以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。本実施形態の熱エンジンは、形状記憶部材(形状記憶合金)の加熱と冷却を繰り返し、熱エネルギを他のエネルギ(機械エネルギ、電気エネルギ)に変換する装置であるが、形状記憶部材を加熱する加熱源として種々の熱源を用いることができる。例えば、加熱源としては、エンジン、ガスタービン、ボイラの排熱や、太陽光や地熱などの自然エネルギで生成される熱等を用いることができる。
図1は、熱エンジンの一実施形態の概略構成を示す斜視図である。図2は、図1に示す熱エンジンの概略構成を示す正面図である。図1および図2に示すように、熱エンジン10は、土台12と、熱エネルギを運動エネルギに変換する駆動部14と、運動エネルギを電気エネルギに変換する発電部16と、駆動部14で生成された運動エネルギを発電部16に伝達する動力伝達部18と、を有する。土台12は、駆動部14と、発電部16とを支持する支持部材であり、剛性の高い板状部材で構成されている。また、土台12は、動力伝達部18も間接的に支持している。
駆動部14は、支持部20と、振動子22と、形状記憶部材24と、コイルバネ26と、加熱部28と、冷却部30と、を有する。支持部20は、土台12に固定された部材であり、振動子22と加熱部28と冷却部30とを支持している。なお、支持部20は、土台12の一部としてもよい。
振動子22は、細長い棒形状の部材であり、土台12の表面に立てる向きつまり土台12の表面から離れる方向が長手方向となる向きで配置されている。振動子22は、基本的に変形しない剛体で形成されており、棒形状の土台12側の端部近傍がヒンジ32を介して支持部20に支持されている。ヒンジ32は、図2の紙面に垂直な軸(土台12の表面に平行で振動子22の延在方向に直交する軸)を中心として回転自在な状態で支持部20と振動子22とを連結している。また、振動子22は、ヒンジ32と連結している端部とは反対側の端部(支持部20から離れている側の端部、先端部)の近傍に支持棒34が配置されている。振動子22は、ヒンジ32を回転軸として、図2の紙面に垂直な軸(土台12の表面に平行で振動子22の延在方向に直交する軸)周りに一定の幅、具体的には加熱部28と冷却部30との間を往復運動する。
形状記憶部材24は、形状記憶ワイヤ、つまり形状記憶合金で作成された細長い直線形状(一方向に延在する形状、アスペクト比が大きく異なる形状)の部材であり、一方の端部が振動子22の支持棒34に連結され、他方が土台12に固定されたコイルバネ26に連結されている。線状の部材は、例えば、径がφ0.1mm程度である。形状記憶部材24を構成する形状記憶合金としては、合金変態点(変態温度)を持ち、変態温度より低温となると線方向(細長い直線形状の延在方向、長さ方向)に伸び、変態温度よりも高温となると線方向に縮む特性の形状記憶合金を用いることができる。つまり、形状記憶部材24は、変態温度よりも低い温度から変態温度よりも高い温度に加熱されると長さが縮み、変態温度よりも高い温度から変態温度よりも低い温度に冷却されると長さが伸びる特性を備える物質である。また、形状記憶合金は、合金変態点(変態温度)が40℃から60℃となる物質を用いることが好ましい。具体的には形状記憶部材24の形状記憶合金としては、ニッケルチタン(NiTi)の形状記憶合金を用いることができる。ニッケルチタン(NiTi)の形状記憶合金は、30℃付近でR(Rhombohedral martensite)相の結晶構造、70℃付近でオーステナイト相の結晶構造をとり、相変態により1%程度寸法変化を生じる。なお、形状記憶合金の変態温度は、組成、熱処理により調整可能である。したがって、熱エンジン10は、使用条件(加熱部28、冷却部30の温度等)に対応して適切な変態温度の形状記憶合金を使用することが好ましい。
コイルバネ26は、伸縮する弾性部材の引っ張りコイルバネであり、伸縮方向の一方の端部(コイルバネ基端26a)が土台12の支持部20の近傍に固定され、他方の端部が形状記憶部材24に連結されている。なお、コイルバネ26は、ヒンジ32よりも冷却部30側(加熱部28から離れた位置)に固定されている。コイルバネ26をヒンジ32よりも冷却部30側に配置し、形状記憶部材24の線をヒンジ32に対してオフセットすることにより、形状記憶部材24により振動子22にトルクを与えることができる。コイルバネ26は、自然長よりも長い状態で土台12と形状記憶部材24とに連結しており、形状記憶部材24を土台12側に引っ張る方向に付勢している。
加熱部28は、振動子22および形状記憶部材24が往復移動する領域の一方の端部(図2中左側の端部)に配置され、形状記憶部材24を変態温度よりも高い温度に加熱する。加熱部28は、形状記憶部材24が延在する方向に伸び、振動子22の回転方向に直交する面が表面(面積が最も広い面)となる板状の部材であり、形状記憶部材24と対面する面(形状記憶部材24が往復運動した場合に接触する面)が高温伝熱面29となる。加熱部28は、高温伝熱面29を図示しない熱源(ボイラ、エンジン、ガスタービンなどの廃熱)に含まれる熱エネルギにより加熱し高温伝熱面29を形状記憶部材24の変態温度(少なくとも変態開始温度、より好ましくは高温側の変態終了温度)より高温とする。
加熱部28は、形状記憶部材24に合金変態点(変態温度)が40℃から60℃となる物質を用いる場合、高温伝熱面29を60℃から80℃の状態とする。また、形状記憶部材24にニッケルチタン(NiTi)の形状記憶合金を用いる場合、加熱部28は、高温伝熱面29を少なくともオーステナイト相への変態開始温度よりも高温とし、好ましくはオーステナイト相への変態終了温度よりも高温とする。
高温伝熱面29は、熱伝導性のシリコン樹脂など、柔軟で熱伝導性の高いシートが貼られた構成である。高温伝熱面29は、平坦な平面としてもよいが、形状記憶部材24が配置されている側に凸の曲面とすることが好ましい。なお、凸の曲面とする場合、形状記憶部材24が配置されている側にわずかに凸となる形状とすることが好ましい。高温伝熱面29を凸の曲面とすることで、形状記憶部材24との接触時に形状記憶部材24の接触端および支持棒34との接続部において生じる曲げ、エッジ応力をより少なくすることができ、形状記憶部材24の損傷を抑制することができる。
冷却部30は、振動子22および形状記憶部材24が往復移動する領域の他方の端部(図2中右側の端部)に配置され、形状記憶部材24を変態温度よりも低い温度に冷却する。冷却部30は、形状記憶部材24の熱を吸収する機構および吸収した熱を他に排出する機構を備え、形状記憶部材24の熱を吸収する機構で、形状記憶部材24の熱を吸収することで、形状記憶部材24を冷却する。また、冷却部30は、吸収した熱を他に排出する機構で吸収した熱を排出することで形状記憶部材24の熱を吸収する機構による冷却機能を維持する。
冷却部30は、形状記憶部材24が延在する方向に伸び、振動子22の回転方向に直交する面が表面(面積が最も広い面)となる板状の部材であり、形状記憶部材24と対面する面(形状記憶部材24が往復運動した場合に接触する面)が低温伝熱面31となる。冷却部30は、低温伝熱面31が形状記憶部材24の熱を吸収する機構となる。冷却部30は、低温伝熱面31を形状記憶部材24の変態温度(少なくとも変態開始温度、より好ましくは低温側の変態終了温度)より低温とする。また、吸収した熱を他に排出する機構としては、空冷機構である冷却フィンや、水冷機構等を用いることができる。なお、冷却部30は、エネルギ効率を向上させるため小型の熱エンジンでは駆動源を備えない冷却機構を用いることが好ましい。冷却部30は、低温伝熱面31の温度を、形状記憶部材24の変態温度(少なくとも変態開始温度、より好ましくは低温側の変態終了温度よりわずかに低い温度)とすることが好ましい。冷却部30を過剰に冷却し、低い温度としないことで、冷却に用いるエネルギを少なくすることができかつ加熱部28の熱を奪うことを抑制することができ、効率を向上させることができる。また、形状記憶部材24にニッケルチタン(NiTi)の形状記憶合金を用いる場合、冷却部30は、低温伝熱面31を少なくともR相への変態開始温度よりも低温とし、好ましくはR相への変態終了温度よりも低温とする。
低温伝熱面31は、高温伝熱面29と同様に、熱伝導性のシリコン樹脂など、柔軟で熱伝導性の高いシートが貼られた構成である。低温伝熱面31は、平坦な平面としてもよいが、形状記憶部材24が配置されている側に凸の曲面とすることが好ましい。また、低温伝熱面31は、高温伝熱面29よりも大きい曲率の曲面とすることが好ましい。低温伝熱面31を凸の曲面とすることで、形状記憶部材24との接触時に形状記憶部材24の接触端および支持棒34との接続部において生じる曲げ、エッジ応力をより少なくすることができ、形状記憶部材24の損傷を抑制することができる。低温伝熱面31を曲面とすることで、形状記憶部材24の一部のみが冷却された場合に形状記憶部材24が伸びてたるむことを抑制でき、形状記憶部材24と低温伝熱面31とがより接触しやすい状態として形状記憶部材24の全体をより好適に冷却することができる。
また、本実施形態の低温伝熱面31は、形状記憶部材24が往復移動する周方向において、土台12側が支持棒34側よりも、加熱部28側に突出した曲面である。これにより、低温伝熱面31は、形状記憶部材24の往復移動時に、土台12側から徐々に形状記憶部材24と接触する。これにより、冷却部30は、低温伝熱面31の形状によって形状記憶部材24が冷却部30に近づくに従って形状記憶部材24の両端の最小道のりを増加させることができる。これにより、冷却部30は、形状記憶部材24の冷却が進むに従って、形状記憶部材24の両端の最小道のりを増加させることができ、形状記憶部材24がたるむことを抑制でき、形状記憶部材24の全体を冷却することができる。
駆動部14は、以上のような構成であり、振動子22および形状記憶部材24が加熱部28側にある(形状記憶部材24が加熱部28に接触している)場合、加熱部28で形状記憶部材24を変態温度より高い温度に加熱し形状記憶部材24を縮めることで、振動子22を冷却部30側に移動させ、振動子22および形状記憶部材24が冷却部30側にある(形状記憶部材24が冷却部30に接触している)場合、冷却部30で形状記憶部材24を変態温度より低い温度に冷却し形状記憶部材24を伸ばすことで、振動子22を加熱部28側に移動させる。駆動部14は、このようにして振動子22を加熱部28と冷却部30との間で往復運動させる。なお、駆動部14の動作については後ほど詳細に説明する。
発電部16は、回転されることで電気エネルギを生成する機構であり支持部40と、発電機42と、を有する。支持部40は、土台12に固定されており、発電機42を支持している。発電機42は、ロータ44と、ステータ46と、を有し、ロータ44とステータ46とが相対的に回転されることで電気エネルギを発生させる機構である。発電機42は、ステータ46が支持部40に固定されており、ロータ44が回転されることで電気エネルギを発生させる。
動力伝達部18は、駆動部14と発電部16とを連結し、駆動部14の振動子22の往復運動を回転運動に変換して発電部16に伝達する機構であり、連結棒50と、クランク52と、を有する。連結棒50は、基本的に変形しない剛体で形成されており、一方の端部にベアリング54が配置され、他方の端部にベアリング56が配置されている。ベアリング54は、振動子22の中腹部(ヒンジ32と支持棒34との間)に形成された突起部と回転可能な状態で連結している。また、ベアリング56は、クランク52と回転可能な状態で連結している。
クランク52は、発電部16のロータ44とベアリング56とに連結されている。具体的には、クランク52は、ロータ44の回転軸に直交する方向に延在する棒状の部材であり、ロータ44の回転中心に固定されている。また、クランク52は、棒状の部材のロータ44の回転中心から一定距離離れた部分がベアリング56に回転自在の状態で連結されている。なお、クランク52のベアリング56と連結する部分は、ロータ44の回転軸に平行な方向に延在する棒状の部材である。
動力伝達部18は、以上のような構成であり、振動子22が往復運動することで、連結棒50が図2中左右方向に移動し、連結棒50と連結しているクランク52が回転する。クランク52が回転することで、ロータ44が回転する。このように、動力伝達部18は、振動子22の揺動運動(往復運動)をロータ44の回転運動へと変換する。また、動力伝達部18は、振動子22の往復ストロークを規定している。つまり、距離が変化しない連結棒50で回転するクランク52と振動子22とを連結することで、振動子22が移動可能な領域をクランク52の回転する範囲に規制している。なお、本実施形態では、図2における振動子22の左ストロークの終端で、形状記憶部材24の両端を結ぶ線が土台12に対して略垂直となり、クランク52と連結棒50が土台12と略平行となる(以下、この位置をクランク角0°とする。)。熱エンジン10は以上のような構成である。
次に、図3を用いて、熱エンジン10の動作について説明する。ここで、図3は、図1に示す熱エンジンの動作を説明するための説明図である。ステップS1のように、振動子22が左ストローク端部付近へ移動すると、つまりクランク角0°の場合、形状記憶部材24は、加熱部28の高温伝熱面29に接触する。
ステップS1の状態で加熱部28の高温伝熱面29の熱が形状記憶部材24に伝わると、形状記憶部材24が縮む。この縮みは、形状記憶部材24のひずみエネルギとコイルバネ26のひずみエネルギとして蓄積される。形状記憶部材24がヒンジ32よりも冷却部30側に配置されたコイルバネ26と連結されており冷却部30側にオフセットされているため、蓄積されたエネルギは、振動子22を右方向(冷却部30側)に回すトルクを生む。振動子22を右方向(冷却部30側)に回すトルクが生じると、ステップS2に示すように、振動子22は右方向(冷却部30側)に移動する。このトルクにより振動子が右方向へ動き出すと、振動子22は形状記憶部材24とコイルバネ26に蓄えられたひずみエネルギを得ながら加速し、ステップS2からステップS3の状態へと進み、形状記憶部材24が冷却部30と接触する位置まで移動する。振動子22がステップS1からステップS3の状態まで移動すると、クランク52もクランク角0°の状態(ステップS1)からクランク角90°の状態(ステップS2)を経て、クランク角180°の状態(ステップS3)まで回転する。発電機42は、クランク52によりロータ44が回転され、振動子22の運動を止めない程度にトルクを発生しながら、エネルギを受けて回転し発電を行う。
ここで、ステップS3は、振動子22の右ストローク端である。ステップS3の位置よりクランク角がわずかに手前(180°未満で180°の近傍の角度)になると、形状記憶部材24は、低温伝熱面31に接触し始め、冷却され伸びる。また、クランク52と発電機42のロータ44が慣性により回転し続けようとし、クランク角180°以上となる。これにより、振動子22は、連結棒50との拘束によりクランク52から加熱部28側に移動する方向の力を受け、移動方向を加熱部28側に反転させ、ステップS4に示すように加熱部28側に移動する。このとき、形状記憶部材24は、冷却されて伸びているので、振動子22が形状記憶部材24から受ける力がなくなる、もしくは行き工程(ステップS1からステップS3までの工程)より弱くなる。したがって、ステップS1の位置まで移動する。その後、再び形状記憶部材24が加熱部28により加熱され、上述したステップS1からの動作を行う。以上により、熱エンジン10は、ステップS1からステップS4の動作を繰り返す熱サイクルが成立し、熱エネルギを電気エネルギとして連続して取り出すことが可能となる。
このように、熱エンジン10は、形状記憶部材24が加熱部28に近づき加熱され、変態温度よりも低い温度から変態温度よりも高い温度に加熱されると長さが縮み、振動子22とともに加熱部28から離れる方向に移動し、形状記憶部材24が加熱部28から離れて冷却され、変態温度よりも高い温度から変態温度よりも低い温度に冷却されると長さが伸び、振動子22とともに加熱部28に近づく方向に移動する構成とすることで、加熱部28で取得した熱エネルギを振動子22の運動エネルギとして取り出すことができる。また、熱エンジン10は、振動子22の往復運動を動力伝達部18で発電部16に伝達し電磁誘導作用によって電気エネルギに変換することで、運動エネルギを電気エネルギとして取り出すことができる。
また、熱エンジン10は、形状記憶部材24を細長い直線形状とすることで、例えば径をφ0.1mm程度の細いワイヤとすることで、体積あたりの接触面積を大きくすることができ、すばやい伝熱が可能で、動作を速くし効率を向上させることができる。なお、形状記憶部材24は、上述した細長い直線形状のワイヤを多数配置してもよい。この場合、複数のワイヤは、振動子22の回転軸に平行な方向に並列に配置することが好ましい。これにより、振動子22の回転軸に直交する平面(図2の向きで見た場合)において、複数のワイヤが同一位置となり、往復運動時の動作が一定となる。つまり、複数のワイヤを加熱部28で同様に加熱し、冷却部30で同様に冷却することができる。これにより、各ワイヤで生じる伸縮動作のタイミングを同期させることができ、ひずみエネルギの損失を抑制することができる。これにより、形状記憶部材24の表面積、加熱部28、冷却部30との接触面積を大きくすることができ、すばやい熱伝達による高速動作と大きな力の取り出しの両立が可能となる。また、ワイヤではなく、薄板を用いてもよい。薄板を用いる場合も、振動子22の回転軸に平行な方向が板の幅方向(面積の最も大きい面の短手方向)となる向きで配置することが好ましい。これにより、形状記憶部材24の体積あたりの表面積、加熱部28、冷却部30との接触面積を大きくすることができ、すばやい熱伝達による高速動作と大きな力の取り出しの両立が可能となる。また、薄板とする場合は、厚みを0.1mmから1mm程度とすることが好ましい。ここで、形状記憶部材24を薄板形状とする場合、形状記憶部材24の形状は、必ずしも細長い形状に限定されない。例えば、形状記憶部材24は、幅(図2の紙面垂直方向の幅)が広い形状を用いることで、より大きな出力を取り出すことが可能となり、熱エンジンの出力を大きくすることが可能となる。
形状記憶部材28は、往復移動する方向の厚みが伸縮する方向に対して短い形状であればよく、振動方向に直交する面(過熱部28と対面する面)の形状は特に限定されない。例えば、回転軸に平行な方向の長さが回転軸に直交する方向の長さよりも長い形状としてもよい。形状記憶部材は、振動方向の厚みが他の方向の厚み(幅、長さ)に対して短い形状とすることで、加熱部28の高温伝熱面29と接する面の面積を、高温伝熱面29に直交する面の面積よりも大きくすることができ、加熱部28が加熱できる面積の比率を体積に対して大きくすることができる。また、形状記憶部材28は、加熱部28と対面する面を平坦な形状とすることが好ましい。これにより、加熱部28の接触面積をより大きくすることができる。
また、熱エンジン10は、形状記憶部材24として、R相変態を用いた形状記憶合金を用いることが好ましい。R相変態を用いる形状記憶合金は変態の温度ヒステリシスが小さいため、効率を向上させることができる。また、R相変態を用いる形状記憶合金は、繰り返し寿命が長いため、装置を長寿命にすることができるという利点もある。また、本実施形態の熱エンジン10は、形状記憶部材24を細長い形状とし、その伸縮で振動子22を往復運動させる構成であるため、変形量が1%と他の形状記憶効果に比べて小さいR相の形状記憶効果を用いた場合でも、十分に動作させることができ、高い出力を得ることができる。これにより、熱エンジン10は、長寿命、高出力の両立が可能となる。
また、熱エンジン10は、本実施形態のようにコイルバネ26を設けることが好ましい。コイルバネ26の設計により形状記憶合金24が縮んだ時の引っ張り力が決まる。この設計により引っ張り力による形状記憶合金の応力を、形状記憶合金の繰り返し寿命の限界まで高めることができる。これにより、一回の熱サイクルでコイルバネ26と形状記憶部材24とに蓄えるひずみエネルギを材料寿命の点から最大まで高められ、このひずみエネルギを効率よく仕事に変換でき、熱エンジン10全体として効率をより向上させることができる。例えば、ニッケルチタン(NiTi)の形状記憶合金を用いる場合、100から300MPaの応力に設定することが可能であり、大きなエネルギが取り出せる。
また、熱エンジン10は、形状記憶部材24の冷却には冷却部30を用いることで、形状記憶部材24を効率よく冷却することができる。形状記憶部材24を効率よく冷却することで、形状記憶部材24の張力を適切に弱くすることができ、振動子22が加熱部30側に戻ろうとする際の抵抗を少なくすることができ、効率をより向上させることができる。なお、上記効果を得ることができるため、冷却部30を設けることが好ましいが、冷却部30は必ずしも設けなくてもよい。形状記憶部材24は、加熱部28から離れ、加熱されない状態となることで徐々に温度が低下するため、冷却部30を設けない構成でも形状記憶部材24を冷却することができる。
また、高温伝熱面29、低温伝熱面31は、本実施形態のように柔軟で熱伝導性が高い熱伝熱シートを用いることが好ましい。これにより形状記憶部材24との接触面積を増加させることができ、より高速での伝熱が可能となる。
図4は、熱エンジンの他の実施形態の概略構成を示す斜視図である。以下、図4を用いて、熱エンジンの他の実施形態について説明する。図4に示す熱エンジン110は、土台12と、熱エネルギを運動エネルギに変換する駆動部114と、運動エネルギを電気エネルギに変換する発電部16と、駆動部114で生成された運動エネルギを発電部16に伝達する動力伝達部118と、を有する。なお、土台12と発電部16は、図1に示す熱エンジン10と同様の構成である。以下、熱エンジン110に特有の構成について説明する。
駆動部114は、支持部20と、振動子122a、122bと、形状記憶部材124a、124bと、コイルバネ126a、126bと、加熱部28と、冷却部30と、を有する。支持部20は、土台12に固定された部材であり、振動子122a、122bと加熱部28と冷却部30とを支持している。駆動部114は、振動子122aと形状記憶部材124aとコイルバネ126aとが1つのユニットとして連動して往復運動し、振動子122bと形状記憶部材124bとコイルバネ126bとが1つのユニットとして連動して往復運動する。つまり駆動部114は、往復運動するユニットを2つ備えている。また、2つの往復運動するユニットは、振動子122a、122bの回転軸が回転軸の延在方向に重なる位置に配置されており、往復運動する領域が回転軸に直交する面において重なる。
振動子122a、122bは、上述した振動子22と同様の構成であり、形状記憶部材124a、124bは、上述した形状記憶部材24と同様の構成であり、コイルバネ126a、126bは、上述したコイルバネ26と同様の構成である。
振動子122aは、土台12側の端部近傍がヒンジ32に回転自在の状態で連結されており、他方の端部近傍に支持棒134aが設けられている。形状記憶部材124aは、一方の端部が支持棒134aに連結され、他方の端部が土台12に固定されたコイルバネ126aに連結している。
振動子122bは、土台12側の端部近傍がヒンジ32に回転自在の状態で連結されており、他方の端部近傍に支持棒134bが設けられている。形状記憶部材124bは、一方の端部が支持棒134bに連結され、他方の端部が土台12に固定されたコイルバネ126bに連結している。
また加熱部28、冷却部30は、熱エンジン10の加熱部28、冷却部30と同様の構成である。加熱部28、冷却部30は、それぞれ形状記憶部材124a、124bを加熱、冷却する。
動力伝達部118は、連結棒150a、150bと、連結クランク160と、クランク52と、を有する。連結棒150aは、基本的に変形しない剛体で形成されており、一方の端部がベアリングを介して振動子122aの中腹部(ヒンジ32と支持棒134aとの間)に形成された突起部と回転可能な状態で連結し、他方の端部がベアリングを介して連結クランク160と回転可能な状態で連結している。連結棒150bは、基本的に変形しない剛体で形成されており、一方の端部がベアリングを介して振動子122bの中腹部(ヒンジ32と支持棒134bとの間)に形成された突起部と回転可能な状態で連結し、他方の端部がベアリングを介して連結クランク160と回転可能な状態で連結している。
連結クランク160は、連結棒150a、150bと回転自在な状態で連結し、かつ、クランク52と連結している。連結クランク160は、連結棒150aと連結棒150bとのクランク角が180°オフセットした状態で連結棒150aおよび連結棒150bと連結している。
クランク52は、発電部16のロータ44と連結クランク160とに連結されている。具体的には、クランク52は、ロータ44の回転軸に直交する方向に延在する棒状の部材であり、ロータ44の回転中心に固定されている。また、クランク52は、棒状の部材のロータ44の回転中心から一定距離離れた部分が連結クランク160に回転自在の状態で連結されている。なお、クランク52の連結クランク160と連結する部分は、ロータ44の回転軸に平行な方向に延在する棒状の部材である。
熱エンジン110は、往復運動するユニットを2つ設け、それぞれのユニットに連結した連結棒150a、150bを連結クランク160でクランク角が180°オフセットした状態で連結させている。これにより、クランク角180°毎にどちらか一方のユニットの形状記憶部材224が加熱部28で加熱される。これにより、2つのユニットのうちいずれか一方のユニットで形状記憶部材224が加熱されて縮むことで生じるエネルギで振動子222を冷却部30側(加熱部28から離れる方向)に向かわせる力を発生させることができる。これにより、回転むら、トルクむらを低減させることができる。また、一方のユニットが冷却部30から加熱部28に向かって移動する慣性復帰工程の場合、他方のユニットが加熱部28から冷却部30に向かって移動する工程である。これにより、加熱部28から冷却部30に向かって移動する工程のユニットで生じる力でクランク52、連結クランク160を回転させることができ、1つのユニットの場合に生じる慣性復帰工程での速度低下を解消することができ、サイクル速度を上昇させ、より多くのエネルギを取り出すことが可能となる。なお、熱エンジン110では往復運動するユニットを2つ設けた場合としたが、数は限定されず、3個、4個と複数の往復運動するユニットを設けてもよい。クランク52と連結クランク160とは、相対変化しない一体的部材からなっている。なお、この場合は、各ユニットをクランク角が一定間隔で異なる状態で連結することが好ましい。また、複数のユニットを同一のクランク角で連結してもよい。
図5は、熱エンジンの他の実施形態の概略構成を示す斜視図である。図6は、図5に示す熱エンジンの他の状態の概略構成を示す斜視図である。図7は、形状記憶部材の概略構成を示す説明図である。以下、図5から図7を用いて、熱エンジンの他の実施形態について説明する。図5および図6に示す熱エンジン200は、土台12と、熱エネルギを運動エネルギに変換する駆動部214と、運動エネルギを電気エネルギに変換する発電部216とを有する。土台12は、駆動部214と、発電部216(支持機構は図示省略)とを支持する支持部材であり、剛性の高い板状部材で構成されている。
駆動部214は、振動子222と、形状記憶部材224と、加熱部28と、を有する。振動子222は、細長い部材であり、土台12の表面に立てる向きつまり土台12の表面から離れる方向が長手方向となる向きで配置されている。振動子222は、土台12の表面に立てる向きに延在する2つの細長い棒状の部材が平行な方向に平行して配置されている。つまり振動子222の2つの細長い棒状の部材は、ともに一方の端部が土台に固定されている。また、振動子222は、2つの細長い棒状の部材の土台12から離れた端部が棒状の部材で連結されている。つまり、振動子222は、加熱部28と対面する面が表面となる薄板に大きな開口を形成して、外縁部のみを残した形状である。形状記憶部材224は、振動子の先端部224aと、土台の固定部224bに、その両端が取り付けられている。振動子222は、弾性体であり、形状記憶部材224の引っ張り力が所定より大きな力となると、図6に示すように撓む。振動子222は、図5の状態から図6の状態に変化または図6の状態から図5の状態に変化することで、先端部224aが加熱部28に対し、近づいたり、遠ざかったりの往復運動を行う。なお、振動子222は、外力が加わらなければ、図5に示すように直立した状態となる。
形状記憶部材224は、一方の端部が振動子222の先端に連結され、他方の端部が土台12に固定されている。形状記憶部材224は、図7に示すように、複数(本実施形態では7本)の形状記憶ワイヤ24a、24b、24c、24d、24e、24f、24gで構成される。形状記憶ワイヤ24a、24b、24c、24d、24e、24f、24gとしては、例えば、φ0.05mmの形状記憶合金ワイヤを用いることができる。なお、材料等は、上述した形状記憶部材24と同様である。また、直径も一例であり、これに限定されない。形状記憶部材224の、形状記憶ワイヤ24a、24b、24c、24d、24e、24f、24gは、振動子222の土台12の表面に立てる向きに延在する2つの細長い棒状の部材の間に、2つの細長い棒状の部材が並んでいる方向と同じ方向に平行して微小間隔で配置されている。また、形状記憶部材224は、他方の端部が、振動子222よりも加熱部28から遠い側に固定されている。つまり、形状記憶ワイヤ24a、24b、24c、24d、24e、24f、24gの線と、振動子222の板厚方向の中心線は、わずかにオフセットしている。なお、形状記憶部材224は、7本の形状記憶ワイヤを備える構成としたが、形状記憶ワイヤの本数はこれに限定されない。また、本実施形態では、形状記憶ワイヤが7本であるため形状記憶部材の形状を細長い形状としたが、形状記憶部材は、形状記憶ワイヤの本数によって適宜変更することができる。例えば、形状記憶ワイヤを1000本を備える形状記憶部材を用いる場合、形状記憶部材、振動子は、形状記憶ワイヤが列状に並んでいる方向に長い形状となる。
加熱部28は、振動子222および形状記憶部材224が往復移動する領域の一方の端部(図5中左奥側の端部)に配置され、形状記憶部材224を変態温度よりも高い温度に加熱する。加熱部28は、形状記憶部材224が延在する方向に伸び、振動子222の回転方向に直交する面が表面(面積が最も広い面)となる板状の部材であり、形状記憶部材24と対面する面(形状記憶部材24が往復運動した場合に接触する面)が高温伝熱面となる。なお、加熱部28は、上述した熱エンジン10の加熱部28と同様の構成である。
発電部216は、稼動子と固定子とが相対移動することで電気エネルギを生成する機構であり発電機242を有する。発電機242は、ボイスコイルモータ(VCM、発電機)であり、稼動子244と、固定子246と、を有し、稼動子244と固定子246とが相対的に移動することで電気エネルギを発生させる。発電機242は、稼動子244が振動子222の先端部に固定され、固定子246が図示しない支持構造で土台12に固定されている。発電機242は、振動子222が図5に示す状態から図6に示す状態への移動、図6に示す状態から図5に示す状態への移動を繰り返す往復運動を行うと稼動子244も振動子222の先端と一体で移動し、固定子246に対して相対的に移動する。発電機242は、稼動子244と固定子246との相対移動で生じる電磁相互作用により発電を行う。熱エンジン200は、以上のような構成である。
熱エンジン200は、図5に示すように振動子222および形状記憶部材224が加熱部28側にある(形状記憶部材224が加熱部28に接触している)場合、加熱部28で形状記憶部材224が変態温度より高い温度に加熱され形状記憶部材224を縮める力が生じる。このとき、形状記憶部材224で生じる力が、振動子222の座屈荷重以下の場合、形状記憶部材224は、縮む方向の力が生じるが、振動子222により支持されているため、縮むことができない。このため、熱エンジン200は、図5に示す状態で維持され、形状記憶部材224にひずみエネルギが蓄えられる。熱エンジン200は、図5に示す状態が維持されている間は、加熱部28により形状記憶部材222が加熱されるため、形状記憶部222の温度が上昇し、蓄えられるひずみエネルギが増加し形状記憶部材224で生じる力が増加する。熱エンジン200は、形状記憶部材224で生じる力が振動子222の座屈荷重を超えると、振動子222が図6に示す状態まで一気に変形する。熱エンジン200は、このようにして形状記憶部材224に蓄えられたひずみエネルギを振動子222の運動および振動子222自身の変形へと変換する。なお、上述したように図5における形状記憶部材224の線と、振動子222の板厚方向の中心線は、わずかにオフセットしている。具体的には、形状記憶部材224の線は、図5中振動子222の右表面側に固定されている。これにより、振動子222は、形状記憶部材224により引っ張られ変形する場合、図6に示すように加熱部28から離れる方向に変形する。振動子222が変形すると振動子222の先端に固定された稼動子244も移動する。これにより、振動子222の運動エネルギを発電機242で電気エネルギに変換できる。
なお、振動子222は、形状記憶部材224により引っ張られる力でバックリング(座屈)現象が生じるように設計されている。つまり振動子222は、形状記憶部材224により引っ張られる力でバックリング(座屈)現象が生じるように設計パラメータ(例えば振動子の形状)を設定して作成されている。なお、振動子222の座屈荷重は、形状記憶部材222の寿命限界応力を超えない値をとることが望ましい。
また、熱エンジン200は、形状記憶部材224が加熱部28から離れると、形状記憶部材224の温度は自然冷却により下がり、形状記憶部材224が伸びる。振動子222は、形状記憶部材224が伸びると、形状記憶部材224から受ける力がなくなるので、振動子222自身の復元力で再度図5に示す状態まで戻る。熱エンジン200は、図5に示す状態に戻ると加熱部28が形状記憶部材224を再び加熱する。熱エンジン200は、以上の動作を繰り返すことで、継続的に熱エネルギを電気エネルギに変換する熱サイクルが成立する。
このように、振動子の往復運動は、任意の軸を中心とした回動動作に限定されず、変形と復元を繰り返す運動としてもよい。また、熱エンジン200では、振動子222を座屈させて変形させたがこれに限定されない。振動子は、形状記憶部材224から受ける力が閾値以下の力では図5に示す状態、形状記憶部材224から受ける力が閾値以上の力で一気に変形する種々の非線形現象を利用することができる。振動子は、例えば磁石を用いて非線形現象を実現してもよい。このような構成においては、形状記憶部材224は、引っ張り力が座屈荷重(しきい値)を超えるまで十分に加熱される。これにより、一回のサイクルでのエネルギが大きくなるため、大きな力が生じるほか、加熱部28の温度が形状記憶合金の変態温度よりもわずかしか高くない場合でも安定的に動作可能な熱エンジンとなる。
なお、熱エンジン200では、室温による空冷により形状記憶部材224を冷却したが、図1に示すように冷却部30を用いて形状記憶部材224を冷却することで、熱エネルギを運動エネルギに変換する効率またはサイクルの効率をさらに向上する。
なお、上記実施形態では、振動子を形状記憶部材と略平行な方向に延在する位置に配置したが、これに限定されない。例えば、図1に示す連結棒を振動子として用い、形状記憶部材の端部を連結棒に連結し、形状記憶部材の伸縮動作で連結棒を移動させるようにしてもよい。ここで、振動子は、土台に直接または他の部材を介して支持され、支持された部分とは異なる部分が往復移動可能であればよく、形状記憶部材の位置や、形状記憶部材の伸縮方向に対して往復移動の方向は、種々の方向とすることができる。また振動子は、1つの棒状の部材に限定されず、複数の部材で構成される動力伝達機構(例えば複数の部材を摺動可能な状態、回動可能な状態で連結させた機構)としてもよい。また、形状記憶部材も、前記土台と前記振動子とに直接または他の部材を介して連結され、前記往復移動する方向とは異なる方向に伸縮することで前記振動子とともに往復移動すれよく、その配置位置や連結される部材としては種々の部材とすることができる。ここで、形状記憶部材は、往復運動することで加熱状態と冷却状態を切り換える必要があるため、形状記憶部材の伸縮方向と往復移動の方向とは、異なる方向となる構成とし、往復移動する領域の一方の端部に加熱部に対面する構成とする必要はある。また、形状記憶部材と振動子との接合点(図2では支持棒34、振動子接合点)および形状記憶部材と土台との接合店(図2ではコイルバネ基端26a、土台接合点)に関し、振動子接合点が加熱部に近づいたとき、両接合点間距離が長くなり、振動子接合点が加熱部から遠ざかったとき、両接合点間距離が短くなる、ということが必要である。
また、上記実施形態では、いずれも熱エネルギを運動エネルギに変換し、さらに電気エネルギに変換させたがこれに限定されない。熱エネルギを運動エネルギに変換し、運動エネルギを駆動源として用いてもよいし、運動エネルギを電気エネルギ以外のエネルギに変換してもよい。