7.5mlを添加した。100℃で1時間抽出した。抽出後シスチンを含む0.4M NaCl溶液(pH9.0)で再会合させた後、100mlに定容し、ろ過液をELISA用サンプルとした。ELISA用96ウェルEIAマイクロプレート(IWAKI(株)製)にサンプル及び検量線用β−コングリシニン(不二製油(株)製)をそれぞれ4℃で1日間保存することで固定化し、ブロッキング液(大日本住友製薬(株)製)を200μl加え37℃で2時間インキュベートしブロッキングした。ブロッキング後、50mMリン酸緩衝液(pH7.2)で3回洗浄した。次に、1次抗体として0.5μg/mlの抗β−コングリシニンウサギポリクロナール抗体(タカラバイオ(株)製)を100μl添加し、37℃で1時間インキュベートした。50mMリン酸緩衝液(pH7.2;0.1%Tween20含有)で3回洗浄した。その後、2次抗体として0.1μg/mlのペルオキダーゼ結合抗ウサギIgG抗体(Promega(株)製)を100μl添加し37℃で1時間インキュベートした。50mMリン酸緩衝液(pH7.2;0.1%Tween20含有)で3回洗浄した。洗浄後、TMB Micowell Peroxidase Substrate(KPL(株)製)を100μl加え5分間発色させた。1N硫酸を100μl加え発色反応を停止後、波長450nmで吸光度を測定した。測定後、検量線用β−コングリシニンの吸光度を用いて検量線を作成し、サンプルのβ−コングリシニン含量を算出し、ケルダール法で算出した全蛋白質に対する比率を求めた。
大豆蛋白質画分の加水分解物の分子量分布を、以下のゲルろ過カラムを用いたHPLC法により測定した。ペプチド用ゲルろ過カラムを用いたHPLCシステムを組み、分子量マーカーとなる既知のペプチドをチャージし、分子量と保持時間の関係において検量線を求めた。なお、分子量マーカーは、オクタペプチドとして[β−Asp]−Angiotensin IIのβ−Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe(分子量1046)、ヘキサペプチドとしてAngiotensin IVのVal−Tyr−Ile−His−Pro−Phe(分子量775)、ペンタペプチドとしてLeu−EnkephalinのTyr−Gly−Gly−Phe−Leu(分子量555)、トリペプチドとしてGlu−Glu−Glu(分子量405)、遊離アミノ酸としてPro(分子量115)を用いた。加水分解物(1%)を10,000rpm、10分で遠心分離した上清を、ゲル濾過用溶媒で2倍に希釈し、その5μlをHPLCにアプライした。加水分解物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占める分子量500以下のペプチド画分の割合(%)を、全体の吸光度のチャート面積に対する、分子量500以下の範囲(時間範囲)の面積の割合によって求めた(使用カラム:Superdex Peptide 7.5/300GL(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)、溶媒:1%SDS/10mMリン酸緩衝液、pH8.0、カラム温度25℃、流速0.25ml/min、検出波長:220nm)。
次に、アミノ酸分析により大豆蛋白質画分の加水分解物中の遊離アミノ酸含量の測定を行った。加水分解物(4mg/ml)を等量の3%スルホサリチル酸に加え、室温で15分間振とうした。10,000rpmで10分間遠心分離し、得られた上澄みを0.45μmフィルターでろ過し、アミノ酸分析器(日本電子製 JLC500V)にて、遊離アミノ酸を測定した。蛋白質中の遊離アミノ酸含量はケルダール法にて得られた蛋白質含量に対する割合として算出した。
以上より得られた、「分子量500以下のペプチド画分の割合」から「遊離アミノ酸含量」を差し引いた値を、加水分解物中の「ジペプチド・トリペプチド含量」とした。
大豆イソフラボンとして1〜10mgに相当する量の試料を定量し、70%エタノールにて100mlに定容した。そして0.45μmPVDFフィルターにて濾過したものを試験溶液とした。標準品は12種類、すなわちダイジン、ゲニスチン、グリシチン、ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン、マロニルダイジン、マロニルゲニスチン、マロニルグリシチン、アセチルダイジン、アセチルゲネスチン、アセチルグリシチン(和光純薬工業株式会社)を用いた。HPLCの条件については非特許文献3に記載の条件に準拠した。定量にはダイゼイン標準品を用い、各換算値を用いて算出した。
非特許文献1に記載の方法に準じて以下の通り、β―コングリシニン濃縮物、グリシニン濃縮物及びLP濃縮物の各大豆蛋白質画分を調製した。
(1)低変性脱脂大豆に加熱処理を施してNSI(水溶性窒素指数、AOCS公式分析法BA−11−65 NSIによる)を低下させた脱脂大豆(NSI70%)の温水抽出スラリーを遠心分離機にてオカラ画分を除き脱脂豆乳とした。
(2)次に脱脂豆乳のpHを5.8に調整して遠心分離機にて沈殿カード画分を回収した。この画分が11Sグロブリンである「グリシニン」の濃縮物である。
(3)次に、残りの上清のpHを5.0に調整し、55℃で10分間放置後、次いでpH5.5に調整後、遠心分離機にて沈殿カード画分を回収した。この画分が、脂質親和性蛋白質である「LP」の濃縮物」である。
(4)次に、残りの上清のpHを4.5に調整し、遠心分離機にて沈殿カードを回収した。この画分が7Sグロブリンである「β−コングリシニン」の濃縮物である。
(5)得られた各画分を中和して、加熱殺菌した。
別途、低変性脱脂大豆から以下のように分離大豆蛋白質を調製した。
(1)低変性脱脂大豆の温水抽出スラリーを遠心分離機にてオカラ画分を除き脱脂豆乳とした。
(2)得られた脱脂豆乳のpHを4.5に調整して等電点沈殿し、遠心分離機にて酸沈殿カードを得て中和した。
(3)得られた各画分を中和して、加熱殺菌した。
製造例1及び2で得られたβ−コングリシニン濃縮物、グリシニン濃縮物、LP濃縮物及び分離大豆蛋白質から特許文献6を参考にして、以下のようにプロテアーゼによる加水分解物を調製した。3%大豆蛋白質溶液に対して、サモアーゼ(起源;Bacillus thermoproteolyticus、金属プロテアーゼ、大和化成)を蛋白質当たり2%加え、pH9.0、58℃で60分間作用させた。次にビオプラーゼ(起源;Bacillus sp.,セリンプロテアーゼ、ナガセケムテック)を蛋白質当たり1%加え、pH7.5、58℃で60分間作用させた。次にスミチュームFP(起源;Asprgillus sp.,金属プロテアーゼ、新日本化学工業)を蛋白質当たり1%加え、pH7.5、58℃で60分間作用させた。以上の処理の後、90℃、20分間で反応を停止した後、以下の実施例1及び2に用いる試料とした。
製造例3で得られた各蛋白質加水分解物の動物細胞、特に抗体産生細胞への増殖促進効果及び抗体産生促進効果を確認するために、以下の方法に従いマウス抗体産生ハイブリドーマの培養実験を行なった。
実施例1の結果より、ウシ血清含有培地において、β−コングリシニン濃縮物の加水分解物に抗体産生ハイブリドーマの増殖促進効果及び抗体産生促進効果が認められたことから、市販の無血清培地2種類にβ−コングリシニン濃縮物の加水分解物又は分離大豆蛋白質加水分解物を加え、同様の効果が得られるか検証した。
Claims (8)
- β−コングリシニン濃縮物の加水分解物を含む動物細胞培養用培地であって、
濃縮物中のβ−コングリシニン含量が、粗蛋白質に対して40重量%以上である、培地。 - 無血清培地である、請求項1に記載の培地。
- β−コングリシニン濃縮物の加水分解物からなる動物細胞増殖促進剤であって、
濃縮物中のβ−コングリシニン含量が、粗蛋白質に対して40重量%以上である、動物細胞増殖促進剤。 - β−コングリシニン濃縮物の加水分解物からなる抗体産生促進剤であって、
濃縮物中のβ−コングリシニン含量が、粗蛋白質に対して40重量%以上である、抗体産生促進剤。 - 請求項1又は2に記載の培地中で動物細胞を培養する、動物細胞の培養方法。
- 請求項1又は2に記載の培地中で動物細胞を培養する、動物細胞の増殖を促進する方法。
- 動物細胞培養用培地にβ−コングリシニン濃縮物の加水分解物を添加する、請求項1又は2に記載の培地の製造方法。
- 請求項1又は2に記載の培地中で動物細胞を培養し、動物細胞から産生される有用物質を培地から単離する、有用物質の製造方法。
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